れもん【VIP】 (23)の口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)

営業時間9:00 ~ 24:00前

口コミREVIEW


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  • 投稿者:至高の推し様へ様

    ご来店日 2025年07月06日

    待合室のドキドキから案内を受けて、カーテンが開いた瞬間のれもんさんの弾ける笑顔でテンションMAXに。

    楽しい幸せ時間はあっという間に過ぎ去って、名残を惜しみつつ「また来月」と手を振ってお店を出た途端に、また会いたくなってしまう。

    このルーティンをずっと繰り返してる。
    可愛くて、気遣いができて、スレンダーで、会話が楽しいって最高やん。

    いつも充実した癒しの時間をありがとう♪
    来月も楽しみにしてます!

    至高の推し様へ様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門とシマリスとでっかいプードル 様

    ご来店日 2025年06月01日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。れもんちゃんから、最近のクチコミはシン太郎左衛門の出番が少ないね、と指摘された。私自身、気が付いてはいたものの、れもんちゃんから指摘を受けては、反省しない訳にはいかなかった。





    先週の月曜日。つまり、普通の出勤日。


    旧社屋の『ミックスグミ』のメンバーたちは朝からオバケちゃんゴッコを始めた。


    「オバケちゃんゴッコ、楽しいよ〜。れもんグミちゃんも一緒にやった方がいいよ〜」と誘われたが、「俺はいい。ルールが理解できないから」と断った。


    「簡単だよ〜。見てたら分かるよ〜。楽しいよ〜」


    「いや、いい」


    私自身、毎日、暇を持て余していたので、度々『オバケちゃんゴッコ』の様子は観察してきた。誰かが「オバケちゃんだぞ〜」と言うと、他のグミたちはそれに応えて、「僕もオバケちゃんだよ〜」とか、「オバケちゃん、怖いよ〜」とか、好き勝手なことを言って、勝ち負けを競うのだが、何度見ても、勝敗のルールが理解できなかった。





    『オバケちゃんゴッコ』から一人距離を置いて、私はオフィスの窓から外の景色を眺めていた。すると、新社屋の方から歩いてくる一人の老いた男性の姿が目に入った。我が社の社長だった。


    「また、イチゴグミちゃんの勝ちだよ〜」


    「7連勝だよ〜」


    「イチゴグミちゃんは『オバケちゃんゴッコ』の名人だよ〜」


    とか言い交わしながら、楽しそうにしていたグミたちだったが、ドアが開き、社長が入ってくると、大慌てで「社長ちゃんが来たよ〜!怖いよ〜!」と叫びながらオフィスの中を逃げ惑った。


    社長は威厳に満ちた表情で、他のグミを無視して、私の方に寄ってくると、


    「僕は社長ちゃんだよ〜。助けてほしいよ〜」


    「私は、仮面ライダーV3ちゃんだよ〜。『あ〜かい、あか〜い、赤い仮面のV3。ダブルハリケーン、命のベルト・・・』がテーマソングのV3ちゃんだよ〜」


    「知ってるよ〜。助けてほしいよ〜」


    「『敵は地獄のデストロン』だよ〜」


    「それも知ってるよ〜。でも、助けてほしい理由は、デストロンとは関係ないよ〜」


    「じゃあ、助けないよ〜」


    「そんなこと言わず、助けてほしいよ〜」





    社長の話は、以下のようなことだった。


    社長の奥さんが知り合いからプードルを1週間預かって欲しいと頼まれ、トイプードルを想像して気軽に引き受けたが・・・


    「昨日、ゴルフから家に帰ってビックリしたよ〜。想像したのと違う、黒くて、でっかいプードルちゃんが家にいたよ〜」


    「それはきっとスタンダード・プードルだよ〜。可愛いよ~」


    「可愛いけど、馬鹿デカいよ〜。散歩が大変過ぎるよ〜。助けてほしいよ〜」


    聞けば、昨夜、社長の奥さんが、初日の散歩で、いきなり駆け出したプードルに高級住宅街の並木道を引き摺り回されて、かなりの怪我を負ったらしい。1日、2回、各1時間の散歩が欠かせないと聞くが、夫婦二人暮らしだから、奥さんが『二度とこの子の散歩はイヤです』と言っている以上、今日から社長自らが散歩させるしかなく、そんなことが出来る自信は微塵もない・・・


    社長は当初の威厳はどこへやら、訴えるような目で私を見つめていた。


    「ふ〜ん。つまり、社長は俺たち『ミックスグミ』に犬の散歩を頼みたいと、そういうことだな?」


    「そうだよ〜。助けてほしいよ〜」


    「分かった。助けてやろう。れもんグミちゃんは優しいよ〜。れもんちゃんは宇宙一優しいよ〜」


    「ありがとうだよ〜。御礼はするよ~」


    「気にしないでいいよ〜。『ミックスグミ』は暇人ぞろいだよ〜。早速連れてきていいよ〜。一緒にシマリスちゃんも連れてきたらいいよ〜」





    社長が嬉しそうに出ていくと、それまでオフィスの隅で小さくなっていたグミたちは、ワラワラと私の周りに集まってきて、


    「社長ちゃんを怖がらないなんて、れもんグミちゃんは凄いよ〜」と尊敬の眼差しを向けた。


    「当然だ。それはそうと、我ら『ミックスグミ』に一つのミッションが与えられた」


    「『わ〜い』だよ〜。暇過ぎて死にそうだったよ〜」


    「犬の散歩だ」


    「ワンちゃんは可愛いよ~。頑張るよ〜」


    「よし、頑張れ。俺はシマリスの相手をする」





    1時間ほどして、社長がシマリスとプードルを連れて戻ってきた。旧社屋の前に停められた車から勢いよく跳び出してきた黒いスタンダード・プードルにグミたちは大喜びだった。


    シェリーちゃん(メス3歳)の愛らしい姿に、


    「可愛いよ~」「モコモコだよ〜」「フワフワだよ〜」などの歓声をもって迎え、ドッグフードやオヤツなども受け取って、グミたちはオフィスに帰っていった。社長は、シマリスのケージを私に渡すと、シマリスの飼育上の注意点をくどいぐらい丁寧に説明した。そして、シェリーちゃんの飼い主が書いたと思われるプードルのお世話に関する簡易なマニュアルを差し出して、「これを『ミックスグミ』のみんなによく読ませておいて欲しいよ〜。5時過ぎに迎えに来るから、絶対にシェリーちゃんに1時間の散歩を2回させておいて欲しいよ〜」


    「分かった。安心しな」





    私がシマリスを観察している間にグミたちは、手際よく餌入れや水の器をセットした。シェリーちゃんもあっと言う間に彼等と馴染んだ様子だった。


    私はシマリスに「君には、何か芸の1つもないのか?」と尋ねたが、特に何もしようとはしなかった。確かに可愛かったが、それだけだった。


    グミたちは、シェリーちゃんにリードを着けると、「お散歩に行ってくるよ~。お留守番ちゃんを頼んだよ~」と11人がゾロゾロと揃って出ていった。





    一人で部屋に残されると、シン太郎左衛門に話しかけた。


    「おい。一緒にシマリスを観察しないか?」


    ズボンのチャックが内側からスルスルと開いて、シン太郎左衛門が飛び出してきた。


    「なるほど。これが、シマリスという生き物でござるか」


    「そうだ。社長の自慢のシマリスだ」


    「なるほど・・・日頃、れもんちゃんと懇意にしてもらっているゆえ、拙者、シマリスぐらいでは特に可愛いとも思えぬ。シマリスサイズのれもんちゃんなら大いに喜べたと思いまする」


    「シマリスサイズのれもんちゃんか・・・それはステキだ。家に豪華なドールハウスを作って、三食ご馳走を用意して、もてなそう」


    「それより、家全体をシマリスサイズのれもんちゃんにお使いいただき、父上は玄関先に段ボールの家を作り、そこで暮らしなされ」


    「それでもいいよ」


    シマリスにヒマワリの種をやると、嬉しそうに頬袋に貯めていった。


    「これぐらいにしておこう。『ヒマワリの種をあげ過ぎちゃダメだよ〜』と社長が言っていたからな」


    そんな他愛のない時間を過ごしていると、入り口の方から慌しい足音が響いてきて、コーラグミがオフィスに駆け込んできた。


    「大変だよ〜!イチゴグミちゃんが、ワンちゃんにリードでグルグル巻きにされて、道を引き摺られてるよ〜!」


    「ふ〜ん。俺は今シマリスの観察に忙しいから後にしてくれないかなぁ」


    コーラグミは、その場でハアハアと荒い息を整えると、


    「大変だよ〜!イチゴグミちゃんが、ワンちゃんにリードでグルグル巻きにされて、道を引き摺られてるよ〜!」


    「それ、さっきも聞いた」


    「ワンちゃん、牛みたいな力持ちだよ〜。大変だよ〜」


    「それは何よりだ。みんなで力を合わせて頑張ってくれ」


    コーラグミは、それでもしばらく私をジッと見つめていたが、まったく頼りにならないと諦めて、「大変だよ〜」と言いながら、オフィスから去っていった。


    「まったく使えん奴らだよ」





    シマリスの観察にも飽きたので、椅子に座って、ウツラウツラしていると、またドタバタと靴音を響かせて、コーラグミが駆け込んできた。


    「大変だよ〜!メロングミ1号ちゃん・2号ちゃん、二人まとめて、リードに巻かれて引き摺られてるよ〜!」


    「お前ら、大の大人が11人もいて、なんてザマだ!みんなで協力して頑張れって言ってんだろ!」と怒鳴り付けて追い返した。





    きっとまた戻ってくるんだろうなぁと考えていると、案の定5分と経たぬ間に、コーラグミが駆け込んできて、


    「大変だよ〜!僕以外のグミちゃんたちが全員リードに巻かれて引き摺り回されてるよ〜!もう誰にも止められないよ〜!黒くてデカいプードルちゃん、怖いよ〜!」


    「お前ら、何をやってるんだ!少しは頭を使えよ。例の歌は試したのか?」


    「・・・『例の歌』って言われても分からないよ〜」


    「『元祖れもんちゃん音頭』に決まってるだろ。お前らも、この前歌ってたじゃないか。宇宙一に宇宙一のれもんちゃんの力を借りて、シン太郎左衛門大先生が世界平和と五穀豊穣を願って作った尊い歌だぞ。『元祖れもんちゃん音頭』を歌って聴かせれば、昂ったシェリーちゃんも穏やかな心持ちになるに決まってる」


    「・・・」


    「キサマ、信じてないな!この無礼者め!困ったときの『れもんちゃん頼み』だ。さっさと戻って、確かめてみろ!」


    「分かったよ〜。やってみるよ〜」





    それから1時間以上経ったが、連中は戻ってこない。2時間近く経って、いよいよ『ミックスグミ』は全滅したのかと思っていると、遠くの方から『元祖れもんちゃん音頭』の大合唱が聞こえてきた。窓の外を眺めると、シェリーちゃんを先頭に、『ミックスグミ』のメンバーたちが楽しそうに歌いながら帰ってくるのが見えた。


    「楽しかったよ〜」とオフィスに入ってきたグミたちは、コーラグミを除いて、全員スーツがボロボロになっていた。





    楽しく過ごした1週間。そして、金曜日の夕方、シェリーちゃんとの最後の日、グミたちは大泣きに泣いて、別れを惜しんでいた。そして、シェリーちゃんとシマリスの乗った車を、泣きながら『元祖れもんちゃん音頭』で見送った。





    そして、今日は日曜日。世に言うところの、れもんちゃんデー。JR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。


    当然れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。





    帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、


    「ああ、そうだ。ちょっとした事件があったせいで、やっと職場の同僚たちが、れもんちゃんの偉大さを理解したんだよ」


    「そうだったんだね」


    「うん。お陰で我々の部署の名前は、当初の私の希望どおり『れもん組』に変更されたよ」


    「希望どおりになって、よかったね」


    「うん。でも、いいことばかりでもないんだよ。これまで、『イチゴグミ』とか『メロングミ』と名乗っていたヤツらが全員『れもんグミ』に名前を変えるって言い出して、12人全員が同じ名前になったから、とっても紛らわしいんだ」


    私の職場の状況が飲み込めなかったのか、れもんちゃんは一瞬困惑した表情になったが、「・・・それは、きっと大変だね」と、それはそれは優しく微笑んだのだった。





    この話に結論めいたものがあるとすれば、『嫌なことがあったら、れもんちゃんに会いに行ったらいい。嬉しいことがあったら、やはり、れもんちゃんに会いに行くのがよい』、きっとそういうことなのだと思う。


    そして、今回もシン太郎左衛門は出番が少なかった。

    シン太郎左衛門とシマリスとでっかいプードル 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門と和菓子ちゃん(あるいは『父上が色んな人から呆れられる話』) 様

    ご来店日 2025年05月25日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。先週、れもんちゃんにもらったクチコミのお題が余りにも難度が高く、手も足も出ない。今回も適当に書くよりほかない。





    昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。


    昼前まで寝て過ごした。どうにか気持ちを奮い起こして布団を出て、服を着替えていると、シン太郎左衛門が、


    「父上、お出かけでござるか」


    「うん。4月に変な部署に異動させられてから、めっきり食欲が無くなって、駅前の中華屋に頼りっきりの毎日だったが、たった今、外食ばかりの食生活を改めることを決意した。これから駅前スーパーに行って、食べ物を買う」


    「拙者もお供いたしましょう」


    シン太郎左衛門は、嬉しそうにセクシー・バニーのコスチュームを着始めた。何度見ても、セクシー・バニー左衛門には、見慣れることが出来ない気持ち悪さがあった。


    「普通にズボンの中に収まっていてほしいなぁ」


    「そういうわけには行かぬ。駅前スーパーでの買い物は、拙者の晴れ舞台でござる。当然、セクシー・バニーちゃんでなければならぬ」


    「それが、ホントに武士のセリフとして妥当なのかね?」


    「うむ」


    「セクシー・バニーは、エコバッグから出せないからね。ズボンの中で大人しくしてるのと一緒だよ」と念を押したが、シン太郎左衛門に動じる様子はなかった。





    セクシー・バニー左衛門を入れたエコバッグを肩に掛けて、家の外に出た。雨がザーザー降っていた。





    約二ヶ月ぶりの駅前スーパーは、雨の日にも似ず、とても賑わっていた。


    「随分繁盛してないか?」


    エコバッグの中から「父上、国道沿いの大型スーパーが4月末に撤退致したこと、ご存知ないか」


    「そうだったの?この前出来たばかりじゃないか。もう潰れちゃったんだ」


    「明太子シスターズを甘くみたのが、失敗の元でござる」


    「明太子シスターズと言っても、お姉ちゃんの方は高校3年になって受験が控えてるんだろ。もうバイトはしてないんじゃないか?」


    「ところが、そうではござらぬ。先日、電車くんが言うておった。明太子ちゃんは愛嬌は100点満点なものの、勉強は同級生に周回遅れで、両親が高校の三者面談に行くのを嫌がって、電車くんと妹ちゃんが同席しているとのことでござる。受験など無縁の世界で楽しく頑張っておる」


    「まあ、それも悪くないよ」


    「一方、妹ちゃんは成績も上々とのことでござる」


    「・・・お前、色んなことを知ってるな」


    「うむ。拙者、色んなことを知っておる」





    店内をウロついていると、特設コーナーから聞き覚えのある若い女性の声がしてきた。





    特選和菓子、美味しいよ〜


    モナカに羊羹、ワラビ餅


    どらやき、大福、串ダンゴ


    どれを食べても美味しいよ〜


    ・・・





    「あの声は・・・明太子ちゃんじゃないか?」


    「うむ。周回遅れの明太子ちゃんでござる」


    「お前、それ、当人の前では絶対言うなよ」


    「心得ておる」





    個数限定の上生菓子セットもありますよ〜


    れもんちゃんも、はしゃぎ出す


    美味しい、美味しい和菓子ですよ〜





    「和菓子か・・・。和菓子は俺の好みだが、れもんちゃんが和菓子好きだなんて、聞いたことあるか?」


    「ない」


    「ないよな。れもんちゃんはグミ博士だ」


    「うむ。和菓子をムシャムシャ食べているれもんちゃんは想像できぬ」


    「いや、ムシャムシャは食べんだろ。れもんちゃんは、和菓子もグミも、それはそれは可愛く食べるのだ」





    案の定、特設コーナーには明太子ちゃんが立っていた。


    「明太子ちゃん」と声をかけた。


    明太子ちゃんは明るく笑って、


    「あっ、オジさん!久しぶり〜!最近見ないから、死んだのかと思ってたよ」


    「まだ死んでないよ」


    「この前、オジさんのカッパさんに道で会ったよ。神戸に行くって言うから、新快速に乗せてあげたよ」


    「そうだったね。ホントに助かったよ。カッパ左衛門とは無事に神戸駅の近くで会えたよ」


    「そうなんだ。よかった」


    明太子ちゃんは、清々しい笑顔で相変わらず元気だった。


    「明太子ちゃん、元気そうだね」


    「うん。元気だよ。それと、今日は明太子ちゃんじゃないよ。和菓子ちゃんなの」と、明太子ちゃん、いや、和菓子ちゃんは、特設コーナーに飾られたノボリを指さした。


    『甘味処 味自慢 特選和菓子』と染め抜かれたノボリを見ながら、私の口は勝手に、「和菓子ちゃんだよ〜。美味しいよ〜」と言っていた。


    和菓子ちゃんはポカンとした顔で私を見ながら、「・・・それ、どういうこと?」


    「ゴメン、ゴメン。癖なんだ」


    「変わった癖だね。久しぶりだし、張り切ってオマケするから、張り切って買ってね」


    「分かった。美味しい和菓子なら、張り切って買うよ。美味しくなかったら、張り切らない。これまで隠してきたけど、実は、私は和菓子マンなんだ」


    「えっ!そうなの?」


    「うん。そう」


    「そうだったんだ・・・で、『和菓子マン』って、何?」


    「・・・そう改まって訊かれると答えにくいけど、要は『和菓子好き』ってことだね」


    「な〜んだ。普通に言えばいいのに」と笑われた。


    「『な〜んだ』とはなんだ!」とムキになって言い返しそうになったが、どう考えても大人げないので我慢した。気を取り直して、


    「で、どれがオススメかな?」


    「どれも美味しいけど、イチオシは水羊羹だよ」


    私は思わず、「水羊羹ちゃん、美味しいよ〜」


    「うん。とっても美味しいの。沢山買ってね。キンツバもあるよ」


    「キンツバちゃんも美味しいよ〜」


    「うん。美味しいの。みたらし団子もあるの」


    「『わ〜い』だよ〜。みたらし団子ちゃんも美味しいよ〜」


    「特にオススメはオハギだよ」


    「オハギちゃんだよ〜。美味しいよ〜」


    「・・・オジさん、大丈夫?」


    「・・・ゴメン。つい興奮してしまった」


    和菓子ちゃんは、少し呆れた様子で、でも嬉しそうに微笑んだ。


    結局、馬鹿みたいに沢山の和菓子を買い込んでしまった。





    エコバッグは途轍もなく重かった。傘を片手にゼイゼイと息を切らしながら坂を登り、とても一人で食べ切れる量ではなかったので、自宅に戻る前に、隣の家のインターホンを鳴らした。


    ドアを開けて出てきた金ちゃんママに、


    「お待ち兼ね、特選和菓子のお裾分けだ。これはオハギだ。美味しいよ。これは水羊羹だ。美味しいよ。これは・・・切りが無いな・・・全部まとめて和菓子だ。個数限定の上生菓子セットもあげる。全部まとめて美味しいよ〜」


    金ちゃんママは目を丸くして、


    「こんなに沢山の和菓子、どうされたんですか?」


    「別に盗んだモノじゃない。調子に乗って買いすぎただけだ」


    「でも、ウチは3人家族で、こんなに食べ切れないですよ」と金ちゃんママは呆れ顔だった。


    「甘えたことを言ってはいけない。私は同じ量を一人で食べなければならないのだ。四の五の言わず、食べなさい。お仏壇に供えて、御先祖様たちにも手伝ってもらいなさい。消費期限は明日だ」


    まだまだ十分に重たいエコバッグにフラつきながら、私は家に帰っていった。ズボンの裾は雨でビショビショになっていた。





    そして今日は日曜日。れもんちゃんデー。


    朝起きると、昨日に続いて和菓子をムシャムシャ食べ出した。大好きな和菓子も限度を越えると、味覚も麻痺し、変な汗が止まらなかった。


    これ以上食べると、大事なれもんちゃんとの時間に支障が出そうなので、適当な所で切り上げて、JR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。


    これだけ甘いモノに食傷していても、れもんちゃんのスイートネスは全くの別次元だった。れもんちゃんは、それほどまでに宇宙一に宇宙一なのだ。





    帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、


    「昨日から飛んでもないの量の和菓子を食べてるんだ」


    「どれぐらい食べたの?」と、れもんちゃんが訊くので、オハギが18個、みたらし団子が24串・・・といった具合に説明すると、呆れた様子で、


    「それはダメだよ。致死量を超えてるよ。急性甘いモノ中毒で死んじゃうよ!」と叱られた。


    「反省した方がいい?」


    「当然だよ〜」





    私は、しょんぼり反省しながらお店を後にし、神戸駅までの道々、『まあ、結局のところ、史上最強の甘味処も、史上最強の味自慢も、れもんちゃんなんだよなぁ』と考えているのであった。

    シン太郎左衛門と和菓子ちゃん(あるいは『父上が色んな人から呆れられる話』) 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門と『ミックスグミ』 様

    ご来店日 2025年05月18日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。


    れもんちゃんに今回のクチコミのお題をもらうのを忘れていた。何を書いたらよいか分からないので、適当に書く。





    先の水曜日、昼前、ある件で社長に直談判をするため新社屋に出向いた。





    迫る〜ショッカ〜


    地獄の軍団


    我らを狙う黒い影


    世界の平和を守るため・・・





    と、「仮面ライダー」のテーマソングを歌いながら、エレベーターで5階まで上がると、安っぽい絨毯が敷かれた廊下をドカドカ進み、「ライダーキック!!」と叫び、社長室のドアを蹴りつけたが、非力な私のキックぐらいではビクともしなかった。


    やむを得ず、社長室のドアを手で開けて、「仮面ライダーちゃんだよ〜」と、颯爽と登場したが、ソファーに座った3人の来客が一斉に私に視線を向けたので、恥ずかしさのあまり凍りついた。ただ、経験上、こういうときは堂々と振る舞った方が恥ずかしさが緩和されるので、眉間にシワを寄せ、藤岡弘ばりの太い声で、


    「社長、地獄の軍団ショッカーのイカデビルを見かけませんでしたか?」と尋ねた。


    社長が苦々しさを噛み殺しながらも、


    「イカデビルなら、さっきトイレにいた」と付き合ってくれたので、


    「イカデビルめ!個室のドアを開けっ放しで、気張ってたんですね?よし。ヤッつけてきます!」と勢いよく部屋を飛び出して、その足で秘書室の女性社員Sさんにチョッカイをかけに行った。Sさんは20年ほど前までは大層な美人だった(もちろん、れもんちゃんには到底及ばない)し、今でも、ショッカーの怪人、蜂女ぐらいには色気を留めていた。


    「今、社長室に来てるお客さんは何者?モグラングにソックリなのがいたけど」


    Sさんは苦笑いを浮かべ、


    「また、そういうことを言う。モグラングって、仮面ライダーの怪人?」


    「うん。モグラングは強いんだ。ライダーキックが効かないからね。困ったもんだよ。まあ、それはいいとして、お客さんが帰るまで、ここで待たせてもらおう。なんか和菓子ない?」


    「羊羹があるわよ」


    「それは素晴らしい。厚めに切ってね。お茶は濃いめに淹れてね」と、誰のモノとも分からない空いてる席に腰を降ろした。





    20分ほど待たされた。羊羹のおかわりを断られて不貞腐れていると、客人たちが帰っていったので、社長室に突撃した。


    「随分待たされたよ〜。仮面ライダーちゃんだよ〜」


    「ゴメンだよ〜。僕は社長ちゃんだよ〜。会社の中をイカデビルがウロウロするようになったら、この会社も終わりだよ〜」


    「大丈夫だよ〜。ヤッつけといたよ〜」


    「ありがとうだよ〜」


    「代わりにお願いがあるよ〜」


    「羊羹のおかわりはあげないよ〜」


    「そんなことじゃないよ〜。部署の名前を変えたいよ〜」


    「変えてもいいよ〜」


    「『福岡組』を止めて、『れもん組』にするよ~」


    「いいよ~。でも、みんなの意見を聞かないとダメだよ〜」


    「分かったよ~。ウチのみんなは何組だろうが関心ないよ〜。でも、一応確認するよ~」





    社長室を勢い込んで飛び出すと、





    ゴー!ゴー!レッツゴー!


    輝くマシン・・・





    と、「仮面ライダー」のテーマソングの続きを歌いながら、全速力で旧社屋に飛んで帰ると、みんなを集め、


    「この部署の名前を『れもん組』に変えたいけど、いいよね?」と訊いた。


    安易に考えていたが、部署名変更は、そんなに甘いモノではなかった。私の問い掛けに対し、一斉に、


    「レモン組?僕は、メロンちゃんがいいよ~」


    「僕は、断然ミカンちゃんだよ〜」


    「僕は、パイナップルちゃんにするよ~」


    などなど、意見が百出し、全く収拾の見通しが立たない展開になった。


    「いや、俺は好きな果物を選べなんて言ってないから。君たちが何と言おうと、この場面、れもんちゃん以外の選択肢はないの」


    「レモンちゃんは酸っぱいよ〜。メロンちゃんは甘いよ〜」


    「ミカンちゃんも甘いよ〜」


    「いや。違うんだって。俺の言ってる『れもんちゃん』は、カタカナじゃなく、ひらがなだから。果物の話じゃないから」


    「コーラちゃんも甘いよ〜」


    「お汁粉ちゃんも甘いよ〜」


    「いやいや。お前ら馬鹿かよ。この部署の名前は今日から『れもん組』だからな!」


    「いやだよ〜。メロングミだよ〜」


    「ミカングミがいいよ~」


    「コーラグミだよ〜」


    「イチゴのグミも美味しいよ〜」


    「誰がグミの話をしてんだよ。この部署の名前だって言ってんだろ」


    結局、多勢に無勢で、私の主張は全く通らなかった。


    危うく「お前ら、揃いも揃って、れもんちゃんの凄さが全然分かってない!俺のクチコミ(クラブロイヤルのオフィシャルサイト限定)を読め!れもんちゃんは、宇宙一可愛いだけじゃなく、宇宙一の〇〇〇(自己検閲済)なんだぞ!!」と喉まで出かけたが、これを言ってしまうと、話が益々ややこしくなりそうで、グッと我慢した。





    その夜、家に帰ると、シン太郎左衛門はグッタリしている私を見て、


    「父上、今日もお疲れでござるな」


    「うん・・・俺の部署が、いよいよ変な名前になってしまった」


    「ほほう。どんな名前でござるか」


    「『ミックスグミ』だ」


    「なんと!まるで売れないアイドルユニットのような名前でござるな」


    「だろ?ウチの連中、それぞれ好みがバラバラで、みんな拘りが強くて、どうにもまとまらなかった。俺は、『れもん組』にしたかったのに・・・」


    「では、父上は『ミックスグミ』の組長でござるか」


    「そうじゃない。役職とか、そういうものは廃止されて、俺は単に『れもんグミ』と呼ばれることになった。みんなそれぞれ『イチゴグミ』とか『コーラグミ』とか『パイングミ』とか好き勝手な名前を名乗ることになった。『メロングミ』は二人いる」


    「それで、全員まとめて『ミックスグミ』・・・」


    「そうだ。みんな50を越えたオッサンだ」


    「まさか、それで名刺も作る?」


    「そうだ。オマケにイラスト入りだぞ。これを見ろ」


    私はジャケットのポケットから小さな紙片を出して、シン太郎左衛門に見せた。


    「とても絵の上手いヤツがいて、そいつが描いたレモンのイラストだ。俺は、これを使う」


    「これは、中々の出来映えでござるな」


    「可愛いだろ?」


    「・・・父上・・・真面目に生きてる?」


    「そう疑われてもしょうがないよ。どう考えても、そんな名刺配れないしな。でも、今のところマトモな仕事もないし、まあ、いいよ」


    「なんと・・・」


    「今更転職も出来んしな。でも、『れもん組』の組長がよかったな〜」


    「うむ。しかし、『れもん組組長』は全国5000万人のれもんちゃんファンの代表であるかの如き肩書きでござる。父上には荷が重すぎまする」


    「なるほどね。言われてみれば、そうかもね。れもんちゃんは宇宙一可愛いだけじゃなく、宇宙一の〇〇〇(自己検閲済)だからな」


    「その上、れもんちゃんの〇〇〇(自己検閲済)は〇〇〇〇(自己検閲済)でござる」


    「そうなんだよな〜。れもんちゃんの〇〇〇(自己検閲済)は、ずば抜けて〇〇〇〇(自己検閲済)なんだよな〜」


    「父上、この調子で話をしていて、大丈夫でござるか」


    「大丈夫だが、ほぼほぼ伏字になるな」


    「じゃあ、ダメじゃん」


    「クチコミって制約が多いからな。その枠の中で、俺に出来ることはやり尽くしたよ。れもんちゃんにアイデアをもらわないと、これから毎回こんな情けないレベルになる」


    そんな話をした。





    そして、今日は日曜日。言わずと知れた、れもんちゃんデー。


    JR新快速、夢の世界への超特急、スーパーれもんちゃん号に乗って、れもんちゃんに会いに言った。


    言うまでなく、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、素晴らしすぎて、伏字だらけだった。


    帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、


    「先週の水曜日、社長室のドアを蹴ったせいで、今も膝が痛むんだ」


    「ダメだよ。ドアは優しく開けた方がいいよ~」


    「ホントにそうだよね。ところで、いつも申し訳ないんだけどさ、来週のクチコミのお題をお願いしてもいいかな?」


    「いいよ~。う〜ん・・・そうだ。れもんは、出勤中にお腹が減ると、グミを食べるんだよ。だから『シン太郎左衛門とグミ』の話はどうかなぁ?」


    「グッ、グミ?・・・分かった・・・考えてみるよ・・・グミ、美味しいよね」


    れもんちゃんは、それはそれは可愛く頷いてくれた。しかし・・・





    どう考えても、2回も続けて、グミの話は書けそうになかった。


    でも、れもんちゃんは、グミのことなら何でも知ってるグミ博士だよ〜!!

    シン太郎左衛門と『ミックスグミ』 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門と『JRのダイヤ改正』 様

    ご来店日 2025年05月11日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。


    前回のクチコミに書いたとおり、れもんちゃんの無邪気な発言により、急遽JRのダイヤ改正がされ、朝夕の通勤時間帯の新快速は廃止、すべて普通になった。更に最高速度を従来比50%にすると発表された。お陰で私は毎朝始発の普通電車に乗り、長い時間をかけ職場に通うこととなった。オマケに終業時間と同時に職場を飛び出さないと、駅前の中華屋の営業時間に間に合わなくなった。


    早朝の駅のホームでも、みんなブーブー文句を言っていたが、事情を知っている私は黙って我慢するしかなかった。


    れもんちゃんの言葉は、かくも絶対なのである。





    ゴールデンウィーク明けの水曜日の朝、私は4時台に目を覚まし、バタバタと身支度をして、〇〇駅に向かってまだ薄暗い街路を疾走していた。


    シン太郎左衛門は「父上、一体何が起きたのでござるか。まだ夜は明けておりませぬぞ」


    「分かってる。今は話をしている時間がない。説明は後だ」





    始発の普通電車に飛び乗って、席に腰を降ろすと、ハンカチで額や首周りの汗を拭ったが、汗が止まらなかった。


    「悲惨だ・・・これから毎朝これか・・・」


    「父上、これは一体何の騒ぎでござるか」


    「れもんちゃんだ。前回のクチコミで、れもんちゃんが、別に転勤になったわけでもないのに、私の通勤時間が長くなったという設定をしたから、JR西日本が新快速を廃止して、辻褄を合わすという荒業に出たのだ。お陰で俺は今日から始発の各駅停車に乗らなければ遅刻するという厳しい環境に置かれた」


    「うむ。れもんちゃんの命令は絶対でござる」


    「そうだ。それに加えて、俺はこれからウトウトして、れもん星に行く夢を見なければならない」


    「それも、れもんちゃんの申し付けでござるか」


    「そうだ。ただ、普通に寝たのでは、そう都合よくれもん星には行けんからな。例の魔法を使うしかない」


    「いかにも。しかし、魔法を使って夢を見るのであれば、わざわざ長い通勤時間を持ち出す理由がどこにございまするか」


    「おい!お前、れもんちゃんを批判する気か?」


    「そんなつもりはござらぬ。ただ論理的に無理がござろう」


    「そんなことは些細なことでしかない。れもんちゃんの素晴らしさは論理的な説明を必要としない。れもんちゃんは宇宙一可愛く、宇宙一の〇〇〇(自己検閲済)だ。これは論理を超えた単純な事実だ」


    「うむ。間違いござらぬ」


    「では、我々はこれから長すぎる通勤時間ゆえに寝てしまおう」


    「かしこまってござる。我ら、まったく寝る気もないのに、唱えたら確実に眠りに落ち、れもん星に行ってしまう呪文を唱えましょう」


    「・・・まあ、いいや。いくぞ」


    我々は『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん・・・』と呪文を唱えた。


    そして・・・





    「おい・・・ここは、どこだ?」


    「知らぬ。それは、れもんちゃんの設定次第でござろう」


    「れもんちゃんは、細かいことを問題にする娘ではない。『通勤時間が長くなったから電車でウトウトして、れもん星にワープしてしまう』というのが、れもんちゃんからのお題であって、『れもん星のどこ』という指定はない」


    「で、ここはどこでござるか」


    「それは元々俺の質問だ」


    照明が消されているので、はっきりとは分からなかったが、窓から入る薄明かりに浮かぶ情景からは、まだ誰も出勤していない会社のオフィスと思われた。


    「灯りを点けてくだされ」


    壁に埋め込みのスイッチがあったので、押してみた。部屋の照明が点灯した。


    「ここは・・・」


    「どこかの会社のオフィスでござるな」


    「ここは、我が社の旧社屋だよ〜。福岡組ちゃんのオフィスちゃんだよ〜」


    「おお、それでは、早々、職場に到着でござるな」


    「通勤時間を短縮してどうすんだ!通勤時間を伸ばすのが、れもんちゃんの命令だぞ。それに、ここは、れもん星でもないし。何かの手違いだ。一旦起きるぞ」


    「うむ。残念でござる」





    二人は目を覚ました。


    電車はまだ一駅も進んでいなかった。


    我々は再び『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん・・・』と呪文を唱えた。


    そして・・・


    「おい、ここは俺の家じゃないか」


    「さすがに電気が点いてなくとも分かる。我が家のリビングでござる」


    「家に帰って、どうすんだよ」


    「また手違いでござるな」


    「・・・起きよう」





    次も似たようなものだった。


    「あっ!ここは俺が卒業した小学校だ。俺のいた頃は1クラス50人以上で6クラスあったんだが、今は30人足らずのクラスが2つしかないって話だぞ・・・そんなこと、どうだっていいや。起きよう」


    「うむ。一旦起きましょう」





    二人は首を傾げて、


    「おかしいなぁ。この魔法で、これまでは確実に、れもん星に行けたのに、今朝は、れもん星どころか、日本から出れない」


    「我々の気合いが足らぬのでござろうか」


    「そうかもしれん。もっと気合いを入れてみよう」


    歯を食いしばり、コメカミに青筋を浮かべながら、真っ赤な顔で、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん!!・・・」と10回唱えると・・・


    「おお、エジプト古代王朝の遺跡でござるぞ!」


    「よし、大躍進だ!取り敢えず日本から出れたぞ。それにしても、スフィンクスって大きいなぁ・・・でも、れもん星じゃないから意味がない。起きよう」





    次は、サバンナで野生のアフリカ象に出会った。シン太郎左衛門は大興奮だった。


    万里の長城やナイアガラの滝にも行った。


    ローマのコロセウムやギリシャのパルテノン神殿も訪れた。


    我々は電車の中で呪文を唱えては、地球上のアチコチに出没して、すぐまた起きて、また呪文を唱えて別の場所に飛んでいった。





    我々の乗る電車は、まだ京都にも着いていなかった。


    「まだ京都の手前かぁ。俺たち、電車の旅にしては、ずいぶん色んなところに行ったな〜」


    「軽く50ヶ国は訪れた。短時間ではござったが、沢山の世界遺産を見学いたした」


    「ブラジルでサンバも踊ったし、韓国でテコンドーの体験レッスンも受けた」


    「父上は何をやらせても、すぐに息を切らして『死にそうだ』と嘆いておるばかり・・・さっさと目を覚まして、切り上げればよいものを」


    「行きがかり上、余り素っ気なくも出来んかった」


    「楽しかったから、よしと致そう。野生の北極グマにもアフリカ象にも出会った。野生のベンガル虎には食われかけた。野生の動物たちとの触れ合いは実に楽しい」


    「お前こそ、さっさと切り上げればいいものを、長々と動物たちと戯れおって」


    「拙者、動物好きでござる。いずれにせよ、様々な体験が盛り沢山で、通勤時間の長さの演出は完璧でござった。しかし、肝心のれもん星には、どうしても辿り着けぬ」


    「俺は世界一周の旅がしたいんじゃない。れもん星に行って、れもんちゃんとの約束を果たしたいだけだ・・・もしかしたら、呪文が違ってるんじゃないか?『キリンれもん、キリンれもん』じゃなくて、『ママれもん、ママれもん』じゃなかったっけ?」


    「うむ。言われてみれば、そんな気も致しまする。『ポッカれもん、ポッカれもん』だったかもしれぬ。最近使わなんだから、よく分からぬようになった。まずは、『ママれもん』から試してみましょうぞ」


    「そうしよう。いくぞ。ママれもん、ママれもん、ママれもんちゃん・・・」


    呪文を唱えてみたが、目に見えて、何も起こらなかった。


    「これはダメだ。もしかしたら、家の食器がピカピカになっているかもしれんが、眠ることさえできない」


    「次のを試しましょう」


    『ポッカれもん』は、口の中が酸っぱくなっただけだった。





    全身に疲労感が蓄積されていた。


    「もうクタクタだ。取り敢えず一眠りしよう」


    座席の背凭れに身を委ね、目を閉じた途端、我々は眠りに落ちていた。どんな夢を見たか、全く記憶がない。


    目を覚ましたときには、数駅乗り過ごしていて、職場には30分以上遅刻してしまった。





    重たい身体を引き摺るようにオフィスに入ると、福岡組のみんなが、


    「『おはようちゃん』だよ〜。遅いから、今日は来ないのかと思ってたよ〜」と出迎えてくれた。


    「疲れたよ〜。大変だったよ〜。早朝から世界中を飛び回ってきたよ〜」


    「世界中ちゃんを飛び回るのは大変ちゃんだよ〜。ビールちゃんがあるから、飲んだらいいよ〜。美味しいよ〜」


    「要らないよ〜。そんなの飲んだら死んじゃうよ〜」とデスクの椅子にグッタリ腰を降ろすと、福岡組のお馬鹿さんの一人が、


    「そうだ、組長ちゃん!今朝、最初に僕が出勤したとき、もう部屋の電気ちゃんが点いてたよ〜。金曜日の夕方、消して帰ったのに、不思議だよ〜。きっとオバケちゃんが出たんだよ〜」と嬉しそうにビールを渡してくれた。


    ハッとして、思わず「今日の5時過ぎに・・・」と言いかけたが、福岡組のお馬鹿さんたちは、早速オバケちゃんゴッコを始めていたので、「電気を点けっぱなしにしたのは、多分私だ」とは言わなかった。





    そして、今日は、日曜日。れもんちゃんデー。


    平日の通勤時間帯からは姿を消したJR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。


    れもんちゃんは、それはそれは宇宙一に宇宙一で、不当なまでに過酷な通勤によって蓄積した疲労とストレスがすっかり霧散し、れもんエネルギーが満タンにチャージされ、私もシン太郎左衛門も、れもんイエローに発光していた。


    帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらながら、


    「ありがとう。見ての通り、すっかり元気になったよ。通勤時間が長くなって、れもん星に辿り着こうと、必死に地球上を飛び回って、先週3日間でボロボロになったんだ」


    「そうなんだね〜。引き続き頑張ってね〜」


    「いやいや。正直、もう頑張れないよ。JRのダイヤを元に戻してもいいかなぁ」


    れもんちゃんは、少し首を傾げて、思案した後、


    「うん。いいよ〜。れもんは、普段JRには乗らないよ〜」





    かくして、JRのダイヤは元に戻った。





    我々は、『キリンれもんちゃん』の呪文がJRのダイヤから何らかの影響を受けるものと推察している。

    シン太郎左衛門と『JRのダイヤ改正』 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門と金ちゃん(あるいは「夢のマトリョーシカ」) 様

    ご来店日 2025年05月04日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回、前回に続き、れもんちゃんにもらったお題で書く。今回のテーマは、「金ちゃんやラッピーに会う」だから、特に用事もないし、会いたいとも思わない金ちゃんに会いに行くことにした。





    その日は、たぶん土曜日。れもんちゃんイブ。


    昼前まで寝ていた。そして、起きるやいなや、パジャマのまま外に飛び出した。


    シン太郎左衛門は、「父上、いきなりパジャマで外に飛び出すとは、火事でも起きましたか」


    「いや。ここしばらくガスコンロを使ってないし、火事が起こるとは思えんが、家の隅々までチェックして出てきたわけじゃないから、余り自信はない」


    隣の家の呼び鈴を鳴らすと、金ちゃんママが出てきた。


    「どうされたんですか?」と私の格好を見て、ビックリした様子だった。


    「もしかしたら、私の家が火事かもしれない」


    「大変!119番はされましたか?」


    「それには及ばん。金ち・・・いや、ご子息はご在宅かな?」


    「今日は出掛けてますが・・・」


    「『出掛けた』だと!クソ〜。ヤツに出掛けられたら困るから、服も着替えず飛び出してきたのに・・・」


    金ちゃんママは「はぁ」とか言っている。


    「どうしよう、困ったなぁ。お母さん、私は、れもんちゃんから『金ちゃんとラッピーに会う話』を書くように言われてるんですぞ!」と、焦りの余り語気を強めた。


    金ちゃんママは、全く事態が理解できない様子で、またもや「はぁ」とか言っている。


    「しょうがない。せめてラッピーに会っておこう。お母さん、ラッピーをお願いします」


    「ラッピーは幸則が連れていきました」


    「えっ、なんてことだ・・・『ユキノリが連れていった』って?ユキノリ・・・ユキノリって誰だっけ?」


    金ちゃんママは当惑した顔で、


    「幸則はウチの息子です」


    「あっ、そうだ、そうだ」と言った後、思惑が外れた苛立ちもあって、私は思わず、


    「ご子息に相応しい名前は、ユキノリではなく、金ちゃんですぞ。今からでも遅くないから、改名させなさい」と口走っていた。


    その一言に金ちゃんママの表情が一変した。唖然とした表情を浮かべ、両目に溢れた涙が一気に頬を伝った。


    余計なことを言って、泣くほど怒らせてしまったかと慌てたが、金ちゃんママの口から出た言葉は私が想像していたものではなかった。


    「私の亡くなった祖母が同じことを言っていました。『この子は金太郎の金ちゃんだよ。ユキノリなんて似合わないよ』って。祖母は、それはそれは曾孫の幸則を可愛がって、私が嫌がっても、ずっと『金ちゃん』と呼んで・・・実は今日、その祖母の命日なんです」


    金ちゃんママは、両目を手で覆い、泣き崩れた。


    私は人の涙を見るのが大の苦手で、どうしていいか分からず、オロオロしてしまい、「そうだ。家が燃えてるかもしれないので帰ります」と、慌ててその場を立ち去った。





    家に戻っても、動揺が止まらなかった。


    「シン太郎左衛門、金ちゃんママを泣かせてしまった。実に気分が悪い」


    「なんと!そんなことをしては、もうここには住めませぬぞ!」


    「・・・お前の言う『そんなこと』がどんなことを想像しての言葉かは知らないが、俺は別に大それたことをしでかしたわけではない」


    事情を説明してやると、シン太郎左衛門は、


    「なるほど。金ちゃんママの御祖母殿の霊が父上の口を借りて話されたと、そういうことでござるな」


    「そんなことがあるのかね」


    「うむ。よくあることでござる。拙者も父上の口を借りて、れもんちゃんとオチン語で話を致した。父上の口は、借りやすい口でござる」


    「そんな口があるか!」


    そんな馬鹿なことを話していると、インターホンが鳴った。モニターに映る金ちゃんママの姿を、『貞子』を見るような怯えた目で見詰めながら、私は居留守を使おうか迷っていたが、結局、玄関に向かった。





    またもやパジャマのままで家の外に出て、門まで歩いていくと、金ちゃんママが、


    「先程は取り乱して申し訳ありませんでした。これ、祖母の仏前にお供えしていたオハギです。どうぞ召し上がってください」と、ズッシリ重いプラパックを渡してくれた。


    「どうもありがとうございます」


    オハギをもらった私は手のひらを返したようにご機嫌になっていた。和菓子好きの私は、オハギも大好物だった。


    思わず『オハギちゃん、美味しいよ〜』と言いそうになったが、かろうじて理性が働いた。


    「ところで、金ちゃんは今日何時に帰る予定ですか?」


    「それが・・・実は今日はデートに行っていまして・・・」


    「デート?ラッピーと?」


    「いいえ。勤め先の会社の方のご紹介で、最近、彼女が出来まして・・・」


    「いやいやいや、いくらなんでも冗談が過ぎる」


    「それが冗談ではなく、先日、彼女さんをウチに連れてきて、『結婚を前提に付き合っている』と言っておりました」


    「ウソだろ。そんなセリフ、金ちゃんが言うはずがない。明らかに幸則だ。アイツ、俺に何の断りもなく、幸則になりやがったな・・・ところで相手の女性は?」


    「はい。幸則にはもったいないほど可愛い方で」


    「えっ!そんなに可愛いのか?名前は?まさか『れもんちゃん』じゃないだろうな?」


    「いいえ、違います」


    「ふ〜ん。じゃあ、いいや。『おめでとう』と伝えておいてくだされ、とシン太郎左衛門が言っている」


    私は、オハギの詰まったプラパックを手に意気揚々と、スキップをしながら家に戻っていった。





    台所で緑茶を淹れるためにお湯を沸かしながら、


    「いやぁ、世の中の変化に付いていけないよ。シン太郎左衛門、聞いたか?金ちゃんが結婚するってよ」


    「うむ。聞いておった。金ちゃんは『ヤルときはヤル男』でござったな」


    「それ、どういう意味?」


    「そのまんまでござる。金ちゃんは『ヤルときはヤル男』でござる」


    「いや〜、二次元の女の子しか愛せないアニメ好きだと偽り、相手を油断させておいて、ヤルときはヤルんだから、あくどいヤツだよな」


    お茶を入れた湯飲みを片手に、オハギの待つダイニングテーブルに着き、プラパックを開けた。


    「『わ〜い』だよ〜。オハギちゃんだよ〜。嬉しいよ〜」と言った直後に、変な匂いを嗅ぎ取った。


    「なんだ、このオハギ。お線香の匂いがするぞ」


    「御仏壇に供えてあったというからやむを得ないことでござる」


    「いや、そんなレベルじゃない。まるでお線香でいぶしたぐらいスゴイお線香の匂いだ。金ちゃんの家では、どれだけ大量の線香を焚いてるんだ。火事になるとしたら、ウチじゃなくて、隣の家だ」


    箸で口元に持っていくと、むせるほどモノ凄いお線香の匂いに思わず顔を背けた。


    「どういう食べ物なんだ。こんなもん、食えねえよ」





    そう呻いた自分の声で目を覚ました。


    「・・・なんだ、夢だったのか・・・クソ〜、オハギを食べそこねた」


    涙が出そうだった。


    スマホを見たら、7時前だった。オハギを食べ損ねたショックから再び眠れる気がしなかったので、新聞を取りに表に出ると、ラッピーを連れた金ちゃんに出くわした。


    「ああ、オジさん、お久しぶりです」


    ラッピーも金ちゃんも理由は分からないが異様に楽しそうに見えた。


    郵便受けから新聞を取り出すと、


    「お前が結婚する夢を見た」


    「ホントですか?相手は誰ですか?」


    「俺は知らん。お母さんに訊いてくれ。俺はオハギを食べそこねて、不機嫌なんだ」


    「相変わらず意味不明だなぁ」


    「ところで、お前の母方の曾祖母さんは、お前を『金ちゃん』と呼んでなかったか?」


    「それはないですね。僕が生まれる前に亡くなってたから。でも、僕の父方の曾祖父さんが僕を『金ちゃん』と呼んでましたよ」


    「ふ〜ん」


    ふと、金ちゃんの着ている黒いTシャツの胸元に目が行った。そこには、白い文字で、I'm a liar. と書かれていた。


    「・・・それは嘘だな」


    「嘘じゃないですよ」


    金ちゃんが連れている犬は、いつの間にかマルチーズに変わっていた。


    「じゃあ夢だ」


    「そうなんです・・・」金ちゃんは巨大なプードルに変わっていた。「これも夢なんです」





    私は相変わらず布団の中にいた。


    私は夢の中で夢を見て、その夢から覚めて、また覚めたのだった。今がまだ夢の中なのか、そうでないのか分からない。変にジタバタしても、実はまだ夢の中で、またしても夢から覚めるだけかもしれない。そう思って、布団の中でジッとしていた。そのうち、また眠りに落ちていた。





    そして今日は日曜日。れもんちゃんデー。


    あるいは、まだ夢の中を彷徨っているのかもしれない。


    これも夢の続きかもしれないと、訝りながら、JR新快速、正式名称『スーパーれもんちゃん号(ゴールデンウィーク・バージョン)』に乗って、れもんちゃんに会いに行った。


    れもんちゃんは、どんな形容詞でも表現できないぐらい宇宙一に宇宙一で、『やっぱり俺はまだ夢の中なんだろうか』と感じるほどであった。


    帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、


    「福岡組は、相変わらず懇親ばかりしてるんだよ。一ヶ月近く、毎日歌って騒いでるから、とっても疲れてて、どれだけ寝ても寝たりないんだ」


    「懇親疲れなんだね。身体に気を付けてね」


    「ありがとう。ホント、懇親のしすぎで、福岡組の連中が嫌いになりそうだよ。それと今回でまたクチコミのネタが切れちゃったから、新しいアイデアくれない?」


    「そうなんだね」と、れもんちゃんは可愛く首を傾げ、「・・・そうだ。『通勤時間が長くなったから電車でウトウトして、れもん星にワープしてしまう』とかどうかなぁ?」


    「・・・ステキなアイデアをありがとう。それで考えてみるよ」


    れもんちゃんは、それはそれは可愛く微笑んだ。





    いつもの愛想のよいスタッフさんに送られて、お店の外に出た私は、「『通勤時間が長くなった』って言われてもなぁ・・・」と呟いた。


    確かに仕事場は新社屋から旧社屋に変わったが、言っても目と鼻の先で、最寄り駅も同じだから、通勤時間は全く変わっていないのだが、れもんちゃんの言うことだから、逆らえない。


    『こうなったら、通勤時間が長くなるように、JR西日本にダイヤを改正してもらうしかないなぁ』、そんなことを考えながら、クラブロイヤルを後にするのであった。

    シン太郎左衛門と金ちゃん(あるいは「夢のマトリョーシカ」) 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門と電車くん 様

    ご来店日 2025年04月27日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。


    前回書いたとおり、れもんちゃんのアドバイスを受けて、今回のクチコミは、電車くんとシン太郎左衛門の再会をテーマすることに決めた。


    ただ、抜き身のシン太郎左衛門を電車に持ち込むことは流石に憚られる。カッパの衣装は頑として受け付けないので、渋々ヤツの要望を呑んで、セクシー・バニーの衣装を作ってやることにした。


    土曜日、家にある部材だけでは足りず、ホームセンターで不足の材料を買い込んで、半日かけて作業した。ウサ耳から網タイツ、ピンヒールまで、ネット通販サイト掲載の写真を見ながら各パーツを手作りし、シン太郎左衛門に試着させて、若干の手直しを加えた。


    「出来たぞ。着てみろ」


    「おお、これはステキなバニーちゃんの衣装でござる」


    「それが武士のセリフかよ」


    コスチューム一式を身に着けると、世にも奇妙なセクシー・バニーが出来上がった。


    一体俺は何をやってるんだ、と実に情けない気持ちになったが、シン太郎左衛門は、鏡の前でポーズを決めながら、


    「これは上出来でござる。父上にこんな腕があるとは思いも寄らなんだ」と満足げだった。


    「喜んでもらえて嬉しいよ」と心にもないことを冷ややかに言った後、ついでに「俺は小学校の図画工作は、いつも満点だった」と自慢したが、シン太郎左衛門は全く聴いていなかった。鏡に映った自分の姿に見惚れているばかりだった。





    そして日曜日。つまり、れもんちゃんデー。いつもより随分早く起きた。


    「父上、何故このような時間に目覚ましを鳴らしたのでござるか」とシン太郎左衛門は不満げに目を擦っている。


    「れもんちゃんが、今回のクチコミのテーマは、電車くんとの再会がよいと教えてくれたからだ。いつもの時間じゃ、電車くんの運転する電車に乗れないと思ったのさ」


    「なるほど。確かに電車くんの電車は朝10時台でござった。しかし、それでは神戸駅に早く着きすぎまするぞ」


    「分かってるよ。でも、れもんちゃんが言うんだから、しょうがないよ」


    「なるほど。れもんちゃんが言うのであれば、致し方ない」


    そう言いながら、シン太郎左衛門は昨日作ってやったセクシー・バニーの衣装を身にまとっていった。


    朝食を済ませると、気色悪いセクシー・バニーをジャケットのポケットに入れて、〇〇駅に急いだ。





    駅のホームの先頭に立って待つこと、しばし。『電車くん』は、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにソックリなれもん星人にソックリだと聞いていたが、最初に到着したJR新快速の運転手さんは女性だった。


    「違う。これはどこにでもあるJR新快速に過ぎない。我々が乗るべきなのは、『スーパーれもんちゃん号』、夢の世界への直行便なのだ」


    次に来たのも、何の変哲もないJR新快速だったので、やり過ごした。


    そして、その次に到着した電車の運転室を覗いて、「あっ、これだ!」と声を上げてしまった。その運転者さんはクラブロイヤルのスタッフさんにソックリのれもん星人に瓜二つだった。


    私は運転室のドアをノックして、出てきた運転者さんに話しかけた。


    「君は『電車くん』だね?」


    「はい。僕は『電車くん』です」


    「はじめまして。私は『父上』だ」


    電車くんは少し緊張した様子で、


    「・・・僕のですか?」


    「そんな訳ない。シン太郎左衛門の父上だ」


    「よかった」


    「それはお互い様だ。これを受け取ってくれたまえ」


    電車くんは差し出されたモノを受け取り、マジマジと眺めながら、「これは何ですか?」


    「見てのとおり、セクシー・バニーちゃんだ」


    「ちっともセクシーじゃないです」


    「そりゃ、そうだ。中身はシン太郎左衛門だからな」


    「セクシーどころか、不気味です」


    「繰り返しになるが、中身がシン太郎左衛門だから、当然そうなる」


    「それで、これをどうしろと?」


    「神戸駅まで頼む」


    「この前も明太子ちゃんから同じようなことを頼まれました」


    「知っている。同種の依頼だ」


    「・・・これからも度々こういう依頼があるんですか?一応、規則違反なんですけど・・・」


    「当然そうだろうな。度々頼むつもりはないが、今回は、れもんちゃんからの提案だから、受けてもらうほかない」


    「よく分からないけど、分かりました」


    電車くんは、いいヤツだった。


    「ありがとう。大変に助かる。くれぐれも安全運転で頼む」


    電車くんにシン太郎左衛門を託すと、私は電車に乗り込み、先頭車両の運転室のガラスにへばりついた。


    電車くんは、セクシー・バニー左衛門を運転台に置いた。「出発進行!」と言う声がガラス越しに聞こえた。


    しばらくすると、運転室から電車くんの歌声が聞こえてきた。シン太郎左衛門の話にあった『およげ!たいやきくん』の替え歌らしいが、





    毎日毎日僕らは鉄板を


    曲げて作った電車くん


    ・・・





    と、呆れるほど安直な替え歌だった。


    しばらくすると歌が止み、シン太郎左衛門と電車くんの談笑に変わった。何を話しているかまでは分からなかったが、二人は旧知の仲のように和やかに語り合っていた。やがて『元祖れもんちゃん音頭』の熱唱が始まった。電車くんとシン太郎左衛門は、フロントガラスのワイパーのように、揃って体を左右に揺らしながら、





    はぁ~、広い世界にただ一輪


    可憐に咲いたレモン花


    ・・・





    と自慢の喉を震わせている。かなり異様な光景だった。『元祖れもんちゃん音頭』は長い長い歌なのだが、そのうち二人の動きがぎこちなくなり、私の目には見えない何かによって彼らは揉みくちゃにされていった。『元祖れもんちゃん音頭』に誘われたオチン武士たちが運転室に殺到していることが察せられた。芦屋駅の手前で電車は緊急停車した。


    そんな光景を、ギシギシと音を立てるガラス越しに見ながら、私は一人でハラハラしていた。


    運転が再開され、二人はまた何事もなかったかのように談笑を始めたが、私はまだ心臓がドキドキしていた。





    神戸駅に着くと、私はシン太郎左衛門を受け取って、電車くんに御礼を言った。


    セクシー・バニー左衛門は、「今日も実に楽しかった。ぜひまたお会いしたいものでござる」と言って、電車くんと固い握手を交わしていた。





    そして、しばらく神戸駅の周辺で時間を潰した後、れもんちゃんに会いに行った。


    当たり前だが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、どんな危険を冒しても会いに行く値打ちがあることを再確認した。


    帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、


    「今日、電車くんの電車に乗って来たんだよ」


    「そうなんだね。また電車くんに会えたんだね」


    「うん。でも、電車くんとシン太郎左衛門を運転室で一緒にすると、とっても危険なんだ。必ず緊急停車が起こるんだ。二度とやっちゃいけないって、よく分かったよ」


    「そうなんだね。じゃあ、電車くんの登場は今回のクチコミが最後なんだね」


    「そうなると思う。本当に危険だからね」


    「うん。分かった。安全第一だよね」と、れもんちゃんは、それはそれは優しく微笑んだ。


    れもんちゃんは、セクシー・バニー左衛門などとは大違いで、とても賢い娘なのだった。

    シン太郎左衛門と電車くん 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門、最後の形(あるいは『無為に過ごされた日曜日』) 様

    ご来店日 2025年04月22日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。すっかり春の陽気になって、シン太郎左衛門は、カッパの衣装を着たがらなくなった。カッパ姿を見慣れたせいか、裸のシン太郎左衛門に違和感を覚えてしまう。





    先週の日曜日。本来れもんちゃんデーなのだが、その日は、れもんちゃんが「女の子休暇」だったので、ただの休日だった。昼前まで寝て過ごした。


    目を覚ますと、シン太郎左衛門が枕元に控えていた。正座して、こちらの様子を窺っている。ギョッとした。


    「おい、どうしたんだ、裸で。ちゃんと服を着ろ」


    「イヤだ!」


    「みっともないから、服を着ろ」


    「拙者、裸の方がよい」とシン太郎左衛門は逃げ出した。


    部屋中追い掛け回し、むんずと捕まえ、無理矢理カッパの衣装を着せた。


    「風邪をひかぬように着ておけ」


    「やめろ〜!暑い上に、もうカッパの格好には飽き申した。どうしても着ろというなら、別の衣装をくだされ」


    「この家には、そんなものはない。どうしてもと言うなら、染料で色を変えてやる」


    「そんなことをしても所詮はカッパ。通気性、機能性、その他諸点を勘案して、拙者、セクシー・バニーちゃんの衣装を所望いたす。露出多めでお願い申す」


    「ありえんな。俺はコスプレに興味がない。れもんちゃんにすらお願いしたことがないのに、何でお前にそんな格好をさせてやらねばならんのだ」


    「一度試されよ。思いの外、萌えるかもしれぬ」


    「断る」


    そうこうしているうちに、シン太郎左衛門はカッパの衣装を脱いで、「いやはや、暑い暑い」と額の汗を拭っている。カッパ姿を見慣れた私には、抜き身のシン太郎左衛門は異様でしかなかった。


    「実に見るに堪えん・・・どうにかせねばならん」


    私は書斎からハサミを持ってきて、金ちゃんママにもらったバレンタインデー・チョコのラッピング用リボンが大した意図もなく取ってあったのを適当な大きさに切って、シン太郎左衛門に鉢巻きをしてやった。


    「何をしておられる」


    「鉢巻きなんだが・・・ダメだ。どうもシックリ来ない」


    鉢巻きを外すと、次は新聞紙を四角く切って、折り紙の兜を作った。それをシン太郎左衛門に被せてみたら、その格好が余りにも滑稽で腹を抱えて笑ってしまったものの、急に「何をやってんだ、俺は」と真顔になって呟いた。


    「こんなことをして楽しいか?」と、紙の兜を被ったシン太郎左衛門に訊かれて、恥じ入った。


    「すまん、すまん。もう大丈夫だ。やっと目が慣れてきて、オチン姿のお前に違和感がなくなった」


    「拙者はコスプレでオチン姿をしてるわけではない。元々がオチンでござる」


    「そうだった、そうだった」


    シン太郎左衛門は「ふざけた馬鹿オヤジめ」と紙の兜を脱ぎ捨てて、


    「ところで、父上、『シン太郎左衛門』シリーズは100回で終わるはず。もう遠に100回を越えておりませぬか」


    「そう思うだろ?俺もそう考えた。それで、念の為クラブロイヤルのオフィシャルサイトのれもんちゃん(ダイヤモンドかつ永遠の23歳)のページで、『シン太郎左衛門』シリーズの回数を数えてみたんだ。そうしたら、あろうことか20数回分しかなかった」


    「さすがに、そんなことはござるまい」


    「だろ?だから、もう一度数え直したら、更に回数が減って18回になった」


    「誰かが『シン太郎左衛門』シリーズのクチコミを削除しているのでござろうか」


    「それはありうる。消されてもしょうがないぐらい下らないからな。消しているのは、れもんちゃんかもしれん」


    「へへへ、れもんちゃん、可愛い」


    「だろ?『シン太郎左衛門』のクチコミを消しているれもんちゃんを想像すると、それもまた可愛いのだ。何はともあれ、れもんちゃんに100回書くと言った以上、勝手に連載を止めるわけにいかない」


    「うむ。れもんちゃんとの約束は絶対でござる」


    「ただ、もう完全にネタ切れだし、回を追うごとに、どんどんヒドい出来になっていくだろうな。最後には、れもんちゃんから『もういい加減、シン太郎左衛門シリーズ、止めてほしいよ〜』と言われるだろう」


    「なんと、実に悲惨な結末。しかし、れもんちゃんに愛想を尽かされて終わるのは、『シン太郎左衛門』シリーズに相応しい最後でござる」


    「お前もそう思ってくれるか」


    「おうよ」


    我々は互いの手を握って、大きく頷き合った。


    れもんちゃんに会えない日曜日は、かくも無為に過ぎていった。





    そして、その次の日曜日も、止むに止まれぬ事情があって、またしても、れもんちゃんに会えなかった。





    今日は火曜日。臨時れもんちゃんデー。


    いつものJR新快速ではなく、とっても特別な普通電車、正式名称『ドリーミング・ファンタジック・トレイン れもんちゃん電車』に乗って、のんびりと各駅停車で、れもんちゃんに会いに行った。





    久しぶりに会う、れもんちゃんは、それはそれは宇宙一に宇宙一で、『これでもかっ!』と言わんばかりに宇宙一であった。


    帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、


    「『シン太郎左衛門』シリーズの最後は悲惨なものだって分かったんだ。でも頑張って書くよ」


    「そうなんだね〜。頑張ってね〜」


    「うん。でも、早速、次回のテーマが思い付かないんだ。何にしたらいいかなぁ」


    れもんちゃんは可愛く首を傾げて思案すると、


    「電車くんに再会するっていうのは?久しぶりに金ちゃんやラッピーに会う話でもいいと思うよ〜」


    「なるほど、それは妙案だ。ありがとう。そうするよ」


    れもんちゃんは、ニッコリ笑顔で頷いた。





    れもんちゃんが宇宙一に宇宙一だというのは何の誇張でもなく、若干控え目な表現ですらあることを、知っている人は知っている。

    シン太郎左衛門、最後の形(あるいは『無為に過ごされた日曜日』) 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門とお花見(あるいは「父上、突然真面目になる」) 様

    ご来店日 2025年04月06日

    我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。


    随分と暖かくなってきた。どこも桜が満開だ。先日、家の前で金ちゃんママに出会ったときにも、丘の上の公園が花盛りだと言っていた。ただ、私は桜にも花見にも関心がないし、生まれてこの方、マトモに花見をしたことがない。





    先週火曜日は4月1日。朝、出社したとき、建物の入り口で旧福岡支店の連中と出くわした。


    「今日からこっち?」と訊くと、


    「昨日からだよ~。昨日は引っ越しだったよ〜」


    「そうなんだ。で、みんな揃ってどこ行くの?」


    「僕たちは旧社屋の1階でお仕事だよ〜」


    私の勤め先は、昨年新しい自社ビルを建てて移転したが、すぐそばにある旧社屋、地上3階地下1階のオンボロのビルを倉庫代わりに使っていた。


    「それじゃ、引っ越しは、まずガラクタの移動からだったんだね。大変だったね」


    「大変だったよ〜。頑張ったよ〜」


    「・・・ねえ、その『よ〜』って付けるの止めない?」


    「でも、みんな、こうしてるよ〜」


    「そうなんだけど・・・みんなでやると、やっぱり会社としては異様だよ〜」


    飛んでもないものを流行らせてしまったと少し後悔した。





    出社して席に着くまでもなく、社長から呼び出された。先週のクチコミに書かれている一件で、お詫びの高級和菓子の贈呈式かと思い、喜んで社長室に入っていくと、社長は「よく来たよ〜。僕は社長ちゃんだよ〜。君は今日から新しい部署に異動だよ〜」と、どうでもいい話を始めた。


    「そんなことより和菓子ちゃんだよ〜」と言い返すと、


    「和菓子はまだ買ってないよ〜。今日の夜、買いに行ってあげるよ〜」


    「じゃあ、今日は、もう家に帰るよ〜。また明日だよ〜」と言って、部屋を出ようとすると、


    「帰っちゃダメだよ〜。君は今日から旧福岡支店メンバーのリーダーちゃんとして頑張るんだよ~。福岡組の組長だよ〜。その肩書きで名刺も作り直してあげたよ〜」


    「そんな名刺、人に渡しにくいよ〜」


    「とにかく、新しいお仕事ちゃんを頑張るんだよ~」


    「どんな仕事か聞いてないよ〜」


    「福岡組ちゃんは『秘密のお仕事ちゃん』をするよ〜」


    「意味分かんないよ〜。可愛い秘密がいっぱいなのは、れもんちゃんだよ〜。れもんちゃんは可愛いよ〜。スゴ腕だよ〜。〇〇〇(自主検閲済)だよ〜。宇宙一に宇宙一だよ〜」


    「お仕事ちゃんの中身は、そのうち話すよ〜。とにかく早く旧社屋に行って、福岡組ちゃんのみんなと仲良くするんだよ〜」


    みんなで昼ご飯でも食べるようにと1万円札を渡されたが、これじゃ少ないと、もう1枚巻き上げた。





    旧社屋に行くと、計11人のオッサンが暇そうにしていた。


    知ってる顔も二、三人はいたが、取り敢えず自己紹介をし合って、


    「で、どういう仕事か聞いてる?」と尋ねたが、みんな首を振って、「知らないよ〜。『秘密だよ〜』って言われたよ〜。何をするのか分からないけど、頑張るよ〜」


    「何やるか知らないのに、どう頑張んの?ヒドい話だな・・・ところで、みんな、その『よ〜』って言うの止めない?」


    「イヤだよ〜。止めないよ〜」


    「いやいや。よく考えたら、実物のれもんちゃんは『よ〜』なんて滅多に言わないし、ましてや、いい年したオッサンが『よ〜』なんて、おかしいよ」


    「止めないよ〜。それよりお仕事ちゃんが分からないから、暇すぎるよ〜」


    「・・・その『ちゃん』づけも止めない?『ちゃん』は可愛い人や可愛い動物にだけにしようよ。れもんちゃんとかワンちゃんとか、ホントに可愛い人や動物だけに・・・」


    「イヤだよ〜。それより暇すぎて死にそうだよ〜」


    勝手に死んどけ、と言いたくなったが、グッと堪えた。


    「よし、こうしよう。天気もいいし、この近くの川の土手には桜が咲いてる。これから、みんなでお花見をして親睦を深めよう」


    「『わ〜い』だよ〜。それがいいよ〜。お花見ちゃんで、親睦ちゃんだよ〜」と、福岡組の面々は大はしゃぎだった(念の為に言っておくと、福岡組に福岡県出身者は一人もいない)。


    「嬉しいよ〜。僕たち、朝御飯を食べてないから、お腹ペコペコちゃんだよ〜」


    「喉もカラカラちゃんだよ〜」


    「2階にブルーシートちゃんがあったから持ってくるよ〜」


    (コイツらメチャメチャだな・・・)と思ったが、口には出さなかった。





    爽やかな春の日、河原までの道々、彼らは誰から教わったのか、『元祖れもんちゃん音頭』の一番を大声で歌っていた。私は彼らのノリに全く付いていけなくて、妙な孤独感を味わった。


    土手の桜並木は満開だった。


    彼らは口々に「桜ちゃんがキレイだよ〜」と感心していた。


    適当な所にブルーシートと広げると、「ここに2万円あるから、コンビニで君たちの好きなモノを買ってきたらいいよ。私は朝御飯をちゃんと食べてきたから、缶コーヒーだけでいいからね。ブラックでね」


    「僕は、おにぎりちゃんがほしいよ〜。お菓子ちゃんもほしいよ〜」と誰かが言うので、


    「好きなモノを買ったらいいよ」と返すと、


    「僕はお弁当ちゃんがほしいよ〜。チーカマちゃんもほしいよ〜」と別の誰かが言うので、


    「いいよ」と答える。


    また、別の誰かが、「僕は唐揚げちゃんがいいよ〜」


    「好きなモノ、買えって言ってんだろ!」


    「じゃあ行ってくるよ〜」


    11人のオッサンたちは嬉しそうに出掛けていった。





    彼らが行ってしまうと、私は一人ブルーシートの上に横になって、桜を見上げた。これが何桜なのか知らなかったし、桜に関してなんの蘊蓄も持ち合わせていなかった。確かにキレイなモノだとは思ったが、


    「それでも、れもんちゃんの方がずっとずっとキレイだよ〜」と独り言を言っていた。


    しばらくウトウトと居眠りをしてしまっていたが、やがて福岡組のみんなが大声で話しながら帰ってくる物音に目を覚ました。声の方向に視線をやると、全員、両手に500mlの缶ビールを持って、グビグビ飲みながら歩いてくる。


    「ビールちゃん、美味しいよ〜」とか言っている。中にはすでに足元が怪しいヤツもいる。


    思わず「おい、お前ら、こんな朝から飲むヤツがあるか!」


    「ここに合計11人いるよ〜。組長ちゃんも飲んだら12人に増えるよ〜」


    何故か『ビールのようなアルコールの入ってるものは買っちゃダメ』と言っておかなかった自分の方が悪い気がしてきた。それに全員すでに取り返しがつかないぐらい酔っ払っていた。


    「まあいいや。それでビール以外は何を買ったの?」


    「ビールちゃんの他にはビールちゃんだよ〜」


    「おにぎりとお菓子は?」


    「買ってないよ〜」


    「俺のコーヒーは?」


    「買ってないよ〜。自分で買ってくればいいよ〜」


    こんなマヌケなことを言いながらニコニコしている彼らを見ていると、もう何でもよくなってきてしまって、


    「・・・僕もビールちゃん、飲むよ〜。一本ちょうだいだよ〜」


    「沢山あるよ〜。はい、これ、あげるよ〜。美味しいよ〜」


    よく冷えた缶ビールを受け取り、プルタブをグイッと引き上げ、グビグビっと一呑みすると、「苦いよ〜。美味しくないよ〜」


    「そんなことないよ〜。美味しいよ〜」とみんなはグビグビグビっと喉にビールを流し込み、「美味しいよ〜」と声を揃え、その勢いのまま、





    はぁ〜、広い世界にただ一輪


    可憐に咲いたレモン花


    甘い香りに誘われて


    出来た行列、五万キロ





    と合唱を始めた。





    ・・・


    優しい、可愛い、美しい


    宇宙で一番、れもんちゃん





    「その歌は『元祖れもんちゃん音頭』だよ〜」


    「知ってるよ〜。名曲だよ〜。小さなカッパに教わったよ〜」


    「作詞・作曲シン太郎左衛門だよ〜」


    「そんなヤツ知らないよ〜」





    そんなやり取りをしながら、普段アルコールを口にしない私は急に気分が悪くなっていった。


    「『おえ〜』だよ〜。気分が悪くなってきたよ〜」


    「ブルーシートに横になってたらいいよ〜」


    「そうするよ~。『おえ〜』だよ〜」





    ブルーシートに横になった途端、私は気を失ってしまった。





    「組長ちゃん・・・組長ちゃん・・・」


    揺り起こされてしばらくは、事態が呑み込めずボーッとして黙っていた。


    何で俺は川の土手にいるのか、このオッサンたちが誰なのか、なかなか記憶は甦らなかった。


    「もう夕方だよ〜。おウチに帰る時間だよ〜」と、福岡組の一人に抱き起こしてもらった。爽やかな春風に満開の桜から花びらがハラハラと散っている。


    まだ微かに頭が痛かったが、私は福岡組のみんなと『元祖れもんちゃん音頭』を元気に歌いながら、旧社屋に帰っていったのであった。





    そして今日は日曜日。れもんちゃんデー。


    JR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。


    福岡組のメンバーたちでさえ知っていて、今更言うまでもないことではあるが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。それに、れもんちゃんは宇宙一の〇〇〇(自主検閲済)だった。


    帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、「この前、お花見に行ったよ」


    「お花見、楽しいよね」


    「ところが全然楽しくなかったんだ。ほとんど気を失ってたし」


    「大変だったね」


    「そうなんだ。4月になってから無意味に大変なんだ。仕事もせずに9時5時で親睦だからね。ずっと『元祖れもんちゃん音頭』を歌っているし」


    「だから声が枯れてるんだね」


    「そういうこと」


    「身体に気を付けてね」と、れもんちゃんは優しく微笑んだ。





    れもんちゃんは『よ〜』なんて本当に稀にしか言わないし、本当にステキで真面目な頑張り屋さんだ。


    これまで散々ふざけ散らした私だが、根は大変真面目な人間だったことを今更ながら思い出した。


    そして、今回のクチコミにシン太郎左衛門をタダの一度も登場させていなかったことに今になって気付いたのであった。

    シン太郎左衛門とお花見(あるいは「父上、突然真面目になる」) 様ありがとうございました。

  • 投稿者:シン太郎左衛門(『カッパ左衛門、一人で福原に行く』の巻) 様

    ご来店日 2025年03月30日

    拙者、富士山シン太郎左衛門は武士である。現今、人目を忍んで、カッパに身をやつしておる。





    先週のクチコミの通り、父上は島流しの刑をあい、一昨日、つまり金曜日の夜にリュックサックを背負って、「じゃあ、福岡に行ってくるわ」と寂しそうに家を出ていった。


    金曜と土曜の晩、一人で広々と布団を使って寝て、実に快適でござった。やっぱりあんなクソ親父はおらん方がよいと、つくづく実感いたした。


    そして、今日は、日曜日。巷で言うところの『れもんちゃんデー』。朝9時、拙者、一人旅には慣れぬ故、福原までの遠路を思えば、早めの出立が肝要と心得、キッチンの流しにて冷水で身を清め、洗いたてのカッパの衣装を身にまとうと、愛刀の貞宗(割り箸)を腰に帯びて、台所の小窓から外に出た。





    涼やかな風が実に心地よい『れもんちゃん日和』。取り敢えず坂道をヒョロヒョロと下り、国道に行き当たると、「神戸まで、よろしくお頼み申す」と書いた段ボールを精一杯高く掲げてヒッチハイクを始めたが、行き交う車の運転手たちの目に留まることもなく、虚しく時間が過ぎてゆき、多少の焦りが生まれてきたとき、


    「あっ!オジさんのカッパだ!」という明るい声がした。それは自転車に乗った明太子ちゃんでござった。


    自転車を停めた明太子ちゃんは拙者を摘み上げ、荷カゴに下ろすと、「カッパさん、神戸に行くの?」


    拙者が頷くと、明太子ちゃんは「神戸は遠いよ。多分ヒッチハイクじゃ行けないよ」


    「なるほど、そういうものでござるか」


    「うん、行けない。反省した方がいいよ」


    「うむ。では、反省いたそう」


    「電車で行かなきゃね。JR新快速に乗るんだよ」


    「うむ。何を隠そう、拙者、その電車には詳しい。その電車の正式名称は『スーパーれもんちゃん号』、またの名を『それいけ!れもんちゃん号』とも言う。夢を運ぶ電車でござる」


    「そうなの?〇〇駅まで乗せてってあげる」





    明太子ちゃんの自転車の荷カゴで揺られ、駅まで快適な一時であった。明太子ちゃんは、駅近のコンビニの前に自転車を停めると、拙者をムズっと掴んで、駅の階段を駆け上がり、駅員さんに「トイレ借りま〜す」と声を掛けて改札を抜け、ホームに向かう階段を駆け降ると、ホームの先頭で列車の到着を待った。


    拙者、散々振り回されて目が回っていたが、それが収まると、「明太子殿、忝ない。一生恩に着まする」と伝えた。


    「気にしなくていいよ。オジさんにまた買い物に来てって言っておいてね」


    『スーパーれもんちゃん号』が到着すると、明太子ちゃんは、運転席の窓を叩き、ドアを開けて出てきた運転手さんに「このカッパさん、神戸駅までお願いします」と拙者を差し出した。


    その運転手さんは、いつもクラブロイヤルの入り口で笑顔で出迎えてくれるスタッフさんにソックリな『れもん星人』にソックリだった。


    運転手さんは拙者を受け取ると、「いいよ。ところで、明太子ちゃん、もう高3なんだから、バイトばかりでなく、勉強も頑張るんだよ」


    明太子ちゃんは「頑張ってるって・・・じゃあ、カッパさん、またね。オジさんによろしく」と、にこやかに手を振ってくれた。


    運転手さんは拙者を運転台に乗せると、電車を出発させ、運転中はずっと楽しそうにニコニコしておる。仕事の邪魔はしたくなかったが、どうしても運転手さんと明太子ちゃんの関係が気になって、「お仕事中に恐縮でござるが、貴殿は明太子ちゃんの御親戚でござるか?」と訊いてみた。


    運転手さんは、楽しそうに口ずさんでいた『およげ!たいやきくん』の替え歌を中断して、「えっ、僕ですか?僕は『電車くん』。明太子ちゃんの婚約者です」と言った。


    訊くんじゃなかったと思った。設定がデタラメ過ぎて、クラクラと目眩がした。こんな馬鹿な設定は父上の仕業としか思われぬ。アヤツめ、福岡に転勤したとか言いながら、まだ近くにいるような気がした。


    『スーパーれもんちゃん号』の先頭に陣取って、拙者、久しぶりに『元祖れもんちゃん音頭』をフルコーラス熱唱いたした。電車くんも中々の声の持ち主で、見事なハーモニーを奏でてくれた。二人の名演奏に惹き寄せられて、苦労左衛門ほかオチン武士が集まってきて、やがて100名を越えるオチン武士による大合唱へと発展したが、運転室がギュウギュウ詰めで、電車くんの視界が完全に遮られてしまい、『スーパーれもんちゃん号』は芦屋駅の手前で緊急停車した。





    『電車くん』とは神戸駅で握手をして別れた。またいつの日か再会し、『元祖れもんちゃん音頭』を合唱することを固く誓い合った。





    さて、ホームに降ろしてもらってからが、一苦労でござった。


    読者各位もご存知のとおり、オチンは歩くのが苦手であり、特に人通りが多い道にあっては、酔っぱらいが阪神高速を千鳥足で歩くのと同じぐらい危険な状況に置かれる。危なくて、とても歩けない。乗り物を探すしかない。


    ホームを見回していると、いかにも『これから福原に遊びに行きます』顔のスーツ姿の男がいたので、その御仁のズボンの裾に飛び付いて攀じ登り、スーツケースの上に飛び移った。ところが、この御仁の向かった先は『アンパンマンこどもミュージアム』で、すっかり無駄足を踏んでしまった。それから後も、色々な男性に飛び移ったが、どいつもこいつも見当違いな方向に行くので、神戸駅の周辺を行ったり来たりするばかりで一向に福原に辿り着けない。その代わり、短い時間に三度も湊川神社に参拝した。


    こんなことを続けておっては、予約の時間までにクラブロイヤルに到着出来ないかもしれない、そう考えると、気持ちが焦ってきた。そして、またしても『ふりだし』である神戸駅に戻ってきて、イカついオッサンの肩から、前をチョコチョコ歩く、リュックを背負ったオッサンに向けて「南無八幡大菩薩!」と胸中で唱えながら飛び移った。頭頂部がハゲかかったオッサンのリュックサックに腰を下ろしてしばらくすると、オッサンはエスカレーターで地下に降り、デュオこうべ浜の手からJR神戸駅の下を通って、デュオこうべ山の手を抜けて、高速神戸駅の方に進んでいく。『この道でよいが、湊川神社に行くではないぞ。電車に乗ろうとしたら斬る』と胸中呟いていると、男は高速神戸駅の改札前で新開地駅方面に左折した。思わずリュックの上で手を叩いた。男は神戸タウンの6番出口から地上に上がり、有馬街道を北上して行く。思わず、「でかした!この調子で、クラブロイヤルまで行くのじゃ!」と叫んでしもうた。すると、リュックサックの主は、


    「おい、シン太郎左衛門、2日会わぬだけで忘れたか・・・俺だ」


    「おお!この声、この後頭部は〇〇駅前の中華料理屋のご店主!」


    「違う。俺だ。父上だ」


    「なんと!父上の幽霊だ!」


    「違う。化けて出たのではない。さっき新幹線で福岡から戻ってきた」





    クラブロイヤルに到着すると、いつもの愛想のよいスタッフさんに笑顔で迎えてもらい、待合室に通された。そこで父上の話を聞かされた。


    「金曜日の夜は、博多のホテルに泊まって、翌日、昼前に福岡支店に寄ったんだ。土曜日だから社員の半分も出勤してないだろうと思ってたが、総出でバタバタと作業をしてる。知ってる顔がいたから『何してんの?』って訊いたら『荷造りをしてるよ〜。手伝ってほしいよ〜』と言われて、一緒にキャビネットの書類を段ボール箱に詰めていった。夕方まで飯も食わずに頑張って荷造りを手伝って、フラフラになったからホテルに帰って飯食って風呂に入ろうと思って、『それじゃ帰るね。実は俺、来週から福岡支店でお世話になるから、よろしくね』と言ったら、『助かったよ〜。でも福岡支店は今日で閉鎖だよ〜』と言われた」


    思わず「なんと!」と言ってしまうと、父上は拙者の反応に勢い付き、「だろ?俺も思わず『はあっ?』と言ってしまったよ。『この荷物は大阪本社に送るんだよ〜。俺たちみんな来週から大阪に帰るんだよ〜』と言われた。頭が真っ白になって、社長のスマホに電話をかけた。なかなか出ないから一旦切ろうとしたとき、やっと出たかと思ったら、『社長ちゃんは今忙しいよ〜。シマリスちゃんにご飯を上げてたよ〜』と不満そうにヌカすから、『この愚か者め!』と怒鳴りつけて、今日俺の身に起こったことを説明し、『俺は引越し屋さんのバイトじゃないよ〜。社長ちゃんが今、俺の目の前にいたら手が出てるよ〜』と怒ると、『あ〜、そうだったよ〜。福岡支店を閉めることをすっかり忘れてたよ〜。ゴメンだよ〜』と謝られた。『馬鹿も休み休み言った方がいいよ〜。鼻の穴にワサビを詰めて、反省した方がいいよ〜』と言ってやると、『反省してるよ〜。でも、ワサビはイヤだよ〜。それと、シマリスちゃんは可愛いよ〜』と馬鹿なことを言ってきたので、『れもんちゃんの方がずっとずっと可愛いよ〜。宇宙一に宇宙一だよ〜』と言い返し、更にお詫びのしるしとして3万円相当の高級和菓子を贈って寄越すことを条件に和解してやった」と自慢げに語った。


    父上も馬鹿だが、父上の周りの人間も馬鹿ばかりだった。





    そして、我々親子は、今日もいつも通り、れもんちゃんに会った。言うまでもなく、宇宙一に宇宙一でござった。


    れもんちゃんは、父上の顔を見るなり、ニッコリと微笑むと、「父上さん、こんなにすぐに帰ってきちゃダメだよ〜。今日もやっぱり反省した方がいいよ〜」と言って、父上を大混乱に陥れた。





    この世には、嫌なことも腹が立つこともゴマンとあるが、れもんちゃんがいれば、そんなことは大概笑って済ませる、そう父上が言っておった。


    父上は大馬鹿者だが、時々正しいことを言う。

    シン太郎左衛門(『カッパ左衛門、一人で福原に行く』の巻) 様ありがとうございました。