れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「今回クチコミを書かずにやり過ごしたヤツ」)様
来店日/選択コース:2024年4月21日/
女の子タイプ:
アタリポイント:
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当に武士なのだろうか?よく分からない。
今日は水曜日。れもんちゃんに会う大事な日は日曜日であり、水曜日は全く大事ではない。
そんな大事ではない水曜日の朝、シン太郎左衛門が「父上、今回はまだクチコミを書いてござらぬな」と言い出した。
「うん。書いてないよ。何かとバタバタしているからな」
「書こうとする素振りも見せておられぬ。先の日曜日、宇宙一のれもんちゃんに、宇宙一の幸せ者にしてもらいながら、クチコミ一つ書かぬでは申し訳が立たぬ。さっさと書かれよ」
「いや。それが、大丈夫なんだ」
「何が『大丈夫』でござるか」
「最近、分かったんだ」
「何が分かったと」
「『シン太郎左衛門』シリーズを書いているのは、俺一人じゃないんだ」
「なんと。何を訳の分からぬことを言っておられるか。こんな下らぬものを書くのは父上だけでござる」
「それが、そうじゃなかったんだ。この前、お前から『シン太郎左衛門』シリーズは一周年で、これまで50回ほど投稿したと聞いたが、俺自身こんなものを50回も書いた覚えはないし、確認のため、クラブロイヤルのオフィシャルサイトを見てみた」
「れもんちゃん(ダイヤモンド)の『お客様の声』でござるな」
「そうだ。すると、確かに毎週日曜日、投稿者名に『シン太郎左衛門』を含むクチコミが投稿されていた。しかし、ざっと目を通してみると、自分で書いたと記憶のあるものは全体の3分の1ほどだった。残りは完全に身に覚えがない。つまり、別の誰かが書いたものだった」
「・・・お前、大丈夫か?」
「父親をお前呼ばわりするな!」
「申し訳ござらぬ。思わず口が滑った。しかし、父上、繰り返しになりまするが、『シン太郎左衛門』シリーズのような下らぬものを書く馬鹿は、父上以外には見当たりませぬぞ」
「そんなことを言われても困る。確かに、俺は自分でも呆れるくらいの怠け者で、興味のないことからは全力で目を背けようとする最低のヤツだ。人間として終わっている。でも、『シン太郎左衛門』の大半を俺が書いていないというのは疑いようがない。れもんちゃんファンは世の中に溢れているから、俺が書かなければ、他の誰かが『しょうがないなぁ』と、俺の代わりに『シン太郎左衛門』の続きを書いてくれる。世の中は、そういうふうで出来上がっているらしい。だから、今回、俺がパスしても大丈夫なのだ」
「いやいや。父上の場合には、『書いた記憶がない』のと『書いていない』は別物でござる。父上は、単純にボケが進んでいるのでござる」
「俺は、ボケてるわけではないぞ。その証拠に、大事なことは忘れない。だから、れもんちゃんに会う日を忘れたことがない。要するに、俺は関心のないことにトコトン無頓着なだけだ。子供の頃から、そうだった。例えば、小学生のとき、町を歩いていたら、床屋から出てきたガラの悪そうな男に思いっきり睨まれて、気持ち悪いから道を渡って避けた。しばらくしたら、向こうから歩いてきた買い物籠を下げた太ったオバさんが怪訝そうな顔で俺をじ~っと見ていたから、目線が合わないようにすれ違った。何で今日は、こんなに色んな人にジロジロ見られるんだろうと不思議に思って、よく考えたら、父さんと母さんだった。その程度のことなら度々ある」
シン太郎左衛門は呆気にとられた様子で、「お前、本当に大丈夫か?」
「何度も親をお前呼ばわりするな!」
「父上こそ親をなんと心得おるか!」
「一種の他人だ。でも、そんなことは、どうでもいい。とにかく、今週は俺の番ではない。今頃、誰かが新しい『シン太郎左衛門』をアップしているに違いない」
「では、今すぐ、れもんちゃん(ダイヤモンド)の『お客様の声』を見られよ」と、シン太郎左衛門に言われて、渋々スマホを操作した。
「う~ん、まだ掲載されてないな。今週の当番が誰だか知らんが、さっさと書けよ」
「そのセリフ、鏡に向かって言われよ」
「・・・お前、本気で、あれ全部を俺が書いたと言うのか?」
「うむ。間違いござらぬ。どれだけ待っても、父上が書かぬ限り、新しい『シン太郎左衛門』は投稿されませぬ」
「そうか・・・そこまで言うなら、こうしよう。今日の夕方まで待っても、『シン太郎左衛門』の新作が掲載されなければ、俺が書く。お互いお見合いをして、ポテンヒットになってはいかんからな」
「うむ。夕方になってから、慌てぬよう、今から準備されるがよい」
そして、職場からの帰り道、スマホでチェックした。結局、何の変化もなかった。そういう訳で、今、こんなものを書いている。
何とも釈然としないので、「おかしいなぁ・・・『シン太郎左衛門』の書き手は、俺だけじゃないはずなんだがなぁ」と呟くと、シン太郎左衛門から、「往生際が悪い!」と窘められた。
やはり何かがおかしいと感じつつも、れもんちゃんの笑顔(宇宙一)を思い浮かべると、この宇宙には何の問題もないと思えてきた。やっぱり、どう考えても、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だった。
「まあいいや」と言いながら、送信ボタンをクリックした。
シン太郎左衛門(あるいは「今回クチコミを書かずにやり過ごしたヤツ」)様ありがとうございます。