Profileれもん【VIP】のプロフィール
れもん【VIP】(23)
T153.
B83(C).
W54.
H84
圧巻!S×5級美女に感動
お客様の声
- 投稿者:シン太郎左衛門とラスボスの誤配(あるいは「海を見ていた午後」) 様
ご利用日時:2024年12月6日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。暑いときにはグッタリしていて、寒くなると動かなくなる、まるで頼りにならない武士だった。
水曜日の夜、忘年会でAに会った。
学生時代の知り合い5人が、お互い棺桶に片足を突っ込んでいることをしみじみ確認し合うような寂しい集まりの後、Aに誘われて、二人だけで喫茶店に寄った。
その日のAは、いつになく饒舌だった。
さっきまで一緒にいた連中について、一頻り悪口を言った後、Aはコートのポケットから煙草の箱を出しながら、「Cを覚える?」
「覚えてるさ。Cの下宿には、よく遊びに行った。あいつは全然喋らないから、カセットプレーヤーで音楽流して、一緒に聴いてただけだけど。俳優になれるような美男子だった」
「で、実際どんな顔だったか思い出せる?」
「全く思い出せん」
「そうなんだよな。誰一人思い出せないんだ。C、死んだぜ」
「そうなんだ」
「悲しいか?」
「いや、全く悲しくない」
「そうなんだよな。誰一人悲しまないんだ。Cの葬式に行ってきた」
「いつ?」
「11月の20日過ぎ。奥さんも全然悲しんでなかった。参列者の誰も悲しんでなかった。故人を偲ぶにも、誰もCの記憶が殆どないんだ。とても変な葬式だった」
「俺は葬儀に呼ばれんかった」
「知ってる。Cの奥さんから聞いた。Cが『声を掛けたら葬儀に来るヤツ』『呼んでも来ないヤツ』のリストを残していて、お前は『呼んでも絶対に来ないヤツ』の中にいたそうだ。別枠で『絶対に呼んじゃいけないヤツ』として、BとK先輩の名前があったらしい」
「当たり前だ。何を仕出かすか分からん奴らだ」
『昭和』を思わす、古びた喫茶店には、我々二人以外に客がいなかった。Aは煙草をくわえ、火をつけると、「C自身も薄気味が悪いヤツだったけどな。全然何も喋んないし」
「うん・・・でも、Cはホントに毒ガスや爆弾を作ってたんだろうか?」
Cは我々が通っていた大学の理学部化学科設立以来の大秀才と言われていたが、常に危険人物扱いされていた。
「分からん。結局、根も葉もない噂だったのかも知れない」
「でも、その噂のせいで、Cは半年に一度は下宿を追われ、文句一つ言うでもなく、淡々と引っ越しを繰り返していた」
「どこに行っても、決まって変な噂が立つって、あれは何だったんだろう」と、Aは煙草の煙を吐いた。
学生時代からAはタチの悪い悪戯の常習犯で、私はずっとAが噂の火元ではないかと疑っていた。しかし、その疑いにも大した根拠はなかった。
Aは、また煙を吐くと、「ところで、今、BはK先輩のところに居候してるらしい」
私はAに向かって煙を吹き返すと、「ああ、うすうす察してた」
Aは少し驚いた様子で、「なんで?」
「なんとなく」と答えた。まさか、れもん星の大王カフェ七号店で、二人が並んで写ってる写真を見たから、とは言えなかった。
「徳島県の僻地で、二人で自給自足の生活してるって、この前、K先輩から来た手紙に書いてあった」
「そうなんだ」
「それが変な手紙でさ。『ご依頼により、一筆啓上仕り候』で始まるんだ。俺、頼んでねえし、と不思議に思いながら読んだ」
「待て待て、それは・・・ゴメン、続けてくれ」
「どうでもいい話が延々と続くから、最後まで読まずに捨てた」
「そうなんだ・・・」
やっぱり馬鹿だった。K先輩は、私に送るべき手紙をAに送ったのだ。
「中身、覚えてる?」
「つまらん思い出話ばかりだったな。あっ、そうだ。Bが今でもお前のことを恨んでるってさ」
「その話はいいわ」
「手紙が届いて数日後、K先輩から電話があって、早くバイト代を送れとか訳の分からんことを言ってきたから、サッサと切った」
もう何も言う気にならなかった。
帰りの電車の中、私はシン太郎左衛門に、「我々のラスボスは、違う人間のところに誤配されて、呆気なく蹴散らされてしまった」
「なんと。それは情けない話でござる」
「まあ、別にいいんだけどね」
「うむ。結局、れもんちゃんさえいれば、我々は困らぬ。れもん星に行ったり、金ちゃんたちを登場させたりすれば、『シン太郎左衛門』シリーズの10回や20回は簡単に出来まする」
書くのは俺だぞ、と言い返したくなったが、黙っていた。何故か気持ちが沈んでいた。
帰宅後、さっさと寝ることにした。何故か、れもん星に行かねばならない気持ちになっていた。
「シン太郎左衛門、俺はこれかられもん星に行く。お前も来るか?」
「お供いたしましょう」
布団に入ると、電気を消して、二人で、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と、夢でれもん星に行く呪文を10回唱えた。すると・・・
いきなり目の前に青い空が広がった。
オシャレで落ち着いた街並みに、「あっ!ここは、見覚えがござる」と肩の上のシン太郎左衛門が声を上げた。
我々が着いたのは、れもんちゃんのパパが経営する大王カフェ七号店の前だった。
「なんと!これは嬉しい!父上、また大王カフェに来れましたぞ」
大王カフェ七号店は、海を見渡せる高台の上に立つ、瀟洒で愛らしい、小さなお店だった。
「・・・そうでござったか。気が付かなんだが、守護霊殿も一緒に来られたものと思われまする」
「なるほどね。我々のような徳の低い奴が度々来れる場所ではないからな」
シン太郎左衛門は「守護霊殿、ありがたき幸せ。御礼申し上げまする」と、どこにいるのか分からない守護霊さんに当てずっぽうで御礼を言っていた。
カフェの入り口には、例によって小さな黒板がイーゼルに置かれていた。赤白青のチョークで、
「新メニュー 大王イカフライ!!
れもんちゃんも大絶賛!!
美味しいよ〜」
と書かれていた。
ドアを開けると、小さなカウベルが軽やかに鳴った。
いつもクラブロイヤルの入り口で気持ち良く迎えてくれるスタッフさんにそっくりなれもん星人さんが迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」と言って、我々を海の見える窓際の席に案内してくれた。
「守護霊殿が席を予約してくれていたものと思われまする。いや〜、それにしても絶景でござるなぁ」
水平線までコバルトブルーの海が広がり、遠くに白い客船が浮かんでいた。近くには、白いモモンガの群れが飛び交っていた。
スタッフさんは、カトラリーの小籠とお冷を運んで来て、「ご注文は、大王イカフライとグラスの大王白ワインを3名様分でございますね」
シン太郎左衛門が私の方を見て、「守護霊殿が注文まで済ませてくれてござるな」
「うん」とだけ答えた。
やがて料理が運ばれてきた。一口サイズのイカのフライが、可愛いお皿に、こんもりと盛られて、ホカホカと湯気を立て、甘い香りを漂わせていた。
シン太郎左衛門は、「父上、我々がここに居ては、守護霊殿が食べにくい。トイレに行きましょう」
私は、テーブルの上からシン太郎左衛門を肩に乗せ、席を立った。
別にトイレに行きたい訳ではなかったので、店の奥でスタッフさんをつかまえて、「今日も、れもん大王さんは本店なの?」と尋ねた。
「いいえ。今日は、こちらに来られてますが、発売以来、大王イカフライの注文が殺到しておりまして、れもん女王さまから『もっと沢山イカちゃんを捕って来なきゃダメだよ〜』と怒られて、泣く泣く漁に出かけておられます」
「・・・れもん女王さまはシッカリ者みたいだね」
「それはもう。大王さまは、美味しいものを作って、みんなに喜んでもらったら、それで満足される御方ですから、女王さまがいないと大変なことになります」
「なるほどね」
れもん女王さま、つまり、れもんちゃんのママに会いたいのは山々だったが、仕事の邪魔はしたくなかった。
テーブルに戻ると、私の向かい席には半身をよじって窓の外を見ている男がいた。
シン太郎左衛門は憤然と、「なんと!無礼な者が、守護霊殿の席に座っておりまする」
「いや、守護霊さんは今日は来ていない。そこには、最初から、こいつが座っていたんだ」
シン太郎左衛門は事態が飲み込めていなかった。
「こいつはC、俺の学生時代からの知り合いだ」
私が席に座った後も、Cはじっと海を見ていた。その横顔は、若々しさを失っていたが、ギリシャ彫刻のように整っていた。学生時代、下宿の部屋の窓から寂れた裏通りをボンヤリ眺めていたCの姿が脳裏に蘇った。
「お前、友達甲斐のないヤツだな。葬式ぐらい呼べよ。行ってやったのに」と言うと、Cは徐ろに向き直り、皮肉な笑みを浮かべた。
私は苦笑いを浮かべて、「・・・そうだな。お前の見込みどおり、行かなかったかもしれない」
Cは、皿に視線を落として、イカフライを一つ口に運んだ。
私はCの向こう、コバルトブルーの海を見ながら、「そう言えば、松任谷由実の『海を見ていた午後』を初めて聴いたのは、お前の下宿だった」
Cは小さく頷いた。
「あの頃から全然変わらんな。相変わらず、お前の無口は度を過ごしてる。いつも俺ばかりに話させやがって。お前も、なんか喋れよ」
Cは微かに微笑んだ。そして、「大王イカフライ、美味しいよ〜」
「・・・俺の記憶が正しかったら、お前の声を聞くのは、これが初めてだよ。それが、まさかこんなセリフだったとはな」
俳優並みの美男子はCM向きの微笑みを浮かべ、
「新メニュー『大王イカフライ』!カリッとサクサク!!ジューシーな甘みが後を引く!!」
「どうしたんだ、お前?」
「新メニュー『大王イカフライ』!これぞ、れもん海の恵み!一口サイズの極上イカを是非ご賞味ください!」
「言われなくても、これから食べるよ」
「新メニュー『大王イカフライ』!イカフライを超えたイカフライ!!これは、もうイカフライではない!!」
「いや、どう見てもイカフライだろ」
「新メニュー『大王イカフライ』!大王ちゃんの秘伝のレシピ!!これは、もうイカフライではない!!」
「お前、くどいよ」
「新メニュー『大王イカフライ』!!ビールもワインも止まらない!!」
「さっき少し感動しかけてたのを後悔してるよ」
「新メニュー『大王イカフライ』!!税込9500円!!」
「高いよ!」
「ご一緒に大王ポテトフライはいかがですか?」
「要らないよ。揚げ物ばっかり食えねえよ」
「では、メニューをお持ちしましょうか?」
「お前、もう喋んなくていいよ」
Cは黙って、苦笑いを浮かべ、そして、イカフライを口に運んだ。
私も大王イカフライを食べてみた。れもんちゃんが絶賛するだけのことはあった。
「これは美味い!」
Cは笑顔を浮かべて頷いた。「ホントは、税込1200円だよ」
「それなら安い」
二人は無言で食べ進め、すっかり完食した。
Cは、もういなかった。
私は、凪いだれもん海を見ていた。
「C殿は最後に会いに来てくれたのでござるな」
「ああ」
「きっと、れもんちゃんの計らいでござろう」
「そうだ。俺の人生に起こるいい事は全て、れもんちゃんのお蔭だからな」
「うむ」
そのとき、静かなピアノの音色が聞こえてきた。振り向くと、『ひみつのアッコちゃん』のお面を被った女性がアップライト・ピアノに向かい「海を見ていた午後」のイントロを優しいタッチで奏でていた。
これも、れもんちゃんの計らいなのだろう、そう感じていると、れもん女王さんの見事なピアノ演奏をバックに、マイクを手にして現れたのは、いつもクラブロイヤルの入り口で迎えてくれる愛想のよいスタッフさんにソックリのれもん星人だった。
思わず「お前が歌うんか〜い!」と言ってしまった。
この店にくるたび
あなたを思い出す・・・
スタッフさんは、かなりの音痴だった。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる私に、シン太郎左衛門が、
「最後のこれは余計でござったな」
「うん。ここは、何が何でも、れもんちゃんに歌ってほしかった。なんなら他の曲でもよかった」
そして、今日は金曜日だが、都合により、れもんちゃんデー。れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も元気に、宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「あっ、そうだ。友達と大王カフェで大王イカフライを食べたよ」
「そうなんだね。パパの作るイカフライは美味しいよ〜。れもんも大好きだよ〜」
「本当に美味しかったよ。それと、『シン太郎左衛門』のラスボスが手違いで他所に送られて、何もしないうちに退治されてしまったよ」
「そうなんだね。それじゃあ、れもんが、ラスボスやってあげるよ〜」
「それは光栄だけど・・・」
それは無茶な話だった。れもんちゃんに勝てるわけがない。れもんちゃんは、あらゆる面で宇宙一無敵だった。
シン太郎左衛門とラスボスの誤配(あるいは「海を見ていた午後」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と明太子シスターズ 様
ご利用日時:2024年12月1日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。前回の「劇場版」投稿以降、無闇に、れもん星に行きたがっている。訊けば、案の定、前回の件があって、我々は、れもん星を救った者として歓迎されると思っている。あれはまだ起こっていないこと、3月ぐらいに起こることであって、さらに、それ以降も大半のれもん星人にとっては知る由もないことで、歓迎されるわけがないと言ってやっても納得しない。時系列が錯綜しているせいで、すっかり混乱している。
さて、昨日は、土曜日。れもんちゃんイブ。どれだけ言って聞かせても納得できないシン太郎左衛門は、その朝も不貞腐れて目を覚ました。
憤然としているシン太郎左衛門に、
「また、れもん星に行ってきたのか?」
「うむ。行って参った」
「で、良いことがあったか?」
「空気の缶詰工場で働かされた」
「楽しかったか?」
「楽しい訳がない。こき使われた挙句、最後は缶に閉じ込められた」
「踏んだり蹴ったりだな。しかし、閉じ込められたのは、悪意あってのことではあるまい」
「うむ。缶の中に落ちたところに構わず蓋をされた」
「お前に存在感がないから、気付かれんかっただけだ。まあ、結局、人の言うことを聞かんお前が悪い。守護霊さんは、大王カフェに入り浸りで、手を貸してくれないし、どこに飛ばされるか分かったもんじゃない。そろそろ諦めろ」
「うむ。今週は、砂漠の砂の上で焼きウインナーになるほど暑い思いをしたり、浮き輪もなしにプールの上に落ちて溺れ続けたり、実に散々でござった。当分、怖くて、れもん星には行けぬ」
「魔法は気安く使うもんじゃないってことだ」
「うむ。それにしても、れもんちゃんは引き続き立派なものでござるな」
「当たり前だ。れもんちゃんは我々のような有象無象じゃないからな。俺たちみたいなモンに、れもんちゃんを語る資格などないが、残り十数回、頑張って『シン太郎左衛門』シリーズを続けていこうな」
「うむ。いよいよ、例のK先輩の登場ですな」
「いやぁ、それは分からんな。『ラスボス』と、ノリで言ってはみたものの、ホントは、そんなんじゃないよ。出鱈目なオッサンだもん。アル中だし」
「なんと」
「結局最後まで姿を見せない気もする。手紙も送ってこないかもよ」
「そんなレベルでござるか」
「ホントに変人なんだ。期待してもしょうがない」
そんな話をした後、寝床から出て、
「ああ、本格的に寒くなったなぁ」とドテラを羽織った。
夕方までゴロゴロ過ごすと、ドテラ姿のまま、駅前のスーパーに買い出しに行った。
「今日も鍋でござるか」
「鍋はもういいや。カシワ、豚、牛のローテーションで、この2週間過ごしてきたが、もうポン酢の味を身体が受け付けなくなってきた。俺は元来飽きっぽいんだ」
「れもんちゃんだけは別でござるな」
「うん。れもんちゃんだけは別格だ。れもんちゃんは毎回進化するしな」
食べたいものが何一つないのに歩き回るスーパーの店内ぐらい、味気ないものもなかった。
すると、特設コーナーの方から、「美味しい明太子、とっても美味しい明太子、ご夕食に明太子はいかがですか。晩酌のアテに明太子はいかがですか。明日の朝食に明太子トースト、お昼に明太子パスタ、3時のオヤツに明太子はいかがですか」という若い女の子の声が聞こえた。
「おっ、あれは明太子ちゃん!あの日以来、姿を消しておったが、父上、明太子ちゃんが戻って参りましたぞ」とシン太郎左衛門が嬉しそうに声を上げた。
「う〜ん、それは困ったな」
「それは何故?父上も、明太子ちゃんを懐かしんでおられたはず」
「確かにあの日の翌日から、特設コーナーではイカツいオジさんが広島焼きを焼いていた。翌週はオデンの具材が並び、青白くて幽霊みたいなオジさんが無言で立っていた。あのときは、あの子はどこに行ったんだろうと思ったよ。ただ、いないから懐かしんだだけであって、戻ってきたから嬉しいということにはならない」
「全く何を言っているか分からぬ」
「早い話が、俺は今、明太子の口ではない。あの子と目が合って、『あっ、この前の人だ』って気付かれて、また明太子を勧められるのが嫌なのだ」
「素知らぬ顔をして通り過ぎたらよかろう」
「そんなことできるか!鍋の作り方を教わった恩人に、『今日は、明太子は要りません。実は、もう鍋にもウンザリしてます』なんて態度を採れる訳がない」
「では、どうされますか」
「特設コーナーを徹底的に避けながら、買い物を続ける」
そう言って、踵を返し、逆回りに店内を歩き出したが、ボーッと何も考えずに商品を眺めていたら、いつの間にか特設コーナーの前に立って、明太子ちゃんの視線を浴びていた。
例の高校生ぐらいの女の子が恥じらいがちに「鍋は無事に出来ましたか?」と話し掛けてきたとき、事態がよく理解出来ていなかった私は「あっ!えっ?ええっ?ど、どうにか・・・」と、マヌケな受け答えをしてしまった。
それから、気持ちを落ち着けて、「こ、この前は、ありがとうね。鍋、ちゃんと出来たよ。お母さんにも、よろしく伝えてね」
「よかった」と、小さく微笑む顔は、れもんちゃんのような超絶美人では勿論ないながら、そこに、頑張り屋さんのれもんちゃんの健気さに通じるものを感じてしまい、立ち去ろうとする足が引き留められてしまった。
とにかく思い付くまま「君は高校生?」と尋ねると、そうだと言う。
「じゃあ、バイトだね。明太子のスペシャリストなの?」と訊くと、そんなスペシャリストじゃない、と笑って、このスーパーの店長が親戚で、時々手伝わされるのだ、とのことだった。
「あの売り文句、1日中、明太子を食べ続けさせようとする文句は君が考えたの?」
「あれは・・・」と、明太子ちゃんは、恥ずかしそうに「私の妹が考えたの」
「妹さんはいくつ?」
「私と年子で、高1」
「そうなんだ・・・」
「・・・」
妙に気まずい沈黙だった。余分な話をしたせいで、余計に買わずに帰れなくなってしまった。
「じゃあ、明太子を1つもらおうかな」
明太子ちゃんの表情がパッと明るくなった。
「オジさんは、お得意さまだから、2パック買ってくれたら、サービスでもう1パック付けますよ」
「えっ・・・そうなの・・・じゃあ、そうする」
明太子3パック(1つは「サービス」のシール付き)をカゴに入れると、笑顔の明太子ちゃんに、「じゃあ、またね」と、その場を立ち去った。
「シン太郎左衛門、当分、このスーパーに足を踏み入れるのは止めよう。俺は健康診断で塩分を控えるように言われてるのだ。来る度に明太子を2パックも3パックも買ってたら、命がもたん」
「拙者のれもん星と同じでござるな」
「・・・それは何とも言えん。俺は、あの子の健気さに、微かに、れもんちゃんを感じてしまうのだ。そうすると、なんか素っ気なく出来なくなる」
「それはもう結婚するしかありませぬな」
「下らないことを言うな。いやぁ、困ったな。ここ以外に歩いて来れるスーパーはないのに・・・」
歩きながら、そんな話をしているうちに、またも特設コーナーの前に戻ってしまっていた。
明太子ちゃんは、私に手を振りながら、「オジさん、久しぶり〜。元気にしてた?」と、完全に友達扱いされた。
「いや、余り元気でもないよ」
「そうなの?そうだ。明日は、私の代わりに妹が来るの。妹にオジさんのこと、教えておくね。サービスするように言っておくから、明日も買いに来てね」
「・・・考えとく・・・シン太郎左衛門、帰ろう」
明太子ばかりをエコバッグに入れて、家路についた。
帰り道、シン太郎左衛門が、「明日、明太子ちゃん(妹)に会いに行かれまするか」
「明日は、れもんちゃんデー、神聖な日だ。神聖な日には、れもんちゃん以外の誰にも会いには行かん」
「なるほど」
「ただ駅からの帰り道にスーパーに寄って、あんな下らない売り文句を考えたのが、どんな子なのか確認するつもりだ」
「また明太子を買わされますな」
「多分な」
劇場版で活躍した者たちとは思えない、小さい小さい話になってしまった。
そして、今日は日曜日、れもんちゃんデー。JR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も運命的に宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「れもんちゃんは、どんな食べ物が好きなの?」
「美味しいものは何でも好きだよ〜」
「明太子、好き?」
「う〜ん。今はイチゴが食べた〜い」
「れもんちゃんなのに?」
「うん、イチゴ食べた〜い」
れもんちゃんは、宇宙一自由で大らかだった。そして、いつも宇宙一元気に頑張っていた。
こんな素敵な娘は宇宙に一人しかいない。
シン太郎左衛門と明太子シスターズ 様ありがとうございました。
- 投稿者:【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様
ご利用日時:2024年11月24日
- 前回、お伝えしたとおり、「劇場版」をお送りする。
本篇は、本来「シン太郎左衛門」シリーズ全100回の終了の翌週にオマケとして投稿予定だった。前倒しで投稿するので、そこらへんに関する記述に辻褄の合わないところがある。些細な点なので無視してほしい。
では始めよう・・・
今回は、劇場版である。どこでもお好きな劇場で、映画が始まる前にでも読んでくれたまえ。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。いよいよ、『シン太郎左衛門』シリーズの最終話となった。アニメも映画も観ないから、よく分からないが、「劇場版」はスケールの大きな話にするのが礼儀だと理解している。そういう訳で、今回のクチコミは、無闇に大袈裟で、とにかく長い。これまでだって、大概長かったとお感じだろうが、今回のモノは特にひどい。更に最早クチコミには見えないまでに、れもんちゃんの出番がない。また、昭和の事物をかなり盛り込んでいる。れもんちゃんを初め、平成生まれの人々にはチンプンカンプンな部分もあるだろう。覚悟して読まれたし。
20XX年12月某日。土曜日。つまり、れもんちゃんイブ。
私は終日、家でゴロゴロ過ごし、夕飯を駅前の中華料理屋の麻婆丼で済ませ、家に戻ってくると、シン太郎左衛門に、「明日は、れもんちゃんデーだから、今夜は早く寝なければならない」
「うむ。『シン太郎左衛門』シリーズが終わったからと言って、我々の生活は何一つ変わっておりませぬな」
「当たり前だ。連載が終わってから、まだ一週間しか経ってないしな」
風呂を済ませて、夜8時過ぎ、そろそろ寝ようと思っていたら、固定電話が鳴りだした。放置していると、ファックスに切り替わった。
「父上、今時珍しいファックスでござる」
「うん」
普段なら完全に無視するのだが、そのときは何故か放っておけない気持ちになった。妙な胸騒ぎがした。急いで手に取って見てみると、ただ一言「未来Bを救え」とだけ手書きされていて、「未来」に「フューチャー」とルビが振られていた。見覚えのある筆跡だったが、誰のモノだか思い出せなかった。何か良からぬことが起こる予感がした。
「シン太郎左衛門、れもん星に行くぞ」
「うむ。拙者、良からぬ胸騒ぎが致しまする」
「俺もだ。俺が胸騒ぎを感じるなんて、れもんちゃん関係に決まってる」
手早く歯磨きを済ますと、スーツに着替えて、布団に入った。
「スーツでござるか」
「そうだ。スーツはサラリーマンの戦闘服だ。何かただならぬ予感がする」
「うむ。冒険の匂いが致しまする。こんなことなら、もう少し剣術の稽古をしておけばよかった」
「最近サボりまくってたからな。いまさら手遅れだ。いくぞ」
部屋の灯りを消した。
二人は「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と十回唱えた。
そして、シン太郎左衛門ズ、最初で最後の冒険が始まった。
「・・・ここはどこだ?」
見渡すとNASAの管制室の小型版といった場所で、モニターや機械類が犇めき合っていた。そこにレモンイエローのタイトな制服を着た男性が、5、6人、ノンビリと雑談を交わしていた。それぞれ、フェイス・シールド付きのヘルメットを近くの机の上に置いていた。照明が異様に明るかった。昔テレビ番組で見た地球防衛軍の司令室に似ていると思った。
「ここの人たちは随分くつろいでおりますな。何とも奇抜な服装でござる・・・あっ、よく見れば、クラブロイヤルのスタッフさんたちに瓜二つ!」
「ホントだ。いつも気持ちよく接してもらってる人たちにそっくりだ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちは、皆、よい人たちばかりでござる」
「ちょっと話し掛けてみよう」
スタッフさんたちに近寄り、「すみません」と言うと、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにそっくりなれもん星人が、
「あっ、いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「いや。今日は予約はしてません。明日、れもんちゃんの予約をしています」
「大丈夫ですよ。ご新規様ですか?」とスタッフさんが言うので、
「いや、そういうことじゃなく・・・手短に済ませます。ここは、どこですか?」
「ここは、ロイヤル警備隊の本部です」
「ロイヤル警備隊って何ですか?」
「ロイヤル警備隊は、れもん星の平和を守る正義の味方です」
「ウルトラ警備隊みたいな感じですか?れもん星を怪獣や邪悪な宇宙人の侵略からを守る的な」
「まあ、そんな感じです」
「随分と暇そうですね」
「はい。れもん星はいつも平和で、怪獣も邪悪な宇宙人も来ないんです。これまで一度もそういうことはなかったんです・・・空気の缶詰、買ってくれます?」
「要りません。ところで、『未来B』って心当たりありませんか?」
スタッフさんは、少し思案顔になって、他のスタッフさんたちに「『未来B』って知ってる?」と尋ねたが、みんな首を傾げた。
一人のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「レモニウムってなんですか?」と尋ねると、スタッフさんたちは、みんな首を傾げた。
すると、さっきとは別のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「すみません。これじゃ何日かけても話が進みません。今回は『劇場版』なんで、もう少し真面目にやってもらえますか」
「『真面目に』って言われても・・・そこに新聞があります。お探しの件、何か書いてあるかもしれませんよ」
なんだかロールプレイング・ゲームをしているような気分だった。
部屋の隅に一体何年分なのかと思うほどスポーツ新聞が積まれていたので、上の10日分ほど手に取って、近くの椅子に座った。
早速お色気欄を探した。れもん星でも、やっぱりスポーツ紙にお色気は欠かせないらしい。
「へぇ〜。シン太郎左衛門、見てみろ。思ったとおり、れもん星はハイレベルだぞ」
ズボンのチャックを内側から下ろして、シン太郎左衛門が顔を覗かせたので、紙面を翳してやった。
「ほれ」
「おおっ!これは中々のモノ!れもんちゃんには及ばぬまでも大した優れモノでござる」
「まだあるぞ」
我々は、はしゃぎながら次々とお色気欄を制覇していった。
「いや〜、れもんちゃんを生んだ星は、なんともアッハンウッフンでござるな」
「ホントだよ。楽しいな・・・いや、待て。こんなことをやってる場合ではない」
私は、改めて真面目に紙面に目を通したが、関係しそうな記事は全くなかった。スポーツ新聞には、卓球とお色気記事とクロスワードパズルしかなかった。
「この星には、どれだけ卓球好きが集まってるんだ。平和すぎる」
「父上、あちらにテレビがある。勝手につけてみましょうぞ」
「どうせピンポン大会の実況だろ。無駄を承知で見てみるか」
テレビの電源を入れたら、案の定、卓球の試合をやっていた。リモコンでチャネルを切り替えていった。画面に時刻がデジタル表示されていた。今は朝の9時だった。
「れもん星と日本だと、12時間の時差があるらしい。朝っぱらから卓球なんて、よくやるよ。楽しいのかね」
「お色気番組はありませぬか」
「ないよ。やたらとチャンネルは多いが、卓球とニュースばかりだった。どうなってるのかね、この星は・・・いかん、いかん、ニュースでいいんだ。ニュースを見るためにつけたんだ」
30分ほど、ザッピングをして情報を掻き集めた。というより、ニュース番組はレモニウム関連で持ち切りだった。ざっと纏めると、次のようなことだった。
レモニウムは、れもん星にしか存在しない物質で、放射性物質に似てはいるが別モノで、人体にも無害な金属らしい。原発と同様の原理で、もっと安全かつ安定的に電力が得られるらしい。ただ、レモニウムは極めて稀少で、採掘できる場所は長らく、れもん大王のみの知るところであった。しかし、最近ある科学者チームがその在処を特定して、昨日調査に向かったが、巨大な怪獣に阻まれて逃げ帰ったとのこと。
「なるほどね・・・真面目すぎる。どう考えても、俺たちとは何の関係ない」
テレビ画面では、ギラギラとエネルギッシュな中年男性が、エネルギッシュに拳を振り回し、熱弁をふるっていた。
「レモニウムの確保は、れもん星の未来のために必要不可欠です。我々は速やかに怪獣を倒さねばなりません」
字幕から、その人物が、れもん星のエネルギー大臣だと知った。
振り向いてみると、ロイヤル警備隊の面々はスマホでゲームをしたり、椅子に座ったまま白眼を剝いてイビキをかいていた。
「これこそ、『ロイヤル警備隊』の出番に思えるが、彼らには全く関心がなさそうだ」
テレビ画面の中で、エネルギー大臣が叫び続けていた。
「うむ。父上、どうされますか」
「どうしようかね」
「怪獣を倒しに行きまするか」
「なんで?」
「話を聴いておられましたか。れもん星のエネルギー問題を解決するためでござる」
「それは、なんか違う気がする」
「父上、益々胸騒ぎが激しくなって参った。急が迫ってきた気が致しまする」
「俺もそうだ。胸が苦しいほど、得体の知れない不安が募ってきた。どうするか、ちょっと考えてみる」
れもん星のように平和な星に、本当に凶悪な怪獣なんているんだろうか?怪獣が最近星外からやって来たのなら、ロイヤル警備隊はともかく、他の誰かが気付いただろう。怪獣が昔からレモニウムのある場所の近くに生息していれば、れもん大王は、それを知っていたのではないか。私は、あれこれと想像を巡らして、あるかないかも分からない答えを探した。
エネルギー大臣は、「本日、れもん星防衛軍を出動させ、怪獣の存在を確認した場合には必要な対処を行うことを決定した」と言っている。
「シン太郎左衛門、行き先が決まったぞ」
「うむ。では参りましょう・・・で、どこへ?」
私は、スタッフさんたちのところに戻り、
「すみません。『大王カフェ』の本店って、どこですか?」
スタッフさんたちは、一斉に同じ方向を指差し、ユニゾンで「隣のビルの最上階。でも、予約がないと入れないよ。予約は3年待ちだよ」
ガラス張りのエレベーターで最上階、126階に急ぐ。「大王カフェ」本店は、この超高層ビルの最上階を占有していた。
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「父上、食事をしてる場合ではござらぬぞ」
「違う。れもんちゃんのパパ、れもん大王に会うのだ」
「れもんちゃんの無際限の魅力について語り合うためでござるか」
「違う。レモニウムを使わない未来、つまり『未来B』について訊くためだ」
ガラスのエレベーターから見下ろす街並み、れもんシティは美しい街だった。
エレベーターを降りると、シン太郎左衛門が、「こんなところだと、莫大なテナント料を取られましょうな」
「心配するな。れもん大王は商売上手だ」
我々は、「大王カフェ」の看板に向けて、フカフカの絨毯の上を急いだ。
我々は入り口で止められてしまった。
上品だが、イカツイまでに体格のよい受付担当のスタッフさんは、「御予約のないお客様はご入店いただけません」
「れもん大王と話がしたい」
「社長は他用で取り込んでおりますのでお会いできません」
「そこを何とかお願いでござる」
「何とも致しかねます」
オシャレで可愛く、見るからにリッチなお店の入り口で、そんな押し問答に虚しく時間が過ぎていった。これ以上粘っても、力ずくで追い返されるか、警察を呼ばれるのが落ちだ、と思いかけたとき、背後から芳しく焚きしめた香の匂いが漂ってきた。
振り向くと、十二単衣を着た長い髪の女性が滑るように近付いてきた。
「これは、式部さま。いつもありがとうございます」と、受付担当スタッフさんは、店内の他のスタッフさんたちに手を振って合図した。
「あっ、もしかして!」
「式部さん」と呼ばれた女性は、私の方を横目で見ながら、口の前に指を立てた。
空気の読めないシン太郎左衛門は、
「もしや、守護霊殿ではござらぬか?」
守護霊さんは思いっ切り眉をひそめた後、「スタッフ殿、大変失礼致しました。これらは下賤な者なれど、わらわの供の者。日頃れもん姫のご厚恩に預かり、御礼を申し上げたいとの願いゆえ、大王様に御目通り叶えてやってたもれ」
スタッフさんは困惑した様子であったが、
「かしこまりました。確認してまいりますので、しばしお待ちください」
「フューチャーB、いや、レモニウムの件で重要な話があるとお伝えください」
「拙者からも宜しくお頼み申す」
スタッフさんがその場を去ると、私は「守護霊さんは、あの日以来、私の守護はそっちのけにして、『大王カフェ』に通い詰めているのではありませんか?」
守護霊さんは、「ほほほほほ」と上品に笑いながら、女性のスタッフさんに案内されて店の奥に消えていった。
「・・・守護霊さんって、あんな人だったんだ」
「割と美人でござった」
「うん。結構、俺の好みだ。もちろん、れもんちゃんには及ばんが」
いかついスタッフさんが戻って来て、「社長がお会いになるそうです」
スタッフさんは「スタッフ・オンリー」の表示があるドアを鍵で開け、私に入るように促した。「曲がり角を右、左、真っ直ぐ、左、左、右、仮面ライダーのシールが貼ってあるドアを『トントト・トトトト・ン・トントン』と叩いてください」
「分かりました。ちなみに『トントト・トトトト・ン・トントン』というのは、『笑点』のオープニング・ソングではありませんか?」
「知りません」
「ありがとうございます」
私は、複雑に曲がりくねって分岐する狭い廊下を言われた通りに進んでいった。
シン太郎左衛門は、私の肩の上で『笑点』のテーマソングを口笛で吹いていた。
「どうして、こんな迷路みたいなものを作ったんだろう」
「とんと見当も付きませぬ」
「れもん大王って、どんな人なんだろう」
「れもんちゃんのお父上であれば、さぞ立派な人に違いない」
「でも、れもんちゃんも、かなり変わってるからな〜。れもんちゃんパパは、凄く変な人かもしれない。普通に考えたら、職場にこんな迷路を作るヤツが普通な訳ないだろ」
「うむ」
言われた通りに歩いたつもりだった。言われた通り、『仮面ライダー』のシールが貼られたドアに行き当たった。シールが1枚貼られているのを想像していたが、ドア一面、隈なく仮面ライダー1号・2号・V3と怪人たちのシールで埋め尽くされていた。
「仮面ライダー」といい、「笑点」といい、昭和っぽかった。大王は、そういう世代の人なんだろうと思いながら、「仮面ライダー」のドアを「笑点」のリズムで叩いた。
しばらく待つと、ドアが開いた。
出迎えてくれた人、つまり、れもん大王は、フレンチ・シェフを思わせる純白のコックスーツを身に纏い、高さが50センチもある帽子を被り、変なお面を付けていた。
招き入れられた部屋は、れもん大王さんのオフィスらしかった。ゆったりとした空間に、奥にデスクが一つと壁に沿って沢山の書架があった。
お面を被った人は、私に木製の丸椅子を勧めると、自分はオフィス机の向こう側に腰を下ろした。二人の間は20メートル以上離れていた。
「いらっしゃいだよ〜」
それが、仮面の人物の第一声だった。
「れもん大王さんですか?」
「そうだよ〜。れもん大王ちゃんだよ〜」
拍子抜けしなかったと言えば嘘になる。
「『大王さま』とお呼びしたら宜しいですか?」
「『大王ちゃん』でいいよ〜」
「こっちが嫌です。お忙しいところをお邪魔して、すみません」
「新しいメニューを考えてたよ〜。『大王イカフライ』だよ〜。美味しいよ〜」
「大王さま。初対面でこんなことを言うのもなんですが、『大王イカ』と聞くと、我々地球人は全長10メートルを越す馬鹿デカいイカを想像して、食欲を無くしてしまいます」
「そんな大きなイカ、れもん星にはいないよ〜。れもん星のイカは、みんな一口サイズだよ〜」
「それは、ワカサギのフライみたいで、白ワインに合いそうですね」
「ビールにも合うよ〜」
「・・・大王さま、私は、ここにイカフライの話をしに来たのではありません。単刀直入にお尋ねします。『未来B』とは何ですか?」
お面の顔が斜めに傾いた。
「知らな〜い。聞いたこともないよ〜」
「では質問を替えます。れもん大王さんが、語尾に『よ〜』と付けるのは何故ですか?」
「威厳を示すためだよ〜」
「『威厳』・・・ですか?」
「そうだよ〜。れもん星では、偉い人は語尾に『よ〜』を付けるよ〜」
「日本語とは違うんですね。じゃあ、れもん語の『れもんちゃんだよ〜』を日本語に直すと、どうなりますか?」
「『朕は、れもんちゃんなるぞ』になるよ〜」
「そうでしたか。私はこれまで大きな勘違いをしていました。それでは本題に戻ります。れもん大王さんは、どうしてレモニウムのある場所を秘密にしてこられたのですか?」
「みんながレモニウムを持ってっちゃうと、れもんギドラちゃんが困るからだよ〜」
「れもんギドラちゃん・・・それは怪獣ですね?」
「そうだよ。全長50メートルの大っきな怪獣ちゃんだよ〜」
「れもんギドラは、可愛いですか?」
「れもんギドラちゃんは、顔が怖いよ〜。でも優しいよ〜。いつも地底深くで眠ってて、50年に一度お腹を空かせて、地表近くまでやって来て、レモニウムを一粒食べて、また地底深くに帰ってくよ〜」
「なるほど・・・名前に『ちゃん』を付けて呼ぶのは、可愛い人や可愛い動物に限る、今後、そういうルールでいきたい思います。ところで、お会いして以来、ずっとお訊きしたかったんですが、れもん大王さんは、どうして『ひみつのアッコちゃん』のお面を被っているのですか?」
「これ?特に意味はないよ〜」
「なんだ、意味ないんかい!いや、失礼しました。その『ひみつのアッコちゃん』のお面、私が子供の頃、縁日の出店に並んでいたお面とよく似ています。子供心に『こんなもん、誰が買うんだろう?』と思った記憶があります。そのお面は、大王様が子供の頃に縁日でお買い求めになったものですか?」
「違うよ〜。れもん姫の地球土産だよ〜。大王ちゃんのお気に入りだよ〜」
「れもんちゃんは、昭和レトロが好みなんですか?」
「知らないよ〜。多分違うよ〜」
「では、本題に戻ります。今日、れもん星防衛軍が、レモニウムの採掘を邪魔する怪獣の退治に向かうとのことです」
「そんなことしちゃダメだよ〜」
「でも、すでに出動してしまったかもしれません」
「止めないとダメだよ〜」
「れもん大王さんが電話をすれば、すぐに止められるのではないですか?」
「そんな簡単な話じゃないよ〜。大変なことになっちゃったよ〜」
「大王さまが引退されてから、大切な申し送りが蔑ろにされていたみたいですね。これを期に英雄として復帰されたら、どうですか?」
「イヤだよ〜。コックさん兼カフェ経営者の方が楽しいよ〜」
「でも、大王さんがいないと、れもん星は、きっと終わってしまいますよ」
「分かったよ〜。それなら、れもん姫を呼び戻して、大王を譲っちゃうよ〜」
「それはダメです。そんなことをしたら地球が終わってしまいます」
「でも、大王ちゃんは、コックさんもカフェのオーナーもやめないよ〜。もう英雄なんてしないよ〜」
「分かりました。それなら、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門を・・・いや、こんなの置いてってもしょうがないか・・・今のは忘れてください。ともかく、今は、れもんギドラちゃんを守るのが第一です。私に何かお手伝い出来ることがあれば、おっしゃってください」
れもん大王さんは立ち上がると、
「隣の部屋に移動するよ〜」
れもん大王に続いて隣の部屋に入った。分厚い木の壁に囲まれたレトロな部屋は、豪華なシャンデリアから降り注ぐリッチな光に包まれていた。部屋の中央にはビリヤード台が置かれていた。
1から15までの数字が振られた球が台に散らばっていた。大王様は、私に白い球を手渡して、
「ビリヤード、やったことある?」
「少しだけ」
「じゃあ、数の小さい順に球をポケットに入れてみてね〜。白球をどこに置いて始めてもいいよ〜」
どういう意図があるのか計り知れなかったが、取り敢えずれもん大王さんが差し出したキューを受け取り、1の球が狙いやすそうな場所に白球を置いた。そして、狙いを定めて慎重に撞いた。白球は意図せぬ方向に2センチほど転がって止まった。
アッコちゃんのお面のせいで、大王さんの表情はまるで分からなかったが、ククッと笑ったような気がした。
「じゃあ次は大王ちゃんの番だよ〜」
れもん大王は、私からキューを受け取ると、テーブル上のボールの位置をざっと確認して、何のためらいもなく、白いボールを撞いた。白球はとんでもない初速で撃ち出され、カツン、カツン、カツンと、球の衝突の連鎖を生み出し、1から15の球を全て順番にポケットに落としていった。
感激して思わず拍手すると、大王さんは、
「こんなのちっとも凄くないよ〜。れもん姫は、一撞きで全部のボールを番号順に積み上げられるよ〜」
「それはもう奇跡だ」
「れもん姫には、それが普通にできるよ〜」
「分かります。れもんちゃんが奇跡そのものですから。それで、このビリヤードの意味はなんだったのですか?」
「・・・忘れちゃったよ〜」
「そうですか。あなたが、れもんちゃんのお父さんでなければ、怒鳴りつけてるところです」
「思い出したら教えてあげるよ〜。とにかく、れもんギドラちゃんは、れもん星にとって、とっても大切な怪獣ちゃんだよ〜。れもんギドラちゃんは、地中深くで眠りながら、れもん星のために頑張ってるんだよ〜」
「眠ってるのに、一体何を頑張っているんですか?」
「それを説明するのは大変過ぎて、時間が足りないよ〜。あっ、この部屋に来た理由を思い出したよ〜」
れもん大王は、造り付けの本棚にびっしりと詰まった、何やら古文書風のものを指差して、「これは、古代オチン語で書かれた太古の記録だよ〜。ここに、れもん星の秘密が細かく書いてあるよ〜。レモニウムは、れもんギドラちゃんのご飯だから、無くなったら、死んじゃうよ〜。れもんギドラちゃんは、れもん星の守り神だから、死んじゃったら、れもん星が終わっちゃうよ〜」
「分かりました。それじゃ、れもん星防衛軍が、れもんギドラちゃんと衝突するのを防ぎましょう」
「頼んだよ〜。ヘリコプターで連れてってあげるよ〜」
「えっ?私一人ですか?」
「そうだよ〜。一人で頑張ってね。大王ちゃんは、君をれもんギドラちゃんのおウチがあるところに連れて行ったら、れもん星の総理大臣ちゃんや他の大臣ちゃんたちとお話するよ〜」
「私一人で、れもん星防衛軍を押し留めるなんて、全く出来る気がしないんですけど」
「頑張ってね〜。それじゃ、屋上のヘリポートで待ってるよ〜」
大王さまに背中を押されて、部屋から追い出された。背後でドアが閉められた。振り返ると、仮面ライダーたちがいた。こいつら全員引き連れて行っても、れもんギドラとれもん星防衛軍の相手をするなんて、到底出来ない話に思えた。
スタッフさんに話をすると、非常階段に繋がる扉の鍵を開けてくれた。階段を駆け上がると、屋上に出た。真っ青な空を背景に、ダークグリーンのジェットヘリは、すでに離陸準備を整えていた。耳をつんざくようなプロペラの音を聞いて、私はすっかり腰が退けてしまった。
「あんなのに乗りたくないなぁ」
肩の上のシン太郎左衛門は、
「ヘリコプターには初めて乗る。楽しみでござるな」
「何が楽しみなもんか。飛行機よりもタチが悪い。一応、電車で行く方法がないか訊いてみようか?」
「情けないことを言うものではござらぬ。腹を括りなされ」
ヘリの操縦席から大王さんが手を振っていた。
後部席に乗り込むと、れもん大王さんは、
「そうだ。これ、あげるよ〜」と、不思議な色の金属でできた指輪を右手の指から外して、渡してくれた。
「これは?」
「それは、れもん王家の紋章入りのレモニウムの指輪だよ〜。あっちこっちのレストランで割引が効くよ〜。あっちこっちのテーマパークも、フリーパスだよ〜。USJでは使えないよ〜」
「でしょうね」
「ひらかたパークは使えるよ〜」
「そうですか・・・少し真面目にやりませんか?」
「いやだよ〜。じゃあ、飛ぶよ〜」
軍用ヘリは一気に高度を上げた。青い空に私の悲鳴が響き渡った。
「ビュ〜ン!ビュ〜ン!ウヒャヒャヒャヒャ〜!!」
「速すぎる、速すぎる!!大王さん、スピード落として!!」
大王さんは、かなりのスピード狂なのか、
「ヒャッホ〜!ヒャッホ〜!」と、大はしゃぎだった。
「飛ばしすぎ!飛ばしすぎ!大王さん、頼むから、少しスピード落として!!」
「ダメだよ〜」
そう言った大王さんの声が先刻室内での談話時とは全く違って聞こえた。女性が無理に作った男の声のようだった。
よく見ると、操縦席の大王さんは、やはりコックスーツを着て、アッコちゃんのお面を被っていたが、帽子の高さは70センチぐらいまで伸びて天井に擦れていたし、身長は小さくなり、体型も華奢になったようだった。
「もしかして、れもんちゃん?」と尋ねようとしたとき、乱気流に巻き込まれたヘリは大きく上下した。雲の中で私の悲鳴が響き渡った。
上下動が落ち着くと、大王さまは、
「そうだ。れもんギドラちゃんは、古代オチン語を理解できるよ〜。シン太郎左衛門が役に立っちゃうよ〜」
やはりおかしい。私は大王さんにシン太郎左衛門をまともに紹介していないはずだった。
「もしかして、あなたは、れもんちゃん?」と尋ねたが、お面の人は、私の問いを無視して、
「もうすぐ到着するよ〜。パラシュート着けてね」
「パラシュート!?」
「そうだよ〜。足下に転がってるよ〜。着陸する場所がないから、パラシュートで降りてね」
「マジっすか?」
「マジだよ〜。ツベコベ言わずに、早くパラシュート着けてね〜。さっさとしないと、パラシュートなしで、突き落とすよ〜」
慌ててパラシュートを着け、肩の上のシン太郎左衛門をズボンの中、所定の位置に戻すと、「これで良いですか?」
「上手、上手」
れもん大王がパチパチと拍手をしたので、思わず「操縦桿を放さないで!!」と叫んでしまった。
ヘリは高度を下げて雲を突き抜けた。
「もうすぐだよ〜」
「あっ、戦車が縦隊を組んで進んでる」
「追い越すよ〜」
ヘリの窓から戦車隊を見下ろすと、目が回るような高さだった。
「怖い、怖い、怖い!!こんな高いところから、飛び降りろって、無理、無理、無理!!」
ヘリが減速していくのが体感で分かった。
「ドアを開けてね〜」
「怖いよ〜」と半ベソかきながら、ドアを開けると、凄い風圧に全ての髪の毛が逆立った。
「じゃあ、頑張ってね〜」
「無理、無理、無理!!」
「無理じゃないよ〜。やるんだよ〜」
私は右の拳を強く握り締めて、目を閉じた。そして、胸の中で、(逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなんだ!!)
「分かりました。やります」
れもん大王は満足げに頷くと、
「それと追加でお願いがあるよ〜」
「なんですか?」
「ヘリコプターから飛び出すとき、なんかギャグをやってほしいよ〜」
「何を言ってるんですか!!」
「よろしくだよ〜。さあ着いたよ〜。飛んでいいよ〜」
もう飛ぶしかなかった。
「はい。それじゃ、れもん大王様、お達者で」
「れもんギドラちゃんによろしくね〜」
私はシートベルトを外すと、機外へと飛び出し、「飛びます!飛びます!」と叫んだ。
「それは、コント55号の坂上二郎さんのギャグだよ〜。昭和の人にしか分からないよ〜」という大王の声は一気に遠のいた。私の身体は、一気に速度を増して落下していく。気を失う寸前で、ズドンと全身に衝撃が走った。落下傘が開いたのだ。
「・・・ふっ・・・ふふふふふ・・・」
何故か笑えてきた。フリーフォールの恐怖でオシッコをチビる寸前だったが、辛うじて持ちこたえていた。
シン太郎左衛門が、「父上、オシッコ」
「シン太郎左衛門、出てこい。落下傘から見る景色は、まさに絶景だ」
ズボンのチャックを開けて、顔を出したシン太郎左衛門は、
「これは素晴らしい!!この眺めに勝るのは、れもんちゃんだけでござる」
遠くに海が見えた。あの海の近くに「大王カフェ」七号店があるのかもしれない。そんなことを考えながら、しばしの空中散歩を満喫した。
「・・・さっきまで俺たちが乗っていたヘリを運転していたのは、れもんちゃんかもしれない」
「それは誠でござるか!!」
「ああ。ヘリの中は、とってもいい匂いだった」
レモニウムの指輪を胸ポケットから出して左手の薬指に当てたが、入るはずもない。明らかに女性モノだった。
私は、岩山の麓にグリコマンのポーズで降り立つと、「やれやれ、ご到着だぜ」と言った後、続けて降りてきた落下傘にスッポリ包まれた。ベルトを外して、落下傘の下から這い出した。
辺りを見回すと、岩山の斜面に巨大な洞窟が大きな口を開けていた。
「多分、あそこが、れもんギドラちゃんのおウチの入り口だ」
足下に大小の岩が転がっていて、走ることは覚束なかった。どうにか、洞窟の入り口に近付くと、例の『ロイヤル警備隊』の面々が車座になって不貞腐れているのが目に入った。向こうも、私に気付いて、手を振ってくれた。
「こんなところで何してるんですか?」と尋ねると、
「それは、こっちのセリフだよ。俺たちは、緊急動員をかけられて、洞窟の入り口を見張ってるんだ」
「それは御苦労様です。洞窟に入ってもいいですか?」
「いいよ。でも、多分なんもないよ。しばらくすると、戦車が来るから危ないし・・・あっ、もう来た」
岩だらけの、道なき道を踏み固めるように戦車軍団が姿を現した。我々の存在など眼中にないようで、地鳴りを上げながら、次々に洞窟に入っていった。
「それじゃ、みなさん、ごきげんよう。また、明日、日曜日、クラブロイヤルでお会いしましょう」
ロイヤル警備隊の皆さんは、軽く手を振りながら、
「じゃあ元気で。くれぐれも気を付けてね」
私は戦車を追って走り出した。
洞窟に入ると、戦車のライトの残光を追って精一杯走ったが、あっと言う間に息が上がってしまった。
一息吐いている間に、戦車隊の地鳴りが遥か遠くなってしまった。
微かな明かりさえ失われた洞窟の中は暗黒だった。
社会の窓を開けて、周りの様子を窺ったシン太郎左衛門が、
「真っ暗でござる。これでは先に進めませぬな」
「手探りで進むしかない・・・」
希望を失いかけたとき、私の胸辺りから青色がかった涼しい光が広がっていった。ワイシャツのポケットの中で、レモニウムの指輪が光を放ち始めたのだ。
「希望を捨ててはいかん。これなら足下ぐらいは見える。シン太郎左衛門、行くぞ」
100メートルほど進んだだろうか。こんな調子では、到底戦車には追い付かないと、いよいよ心が折れそうになったとき、レモニウムの光に照らされた岩の壁面に「れもんギドラちゃんのおウチへの近道」と、レモンイエローのペンキで書かれているのを発見した。そこにポッカリと穴が開いていた。
「シン太郎左衛門、抜け道だ!!」
直径50センチほどの抜け穴を数十メートル這って進むと、再び巨大な洞窟に合流した。そこはドーム状に広がった、学校の体育館ぐらいの空間で、天井は途轍もなく高かった。全体を柔らかな光が包んでいた。
シン太郎左衛門をズボンから出し、肩の上に乗せてやった。二人は驚きの余り言葉を失っていた。
洞窟の天井までうず高く積み上がったレモニウムの山が壁面を覆っていた。そして、そのレモニウムの清らかな光を浴びた巨大な生き物が小さくうずくまっていた。言うまでもなく、れもんギドラちゃんだった。それは、余りにも幻想的な光景だった。
れもんギドラちゃんは怯えていた。そして、怒っていた。これまで誰からも意地悪なんてされたことがない。50年振りに地上に上がってきて、美味しいご飯を目の前にして突然邪魔されて、そりゃ悲しいし、腹も立つだろう。
遠くから戦車の地響が近付いているのが分かった。
「これが、れもんギドラちゃんか・・・大きいなぁ・・・」
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「うむ。思っていたよりも巨大でござる。しかし結構可愛いですな」
「そうかなぁ〜、俺には、そうは思えんが」
「目が可愛い。キュルっとしたお目々が愛らしい」
私は足下に落ちているレモニウムの粒を何個か拾って、掌の上でボンヤリと光るのを見つめた。
「こんなチョコボールぐらいの小さなモノを一粒食べて50年も頑張れるって凄いよな・・・チョコボールと言えば、俺は人生で一度だけ『金のエンゼル』を当てたことがある」
「れもんちゃんは、ダイヤモンドのエンゼルちゃんでござる」
「全くだ。れもんちゃんもれもんギドラちゃんも、ホントに健気に頑張ってるよな」
「うむ」
「俺、れもんギドラっていうから、頭が3つあるのかと思ったら、違ってた。角の格好からしても、ブラックキングに似てるよ。知ってるか?ブラックキングは強いんだぞ。帰ってきたウルトラマンがヤラれてしまったぐらいだからな」
「・・・父上、この話、今しなければならぬモノでござるか」
「明らかに違うな」
高まり続けていた戦車軍団の物音が止んだ。振り向くと、戦車軍団はすでに我々の視界のうちだった。編隊を組み直して、攻撃準備をしていた。
「やれやれ。役者が揃っちまったな。どっちが悪いって訳でなく、お互い退けない道があるってことだ」
もはや一刻の猶予も許されなかった。
シン太郎左衛門を掴んで、地面に下ろした。
「よし、シン太郎左衛門、変身だ!!シン太郎左衛門マンに変身しろ!!」
「なんですと?もう一度言ってくだされ」
「何度言っても同じだ」
「拙者が、そんなものになれまするか?」
「できる!!やれっ!!なんか叫べば巨大化する」
「真面目な話をしてくだされ。そんな設定、聞いておらぬ。できる訳がない」
戦車軍団は、攻撃準備を整え、機を見計らっているようだった。
「大丈夫。出来る。巨大化して、戦車軍団を洞窟の入り口まで押し返せ。くれぐれも乗組員を傷つけないようにね」
「全く出来る気がせぬ」
戦車軍団がエンジンをふかして前進を再開すると、れもんギドラちゃんが憤然として、ギャオーと吠えた。
「大丈夫。どうせ書くのは俺だ。どうとでもなる。やれ!」
「うむ。では、やりましょう・・・いきますぞ!!・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は、シン太郎左衛門マンに変身した。
「・・・おい!!」
「ん?なにか?」
シン太郎左衛門マンは、小学三年生ぐらいの大きさだった。
「お前、そんなんで、よく全長50メートルの怪獣や戦車軍団の相手をする気になれるな」
「これでも相当背伸びをしたつもりでござるが、まだ足りませぬか」
「全然足らん。れもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の両方から同時に攻撃を受けるんだぞ。もう少し真面目にやれ!」
「では、もう少し頑張りまする・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は更に巨大化したが、それでも私より幾らか大きいだけだった。
「これが限界。一杯一杯でござる」
「お前!普段から剣術の稽古を怠けているからだ!反省しろ!」
「うむ。反省いたした。かくなる上は、父上が父上マンになるしかありませぬな」
「え〜っ!!それは困る」
「れもん星を救うためですぞ!!」
「れもん星を救うため」・・・その言葉に、これまでの、れもん星での楽しい思い出が走馬灯のように脳裏に・・・蘇ってはこなかった。これまで書いた数々のれもん星の話は、缶バッチがどうの、空気の缶詰がどうの、くだらないものばかりだった。しかし、れもん星は、れもんちゃんの故郷だった。
「しょうがないなぁ・・・おい、これを持っておけ」
シン太郎左衛門にレモニウムのリングを渡した。
「失くすなよ」
れもんギドラちゃんと戦車軍団は、もはや衝突寸前だった。
「よ〜し、やってやろうじゃねぇか。窓際サラリーマンだって、やるときはやるんだ!!南無八幡大菩薩!!そして何より・・・れもんちゃ〜ん!!」
せっかくのスーツは無残に裂けた。薄暗闇の中、私は全長45メートルの、全裸の父上マンに変身した。
そして、「シュワッチ!」と言いながら、激突寸前のれもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の戦車軍団の間に飛び込んだ。
途端に戦車軍団の一斉砲射を浴びた。
「痛い、痛い、痛い!!それなりに痛い!!」
私は、中の人たちに怪我を負わせないように戦車を1台丁寧にひっくり返した。
また一斉砲射を浴びた。
「お前ら、ふざけんな!!痛いって言ってんだろ!!」
また戦車を1台ひっくり返した。
激高したれもんギドラちゃんに背後から殴られたり蹴られたりもした。
「痛い、痛い、痛い!!れもんギドラちゃん、落ち着いてくれ!!」
また一斉砲撃を浴びた。
「お前ら、いい加減にしろよ!!子供の頃に円谷プロの特撮を見てないのか?名前の終わりに『マン』と付く巨人に戦車の攻撃なんて、実は大して効かないんだ!ただメチャメチャ鬱陶しい!やめろ!」
さらに戦車をひっくり返していった。
またしても、背後かられもんギドラちゃんの攻撃を受けた。
「れもんギドラちゃん!!あんたの攻撃は本当に痛い!!特に尖ったヒールの先で蹴るのは止めてくれ!!俺は、そういうので興奮するタイプじゃないから」
シン太郎左衛門マンは、私の肩の上で、「赤勝て、白勝て」と、広げた扇子を振り回して踊っていた。
戦車を残らず裏返しにして無力化したのを確認すると、今度は1台ずつ丁寧に洞窟の外に運び出した。全部片付けたときには、全身が汗と埃にまみれていた。
最後の1台を地上に運び出して、洞窟の奥に戻ると、れもんギドラちゃんは、私の意図するところを多少は悟ってくれたように見えた。
私は、シン太郎左衛門、いや、シン太郎左衛門マンに「れもんギドラちゃんに、『迷惑かけて、ごめんなさい。もう心配ないから安心してね。これからも、れもん星を守ってね』、そう古代オチン語で伝えてくれ」
シン太郎左衛門は、難しい顔をして、
「父上マンは、シン太郎左衛門マンの古代オチン語の能力を見くびっておられまするな。拙者、読み書きとリスニング能力は、それなりでござるが、話すとなると、エロいことしか言えぬ」
「・・・お前、何なんだよ!剣術の稽古もサボってるし、古代オチン語も中途半端。『見くびる』も間違えた使い方をしてるし、反省しろ!」
「うむ。反省しきりでござる」
我々の会話を側で聞いていたれもんギドラちゃんが、思い立ったように私に近寄って、レモニウムを一粒渡してくれた。
それは、巨大化した私の掌の上では、仁丹よりも小さく見えた。
「父上マン、れもんギドラちゃんは賢い子でござるな。聞かされずとも、我々の想いを悟ってくれてござる」
「お前は少しれもんギドラちゃんを見習え!」
私はレモニウムをれもんギドラちゃんに差し出すと、
「・・・これは貴重なものだし、気持ちだけもらっておくよ。事情があって、家には持って帰れないんだ。君が食べてね」
れもんギドラちゃんは、レモニウムを受け取ると、
「今は食べない。また50年経ったら食べる。一度に2つも食べると、お腹が痛くなる」と言った。
「そうだね。大事に持っておいてね・・・それから、れもんちゃんが『よろしく』って言ってたよ・・・それと・・・」
私は、シン太郎左衛門マンからレモニウムで出来た王家の指輪を受け取り、れもんギドラちゃんに手渡した。
「これ、次に、れもんちゃんに会ったときに返しておいてくれるかな」
れもんギドラちゃんは頷いた。
帰り道、あちこちで岩を崩して、戦車では通れない程度に道を塞いでおいた。
洞窟の入り口に戻ったときには、疲労困憊の余り、勝手に父上マンから普通の父上に戻ってしまった。シン太郎左衛門マンは何も疲れることをしていないので、大きいままだったから、肩の上に自分よりも大きなヤツに乗られていた私は、顔から地面に倒れ込んだ。
「痛ってぇ〜!!」
その日受けた最大のダメージは、シン太郎左衛門マンによるものだった。
外はもう日が暮れかかっていた。
洞窟の入り口近くでは、ひっくり返して置かれた戦車を元に戻す作業が進められていた。
ロイヤル警備隊の面々は、そんな状況も素知らぬ顔で、引き続き車座になって雑談していた。私は素っ裸だったので、近付いて話をする気にはなれなかった。
今頃、れもん大王さんが、れもん星の偉い人たちに二度とレモニウムの採掘なんて考えないように、きっちり話を付けてくれているだろう。
夕焼け空が広がった。
鼻骨が折れていないか心配になるほど、鼻が痛かったが、そんなことも忘れてしまうぐらいに美しい夕焼け、これまでに見たこともない素敵な、素敵な、れもん色の夕焼けだった。
これからも、れもん星は、のどかで素敵な星であり続けるに違いない。
我々の任務は終った。
目覚ましが鳴った。
私は布団から這い出ると、目覚ましを止めた。全身あちこち痛かった。
取り敢えず立ち上がり、少し気になることがあって、電話器の置かれた棚の方に向かって歩いていった。
電話器の側に二つ折りにして置かれた昨夜のファックスを手に取って広げた。そのとき、電話が鳴り出した。
昨日のファックスの発信者が誰なのか、ぼんやりと分かってきた。用紙の最上部に印刷された発信元の電話番号は、今、目の前でファックスに切り替わった電話、つまり私の家のものだった。そして、「未来Bを救え」の筆跡は、よく考えれば私自身のものだった。送信日は、十年後の昨日だった。
届いたばかりのファックスを手に取った。
そこには、ただ「ありがとう」とあった。十年後のシン太郎左衛門ズからの感謝の言葉だった。
・・・・・
私たちは、これから、れもんちゃんに会いに行く。もちろん、JR新快速に乗って。
この世に永遠なんてないのは分かっている。しかし、我々は今、れもんちゃんの中に永遠と呼んでもよい何かを発見する。
れもんちゃんが宇宙一に宇宙一であることは、会う前から分かりきっていた。
れもんちゃんは、我々の日常に舞い降りた奇跡なのだから。
【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とカシワ鍋(あるいは「父上の勘違い」) 様
ご利用日時:2024年11月17日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回もダラダラと長いので、前置きはなし。
昨日は土曜日、れもんちゃんイブ。
最近、外食が続き、何となく肥えてきた気もするし、何となく体調もおかしい。久し振りに自宅で料理をすることに決めたが、お得意の「王さんの中華レシピ」では外食で食べているものと変わり映えがしない。
取り敢えず和食にすることを決めて、夕方、近くの駅前のスーパーに到着後、30分以上ウロウロと歩き回ったが、カゴはカラのままだった。
特設コーナーで高校生ぐらいの女の子が、余りの緊張に声を震わせながら、「美味しい明太子、とっても美味しい明太子、ご夕食に明太子はいかがですか。晩酌のアテに明太子はいかがですか。明日の朝食に明太子トースト、お昼に明太子パスタ、3時のオヤツに明太子はいかがですか」と、理不尽なまでの明太子ヘビーローテーションをゴリ押ししてくるのが微笑ましくて、1パック、カゴに入れたが、後が続かなかった。
「シン太郎左衛門、このままだと、今夜は明太子ご飯だけになってしまう。何かヘルシーでライトなオススメ料理はないか?」
「うむ。このところ、めっきり寒くなって参った。鍋になされよ」
「そうか・・・それはありだな。去年、卓上コンロを買ったが結局一度も使ってないしな」
「新品の土鍋もありまする」
「お〜、そうだった。金ちゃんが、動画サイトで見た猫鍋というのが可愛くて、モンちゃんにやらせようと土鍋を買ったが、見向きもされなかったらしい。部屋にあっても邪魔なだけだから、もらってほしいと言われて、もらってやった」
「卓上コンロ殿と土鍋殿は現在家の台所でホコリをかぶっておられる」
「うん。彼らを使おう。苦節1年、卓上コンロと土鍋のコンビは、本日、晴れてデビューすることになった」
「うむ。で、彼らのデビュー曲のタイトルは?」
「そうさなぁ・・・」
最近、二人の間で、私が出した曲名に合わせ、シン太郎左衛門が即興で歌うという下らない暇潰しが流行っていた。
「演歌っぽく、『オチンと一人鍋』にしよう」
「うむ。では歌わせて頂こう」
口笛によるイントロが始まったが、明らかにブルース・スプリングスティーンの『明日なき暴走』(Born to run)のパクリだった。
昼は会社のオフィス、眠たい目をして、
夢見るれもんちゃんドリーム
夜は卓上コンロと土鍋を出して
オチンと一人鍋
皿に盛られた白菜と
青い春菊、新鮮なカシワ
お〜お、ベイビー、明太子もあるんだぜ
はい、ご飯、あっ、レンチンご飯
温かいうちに食べようね
湯気の間に間に、可愛いれもんちゃん
途中で何度も鐘を鳴らして止めさせようと思ったが、1コーラス聞いてやった。
「お前、ちゃんとタイトルの意図を汲めよな。『オチンと一人鍋』だぞ。しんみりした演歌を期待してたんだ。所々歌詞がメロディに合わんし・・・鍋から立ち昇る湯気の向こうに現れるれもんちゃんの幻影に免じて零点とするのだけは許してやる。14点だ」
「おお、これまでの最高得点。ありがたき仕合せにござる」
「とにかく今日の夕食は鍋で決まりだ。一人鍋を敢行する」
「うむ。そうと決まれば、話が早い」
「いや、そうではない。俺は自慢じゃないが、鍋なんて作ったことがないからな。カシワ鍋のつもりが、カシワの味噌汁やカシワ入りのお雑煮になってしまう危険性は十二分にある」
「下手をすると、もっと変なモノが出来りますな。父上は危険人物でござる」
「レシピを誰かに訊こう・・・そうだ」
特設コーナーに戻ると、女の子は同前の口上で頑張っていたが、明太子は余り売れていない様子だった。
「つかぬことをお願いしたい」と切り出すと、女の子は明らかに怯えていた。
「大丈夫。俺は危険人物だが、怪しい者ではない。鍋の作り方を訊きたい」
「・・・鍋ですか?」
「そうだ。カシワ鍋の作り方を知りたい。教えてくれたら、もう1パック明太子を買おう」
「お母さんにLINEで訊いてみます」
「うん。頼んだよ」
店内をぐるっと回って、カシワと白菜と春菊を買って戻ると、女の子が嬉しそうに、スマホの画面を見せた。
「なるほど・・・分かった。ダシの昆布が必要なんだな。ありがとう。では、もう1つ明太子をもらおう」
買い物を済ませて、家に帰った。
エコバッグをダイニングテーブルの上に置き、明太子のパックを1つ取り出し、冷蔵庫に入れると、ポン酢を出して、卓上コンロと一緒にテーブルの上に運んだ。
「鍋はいいものだ。準備が実に楽チンだ」
土鍋をシンクで洗いながら、
「『シン太郎左衛門』もこんな調子で書けたら楽なんだが、最近は長いものばかりで結構骨が折れる」
「それも、そろそろ本当の最終回でござるな」
「そうだ。去年の5月の頭に書き始めて、早1年半を過ぎた。もうじき100話だ」
「父上・・・1年は52週でござる」
「そうだよ。だから?」
「毎週書いても、100話書くには、1年11ヶ月かかる計算になる」
「そうだね」
「そうであれば、単純に言って、まだ4ヶ月半残っておりまする」
土鍋を洗う手が止まった。
「父上、どんな計算をして、『シン太郎左衛門』が、もうじき100話と仰せでござるか。実際に数えられましたか」
「俺がそんな面倒なことをする訳がない・・・」
「では、100話まで、まだ残り15話ほど書かねばなりませぬ」
「・・・愉快な気分がブチ壊しだ。貴様、俺が楽しく一人鍋をするのが気に食わないようだな」
「ひどい言い掛かりでござる。拙者は事実を言ったまで」
「そうか・・・まあいいや。俺は馬鹿だから、こんな勘違いは日常茶飯事だ」
そうは言ったものの、頭の中は真っ白になった。
どうやって土鍋に浄水を入れて、ダシの昆布を入れて、コンロに火を点けるまでをやったのか記憶になかった。
「ああ、そうだ」
思い立って、スマホを取り出し、K先輩に電話をした。
「あっ、先輩ですか?例の手紙、もう投函しちゃいました?まだ?よかった・・・いや、書いてください。打ち合わせどおりに書いてください。でも、投函は来年2月末でお願いします・・・いや、段取り違いがあって、早々に送られると困るんです。そうです・・・れもんちゃんの枠を譲るのはダメです。クラブロイヤルは、他の女の子も可愛いから、他の女の子にしてください。だから、れもんちゃんの枠は、何と言われても譲りません・・・分かりました。バイト代を2倍にしますから、頼みます。くれぐれも、この電話の件は書かないでくださいね・・・そんな心配は無用です。先輩は、私が知ってる限りブッチぎりの馬鹿なんで、先輩のあるがままの姿を好きなように書いてくれたらいいだけです・・・はい。それじゃ、よろし
く」と電話を切った。
「K先輩とは話が付いた」
「・・・『シン太郎左衛門』シリーズのラスボスは、仕込みでござったか」
「そうではない。大王カフェ七号店の『星外からのお客様』コーナーで、K先輩とBの写真を見付けたのは事実だ。ただK先輩は底抜けに馬鹿な自由人だから、周りの人間の都合とか一切お構い無しだ。いつ手紙を送ってくるか、こっちで指定してやらないと、何をしでかすか予想もできん。『シン太郎左衛門』の連載終了から1年後に送ってこられても、何の意味もないだろ。だから、投函のタイミングだけは指定したのだ」
「父上、そろそろ湯がたぎって参りましたぞ」
「そうかい。ということで、K先輩の件は片付いたが、問題は『劇場版シン太郎左衛門』の方だ」
シン太郎左衛門は、皿の上からザクッと切った白菜の一片を引っ張っていき、「エイッ!」と掛け声を発して、鍋に放り込んだ。
「実は、100話完結後にオマケとして投稿予定の『劇場版』はもう完成しているのだ。12月の初めには投稿する気でいたからな」
シン太郎左衛門は、また「エイッ!」と声を発して、白菜を鍋に投じた。
「『劇場版』では、『大王カフェ』、『れもん大王』、『守護霊さん』が重要な役割を担っているのだ」
シン太郎左衛門は、「エイッ!」「とおっ!」と、次々に白菜を鍋に放り込んでいった。
「15作も間に挟んだら、読者は、『大王カフェ』のことも『守護霊さん』のことも、すっかり忘れてしまっている。それは不都合だ」
シン太郎左衛門は、白菜を残らず鍋に投じ終えた。
「『劇場版』は簡単に書き直しのできないような大作なのだ」
シン太郎左衛門は、今度は春菊に取り掛かった。両手に一茎ずつ春菊を持ち、上下にバタバタとさせながら、「コケッ、コケッ」と言いながら歩き回り、「コケコッコ〜!」と時を作ってから、玉串奉奠の要領で一茎ずつ丁寧に鍋に投じていった。
コイツ、何してるんだろ?と思いながら、私は「かくなる上は、やむを得ん。今回は鍋の話として、その次は『劇場版』を投稿しよう」と話し続けた。
シン太郎左衛門は、奇妙な作法に従って春菊を鍋に投じ続けていた。
「おい、そのオマジナイみたいのに何の意味があるんだ?」
「特に意味はないが、父上、そろそろカシワを入れなされ」
「分かった」
私はカシワを一気に鍋に投じた。
どう考えても、正しい作り方ではなかったが、それなりに美味しそうな匂いがしている。
立ち昇る湯気の向こうに、れもんちゃんの幻影は見えて来なかったが、それはやむを得ないことだった。
鍋はそれなりに美味しかったし、明太子ご飯も美味しかった。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。昨日の鍋にパワーをもらった私はJR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一であり、昨日の鍋とは比較にならぬほどの強大なパワーを授けてくれた。
帰り際、れもんちゃんに見送ってもらいながら、
「私のミスだけど、来週の『シン太郎左衛門』は、脈絡もなく『劇場版』になっちゃったよ」
「そうなんだね〜」
「話は大袈裟だし、とっても長いよ」
「大丈夫だよ〜」
「『劇場版』は最終話のはずだったんだよ。おかげで、順番もメチャメチャになっちゃったし、もう何だか訳が分かんなくなっちゃったよ」
「それでも大丈夫だよ〜」
れもんちゃんは、細かいことにこだわらない大らかな女の子だった。そして、れもんちゃんの笑顔は、いつでも眩しかった。
さて、そういう訳で、次回は、
【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』)
「シン太郎左衛門」シリーズの最終話を、まだ本篇15話ほども残しながら、先行してお届けしよう。
シン太郎左衛門とカシワ鍋(あるいは「父上の勘違い」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とれもん星の思い出 様
ご利用日時:2024年11月10日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回は、まったりと長い話なので、前置きは抜きにする。
昨日は土曜日。無理矢理、出勤させられて、延々と続く無意味な会議が退屈すぎて眠ってしまい、気が付いたら、夕方、電気の消えた会議室のテーブルに一人うつ伏して寝ていた。みんな、すでに退勤していた。すぐに家に帰ったが、深夜を過ぎても眠気が起きない。
「いかん。明日は、れもんちゃんデーだから、十分に睡眠をとりたいのに、昼から夕方まで寝てしまったから、ちっとも眠くならない」
シン太郎左衛門は物知り顔で、「とりあえず布団に入って、羊を数えなされ」
「その手は、俺には通じない。100までは機嫌よく数えているが、そのうち頭が混乱してきて、却って目が冴える」
「うむ。それでは、一緒にれもん星に行きましょう」
「魔法の力で、夢の中でれもん星に行くやつね。あれは気絶したみたいに眠れるが、ほとんど疲れが取れないんだよなぁ」
「では、拙者一人で、れもん星に参りまする」
「待て待て。やっぱり俺も行く」
「では、参りましょう」
「ちょっと待て。せっかくだから、守護霊さんもお誘いしよう。守護霊さんが一緒だと、クソくだらない場所には行かなくて済みそうな気がする」
「うむ。それは、よい考え」
「問題は、守護霊さんと会話ができないことだ」
「コックリさんと同じ要領で話せばよかろう」
「あっ、そうか」
新聞の折込広告の裏面にフェルトペンで、はい・いいえ、そして、「あ」から「ん」の文字を書き、もちろん守護霊さんは平安時代の御方だから「ゐゑ」も書き足した。紙の上に十円玉を1枚載せて、
「守護霊さん、これでどうですか?」
と尋ねると、十円玉が紙の上を微かな音を立てて滑っていった。
「し・・か・・へ・・た・・す・・き」
十円玉が止まった。
シン太郎左衛門と顔を見合わせ、
「『しかへたすき』ってなんだ?」
「『字が下手すぎ』ではござるまいか」
「ああ、そうか・・・まあいい。守護霊さんも、れもん星に行きます?」
十円玉が動いて「はい」の上に止まった。
「それじゃ、これから電気を消します・・・あっ、消しちゃマズイか、常夜灯にしますから、『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん』と十回唱えてくださいね」
十円玉が紙の上を動いた。
「り・・よ・・う・・か・・い」
シン太郎左衛門と顔を見合わせ、
「『了解』らしい」
部屋の灯りを暗くして布団に入ると、親子揃って、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と10回唱えた。その間、枕元で紙の上を十円玉が動く音がシャカシャカと聞こえていた。
3人揃って眠りに落ちた・・・と思う。
そして、我々が着いたのは・・・
「ここは、どこだ?」
「おおっ、随分とオシャレな街並みでござるな」
よく晴れた青い空。春めいた風が吹いていた。手入れの行き届いた街路樹、幅の広い歩道には色とりどりの、しかし落ち着いた高級感のある舗装タイルが敷かれていて、あちこちに木製の可愛いベンチが置かれていた。時刻は、お昼前ぐらいだろうか。人影は疎らで、車道を走る車も少なかったが、通るのは決まって高級車だった。
「オシャレすぎる。はっきり言って、俺たちは場違いだ。オチンを連れて歩く場所じゃない」
「うむ」
「『うむ』じゃない!反省しろ!」
「反省いたしまする。で、これから、いかがなされますか」
「そうだなぁ・・・こんなところで、何をするって訊かれても・・・」と周囲を見渡していると、シン太郎左衛門が「おっ!!」と叫んだ。
「父上、あれを!」とシン太郎左衛門が指差す先には、「大王カフェ」の看板があった。
「これは凄い!きっと、れもん大王の経営するカフェだ。れもんちゃんのパパとママのお店に間違いない」
「実にオシャレなカフェでござるなぁ」
「うん。これも守護霊さんのお導きだ」
「でもお高いんでしょ?」
「大丈夫だ。夢の中の話だから、いくら使ったって実際の財布の中身に影響ない」
「それはまた有り難い。早速入りましょう」
お店は開店前なのだろうか、店の人が入り口の側の小さな黒板の「本日のランチ」とある下に、チョークで「大王イカ」と書いている最中だった。
「すみません」
「はい」と答えて、振り返ったのは、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれる感じのいいスタッフさんにそっくりのれもん星人だった。
思わず、「またお前か!」と言いそうになって、言葉を飲み込み、代わりに「準備中?」と訊いた。
「あ、大丈夫ですよ。ご案内しますね」
と店内に導いてくれた。
「お一人様ですか?カウンター席にどうぞ」と言われたので、
「いいや、3人だ」と答えると、
「それでは、こちらのテーブルへどうぞ」と、綺麗な街並みが見渡せる窓際の席に案内してくれた。
我々が席に着くと、スタッフさんは、
「あいにく海の見えるお席は全てご予約が入ってまして。ご注文は、皆様お揃いになってからで、よろしいですね」と言うので、「いや、もう全員揃ってる」と答えると、スタッフさんはキョロキョロしている。椅子に座ったシン太郎左衛門はテーブルで死角になって見えないし、守護霊さんは居るのか居ないのか私にもよく分からなかった。スタッフさんの困惑は当然だった。
「小さくて見えないだろうが、俺の隣に江戸時代の武士がいて、そっちの席には平安時代の宮廷歌人が座ってる・・・はずだ」
「はあ・・・ところで、お客様自身は、何時代ですか?」
「俺?俺は昭和」
「では、ただ今、メニューをお持ちしますね」とスタッフさんは奥に戻り、お冷とメニューを持って戻って来て、丁寧に3人の前に置いた。
メニューには、それぞれ「平安時代」「江戸時代」「昭和時代」と書いたシールが貼られていた。全く同じメニューに見えたが、なぜか嬉しい心配りだった。
「今日のランチは、『大王イカ』って書いてあったけど、例のヤツ?」
「『例のヤツ』とは?」
「あの、大きいヤツだと20メートル近くになる巨大なイカでしょ?」
「違います。ご覧になったのは、書きかけで、今日のランチは『大王イカ墨リゾット』です」
「大王イカのイカ墨、使ってるの?」
「違います。とっても美味しい、普通のイカ墨リゾットです」
「ふ〜ん」とメニューに目を落とすと、品名は、大王コーヒー、大王ティー、大王クラフトビール・・・大王カレー、大王クラブサンドイッチ、大王ナポリタン・・・漏れなく「大王」を戴いていた。
「そういうことか・・・」
椅子にちょこんと収まっているシン太郎左衛門に「『大王カフェ』だから、すべてのメニューに『大王』が付くのだ」と教えてやると、「当然でござる」
「なにが『当然でござる』だ。知ったようなこと言いやがって。そこじゃメニューが見えないだろ。テーブルの上に上がってこい」
シン太郎左衛門は、ぴょこんとテーブルの上に跳び乗り、「おお、全てのメニューに『大王』が付いておる。流石は『大王カフェ』でござる」と喜んでいる。
「守護霊さんは何にします?」と訊くと、私の斜め前の席に置かれていた「平安時代」のメニューが正面の席まで、すーっと移動したので、その上に十円玉を置いてあげた。
十円玉の動くとおりに、「・・・大王パフェと・・・大王クリームソーダ・・・それに、大王ワッフルと・・・」と、読み上げた。
「シン太郎左衛門、お前は?」
「口がないと食べれない。拙者には口がない。よって拙者は食べれない」
「三段論法だな。いいから何か頼め」
「父上が選んでくだされ」
私はスタッフさんを見上げて、
「それじゃ、大王カレーと大王アイスコーヒー。それと、大王イカ墨リゾットと大王コーヒーのホットで」
注文を復唱すると、スタッフさんはメニューを引いて、奥に戻っていった。
「大王カフェ」という厳しいネーミングとは裏腹に、内装もとってもオシャレで可愛かった。そのうち次々とお客が来て、あっと言う間に、お店は一杯になってしまった。
しばらくして、スタッフさんは料理を運んできて、3人の前に並べ終えると、
「星外からのお客様ですよね?」と尋ねてきた。
「そうだよ。我々は地球からやってきた。ワ・レ・ワ・レ・ハ、チ・キ・ュ・ウ・ジン・ダ」
「当店、星外からのお客様の記念写真をお撮りして、店内に飾らせていただいておりまして、よろしかったら」と言うので、
「じゃあ、お願いしようかな」
シン太郎左衛門は、私の腕をよじ登って、ジャケットの肩に腰を下ろした。
「スタッフさん、あちらの席の御方も忘れないでね。守護霊さん、もっと寄ってください」
3人は料理を挟んで記念写真を撮ってもらった。
スタッフさんは、「記念写真には、お名前を添えさせていただきますね。何としましょうか?」
シン太郎左衛門がしゃしゃり出てきて、
「『シン太郎左衛門ズ フィーチャリング 守護霊さん』でお願いいたしまする」
「はい。かしこまりました。では、どうぞゆっくりとお召し上がりください」と、スタッフさんは去っていった。
「今日のスタッフさんは、いつもと様子が違うな」
「うむ。いつも良い感じで接してくれるが、今日は一際シャキッとしてござる」
シン太郎左衛門は、自席の背凭れに飛び移り、BGMのバッハに聴き惚れている。
「流石は、れもんちゃんのご両親のお店だな。何もかもが行き届いてる。料理も大変に美味しそうだ」
「うむ。何にせよ拙者には口がない」
「じゃあ、匂いだけでも楽しめ」
「拙者には鼻もない」
「お前、文句ばっかだな。じゃあ、黙って見とけ」
「ホントを言えば、目さえない」
「・・・まあいいや。守護霊さん、いただきましょう」
そう言った途端、突然耐え難いほどの尿意に襲われた。
「急にトイレに行きたくなった」
「うむ」
「『うむ』じゃない。お前も来なきゃ話にならん」
シン太郎左衛門を掴んで、ポケットにねじ込むと、
「守護霊さん、どうぞ先に召し上がっておいてください」
慌ててトイレに駆け込み、用を済ませ、スッキリとして店内を歩いていると、壁に掲げられた「星外からのお客様」のプレートの下に沢山の写真がキャプション付きで貼られていた。チラッと見ると、誰でも知ってる有名人がたくさん含まれていたが、具体的な名前を出すのは憚られる。
「凄いなぁ。この前、ワールドシリーズで優勝したチームのメンバーたちも来てたのかぁ」
そうこうしているうちに、貼られたばかりの我々の写真を見付けた。私の向かいにはボンヤリとした影が映り込んでいて、両手でピースサインをする髪の長い女性の輪郭がハッキリと見て取れたが、向こう景色が透けていた。
「なんか怖いなぁ」
シン太郎左衛門はマジックで塗りつぶされていて、不気味さに花を添えていた。
「どう見ても心霊写真だ・・・実際、心霊写真だしな」
テーブルに戻って驚いた。守護霊さんは、自分のパフェとワッフルとクリームソーダをスッカリ胃に収め、私のイカ墨リゾットやシン太郎左衛門のカレーにまで手を付けて、半分以上食べてしまっていた。
まさか、れもんちゃんの元に導いてくれた大恩人に「お前なぁ、勝手に人のモノを食うんじないよ!」とも言えず、何と言っていいものか思いつかなかったから、肩の上のシン太郎左衛門に「れもん大王に挨拶するのを忘れてた」と店の奥に向かって踵を返した。
スタッフさんに、れもん大王にご挨拶したいと伝えると、
「れもん大王さん、今日は本店ですね」
「本店って遠いの?」
スタッフさんは、私が面白いことを言ったかのように「本店があるのは、れもんシティ。北半球です」と笑った。
「そうなのか。時々こっちのお店にも来るの?」
「れもん姫が帰省したときには、必ず一緒に宇宙空母で来られますよ。ここ七号店は、れもん姫の一番のお気に入りですから」
「そうなんだ。それは感激だ」
ここは、れもんちゃんのお気に入りの店だったのだ。
席に戻ると、予想どおりイカ墨リゾットもカレーもなくなっていただけでなく、コーヒーまで全部飲まれていた。守護霊さんのいる辺りから、「げぷっ」という音が聞こえてきた気がしたが、聞き違えだろう。
「守護霊さん、少し散歩しましょう」
お勘定は渋沢栄一と津田梅子の各1枚でしっかりお釣りが来るところだったが、実際の財布の中身には影響しないので、財布に居るだけ渋沢栄一を渡した。
3人を見送りながら、スタッフさんはニコニコして「前の道を左に100メートルほど行くと、とても眺めがいいですよ」と教えてくれた。
とても気持ちのよい天気だった。言われたとおりに歩いていくと分かった。大王カフェ七号店は、海を見晴らす高台にあった。やがて、視界一杯に壮大な海が広がった。マリンブルーというよりも、コバルトブルーの静かな海だった。
「れもん星は素敵な星だ」
「れもんちゃんの故郷でござる」
「こんな素敵な星でもなければ、れもんちゃんみたいな素敵な女の子は、生まれないし、育たないのだ」
「うむ。相違ござらぬ」
しばらく黙って海を見ていると、肩の上のシン太郎左衛門が口笛を吹き出した。
「・・・『海を見ていた午後』。ユーミンだ・・・」
「山本潤子の方でござる」
「俺もそうだと思ったよ。『ソーダ水の中を貨物船が通る』の一節は日本のポップスの中で最も美しい歌詞の一つだ」
「うむ。それにしても素晴らしい眺めでござるな」
「このノンビリとしてホワーっとした感じ、これはまさに、れもんちゃんだ」
「うむ。今回はとてもよい旅でござっ・・・あっ、モモンガが飛んでる!れもん星では、海にカモメでなく、たくさんモモンガが飛んでおる!」
それからシン太郎左衛門は、「モモンガ、モモンガ」と、はしゃぎながら、モモンガたちを目で追っていた。
シン太郎左衛門の陽気な姿を見ながら、私の気持ちは少しばかり重くなっていた。
「シン太郎左衛門、今回、なんで守護霊さんが、俺たちを大王カフェに連れてきたか分かったんだ」
「ほほう。今日のランチがイカ墨リゾットだったから?」
「確かにそれもあるかもしれん。ただ、別の理由がある。俺はさっき『シン太郎左衛門』シリーズのラスボスが誰だか分かってしまったのだ」
「なんと!まさか岩熊馬之助でござるか」
「誰だよ、それ?」
「うむ、岩熊馬之助とは・・・」
「いいよ、説明しなくたって。そろそろ目覚ましが鳴りそうな予感がする・・・この話の続きは、また今度だ」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・目覚まし、鳴らないね」
「ジリリリリ!!」
「お前が鳴ってどうする!」
3人は目を覚ました。
夜は明けていたが、目覚ましが鳴るまでには、まだ1時間以上もあった。しかし、とても爽快な目覚めだった。
「守護霊さん、れもん星は、どうでしたか?」と尋ねると、昨夜作った簡易版ウィジャ・ボード(コックリさんの文字盤のこと)の上で十円玉が動き出した。
「た・・の・・し・・か・・つ・・た」
「ですね。沢山食べましたね」
「お・・な・・か・・い・・つ・・は・・い」
「でしょうね。美味しかったですか?」
「せ・・ん・・ふ・・お・・い・・し・・か・・つ・・た」
「よかったですね」
「い・・か・・す・・み・・り・・そ・・つ・・と・・と」
「『イカ墨リゾットと』」
「ほ・・つ・・と・・の・・た・・い・・お・・う・・こ・・お・・ひ・・い」
「『ホットの大王コーヒー』」
「さ・・い・・こ・・う」
「どっちも俺のじゃないか!」
「け・・ふ・・つ」
「ゲップをするな!」
シン太郎左衛門は物知り顔で、「父上、今回、守護霊さんは、初めて例の呪文を使われたゆえ、本当にお腹が一杯なのでござろうな」
「・・・どういう意味?・・・あっ!!しまった〜!!そうか、本来、あの魔法は、初めて使ったときに限り、れもん星のモノを持って帰れるものだったんだ!!忘れてた!!れもんちゃんグッズを探す余裕はなかったが、『大王カフェ』のロゴ入りコーヒーカップを譲ってもらえばよかった・・・」
悔やんでも悔やみきれない失策だったが、それに追い討ちをかけるような嫌な予感に襲われた。
「待てよ!まさか!!」
飛び起きて、階段を駆け上がった。書斎の机の上に置かれた財布を掴んで、中身を見た。れもんちゃんデーに備えて銀行からおろした渋沢栄一たちは全員行方をくらましていた。
「とんでもないことをしてしまった・・・」
その場でガックリと膝を折った。
今回、守護霊さんが初回だったから、我々はモノを持って帰ることも、置いていくことも出来たのだった。
そして、失意のうちにJR新快速に乗ったが、神戸駅に到着する頃には、すでに全身に元気がみなぎっていた。
れもんちゃんに会えるなら、他のことはどうでもいい。万事快調だった。
ATMでお金をおろした。
そして、れもんちゃんに会った。れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だったし、れもん星の青い海のように爽やかだった。れもん星の南半球の春風のように芳しかった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「あっ、そうだ。れもん星の『大王カフェ』に行ったよ。とってもオシャレなお店だったよ」
「パパのお店は、リゾットとコーヒーが特別美味しいよ〜」
「そうだよね。絶対美味しいと思うよ。食べれなかったけど・・・」
「それはもったいないよ〜。また食べに行ってね」
「うん。分かった」
れもんちゃんの笑顔は、太陽のように暖かく、そして眩しかった。
行きたいのは山々だったが、再びあのお店に行けるという保証は、どこにもなかった。
おそらく二度と行けないと思う。
シン太郎左衛門とれもん星の思い出 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と守護霊さん 様
ご利用日時:2024年11月3日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。東南アジアから帰国すると、料理のレパートリーを増やしたいと言い出したので、エスニック料理のレシピ本を買い与えてやった。しばらく喜んで読んだ後、到底自分に作れるものではないことを悟り、すっかり悄げてしまった。そういう万事思い付きで行動するタイプの武士である。レシピ本はメルカリで売った。
前回のクチコミに書いたように、私は東南アジアの出張からボロボロになって帰ってきて、週明けの月曜からは、職場の連中に「お待ちかねの逆お土産タイムだ。どこそこの羊羹を二本、耳を揃えて持って来い」とか「どこそこの甘納豆を5000円分要求する」とかメールを送ったり、即応しないヤツには内線電話で督促したりと、大変忙しく過ごした。金曜日の午前中には、逆お土産の回収を完了、リュックサックを高級和菓子で一杯にして、今日はもうやることもないし、早退しようと考えていると、社長から電話がかかってきて、社長室に呼ばれた。ついに、クビになるのかと期待したら、取引先の新しい社長が挨拶に来たので、会っておけと言われた。
「今、忙しいからイヤ」と抗ったが、「君は入社以来一度として忙しかったことがない」と無理矢理付き合わされた。
取引先の新社長が待つ応接室に、ウチの社長を先頭に7人のお歴々と入室しかけたとき、「ねえ、みんなでグレイシー・トレインしない?」と訊いたが、スルーされた。格闘技好きの人事部長だけが少し笑った。
四十そこそこの新社長は中々のイケメンで、かなり美人の、若い女性秘書を連れていた。まあ、美人と言っても、れもんちゃんに敵う訳もなく、真面目に観察もしなかったから、濃紺のパンツスーツがよく似合っているぐらいの印象しかなかった。
新社長は自己紹介めいたことを語ったついでに、その女性秘書について、「アメリカの大学出身の才媛です」と言った。思わず「才媛と言っても、れもんちゃん以上であるわけがない。アメリカの大学と言ったって、ピンキリだしな。ちなみに、ウチの隣の金ちゃんはハーバード大学はもちろん、スタンフォード大学やUCLAのTシャツやトレーナーを持ってて、卒業生でもなんでもないのに平気な顔して外着にしているぞ」と言いかけて止めた。
その瞬間、アメリカ姉さんと目が合ってしまったのだが、なぜか怯えるような表情を浮かべていた。私はアメリカ姉さんには全く関心がなかったので、目線を窓の外に向けて、早く帰りてぇなぁと考えていた。
十五分ほど、社交辞令ばかりの退屈な時間が過ぎて、それではそろそろという感じで、全員が立ち上がり応接室を出た直後、アメリカ姉さんに「少しいいですか?」と声をかけられ、少し離れた場所に招かれた。ああ、手土産を渡されるんだな、高級和菓子なら、こっそり俺がいただこうと企んでいると、アメリカ姉さんは、「すいません。実は・・・」と言って黙ってしまった。
「『実は』って・・・あ〜っ!さては、お土産を忘れたな!」
「違います。お土産なんて最初から用意してません」
「な〜んだ・・・それじゃ、なんなの?」
「私、実は霊感が強くて・・・」
「おいっ!俺に壺でも買わす気か?」
「違うんです。ただ、私、霊感が強くって、人の守護霊が見えるんです」
「そう言って、最終的には壺を買わすんだろ!」
「違います。とりあえず壺は忘れてください。とても重要な話なので、ちゃんと聴いてください」
「よし。聴いてやろう。手短に頼む」
「あなたは、とても徳の高い、高貴な霊に守護されています」
「らしいな。十二単衣を纏った髪の長い女人だろ?平安時代に宮廷に仕えていた才女だ。それがどうした」
「・・・ご存知でしたか」
「俺には見えんし聴こえもしないが、俺が知り合った、『霊感が強い』と自称するヤツらは、口を揃えて俺の背後にそういう霊がいると言うんだ。んで、それがどうした」
「その御方から、あなたへの伝言をお預かりしています」
「なるほど、つまり留守電みたいなもんだな。それなら聞かない。俺はイエ電には出ないし、留守電も聞かない主義だ。投資の勧誘や投票のお願いに決まってる」
「そういうことではありません。『近々郵便が届くから、直ぐに開封なさい』とのことです」
「年金関係?」
「違います。『シン太郎左衛門』シリーズの今後に関わる重要な手紙だとのことです」
「くだらん!もう少しマトモな話かと思った。聴いて損した」
「その御方は、『言い付けに背けば、二度とクチコミの執筆に手を貸さぬ』とおっしゃっています」
「そうなの?」
「その御方は、あなたが『シン太郎左衛門』シリーズと称する駄文を書きながら、『ああ〜、面倒くさくなってきた!』と途中で投げ出すのを、横から霊的な力で手取り足取り、あなたのオツムのレベルに合わせた卑賤な文章を授けて、これまでどうにか形にしてこられたのです」
「そうだったのか・・・」
「それに、そもそも、れもんちゃんにあなたが出会えたのは、その御方のお導き。本来、あなたのようなオッチョコチョイが、れもんちゃんのような高貴な姫に出会うことがあってはならないのです」
「それは大した腕のある守護霊だ。大恩人だ。そういうことなら、言い付けに逆らうことは出来んな」
「それでは、郵便の件、よろしくお願いします」
「うん・・・ところで、会ったばかりなのに、俺がオッチョコチョイだって、すぐ分かったの?」
「それは、すぐに分かります。あなたは、あの御方の守護がなければ、遠の昔に死んでます」
「それは大変なもんだなぁ。お礼を言っておいてね」
その日の夕方、リュックサック一杯の和菓子を背負って家に帰ると、シン太郎左衛門に、「今日、凄い発見があったぞ」と、アメリカ姉さんとのやり取りを話した。
シン太郎左衛門も感心した様子で、「実に不思議な話でござる」
「まあな。俺が常々『シン太郎左衛門』には俺以外にも書き手がいるはずだ、と感じていたのには、ちゃんと理由があったのだ。これで、これからは安心してサボれる」
「うむ。そんなことを言っては守護霊殿に怒られまするぞ」
「そうかな。まあいいや」
「しかし、父上。そのような高貴な御方が今もこの部屋にいると思うと、緊張いたしまするな」
「うん。でも気にしてもしょうがない。今まで通りやろう」
「ところで父上、れもんちゃんにも守護霊がございまするか」
「そりゃいるだろ。れもんちゃんはVIPだぞ。SPがいるに決まってる」
「れもんちゃんぐらいのVIPになれば、SPは屈強な武将、上杉謙信、武田信玄あたりでござろう。拙者、肩身が狭い」
「何を言うか。れもんちゃんは、れもん星人だぞ。守護霊が日本の戦国武将の訳がない。れもんちゃんは、れもん星のアレキサンダー大王やナポレオンみたいな軍神の霊に守られているに決まってる」
と、そのとき、風もないのにテーブルの上の新聞が捲られて、ペンケースの上の赤ボールペンが宙に浮いたと思ったら、記事の上にサラサラと印を付けて、またペンケースに収まった。見ると、紙面に一から五までの漢数字が書き加えられていた。美しい筆跡だった。
「実に見事な手だな・・・」
書き添えられた数字の順番に文字を読むと、「れもん大王」となった。
「れもんちゃんの守護霊は、『れもん大王』だった。ヤッパリ感が半端ない」
「恐ろしく豪壮な英雄に違いありますまい。ところで、近々届くという郵便は何でござろう」
「俺に分かる訳がない」
「父上、『シン太郎左衛門』は100話までと決まってござる。もう少しで最終回でござる」
「だから?」
「つまり、『シン太郎左衛門』は、いよいよクライマックス。届く書状は、ラスボスの登場を告げるものござるまいか」
「これまで一回でも戦闘シーンがあったか?」
「最近、拙者、剣術の稽古を怠っておるゆえ、すぐにヤラれてしまいまする」
「れもんちゃんにも、すぐにヤラれてしまってるしな」
「うむ。お恥ずかしい」
「しかし、何だな。最初はギャグ漫画だったのに、話が進むにつれてシリアスになるって、よくあるだろ。そんでもって、悲壮で重々しい最終回になるのとか。ああいうのって嫌だよな」
「うむ。あれはいかん」
「『シン太郎左衛門』は、徹頭徹尾ゴミみたいな話で押し切ろうな」
「うむ。我々は元々ゴミでござる。このクチコミの中では、れもんちゃんだけが高貴に輝いておる」
我々はガッシリと手を握り合った。
そして、今日は、日曜日。れもんちゃんデー。
我々ゴミ親子は、JR新快速をアクセル全開にして、勇んで、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、素晴らしい上にも素晴らしく、まさに宇宙一に宇宙一の地位をほしいままにしていた。
シン太郎左衛門は、ときどき、れもん大王の影に怯えるようにキョロキョロと周りを見回していた。
帰り際、れもんにお見送りしてもらいながら、
「そうだ。れもん大王って、れもん星の英雄なんでしょ?」と訊いてみた。
れもんは、にっこりと、それはそれは可愛い笑顔で、「うん。そうだよ〜。れもんのパパだよ〜」
「えっ・・・そうなんだ」
「今は英雄を定年退職して、ママと一緒に、頑張ってオシャレなカフェを経営してるよ〜」
「れもん星で?」
「そうだよ~」
「元気にしてるんだね」
「うん。とっても元気だよ〜」
きっと、とっても仲のいいご家族なんだろう。
帰りの電車の中、私は、自分の守護霊さんに少しオッチョコチョイなところがあるかもしれないと疑っているのであった。
シン太郎左衛門と守護霊さん 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『おとぼけ観光大臣ちゃん』(あるいは『選挙の季節』) 様
ご利用日時:2024年10月20日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回、久し振りに観光大臣ちゃんが登場する。知らない人のために文末に注を置いた。しかし、なんで、今回に限って、こんな変な親切心を起こしたんだろうか?分からない。自分でも気持ち悪い。
れもんちゃんは、いつも優しい。
先の火曜日から3泊4日の日程で、東南アジアの某国に出張に行った。
搭乗手続きを済ませ、関西国際空港の国際線のロビーでゲートが開くのを待っていると、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「ここは空港ではござらぬか?」
「いかにも関空だ。これから飛行機に乗る」
「なんと。父上は大の飛行機嫌い。国内であれば、沖縄でも電車で行くと言って譲らぬ男」
「そうだ。今回は海外だ。飛行機だ。悲劇だ」
「ついに日本に居れぬようなことを仕出かしましたか」
「違う。ただの出張だ。本来行くべきヤツが、理由は知らんが、最近出社拒否をしてるらしい。代わりに行ってくれと頼まれて、散々ゴネたが、最後は豪華な逆お土産を条件に引き受けた」
「逆お土産とは、何でござるか」
「俺が帰国したら、職場の者それぞれが俺の指定する豪華な和菓子をもって、嫌々異国で過ごした労をねぎらうのだ。俺はしばらくの間、合計50000円を越える和菓子に囲まれて暮らす」
「父上がお土産を買って帰るのが筋ではござらぬか」
「そんなこと誰がするか。馬鹿馬鹿しい」
「ひどい話でござる」
「まったくだよ」
私は、原因は全く分からないが、とにかく飛行機が苦手だ。こんな嫌なものはない。嫌すぎて半ベソをかきながら飛行機に乗り込み、指定の座席に座って、シートベルトを閉めると、一気に変な汗が出てきた。
「大丈夫。たった数時間のことじゃないか。あっという間だよ」
「下らん気休めを言うな!」
「新幹線と同じだよ」
「じゃあ新幹線に乗せてくれ!」
「でも、新幹線じゃ海は越えられないからなぁ」
「お前、今『新幹線と同じ』って言ったじゃないか。ウソつき!」
そんなふうに一人二役の言い争いをしていると、女性のキャビンアテンダントが寄ってきて、「アー・ユー・オーケー?」と声を掛けられた。
「・・・これがオーケーな人間に見えるか?ユーが、れもんちゃんだったら、アイ・アム・オーケーになるが、ユーが、れもんちゃんじゃないから、オーケーじゃない!」と言って追い返した。
しばらくすると、さっきのキャビンアテンダントが戻ってきて、お菓子の詰め合わせをくれた。「俺は子供か!」と怒った。
それから飛行機が某国の空港に到着するまでの長い時間、お菓子の詰め合わせを胸にしっかりと抱き締め、アワアワ言いながら過ごした。
異国の空港、スーツケースを引きずって建物の外に出ると、物凄い湿気と暑さが襲ってきた。
シン太郎左衛門も、「これは堪らぬ暑さでござるな。父上、日本に帰りましょう」
「そんなこと出来る訳がない。続けざまに飛行機に乗せるつもりか!こんなことなら、出張に行ったふりをして家に引きこもっておけばよかった」
空港からタクシーを飛ばして、予約していたホテルに急いだ。高速道路の両側では、夕陽を浴びたヤシの林が南国ムードを醸し出していた。シン太郎左衛門は、バッハの「トッカータとフーガ」の旋律を口笛で吹いていた。
やがてタクシーの窓から見る風景が、行き交う人々の活気を帯びていった。わりと立派なホテルの前で降ろされたから、これなら快適に過ごせそうだと思ったら、私の宿は隣の安ホテルだった。古い上に、建物全体が傾いているように見えた。
チェックインをして、部屋に入ると、更に驚かされた。部屋の中央に、むき出しのコンクリートの柱が屹立していて、とんでもない威圧感で私を迎えた。
「こんなでっかい柱と一緒に過ごすのか・・・相部屋なら相部屋と、最初から教えといてくれりゃいいのに」
とりあえずシャワーを浴びて、バスルームから出てくると、シン太郎左衛門も部屋の中央を占拠する太いコンクリの柱の偉容に声を上げた。
「おおっ!ずいぶん立派な柱でござるなぁ」
「だろ。こんな部屋、嫌だ。こんな無愛想で太い柱に串刺しにされた部屋なんて見たこともない」
「うむ。落ち着かないこと、この上ない。狭いとは言えぬが、窮屈で息苦しい部屋でござる」
「でも・・・もう何でもいいや。エアコンはガンガンに効いてるから、実に涼しい。それだけで十分だ」
私はもう悟りきったような気持ちになっていた。
しばらくボーっと過ごした。テレビに見るものはなく、部屋のどこにいても柱に見下されている感覚になって落ち着かない。眠たくもないし、クサクサした気分になっていると、窓の外で大勢の人が歓声を上げているのが聞こえた。
気になって、遮光カーテンを開けると、掃き出し窓になっていた。窓を開けて外に出ると広いベランダになっていた。
すっかり陽は沈み、南国の香辛料をまぶしたような爽やかな風が鼻腔をくすぐった。
三階のベランダの手摺から身を乗り出すと、学校の野球場ぐらいのグラウンドがホテルの側まで広がっていて、群衆が仮設のステージを取り巻いているのが見えた。その数ざっと千人程。左右から演台にスポットライトが当てられていたが、電力供給が安定しないのか時折照明が暗くなった。演台から離れるほど、闇は深くなるが、乏しい明かりの中でも熱気を帯びた人々の動きは見て取れた。
「なんだろう?すごい数の聴衆だな」
シン太郎左衛門はバスローブの陰からピョンと跳ね上がって、手摺の上に飛び乗った。
「おい、シン太郎左衛門、落ちないように気を付けろよ」
「うむ。父上、実に心地よい風が吹いておりまするな」
「ああ、夜風が気持ちいい」
「それにしても、大変な人の出。一揆でござるか」
「違うだろ。演台にスポットライトが当たってるから、街頭演説の類いだ。この国も選挙が控えてるのかもしれん」
そのとき、異国の言葉で、おそらく開会を告げるアナウンスが流れ、大聴衆の興奮が一気に高まった。広場は轟々たる歓声に包まれた。
小柄な若い女性が、観衆に手を振りながらステージに登ったとき、我々親子は揃って、「れもんちゃんだ!!」と叫んだ。
小柄な女性は、演台のマイクに向かって「観光大臣ちゃんだよ~!」と第一声を発した。群衆から天まで届くような歓声が上がった。
「父上、我々、れもん星に来ておりましたか?」
「そんなはずがない。俺たちは、東南アジアの某国にいる。どことは言えん。そこまで書いてしまうと、出国者名簿にアクセスできる人間に、俺が誰だかバレてしまうからな」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、再び、「観光大臣ちゃんだよ~!」と朗らかに声を上げた。またしても地を揺るがすような歓声が上がった。
「凄い歓声だ」
「うむ。遠くから見ても、れもんちゃんは大変な美人でござるなぁ」
「いや。れもんちゃんが、観光大臣ちゃんであるという確証は得ていない」
「父上、広場に行って、それを確かめましょうぞ」
「無理無理。あんな人混みを掻き分けて、近くまで行ける訳がない。ここから見ている方が無難だ」
聴衆の歓声が鳴り止むと、観光大臣ちゃんは、三たび、「観光大臣ちゃんだよ~」と声を上げたが、今回は何故か少し恥ずかしそうだった。月や星が落ちてきそうな大歓声が上がった。
「・・・全然、話が進まんな」
「うむ・・・」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、またしても、「観光大臣ちゃんだよ~!」と言った後、「応援演説やっちゃうよ~!」
地球が割れるほどの歓声が上がった。
「やっぱり選挙だったな」
「うむ。日本も衆議院選挙、アメリカも大統領選でござる」
「そうだね。そういう選挙は『シン太郎左衛門』シリーズで扱うネタじゃないけどね」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、「・・・原稿を置いてきちゃったよ~!」と言って、ピョコピョコとステージから降りていった。やはり凄まじい歓声が上がった。
しばらくして、観光大臣ちゃんが小走りでステージに戻ってくると、怒涛のような大歓声が迎えた。
観光大臣ちゃんが、気を取り直して、元気一杯「観光大臣ちゃんだよ~!応援演説やっちゃうよ~!」と言ったが、その最中に照明がスーっと薄暗くなってしまった。観光大臣ちゃんが「・・・原稿が読めないよ~!懐中電灯を取ってくるよ~!」と言うと、やはり火山の大噴火を思わす歓声が上がった。
シン太郎左衛門は「へへへ・・・れもんちゃん、可愛い」と、にやけた。
「れもんちゃんとは決まっていない。とりあえず、観光大臣ちゃんだ」
観光大臣ちゃんが懐中電灯を持ってステージに小走りで戻ってくると、当然のことながら、周囲の木々を薙ぎ倒さんばかりの大歓声が迎えた。
ぼんやりと暗い灯りの中で、観光大臣ちゃんが、「観光大臣ちゃんだよ~!応援演説、頑張るよ~!」と言った後、原稿を懐中電灯で照らしながら顔を近付けて読もうとしている。聴衆は、それを固唾を呑んで見守っていた。
すると、観光大臣ちゃんは、顔を上げて、「よく見たら、原稿じゃなくて、ティッシュだよ~!」
その言葉に大観衆の興奮は最高潮に達し、耳をつんざくばかりの大歓声が起こったかと思うと、いきなり強烈な突風が広場を襲い、千人を越える聴衆は次々と白い紙を切り抜いた形代に姿を変え、蝶々の大群のように夜空に渦を巻いて舞い上がっていった。そして、そのとき、どこからともなく、「れもん!れもん!」という「れもんちゃんコール」が聞こえてきたが、白い蝶々の群れが夜空の闇に消えていくと、辺りはキーンと研ぎ澄まされた静寂に包まれてしまった。広場は疎らな街灯を残し、完全に闇に沈んでいた。
我々は、訳も分からず拍手をしていた。
呆気にとられていたシン太郎左衛門が、「今のは一体・・・」
「・・・よく分からん」
「我々、夢を見ていたのでござるか」
「違う。夢ではない。きっと、飛行機に始まり嫌な出来事の波状攻撃を受けて、俺が打ちのめされているのを察知したれもんちゃんが、マジカルパワーで励ましてくれたに違いない」
「そんなことがありまするか」
「知らんが、そうとしか思えん。見ていて楽しかったし、元気になった」
「それでは、今のは『劇団れもんちゃん』の出し物、『おとぼけ観光大臣ちゃん』でござるな」
「うん。そういうことになる」
涼しい夜風が、果物のような甘い匂いを運んできて、一瞬恍惚としてしまった。
「・・・実によい夜でござるな。南国の夜も悪くない」
「うん。案外、異国も悪くない」
「そう気付かせてくれたのは、れもんちゃんでござるな」
「うん。れもんちゃんは本当に素晴らしいよ」
見上げると満天の星だった。
肌寒い風に誘われて、突然くしゃみをしてしまった。それは、広場の遥か向こうまで響き渡るような、でっかいくしゃみだった。
翌朝、ホテルのフロントで、この国は選挙が近いのか訊いてみたが、私の質問は清々しいほど見事に無視された。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。衆議院選挙の投票日。
れもんちゃんに逢いに行った。
れもんちゃんは、当然、宇宙一に宇宙一だった。感動の嵐が吹き荒れた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、「ああ、この前の出張のときは、応援してくれてありがとう」と言うと、れもんちゃんは、「ん?」と一瞬首を傾げたが、「うん。いつも応援してるよ~」と笑顔で答えてくれた。
れもんちゃんは、実に素晴らしい女の子である。
注)観光大臣ちゃん・・・れもんちゃんの出身地であるれもん星(これは当人が言っていることだから疑うべからず)の観光大臣。インバウンド政策に力を入れているが、バカ売れを期待して大量生産した「空気の缶詰め」の売れ行きが伸び悩み、在庫の富士山を抱えている。しかし、全然へこたれていない。私はモニター画面の粗い映像で見たことがあるだけだが、話し方、声などを考慮すると、その正体は、れもんちゃん当人である可能性が高い。
この他にも、『シン太郎左衛門』シリーズの登場人物には、金ちゃん、ラッピー、もんちゃん、(クラブロイヤルの愛想のいいスタッフさんに似た)れもん星人のような準レギュラーメンバーがいるほか、新兵衛、苦労左衛門、秋野晋作とその一族のような名前付きの者たち、あるいはA、B、T、Yなどのイニシャルで表される人物たちや、れもんちゃんダンサーズ、チクビ左衛門、お寿司ちゃん、Mさんちのお爺ちゃんのような今後再登場の見込みが全くない人々、CやK先輩のように名前を出すだけで終わった人々(彼らが出てくるエピソードは一応書いたが、論外に長くなったので、ボツにした)などがいる。
今後、これらの人物が再登場する場面があっても、今回のような注は付さない。
『シン太郎左衛門』シリーズは、れもんちゃんのクチコミだから、私のかつての交友関係やご近所付き合い等、本来全くどうでもいい話だ。
れもんちゃんが、余りにも素晴らしすぎるので、その素晴らしさに対抗しようと援軍をかき集めたら、このような状況になってしまったものとご理解いただきたい。
シン太郎左衛門と『おとぼけ観光大臣ちゃん』(あるいは『選挙の季節』) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、図書館に行く 様
ご利用日時:2024年10月20日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。何の得にもならないのに、毎日、熱心に口笛を吹いているので、かなり腕を上げた。今は、バッハの「無伴奏チェロ組曲」にソックリの旋律を吹いている。結局、何をしたいのか分からない。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。
早く寝て明日に備えようと、さっさと身支度を整えた。布団に入って、電気を消すと、シン太郎左衛門が「父上、拙者、これから、れもん星に参りまする」と言う。
「そうか。お前一人で行け」
「うむ。拙者一人で行く」
「例の『夢でれもん星に行く魔法』を使うのだろうが、どうせまた砂漠みたいな場所に着いて、ひどい目に遭わされるに決まってる。仮に、れもんちゃんグッズのショップに行けても、れもん星のモノを持って帰れるオプションは既に使ってしまったからな。虚しく手ぶらで帰ってくるのでは悲しすぎる。俺は行かん」
「うむ。では、行って参りまする。『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん・・・』」
呪文を十回唱えて、シン太郎左衛門はイビキをかき始めた。私も、いつしか眠りに落ちたが、間もなくシン太郎左衛門に起こされた。
「父上、起きてくだされ」
「おい、どういう積もりだ!」
「拙者、れもん星から戻って参った」
「だったら、さっさと寝ろ!明日は、れもんちゃんデーなんだぞ」
「れもん星に行くには行ったが、着いた場所がビジネスホテルの一室でござった。外に出て、街を散策しようとしたが、拙者一人では部屋のドアが開けられなんだ。一緒に付いてきてくだされ」
「嫌だ」
「お頼み申す」
押し問答の結果、結局、説得されてしまった。
二人揃って呪文を唱えて、眠りに落ちた。着いたところは・・・
超高級ホテルのスイートルームだった。
「豪華な部屋だなぁ」
豪華すぎる調度品、窓の外の眺望に感嘆し、寝室の巨大なベッドの上に大の字になってみた後、バスルームに入ってみた。
「見てみろ」とバスタオルをシン太郎左衛門に差し出した。
「『ホテル・インペリアル・れもんちゃん』と刺繍がしてある。れもん星で一番のラグジュアリー・ホテルに違いない」
「うむ。父上は、このタオルが気に入ってござるな」
「その通り。このタオルは、フローラルかつフルーティーでゴージャスな香りがする。まさに、れもんちゃんが漂わせている香りだ。これをれもんちゃんに見せて、ビックリさせよう」
「しかし、持って帰ることは出来ませぬぞ」
「いや、なんと言われようが、このタオルが欲しい。ダメ元で、やってみよう。シン太郎左衛門、起きるぞ」
「無駄だと思いまする」
ホテルのタオル類をかき集めて、抱きかかえ、「よし。シン太郎左衛門、何か大きな声で叫べ」
「うむ・・・れもんちゃ~ん!!」
シン太郎左衛門の叫び声で目を覚ました。部屋の中は真っ暗だった。
「父上、タオルは?」
「・・・しまった。夢の中に置いてきてしまった」
「父上は愚か者でござる」
「それは言われなくても分かってる。シン太郎左衛門、もう一度さっきのホテルに戻ろう」
「何度やっても同じ事でござる」
「違う。タオルの件は諦めた。しかし、ホテル・インペリアル・れもんちゃんのベッドは大変寝心地がよかった。あそこで寝たい。ウチの煎餅布団とは雲泥の差だ」
「だが、父上、行き先には何の保証もありませぬぞ」
「変なところに着いたら、目を覚ませばいい。さあ行くぞ」
二人はまた呪文を唱えた。そして、眠りに落ちて、着いたのは・・・
「ここは・・・デカい図書館だ」
自宅近くの市営図書館より100倍大きな図書館だった。沢山のれもん星人がいた。
「こんな深夜でも沢山の人がいる。れもん星人はみんな読書家だ」
「やはりホテルには戻れなんだ」
「いや、図書館なら文句はない。古代オチン語の教科書を探して、短い時間だが勉強しよう」
「うむ。頭の中にしまったモノは、誰も盗れぬ」
「お前、いいことを言う。その通りだ。限られた時間で、学べるだけ学んで、れもんちゃんをビックリさせる」
やっとのことで、外国語の書架に行き着いた。膨大な数の古代オチン語の教科書が並んでいた。
「こんなに沢山あるのか。凄いなぁ。れもん星での古代オチン語熱は大したものだ。どれにしようかな・・・」
背表紙を眺めていると、数多の本と並んで、本と同程度の大きさの段ボールの箱に何やら印刷されているのを見つけた。そこには、
「大人気 『れもんちゃんと学ぶ 古代オチン語入門』は、『れもんちゃん関連図書コーナー』に移しています」とあった。
「おい、シン太郎左衛門、凄いぞ。れもんちゃんは古代オチン語の教科書を書いているんだ。おまけに、この図書館には、れもんちゃん関連の本を集めた一画があるらしい」
「うむ。それは素晴らしい。楽しそうでござる。早速行きましょうぞ」
その場所はすぐに分かった。「特別閲覧室(れもんちゃんの部屋)」と看板が掲げられていて、入り口では、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにソックリなれもん星人さんが風船を配っていた。二人はそれぞれ赤い風船を浮かせながら、特別閲覧室の敷居を跨いだ。
「実に楽しい気分でござる」
「うん。来てよかったな。見ろ。れもんちゃんに捧げられたスペースだけでも、俺が通った高校の図書室より遥かに広くて立派だ」
シン太郎左衛門は、私のズボンの裾に掴まると、スルスルとよじ登り、私の肩に腰かけた。そして、部屋の中を一望すると、「これ全部が、れもんちゃんに関わる書籍とは、普段れもんちゃんにお世話になっている我々にとっても実に名誉なことでござるな」
「うん。実に感動的だ。ただ、さっきから風船のヒモが頬っぺに当たっている。こしょばいから、止めてくれ」
入ってすぐの一番目立つ場所に大きな陳列棚があり、札が立てられていた。
「大人気『れもんちゃんと学ぶ』シリーズ 全200巻
著者:れもんちゃん
監修:れもんちゃん
イラスト:れもんちゃん
装丁:れもんちゃん」とあった。
思わず「れもんちゃんは、本当に頑張り屋さんだな~。それに比べて、お前も少しは頑張れよ」
「うむ。しかし、『れもんちゃんと学ぶ』シリーズは、全部借りられておる」
「ホントだ」
展示棚に本はなく、それぞれの配架場所に表紙のコピーが貼られていて、赤いマジックで「貸出中」と書かれていた。
「どれどれ、表紙だけでも見てみよう」
と、うち一冊の表紙のコピーを眺めてみると、
「れもんちゃんと学ぶ 初めての卓球」とあり、帯には「ラケットの作り方から楽しく学べるよ~ん」と書いてあった。
「・・・ラケット作りから学ばなければならないのか」
「随分と本格的でござる」
「卓球選手って、自分でラケットを作るのか?そこまでしなければならんのだろうか・・・」
「父上、こっちのはもっと凄い」
シン太郎左衛門が指差す先には、「れもんちゃんと学ぶ やさしいジャズピアノ」とあり、帯には「基礎(ピアノの作り方)から楽しく学んじゃうよ~ん」とあった。
「ピアノまで作っちゃうのか・・・れもんちゃんの拘りは凄いなぁ」
「実に遠大な計画でござる」
「これは、俺には無理だ。俺に残された時間はわずかだ。この本でジャズピアノを学び始めたら、ピアノを作り終える前に死んでしまう。一曲も弾けるようにならない」
「やはり、れもんちゃんは只者ではござらぬ。こちらには、『れもんちゃんと学ぶ 誰でもできるおウチのお片付け』がござる。帯は付いておらぬが、おそらく家を建てるところから始めるものと思われまする」
「れもん星人って、寿命が凄く長いのかなぁ」
「うむ。れもんちゃんは永遠に不滅でござる」
結局、沢山本が並んでいると思ったのは錯覚で、「貸出中」と上書きされた表紙のコピーばかりだった。「れもんちゃんと学ぶ」シリーズ全200巻だけでなく、れもんちゃんの自伝「結局全部ヒミツだよ~ん」も、スイーツ・グルメレポート「完食そして大満足」も、表紙を見ているだけで優しい気持ちに包まれる絵本「光と風と脚長ワンちゃん」も、現物は一冊もなかった。二人は落胆の余り、溜め息を吐いた。
「れもんちゃんは、作家としても大人気すぎる。俺たちに与えられたのは、表紙ばかりだ」
「どれも気になるが、拙者、脚長ワンちゃんの絵本はどうしても読みたかった」
「俺は、れもんちゃんの自伝が気になってしょうがない」
ちなみに「完食そして大満足」については、帯に「れもん星の観光大臣ちゃんも大絶賛!!」とあったので、「これは、いわゆる自画自賛に当たる恐れがある」と親子でヒソヒソ話をした。
れもんちゃん作品が全部借りられていて、すっかり気落ちしかかったとき、シン太郎左衛門が、「あっ、あちらに借りられていない本がありまする」と叫んだ。
首が捻挫するほど、勢いよく振り返って見たが、そこに置かれた本はどこか様子が違っていた。
「・・・ここにあるのは、れもんちゃんの本じゃない。『れもんちゃんにゆかりのある人たちの本』のコーナーだ・・・『武士の手料理 おむすび編』、『武士の手料理 お稲荷さん編』、くだらん本だなぁ・・・筆者の名前は書いてないが、もしかして、作者はお前か?」
シン太郎左衛門は、吐き捨てるように、「拙者、本など書いたことはない」
「武士の手料理 おむすび編」を手にとり表紙を捲ってみた。
「なんだ、これ。本文が2ページしかない。それも大半が下手くそなイラストだ・・・お前の本だろ」
「違う!」
「武士の手料理 おむすび編」を棚に戻そうとしながら、隣の本に目が止まった。「あっ!これは、富士山シン太郎左衛門 作と書いてあるぞ。帯に『武士の手料理』の著者による下品極まりない官能小説、と書いてあるじゃないか!タイトルは『そもそも、れもんちゃんのオッパイは・・・』って、お前、最低だな」
「このようなものを書いた覚えはござらぬ。そもそも、我々、今夢を見ておるのでござる。所詮、これは夢の話でござる」
「普段からイヤらしいことばかり考えているから、こんなことになるのだ」
富士山シン太郎左衛門著「そもそも、れもんちゃんのオッパイは・・・」を手に取ってみた。異様に重たかった。
「なんだ、これ?辞書みたいに分厚いが、全ページ、開けないようにガチガチに糊付けされてる。まるでレンガだ。それに『有害図書』のスタンプが押されてる。お前、れもん星で、どれだけ厄介者扱いされてるんだ!」
「まったくの濡れ衣でござる」
「だから普段から言ってるだろ!お前の考えていることをそのまま書いたら不掲載になるって」
「拙者は悪くない!」
「うるさい!こんな不名誉な本を出しやがって。れもんちゃんに申し訳が立たん。切腹しろ!」
シン太郎左衛門は、顔を真っ赤に上気させ、
「いやだっ!!そんなことをしたら、れもんちゃんに会えなくなるじゃないかっ!!」
シン太郎左衛門の叫び声で目を覚ましてしまった。
部屋の中は、真っ暗だった。
そして、翌日、日曜日、れもんちゃんデー。
我々親子は、ウキウキとして、れもんちゃんに逢いに行った(もちろんJRの新快速だよ~ん)。
れもんちゃんは余りにも宇宙一に宇宙一で、我々は感動のブラックホールに吸い込まれていった。
帰り際、れもんちゃんに、「ところで、シン太郎左衛門の本の件では、迷惑かけてゴメンね」と言うと、れもんちゃんは少し表情を変え、唇の前に人差し指を立てて、「その話は絶対にヒミツだよ」と言った。
れもんちゃんの少し慌てた様子もまた宇宙一可愛いのであった。
ということで、今回のクチコミ、書くには書いたが、公開には余りにも大きな問題がありそうだ。一応投稿するが、ほぼ確実に不掲載となるだろう。
シン太郎左衛門、図書館に行く 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『父上の正体』(あるいは「ウーパールーパーは電気オヤジの夢を見るのか」) 様
ご利用日時:2024年10月13日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は、よく口笛を吹いている。れもんちゃんを讃える曲らしいが、バッハの「ブランデンブルク協奏曲」を思わせる旋律を軽やかに吹きこなす、そんな武士らしくない武士である。
夏の疲れが抜けきっていないのか、私は最近ボーッとしていることが多い。地に足が着いていないような、宙に浮いたような、幽霊にでもなった気分だった。
今日は日曜日。れもんちゃんデー。
朝、シン太郎左衛門が、私の顔をマジマジと見て、何か言いたげな様子だったのを覚えている。しかし、余りにもボーッとしていたから、そこからどんな会話をしたのか、ほとんど記憶していない。多分、以下のようなことを話した気がする。
シン太郎左衛門が私の顔を不審げに眺めている。
「随分ジロジロと見るな。面白いか?」
「幼稚園児のお絵描きにあるような顔でござる」
「そうだろ。本当に変な顔だ」
「明らかに失敗作でござる」
「うん。でも、目鼻が付いてたら、それで十分なんだ。顔がないと色々と不便だしな」
「うむ。ところで、前々から訊こうと思っておった。実のところ、父上は何者でござるか?」
「何者って・・・今さら、そんなことを訊くか?」
「うむ。父上は、『普通の勤め人』と称してこられたが、どうにもそうは思えぬ。いかにも胡散臭いヤツでござる」
「そうかい」
「うむ。父上は、何ともウソ臭い」
「そうかぁ・・・やっと気が付いたか。お前、気付くのが遅いよ。実は、俺みたいなヤツは実在しない。俺は、れもんちゃんのお馴染みさんの一人が出鱈目に思い付いた空想上の人物なんだ」
「なんと!」
「ある日、そのお馴染みさんは、れもんちゃんの余りの素晴らしさに、生まれて初めてクチコミを書く気になったんだな。でも、どう書いていいか分からなくて、結局グチャグチャな文章が出来てしまった。『こんなの投稿できないなぁ』と思った丁度そのとき、そいつの家の隣の空き地に雷が落ちたんだな。大変な衝撃とともに雷の電気が地を揺るがして、期せずして、その支離滅裂な文章と合体してしまった。そうして生まれたのが俺、『妖怪 電気オヤジ』だ」
「なんと、なんと。怪しい者とは踏んでおったが、父上が、かの有名な『妖怪 電気オヤジ』であったとは・・・確かに、そんな出鱈目なヤツ、実在する訳がござらぬ・・・ところで、父上の生みの親である『れもんちゃんのお馴染みさん』とは何者でござるか」
「うん。そいつは、そいつで、俺が勝手に思い付いた空想上の人物だ。でも俺は直接会ったことがないから、そいつのことは、よく知らない」
「そやつ、おそらく『妖怪 ミイラ取りがミイラになる』でござる。拙者、かつて会ったことがござる」
「そうなの?」
「うむ。そやつ、またの名を『妖怪 カッパの川流れ』と言う。拙者と旧知の仲である『妖怪 鬼に金棒』同様、当然、実在いたさぬ空想上の生き物でござる」
「お前、妖怪のことに詳しいね。お前の知り合いの妖怪は、大体みんな名前が諺なの?」
「うむ。ところで、父上。父上が想像上の人物ということであれば、拙者までもが空想上の人物とはなりませぬか」
「いや、そうはならんな。お前は、俺が『父上』であることの論理的帰結に過ぎん。父には息子が漏れなく付いてくるからな」
「ああ、なるほど。拙者は『論理的帰結』でござったか」
「そうだ。加えて武士でもある」
「いかにも、拙者、武士でござる。二つ合わせれば、『論理的帰結系武士』でござるな。拙者、実に立派なモノでござる」
「そんなでもないよ」
「いや、立派でござる」
「ちっとも立派じゃないよ」
「いや、実に立派だ」
というような全く意味のない、堂々巡りの議論が続いたが、意識が朦朧としていた私は突然正気に戻った。
「あっ!こんなことはしてられん。そろそろ、れもんちゃんタイムだ」
「おお、実に正確な時間感覚。出発の準備をいたしましょう」
「いつものアレに乗るぞ」
「いつものJR新快速、通称『それいけ!れもんちゃん号』でござるな」
「うん・・・とりあえず出発だ」
そして、れもんちゃんに会いに行った。
当然、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらっているとき、シン太郎左衛門が例の「父親の口を使って話す魔法」を唱え出した。
魔法で身体がビリビリと、まるで感電したように痺れてしまい、毎度のことながら自分では理解不能なことを喋らされた。自分が話していながら、会話に付いていけない感覚は、実に奇妙なモノだった。れもんちゃんとシン太郎左衛門の会話の中に「ウーパールーパー」が何度か出てきたような気がした。
帰りのJR新快速の中、シン太郎左衛門が嬉しそうに話し始めた。
「先刻、れもんちゃんと語らってござる」
「知ってるよ。喋ったのは俺だからな。それで何を話したんだ?」
「うむ。全ては語れぬが、触りだけ教えて進ぜよう。れもんちゃんに、『拙者、実は論理的帰結でござった。論理的帰結系武士でござる』と言うと、『すご~い。よかったね』と喜んでくれた」
「そうかい」
「続いて、『かたや、父上は空想上の生き物と判明いたした。実に情けない。ウーパールーパーと同列でござる』と言うと・・・」
「ウーパールーパーは実在するがね」
「れもんちゃんは『そうなんだね。父上さん、かわいそう~。しっかり慰めてあげてね。ウーパールーパーも慰めてあげてね』と、実に優しさに溢れてござった」
「確かに、れもんちゃんは優しさに溢れてるよ。お前のトンチンカンな発言に対して、実に優しさ溢れる『卒のない受け流し』だ。感心したよ。ところで、お前、『論理的帰結』が何だか知ってる?」
「・・・それを訊きたいと思っておった」
「じゃあ、早く訊けよ。むっちゃ簡単に言うと、『どうしても、そうなってしまうもの』だな」
シン太郎左衛門は、何を勘違いしたのか、大変に満足げであった。
「うむ。間違いない。拙者、誰が何と言おうと、武士でござる」と言って、何度か頷いた後、れもんちゃんに捧げる「ブランデンブルク協奏曲」風の楽曲を口笛で吹き始めた。
短い秋は、すでに深まりつつあった。シン太郎左衛門の口笛は、高速で走り続ける列車の音に掻き乱されることもなく、れもんちゃんを讃え続けている。
どう考えても、れもんちゃんは素晴らしすぎた。
そして、れもんちゃんは福原に実在する。
シン太郎左衛門と『父上の正体』(あるいは「ウーパールーパーは電気オヤジの夢を見るのか」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とれもんちゃんのマネージャー 様
ご利用日時:2024年10月6日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。定かな記憶ではないが、本シリーズは約70回を数えるはずだ。シン太郎左衛門とは、100回をもって本シリーズを終わらせて、その後は「劇場版シン太郎左衛門」を数作作ろうと話している。
昨日は土曜日、れもんちゃんイブ。
つまり、翌日は大事なれもんちゃんデーだから、土曜の夜更かしは禁物である。
夜10時を回り、そろそろ休もうと思っていると、シン太郎左衛門が話しかけてきた。
「父上、聞かれましたか。れもんちゃんの新しいマネージャーは、飛んでもないポンコツとのことでござるな」
「そうなの?初耳だ。新しいマネージャーどころか、れもんちゃんにマネージャーが居ること自体、知らんかった」
「れもんちゃんぐらいの人気者ともなれば、日々秒に追われて暮らしておる。マネージャーは欠かせませぬ」
「そうだったのか。いつも、れもんちゃん、ノ~ンビリとした感じで接してくれるから、そんなこと考えもしなかった」
「父上は実に世慣れぬウツケ者。そういうことだから、いつまで経っても、周囲の信頼が得られないのでござる」
「周囲の信頼なんて要らんね。超高級ウイスキーと同じで、俺には何の役にも立たんからな。それより、れもんちゃんの新しいマネージャーは、どうポンコツなんだ?」
「うむ。れもんちゃんの新しいマネージャーさんは、女性でござる」
「そうかい。俺の質問には答えていないが、重要な情報だ」
「年は四十と五十の間で、派手な化粧をしてござる」
「それも、まあまあ重要な情報だ」
「左の耳に小さなホクロがある」
「それは、もう全く重要じゃない!さっさと俺の質問に答えろ、このポンコツめ!れもんちゃんの新しいマネージャーは、どうポンコツなんだ!?」
「うむ。頻繁に、れもんちゃんにお小遣いをねだるそうでござる」
「・・・そんな理由で、ポンコツとは言わんだろ?仕事ぶりと関係ない」
「うむ。仕事ぶりと言えば、先日、某ファッション雑誌から『れもんちゃんの冬コーデ』の特集を組みたいとの依頼を受けたとき、マネージャーさん、言下に『今、れもんちゃんは忙しいから、できましぇ~ん!』と電話を切り、代わりに三宮駅前のティッシュ配りの仕事を入れようとして、れもんちゃんに怒られた」
「そりゃ怒られるだろ」
「その日、その時間は、クラブロイヤルの出勤でござった故、優しいれもんちゃんも『ダメだよ~』と、たしなめたとのことでござる」
「甘過ぎないか?俺なら窓の外に放り投げるけどね」
「うむ。れもんちゃんは至って心の優しい娘でござる」
「それは間違いない」
「さらに別の日には、大手広告代理店から、れもんちゃんに音楽活動の企画提案があった。れもんちゃんが歌う『卒業写真』や『異邦人』など昭和の懐メロをネット配信し、今年の暮れは東京ドームを昭和オヤジで一杯にしようという計画でござったが、マネージャーさんは、これも『今、れもんちゃんは忙しいから、できましぇ~ん!』と言下に断った」
「ポンコツの域を越えている。俺は、れもんちゃんの『異邦人』を聴きたかったぞ!」
「その代わりに、マネージャーさん、配送センターでの仕分けの仕事を入れようとして、やっぱり、れもんちゃんに怒られた。お店の出勤日と丸被りしておったので、れもんちゃんも呆れて、『そんなことしちゃダメだよ~』と、パチパチとまばたきをした」
「ひどいもんだなぁ・・・れもんちゃんが気の毒で、腹が立ってきた」
「うむ。ひどい話でござる」
「マネージャーに腕がないと、タレントが台無しだ。ところで、お前、この話をれもんちゃんから聞いたのか?」
その問いに、シン太郎左衛門は、ハッとして、押し黙ってしまった。
「どうした?なぜ黙っている?」
「父上、今の話、忘れてくだされ」
「なぜだ?」
「それは言えぬ」
「・・・あっ、分かった。今のは、れもんちゃんとお前が古代オチン語で交わした内緒の話だな。『絶対にヒミツだよ~』と強く念押しされてたのに、ベラベラ喋ってしまったんだな」
「そうではござらぬ」
「違うの?・・・じゃあ、何で、今のマネージャーの話を忘れなけりゃならんのだ?」
「よく考えたら、今の話は、丸っきり拙者の思い付きでござった」
「・・・マジで?」
「マジで」
「口から出任せ?」
「うむ。無自覚のうちにホラを吹いておった。れもんちゃんにマネージャーがいるとか拙者が知る訳がない」
「おい!寝言は、寝てから言え!これから寝ようと思ったのに、眠気が失せてしまった」
「あい済まぬことでござる」
「お前なぁ~、『シン太郎左衛門』シリーズは、これまで真実一筋でやってきたんだぞ!なんてことをしてくれたんだ。この愚か者め。反省しろ!」
「うむ。反省いたしてござる。もう二度とホラ話はいたしませぬ」
「よし。それでは今回に限り許してやろう。ところで、そのマネージャーは、まだクビになってないのか?」
「うむ。まだクビになっておりませぬ。昨日も、とある化粧品メーカーから、れもんちゃんをテレビCMに起用したいと打診を受けて、マネージャーさんが『れもんちゃんは今忙しいから、できましぇ~ん!』と言う前に、れもんちゃん自身が断ってござる」
「断っちゃったんだ・・・理由は?」
「つまらなそうだから」
「れもんちゃん、大胆だな・・・」
「うむ。れもんちゃんは大胆極まりない」
と、こんな話をした。
そして、今日は日曜日、れもんちゃんデー。
JR新快速の窓から、青空に柔らかそうな雲がポカポカと浮いているのを眺めながら、れもんちゃんに会いに行った。
やっぱり、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんのお見送りを受けながら、「れもんちゃんには、マネージャーがいるの?」と訊いてみた。当然、「それはヒミツだよ~」と言われるのを覚悟していたが、れもんちゃんは、ニッコリと微笑み、
「うん。ワンちゃん、飼ってるよ」と、嬉しそうに言った。
帰り道、そのやりとりについて、しばらく考えたが、よく分からない。れもんちゃんが私の質問を聞き違えたのか、それとも、れもんちゃんのマネージャーが実際にワンちゃんなのか、答えはいまだに出ていない。
シン太郎左衛門とれもんちゃんのマネージャー 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもん星の秋』 様
ご利用日時:2024年9月29日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。涼しくなってきたので、嬉しそうにしている。
昨日は土曜日、つまり、れもんちゃんイブ。
夜、仕事から疲れて帰ってきて、パッと食事を済ませて、寝る準備をしていると、シン太郎左衛門が話しかけてきた。
「早くもお休みでござるか」
「うん。クタクタだし、明日は大事なれもんちゃんデーだから、もう寝ることにする」
「うむ。それは好都合。拙者もご一緒つかまつる。拙者、これから、れもん星に参りまする」
「そうか。強く念じたら、そういう夢が見れるかも、という話だな」
「違いまする。確実に行けるのでござる」
「ふ~ん。その自信の根拠は?」
「古代オチン語の魔法書に書いてあった呪文を使いまする」
「そんなのがあったのか?」
「うむ。『父上の口を使って話す魔法』だけでなく、『夢でれもん星に行く魔法』を覚えてござる」
「そうか・・・そんなの使わなくても、結構な頻度で行けるけどな。『財布の中身を倍にする魔法』にしときゃよかったのに」
「うむ。こっちの方が覚えやすかった」
「そうか。まあいいや。それで、れもん星に行って何をするんだ?」
「うむ。季節は秋。れもん星に行き、秋の新作を求め、明日れもんちゃんにお見せ致しまする」
「なるほどね。しかし、一口に『秋の新作』って言っても、色々とある。秋の新作スイーツもあれば、新作ファッションもある。何を持って帰る積もりだ?」
「それは行ってみなければ、分からぬ。とにかく、『れもん星の秋の新作』を持ち帰り、れもんちゃんを驚かせまする」
「『行ってみなけりゃ』って、そんな適当な考えではダメだろ。ロクな結果にならんぞ」
「いやいや、そこは拙者にお任せくだされ。何にせよ、持ち帰るのが大事。この魔法、生涯に一度しか使えぬが、確実にれもん星のモノを得て帰ることができまする」
「えっ?夢の中から、こっちの世界に持って来れるってこと?」
「うむ。それが、この魔法の値打ちでござる」
「それは素敵だ!また、いつもみたいに、目覚めたら、夢の世界に置き忘れてきたって結末じゃないんだな。そういうことなら俺も行く。れもんちゃんグッズを大量にゲットだ」
ということで、さっさと床に就くと、リモコンで明かりを消し、
「よし。では、呪文を教えろ」
「うむ。『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん』と10回唱える」
「なるほど、大変に覚えやすい・・・ふざけるな!」
「ふざけてはおらぬ。さっさと、唱えなされ」
こんなのダメだろ、とは思ったが、闇の中で天井を見上げながら、言われたとおりに呪文を唱えた。
「これだけ『キリンれもん』と言わされたら、口の中がシュワシュワしてきた。せっかく歯を磨いたのに、磨き直したい気分だ」
シン太郎左衛門も呪文を唱えた。
二人揃って眠りに落ちた。
やがて・・・
目を射るような日差しに、思わず目の上に掌を翳した。
「ここはどこだ?!」
「れもん星でござる」
「砂漠じゃないか!広大な砂漠だ。写真で見たサハラ砂漠にそっくりだ」
「うむ」
「『うむ』じゃない!こんなところに、れもんちゃんグッズが売ってるか!見ろ。砂しかない」と、焼け付くような熱い砂を両手に掬って、「ここには、こんなものしかない。この砂が秋の新作か?どう見ても何億年も前からある旧作の定番商品だ」
「まあ、落ち着かれよ」とシン太郎左衛門は、私のパジャマのズボンの裾にすがり付いて、スルスルと登り始め、やがて私の肩の上に乗った。
「なんてこった。ああ、この日差し、夏に逆戻りしている。眩しくて目を開けているのもツラい」
「父上、あれをご覧なされ」とシン太郎左衛門が指差す辺りを、目を細めて見やると、
「あっ、あれは!」
「うむ。れもん星立第一中学校の巨大ビル群でござる」
「ほんとだ。あっちの方角が街なのは分かった。しかし、遥か先だぞ」
「ざっと50キロほどでござる。行きましょうぞ」
「そんなに歩けるか!」
「いや、行くしかあるまい」
「着く前に目覚ましが鳴ってしまうわ!」と、不満を言ったものの、砂漠の真ん中に留まる訳にもいかず、ボチボチと歩き始めることになった。
砂地は足元がおぼつかず、たちまち疲れてきた。
「お前はいいよな。そうやって、オウムのように肩に乗っときゃいいんだから」
「何度も言うが、拙者、音からすると、インコでござる」
繰り返すほどのネタかよ、とシン太郎左衛門に一瞥をくれると、いつの間にか、麦わら帽子をかぶり、サングラスを掛け、手にはカップのかき氷を持っていた。
「お前、随分手回しがいいな。最初から行き先が砂漠だと知ってたのか?」
「砂漠とは知らなんだが、『備えあれば憂いなし』と申しまする」
「そうだね・・・ああ、ラクダでも落ちてないかなぁ」と、思わず溜め息を漏らすと、シン太郎左衛門が、
「あっ、あそこに何かありまする」と指差す先、砂に紛れてA4のコピー用紙のようなものが見えた。砂に足を取られながら駆け寄り、手に取って読んだ。
「ラクダに乗ると楽だ」
丸めて捨てた。
「父上、何と書いてありましたか」
「言いたくない。ダジャレだ。オヤジギャグが好きなれもんちゃんでも呆れるレベルだった」
それから更に歩いた。第一中学校は、やはり遥か彼方だった。
「全然近づいてる気がしない」
額の汗を拭って、大きな溜め息を吐いた。
「もう諦めよう。砂を持って帰って、れもんちゃんに見せよう。そして、『ほら、見て見て、凄いでしょ?サラサラの砂だよ』って言おう」
そう弱々しく呟いたとき、私の脇を一人の男が「御免」と言いながら通りすぎた。
伸びた髪を結い上げて、黒い馬乗り袴を着た人物は、腰に大小を挿していた。後ろ姿だけで分かる、どう見ても武士だった。
シン太郎左衛門は、すかさず、「もし。そこのご仁」と呼び止めた。クルッと振り向いた姿は、まさしく野武士だった。
「拙者に御用か」
「うむ。拙者、富士山シン太郎左衛門と申す武士でござる。不躾ながら、貴殿、馬をお持ちでないか」
私の肩の上のシン太郎左衛門から、そう尋ねられて、髭面の武士は、「拙者は、秋野晋作。武士でござる。馬は持たん」
私は、溜め息混じりにシン太郎左衛門に囁いた。
「ほら見ろ。だから言ったろ。ちゃんと最初に買うモノを決めておかないから、こういうことになる。『秋野晋作(あきのしんさく)』って言ってるぞ。こんなの持って帰るのは嫌だからな」
シン太郎左衛門は、私の言葉を無視して、
「馬は持たれぬとな。では、ラクダをお持ちでないか?」
シン太郎左衛門、懲りないヤツだった。
「ラクダ?ラクダなら、ほれ、あそこに拙者の父、秋野久作も連れておる」
秋野晋作が指差す砂丘の頂、老いてなお颯爽とした武士がラクダの手綱を引いていた。
「そして、母のお竹、兄の良作、弟の凜作と正作、拙者の妻お夕、息子の晋吾と晋平、娘のお千代・・・」
砂丘の陰から一団の武士とその一族郎党、そして沢山のラクダがワラワラと姿を現した。
「・・・凜作の妻お美代、息子の平助と源助、お美代の母お鶴、ラクダのシン太郎左衛門・・・」
秋野晋作の一族紹介は続いていたが、
「一体何人出てくるんだ。とても全員の名前は覚えられん。何なんだ、この砂漠は!」
「うむ。れもん星には実に大きな謎が潜んでおるようでござる」
「れもん星は謎だらけだ。れもんちゃんと一緒だ。俺の想像を遥かに越えている。もしかすると、この砂漠には、『シン太郎左衛門』誕生の秘密も隠されているのかもしれない」
「うむ。いわゆる『人類補完計画』でござるな」
「・・・お前、ちゃんと考えてから発言しろ!!」
と、叫んだ瞬間に、自分の声で目を覚ましてしまった。
外は、まだ真っ暗だった。
シン太郎左衛門を暗闇の中で座らせて、こんこんと説教をした。
結局、足に付いた砂以外、何も持ち帰れなかった。
そして、翌日。今日は日曜日、れもんちゃんデー。JRの新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、言うまでもなく、宇宙一に宇宙一だった。
我々親子は、昨晩のことはともかく、れもんちゃんのお蔭で宇宙一の幸せ者になった。
お見送りをしてもらいながら、れもんちゃんに訊いてみた。
「れもん星には大きな砂漠があるんだね」
「うん。小学一年生のとき、遠足に行った。ラクダさんがいるよ。楽しい武士の一族も住んでる。一緒に鬼ゴッコした」
「そうかぁ・・・だから、れもんちゃんは武士の扱いに慣れているんだね」
「うん。そうなの」
そう言ってニッコリ笑ったれもんちゃんは、宇宙一可愛かった。
シン太郎左衛門と『れもん星の秋』 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもん星バスツアー』 様
ご利用日時:2024年9月22日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。残暑がキツくて、バテ気味な武士である。
今日は日曜日、つまり、れもんちゃんデー。
朝9時、目を覚ました後、私は敷き布団の上でアグラをかき、しばし腕組みをしていた。どうにも釈然としない気分のうちに「う~ん」と唸った。股間からシン太郎左衛門が同じく「う~ん」と唸る声がした。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「起きておる」
「俺は夢を見た」
「うむ。拙者も夢を見てござる」
「れもん星に行ったぞ」
「拙者も、れもん星に行ってござる」
「『☆れもんちゃんと行く☆ れもん星立第一中学校見学バスツアー』に参加した」
「拙者も同じでござる」
「そうか。思えば、確かにバスの隣の席にお前がいた。シートベルトをするのに大変苦労しているようだった」
「親子揃って同じ夢を見ておったのでござる。我々の席は最後列でござった。父上は乗車早々、鼻歌を歌って、乗客全員から一斉に舌打ちをされておった」
「バスガイド姿のれもんちゃんの登場が楽しみすぎて、思わず鼻歌が出てしまったのだ。猛烈なバッシングに遭って、平謝りに謝った」
「それにしても、父上の音痴はひどい。先日も・・・」
「話題をバスツアーに戻そう」
「うむ。定刻、梅田駅前からバスが出発し、ややあって、最前列で人の動きがあったから、心待ちにしていた、バスガイドのれもんちゃんの登場かと思うたところが・・・」
「いつもクラブロイヤルの入り口で満面の笑みで出迎えてくれる、感じの良いスタッフさんとそっくりな人物が通路に立って、『本日は、れもん観光のバスツアーにご参加ありがとうございます』と言ったもんだから、車内は騒然となった」
「うむ。拙者は、やっとの事でシートベルトを装着し、『全日本れもんちゃんファンクラブ 近畿地区代表』のタスキを掛けたところでござった。父上が大きな声で『これは、れもんちゃんと行くバスツアーではないのか?!れもんちゃんのバスガイド姿を楽しみにして来たんだぞ!!』と訴えると、乗客全員から拍手が湧き上がった」
「うん。さっきの鼻歌での失態を帳消しにしてやった」
「うむ。そんなお客様の声に運営サイドから釈明の一つもあるかと思いきや、スタッフさん、平然と『れもんちゃん』のタスキを肩から掛けただけでござったな」
「そうだ。思わず『おい!タスキ一つで、この状況を打破できると思うな!やってることが、シン太郎左衛門と同レベルだぞ!反省しろ!』と言ってやったが、ヘラヘラ笑っていて、タスキも外さんかった」
「乗客全員が怒り出し、『タスキを外せ!!』と怒りの大合唱が起こってござる。彼奴のせいで、拙者まで肩身が狭かった」
「それでもスタッフさんは悪びれる様子もなく、『それでは、間もなく、れもん星立第一中学校に到着致します。皆様、降車の準備をお願い致します』と、ニコニコしていた。俺は、彼にそっくりな人に、いつも感じのよい対応をしてもらってるから、まあ、いいか、とそれ以上何も言う気にならんかった」
「うむ。クラブロイヤルのスタッフさんたちは、みんな良い人でござる」
「そうだ。それにしても、れもん星立第一中学校は凄かったな。バスから降りてビックリした」
「うむ。さすがは、れもんちゃんの母校でござった。どれだけ広いのか皆目見当が付かなんだ」
「六本木ヒルズみたいなデカいビルが、これでもかと建ち並んでいた。興奮して、『これ全部、校舎なの?』って、スタッフさんに訊いたら、『さあ・・・』って首を傾げただけだった。全くガイドの用を為していなかった」
「うむ。そこに、第一中学校の生徒さんたちが合流して、『それでは、ここからは各見学コースに分かれます。案内は、第一中学校の二年生の皆さんにお願いいたします』とのアナウンスがござった。拙者は卓球練習場を見学致した」
「俺は、古代オチン語体験レッスンを受けた。このコースの参加者は俺一人だった」
「卓球練習場の見学も拙者一人でござった。案内役は中学生ではなく、例のスタッフさんでござった」
「えっ?それは、おかしい。俺も、同じ時間に例のスタッフさんから古代オチン語を教わってたんだが・・・まあ、いいや」
「うむ。細かいことを気にしてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そうだな。しかし、卓球練習場とは、何ともマニアックな見学場所だ。れもんちゃんが、かつて練習に汗を流した場所だという以外に見学する値打ちがない」
「ところが、そうではない。この卓球練習場が、大変な代物でござった」
「そうなの?」
「とにかく巨大な建物でござった。見渡す限りの卓球台、その数、100万は下りますまい」
「それは凄いなぁ」
「とにかく広大でござるゆえ、拙者、スタッフさんの肩に止まらせてもらい、ぐる~りと遠くまで見渡した」
「お前、オウムかよ」
「拙者、オウムではござらぬ。むしろ、音ならインコに近い」
「え?・・・ああ、下らん!」
「れもんちゃん好みのギャグでござる」
「知らん。しかし、そんな沢山の卓球台で何百万という人たちが卓球をしている光景は壮観だろうな」
「いや、それが、そうではござらぬ。1キロほど先で、一組の老人が練習しているだけでござった。まるで卓球台で出来た砂漠のような風景でござった」
「ふ~ん。そんな景色の中で、中学生でもラクダでもなく、老人二人が卓球してたのか・・・よく分からんな」
「うむ。全くよく分からぬ光景でござった。すぐに見るものもなくなったので、スタッフさんに、中学生時代のれもんちゃんのことを尋ねてござる。すると、『れもんちゃんは、卓球が凄く強かったですよ。れもんちゃんサーブやれもんちゃんレシーブ、れもんスカッシュなどの必殺技を繰り出して、相手がプロ選手でも、片っ端からなぎ倒してました』との答えでござった」
「待て待て。さすがに『れもんスカッシュ』はない。『れもんスマッシュ』の間違いだろう」
「拙者もおかしいと思い、『れもんスカッシュ?れもんスマッシュの間違いでござろう』と訊き直した。すると、『いいえ。れもんスカッシュです』との答え。『いくらなんでも、卓球の試合中に、れもんスカッシュはいかん』と伝えると、『へへへ。ですよねぇ』と、だらしなく笑って、『ところで・・・ガシャポンします?』と訊くので、『せぬ!』と答えてござる」
「・・・何だ、この下らない話は?」
「話ではなく、事実をありのまま語ってござる」
「そうか・・・そうだよな・・・『シン太郎左衛門』シリーズに嘘はない」
「うむ。ところで父上の古代オチン語体験レッスンの方はいかがでござったか」
「ああ。俺は、なんか雑居ビルの小さな会議室みたいな場所に連れて行かれた。そこで、先生に、といっても例のスタッフさんなんだが、『それでは、みなさん。古代オチン語の授業を始めるよ~ん』と言われたので、俺一人なのに『みなさん』と言うのはやめてほしい、れもんちゃんじゃないのに語尾の『よ~ん』はやめてほしいと伝えた」
「真っ当なご意見でござる」
「ただ全く聴いてもらえんかったがね。『それじゃ、今日は、みんなと古代オチン語の挨拶を勉強しちゃうよ~ん。古代オチン語の挨拶は、ズビズバ~!って言うんだよ~ん』って言うから、『待て待て。それは、左卜全とひまわりキティーズの、老人と子供のポルカだろ?』と言い返したが、スタッフさんは、それを無視して、
『ズビズバ~!っ言われたら、パパパヤ~!って答えるんだよ~ん』
『ウソだ!』
『ウソではありませんよ。いや、すみません。ウソじゃないよ~ん!』
『そんなこと、わざわざ言い直すな。ズビズバ~!パパパヤ~!って、まさに、老人と子供のポルカだ。やめてケレ、やめてケレ、やめてケ~レ、ゲバゲバ、だ』
『何言ってるか、0.1ミリも分からないよ~ん』
と、それから虚しい議論が続いて、結局、バスが出る時間になってしまったのだ。慌ててバスに駆け込むと、待たされた乗客全員から白い目で睨まれて、舌打ちされて、小さくなっているうちに着いたところが東京駅の八重洲口だったから、『うそ~、梅田じゃないの?これから新幹線で帰るのかよ~』って、うんざりしたところで、目覚ましが鳴った」
「なるほど・・・クソくだらぬ話でござるな」
「そうだ。実に下らない話だが、『シン太郎左衛門』シリーズは一作残らずクソくだらぬ話なのだ・・・ところで、古代オチン語の挨拶って、ほんとに『ズビズバ~!』なのか?」
「うむ。実は、古代オチン語には、膨大な数の挨拶の言葉がありまする。古代オチン語能力検定2級の拙者は知らぬが、超1級合格者のれもんちゃんなら分かるかもしれませぬ」
「そうか。シャープやアスタリスクもないから、どうも古代オチン語っぽくないが、念のために、れもんちゃんに確認しよう」
こんな会話をした。外は雨だった。
そして、その後、ズボンの裾をずっぽり濡らして、れもんちゃんに会いに行った。
待合室で案内を受けて、れもんちゃんにお出迎えしてもらった。いつものことながら、宇宙一に宇宙一に可愛いお出迎えだった。
その可愛さに、しばし見とれてしまったが、(いかん、いかん)と気持ちを新たに「ズビズバ~!」と言ってみた。言ってみた後で、相当の羞恥心に襲われた。
れもんちゃんはキョトンとしている。
これは違いそうだと思ったが、念のため、もう一度「ズビズバ~!」と言ってみた。
恥ずかしさは初回の半分だったが、れもんちゃんは怪訝そうな表情を浮かべている。
これ以上繰り返したら、何もせぬうちに帰らされる危険を感じたので、「いや、『ズビズバ~!』が古代オチン語の挨拶だって教えられたけど、担がれたみたいだ」と言うと、れもんちゃんは可愛く首を傾げて、
「ああ、Zjub% z#v@! だね。Zjub% z#v@! って言われたら、P@b@b#h yo@! って答えるんだよ」と教えてくれた。
「それは、とても発音できないなぁ。ちなみに、古代オチン語の挨拶って沢山あるんだってね」
「うん。たくさん、たくさんあるよ~。特殊なのが、たくさんだよ。Zjub% z#v@!もほんとに特殊なときしか使わないんだ」
「どんなときに使うの?」
「それは・・・秘密じゃないけど、秘密だよ~」
やっぱり、れもんちゃんには可愛い秘密が一杯だった。
そして、いつも多かれ少なかれ私の理解を越えているのであった。
れもんちゃんは、今日もやっぱり宇宙一に宇宙一だった。
シン太郎左衛門と『れもん星バスツアー』 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の新作ラップ 様
ご利用日時:2024年9月15日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は「キャッシュ・レジスタを買ってくだされ」と、うるさくせがんで付きまとってくる、そういうタイプの武士である。
さて、今日は日曜日。つまり、れもんちゃんデー。
朝食を済ませて、ボーっとしていると、シン太郎左衛門が、ジャージのズボンからニョキッと顔を出し、
「新しいラップを作ってござる。聴いてくだされ」と言ってきた。
「『嫌だ』と言っても、歌うんだろうが、ラップかぁ・・・また、ラップかぁ・・・」と、朝からシン太郎左衛門のラップを聞くのが嫌すぎて、髪の毛を掻き毟っていると、
「今回の作品は、我ながら傑作。タイトルは、『A%*gu@tw t&kiy# *ueof#』でござる」
「うわっ、出た!古代オチン語だ。まさか、古代オチン語のラップか?ゲテモノもいいところだ。嫌だ。絶対聴かないぞ!」
「食わず嫌いは、一生の損でござるぞ」
「そんなの、どうでもいい。別に損してもいい。俺は、れもんちゃんに会えたから、それ以上のことは何も望んでない。一生このままでいい」
「いや、そうはいかぬ。聴きなされ」
Yaw#ith cr$edi kit%y&uc
Otr*eg%c in al$l ho*n es&ty%
Ej*f$stiv%c jagd#yt yi&h&f*
・・・
An*dy ju%tf Lemon-ch@n!
We are Shint@ro_z@emons!
「想像よりも長かった・・・ひどいもんだ。かろうじて最後だけ分かった。『我ら、シン太郎左衛門ズ』だ。あと一回『れもんちゃん』とも言ってた。それ以外は何一つ分からなかった」
「Lemon-ch@n は、古代オチン語で、宇宙の秩序を司る万能の女神を意味する貴い言葉でござる。しかし、拙者、『我ら、シン太郎左衛門ズ』などとは言うておらぬ」
「最後に『ウィ・アー・シン太郎左衛門ズ』って言ったじゃないか」
「聞き違いでござる。古代オチン語で『W$ ar% $hol@n t@ro z@em#ns!』とは、『れもん神へ永遠の帰依を誓う』という意味でござる。大変によく出来たラップでござる」
「分かるか!面白くも可笑しくもない」
「うむ。それは残念」
そして、しばらくすると、JRに乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も今日とて、宇宙一に宇宙一であった。
実に実に楽しい時間であった。
そろそろ、お見送りの時間となったとき、シン太郎左衛門が、前触れなしに、「Uyr%cvu#t fw&yuv#xe iy$g v%jlp・・・」と呪文を唱え始めた。
(まずい!「父親の口を使って勝手に話す魔法」だ!)
シン太郎左衛門が、新作ラップを唄うつもりなのは察しがついたが、最早止めるすべがなかった。
れもんちゃんの部屋で、私は、シン太郎左衛門に、古代オチン語のラップを歌わされた。
Yaw#ith cr$edi kit%y&uc
Otr*eg%c in al$l ho*n es&ty%
Ej*f$stiv%c jagd#yt yi&h&f*
・・・
An*dy ju%tf Lemon-ch@n!
We are Shint@ro_z@emons!
歌っている当人には、何を歌っているか全く分からないのに、れもんちゃんは、とても可愛く陽気にキャッキャッと笑っていた。
普段の私は桁外れの音痴なのに、音程もリズムも狂いがなかった。
歌い終わると、れもんちゃんは、「おもしろ~い。この曲、傑作だね」と言ってくれた。
「ありがとう」と答えたが、正直全く嬉しくなかった。
「ちなみに、最後の一節は、『ウィ・アー・シン太郎左衛門ズ』って言ってるよね?」と訊くと、れもんちゃんは怪訝な表情になり、「違うよ。『W$ ar% $hol@n t@ro z@em#ns!』は、女神を讃える言葉だよ」
「ああ・・・どうしてもそうなんだ・・・それで、この歌、結局、何の歌なの?」
れもんちゃんは、真剣な面持ちになり、「それは・・・秘密だよ」と、予想したとおり教えてもらえなかったが、ちょっと困り顔のれもんちゃんも、また大変に可愛かった。
帰りの電車で、シン太郎左衛門に、ラップの歌詞の意味をしつこく尋ねたが、頑として教えようとしなかった。
「お前は、ひどいヤツだな。教えてくれてもいいじゃないか」
「そういう訳には行かぬ。れもんちゃんが秘密と言うものを拙者が話せる訳がない」
言われてみれば、その通りだった。れもんちゃんには、可愛い秘密が一杯だった。
「ところで、俺も古代オチン語を学びたくなった。お薦めの語学学校とかないか?」
「うむ。れもん星立第一中学校」
やっぱりそうだった。簡単に学べる言語ではないのだ。
れもん星に行けるのなら、私の人生に色々と新しい展開も期待できるだろう。
しかし、私のような凡夫にとって、れもん星は余りにも遠すぎるのであった。
シン太郎左衛門の新作ラップ 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とチョンマゲ(あるいは「れもん星から遠く離れて」) 様
ご利用日時:2024年9月8日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。我が家では日曜日を「れもんちゃんデー」と呼び、祝日としている。国旗は立てない。
さて、今日は日曜日。れもんちゃんに会いに行く日。
日曜日は、いつも晴れやかな気持ちで朝を迎える。今朝も、実に清々しい目覚めであった。改めて、私の人生に日曜以外の曜日は必要ないことに深く感じ入り、腕組みの上、何度か大きく頷いていると、シン太郎左衛門が、股間から、
「ところで、父上、困ったことにバイトが見つからぬ」と言ってきた。
「・・・先行する話題がないのに、『ところで』とは言わんだろ。まあいい。お前、まだバイトを探してたのか?履歴書の用紙を全て紙飛行機にしたから、すっかり諦めたと思ってた」
「実は、諦めつつも探しておる。ついては、父上の勤め先で、拙者に相応しい仕事の空きはござらぬか」
「全く思い当たらんね。そもそもお前に相応しい仕事って、何だ?」
「例えば、社員食堂の厨房を考えてござる」
「・・・それは、お前が一番やっちゃいけないことだな」
「これは異なことを。拙者、熱いものが苦手でござる故、揚げ物やウドンの湯切りは致しかねるが、実は、おむすびを握ったり、お稲荷さんをこしらえるのは大の得意でござる」
「誰が、そんなもの、食えるんだ!俺でも食えん」
「社員さん、みんな、パン派?」
「違う!衛生上の問題だ」
「その点は、ご安心くだされ。拙者、到って綺麗好き。石鹸の消費量では誰にも負けませぬ」
「・・・風呂場の石鹸がゴイゴイ無くなる理由が分かった気がする」
「うむ。では、来週から御社の社員食堂でお世話になりまする」
「待て待て。そこまで衛生面に気を配っているなら、俺も『分かった』と言ってやりたいところだが、そうもいかん。お前は大きな勘違いをしている」
「勘違いとな」
「うん。そもそも、うちの会社には社員食堂がない」
「・・・そうなの?」
「そうなのだ。俺が出勤日の昼、欠かさずラーメン屋に行ってることから察するべきだったな」
「言われてみれば、毎日同じラーメン屋」
「だろ?ラーメン好きでもないのに、毎昼ラーメンを食べ続けると、週末近くには、グッと込み上げてくるものがある」
「それは、ごもっとも。父上も拙者も、無類のれもん好きであって、ラーメン好きではござらぬ」
「だろ?と言うことで諦めろ」
「うむ。致し方ござらぬ。それでは御社の受付嬢を致しましょう」
「察しの悪いヤツだなぁ。いいか。それは、お前が、れもんちゃんのような超絶美人でも無理だ。うちの会社には、受付がないからな」
「なんと・・・実に何にもない会社でござるな」
「そうだよ。夢も希望もない」
「よく我慢できまするな」
「だから、俺には、れもんちゃんが必要なのだ」
「うむ。確かに、れもんちゃんは人類の夢と希望でござる」
そんな話をした。そして、JRの新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、やはり宇宙一に宇宙一であり、宇宙一に宇宙一の在位期間に関する宇宙新記録(自己記録)を継続的に更新中であった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、「れもんちゃんの髪、いつ見ても本当にキレイだよね」と、しみじみ感嘆した。
れもんちゃんは、ニッコリとして、「美容院は、れもん星のお店が一番だよ」と教えてくれた。
もちろん、それは、前から知っているものの、我々のような凡夫にとって、れもん星は余りにも遠かった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門が、「父上、拙者、本日、大変なことを発見してござる」と言い出した。
どうせ下らんことだろう、とは思ったが、「大変なことって何だ?」
「武士の沽券に関わること故、心して聴いてくだされ」
「うん」
「父上・・・拙者、本日、チョンマゲを結っておらなんだ」
「・・・別に、本日に限ったことではない。ずっとずっと前から、お前はチョンマゲなんてしていない」
「どれくらい以前から?」
「実は、お前はチョンマゲをしたことがない」
「それは有り得ぬ。拙者は武士でござる」
「それは俺の知ったことではない」
「いや、解せぬ。先刻、父上が、れもんちゃんの髪を讃えておった折、『拙者にも立派なチョンマゲがござる』と思って、頭に手を伸ばしたら、自慢のチョンマゲが消え失せておった。『シン太郎左衛門』シリーズの最初の頃、拙者は、お茶目なチョンマゲをしておったはず。おそらく第5話あたりで、父上が設定を失念し、以降ずっと描き忘れておる。拙者のチョンマゲを元に戻してくだされ」
「最初からそんな設定はないよ。れもんちゃんに関する記述を除けば、毎回デタラメな話だけど、唯一お前がチョンマゲをしてない点では一貫している」
「いい加減なことを言うな!俺は第5話までは、確かにチョンマゲを結っていたんだ。勝手に設定を変えやがって、ふざけるな!」
「・・・お前!ちゃんと『ござる』調で話せ!設定を壊してるのはお前の方だ。お前が俺の口調を真似て、そんなことを言うと、読者は最初の5話ぐらいまで、父親である俺がチョンマゲを結っていたのか、と勘違いする」
「うむ。それもまた一興。とにかく、拙者のチョンマゲを戻してくだされ」
それから延々と出口の見えない言い争いが続いたが、私には分かっていた。シン太郎左衛門はチョンマゲに特に関心はなく、ただ髪の毛がないことが不満なのだ。髪の毛がないと、美容院に行けない。将来、テクノロジーが飛躍的に進歩して、れもん星と地球の往復が可能になっても、髪がなければ、れもん星の美容院に行く理由がない。結局、シン太郎左衛門は、れもんちゃん御用達の美容院に行ってみたいだけなのだ。
チョンマゲ、チョンマゲと、うるさく要求するシン太郎左衛門を遮って、
「ところで、先端恐怖症のお前が、ハサミでチョキチョキと髪をカットされるのに耐えられるのか?」
シン太郎左衛門は、「はっ」と言葉に詰まった。
「お前の腹は読めている。れもんちゃん御用達の美容院には、お客ではなく、シャンプーやコンディショナーの営業マンとして出入りした方がよくないか?」
「なっ、なんと、そのような手がござるか?その話、詳しく聴かせてくだされ」
「詳しく言うほどのことはない。今言ったことが全てだ」
「ちなみにシャンプーやヘアケア商品のほかに、石鹸も売りに行ってよろしいか?」
「石鹸って、当たり前の石鹸か?」
「うむ。普通の石鹸でござる」
「好きにしたらいい」
「うむ、これはよい。拙者、美容院専門の営業マンになりまする」
「それがいい。しばらく頑張ったら、美容師さんがお前の衛生意識の高さに気付いて、レジ打ちのバイトで雇ってくれるかもよ」
「なんと!そんなステキな特典までござるか」
「よく知らない。俺は美容院に行ったことがない」
それきりシン太郎左衛門は静かに物思いに耽り出した。れもんちゃん御用達の美容院でレジ打ちに邁進する自分の姿を妄想して、うっとりしているに違いない。
実際には、我々が生きている間に、れもん星と地球の間を定期的につなぐ交通機関など生まれるわけがない。
ただ、それは大した問題ではない。
れもんちゃんは人類の夢と希望である。
それ以外のことは、全て些末なことでしかなかった。
シン太郎左衛門とチョンマゲ(あるいは「れもん星から遠く離れて」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と魔法の本 様
ご利用日時:2024年9月1日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。主従関係にも忠義にも縛られない気楽な武士、いわゆる浪人だ。結局、アルバイトも見つからなかった。
昨日は土曜日。自転車並みのスピードで、台風が接近していた。
朝のうち、雨がかなり降ったが、昼過ぎには止んだので、スーパーに買い物に行くか否かで悩んでいると、外で郵便受けがガチャンと音を立てた。何か届いたらしい。
「シン太郎左衛門、郵便物が届いたようだ」
「音からして、かなり重いものでござる」
「なんだろうか」
「電気の使用明細書ではござるまいか」
「普段の月はペラペラの紙一枚だが、今月は派手にエアコンを使いまくってしまったからな」
「破産でござるな」
「さすがに、そこまでのことはないだろう」
取りに出た。そこそこ大きな封筒が入っていた。取り出してみると、ずっしりと重かった。
「本かな?注文した記憶もないが・・・」と差出人を見ると、Bだった(Bについては、以前のクチコミにも書いたし、説明が面倒くさいので割愛)。
「おい、やめてくれよ・・・Bからの郵便物を素手で触ってしまった」
「前回も、そうしておられたはず」
「今日は、そういう気分じゃなかったんだ。大失態だ」
「うむ。で、中身はなんでござるか」
「分からんが、本みたいだぞ」
「開けてみられよ」
「え~っ、嫌だなぁ」
とりあえずリビングに戻り、テーブルの上に封筒を投げ出し、立ったままアイスコーヒーを飲んでいると、シン太郎左衛門がジャージのズボンから飛び出してきて、「拙者が開けまする」と、封筒を破り始めた。
私は椅子を引いて腰を下ろし、
「なんで、そんなに急くのかね?」
「拙者にとって重要なモノが入っている予感がいたす」
出てきたのは、100枚ほどのB5コピー用紙の束だった。紐綴じされていた。小さなメモが付いていて、「面白いものが手に入った。読め」と手書きされていた。
紙束に目をやると、タイトルからして見たこともない文字で書かれた古い印刷物の写しと思われた。
「これ何語だろ?こんなもの読めと言われてもなぁ」
と言って、シン太郎左衛門を見ると、食い入るように、その奇妙な本の写しらしいものを見つめている。
「何か分かるか?」
シン太郎左衛門は私の言葉を無視して、ページを捲って、次の一枚に目を落とした。
Bは私が知る限り最も優れた頭脳の持ち主だった(もちろん、れもんちゃんは別として)。数学においては紛れもない天才で、余技としていくつもの外国語をマスターしていた。一晩あれば辞書一冊を暗記できる頭を持っていて、古典語でも現代語でも一週間で読み書きに不自由しなくなると言っていた。ただ、話すことにおいては、現代日本語すらマトモに出来ないヤツだった。
シン太郎左衛門は興奮した様子でコピーから顔を上げ、「これは大変なモノでござる」と声を震わせたが、私には全然興味が湧かなかった。
「そうかい。お前、分かるの?エジプトの象形文字でもないし、楔形文字でもないし」
「父上、これは・・・何を隠そう、これは古代オチン語で書かれた魔法書でござる」
私はアイスコーヒーを派手に吹き出した。
「ないない。そんなものはない。古代にもオチンはいただろうが、古代オチン語はない。現代オチン語もない。それに魔法を使えるのは、れもんちゃんだけだ」
「いや、拙者もまさかとは思ったが、これは、紛れもなく古代オチン語の魔法の本、伝説の『Gd#r&yjvx*s ohr rd%d$ wrja』でござる」
「・・・なんて?」
「『Gd#r&yjvx*s ohr rd%d$ wrja』でござる」
「グドリュジュ・・・ああ、やっぱりね」と私は椅子から立ち上がり、「俺も、そうだと思ったよ・・・ところで、これから買い物に行くけど、お前はどうする?」
「拙者は、『Gd#r&yjvx*s ohr rd%d$ wrja』を読みまする」
一人で外に出た。私は、エコバッグを肩にかけ直し、空を見上げた。
ドンヨリと曇った空、南の方の雲の隙間から青空が覗いている。奇妙な形の黒雲が一つポツンと浮いていた。
私の心配は、明日JRが運休して、れもんちゃんに会えなくなることだけだった。
そして、翌日、日曜日。嬉しいことに台風の問題はなく、れもんちゃんに会いに行けた。
れもんちゃんは、今更言うまでもないことながら、宇宙一に宇宙一だった。感動的に宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんのお見送りを受けているとき、いきなりシン太郎左衛門が股間で、「Uyr%cvu#t fw&yuv#xe iy$g v%jlp・・・」と、古代オチン語の呪文を唱え始めた。それに応えるように、私の身体が震え出し、私の意志とは関係なく、シン太郎左衛門の言葉が私の口から音になって発せられた。
いきなり面と向かって、「Y#fd e$th ca*p%igfh piy#g f&%e!」と言われて、れもんちゃんはポカンとした。そのポカンとした、れもんちゃんの可愛さといったら、どう表現していいか分からないほどであった。そのせいで、シン太郎左衛門に「普通に日本語で喋れ!」と言うタイミングを逸してしまった。シン太郎左衛門は更に言葉を続け、私は言いたくもないのに、
「Ba#g%dr u$im#b if#sg%vak lj#ga r$tu?」と言っていた。
私はこの場面を取り繕いたくて、れもんちゃんに「気にしないで。これはエヘン虫の一種だから」とか言おうとしたが、魔法のせいか舌や口を自分の意志で動かすことができなかった。
さらに私は、いや、シン太郎左衛門は、「Zi&yr#f l%pqo* b#cy#gap h$go#e q&sz?」
れもんちゃんは、引き続き可愛くポカンとしている。
(終わった・・・変なクチコミを書く変な客が、連日の暑さと台風による気圧の変化で、ついに完全にぶっ壊れたと思われたに違いない・・・出禁だ)
絶望的な気持ちになった瞬間、れもんちゃんがニッコリと微笑んだ。そして、「O#j#gryu b$few#shi v*c$dr uj#f& o# ih pl#f&h# yet%aq&」と言った。
こちらがポカンとする番になったが、やがて私は救われたことを察して、安堵の余り床にへたり込んだ。そして、れもんちゃんを見上げながら、
「もしかして、れもんちゃんは、古代オチン語が話せるの?」私の発話能力は復活していた。
「うん。中学校の部活で、古代オチン語部だった」
「卓球部じゃなかったの?」
「掛け持ちしてた」
「そうなんだ。その頃から頑張り屋さんだったんだね・・・ところで、シン太郎左衛門と何を話したの?」
「・・・それはヒミツだよ」と少し困り顔をしたれもんちゃんも、当然だが、危険なほどに可愛かったし、やっぱり、れもんちゃんには可愛い秘密が沢山だった。
つまり結論は、こうなる。れもんちゃんのおもてなしは、かくも確かな教養に裏打ちされていたのである、と。
帰りの電車の中で、シン太郎左衛門に、れもんちゃんと何を話したか問い詰めたが、「それは秘密でござる」と素っ気なくあしらわれた。
「ところで、シン太郎左衛門、例の魔法の本には『勝手に父親の口を使って話す』以外に、もう少しマシな魔法はなかったのか?」
「うむ。全部読んだわけではござらぬが、『バイトを見つける魔法』はなかった」
「そんなもん、どうでもいいよ」
「『辺り一面を焼け野原にする魔法』はあった」
「使う予定がない。他は?」
「『財布の中身を倍にする魔法』もあった」
「なんで、そういうのを最初に使わないの?」
「れもんちゃんと直接話がしたかったからでござる」
「そうか・・・そのお金を増やす魔法の呪文を覚えてる?」
「覚えておらぬ」
「そうかぁ・・・じゃあ、多分もう手遅れだな」
最寄り駅で降りると、全速力で家まで駆け帰り、玄関のドアを蹴破らんばかりの勢いで開け、リビングに飛び込んだ。
テーブルの上にBから送られたコピー用紙の束は見当たらなかった。部屋中探したが、見付からなかった。
覚悟していたことではあるが、魔法の本は跡形もなく消え去っていたのである。
シン太郎左衛門と魔法の本 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(「オイラは陽気な飛行機乗り」) 様
ご利用日時:2024年8月25日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。アルバイトの件は、どれだけチャレンジしても、上手くいかない。一社だけ書類審査を通過したらしいが、勤務地を訊いたら静岡県だったので、諦めさせた。
昨日は土曜日。シン太郎左衛門は、履歴書を書く気力をすっかり失って、ダイニングテーブルの上で、A3の履歴書用紙を使って大きな紙飛行機を折っていた。
私はアイスコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。シン太郎左衛門はダイニングテーブルの上から紙飛行機を飛ばしては、落下した紙飛行機を回収してまた飛ばした。大きな紙飛行機が視界の隅を横切ると落ち着いて新聞が読めないので、止めるように言おうとしたとき、シン太郎左衛門は、投げた刹那の飛行機にヒラリと飛び乗り、巧みにバランスを取りながら、壁にぶつかる寸前に「はっ!」という掛け声とともに、クルッとトンボを切って床の上に着地した。
中々の芸ではあったが、褒めると付け上がるので、黙って新聞を読み続けた。
さらに芸は進化していく。紙飛行機の上で逆立ちしてみたり、紙飛行機の上から別の紙飛行機を飛ばして、そちらに跳び移ったり、ピエロの扮装で紙飛行機の上で玉乗りしながらジャグリングをしたり。私も思わず拍手してしまった。
「お前は結局何がしたいのだ?」
「職種は特に拘らぬが、時給1200円以上が希望でござる」
「・・・いや、バイトの話ではない・・・まあいい。お前は本当に頑張ってるよ」
「うむ。拙者は実に良く頑張っておる」
「ただ、俺が望むような方向でないことが残念だ」
「そこは父上を見習ってござる」
「どういう意味?」
「父上も毎週頑張ってクチコミを書いておられるが、れもんちゃんが望むものとは、かけ離れてござる。毎回、何となく思い付いたことを書いているばかりでござる」
「そうか・・・まあいい。とりあえず、ピエロの衣装を脱いで、メイクを落としてこい」
そして、翌日、日曜日。れもんちゃんに会った。
やはり、れもんちゃんは素晴らしかった。人生において揺るがぬ真実は2つしかない。日本の夏はクソ暑いということと、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だということだ。
今回も沢山の感動を与えられた。
帰り際、れもんちゃんに尋ねた。
「れもんちゃん、今回のクチコミに希望があったら教えてほしいんだけど」
れもんちゃんは、少し首を傾げて、
「う~ん。シン太郎左衛門が色々な曲芸をするお話」と、それは可愛い笑顔を浮かべた。
「そんなのでいいの?」
「うん、それがいい」と、それはそれは可愛く言うのであった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門に告げた。
「れもんちゃんは素晴らしすぎる」
「それは分かりきったことでござる」
「『優しい、可愛い、美しい』だけでなく、実にモノの分かった女の子だ」
「それも1000年前から知ってござる」
「そうか。ただ、そうであっても、今一度胆に銘じておけ」
「うむ。畏まってござる」
永遠に揺るがぬ真実は、何度でも繰り返し訴えなければならない。
日本の夏は鬱陶しいぐらいクソ暑い。
そして、れもんちゃんは、信じがたいまでに宇宙一に宇宙一なのである。
シン太郎左衛門(「オイラは陽気な飛行機乗り」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(金ちゃんの近況報告) 様
ご利用日時:2024年8月18日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。アルバイトの募集に履歴書を送ること、数十回。悉く書類審査でハネられて、不貞腐れている。一度だけ、書きかけの履歴書を覗いてみたが、
氏名:富士山 シン太郎左衛門
生年月日:万延元年 某日
とあって、写真貼付欄には、逆光を浴びたマッシュルームカットの男性と思われるイラストが描かれていた。
「毎回、こんな感じの履歴書を送ってるのか?」
「うむ。用紙はダイソーで購入してござる・・・セリアの方がよろしいか?」
「いや。そこは余り問題にならないと思う」
昨日は土曜日。
10時過ぎに起きた。清々しい目覚めではあったが、盆休みの間、エアコンを付けっぱなしだから、電気料金が思いやられた。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「うむ。最前より目覚めてござる」
「今日は金ちゃんの家に行くことにした」
「金ちゃんには久しく会っておりませぬな」
「そうなんだ。金ちゃんは家族みたいなもんだから4ヶ月も会ってなければ、普通『最近、どうしてるかな?』と少しは心配になったりするもんだろうが、先週あんな変な夢まで見た後でも、やっぱり『最近、どうしてるかな?』と心配にはならないのだ」
「・・・つまり金ちゃんを家族のようだと感じたのは錯覚であったということでござるな」
「そういうことになる。完全な思い違いだったようだ。それなのに、なんでこんな暑い日に、わざわざ、そんなヤツに会いに行かねばならないんだろう?」
「うむ。確かに理由が見当たらぬ」
「だろ?なんで俺は金ちゃんに会おうなんて思ったんだろう・・・あっ、そうだ。思い出した。理由はあれだ」
私が指差す先を見て、シン太郎左衛門は、
「あれは、超高級ウィスキーでござる」
「そうだ。もう飲む気はないが、プレミアもので売値が10万円以上と聞いてるから、捨てるに捨てられん。だから、金ちゃんに押し付けようと思ったんだ。『要らないけれど捨てられないモノは隣の敷地に移す』、これが俺のモットーだ」
「うむ。実に迷惑なモットーでござる」
二階の洗面所で身支度をしていると、家の周りで鳴く蝉の声がうるさいほどだった。すると、シン太郎左衛門が、
蝉の声を聞くたびに~
目に浮かぶ九十九里浜~
と歌い出した。
「シン太郎左衛門、その歌はいかん」
「ん?それは、なに故?」
「愚か者め。『歌舞伎町の女王』は、椎名林檎の歌だぞ。リンゴはダメだろ」
「おおっ!拙者としたことが!」
「れもんちゃんに知れたら、切腹だぞ。以後気を付けるように・・・あっ、そうだ」
家を出ると、お日様が狂ったように殺人熱光線を発して街を破壊し、それを囃すように蝉たちが鳴き狂っていた。
「ひどい天気だ。これじゃ、地球滅亡の日も遠くないな」
隣家のインターホンを鳴らすと、金ちゃんの声が「どちら様ですか?」
「俺だ。先週もそう言ったはずだ。何度も言わすな」と答えて、門を開けて家の敷地に入って行った。
玄関のドアが開いて、眩しそうに目を細める金ちゃんが顔を出した。
「金ちゃんだ!!全然痩せてない。よかった。安心したぞ」
「一応ダイエット中なんですけど、逆に太りました」
「それでこそ金ちゃんだ!偉い!!」
「なんだか馬鹿にされてる気がするんですけど・・・」
「勘違いもいいところだ。アイスコーヒーを頼む」と言いながら、勝手に家に上がり込んだ。
リビングのドアを開けると、ラッピーが出迎えてくれた。心なしか夏バテのご様子だった。モンちゃんはエアコンの風が直接当たる場所で踞って寝ていた。
「みんな達者でよかったよ。パパさんママさんは和歌山の親戚の家だろ?」と、キッチンからアイスコーヒーを持ってきた金ちゃんに尋ねると、
「え?うちに和歌山の親戚なんていませんよ」
「マジか?くそ~、メタンガスに騙された」
「・・・余り訊きたくないけど、『メタンガス』って何ですか?」
「メタンガス、別名『メタン君』は、お前の成れの果てだ」
「やっぱり訊くんじゃなかった。完全に意味不明だ」
「まあいい。今日、お前を訪ねてきたのは、他でもない。贈り物がある」
「はあ」と金ちゃんは気のない返事をした。
「もっと嬉しそうにしろ。素敵な品々だぞ。まずは・・・これだ」
私はエコバッグからCDを二枚、テーブルの上に置いた。
「ご覧の通り椎名林檎のCDだ。宗教上の理由から我が家に置いておけなくなった」
「宗教上の理由?」
「そうだ。俺は、れもん教徒、つまりレモンチャンだ」
「れもんちゃん?」
「違う。れもんちゃんじゃない。イントネーションが違う。『レモンチャン』だ。『クリスチャン』に引っかけたギャグだ・・・言った当人でさえピンと来てないものを解説さすな!」
そのとき、股間から、
「へへへ、『レモンチャン』とは面白い」
「シン太郎左衛門は黙っとけ。お前が口を出すと、ややこしくなる」
「オジさん、何を言ってるんですか?訳が分からないです」
「ゴメン。シン太郎左衛門のせいだ。全部、こいつが悪い」
「へへへ、『れもん教徒は英語で言うと、レモンチャン』とな。これは笑える」
「こんな変なところにツボがあったとは知らなかった。まあいい。シン太郎左衛門は放っておこう。とにかく、ありがたく押し戴け」
「はい。ありがとうございます」と金ちゃんはCDを手元に引き寄せた。
「おい、待て。お前は、アニソンしか聴かないはずだ。アッサリもらうって、どういうことだ?押し問答の一つも期待してたのに」
「そんな深い理由はないんですけど、くれるんなら、もらいます」
「・・・そうか・・・」
「『レモンチャン』とは傑作」と、引き続きヘラヘラと笑っているシン太郎左衛門に気が散ってしょうがなかった。
「まあいい・・・で、もう一品。販売価格10万円は下らない超高級ウィスキーだ。ちょこっと飲んだが、ほぼサラだ」とボトルを取り出すと、金ちゃんの目が輝いた。
「それも貰っていいんですか?」
「超高級ウィスキーだぞ」
「嬉しいです」
「どうしてだ?お前は、アルコール分解酵素を持ってないじゃないか。こんなの飲んだら即死だぞ」
「ああ、僕が飲むんじゃないんです。会社の総務課の人に、社会保険とか税金とか、いろんなことで凄くお世話になってて、その人に上げようと思うんです」
「CDも?」
「はい。椎名林檎のファンだって言ってたから。その人のご主人が毎晩ウィスキーをチビチビ飲むのを楽しみにしてるらしいです」
そんなことを聞いたら、急に上げるのが惜しくなってきたが、今さら撤回もできなかった。
「・・・金ちゃん、仕事は楽しくやってるか?」
「まあまあですね。のんびりやってます」
「それはよかった」
「オジさんは元気ですか?」
「俺のことなら心配は要らない。俺は、れもん教徒、つまりレモンチャンだ。れもんちゃんの御加護があるから、何の不安もない」
金ちゃんの家を出ると、またしても狂った太陽の熱線と蝉の声に晒された。
シン太郎左衛門は、「いやぁ~、『レモンチャン』とは実によいギャグでござるなぁ。これまで『シン太郎左衛門』シリーズ中、父上が発した最高のギャグでござる」とヘラヘラ笑っていた。何がおかしいのか全然理解もできず、なんか妙に落ち込んだ。
そして、翌日、日曜日。れもんちゃんに会った。
当然、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一で、昨日の軽い落ち込みなど一瞬にして根刮ぎにして視界の彼方に吹き飛ばす、巨大竜巻のような可愛さだった。
れもんちゃんの力は、やはり偉大であった。
少し後日談がある。
今日は火曜日、夜、自宅で、上記のクチコミを投稿しようとしていると、金ちゃんが訪ねてきた。
「オジさんからの贈り物を渡したら、総務課の人、凄く喜んで、お返しを預りました。お盆休みに里帰りして金比羅さんにお詣りをしたときのお土産だそうです」と、ずっしりと重たい紙袋を渡された。
「『お隣さんと仲良しって、いいですね』と言われました」と言って、金ちゃんは笑顔で帰っていった。なんとも気恥ずかしかった。
袋には、丁寧な御礼の手紙と金比羅宮の御守りセットと沢山のお菓子が入っていた。
「シン太郎左衛門、超高級ウィスキーと椎名林檎を追い出したと思ったら、もっと処分に困るものたちがやって来た。お菓子は食べりゃいいが、他の二つは本当に困る・・・でも、俺は、れもん教徒で優しさをモットーにしてるから、人の好意を無にすることが出来ないのだ・・・」
「へへへ、父上はレモンチャンでござる」とシン太郎左衛門は、何がおかしいのか、相変わらずヘラヘラと笑っていた。
「お前もだろ?」
「うむ。拙者も敬虔なレモンチャンでござる」
もらった茶饅頭をモシャモシャ食べながら、この後日談を記した。これから投稿ボタンを押す。
シン太郎左衛門(金ちゃんの近況報告) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「見知らぬ隣人」) 様
ご利用日時:2024年8月11日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。理由は知らないが、ここ最近ずっとアルバイトを探している。当然のことながら、上手く行かない。先日も居酒屋チェーンから不採用の通知を受けて、凹んでいる。「ホールは無理でも厨房なら行けると思っておったが・・・」と、世の中を舐めた発言をしていた。
さて、昨日の土曜日から職場は9日間の盆休みに入った。しばらく職場に行かなくてよい解放感も手伝って、目覚ましもかけず、グーグー寝ていたが、10時前には暑くて目を覚ました。
親子揃って、「暑い!」と声を上げて寝床から飛び出した。
「なんて暑いんだ!この地球は、俺に何か恨みでもあるのか?」
「父上、エアコンを入れましょうぞ」
「うん・・・いや、待て。今日から盆休みだ。9連休の間、毎日エアコンをガンガンかけて暮らすのは、いくらなんでも電気代が勿体ない。盆休みは、隣の家で過ごそう」
「実にド厚かましい話でござるな」
リュックサックに替えの下着と本を数冊詰めて、背負うと、
「準備完了だ。行こう」
「うむ。金ちゃんに会うのは久しぶり。この4ヶ月ほど会っておりませぬな・・・父上、枕は?」
「おっ、そうだ。忘れるところだった。俺は枕が変わると寝れんからな」
外はお日様が暴れまわっていたので、馬鹿みたいに暑かった。照り付ける日差しの中、枕を小脇に抱え、隣の家のインターホンを鳴らした。
「どちら様ですか?」と金ちゃんの声がしたので、「俺だ」と答えて、門を開けて家の敷地に入って行った。
玄関のドアが開いたので、金ちゃんが顔を出すのかと思いきや、ドアの隙間から覗いた顔は想像していたものではなかった。
「おっ、お前は、誰だ!」と思わず叫んでしまった。
「僕は・・・オジさんが言うところの『金ちゃん』です」
「なんだと?嘘を言うな。お前のどこが、金ちゃんだ。金ちゃんはデブだ。長年の不規則な睡眠とだらしない食生活が産み出したデブの傑作だ」
「ここ半年ほど、毎朝5時に起きて、剣道の稽古をしてたら、こんなになってしまいました」
「ふん、そんな嘘に騙されるもんか!引き締まった体型だけじゃない。顔が全然違うじゃないか。お前は、今では死語となった『ジャニーズ風』の、爽やかなイケメンだ。金ちゃんは満月のような丸顔だ。お前は眼鏡もかけてないし、明らかに別人だ」
「痩せすぎて、眼鏡がズレるようになったから、コンタクトにしました」
「うっ・・・確かに、声と話し方は金ちゃんだな。だが、俺は認めん!金ちゃんパパと金ちゃんママは、どこだ?」
「父さんと母さんは、お盆で和歌山の親戚の家に行ってます」
「やっぱりそうだ!お前、金ちゃん一家に何をした?殺したな。目的はなんだ?」
「いやいや」
「何が『いやいや』だ。目的は分かってぞ。金ちゃん一家に成りすまし、俺を騙して、れもんちゃんの秘密を聞き出す積もりだろ!貴様は、れもんちゃんの特殊能力を使って世界制服を狙うテロリスト集団の一味だ!」
「オジさんのメインテーマは、相変わらず、『れもんちゃん』ですね」
「当然だ・・・お前が手に持ってるのは何だ!」
「これ?モンちゃんのオヤツのチュールです」
「チュール型のスタンガンだな!」
「・・・オジさん、暑いし蚊が入るから、早く中に入ってください」
「・・・うん、そうしてやろう。言っておくが、俺は、れもんちゃんの秘密について、何一つ知らんからな。俺が知っているのは、『れもんちゃんには可愛い秘密が沢山ある』ということだけだ。どれだけ拷問しても、それ以上のことは引き出せんぞ」
そう言いながら、私とシン太郎左衛門は危険を承知で金ちゃん宅に足を踏み入れた。
エアコンが効いたリビングに招き入れられて、アイスコーヒーを供された。そんな気の効いた振る舞いは、金ちゃんらしくなかったが、挨拶に来たラッピーは、やはり美しかった。
「オジさんは、ブラックでしたよね」と言ったスリムなイケメンの足元に、妖しい色気を発する美しいキジトラ猫が纏わりついていた。
「モンちゃん、チュールの続きを上げるね」とイケメンはしゃがんだ。
「大人の女の色気を発散する、この猫がモンちゃんか?・・・子猫の面影が、すっかりなくなってしまった・・・」
「前に会ってときから4ヶ月経ってますよね。すっかり美人さんになったでしょ」
「うん・・・れもんちゃんには到底太刀打ち出来んが、猫としてはかなりのものだ」
モンちゃんは無心にオヤツを舐めていた。
「しかし、お前、本当に見違えてしまったぞ。今では死語となった『ジャニーズ』・・・いや、若い頃の福山雅治にそっくりだ」
「そうですか?」
「まるで悪夢を見てるようだ・・・お前は、もう金ちゃんではない」
金ちゃんの「成れの果て」は、爽やかな笑みを浮かべて、「もう金ちゃんじゃないのかぁ・・・なんか寂しいですね。『金ちゃん』じゃなく『銀ちゃん』ですか?」
「何だと?下らん!『金ちゃんじゃなくて銀ちゃん』なんて、恥を知れ!お前のような下らんことを言うヤツには、シルバーやブロンズでも勿体ない。お前なんて、メタンガスだ。これから、お前を『メタン君』と呼ぶ。ちなみに、れもんちゃんは、ダイヤモンドだ」
福山雅治似のメタン君は、ヘラヘラと笑うだけだった。
「ところで、この部屋、エアコンが効いてるか?段々暑くなってきた気がする」
「はい。26度に設定してますよ」
「嘘を吐け!どんどん室温が上がって、息苦しくなってきた。お前、本当に世界制服を目論むテロリストの一味だろ。こんな陰湿な拷問にかけても、俺は、れもんちゃんの秘密なんて知らんから、何も話すことはない」
「僕がテロリストに見えますか?」
「いや、見えん。そもそも俺が一目でそれと見抜けるようなマヌケなテロリストなんているもんか。そんなことはどうでもいい。俺が、このクソ暑い部屋の淀んで重い空気に逆らってでも言いたいことは、ただ一つ。れもんちゃんのマジカルパワーを悪用するなんて無理だ、ということだ。れもんちゃんのマジカルパワーは、どんな使い方をしても世界がドンドン幸せに満ちて平和になってしまうのだ!!」
拳を激しく上下させながら、そんな熱弁を振るっていると、
「何をぐちゃぐちゃ言っておる!さっさと起きて、エアコンを入れてくだされ!」と、シン太郎左衛門の声がした。
目が覚めた。夢を見ていたのだ。全身汗まみれだった。
「大変に嫌な夢を見た」
「そんなことより早くエアコンを頼みまする」
「分かった」と、リモコンに手を伸ばした。ピッ、ピッと音を立て、エアコンが動き出した。
「いやぁ、実に気分が悪い夢だった。シン太郎左衛門、知ってたか?福山雅治と一つ部屋で過ごすのは、本当に居心地が悪いんだぞ」
「何の話でござるか」
「・・・まあいいや。元々、俺たちにとって、居心地のいい場所は、れもんちゃんのところしかないんだしな」
そして、翌日、日曜日。れもんちゃんに会いに行った。れもんちゃんは、やはり宇宙一に宇宙一で、れもんちゃんのいる場所は、やはり宇宙一に宇宙一の天国であった。エアコンも、ちょうどいい具合に効いていた。
帰り際、れもんちゃんに「今回のクチコミは夢の話でいい?」と訊くと、
「うん、いいよ。去年の夏も、夢のお話が一杯だったね」と、それはそれは可愛い笑顔を浮かべてくれるのであった。
確かに、れもんちゃんの言うとおりだった。しかし、実は、れもんちゃんの存在自体が素敵すぎる夢のようなものだから、『シン太郎左衛門』シリーズは、程度の多少はあれ、すべて夢の話なのである。
シン太郎左衛門(あるいは「見知らぬ隣人」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、酔って候 様
ご利用日時:2024年8月4日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。近所の歯科医院で受付のアルバイトを募集中と知り、勇んで毛筆を揮って志望理由書を書いている最中に、その歯科医院から「志望理由書が酷すぎるから不採用」との電話がかかってきて、周りをキョロキョロ見回している、そういうタイプの武士である。
先週の金曜日、遅くまで仕事だったが、翌日の土曜日は休みだった。帰宅して、シャワーを浴びると、シン太郎左衛門に、「明後日は、れもんちゃんに会う大事な日だ。明日は1日寝て過ごして、明後日に備えよう」
「うむ。暑いし、それがよかろう。拙者、バイトを探しておるが、中々上手く行かぬ。明日もやることがない」
「ついては、これから家呑みをする」
「父上が家で酒類を口にするとは珍しい。どういった風の吹き回しでござるか。養命酒でも呑みまするか」
「違う。明日何もしないと決めたら、普段やらないことをしたくなった。超高級なウィスキーを飲む。去年の暮れ、我が社の忘年会のビンゴ大会で当たったものだ。一等だというから小躍りして喜んだのに、賞品がウィスキーと知ってガッカリした。超高級なんて恩着せがましく言われても、普段全く酒を飲まん俺には何の有り難みもない。『重くて持ち帰るのが面倒なだけだから、末等の駄菓子の詰め合わせに代えてくれ』と頼んだのに聞いてもらえんかった。その日以来ずっと放置してきた超高級ウィスキーを飲む」
「うむ。勝手に呑まれよ。拙者は巻き込まれたくない」
「一緒に呑もう」
「嫌でござる。隣の金ちゃんでも誘えばよい」
「金ちゃんはダメなんだ。あいつは体質的にアルコールを受け付けん。小学校のとき、おばあちゃんの飲みかけの養命酒がお猪口に微かに残っていたのを飲んで、急性アルコール中毒で救急車が呼ばれたらしい」
「金ちゃんは実に使えぬヤツでござる。しかし、拙者も酒は呑めん。そもそも口がない」
「え?そのオシッコが出る穴は口じゃなかったの?」
「違う。どこの誰が口からオシッコをしまするか。どちらかと言えば、鼻の穴に近い何かでござる」
「そうだったのか・・・と言って、鼻の穴からオシッコをするヤツも知らんけどな。まあいい。とにかく高級ウィスキーを呑むぞ」
シャワーから出たままの姿、つまり、全裸で肩にバスタオルを掛けただけの格好で、ツマミ(茹で卵)を用意した。
「よし。それでは始めよう」と、私はウィスキーの栓を抜いて、グラスにほんの少しだけ注いだ。
「シン太郎左衛門、お前もストレートでいいか?」
「拙者は呑まん。正確には、『呑めん』」
「格好だけでいいから付き合え」と言ったものの、実際どのように「付き合わせ」たらよいのか分からなかった。
「あっ、そうだ。こうしよう」
私はティッシュを二、三枚取って、グラスのウィスキーを染み込ませて、シン太郎左衛門にペタッと被せた。
「なにをする!」とシン太郎左衛門は怒り出した。
「新兵衛の砂糖水と同じ理屈だ。適当にチューチューと吸え」
シン太郎左衛門は「なんとも嫌な臭いでござる。外してくだされ!」とか喚いていたが、無視してグラスを手にとり、琥珀色の液体を少しばかり口に含んでみた。
「う~ん、舌が焼ける。これのどこが超高級なのか全く分からんな。しょせんウィスキーは俺の好みではない」と、後は卵ばかりモシャモシャと食べていた。茹で卵を6個食べ終えると「こんなこと、ちっとも面白くない。以上で飲み会を終了とする」とシン太郎左衛門からティッシュを剥がすと、ヤツの目はすっかり据わっていた。
「シン太郎左衛門・・・随分と呑んだな」
シン太郎左衛門は真っ赤な顔で酒臭い息を吐きながら、「父上、『れもんちゃんダンス』を踊ってよろしいか」
「いや・・・止めておいた方がいいぞ。とてもダンスが出来る状態には見えん」
「なに!誰が『ダンスをする』と言った!」
「・・・お前がだよ」
「拙者、ダンスなどせぬ。『れもんちゃんダンス』を踊ると言ったばかりでござる。『れもんちゃんダンス』はダンスではない。『れもんちゃんダンス』は、むしろ、れもんちゃんでござる」
「・・・ごめん。なに言ってるか、全然分かんない」
「なにっ!れもんちゃんファンを騙る変態オヤジめ!貴様に、れもんちゃんの何が分かる!そもそも、れもんちゃんは・・・れもんちゃんは・・・」と、シン太郎左衛門は突然ポロポロと落涙し、「れもんちゃ~ん!!」と叫んだ。
酔っ払ったシン太郎左衛門は本当に始末に負えなかった。怒り上戸で、泣き上戸で、とにかく面倒臭かった。全く理解できない理由で長々と説教をされた。
「分かった、分かった。俺だって、れもんちゃんの素晴らしさは十分分かってるって」
「いや、足らん。全くもって、れもんちゃんに関する理解が足らん。れもんちゃんに申し訳が立たん。今すぐ腹を切りなされ・・・いや、父上は武士でないから腹を切るのは筋違い。それよりも、父上、これから、れもんちゃんに会いに行きましょう」
「無理だな。れもんちゃんは、ふと思い付いて会いに行けるような女の子ではない。一週間前に予約を取れてなければ、まず会えない」
「そんなことは言われずとも、知っておる。福原小学校の子供たちでも知っておる。で、父上は、この状況を見越して、ちゃんと予約を取っておいてくれたのでござろうな」
「いや、取ってない。こんなことになるなんて予測できなかったからな。それにもう12時過ぎだ。クラブロイヤルの営業時間は終わっている」
「なんと、これだから馬鹿オヤジは困る。れもんちゃんは宇宙一に宇宙一でござるぞ」
「知ってる。そんなことは福原小学校のみんなも知ってる」
「情けない・・・こんな夜に、れもんちゃんに会えないとは・・・れもんちゃ~ん!!・・・れもんちゃ~ん!!」
隣の家で、ラッピーが一声、ワワンっと吠えた。「うるさいよ。さっさと寝なさい」というお叱りだろうが、シン太郎左衛門はなおも声を限りに、「れもんちゃ~ん!!」と絶叫し続けた。
当然ながら、私は、二度とコイツにはアルコールを勧めまいと固く誓うのであった。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんに会った。
こんなに可愛くて、気立てのよい女の子が本当に存在していいのだろうか?と心配になるほど、可愛くて気立てがよかった。危険なまでに宇宙一に宇宙一だった。
ところで、れもんちゃんが宇宙一に宇宙一であることは、20世紀の初頭、かのアインシュタインによって理論的にも証明されているが、その時点では、れもんちゃんがまだ生まれていなかったため、アインシュタインはこの偉大な発見の公表を見送った。もし、発表していれば、その功績をもって、アインシュタインは生涯2回目のノーベル物理学賞を受賞していたことは、その界隈の学術関係者の間では比較的よく知られたことなのである。
シン太郎左衛門、酔って候 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは、不可能を可能にする方法) 様
ご利用日時:2024年7月28日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。武士のくせに我慢というものを知らない。暑いのが大の苦手だ。私は普通のサラリーマンだから当然暑いのが苦手だ。だから親子揃ってグッタリしている。れもんちゃんに会いに行くときは二人とも元気でニコニコしているが、それ以外のときは揃って苦悶の表情を浮かべて、死んだようにグッタリしている。
昨日は土曜日、れもんちゃんに会いに行く日ではない上に出勤だった。朝、起きると親子揃ってカレンダーを睨み付け、今日という1日を地上から抹消できないか企んでいた。
「今日もまた、暑いという以外に何の特徴もない、おまけに出勤日というゴミのような1日が始まってしまった」
「うむ。それにしても、ひどい暑さでござる」
「そもそも俺は仕事が大嫌いだ。この前、社長が若い社員に『仕事を通した自己実現』とか宣っていたから、思わず『けっ!寝言は寝て言え』と言ってしまって、大顰蹙を買った。頭の中で言ってるつもりが、鼻の穴から漏れ出したんだと思う」
「これまでよくクビにならなかったものでござる」
「いや。引き続き給料をくれるなら、むしろクビにしてもらいたい」
「そんなことが許されまするか」
「あれこれ思案してみたが、そういうことは、どうやら不可能なようだ。望みがあるとしたら、れもんちゃんだ」
「・・・れもんちゃんでござるか」
「そう、ここでもやっぱり、れもんちゃんだ。この世で、不可能を可能に出来るのは、れもんちゃん以外にいない。不可能なこと、つまり、クビになりながら給料をもらい続けるという状況を実現しようと思えば、俺は、れもんちゃんになるしかない」
「・・・父上が、れもんちゃんになるとな。そんなことが出来まするか」
「やってみないと分からん」
「しかし、父上が、れもんちゃんになると、何かと不都合でござる」
「だろ?まず、俺が、れもんちゃんになったら、お前はお払い箱だ。女の子に息子は要らんからな」
「それは困ったことになりまするな」
「そうなんだ。いくつになっても、悩みは尽きないよ」
シン太郎左衛門は神妙な顔付きで頷くと、
「ところで、父上、最近の『シン太郎左衛門』の下らなさは目に余りまするな」
「うん、そうだな。読むに耐えん。でも、それは前からずっとそうだ。そもそも、本当にオチンと話をする男なんているのかよ。そんなヤツがいたら確実に病気だろ。『明らかに理性的な行動が見込めないお客様』だから、クラブロイヤルの注意事項に違反してる。出禁にすべきだ」
「・・・父上、この炎天下、仕事に行くのが嫌すぎて、頭がおかしくなったものとお見受けいたす」
土曜日、我々親子はそんな会話をした。
そして、翌日、つまり今日は日曜日。れもんちゃんに会いに行った。
クラブロイヤルに到着すると、いつも最初にトイレを借りる。すでに駅のトイレで用は済ませているので、別に便意を催しているわけではない。
知っている人には知ってのとおり、トイレのドアの内側には「注意事項」が張り付けてある。便座に腰掛けると、注意事項はちょうど目の高さに来る。私とシン太郎左衛門はその一つ一つを声高らかに読み上げていった。「18歳未満及び高校生の方のご利用は固くお断りします・・・明らかに理性的な行動が見込めないと受付が判断したお客様・・・」。これから、れもんちゃんに会える嬉しさから、親子共々元気一杯声を張り上げる。これは、毎週何があっても欠かせないルーチンである。
そして二人が最後の注意事項を読み上げ終わると、どこからともなく、「Security clearance verified.」と、いかにも機械的な合成音声が流れ、それに続いて小窓の外から巨漢の外国人を思わす野太い声が「毎回世話を焼かせやがって。確認完了だ。れもんちゃんに会ってよし」と言うのが聞こえたので、私とシン太郎左衛門は小さく頷いた。
れもんちゃんは宇宙の神秘であり、人類の宝物なので、オチンと話をするような変人には、かくも厳重なセキュリティ・チェックが課せられているのである。
さて、与太話はともかく、れもんちゃんは、今回もやはり宇宙一に宇宙一だった。
言うまでもなく、今回も、れもんちゃんは、また数々の不可能事を可能にしたのであったが、れもんちゃんにとって、そんなことは季節外れのタンポポの綿毛を青空に吹き飛ばすぐらい容易なことなのであった。
シン太郎左衛門(あるいは、不可能を可能にする方法) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とざるソバ(あるいは「どうでもいい話の百連発」) 様
ご利用日時:2024年7月21日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。Wi-Fiスポットのバイトはクビになったらしい。やはりアンテナになるには材質的に無理があったのだろう。
日曜日、れもんちゃんに会う日の朝、私はソバを茹でていた。
「シン太郎左衛門、今日の朝食は、ざるソバだ」
「それはよい。父上はソバ派、うどん派のどちらでござるか」
「断然、ソバ派だ。時々無性にうどんが食べたくなるが、それでも、やっぱりソバ派だ。ソバにも色々あるが、何と言っても、俺はざるソバが・・・こんな話、聞いてて楽しいか?」
「全く楽しくない。実に下らぬ話でござる」
「お前が下らん質問をするからだ!」
茹でたソバを冷やして、ソバ皿に盛り付けた。
「よし、ざるソバが完成した。竹スノコのお陰で本格的に見える。ざるソバを作るなんて10年ぶりだ。そうだ、記念に写真を撮っておこう。う~む、なかなかよく撮れた。味もいいに違いない。では、まずはツユも付けずに一口・・・う~ん、不味い!!こんな不味いソバ、生まれて初めて食った。さっきの写真は消そう。いや~、飛んでもない不味さだな」
「そんなにひどい味でござるか」
「お前も一口食ってみろ」
「いや、遠慮いたしまする」
「そう言わずに食ってみろ。こんな不味いもの、滅多に食えんぞ」
「拙者は天下無双の美食家でござる。れもんちゃん以外は拙者の口に合わぬ」
「そうか。それは大変な美食家だな。れもんちゃんがいなくなったら飢え死にだ。だが分かる。一度、れもんちゃんを知ってしまうと、当然そうなる」
「うむ。それに、れもんちゃんは、いい匂いがいたしまする」
「うん。れもんちゃんは、フローラルでフルーティーな香りがするからな」
「うむ。間違いござらぬ」
「香水などではない。れもんちゃんの持って生まれた匂いがフローラルでフルーティーなのだ。うん。本当だ。れもんちゃんは凄いよな・・・しかし、それにしても、不味いソバだなぁ。でも、よく考えたら、『王さんの中華レシピ』に載っていない料理で、俺に作れるのは、ゆで卵だけだった。10年前にざるソバを作ったときにも、確か同じ目に遭ったような気がする・・・もうこれ以上は食えん」
「まだ2口目でござる」
「いや、もう限界だ。見た目はソバだが、おそらく別の何かだ。口に入れた途端、息が止まりそうになる。これ以上食べたら、命に関わる」
そんなことを話した。
そして、れもんちゃんに会った。当然宇宙一に宇宙一で、天下の美食家を自認するシン太郎左衛門を唸らせる素晴らしさであった。
そして、れもんちゃんは、フローラルかつフルーティーであった。
本当に今日も暑かった。帰り道、神戸駅の近くで、かき氷を食べた。
シン太郎左衛門とざるソバ(あるいは「どうでもいい話の百連発」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃんダンス』 様
ご利用日時:2024年7月14日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。余り大きな声では言えないが、最近はダンサーを目指しているようだ。
今日は日曜日。れもんちゃんに会う日。
朝、ゆで卵を作った。もちろん、鑑賞用ではなく、食べるために作ったので、殻を剥いて、口まで運んだ瞬間、シン太郎左衛門が重々しい口振りで、「父上、『れもんちゃんダンス』を踊ってよろしいか」と訊いてきた。
「・・・『踊らないでほしい』と言ったら聞き届けてくれるのか?」
「聞き届けるわけがない。では、踊ろう」
シン太郎左衛門は、ダイニングテーブルの上に跳び移ると、「ラジオ体操第一~。腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動~」と声をあげながら、クネクネし始めた。
前回も書いたが、シン太郎左衛門作の『れもんちゃんダンス』とは、早い話が、ラジオ体操の曲に乗せて身を捩らすだけのことで、『ダンス』と呼ぶのも烏滸がましい代物だった。加えて、要所要所でウインクをするのだが、シン太郎左衛門のウインクは見ていて大変に腹が立つ。れもんちゃんの新作動画では、可愛いウインクが素晴らしいアクセントになっている。それは、全宇宙のれもんちゃんファンが満場一致、全員起立の上、拍手をもって承認するところであるが、シン太郎左衛門に動画を見せると色々と面倒なことになるから、当然一切教えていない。つまり、れもんちゃんの蠱惑のウインクに触発されたわけでもないのに、シン太郎左衛門が取り付かれたようにウインクを連発するようになったことは謎であった。
れもんちゃんのウインクの件はともかく、目の前でクネクネ動くオチンからウインクをされる状況は決して愉快なものではない。段々、苛立たしくなってきて、「そもそもだ」と私は憤然として口火を切った。「なんでオチンに目が付いているのだ?その時点でおかしい。さらに、ぎこちなくウインクするオチンは、とても不気味だ」
「うむ。最初はそう言っていても、やがてこの不気味さがクセになるのでござる」
「ならんね。俺はそういうタイプの人間ではない。俺がクセになるのは、趣味の良いものだけだ。れもんちゃんが、いい例だ。そもそも、この踊りのどこが、『れもんちゃんダンス』なんだ?」
「うむ。れもんちゃんと言えば、可愛いウインクがトレードマーク。新作の動画が巷で大変な話題になってござる」
「・・・お前、どうして、それを知ってるの?」
「拙者、最近、副業でWi-Fiのアンテナをやっておるゆえ、巷の情報に通じてござる」
「・・・そうだったんだ・・・お前・・・頑張ってるな」
「うむ。拙者、頑張っておる」
そんなことを話した。
そして、れもんちゃんに会った。
もちろん、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だった。
親子ともども宇宙一幸せだった。
というようなことを翌日投稿しようとしていたら、立て続けにスマホのシステムアップデートに失敗して、スマホの調子がすっかりおかしくなった。シン太郎左衛門のWi-Fiスポットのせいだと思う。
そんなわけで今回、投稿が大幅に遅れてしまったのである。
シン太郎左衛門と『れもんちゃんダンス』 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の熱暴走 様
ご利用日時:2024年7月7日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。暑いのが大の苦手で、夏日中の外出を忌み嫌う。れもんちゃんに会いに行くのだけは、もちろん例外。それ以外の用事だと、じきに怒り出す。
昨日、土曜日、東京に出張した。昼過ぎに新幹線で品川駅に到着して、在来線に乗り換え、取引先の最寄り駅で降りると、目が回るような日差しだった。
取引先の自社ビルは駅から歩いて5分程度と聞いていたが、初めて行く場所だったからグーグルマップのナビを使った。
ガンガンの日差しの中、ナビに命じられるまま、汗を拭き拭き歩いていると、シン太郎左衛門が文句を言い出した。
「暑い!!」
「そんなこと、お前に言われんでも分かってる!暑いのは、お前だけではない。むしろ、直射日光を浴びてる俺は、お前の倍暑い」
「父上、喫茶店に入って、夕方、日が沈むまで待ちましょうぞ」
「そんな余裕をぶちかましてられるほど時間がない」
汗を拭うと、私は先を急いだ。ナビの言うとおり歩き続けたが、思いのほか遠い。かれこれ15分ほど歩かされて、「目的地に到着しました」と言われたが、どうにも実感が湧かない。二階建ての小さなビルの前に立った私の目の前にあるのは「西東京ダンススタジオ」の看板だった。
「練習生、募集中!!」のポスターを眺めながら、「なんか変な所に連れて来られた。とんだ勘違いだ。俺のどこを見て、ダンスの要素を感じたんだろう?」
「何をごちゃごちゃ言うておられる。早く喫茶店に入りましょうぞ」
「そんな時間はないし、見渡す限り喫茶店はない」と、もう一度ナビに訪問先の名称を入れて検索すると、今度は所要時間2時間半と表示された。
「ダメだ。暑すぎて、スマホが熱暴走したようだ。適当なことを言いやがって。これじゃ、シン太郎左衛門と五十歩百歩だ」
「なに、熱暴走とな。どれどれ、拙者が見て進ぜよう」
「見せられるか!こんな人通りのあるところでオチンを出したら、俺が熱暴走してるヤツだと思われてしまう」
「なるほど。それでは、そろそろ家に帰りましょう」
「・・・しばらく静かにしておけ」
通り掛かった人物に尋ねたら、500メートルほど引き返せと教えてくれた。その言葉どおり、無事に目的地に到着できた。
これが昨日の出来事だった。
そして、今日、日曜日、れもんちゃんに会う日。
朝起きて、新聞を読みながら朝ごはんを食べていると、シン太郎左衛門が『れもんちゃんダンス』を踊り始めた。
『れもんちゃんダンス』というのは、昨日、帰りの新幹線の中でシン太郎左衛門が考案した踊りなのだが、ラジオ体操の音楽に合わせて踊る、要所要所でウインクをするセクシーダンスだった。これ以上は、言葉では上手く説明できない。
新聞を読み終えると、食器を洗い、歯磨きをした後、「よし。シン太郎左衛門、そろそろ出発の時間だ」と告げると、シン太郎左衛門は踊るのを止めて、満面の笑みで、
「いよいよ待ちに待った『れもんちゃんタイム』でござるな」
「そうだ。今日は『れもんちゃんデー』だ」
「うむ。昨日は『れもんちゃんイブ』でござった」
「そうだ。ところで、その『れもんちゃんダンス』は、踊ってて楽しいか?」
「・・・微妙でござる。れもんちゃんが踊ってくれれば、見てて楽しいとは思いまする」
「それは、そうだが、お相手が、れもんちゃんなら、何をしたって楽しい時間になるに決まってる」
「うむ。間違いござらぬ」
ということで、れもんちゃんに会ってきた。
念のために言っておくと、やっぱり、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一であった。
帰りの電車の中、れもんちゃんの爽やかな色気を浴び続けて熱に浮かされたシン太郎左衛門は、興奮の余りほとんど叫ぶような大声で、ここに記して人目に晒すことが許されないような生々しい言葉を使い、れもんちゃんを讃え続けた。そして、その都度私にも同意を求めてきた。
「熱暴走した武士は手に負えん・・・うるさすぎる」
れもんちゃんの余韻にマッタリと浸るのを邪魔された私は本当に不機嫌になっていくのであった。
シン太郎左衛門の熱暴走 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と「宇宙一」の証明 様
ご利用日時:2024年6月30日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。どうしようもなく怠け者の穀潰しである。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。
朝9時に目を覚ますと、シティ・ヘブンのれもんちゃんのページで新しい動画を繰り返し見ては、胸の中で「今回の動画は、大変によく出来ている。もちろん実物には及ばないが、自然な表情とか、れもんちゃんの良さが引き出せている。れもんちゃんは、やはり素晴らしい」と呟き、深々と頷いた。
いつまでも、動画ばかり見てもいられないので、朝御飯の用意をして、新聞を取りに表に出た。最近、近所に引っ越してきたMさんの家のお爺ちゃんが犬の散歩をしていた。
「あっ、Mさんのうちのお爺ちゃんだ!」と言うと、シン太郎左衛門は気のない様子で、「そんな嬉しそうに声を上げるほどの人物でござるか?」
「お前も見てみろ。Mさんのお爺ちゃんは一見の価値があるぞ。ツルっ禿げで無帽で眼鏡もしていない。でんでん虫みたいにのんびりと歩いているし、むっちゃツルンとしてノメ~っとした顔してるから、真面目に観察しないと、正面から見ているのか、後ろ姿なのか区別が付かん」
「そんなことがありまするか」
「ある。今も遠目に俺が見ているのが、お爺ちゃんの顔面なのか、後頭部なのか、全然分からない・・・って、冗談のつもりで言っていたが、実際、前後ろの区別がつかん。こんなことって、本当にあるんだな」
「・・・単に、加齢による視力の衰えでござろう」と、シン太郎左衛門は吐き捨てるように言った。
確かに日々衰えを感じる。れもんちゃんだけが、私の支えだった。
新聞の日曜版は読み応えがない。トーストを噛りながら斜め読みをしたが、れもんちゃんの動画がリニューアルされたという大事件の記事もないし、すぐに放り出した。代わりに、昨日から読みかけの本を手に取った。
「父上、最近よく本を読んでおられまするな。小説でござるか」
「小説なんて国語の教科書以外で読んだ記憶がない。俺はフィクションが嫌いだからな」
「確かに『シン太郎左衛門』シリーズは、ノンフィクションでござる」
「・・・お前、それ、嫌味で言ってるだろ?真面目な話、『シン太郎左衛門』シリーズは、『れもんちゃんは宇宙一に宇宙一であること』の、数学的に厳密な証明を目指して書かれているのだ。しかし、筆者の真摯な想いにもかかわらず、毎回、変な武士が登場して、ぶち壊す。本来、『シン太郎左衛門』シリーズに、シン太郎左衛門は出て来てはならんのだ」
「では、金ちゃんなら出て来てよいのでござるか」
「金ちゃんもダメだ。当然Mさんのうちのお爺ちゃんもダメだ。こういう連中がいるから、話がおかしくなる。『シン太郎左衛門』シリーズは数式だけを使って、『れもんちゃんの宇宙一性』を証明することに徹するべきなのだ」
「なるほど。流石は、ホカホカのカイロ大学数学科の主席卒業者の言うことは違いまするな」
「また嫌味なことを言いやがって。俺は確かに数学科の卒業だが、本当は最低の成績で、お情けで卒業させてもらったのだ。もちろんカイロ大学なんて嘘だ。そもそも、このジメジメとクソ暑い日に、カイロだのコタツだの鍋焼きうどんだの、暑苦しいものの名前を出すな」
「うむ。畏まってござる」
「それにしても、今日はジメジメとして暑いなぁ。早くれもんちゃんに会わなければ、やってられん」
「うむ。れもんちゃんは爽やかで涼やかでござる」
「そうだ。それに、れもんちゃんとだと暑苦しいことをするのも大変楽しい」
「うむ。『エアコンの壊れた二畳足らずの個室で、全裸の力士10人と朝までカラオケ』という状況とは雲泥の差でござる」
「・・・そんな状況になったことがあるのか?」
「ない」
「そんなら言うな。そんな馬鹿なことを聞いたせいで暑さが増した」
というような下らない話をした後、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、やはり宇宙一に宇宙一だった。新しい動画が素敵だと言うと、れもんちゃんは「うん、頑張った」と、それはそれは素敵な笑顔を浮かべるのだった。
(証明終わり)
シン太郎左衛門と「宇宙一」の証明 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門が行方不明 様
ご利用日時:2024年6月23日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は、剣術の練習もサボっているし、「れもんちゃん音頭 2024」も諦めた様子だし、誠に天晴れな怠け者ぶりを晒している。
一昨日の金曜日、役所に行く用事があったので、年休を取り、(わーい、三連休だ)と年甲斐もなく喜んでいた。
金曜日の朝ゆっくりと起きて、朝御飯を食べていると、シン太郎左衛門が、
はあ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いた、れもん花
甘い香りに誘われて・・・
と「元祖れもんちゃん音頭」を歌い出した。懐かしさもあって、染々と聞き入ってしまったが、
「おい、シン太郎左衛門。お前、『れもんちゃん音頭 2024』は諦めたのか?」
「うむ。綺麗さっぱり諦めてござる。これからは、『元祖れもんちゃん音頭』一本で、地方営業に精を出す所存でござる」
「もう少し粘れよ。れもんちゃんへの想いが足りないんじゃないか?」と意見すると、シン太郎左衛門は憤然として、
「父上のような凡人に、アーティストの苦悩は分かりますまい。れもんちゃんへの想いが増すほどに、れもんちゃんの偉大さに比して我が力量の不足が痛感されるのでござる」
「ふ~ん」と気のない調子で答えたが、この日一日、シン太郎左衛門は鬱ぎ気味であった。
翌日土曜日の朝、昼前までぐっすり眠った。目覚めると、何か変だなと感じた。
「シン太郎左衛門、なんか変な感じしないか?」と訊いてみたが、答えがなかった。
「おい、シン太郎左衛門」と布団を捲ってみて、違和感の由縁を理解した。私は寝ている間に自覚なくパジャマのズボンやパンツを脱いで下半身裸になる癖があるのだが、ヘソから下に目をやって気付いた。シン太郎左衛門がいるべき場所にいなかった。
そもそも絶大な存在感のあるヤツではないから、股の間の皺に紛れ込んでいるのかと手で探ってみたが、さすがにそんな蚤のように小さい訳でもなかった。
「お~い、シン太郎左衛門。どこだ?トイレか?」と呼んでみたが、答えは返ってこない。少し嫌な予感がした。家の中を「お~い、シン太郎左衛門」と言いながら探し回ったが、気配さえしなかった。家を出たのだ。その証拠にヤツの愛刀(銘は「正宗」だったか、何だったか。何と呼ぼうと、結局は昔コンビニでもらった割り箸)も消えていた。
私は、(面倒くさいことになったなぁ)と、とりあえずリビングの椅子に腰を下ろすと、前回会ったとき、れもんちゃんから「れもんちゃんのパネルが新しくなるよ~ん」と聞かされていたので、シティ・ヘブンのれもんちゃんのページで新しいパネルを一枚一枚丁寧に確認し、「今回のパネルもいい出来だが、結局、れもんちゃん本人には勝てない」という当然の結論を口にして、誰も何とも言い返さない沈黙の中で、シン太郎左衛門が家出したことを思い出した。
(いかん、いかん、明日は、れもんちゃんに会う日だから、今日中にシン太郎左衛門を探し出さねば)と考えたが、まさか、これから警察署に出向いて、「すいません。昨日か今日か、武士の落し物が届いてませんか?」なんて訊く気にはならなかった。そもそも警察署は家からとても遠かった。
(そうだ。それほど遠くまでは行ってないだろうから、近所の電柱に「迷い武士を探してます」のチラシを貼って回ろう)と思い、書斎のパソコンを立ち上げて、ワープロソフトで、
迷い武士を探してます!!
名前:富士山シン太郎左衛門
年齢:不詳(多分、私と同じ年)
特徴:よく喋る。歌う。何より、れもん好き
と打ち込んだが、はたと手が止まった。私は、シン太郎左衛門の写真を持っていなかった。捜索願のチラシが写真なしでは様にならないと思われた。仕方ないので、描画ソフトでイラストを描いてみたが全然上手くいかなかった。
(なんだ、これ?イカにしか見えん。そうだ、色を塗ろう・・・しまった、グチャグチャにしてしまった。もう何だか分からない)
捜索願のチラシは諦めざるを得まいと思ったとき、閃いた。一時期シン太郎左衛門がT(私の知人)と連れだって京都の宮川町で御座敷遊びをしていたと言っていたことを思い出した。
早速Tに電話した。
幸いTは、すぐに電話に出た。
「よう、久し振り」と切り出したTは元々京都の人間だが、事情があって京都の言葉が上手く話せない。
「ああ」と答えた私も、子供の頃は親の仕事、就職してからは自分の仕事のせいで住まいを転々としてきたから、東京弁にも関西弁にも、また他のどの「弁」にも属さない日本語しか話せない。ともに言葉にコンプレックスを感じている者同士だった。
「早速だけど、シン太郎左衛門、そっちに行ってない?」
「シン太郎左衛門?誰、それ」
「会ったことあるはずだぞ。『Tと一緒に宮川町で御座敷遊びをした』って、シン太郎左衛門が言ってた」
「シン太郎左衛門なんてヤツ、記憶にないなぁ」
「そうなのか・・・つまり、昨日か今日か、お前のところに武士は来てないんだな?」
「武士?お前、今、『武士』って言った?」
「・・・まあ、いいや。ところで、お前、れもんちゃんを知ってるか?」
「知らん」
「そうか。れもんちゃんを知らないとは可哀想なヤツだ。いい年して、お前はまだ人生の本当の意味も楽しさも分かっていない」
そう言うと私は電話を切った。もう八方塞がりだった。窓の外では雨が降っていた。そのまま夜になった。
夕食の食器を洗いながら、
はあ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いた、れもん花
と「元祖れもんちゃん音頭」を歌ってみたが、自分でも気分が悪くなるほどの音痴だった。
「シン太郎左衛門、さっさと帰って来いよ」と、独り言を言っていた。
ボンヤリとしているうちに時刻は夜10時を過ぎていた。いよいよ心配になってきた。明日、シン太郎左衛門なしに、れもんちゃんに会う気まずさを想像していると、リビングの引き戸を開けて、「只今帰参つかまつってござる」と声がした。脇に割り箸を手挟んだシン太郎左衛門が立っていた。
「遅かったな。どこへ行っていた?」
「公園の裏山で、新兵衛に会って参った」
「そうか。新兵衛は元気だったか?」
「うむ。大いに語らってまいった」
クワガタ相手に、何を大いに語らってのかは到底理解の及ばぬことだった。
「新兵衛は相変わらず無口だったか?」
「いやいや。新兵衛め、随分と喋りおった。最近、一戸建ての住宅を購入し、ローン返済が大変だと、ぼやいておった」
「・・・お前、誰に会って来たんだ?」
「新兵衛でござる。クヌギの大木の枝の上で、風の音を聴きながら語らった。そのうち雨が降ってまいった。いつの間にか新兵衛はいなくなっておった。日も暮れて、闇の中、遠くの街灯の光を受けてキラキラと輝く雨粒を見ながら、れもんちゃんのことを思い出し、『やはり、れもんちゃんは素晴らしいなぁ』などと考えもって雨止みを待っているうちに、こんな時間になってござる」
「そうか。自宅を持つとは、新兵衛も立派になったもんだ」
「うむ。新兵衛、立派になってござった。身体付きも見違えるほど逞しくなり、ほんのり赤みを帯びておった。顎もグワンと湾曲して恐いほど立派になってござった」
「・・・それは、ノコギリクワガタだ。新兵衛ではない。別のクワガタだ」
そんな話をした翌日、日曜日、れもんちゃんに会った。
れもんちゃんは、当然宇宙一に宇宙一で、昨日、シン太郎左衛門が失踪したことを告げると「戻ってきてよかったね」と、宇宙一可愛い笑顔を浮かべた。
帰りの電車の中、窓の外は前日に続いて雨模様だったが、我々親子の心の中は晴れ渡っていた。
れもんちゃんの神々しい面影が、我々の心の中で燦然と輝いていた。
そして、れもんちゃんの新しい動画はとてもよい。
シン太郎左衛門が行方不明 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭 2024』3 様
ご利用日時:2024年6月16日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近、私は仕事が忙しくて、寝不足ぎみだ。必然的に息子もお疲れぎみの武士である。
さて、シン太郎左衛門は、引き続き「れもんちゃん音頭 2024」を製作しているが、はかばかしい進展も見られない。
「う~ん、う~ん」と唸ってばかりいる。
今日は、日曜日。れもんちゃんに会う日。シン太郎左衛門が、やはり朝から唸ってばかりいるので、
「そう唸っていてもダメだ。しょうがない。俺が手伝ってやろう」
「父上のような選りすぐりのクソ音痴に作曲などできまするか」
「出来ないものではない。隠していたが、実は割りと得意だったりする」
「それは誠でござるか」
「うん。学生の頃、プログレのバンドをやってて、作詞・作曲もしてた」
「なんと。音大で作曲を学ばれたとな。ピアノも弾けると」
「そんなことは一言も言っていない。ちゃんと聴け。ロックバンドでベースを弾いていた。それに俺の通っていたのは、音大ではなく、カイロ大学だ。主席で卒業した」
「・・・どこかで聞いたような話でござる」
「そうか?言っておくが、俺のカイロ大学は、エジプトの首都とは関係ないからね。揉んでから懐に入れると、ポカポカと温かい方のカイロだ」
「うむ・・・そんなヘンテコな大学で何を学ばれましたか」
「数学。理学部数学科の卒業だ」
「数学は『れもんちゃん音頭』に役立つのでござるか」
「全く役に立たないよ」
「・・・全然話が噛み合っておらぬ。父上、結局何が言いたいのでござるか!」
「お前がトンチンカンだから、会話が成り立たないのだ。『こんな感じの曲にしたい』っていうイメージを教えてくれたら、俺もアイデアを出してやるって言ってるの!」
「分かりにくい!」
「いいから、曲のイメージを言え!」
シン太郎左衛門は、少し神妙な表情になり、
「新しい『れもんちゃん音頭』のコンセプトは『愛と平和』でござる」
「そういうの止めよう。お前の口から『愛と平和』なんてセリフ、聞きたくもない」
「では、『愛と平和2(ツー)』で」
「意味が分からん。助けようという気持ちが一気に萎えた。やっぱり、お前は気が済むまで唸っておけ」
そのとき、「あっ」とシン太郎左衛門は目を輝かせ、「思い付いてござる。『れもんちゃん音頭』は、拙者、富士山シン太郎左衛門から、優しく可愛く美しい、宇宙一に宇宙一のれもんちゃんへの愛のメッセージでござるゆえ、歌い出しには富士の山が相応しい。そこから、先週作った『宮川町より福原町。今日もれもんの花盛り』に繋げていきまする」
「なるほどね。大して感心するほどのアイデアでもないが、それでもいいんじゃないか」
「うむ。では、こんな感じでござる」とシン太郎左衛門は歌い出した。
富士の高嶺に降る雪の~
「待て待て。それ、『お座敷小唄』だろ?」
「『お座敷小唄』とは何でござるか?」
「『富士の高嶺に降る雪も~京都先斗町に降る雪も~』って、60年前の松尾和子の歌だ。和田弘とマヒナスターズだ」
「何を言っているか、さっぱり分からぬ。黙って最後まで聴かれよ」
富士の高嶺に降る雪の
溶けて流れて渦巻いて
やがて京都の鴨川を
遥かに越えて神戸港
ほれ、宮川町より福原町
今日もれもんの花盛り
「・・・論外だ。富士山の雪解け水が、なんで鴨川を流れてるんだ?駿河湾に注いで、太平洋を渡って大阪湾から淀川を逆流したのか?さらに鴨川を流れてたと思ったら、いきなり神戸港に現れる。雪解け水が神出鬼没な、変な動きをするせいで、気が散って、れもんちゃんに集中できない」
「れもんちゃんを引き立てられておりませぬか」
「全然だ。俺が、れもんちゃんなら『ふざけるな』と怒るところだが、れもんちゃんは俺と違ってニッコリ笑ってくれるだろう」
「・・・つまり、れもんちゃん視点では、かなりいい線を行っているということでござるな」
「そんなことは言っていない。れもんちゃんは、宇宙一気立てもいいから、こんなことに目くじらを立てたりしないと言ったまでで、今の曲は論外だ」
「分かりにくい!」
「お前が馬鹿なだけだ!」
「黙れ、この変態オヤジめ!」
「・・・そこまで言うなら、今日、お前はお留守番だ」
「うっ・・・」シン太郎左衛門はしばし押し黙り、呻くような小声で「お留守番は嫌でござる」
「いや、お留守番だ!」
「お留守番だけは勘弁してくだされ」
「では、反省しろ!」
「うむ、反省いたしまする。さて、反省いたしました。では、そろそろ出掛けましょうぞ」
「よし、行こう。れもんちゃんが待っている」
「れもんちゃんは宇宙一に宇宙一でござる」
「言うまでもないことだ」
そして、れもんちゃんに会った。
親子揃って、夢のような時間を過ごした。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門がボソッと呟いた。
「考えてみれば、『元祖れもんちゃん音頭』は、よく出来ておりましたな」
「分からん。そうかもしれん。違うかもしれん。唯一確かに言えることは、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だということだけだ」
「うむ。それは疑う余地がござらぬ」
それきり二人は、それぞれ黙って、れもんちゃんの余韻に浸っていった。
おそらく『れもんちゃん音頭 2024』は完成することはないだろう。しかし、それは大したことではなかった。
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭 2024』3 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭 2024』2 様
ご利用日時:2024年6月2日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。現在、『れもんちゃん音頭 2024』の製作に全身全霊を傾けているが、全くもって進捗が見られない。
今日は日曜日、れもんちゃんに会いに行く日。
朝起きるなり、シン太郎左衛門は、「『れもんちゃん音頭 2024 』製作委員会 委員長」のタスキをつけて、リビングのテーブルに向かった。ぶつぶつ言いながら、原稿用紙に数文字書いては、「う~む」と唸って握り潰し、床の上に投げ付けた。あっと言う間に床一面、紙の玉で一杯になった。まるで雪原を見るようだった。
「おい、紙の無駄遣いはやめろ。一行書いては丸めて捨てやがって」
「うむ。『れもんちゃん音頭』は大変に難しいものでござる」と言いながら、また原稿用紙を丸めて、床に投げ付けた。
去年、あんなに易々と作れたのが嘘のような苦戦ぶりだった。
一方、私は、本棚に収まり切らなくなった書籍や雑誌を処分すべきか悩んでいた。
廃棄候補として、床にうずたかく積まれた本の上に載った紙玉を払い除けると、一番上の一冊を手に取った。真っ先に捨てる積もりの古い雑誌だったが、表紙を捲ると、そのまま読み耽ってしまった。
「父上、何を読んでおられまするか」
「古い旅行雑誌の特集『京のおもてなし』の号だ」
シン太郎左衛門に、祇園の町を歩く舞妓さんの写真を使った表紙を見せてやった。
「祇園でござるな」
「うん。そうらしい。俺は祇園なんて行ったことがない」
「拙者も祇園には縁がござらぬ。もっぱら宮川町で遊んだものでござる」
「・・・宮川町も京都で有名な花街だな」
「うむ。馴染みの舞妓がおった。何度か御座敷遊びを致した」
「・・・俺には、そんな記憶はない」
「そうでござろう。父上と行ったわけではござらぬ」
「では誰と行ったのだ?」
「Tを連れて行ってござる。お茶屋は、彼奴の紹介でござった」
Tというのは、私の知り合いで、京都の古い商家のドラ息子だった。
「そうか。いつの間にか、Tと親しくなっていたのだな」
「うむ」
「何度も行ったのか?」
「ほんの四、五回行ったばかり。言うて、御座敷遊びは拙者の趣味ではござらぬ」
「ふ~ん・・・で、その間、俺は何をしてたのだろう?」
「知らぬ。大方、駅前の中華屋で、大好きなマーボ丼か半チャンラーメンでも食ろうておったのでござろう」
「・・・解せぬ話だ。お前とTが、そんな贅沢をしている間に、どうして俺は独り遠く離れた場所で中華を食べていたんだ?」
「理由など知らぬ。ともかく、Tも拙者も、父上を誘う気にはならなんだ」
「ひどい話だな。それって、いつ頃の話だ?」
「かれこれ5年は前でござろう・・・あっ、そうだ、思い付いてござる」と、シン太郎左衛門は目を輝かせ、
宮川町より福原町
今日も、れもんの花盛り~
と、歌声を響かせた。
「うむ、これはよい。これを一番の締めに使うと致そう」
「・・・よかったね。やっと少し出来た」
こんな調子で、1週間もかけて、「れもんちゃん音頭2024」は、一番の最後の一節しかできていない。
「一年の間に、れもんちゃんの凄さを思い知らされたゆえ、気軽に書けなくなった」というのが、シン太郎左衛門の言い分である。
そして、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、当然のことではあるが、宇宙一に宇宙一だった。
私には、どうしても、宇宙一に宇宙一のれもんちゃんに訊いてみたいことがあった。
「ねえ、れもんちゃん。これまでに、シン太郎左衛門が一人で会いに来たことって、ある?」
れもんちゃんは宇宙一可愛い笑顔を浮かべて、「ないよ」と答えた。
「じゃあ、シン太郎左衛門が俺以外の誰かと連れ立ってきたことは?」
「それもないよ」
「よかった。もし、今後そういうことがあったら、シン太郎左衛門を30分ぐらい冷蔵庫に閉じ込めて、懲らしめてやってね」と言うと、れもんちゃんは、「うん、分かった」と、それはそれは可愛く笑うのであった。
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭 2024』2 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭 2024』(あるいはエロいクチコミ3) 様
ご利用日時:2024年6月2日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。現在、「シン・れもんちゃん音頭」を製作中である。
先週の日曜日、訳あって、れもんちゃんに会えなかった。
前日の土曜日、両手の捻挫がマシになったので、久しぶりに出勤し溜まった仕事を片付けると、「明日は、れもんちゃんに会える」と足取り軽く職場を後にした。帰りの電車の中で、妙に身体が熱いので、(なんか、元気が漲ってる感じだな。俺は、今燃えている)と思ったのは勘違いで、久しぶりに丸1日冷房に当たっていたのが祟ったのか、家に帰って検温したら39度の発熱中だった。
急いで布団を敷いて横になったが、強烈な悪寒に取りつかれて、泣く泣く翌日の予約をキャンセルした。
高熱でしんどい上に、れもんちゃんに不義理なことをして胸が傷むのに、シン太郎左衛門からは、「大馬鹿者」だの「れもんちゃんとの約束を反古にするヤツは死ねばよい」だの「ろくでなしの変態オヤジ」などと散々に罵られ、傷口に山盛りの塩を塗られた。
翌日曜日は、れもんちゃんに会うことができず、グッタリとして眠り続けたが、結局ただの風邪だった。月曜日の夜にはすっかり回復して、火曜日には普通に出勤したが、シン太郎左衛門は、ずっと不機嫌で、「れもんちゃんに申し訳が立たん。早々に腹を切られよ」と責め立ててきた。
れもんちゃんに申し訳ないことをした自責の念に変わりはなかったが、いい加減ウンザリしてきたので、
「では、お前の言うとおりにしてやろう」
「うむ」
「ただ、俺が腹を切ったら、お前、もう二度と、れもんちゃんに会えなくなるぞ。それでもいいのか?」
「・・・拙者まで巻き添えにされるのは迷惑でござる」
「でも、そうなってしまう。俺は別に死んでもいいが、それではお前が可哀想だ。れもんちゃんに会えないとはな、まったく可哀想なヤツだ」
「うむ。いかにも、拙者が可哀想でござる」
「だろ?だから死なないでおいてやる。感謝しろ」
「うむ。有り難き幸せにござる」
「よし。よく胆に銘じておけ。お前が、れもんちゃんに会えるのは、俺のお陰だ」
「うむ。父上には、達者で長生きをお願い致しまする。れもんちゃんは宇宙一でござる」
「当たり前だ。れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一な上に、福原一の名妓でもある」
この言葉に、シン太郎左衛門は、「へへへへ」と、だらしなくニヤけ出し、「うむ。れもんちゃんは、それは、それは、大変なものでござる」とクネクネし始めた。
「・・・何だ、お前。突然、クネクネしだして・・・あっ、分かった。俺は『名妓』と言ったんだ。『めい・ぎ』だ。お前、濁点を聞き漏らしただろ?」
「へへへへ。濁点など不要でござる」
こんな感じで、我々親子は仲直りした。
そして、日曜日の朝、親子共々元気に目を覚まし、出発時刻までの時間を思い思いに過ごした。シン太郎左衛門は、『れもんちゃん音頭 2024』を頑張って作っていたが、行き詰まっているようで「う~ん」と唸ってから、「あっ、そうだ」
踊り踊るな~ら、ちょいと東京音頭、よいよい
と一節歌ってすぐに、「いかん、いかん。これは『東京音頭』そのものでござる」と、頭を掻いていた。この調子だと、年内に完成するとは思えなかった。
そして、れもんちゃんに会った。
間が空いてしまったせいで、れもんちゃんの素晴らしさが、より一層強烈に感じられた。
れもんちゃんは、余りにも宇宙一に宇宙一で、劇烈に福原一の名・・・であった。
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭 2024』(あるいはエロいクチコミ3) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と「エロいクチコミ」2 様
ご利用日時:2024年5月19日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。見た目では、絶対に武士だとは分からない。人は見かけに依らぬものだが、シン太郎左衛門は人ではない。
日曜日、れもんちゃんに会いに行った。もちろん、クラブロイヤル在籍の、宇宙一の「れもんちゃん」に会いに行った、という意味である。よもや誤解はないとは思うものの、一応念を押しておく。
さて、その「れもんちゃん」たるや、相変わらずの超絶的な宇宙一ぶりで、親子ともどもポーっとなって帰りの電車に乗ったわけだが、車中、シン太郎左衛門は、れもんちゃんの思い出に浸り切って、突然クネクネし始めた。
ズボンの中でクネクネされると、落ち着かないので、
「おい、シン太郎左衛門。そのクネクネ、止めてくんないかなぁ」と言うと、シン太郎左衛門は憤然として、
「今日も、れもんちゃんは実にエロかった。れもんちゃんのことを思い出すと、身体が自ずとクネクネしてしまうのでござる」と言い返してきた。
「俺だって、れもんちゃんの並外れた素晴らしさに心底感服しているが、いい年をした大人は、いくら感動しても、そんな風にクネクネしないものだ。ましてや電車の中で無闇にクネクネしてはいかん」
「いや。鈍感極まる父上とは違い、拙者はとても感度がよいから、れもんちゃんのことを思い出すと、自然と身体が水底の海藻のようにクネクネして、『アッハンウッフン』と言ってしまいまする。拙者のせいではない。れもんちゃんがエロすぎるのが原因でござる」
「気楽なヤツだなぁ。これだから武士は困る。お前と違って、俺は普通の勤め人だからな。場所柄も弁えず、本能のままにクネクネしていたら、色々と面倒なことになる・・・だからクネクネするなって!」
「うむ」
シン太郎左衛門は不承不承クネクネを止めると、「勤め人とは実に下らぬものでござるな。一思いに辞めてしまいなされ」
「・・・辞めてどうする?」
「拙者と一緒にクネクネしましょう」
なんか怒鳴り付けたい気持ちになったが、思い止まり、私は本を開いて読み始めた。
しかし、5分と経たぬうちに、再びシン太郎左衛門が、れもんちゃんの思い出に浸って、クネクネと身を捩りながら「アッハンウッフン」と悶え出し、話がまた振り出しに戻ってしまった。
こんなヤツと一緒にいては、まともに読書などできるはずがない。本を閉じて、「お前、相当気持ち悪いぞ」と言ってや
ると、シン太郎左衛門、「あっ、大事なことを言い忘れてござった。あれほど言ったのに、父上のクチコミは、前回も、モノの見事にエロくなかった。今回こそ読んだ人が、思わず『アッハンウッフン』と喘いでしまうようなものを書いてくだされ」とぬかした。
「はいよ」と愛想よく答えたが、私には、そんなものを書く気は更々なかったし、元々そんなものを書く能力もなかった。
と、こんなことを書き掛けていた月曜日の夜、家の階段を踏み外して、利き手を捻挫してしまった。そんな訳で、今回クチコミを投稿するのが遅くなった(土曜日)。
パソコンが使えないでは仕事にもならないので、この数日は休みをとって家で大人しく過ごした。れもんちゃんの余韻を引き摺っているシン太郎左衛門は、やはりクネクネしていた。私は、右手首から湿布の匂いをプンプンさせながら、何をするのも億劫で、ただ中空を見上げてボンヤリとしていたのだが、時々れもんちゃんの愛らしい笑顔やら、ここには書けないことを思い出し、シン太郎左衛門に釣られるように身体をクネクネと動かしてしまっていた。
シン太郎左衛門は満足げに頷いて「その調子でござる」と言ったが、「アッハンウッフン」と言うには、私は自制心が強すぎた。
シン太郎左衛門と「エロいクチコミ」2 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と「エロいクチコミ」 様
ご利用日時:2024年5月12日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。先週までは、弟子(新兵衛:クワガタ)を抱えた緊張感があったためか、妙にちゃんとした発言が目立ったが、その重石が外れた途端、ただの馬鹿に戻ってしまった。
日曜日、宇宙一のれもんちゃんに会った。これまで何十回と会っていながら、なお110分間、驚きの連続であった。宇宙が今も想像すら出来ないスピードで拡大しているように、れもんちゃんも成長を続けている。感服するのみだ。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門はニヤニヤしたり、ヘラヘラしたり、うっとりしたり、様々な表情を浮かべて、れもんちゃんの余韻に浸っていた。もちろん、ズボンの中に収まったシン太郎左衛門の表情が分かるわけがないのだが、当人が、
「ヘラヘラヘラ」と言うので、
「お前は、今ヘラヘラしているな」と尋ねると、
「いかにも拙者、ヘラヘラしてござる」と答える。
「アッハンウッフン」と言うので、
「お前は、今アッハンウッフンしているな」と尋ねると、
「いかにも拙者、アッハンウッフンしてござる」と答える。
「つまり、お前は今、れもんちゃんの余韻に浸っている」
「うむ。いかにも拙者は今、れもんちゃんの余韻に浸ってござる。れもんちゃんは今日も大変にステキでござった」
「当たり前だ。お前、れもんちゃんを誰だと思ってるんだ。れもんちゃんは・・・れもんちゃんだぞ。言わずと知れた宇宙一のれもんちゃんだ」
「うむ。父上、れもんちゃんはエロい」
「そんなこと、お前に言われんでも分かっている」
「父上の書くクチコミはエロくない」
「それも分かっている」
「では、今回のクチコミは、エロくしてくだされ」
「何故だ?」
「れもんちゃんの凄さが、世の中に十分伝わっておらぬ。それもこれも、エロくも何ともないクチコミを馬鹿みたいに毎週書いて、れもんちゃんの邪魔ばかりしておる父上のせいでござる」
「言い掛かりだな」
「とにかく、今回ばかりは何が何でも、れもんちゃんのエロさを余す所なく描いてくだされ」
「断る。そんな無茶なことは出来ん。俺が本気で、れもんちゃんの真の姿を書いたら、ただでは済まん」
「不掲載でござるか」
「そんなことで収まればいいが、もし掲載されたら、予約が殺到して、クラブロイヤルの電話が鳴りっぱなしになる。電話が繋がらないから、不満を持った人達が暴徒になって押し寄せる。福原で暴動が起こる。我々の予約さえ脅かされるんだぞ」
「それはいかん」
「いかんだろ?だから、今までどおりでいいのだ」
「父上は、そこまで見通して、こんな馬鹿なモノを書いておったのでござるな」
「そうだ。見直したか」
「うむ。見直してござる。ただ、今回に限り、少しでよい、お色気を加えてくだされ。もちろん、我々親子の予約が脅かされぬ程度にお願いいたす」
「よし、分かった」
そう軽々しく約束したのだが、結局今日(水曜日)に至るまで一行も書けなかった。少しは努力してみたが、れもんちゃんのエロさは、私の筆力が遠く及ばないものだった。
ただ、約束しよう。れもんちゃんは、飛んでもなくエロい。これは1=1よりも遥かに確かなのだ。しかし・・・
すべては、会ってからのお楽しみだよ~ん。
シン太郎左衛門と「エロいクチコミ」 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(さらば新兵衛) 様
ご利用日時:2024年5月5日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ちょんまげは、結っていない。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う大事な日。今日も元気に、親子揃って、5時起きをした。
そして、新兵衛(クワガタ。シン太郎左衛門のお友だち)を新兵衛ハウス(プラスチックの小さな水槽)から摘まんで出して、布団の上に置くと、いつもの剣術の稽古が始まった。「やあっ!」「とおっ!」「新兵器、気合いが足らんぞ!」とシン太郎左衛門は叫んでいる。新兵衛はトコトコ歩き回り、ピタッと止まると布団の上にプリッと余計なことをした。私は急いでウェット・ティッシュで汚れを拭い取った。
いつもの光景。でも、私には気になっていることがあった。
随分、暖かくなってきた。そろそろ新兵衛を自然に返してやらなければならない。シン太郎左衛門は悲しむだろうが、このまま新兵衛を家に留めては宇宙の摂理に悖るというものだ。「宇宙の摂理を司る」れもんちゃんにも申し訳ない。
稽古が終わると、新兵衛を籠に戻し、さりげなく、「もう寒い季節は終わった」と言うと、シン太郎左衛門は大きく頷き、
「うむ。では、そろそろ新兵衛を森に返しましょう」と、驚くほど恬淡としている。
「寂しくなるな・・・」
「寂しくなどござらぬ。初めから決まっていたこと。この2ヶ月の間に、新兵衛は立派な武士になってござる」
「そうかなぁ。剣術の腕前が上がった様子はない」
「そうではござらぬ。剣術の腕など些末なことでござる。新兵衛は剣の心を身に付けた」
「剣の心ってなんだ?」
「打算にとらわれず生きることでござる」
「クワガタにとっての打算って何だよ?元々、打算にとらわれてなくないか?」
「まあよい。早速、新兵衛に腹ごしらえをさせてくだされ」
丘に向けて坂を登り、公園を過ぎた辺りから、山に向かって森が開ける。朝日を浴びて、木々の緑が鮮やかだった。斜面に雑然と生えた木々の間を縫ってしばらく進んだが、やがて雑木が生い茂り、行く手を阻んだ。これ以上奥には進めそうもないので、ぐるっと周りの樹を見渡した。
「この樹がいいかな。クヌギだと思う」
「うむ」
私は、ポロシャツの胸にバッジのようにじっとしていた新兵衛を引き離し、クヌギの樹の幹に留まらせた。
「では、新兵衛、お別れでござる。達者で暮らせよ」
新兵衛はトコトコと樹を上り始めたが、ピタッと止まった。振り向いて哀惜の辞を述べる代わりに、プリッと余計なことをすると、またトコトコと樹を上っていった。
「では、行こう」
二人はその場を後にした。たったこれだけのことだった。静かなお別れだった。
帰り道、「新兵衛は、やがて可愛い雌のクワガタと出会って、子孫を残すんだろうな」と言うと、シン太郎左衛門は、「うむ」と大きく頷いた。
「しかし、なんだな。前のクチコミの次回予告に書いたことで、実際そのとおりになったのは、タイトルだけだ。最終回にする気も起こらんし、感動的でもないし、まず第一に俺が書いてしまっている」
「それでよい。湿っぽい話など、れもんちゃんのクチコミには相応しくない。れもんちゃんは、宇宙一明るく元気な女の子でござる。『シン太郎左衛門』の作者は、未来永劫、父上一人でござる」
家に帰り、リビングのサイドラックに置かれた新兵衛ハウスを見て、少し寂しくなった。でも、それも一瞬のこと。今日は、れもんちゃんに会いに行く日だった。
そして、れもんちゃんに会った。
新兵衛が家に来たのは、3月3日、雛祭りの日だった。その日、れもんちゃんは宇宙一だった。
今日、5月5日、れもんちゃんは、やはり宇宙一だった。
そして、れもんちゃんは、これからもずっと宇宙一であり続ける。これは、宇宙誕生のときに、すでに決まっていたことである。
シン太郎左衛門(さらば新兵衛) 様ありがとうございました。
- 投稿者:富士山シン太郎左衛門(本人) 様
ご利用日時:2024年4月28日
- 拙者、毎度お馴染みのシン太郎左衛門でござる。日頃のご交誼に心より御礼申し上げまする。
さて、今日は、月曜日、「昭和の日」の朝。時刻は10時。
拙者は古家のリビングにおった。もちろん、馬鹿オヤジも一緒でござる。
恥ずかしながら、拙者の馬鹿オヤジは、「『シン太郎左衛門』シリーズには、複数の作者がいる」という妄想に取り付かれ、「みんな仲良く順番に書くべきだ。俺は前回も前々回も書いたんだから、今回は何があっても書かない」と主張して譲らぬ。
「何を戯けたことを。それでは、昨日、宇宙一の幸せ者にしてくれた宇宙一のれもんちゃんに申し訳が立たぬ」と説得を試みたものの、頑として聞かぬ。
「そこまで言うなら、お前が書け」と、拙者にスマホを押し付けて、「くわぁ~」と大アクビをかましおった。
父上の書くクチコミは、どうにも色気がない。かくなる上は、拙者が熱気で逆上せるぐらい濃厚なクチコミの一大傑作を物してくれんと、クラブロイヤル公式サイトの「お客様の声(投稿)」のページに向かい合い、「お遊びになられた女の子の名前」として「れもんちゃん(ダイヤモンドかつ永遠の23歳)」を、岩をも砕く勢いで選択いたした。続けて、渾身の力を込めて、「そもそも、れもんちゃんのオッパイとは」と、本文に打ち込んだ刹那、父上が眠そうに眼を擦りながら、「言っとくけど、そのままズバリの描写とかすると、不掲載になるからね。折角の苦労が水の泡だよ~ん」と、猪口才にも、れもんちゃんの口調を真似て宣いおった。
くそ忌々しい馬鹿オヤジめ、と思わず愛刀の貞宗(割り箸)に手が伸びかけたが、不掲載は拙者も望まぬので、「うむ」とだけ言うて返した。
ふと、以前のクチコミに同種の展開があったことを思い出し、この先どう書いたらよいものやらと悩んでおると、笛吹きケトルが甲高い音を立て、父上は立ち上がって台所に向かい二三歩歩いたところで、「歩きにくいと思ったら、お前にスマホを渡してたんだった」とヘラヘラと笑いおった。やはりコイツ、馬鹿だった。
コーヒーを淹れると、馬鹿オヤジは、二階の書斎から平素使わぬノートパソコンを持ってきて食卓の上に置くと、「これから俺は動画サイトで久保田早紀の『異邦人』を聴く」と、無駄に厳粛かつ悲壮感漂う表情を浮かべて宣言しおった。
さらに、「『異邦人』はいい歌だ。宮本浩次のカバーも素晴らしいが、『昭和の日』の朝には、やっぱり久保田早紀のオリジナルが一番だ」と訊いてもないことをベラベラと喋り続けておる。こんな馬鹿に付き合っていたら、いつになってもクチコミが出来ぬので、無視致した。
イントロが流れ始めると、「中近東風だろ?シルクロードがテーマだからな。久保田早紀の顔は俺の好みだ。もちろん、若い頃の俺の、という意味だ。今の好みは絶対的に、れもんちゃん」と、懲りずに要らぬ解説をしてくる。
無視しておると、あろうことか馬鹿オヤジは、久保田早紀に合わせて歌い出した。
子供たちが空に向かい
両手を広げ~
振りまでつけて歌っておるが、馬鹿オヤジの音痴には、笑って許せる要素が微塵もない。それはそれは悪質な音痴でござる。拙者、危険な化学薬品を浴びせられたかのように噎せかえり、両目がヒリヒリと焼かれるような痛みに苛まれ申した。
「父上、止めてくだされ!機嫌よくネグラで休んでいた新兵衛も慌てて這い出し、苦しそうにプラスチックのケースを掻いて訴えておりまする」
「ああ、ごめん、ごめん。うっかりしていた。また近所から苦情が来るところだった」
「父上の歌は、笑い事では済まされませぬぞ。並外れた音痴の上に、妙に媚びた歌い方が度を過ごして不快でござる。実に気分が悪くなった」
「分かってるって」と、馬鹿オヤジは無責任にヘラヘラと笑っておった。実に不愉快千万、斬り殺したいという強い衝動に駆られたものの、我慢致した。理由は、ただ、そんなことをすれば、れもんちゃんに会えなくなる、それだけでござる。
宇宙一下らぬ馬鹿オヤジは放っておいて、宇宙一可愛いれもんちゃんのクチコミを早く完成させねば、とは思ったものの、毒ガスのような歌を聞かされたせいで、拙者は全身に強烈な虚脱感を覚え、スマホは拙者の手を離れてフローリングの床で乾いた音を立てたのでござる。
という訳で、今回クチコミは完成いたさなんだ。無念でござる。
最後に、父上からの告知がござる。読んでくだされ。
(次回予告)
さて、次回の『シン太郎左衛門』は、またもや最終回、「さらば新兵衛」だ。感動の名作になるように、誰かが書け。俺は書かん。
富士山シン太郎左衛門(本人) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「今回クチコミを書かずにやり過ごしたヤツ」)様
ご利用日時:2024年4月21日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当に武士なのだろうか?よく分からない。
今日は水曜日。れもんちゃんに会う大事な日は日曜日であり、水曜日は全く大事ではない。
そんな大事ではない水曜日の朝、シン太郎左衛門が「父上、今回はまだクチコミを書いてござらぬな」と言い出した。
「うん。書いてないよ。何かとバタバタしているからな」
「書こうとする素振りも見せておられぬ。先の日曜日、宇宙一のれもんちゃんに、宇宙一の幸せ者にしてもらいながら、クチコミ一つ書かぬでは申し訳が立たぬ。さっさと書かれよ」
「いや。それが、大丈夫なんだ」
「何が『大丈夫』でござるか」
「最近、分かったんだ」
「何が分かったと」
「『シン太郎左衛門』シリーズを書いているのは、俺一人じゃないんだ」
「なんと。何を訳の分からぬことを言っておられるか。こんな下らぬものを書くのは父上だけでござる」
「それが、そうじゃなかったんだ。この前、お前から『シン太郎左衛門』シリーズは一周年で、これまで50回ほど投稿したと聞いたが、俺自身こんなものを50回も書いた覚えはないし、確認のため、クラブロイヤルのオフィシャルサイトを見てみた」
「れもんちゃん(ダイヤモンド)の『お客様の声』でござるな」
「そうだ。すると、確かに毎週日曜日、投稿者名に『シン太郎左衛門』を含むクチコミが投稿されていた。しかし、ざっと目を通してみると、自分で書いたと記憶のあるものは全体の3分の1ほどだった。残りは完全に身に覚えがない。つまり、別の誰かが書いたものだった」
「・・・お前、大丈夫か?」
「父親をお前呼ばわりするな!」
「申し訳ござらぬ。思わず口が滑った。しかし、父上、繰り返しになりまするが、『シン太郎左衛門』シリーズのような下らぬものを書く馬鹿は、父上以外には見当たりませぬぞ」
「そんなことを言われても困る。確かに、俺は自分でも呆れるくらいの怠け者で、興味のないことからは全力で目を背けようとする最低のヤツだ。人間として終わっている。でも、『シン太郎左衛門』の大半を俺が書いていないというのは疑いようがない。れもんちゃんファンは世の中に溢れているから、俺が書かなければ、他の誰かが『しょうがないなぁ』と、俺の代わりに『シン太郎左衛門』の続きを書いてくれる。世の中は、そういうふうで出来上がっているらしい。だから、今回、俺がパスしても大丈夫なのだ」
「いやいや。父上の場合には、『書いた記憶がない』のと『書いていない』は別物でござる。父上は、単純にボケが進んでいるのでござる」
「俺は、ボケてるわけではないぞ。その証拠に、大事なことは忘れない。だから、れもんちゃんに会う日を忘れたことがない。要するに、俺は関心のないことにトコトン無頓着なだけだ。子供の頃から、そうだった。例えば、小学生のとき、町を歩いていたら、床屋から出てきたガラの悪そうな男に思いっきり睨まれて、気持ち悪いから道を渡って避けた。しばらくしたら、向こうから歩いてきた買い物籠を下げた太ったオバさんが怪訝そうな顔で俺をじ~っと見ていたから、目線が合わないようにすれ違った。何で今日は、こんなに色んな人にジロジロ見られるんだろうと不思議に思って、よく考えたら、父さんと母さんだった。その程度のことなら度々ある」
シン太郎左衛門は呆気にとられた様子で、「お前、本当に大丈夫か?」
「何度も親をお前呼ばわりするな!」
「父上こそ親をなんと心得おるか!」
「一種の他人だ。でも、そんなことは、どうでもいい。とにかく、今週は俺の番ではない。今頃、誰かが新しい『シン太郎左衛門』をアップしているに違いない」
「では、今すぐ、れもんちゃん(ダイヤモンド)の『お客様の声』を見られよ」と、シン太郎左衛門に言われて、渋々スマホを操作した。
「う~ん、まだ掲載されてないな。今週の当番が誰だか知らんが、さっさと書けよ」
「そのセリフ、鏡に向かって言われよ」
「・・・お前、本気で、あれ全部を俺が書いたと言うのか?」
「うむ。間違いござらぬ。どれだけ待っても、父上が書かぬ限り、新しい『シン太郎左衛門』は投稿されませぬ」
「そうか・・・そこまで言うなら、こうしよう。今日の夕方まで待っても、『シン太郎左衛門』の新作が掲載されなければ、俺が書く。お互いお見合いをして、ポテンヒットになってはいかんからな」
「うむ。夕方になってから、慌てぬよう、今から準備されるがよい」
そして、職場からの帰り道、スマホでチェックした。結局、何の変化もなかった。そういう訳で、今、こんなものを書いている。
何とも釈然としないので、「おかしいなぁ・・・『シン太郎左衛門』の書き手は、俺だけじゃないはずなんだがなぁ」と呟くと、シン太郎左衛門から、「往生際が悪い!」と窘められた。
やはり何かがおかしいと感じつつも、れもんちゃんの笑顔(宇宙一)を思い浮かべると、この宇宙には何の問題もないと思えてきた。やっぱり、どう考えても、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だった。
「まあいいや」と言いながら、送信ボタンをクリックした。
シン太郎左衛門(あるいは「今回クチコミを書かずにやり過ごしたヤツ」)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「金ちゃんを待ちながら」) 様
ご利用日時:2024年4月14日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。この数日もやっぱり5時に起きて、剣術の稽古に励んでいる。立場上、私も付き合わざるを得ない。平日だろうが、土日・祝日だろうが、5時に起きて、その後1日親子共々「眠い、眠い」と嘆きながら過ごしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う大事な日。親子そろって5時に目を覚ました。
「5時だな」
「うむ。5時でござる。スマホで確認するまでもない」
「俺は、何を目的に、平日は7時、週末は8時に目覚ましをセットしているのだろう」
スマホを見たら、やはり5時だった。
シン太郎左衛門が弟子の新兵衛(クワガタ)と剣術の稽古を済ませた後、新兵衛をおウチに返して、砂糖水を作ろうと、台所に向かいかけたとき、はたと思い出したことがあった。「あっ、しまった。忘れてた」と呟いた。
シン太郎左衛門は呆れた様子で、「また、エープリル・フールに金ちゃんを騙す話でござるか」
「エープリル・フール?金ちゃんを騙す?お前、何を言ってるんだ。俺は、そんな子供じみたことはしない」
「ひどいボケ具合でござるな。先週、父上がそう言っておられた。前回のクチコミを読み返されよ」と、まるで訳の分からぬ言い掛かりを付けてきた。
「読むまでもない。ボケているのは、お前の方だ。そんなこと、考えたこともない。金ちゃんは、いいヤツだし、なかなか可愛げもある。れもんちゃんの気立ての良さを90兆としたとき、金ちゃんの気立ての良さは0.0001ぐらいで、れもんちゃんの可愛さを90京としたら、金ちゃんの可愛さはゼロだ」
「・・・結局、『金ちゃんは、大して良いヤツでもなく、可愛げもない』、そう言いたいのでござるな」
「違う。比較対象に、れもんちゃんを選んだのが間違いだった。金ちゃんは本当に良いヤツだし、愛嬌もあるが、れもんちゃんに感じる愛しさを90垓としたら、金ちゃんへの愛しさは、やっぱりゼロだ」
「そういう言い方をするぐらいなら、いっそ『俺は、金ちゃんが全く好きではない』と言った方がよかろう」
「変なこと、言うな。俺は金ちゃんがそこそこ好きだ。だからこそ、アイツに就職祝いのプレゼントを買った。でも、れもんちゃんの事ばかり考えていて、渡すのを忘れていた。これから渡しに行く」
「父上にしては珍しく儀礼に沿った、常識的な振る舞いでござる。お供いたそう」
玄関から外に出ると、夜はすっかり明けていた。私は、紙の手提げ袋を郵便受けの上に載せると、新聞を取り出し、読み始めた。
「父上、何をしてござる」
「新聞を読んでる」
「そういうことではござらぬ。早く金ちゃんの家に行き、就職祝いの品を渡されよ」
「今、金ちゃんは家にいない。さっきまで丘の上の公園で剣道の素振りをしていたが、今はラッピーたちの散歩のために、町内を一周している。じきに戻るから、ここで待っていればいい」
「・・・何でそんなことが分かりまするか」
「何故だか分からんが、分かる。今朝、俺の頭は冴え渡っている・・・それにしても、新聞というのは退屈な読み物だなぁ。相変わらず、れもんちゃんのことに一言も触れていない。来月から購読停止にしよう」
私は、新聞を郵便受けに戻した。
「ところで、父上、金ちゃんの就職祝いは何でござるか」
「ネクタイ」
「金ちゃんの会社では、スーツを着ないと聞いてござる」
「そうらしいな。でも、それは問題ではない。観賞用だから」
「ネクタイに観賞用がござるか」
「別に着けてもいいが・・・これだ」
私は紙の手提げ袋から、モノを出してシン太郎左衛門に見せてやった。
「これは・・・レモンでござるな」
「そうだ。プリント柄ではないぞ。レモンの刺繍だ。高かった」
「しかし、これを着けて家から出るのは・・・」
「なかなか出来ないことだろ?だから観賞用だ」
「得心いってござる」
「ほかに、レモン柄の靴下とレモン柄のハンカチもある。れもんちゃん三点セットだ」
「ネクタイと靴下とハンカチでござるな」
「そうだ。だから、れもんちゃん三点セットだ」
「・・・よく分からぬが、『れもんちゃん三点セット』と聞くと、何故か物凄くエロく感じる」
「考え過ぎだ。これのどこがエロい」と、紙の手提げ袋を大きく開いて、中身のネクタイと靴下とハンカチを見せてやった。
「これらの物自体は何もエロくはござらぬ」
「だろ?『れもんちゃん三点セット』だ」
「そう言われると、ムラムラする」
「変なヤツだ」
ひんやりした、しかし、すっかり春めいた風が吹いていた。空を見上げると、
「ああ、今日も良い天気になる。れもん日和だ・・・ところで、れもん星って、どこにあるんだろう」
「我々の夢の中にござる」
「いや、そうではない。本当にあるのだ。れもんちゃんが、そう言っている」
「うむ。れもんちゃんは、不思議な女の子でござる」
「そうだ。れもんちゃんは、宇宙空間にポッカリ浮いたレモンイエローの巨大な疑問符だ。永遠に解けない謎だ」
「うむ」
そのとき、丘の方から坂道を下り、角を曲がってきた人影が目に入った。動物を連れて、竹刀を持っていた。我々を見て、レトリーバーが嬉しそうに小さく一声吠えた。
リビングに戻ると、シン太郎左衛門は、「金ちゃん、喜んでござったな」と満足げだった。
「当たり前だ。れもんちゃん三点セットだぞ」
「れもんちゃんに一刻も早く会いたくなってまいった」
「よし。では腹ごしらえをしよう」
そんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。一点の疑う余地もなく、宇宙一に宇宙一だった。
シン太郎左衛門は、「流石は、れもんちゃん三点セット。まさに宇宙一の名品、宇宙一お見事でござる」と、頻りに感動していたが、ヤツの発言の意味が私にはよく理解できなかった。
お見送りをしてもらいながら、「そうだ。よく分からないけど、今回のクチコミ、エロい言葉を連発してるかもしれない。問題があったら、容赦なく不掲載にしてね」と言うと、れもんちゃんは、「うん。分かった」と、宇宙一の笑顔を浮かべた。この一片の笑顔でさえ、地球人が90億人、束になってかかっても敵う相手ではない。
夢の外で、れもん星に行ける気はしない。しかし、れもん星が宇宙のどこかに存在しているのは確かなことであった。
シン太郎左衛門(あるいは「金ちゃんを待ちながら」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「日々のうたかた」) 様
ご利用日時:2024年4月7日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近も、やっぱり5時に起きて、弟子の新兵衛(クワガタ)と剣術の稽古に励んでいる。
日曜日は大事な日(れもんちゃんに会うから)なので、8時までゆっくり眠りたい。昨晩も、シン太郎左衛門によく言い聞かせていたが、夜明け前に自分の方が目を覚ましてしまい、スマホを見ると、思ったとおり5時だった。
「シン太郎左衛門、5時だぞ」と言うと、「だから、どうした」という不機嫌そうな、素っ気ない答えが返ってきた。
「お前に起こされそうな気配がして、目が覚めてしまった」
「濡れ衣もいいところでござる。拙者、気持ちよく寝てござった」
「そうか。すまん。俺の思い過ごしだった。・・・あっ、そうだ。大事なことを忘れていた」
「何を忘れておられた。まさか、れもんちゃんに係わることではござるまいな」
「違う。れもちんゃんには関係ない」
「『れもちんゃん』とな?」
「揚げ足を取るな。打ち間違えただけだ。口では、ちゃんと、『れもんちゃん』と言っただろ。大体、『れもちんゃん』なんて、どうやって発音するんだ」
「うむ。れもちんゃんに関係ない話なら、拙者には関心がない」
「鬱陶しいヤツだな。いつまでも、『れもちんゃん』を引っ張るな。エープリル・フールに金ちゃんを騙してやろうと、沢山ネタを仕込んでおいたのに、すっかり忘れていた」
「・・・実に下らぬ。呆れ果てた馬鹿オヤジでござる」
私は部屋の電気を点け、新兵衛をメゾン・ド・新兵衛から摘まみ出して布団の上に載せ、ペタリと座り込んだ。
「くそぉ。あんなに綿密な仕込みをしたのに、肝心の4月1日を普通の1日として過ごしてしまった。これだから年は取りたくない・・・でも、まあいいや。エープリル・フールでは、金ちゃんも警戒してるから、タイミングをずらした方が効果的だ。これから金ちゃん宅に襲撃をかけよう」
「・・・もう少しマシな時間の使い方があろうものを」
「俺に、マシな時間の使い方なんて、あるもんか。れもんちゃんと過ごす時間以外に、俺の人生にロクなことはない。れもんちゃんがいなければ、俺の人生は終わっている。暗黒世界だ。れもんちゃんがいなくなれば、俺の行き場のない、理由もない怒りが周りの人たちにどれだけ迷惑をかけることか、想像するだに申し訳ない気持ちになる」
「つまり、この町の平和は、れもんちゃんにかかっているということでござるな」
「そうだ。それなのに、この町の連中は、れもんちゃんにどれだけお世話になっているか理解していない。れもんちゃんに足を向けては寝れないはずなのに、今も好き勝手な方向に足を向けてグーカー寝ているに違いない。これから、街宣車で、『れもんちゃんマーチ』を大音量で流しながら町内を一周して、ヤツら全員、叩き起こしてやる」
シン太郎左衛門は、素振りをしながら、
「全くもって理不尽。そんなことをしても、れもんちゃんは喜ばぬ」
「・・・それは、そうだな。まあいい。今日のクチコミは以上だ」
「・・・父上にしては随分短いクチコミでござるな」
「前回のクチコミに、とんでもなく手こずった。日曜日の夜に書き始めて、木曜日の夕方までかかった。こんなに苦労したのは初めてだ。年度初めの多忙な時期に仕事もそっちのけで4日もかけて、あんなアホなものを書いてしまった。自己嫌悪で一杯だ。だから、今日は、手短にすると決めたのだ」
「うむ。ところで、『シン太郎左衛門』シリーズは、後1ヶ月で一周年を迎えまする」と言いながら、シン太郎左衛門は、熱心に素振りを続けている。
「・・・そうか・・・れもんちゃんは本当にとんでもない女の子だ。クチコミを書くなんて俺の性分には合わないのに、れもんちゃんに会った後は、自分の意思とは関係なく勝手に指が動いてしまう。そんな状況が一年も続いている。まるで底なし沼だ」
「燦然と輝く、宇宙一の底なし沼でござる」
そんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。やっぱり宇宙一に宇宙一だった。はまれば、抜けられる訳がない。れもんちゃんの部屋の前には「はまるぞ!危険」と立て札をしておくべきだろう。
お見送りをしてもらいながら、「今回のクチコミは、事前の筋書きなしで、行き当たりバッタリに、短く書くよ」と言うと、れもんちゃんは、「うん」と燦然と輝く、宇宙一の笑顔で頷いてくれた。この笑顔もまた、一個の巨大な底なし沼だ、と思い知らされた。
こんなふうに書き終えて軽く読み直してみると、一生懸命書いたクチコミと、こんなにラフに書いたものに大きな違いがないことを知り、自己嫌悪が益々深まってしまうのであった。
シン太郎左衛門(あるいは「日々のうたかた」) 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様
ご利用日時:2024年3月31日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。相変わらず、懲りずに5時起きをして、剣術の稽古をしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。昨日の晩、シン太郎左衛門にコンコンと説教をした。
「お前、いい加減にしろよ。毎朝毎朝5時に起こしやがって。明日は、れもんちゃんに会う大事な日だ。これまでのことは水に流してやる。明日は、何としても、8時まで寝ていろ」
「うむ。畏まってござる」
「夢の中で、れもん星の観光大臣から手紙が届いても、すぐに何かしようとするな。起きてから、俺に相談しろ。分かったか」
「うむ。しかと記憶に練り込んでござる」
(「記憶に練り込む」とは、耳慣れない表現だ)と思ったが、とりあえず、そんな会話をした後、部屋の電気を消した。
そして・・・日曜日、早朝。
「え~?!」と、私は暗闇の中で叫び声をあげ、「父上、いかがなされた」とシン太郎左衛門に揺り起こされた。
「はっ・・・今、何時だ?」
「知らぬ。御自身でスマホを見られよ。まだ外は暗い。おそらく5時でござる」
手探りでスマホを掴み取り、画面を見た。
「5時ちょうどだ」
「拙者のヨミ通りでござる」
「夢を見た」
シン太郎左衛門は、くわ~っとアクビをして、「いい年をした大人が夢の話などするものではござらぬ。拙者、まだ眠い。8時まで寝かしてくだされ」
「ダメだ。俺は、気持ちが昂って眠れない。俺の夢の話に付き合え」と起き上がって、部屋の電気を点けた。
「迷惑至極でござるが、致し方ない。聞いて進ぜよう。何に驚いて、『え~っ?!』っと、声をあげておられましたか」
「いきなり変なヤツに怒られた」
「父上のだらしない生活を見れば、誰でも怒りたくなる」
「そういうことではない。先週お前が見た夢と強い関わりのある夢だった」
「と言うことは、父上も、れもん星に行かれたましたか」
「行ってない。夢の中、職場で仕事中に、れもん星の観光大臣からメールが来た」
「それは、すぐに開いてはなりませぬぞ。開けば、5時起きになりまする」
「その助言は、昨日の晩にして欲しかった。もう手遅れだ。俺は、れもん星の観光大臣という謎の人物の正体を、れもんちゃんだと踏んでいる。れもんちゃんかもしれない人からのメールを無視できるわけがない。即座に開いて読んでしまった」
「うむ、やむを得まい。で、またしてもスピーチの依頼でござったか」
「違う。『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』へのオンライン参加のお誘いだった」
「解せぬ。それは拙者がスピーチをし損ねたイベント。すでに先週終わってござる」
「そうだ。俺も一瞬不審に感じた。でも、夜空に輝いている星が地球から100光年離れていれば、今見えているのは100年前のその星の姿だ。れもん星と地球の隔たりを思えば、れもん星で1週間前に開催されたイベントの実況を今地球上で見ることは、不自然ではないことになる」
「なるほど・・・全く理解できぬ」
「まあいい。とにかく、メールには、『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。イベントやるよ~ん。オンラインで見に来てね』と書いてあったのだ。早速、文末のURLをクリックすると、ウェブ会議システムが起動したので、ヘッドセットを着けた」
「職場で、れもん星の観光シンポジウムを見ていて大丈夫でござるか」
「俺のパソコンのモニターは、同僚たちの席からは見えないからな。難しい顔をしていたら、誰にも分からない。画面に、『開会まで、もう少し待っててね』と映し出されていたが、間もなく『これから、れもん星の紹介ビデオを流すよ~ん。1回だけだから、メモをとるのを忘れないでね』という表示に変わった。慌てて、手元の書類をひっくり返し、ペンを持った」
「うむ」
「すると、リコーダーによる『ドナドナ』の演奏が始まり、画面が法隆寺の映像に変わった」
「聖徳太子ゆかりの法隆寺でござるか」
「そうだ。他にも法隆寺ってあるのか?法隆寺の金堂と五重塔が映った写真をバックに文章が右側から左に流れていくのを大急ぎで書き取った。それが、これだ」と、私はシン太郎左衛門にメモを手渡した。
「・・・法隆寺は、れもん星とどんな関係がござるか」
「知らん。最後まで分からんかった。れもんちゃんの『店長コメント』に《国宝級》と書かれてあるのと関係するかもしれない。まあいい。メモを読んでみろ」
「汚い字でござるなぁ」
「うるさい。とにかく読め」
シン太郎左衛門は、私の速記メモを読み上げた。
夢と希望に輝く星、それが、れもん星です。地球とは違い、れもん星に「国」はありません。れもん星人は、みんな仲良しなのです。国がないので、国歌はなく、「れもんちゃんマーチ」と呼ばれる星歌があります。その1番は地球の「ドナドナ」にメロディが似ていて、2番は「蛍の光」に似ています。同様に国鳥はありませんが、星鳥が定められています。モモンガです。主な産業は、おもてなしとお菓子作りです。また近年、輸出やお土産用に空気の缶詰めの製造に力を入れてきましたが、売れ行きは芳しくありません。膨大な在庫を抱えて困り果て、この度、星外からのお客様を呼び込み、空気の缶詰めの在庫を一掃しちゃうよ~ん。
地球からのアクセス方法と所要時間は、(1)ロケット:片道約21年、(2)宇宙空母:片道2時間、(3)南港からの定期船:片道5分、(4)万博記念公園の各種ボート(白鳥の形をした、ペダルを漕ぐタイプを含む):一生かかっても到着の見込み無し
以上4種からお好きな交通手段でお越しください。待ってるよ~ん。
なお、れもん星人の主食はケーキです。
海にはお魚さんがいっぱいいるよ~ん。
シン太郎左衛門は言葉が出ずにいた。
「驚いたか?」
「うむ。クラクラする。所々れもんちゃんが加筆したようでござる」
「・・・驚くのは、そこか?お前の夢で、れもん星の子供たちが演奏してくれたのは、れもん星の星歌だったんだ。感動しただろ」
「・・・モモンガが鳥だとは知らなんだ」
「鳥ではないからな。少なくとも地球では、違う」
「ロケットで行かなくて、正解でござった」
「そうだ。これで、少しだけ、れもん星への理解が深まった。さらに、お前の夢が決して荒唐無稽な絵空事ではなかったことが明らかになった」
「うむ。誤解が解けて何より。『シン太郎左衛門シリーズ』は、一片の嘘偽りも含まぬドキュメンタリーでござる」
「これだけでも、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』に参加した値打ちがある」
「うむ・・・で、イベントはいかがでござったか」
「・・・れもん星人は、おおらかだった。私のようなコセついた地球人は大いに見習わなければならん」
「拙者の問いへの答えになっておらぬ。イベントは、どんなものでござったか」
「それが・・・今言ったように、いきなりメモを取らされて、手首がクタクタになったところで、『手首を休めるために、これから10分間の休憩といたします』とモニターに表示された」
「ありがたい心遣いでござる」
「うん。折角そう言ってもらったので、トイレで用を済ませ、戻って、ヘッドセットを着け直すと、いきなりオーケストラによる荘厳な『ドナドナ』の演奏が始まった。あんな重厚な『ドナドナ』を聴いたのは初めてで、感動して、涙が止まらんかっ・・・」
「『ドナドナ』の話は、もうよい。先を急いでくだされ」
「分かった。演奏が終わると、次の瞬間、法隆寺から画面が切り替わり、司会者の女性が映し出された」
「まだ法隆寺を映していたのでござるか」
「そうだ。まあ、それはいいとして、電波が遠くから届くせいだろう、映像が乱れていたから確たることは言えんが、その司会者さんは、れもんちゃんのように見えた」
「へへ、れもんちゃん・・・」とシン太郎左衛門は、だらしなくニヤけた。
「その司会者さんは、第一声、元気に『おはよ~ん』と言った。その声は、れもんちゃんの声に限りなく似ていた」
「であれば、それは、れもんちゃんでござる。れもんちゃんの声は特徴的でござる。何の取り柄もない父上でも、れもんちゃんの声を聴き違えるはずがない」
「俺もそう思う。だが、さっきも言ったとおり、映像はかなり乱れているし、音声にも少なからずノイズが入るのだ。99.99%れもんちゃんだと思うが、絶対とは言えない。その『多分』れもんちゃんの司会者ちゃんは、『本日、れもんちゃんメモリアルホールにお集まりの約5000人の皆様、そして宇宙の星々から御視聴頂いている90兆人を越えるオンライン参加の皆様、大変お待たせ致しました。これから・・・』と言ったきり、ピタッと黙り込んでしまった」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・と、これぐらいの沈黙が続いた後、れもんちゃんは、『わくわくイベント、始まるよ~ん』と元気よく開会宣言をした」
「『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』を『わくわくイベント』で済ますとは・・・さすがは、れもんちゃんでござる」
「さっきも言ったとおり、映像がかなり乱れていたから、れもんちゃんと断言はできない」
「うむ。しかし、れもんちゃんは、可憐で可愛い一方で、大胆さも持ち合わせた素晴らしい女の子でござる」
「・・・それはそうだ」
「続けてくだされ」
「うん。続けて、司会のれもんちゃんが、『はじめに、観光大臣ちゃんから、開会のご挨拶だよ~ん。観光大臣ちゃんは、(観光大臣ちゃんだよ~ん、インバウンド、頑張るよ~ん)って言うよ~ん』と前振りすると、れもん星の観光大臣が演壇に上り、元気いっぱい『観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん』と言って、下がっていった。映像が乱れていたものの、観光大臣ちゃんも、やっぱり、れもんちゃんだった」
「へへへ・・・れもんちゃんがいっぱいだ」と、シン太郎左衛門は、だらしなく笑った。
「司会のれもんちゃんも、観光大臣のれもんちゃんも、ドレス姿が可愛い過ぎた」
「へへへへ・・・れもんちゃんのドレス」
「そこから、1時間の休憩に入った」
「・・・」
「れもん星人は、おおらかだ」
「父上は、その1時間、何をしておられた?」
「特にやることもないから、またしても画面に映し出された法隆寺を睨め付けていた。宇宙全域で90兆人が同じことをしていたと思う」
「合計で90兆時間がモニターの前で無為に過ごされたのでござるな」
「そういうことになる。やがて、画面に司会のれもんちゃんが再登場して、『ただいま、本日の講演者、シン太郎左衛門ちゃんが、れもんちゃんメモリアルホールのエントランスに到着したから、シン太郎左衛門の今日これまでを振り返るよ~ん』と言った。『なお、この会場、れもんちゃんメモリアルホールは、野原の地下に作られた巨大な建物、入り口は派出所に似てるよ~ん』とも言った」
「えっ、そうでござったか・・・」シン太郎左衛門は真顔で唸った。
そして、モニターには、小さな船の舳先に立つ、タキシード姿のシン太郎左衛門が映し出された。宇宙全域の90兆を越える人々の前に、我が粗品が晒されていることを覚った私は、唖然として言葉を失った。次の瞬間、シン太郎左衛門は波をまともに被って濡れ鼠になり、少し間を置いて大きなくしゃみをした。すぐにシーンが、切り替わり、バトンを振るスタッフさんに先導された、リコーダーを吹く子供たちの行列の後をピョコピョコと跳ねるように追いかけるシン太郎左衛門の無邪気な姿に、私は頭を抱えた。そして、青筋を立てて「無礼者!!」と叫ぶシン太郎左衛門のアップの映像に、「もう止めてくれ」と叫びそうになった瞬間、画面に映し出されたのは、私自身の顔面のアップだった。私は、1週間前の私に「うるさい!!」
と怒鳴りつけられた。まるで鏡に映った自分に怒鳴られたような奇妙な感覚に、「・・・え~っ?!」と叫んでいた。
「・・・と、まあ、こんな夢だった」
「うむ・・・」
「考えてみれば、俺もお前も、『無礼者!!』やら『うるさい!!』やら、画面越しとは言え、90兆人を相手に罵声を浴びせてしまった」
「うむ。我々親子ともども、宇宙全体を敵に回してしまいましたな」
「そういうことだ。でも今更、どうすることもできない」
「うむ。かくなる上は、ジタバタ足掻くまでもない。武士は散り際が肝心でござる。戦いは近い。敵は多いほどよい。ささ、早く新兵衛を出してくだされ。稽古でござる」
シン太郎左衛門は妙に張り切っている。90兆人と割り箸一本で戦おうとするシン太郎左衛門の神経が、私には、どうしても理解できなかった。
こんな長い長い朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。当然、宇宙一に宇宙一だった。
私は、宇宙一幸せな気分になった。
れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「あっ、そうだ。そう言えば、今朝、ちょっとした行き違いで、宇宙全域にどっさり敵を作ってしまったよ。いざとなったら、例の宇宙空母を貸してね」と頼んだら、宇宙一の笑顔でニッコリと頷いてくれた。
れもんちゃんさえいれば、宇宙の憎まれ者になることさえ、恐れるに足らないのであった。
家に帰ると、あの速記メモは、どこかに消えてなくなっていた。
シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と空気の缶詰め 様
ご利用日時:2024年3月24日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。5時になると、剣術の稽古を始める。当初、5時起きをみなぎる気合いの為せる業と勘違いしていたようだが、実は加齢の影響以外の何物でもないという現実を馬鹿なりに察したらしく、最近は「眠い、眠い」とボヤキながら、割り箸を至極重たそうに振っている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。れもんちゃんに会う日だけは十分睡眠をとりたいので、昨晩の就寝時に明日は8時まで静かにしているように厳に命じていた。
「約束だぞ。5時に目が覚めても、俺の目覚ましが鳴るまでは、静かにしてるんだぞ」
「うむ。天地神明に誓いまする」
そう固く約束していたのに、今朝も、やっぱり夜明け前に叩き起こされた。
「この無礼者め!手討ちに致す!」とか大声で怒鳴っている。布団を捲って、「うるさい!」と一喝すると、シン太郎左衛門、ハッと目を覚ました。
「今、何時でござるか」
手探りでスマホを探し当て、画面を股間に向けてやった。
「見ろ。5時ジャストだ」
「父上は、5時起きの星の下に産まれてござるな」
「そんな星はない。どう考えてもお前のせいだ」
「うむ。拙者、夢を見てござった」
私はモソモソと布団から起き出し、
「そうだろうな。何の脈絡もなく『無礼者』と叫ぶヤツはいない。俺も夢を見ていたはずだが、お前の罵声に叩き起こされて、記憶が飛んでしまった」
と、部屋の電気を点けた。
「拙者、またしても、れもん星の夢を見てござった」
「夢の中で、れもん星に行く話は以前にもあった」
「いかにも。ただ、拙者が今回れもん星に行ったのは遊びではござらぬ。れもん星の観光大臣から依頼を受け、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』で、れもんちゃんを讃えるスピーチをするため、れもん星に行ったのでござる」
私は、新兵衛(クワガタ)を摘まんで、水槽から出すと、布団の上に置いて、あぐらをかいた。
「それは名誉なことだ。大臣から手紙でも来たのか?」
割り箸を渡してやると、シン太郎左衛門は素振りを始めた。
「うむ。親書が届いた。ディズニーの便箋に『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん。イベントするから、れもん星PRのスピーチしてねっ(ハート)』と書いてござった。イベントのチラシが同封されておった」
手の甲で眠い目をゴシゴシ擦りながら、
「もしかして、れもん星の観光大臣は、れもんちゃんか?」
「それは分からぬ。ただ、こういう機会もあろうかと、拙者、前々から、れもんちゃんを讃えるスピーチを用意してござった」
「それは見上げた心掛けだ」
「拙者、手紙を一読、素早くタキシードに着替え、スピーチ原稿を手にすると、次の瞬間には、南港から出発するポンポン船の甲板に立っておった」
「お前、れもん星を舐めてるだろ?何で毎回、船で、れもん星に行くのだ。ちゃんとロケットに乗れ」
シン太郎左衛門は真面目に素振りを続けながら、
「船に乗ったものを、嘘は吐けぬ。『シン太郎左衛門』シリーズは、ドキュメンタリーでござる。出来るものなら、拙者もロケットがよかった。港を出た途端、船が波をかぶり、折角のタキシードはズブ濡れ、原稿もどこかへ行ってしもうた」
「船で行くからだ」
「うむ。そうこうしているうちに、小船は港に入り、早くも、れもん星に到着しておった」
「れもん星って、そんなに近いのか?今の話を聞く限り、れもん星の最寄り駅はユニバーサルシティ駅かもしれない。近畿圏なのは間違いない」
「真面目に考えてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そりゃ、そうだ」
シン太郎左衛門は引き続き割り箸を振り回している。
「今回も、周りに何もない殺風景な港に到着いたしたが、波止場には『歓迎 シン太郎左衛門様 ~よく覚えてないけど長い名前のシンポジウムへようこそ~』と横断幕が掲げられておった」
「れもん星人は、かなりいい加減なヤツらだな」
「うむ。船から降りると、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく出迎えてくれるスタッフさんにそっくりな『れもん星人』が出迎えてくれた。周りには、10人程の小学生のマーチング・バンドが控えておった。彼らも当然『れもん星人』でござる」
「心温まる歓迎風景だ」
「うむ。スタッフさんが、『ようこそお越しくださいました。会場まで約4キロございます』と先導してくれて、歩いて会場に向かった」
「徒歩なの?」と私はあくび混じりに言った。
シン太郎左衛門は益々元気に素振りを続けながら、
「うむ。道々子供たちがリコーダーで『ドナドナ』を吹いてくれた。スタッフさんがバトンを振ってござった」
「リコーダーのみのマーチング・バンドというのは斬新だが、『ドナドナ』とは微妙な選曲だな」
「うむ。悲しいメロディに合わせて、スタッフさんは満面の笑みを浮かべ、陽気にバトンを振っておった。『蛍の光』も演奏してくれた」
「通常、帰宅を促すのに使われる曲だな。『さっさと帰れ』という意味だろう」
「なるほど。とぼとぼ歩いて着いたところが、国を挙げたイベントの会場とは思えぬ場所でござった」
「具体的に言うと?」
「野原にポツンと建った小さな建物。形は駅前の派出所に似ておった」
「イベント会場とは思えん・・・警官が詰めているのを見たことがないし、最近は灯りも点いてない」
「うむ。スタッフさんに促され、派出所にそっくりの建物に入ると、『まあ、座れ』と椅子を勧められ、まるで取り調べが始まりそうな雰囲気になった」
「こんな短い滞在期間で、お前、法に触れることをしたのか?・・・あっ、そうか。お前の姿を小学生の目に晒したのはマズかった。猥褻物陳列罪だ」
「うむ。拙者も、それに気付いて、すっかり観念した。何のために、れもん星まで来たのか、と悲しくなってござる」
「『ドナドナ』の謎が解けた。しっかり逮捕されたか?」
「ところが、結局、取り調べもされなんだ。そこは派出所ではなく、気が付けば、壁際に1台ガシャポンがあった」
「・・・またガシャポンか?ここで、前回れもん星に来た話に合流してしまった。もう後の展開は聞くまでもない」
「うむ。拙者がガシャポンを見詰めているのを察したスタッフさんが『シン太郎左衛門さんの出番までは、まだたっぷり時間がありますから、ガシャポン、どうですか?1回2000円です』と言った」
「前回より値段が上がってる」
シン太郎左衛門は疲れてきたらしく、息を切らして割り箸を重たそうに振っている。
「賞品のグレードが上がっているとのことでござった。拙者が黙っていると、スタッフさんは『豪華なれもんちゃんグッズが当たりますよ。特等は、れもんちゃんの実物大フィギュアだ!!』と叫んでござる」
「それは、気持ちが動くな」
「更に『末等の10等でさえ、これだ!!れもんちゃんトートバッグだ!!』と叫んで、実物を見せてくれた」
「よく叫ぶスタッフさんだ」
「うむ。ただ、その『れもんちゃんトートバッグ』が実に可愛かった!!」
「お前まで叫ばんでいい。当たり前だ。『れもんちゃん』と名前に付いていれば、可愛いに決まってる。丁度、買い物袋が壊れて困っていた。絶対に欲しい」
「拙者も欲しかった」
「特等は無理だ。末等のトートバッグを狙え。当たるまで、お前は、れもん星から帰って来なくていい」
「ところが、そんな甘い話ではござらなんだ」
「だろうな。もし、れもんちゃんグッズが当たっていれば、お前は死んでも、れもん星から持ち帰ってきたはずだ」
「いかにも」
シン太郎左衛門は疲れ果てて、布団の上にペタンと座った。
「で、何が当たった?またモモンガの缶バッジか?」
「今回は缶バッジではござらぬ。れもんちゃんの等身大フィギュアが当たる気は致さなんだが、れもんちゃんトートバッグが当たれば、父上も、さぞやお喜びと思い、スタッフさんに『では、一回やろう。だが、くれぐれも、モモンガの缶バッジではないな?』と確かめた。缶バッジは入っていないとのことでござった。2000円渡して、コインを受け取ったとき、スタッフさんが気になることを言った。『れもん星の素敵な特産品も当たりますよ!!』」
「待て待て、それはマズい。俺たちが欲しいのは、れもんちゃんグッズであって、れもん星の特産品ではない」
「うむ」
「・・・分かった・・・お前が当てたのは、れもん星の特産品だな」
「うむ。ガシャポンを回すと、カプセルが出て来て、中には小さく畳んだ紙が入っておった。開くと『3等』とあった。3等は『れもん星の空気の缶詰め』でござった」
「ラベルに、れもんちゃんの写真が使われていて、メチャクチャ可愛いとか?」
「ラベルなど貼られておらぬ愛想のない缶でござる。マジックで『空気』と手書きされておった」
「要らん要らん。俺は小学生のとき、近所に住む人から『スイスの空気の缶詰め』というものを貰ったことがあるが、開けたら鉄サビの臭いがしただけだった。スイスの印象がかなり悪くなった」
「拙者、元々、缶の類いは好かぬ。スタッフさんに、末等と替えてくれるように頼んだが、断られた。意地になって、追加で2回挑戦したが、残念ながら2回とも1等、『れもん星の空気の缶詰め(特大)』でござった。要は、『空気(特大)』とマジックで書かれた、ただの大きな缶でござる」
「1等のくせに、かさ張るだけで、お土産にしても誰にも喜ばれない」
「嫌われる覚悟がなければ、人には渡せぬ。スタッフさんから、『これ、どうやって持って帰ります?全部まとめて、紐を掛けて、持ち手を付けましょうか?』と訊かれたので、腹の中は煮えくり返っておったが、平静を装い、『いや。そこまでしてもらうのも恐縮。お世話になったお礼に、貴殿に差し上げまする』と言うと、スタッフさん、『こんな変なモノ、要りませ~ん』と大爆笑してござった。それで思わず・・・」
「『無礼者!』と叫んだ訳だな」
「うむ」
「・・・くだらん。なんて下らない話だ。今度こそ、本当に、れもんちゃんに怒られる。『下らないにも程がある』って、真顔で怒られる」
「うむ。では、今回を最終回と致しましょう」
「そんなの、何の意味もない。お前の夢に出てくる『れもん星』には夢も希望もない。こんな話をクチコミに揚げたら、れもんちゃんのイメージを損ないかねない。本当に素晴らしい娘なのに」
「うむ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちにも失礼だ。みんな、いい人ばかりだ」
「うむ・・・ところで、Bの手紙の解読は済んでござるか」
シン太郎左衛門には、旗色が悪くなると、話を逸らす悪い癖があるが、私は話を戻すことさえ面倒くさいと思ってしまう横着者だった。
「まだ手も付けてない」と言うと、新兵衛を摘まんで、おウチに帰してやった。
こんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。言うまでもなく宇宙一だった。
「れもんちゃん、今回のクチコミ、すごく下らないけどいい?」と尋ねると、「うん。いいよ」と、宇宙一可愛い笑顔で答えてくれた。普通、こういう場面では、(だって、毎回下らないし)という心の声が聞こえてくるものだが、れもんちゃんに限っては、そういうことさえない。気立てのよさも宇宙一だった。
ついでに「れもん星って、割りとユニバに近かったりする?」と訊いてみようとしたが、無意味なので止めた。
彼女の故郷がどこにあろうと、れもんちゃんの魅力の総体を収めきるには、地球は余りにも小さすぎた。
シン太郎左衛門と空気の缶詰め 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と謎の手紙 様
ご利用日時:2024年3月17日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近も、やっぱり朝5時に起きて、「やあっ!とおっ!」と、クワガタと一緒に剣術の稽古をしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。
約1時間の稽古を終えたシン太郎左衛門は大きなアクビをして、「ああ~、眠たい」と、ふざけたことをぬかした。
同じく朝稽古を終えた新兵衛(クワガタ)を摘まんで、蓋付きの小さな水槽(メゾン・ド・新兵衛)に戻しながら、「昨日の夜、寝る前に、『明日は、れもんちゃんに会う大事な日だから、8時までは絶対に起こすな』と言ってあったはずだ」と苦言を呈した。
「うむ。忘れてはおらなんだが、5時になると勝手に目が覚めてしまうのでござる」
「目が覚めても構わんが、静かに横になっていればいいものを、『やあ』だの『とお』だの奇声を上げて、割り箸を振り回しやがって・・・ひどい話だ」
「うむ」
「『うむ』じゃない。真面目に5時起きを改めろ」と言ったが、シン太郎左衛門は、またもや大アクビをかまして、
「ところで、シン太郎左衛門シリーズは前回で終わったのではござらぬか」と話を逸らした。面倒くさいと思うと、すぐ話を逸らすのは、ヤツの悪い癖だが、話を戻すのも面倒くさかった。
「ああ、前回のあれね。あれは、大した意味はない。一旦普通にクチコミを書き終えた後、もし仮に、この話を最終回にするとしたら、どんな風にしたらいいんだろうという素朴な疑問が湧いた。それで、何となく数行書き加えたら、結構いい具合に最終回っぽくなった。ただ、それだけのことだ」
「・・・そんなものを普通に投稿したと?」
「うん」
シン太郎左衛門は呆気に取られた様子で、「普通そんなこと、する?」
「知らん。元に戻すのが、面倒くさかったというのもあるが、『シン太郎左衛門』の普通の回がわずか数行の改変であっさり最終回になるって、凄くないか?なんか手品みたいで楽しかった。これからも、最終回に変えられるものは、どんどん最終回に変えて投稿しようと思っている」
「駅前の靴屋が、年中、閉店セールをやっているのと似てござるな」
「・・・特に、そうは思わん」
こんなことを話していたが、とにかく連日の寝不足で、私は頭がボーっとしていて、何を話しているか、ほとんど自覚がなかった。
新兵衛に朝御飯(砂糖水)を用意すると、表に新聞を取りに出た。新聞を取り出すと、その下に例の封筒があった。迷いはあったが、意を決して取り出し、差出人を見ると、案の定Bからだった。
リビングに戻ると、
「シン太郎左衛門、あの手紙はやっぱりBからだった」
「なんと書いてござった?」
「まだ読んでいないが、この封筒、随分と軽い。中身を入れ忘れたのかもしれない」
ジャージのズボンからニュッと顔を覗かせたシン太郎左衛門に、「開けてみられよ」と言われ、封を切ってみたが、便箋らしいものは見当たらなかった。逆さにして振ってみると、折り畳まれた小さな紙片が転がり出た。開いてみると、小さな字で一言「続報を待て」とだけ記されていた。
「何だ、これ?・・・見てみろ」とシン太郎左衛門に渡した。
「・・・分からぬ」
「こんなものをわざわざ速達で送ってきた。言っておくが、Bに限ってウケ狙いも悪ふざけもない」
「変なヤツでござる」
「そうだ。Bは変人だ。見た目からして、普通ではない。とにかくデカい」
「おチンが?」
「いや。おチンはともかく、身長が2メートルほどある。それでいながら、手足は長くない。やたらと胴が長い。だから、立っていても、座っても、頭の位置は、さして変わらない。隣の席に座られると、こっちだけが座っている感覚になる。『横に立たれると鬱陶しい。お前も座れ』と言いそうになる」
「なるほど」
「顔も長い」
「横に?」
「縦にだ。目が小さくて、口は大きい。鼻筋は妙に通っている。どんなときも無表情。冗談は一切通じない。学生時代は一貫してマッシュルーム・カットだった」と言いながら、折り込み広告の裏面に描いたBのイラストをシン太郎左衛門に見せた。
「大体こんな感じ」
「・・・伝わらぬ。父上は絵が下手クソでござる」
「そうか?かなり特徴を掴んでいるが・・・まあいい」
私は、封筒をバラバラに分解し始めた。
「父上、何をしてござる」
「本文を探している。本文もないのに、『続報を待て』は、おかしいだろ?どこかに、メッセージの本体が隠されているはずだ」
「なるほど。封筒に秘密がありまするか」
「分からん・・・見る限り、特に変なところはない。炙り出しかもしれん」
「炙り出し?」
「ミカンの汁とかで紙に字を書くと、乾けば見えなくなるが、火で炙ると、字が浮かび上がる」
「炙ってみましょうぞ」
「いや、いいや。面倒くさい。それに、炙り出しはBらしくない。おそらく方向違いだ」
「では、この手紙、どうされまするか」
「放置だ。続報が届くまで放っておく。れもんちゃんに会う大事な日の朝をこんなことに使いたくないからな」
「うむ」
「・・・ちょっと待て・・・そうか」
私はコーヒーを淹れようと沸かしていた湯をお碗に少し注ぎ、封筒の頭を浸した。そして、適度にふやけたところで、糊付けされているベロをゆっくりと剥がした。シン太郎左衛門は、ワクワクした様子で見守っている。
「ビンゴ・・・シン太郎左衛門、見ろ」
ベロが糊付けされた箇所に小さな数字が5行にも亘ってギッシリと書き込まれていた。
「これが手紙の本文だ。おそらくゲーデル数だ」
「それは何でござるか。100桁以上ある、飛んでもなく大きな数でござる。普通の女の子の可愛さを1としたときの、れもんちゃんの可愛さを表す数字でござるか」
「我々には、そんな風に見えるが、Bは、おそらく、れもんちゃんを知らん。まあいい。解読には相当の時間がいる。まず朝御飯を食べよう。それから考える。いずれにしても、今日は、れもんちゃんに会いに行く大事な日だ。これ以上、Bに関わってはいられない」
「うむ。しかし、こんな変人から脅迫状が届いたとあっては油断できませぬな」
「脅迫状?・・・別に脅迫状とは決まっていない」
「いや、脅迫状の方が楽しい。もし違っておったら、脅迫状に書き換えなされ。書き換えは、父上の得意技でござる」
「そういう言い方をされるのは心外だ」
「脅迫状に怯えきった父上を拙者と新兵衛が励ます場面を描いてくだされ。さらに、Bの襲撃を拙者と新兵衛が力を合わせて撃退いたす。やっと日々の鍛練が活かせて、拙者も嬉しい」
「いや・・・Bは変なヤツだが、暴力を振るうことはない」
「それは伏せておき、Bを血に飢えた鎖鎌の達人と致しましょう」
「そんな出鱈目は許されない。『シン太郎左衛門』は純粋なドキュメンタリーだからな。いずれにせよ、Bの話は、ここで一旦終わりにする」
「うむ。では・・・父上、これまで楽しかった」
「・・・なんだ、それ?」
「『俺も楽しかった』と言ってくだされ。最終回でござる」
「今回は最終回にはしない。いくらなんでも唐突すぎる」
こんな朝だった。
そして、れもんちゃんに会った。
れもんちゃんは、やっぱり桁違いに宇宙一だった。こんなに桁違いに可愛ければ、計算も桁違いに早いかもしれないと思い、「れもんちゃん、100桁の数字の素因数分解、手伝ってくれない?」と頼むと、「いやだ~」と、宇宙一可愛く断られてしまった。
頼み事への断り方まで宇宙一可愛いのだから、もはや誰も太刀打ちできるものではない。
れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一なのである。
ちなみに、なかなか信じてもらえないだろうが、『シン太郎左衛門』は宇宙一純粋なドキュメンタリーなのである。
シン太郎左衛門と謎の手紙 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんソング』 様
ご利用日時:2024年3月10日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近、剣術の弟子にしたクワガタを新兵衛と名付けて可愛がっている。
やがて別れのときがやって来る。暖かくなれば、新兵衛は丘の上の林に帰る。二度と会うこともないだろう。それまでに一端の武士にしてやらねばと、シン太郎左衛門は頑張っている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。やはり5時に起こされた。
「父上、新兵衛を出してくだされ」
「はい、はい」と私は布団から這い出して、蓋付きの小さな水槽からクワガタを摘まみ上げ、布団の上に置くと、近くに座った。
シン太郎左衛門は、元気よく、「では、新兵衛、稽古を始めるぞ。やあっ!とおっ!」と素振りを始めた。
私は、朦朧と、虚ろな目を天井に向けて、なんとも空虚な時間を過ごした。
「新兵衛、どこへ行く!おおっ!新兵衛、こっちに来るな!父上、新兵衛がハサミを振り振り、拙者に向かって迫って来おった!父上、新兵衛を離してくだされ!」
「はい、はい」と、新兵衛を摘まんで、離して置くと、私はまた虚ろな目を天井に向けた。
「やあっ!とおっ!まだまだ!やあっ!とおっ!」
こんなことが約1時間続き、
「よし。今日の稽古は、これまで。新兵衛、随分と腕を上げたな」
(嘘を吐け)と思ったが、余計なことを言う気力もなかった。夢現のまま、新兵衛を摘まんで、おウチに返してやった。このところ、ずっと睡眠が足りていない。
台所で、新兵衛の朝御飯(砂糖水)を拵えながら、
「おかしなもので、最近俺の砂糖水作りの腕が上がってきた気がする。こんなものにも上手下手があるのだ」
「うむ。砂糖水作りの道を極められよ」
「嫌だね」
砂糖水を無心に吸っている新兵衛は、なんとも微笑ましかった。お腹が一杯になると、朽ち木の下に姿を消した。
「新兵衛のヤツ、『ご馳走さま』も言わずに、寝に行った。まあ、クワガタだから、しょうがないな。シン太郎左衛門、はっきり言って、新兵衛には武士になる気なんてないぞ」
「うむ。なんであれ、逞しく生きてくれれば、本望でござる」
時計を見ると、7時前だった。もう一眠りしようと布団に入ったが、寝足りてないのは歴然としているのに、目が冴えていた。シン太郎左衛門に話し掛けた。
「おい、シン太郎左衛門。毎朝毎朝5時に起こしやがって、体調が日に日におかしくなってる気がする。後2、3時間は寝ておきたいから、何か面白い話をしろ。お前が面白いと思う話は、俺には退屈だから、きっと眠気がやって来る」
「うむ。では、昔話を致しましょう・・・昔々、あるところに、お爺さんとお婆さんが沢山いる老人ホームがありました」
「ほう、お伽噺としては中々斬新だ」
「お爺さんの中には、すっかり枯れてしまった人もいれば、まだまだ元気な人も、また異様に元気な人もおりました。お婆さんたちも、やっぱりそうでした」
「お前、何の話をしてるんだ?」
「老人ホームの話でござる」
「それは分かってる。『老人ホーム』というテーマには全く興味がないが、凄く嫌な展開になりそうな予感がして、完全に眠気が失せた」
「よくぞ見抜かれましたな。これは老人たちの、出口のないドロドロの愛憎劇でござる。続けて宜しいか?」
「宜しくない!そんなもの聞きながら、気持ちよく寝れるか!安易な気持ちでお前に話をさせたのは失敗だった」
「うむ」
眠いのに、完全に目が冴えてしまった。潔く起きて、新聞を取りに行き、コーヒーの湯を沸かし、パンを焼き、目玉焼きを作った。
「これぞ日曜の朝だ」
と、機嫌よく、出来上がった朝食を目の前にしたとき、全く食欲の湧かない自分に直面した。コーヒーに軽く口を付けた後は、ダイニングの椅子に凭れかかり、口をポカ~ンと開けて、天井を見上げながら、ぼんやり過ごした。
2、30分も経っただろうか、シン太郎左衛門が言った。
「父上、れもんちゃんに会う日の朝にピッタリの曲を流してくだされ」
「『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』は先週嫌になるほど聴いた」
「拙者も他の歌が良い」
「じゃあ、お前が『れもんちゃん音頭』を歌え」
「拙者、寝不足ゆえに、歌など歌う気にならん」
(ふざけたヤツだ)と思ったが、言葉を発する気も起きず、引き続き天井を眺めていると、突然閃きがあった。
「そうだ。取って置きの曲があった。その名もずばり『レモンソング』だ」
「うむ。それがよい。かけてくだされ」
「レッド・ツェッペリンだ」
「うむ」
「眠いときに聴きたい音楽ではない」
「構わぬ。『れもんソング』、流してくだされ」
スマホの動画アプリを立ち上げて、検索をかけると、れもんちゃん人気にあやかってか、何件でもヒットした。
「よし、じゃあ、いくぞ」
「うむ」
曲が始まると、シン太郎左衛門が「ムムッ!」と唸った。
「これは実にハードでござる」
「だろ?」
「実にヘビーでござる」
「だろ?」
「まさに『れもんソング』の名に恥じぬ名曲。魂を揺さぶるまでに、ブルージーでござる。歌も良い。早速覚えて、今日の帰りの電車で歌いまする」
「好きにしたらいい。ただ今度は、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリンのボーカル)の生まれ変わりとは言わせんぞ。まだ生きてるからな」
「知ってござる。でも、ボンゾは死んだ。ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリンのドラマー。「ボンゾ」は彼の愛称)は、キース・ムーンと並んで拙者が若かりし頃、最も愛したミュージシャンでござる」
「・・・そうだったんだ。お前が、ツェッペリンのファンだったことも、ドラマー志望だったことも初めて知った」
曲が終わると、シン太郎左衛門は、うっすらと涙を浮かべ、
ボンゾは~
拙者の~
青春~
そのもの~
と歌った。
「・・・『卒業写真』の替え歌だ」
「いかにも」
「ユーミンだ」
「ハイ・ファイ・セットの方でござる」
「・・・今の歌で、どうやって区別するんだ!俺も、山本潤子の声が好きだが・・・今回のクチコミは、ひどいな。唯一の読者、れもんちゃんの年齢を考えろ。注釈も中途半端だし、これじぁ、ちんぷんかんぷんだぞ」
「大体、毎回こんなもんでござる」
「・・・まあ、そうだな。それも今日を限りだ。今回でシン太郎左衛門シリーズは終わる」
「うむ。冒頭から、そうと察してござった」
「そうか。見透かされていたか・・・まあいい。シン太郎左衛門、これまで楽しかったぞ」
「うむ。拙者も楽しかった」
「今日も、れもんちゃんに会いに行く」
「楽しみでござる」
こんな朝だった。
そして、れもんちゃんに会った。「宇宙一可愛い」れもんちゃんは、「宇宙一」の笑顔を振り撒いて、「宇宙一」燦然と輝いていた。
それだけで十分だった。
シン太郎左衛門と『れもんソング』 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と弟子の新兵衛 様
ご利用日時:2024年3月3日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。正確に言うと、引き続き原点回帰中の武士である。今日も5時に起きて、「やあっ!とおっ!」と気合いに溢れた剣術の稽古をしていた。
そのうち、シン太郎左衛門、「こら、新兵衛、お主、気合いが足らぬぞ!」と怒鳴った。「おい、新兵衛、どこへ行く。戻って参れ!」とも言っていた。(シンベエとは、何者なのだろうか?)と、少しは気になったが、布団の中を覗く気にはならなかった。
今日は日曜日。れもんちゃんに会う日。
多少睡眠不足だったが、概ね清々しい朝だった。新聞を取って、ダイニングに戻ると、シン太郎左衛門に話し掛けた。
「今朝は新兵衛が来てたな」
「うむ。新兵衛が来てござった」
「新兵衛はお前の弟子か?」
「新兵衛は拙者の弟子でござる」
「オチンの幽霊か?」
「オチンの幽霊ではござらぬ」
「そうか」
これ以上訊いても時間の無駄に思えたので、話題を変えた。
「シン太郎左衛門、今朝、郵便受けに封書が入っていた」
「売り込みか請求書でござろう」
「それが違う。普通の手紙だ。本当を言えば、この手紙、先々週には郵便受けにあるのを目にしていた。でも、なんとなく誰が差出人だか想像できたから、『消えてなくなんないかなぁ』と期待しながら放置しておいた。しかし、今朝見ても、まだあった」
「手紙は、新兵衛のようにトコトコ歩いて、どこかに行ったりはせぬものでござる」
話はまた新兵衛に戻ってしまった。
「新兵衛はトコトコ歩くのか?」
「新兵衛はトコトコ歩きまする」
「新兵衛は速く走ることはないのか?」
「新兵衛は足が遅い。トコトコ歩いて、ピタッと止まり、しばらくすると、またトコトコ歩く」
「新兵衛はちゃんと稽古をするのか?」
「新兵衛は一向に稽古をせぬ。怠けてばかりでござる」
「そうか」
しばしの沈黙の後、シン太郎左衛門が、「して、その手紙は誰から来たものでごさるか」と訊いてきた。
「あの手紙は、おそらく・・・いや、この話はやっぱり止めておこう。今は、そんな気分にならない」
私は、一人の知人の顔を意識の外に追い出した。
「うむ。では、新兵衛に話を戻すと致そう」
「うん。結局、新兵衛とは何者だ?」
「布団を捲ってご覧なされ。まだいるはずでござる」
「・・・なんか嫌だな。何が出てくるか教えろ」
「その生き物の名前を忘れた。最近、ボケが進んでござる。小さくて、黒くて・・・」
「ゴキヤンか?」
「ゴキヤンとは、何でござるか」
「ゴキヤンとは・・・」と言いかけたが、面倒臭くなって、布団を捲ってみた。敷き布団の隅っこに雄のコクワガタがじっとしていた。
シン太郎左衛門が「・・・あっ、そうそう、コオロギでござる」
「コオロギ?クワガタだけじゃなく、コオロギまでいるのか?」
「なんと。コオロギだけでなく、クワガタまでおりまするか?」
「・・・シン太郎左衛門、ちょっとズボンから出てこい」
シン太郎左衛門がジャージのズボンを引き下げて、ニュッと顔を出すと、私は布団の上の虫を指差して、「こいつ、お前の知り合いじゃないか?」
「うむ。まさしく新兵衛でござる」
「じゃあ、新兵衛はコオロギではなく、クワガタだ」
「新兵衛め。拙者をたばかりおったな」
「違う。新兵衛はお前をたばかってはいない。お前が勘違いをしただけだ」
「うむ」
「まあいい。可哀想に、何かの拍子で冬眠から目覚めてしまったのだろう。7時に起きればいいのに、5時起きを強いられる俺と境遇が似ている」
「哀れなヤツでござる」
「それなら、お前は6時に起きろ!」と声を荒げると、シン太郎左衛門は何故か急に晴れやかな表情になり、
「クイーンの『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』は良い歌でこざるなぁ」と、しみじみと呟いた。
「・・・そんな曲、どこで聞いた?ウチでは流してないぞ」
「昨日、チェーンの牛丼屋で流れてござった」
「昨日の昼御飯のときか・・・それが5時起きと何の関係がある!」
「何の関係もござらぬ。それを言うなら、れもんちゃんのクチコミと称しながら、この話のどこが、れもんちゃんと関係致しまするか。れもんちゃんに会う朝にピッタリの曲でござるゆえ、流してくだされ」
「お前は浅はかなヤツだな。この話は、れもんちゃんと無縁に見えながら、こんな他愛ない会話を交わしている親子の姿を通して、れもんちゃんに会う日の朝は、どんな下らないことをしていても、優しい気持ちで過ごせることを描いているのだ。間接的に、れもんちゃんの偉大さを表現する新企画だ」
「全然伝わらぬ。新しいとも思わぬ」
「そうか・・・じゃあ、失敗作だ」
スマホで動画サイトから『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』をループ再生しながら、朝のコーヒーを楽しんだ後、ジャージの上からコートを羽織って出掛けた。丘の上の公園に隣接する林で朽ち木の枝や落ち葉を拾って帰ると、押入れから蓋付きの小さな水槽を出し、砕いた朽ち木や落ち葉を配して、新兵衛を入れてやった。
「しばらく、ここで過ごせ。暖かくなったら、自然に返してやるからな」
台所で、お弁当用の小さなカップに脱脂綿を入れて、砂糖水を染み込ませた。
「父上、何をしてござる」
「新兵衛のご飯を用意している。春になっていないのに起こされた挙げ句、望みもしない剣道の練習をさせられて、気の毒なヤツだ。元気が出るように、今日は特別に蜂蜜も加えてやろう」
「拙者も少し味見してよろしいか」
「ダメだ。これは、お客様用のご馳走だ」
そして、今日も、れもんちゃんに会った。もう言わなくてもいいことかもしれないが、れもんちゃんは当然宇宙一で、宇宙一可愛くて、『可愛かった』。
「今回のクチコミは、ゆる~く書くことをテーマにしてみたけど、どうやら失敗作らしい」と言うと、れもんちゃんは「失敗作でもいいよ」と優しく笑っていた。
この笑顔もまた宇宙一だった。
考えてみれば、雑草たる『シン太郎左衛門』に成功作も失敗作もなかった。
帰りの電車の中で、シン太郎左衛門は、上機嫌で『ボーン・トゥ・ラブ・ユー』を民謡調に歌っていた。とてつもなく様になっていた。
「シン太郎左衛門・・・お前、どうしてそんなに英語が上手で、歌も上手いのだ?」
「拙者、フレディ・マーキュリーの生まれ変わりでござる」
「ふざけたことを言うな!」
「うむ・・・ところで、父上、郵便受けの手紙は、結局、誰からのものでござるか」
「あれは、おそらくBからのものだ。BはA同様、学生時代からの知り合いだが・・・コイツの話はしないことに決めているんだ」
「恐ろしい秘密が隠されてござるか」
「秘密などないが、説明に余りにも多くの時間を要するのだ。コイツに比べれば、まだAの方が理解しやすい。Bは超人的な頭脳の持ち主だが、俺が知る正真正銘の変人の一人だ。風貌も行動も異様すぎて、周りのみんなが怖がっていた」
「うむ。そんな人物からの手紙を放置しても大丈夫でござるか」
「問題ない。俺は昔からずっとBに怨まれているし、ヤツの俺に対する怨みは今更どうこう出来る性質のものではない。それにBの手紙なら、開けても、すぐ読めるものではない。前に受け取った手紙は解読に一年半かかった。まあいい。俺たちには、れもんちゃんがいる。Bなんて、どうでもいい」
家の最寄り駅で降りると、爽やかな夜風が吹いていた。ただ、たとえ今、突然の大雨が降り出しても、私は濡れながら平然と歩き出すのだ。
れもんちゃんがこの世にいれば、他のことは単なるオマケでしかなかった。
シン太郎左衛門と弟子の新兵衛 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と金ちゃんの就職 様
ご利用日時:2024年2月25日
- わが馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。正確に言うと、引き続き原点回帰中の武士である。今朝も5時に起きて、「やあ!」「とお!」と掛け声勇ましく剣術の稽古を始めた。普段7時に起きれば仕事に間に合うのに、連日の5時起きは正直ツラい。
一昨日、金曜日の朝、やはり5時にシン太郎左衛門のけたたましい掛け声で起こされた。
「シン太郎左衛門、稽古は1時間と決めてるなら、6時起きにしてくれないかなぁ。無駄に1時間早起きだ」
「うむ。考えておく」
「考えなくていい!6時に起きろ!」
シン太郎左衛門の稽古が終わると、新聞を取りに表に出た。辺りはまだ暗く、霧雨が降っていた。門扉の向こうに人影が見えたと思ったら、ラッピーとモンちゃんを連れた金ちゃんだった。傘もささず、手には竹刀を持っていた。
「おお、金ちゃん。もしかして、朝練か?」
「はい。丘の上の公園で竹刀を振ってきました。あれから毎朝やってます」
「ご苦労なことだ。もしかして、5時起きか?」
「はい。5時起きです」
「やっぱりそうだ。馬鹿は決まって5時に起きる。金ちゃん、寒くないのか?」
「暑いぐらいです。稽古をしたから、全身がポカポカしてます」
「そうか。俺は寒い。でも、股間はポカポカしている。朝練をしたからな」
「・・・相変わらず発言が意味不明だなぁ」
街灯の灯りの中で、モンちゃんは心なしかスリムになったように見えた。ラッピーは澄んだ綺麗な瞳で、こちらを見詰めてくれていた。
「モンちゃんのダイエットが順調に進んでいるようで安心した。ラッピーについては何の心配もない。元々スリムなナイスボディだし、なんて美しい目をしているんだ。宇宙で二番目に綺麗な目をしている。流石は、『チームれもん』のメンバーだけのことはある」
「・・・『チームれもん』?ああ、例の『宇宙一のれもんちゃん』の仲間のことですね」
「そうだ。金ちゃん、お前、学習してるじゃないか。この調子で、れもんちゃんに関する学びを深めていけば、明るい未来が待ってるぞ」
金ちゃんは、何とも言えない表情を浮かべた後、「あっ、そうだ。僕、4月から就職することになりました」
「なんだと?!どういうことだ?ちゃんと説明しろ」
「大したことじゃないです。今仕事をもらっている会社から社員にならないかって誘われて、条件もいいし、お世話になることにしました」
「正社員か?」
「正社員です」
「止めとけ、止めとけ。サラリーマンなんてくだらない。今のお前の生き方の方がずっといい。俺は30年以上もサラリーマンをやってきたが、人生を豊かにする要素なんて一つもなかった。そんなものになるぐらいなら、武士になれ」
「武士ですか?」
「そうだ。武士になれ。武士はいいぞ。思い付いたときに木刀を振って、偉そうな顔をして語尾に『ござる』を付けて下らないことを喋ってるだけだ。これ以上ない楽な仕事だ。そのくせ、いい思いができる。週に1回、れもんちゃんに会える。極楽だ」
「でも、どうやったら、武士になれるんですか?」
「生まれ変わるしかない。一度死ぬんだな」
「・・・そんなの嫌だなぁ」
「何を言ってるんだ!チャンスに賭けろ。人生は一度しかないんだぞ」
「でも、死んだら、その一度を使い切っちゃうじゃないですか」
「・・・ホントだ。じゃあ、武士は諦めろ。これまでどおりニートでいろ」
「でも、僕はニートじゃないですよ」
「見た目がニートだ。小学生でも恥ずかしくて着れないような、アニメキャラのTシャツを堂々と着ているお前は輝いている。それに引き換え、スーツ姿のお前なんて見られたもんじゃない」
「その点は大丈夫です。服装に自由な会社だから、スーツなんて着てる人はいませんよ」
「ふざけたことを言うな。サラリーマンならスーツを着ろ」
「言ってることが滅茶苦茶だ」
「うるさい。お前が隣の家でゴロゴロ過ごしていることを、俺がどれだけ頼もしく思ってきたか。俺に何かあったらお前に世話してもらおうと思ってたんだぞ」
「ええぇ?そんな恐ろしいことを企んでたんですか?」
「誤解するな。大したことじゃない。別にお前に車椅子を押してもらったり、オムツを替えてもらおうなんて料簡はない。俺は若いことに無茶をしてるから、後2、3年でコロッと死んでしまう。死んだら、すぐにお前にLINEを送る。『今死んだ』というメッセージを受け取ったら、俺の家の二階に上がって、書斎のパソコンを立ち上げろ」
「でも、オジさんの家の鍵は?」
「なんだ、まだ気が付いてなかったのか?お前の家の庭にレモンの木があるだろ。その根っ子のところを掘れ」
「そんなところに合鍵を隠してたんですか?」
「うん。それはともかく、俺のパソコンのログインIDは『シン太郎左衛門』で、パスワードは『れもんちゃん好き好き』だ。ログインしたら、ブラウザを立ち上げろ。ホーム設定は、クラブロイヤルの『お客様の声(投稿)』になってるから、投稿者氏名は『シン太郎左衛門と俳句2』としろ。訪問日も忘れるなよ。女の子は当然れもんちゃんだ。文面はまず『(番組内容を大幅に変更してお送りしております)』として改行、その後に机の2段目の引き出しにある『シン太郎左衛門 辞世の俳句集(傑作選)』と書かれたノートから約500の俳句を一字一句間違えずに打ち込んでから送信しろ」
「拙者からも、よろしく頼む」とシン太郎左衛門が付け加えたが、金ちゃんには聞こえなかっただろう。
「ここまでは覚えられたか?」と訊くと、金ちゃんは狼狽えた様子で、
「理解も出来ないものを覚えられませんよ。ところで、その『シン太郎左衛門』ってオジさんのハンドルネームなんですか?」
「なんだと?こんな馬鹿と一緒にするな!」
シン太郎左衛門も、いきり立ち、「それはこっちのセリフでござる」と言い返したが、この言葉は金ちゃんには聞こえなかったはずだ。
「金ちゃんが余計な口を挟むから、親子喧嘩になるところだったぞ。まあいい。投稿が済んだら、家の全室を回って、俺とシン太郎左衛門の死体を探し出せ」
「なんで死体が2つもあるんですか?」
「それは大したことじゃない。取り敢えず、俺の死体を見つけてくれたらいい。ただ、俺のズボンのチャックが内側から開いていたら、念のために周りに変なモノが落ちてないか捜してくれ・・・あっ、ごめん。チャックが内側から開いたか、外側から開けたかを区別する方法がないな。『俺のズボンのチャックが開いていたら』に訂正する」
「オジさんって、やっぱり普通じゃないです」
「そんなことを言うのは、お前がまだ本物の変人を知らない証拠だ。俺の学生時代の知り合い、A、B、CやK先輩の誰か一人にでも会ったら、一瞬にして認識が改まる。俺が飛んでもない常識人に見えてくる。会うか?」
「・・・遠慮しておきます」
「それが正しい選択だ。じゃあ、そんな常識人の遺言を続けるぞ。俺たちの死体を見つけたら、おぶれ。そして、丘の上の公園に持っていって焼くんだ」
「でも、そんなことをしたら、法律違反です」
「大丈夫。当人がそうしてくれと言っているんだから問題ない。それに、丘の上の公園は、いつ行っても無人だ。誰にも気付かれない。もし、誰かに見咎められたら、『狼煙を上げて、知り合いのインディアンに就職祝いのパーティの招待状を送ってる』と言えば、それ以上、何も訊いてこない」
「・・・分かりました」
「俺とシン太郎左衛門がすっかり灰になったのを確認したら、コンビニのレジ袋に入れて持ち帰れ。新しくてキレイなレジ袋だぞ。お前が鼻をかんだティッシュとかを一緒に入れるなよ。ラッピーやモンちゃんのウンコと一緒にしたら、呪い殺すからな。持ち帰ったら、涼しくて快適な場所に保存しろ。そして、その後、クラブロイヤルに電話して、今後、れもんちゃんが在籍する限り、お盆時期の日曜日に、『シン太郎左衛門ズ』が、どこからともなく現れるから、予約(110分コース)を入れてくれるように頼んで、取り敢えず10年分のお金を前金で払いに行け。そして、れもんちゃんには、俺が『呆気なく死んじゃったけど、お盆になったら絶対に会いに行くから、お経を唱えて撃退しないでね』と言っていたと伝えてくれ」
シン太郎左衛門が「拙者からもお頼み申す」と言ったが、金ちゃんの耳には届かなかったものと思う。
「ここまでは覚えたな?」
「一つとして、頭に残ってません」
「なんだと?いやぁ、寒くてたまらん。いよいよ風邪を引きそうだ。ここから一気呵成に俺の遺言の続きを捲くし立てるから、一言一句正確に記憶しろ」
「だから、無理です」
「さて、俺とシン太郎左衛門の灰の処分だが、俺は重度の閉所恐怖症だから、お墓に納めるなんて論外だぞ。一瞬にして髪が全て真っ白になって、気が狂ってしまう。日本全国の名所旧跡に散骨しろ。300か所以上に分散させろよ。俺は、どんな美しい景色でも5分で飽きるからな。移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ。以上、覚えたか?」
「一つも覚えてません。後で纏めてLINEを送ってください」
「無茶を言うな!今言ったことは、『移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ』の部分を除いて、最初から最後まで完全な思い付きだぞ。言った尻から忘れたわ。それに、お前は、もう4月から家にいなくなる。転勤する可能性さえある。そんなヤツ、頼りにならない」
「でも、仕事はこれまでどおりテレワークだから、4月以降もずっと家にいるんですけど・・・」
「なんだ、それ?変な会社。ああ、寒い。もう凍死寸前だ。俺はそろそろ出勤の準備をするからな。アディオス・アミーゴ」と踵を返したとき、金ちゃんが、
「今日は祝日なのに、オジさん、出勤なんですか?」
私は振り向いて、「えっ?ああ、忘れてた。まあいい。お前は、お前が良いように生きろ。俺のことなど心配するな。一応、『就職おめでと』」
リビングに戻ると、テーブルの上に新聞を放り投げ、
「シン太郎左衛門、聞いたか?金ちゃん、就職するってよ」
「うむ。で、一体何が変わりまするか」
「何も変わりはしないさ」
・・・と、今日れもんちゃんに会った後の帰りの電車の中で、こんな風にクチコミを作成した最中に、下書きに使っているメールソフトが突然ハングした。立ち上げ直すと、全文消えて無くなっていた。
「シン太郎左衛門、大変だ。クチコミの原稿が飛んだ」
「どこに?」
「無くなったという意味だ」
れもんちゃんの余韻に浸るのを邪魔されたシン太郎左衛門は「大したことではござらぬ」と冷淡に言い放った。
「30分以上掛けて書いたんだぞ」と言ったものの後の祭りだった。
「まあいい。考えてみれば、『移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ』の箇所を除けば、思い付きを書いただけだから、消えても惜しくない」
「うむ。れもんちゃんが宇宙一可愛いから、他のことはどうでもいいのでござる」
そう。確かに今日も、れもんちゃんは宇宙一で、宇宙一可愛くて、『可愛かった』。他は、消えてなくなったところで、別にどうでもいいことばかりだった。
シン太郎左衛門と金ちゃんの就職 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とダンボールのラケット 様
ご利用日時:2024年2月19日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。将来の夢は、中学校の卓球部に入ることだと言っている(前回のクチコミの最終節を参照)。この1週間は毎朝早起きして、前の日曜日に私がダンボールを切り抜いて作ってやった卓球のラケットを振っている。まるで武士らしくなくなってしまった。
(今回は、日曜日が、れもんちゃんの女の子休暇に重なってしまい、休み明けの月曜日に会った。)昨日、日曜日の朝、シン太郎左衛門は早起きして、ダンボール製のラケットを「やあっ!とおっ!」とか言いながら一生懸命に振っていた。
「今日も頑張ってるな」
「うむ」
「楽しいか?」
「それが何とも楽しくない」
「そうか」
「この1週間ずっと疑問に感じてござった。中学生のれもんちゃんは、本当に毎日こんなことをしていたのでござるか」
「・・・この1週間、いつ言おうとか悩んできた。俺の説明が悪かったのかもしれないが、今お前がやっていることは、卓球とは言いがたい。卓球のラケットは中段に構えたりしない」
「父上は『卓球は、木刀でなく、ラケットを振るのだ』と仰せでござった」
「そんな説明をしたような気がする。言葉足らずだった」
私には、ダンボールをハサミで切り抜いて、シン太郎左衛門の身の丈に合ったミニチュアのラケットを作るなどという器用な芸当はできなかった。シン太郎左衛門は、ほぼ実寸大の卓球のラケットを私の腹に突き立てて、仁王立ちしていた。心なしか怒っているように見えた。
「行き違いがあったようでござる。卓球とは、竹刀の代わりに、この大きなシャモジのようなものを使う剣道のこと・・・」
「・・・ではない。『剣道』-『竹刀』+『大きなシャモジ』=『卓球』という式は成り立たない」
「やはり、そうでござったか。拙者も『多分これは違うな』と、うすうす感じておった」
「俺も、お前が、いつ気付くか様子を見守っていた」
「大きなシャモジで、ずいぶん風を起こした」
「済まなかった。ちゃんと説明し直す。卓球の別名はピンポンだ。お前のラケットは紙で出来てるが、本物のラケットは木製で、ラバーが貼ってある。そのラケットでテンポよく交互に玉を打つ、そういうゲームだ」
「木の板でテンポよく左右のタマタマを交互に叩く?」
「違う。そんなことをしたら、痛くて目が回ってしまう。中学生のれもんちゃんが、同級生の男の子を押さえ付けて、股間をラケットでスマッシュする姿を想像できるか?」
「れもんちゃんは、それはそれは気持ちの優しい娘でござる。そんなことをするはずがござらぬ」
「だろ?卓球は、そんな野蛮なスポーツではない・・・卓球の動画を見せよう。いくら口で説明しても、行き違うばかりだ」
シン太郎左衛門は深く息を吐いて、「父上、折り入って、お願いがござる」
「なんだ?」
「お手製のラケットまで拝領した身で心苦しいが、拙者には、卓球を続けるのは無理でござる。目的が分からぬ」
「そうか・・・しかし、お前には卓球を止めることが出来ない」
「なんと!それは何ゆえ?」
「始めてもいないものを途中で止めることは論理的に不可能だからな。ただ、事情が事情だから、今回に限り特別に許す。止めてよし」
「忝ない。ただ、れもんちゃんに、根性なし、意気地なし、と思われますまいか」
「大丈夫。れもんちゃんは、そんな娘ではない。この件、クチコミにも書かないから、心配するな」
「一生恩に着まする」
そして、今日は月曜日。れもんちゃんに会う日。有給休暇をとっていたし、昼まで惰眠を貪る予定だったが、朝の5時、シン太郎左衛門が「やぁ!とぉ!」と、剣術の稽古を始めた。またしても原点回帰だった。
昼御飯をゆっくり食べて、神戸に向けて出発した。
そして、れもんちゃんに会った。シン太郎左衛門が最近素振りに余念がないことを伝えると、れもんちゃんはニッコリと微笑んだ。
言うまでもなく、れもんちゃんは宇宙一で、宇宙一楽しくて、宇宙一可愛かったから、110分間、私は宇宙一の幸せ者だった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門は、れもんちゃんの余韻に酔いしれて、うっとりとしている。私はこのクチコミを書いている。
「父上、またクチコミでござるか」
「そうだ」
「毎度毎度、ご苦労なことでござる」
「苦労なんてしてない。俺みたいな天性の怠け者が、自分の意志や考えで、毎週こんな長い文章を書いていると思うか?」
「確かに、父上はどうしようもない怠け者で、何をやらせても三日と続かないろくでなしでござる」
「だろ?だから、『シン太郎左衛門』のクチコミにしても『私が書きました』なんて、間違っても言えない。思い上がりもいいところだ。勝手に出来るんだ。俺の意志ではない。れもんちゃんがいるからだ」
「なるほど」
「れもんちゃんが慈雨の如く降り注ぎ、太陽の如く光り輝き続ける限り、『シン太郎左衛門』は何の意味も目的もなく雑草のように生えてくる。これは、宇宙の摂理だ。れもんちゃんが宇宙一だから、こういうことが起こる。それだけのことだ」
「うむ。れもんちゃんは実に有難いお方でござる」
その後、シン太郎左衛門は電車の中で、「れもんちゃんは偉いものでごさるなぁ」と頻りに感心していたが、家の最寄り駅で電車を降りるとき、「拙者は雑草かぁ・・・」と少し肩を落として呟いた。
雨が降っていたが、暖かい雨だった。
シン太郎左衛門とダンボールのラケット 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と海外ドラマ2 様
ご利用日時:2024年2月11日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。原点回帰したとか言うが、剣術の朝練は、やったりやらなかったり。サボった日は「今朝は原点回帰し損なってござる。それもこれも、憎っくき目覚ましのせいでござる」とか姑息な言い訳をする。
昨日、土曜日。仕事に行って、帰宅したのは夜の8時過ぎだった。久し振りに海外ドラマを見ようと考えた。
「今夜は、海外ドラマを見ることに決めた」と告げると、シン太郎左衛門は、
「さては、それをクチコミのネタにする腹積もりでござるな。ただ、『海外ドラマ』は、昨年の6月4日、『シン太郎左衛門シリーズ』の第4回で既に取り上げてござる。十分気を付けて書かれるがよい。父上はいい加減な人間ゆえ、設定に無頓着でござる。心して書かぬと、読み比べられたとき、辻褄が合わんことになりまする」
「無用の心配だ。誰が読み比べたりするのもんか。シン太郎左衛門シリーズに、そんな熱心な読者は一人もいない。俺自身、過去に書いたものを読み返したことがない」
「うむ。間違いない。れもんちゃんさえ、まともには読んでござらぬ」
「・・・それは少しショックだな」
「それが現実でござる」
「まあいい。とにかく、これから海外ドラマを見る」
「うむ。当然れもんちゃんが主演の方でござるな」
シン太郎左衛門は、れもんちゃんの写メ日記の動画も、海外ドラマだと思い込んでいる(シン太郎左衛門シリーズ第4回を参照のこと)。
「違う。れもんちゃんに薦めてもらったアメリカのドラマの方だ。癌の宣告を受けた高校教師が家族のために犯罪に手を染めてしまう話だ。れもんちゃんは出てこない」
「以前も申した通り、斯様なものに武士たる拙者を巻き込むとは言語道断。ましてや、れもんちゃん主演の海外ドラマを見せぬなら、父上とは絶交でござる」
「見せないとは言ってない。そうだ。こうしよう。まず、俺一人で、れもんちゃんが出ない方を1話見て、その後、れもんちゃんが出る方を一緒に見る。それで、どうだ」
「いかん。モノには順序がござる。大切なものが先でござる」
「いや、れもんちゃんの動画を先にしたら、海外ドラマに行き着けなくなる。前にも言ったが、このアメリカのドラマは、れもんちゃんが『面白いよ。見てみて』と薦めてくれたのだ。いつまでも見ないでは済まされん」
「・・・得心いかぬが、れもんちゃんのご意向には逆らえぬ。致し方ない。『ブレイキング・バッド』、さっさと見なされ。倍速で」
本来、シン太郎左衛門は、ドラマのタイトルを知っていてはいけないし、倍速などという機能があることも知らないはずである。何故知っているかは分からないが、ここは触れてはいけない部分なのである。
二階の書斎に上がり、パソコンの電源を入れた。
「見終わってござるか?」
「見始めてもいない」
「遅い!」
「今、部屋に入ったばかりだ」
アメリカのドラマの方は、シーズン3の途中で止まっていたから、その続きだ。れもんちゃんの推薦だけあって大変面白いのだが、中年男が追い詰められていく姿が身につまされて、中々先に進められずに、今日に至ったのだった。見るとなれば、真剣に見たいのに、見始めるなり、シン太郎左衛門から「まだか」「まだ終わらぬか」と矢の催促を受けた。
「落ち着かん。少し静かにしておいてくれ」と黙らせた。
しかし、1分とおかず、「早くれもんちゃんの海外ドラマが見たいなぁ・・・父上、英語で聞いてもチンプンカンプンでござろう。意地を張らず、吹き替えで御覧なされ」と嫌がらせを仕掛けてきた。
「頼むから静かにしてくれ。今いいところなんだ」
シン太郎左衛門は、しかし、2分と黙ってはいなかった。しばらくすると、「れもん・・・れもん・・・」と、『れもんちゃんコール』を始めた。最初は小声で、段々と声量を上げていった。無視しようと頑張ってみたものの、『れもんちゃんコール』を聞かされているうちに、タイガースのユニフォームを着て、甲子園球場のバッターボックスに立つ、れもんちゃんのイメージが脳裡に湧き上がってきて、ちっともドラマに集中できなくなった。
「れもん!・・・れもん!・・・」の熱気を帯びた『れもんちゃんコール』に続いて、「パッパラ~、パラララ~」と、勇ましいトランペットの演奏が始まった瞬間に、観念して動画を止めた。
「かっ飛ばせ~、れもん!ここで一発、れもん!・・・ピッチャー、振りかぶって・・・投げました。カキ~ン!オ~ッ!・・・『れもんちゃんに、握られ、バットは、夢心地』松尾シン太郎左衛門」
「ここで俳句かよ。おまけに下ネタだ」
「父上、プロ野球はお好きか?」
「いいや。全然見ない」
「うむ。アメリカのドラマは終りましたか」
「終わらされた」
「では、れもんちゃん主演の海外ドラマを見ましょうぞ」
私が、れもんちゃんのウェブページにアクセスしている間に、シン太郎左衛門はモニターの前の一等席に陣取った。いつの間に準備したのか、レモンイエローのハッピを着て、同色のメガホンまで持っていた。
8カ月の間に溜まった、れもんちゃんの動画を堪能し、シン太郎左衛門はご満悦だった。時刻は深夜1時を回り、私はもうフラフラになっていたが、シン太郎左衛門と私は、れもんちゃんが、この8カ月の間で、日々美しさに磨きをかけてきたという点で完全な意見の一致を見た。ただ、動画のれもんちゃんは表情が硬い。実物のれもんちゃんは、もっともっと生き生きとした表情なのである。
そして、今日、日曜日、れもんちゃんに会いに行った。やはり宇宙一だったし、無敵の宇宙一ロードを光速を超えたスピードで驀進していた。
可愛すぎるれもんちゃんに、「れもんちゃんって、野球する?」と訊いてみた。
「それは秘密だよ。中学生のときは卓球部だったよ」と言って、ニッコリ笑った。
これをシン太郎左衛門が聞き逃したはずがない。帰りの電車の中で、卓球とは何か、しつこく訊いてくるだろう。説明すれば、明日の朝から、シン太郎左衛門が、木刀でなく、ラケットを振ることになるのは分かりきっていた。
原点回帰は完全に終わった。
シン太郎左衛門と海外ドラマ2 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の原点回帰 様
ご利用日時:2024年2月4日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
昨日、土曜日、シン太郎左衛門は何を思ったか、朝早くから布団の中で木刀を振って剣術の稽古を始めた。「えいっ!とぉっ!」と掛け声も勇ましい。ちなみに、シン太郎左衛門の木刀は割り箸である。鉛筆は使わないように厳命してある。「素振りはいいが、布団から出てやってくんないかな。布団が傷む」と言ったら、「寒いからイヤ」と言下に拒まれた。
昼まで寝て過ごす予定を台無しにされ、気分が悪かったものの、シン太郎左衛門は、いつになく凛々しく、心なしか武士らしく見えた。
「今日のお前は、なんかいつもと違っている気がする」
「拙者、本日より原点回帰してござる」
「そうなんだ。最近、出家を仄めかしたり、辞世の句に凝ったりと迷走してたからな」
「うむ。最近、迷走してござった。本日より原点回帰いたしてござる。気合いに満ちて、我ながら怖いほどでござる」
「原点回帰か・・・お前の原点って、木刀を振ることなのか?」
「左様。拙者、れもんちゃんのことを念じて、脇目も振らず、ひたすら木刀を振りまする」
「ふ~ん」と、その場は、それ切りになった。
新聞を取りに玄関を出ると、久しぶりの好天で、空は青く澄んでいた。ふと、傘立てが目に入った。何という考えもなしに、コウモリ傘を一本取り出すと、野球のバッティング練習の要領で軽く2、3回振ってみた。特に何が面白い訳でもない。傘立てに戻そうとしたが、気を取り直して、傘を竹刀に見立てて、中段に構えてみた。小学生の頃、近所の警察署の剣道教室に体験入門したことがあり、たった1時間にせよ、人生で剣道に接したことは皆無とも言えない。取り敢えず振りかぶって、「えいっ」と言いながら、振り下ろした。気恥ずかしくて、気合いなど入っていなかったが、微かな爽快感があった。
(もしかすると、剣道は結構俺に合っているかもしれない。少なくとも野球の素振りよりは楽しい気がする)と勝手なことを考えて、もう一度振りかぶったとき、家の外壁を思い切りひっぱたいてしまった。
(いかん、いかん。古家を破壊するところだった)
私はコウモリ傘をぶら下げて、隣の家の呼び鈴を鳴らした。
玄関のドアの隙間から顔を覗かせた金ちゃんは、私の手元を見て、「雨、降ってます?」と訊いてきた。
「もちろん降ってない。とても良い天気だ。ところで、御両親はお出掛けだな。車がない。駐車場を貸してくれ」
「何を始める気ですか?別にいいけど、母さんがいますよ」
「じゃあ、いらない。お前のママには見られたくない。計画変更だ」
10分後、金ちゃんと私は、それぞれ手にコウモリ傘を持ち、ハーネスを着けたラッピーとモンちゃんを連れて、青空の下、丘の坂道を登っていた。
モンちゃん(キジトラの雌ネコ)は、しばらく見ないうちに、随分大きくなっていた。大きくなり過ぎていた。
「モンちゃんは、何キロだ?」
モンちゃんは、小型のブルドッグのような格好で、ノソノソと嫌そうに歩いていた。
「測ったことないです」
「こんなにデカくする法があるか。このままデカくしたら、キジ柄のライオンになってしまうぞ。れもんちゃんにあやかって、モンちゃんと名付けたのに、こんなデブちんになってしまっては、れもんちゃんに申し訳が立たん」
「れもんちゃん?ああ、例の『宇宙一のれもんちゃん』ですね」
「やっと学習したか。そうだ。れもんちゃんは宇宙一だ。もちろん、れもんちゃんは、スタイルも宇宙一だ。女性的な流麗なボディラインは、必要なところに必要なだけのしなやかで柔らかな肉付きを備えている。足すことも引くことも許されない完璧な肉体美だ。それに比べて、モンちゃんは、お前と一緒でブヨブヨだ」
「モンちゃんは家では食べるか寝るかだし、散歩も嫌いだから」
「てんでなってないな。確実にお前の影響だ。まずお前から原点回帰しろ」
「何ですか、その『原点回帰』って?」
早速疲れてしまったモンちゃんが踞って動かなくなった。ラッピーが心配そうに、様子を伺っている。
「原点回帰は、原点に回帰して、怖いほどの気合いを横溢させることだと、シン太郎左衛門は言っている」
「分かんない・・・」
「だろうな。俺自身よく分からん」
「・・・ところで、何で僕たちはコウモリ傘を持ってるんですか?こんないい天気で、雨なんて降りそうもないのに」
「いや、それよりも・・・」
モンちゃんは、リードを強く引いても、びくともしないばかりか、うっとりと目を閉じて「おやすみモード」に入ろうとしていた。
「これでは今日中に公園までたどり着けそうにない。俺の傘を持て」と、コウモリを金ちゃんに渡すと、私はモンちゃんを抱き上げた。
「うう・・・米俵を担がされた気分だ」
公園に着くと、リードを解かれたラッピーは好きなだけ走り回り、私の肩から降ろされたモンちゃんは日向に踞って、舟を漕ぎ始めた。
「よし。それでは、これから剣道の素振りをする」
「ああ、この傘は竹刀の積もりだったんですね」と、金ちゃんはコウモリ傘をクルクルッと回してみせた。
「オジさん、僕、小学生から剣道やってて、高校のとき、地方大会でベスト8まで行ったんですよ」
そんなこととは知らなかった。
「えっ!そうだったの?」
「その後、すぐに止めちゃったけど・・・ああ、そういうことか。原点回帰の意味が分かりました」と、独り合点して、コウモリ傘を中段に構えた姿は、普段の怠け者のデブとは見違える程、様になっていた。警察署の体験入門ぐらいでマウントが取れる相手ではなかった。
ラッピーは溌剌と走り回り、金ちゃんは楽しそうに素振りをしていた。私は、モンちゃんにチョッカイをかけて怒られたり、空き缶を傘でひっぱたいて飛ばしたりした後、ベンチに座って、ボーッと過ごした。シン太郎左衛門に続いて、金ちゃんまでも原点回帰してしまい、一人取り残された私は、本当にやることもないので、金ちゃんや動物たちを眺めながら、赤胴鈴之助の主題歌を、『赤胴鈴之助』を『隣のニートの金ちゃん』や『富士山シン太郎左衛門』に置き換え、他の歌詞も適当にいじくり、替え歌にして、
剣を取っては日本一に
夢は大きな太ったニート
・・・
とか小声で歌っていた。
れもんちゃんは出勤日だから、宇宙空母が飛来する訳もないが、雲一つない空は抜けるように青く、穏やかな風が爽快だった。なんとも馬鹿げた時間ではあったが、それなりに楽しかった。
帰り道も、モンちゃんは歩くのを嫌がったから、私が抱いて運ぶことになった。
金ちゃんは、これから毎日、朝練をするとか言うので、「それなら、一緒にモンちゃんを連れ出して、少し運動させてやれ。来月までに2キロのダイエットだ。出来なければ、名前を『米俵』に変更する」
そして、翌日。今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。
金ちゃんは、モンちゃんと朝練をしたのだろうか。シン太郎左衛門は目覚ましが鳴らなかったことを理由に稽古をサボった。
そして、れもんちゃんに会った。やっぱり、どう考えても宇宙一だった。
「れもんちゃんは、宇宙一だね」と言うと、ニッコリと笑っていた。
シン太郎左衛門の原点回帰 様ありがとうございました。
- 投稿者:レモン農家様
ご利用日時:2024年1月30日
- お久しぶりです。
今日も良い時間でした。
もう、かれこれ2年という長いお付き合いに
なろうとしています。
いつもキュンキュンの笑顔で迎えてくれます。
あ、始まった、とこちらも笑顔になります。
古い話も覚えてくれてます。
何だろう、彼女のペースに入ることが
快感なんです。
笑顔と可愛い声と、一生懸命さと。
おかけで、今日も若返りましたよ。
元気が出ました。
ありがとう。
別れ際は普通、寂しくなるものですが
また、次に会うことを楽しみに
お店を後にするのです。
また会う日まで
元気でいよう。
れもんさんも元気でいて下さい。
レモン農家様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とれもんちゃんのネイル 様
ご利用日時:2024年1月28日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。「ござる」以外に武士らしい言動もなく、近頃は、れもんちゃんという支えを失ったら、すぐに出家すると公言している。武士の風上にもおけない、ふざけたヤツである。
今日、日曜日、れもんちゃんに会う日。シン太郎左衛門は、布団の中で二、三回「やぁ!とぉ!」と掛け声だけ上げると、「今日の稽古は以上」と宣った。
「これだけ?もう少しやれよ」と言うと、「これで十分でござる。もう武士は飽きてきた。転職を考えてござる」
「転職?お前、別に仕事として武士をしてないだろ。つまり、お前は『無職』だ」
「うむ。しかし、『無職』では外聞が悪い。履歴書には『家事手伝い』としてござる。これから早速就職活動をする積もりでござる」
「就職活動?」
「うむ。れもんちゃんの美しさをよりよく理解するために、アパレルかネイルサロンで働く積もりでござる。第一希望は美容院でござるが、拙者、先端恐怖症ゆえ、ハサミを持つと、オシッコを漏らしまする」
「それは美容師としては致命的だ」
「うむ。カミソリなど、もっといかん。最悪の事態が起きまする」
「それ以上、言わんでいい」
この会話を続けるのが嫌になったので、「あっ、ネイルで思い出した。話は全く変わるが、昨日、久しぶりに、お寿司ちゃんに会ったぞ」と話題をすり替えた。
シン太郎左衛門は眉をひそめて、「ん?お寿司ちゃんとな」
「そうだ。お寿司ちゃんだ・・・いや、お寿司ちゃん改め、ラーメンちゃんだ」
「それは、何の話でござるか」
「あれ、お前にお寿司ちゃんの話をしてなかったか?」
「聞いたこともござらぬ。それは、クラブロイヤルの女の子でござるか?それとも他店の?」
「馬鹿なことを言うな。俺は、絶対れもん主義者だ。お寿司ちゃんとは・・・」
私が密かに『お寿司ちゃん』と呼んでいるのは、年の頃は二十四、五、パッと見は地味なOL風の女性だった。通勤電車の中で数回見かけただけで、それ以上のことはない。
「電車の中で見ただけでござるか」
「そうだ。平日ではない。土曜日の比較的空いた電車で隣の席になったことが、これまで3回ある」
初回に隣合わせたのは半年ほど前だった。私は本を読んでいたのだが、ふと隣の女性の、スマホを触る指先に目が行った。色使いが華やかで、思わず見入ってしまった。
「一目では何の絵柄だか分からなかったが、じっくり観察すると、かなり斬新なネイルだと分かった」
「と言いますると?」
「お寿司の細密画だった」
「それで『お寿司ちゃん』でござるか。安易なネーミングでござる」
「いかにも安易だが、指の一本一本違うお寿司ネイルだ。トロありエビあり鯛あり玉あり、イクラの軍艦巻、カッパ巻、バランにガリが添えてあったり、どれもが、それは細かい筆遣いで、一つ一つの米粒が見分けられるほど、実物に似せて緻密に描いてあった。どれだけ時間と金を使ったのかと感心してしまった」
「なるほど。そこまでするのは『お寿司ちゃん』以外には考えられませぬな」
「だろ?だから、お寿司ちゃんだ。右手の中指にはアガリの湯呑みだ。さすがに魚へんの漢字を並べてはなかったが、『寿し』と書いてあって、『し』の字の先っぽはヒラヒラと波打っていた」
「お寿司ちゃん、相当変わった人でござるな」
「うん。まだ続きがある」
それから1ヶ月ほど経ったある日、また偶然その女性と隣の席になった。
「すぐにはお寿司ちゃんだと気付かなかったが、ふとした拍子に隣の女性客の手元に目が行って、思わず『あっ、お寿司ちゃんだ』と心の中で叫んで、顔を見た。微かな記憶だが、同一人物に間違いなかった」
「お寿司のネイルでござったか」
「うん。さらに気合いが入っていた。アクリルを盛り上げたものか、どう作ったかまでは分からんが、指先の一つ一つにお寿司の模型のようなものが乗っていた。小指の先程のミニチュアではあったが、もはや爪などすっかり隠れて見えなかった。右手の中指には、親指の先程の湯呑みがポコンと乗っていて、魚へんの漢字が周囲にぐるりと書いてあった」
「そんなことをして、普段の生活に支障が出ませぬか」
「出てると思う。それに屈しないのが、お寿司ちゃんだ」
「何かの罰ゲームではござらぬか」
「いや。俺に見られているのは、ウスウス察していただろうが、臆する様子もなかった。むしろ、誇らしげですらあった」
「お寿司ネイルに全てを捧げてござるな。完全に変人でござる」
「うん。でも、まだそれで終わらないのだ」
そして、昨日、その女性と電車で乗り合わせた。前回から、5ヶ月は経っていただろう。
「電車に乗ったら、優先座席に座っているお寿司ちゃんに気が付いた。急いで、隣の席に座り、その指先を見て、愕然とした。『ラーメンちゃん』になってしまっていた」
「テナントの入れ替わりは、よくあることでござる」
「うん。もはやネイルと呼んでいいのかも分からんが、煮玉子とかチャーシューとかメンマとか、ラーメンのトッピングのほぼ原寸大の食品模型と思われるもの、寸を縮めた丼や割り箸、レンゲの模型が、全ての指の爪の上に貼り付けてある。ごちゃごちゃした感じだし、お寿司のときに比べて、細工が雑で格段に見劣りする。『ええ、もう、どうとでもなれ』というヤケクソな印象さえあった」
「一体何が起こったのでござろうか」
「分からん。気にはなったが、俺は完全な赤の他人だ。立ち入ったことを訊く訳にもいかん。知らん顔をして、本を取り出して読み始めた。ただ、視界の隅でスマホの操作に大苦戦するラーメンちゃんが気になって、本に集中できんかった・・・お寿司ちゃん改めラーメンちゃんについては、以上だ」
「なるほど・・・何をしてくれることやら。父上、仮にも、これは、れもんちゃんのクチコミでござるぞ。父上の周りの変人のことなど、誰も関心はござらぬ」
「分かってる。お待ちどう様。ここからいよいよ、れもんちゃんのネイルの話だ」
そう。れもんちゃんのネイルは素晴らしい。特に今回のは、素敵すぎるのだ。
「俺は、れもんちゃんの今のネイルが大のお気に入りだ。これまでのも好きだが、今回のは特に良い。本当に素晴らしい」
「うむ。今回のれもんちゃんのネイルは雪をテーマにしてござるな」
「そうだ。それも、ただの雪ではない。ちゃんと語ってやるから、しっかり聴け」
「畏まってござる」とシン太郎左衛門は正座した。
「想像しろ。俺たちは今、中世の面影を残したヨーロッパの小さな町にいる。季節は冬だ」
「うむ。拙者、ヨーロッパには縁がござらぬ。全く想像できん」
「じゃあ、黙って聴いとけ。時刻は夜の10時過ぎ。辺りには人影もなく、冷たい風が、降る雪を千々に乱している。俺はコートの襟を立てて、背中を丸めて歩いている。大きなスーツケースが積もった雪に阻まれて、道行きは難渋を極めている。靴には凍った水が染み込んで、爪先が痺れている」
「寒そうでござる」
「寒いなんてもんじゃない。吐く息も凍る寒さだ。鼻水が垂れて、鼻の下で固まって、二本のツララになっている」
「まるでセイウチの牙のようでござるな」
「うん。極めて恥ずかしい姿になってしまった。そんな情けない格好で、宿泊先のホテルを探して道に迷った俺は、ふと足を止める」
「セイウチのように吠えるためでござるな。セイウチは何と鳴きまするか」
「知らん。立ち止まったのは、吠えるためではない。そこに、とても可愛い小さな家があって、街灯もない暗い通りに面したガラス窓に、室内の暖炉の焔が仄赤く暖かい影を揺らしている。その暖かく柔らかい赤色を、窓の縁を飾った白い雪が優しく包み込んでいるように見える。その光景に一瞬にして寒さを忘れた。まるで、マッチ売りの少女が小さな炎の中に見た幻影のように、涙が出るほど懐かしくも、切なく、美しくて、思わず『れもんちゃ~ん!』と叫んでしまう・・・これが、今回のれもんちゃんのネイルのイメージだ。雪の結晶が絶妙なアクセントになっている。つまり、今回のれもんちゃんのネイルは、ヨーロピアン・テーストで、ハート・ウォーミングで、上品で、可憐で、美しく、可愛い」
「うむ。れもんちゃんは、全てにおいて、実に行き届いた宇宙一でござる。ただ、今の父上の説明から、れもんちゃんのネイルのデザインを思い浮かべるのは至難の業、いや不可能でござる」
「そうだろうな。まあいいさ。いずれにしても、今日これから、れもんちゃんに会うのだ。ネイルもしっかりと観賞しよう」
「うむ。楽しみでござる」
そして、れもんちゃんに会ってきた。宇宙一に更に磨きが掛かっていた。ただ軽くショックだったのは、これだけ一生懸命にクチコミを書いたのに、あの雪のネイルは先週で終わってしまっていたのである!
でも、新しいキラキラのネイルも、もちろん素敵だよ~ん。
シン太郎左衛門とれもんちゃんのネイル 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と俳句 様
ご利用日時:2024年1月21日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ここしばらくは剣術の稽古もせずに、何を思ったか、この数日は俳句ばかり作っている。
今日、日曜日なのに午前中、仕事だった。仕事を済ませ、れもんちゃんに会うために神戸までの電車に乗っている間も、シン太郎左衛門は俳句を作っていた。
「俳句は楽しいか?」
「楽しいと思ったことは一度もござらぬ」
「じゃあ、なんで、そんなことをしているんだ?」
「ボケ防止」
「そうか。ボケ防止は大切だ。沢山できたか?」
「500ほど作り申した」
「俺は、年末年始、暇を持て余していたので、クチコミのネタを沢山考えたが、メモを取らなかったので、全部忘れてしまった。だから、今日投稿するクチコミのネタがない。前置きなしに、いきなり『そして、今日、れもんちゃんに会った。やっぱり宇宙一だった』とは出来ないから、お前の俳句をいくつか使わせてくれ」
「ならぬ」
「ケチなことを言うな」
「いや、ケチではござらぬ。理由がござる」
「どんな?」
「拙者の俳句は全て辞世の句でござる。時期が来るまでは、人には言えぬ」
「500個全部?」
「うむ。拙者、辞世の句しか詠まぬ」
「なんで、そんなことするの?」
「ボケ防止」
「いや・・・いいから、二つ三つ教えてくれ」
「いよいよとなれば」
「いや。そんなに待てない。それに、いよいよとなったら、俺自身が俳句を聞いてられる状態にない。今、言え」
「では、一つだけ教えて進ぜよう・・・『れもんちゃん、もっと会っときゃ、よかったな』」
「それ・・・自信作か?」
「うむ。辞世の句でござる」
「・・・『自信作』と『辞世の句』は音が似てるな」
「うむ。似てござる」
「『れもんちゃん、もっと会っときゃ、よかったな』か・・・他のも大体このレベル?」
「うむ。拙者、技巧に走ることは望まぬ。思うがままを詠ってござる。他には、『幽霊に、なっても会いたい、れもんちゃん』『幽霊に、なったら、予約が、取りにくい』」
聞いてるこっちが恥ずかしくなったが、あからさまに言えば、シン太郎左衛門の機嫌を損ねるのが目に見えていたので、「辞世の句は人目に晒してはダメなものだと、よく分かった」と婉曲に不興を伝えた。しかし、シン太郎左衛門には響かなかったようで、
「『あの世でも、思い出すのは、れもんちゃん』『れもんちゃん、お盆の予約、よろしくね』」
「もういい。もう少し楽しい話をしよう。これから、れもんちゃんに会うんだしな」
「うむ。『れもんちゃん、ふんわりふわふわ、いい匂い』『れもんちゃん、お目々ぱっちり、エロ美人』『れもんちゃんに、会うのは、いつでも、楽しみだ』」
「もう普通に喋ろう」
「いや、興が乗ってまいった。『可愛くて、みんな大好き、れもんちゃん』『れもんちゃん、メロンじゃないよ、れもんだよ』『れもんちゃんの、俳句はいくらでも、作れるよ』」
「そりゃ、そうだろ。普通に言えばいいことを、無理に五七五に押し込めようとしてるだけだ」
「『普通でない、破格の可愛さ、れもんちゃん』『れもんちゃん、ああ、れもんちゃん、れもんちゃん』・・・」
神戸駅に到着するまで、シン太郎左衛門の「俳句」は止まることがなかった。うんざりした。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。
帰りの電車に乗ると、シン太郎左衛門は「芥川賞候補」のタスキを付けて、『れもんちゃん、今日もやっぱり、宇宙一』を皮切りに、延々と『れもんちゃん俳句』を並べ立てた。それを横目に、私はこのクチコミを書いた。
家の最寄り駅で電車を降りると、凍った夜風に思わずコートの襟を掻き寄せた。シン太郎左衛門は、「木枯らしを、梅ごちとなす、れもんかな」と言ったきり、黙ってしまった。
「満足したか?」
「結局、俳句は拙者の趣味ではござらぬ」
「そうか。もう少し早く気付けばよいものを。そもそも、にわかの俳句で、宇宙一のれもんちゃんを扱うなど無謀の極みだ」
シン太郎左衛門は、「芥川賞候補」のタスキをホームのゴミ箱に投げ捨て、「れもんちゃん音頭」を口笛で吹き始めた。
ちなみに「れもん」は秋の季語である。しかし、我々には春夏秋冬、おしなべて「れもんの季節」なのである。
シン太郎左衛門と俳句 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様
ご利用日時:2024年1月16日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。前回軽く触れたロボットの話をしておく。
三が日が終わった辺り、4日だったか5日だったか覚えていないが、朝、宅配便が届いた。Aからだった(昨年12月17日のクチコミを参照のこと)。品名に「ロボット」と書いてあるのを見て、そのまま庭に投げ捨てて、朽ちるに任せたい気持ちになったが、取り敢えずリビングに持ち込んだ。
「シン太郎左衛門、またAからロボットが届いた」
「年明け早々、縁起でもないことでござる」
「今回は箱も開けずに済ますか」
「うむ。それがよかろう」
「いや。でも、なんか気になる。中身を見るだけは、見ておこう」
段ボール箱を開けると、やはり封筒があって、その下に新聞紙でくるまれた物体が潜んでいた。封筒から取り出した便箋を広げ、最初の数行を読んで、思わず「何じゃ、こりゃ」と叫んでしまった。
「父上、いかがなされました」
「これは・・・読んで聞かせてやる」
シン太郎左衛門がズボンのチャックを内側から開けて、テーブルの上にピョコンと飛び移ると、私はAからの手紙を声に出して読んだ。
あけおめだよ~ん。
ネコ型ロボット『俊之』は気に入ってくれたようだな。クラブロイヤルのHPで、お前の書いたクチコミを読んだぜ。もう少し遊んでくれたら、俊之の真の実力が分かったものを、早々に隣の金ちゃんにやってしまったようだな。
ということで、『俊之』を手放して寂しくなっただろうから、代わりにもっと素敵なお相手をプレゼントしよう。
箱入り娘型ロボット『れもんちゃん』だ!!電源を入れると、約1分で起動する。今度は大事にしてくれよな。月に最低一度は美容院に連れて行ってくれ。
怪人百面相より
追伸。俺も、実物のれもんちゃんに会いたいと思いながら、ずっと完売で予約が取れない。お前のせいでもあるんだぞ!そのうち、シバく。
「以上だ」
「父上、身バレしてござる」
「俺のクチコミなど誰も読まないと、油断していた・・・アイツには知られたくなかった」
「ピンチでござるな」
「しょうがない。Aには消えてもらおう。何が『怪人百面相』だ。俺だって、着脱式のオチン武士を自在に操る怪人だ。シン太郎左衛門、この荷札にAの住所が書いてある。お前一人でAの家に忍び込んで、隙を狙ってヤツの心臓を一刺しにしろ」
「拙者が・・・でござるか」
「そうだ。お前は武士だ。それぐらい容易いことだ」
「うむ。拙者、武士でござる」
「ちなみに、お前の剣術の流派は何だ?」
「流派とな・・・」
「柳生神影流とかあるだろ」
「大きな声では言えぬが、拙者、池坊の流れを汲む者でござる」
「池坊?・・・それはお華の流派だ」
「うむ。拙者、お華が大好きでござる。正確に言えば、振り袖を着てお華を活けるれもんちゃんが大好きでござる」
「そうか。それは、うっとりするような光景だな。れもんちゃんは、お華をするのか」
「うむ。れもんちゃんは、穴澤流でござる」
「穴澤流?それは、薙刀の流派だな」
「うむ。れもんちゃんは、薙刀の達人でござる。一振りで百人の首が飛ぶ」
「・・・それは嘘だな」
「いかにも嘘でござる」
「お前、メチャメチャだな」
「うむ。拙者、メチャメチャでござる」
「そんなこと、自慢気に言うな」
しばしの沈黙の後、「まあいい」と、私は段ボール箱から新聞紙に包まれた物体を取り出し、包装を解いた。
「見ろ。俊之と全く同じ大きさだ。同じくタダのプラスチックの箱だ。マイクとカメラとスピーカーが内蔵されているのも同じだ」
「色が違うようでござる」
「いや、箱の色は同じだ。ただ、今回のは果物のシールが沢山ペタペタ貼ってある。オレンジに桃、ブドウにキーウィ、メロンに洋ナシ、スイカもイチゴもある・・・ただレモンはない」
「うむ。悪意を感じまする。動かしまするか」
「止めておこう。変な胸騒ぎがする」
「では、金ちゃんに押し付けましょう」
「そこが悩み所だ。仮にも『れもんちゃん』と名付けられたものをあだ疎かにはできない」
「では、電源を入れてみまするか」
「いや、そんな気持ちには到底ならない」
結局、隣の家に持っていくことにした。
家を出ると、シン太郎左衛門が、「ところで、金ちゃんはこの前の『俊之』をどうしたのでござろうか」
「すっかり忘れてた。元旦に会ったとき、訊けばよかった」
呼び鈴を鳴らすと、金ちゃんのママが出た。金ちゃんは寝ているとのことだったが、緊急の用事だと言って、家に上がり込んだ。
部屋に入ると、寝起きの金ちゃんは、布団の上であぐらを組み、髪の毛はボサボサ、目はまだ半分閉じていた。
「金ちゃん・・・お前の寝起き姿がセクシー過ぎて、用件を忘れてしまった。あっ、そうだ。緊急事態だ」
金ちゃんは目を擦りながら、「はい、はい」と、あくび混じりに言うだけで、てんで真面目に聴いてない。
「落ち着いて聴け。今、お前の家が火事だ」
「そうですか・・・逃げたらいいんですか?」と、まともに取り合う様子もない。
「いや。もう手遅れだ。すっかり火の手が回ってしまった。一緒に死んでやろうと思って、来てやった」
「それはご苦労様です」
「礼は要らん。ところで、年末に上げたロボットはどうだった?」
金ちゃんは、ドテラを羽織ると、しばらく考えた挙げ句、「ああ、あれ。あれ、むっちゃ怖かったですよ」
「怖かったか?」
「ひどいもんですよ。あれ、オジさんの趣味ですか?」
「違う。『怪人百面相』と名乗る大馬鹿野郎が送り付けてきた。悪質な嫌がらせの類いだから、お前に押し付けた」
「オジさん、最低ですね」
「そうだ。俺は最低だ。で、どんなふうに怖かった?」
「電源入れて、しばらくすると、お仏壇の鐘みたいに『チーン』って音がして、その後、お経が始まりました。気持ち悪いでしょ?」
「・・・それから?」
「それから、年をとった男の声で、『はぁ・・・はぁ・・・』って、息苦しそうに、ずっと呻いてるんです」
「コワっ!」
「でしょ?怖すぎて、急いで電源を切りました」
「お寺に持っていって、お祓いしてもらったか?」
「そんな面倒くさいことしてません。まだ、そこにあります」と、金ちゃんが指差す先に、クリーム色のプラスチックの箱が転がっていた。
「お前、よくこんなものと一緒に暮らせるな」
「電源入れなきゃ、ただの箱ですからね」
「見上げた根性だ。そういう君に、はい・・・プレゼント」と、『れもんちゃん』を差し出した。
金ちゃんは、複雑な表情を浮かべ、「これ、受け取らなきゃダメですか?」
「当たり前だ。『れもんちゃん』だぞ。ありがたく受け取れ」
「そんなにありがたいものなら、なんで、僕にくれるんですか?」
「本当の『れもんちゃん』じゃないからだ。早く受け取れ」
金ちゃんは、渋々手を伸ばしながら、「オジさん、何度も訊いてるけど、れもんちゃんって、何なんですか?」
「お前なぁ、毎回毎回、同じことを言わせやがって。れもんちゃんは宇宙一だって、言ってるだろ。もちろん、それは本物のれもんちゃんの話だ。ニセモノのれもんちゃんは、この箱だ」
「全然答えになってない・・・電源入れてみます?」
「やれるもんなら、やってみろ」
「止めときます?」
「やってみろ」
金ちゃんがスイッチに指を伸ばすと、私はドアの近くまで後退りした。
「スイッチ入れますよ」
「うん」
金ちゃんの指がスイッチを押すと、箱の中からカラカラカラと音がして、ファンが回りだした。
「嫌な予感しかしない。お経とか変なのが始まったら、すぐ切れよ」
「分かりました」
約1分が過ぎた頃、箱の中から明るく軽快な音楽が聞こえてきた。
「あれ?これ、何の曲だっけ?」と言ったそばから、シン太郎左衛門が嬉しそうに曲に合わせて口笛を吹き出した。
「あ、そうだ。『とくし丸』のイントロだ・・・」
例の移動スーパーのテーマソング、その前奏部分だった。シン太郎左衛門は得意げに口笛を吹きまくっている。
前奏が終わると、一瞬の静寂。そして、華やいだ女性の声が、「れもんちゃんだよ~ん。美容院に行ったよ~ん」
その声に、金ちゃんが「うわ~、可愛い!!」と歓声を上げた一方で、シン太郎左衛門と私は、究極の仏頂面になった。
金ちゃんは、「これ、僕が大好きな声優さんの声です」
「ふ~ん。そうなんだ」
私は立ち上がって、ロボットに歩み寄ると、力一杯電源を切った。「最悪だ。れもんちゃんの声じゃない。ニセモノの名にも値しない粗悪品だ」
「じゃあ、これ、僕がもらってもいいんですか?」
「ああ、好きにしろ」
「嬉しいなぁ。れもんちゃんって、もしかして新作アニメのキャラですか?」
「うるさい。本物のれもんちゃんは、もっともっと可愛い声をしてるんだ」
プンプン怒りながら、金ちゃんの家を出ると、外は冷たい雨が降っていた。親子共々、怒りに肩が震えていた。
「あんなものが、れもんちゃんを騙るとは許せませぬな」
「Aは絶対に許さん。次にAに会ったら、道頓堀川に突き落とす」
「うむ。拙者も助太刀いたしまする」
「・・・いや、お前はいい。お前自身が誤って道頓堀川に落ちそうな気がする」
そして、今日、れもんちゃんに会った。帰りの電車の中、シン太郎左衛門は、「本日の主役」のタスキを付けて、れもんちゃんの声の可愛さについて、どんな政治家の演説よりも雄弁に語り、私は盛んに拍手を送った。
本物のれもんちゃんは、余りにも宇宙一すぎる。結局は、あんなに腹が立ったAのことも、変なロボットのことも、れもんちゃんに会った後は、全くどうでもよくなっているのであった。
シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、初詣に行く様
ご利用日時:2024年1月7日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。年も改まったことだし、新企画の一つも用意してしかるべきなのだろうが、そういうことはない。シン太郎左衛門から皆さんに「明けましておめでとうございまする」とのことである。私からも、明けましておめでとうございます。
さて、日曜日が大晦日(クラブロイヤルの休みの日)に重なるという悲劇的な状況により、約2週間、れもんちゃんに会えなかった。お蔭で年末年始は当然ちっとも盛り上がらなかったし、シン太郎左衛門はずっと調子がおかしかった。
今朝、れもんちゃんとの久しぶりの邂逅を控え、シン太郎左衛門は緊張ぎみだった。
「れもんちゃん、拙者のことを忘れてはいますまいか」
「それなりには覚えていてくれているだろう。必ずしも良い印象はないはずだが」
「うむ」
「それはさておき、今日のクチコミには、何を書こう。候補は3つある。一つ目は、年末を親戚の家で過ごした話だ」
「止めておきましょう。下らぬ話でござる」
「2番目は、Aがまたロボットを送ってきた話だ」
「あれは衝撃的でござった。でも、年の始めには相応しからぬもの。止めておきましょう」
「3番目は金ちゃんと初詣に行った話だ」
「どれもこれも情けない話でござる。父上の年末年始の下らなさが手に取るように分かりまする」
「どれか選べ」
「では、初詣」
「よし」
正月元旦。
年末を過ごした親戚の家では、夕刻近くなると、移動スーパーの車が音楽を鳴らしながらやって来る。親類たちと同じ思い出話を繰り返す不毛さを耐え忍んでいた私は、音楽が聞こえると、シン太郎左衛門に急かされて表に飛び出し、結局は何も買わないのだが、移動スーパーの後を付いて回って音楽を聴いて過ごした。
とくとくと~く、とくし丸
私にとっては単なる暇潰しでしかなかったが、シン太郎左衛門はこの曲をいたく気に入って、ラップや音頭の道を捨て、今後は「とくし丸」一本で頑張ると言い出した。多分、れもんちゃんに二週間も会えないショックで、頭のネジが数本外れてしまったのだ。
そんなことから、元旦の朝も、「春の海」の琴の調べではなく、「とくし丸」のテーマソングで始まった。
「いい加減、それ、止めてくんねぇかなぁ」と苦言を呈したが、シン太郎左衛門は無言で退け、延々と「とくし丸」を歌い続けた。こうなると、二週間も、れもんちゃんに会えない状況を作り出した私への、持って回った抗議だとしか思えなくなった。何とも気詰まりだったので、取り敢えず服を着替えて、初詣に行くことにした。
元旦のキンと冷えた空気は快く、金ちゃんも誘ってやろうと考え、隣家の呼び鈴を鳴らした。
日向を選んで待っていると、ダウンジャケットの金ちゃんが、ラッピーを連れて、出て来た。待っている間も、シン太郎左衛門は断続的に「とくし丸」のテーマソングを歌った。年が改まっても、金ちゃんはやっぱりむさ苦しく、ラッピーは颯爽としていた。
「オジさんは、どこに初詣に行くんですか」
私が神社の名前を告げると、金ちゃんは、「遠いなぁ。もっと近くにしましょうよ」
「ダメだ。ここら辺で、一番格の高い神社は、そこだからな」
私には、れもんちゃんの幸せと、れもんちゃんとこの一年も楽しく過ごせるように、という二つの切実な願い事があった。
一時間近くテクテク歩いた末、ラッピーを境外に待たせておいて、慌ただしくお詣りをした。お詣り中にも、シン太郎左衛門は「とくし丸」のテーマソングを歌っていた。神社はかなりの人の出で、学生アルバイトと思ぼしき巫女さんの姿も見られた。と、その巫女の一人が、れもんちゃんにそっくりだった。もちろん、れもんちゃんには及ばないが、それでも似ていた。次回、れもんちゃんに会ったときに話題にしようと考えて、呼び止めて、写真を撮らせてくれと頼むと、あっさり快諾してくれたが、スマホのカメラを向けると、厚かましくも金ちゃんがその隣に立ってピースサインをしているので、ムッとしたが、しょうがないので一緒に撮ってやった。
参拝者たちの人気者になっていたラッピーのリードを松の木から解いて、二人は帰途に着いた。清々しい初春の空の下、鳥居の朱色が眩しかった。
帰り道、シン太郎左衛門は、折々「とくし丸」のテーマソングを歌っていたし、金ちゃんは写真を送れと、うるさく言ってきた。
「ダメだ。お前は変なことをするからな。ヌード写真と合成して、オッパイを大きくしたり、小さくしたり、恥ずべき行為をしかねない」
「そんなこと、絶対にしませんよ」
「いや、れもんちゃんを冒涜するのは許さん」
「・・・れもんちゃん?オジさんが頻繁に口にする『れもんちゃん』って、今の巫女さんなんですか」
「違う。れもんちゃんは、今、れもん星に帰省中だ」
「オジさん・・・酔っ払ってます?」
「違う。お前の知らない世界があるんだ」
神社の近くに一軒小洒落た喫茶店が開いていた。朝飯を食べていなかったので、金ちゃんを誘って入った。席に座ると、金ちゃんは相変わらず写真を送れと煩かったし、シン太郎左衛門が「拙者も見たい」と口を挟んできた。
「こんな所で見せられるか。家まで我慢しろ」と普通に声に出して言ってしまって、金ちゃんに怪訝な顔をされた。
「オジさん、それ、どういう意味ですか?」
窓の外、街路樹に繋がれたラッピーが大人しく待っている。
「特に意味はない」
と、注文を取りにきた女の子を見て、思わず立ち上がりそうになった。またしても、れもんちゃんソックリだった。
「僕は、ミートソースとホットココアとフルーツパフェで」と金ちゃんが注文している間、ウェイトレスの顔をまじまじと見詰めてしまった。
「ナポリタンとホットコーヒー」と言った私の声は微かに震えていた。彼女が立ち去ると、思わず「どういうことだ?次から次から、れもんちゃんだ」
「また、れもんちゃんですか?オジさん、『れもんちゃん』って、結局、誰なんですか?」
「れもんちゃんは、一言で言えば宇宙一だ」
「・・・分かんない」
「分からんで結構。お前は、しばらく外で凧でも上げてこい」
「凧なんて持ってきてないし。それより、さっきの写真、送ってくださいよ」
「拙者も見たい」
「分かった。金ちゃんには、今送ってやる。シン太郎左衛門は黙っとけ」
「シン太郎左衛門?また変なのが出てきた・・・オジさん、ホント大丈夫ですか?」
その言葉を無視して、そしてシン太郎左衛門がまたしても「とくし丸」を歌い出したことに辟易しながら、スマホを取り出し、先刻撮った写真を金ちゃんのLINEに送ろうとしたとき、愕然とした。巫女姿の女の子は、れもんちゃんに一つも似ていなかった。可愛らしい娘には違いないが、全くの別物だった。しかし、考えたら当たり前のことで、れもんちゃんは唯一無二だから、れもんちゃん以外の誰も、れもんちゃんに似ている訳がないのだ。
「分かったぞ。これが、有名な『れもんちゃん禁断症状』だ。しばらく、れもんちゃんと会えない状態が続くと、誰彼見境なく、れもんちゃんに見えてくるのだ」
「それは、羨ましい話でござる」
「羨まれる理由がない。お前はずっと『とくし丸』の歌を歌い続けて責め苛むし、気が狂いそうだ」
「やっと反省されたか」
「反省した」
「では許して遣わそう」
レジで支払いをするとき、女の子の顔をまじまじ見たが、結局れもんちゃんには全く似ていなかった。
金ちゃんが出てくるクチコミと言えば、これまで宇宙空母が付き物だったが、元旦の空に宇宙空母は現れなかった。ただ、とても青い空だった。
そして、今日、れもんちゃんに会った。やはり、れもんちゃんは、今年も当然のごとく宇宙一だった。
帰り道、シン太郎左衛門もご機嫌で、朗々と「れもんちゃん音頭」を歌っていた。
やはり週に一度は、れもんちゃんに会わないと親子共々具合が悪いと、改めて悟った次第である。
シン太郎左衛門、初詣に行く様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の戦国バトルラップ(クリスマス・バージョン)様
ご利用日時:2023年12月24日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。年末も押し迫ってきた。年内最後のシン太郎左衛門シリーズだが、特に頑張って書こうとか、そんな気持ちはサラサラない。
今日、日曜日、年内最後のれもんちゃんの日である。クリスマス・イヴでもあるが、私にとってクリスマス自体は特別な日ではない。
朝、目が覚めると、シン太郎左衛門も同時に目を覚まし、「父上、クリスマスでござるな」
「今日はイヴだ」
「では、恒例のラップバトルを致しましょう」
「毎年やってるような感じで言うな。ラップバトルなんて、やったこともない。嫌だ。どんなモノだか、ぼんやりとしかイメージできないが、トゲトゲしい言葉のやり取りは俺の趣味ではない」
「いやいや。拙者が望むのは、互いを貶し合うことではなく、れもんちゃんの素晴らしさをワイワイ楽しく讃えるタイプのラップバトルでござる」
「平和的なヤツ?」
「うむ。勝った負けたは重要ではござらぬ。れもんちゃんの素晴らしさをどれだけ伝えられるかを競いまする。審査員は拙者が務めまする」
「では、俺に勝ち目はない」
「勝ち負けは二の次でござる。スパイス程度に相手をディスりまする。負けた方は、今日を最後に、れもんちゃんファンを辞めねばならぬ」
「そんなもの、死んでもやらない」
「では、始めまする」
「おい、人の話を聴け」
シン太郎左衛門は勝手に歌い出した。
ヨー、ヨー、ヨー、ヨー
お前の言葉は空っぽ過ぎるぜ
黙ってオイラのラップを聴きな
血の雨浴びて、鍛えたスピリット
リアルな武士の命の叫び
ヨー、時は天正十二年
佐々成政、大軍率いて
加賀の国へと攻め入れり・・・
私は布団にくるまったまま、黙って聴いていた。シン太郎左衛門は布団の中で約15分語り続けた。語り終えると、「父上の番でござる」と促されたが、それでも黙っていた。
「いかがなされた。父上の番でござる」
「特に言うべきことがない。割と楽しく聴かせてもらった」
「それだけでござるか」
「それだけだ」
「負けを認めまするか」
布団からモソモソ起き上がって、洗面所に向かいながら、「いや。勝ちも負けもない。ラップバトルになってない」
「なんと。ラップバトルでないと」
「そうだ。まずジャンルが違う」
「ジャンルとな」
歯を磨きながら、「お前が語ったのは、冒頭のごく僅かな部分を除いて、ラップではない。世の中で一般的に『講談』と呼ばれているものに近い」
「うむ。では、講談バトルと致しましょう」
「いや、正確に言えば、講談とも呼べない。戦国時代を舞台にしたバトル・ファンタジーだ。まず、主人公の戦国武将れもん姫の出で立ちが可愛すぎる」
「れもんちゃんがモデルだから可愛いのが当然でござる」
「真田幸村ばりの真っ赤な甲冑だが、兜に付いているのは鹿の角でない。トナカイの角だ。小さな身体のれもん姫が、トナカイの角の付いた兜を被ってピョコピョコと登場し、『ヤッちゃうよ~ん』と言ったときに、全身の力が抜けた」
「トナカイの兜は、クリスマスシーズン限定のサービス・アイテムでござる」
台所でコーヒーの湯を沸かしながら、
「分かってる。旗指物には、六文銭とか風林火山ではなく、輪切りのレモンと『美容院に行ったよ~ん』の文字が染め抜かれている」
「それは誰もがひれ伏すれもん姫のトレードマーク。オールシーズンでござる」「だろうな。最初の、末森城の戦いぐらいまでは、それなりに講談らしかったが、れもん姫の登場で全てが一変した。れもん姫が『スターウォーズ』のライトセーバーみたいな剣、光丸を振り回して、視界を埋め尽くした数千の敵兵を撫で斬りにしたり、『マトリックス』みたいに海老反りで火縄銃の弾を交わしたり、挙げ句の果てに宇宙空母で敵の城を次々と木っ端微塵にしたり、やりたい放題だった」
「うむ、れもんちゃんの凄さ、可愛さはチート級でござる。福原の歴史を大きく塗り替えてござる」
「それはそうだ。その点には同意する。ただ、この話は福原の歴史でなく、日本の歴史を変えている。この流れで行くと、徳川幕府は誕生しない。それに、れもん姫の忠実な家来の名前は、シン太郎左衛門だったな」
「うむ。拙者がモデルでござる」
「当然そうだろう。そのまんまだ。コイツは、割と忙しそうにしているが、ロクなことをしていない。れもん姫が長さ七間、12メートル超のライトセーバーを振り回している横で、クリスマス・リースを作ったり、七面鳥を焼いたりして、敵味方の区別なく、せっせと皆に配ってる」
「これもクリスマス限定サービスでござる」
「まともにディスられたら、多少は応酬をする気になったかもしれないが、こんな話では目くじらを立てる理由がない。少し気になったのは、俺をモデルにした登場人物がいなかったことぐらいだ」
「あっ、それを言うのを忘れてござった。戦場で拙者が踏んだ馬の糞のモデルが父上でござる」
コーヒーを淹れながら、「ああ、そういうことか・・・何でこんな頻繁に馬糞が話に出てきて、一々お前が掃除して回るのか不思議に思っていた」
「そこに反撃してくだされ」
「今更そんな気持ちにはなれん」
「うむ。つまり、ラップでもバトルでもない、変なものであったということでござるな」
「そういうことだ」
「拙者、もう少し勉強致しまする」
「そうしてくれ。ただ、れもんちゃんへの想いは伝わった」
シン太郎左衛門は大きく頷いた。
そして、れもんちゃんに会ってきた。世間には冷たい風が吹いていても、れもんちゃんは激アツだった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門が言った。
「れもんちゃんは、やっぱり宇宙一でござる」
「当然だ。シン太郎左衛門シリーズのメッセージは、結局その一言に尽きる。残りはオマケだ。ない方がいいくらいだ」
「うむ。今年も、れもんちゃんのお蔭で、よい年でござった」
「れもんちゃんがいれば、来年もよい年になる」
「間違いござらぬ」
車窓から見る山には雪が降っているのかもしれない。それでも、我々親子の気持ちはポカポカと浮き立っていた。
皆さん、よいお年を。
シン太郎左衛門の戦国バトルラップ(クリスマス・バージョン)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と猫型ロボット『俊之』様
ご利用日時:2023年12月17日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。シン太郎左衛門は、「れもんちゃんが、この世にいれば、オカズがなくてもご飯が食べれる」と公言する、生粋の絶対れもん主義者である。一方、私はオカズがなくては、どうしてもご飯が食べられないタイプの絶対れもん主義者である。
日曜日は、れもんちゃんに会う日だ。だから、終日れもんちゃんだけに集中していたいのだが、そうも言っていられないことがある。宅急便が届いた。学生時代の友人からの荷物だった。
そいつの名前をAとしておく。一昨日、金曜日の夜、Aを含む学生時代の友人何人かで久しぶりに梅田で食事をした。その後、帰宅の方向が同じだったので、Aと二人でもう一軒バーに寄った。同学年ではあったが、Aは私より年上で、今は退職してゴロゴロしているらしい。学生の頃から、かなり無口な上に、稀に発言すると、9割がた意味不明だった。飲みながら彼と何を話したか、全く記憶にないが、別れ際、「俺、最近ロボット、作ったんだ。1個送ってやるよ」と言われたことだけは覚えている。
ということで、この荷物の中身は、ロボットに違いなかった。ロボットなんて全く興味がなかったが、数ヶ月後、何かの拍子でAと偶然に出会って感想を訊かれたとき、「まだ箱も開けてない」とは答えにくい。それに、箱はやけに軽くて、荷札を見ると、中身は「食品(ポテトチップス)」と書いてあった。どんなものが入っているか、見るだけは、見ておこう、と思った。
リビングに戻り、テーブルの上に箱を置くと、「シン太郎左衛門、我が家にロボットが来た」
シン太郎左衛門は勝手にズボンのチャックを開けて、モゾモゾと顔を出し、
「また下らん買い物をされましたな。父上には使いこなせますまい」
「買ったんじゃない。古くからの友人が送ってきた」
段ボール箱を開けると、丸めた新聞紙を緩衝材にして、8cm×8cm×4cm程のプラスチックの箱が入っていた。これがロボットなのか?と、頭の上が疑問符だらけになった。封筒が同梱されており、中に折り畳まれた便箋が入っていた。広げて読み上げた。
「これは、猫型ロボットの『俊之』です。スイッチを入れると、約1分で動作可能となります。末永くご愛用ください・・・ということだ」
「『俊之』?」
「トシユキは、あいつの弟の名前だ。あいつの学生時代のチャリンコも、俊之と呼ばれていた。よく盗まれたが、何故か翌日には元の置き場で見つかった。実は『俊之』には複数の持ち主がいるのではないかと噂されていた。それぐらい頻繁に、当たり前のように行方不明になっては、また出てくる不思議な自転車だった。ちなみに、Aの母親の名は『和子』だ。あいつの下宿の炊飯器は、カズコと呼ばれていた」
猫型ロボットとされている小箱を段ボールから取り出して、少し眺めた後、テーブルの上に置いた。
シン太郎左衛門も不思議そうな顔で、「なるほど・・・しかし、自転車や炊飯器の話はさておき、これが、ロボットでござるか」
「そうらしい」
「とても猫には見えぬ」
「うん。確かに猫型と呼ぶ理由は分からない。普通に四角い、クリーム色のプラスチックの箱だ。マイクとスピーカーとカメラが内蔵されているようだ」
「こやつ、何が出来まするか」
「分からん。さっき読んで聞かせたのが、説明の全てだ」
「料理は出来まするか」
「出来ないだろうな。自分が燃えてしまうと思う」
「買い物を頼めまするか」
「この形では、自分でスーパーまで出掛けていくことはあるまい。ネットで注文することは出来るかもしれないが、頼んでもいないモノが沢山届けられて、慌てるのは嫌だ」
「クチコミを書かせましょう」
「それもダメだろうな。この前、最新AIに試しに書かせてみたが、ちっとも面白くなかった。こいつは、更に期待薄だ」
シン太郎左衛門は、少しイライラした様子で、「こやつ、結局、何が出来まするか」
「分からん。取り敢えず電源を入れてみよう」
電源プラグをソケットに差して、スイッチを入れると、カラカラカラっと小さな音がして、ファンが回り始めた。約1分の沈黙の後、軽やかなチャイムの音楽が鳴り、それに続いて、若い女性の爽やかな声で、「お風呂が沸きました」
「父上・・・風呂が沸いてござる」
「風呂など頼んだ覚えはない。シン太郎左衛門、トシユキに話し掛けてみろ。ちょっとした受け答えぐらいはするだろう」
「うむ。では、やってみまする」
シン太郎左衛門はグッと身を乗り出して
「初めてお目にかかりまする。拙者、シン太郎左衛門と申す。当代きっての絶対れもん主義者でござる」
すると、割れてかすれた男性の声が「あん?なんだって?」と無愛想に怒鳴ってきた。
「なんと・・・これまた横柄な口をきくヤツでござる」
「・・・さっきは若い女性だったのに、いきなり年配男性になった。いかにも育ちの悪そうなヤツだ。シン太郎左衛門、怯まず話し続けろ」
「うむ・・・お寛ぎのところ、恐縮でござる。拙者、富士山シン太郎左衛門でござる」
「え?なに?誰が死んだって?」
「誰も死んではおらぬ。みな、恙無く過ごしてござる」
「何言ってるか、全然分かんねぇ」
「・・・父上、こやつ、清々しいほど好かんヤツでござる。話にならぬ」
「う~ん、確かにそうだが、根気強く話せば、マトモになるかも知れない」
「拙者は、もうよい。父上が試されよ」
「よし、俺がやってみよう・・・まず、こういうときは挨拶だ。挨拶をしよう。トシユキ、おはよう」
「・・・はい、おはよう」
「おっ、ほら見ろ」
「挨拶ができましたな」
「こうやって少しずつ学んでいくのだ。よし・・・トシユキ、れもんちゃんを知ってるか?れもんちゃんは、素晴らしいぞ。驚くほどの美人だぞ」
「あ?モモンガ?モモンガが、どうしたって?」
「無礼者!誰がモモンガの話をした?ブッ潰すぞ」
「父上、落ち着いてくだされ」
「ダメだ、こりゃ。こいつ、まるでなってない」
「うむ。フザケ切ってござる」
「こういうヤツに関わると、れもんちゃんの素晴らしさが一段と際立つ」
「れもんちゃんは崇高なまでに気立てのよい娘でござる。『れもんちゃん』という名前からして愛嬌満点でござる。トシユキと比べるなど、畏れ多い」
「ホントだよ・・・こいつ、金ちゃんに上げてしまおう」
「それがよい。金ちゃんの部屋は、元々ガラクタが一杯でござる」
「金ちゃんは、見た目はニートだが、実はそれなりのエンジニアらしい。トシユキの始末は、金ちゃんに任せたよう。煮るなり、焼くなり、油で揚げるなり、好きにしてもらおう」
「うむ」
「メッセージは少し変えておこう。金ちゃんも、いきなり『俊之』と言われたら面食らうだろうからな」
朝刊のチラシの裏面にフェルトペンで、「オチン型ロボット『シン太郎左衛門』見参!電源を入れて約1分で準備完了。あなたは、シン太郎左衛門と力を合わせ、絶世の美女『れもんちゃん』を、魔人トシユキの手から救い出せるか?最終決戦の地、ひらかたパークで待ってるよ~ん」と書いて、畳んで封筒に入れた。
「父上の学生時代の友達には、ロクなのがおらぬ」
「うん。揃いも揃って社会不適合者だ。れもんちゃんには、あいつらの話は絶対に出来ん。俺まで同類だと思われては困るからな」
シン太郎左衛門は黙り込んだ。
神戸に向けて家を出ると、まず隣家の呼び鈴を鳴らして、玄関に出て来た金ちゃんに「メリークリスマス。はい、プレゼントのポテトチップス」と、Aから送られてきたロボットを、修正したメモとともに押し付けた。
そして、れもんちゃんに会ってきた。宇宙一のれもんちゃんは、今日もギンギラギンに輝いていた。れもんちゃんは人類の希望の星であり、れもんちゃんの笑顔を見た瞬間に、俊之の事など、跡形もなく忘れ去ってしまっていた。
あの後、金ちゃんに何が起こったか、私は知らない。
シン太郎左衛門と猫型ロボット『俊之』様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん警報』と王さんのレシピと金ちゃん様
ご利用日時:2023年12月10日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ、武士道ではなく、れもん道に邁進し、座右の銘は「れもん一筋」らしい。こうなると、もう武士にこだわる理由が分からない。
先週の某日の朝、体調がすぐれなかったので、職場に電話で断りを入れて休みをとった。昼まで寝床でゴロゴロしていると、体調は微かに持ち直してきた。
そろそろ起きて、朝食兼昼食、場合によっては夕飯も兼ねたものを食べよう、そして、熱があるのか無いのか、何が体調不良の原因だか分からないが葛根湯を飲んで、水分補給をして明日の朝まで眠り続けよう、そうボンヤリ考えていると、シン太郎左衛門が突然「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と電子音めいた音を発し始めた。知っている人は知っている(もちろん、知らない人は知らない)、シン太郎左衛門の「絶対れもん主義宣言」のイントロだった。
体調が悪いのに、キツいのが始まったなぁと思いつつ、「止めろ」と言う元気もないので、放っておいた。「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」を4回繰り返した後、「美容院に行ったよ~ん」と歌が始まるはずなのだが、5回でも6回でも「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」が繰り返され、段々ピッチが早くなっていくようだ。
いよいよ耐えられなくなって、「おい、シン太郎左衛門、それ止めてくれ・・・いつ歌が始まるかという不安も手伝って、精神が蝕まれていく」
「うむ?歌とは何のことでござるか」
「今、お前がやってるヤツだ」
知っている人には知っての通り、シン太郎左衛門は歌いながら太鼓の音を口真似するなど、同時に複数の音を口から発することができる。「これは、歌ではござらぬ」と言いながら、並行して引き続き「ビ!ビビビ!!ビ!ビビビ!!」と益々ピッチを上げて甲高い電子音まがいの音を立てていた。
「これは『れもんちゃん警報』。れもんちゃんの接近を知らせてござる」
「無礼者め!れもんちゃんを台風や津波のように言うな」
「それより、父上、大事なことを言い忘れてござった」
「どうした?」
「れもんちゃんが近づいてござる」
「今さっき聞いた。だから『ビビビビ』言ってるって、たった今、お前自身が言ったじゃないか」
「うむ。父上、大変なことでござるな」
「・・・何が?会話が全く噛み合ってない。まずその『ビビビビ』を止めてくれ」
「『れもんちゃん警報』は、その重要性ゆえ、タマタマを捻って音量を変えたり、エコーをかけたりは出来ぬ。今、南西方向約1800メートル、高度2000メートルの位置に『宇宙空母れもんちゃん号』が飛行してござる」
「どうして、お前に、そんなことが分かる?何の音もしないし、震動もないのに」
「そこが、父上のような口先だけの人間と、拙者のような真の求道者、絶対れもん主義者(黒帯)の違いでござる」
「失礼のことを言うな!」
その瞬間、「び・・・び・・び・・・」と『れもんちゃん警報』が止んだ。
「どうした?」
「宇宙空母が突然飛び去ってござる。おそらく、れもんちゃん、コックピットで『いやん、美容院の予約時間を勘違いしてた。遅刻しちゃう。ワープするよ~ん』と奥の手を使ったのでござろう」
「そうか。普段、れもんちゃんに、時間にルーズな印象を受けたことはないけど、プライベートでは結構やらかすタイプなのかもしれん」
「何をグダグダと言っておられる。警報が鳴ってすぐに外に出れば、れもんちゃんの宇宙空母が見れたのに、父上がウスノロだから見れなかった」
「しょうがない。元気だったら見に出たさ。今日は体調不良で仕事を休んだのだ」
「そうでござったか。どこが悪いのでござるか」
「分からん。昨日、悪いモノでも食ったのかなぁ・・・」
「父上が悪いモノを食ったかは知らぬが、良いモノを食っていないのは間違いござらぬ。最近食したマトモなものは、三日前の夜に駅前の中華屋さんで食べた麻婆茄子定食ぐらいでござる」
「ホントだ。思えば、昨日は、ほとんど何も食べなかった。夜、帰って来て、冷蔵庫を開けたら、何もなかったから水を飲んで寝た・・・つまり俺は今、栄養失調なのか?」
「おそらく、そうでござる」
「もう一眠りしてたら、そのまま死んでたかもしれない。大雑把すぎる性格のせいで、危うく命を落とすところだった。とにかく何か食べよう」
「でも、冷蔵庫には何もござらぬ。駅前まで歩けまするか」
「歩けないね。でも、大丈夫」
外はいい天気だった。隣家の呼び鈴を鳴らすと、インターホンに金ちゃんが出た。
「オジさん、今日、お休みだったんですか?よかった。助かった」とか言っている。
どういう意味で助かるのか分からなかったが、「さっき俺の家で警報が鳴り続けていた。お前の身に何かあったのではないかと心配になって見に来てやった。5秒以内に玄関のドアを開けろ。何はともあれ飯を作ってやる。俺も一緒に食べる」
「ああ、助かった。ホントに、ありがとうございます」
こんなに感謝されるとは全く予想外だった。
聞けば、こんな事情だった。仕事の納期が迫っていて、金ちゃん、この数日ほぼ不眠不休だったらしい。今朝ようやくプログラムを仕上げて納品を終え、緊張感から解き放たれた途端、金ちゃんは自分が死ぬほど疲れていて、死ぬほどお腹が空いていることを発見したが、両親は朝から外出していて、誰も助けにならない状況にパニックになっていたらしい。
「疲労感がひどくて、全身寒気がするし、空腹で立ってることもできないほどだったのに、オジさんの声を聞いたら、不思議と元気が出ました」
「よかったな。とにかく今は飯だ」
金ちゃんと私は、玄関からダイニングまでお互いを抱きかかえ合うように千鳥足で廊下を歩いた。
「ご飯は炊けてますよ」と、金ちゃん。
「いや。今の俺たちに必要なのは、ふりかけご飯ではない。栄養バランスの取れた、ちゃんとした食事だ」
「はい」
「反省しろ」
「はい。反省します」
「反省したら、ダイニングの椅子に座って、石川さゆりの『天城越え』を歌って、大人しく待っておけ」
「その歌、知らないんですけど」
「なに?石川さゆりを知らんのか」
「石川さゆりは知ってます」
「美人だ」
「はい」
「でも、れもんちゃんほどではない」
「・・・れもんちゃんって誰ですか?」
「とっても偉い人だ。得意技は『レモンスカッシュ』ほか数え切れない」
「全然分かんないです。得意技って、れもんちゃんは、プロレスラーなんですか?」
私は冷蔵庫を開けて食材の確認に忙しかった。
「違う。れもんちゃんは、プロレスラーではない。人生そのものだ」
「・・・全然分からない・・・オジさん、熱でもあるんですか?」
「腹が減ってるだけだ。お前は黙って座っておけ」
私は、食材に続いて、調味料のラインナップのチェックを済ますと、声高らかに宣言した。「メニューが決まった。王さんの幸せ酢豚と王さんのニコニコ五目チャーハン、そして王さんのふんわり玉子スープ、デザートには市販の杏仁豆腐だ」
「王さんって誰ですか?」
「何も知らないヤツだな。お前、まさか俺の正体が王さんではないかと疑っているのか?」
「そんなこと、思ってませんよ。オジさんちの表札は頻繁に見てるし」
「そうだ。俺は、王さんではない。『王さんの中華レシピ』は、若い頃、日本中で単身赴任を繰り返していた時代の、俺の愛読書だ。全文暗記している。毎日欠かさず、王さんのお世話になった。筆者近影によれば、大変陽気そうな五十絡みの中国人だった。当人には一度も会ったことがなく、今どこで何をしているか、生死を含めて俺は知らない。以上が、俺が持っている王さん情報の全てだ。満足したか?」
「はい」
「では、黙って、石川さゆりの『天城越え』を歌っとけ」
金ちゃんは、小声で「だから、知らないって・・・大体『黙って歌っとけ』って、どういうことだよ」と文句を言っていたが、彼はもう私の眼中になかった。
炎を上げて、一気呵成に調理した。
「うわぁ~、凄い美味そうな匂いだ」と金ちゃんは感動の声を上げた。
「確かに、いい匂いだが、れもんちゃんの甘い薫りには勝てない。れもんちゃんの薫りは、人を幸福の絶頂に誘うのだ」
「れもんちゃんって、一体誰なんですか?」
「今、その話はできない。王さんのニコニコ五目チャーハンが、真っ黒焦げ焦げチャーハンになってもいいなら、話してやる」
「じゃあ後でいいです」
「よし出来た。まず玉子スープだ」
「ああ凄い!!」
金ちゃんは、満面の笑みで箸をとった。
「続いて酢豚だ」
「うわぁ、感動するなぁ」
金ちゃんは、感動で目を潤ませた。
「そして、チャーハンだ」
「いやぁ、完璧だ」
感涙が金ちゃんの頬を伝った。
「さあ食え。そして、この世に完璧なのは、れもんちゃんだけで、れもんちゃん以上の感動はない。よく覚えておけ」
我ながら大変上出来で、食べながら、幸福感に満たされていった。少し作り過ぎたと思ったが、そんなこともなかった。
「いやぁ、オジさん、何で、プロの料理人にならなかったんですか?」という金ちゃんの言葉は全くお世辞に聞こえなかった。
「毎回、これだけのものが作れるなら、料理人になっていたかもしれん。実際には、毎回、味が一定しない。そもそも俺のウチのコンロの火力では中華は無理だ。期せずして、今回、生涯最高の出来を実現してしまったのだ」
「本当に美味しかった。ご馳走様でした。お蔭で生き返りました」
「俺には感謝しなくていい。食材を買い揃えておいてくれた、お前のお母さんに感謝しろ。お前の家の、火力の強いコンロにも感謝しろ。レシピを考えた王さんにもな。そして、当然れもんちゃんにもだ」
「結局、れもんちゃんって誰なんですか?」
「れもんちゃんというのはだな・・・」と話し始めたとき、股間で「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と、シン太郎左衛門が警報を発し始めた。
私は椅子から立ち上がり、「あっ、大変だ!『れもんちゃん警報』だ」
「『れもんちゃん警報』?何ですか、それ?」
「説明している暇はない。悪いが、皿洗いは、お前に任せた。さらばだ。あっ、後で気が向いたら、ラッピーたちを散歩させてやる」
私は一目散に表に飛び出した。
「シン太郎左衛門、空母はどっちだ?」
シン太郎左衛門は、ズボンのチャックを勝手に開けて、周囲をキョロキョロ見回しながら、「それが、今回ばかりは皆目見当が付きませぬ。近付いているのは、確実でござる」
抜けるような青空には清々しい風が吹いているばかり。通りには誰一人いない。
「厄介だな。取り敢えず、丘の上に登ろう」
丘の上の公園まで小走りで急ぐと、眼下の風景を見渡したが、空母は影も形もなかった。しかし、シン太郎左衛門は、いよいよ激しく「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と『れもんちゃん警報』を繰り返している。
「シン太郎左衛門、どういうことだ?あんな馬鹿デカいもの、見逃すはずがない」
「うむ、ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!拙者にも分からぬ」と言った直後、
美容院に行ったよ~ん
宇宙空母で行ったよ~ん
と歌が始まった。
「シン太郎左衛門、歌が始まったぞ」
「れもんちゃんの登場でござる」
そのとき、背後の山が競り上がって、覆い被さって来るような異様な感覚に襲われた。頭上に顔を向け、喉チンコをお日様に晒しながら、「あっ、れもんちゃんだ」と呟いた次の瞬間から、地上は巨大な影に包まれていった。背後の山脈から姿を現した巨大な空母は、我々の頭上を静かに通過していった。
「やっぱり、れもんちゃんは凄いなぁ」
「れもん星の美容院からお帰りでござる」
「宇宙海賊の討伐を兼ねて、美しさに磨きを掛けてきた訳だ」
「れもんちゃんは、いろんな意味で宇宙一でござる」
「ホントに破格だ。スケールが大きすぎる」
トボトボと坂道を下りながら、
「れもんちゃんに会った後は、爽快なまでに茫然自失となりまするなぁ」
「ほんとだよ。嵐のような女の子だ」
「このまま帰られまするか」
「いや。スーパーに買い出しに行く。こんな風に人の家のモノを使って、只飯を食わせてもらっていては、れもんちゃんファンの名折れだからな」
「うむ」
「買い出し、楽しみでござる」
「今日からは、毎日、栄養のあるものを食べて、元気になることに決めた。れもん道の第一歩は食事だ」
「うむ。間違いない」
そして、今日、れもんちゃんに会ってきた。やっぱり、れもんちゃんは、宇宙一も、いいところだった。
ところで、金ちゃんは、未だに、れもんちゃんが誰なのかを知らない。教えてやる気は全くない。
シン太郎左衛門と『れもんちゃん警報』と王さんのレシピと金ちゃん様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と毛糸のパンツ様
ご利用日時:2023年12月3日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。「シン太郎左衛門」シリーズが、今回で何度目か、れもんちゃんの「お客様の声」をスクロールして数えようとしたが、途中で面倒臭くなって止めた。よく、まあ、こんなに書いたものだ、と我ながら呆れた。
今朝、ネット通販で買ったパンツが届いた。
「あったか毛糸パンツ(手編み風)」。箱から出すと、目の高さまで掲げて、表裏ひっくり返してみたり、様々な角度から眺めた。眩しいほどのレモンイエローだった。
「シン太郎左衛門、パンツを買ったぞ」
「なんと。拙者に何の相談もなかった」
「お前の意見を訊けば、話がややこしくなるからな」
「また、動物のプリント柄でござるか」
「違う。内側からズボンのチャックを開けて出てこい」
シン太郎左衛門がモゾモゾと顔を出した。
「ほら、これだ。あったかパンツ」
「・・・父上が、これを履くのでござるか」
「うん。最近、すっかり寒くなった。お前へのプレゼントだ」
「・・・嬉しくない」
「お前の大好きな色だ」
「拙者が大好きなのは、れもんちゃんであって、レモンイエローの毛糸のパンツを履いたオヤジはむしろ大の苦手でござる」
「まあ待て。履き心地を試してみよう」
毛糸のパンツは、想像以上に心地よい肌触りだった。
「どうだ?」
「フワフワでござる」
「肌触り、よくないか?」
「よい。フワフワ~。フワフワは、れもんちゃんでござる」
「ヌクヌクしてるだろ?」
「ヌクヌクしてござる。ヌクヌク~は、れもんちゃんでござる」
「どうだ、あったか毛糸パンツは?」
「あったか毛糸パンツは、れもんちゃんでござる」
「無礼者!『れもんちゃん』を普通名詞のように使うな」
「いや、それだけ、このあったか毛糸パンツ、気に入ってござる。これはよい。早速れもんちゃんに自慢しに行きましょうぞ」
「よし。少し早いが出掛けるか」
と、立ち上がって、リビングの飾り棚のガラスに映った自分の姿を見て、背筋が凍った。
「シン太郎左衛門、ダメだ。これはさすがに、れもんちゃんに見せられるものではない。『似合わないにも程がある』のレベルを遥かに越えている」と、毛糸パンツを脱いだ。
「うむ。フワフワ、ヌクヌクでは、ござるが、これを着こなせる成人男性は、日本には存在せぬ」
「『人気色』と書いてあったし、れもんちゃんに因む色だから、迷わず買ってしまったが、これは凄まじく不恰好だ」
「絶対れもん主義者が陥りがちな罠でござる」
「そうか・・・まあ、家で履けばいいから、いいや」
「おそらく、そのセリフ、多くの絶対れもん主義者が口にしたものでござる。ただ、拙者は、この毛糸パンツが気に入ってござる。ステキなプレゼントでござる」
「喜んでもらえれば、何よりだ」
「うむ。ちなみに、今回は31回目でござる」
「何が?」
「シン太郎左衛門シリーズ」
「そうか。お前、記憶してたか」
「違いまする。初回が5月7日、以降の日曜日の数ぐらい、軽く暗算できまする」
「そうか。俺は、クチコミを一つずつ数えようとしてた」
「父上は実にドンくさい」
「まあ、そう言うな。そうか、31回目か・・・いろんなことがあったが、これからも仲良く頑張ろうな」
「いや。拙者、最近とみに父上との音楽性の違いを感じてござる。年内には、独立して、ソロデビューを致す所存」
「独立して何するの?」
「メタル」
「メタル?」
「武士メタル。れもんちゃんへの、ちょっと切ない武士の想いをデスボイスに乗せて歌う」
「そうか、武士メタルか。今日、二度目に背筋がゾッとした。一緒に音楽をやってきた覚えはないが、確かに武士メタルは俺が許容できるジャンルではない。ぜひ独立してほしい。ちなみに、クチコミは?」
「そちらは、今まで通りで願いたい」
「そうか」
こいつ、本当に馬鹿だ、と思ったが、口には出さなかった。結局、親子揃って大馬鹿者だった。
何はともあれ、れもんちゃんは、今日も宇宙一だった。シン太郎左衛門も私も、絶対れもん主義の信念をさらに強固なものとした。
今日の感動を抑えられず、シン太郎左衛門が、帰りの電車で、前触れなく武士メタルを始めた。シン太郎左衛門のデスボイスは見事に様になっていたが、気味の悪い声で、「うお~っ」と雄叫びをあげて、「可愛い、可愛い、れもんちゃん」とやられると、今日三回目に背筋が凍り、総髪が逆立った。周りの乗客も一斉に顔をしかめた。武士メタルに限っては、音漏れするらしい。慌てて、シン太郎左衛門に止めさせた。
シン太郎左衛門と毛糸のパンツ様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、れもん星で缶バッジを買う様
ご利用日時:2023年11月26日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士を自称している。ただ、武士の基本用語、例えば月代という言葉を知らなかったりする。疑えばキリがない。
今朝、シン太郎左衛門の喚き散らす声で目を覚ました。「無礼者!」とか怒鳴っている。布団を捲って、「何の騒ぎだ」と言うと、シン太郎左衛門、はっと目を見開き、
「あっ、夢を見てござった」
「俺も夢を見ていた。お前の声に起こされた」
「拙者、れもん星に観光に行ってござった」
「俺もだ。お土産物屋で買い物をしている最中だった」
「拙者もでござる」
「それなら同じフライトに乗っていたに違いない。俺が見たれもん星の風景は関西国際空港にそっくりだった」
「拙者が着いたのは、港でござる。海が見え、小型のフェリーが停泊してござった」
「巨大な空母は泊まってなかった?」
「空母が入れるような港ではござらぬ。ごく小さな港でごさった。人影疎らな、哀愁が漂う景色、まるで『津軽海峡冬景色』でござった」
「それ、本当に、れもん星か?」
「れもん星に間違いござらぬ。閉まっておったが、『れもん星観光案内所』という看板を上げ、45度傾いた、崩れかけの建物がござった。その隣に鄙びた土産物屋が、店を開けてござった故、立ち寄ってみると、クラブロイヤルの入り口でいつも愛想よく出迎えてくれるスタッフさんとそっくりな人が『れもんちゃんグッズ、いかがですか』と声を掛けてきた」
「おお、それは入るしかないな」
「うむ。当然、入店してござる。すると、店内には陳列棚の一つもなく、ガシャポンが1台置いてあるばかり。『れもんちゃん缶バッジ』と手書きしてござる」
「それはステキだ。いいお土産になる」
「『1回千円』とあった故、店員殿に千円札を渡し、代わりに受け取ったコインでガシャポンを回し、カプセルを開けると・・・」
「うん」
「ただ一文字『も』と書かれた缶バッジが入ってござった」
「れもんちゃんの『も』だ」
「うむ。しかし、これでは、土産として頼りない故、もう一度千円払った。出てきたのは、またしても『も』。『れもん』でなく、『もも』になってしまった」
「悔しいな」
「いかにも悔しいので、また千円払うと、今度は『ん』が出た」
「近づいたな。次に『れ』が出れば、『れもん』が揃う」
「うむ。そう思って、また千円注ぎ込んだ。『が』の缶バッジが出てござる」
「並べたら、『ももんが』だ」
「うむ。いささか逆上して、今時珍しい二千円札でコインを2枚譲り受け、続けて2度回したら、『ず』と『き』が出た」
「『ももんがずき』になった」
「腹が立って、『無礼者!誰が、モモンガ好きだ!拙者、富士山シン太郎左衛門は生粋の絶対れもん主義者なるぞ!』と怒鳴った」
「なるほど、その夢はハズレだ」
「ハズレでござった」
「その缶バッジ、見てみたい」
「夢の中に忘れてきた」
「残念だ」
「うむ」
「それに比べると、俺の夢の方が、まだ良い」
「と言いますると」
「俺の夢の舞台は、関空のような場所だが、『歓迎 れもん星へようこそ』とカラフルな横断幕が掛かっていて、免税店のようなものが軒を連ねていた」
「華やかでよい」
「そうだ。人もたくさんだ。ふらっと散歩していると、一つのお土産物屋の前で、クラブロイヤルの入り口でいつも愛想よく出迎えてくれるスタッフさんとそっくりな人から『れもんちゃんグッズ、ありますよ』と声を掛けられた」
「拙者と同じでござる。同一人物に違いござらぬ」
「レモンイエローの法被を着てた」
「同じでござる」
「じゃあ、同じ人だ。明るい店内に入ると、なかなかの品揃えだ」
「ガシャポンは?」
「ガシャポンはなかった。れもんちゃんの等身大フィギュアがあって、非売品との札が掛かってた。本物には遠く及ばぬが、中々よく出来ていた。触ろうとして、怒られた」
「拙者の入った店とは、随分と違う」
「うん。ディスプレイもシャレてて、れもんちゃんのパネルが大小飾られている、とても居心地のよい空間だった」
「れもんちゃんがいる空間は居心地が良いに決まってござる」
「缶バッジもあった。それぞれ、れもんちゃんの全身写真、お顔のアップ、『れもんちゃん』とカラフルでポップな文字で記したもの等、5個セットで千円だった」
「・・・父上、拙者に喧嘩を売ってござるか」
「違う。あれこれ目移りしているうちに、『チームれもん』の黒いキャップに目が止まった。値札を見て、気を失いそうになったが、大奮発して買ってしまった」
「羨ましい限りでござる。その店は、関空にあるのでござるな」
「いや、そうは言ってない。関空にあれば、また行きたいが、そうではない」
「残念でござる」
「そのうち、店の奥の方にカーテンで閉ざされた入り口があるのに気付いた」
「それは、まさか・・・」
「うん。この奥、カーテンの向こうに、れもんちゃんが待っていると感じさせる雰囲気があった。少しドキドキしながら、『この奥、入っていい?』と訊くと、店員さんが『どうぞ、ご案内します』と快く答えてくれた」
「おおっ、それは期待が高まりまする。まさに、れもんちゃんとの御対面の場面そのままではござらぬか」
「そうだ。そして、クラブロイヤルのスタッフさんに似た店員さんが、お口のエチケットを軽く二度シュシュっとしてくれた後、カーテンを開けながら、にこやかに『カーテンの向こうに・・・』と言うので、勇んで一歩踏み出したら、カーテンの向こうには、まさに今カーテンを開けてくれたスタッフさんが満面の笑顔で立っていた」
「・・・スタッフさんの瞬間移動芸でござるな」
「そうだ。見事なテレポーテーションだった・・・でも、こういうものが見たかった訳ではないので、心底ガッカリした。ただ、お義理で拍手はした。その場面で、お前の怒鳴り声に起こされた」
「父上の夢もハズレでござる」
「そうだ。お前は6等、俺は5等だ」
「いい年をして、残念な夢の話で盛り上がっているとは、我々親子は救いようのない愚か者でござるな」
「そのとおりだ。しかし、実物のれもんちゃんにハズレや残念はない。いつも数万発の花火が打ち上がるような大当たりだ」
「いかにも。そして、今日は、れもんちゃんに会う日でござる」
二人揃って、ヘヘヘヘと、だらしなく笑った。
れもんちゃんは、今日もやっぱり宇宙一だった。この冬空に、百万発の花火が上がった。
シン太郎左衛門、れもん星で缶バッジを買う様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とバーチャル動物園様
ご利用日時:2023年11月19日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ、チョンマゲを結った経験はないし、先端恐怖症なので刀は嫌いだと言う。割りと動物好きな、絶対れもん主義者である。
先週某日、自宅での夕食後、シン太郎左衛門が、明日、有給休暇を取り、動物園に連れて行け、と言い出した。前話で触れた三姉妹から動物園も楽しいと聞かされたらしい。
「先日の水族館、無念でござった。ズボンの中に閉じ込められたまま、結局イワシ一匹見れずに終わった。動物園では、そうはいかん。江戸の仇は長崎で討つ」とか息巻いている。
「どこに行こうが、人目があるところで、お前を外には出せん。警察に通報されてしまう。それに寒い」
「心配ご無用。拙者、目ばかり頭巾を被りまする」
「目ばかり頭巾?現代風に言えば、フルフェイスマスクだ。不審者だ。警察が来たとき、いよいよ言い逃れが出来なくなる」
「何と言われようと、拙者、意地でも動物園に行きまする」
「ダメだ。お前、最近、ズボンのチャックを内側から開けることを覚えたし、危険極まりない」
二人は、散々「絶対行く」「絶対ダメ」の押し問答を繰り返し、延々と不毛な時間を過ごした。結局、動物園に足を運ぶことはしないが、今日これから動物図鑑を見ながら、適宜、動画サイトのコンテンツで鳴き声や動きの情報を補い、動物園に行った気になるということで双方の妥協点を見い出した。
「致し方ない。しかし、くれぐれも臨場感を損なわぬよう、お気遣い願いたい。実際に動物園に行った感じが大事でござる」
「分かった。動物園はかなり異臭が漂う場所だ。もし、臭いにも拘りたいなら、隣の家からラッピーのウンコを貰ってきてやる」
「それは要らぬ」
食器を片付けると、ダイニングテーブルに、何十年も前に買った動物図鑑とスマホを並べ、
「それじゃ始める」
「うむ」
「家を出るところからやる?」
「『実際に動物園に行った感じが大事』とは言ったが、そこまでのリアリティーは求めておらぬ」
「そうか。片道2時間は掛かるしな。よし。では、動物園に着いたところから始めよう」
「そうしてくだされ」
「では入園券を買おう・・・と思ったら、財布を家に忘れてきた」
「・・・父上、余計な部分は飛ばしてくだされ。動物だけでよい」
「愛想がないヤツだ。まあいい。それでは最初は象だ」
図鑑を捲って、象の絵を見せてやった。
「これは、アフリカ象だ。大きいなぁ。鳴き声は『パオ~ン』だ」
「知ってござる。父上のパンツで、嫌になるほど見てきた。次に行ってくだされ」
「早くも満足したか。よし、では続いて、ワニだ。ウニではないぞ。鳴き声は・・・調べようか?」
「ワニは鳴かぬ。次に行ってくだされ」
「よし。では、カバだ。見た目以上に狂暴だ。鳴き声は知らん。動画を見るか?」
「要らぬ」
「おい、シン太郎左衛門、もっと楽しそうにしろ」
「ちっとも楽しくないのだから、どうしようもござらぬ」
「俺だって、こんなこと、楽しくてやってる訳じゃないぞ。頑張って盛り上げてやってるのに、呆れたヤツだ。実際に動物園に行かなくって、ホントによかった。寒い中、わざわざ出掛けて、危ない橋を渡って動物を見せてやってるのに、こんなリアクションが続いたら、完全にぶちギレてる」
「拙者が見たいのは、かようなモノではござらぬ」
「何が見たいのだ?」
「れもんちゃんに似た動物さんでござる」
「だったら最初に言え!少なくとも、ワニやカバを見せる手間は省けた」
「うむ」
「反省しろ」
「反省しない。拙者は絶対れもん主義者でござる。れもんちゃんと関係ないものに興味はござらぬ」
「よく言った。俺もそうだ」
二人は固い握手を交わした。
「それじゃ、二人で、れもんちゃんっぽい動物を捜そう」
「うむ」
「では・・・キリンは?目がクリクリっとしてる・・・ほれ。どうだ?」
シン太郎左衛門、図鑑をマジマジと眺めた後、「確かに、れもんちゃんに似て、クリクリお目々ではござるが、コヤツ、首の長さが尋常でない」
「それはそうだ。れもんちゃんの首は別に長くない。言わば普通だ。れもんちゃんが、こんな首をしてたら・・・『キリンれもん』だ」
「なんですと!それは、どういう意味でござるか・・・」
「いや、特に意味はない。一種のオヤジギャグだ」
「なんと!これが、オヤジギャグとな」
「うん、その積もりで言った」
「今一度言われよ」
「・・・キリンれもん・・・ダメ?」
「父上は、オヤジギャグの基本が出来ておらぬ。オヤジとして長の年月重ねながら、この体たらく。恥ずべき醜態でこざる」
「そんなに酷かったかなぁ」
「父上、オヤジギャグは、れもん道の基本中の基本でござる。かような失態、れもんちゃんに知られれば、『こんな人だと思わなかったよ~ん』と即刻破門でござる」
「う~ん、では御内聞に願おう。ただ、次に進む前に、念のために一言。れもんちゃんは、のべつ幕無しに『よ~ん』と言う訳ではない。むしろ、普通に話しているときには、基本的に『よ~ん』とは言わない」
「うむ、それは父上のクチコミでは珍しい、貴重な情報でござる。では、次の動物に参りましょうぞ」
「よし、それでは・・・クジャクはどうだ?豪華絢爛だろ」
「なるほど、れもんちゃんはゴージャスでござる」
「まあ、こいつは雄だけどな。クジャクは雄だけがゴージャスなのだ」
「れもんちゃんを雄と比べて、なんとする」
「だな。では・・・そうだな・・・これは?」
「おっ、これは鹿でござる」
「そうだよ」
作画の出来映えによるところが大ではあったが、鹿の家族、中でも仔鹿がとても可愛かった。
「うむ。これは・・・へへへ・・・れもんちゃんに似てる」
「目がクリクリだ」
「クリクリお目々が、れもんちゃんでござる」
「しなやかなボディラインだ」
「スラッとした、しなやかな身体の線がれもんちゃんでござる」
「ヒップラインが艶かしい」
「仔鹿のお尻、れもんちゃんのお尻に似てる・・・へへへ」
「おい、図鑑に頬擦りするな!」
「これはよい。父上、やはり明日は動物園に参りましょうぞ」
「鹿だけ見るなら、動物園に行かんでもいい。奈良公園に行ったら、鹿がいっぱいだ」
「それは誠にござるか・・・行きたい」
「ダメだ。動物園に行かない約束で、図鑑を見せたのだ」
そこから、またしても「絶対行く」「絶対ダメ」の押し問答が再燃した。
結局、来年の夏前、生まれたての仔鹿たちが公開される季節に奈良公園を訪れることを約束させられてしまった。
その晩、パジャマに着替えて、布団に入るなり、シン太郎左衛門は、「今日も大変よい1日でごさった。それもこれも、れもんちゃんのお蔭でござる」と言った後、「奈良公園・・・へへへ・・・れもんちゃんが、いっぱい」と、だらしなく笑った。
そして、今日、れもんちゃんに会ってきた。仔鹿に似ているかどうかは、さておいて、れもんちゃんは、やはり宇宙一であった。
シン太郎左衛門は間違えている。れもんちゃんは、唯一無二だから、奈良公園に行っても、いっぱいいる訳がないのである。
シン太郎左衛門とバーチャル動物園様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の『絶対れもん主義宣言』様
ご利用日時:2023年11月12日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だが、将来の夢はラッパーだと言うし、チョンマゲもしてないし、かなり出鱈目なヤツだと思われる。
さて、家の固定電話が鳴っても取らぬ主義だが、先週の某日、その日に限って魔が差して、うっかり出てしまった。その結果、親戚の子供を1日預かることになった。
電話を切った後、不満を誰かに聞いてほしくて、シン太郎左衛門に「明日は有給休暇を取って子守りをすることになってしまった。小学校の六年、五年、二年の三姉妹だ」と言うと、
「うむ、ご苦労」
と、上から目線の、偉そうな返事をするので、ムッとしたが、とりあえず説明を続けた。
「一番上の子には赤ん坊のときに会ったことがあるが、実質的には全員初対面だ。大変に面倒くさい」
「断ればよいものを」
「もう手遅れだ。承諾してしまった。水族館を見学させた後、観覧車に乗せてやることになっている」
「それは楽しそうでござる。拙者も行く」と、シン太郎左衛門、急に目を輝かせた。
「言っておくが、エロい要素は一つもない。三姉妹は小学生だから、変な目で見てはいかん」
シン太郎左衛門は「拙者、ロリコンではござらぬ」と憤然と言い返してきた。
「俺も違う」
「拙者、れもん派でござる」
「俺もだ」
二人は、がっちりと握手を交わした。
「拙者、れもん派の中でも、特に絶対れもん主義を奉じるものでござる」
「俺もだ」
二人は、再びがっちりと握手を交わした。
「拙者、当今、新曲を製作中でござる。題して『絶対れもん主義宣言 様』、またしても名曲でござる」
「いや、お前は名曲を産み出したことは一度もないし、そのタイトルを聞いただけで、不安で一杯になった。まず、普通は、タイトルに様は付けない」
「では、なぜ父上はいつもクチコミの題に様を付けておられまするか」
「勝手に付いてしまうのだ」
「外せない?」
「やり方が分からん」
翌日の昼前、親戚の子供たちはやってきた。呆れるほど人懐っこい子たちだった。人懐っこいのは一般には美徳なのだろうが、私は人見知りなので、お互い自己紹介も済まぬうちにいきなりグイグイ来られると、ガードが固くなってしまう。母親の車で送り届けられ、我が家に入るなり、三姉妹は「おじさん、早く水族館に行こう」「その前にジュースがほしい」「おじさんのウチは、ジュゴン、飼ってるの?」「ジュゴンは無理だよ。でも、ラッコなら飼えるよね?」「わぁ~、ラッコ見たい」「タガメやゲンゴロウ虫も、おウチで飼えるよ」「わたし、アタマ虫、嫌い」とか、代わる代わる、切れ間なくピチピチと喋ってくる。一瞬「おじさんの家には、ラッコもタガメもアタマ虫もいないが、シンタロウ虫ならいるよ」と言おうかと考えたが、彼女たちは、すでに別の話題に移っていた。私のように考えて話していては、彼女たちの会話のリズムに付いていけないことを悟り、今日は1日黙って過ごすことに決めた。
水族館に向かう道中も、ずっと三姉妹は喋り倒し、水族館の中でもハシャギ回していた。フードコートでも喋り続けていた。無邪気で微笑ましかったし、一緒にいて気持ちが和まないでもなかったが、これだけ喋り続けられると、適当に相槌を打って、生返事をするだけなのに、疲労が蓄積していった。
夕暮れが迫ってくると、急いで観覧車に乗って、さっさと家に帰りたくなった。チケット売り場から乗り場までも三姉妹は、やはり喋りまくっている。「観覧車、楽しみ。おじさん、海は見える?」と訊かれた後、「もちろん見えるさ」と答えるまでの間に、「南極、見える?」「ペンギン、いっぱい見える?」と追加の質問が割り込んできて、結果、私は「大阪にある観覧車から南極のペンギンが見えるか」という問いに「もちろん見えるさ」と答える無責任な大人になっていた。順番が来ると、私は三姉妹を押し込むようにワゴンに乗せ、係員に同乗するように言われても、「嫌だ!俺は次のに乗るんだ!」とゴネまくり、強引に我を通した。彼女たちと観覧車の狭い密室に入れられて、正気のまま出て来れる自信がなかった。
後続のワゴンに乗り、一人で座席に腰を下ろすと、ホッと息を吐いた。シン太郎左衛門が楽しそうに、
「本当に賑やかな娘さんたちでござる」
「これは、たまらん。俺は静穏な環境でなければ生きていけない虚弱な生き物なのだ」
「いや。可愛いものでござる。きっと、れもんちゃんも、こんな元気なお子でござったに違いない」
疲れ果てて、窓の外の景色を見る気にもならなかった。
「当然、れもんちゃんは、子供の頃、元気で可愛いかっただろう。ただ、それはそれ、これはこれだ」
「うむ。可愛く、元気なだけでなく、美しく、楽しく、エロく、そして大人の落ち着きも兼ね備えていなければ、れもんちゃんのような宇宙一にはなれぬ」
「そのとおりだ。ただ、それは小学生に求めるべきことではない」
「うむ。ところで、れもんちゃんは、今週、女の子休みでござる。今日あたり美容院に行ったに違いござらぬ」
「そうかなぁ。写メ日記には、そんな記事はなかったけどなぁ」
「ん?写メ日記とは、何でござるか」
余計なことを口走ってしまったことに気付いた。シン太郎左衛門には、れもんちゃんの写メ日記のことをぼやかして伝えていた。真実を知ったとき、見せろ、見せろと5分毎にせっつかれるのは目に見えていた。
「気にするな。独り言だ」
「うむ。そう言えば、昨日お話した『絶対れもん主義宣言』、完成してござる。早速歌いまする」
押し売りめいていたが、要らないと言うと、話が写メ日記に戻って来そうな気がしたから、「そうか。歌ってみろ」と言った。
「では、心してお聴きくだされ」
「絶対れもん主義宣言」は、ショボいリズムボックス風のイントロで始まった。歌詞は大体次のような感じだった。
ビッ! ビッ、ビッ、ビッ!! ×4
美容院に行ったよ~ん
宇宙空母で行ったよ~ん
ミサイル、レーザー撃ちまくり
流星ドッサリ潰したよ~ん
髪をチョキチョキ切ったよ~ん
太陽系を後にして、すぐ
宇宙海賊、攻めてきた(いやん)
迎撃ミサイル発射だよ~ん
トリートメント、完璧だよ~ん
海賊船が逃げてくよ~ん
レーザービームで追い回し
惑星もろとも爆破だよ~ん
れもんちゃんは優しい子
悪い奴らは許さない
れもんちゃんは楽しい子
髪の毛サラサラ、いい匂い
我ら、シン太郎左衛門ズ ×2
ワンコーラス聞き終えたところで一旦止めた。
「何番まであるの?」
「3番までござる」
「今日は、とりあえず、ここまででいいや」
シン太郎左衛門は不満げだったが、三姉妹と甲乙つけがたいほど、聞いてて疲れる代物だった。
「曲調が、まるで昔のテクノポップみたいだ。ラップには聞こえない」
「それは、拙者には、どうでもいいことでござる」
「お前、ラッパーになるんじゃないのかよ」
「拙者は絶対れもん主義者でござる。目的に達するための手段は選ばぬ。ラップだろうが、音頭だろうが、れもん道を邁進するのみ」
「そう言うわりには、お前の曲、最近、雑くないか?ドラム演奏も手抜きっぽい」
「なんの。今回の曲で、出だしの『ビッ』は、れもんちゃんの『美』を語ってござる。その『ビッ』は4個で1セットで、計4セットある。4は『よ~ん』と通じてござる。大変に凝っている」
聞いてるうちに、何だか面倒くさくなってしまい、
「そうか、それは気付かなかった。隅々まで配慮が及んでるな。とにかく美がいっぱいだ」
「うむ。れもんちゃんは、美に満ち溢れてござる」
「それは、そうだ。ホントに唯一無二の素晴らしい女の子だ」
「うむ。では、二番を」
「いや、それは勘弁してほしい」
そう言ったとき、ふと窓の外に目が行った。
「いや、聴いてもらおう」と言って、シン太郎左衛門が、またリズムボックスを鳴らすのを制して、「見ろ」と窓の外を指差した。
ズボンのチャックを内側から開き、頭をもたげたシン太郎左衛門は、私の指の先に目をやり、
「あっ、宇宙空母!!れもんちゃんでござる!!」
夕焼けをバックに、れもんちゃんの空飛ぶ空母は、その巨大すぎるシルエットを大阪湾上空でゆっくりと移動させていた。
「大きいな~。この前よりも、更に一回り大きくなった気が致しまする。れもんちゃんは成長著しい。きっと美容院からの御帰還でござるな」
「いや、今回は単に散歩かもしれん。いずれにしても、敬礼しよう」
二人はビシッと敬礼を決めた。
「実に美しいものでござる。れもんちゃんに属するものは、すべて美しい」
二人は感動の余り、半ば呆然と宇宙空母を見詰め続けた。
帰りの電車に乗ると、私は三姉妹の母親のLINEに、自宅の最寄り駅への到着予定時刻を送った。乗り換えが2回あったが、乗車時間が最も長い電車で幸いにも座ることができた。座った途端に睡魔に襲われたが、隣で三姉妹がずっとペチャクチャ喋って、ゲタゲタ笑っていたので、完全に眠りに落ちることはなく、半醒半睡で過ごした。
私の自宅の最寄り駅に着き、改札から出るとき、三姉妹の上の子が、「おじさんって、いっこく堂みたいだね」と言った。まだ頭が半分眠っている感じで、(「いっこく堂」ってラーメン屋だっけ?)と思うばかりで、意味が理解できなかった。
駅前のロータリーには三姉妹の母親の車が停まっていた。「さあ、お母さんが待ってるよ」と言うと、それまでハシャギ続けていた三姉妹は黙ってしまった。そして、一番下の子が私の腰に抱き付いて、泣き出した。
「一緒に行こう、DJ左衛門。一緒に行こう」
さっきの「いっこく堂」の意味が朧気ながら分かってきた。
三姉妹を宥めすかして、車に乗せた。「また、来ていい?」と訊かれたから、「いいよ」と答えた。車が出発すると、三姉妹は手を振りながら、しばらく「DJ左衛門、バイバイ」「おじさん、バイバイ」と連呼していたが、信号が青になり車が国道に合流するときには、車中から「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」という歌声が微かに聞こえてきた。
「シン太郎左衛門、お前、帰りの電車であの子らと話したな」
「うむ。楽しかった」
「俺は腹話術使いだと思われている」
「うむ。腹話術、これを機に学ばれよ」
「いやだ。その上、歌まで教えたな」
「うむ。子供は覚えが速い。すぐに歌えるようになってござる。可愛いものでござる」
「うん・・・結局なんやかんやで楽しかった」
「うむ。それもこれも、れもんちゃんのお蔭でござる」
「よく分からんが、多分そうだ」
家に向かって歩き出したが、急に静かになったのが妙に寂しかった。
「寒くなった」
「うむ」
「三姉妹は今まさに『絶対れもん主義宣言』を合唱しているだろう。手遅れかもしれんが、一応訊いておく。結構重要な話だ。『絶対れもん主義宣言』の2番と3番に、『丸いお尻にTバック』とか、オッパイがどうとかって歌詞、入ってないよな?」
シン太郎左衛門は、しばらく考えた後、「『それは言えない。ヒミツだもん』」
そして、今日、れもんちゃんに会ってきた。当然、宇宙一だった。
なお、あの日以来、「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」が耳から離れなくて困っている。
シン太郎左衛門の『絶対れもん主義宣言』様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは、DJ左衛門)様
ご利用日時:2023年11月5日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。剣術について何流を修めたとか、そんな話は聞いたこともないが、歌を歌うのが好きである。
前にも書いたが、私は当たり前の勤め人だから、朝は早起きして電車に乗る。通勤電車は、かなり混んでいて、大概は吊革に掴まり、窓の外の景色を見て過ごす。
先週の某日、そんな朝の通勤電車の中で、シン太郎左衛門がいきなり『れもんちゃん音頭』の1番を歌い出した。そんなことは初めてだったから、シン太郎左衛門が何をするつもりなのか、少し不安も感じたが、黙って観察することにした。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて・・・
最初は、鼻唄を口ずさむ程度の軽い感じだったが、段々と声に力がみなぎっていく。シン太郎左衛門の声は、周囲の乗客に届くものではないから、私の目に映っているのは、いつも通りの通勤電車の車内で、私の両隣、前の座席ともに、いつものメンツには特に変わった様子もなかった。そんな風景に一頻り朗々としたシン太郎左衛門の歌声が響き渡り、相当の熱唱となって終わった。
その後、しばしの沈黙があり、これで終わりか?なんか拍子抜けだ、と思っていると、また『れもんちゃん音頭』の1番が始まった。今回は、歌い出しから大熱唱だった。こぶしの効いた粘着質の唱法に、もっと爽やかに歌えばいいのに、と思ったが、
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番れもんちゃん
曲の終わりには、私は不覚にも胸も目頭も熱くなっていた。シン太郎左衛門は、見事に『れもんちゃん音頭』を声の限り歌い上げた。まるでフランク・シナトラの『マイウェイ』のようで、これを聴いたら、どんな朴念仁でも、れもんちゃんが宇宙で一番だと納得せざるを得まい、そう心底思えるほど感動的な歌いっぷりだった。シン太郎左衛門は満足げに額の汗を拭った。
(まだ続きがあるのか?シン太郎左衛門は、何がしたいんだろうか)と思っていたら、今度は、
ツンツン、トントン
ツンツン、トン・・・
と、モールス信号のような、ショボいリズムボックス風のイントロに続いて、
男と生まれて短い一生
終わるとなったらニッコリ合掌
挽肉丸めて平たく伸ばす・・・
と、ラップが始まった。
(これ、聞き覚えがある・・・そうだ、これは、『れもんちゃん音頭』の幻の27番だ)などと考えているうちに、出だしはパワフルだったシン太郎左衛門の声から徐々に力が抜けていくのが感じ取れた。
何が起こったのか分からないが、シン太郎左衛門は歌い終わると、目に見えて疲れた様子で、フッと溜め息を吐いて、ヘニャヘニャっと、力なく項垂れてしまった。
そして、それっきり終日黙ったままだった。
(一体、何が起こったんだろう?こいつ、結局何がしたかったんだろう?)という疑問が頭に浮かんだが、この件、すっかり忘れて1日を過ごし、帰宅後、風呂の湯船にゆっくり浸かっているときに思い出した。
お湯にプカプカ浮かんだ、お気に入りのアヒルのオモチャで遊んでいるシン太郎左衛門に、「今朝、電車の中で『れもんちゃん音頭』を歌ってたよな」と訊いてみた。
「うむ。歌いましてござる。大変、楽しかった」
「2回、歌ったよな」
「うむ。初めは、暇で暇で、頭がボーっとしているうちに、思わず歌い出してしまったのでござる。すると、周りの御仁たちから『おお、達者なものでござるなぁ』『よい声をしてござる』などと声が上がりましてござる」
「そんなことになってたんだ。どういう仕組みかは知らんが、俺には他の武士の声が聞こえないのだ。それに他の武士と話しているお前の声も聞こえない」
「そのようでござるな。同じ車両に乗り合わせた武士の面々の熱い声援に後押しされて、拙者、『れもんちゃん音頭』の第一番、力一杯歌い申した」
「うん。熱唱だった」
「歌い終わると、やんやの喝采。絶賛の嵐でござった。いやはや、れもんちゃん人気は大変なものでござる」
「そうなるか?今の話からは、とりあえず『れもんちゃん音頭』が大反響だったということにしかならんだろ?」
「そうではござらぬ。皆々、れもんちゃんをご存じでござった。『これは、かの有名な、クラブロイヤルのれもん姫の歌でござるな』『れもん姫と言えば、世にも名高き美人でござる』『予約が困難でござる故、拙者、まだ会ておらぬ』『拙者はお会いいたした。この世のものとは思えぬ優れもの。まさしく宇宙一でござった』等、口々にれもんちゃんを褒めそやし、想いを語ってござった」
「そうだったんだ・・・あの電車の男性客は、みんな遊び好きだったのか・・・全然、気が付かなかった。れもんちゃんに会ったことがあるにせよ、ないにせよ、れもんちゃんのファンが集っていたとは。そうと聞かされると、何となく気まずい。明日から一本早い電車に乗ろう」
「電車を替えても違いはござらぬ。武士は、みんな、揃いも揃って、れもん好きでござる」
「多分そうなんだろう。れもんちゃんが、今年『ミスヘブン総選挙』に出ない理由が分かった。そこまで知名度も名声もあれば、確かに出る意味はない」
「うむ」
「そうか・・・そんなことが起こってたんだ」
「うむ。それはそれは大変な盛り上がりでござった。皆々『れもんちゃん音頭』の余韻に酔いしれて、『今一度、歌ってくだされ』という声が一斉に起こったのでござる」
「それで、アンコールに応えて、あの大熱唱だったわけだ」
「うむ。車中は興奮の坩堝と化し、最後の『優しい、可愛い、美しい、宇宙で一番れもんちゃん』は、100人を越える武士たちの大合唱でござった」
「ふ~ん・・・思い浮かべてみると、なんとも言えん光景だな。ちょっとおぞましくもある」
「曲が終わっても、皆々、異様なほどに気持ちが昂っておられた故、余勢を駆って、ラップを歌ったら、全く受けなかった」
「・・・調子に乗ったら、そんなもんだよ」
「歌い終わったときの沈黙たるや、大音量で『シ~ン』としてござった。余りの気まずさに、一か八か『拙者、シ~ン太郎でござる』とギャグを言ってみたが、失笑一つ起こらなかった」
「・・・お前、勇気あるな」
「うむ。拙者は勇気の塊でござる」
「ラップが受けず、ギャグが滑って、多少は落ち込んだんじゃないか?」
「そういうことはござらぬ。朝から全力で歌ったから、少し疲れたばかり。同じ想いを持つ、れもんちゃんファンの武士たちと過ごす時間は実に楽しかった」
そう言いながら、シン太郎左衛門はアヒルの背中を押して、ピーと甲高い鳴き声をあげさせた。
「ところで、お前、そのアヒルのオモチャが好きだよな。それ、何が面白いわけ?」
「このアヒルは」と、シン太郎左衛門はゴムのアヒルを湯の中にグッと沈め、「こうやって湯船の底まで沈めて放すと、浮力で宙まで飛び上がるかと思いきや」と手を放すと、「こうして、ポコッと水面に浮かぶだけでござる。何度やっても飛びませぬ・・・面白い」
「なるほど・・・れもんちゃんとは違う意味だが、お前もかなり不思議だな」
「うむ。拙者の将来の夢は、ラッパーになることでござる」
今回、本来書く予定だった内容に到達する前に、前置きが膨らみ過ぎてしまった。ここで一旦筆を擱くことにする。
ところで、今日も、れもんちゃんに会った。当然ながら宇宙一だった。
シン太郎左衛門(あるいは、DJ左衛門)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは妖精ランジェリー)様
ご利用日時:2023年10月29日
- 我が馬鹿息子シン太郎左衛門は武士である。疑えばキリがないので、信じることにしている。
昨日の昼休み、職場の近くのラーメン屋で食券販売機の下に釣り銭を落としてしまって、しゃがんだ拍子にトランクスが股の部分で音を立てて裂けてしまった。
シン太郎左衛門が「父上、ビリっといきましたな」
「大丈夫だ。被害はズボンまで及んでいない。パンツだけだ。随分と履き古したからな。いわゆる寿命というヤツだ」
「とは言え、拙者、早速すきま風に晒されてござる」
「武士のくせに、すきま風ごときで泣き言を言うな」
カウンターに座って、店員に食券を渡した。
「父上は、この象さんのパンツがお気に入りでござったな。週に2、3回は履いておられた」
「気に入っていた訳ではない。偶々そうなったのだ。確か5年前、ショッピングモールの衣料品コーナーで買ったのだ。象さんは『このワゴンの商品、どれでも3点で500円』とは思えない精勤ぶりだった」
「寂しくなりまする」
「大丈夫。まだキリンもペンギンとライオンもいる。ラッコもアシカもカバもいる。シマウマもいる」
「父上のパンツは、実に揃いも揃って動物が描かれてござる」
「あのとき、いくらあっても困るものでないと、動物のプリント柄のパンツをワゴンごと買い占めてしまったからな。こんなに丈夫だとは思いもよらず、一生分どころか人生3回分の動物パンツを買ってしまった。そいつらが押し入れで大きな段ボール箱に山盛りになって出番を待ってるのを見ると、気分が悪くなる。象さんだけでもまだ10頭はいる。みんな、丈夫で長持ちの優れモノだが、デザインが雑すぎて、まじまじ見てるとイライラしてくるのが珠に傷だ」
「父上は基本的にマヌケでござる」
「そのとおりだ」
ラーメンが出てきたので、胡椒を振った。
「父上は、着るものに頓着がなさすぎでござる」
「それは少し違う。着ている自分に興味がないだけだ。モノの良し悪しは大体分かる。れもんちゃんの着ているモノは、しっかり賞翫している」
シン太郎左衛門は、へへへへとだらしなく笑い出し、「『れもんちゃん』と聞くと、身体がポカポカして、すきま風の冷たさを忘れまする」
「れもんちゃんは、冬の日のお日様のような有難いお方だ」
「うむ。それに、れもんちゃんのパンツは可愛い」
「ブラジャーも可愛い」
「いや、拙者は断然パンツ派でござる」
「そういう派閥的な発想を持ち込むべきではない。パンツとブラジャーは一致団結して、れもんちゃんの魅力を引き立てているのだ」
「うむ。れもんちゃんの身体は、それは美しいものでござる」
「そうだ。だから、下着たちにも引き立て甲斐があるというものだ。れもんちゃんの下着は、有名メーカーの高級ブランドだぞ」
「なんと。それって、お高いんじゃない?」
「・・・なんだ、その武士らしくない物言いは?いつもの『マジで?』よりも悪質だぞ」
「では、もとい。さぞ値の張るものでござろう」
「当然だ。我が家の動物パンツが束になって掛かっても、れもんちゃんのブラジャー1つに敵わぬのだ。比較するのも畏れ多い」
「なるほど、れもんちゃんは、そんな高級な下着を数多所持しておられるのでござるな」
「そうだ。毎回違うのを身に着けている。新作が出るたびに買い揃えていると思われる。ドッサリと買うんだろう」
「ドッサリとは、どれくらいでござるか」
「ショップに入って、ほぼ店ごと買う」
「店ごとでござるか。それは大変な荷物になりましょうぞ。まさか、れもんちゃんが背負って帰るとも思われませぬ」
「当たり前だ。れもんちゃんは、会計が済んだパンティやブラジャーを魔法の杖で叩いていくのだ。そうすると、羽が生えて、蝶々や小鳥のようにパタパタと飛び立って、店の外に出ていく。三ノ宮の街の上に広がる青空に、羽の生えた、色とりどりのパンティやブラジャーが大群となって飛んでいる」
「美しい景気でござる」
「そして、その向かう先は・・・」
「その向かう先は?」
「例の空飛ぶ空母だ」
「おお、れもんちゃんの自家用車。先日のアレでござるな」
「そう。あの空飛ぶ空母の中に吸い込まれるように消えていく」
「・・・見てきたような嘘でござるな」
「いや、目撃者も多数いる正真正銘の真実だ。ただ、全員その直後に記憶を消されてしまった」
「うむ。それであれば真実でござろう。ただ誰が彼等の記憶を消したかは謎として残りまするな」
「当然れもんちゃんだ」
「れもんちゃん、恐るべしでござる」
「うむ。それはそうと、空母の中には巨大なウォークイン・クローゼットがあって、パンティとブラジャーは、その体育館のように広い空間で楽しく飛び回って暮らすのだ」
「なるほど」
「そして、出勤前になると、れもんちゃんは、伸縮自在の長い柄を持つ虫取網を持って、そのウォークイン・クローゼットに入る。その日の予約の数に合わせて、またお客の好みを考えて、キャッキャと、はしゃぎながら、飛んでるパンティとブラジャーを追い掛け回し、ペアで捕獲して優しくバッグにしまうのだ。こういう感じだから、れもんちゃんの下着はとても活きがよい」
「ぶっ飛んだ話でござる。さすがに誰も信じますまい」
「イメージだ。信じなくていい。感じるんだ」
シン太郎左衛門は、大きく頷き、「うむ。確かに、れもんちゃんにピッタリの話でござる。そして、れもんちゃんには、可愛い秘密が一杯でござる」
「そうだ。よし、では、行こう・・・おネエさん、お愛想」
「父上、ここは食券による前払い制でござる」
「そうだ。忘れていた。毎回、これをやってしまう」
「父上は、根っ子の部分でマヌケでござる」
店を出て、職場への帰り道、シン太郎左衛門が性懲りもなくラップを始めた。
Yo, yo, yo, yo, yo, yo, yo, yo
ラーメン食べたら、パンツが破けて、
股間に木枯し吹き荒れる。でも、
丸いお尻にTバック、へへ、真ん丸お尻にTバック、へへ
れもんちゃんたら Yo, say パンツ、れもんちゃんたら Yo, say ブラジャー
アカギレ、シモヤケ、なんでも治るぜ
凍れる冬に欠かせない yo
ラブリー・フェアリーれもんちゃん
全く意味不明に思えたが、風は股間を中央に冷たくとも、見上げた空が青かったから、スルーした。
そして、今日れもんちゃんに会った。
れもんちゃんは、当然凄すぎたし、れもんちゃんの下着には、やっぱり可愛い羽が生えていた。
シン太郎左衛門(あるいは妖精ランジェリー)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と沈黙の武士たち様
ご利用日時:2023年10月22日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は自らを武士だと言う。別に武士でも武士でなくても、結局は大した問題ではない。
先々週の日曜日、左の乳首に触れられると妙に気持ちよかったので、れもんちゃんにそう言ったら、「チクビ左衛門だね」と笑われた。
先週の日曜日は、左右どちらの乳首も触れられると妙に気持ちよかったので、れもんちゃんにそう言ったら、また「チクビ左衛門だね」と笑われた。
今日もまた日曜日。れもんちゃんに会う日の朝は、私もシン太郎左衛門も気持ちがハイになっているので、何をやっても大抵とても盛り上がる。ただ、盛り上がらないことも稀にある。
朝食を済ませた後、出発までまだかなり時間があったので、「昨日、押し入れを掃除していて、ポータブルの将棋セットを見付けた。シン太郎左衛門、お前、将棋は指せるか?」
「指せまする」
「では、やろう」
「実は、拙者、かなりの腕前でござる」と、妙に見下すような態度を見せるので、駒を並べながら、「何をおっしゃるウサギさん、だ。捻り潰してやる。さあ、かかって来い」
大して指し進めるまでもなく分かった、シン太郎左衛門は「マジもの」だった。
「シン太郎左衛門、止めよう。お前が藤井八冠に見えてきた」
「うむ。拙者、藤井聡太の棋譜は全て記憶してござる」
「完全に相手を間違えた」
「藤井聡太に勝てるのは、れもんちゃんだけでござる」
「将棋で?」
「流石にそれはない。拙者の『人間キラキラ・ランキング2023』の話でござる。れもんちゃんが、断トツ1位。その後、9位までは空位で、10位で藤井聡太と井上尚弥が並んでござる」
「なるほど、妥当な線だな」
「キラキラ・ランキングは、その後もず~っと続いて、何番とは言わぬが、父上も出てくる。岸田首相と競い合ってこざる」
「ノー・コメント。その話は止めておこう」
ポータブル将棋セットは、ゴミ箱に放り込んだ。
「話はガラッと変わるが、先週、先々週と続けて、『乳首に触られると気持ちいい』と俺が言うと、れもんちゃんが『チクビ左衛門だね』と応じたことを覚えているか?」
シン太郎左衛門は首を傾げた。
「覚えているだろ?」
「覚えてない」
「説明が手間だから、覚えていることにしてくれ」
「あっ、思い出してござる」
「うむ。それでよい」
「いや、脅しに屈したのではござらぬ。本当に突然思い出したのでござる。れもんちゃん、いきなり何を言い出すのかと訝しく感じたが、れもんちゃんは、ちょくちょく突拍子もないことを言い出しまするゆえ、恐らくそういったことかと合点してござった」
「うん。俺もそんな印象を持った。でも、本当にそうなのか?」
「と言いますると・・・」
「つまり・・・この部屋には、俺とお前以外にも誰かがいるのではないか?」
「ほほう、季節外れの怪談でござるな」
「違う。怪談はもう懲り懲りだ。つまり、俺の乳首が武士化しつつあるとか・・・」
「マジで?」
「毎回言っている気がするが、そういう口のきき方は止めろ。俺もまさかとは思うが、れもんちゃんには不思議なパワーが詰まっている。れもんちゃんは何か異変を感じ取っているのかもしれない」
「う~む。父上の乳首が武士であるとのお疑いでござるな。そもそも身体の一部が武士化するとは嘘臭い」
「お前がそれを言うな。お前が突然、『拙者、シン太郎左衛門』と名乗り出たのも約10年前、そんなに昔のことではない」
「おぉ、そうでござった。気が付いたら、こんな所で、こんな風になっておったのでござる」
「ちなみに、それに先立つ記憶はないのか?」
「それが、その前となると、アヤフヤで断片的で脈絡のない記憶しかござらぬ」
「言ってみろ。お前の前世に関わるものであれば、今こそシン太郎左衛門が誰なのか明かされるかもしれん」
「う~む・・・例えば、若いドクターやインターン、看護師たちを大勢引き連れて大学病院の廊下を歩いている記憶。祭りの出店でお好み焼きを焼いてる記憶。裏長屋で赤子をあやしながら傘張りをしている記憶。腰簑だけを身に纏い、石の鏃を着けた槍を手に猪を追う記憶。東京スカイツリーの見える場所にキッチンカーを停めてクレープを焼いている記憶。夜泣き蕎麦の屋台を引いている記憶。カレー専門店でバイトをしている記憶・・・」
「お前、誰だよ?そのごちゃごちゃした記憶の数々、一つの人生に収めるには時代的にも振幅が激しすぎるし、後半はほとんど飲食業だ」
「食は大切でござる」
「当然だ。ただ俺は、今、食の重要性を問題にしていない。お前が武士だということの尤もらしい説明を期待して聞いてたら、辛うじて武士を感じさせるのは裏長屋に住む傘張り浪人だけだ。お前の記憶を信じれば、次回からクチコミの出だしは、『我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士(おそらく浪人)の生まれ変わりなのだが、財前教授や縄文人、またクレープ屋さん等であった可能性も否定できない』としなければならん」
「記憶などというものは所詮頼りないものでござる」
「それはそうだ」
「加えて、拙者、誰かの生まれ変わりではござらぬ」
「そうか・・・まあいい。目下最大の問題はそんなことではない。俺の乳首が武士化しているかどうかだ。俺たち二人だけなら、クチコミのセリフもどっちが言ったかか一目瞭然だが、今後『ござる』調のヤツが増えてしまったら、誰の発言なのか一々書き記さなければならなくなる。とても煩わしい。大問題だ」
「うむ。拙者は賑やかになって嬉しい」
「シン太郎左衛門、話し掛けてみろ」
「ん?」
「チクビ左衛門だか知らんが、いるとすればお前の同類だ。お前の呼び掛けには応えるだろう」
「うむ。承ってござる」
シン太郎左衛門は立て続けに咳払いをすると、「では、参りまする」
「頼んだぞ」
「頼もう・・・頼もう・・・」
応えはなかった。
「・・・誰もおらぬようでござる」
「シン太郎左衛門、そんな遠慮がちにやっては埒が明かん。ズカズカと家に上がり込む感じでいけ」
「無礼ではござりませぬか」
「問題ない。俺が大家だ」
「うむ。では・・・御免つかまつる・・・もし、入りまするぞ・・・ガラガラガラ・・・これは玄関を開けた音でござる」
「察してる。続けてくれ」
「うむ・・・誰かおられませぬか。拙者、シン太郎左衛門と申す武士でござる。チクビ左衛門殿、ちと話がござる・・・チクビ左衛門殿・・・」
やはり応えはなかった。
「誰も答えないな。シ~ンとしている」
「留守でござる」
「念のため、もう一度やってみろ」
シン太郎左衛門は「チクビ左衛門殿、おられませぬか!チクビ左衛門殿~!!」と声を張ったが、やはり返事はなかった。
「何の気配もない。ただシ~ンとしてござる。シ~ン太郎左衛門でござる」
「・・・オヤジギャグだ」
「うむ。オヤジギャグでござる」
「実は、れもんちゃんはオヤジギャグが好きなのだ」
「拙者も存じておりまする。以前、れもんちゃん自身が、そう仰せでござった」
「つまり『シ~ン太郎左衛門』は、れもんちゃんに受けると思って言ったんだな」
「この場面は、れもんちゃんにバカ受けでござる」
「俺には、とても詰まらなく思えた。念のために、もう一度言ってみろ」
「シ~ン太郎左衛門」
「いや、俺は、もう一度チクビ左衛門に呼び掛けてみろという意味で言ったんだ。でもいい。この話、これ以上展開しそうな気がしない」
「うむ。そもそも、チクビ左衛門のいる・いないは、れもんちゃんに確認すれば分かることでござる」
「・・・本当だね」
そして、れもんちゃんに会ってきた。分かっていたが、れもんちゃんは、やはり凄すぎた。
帰り際、「れもんちゃんには、チクビ左衛門が見えるの?」と尋ねたら、れもんちゃんは可愛く首を傾げて、「それは言えない。ヒミツだもん」とのことだった。
帰りの電車で、シン太郎左衛門に、
「チクビ左衛門については秘密だと言われた」
「うむ、れもんちゃんには秘密が一杯でござる」
ということで、私の胸の辺りにムスッと押し黙った武士たちがいるかもしれないという疑念は今のところ晴れていない。
シン太郎左衛門と沈黙の武士たち様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは生き物たちの記録)様
ご利用日時:2023年10月15日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士らしい。今更、実は武士ではないとなったとしても、誰にも言わず黙っておくだろう。
先週のはじめ、偏頭痛がひどくて仕事を休んだ。水曜日は、頭痛は治まっていたが、ズル休みして、昼前までぐっすり寝た。腹も減ったし、コンビニに買い出しに行くため、モゾモゾと布団から這い出すと、シン太郎左衛門が、
「泥のように眠っておられましたな」
「うん、お蔭ですっかり生き返った」
「・・・こうして見ると、父上は、日本人離れした顔立ちですな」
手の甲で両目を擦りながら、「そうかね。どこの国の人に見える?」
「モグラ。穴から引っ張り出されたモグラにしか見えぬ」
「なるほど」
「コンビニに行く前に髭を剃ってくだされ。その顔のまま、万が一にも、れもんちゃんに出くわしたら一大事でござる」
「こんな何もない田舎町に、れもんちゃんが現れるはずがない。れもんちゃんは女の子休暇中だから美容院に行って、可愛さに磨きをかけている頃だろう」
「間違いござらぬ」
「そういうことはないと思うが、空飛ぶ円盤を見掛けたら、急いで引き返して髭を剃ろう。れもんちゃんは、れもん星人だから、移動には円盤を使うのだ」
「うむ。ところで、れもんちゃんの円盤はどんなものござるか」
「見たことがない。多分、軽だろう。色は、レモンイエローだ」
「うむ。きっとナンバープレートには『れもんちゃん』と書いてござるな」
そんな他愛ない話をしながら、マスクで顔を隠して家を出るなり、隣家の奥さん、つまりニートの金ちゃんのお母さんに出くわした。
私の顔を見るなり、「あら、お休みでしたの?」と、嬉しそうに話し掛けてきた。私に会って嬉しそうにする人間は滅多にいないし、金ちゃんママにしても平素は特に愛想がいいわけでもない。多分頼み事だと思ったら、案の定、「実は・・・」と頼み事を始めた。
彼女の話を纏めれば、「夫婦揃って法事のため明日の晩まで家を空けねばならぬが、留守を頼むはずの息子がインフルになってしまい、ペットの世話と、出来れば息子の世話も併せて頼みたい」ということだった。金ちゃんはともかく、ラッピーともんちゃんの為なら一肌脱ぐしかなかった。
金ちゃんパパママの車が出て行くと、私は預かった鍵で隣家の玄関のドアを開けた。
「よしよし、米が炊けた匂いがする」と言うと、シン太郎左衛門は呆れた様子で、
「金ちゃんのお母上、驚いておりましたぞ」
「そうか?」
「うむ。留守番は任せてもらって結構だが、任された以上、徹底的に留守番して、ラッピーたちの散歩を除いて一歩も家を出ない、買い物にも行かない、腹が減ったら、お宅の冷蔵庫にあるものを食べる、早速飯を炊いてくれ、とは中々言えないことでござる」
「そうか」
「留守番ぐらいで恩義に感じてもらう必要もないし、お土産は絶対に要らない、お土産に美味いものはなく、持て余すだけだ、とも、普通は言わぬ」
「俺は儀礼的なことに興味がないのだ」
「うむ。少しは興味を持たれた方がよろしかろう」
金ちゃん宅に上がり込むと、まずダイニングキッチンに入り、炊飯器の飯を確認し、冷蔵庫から食材を選び、調理を始めた。
「チンジャオロースを作る」
「うむ」
「卵スープ付きだ」
「うむ」
「デザートはシャインマスカットだ」
「うむ」
「整理も行き届き、使いやすい、よい台所だ。冷蔵庫も食材満載だ。楽しくなってきた」
「他人の家だという遠慮がまるでござらぬな」
「腹拵えを済ませたら、ラッピーともんちゃんと散歩だ」
「うむ」
「帰ってきたら、れもんちゃんのことを考えながら昼寝だ」
「楽しみでござる」
昼飯を済ますと、コーヒーを淹れて、ゆっくりと寛いだ。ラッピーともんちゃんの居場所はリビングだった。食器洗いを済ますと、リビングのドアをノックして中に入った。ラッピーは雌のラブラドールレトリバーで、もんちゃんはキジトラの雌の子猫だった。早速ラッピーが歓迎して飛んできたが、もんちゃんは警戒して部屋の隅に引っ込んでしまった。
ラッピーの澄んだ優しい眼差しはステキなものだった。彼女の頭を撫でながら、「お前は、れもんちゃんの次に美しい目をしているな」
ラッピーにインディアン・ダンスを教えたり、一緒に「オクラホマ・ミキサー」を踊ったり、楽しく過ごしていると、火照った顔の金ちゃんが入ってきた。金ちゃんは、「職業:ニート」が似合う、30前後のフリーのプログラマーだった。
「お、金ちゃん。インフルだってな。飯は食ったか?」
「プリン、食べました」
「何個?」
「一つ」
「もっと食え。プリンばかりでは飽きる。冷蔵庫にカップゼリーがあったから、それも食え。交互に合計50個食え。それで水飲んで、寝とけ。インフル野郎め、治るまで二度と出てくるな」
「ひどい言い方だなぁ」
「ひどくない。お前の為だ。俺に移したら、お前がラッピーの散歩をすることになるぞ」
「分かりましたよ」と出て行った。
廊下を歩く金ちゃんの足音を聞きながら、「よし、みんな、これから散歩に行くぞ。全員、集合。ラッピー、もんちゃんを連れといで。シン太郎左衛門、みんなに本日の散歩に関する注意事項を伝えろ」
「えっ、拙者が?」
「そうだ」
散歩にあたっての注意事項など一つも思い浮かばないシン太郎左衛門が、クラブロイヤルの利用規約の禁止事項を読み上げて、「1つ、18歳未満の方。2つ、暴力団関係者またはそれに準ずる方。3つ、・・・7つ、同業者のご利用、スカウト、引き抜き行為の禁止。8つ、カメラ・ビデオ機器による撮影・録音及び盗撮・盗聴行為の禁止・・・」などと言っている間に、私はラッピーともんちゃんにお揃いのタータンチェックのハーネスを付けてやった。
「よし、行こう。みんな、注意事項を守れよ。特にシン太郎左衛門、お前が一番心配だ」
「なんで拙者が」
爽やかに晴れた、泣きたくなるほど素敵な散歩日和だった。
「もんちゃんは川に嫌な思い出があるから、丘の上の公園に行こう」
坂をテクテク登り始めてから5分で、もんちゃんは早々疲れてしまい、ラッピーの背に乗せてやった。平日のこの時間、公園に向かう道には我々以外誰もいなかった。
「人目がないから、シン太郎左衛門、お前も出ていいぞ」
「おお、それはありがたい。ラッピー殿、背中に失礼致しまする」
公園にも人影はなかった。小さな公園で、遊具は滑り台とブランコがあるばかり。ベンチに腰を下ろすと、遠くの景色の隅々まで見渡すことができた。ひんやり冷たい風に吹かれてながら、雲一つない青空を見上げた。ラッピーともんちゃんが、じゃれ合っていた。
「動物は可愛いな。れもんちゃん以外の人間には、ほぼ興味が持てない。動物は可愛い」
「父上、少し寒くなってきました」
「だろうな、お前は全裸だからな。パンツの中に戻るか?」などと話していると、突然、ラッピーが南の空を見詰めて、一声吠えた。
ラッピーが見詰める先に目を向けると、小春日和の抜けるような青空を、かなり高度を下げて、ゆっくりと西の方角に向かって、超巨大な飛行物体が音もなく飛んでいた。
「シン太郎左衛門・・・れもんちゃんの空飛ぶ円盤は、軽ではなかった。いや円盤ですらないぞ。ほれ」
私が指差す先を見て、シン太郎左衛門は、「お、おっ!」と声を詰まらせた。
「サイズで言えば空母だな。空飛ぶ空母だ」
「あれが、れもんちゃんのマイカーでござるか」
「ああ、レモンのラッピングがしてあるからな。れもんちゃん以外に考えられない。パッと見たところでは長さは約500メートルだ。世界最大の空母よりもデカい」
「れもんちゃんは、小さな身体ながら、スケールが大きい女の子でござる」
「うん。それにお茶目でもある。船体に『マジカル・ラブリー・プリンセスれもん』と大書きしてある。その周りに輪切りにしたレモンや横から見た紡錘形のレモンが可愛らしく散り嵌められている。空飛ぶラッピング空母だ」
「うむ、自ら『マジカル・ラブリー』とは、中々言えませぬ」
「真実だから許される。むしろ、控え目すぎるぐらいだ」
「間違いござらぬ」
「ミサイル発射口みたいな物騒なものも、たくさん付いてるな」
「宇宙には危険が一杯でござる。流星が飛んできたら、レーザー光線やミサイルを発射して破砕せねばならぬ」
「れもんちゃん、カッコいいな」
「れもんちゃんは、カッコいいのでござる」
「きっと、れもんちゃんの行き付けの美容院は、れもん星にあるのだ。今、そこからの帰りだ」
「うむ。そう考えれば、れもんちゃんの『美容院に行ってきたよ~ん』という言葉には、大変な重みがございまするな」
「うん。れもんちゃん、凄いな・・・」
「やり過ぎでござる・・・」
「れもんちゃんは、いつもそうだ。可愛すぎるし、エロすぎるし」
「しかし、父上・・・こんなクチコミ、誰も信じますまい。あからさまに作り話に見えまする」
「それを言えば、お前が話をしている時点でアウトだ。れもんちゃんの凄さは、事実性の次元に囚われてはいないのだ」
「うむ。間違いござらぬ」
「よし、それじゃ、みんな」と私はグループのメンバーを呼び集めて、一列に並ばせた。
ラッピーは、のどかに飛行を続ける宇宙戦艦に向かって恋しさの籠った長い遠吠えをした。
「素晴らしい眺めだな」
「厳粛な光景でござる」
「よし、それでは、みんな、れもんちゃんに敬礼」
我々4人、いや正確には1人と2匹と1本は横一列に並び、敬礼の仕方を知る者は敬礼をして、優美に飛行する巨大な宇宙船が日の光を反射させながら視界の彼方に消え去るまで見送った。
「よし、帰ろう」
「うむ、そう致しましょう」
「シン太郎左衛門、れもんちゃんのお蔭で楽しい時間が過ごせたな」
「れもんちゃんは、やはり桁違いでござる」
「次に会ったとき、れもんちゃんの髪はサラサラだぞ」
「楽しみでござる」
縺れに縺れた二本のリードを解きほぐすと、我々は公園を後にした。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。れもんちゃんは、やはり桁違いに凄かった。髪の毛はサラサラだった。
「れもんちゃんの行く美容院って、どこにあるの?」と訊いたら、「おうちの近くだよ」との答えであった。
我々は、その「おうち」が、れもん星の実家を意味することを知っている。
シン太郎左衛門(あるいは生き物たちの記録)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、『れもんちゃんの素顔』に迫る様
ご利用日時:2023年10月8日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士であるらしい。当人がそう言っている。もし僧侶だったら、多分こんなに長いシリーズにはならなかっただろう。
今日も、れもんちゃんに会ってきた。今回も、れもんちゃんはやっぱり凄かったので、帰りの電車で早速クチコミを書こうとスマホを取り出すと、シン太郎左衛門が「父上、またクチコミを投稿されるお積もりですな」と言ってきた。
「うん、そうだよ」
「最近、似たような書き振りのものが多い。今回は趣向を変えましょうぞ」
「同じ人間が書けば、似たようなものになる。お前なら、どう書く?」
「ヨーロピアン・テーストがよいと考えまする」
全く意味が分からなかったが、「お前がそうしたいなら、それでいいよ」と答えた。
「更に今回は、お色気を大幅増量で、れもんちゃんの真の姿に迫るというのでは如何でござるか」
「ヨーロピアン・テーストで、お色気満載ね。いいね」
「では、宜しくお頼み申す」
「いや。そうではない。今回は、お前が言うとおりに書いてやる。想いの丈を語ってみろ」
「マジで?」
「だから、そういう言葉遣いはやめろ。品がない」
「うむ・・・拙者が書きまするか」
「そうだ。ヨーロピアン・テーストだ」
「うむ」
「更にお色気増し増しだ」
「うむ」
「俺には、さっぱりイメージ出来ないから、お前に任す」
自らの発言に追い詰められ、しばし沈黙したシン太郎左衛門だったが、「うむ、今更後には引けませぬ。武士の覚悟をお見せ致しましょうぞ。ただ、拙者のれもんちゃんに対する想いは無限に大きい。途轍もなく長くなってもよろしいか」
「お前の思うとおりにしたらいい」
「うむ・・・しかし、ものには限度というものがありまする。野放図に長くては周りに迷惑。短くしてもよろしいか」
「どっちでもいい」
「中ぐらいでも?」
「問題ない」
「中ぐらいより少し長くても?」
「さっさと始めろ」
「うむ。拙者、一度始めますれば、立て板に水でござる。書き漏らしのないよう、お頼み申しまする」
「うむ、安心しろ」
「では、始めまする」
「よし」
「・・・本当に始めてよろしいか」
「さっさとやれ」
「・・・いや、その前に『れもんちゃん音頭』で景気付けを致しましょう」
「いらん。さっさと始めろ」
「うむ。では、始めまする」と、シン太郎左衛門は咳払いをして「拙者、フジヤマ シン太郎左衛門は武士にて候」
「うん」
「これは自己紹介でござる」
「分かってるよ。ちなみに、『フジヤマ』って、どんな漢字?」
「『不二山』でござる。『富士山』でもよろしい」
「分かった。なぜ俺と違う名字なのかは分からんが、まあいい。壮大でよい名前だ」
「いかにも、よい名前でござる。富士は日本一の山でござる」
「知ってる」
「れもんちゃんは宇宙一でござる」
「それも知ってる。次、行こう」
「天保山は日本一低い山でござる」
「早く先に行って」
「うむ。ここから一気にお色気満載で、れもんちゃんに迫りまするが、その前に『れもんちゃん音頭』で景気付けを致しましょう」
「くどい。前置きはもういいから、先に行け」
「では」と、シン太郎左衛門は、5、6回は連続して咳払いをした上で、
「それでは。え~、いわゆる、れもんちゃんのオッパイは・・・」
「ちょっと待て、一つ言い忘れてた。クチコミには、不掲載になることがあるからね。お前が普段俺に話しているような内容だと、投稿を読んだ途端にクラブロイヤルの店長の表情が暗くなり、れもんちゃんと相談の上で然るべき対応を取ることになる」
「つまり?」
「不掲載」
「うっ・・・これだけ苦労して書いたものが不掲載でござるか」
「いや、お前はまだ何もしていない。辛うじて自己紹介を済ませただけだ」
「う~む、オッパイはいけませぬか」
「オッパイがダメだとは言わないが、お前がどう続けるか俺にはおおよそ分かるから一応釘を刺しておいた」
「そんな言い方では何をしてよいかが杳として知れぬ。絶対に不掲載となる例を教えてくだされ」
「たとえば、・・・」と一例を示してやると、シン太郎左衛門は、
「それは、まさしく拙者が言わんとしたこと。そう書けば、不掲載でござるか」
「ああ。間違いない」
「・・・それでは、れもんちゃんのオッパイでなく、れもんちゃんのお尻に代えても・・・」
「オッパイだろうが、お尻だろうが、お前が平素れもんちゃんを語っている言葉は、悉く不掲載だ」
「うっ・・・まさか意中の文章が悉く禁じられるとは思いも寄りませなんだ。拙者、まるで存在を否定されたような悲しい気分でござる。こんなことなら自己紹介もせねばよかった」
「そうしたら、何もなくなってしまう」
「今回は、クチコミをパスするしかありませぬな」
「いや、それは出来ない。『今日もクチコミを書くね』と、れもんちゃんに約束したからな。書けないと言うなら、シン太郎左衛門が馬鹿だから、こんなことになったと、れもんちゃんに説明するしかない」
「なんと!!それは困る!!」
「では書け!!」
「しかし、拙者には、オッパイもお尻も禁じられてござる」
「それがどうした。れもんちゃんは魅力がテンコ盛りだ。他にも書くことはあるだろ」
「まさか、父上・・・」
「何が、まさか、だ」
「・・・父上、まさか、アレを描けと仰せでござるか」
「・・・『アレ』と言って、お前が何を考えているか分からんが、まず俺が思ったのは、あの可愛いお顔について書いたらいいということだ」
「もちろん、拙者の思ったのも同じことでござる。しかし、れもんちゃん程の美人になれば、顔の描写が一番エロくなる。間違いなく不掲載でござる」
「そんな話、聞いたこともない。爽やかに書けばいいだけだ。加えて、れもんちゃんは、小顔で細面にしたフランス人形のような華やかな顔立ちの美人だから、これで、お前が課した『ヨーロピアン・テースト』という無理難題もクリアできる」
「そんなものでござるか」
「そうだ。れもんちゃんはナチュラル・メイクだが、使ってるコスメは、メイド・イン・フランスに違いない。これまた、ヨーロピアン・テーストだ」
「分からぬ言葉がテンコ盛りでござる」
「説明してやる。ナチュラル・メークとは、つまり・・・見たことはないが、れもんちゃんは素顔でも美人だ」
「間違いござらぬ」
「その素材の素晴らしさを活かす、あっさり自然なお化粧がナチュラル・メークだ」
「いや、『ナチュラル・メーク』は存知ておりまする。拙者が分からぬのは、『ヨーロピアン・テースト』の方でござる」
「・・・その言葉を持ち出したのはお前だぞ」
「知らぬものは知らぬ。今日、待合室で隣におられた武士が、先日、伊勢・志摩に旅をした折、ヨーロピアン・テーストの村に立ち寄ったが、大変に趣があった、ヨーロピアン・テーストは良いモノでござると述べておられたばかりのことでござる」
「ちょっと目新しいというだけで、何だか分からぬモノを拾ってきおって、お前はカラスか。それに隣の武士に話し掛けるなと言っておいたはずだ!」
「向こうから話し掛けてきたのでござる!」
しばらく気まずい沈黙が続き、今回はどうにもクチコミが纏められないのではないかと不安になってきた。
「シン太郎左衛門、喧嘩をしている場合ではない。二人で力を合わせて、れもんちゃんのお顔をテーマにクチコミを纏めよう」
シン太郎左衛門は、苦虫を噛み潰したような顔で、「こればかりは、正直自信がござらぬ」
「なぜだ。お尻やオッパイについてはあんなに表現力が豊かなのに、お顔の描写のできぬはずがない」
「それが出来ぬ。父上、考えてもみてくだされ。れもんちゃんと一緒の時間の大半、れもんちゃんのお顔と拙者は物理的に離れているのでござる」
「言われてみれば、そうだな」
「拙者、眼鏡が要るほど視力が落ちておりまする故、なかなか、れもんちゃんのお顔がしっかり見えませぬ。れもんちゃんのお顔が、しっかり見えるほどに拙者にグッと接近するのは、ある限られた場面のみでござる」
「分かった。皆まで言わんでいい」
「お色気増し増しにするなら、ここですぞ」
「いや、もういい」
「うむ。今申した理由で、拙者、れもんちゃんのお顔を思い浮かべると、心拍数がガッと上がってしまい、到底クチコミどころではござらぬ」
「なるほど・・・正当な理由だ」
「うむ、正当な理由でござる」
「今日、我々がクチコミを書けないのは、我々親子が揃って馬鹿だからではない」
「うむ。我々は被害者でござる。れもんちゃんがエロすぎるのが悪い」
「そうだ。れもんちゃんが可愛すぎて、エロすぎるから、こういうことになった。約束が果たせなかった責任は、我々ではなく、れもんちゃんにあるのだ」
「うむ。間違いござらぬ。ところで、父上・・・」
「なんだ?」
「れもんちゃんのお顔をもっとしっかり見たいから、眼鏡、買って」
「眼鏡?お前に眼鏡は似合わん」
「じゃあ、レーシック」
「・・・考えとく」
ということで、結局、今回、シン太郎左衛門は、れもんちゃんの素顔に迫ることはできなかった。
シン太郎左衛門、『れもんちゃんの素顔』に迫る様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは神戸のベンチで総集編)様
ご利用日時:2023年10月1日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。しかし、サムライではないらしい。どういう理屈かは知らない。
どうでもいいことだが、私は普通の勤め人である。平日は満員電車に乗って職場に通っている。先週は、退屈な会議の類いが目白押しで、毎日ゲンナリしていた。
火曜日の午後も延々会議だった。その会議中に、シン太郎左衛門が突然話し掛けてきた。「早くれもんちゃんに会いたいな~。父上、今日は何曜日でござるか」
彼と私の会話が、どんなメカニズムで成立しているのかは分からないが、口を動かす必要もないし、周囲の人間が聞き取れるものではないようだ。微弱な振動が身体の中を伝わったり、親子だけが共有する特別な周波数が使われているのだろう。
普段は「仕事中だ」とすげなくあしらう所だが、ド退屈な会議だし、声を潜めて、
「まだ火曜日だ」と答えた。
「拙者、実は曜日がよく分かりませぬ。火曜日の次は日曜日、つまり、明日が、れもんちゃんに会う日でござるな」
「違う」
「なんと・・・ああ、そうでござった。火曜日の次が月曜日で、その次が日曜日、れもんちゃんに会う日でござる」
「順番が逆だ。お前は今、過去に向かってタイムトラベルしている。れもんちゃんに会うのは、5日後だ」
シン太郎左衛門、眉間に皺を寄せ「マジで?」
「そういう言葉遣いはよせ。品格を疑われる」
「う~、まだ5日もござるか。父上は、よく我慢できまするな」
「いいか。俺の人生は、退屈や愚劣なこととの、終りのない戦いだ。俺の世界から、れもんちゃんを除けば、残りは全て『下らないこと』と『下らなすぎて耐えられないこと』の2つにスッキリ分類できるのだ。我慢には慣れっこだ」
「う~む。父上がどうお感じかは存じませぬが、拙者には、その世界、何とも気楽に見えまする」
「表向きはな。実際に、身を置けば分かる。れもんちゃんがいなければ、私はいつ自棄を起こすか分からん程度まで、うんざりしているのだ」
「なるほど、そんなものでござるか。ところで、今、父上は何をしてござるか」
「何というほどのことはしていない。俺を含め15人ほどのオッサンが集まって、読めば分かる書類の読み聞かせをしている。中身の無さでは日向ぼっこレベルで、出席者の表情の沈痛さでは謝罪会見に似ている。下らなすぎて耐えられない」
「うむ・・・」と、シン太郎左衛門、少し考えて、「『れもんちゃん音頭』でも歌いましょうか」
「そういう状況ではない」と申し出を断ろうとしたとき、ふと気が変わった。
「うん。小さい声で歌ってみて」
「畏まってござる」
「ただし、本当に小さな声でね」
「うむ。如何様にでもなりまする。拙者、最近知りましたが、右の玉を捻ると、音量が調節できまする」
「玉って、お前の側にいるヤツ?」
「うむ。右の玉は音量ツマミでござる。逃げ回るのを押さえ付けて捻りますれば、拙者の声が大きくなったり、小さくなったりする」
「・・・ちなみに、左の玉は?」
「エコー」
「マジか?」
「拙者、ウソは吐きませぬ」
「玉々に、そんな機能があったんだ・・・知らんかった。そしたら、音量控えめで、エコーを少し効かせてみて。それと、今回は苦労左衛門を呼ばないでね」
会議はその後かなり楽しかった。エコーの効いた『れもんちゃん音頭』をバックに、財務部長が重々しい口調で資料を読み上げる様が強烈に下らなすぎて、笑いを押し殺すのが大変だったし、その後も会議が終わるまで思い出し笑いを抑えるのに必死だった。長い時間、全身を戦慄かせていたので、最後には、すっかり体力を使い果たし、会議が終わっても、しばらくは椅子から立ち上がれなかった。
大体こんなふうに、1週間を乗り切った。
そして、今日、またしても日曜日。
鬱陶しい1週間を乗り切った安堵も手伝って、昨晩は、れもんちゃん前夜祭として、親子そろって遠足前日の小学生のように大ハシャギだった。そして、その勢いそのまま、今朝はいつもより相当早く目が覚めてしまった。
「シン太郎左衛門、起きたか?」
「起きましてござる」
「日曜日の朝だ」
「へへへへ。れもんちゃんの日でござる」と、シン太郎左衛門はだらしなく笑った。
「日曜日だ」
「へへへへ、れもんちゃん、可愛い」
「日曜」
「へへへへ、れもんちゃん、美人」
「ニチ」
「へへへへ」
「ニ」
「・・・それでは笑えぬ」
「なるほど。『れもんちゃん反応』は最低でも2文字を必要とするようだが・・・れ」
「へへへへ、れもんちゃん、エロ美人」
「ただし、『れ』だけは特別である、と。まあいい。『れもんちゃん反応』の実験をしたせいで、目が冴えてしまった」
とりあえず起きて、朝食を済ました。時計を見たら、まだ6時前だった。
シン太郎左衛門は、「父上、家にいても仕方ない。『レッツゴー、れもんちゃん!!』でござる」と言うが、出掛けるには、さすがに早すぎた。
「今、何時だか分かってる?卯の刻、明六つだぞ」
「うむ。それは確かに早い。普段から早々に家を出て、神戸駅周辺で持て余した時間を潰すのに四苦八苦してござるのに、今日は計算上いつもより更に5時間余計に持て余すことになりまするな」
「計算上だけでなく、実際そうなるのだ。もう少し家にいよう」
「いや、一度武士がこうと決めた以上、一刻の猶予もなりませぬ。父上、『レッツゴー、れもんちゃん!!』の時間でございまする」と、シン太郎左衛門は声を凄ませた。
渋々身支度をして、家を出たが、外はまだ暗かった。
ここから長い1日が始まった。
神戸駅に着いた。
ジタバタ動き回って、無駄に体力を使いたくなかったので、缶コーヒーを買って、バス乗り場のベンチに腰を下ろした。シン太郎左衛門は電車に乗った途端に眠ってしまい、まだ寝ているようだ。
「シン太郎左衛門、話をしよう」と誘ったが、返事がない。
しょうがないので、神戸駅周辺を少し散歩したが、店も開いていないし、また缶コーヒーを片手にベンチに舞い戻った。そんなことを何度となく繰り返した。そのうち身体がコーヒーを受け付けなくなったので、スポーツドリンクに切り替えた。味が変わったせいか、妙に美味く思えて、アッと言う間に飲み干した。時計を見ても、神戸到着から時間はほとんど経っていなかった。
「れもんちゃんに会うまで、まだ5時間以上もあるのか」
持ってきた本は電車の中で読み終えていたし、スマホを弄る気にもならなかった。間が持たないので、また缶コーヒーを買った。
そうこうしている間に、シン太郎左衛門が目を覚ました。
「もう神戸に着きましたか」
「ああ、とっくの昔にな」
「で、今何時でござるか」
「まだ後5時間ほど時間を潰さねばならん」
「悲惨でござるな」
「お前のせいだ」
「ところで父上」
「なんだ?」
「オシッコ」
「そうか、ちょうどいい。俺も行きたかった」
公衆便所で用を済ますと、またバス乗り場のベンチに戻ったが、途中で自販機で缶コーヒーを買おうとしたとき、
「父上、待たれよ。拙者が知らぬ間に、相当コーヒーを飲まれましたな。拙者の頭の上で、お腹がチャプチャプ鳴ってござるぞ」
「そうか」
「頭上に氷枕が吊るされているようで不快でござる。ましてや、れもんちゃんと会っている間に、用が足したくなっては一大事。お控えなされませ。5時間のうちに、氷枕を空にせねばなりませぬ」
「分かった。ただ、暇を持て余すと、コーヒーに手が伸びてしまうから、何でもいいから、話が切れないようにお前も協力しろよ」
「御意」
それから二人は、れもんちゃんに対する想いを語り合い、れもんちゃんを褒め称えたばかりでなく、「れもんちゃんしりとり」にうち興じたり、二人で「れもんちゃん絵描き歌」を歌って似てない似顔絵を紙が尽きるまで描いたり、とにかく必死になって、有り余る時間を出来るだけ有意義に過ごそうと頑張った。それは、やがて『シン太郎左衛門シリーズ』の総集編の様相を呈していった。シン太郎左衛門に「れもんちゃん音頭」を歌わせて、歌詞を覚えている1番だけは合唱もした。もちろん、その合間合間、シン太郎左衛門の「父上、オシッコ」に促されて、便所にも行った。
ちなみに、今回、「れもんちゃん音頭」のラップの歌詞は一部が、
自販機見つけて缶コーヒー
何本飲んだか、馬鹿おやじ
歌えど、踊れど、しりとりすれど
オシッコしたいが先に立つ
ベンチとトイレを行ったり来たり
同じ朝顔、見飽きたぜ
と変えられていた。
・・・これぐらいにしておくが、実際の感覚で言うと、この10倍の文章を書き連ねても足りないぐらいだった。
やっと時間になったので、クラブロイヤルに向かった。
れもんちゃんに会ってからは、時間はアッと言う間に過ぎた。今日は殊更短く思えたが、それは単に神戸駅周辺で朝から空騒ぎをしたことに因るものではない。れもんちゃんが、またしても大幅なパワーアップを遂げていたことが最大の要因である。
れもんちゃんの余韻によって、クラブロイヤルを出て以降、シン太郎左衛門はずっと「へへへへ」と、だらしなく笑っている。
れもんちゃんが、どこまで凄くなるのか、私には全く想像もできない。
シン太郎左衛門(あるいは神戸のベンチで総集編)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門(あるいは着脱式の武勇伝)様
ご利用日時:2023年9月24日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士を自称している。それが何を意味するのか、私にはよく分かっていないが、立ち入るのは面倒なので、受け流している。
日曜日の朝。
今日も、れもんちゃんに会いにいくから、二人ともニコニコ笑顔で過ごしていた。
と、シン太郎左衛門が、「『シン太郎左衛門シリーズ』も早20回を数えまする」と、なんとなく誇らしげだ。
「20回か・・・もうそんなになるのか・・・」と言ってはみたが、何の感慨もなかった。
「それもこれも読者の皆様のご愛顧の賜物でござる」
「『読者の皆様』って、誰のこと?」
「それは・・・れもんちゃん」
「そうだ、れもんちゃんだ。れもんちゃんだけだ。少なくとも俺は他の読者の存在を感じたことはない。れもんちゃんは、『この前来てくれたお客さんが、シン太郎左衛門、面白いって言ってたよ』とか言ってくれるが、優しいウソに決まってる。こんなもの、面白いはずがない」
「れもんちゃんしか読んでいない上に、唯一の読者であるれもんちゃんにも余計な気を使わせているだけということでござるな」
「そういうこと」
「我々親子、相当にイタい奴らでござる」
「そういうこと。お前、まさか世間で『シン太郎左衛門シリーズ』が人気沸騰で、ファンレターの一つでも来ると期待してたのか?」
「うむ。そのうち『時下益々の御活躍、お慶び申し上げ候。貴殿のシリーズ、毎週、鶴首致しおり候』というメールでも来るかと」
「そんなことあるか」と笑い飛ばしかけたが、苦労左衛門の件が頭を過り、急に不安になった。
「お前、まさか変なことしてないよな?」
「うむ。変なことはしてござらぬが・・・」
「が・・・?」
「クラブロイヤルの待合室で隣りに誰かおられれば、声をかけまする。『もし、お隣の御仁。不躾ながら、貴殿、武士ではござらぬか』と訊いて、『麿は武士ではおじゃらぬ』とあれば、『これはお公家さま。ご無礼致しました』と詫びまする。『いかにも拙者、武士でござる』とのことであれば、れもんちゃんを宣伝するが、決まって『れもん姫のご高名はかねがね聞き及びまするが、確かいつも予約が一杯のはず』との事でござるによって、『シン太郎左衛門シリーズ』を紹介し、『拙者、このシリーズに出演してござる。是非ご一読の上、ご意見・ご要望は、こちらまで』と父上のメールアドレスをお伝えする」
しばし言葉を失った。
「お前・・・そんなことをしてたのか・・・即刻、メアドを変更しよう」
「いや、それには及びますまい。結局、誰も『シン太郎左衛門シリーズ』は読んでない」
「う~ん、それはそうだが・・・いずれにせよ、今後、隣の武士と話すのは止めてね。特に『シン太郎左衛門シリーズ』を勧めるのは絶対止めること。恥ずかしすぎる」
「うむ」
こんな他愛のない会話を交わし、時間になったので、「レッツゴー、れもんちゃん!!」を連呼しながら家を出た。
駅までの道々、隣家の御曹司、ニートの金ちゃんに出会った。正確を期せば、疲労の余り悲壮な表情を浮かべる金ちゃんを引き摺りながら溌剌と散歩するラブラドール・レトリバーのラッピーに出会った。
「ラッピー、いつも元気だね。でも、もう少しお手柔らかにしてあげないと、金ちゃん、死にかけてるよ」と声をかけた。
それから、しばらく一緒に歩いていると、川のそばでラッピーが何を思ったか、突然トップスピードで駆け出した。
「ラッピー、だめ!」
金ちゃんは必死になって追い縋ったが、バタバタとした足取りで今にも倒れそうだった。
「おじさん、助けて!」との叫びに全速力で駆け付けて、金ちゃんの手を離れたリードの端を間一髪掴み取った。
しかし、ラッピーのパワーは、想像を遥かに超えていた。川に向かって猛然と進むラッピーを引き留めることは、私の手に余る難事業だった。
「ラッピー、止まってくれ!」
このまま土手に突き進めば、斜面に足を取られて派手に転び、一気に加速のついた私の身体は、ラッピーさえも追い抜いて、瞬く間に川面に大きな水柱を立てるだろう。
思わず、「シン太郎左衛門、お前も手を貸せ」と叫ぶと、ズボンのチャックがスッと下り、小さな影が宙を舞った。
次の瞬間、シン太郎左衛門は、ラッピーの背に乗り、首輪をしっかりと握り締めていた。ただ「乗りこなしている」と言うのは当たらない。「必死にしがみついている」だけで、何の助けにもならなかった。
「シン太郎左衛門、前言撤回だ。戻れ」
「無理でござる。ラッピーを止めてくだされ」と言ったシン太郎左衛門の声は恐怖に震えていた。
「それができれば、とっくにやっている」
もう土手は目前だった。私の体力も尽きようとしていた。
そのとき、「なんと・・・うむ・・・子猫が・・・畏まってござる。父上、ラッピー曰く、猫が溺れてござる。ラッピーと救出いたす。縄を離してくだされ」
「大丈夫か?」
「心配めさるな。拙者は武士でござる」
「分かった。今日は、れもんちゃんの日だぞ。くれぐれも忘れるな」
「忘れはせぬ。れもんちゃんでござる」シン太郎左衛門は状況度外視で、へへへへと笑った。
私の意思によらず、リードは私の手から離れていた。
黒いラブラドール・レトリバーは、土手の斜面を一気に駆け下ると、静かに流れる川に大跳躍でダイブした。そして、水をくぐって、すぐに頭をもたげた。シン太郎左衛門も一緒だった。二人が目指す先には、確かにキジトラの子猫が流されていた。ラッピーは俊敏な動きで泳ぎ寄り、シン太郎左衛門が手を貸して、子猫をラッピーの背に登らせた。
「拙者が参ったからには、もう心配無用でござる」とネコに語りかけて、シャーと怒られると、シン太郎左衛門はこちらに手を振り、「父上、もう大丈夫でござる。駅で落ち合いましょうぞ。ラッピー殿、忝ないが駅の近くまでお願い致しまする」
私は、土手の遊歩道に立って、彼らを見送った。
穏やかな秋晴れの空の下、子猫とシン太郎左衛門を背に乗せて、悠々と泳ぐラッピーの優美さに、さすがは『チームれもん』のメンバーだと惚れ惚れとしていると、
はあ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたれもん花・・・
川面を渡る風に乗り、シン太郎左衛門の歌声が聞こえてきたが、ラッピーたちが遠ざかるにつれ、やがて聞こえなくなった。
シン太郎左衛門は駅のベンチにポツンと座っていた。隣に座ると、周囲を見回しながらズボンのチャックを下ろし、「戻れ、シン太郎左衛門」と言うと、ヤツは三段跳びの要領で定位置に戻った。カチッというラッチを掛ける金属性の音がした。
「お前が着脱式だとは知らなかった」
「拙者、着脱式の武士でござる」
「なるほどね。世の中には不思議なことが沢山あるなぁ。でも、最大の神秘は、やっぱり、れもんちゃんだ」
「当然でござる」
「これまで何の武勇伝もなかったお前だが、今日、まったく畑違いのジャンルにせよ、小さな武勇伝を作ったな。これをクチコミで、れもんちゃんに伝えよう」
「そうしてくだされ」
「それと、お前、川の臭いがする」
「神戸に着いたら、外して洗面所で丁寧に洗ってくだされ」
そのとき、ホームに新快速到着のアナウンスが流れた。
言うまでもないことだが、今日も、れもんちゃんは凄まじかった。
そして家に戻ってから、隣家を訪ねると、金ちゃんの家には新しい家族ができていた。私の勧めによって、そのキジトラの名前は、もんちゃんになった。
さる高貴なお方に因む名前だが、そのまま使うと畏れ多いので、少し変えてある。
シン太郎左衛門(あるいは着脱式の武勇伝)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』様
ご利用日時:2023年9月17日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は剣術の稽古もサボってばかりだし、まずもって本物の刀を持ったことがないと言うのだが、それでも武士であると、当人は主張している。
今日も、れもんちゃんに会ってきた。
それに先立ち、今朝、家を出る前に、シン太郎左衛門との間で一悶着あった。お出迎えのときの、れもんちゃんの笑顔が眩しすぎると、私がうっかり口を滑らせてしまったのが、事の起こりだった。シン太郎左衛門は憤然として、「拙者にも『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拝む権利がござる」と主張し、待合室で呼ばれたらズボンとパンツを下ろして、れもんちゃんとの対面に臨むべしと要求してきた。
「そんなこと出来ると思うか?スタッフさんだけでなく、他のお客さんも見てる前で、そんなことをしてみろ、頭を掻き掻き、『すみませんねぇ』と申し訳なさそうにしていても、出禁はほぼ確定だ。それっきり、れもんちゃんに会えなくなる」
シン太郎左衛門は、こんな分かりやすい説明でも納得せず、
「『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拙者に見せないつもりなら、父上も見てはならん。お出迎えのときには、頭からスッポリ、コンビニのレジ袋を被られませ」などと理不尽なことを言い出した。
「嫌だ。足元が見えなくて危ないし、れもんちゃんに『この人、どうしちゃったの?なんか恐い』って気持ち悪がられる。それでなくても、変なクチコミを書き散らす変な客なのに、これ以上印象を損なってどうする」
しかし、シン太郎左衛門は「『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』に関しては一歩も譲れませぬ」と、徹底抗戦の構えである。れもんちゃんに関することでヘソを曲げたシン太郎左衛門は本当に手が付けられない。
「感動は分かち合えば倍になる、と言いまする。みんなと喜びや感動を分かち合いたいという心もなく、父上はクチコミを書いておられるのでござるか」と面倒臭いことまで言い出した。こうなると、もう普通のやり方では解決しないのだ。
「分かった。そこまで言うなら、どうにか『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を見せてやる」
「『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』、見せてくださりますか」とシン太郎左衛門は満面に笑顔を耀かせた。
「うん。ただ今回限りだぞ」
「一度で我慢いたしまする」
「それに、さっきも言ったように、正面突破を試みれば、出禁が待っている。だから、搦手から攻める」
「うむ、『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拝むには並大抵ではない危険が伴うこと、拙者も充分承知でござる。して、どのような策略を講じておられまするか」
「案内を受けて、カーテンが開いた瞬間、インディアン・ダンスを始める」
「な、なんですと・・・まったく訳が分からん」
「今から半世紀前、小学校の学芸会で踊ったきりだが、簡単すぎて忘れようにも忘れられない。いきなり、それを踊る。れもんちゃんは唖然として、表情が凍り付く」
「父上、お気は確かか」
「お前は、インディアン・ダンスを見たことがあるか?」
「ありませぬ」
「こんな感じだ」と、一くさり踊ってやった。
「どうだ?」
「なんとも言えぬ気マズさでござる。口を叩きながら『お、お、お、お』と言う、雄叫びのようなものが、身を捩りたくなるほど気持ち悪い」
「だろうな。俺がふざけたことをするのはクチコミの中だけだ。れもんちゃんの前では、一貫して真面目な紳士で通してきた。れもんちゃんも、まさか今日に限って、カーテンが開いた途端、インディアン・ダンスが始まるとは想像もしていない。『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』はカチンと音を立てて凍り付く。瞬間冷凍だ」
「そんなことしていいのでござるか」
「お店の禁止事項に『インディアン・ダンス』とは書いてないが、それでもダメに決まってる。ただ、そのまま勢いで部屋に入って、ズボンを脱ぎながら、事情を説明する。お前が外に出たぐらいのタイミングで、れもんちゃんは状況が呑み込めて、強張った表情が解凍される。お前は、念願の『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を拝むことができるわけだ。どうだ?」
「うう・・・これはひどい。れもんちゃんは本当に健気な頑張り屋さんでござる。拙者、そんな可愛く優しいれもんちゃんを不快な目に遭わしてまで、自分の想いを遂げる気はない。今回の件はなかったことにしてくだされ」
「賢明な判断だ。それでこそ武士だ。今日、れもんちゃんに会ったときに、シン太郎左衛門が、こんな立派な考えを持っていることを伝えよう。れもん姫から特別素敵なご褒美があるだろう」
「特別素敵なご褒美でござるか・・・へへへへ」
シン太郎左衛門のだらしなくニヤけた顔は、ちっとも武士らしくなかった。
そして、れもんちゃんは、今日もやっぱり凄まじかった。
クラブロイヤルからJR神戸駅までの帰り道、シン太郎左衛門と私は、れもんちゃんの底無しのエロさについて、千万語を費やして激論を交わしていた。
神戸駅から新快速に乗っても、激論は止まらない。双方、口角泡を飛ばして、れもんちゃんがどれだけ凄いかを巡って火の出るような大論争を繰り広げた。
自宅の最寄り駅で降りた後も、ホームのベンチで「れもんちゃんエロすぎ問題」を巡る死に物狂いの論戦が再燃し、その余りの熱量に駅舎が炎上し、消防車が出動した。
夜空を焦がすほど燃え盛る駅舎を背にして、我々は家に向かって歩いていった。もちろん激論は続いている。『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』を論点に加えなくても、我々親子にはすでに論じなければならない「れもんちゃん問題」が山積していた。
我々二人の主張は、ほぼ完全に同じだった。しかし、論争には終わりが見えなかった。
シン太郎左衛門と『れもんちゃんの燦然と耀くお出迎えの笑顔』様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門とシリーズ最終回様
ご利用日時:2023年9月10日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。当人はそう言って譲らないし、議論するだけの値打ちもない話だから、ソッとしておいてほしい。
今日も、れもんちゃんに会った。
帰りの電車の中、しばらくはシン太郎左衛門と、れもんちゃんは今日も破格の凄さだったとか、可愛さが五臓六腑に染み渡ったとか、ああだ、こうだ、そうだ、どうだと、れもんちゃんを讃えてまくった。
そのうち、シン太郎左衛門は黙り込み、れもんちゃんの余韻に浸り出したので、私はこうしてクチコミを書き始めた。
どれくらい時間が経ったか、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「父上、またクチコミでござるか」
「そうだ」
「毎回、よく似た話を書いて、飽きませぬか」
「生活の一部になってしまったから、飽きるとか、そういう感覚がない」
「なるほど。ところで、父上、『シン太郎左衛門』シリーズは、最後どのような結末となりまするか」
「そんなこと、考えたこともない」
「それはいかん。拙者、『シン太郎左衛門』シリーズの最終回を考えました。使ってくだされ」
「今回のクチコミで?」
「うむ。父上のお気に召せば、今回使ってくだされ」
「でも最終回なんだよな」
「シリーズ最終回でござる」
「来週も、れもんちゃんと会う予約をしてるけど、そのクチコミは書かないってこと?」
「それはそれで、書いてくだされ」
「来週は『シン太郎左衛門』シリーズじゃないクチコミを書くってこと?」
「もちろん『シン太郎左衛門』シリーズで書く」
「でも、今回が最終回なんだよな?」
「最終回でござる」
「それなのに来週も『シン太郎左衛門』シリーズの続きなの?・・・それとも再放送?」
「クチコミの再放送とは初めて聞く。もちろん新作でござる」
「それじゃ、今回が最終回にならないだろ」
「最終回と最後の回が同じでなければならぬという決まりはござらぬ。今回は最終回でござるが、最後ではない。その後もダラダラと続けるのでござる」
「趣旨が理解できん。そういうことは普通はしない。なんで、そんな面倒くさいことするの?」
「話の性質上、やむを得ない。拙者の考えた最終回はいつ起こるか分からない事件を扱ってござる」
私はどう応じたものか、すぐに考えが纏まらなかった。
「う~ん、確かに『シン太郎左衛門』シリーズは、クチコミとしては異例のものではある。しかし、一応はドキュメンタリーなんだ。堂々と作り話だと言われたら、却下するしかない」
「作り話ではござらぬ。ただ、いつ起こるか分からぬのでござる」
「う~ん。じゃあ、どんな話なの?聞きたくないけど聞いてやる。ホントに聞きたくないけど」
シン太郎左衛門は神妙な顔で、咳払いをすると、「父上、れもんちゃんの故郷がどこか、ご存知か」
「れもん星だ。れもんちゃん自身が言っていた。れもんちゃんは、れもん星人だ」
「いかにも。それゆえ、いつの日か親戚の結婚式に出席するため、れもん星に帰ってしまう」
「そういうこともあるだろうさ。いわゆる帰省だ」
「それを許していいのでござるか」
「止める理由がない。お祝い事だし」
「もし、れもんちゃんが親戚の結婚に参列するとなれば、この最終回が発動いたしまする」
「どういうこと?」
「父上はご存知ないのでござるか、れもん星の結婚式は最短でも5年は続くのでござるぞ」
「うそ~。知らんかった。そもそも俺は、れもん星の風習について何一つ知らん。5年以上も結婚式を続けるのかぁ。れもん星人って、のんびりした人たちだなぁ。れもんちゃんのおっとりしたところは、れもん星人らしさの表れということだな」
「何を悠長なことを仰せでござるか。れもんちゃんが親戚の結婚式で帰省したら、もう二度と会えないかも知れませぬ」
「それは困る。確かに5年は長すぎる。戻ってきてくれたときには、俺たちは土に返ってるかもしれん」
「そうでござる。大変なことでござる。なので拙者は戦いまする」
「戦うの?誰と?」
「れもん星人の催眠光線に操られた武士たちと戦う」
「随分と話が飛躍した。でも、間を埋めなくていいよ。割りと簡単に推測できるからね」
「うむ。このような事態を見越した最終回でござる。前・後編に亘り、れもんちゃんを地球から奪われまいとする拙者・シン太郎左衛門と催眠光線で魂を抜かれた武士たちとの血みどろの闘いを描きまする」
「まさか、それを俺に書かすつもり?」
「うむ。拙者は一人、相手は数千。多勢に無勢でござる。拙者は全身に刀傷を負い、最後は、神戸駅の改札あたりで、感動のセリフを言った後、仁王立ちで力尽きるのでござる」
「そうなんだ。ちなみに、その感動のセリフは聞かせないでね。せめてもの救いとして」
「このセリフが大事でござる」
「いや、いい。却下。100%無理」
「タイトルは『武士よさらば(シン太郎左衛門、暁に死す)』様でござる」
「人の話、聞いてた?却下だって」
「なんと。何ゆえ却下でござるか」
「お前と俺では見えてるものが違うんだ。お前目線では、れもんちゃんのための壮絶な戦闘シーンが繰り広げられて、ヒロイズムに浸れる話なのかもしれないが、俺目線ではそうじゃない。武士といっても、令和の武士には漏れなくお父さんが付いてくる。俺から見れば、神戸の町を歩いていたら、催眠光線を浴びて表情が虚ろな、下半身剥き出しの男たちに突然取り囲まれて、訳も分からぬまま、押しくら饅頭で揉みくちゃにされるという理不尽な話でしかない。全く意味不明だし、生理的にも受け付けない」
「なるほど。つまりは、ミクロとマクロの違いでござるな」
「う~ん。何とも返答のしようがない」
「いずれにせよ。れもんちゃん程エモい娘はこの世に二人といないのでござる。ずっと地球にいてほしい」
「お前がその言葉を使うのは頂けないが、れもんちゃんはまさにエモで、その存在は奇跡と呼ぶべきものだからな」
「それが『シン太郎左衛門』シリーズのメッセージでござる」
「そうだ。ギュッと詰めたら約20文字だ」
「父上は毎週毎週その20文字を何千文字にも膨らませておられる。大変なことでござるな」
「そうだ。やっと分かったか。メッセージの次元では、『シン太郎左衛門』シリーズは毎回が再放送なのだ。ストーリー的にも何の発展もないしな」
「つまり、最終回はとっくの昔に過ぎているということでござるな」
「そういうことになる」
私がそう言ってしまうと、親子揃って、ポカンとしてしまった。しばし時間をおいて、シン太郎左衛門が、「また来週も楽しみでござる」
「そうだな。れもんちゃんには、親子揃って毎週楽しみにしてるんだから、親戚の結婚式に列席するのは止めてね、って頼んでおこう」
「そうしてくだされ」
「ちなみに、れもん星では結婚式が5年も続くって、どうして知ったの?」
「れもんちゃんのことをぼんやり考えているとき、そういうことだったら、嫌だなぁ、と思ったのでござる」
「・・・別に、れもんちゃんから聞いたんでもなく、苦労左衛門の予知とかですらないんだ・・・」
「うむ。拙者の単なる臆測でござる」
最早手遅れ、歯ぎしりをするのが関の山だった。
シン太郎左衛門とシリーズ最終回様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様
ご利用日時:2023年9月3日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。もちろん証拠はない。
いつも通り、日曜日の朝。
目覚ましが鳴るのを待たずして、スカッと目が覚めた。清々しい朝、素晴らしいれもんちゃん日和だ。
シン太郎左衛門も、すっかりはしゃいでいる。「今日はまた何時にも増して、れもんちゃん日和でござるな」
「煌めくばかりに美しい朝だ」と応じた後、よい朝すぎて、布団の上でインディアン・ダンスでも踊ってやろうかと思っていると、シン太郎左衛門が、突然「あれは、クロウ左衛門でござった」と言い出した。
「なんの話?」
「あの日、拙者が歌っている間、楽器を演奏していた者の話でござる」
ああ、そうだ。すっかり忘れていた。今回は前回からの続きだったのだ。
「クロウ左衛門か・・・」
「いかにも」
「そうか、あれはやっぱりクロウ左衛門だったのか・・・」
「クロウ左衛門をご存知でござるか」
「いや、知らん。全く知らん。有り体に言えば知りたくもない。だって、そいつ、名前からして武士だろ?」
「クロウ左衛門、確かに武士でござる」
「やっぱりそうだ。また武士だ。俺、武士が本当に苦手なんだよなぁ。ましてや九郎左衛門なんて言われると、武士がズラッと9人並んだ様が目に浮かんでゲンナリする」
「何を言っておられるか判りかねまする」
「九郎左衛門なら太郎から八郎まで兄さんがいるんだろ?」
「は?いや、クロウ違いでござる。大変な苦労人ゆえに、苦労左衛門でござる」
「あ、そっち。なんだ、渾名か」
「渾名ではござらぬ」
「それが本名なの?」
「いかにも」
「お前、原因と結果を取り違えてるな。そいつの苦労の原因は、その名前だ」
「なるほど・・・そんなことがあるやも知れませぬ」
「いや、間違いなく、そうだ。それで、その苦労左衛門は何者なの?」
「苦労人でござる」
「それは、さっき聞いた。俺が訊いてるのは・・・そいつも、つまり、誰かの、おチン・・・か?」
「聞き取りませなんだ」
「同種のネタ、前に使ってる。聞き取れなくても分かってるんだから、答えろ」
「苦労左衛門は、おチンでござる。いや正しくは、おチンでござった」
「ござった・・・今は違うのか?」
「若干違う」
「『若干違う』・・・嫌な言い方だな。えっ、もしかして、苦労左衛門って、これか?」
私は「小さく前へ倣え」の格好から甲を表に両手をプランと垂らしてみせた。
「それでござる」
「幽ちゃんだ」
「幽ちゃんでござる」
「武士の幽霊かぁ。苦労左衛門、やりたい放題だな。この話、止めない?」
「いやいや、苦労左衛門ぐらい出来た人物もござらぬ。それはそれはモノの道理を弁えた立派なご仁でござった」
「分かった。いや、何にも分からん。結局、その苦労左衛門って何者?」
シン太郎左衛門は、それから、苦労左衛門なる者との出会いに始まり、いかに親交を深め、この世での別れの後に再会を果たすとことなったかを語って聞かせた。とてもとても長い話で、間にコーヒーを3杯お代わりした。
「・・・以上でござる」
シン太郎左衛門が語り終えると、私は、しばしボンヤリしてしまった。
「とんでもなく長い話だった・・・でも、なんかいい話だった。れもんちゃんに対するお前の想いに動かされて、苦労左衛門が冥界の掟を破るシーンとか、よくある展開だと感じつつも、感動してしまった」
「真実でござる」
「分かってる」
「クチコミにぴったりでござる」
「その点については同意しかねる。かなり大幅にカットせねばならん」
「長すぎまするか」
「れもんちゃんと直接関係ない話が延々と続くのは、『シン太郎左衛門シリーズ』ではよくあることだが、それにしても、これは常軌を逸している。これまでの『シン太郎左衛門シリーズ』全作を足し合わせたよりも、まだ長い。その上、他にも大きな問題がある」
「一体どこが不都合でござるか」
「一々指摘して回るのが嫌になるぐらい問題だらけだ。たとえば、二人が初めて出会った場所からしてマズイ」
「それは、また何故でござるか。拙者には、何の障りもなく思えまする」
「少し考えてみろ」
シン太郎左衛門、首を傾け思案顔を浮かべていたが、特に思い当たるものはなく、「う~ん」と唸りながら居眠りを始めた。
「起きろ!」
シン太郎左衛門は目を擦りながら、「拙者には分からん。その場所で出会ったと書けなければ、コンビニのレジに並んでいるときに出会ったとでもしてくだされ」
「そんなことをしたら、後で辻褄が合わなくなるだろ。それに作り話はダメだ。『シン太郎左衛門シリーズ』はドキュメンタリーだから、たった一つの嘘も含まれてはいけない。都合が悪い部分は、書かずに済ますしかない」
「どこを削りまするか」
「残念ながら、大半を削る」
「では、どこを残されまするか」
「たとえば、あの場面がいい。3度目に会ったとき、苦労左衛門が『今宵を以って今生の別れ』と告げ、自らは日もなく儚き一生を終えるが、シン太郎左衛門は1年内に絶世の美女との出逢いがあるだろうと予言するシーン。あのシーンは使おう」
「父上、なかなかお目が高い。では、その段に限り、今一度語りましょう」
「別に二度も語ってもらわんでいい」
「いやいや、大半を消されるとあらば、残されるところは大事に扱ってくだされ。拙者の語るとおりにお書き願いたい」
そう言うと、シン太郎左衛門は、講談師か落語家のように一人二役で語り出した。
「シン太郎左衛門殿、今宵を限りに、生きて再びお会いすることはございますまい」
「それは何ゆえ」
「理由はお訊きくださいますな。拙者、我が身と周囲に起こることを予知する力を有してござる。拙者、遠からず、この世を去りまする故、今宵が今生の別れにござる」
「苦労左衛門殿のお言葉でござれば、偽りはござりますまい。お互い武士でござるによって、名残惜しいとは申しませぬ。短い間ではござったが、ご交誼に感謝申し上げまする」
「拙者も御礼申し上げまする。ところで、拙者からの置き土産、受け取ってくださりませぬか」
「置き土産とな。いかなるものでござるか」
「拙者には、シン太郎左衛門殿に遠からずよいご縁があることも見えてござる」
「よい縁とな」
「いかにも。シン太郎左衛門殿は、向後一年内に素晴らしい姫君と出逢われまする」
「それは誠でござるか」
「うむ。間違いござらぬ。宇宙で一番のよい娘でござる。果物に因んだ名を持ちまするぞ」
「果物に因む名でござるか・・・梨ちゃんでござるか」
「あまり語呂が良くないようでござる」
「では二十世紀ちゃん」
「違いまする」
「長十郎ちゃん」
「シン太郎左衛門殿、一旦梨から離れてくだされ」
「メロンちゃん」
「おお、一気に近付いた気が致しまするぞ」
「ドラゴンフルーツちゃん」
「あ、また離れた。そんな名前の姫はござらぬ。シン太郎左衛門殿、名前で遊んではなりませぬぞ」
「うむ。失礼つかまつった。では、シャインマスカットちゃん」
「おいおい。何だ、これ?」私は思わずシン太郎左衛門の話を中断した。
「さっき聞いた話と全然違うぞ。さっきはあんなに感動的だったのに、今度は下らない事ばかり言ってて、全く話が進まない。この話のどこで感動できるか言ってみろ」
「さっきと同じ話でございまする。父上の耳が肥えたのでござる」
「そんなこと、あるか!シン太郎左衛門、お前、その場の思い付きで話をしてるな」
「とんだ言い掛かり。『シン太郎左衛門シリーズ』は全て真実。嘘はないのでござる。まあ、今しばしお聞きあれ」と、宥められ、再びシン太郎左衛門の演芸大会に付き合わされた。
「その姫の名は置いておきましょう。肝心なのは、その後でござる。絶世の美女との出会いでシン太郎左衛門殿は人柄も温厚になり、やがて、その麗しい姫に捧げる音曲を作ろうと一念発起されまする。これは決まったことでござる。そして、その音曲の演奏にあたって、お囃子の一つもないことに物足りなさを覚えられまする。これもまた避けられないことでござる。このように感じられたときは、必ず拙者をお呼びくだされ。拙者、骨肉は滅んでも、魂魄にてシン太郎左衛門殿をお助け致す。これが拙者の置き土産でござる」
「忝なく頂戴つかまつる。苦労左衛門殿は、音曲に通じておられまするか」
「うむ、諸芸一般身に付け、音曲は様々な楽器の音を声色にて奏で分けまする。清朝の初めに書かれた『聊斎志異』にも書かれている『口技』と申すもの。拙者、二十ほどの楽器であれば、容易く同時に操りまする。先日、日本公演を予定していた海外のオーケストラが、台風で来日が遅れたため、初日は拙者が代役として公演を成功させました。ベートーヴェンの交響曲を一人でこなすのは、さすがに大変でござった」
「それはご苦労でござった。ところで、『口技』と言われましたな。『口技』はれもんちゃんも得意とするところでござる」
「うむ。シン太郎左衛門の言われる口技は、恐らく別のものでござろう」
「確かに。拙者は断然れもんちゃん派でござる」
「なんだ、これ?ひどいなぁ。全く別の話になってる。さっきの話には、そこはかとなく哀愁が漂っていて、それでいて妖気に溢れていた。今聞いたのは違う。ただ単に『シン太郎左衛門』だ」
「先刻、父上は飲み食いしながら、勝手な想像で頭を一杯にしてござったのであろう。全く同じ話でござる」
「まあいい。こんなことで言い争いも無益だ。お前の言うとおり、同じ話だったにせよ、2度目にはまるで違う話に聞こえて、ガッカリした。これは間違いない事実だ。ところが、れもんちゃんとは、何十回も会っているが、期待をがっつり超えられてビックリすることはあっても、ガッカリしたなんて一度もない。えらい違いだ」
「うむ。れもんちゃんと比べられても困る。勝てるわけがござらぬ」
「まあいい。とにかく、話を纏めてしまおう。お前は苦労左衛門から楽器演奏について困ったことがあれば、助けを求めよと言われたわけだ」
「いかにも。『南無八幡大菩薩、我に力を与えたまえ』と強く念じれば、馳せ参じると」
「それって、似顔絵・・・いやいや、そんなこと、どうでもいい。とにかく、お前は、その後、苦労左衛門の予言どおり『れもんちゃん音頭』を作り始め、『ここはリンキンパークっぽくしたいな』と感じたとき、苦労左衛門の置き土産のことを思い出したと」
「そうでござる」
「それで、楽器演奏を学ぼうと、言われたとおりに『南無八幡大菩薩』云々と唱えたら、苦労左衛門の霊が現れて稽古をつけてくれるようになったわけだ」
「相違ござらぬ。毎日早朝、それは厳しい稽古でごさった」
「俺のお気に入りのブランケットの中で朝練をしてた訳だ。でも、モノになったのはドラムにボーカルを被せるところまでだったんだな」
「うむ。あの日、他の楽器は苦労左衛門を呼び立てて、演奏してもらったのでござる」
「大体、こういう話だ」
「かなり乱暴に縮めてありまするが、粗筋はこんなものでござる」
「そうか・・・やっぱり、こうなった・・・全く怖くない。怪談って予告しておいて、このザマだ」
「さすがに削り過ぎましたな」
「削ったのが悪い訳ではない。元から怖くないのだ」
気まずい空気が漂い始めたのを誤魔化すように、「ところで、苦労左衛門の幽霊って、どんな風に見えるの?」
「定かには見えませぬ。湯気のようなものでござる」
「ふ~ん、湯気か・・・そこだけ景色が微かに歪むって感じ?」
「うむ。苦労左衛門については、そんな感じでござる」
「『苦労左衛門については』って、他の幽霊がいるみたいな言い方だな」と笑ったとき、シン太郎左衛門の表情が急に険しくなった。
私は何かを・・・そうだ。私は悟った。私は、苦労左衛門の父親の存在を完全に見落としていたのだ。湯気のようだという苦労左衛門はただモザイクがかかっているばかりであるに違いない。
私と目を合わせていたのも束の間、シン太郎左衛門の視線は、私の肩越しに、ダイニングの壁から天井へとジリジリと移動していった。のどかなはずの朝の風景が一気に塗り替えられてしまった。
私は天井を見上げる気にはならなかった。どんな最期を遂げたか分からぬ中年男性が、股間ばかりモザイクがかかった全裸で、部屋の壁から天井へと這い回る姿など見たくもない。まして、そんなヤツが知らぬ間に私のブランケットの中に入り込んでいたかと思うと背筋が凍りついた。
と、シン太郎左衛門は突然莞爾として、「久しぶりに見た。立派なカブトムシ」
その言葉の意味は俄には理解できなかったが、やがて全身の脱力感とともに腑に落ちた。
そいつは、開け放った窓から出ていった。
「お前の望むとおり、逃がしてやったぞ」
シン太郎左衛門は「達者で暮らせよ」と手を振っていたが、私にはもうどこに行ったやら分からなかった。
シン太郎左衛門が「行ってしまった」と言うので、窓を閉めた。そろそろ出掛ける準備をする時間だ。
「立派なカブトムシでござったな」と、シン太郎左衛門は言うが、私にカブトムシの目利きは出来なかった。
「ちなみに、苦労左衛門の幽霊は、理由は知らぬが単体でござる。親父殿は同伴せぬので見たことがござらぬ」
「そうか。少しホッとしたよ。でも、そんなことはもうどうでもいい。怪談もカブトムシも済んだ話だ。さあ、そろそろ出掛けるぞ」
「れもんちゃんに向けて出陣でござるな」
「いざ出陣じゃ。いつもの新快速に鞍を載せておけ。一鞭で神戸に到着してくれようぞ」
「れもんちゃんの笑顔が目に浮かびまするな」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
我々はもう走り出していた。
シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と夏の忘れ物様
ご利用日時:2023年8月27日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ、武士らしい姿を見た記憶は余りない。
今日も、れもんちゃんに会ってきた。最近、れもんちゃんのパワーアップが加速してきていて、親子揃ってキリキリ舞いさせられた。
神戸からの帰りの電車でも、れもんちゃんの余韻が強烈すぎて、二人とも言葉が中々出てこない。
「凄すぎでござった・・・」
「今日のれもんちゃん?それとも、この前の井上尚弥?」
「どっちも・・・」
「だな・・・どっちも途轍もないパワーの持ち主だし、どっちも飛んでもなく進化している」
「れもんちゃんの進化は驚異的でござる」
1時間以上、電車に乗っていたが、思い起こしても、車中の会話はたったこれだけだった。
れもんちゃんの余韻に圧倒されまくり、危うく自宅の最寄り駅を乗り過ごしそうになった。慌てて電車から飛び降りると、ホームのベンチに腰を下ろした。
「いやぁ、危なかった。それにしても、凄かったなぁ、れもんちゃん」
「れもんちゃんの妖しい美しさは恐い程でござった」
「そうなんだ。恐い程・・・」
「ハチャメチャな可愛さも恐い程でござった」
「恐い・・・?この言葉、妙に引っ掛かる・・・」
「恐い・・・あっ、恐いと言えば」
「しまった・・・忘れてた」
「父上、今回は『シン太郎左衛門の怪談』と仰せでござった」
「やってしまった・・・前回のクチコミの最後に次回予告をして、翌日には書き上げて、あとは投稿するだけにしてあったのに、今日れもんちゃんが凄すぎて、『怪談』が記憶から吹き飛ばされてしまっていた」
「と言っても、予告した以上、『忘れてました』では済まされますまい。今からやりましょう」
「無理、無理。ここまで、『れもんちゃんの恐るべき進化をしみじみと寿ぐ回』として話を進めたのに、今更やり直しは利かん。俺は徹底的に気分屋さんで、気持ちの切り替えがメチャ下手クソなのだ」
「還暦男の言うこととも思えん。一度約束した以上、武士に二言はないのでござる。始めまするぞ」
「俺は早く夕飯が食べたい。駅のベンチで怪談話を聞く気分じゃない。おまけにメチャ長い話だし」
「問答無用」と言って、軽く咳払いすると、シン太郎左衛門、「ところで、父上、あれはクロウ左衛門でござった」と、『怪談』の口火を切った。
こうなれば付き合うしかない。嫌々ながら「クロウ左衛門?それ、何の話?」と応じた。
「あの日、拙者が歌っている間、楽器演奏をしていた者の話でござる」
二人ともセリフがひどい棒読みだった。
「・・・やっぱり無理だ。お前も全然気持ちが乗ってないじゃないか」
「れもんちゃんの残像が目の前にチラついて、『怪談』どころではござらぬ」
「れもんちゃんに会った直後に、ストーリー性のある話の出来る訳がない。『怪談』は来週日曜の朝にしよう」
「うむ。致し方ありますまい。来週、何もなかったように、しれっと投稿致しましょうぞ」
「それで行けるかな?」
「うむ。下手に悪びれた様子を見せず、何食わぬ顔でしれっとやれば誰も気が付きますまい」
ベンチから立ち上がると、
「よし、そうしよう。悪いのは、凄すぎるれもんちゃんだしな」
「そうでござる」
改札を抜けて、のんびり夜道を歩きながら、空気に微かな秋の気配を感じ取った。
「なんやかんや、いい夏だったなぁ」
「れもんちゃんのお蔭でござる。れもんちゃんがいなければ・・・」
「ただ暑いだけの夏だった」
その言葉を最後に、二人はそれぞれこの夏のれもんちゃんの思い出に浸り切ってしまい、翌朝に至るまでの時間をどう過ごしたか全く記憶がないのであった。
シン太郎左衛門と夏の忘れ物様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門のお絵描き(あるいは『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』の序)様
ご利用日時:2023年8月20日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だ。私が武士ではないのに、なぜ息子が武士なのかは分からない。
日曜日の朝、れもんちゃんに会う日の朝は心が躍る。いつものようにシャワーの後のアイスコーヒーを飲みながら、のんびりしていると、シン太郎左衛門も楽しそうだ。歌い出すに違いないと思っていたら、やはり歌い出した。
笹の葉一枚ありました
アサリが二匹にらめっこ
実験用の試験管
最近暑さが少しマシ
でも今日は突然ムチャ暑い
あ~っと言う間に可愛いれもんちゃん
『れもんちゃん絵描き歌』だが、前回とは歌詞が変わっている。
シン太郎左衛門は「う~む。似ていない」と呻いたが、笹の葉を口に、アサリを目に、試験管を鼻に見立てて、れもんちゃんの可愛い顔が出来る訳もなく、結局、そこまでに出来た変な顔を無視して、「あ~」っと言いながら、れもんちゃんの似顔絵をゼロから描くらしい。
シン太郎左衛門は、さらに歌詞を柿の葉・蛤・ビーカーに替えて再挑戦したが、やはり納得の行く出来には至らないようで、「ますます可笑しなモノが出来た。難しいものじゃ」と天を仰いだ。
「シン太郎左衛門、先週のお前の説明を聞く限り、葉っぱと貝と実験器具に特段意味はないよな。余計なモノを描かず、最初から、れもんちゃんを描いたらよくないか?」
「おお、それは妙案。どうしても、この可笑しな顔に引き摺られて、れもんちゃんの可愛い顔が捉えにくくなってござった」とシン太郎左衛門に描いた絵を見せられて、思わずコーヒーを吹いてしまった。
「では心機一転」と、シン太郎左衛門は、ダイニングテーブルの上に撒き散らされた何百という新品のボールペンを見比べている。
「どれも100均だから、大差ないよ」と言ってやったが聞いてない。「うむ、これがよいようじゃ」とキャップを外し、大きく息を吐いた後、
『南無八幡大菩薩、
我に力を与えたまえ。
とりゃ~!』
と言う間に、可愛いれもんちゃん
と歌いながら、目にも留まらぬ筆捌きで、れもんちゃんの似顔絵を仕上げた。
「おお~、これは上出来。我ながら惚れ惚れする出来栄えじゃ」
「ホントだ。すげえ」
シン太郎左衛門には然したる絵心もないのだが、寝ても覚めても、れもんちゃんの事を考えているので、その似顔絵には鬼気迫る力が籠っていて、かなり本物に肉薄していた。
「う~ん。生き写しとまでは言わないが、妖しい光で見る者の心を蕩けさせてしまう『れもんちゃんの瞳』がよく描けてるな。一瞬ヨダレが出てしまった」
「父上、このあばら家を改築致しましょう」
「なぜだ?やっとローンを払い終わったばかりだぞ。そんな予定も、余力もない」
「この似顔絵は、軸装し、床の間に飾るべきもの。されど、この茅屋には床の間がない」
シン太郎左衛門、予想を遥かに超えた似顔絵の出来に舞い上がってしまい、放っておいたら勝手にリフォームの契約をしそうな勢いだった。
とりあえず話をすり替えようと思い、
「お前は中々芸達者だな。絵描けるし、歌も上手いし、楽器も巧みだ。特に、この前の、あの『れもんちゃん音頭』の楽器演奏には心底驚いた。いつ、どうやって稽古をしたんだ?」
この問いに、シン太郎左衛門は不意を突かれたように、「あっ、あれは・・・」と口籠った。想定外の反応の裏に、何かあるのは間違いなかった。ここで、もう一押しすれば、リフォームの件は完全に封殺できそうだったが、これから、れもんちゃんに会うというタイミングで、シン太郎左衛門のヤル気を殺ぐようなことは避けたかった。
別の話題を探している僅かな沈黙のうちに、シン太郎左衛門が、「実は、あの楽器演奏は、専ら拙者ではござらぬ」と苦笑いを浮かべた。
「えっ?そうなの」
先々週の日曜日の朝の、あの『れもんちゃん盆踊り』の、あの『れもんちゃん音頭』にはバックバンドがいたのか・・・でも、そんなこと、ありえるか?あのとき、部屋には、私とシン太郎左衛門しかいなかったはずだ。
私の頭は大混乱を起こしていた。しかし、
「まあ、いいや。この話の続きは後日にしよう。これから、俺たちは、れもんちゃんに会うんだ」
「そうでござる、れもんちゃんでござる」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
一度れもんちゃんモードに切り替わった我々はもう誰にも止められない。我々は素早く準備を済ますと、そのまま何百回も上記の雄叫びを交互に繰り返しながら駅まで爆走し、いつも通り無駄に早い時間の新快速に乗るのであった。
(次回は、『シン太郎左衛門と音楽』の後日談、『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』をお届けする予定である。夏と言えば怪談でござる)
シン太郎左衛門のお絵描き(あるいは『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』の序)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門捕物帖(あるいは父親のバーンアウト)様
ご利用日時:2023年8月13日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士であり、その父親である私は脱力感に襲われている。
もちろん、れもんちゃんに関する脱力感ではあり得ない。今日も、れもんちゃんに会って、はっきり分かったが、れもんちゃん、会う度に素晴らしさを倍増させている。凄い娘だ。
つまり、れもんちゃんとは無関係に、私はゲンナリしている。先週日曜日の回で、6月11日から書き続けた「シン太郎左衛門と音楽」の連載を終えて以降、クチコミ、いや「シン太郎左衛門シリーズ」を書くことに食傷気味なのだ。
れもんちゃんの素晴らしさを讃える気持ちは全身に満ち溢れているのに、「シン太郎左衛門シリーズ」となると、気持ちが向かわない。
神戸から帰りの電車の中、「今日は、クチコミを書くの止めておこうかな」と呟くと、シン太郎左衛門、「まあ、誰が読んでる訳でなし、止めても障りはありますまい。元々、父上のボケ防止でやっていること。長いだけで益体もない話ばかり、れもんちゃんも内心苦々しく感じておられましょう」
「ひどいことを言うなぁ。だが、ボケ防止だというのは事実無根だが、他の諸点は当たってるだろう」
「うむ。それに、そろそろネタも枯れたに違いない」
「そうではない。俺のボケ防止は、れもんちゃんに会うことだ。れもんちゃんに会うと、脳が尋常でなく昂るから、シン太郎左衛門シリーズのネタの二つや三つはすぐ出来る。『シン太郎左衛門と音楽』だって、投稿を見送ったのが6回分ある。それを投稿してたら盆踊りの季節を逸してしまうから、ボツにしたんだ。そんなことをしたせいで、シン太郎左衛門が松江のホテルで音楽に目覚めるシーンや盆踊りに向けて楽器演奏の特訓をする下りがスッポリ抜け落ちて、説得力に欠けることになった。ネタに困ったことなんて一度もない。れもんちゃんを甘く見るな。れもんちゃんはネタの宝庫だ」
「では、あれこれ言わず、これまで通り続けたら宜しかろう」
「それが嫌になってきた。シン太郎左衛門シリーズは、明らかに俺の趣味ではない。俺はもっとカッコいい文章が書きたい」
「書けば宜しかろう」
「ところがお前の話だと、カッコいいヤツなんて思い付かない」
「拙者が名探偵として難事件を解決するというのでは如何でござるか」
「お前が探偵?ダメだ。台所でサンマが1尾行方不明になった、犯人は誰だ、目の前に生のサンマを咥えた猫がいるのに、シン太郎左衛門の的外れな推理によって俺に嫌疑がかかる、という話ぐらいしか思いつかん」
「いやいや、拙者のその推理、的外れではござらぬ。実は、猫は父上に脅されて盗みを働いたまでで、黒幕は父上でござる。それが証拠に最近の猫はキャット・フードに慣れております故、生の魚など好まぬ。あれこれ問い詰めているうちに、いよいよ生臭さに耐えられなくなった猫がサンマを口から落としてしまする。それを見た父上が、猫が落としたサンマを咥えて逃げ出すのを、拙者が懐から取り出した漬物石を投げ付けて、ぶっ倒す。銭形平次と言えば寛永通宝、シン太郎左衛門と言えば漬物石でござる」
「名探偵とか言って、結局、時代劇なのね。サンマ1匹のために、漬物石を投げ付けられては割に合わんな。打ち所が悪けりゃ、お白砂のシーンで俺の代わりに位牌が置かれることになる」
「それもまた一興。とにかく父上はお縄となり、拙者は命を救われたサンマからたんまりお礼をせしめ、れもんちゃんに会いに行く。出掛ける前にサンマの塩焼きで腹拵えを致す」
「ひどい話だな。一番の悪党はお前だし、一番の被害者はサンマだ・・・こんな話、面白いか?」
シン太郎左衛門は、こんなやり取りにすっかり飽きたようで、
「それにしても、れもんちゃんはとんでもなくステキでござるなぁ」と突拍子もなく大きな声を出した。
「いきなり、それ?それって、どうなの?最後にそのセリフを言ったら、れもんちゃんのクチコミとして成立すると考えてないか?安直すぎるよ」
シン太郎左衛門は、もう私の話を聞いていなかった。れもんちゃんの甘美な思い出に耽って、ニタニタしている。私の苦悩など所詮他人事なのだ。
そして、何の前触れもなく歌い出した。
ハニーコーンが一本ありました
シジミが二匹追っかけっこ
実験用のフラスコに
8月6日は大嵐
雲間が晴れて日が射して
レモンが一個生りました
あ~っ言う間に、可愛いれもんちゃん
「『れもんちゃん絵描き歌』か?」
「知ってごさるか。今作ったばかりなのに」
「『可愛いコックさん』の絵描き歌に似ているからな。でも、ハニーコーンは口か?」
「いかにも」
「シジミは目だな」
「確かに」
「フラスコは鼻だ」
「相違ござらぬ」
「どう考えても、そんなもので、れもんちゃんの可愛い顔になるはずがない」
「いかにも。全く似ても似つかぬモノが出来上がりまする。故に、それは脇に置いて、『あ~っ』と言う間に素早く、可愛いれもんちゃんの似顔絵を描く」
ひどいもんだ。
でも、出来はともかく、今週は書かないと決めていたのに、れもんちゃんに会うと、やっぱり「クチコミ」が勝手に出来てしまっていた。
れもんちゃんは、ホントに凄いのである。
シン太郎左衛門捕物帖(あるいは父親のバーンアウト)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様
ご利用日時:2023年8月6日
- 一週間前、つまり先週の日曜日も、れもんちゃんに会った。その帰りの電車の中で、シン太郎左衛門はいつにも増して興奮していた。
「今日のれもんちゃんの、あの自由奔放すぎる可愛さ、あれは尋常ではなかった。父上、あれは許せませぬな」
「そうだな」
「それに、今日のれもんちゃんの、上目遣いのニヤッという妖しい笑顔からのアレもいかん。父上、あれも許せませぬな」
「うん」
「ただ、最も許せぬのは、今日のれもんちゃんのアレでござる。あれは到底許しがたい。父上、あれが一番許せませぬな」
「何を言ってるか分からんのに同意を求められても困るが、多分答えはイエスだ」
「そうでござろう。れもんちゃんは、とんでもなく素敵すぎるのでござる。そして、そんな高みにありながら、何の前触れもなしに、その高みを乗り越えて平気な顔をしておる。許せん」
「ホントにそうだ。最近、れもんちゃんは益々パワーアップしている気がする」
シン太郎左衛門は、大きく頷いた。そして、急に真顔になり、
「父上」
「なんだ?」
「町内の盆踊りの件・・・」
「うん」
「どうでもよくなった」
「そうか・・・実は俺もだ。先週、あれだけ長々とクチコミを書いたが、実はあれを書いている時点、つまりこのクチコミの時間で言えば、ちょうど今頃だな、書かれている俺でなく、書いている俺はゲリラ盆踊りに全く興味を失ってしまってたんだ」
「そういう言い方をすると、時系列が入り組んで、無駄にややこしくなりまする」
「面白いだろ?」
「ちっとも面白くない」
「そうか。お前とは話が合わん」
「それは、そうと。止めましょう」
「ゲリラ盆踊りか?」
「うむ」
「そうだな・・・止めよう」
と、先週あれだけ頑張って打ち込んだ、長い長いクチコミがあっさり反古になってしまった。ひどい話ではあるが、日々パワーアップするれもんちゃんを前にすると、我々のやっていることが余りにも卑小に思えるのが原因だから、責任は、れもんちゃんにある。
そして、今日、またしても日曜日の朝。
れもんちゃんに会う日の朝は、暑くても清々しい目覚めで、さっさとシャワーを浴びて、アイスコーヒー片手にダイニングの椅子に腰を下ろした。
「シン太郎左衛門、目玉焼き、食べる?」
「拙者は食べませぬ」
「じゃ食べなくてもいいから、作って」
「何をたわけたことを」
これから数時間後には、れもんちゃんに会えるのだ。シン太郎左衛門が鼻歌を口ずさむのも当然だ。
「ほ~いのほい、ほ~いのほい・・・」の歌い出し、偽オヤジは聞いたことがあるものの、私には知らない歌だった。
「その歌、なに?」
「『れもんちゃん音頭』の二番にござる」
「へぇ~、そうなんだ。ちなみに『れもんちゃん音頭』って出来上がったの?」
「仕上がりましてござる。10番に纏めました」
「そうか」
「聞かれますか」
「そうだな。聞いてみるか。ただ、俺は忙しい」と、椅子から立ち上がって、「俺はこれから卵とトマトとパンとを相手に命懸けの闘いを繰り広げる。勝ち残った者が破れた者を食べるのが野生の掟だ。俺が負けて、卵やトマトの朝御飯にされないよう、『れもんちゃん音頭』で応援してくれ」
シン太郎左衛門の『れもんちゃん音頭』を通しで聴くのは、これが最初で最後になるかもしれないとは思いつつ、冷蔵庫から食材を取り出していると、
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
・・・
毎度お馴染みの『れもんちゃん音頭』の一番が始まった。シン太郎左衛門の歌唱力が増したのか妙に心に染みてくる。
一番が終わって二番はメロディが違っていた。
ほ~いのほい、ほ~いのほい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なる器量よし
立てば芍薬、座れば牡丹
浴衣姿の艶やかさ
あ~あ、月も恥じ入る、日も沈む・・・
これが二番だった。
民謡の類いに全く関心はないし、良し悪しの判断もつかないが、シン太郎左衛門にしては上出来に思えた。シン太郎左衛門はかなりの尻フェチだし、普段はとてもクチコミに書けない露骨な表現で、れもんちゃんのボディパーツを褒めちぎっているから、曲が進むに連れて、「エロ美人」その他の言葉が飛び出すことも予想されたが、この二番にはしっかり抑制が利いていた。れもんちゃんの浴衣姿の余りの眩さに、太陽は逃げるように沈み、代わって昇った月も、れもんちゃんの麗しさの前に恥じ入って雲間に身を隠す。この下りを聴きながら、不覚にもシン太郎左衛門の歌声に誘われて、私の妄想癖が発動してしまった。
私の脳内、地上が宵闇に包まれようとした刹那、広場には提灯の灯りが点され、『れもんちゃん盆踊り』の幕が開いた。
町内の人々が集まってきて、私の空想の中で和やかに踊っている。見知った顔ばかりだ。
はあ~、浴衣姿のレモンの君の
踊る姿に憧れて
今宵白馬で一千里
・・・
と、『れもんちゃん音頭』は三番でまたメロディを変えた。
「えぇ?一千里って、大阪ー東京4往復だぞ。どんだけ道に迷っとんねん。馬が可哀想だ」と感じたとき、盆踊り会場に、いつもの短パンとヨレヨレTシャツの金ちゃんの姿を見つけたので、「よぉ、金ちゃん。今日は、また随分めかし込んでるなぁ。盆踊りでナンパか?」と話しかけると、「冗談止めてくださいよ。両親が親戚の家に行ってて、ラッピーの散歩を任されただけですよ」と苦笑い。「ラッピーに引っ張られて、ここまで来たってわけか?」と問うと、金ちゃんは頷いた。
「それでラッピーは?」
「行方不明です」
「ラッピーは俺たちの数千倍は賢いから、心配は要らない」
「ですよね」と、言った直後、金ちゃん、眉をひそめて「今の歌詞、聞きました?」
「聴いてなかった。どうかした?」
「いや、僕の勘違いでしょう。まさか盆踊りで『後ろ姿の悩ましさ。真ん丸お尻がエロすぎる』なんて歌わないですよね」
「普通はもう少し言葉を選ぶな」
シン太郎左衛門、頑張って抑制を利かせてはいるが、一瞬感情が噴き溢れてしまったようだ。
「久しぶりの盆踊りですね。でも、いつもと何か違います。和やかなのに、息が苦しくなるような緊張感だ」
「分かるか?これは普通の盆踊りなんかじゃない。『れもんちゃん盆踊り』だ」
「『れもんちゃん盆踊り』って何ですか?」
「説明できない。今に分かる」
シン太郎左衛門の歌は続いていた。歌詞を一々聴く必要はなかった。それは、会場の空気を支配していた。嵐の前の静けさというヤツだ。
「ところで、あの人たち、凄くないですか?」と金ちゃんが指差す先に、薄桃色の揃いの浴衣を着た二人の若い女性が軽く流す程度に踊っていたが、明らかに別次元の動きだった。「私たち、マジ踊れます」オーラは、薄い浴衣では覆い切れなかった。「この町の人間ではないな」と私が言った後を追うように「あれはプロですな」と一言発したのは町内会長のYさんだった。いつの間にか、私と肩を並べていたのだ。
「ですよね。カッコいいなぁ。美人だし」と金ちゃんが言えば、「躍動する若い娘の肢体は実に見応えがある」とYさんが続き、舐めるような視線を送っていた。
「でも、おかしいとは思わないか?地元の人間でもないのに、なんでこんな田舎の盆踊りにプロのダンサーが来るんだ」と言ってやったが、聞いてない。私を除け者にして、二人で盛り上がってる。
そのとき、私は異変に気付いた。
三番から五番は同じメロディだったが、曲が五番の半ばに差し掛かったとき、それまでのアカペラに楽器の演奏が加わったのだ。
「ドラムだ。ドラムが鳴ってる」
「ホントだ、ドラムだ」と金ちゃんの口振りは呑気なものだった。
「そうだ。シン太郎左衛門の言っていた『演奏』とはこれだったんだ。あいつは、口でドラムを鳴らしてる」
「あっ、今一瞬ギターとベースも聞こえた。これ、生演奏ですよね。でも、どこで演奏してるんだろ?誰が歌ってるんだろ?」という、あくまで呑気な金ちゃんの問いに、危うく自分の股間を指差しかけて、「それは問題じゃない。れもんちゃんに対するシン太郎左衛門の想いは尋常じゃない。前から人を驚かすことを仕出かし兼ねないと思っていたんだ。いよいよ始まるぞ。『れもんちゃん盆踊り』が、その全貌を現すぞ」
口で複数の楽器の音を同時に奏で、そこに歌まで被せても、破綻を見せないとは。世の中には驚くような能力を持った人間がいるから、これを不可能事と呼ぶ気はなかったが、少なくとも自分に出来ることとは思えなかった。
ドラムの伴奏で『れもんちゃん音頭』は疾走感を手に入れた。会場の熱気が一気に高まると、二人のダンサーは「そろそろやりますか」という感じで目線を交わして、頷き合った。
五番が終わっても、ドラムはビートを刻み続け、徐々にテンポを上げていく。このまま6番に突入だ、と感じた瞬間、ベースそしてギターが加わり、見違えるような重厚なサウンドに発展した。
「何だ、これ?リンキンじゃないか!リンキン・パークの『フェイント』のイントロにそっくりだ!!」
不覚にも、カッコいいと思ってしまっていた。
二人のダンサーは、いきなりキレキレのダンス、盆踊りとは凡そかけ離れた、エッジの利いたダンス・パフォーマンスをおっぱじめた。周り全員が歓声を上げて、呼応して手を振り上げて、跳び跳ね出した。
私は群衆に向かって叫んでいた。「無理して踊ろうとしないでください。これは、普通の盆踊りじゃない!気をつけて!マイク・シノダの、いや、シン太郎左衛門のラップが来ます。頭を低くして、衝撃に備えてください」
しかし、誰も聞いていない。Yさんも金ちゃんも「スゲー」とか言いながら、小走りでダンサーたちの方に向かっていった。
よっ、今日もレモンの花が咲く
朝も早よから飯を炊く
手に塩をして握り飯
こいつがオイラの勝負飯
はっ、飯が済んだらJR
新快速に乗るのでアール
神戸駅には早めの到着
ここから始まる大冒険
・・・
これは、なんだ?日曜日、れもんちゃんに会う日の俺の様子を歌っているんだ。なんて無駄なことを。誰がこんなもん喜ぶんだ!しかし、「フェイント」を模しているなら、そろそろマイク・シノダのラップのパートは終わる。頼む、俺のことは放っておいて、チェスターばりの、狂おしいばかりに激しくも哀切なシャウトで、れもんちゃんを歌ってくれ。さあ、来い。
と祈ったが、祈りは虚しく、引き続きラップ、家でじっとしてられなくて、れもんちゃんとの予約時間のかなり前に神戸駅に到着して、所在なく過ごす私の姿を分刻みで描写するという、この世に存在する理由が一つもないラップが続いた。俺が、公衆トイレで用を足したり、100均でボールペンを買ったり、喫茶店に入ってトイレで歯磨きしたり、涙が出る程どうでもいい歌詞だった。
用もないのに100均寄って
ボールペンを纏め買い
毎週やってる不思議な行動
カバンの中はペンだらけ
・・・
どうでもいい!喫茶店のトイレの鏡を見詰めながら、伸びた鼻毛を満身の力を込めて引っこ抜くとか、「もう、止めてくれ!」と叫びそうになった。
こんなどうでもいい歌詞なのに、さすがにプロだ、ダンサーたちは驚異のシンクロ率99.9パーセントでシン太郎左衛門の歌に合わせ、「こんなの無料で見させてもらってもいいんですか?」というレベルの踊りを披露していた。激しい動きに汗が飛び散り、薄桃色の浴衣ははだけ出した。れもんちゃん以外の女性に興奮してはいけないと思いつつも、やっぱりその胸元を盗み見た瞬間、私は雷に撃たれたような衝撃とともに悟った。
「これは、伝説のダンスユニット、『れもんダンサーズ』だ」
帯が解けてダンサーたちの身体から浴衣が滑り落ち、セクシーな黒のコスチュームを纏った鍛え上げられた肉体が顕わになったとき、彼女たちはどこに忍ばせていたのか素早く黒いキャップを頭に載せた。その額には『チームれもん』の縫い取りが輝いていた。もちろん、胸元では銀の髑髏がヘニャっと笑っていた。
人垣に阻まれながらダンサーたちに近づこうと足掻いているYさんと金ちゃんに駆け寄ると、私は二人の首根っこを掴んで、猛烈に抵抗するのをモノともせず、母猫が子猫を運ぶように、櫓の近くに引きずって行った。
二人は怒り狂い、「放せ~」と怒鳴りまくっていた。
「バカ野郎!あれは、伝説のダンス・ユニット『れもんダンサーズ』だ。それが何を意味するか分からんか?」
金ちゃんは、その意味を悟ったのか、はっと目を見開いた。しかし、Yさんは、「もっと、『れもんダンサーズ』が見てたい。抱き付きたい」と駄々を捏ねた。
「目を覚ませ!」
私はYさんの横面を張り飛ばした。ついでに金ちゃんにも同様の一撃を加えた。
「『れもんダンサーズ』がいるということは、近くに、れもんちゃんがいるということだ。れもんちゃんが平地に立ち現れるなんて考えられるか?今、櫓の謎が解けた。腐った太鼓の意味も氷解した。三十年以上も前、つまり、れもんちゃんの生まれる前から、この櫓はこの瞬間を待っていたんだ。そして、腐った太鼓は相応しからぬ人物がこの櫓の上を占めるのを防ぎ続けてきたんだ」
「俺、分かってたのに、シバかれた」と、金ちゃんはブー垂れた。
まだ釈然としていないYさんだったが、櫓が突然ガタッと音を立てて大きく揺れたとき、その表情に緊張が走った。櫓は、その後も機械音とともに小刻みに揺れ続けている。紅白の幕が巻き付けられているために、その内側で起こっていることを目にすることは出来なかったが、3人は「迫り上がりだ!」「昇降機だ!」「小型エレベーターだ!」と結局は同じことを同時に叫んだ。
櫓の上で、太鼓を載せた台が傾きだした。やがて台は横倒しになり、太鼓はその台と共に櫓の背面、茂りに茂った夏草の上に大した音も立てずに落下した。
自販機見つけて缶コーヒー
コイツが今日の8本目
これだけ飲んでりゃトイレも近いぜ
便所に行くのは6回目
・・・
花屋の前を通りすぎる
レモンの花はない様子
でも、俺の瞼の奥にはいつも
れもんの花が咲いている
ゆえに、薔薇を咥えてフラメンコ
靴音響かせタップダンス
全く身に覚えのない最後の二行はさておいて、歌詞だけ切り取れば、全くどうでもいい行動の描写に終始しているが、狂おしいばかりの緊張感を孕んだシン太郎左衛門の声と怒涛のようなサウンドは、直接は描かれていないれもんちゃんを真っ直ぐ希求する魂の咆哮だった。れもんちゃんとの邂逅に向けて高まっていく期待、還暦男の感情のドラマを通して、れもんちゃんの存在感が巨大化していく。『れもんちゃん音頭』は、膨大な言葉と熱量を使って、たった一つのことしか言っていない。「早くれもんちゃんに会いたいな」、ただそれだけのことだった。
そして、いよいよ、全身全霊を投じて待ち望まれた、れもんちゃんの登場のときだった。
櫓の上に黒い影。れもんちゃんの登場を掛け声をもって迎えるつもりが、その前に「あっ、ラッピー!」と金ちゃんが叫んだ。姿を見せたのは、ラッピーだった。だが、それで「はぁ?」と拍子抜けしてはいけない。
私は、ラッピーの元に駆け寄ろうとする金ちゃんを制した。「今、ラッピーは、お前の飼い犬ラッピーではない。よく見ろ。ラッピーが首輪の代わりに着けているものを」
「あっ!ヘニャっと笑う髑髏のネックレス!」
「金ちゃん、これがラッピーの真の姿、れもんちゃんのボディーガードだ。『チームれもん』随一のヤバいヤツ。れもんちゃんに失礼な振る舞いをした者がいれば、即座に喉笛を噛み切られる。巷では『ザ・モンスター』と呼ばれている」
「嘘だ!」
「ああ、嘘だよ」
そのとき、とても優しく穏やかな表情を浮かべたラッピーの頭に、背後から『チームれもん』のキャップを被せた白い手があった。
ついに、れもんちゃんが降臨した・・・
・・・音楽は終わっていた。
『れもんちゃん音頭』のラストは、ラップではなく、歓喜と興奮の極致に至った静かな語りだった。
「クラブロイヤルにたどり着き、入り口でスタッフさんと挨拶を交わす。そして、靴からスリッパに履き替えながら、いつものように蹴躓いて、『おっとっと』と得意の六方を踏むのであった」で終わった。
我々は、しばし言葉を失っていた。
「今のは・・・夢でござるか」
「いいや、れもんちゃんでござる」
「斯様な美なものを初めて見申した」
3人ともシン太郎左衛門が憑依したかのような口調であった。
「しゃなり、しゃなりと、それは雅な踊りでござった」
「れもんちゃんと音楽とのシンクロ率は奇跡の0パーセント、しかし拙者の想いには100パーセントシンクロしてござった」
「ピンと伸びた指先が、スッと微かに反ったとき、総毛立ちましてござる」
「あれは誠に美でござった」
会場は提灯も消え、暗がりの中、時代劇に出てきそうな三人の武士を残して猫の子一匹いなかった。ぼんやりと月明かりが彼らを照らしていた
「水色の浴衣は、よう似合ってごさった。赤い金魚がスイスイ泳ぎ、それはそれは可愛かった」
「れもんちゃんは宇宙で一番でござる」
「長年夢見た通りの盆踊りでござった。宇宙一のれもんちゃんを迎え、盆踊りの復活が叶った上は、拙者、最早思い残すことはござらぬ」
「死なれまするか。さようなら」
「まだ死ぬ気はござらぬ。れもんちゃんがこの世にいる限り、我々『シン太郎左衛門ズ』は不滅でござる」
三人の顔には、目から頬にかけて感涙が滂沱として流れた跡が、月の光にくっきりと照らされていた。
「父上、そろそろ出発の時間でござる」というシン太郎左衛門の声に、はっと我に帰って、腕時計を見ようとしたら、嵌めていなかった。全裸のまま、右手に生卵、左手にスライスチーズを持って、冷蔵庫の前に立ち尽くしていたのだ。
「いかん、ぼ~っとしていた。少し待て。30秒で服を着る」と言って、二階の自室まで駈け上がると、シン太郎左衛門も付いて来ていた。
「お前は下で待ってればいいのに」
「そうはできない訳がある」
「まあいい。細かいことは気にするな。新快速に乗るのだ。駅まで走るぞ」
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様
ご利用日時:2023年7月30日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当だと当人は言っている。
一昨日の7時頃、仕事からの帰り、町内会長のYさんの家の前を通りかかると、Yさんは庭木に水をやっていた。何故か妙にシャンとした格好で、ネクタイまで締めていた。「お帰りなさい」と挨拶されたので、挨拶を返して、ついでに盆踊り復活の見通しについて訊いてみた。Yさんは口の前に指を立てて、辺りの様子を確認すると、ホースの水を止めた。
Yさんは「実は、その件で動きがある」と囁くような小声で言った。ズボンの中でシン太郎左衛門が聞き耳を立てているのが分かっていたので、ヒソヒソ話は私にとっても好都合だった。
Yさんが言うには、町内会の集まりで夏祭りの復活が否決されたのは町内会報で周知のとおり(私が回覧板を見ずに回していることが、町内会長にバレてしまった)。しかし、それでは収まらないYさんは同志を糾合し、金のかかる籤引き大会やヨーヨー釣りはカットし、盆踊りだけを決行する計画らしい。極秘と言いながら、Yさんがヒソヒソ声だったのは最初だけで、すぐに大声を張り上げていたから、一部始終を聞いたシン太郎左衛門は満足げに頷いていた。
「なるほど、こじんまりとした盆踊りなら、広場にラジカセを持っていけばいいだけですもんね」と言ったら、Yさんは呆れ顔で、「それはいかんでしょ。櫓がなければね。太鼓がなければね。提灯を吊らなければね」
呆れているのは、こちらも同様で「櫓や太鼓なんて要ります?」と言い返したかった。でも止めた。実は、Yさんの櫓や太鼓への強い拘りが夏祭り復活の最大の障壁なのだ。盆踊りはやってもいいが、櫓や太鼓は確実に不要というのが、町内の大方の意見だった。この町内でも高齢化は進行していて、鉄骨で櫓を組み、その上に太鼓を持ち上げる作業は、コロナ前でも多大な負担だった。その上、これらは全くの飾りでしかなかった。というのは、私が引っ越してきた30年前の時点で、この町には既に太鼓の叩き手はいなかった。太鼓の手入れもされておらず、以前、私が試しに叩いてみたときには、グチャっという嫌な音がして、とても祭りの当日に鳴らせる状態ではなかった。そんなことで、コロナで一度中断してしまうと、従前通りでの復活を断固拒否する声が噴出した。
「今10人ほどが賛同してくれているから、後数名加わってくれると大助かりです」と私を誘ってきた。
「ちなみに、その10人って誰ですか?」と尋ねると、Yさんはあっさり教えてくれて、「我々は、この計画を『ゲリラ盆踊り作戦』と呼んでいます。ぜひ、あなたにも加わっていただきたい」
真っ平御免だ、と言下に断りたかったが、ズボンの中でシン太郎左衛門がせっついてくるので、彼の意を汲んで、
「数日考えされてください。それともう一つ教えてください。ゲリラ盆踊りのとき、私の希望する曲を流してもらえますか?」
「CDを持ってきてもらえれば、かけますよ。ただ、盆踊りに相応しいものでしょうな?」
「はい、もちろんです。『れもんちゃん音頭』です」
「えっ、知らないなぁ。『アンパンマン音頭』なら子供たちに人気ですけど」
「れもんちゃんは、『アンパンマン』の登場人物ではありません。れもんちゃんは、子供ではなく大人に大人気です。必殺技は『アンパンチ』ではなく、『レモンスカッシュ』です・・・まあ、いいや。さようなら」
Y邸の角を曲がると、家までは直線200メートルを残すばかりだ。
「シン太郎左衛門、聞いたか?『ゲリラ盆踊り作戦』だってさ。極秘作戦なのに、名前がそのままズバリだ。シン太郎左衛門シリーズの登場人物だけあって、言うことがてんで成ってないよな」
「それで父上は・・・」
「あいつのゲリラ盆踊りに協力するかって?多分しないな。さっき名前が上がってた10人だけど、全員80歳を軽く越えてる。Yさんを筆頭にみんな元気は元気だが、この猛暑だぞ。1時間も外に立たせておいたら、全員ブッ倒れる。熱中症でな。ましてや、町内会の倉庫に眠ってる鉄骨を広場に運んで櫓を組んで、その上に太鼓を据えて、紅白の幕を櫓に巻き付けて、櫓から四方に紐を張って提灯を吊るしてって、彼ら自身はお手伝いをするだけだ。『あと数名加わってもらうと助かる』とか言ってたが、その数名が実働部隊だ。俺が一人加わっても、何も起こらない。俺も立派に爺さんだから、連中にコキ使われたら、ぶち切れる」
「残念でござる」
「まあ完全に望みが絶たれた訳じゃない。来週のどこかで、櫓と太鼓抜きなら協力すると、Yさんに話す」
「Y殿は聞き入れましょうか」
「さっきの口振りでは、受け入れまい。そのときは、そのときだ」
通りすぎる家々から、それぞれの夕食の匂いが漂っていた。
「父上、ニートの金ちゃんに頼んではいかがでござろうか」
「金ちゃんか・・・」
シン太郎左衛門が言う「ニートの金ちゃん」は、隣家の長男である。彼を「金ちゃん」と呼んでいるのは、私とシン太郎左衛門だけで、彼の名前とは全く無縁に、ただ彼が童顔で丸々とした体型、金太郎を思わす風貌をしているために、そう呼んでいるだけのことだ。
また金ちゃんは本当はニートではない。今30歳、ほとんど家から出ないから、近所で誤解を受けているが、フリーランスのプログラマーで生活には困っていないのだ。人付き合いを極端に避けるが、何故か子供の頃から私には懐いてきた。
「何故、金ちゃんは、父上のような変人に気を許したのでござろうか」
「それは言えない。お前が、れもんちゃんのときだけ別人になる理由が簡単には説明できないのと同じだし、下手をすると俺の裏の顔に触れることになる」
「父上には裏の顔がありまするか」
「そんなものはない。説明にトコトン窮すると、実際にはないものをでっち上げることになりかねないという意味の比喩だ。まあいい。何にせよ、金ちゃんに力仕事は無理だ。不摂生を極めた生活をしているから、割り箸やプラスチックのスプーンより重いものは持てない。塗りの箸ではカップ麺も食えず、金属製のスプーンではプリンも掬えないのだ」
「それは困りましたな」
「いや・・・いいことを言ってくれた。一つ妙案が浮かんだ」
「妙案とな」
「うん。金ちゃんは年に一、二度ガッツリと部屋に引き籠ることがある。『面会謝絶』とドアに張り紙をして、一週間でも自室から出てこない。そういうとき引っ張り出してやるのが、俺の役目だ。『よお、元気か?』とアイツの部屋のドアを蹴破って、『飯食ってるか?これでも食え』とアイツが嫌いなトマトやナスやピーマンを部屋中にバラ撒いてやる。すると、金ちゃんは『冗談、止めてくださいよ』と部屋から出ていくのだ。他の人間がやっても、こうはならない。俺だけに出来る技だ。こういうことがあって、彼の両親は俺に感謝していて、真面目に頼めば盆踊りの実施に協力してくれるだろう」
「Y殿の計画にご両親を加担させるのですな」
「Yさんの計画に実現性は乏しい。多分破綻する。そうなったときに、ラッピーを含めた金ちゃんの家族と俺たちだけで盆踊り大会を決行する」
「拙者、ラッピーは苦手じゃ。よく吠えられる」
ラッピーは、金ちゃん一家が飼っている雌のラブラドール・レトリバーだった。
「ラッピーは実に賢い。この町内で俺が一目置くのはラッピーだけだ。人間は全員ダメだ。ラッピーの慧眼には畏れ入る。この町で、お前の存在を察知したのは彼女だけだ。だから吠えるんだ。敵意からではない。友達になりたいのだ」
「それは誠でござるか」
「ラッピーの目を見てみろ。あの優しく澄みきった美しい目を。れもんちゃんの目に似ている。俺が犬だったら、ラッピーに恋していた。偶々人間だったから、れもんちゃんが大好きになったのだ・・・まあいい。町内会長がやれなければ、俺たちと金ちゃんファミリーでゲリラ盆踊りを敢行する。それだけのことだ。名付けてプロジェクトK」
「プロジェクトKとな。Kは『金ちゃん』の略でござるな」
「違う。『プロジェクト金ちゃん』ではどう考えても格好悪い。Kは梶井のKだ・・・これも別に格好よくはないが、梶井は『檸檬』の作者で、『檸檬』は京都の丸善というデカい本屋の美術書コーナーで画集を積み上げて、その上にレモン爆弾を仕掛けて立ち去る男の話だ。高校の教科書に載っていた。俺たちは、広場に『れもんちゃん音頭』という爆弾を設置し、この腐った町を爆破するんだ」
シン太郎左衛門は神妙な顔で「なるほど」と頷いた。最近、よく分からないことを「なるほど」の一言で誤魔化す術を学んだようだ。
「シン太郎左衛門、お前の任務はとにかく『れもんちゃん音頭』を完成することだ。町内会長の盆踊りだろうが俺たちの盆踊りだろうが、『れもんちゃん音頭』を流すのは一回限りだ。しくじることは許されない。『れもんちゃん音頭』が不発だったら、俺たちは無駄死にだぞ」
最後の方のセリフは出鱈目だったが、私には若干妄想癖があり、こういうヒロイックな展開をかなり楽しんでいた。
「10日くだされ。立派に作ってみせまする。そして歌と演奏の技を研き、10日後には必ず『れもんちゃん音頭』、披露致しまする」
こんな真剣な顔をしたシン太郎左衛門は初めて見た。
ちょうど家の前に着いた。
「任せたぞ、シン太郎左衛門。『れもんちゃん音頭』、早く聴きたいものだ」と言いながら、私は(「歌と演奏の技を研く」って、どういう意味だろう。『れもんちゃん音頭』はアカペラなのに)と訝しさを感じていた。そして、ぼんやりとした不安感すら覚えながら、玄関の鍵を開けた瞬間、ラッピーが数回吠えた。その声が何故だか警戒を促しているようで、ぼんやりとした不安の塊は一回り大きさを増したのであった。
さて、6月11日の松江出張の篇に始まった、音楽時代劇の大作『シン太郎左衛門と音楽』は、いよいよ次回『れもんちゃん盆踊り(後編)』で、そのクライマックスを迎える。
絶世の美女、れもん姫の運命や如何に!!
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様
ご利用日時:2023年7月23日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当は違うかもしれない。
日曜日の朝。暑いし湿度も高いから、起きると、まずシャワーを浴びた。グラスに注いだアイスコーヒーをテーブルに置くと、全裸のまま新聞を開いた。
「父上、何を泣いておられる」
「泣いてはいない。涙が出ただけだ」
「まさか、シン太郎左衛門シリーズの最終回でござるか」
「違う。そんなことで涙は出ない。上の文章、前回の出だしと全く同じだろ。まさかとは思ったが、また夢オチかもしれないと、頬をつねってみたが、痛いというほどでもない。『またもや、してやられたか』と、最終確認の積もりで鼻の上を拳で叩いてみたら、まともに痛くて涙が出てきた。もう少し手加減すればよかった」
「父上は、近頃珍しい古典的な馬鹿でござるな」
「何とでも言え。れもんちゃんに会う日、俺の心はとっても広い。馬鹿と呼ばれようが、鼻が痛かろうが、全く問題にならん。車に跳ねられて肋骨の2、3本折れても、『全然大丈夫』と言ってしまいそうだ」
「それは尤も。れもんちゃんの力は恐ろしいほどでござる。ちなみに、拙者の場合、れもんちゃんに会う日の朝は、無性に歌いたくなりまする」と、私の同意を求めることもなく、全777番あるとも言われる曲を歌い始めた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて・・・
シン太郎左衛門は否定するが、この1番を聴く限り、『れもんちゃん音頭』以外の曲名は考えられなかった。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番れもんちゃん
と、1番が終わり、1番以外で唯一聴いたことのある27番は二度と聞きたくなかったし、とにかく何番だろうが、変なのが来たら、すぐに止めようと身構えていると、「は~いのはい・・・」と民謡調で来たので、ひとまず胸を撫で下ろした。
は~いのはい、は~いのはい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なるエロ美人
立てば芍薬、座れば牡丹
歩く姿もエロ美人
あ~あ、フェロモンが芳しい・・・
「ちょっと待て」
興が乗ったところで水を注されたシン太郎左衛門は不満げに、「なんでござるか」
「歌詞に品がない」
「品がないとは失礼でござろう」
「そうだ。この歌詞では、れもんちゃんに失礼だ。盆踊りに使えない」
「盆踊りに使う予定はごさらぬ」
「以前、この歌の名は『れもんちゃん音頭』ではないとキッパリ断言したのに、今聞けば、この歌は自らを『れもんちゃん音頭』と明言しておる」
「なんの。この歌全体は未だ名を持ちませぬ。初めの10番ほどを便宜上『れもんちゃん音頭』と呼んでおるばかりでござる」
「便宜上でも音頭と呼ぶからには、盆踊りを意識しなければならない」
「なるほど、そういうものでござるか」
「当たり前だ。一流の音頭は盆踊りで使われるものだ。れもんちゃんは、一流ではないのか?」
「聞き捨てなりませぬ。れもんちゃんは超一流の面々が反り返って仰ぎ見なければならぬほどの高みにおられるお方じゃ」
「もちろん分かってる。当然そうだ。だから仮にも、れもんちゃんの名を冠する以上、盆踊りで使えるような歌詞にすべきだ。そうして、我らが町内会の盆踊りを手始めに『れもんちゃん音頭』を売り出そう」
「本気でござるか」
「うむ。新型コロナ以降、開催されていないが、それ以前の、この町内会の盆踊りについて気が付いたことはないか?」
「う~む。選曲が出鱈目でござった」
「だろ?そうなんだ。我らが町内会の盆踊りで使われていた音源には、日本各地の余り有名でない民謡が脈絡なく収められていた。地元の音頭も含まれてはいたが、扱いは他の曲と同じだ。あのCDを編集したのは誰だと思う?」
「町内会長のY殿でござろう」
「世間では、そう思われているが、実は違う。あのCDを纏めたのは俺だ。まあ聴け。町内会長のYさんは、元エリートサラリーマンらしいが、東京本社勤務のときに住んでいた社宅の隣の公園で、毎年盆踊りになると延々と『東京音頭』が繰り返されることに辟易していたらしい。これでは新しいことにチャレンジする姿勢や創造性は育まれないと、Yさんは考えた。それで退職後に移り住んだこの町で町内会長を任されたとき、まず第一に手を着けたのが、盆踊り改革だったのだ。その当時は、この町の盆踊りでも、地元の音頭を飽きもせず繰り返し流していたからな。しかし、Yさんは音楽に詳しくないから、誰か選曲の手助けをしてくれないかと、よりによって盆踊りの音楽に全く無知な俺に頼ってきた訳だ」
「こんな音痴に頼むとは・・・ひどい話でござる」
「全くだ。寄合のとき、俺が『それなら、なんとか音頭とか、なんとか節とか、民謡の類いを適当に寄せ集めたCDを作りゃいい』と言ったら、その通りになってしまった。盆踊りの当日は大混乱で、『こんなので踊れるか』と非難轟々だったが、Yさんは懲りることなく、翌年以降も同じ路線を突っ走ったのだ。ただ数年経つと、みんなその環境に慣れてきて、聴いたこともない曲に合わせて、何となく踊るようになっていた。もちろん、一切統制が取れてない、てんでばらばらの踊りだったがな。慣れというのは大したもんだ」
「父上、延々とY殿の話をしておられるが、これは、れもんちゃんのクチコミでござるぞ」と、シン太郎左衛門が見かねて口を挟んできた。
「分かってる。分かってる。もう終わる。俺も好きでYさんの話をしている訳じゃない。まあ、そういうことで、この町内会は全国でもトップレベルで盆踊りの音楽に対して革新的なのだ。だから盆踊りが復活したとき、『れもんちゃん音頭』を流しても、歌詞の中で『エロ美人』だの『フェロモン』だのと言わなければ、この町の人達は何の違和感もなく、踊ってしまうのさ」
「う~む、なにやら変な夢を見ているような感覚じゃ」
「俺も、ここ最近ずっとそうだ。れもんちゃんと会っている時間だけが素敵な夢で、それ以外の時間は全て変テコな夢だ。それは、それでいい。お前の『れもんちゃん音頭』、なかなか面白い。この町内の人々は即興で踊るのに慣れてるし、きっと喜んで踊るだろう。それを撮影して、動画サイトにアップしよう。『大人気!!れもんちゃん音頭』とタイトルを付ける。なんとも楽しいな」
「とんと分からん。楽しい以前に、それは、れもんちゃんの許しを得ずに、やってもよいことなのでござるか」
「多分やってよいだろう。他の町内会から引き合いがあるだろうから、概要欄に『れもんちゃん音頭の音源をご希望の方は以下にご連絡下さい』として、Yさんのメルアドを載せておく」
「Y殿には寝耳に水・・・」
「大丈夫だ。ちゃんと説明しておく。なかなかいい曲だから、瞬く間に日本中の盆踊り会場で流れることだろう。そのうち誰かが『ところで、れもんちゃんって何者だ?』と疑問に思う、ネットで検索する、クラブロイヤルのホームページにたどり着く、そして、このクチコミを呼んで納得する。れもんちゃんの全国的な知名度がガッと上がる」
「今日の父上は変でござる。なんだか嫌な予感。もしや、今回は拙者の夢オチではござらぬか」
「夢オチ?何を言い出すことやら」と鼻で笑うと、シン太郎左衛門も照れ笑いを浮かべ、「思えば、父上は作者。夢と消えるはずがない。拙者の思い過ごしでござった」
「ましてや、3回連続で夢オチなんてことは流石にないだろう・・・なんて油断をしてはいけないよ。二度あることは三度あると、ナポレオンの辞書にも書いてある。まあ、そういうことだ」と、私はシン太郎左衛門の肩をポンと叩いて、霧散した。
「な、なんと、作者が突然いなくなってしもうた。こんな途轍もなく長く、しかも書きかけのクチコミを残して、作者が消えてしもうた・・・今度こそ、れもんちゃんに叱られまするぞ」
次の瞬間、シン太郎左衛門は、突然寝返りを打った父親の下敷きになり、「むぎゅ~っ」と呻き声を上げていた。
「苦しい~。父上、起きてくだされ」
「へぇ?なんだ?」
「寝返りは打たぬ約束。まずは仰向けになり、その後、拙者の話を聴いてくだされ」
たった今見た夢の話を、シン太郎左衛門が語り終えると、彼の父親は「うそ~ん。これって、れもんちゃんに会う大事な日の朝5時に起きて聴くべき話か?」と、顔をしかめた。「シン太郎左衛門、もう起こすなよ。目覚ましが鳴るまで『し~』だからね」と、ブランケットを額の上まで引き被った。しかし、すぐに素っ気ない態度を反省したのか、「でも、『れもんちゃん音頭』、ちゃんと作ってみたら?」とブランケットの下から、くぐもった声がした。「れもんちゃんは洒落の分かる娘だし、多分喜んでくれるよ。それと、Yさんは今、盆踊りの復活に燃えているから、今年は無理でも来年は再開するかもな。あの会場の広場に『れもんちゃん音頭』が流れたら、痛快だな。CDに入れて、『これかけて』って言ったら、『はいよ』って流してくれるぐらいの緩い運営だから、出来ない話じゃないしな」
「それは誠でござるか」
「うん。でも777番全部はダメ。10番まで。後、くれぐれも27番は入れないでね。じゃ、おやすみ」
薄暗がりの中、シン太郎左衛門は寝付けなかった。あの偽オヤジの言葉が耳から離れなかった。
「盆踊りに使われてこそ音頭とは、思えば的を射た意見。777番まで膨れた歌だが、元はと言えば、シャナリシャナリと踊る浴衣姿のれもんちゃんに憧れて作り始めたもの。今一度初心に戻り、全10番の『れもんちゃん音頭』を仕上げてみせよう。れもんちゃんの素晴らしさを世に知らしめることは、男子畢生の事業に相応しいのだ」
窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。
松江出張の折、父親は暇に飽かしてスマートフォンで音楽を流し続けていたが、その時すでに、れもんちゃんに捧げる楽曲の構想を抱いていたシン太郎左衛門は全身全霊を傾けて、それら数多の曲の精髄を吸収しようと努めていたのだ。そんなこととは露知らず、父親はすっかり眠りこけていた。
と、『ズンズン』と控え目にバスドラムが鳴り響き、ブランケットを微かに揺らした。父親の寝息を確認すると、小さくドラムスティックが打ち鳴らされ、小鳥の囀りと大差ないほどの小さな音でギター、ベース、ドラムの演奏が始まった。父親は熟睡していたために、ブランケットの中で密やかに響く曲の出だしが、妙に、いや露骨にリンキン・パークの「フェイント」のイントロに似ていることなど、知るよしもなかった。
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、セカンド・シーズンの告知(あるいは武士の商売)様
ご利用日時:2023年7月16日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。当人がそう言い張るのだから、止められない。
シン太郎左衛門のシリーズも10回近く書いたと思う。これを期に、今回からセカンド・シーズンとすることに決めた。ただ、シン太郎左衛門が名探偵になって難事件を解決するとか、グルメになって神戸の街で食レポをするとか、そんな新展開・新企画が用意されているわけではない。グダグダの文章で、れもんちゃんを讃える点では、これまでと何も違わない。では何のためにシーズンを改めるのか?自分に喝を入れるためである。本シリーズ、回数を重ねるにつれて、一本がドンドン長くなり、自分でも耐えられない長さになってきた。この流れを絶ち切りたい。そこで今回、当初予定していた「音楽」ネタの第三弾を一旦ボツにして、心機一転、短いことを最優先として筆を執り直した。だから、多分短いものになると思うが、保証はできない。
日曜日の朝。すでに暑いし湿度も高いから、起きるとまずシャワーを浴びた。アイスコーヒーを注いだグラスを片手にテーブルにつくと、新聞を開いた。
今日は、れもんちゃんに会える日なので、シン太郎左衛門は元々ご機嫌な上に、シャワーでスッキリした後、トランクスに押し込まれることもなかったから、解放感も手伝って鼻歌が止まらない。
れもんちゃんに会う日の朝は、我々親子にとって、期待に胸躍る、掛け替えのない時間なのだ。
さて、シン太郎左衛門、急に鼻歌を止めて、「れもんちゃんは大人気でござるな。一週先まで予約完売が続いておりまする」と言ってきた。スマホを見せた覚えもないのに、見てきたような口の利き方は多少気になったが、問い質すほどのことでもない。
「そうだな。すっかり予約困難になってしまった。上限いっぱい売れっ子になったれもんちゃんのクチコミを書いて、なんの意味があるのか、と自分でも思うよ。クチコミしか趣味のない、寂しい人間と世間で思われているかもしれん」
「まこと、れもんちゃんの人気、大変なものでござる。拙者も、れもんちゃんの人気にあやかり、商売を始めようと存じまする」
「商売?武士なのに?」
「うむ。武士とはいえ、いい年をして、いつまでもブラブラしても居られますまい」
還暦近くまでブラブラしてきたのだから、いっそ最後までブラブラしてたらいいのに、と思ったが、誰しも時に変化を求めるものだろう。
「商売って、何するの?」
「れもんちゃんグッズの製造販売でござる」
ほぼ思ったとおりの回答だった。
「ふ~ん。それは難しいだろうな。その前に、お前が『グッズ』という言葉を使うのは感心しないな。武士という設定から逸脱してる」
「向後、気を付けまする。『れもんちゃん小物』でござった」
正直、この話題は、さっさと切り上げたかったが、シン太郎左衛門はまだ先を聴いて欲しそうにしている。気乗りはしなかったが、れもんちゃんに会う目出度い日に親子関係に亀裂を入れたくはなかった。
「一応訊いてやるが、その『れもんちゃん小物』とは何だ?」
「キャップとアクセでござる」
「キャップとアクセだと?」
コイツ、今日は平気な顔して、設定をぶち壊してくる。ただ、一々訂正していくのは、どう考えても面倒だった。
「拙者の友人のイタリア人が腕のよい帽子職人で、高級ブランドの仕事もしております。例えば・・・」と有名なハイブランドの名前を並べた上に、「また拙者、最近メキシコ人の新進気鋭の銀細工職人と懇意にしてござる」
「待て待て。お前の友人にイタリア人やメキシコ人がいれば、四六時中こんな身近で過ごしている俺が知らんはずがない。今回も夢オチか?」
「いやいや、両名とも立派な人物でござる。キャップはロゴこそないが、高級ブランドの品に勝るとも劣らず、シルバーのネックレスやブレスレットも、それはそれは可愛いものでござる」
シン太郎左衛門、普段よりもずっとキリッとした顔をしている。
「でも、れもんちゃんがデザインに協力してくれた訳でもないのに、そのキャップやアクセサリーを『れもんちゃん小物』と呼んでいいのか?」
「キャップは、生地も縫製も最上級の高級感漂うものではありますが、一見したところは単なる黒いキャップでござる」
「れもんちゃん的要素は?」
「生地の手触りは息を呑むほど」
「確かに、れもんちゃんのお尻の手触りには毎回息を呑んでいるが、それが共通しているから『れもんちゃんグッズ』とは、いくら何でもこじつけが過ぎる」
「確かに仕入れの段階では、れもんちゃん小物とは分かりますまい。肝心なのは、その後でござる。ミラノの工房から届いたキャップの一品一品に拙者が気持ちを込めて縫い取りを施しまする」
「お前が?できるの?」
「無論できまする」
「縫い取りって、何を縫い取るの?」
「ツバの上の、つまり額に当たる部分、そこに白い糸を以ち、勘亭流の書体で『チームれもん』と縫い取りまする」
「マジで?」
「いかにもマジでござる。ご要望とあらば、『Team れもんちゃん』とも致しますが、追加料金を申し受けまする」
「そうか・・・」
シン太郎左衛門は元々馬鹿だし、猛暑も加わり、とうとう一線を越えてしまったんだな、と思う一方、そんなキャップがあれば一つ欲しいな、とも感じていた。
「さらにシルバーのアクセサリーは、髑髏がモチーフでござる」
「髑髏?イカツいな。れもんちゃんのイメージから外れてるよ」
「ところが、この髑髏にイカツさはござらぬ。ヘニャっと可愛く微笑んでおりまする」
「ヘニャっと笑う髑髏か・・・それ、可愛いか?」
「これが、とんでもなく可愛いのでござる。思い出してくだされ。れもんちゃんがイタズラっぽく微笑むときの表情、あの小悪魔的な妖しい可愛さ」
「う~っ、確かにあれは刺激的だな」
「れもんちゃんは、ちょっぴりやんちゃな服装を身に纏っても、絶対に可愛いに決まっておりまする。このキャップとアクセは、そんな場面の極めアイテムともなりまするぞ」
私の頭の中で、想像が巨人な積乱雲のように成長してしまっていた。
「う~、いくらだ?」
「値はかなり張りまする」
「だから、いくらだ?」
「拙者の取り分は、工賃込みで一両二分二朱でござる」
「分からん。いろんな意味で分からん。結局いくらなのかも分からないし、今日は徹底的に無視してきた武士の設定に、何故この場面に限って忠実であろうとするのかも分からん」
「お買い求めでござるか」
「1セット買おう」
「れもんちゃんへのプレゼントでござるな」
「うん」
「それであれば、れもんちゃんに、これらを身に着けて写メを撮り、日記に使ってもらうよう頼んでくだされ。出精値引き致しまする」
この言葉に疑念は確信へと変わった。
「貴様、何者だ?その物言い、シン太郎左衛門のものではあり得ない。偽者だ。というか・・・またしても、夢オチなんだろ」
シン太郎左衛門の姿をした者は憤然とした表情を浮かべていたが、口を開くや、「へへへへ」と笑い出した。
「そうだよ。またもや夢オチだよ~ん」
「ひどい話だ。セカンド・シーズンの初回だったのに。もう誰も信じられない」
多分、声を上げていたのだろう。
すぐにシン太郎左衛門が「父上、いかがなされましたか」と問い掛けてきたが、お前の偽者が出たと言う気にはならなかった。
布団に横になったまま、スマホを見た。すでに外は明るかったが目覚ましが鳴るまでには、まだ時間があった。
「特に何もない。もう少し寝よう。ただ、ひとつ言っておきたいのは、れもんちゃんは何を着ても可愛いということだ」
「それは1足す1が2であること以上に、世に知れ亘ったことでござる」
「では、れもんちゃんが黒いキャップを被り、髑髏のアクセサリーを着けていたらどうだ?」
「聞き覚えのない言葉が多ござるが、可愛いに決まっておりまする」
「そうなのだ。れもんちゃんは何をやっても可愛いのだ。それだけのことなのだが、しっかり胸に刻んでおけ。これは、普通のことではないからな」
「畏まってござる」と、シン太郎左衛門は神妙な顔で頷いた。
「それと、二作連続で夢オチを使うなんて聞いたこともない。このクチコミの作者に『ふざけるな』と言っておけ」
結局、ちっとも短くならなかった。シーズンを新しくしたぐらいでは何も変わらないことは証明済みだが、セカンド・シーズンは今回限りとし、次回いよいよサード・シーズンに突入する。
シン太郎左衛門、セカンド・シーズンの告知(あるいは武士の商売)様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と怖い夢様
ご利用日時:2023年7月9日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だ。当人がそう言うんだから、しょうがない。
前回も書いたが、夜なかなか寝付けない。暑さだけでなく、加齢も原因に違いない。エアコンをかけても、ほとんど効果がない。睡眠2、3時間の日が2週間も続くと、さすがにグッタリしてきた。職場でも「夢遊病者」という渾名が付いた。
初めの1週間ほどは眠れぬ夜に付き合ってくれていたシン太郎左衛門だが、先週の某日、深夜12時頃、「もういかん。父上、本日はお先に失礼致しまする」と言って、クルッと丸くなって眠ってしまった。私は独り布団の上に取り残された。
それから1時間ほど過ぎただろうか。眠れなくてもジタバタせず、目を瞑って身体を横にしていれば、身体も脳もかなり回復するという知人の助言に従って、布団の上で大人しくしていた。
と、それまでクークーと寝息を立てていたシン太郎左衛門が突然暗闇の中でムクッと起き上がり、「それにしても、れもんちゃんはいい娘でござるな」と、とんでもない大声を張り上げたので、こちらも驚いて叫び声を上げそうになった。
去年の夏、れもんちゃんに出会って以降、真夜中に突然何者かにどやされた感覚とともに目を覚ますことがしばしばあったが、すべてコイツのせいだったんだ。
シン太郎左衛門は、ムニャムニャ言いながら、また眠りに落ちた。
それから、また1時間ほど経っただろうか。シン太郎左衛門、「れもんちゃんは、誠にお美しい。美しすぎまする」と寝言を始めた。どうやら夢の中、れもんちゃんと二人きりで語らっているようだ。
「いやはや、れもんちゃんから仄かに立ち上る芳香はタダ者ではござらぬな。心を捉えて離さぬ・・・そうそう、れもんちゃんのために、近頃、拙者、唄を作っておりまする・・・『れもんのために唄を作ってくれるなんてステキ』とな。いやいや、ステキなのは、れもんちゃんでござるよ」と、すっかり舞い上がっている。
「『唄が作れるなんて、シン太郎左衛門さんは才能がある』とな。いやいや、才能に溢れているのは、れもんちゃんでござる。れもんちゃんは、男をその気にさせる天才。拙者はただ、浴衣を着たれもんちゃんがシャナリシャナリと踊る姿に憧れておりました故、似合いの唄を思案して、いくつか捻り出したのが、事の始まりでござる。れもんちゃんは、まさに変幻自在でござるによって、様々なれもんちゃんの姿を想い描くと、その一つ一つが唄になり、瞬く間にそこそこの長さとなり申した・・・いやいや、大したことはござらぬ。たった777番の短い唄でござる」
思わず、(クチコミと一緒で、長すぎる。桁を間違えてるよ)と胸の内で呟いた。
すると、シン太郎左衛門、「長すぎまするか」と不安そうに訊き返してきた。もしや、私が胸中で呟いたことが夢の中での、れもんちゃんの発言に影響を及ぼすのではないか?そう思うと、余計なことをして、後で面倒になっても嫌だったから、(長すぎるなんて言ってないよ。嬉しいよ)と取り繕った。
すると、シン太郎左衛門、「今日は拙者、耳の具合がおかしいようじゃ。れもんちゃんの声が妙に野太く聞こえまする」
慌てて、(エアコンのせいかなぁ)と極力れもんちゃんの声に似せようとしたが、
「まるでオッサンの声じゃ。普段の、れもんちゃんの可愛い声ではない。あっ、れもんちゃんの可愛い顔が・・・」
シン太郎左衛門がガバッと起き上がった。「恐ろしい夢を見申した」
「どんな夢?」
シン太郎左衛門は、私の顔をまじまじと眺めた後、首を振り、「言いたくござらぬ」
それから、また更に1時間は経過したに違いない。先の夢が余程ショックだったのか、シン太郎左衛門は「寝るのが怖くなり申した」と、しばらく睡魔に抗っていたが、いつしか眠りに落ちていた。
そしてまた、シン太郎左衛門の寝言が始まった。「れもんちゃんでござるか。誠、れもんちゃんでござるな」と警戒感を顕にしている。
シン太郎左衛門の夢に介入する恐れから、私は精一杯、何も考えないことを我が身に課した。
「ああ、れもんちゃんじゃ。優しい、可愛い、美しい、みんな大好きな、れもんちゃんでござる。聞いてくだされ。先刻、恐ろしい夢を見申した。れもんちゃんだと思って、語り合っておりましたところが、れもんちゃんの声からいつもの愛らしさが消え、姿までウチのオヤジに変じましてござる・・・いやいや、笑い事ではござらぬ。恐ろしゅうて悲しゅうて、魂消え申した」
そこからシン太郎左衛門は、れもんちゃんがどれだけ掛け替えのない存在であるか切々と訴え、戯れにも他の誰か、特に彼の父、つまり私に変身するのだけは止めてほしいと懇願していた。
「くれぐれもお頼み申す。れもんちゃんは、いつまでも、れもんちゃんでいてくだされ」
やってみて分かったが、何も考えないというのは、とても疲れる行為だった。集中の糸が途絶えれば、たちまちシン太郎左衛門の寝言に突っ込みを入れてしまいそうな自分がいた。
「ところで、今後、例の唄を仕上げるにあたり参考に致したい。れもんちゃんの音曲の好みをお教えくだされ・・・ほう、クラッシックとな。それは、いかなるものでござるか・・・なるほど南蛮由来の古式床しき音楽とな・・・モーツァルトがよいと。特にお薦めは『福原行進曲』でござるな。忘れてはいかんので、書き留めまする」
(書き留めてどうする。ギャグだ。『トルコ行進曲』と引っ掛けてるんだ)
「何と言われましたか・・・」
危ない危ない。思わず口を挟んでしまった。
「『何も言ってない』と・・・そうでござるか」
言っておくと、れもんちゃんは話も面白い。突拍子もないことを言って笑わせてくる。ただ、若い女の子だから、『福原行進曲』のようなオッサン臭い冗談は、れもんちゃんらしいとは言い難かった。
「う~む。モーツァルトの『福原行進曲』、れもんちゃんのお薦めにより聴いてみたいと思いながら、いずこよりか『そんなものは存在しない』という声がする」とシン太郎左衛門が呻くように言った。
「考えない」ことを一定以上継続すると、頭の中に溜まった言葉が少しずつ漏れ出してしまうらしい。眠れなくてツラい上に、こんな苦行まで課されては堪ったものではない。
「なんと、『実は、れもんには、クラッシックよりも好きな音楽がある』とな。それは何でござるか」
私自身、れもんちゃんの音楽の好みが分かっていなかったから、この答えには興味津々だった。
「ほう、『デスメタル』とな・・・それは、いかなるものでござるか・・・とにかく落ち着く音楽で・・・夜、寝付けないときには、音量を上げて聴いたら、すぐ眠れる、とな。これはよいことを聞いた。早速、オヤジに聴かせまする」
思わず、「シン太郎左衛門、騙されるな。お前が今話しているのは、れもんちゃんではないぞ」と叫んでいた。
「父上、大丈夫でござるか」
「へぇ?」
「寝言を言われているかと思えば、いきなり大声を張り上げて」
ゆっくりと半身を起こして、こめかみを押さえた。「俺は寝てたのか」
「うむ、寝ながら、ごちゃごちゃと言うてござった」
「そうか。俺は、お前が夢の中で、俺の考えていることに影響を受けてしまう偽れもんちゃんに唆されて、夜中に大音量でデスメタルを流すという夢を見た」
「何が言いたいのか一つも分かりませぬ。ただ、本物のれもんちゃんは、それはそれは気持ちの優しい、心の綺麗な娘でござる」
「そうだ。それに、話していても、楽しいしな」
「れもんちゃんは宇宙で一番でござる。ただ物騒な世の中でござるによって、偽物には気を付けねばなりませぬな」
「れもんちゃんの偽物は許せん」
「うむ。拙者、世に偽れもんちゃんが蔓延らぬよう戦いまする」
「一緒に頑張ろう」
こんなふうに親子で固く誓いを立て、しばし気分を高揚させたが、れもんちゃんは異次元だから、誰が真似てもすぐ化けの皮が剥がれる。つまり、れもんちゃんの偽物は夢か想像の中にしか存在できないので、偽れもんちゃんの撲滅のため、親子揃って立ち上る意味はないという結論に至ったときには、外はボンヤリ明るくなっていた。
「父上、もう朝でござる」
「シン太郎左衛門、日本の夜明けだ」
「れもんちゃんのお蔭でござるな」
「そのとおり」
そう言いながら、私は、せめて後1時間は寝なければ、と考えていた。
シン太郎左衛門と怖い夢様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と眠れぬ夜様
ご利用日時:2023年7月2日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だそうだ。少なくとも当人は、そう言っている。
最近、日々暑さが増している。暑さ、特に寝苦しい夜は大の苦手だ。
先日、日中の熱が籠ったままの布団では、なかなか寝付かれず、エアコンを入れるべきか思い悩んでいると、近くでプ~ンと例の羽音まで聞こえてきた。
「嫌なヤツが来た。シン太郎左衛門、お友達が来たぞ」
「蚊が飛んでござるな」
「シン太郎左衛門、斬れ」
「拙者、無益な殺生は致しませぬ」
「しょうがない。蚊取り線香を焚こう」
部屋の明かりを点けて、蚊取り線香を探してゴソゴソしたせいで、いよいよ目が冴えてしまった。
布団に戻ったが、眠れそうな気がしない。
「父上、寝苦しい夜でござるな」
「うん。これはたまらんな」
「しりとりでも致しまするか」
「絶対に嫌だ」
「では唄でも歌いましょうか」
「お前が歌うか?」
「無論、拙者が歌いまする。父上が歌えば、蚊がポトポト落ちてくる」
確かに私は酷い音痴だった。
「うむ。では、歌ってもらうとするが、俺が『もういい』と言ったら止めること。いいね?」
「畏まってござる。それでは、拙者の新作でござる」
「新作か。それは楽しみだ」と、心にもないことを言っていた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて
出来た行列、五万キロ
・・・
そんな行列の最後尾にいれば順番が回ってくるのは二、三百年は先だろうが、シン太郎左衛門は確かに歌が上手い。これは認めざるを得ない。伸びやかな歌声に、思わず手拍子を取っていた。
宵闇の中、沢山の提灯に飾られた櫓、そして団扇片手に歩く浴衣姿の人々が目に浮かんできた。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番、れもんちゃん
「うん。これは盆踊りにピッタリだ。曲名は『れもんちゃん音頭』か?」
「まだ名を付けてはおりませぬが、『れもんちゃん音頭』とはなりませぬ」
「それは何故だ?どう考えても『れもんちゃん音頭』だろ」
「そうはなりませぬ。先を聞けば分かりまする」
急に妙な胸騒ぎが始まった。
「先って、この曲、めちゃ長かったりする?」
「れもんちゃんのための唄が短いはずがござるまい。たっぷりと先はござる。さらに、れもんちゃんには、様々魅力がござる故、この曲も一本調子とはいきませぬ。どんどん曲調が変わりまする」
「そうなのか」
「先を続けて宜しいか」と訊かれても、すぐに返事をしかねた。
シン太郎左衛門、私の沈黙に心証を害した様子で、「れもんちゃんへの想いを込めた唄でござる。耳でなく心で聴いてくだされ」と、何の安心感も与えてくれないことを言った。
「うん。分かった。ただ俺が『もういい』と言ったら、すぐ止めてな」と再度念を押すと、シン太郎左衛門、「うむ」と大きく頷いた。
そして、私の嫌な予感は当たった。
男と生まれて短い一生
終わるとなったらニッコリ合掌
挽肉丸めて平たく伸ばす
胡椒を少々、でもノー・ソルト
塩の結晶、俺の敵
砕いてやるぜ、しょっぱい野望
塩分0.0000
健康第一、れもんちゃん
「待て、待て。何だ、これ?」
「少し飛ばしまして、27番でござる」
「いや、何番かは訊いてない。なんで、27番はラップ風なの?」
「ラップとな」
「いや、何と言ったらいいか」
私自身、日本語のラップをマトモに聴いた経験がない。シン太郎左衛門が、いつどこで、この種の音楽と接点を持ったのか全く解せなかった。ただ思えば、追求するのも面倒だった。
「まあ、いいや。シン太郎左衛門、確かに、れもんちゃんに、しょっぱさは皆無だな」
「いかにも。塩対応ゼロ。大変な甘さでござる」
「いわば、山のような生クリームに」
「たっぷりの蜂蜜をかけ」
「どっさりとチョコチップをまぶした上に」
「これでもかと練乳をかけ流したぐらいには」
「甘いわなぁ~」と二人の声が重なった。
「れもんちゃんを歌うには、その甘い甘い、蕩けるような甘さだけを言葉にすればよいのであって、塩抜きのハンバーグを作って、俺の健康診断の結果を匂わす必要はないのだ」
「つまり簡潔を旨とすべしということでござるな」
「そういうこと。大体、シン太郎左衛門のクチコミは毎回長すぎるよ」
「書いているのは父上でござる」
「だから反省している。毎回すごく反省してる。次回からは徹底的に短くする」
「父上に短く出来まするか」
街灯が微かに射し込む以外には、ほぼ真っ暗な部屋の中で、しばしの沈黙があった。
「やってみるよ」
「父上、おとぎ話をして進ぜよう」
「ふむ」
「昔むかし、あるところに、れもんちゃんがおりました」
「ほう」
「大変な美人でした」
「それはそうだろう」
「おしまい」
隣の犬が数回吠えた。
「なるほど、よく分かった。よく分かったら、眠くなってきた」
「日曜日れもんちゃんと会うのに、寝不足はなりませぬ」
「れもんちゃんは素晴らしいからな」
「素晴らしすぎまする」
ときには、負うた子に教わることもある。
ただ、あいつのラップだけは、どうにもいただけなかった。
シン太郎左衛門と眠れぬ夜様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と「れもんちゃんしりとり」様
ご利用日時:2023年6月25日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だ。当人が、そう言うのだから、多分そうなんだろう。
我々親子は、出張中の松江のホテルで、れもんちゃんを守るために、しりとりの特訓をしていた(前回を読んでいないと、全く意味不明だと思うが、これまでのあらすじを書く気は毛頭ない)。
延々と続くであろう、シン太郎左衛門とのしりとりを思い、私は暗澹たる気持ちになっていた。速やかにしりとりを終えるために一計を案じ、これならどうにか行けそうだという策略に思い至ってはいた。それは、シン太郎左衛門が曲がりなりにもマトモな答えをしたとき、私がわざと答え損なって、負けてやる。そして、「よくぞ、このような短期間で、ここまで腕を上げた。知恵が付いた。知力が増した」と逆上せるまで、シン太郎左衛門を煽てて、「れもんちゃんへの想いが起こした奇跡だ。馬鹿が突然、知恵者になった。かような知恵者が味方に居れば、れもんちゃんは御安泰、もはや何の憂いもない」と二人揃った豪傑笑いを以って、しりとりに幕を引いてしまう算段だった。
そのためには、何としてもシン太郎左衛門にマトモな答えをさせる必要があった。
さて、前回に続き、場面は松江のビジネスホテルの一室、我々はれもんちゃんしりとりの真っ最中である。
「シン太郎左衛門、『ん』で終わったとは言え、『れもんちゃんの指先』に一太刀報いるとは、天晴れであったぞ」
「いやいや、負けは負け。負けに優劣はござらぬ。負けから学び取るものに優劣があるのみでござる。ささ、続けてくだされ」と、やけにマトモなことを言う。
「うむ、その意気だ。シン太郎左衛門、私情を挟まず、勝負に徹するのだぞ」
「心得てござる。れもんちゃんのこととなると、我を忘れてしまうのが、拙者の弱み。私情に溺れず、れもんちゃんへの忠の鬼となりまする」
「よく言った。それではいくぞ。『れもんちゃんの足の指』、『び』だぞ」
「うっ」と呻いたまま、シン太郎左衛門、ピクリとも動かない。
「どうした?」
「拙者、れもんちゃんのアシが好きでござる」
「足か脚か、どっちだ?」
「どっちも」
「俺も好きだ」
「では言わずとも察してくだされ。『れもんちゃんの足の指』はいかん」
「なぜ、いかん」
「可愛いから」
「シン太郎左衛門、今さっきお前自身が言った言葉を思い出せ。早速、れもんちゃんへの想いに溺れ、チョンマゲだけを残して私情の波間に沈んでいるではないか。私情に溺れず、勝負に徹するのだ。最後の一文字だけを見ろ。『び』だぞ。それ以外には目もくれるな」
「『美人』」
「えっ?」
「れもんちゃんは『美人』でござる」
「勝負に徹しないの?」
「こればかりは譲れない」
先刻の発言は、どこへやら。早くもグダグダだった。
「待て、待て、ちゃんとやろうよ。そう、例えば『美女』にするとか」
「笑止。『美女』では語尾にキレがござらぬ」
「それじゃ、『美人のれもんちゃんのニコニコ笑顔』とかは?」
「無駄に長い。美人と言えば、れもんちゃん。れもんちゃんと言えば、美人。並べるのは冗漫。れもんちゃんのホクホクと湯気の出そうな暖かい笑顔も、『れもんちゃん』と言えば自然と目に浮かぶもの。父上のように無駄に言葉を使うのは愚かでござる」
絞め殺してやろうかと思うのをグッと堪えて、「それじゃ、『美人』でいいのね?」
「うむ。後は善きに計らってくだされ」
「それでは容赦なくブーッ!『ん』で終わってるからね」
「一向に構わぬ。れもんちゃんだけは、拙者の心を分かってくださるであろう」
やはり、この馬鹿、一筋縄ではいかん。
「おい、ちゃんとやれ。勝負に徹するって言っただろ」
「れもんちゃんへの忠に照らして曲がったことは承引しかねまする」
「では、しりとりを止めるか?」
「いや止めない」
こいつ、面倒くせぇ、と思ったが、とりあえず、「じゃあ、次いくぞ。読み手のためとか思って、ふざけなくていいからね」
「何を訳の分からぬことを言っておられる」
「いくよ。『れもんちゃんのドレスの裾』、『そ』だぞ」
「うぐっ」と腹に刃を突き立てられたかのように短く呻くと、「れっ、れもんちゃんの、ドレスの、裾とな・・・拙者が、れもんちゃんの忠の鬼であるように、父上は、れもんちゃんしりとりの鬼。しりとり鬼を本気にさせてしまったようじゃ」
「そういうことはいいから、早く答えてくれないかなぁ」
「『れもんちゃんのドレスの裾』は、いかん」
「何故いかん」
「眼前に、れもんちゃんのふくらはぎを垣間見申した。拙者、れもんちゃんのふくらはぎをこよなく好みまする」
「俺もだけどね」
「ううっ、いかん。ドレスの裾だけはいかん」
「降参か?」
「いいや。『蕎麦でなくうどん』でござる」
「何それ?答えなの?」
「いかにも。『蕎麦でなくうどん』、答えでござる」
「『蕎麦』で止めりゃいいものを、どうして『うどん』まで付けるかねぇ」
「待たれよ。やはり『蕎麦よりうどん』に替えまする」
「何が違うの?勝負の観点では、全く無価値な言い替えだけど」
「れもんちゃんのふくらはぎのプリッ、プリプリッとした感じは蕎麦ではござらぬ。色も違う。色白で腰のあるうどんの方が未だしも近い」
「困ったなぁ。ちなみに真面目にやってる?」
「当然でござる。ささ、続けてくだされ」
「念のために言っておくけど、『ん』で終わってはダメというのが、しりとりのルールだからね」
「存じておりまする」
「存じておったら、ちゃんとしてくれ。お前の答えは全部『ん』で終わってるからな」
「そう言えば、『れもんちゃん』も『ん』で終わってござるな」
「だからって、『ん』で終わっていいことにはならないの。これは、しりとりだから。次こそビシッと決めてな。いくよ。『れもんちゃんのふくらはぎ』、『ぎ』だぞ」
「おおっ、先刻相見えし、愛しのふくらはぎ殿が、まさかの追い討ちとは、シン太郎左衛門、感激でごさる。かように麗しき追っ手でござれば、討たれて死ぬるが本望じゃ。久米仙人の昔から女人の脛は魔力を備えておるもの。ことに、れもんちゃんのふくらはぎともなれば、久米仙人が雨あられと降って参ろう・・・」
待てど暮らせど、シン太郎左衛門、れもんちゃんのふくらはぎを讃えて終わらない。鳥取砂丘の怪しい集団など、私の知らぬ間に木っ端微塵に吹き飛ばされてしまったらしく、影も形も見当たらない。
「シン太郎左衛門、『ぎ』だよ」
「ん?『ぎ』とは」
「しりとり」
「ああ、しりとり。もう、しりとりは十分でござる。拙者、これより独り、れもんちゃんへの想いに耽ります故、そうと言うまではお静かに願いたい」
「あっ、そうなんだね」
突然の解放感に呆然とする私に、シン太郎左衛門、「父上は、まだ物足りないご様子。誠にしりとりがお好きな御仁じゃて。カッカッカッカッ」と、一人で豪傑笑いをして、勝手に幕を引いてしまった。
「好きも嫌いも、一体これのどこが、しりとりなんだ!」と言い返したが、空想の中で視線をれもんちゃんの足の指からふくらはぎ、そして膝から更にその上へと滑らせながらヘラヘラ笑っているシン太郎左衛門に、私の言葉の届くはずがなかった。
設定も前言も蹴散らすためにある。シン太郎左衛門は、いつでも、れもんちゃんにまっしぐら。
シン太郎左衛門と「れもんちゃんしりとり」様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、松江で暇を持て余す様
ご利用日時:2023年6月18日
- 前回に続いて、松江出張の間の出来事を記す。
今回で何度目の登場なのか忘れてしまったが、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士を自称している。真偽の程は定かでない。
さて、松江出張は、万事順調に運んだ。いや、余りにもアッサリと用事が済んでしまい、空き時間がドッサリ出来てしまった。
「すんなり行き過ぎて、拍子抜けですね。午後は、ゆっくり松江観光でもなさってください。明日も、14時に来ていただいたら十分でしょう」
こんなふうに取引先の担当者に見送ってもらうと、何の宛もなく街をブラブラする気にもならず、宿泊先のホテルに戻った。軽くシャワーを浴びて、裸のままベッドに仰向けになると、放心して天井を見上げていた。
1時間は経っただろう。ぼちぼち昼飯時なのだが、日頃の疲れが出たのか、全身に気だるさがあり、なかなか起き上がる気になれない。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「起きておりまする」
「何をしている?」
「天井を見てござる」
「楽しいか?」
返事はなかった。
以上の会話は、字面からはトントンと進んでいると思えるだろうが、それぞれの発話の間に30秒、長ければ1分以上の沈黙がある。以下も同様のモノとしてお読み頂きたい。
「それにしても暇だな」
「暇でござる」
「今は何をしてる?」
「引き続き天井を見てござる」
「お前は本当に天井が好きだな」
また返事がなかった。
「れもんちゃんと一緒のときは『あっ』と言う間に時間が経つが、ここでこうしてお前と二人だけだと『あ』と言っても1秒も経っていない。こういう時間・・・」と言っている最中に、何を考えたか、シン太郎左衛門が「あ~」と言い始め、私の言葉の続きは、シン太郎左衛門の「あ~」の伴奏付きとなった。
「・・・を過ごしていると、よく分かる。俺の日常は、どうにも救いようがない退屈に、誤魔化しのシュガーコーティングを施したものでしかないのだ。ただ、れもんちゃんだけが輝き亘っている。れもんちゃんは灰色の日常に紛れ込んだ奇跡である・・・そして、近くに抑揚もなく『あ~』と言い続けるヤツがいると本当に喋りにくいこともまた紛れのない事実であった」
その後も、静かなホテルの部屋に、かれこれ5分以上、シン太郎左衛門の、息継ぎなしの「あ~」が、単調な時間の経過を際立たせていた。
「シン太郎左衛門、楽しいか?」
「一向に楽しくはござらぬ」
「今の長~い『あ』には特別な想いとかが込められていたのか?」
「何の意味もない一塊の『あ』でござる。ただ、『あ~』と言いながら、れもんちゃんの海外ドラマの上映日が、本日であれば良かったものを、とは考えてござった」
そう。以前クチコミに書いた出来事の教訓から、れもんちゃんの写メ動画の上映日は、奇数月の最終日曜日に限定されていることを、シン太郎左衛門には厳に通告していた。これは、世界共通の取り決めであり、私にはどうしてやることもできない、と。
今、れもんちゃんの動画を見せてやれば、気詰まりな雰囲気など一掃されるのは明らかだったが、その後が大変なことになる。一度吐いたウソは、吐き続けるしかない。
「叶えてやりたいのは山々だが、こればっかりは、どうしようもない。国連で決めたことだからな」
「『コクレン』とな。それは何者でござるか」
もちろん、シン太郎左衛門がこう尋ねてくるのは予期できたし、真面目に答えかかったのだが、人がキメのセリフを言っている最中に「あ~」と妨害電波を送ってくるようなヤツにマトモに解説をする必要もあるまい。
「国連とは国際的な秘密結社で、松江から120キロ東の鳥取砂丘に本部を置いている。鳥取砂丘では、世界各国から集まった背広姿のイカツい連中が、各々の国の国旗をモチーフとする色とりどりのテントに暮らしていて、夜になるとバーベキューをしたり大鍋でカレーを作ったりするが、日中はれもんちゃんの海外ドラマの監視と砂丘の清掃活動をする他に、紙飛行機を沢山飛ばして砂丘の景観を損なっている」とか、嘘八百を並べていた。
シン太郎左衛門は、眉間に深い皺を寄せ、「そのような怪しい連中が、れもんちゃんを付け狙っていると」
「そういうこと」
「国連の魔の手から、れもんちゃんを守らねばなりませぬな」
「そういうこと」
「これは一大事でござる」
「いや、まあ、そんなに差し迫ったことでもない」
「直ちに鳥取砂丘に赴き、きゃつらを退治致しましょうぞ」
「いやいや連中を甘くみてはいかんな。彼らの武器が、清掃用の熊手やカレー鍋ぐらいだと思っていたら、大きな間違いだ」
「大筒がございまするか」
「あるに決まってる。外国人だもん、みんな、お前より大きい」
「何の話でござるか」
「とにかく危険だ。ガットリング砲とかもある。普通にやったら、コテンパンにやられる」
「しかし、父上、れもんちゃんに関わること、見過ごせませぬ」
「分かってるさ。力では勝てんから、知恵で勝負するしかない。相手の裏の裏の裏の裏をかくような秘策を練るしかない」
「ふむふむ」
「ただ今のお前には知恵が足りんから、鍛えねばならん」
「なるほど、言われてみれば、拙者、些か知恵が足りませぬ。如何にして鍛えまするか」
「しりとりだ」
「おお、それは願ったり叶ったり」
「いつものようにデレデレになってはいかんぞ。気持ちを入れてやるように」
「それを言ってくださるな。れもんちゃんの一大事。拙者の命に代えて、お守り申す」
「それではいくぞ」
「知恵を鍛えるためでござる。キツいのを頼みまする」
「よし。では、『れもんちゃんの指先』、『き』だぞ」
「うぐっ。いきなり拙者の知力の弱点を突いて参った。指先は考えになかった。可愛いネイルが目に浮かび、脳が蕩けそうじゃ」
「降参か?」
「まっ、待たれよ」
シン太郎左衛門の必死さ、平素の比ではなかった。
「もう次の問題にしないか?」
「暫く。おっ、そうじゃ、キリン!いや、キリンさん!」
「『ん』だな。お前の負けだ」
「キリンさん!」
何故繰り返したのかは分からなかったが、シン太郎左衛門の様子がいつもとは違う。「ん」で終わっていようが、言葉を返してきたのは、今のが初めてだった。
そのとき、私は自分の失策を悟った。シン太郎左衛門、元々大好きなしりとりに、れもんちゃんの命運がかかっているという展開に、我を忘れんばかりに興奮しているのだった。シン太郎左衛門の妖しく眼の輝きに、私は自らが窮地に立たされていることを自覚した。
(やってしまった。普段は10分程度の「れもんちゃんしりとり」だが、今日は下手をすると徹夜になるぞ)
私は自ら招いたピンチからいかにして脱出したのであろうか?
次回に続く
シン太郎左衛門、松江で暇を持て余す様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、出張中様
ご利用日時:2023年6月11日
- (タイトルは、「シン太郎左衛門、出張中」だが、出張したのは私であって、シン太郎左衛門は単にくっ付いてきた。シン太郎左衛門シリーズも今回で5回目。なぜか毎回長くなる。今回は頑張って、短かくしたい)
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は自称武士だが、私はそんなこと信じていない。目下、彼の最大の願いは、私とスッパリ縁を切り、れもんちゃんの部屋の置物になることらしい。こんなことを考えている馬鹿が武士である訳がない。
願いと言えば、シン太郎左衛門には、置物願望以外にも、私と縁を切って、電車で独り旅に出るという長年の夢がある。行き先なんて、どこでもいい。駅弁を広げて、車窓を流れる景色をぼんやりと眺めていたい。そんな他愛ない話だ。やっぱり武士らしくない。
さて、昨日まで松江に出張していた。
私は元々旅行が嫌いな上に、独り旅に強い憧れを持つシン太郎左衛門が、その旅行嫌いに拍車をかけてきて、本当に辛い出張だった。
準備を済ませて職場を出たのは夕方6時。大汗かいて飛び乗った新幹線から、岡山駅で「特急やくも」に乗り継いだときには、もう疲れ切っていたのに、席に座って、一息吐いた後、レジ袋から駅弁を取り出す音を聞き付けたシン太郎左衛門が難癖を付けてきた。
「その音、弁当でござるな。座敷牢にも似た暗がりに拙者を押し込めておいて、父上は独り弁当を広げ、旅気分をご満喫とは、まことにもって羨ましい」と嫌味タラタラだ。
食欲がある訳でもなく、ただ何か腹に入れておかねば、と買った弁当だったし、羨望に値する要素は何一つないのだが、それを言って聞かせば理解できるシン太郎左衛門ではない。
「拙者にも弁当をくだされ」
「お主は飲み食いとは無縁だろ」
「駅にて求める弁当は食べ物ではござらぬ。旅に彩りを添えるための飾り物でござる。無事に旅を終えた後は、感謝の気持ちを込めて河に流しまする」
「駅弁って、そんな仏様のお供えみたいなものだったのか。そうとは知らずに、これまで普通に食ってきた。そして、これからも普通に食う」
「なんとも野卑な。父上に買われた弁当が可哀想でござる。心ある旅人に賞られるために生まれて参ったのに、野人の顎にかかって果てようとは」
元々グラついていた食欲が、この一言で根こそぎにされてしまった。
「全く食べたくなくなった。弁当はお前にやろう」
「それは忝ない。父上の幕の内弁当、拙者の旅のお供として大切に致しまする」
「幕の内?違うぞ。焼肉弁当だ」
「焼肉弁当でござるか。なんと、また、これくらい見ていて楽しくない弁当もない。一面に腐した桜花の色でござる」
「そう言われると、風情を感じるなぁ」
「何を愚かな。焼肉弁当に旅情を掻き立てられるなどと、れもんちゃんに言ってはなりませぬぞ。とんだ変態だと思われまする」
シン太郎左衛門に何と言われようと、私は腐した桜花色の焼肉弁当のため、一肌脱ぐ覚悟を決めていた。
「では、この焼肉弁当、要らんのだな。ただ、言っておく。この一面の腐した桜花の色こそ、侘び寂びの世界だぞ」
シン太郎左衛門、うっと言葉に詰まった。
「焼肉弁当は、侘び寂びでござるか」
「そうだ。和の心そのものだ」
「う~む、拙者、幕の内弁当や季節の彩り弁当など、目にも鮮やかであってこそ、旅情を添えると考えてござった。しかし、それは拙者の早合点。その侘び寂び、早速賞翫致したい。拙者をここから出してくだされ」
「断る」
「かくまで焼肉弁当を勧めておきながら、何故断られるか。ここに閉じ込められておっては、侘びも寂びもござらぬ。外の景色も見たい。出してくだされ」
「断る。夜も更けてきた。外の景色もない。ただ暗闇に灯りがポツポツ見えるばかりだ」
「それが見たい。出してくだされ」
「何と言われても断る。お前を出した途端に行き先が変わってしまうからな」
「異なことを。行き先が何処になると」
「それは俺にも分からん。制止されても、お前を出し続けることに執着すれば、鉄格子の向こうになるかも知れん。とにかく一旦電車から降ろされる。せっかく指定までとったのに」
「それでも構わぬ。うん十年来の宿願、ここにて果たす。ここから出せ。この変態オヤジめ」
シン太郎左衛門は、一見手が付けられないほど怒り狂っている。しかし、れもんちゃんのことで怒らせたときは別として、それ以外の原因なら彼の怒りを静めるのは実に容易いことなのだ。
「シン太郎左衛門、お前の浅慮には呆れるぞ。この出張から帰った翌日、誰がお主を待っているか、忘れたか」
この一言に、シン太郎左衛門の怒声はピタリと止んだ。そして、脂下がった、いや鼻の下が伸び切った声で、「忘れる訳がござらぬ。れもんちゃんでござる」
まるでマタタビをもらった猫のように喉をゴロゴロ鳴らしている。
「れもんちゃんは素晴らしいな」
「素晴らしすぎるでござる」
「早く会いたいな」
「今すぐ会いたい」
「そうだ。しりとりをしよう。俺からいくぞ。『れもんちゃんの笑顔』、『お』だぞ」
「『お』?それはいかん。『お』だけは勘弁してくだされ」
「では、『れもんちゃんの髪の毛』、『け』だぞ」
「『髪の毛』?『髪の毛』だけは許してくだされ」
れもんちゃんしりとりは、いつやってもシン太郎左衛門を興奮の坩堝に叩き込む。喜びすぎて、ヒーヒー言っている。
「父上は、まこと、しりとりがお強い。そう初手から大将級を繰り出されては、拙者では、とても相手になり申さぬ」
「参ったか」
「参りました」
「では訊く。れもんちゃんと独り旅、どちらが大事なのだ」
「言うまでもないこと。帰還の翌日、れもんちゃんに会えることを思えば、初めからケチのついたこの旅も楽しいものに思えて参った」
「そうだろう」
「だが父上」と、やり込められたはずのシン太郎左衛門が急に凛々しい表情になり、「れもんちゃんは侘び寂びではござらぬ。雅びでござろう」
「うむ。いかにもその通りだ。我々親子、確かに侘び寂び派ではないな。次から駅弁は、幕の内弁当か季節の彩り弁当にしよう」
「それがようござる。れもんちゃんは、彩りばかりでなく、味わいも格別でござる」
「それは言うな。品格が問われる」
「口が滑り申した」
「向後、気を付けぃ」
「畏まってござる」
「シン太郎左衛門、聴け、レールの上を走る車輪の音を。この電車は今、松江に向かっているのではない。3日後の、れもんちゃんに向かって走るのだ」
「おお、左様でござれば、何があっても行き先を変える訳にはゆきませぬ」
「そういうことだ。肝に銘じておけ」
「確かに承ってござる」
それからシン太郎左衛門は静かになった。車輪の音を聴いているのだろう。それは今、シン太郎左衛門の耳に、「ガタンゴトン、ガタンゴトン」ではなく、「れもん、れもん。れもん、れもん」と響いている。
今回も、れもんちゃんの取り成しにより、親子の絆は保たれた。
一件落着。めでたし、めでたし。
そうこうしているうちに、今回もやはり長くなってしまった。済まぬことでござる。
シン太郎左衛門、出張中様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門と海外ドラマ様
ご利用日時:2023年6月4日
- 今回で4回目の登場の、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は相変わらず自分は武士だと言い張っている。
前回れもんちゃんに会って帰宅した後、自室でのんびりしていると、シン太郎左衛門が「先刻、れもんちゃんに、多用に付き、御指南たまわった何やらが遅滞しておるとの由、お伝えでござったが、あれは何のことにござるか」
「れもんちゃんに教えてもらった海外ドラマが観れずにいる、ということだ」
「『海外ドラマ』とな。それはいかなるものでござるか」
面倒臭いとは思ったが、絡まれると、もっと面倒臭くなるので、説明してやった。
「なるほど。詮ずるに、海外ドラマとは、南蛮渡来の絵芝居の類いでござるな。何にせよ、れもんちゃんの仰せ付け、果たさではなりますまい。ささ、父上、その何とかいうもの、御覧になられよ。拙者も見たい。早速見せてくだされ」
「今すぐ?」
「この期に及んで、更なる遅滞、罷りならん。れもんちゃんの有難いお言葉、蔑ろにするなら、この場で斬る」と一喝され、更にそこから一通り説教された。私は、世の人々、特にれもんちゃんの情けに縋って生かされている天下無双の穀潰しであるとまで言われた。海外ドラマを観ずに過ごしたことで、ここまでの辱しめを受けようとは思ってもいなかった。
「れもんちゃんの命に背く者には死あるのみでござる」
れもんちゃんの海外ドラマへの思い入れが生き死に関わるほど強いものとは思わなかったが、目の前の相手が無類の馬鹿だから、折れるしかなかった。
机に向かい、パソコンが起動するのを待っていると、シン太郎左衛門が「父上、これでは何も見えませぬ。このチンチクリンで窮屈な袴と前後ろに違いのない珍妙な褌を脱いでくだされ」
ズボンとトランクスを言っているのは分かったが、下半身素っ裸というのは海外ドラマを観る格好ではない。ただ、この流れではしかたない。言われた通り服を脱いで椅子に座り直すと、「これでどうだ」
「どうもこうもござらぬ。机の引き出ししか見えませぬ」
シン太郎左衛門の視界を広げるために、椅子をズズ~っと
壁まで引いた。
「これでよかろう。それで、あれ」と、机の上のモニターを指差し、「あそこで、お前が言うところの南蛮絵芝居が繰り広げられるのだぞ」
「それは何とも奇妙。早速始めてくだされ」
「無理だな。椅子を引きすぎたから、マウスに手が届かん」
「父上は稀代の愚か者でござるな。スタートボタンを押してから、戻ってこられよ」
「『スタートボタン』だと」と追及すると、シン太郎左衛門は咳払いをして、「ところで、掛け声は、如何様に致しまするか」
「掛け声?」
「芝居に掛け声は付き物でござる」
「あの『音羽屋』とか『成駒屋』とかっていうヤツか。要らん。静かに観てたらいいの」
「そういう訳には参りませぬ。父上は、れもんちゃんが見得を切ったときに無言でやり過ごすのでござるか」
「れもんちゃんが見得を切る?」
「キメのセリフもござろう。『こいつぁ春から縁起がいいわぇ』とか『首が飛んでも動いてみせるわ』とか」
「そんなセリフを言って、れもんちゃんが見得を切るの?」
「違いまするか」
「ずいぶんと大きな誤解があるな。これから観ようとしているドラマは歌舞伎のようなものではないし、まず第一に、れもんちゃんは出て来ない」
「れもんちゃんに出番のない場面でござるな。それは見たくない。飛ばして、れもんちゃんが登場する段を観ることに致しましょう」
「いや。そうでなくて、シリーズ全編を通して、れもんちゃんは出ないの」
「な、なんと。それは誠でござるか」
「うん。犯罪に手を染めた、アメリカの高校教師の話だもん」
「それは、れもんちゃんを出さぬ理由にはなりませぬ。御法度を犯した重罪人を、白馬に乗って駆け付けたれもんちゃんが一刀両断」
「だめでしょ、いきなり主人公を斬り殺しちゃ」
「れもんちゃんに一切出番のない芝居の主人公など、どうなろうと知ったことではござらぬ」
シン太郎左衛門の表情は、いよいよ険しさを増し、
「もう一度最後にお尋ね申す。この芝居に、れもんちゃんは・・・」
「出ない」
「何故。何故、れもんちゃんは斯様なものを勧められたのでござろう。れもんちゃんは、我々親子が、れもんちゃんの出ない芝居を観れば、退屈の余り嘔吐が止まらなくなることをご存知のはず」
「待て待て。少なくとも俺は、そんなことにはならんぞ」
「信じられん、れもんちゃんが、斯様なものを拙者に観るように仰せられたとは」
「それ、間違い。れもんちゃんは、お前に観ろとは言ってない。お前が勝手に観ると言い出したんだ」
シン太郎左衛門はガックリと肩を落としたが、その落ち込み様は、しょんぼりと小さくなるタイプではなく、腹部にめり込んで背中に突き出てきそうな激しさを内包していた。どうにかしてやらないと、こちらにもトバッチリが来そうな気がした。
「そうだ。いいものがあるぞ」
パソコンを操作して、「ほれ、シン太郎左衛門、これでどうだ。これなら文句あるまい」
モニターを見上げるなり、虚ろだったシン太郎左衛門は破顔して、一筋の感涙が両の頬を伝った。
「れもんちゃん。れもんちゃんでござる。これも南蛮渡来の絵芝居にござるか」
「れもんちゃんの写メ日記の動画だ」と普通に答えようとした瞬間、あれこれ説明を求められる危険を察知し、「もちろん、これも海外ドラマである」と嘘を言っていた。
「芝居というのに、れもんちゃん、止まってござる」
「ちょっと待て。今、れもんちゃんが動き出すぞ」
再生ボタンを押して、後方に跳び退くと、ドレス姿のれもんちゃんが口元に指を寄せる瞬間だった。
シン太郎左衛門は、「おおっ!よっ、れもん屋!」
「なんだ、それ」
「掛け声でござる」
「おかしい、おかしい。『れもん屋』は止めておけ」
「では、『果物屋』でござるか」
「もっとおかしい。見ろ。怒りの余り、れもんちゃんが凍り付いてるぞ」
当然、短い動画が再生し終わっただけのことだが、シン太郎左衛門は「れもんちゃん、許してくだされ」と狼狽えている。
「父上、どのような掛け声なら、れもんちゃんの怒りに触れませぬか」
「普通に『れもんちゃん』と言えばよい」
「畏まってござる」
「反省したか」
「反省致しました」
「では、今一度いくぞ」
「お頼み申す」
動画が始まると、シン太郎左衛門は目を細め、「れもんちゃん本人には及ばぬが、よくできたカラクリでござ・・・あれ、また止まった。拙者、何もしておりませぬぞ」
写メ日記の動画は一本一本が短いので、そこからが大変だった。間を持たすため、再生速度を半分にしたら、「れもんちゃん、疲労困憊して、今にも倒れそうでござるのに、我が身を削って笑顔を見せてござる。痛わしくて、胸が張り裂けそうじゃ」とシャツの裾で涙を拭かれ、声付き動画で歓喜させれば、親父の忠告を無視して「よっ、果物屋!」の声が飛んだ。「もういいだろう?」の問い掛けは、「ささ、続けてくだされ」の一言で撥ね除けられた。
動画選択、再生ボタンのクリック、壁まで跳び退く、この一連の動作が1時間を超えると、手首、膝から始まった痛みが全身に及んでいた。
「もう疲れた。少し休ませろ」
「そう無闇にピョコピョコ動き回れば、疲れるのは必定。何故、リピートモードを使われぬか、不思議でござった」
「『リピートモード』って言った?」
シン太郎左衛門は、しまった、という顔をして、「さて、面妖なことを仰せられる」と妙な空気を誤魔化すように、「興が乗って参った。拙者、舞いまする」と扇子を打ち開いた。
「よし、舞ってみろ。俺は謡おう」
「いやいや。父上の謡いは聞けたものではごさらぬ。拙者が謡って、舞いまする」
舞台は古屋の六畳間
短い夢を重ねに重ね
写し出したる福原の
世にも目出度き姫御前
親子二人の大向こう
やんややんやの喝采に
夜はしんしんと深けにけり
即興の唄は、いかにも捻りが足りなかったものの、シン太郎左衛門、なかなか良い声である。
ただ、謡いはまだ許せたが、舞いには心底難儀した。二人の関係上、ヤツに舞われると、私も付き合わざるを得ず、部屋の中央、下半身裸で、疲れた身体をクルクルと独楽のように回転させる羽目になった。事情を知らぬ人の目には、シン太郎左衛門はともかく、私の方は確実にクルクルパーに見えただろう。
シン太郎左衛門は、もちろん馬鹿なのだが、かなり手の込んだ馬鹿なのである。
こんなことがあったせいで、この一週間疲れが抜けずに困っていたが、今日れもんちゃんに会って、元気をもらったから、もう大丈夫。すっかり癒された。
あくまで主人公は、れもんちゃん。
シン太郎左衛門と海外ドラマ様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の5秒ルールと親子喧嘩 様
ご利用日時:2023年5月28日
- (毎回、同じようなことを書いているが、決して勧めはしないものの、前作、前々作があることは一応断っておく)
私の馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士らしい。多分、当人の思い込みでしかないと思うし、結局はどうでもいいことだ。
シン太郎左衛門は、れもんちゃんに関係がないことに原則まったく関心がない。美しいこと、楽しいこと、正しいことは、シン太郎左衛門の頭の中では、全てれもんちゃんに起因するか、れもんちゃんに帰着する。それ以外は、聞いたことも、言ったことも、3秒後には忘れ始め、5秒後には完全に忘れている。自分のことでも忘れる。この前、改名したことも、当人はまったく覚えていない。
今日また、れもんちゃんに会った。やっぱりれもんちゃんは凄かった。凄すぎて、言葉が付いて来れないほど凄かった。
我々親子は思い思いに、れもんちゃんの余韻に浸り、れもんちゃんの凄さを巡って殆ど噛み合わないくせに、矢鱈と熱を帯びた会話をしながら、帰りの電車に乗っていた。
突然、シン太郎左衛門が黙り込んだ。はしゃぎ過ぎて疲れたのかと思ったら、やけに深刻な口調で切り出した。
「父上、折り入ってお願いしたいことがござる」
「なんだ」
「れもんちゃんを娶りとうござる」
「はっきり言ってやろう。無理」
「何と。それはなにゆえ。れもんちゃんは、拙者には高嶺の花と仰せられるか」
「れもんちゃんは高嶺の花だが、それ以前に、お前は人ではないからな」
「拙者は武士でござる」
「いやいや。百歩譲って、武士だとしよう。でも、お前は、人間ではなく、ナニだからな」
「拙者がナニとな」
「そう」
「得心がゆきませぬ。そもそも、ナニとは何でござるか」
「声に出して言うことが憚られるから、ナニと言うのだ。ましてや、自分のことだ、言わんでも分かるだろ」
「一向に分かりかねまする。ナニとは何か、拙者だけでなく、車中の衆にも分かるように、はっきり声に出して聞かしてくだされ」
苛立ちの余り、勢いで「それなら言ってやる。お前はチン・・・」まで言って、隣の席の品の良さそうなご婦人の目線を感じて、自制が働いた。
「何と仰せられた。声を潜められた故、聞き取れませなんだ。さあさあ、はっきりと聞かせてくだされ」
よりによって、滅多に乗らない阪急電車の車中でシン太郎左衛門の言葉責めに遭おうとは。年甲斐もなくムカッ腹が立ってきた。
「言う必要もない。無理なものは無理だ」
「理不尽でござろう。父上でなければ、一刀両断に斬って棄てておりまする」
「それも無理だ。手のないお前に刀は持てん」
「何の。手の二本や三本、気合い一つで生えまする」
「止めておけ。お前に手が付いていたら、れもんちゃんが恐がって、親子共々出禁になるぞ」
その言葉に、シン太郎左衛門は押し黙った。すっかり不貞腐れている。しばらくは拗ねて、口をきかないだろう。ああ、清々した。これで、心静かに、れもんちゃんの余韻に浸れると考えた矢先、シン太郎左衛門の例の5秒ルールが発動してしまったらしい。
「いやぁ、父上。れもんちゃんの、あのサラサラ、艶々の髪の毛は、たまりませぬなぁ。仄かに甘い薫りを漂わせ、あれは、いかん。どんな荒武者でも手懐けてしまうでござろう」と、有頂天に語り始めた。脈絡度外視にも程がある。
呆れ果てて、思わず、「れもんちゃんを娶りたいんじゃ・・・」と口にしたが、「ないの?」を省略したのが誤解を生んでしまった。
「なんと。父上が、れもんちゃんを娶りたいとな。世迷いごとも大概に召されよ」とカラカラと高笑いし、「れもんちゃんと父上では見合わぬどころではござらぬ。相並べることが、れもんちゃんに失礼。いや、無意味でござる。月とゾウリムシ。ミジンコに50カラットの金剛石・・・」
月とスッポン、豚に真珠ではなく、さらにプランクトンに置き換えているところに、シン太郎左衛門の怒りの度合いが窺えた。私が、れもんちゃんの独占を目論んでいると思い込み、勝手に腹を立てているのだ。ついさっきの自分自身の発言は忘れて。いやはや開いた口が塞がらないとは、このことだ。それにしても、今日はヤケにシン太郎左衛門に絡まれる。
「太陽とアオミドロ、シーモンキーにタイユヴァンのフルコース・・・」
「もういいよ」
我が息子、シン太郎左衛門は武士かもしれないが、大馬鹿者であり、どういう訳かプランクトンの名前に詳しかった。今は、ラテン語の学名まで並べて、親父を愚弄し続けている。
もちろん、彼を黙らせるのは造作もないことで、「次回、れもんちゃんには俺一人で会いに行く。お前は留守番」と言えば、掌を返したように擦り寄ってくるだろう。ただ、そんな意地悪なことは言わなくてもよいのだ。シン太郎左衛門は、すでに、ステキなものとプランクトンをペアにして列挙している理由が分からなくなっているはずだ。
「父上」シン太郎左衛門は一瞬押し黙り、「拙者が存じおるプランクトンは以上でござる」
「ご苦労。来週も、れもんちゃんに会いに行こうな」
「楽しみでござる」
好きなものが同じだから、時に喧嘩もするが、なかなかに仲のよい親子である。
シン太郎左衛門の5秒ルールと親子喧嘩 様ありがとうございました。
- 投稿者:れもんちゃんの崇高な愛らしさは、過剰に言葉を奮い立たせる 様
ご利用日時:2023年5月28日
- れもんちゃんに会ってきた。やっぱり凄い。凄すぎる。小さな身体で、圧倒的な存在感。素晴らしい。素晴らしすぎる。
さて、れもんちゃん、最近益々予約が取りにくくなってきた。世間の認知も進んだようだし、今年のヘブンの総選挙は、去年以上に熱くなりそうだ。全力で応援するために、今から朝夕、腕立て腹筋で体力を蓄えておこう、というようなことを考えながら、帰りの電車に乗り込むと、早速クチコミの下書きを始めた。
れもんちゃんがテーマなら、言葉はコンコンと湧き出すし、勢いに任せて文章を並べるのは楽しい。れもんちゃんの笑顔を思い浮かべれば、益々筆は走る。れもんちゃんの首から下も合わせて思い浮かべたら、筆はリニアモーターカー並みの推進力を手に入れる。問題は、そこではない。筆が走りすぎて、飛んでもない分量になった。これをクチコミらしいサイズにまで煮詰めるには、かなりの時間と根気が要る。川端康成みたいに行間に豊かなニュアンスを籠められるなら話は別だが、そんな能力はないんでね。変に削ったら、単に文章の意味が通らなくなる。こいつは、時間をかけて練り直して、次回のクチコミに回そう。
気を取り直して、別のを書き始めた。やはり、れもんちゃんがテーマだと、文章はいくらでも溢れ出すし、ダメだと分かっていながら、れもんちゃんのことを思い出して、筆にリニアの力を与えてしまったせいで、間もなく先のモノと変わらぬぐらい長大な文章に膨れ上がっていた。こんな調子で、仕掛品ばかり増やしても、しようがないが、れもんちゃんの爆発的な愛らしさの、まだ生々しい記憶は、立ち止まって考える余裕を与えてくれない。
クチコミの投稿を翌日に持ち越すことは嫌なので、行き詰まったときは、下書きなしで、投稿画面に直に打ち込み、予め決めた時刻になったらキリを付けて送ってしまうことにしている。今回は、そのパターンになった。
時間になったからお仕舞い。
れもんちゃんの崇高な愛らしさは、過剰に言葉を奮い立たせる 様ありがとうございました。
- 投稿者:「地球をハンマーのようにブン回して別の銀河系まで飛ばすことは室伏選手にもできなかったが、れもんちゃんにはできる」説 様
ご利用日時:2023年5月21日
- 毎朝、「あ~、面倒クセェ~」と考えながら、満員電車に乗って、癖の強いヤツばかりを集めた変な職場に通っている。ドアを開けて、職場に足を踏み入れた途端にUターンして家に帰りたくなるが、夕方まで一貫して半笑いで過ごす。面倒臭くて死にそうになっているだけで、笑いを誘うことなど特に起こらないが、れもんちゃんの笑顔を思い浮かべれば、大体のことは笑って済ませられるし、鬱積するものが多いほど、れもんちゃんに会うのが益々楽しみになる。
先週も絶望的に下らないトラブルがタンクローリー数台分、我が職場にぶちまけられたのを、ヘラヘラ笑いながら粛々と片付けて、表面上は何もなかったように平静を装った。それもこれも、れもんちゃんの精神的支えのお蔭である。実態を知れば、ウチの社長は、失礼にも札束を積んで、れもんちゃんに酬いようとするかも知れないから、黙っている。
れもんちゃんの笑顔には、神話的なパワーが宿っている。この星が回っているのも実は彼女のお蔭である。私は去年の暮れ、夜空の星を観測していて、それに気付いた。あれだけの星たちが、れもんちゃんに感応していたから、見過ごしようもない。当然、私以外にも多くの人の知るところになったはずだ。
れもんちゃんが、ちょっと悪戯心を起こせば、我々はある朝、見知らぬ銀河系で目を覚ますことになる。無理強いする気はないけれど、これは信じていいことなのだよ。
「地球をハンマーのようにブン回して別の銀河系まで飛ばすことは室伏選手にもできなかったが、れもんちゃんにはできる」説 様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門の改名披露様
ご利用日時:2023年5月14日
- (決して勧めるものではないが、前編に当たるものがある)
当人によれば、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士らしい。今日も、れもんちゃんに会えて上機嫌、すっかり出来上がってしまっている。
「父上、れもんちゃんは、またしても言語道断でござったな。可愛すぎて、可愛すぎて、あやつめ、加減というものを知らなすぎる」と言って、高笑いし、「いやはや、良い気分でござる。謡おう」と、人通りの多い神戸の地下街、よく響く低い声で何やら吟じ始めた。こっちは静かに、れもんちゃんの甘美な余韻に浸りたいのに、気が散ってしょうがない。クラブロイヤルの待合室のゴミ箱に捨ててくればよかった。
ただ、シン太郎左衛門が浮かれるのも無理はない。れもんちゃんに会えば、誰でも自然に、こうなってしまうのだ。責めるべきは可愛すぎるれもんちゃん、となるのが理屈だが、れもんちゃんを咎めるなど、私には出来ないので、シン太郎左衛門の傍若無人の振る舞いを黙ってやり過ごすことにした。
と、一枚のポスターの前で、シン太郎左衛門が立ち止まった。「『シン・仮面ライダー』とな・・・かようなものが持て囃されているのでござるか」シン太郎左衛門は神妙な顔付きで、しばしポスターを睨み付けた後、「父上、拙者も只今より、名を『シン・太郎左衛門』と改め申す」と宣った。
「お好きにどうぞ」と応じたものの、「ウツケ者め、調子に乗りおって。お前のどこが『シン・』なのだ。息子といいながら、同い年。お前も還暦間近の旧太郎、お馬鹿のQ太郎左衛門ではないか」と言い掛けて、面倒臭くなったのだ。
シン太郎左衛門、改め、シン・太郎左衛門は、いよいよ増長し、「れもんちゃんのお蔭をもち、拙者、身も心も改まってござる。かてて加えて、本日、名をも改めたる上は、日を置かず、れもんちゃんを交えて、拙者の改名披露の会を催さではなりますまい」と、したり顔である。
面倒臭いヤツだ。れもんちゃんを知ってから、ずっとこんな調子だ。だが、誰でもこうなるのだ。れもんちゃんに会えば分かる、れもんちゃんは無双の乗せ上手なのだ(下ネタを書いた覚えはないが、そう読めてしまうことを否定はしない)。れもんちゃんと過ごすと、底抜けにハッピーになってしまうのだ。
そうこうするうちに、またしてもシン・太郎左衛門が詩吟を始めた。限界を遥かに超えてハッピーを搭載した武士の発する重低音に、神戸の地下街が揺れている。
いやはや、れもんちゃん、恐るべし。
シン太郎左衛門の改名披露様ありがとうございました。
- 投稿者:れもんちゃんに勝てるのは、明日のれもんちゃんだけだという厳粛かつ畏怖すべき事実様
ご利用日時:2023年5月7日
- この前書いたクチコミ「官能小説」について、れもんちゃんが写メ日記で「ほっこりした」と書いてくれていた。私自身、書きながら、「あいも変わらず、ほのぼのした文章だなぁ」と考えていたのだから、れもんちゃんの受け止め方は的を射ている。ただ、それが私のような凡人の限界である。私の文章には感動がない。天才れもんちゃんには、それがある。
れもんちゃんには、毎回感動させられる。れもんちゃんは感動の代名詞であり、その逆もまたしかりだ。
誰もれもんちゃんを超えられないのに、れもんちゃんは毎回、前回のれもんちゃんさえ超えてくる。恐ろしい。
今、今日のれもんちゃんを微に入り細に入り描いても、明日のれもんちゃんは全てを超えてしまうのだから、儚い。れもんちゃんの凄さは、まさにここにある。
いやぁ、今日も感動の連続だったなぁ。
凡人は凡人らしく努力することで、天才を際立たせることができるんだから、大したもんだ。そう考えて自分を励ましつつ、れもんちゃんの言語を絶した素晴らしさに打ちのめされている。
この後、「クチコミの道は棘の道だ」と書きかけたが、自分でも呆れて吹き出しかけたので、止めた。
今回のクチコミが余りほのぼのしていないのは、今日のれもんちゃんが余りにも感動的だったせいに違いない。
れもんちゃんに勝てるのは、明日のれもんちゃんだけだという厳粛かつ畏怖すべき事実様ありがとうございました。
- 投稿者:シン太郎左衛門、只今参上つかまつる様
ご利用日時:2023年5月7日
- 我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ、当人が武士だと言っているばかりで、真偽のほどは定かでないし、振る舞いも偽者っぽい。
ある種の場面において、親父(私)がヤル気満々になっていても、シン太郎左衛門は高鼾、親父は悲しい想いをすることが度々あった・・・れもんちゃんに会うまでは。
れもんちゃんを知ってから、シン太郎左衛門は、朝、早起きして、素振りなど、剣術の稽古に励むようになった。「やあっ」「とおっ」と布団の中から掛け声が聞こえる。
「父上、今日は、れもん日和、いや散歩日和でごさる。姫路城まで散歩に、いや、姫路は遠いので、その途中まで参りませう」(言わずと知れたことだが、旧仮名遣いは武士だから)
「下心が、透けるどころか、丸出しだな。れもんちゃんの予約は明日だぞ」
「ああ、左様でござった。散歩日和は、明日でござる」
シン太郎左衛門は、れもんちゃんがお相手だと、まあまあ頑張る。いや、れもんちゃんでなければ、ほとんど頑張らない。もちろん凄いのは、れもんちゃんであって、シン太郎左衛門ではない。れもんちゃんのお蔭で今日も楽しかった。千万の言葉をもっても、感謝しきれない。
「れもんちゃんは、やはり三国一の名妓でござったな」帰りの電車の中、シン太郎左衛門は興奮醒めやらぬ様子で、れもんちゃんを讃えまくっていたが、静かになったと思ったら、安らかな眠りを貪っている。時々、「れもんちゃん、しゅげぇ~」と武士らしからぬ寝言を言っている。公衆の目があって眺めることはできないが、赤ん坊のような寝顔をヨダレで汚しているのだろう。
親父は独り、武士のようにギラついた目を見開いて、凄すぎるれもんちゃんの余韻に浸っていた。
電車の窓には雨が強く叩きつけていたが、たとえ槍が降っていてもが、今日が散歩日和だったことには、なんら疑う余地はないのであった。
シン太郎左衛門、只今参上つかまつる様ありがとうございました。
- 投稿者:官能小説様
ご利用日時:2023年4月30日
- 前回の「永遠は今ここに」は、れもんちゃんには不評だったようだ。かなり真面目に書いたんだがなぁ。まあ、しょうがない。何を書いてもこんな具合だから、全く落ち込んでいない。そもそも私が書いたクチコミで、れもんちゃんが微かにでも気に入ってくれたのは、かなり前のお尻を誉めた文章だけだと思われる。キビシイ~。だが、そういうところが、また、れもんちゃんのいいところだ。可愛すぎる。上品なエロスを仄かに漂わさないと、本当には認めてもらえないものと理解した。ムズカシイ~。
そういうことなら、髪の毛がいい。先日、れもんちゃんに会ったとき、美容院に行った直後の彼女の髪が余りにも艶やかで、ドキドキが止まらなかった。上品なエロスにぴったりだ。今回のクチコミは、れもんちゃんの髪の毛をテーマにしようと思い付き、早速書き出した。ところが、髪の毛の描写だけなのに、強烈に淫らな文章になってしまった。一体、何が起こっているんだ?
大学のときの友人に、やたらと官能小説に詳しいヤツがいて、飲んで帰れなくなると、そいつのアパートで、朝まで官能小説のレクチャーを受けるのが通例になっていた。特に関心もないテーマだったが、酔い醒ましにはモッテコイだったので、大人しく聞いていたら、いつの間にか師匠に負けないぐらいに詳しくなってしまっていた。そのとき限りのことで、今となっては具体的な中身はまるで記憶に残っていないが、若いうちに学んだことは、身体に染み付いているに違いない。れもんちゃんの髪の毛を描こうとしたとき、そんな以前の官能小説に関する学習成果が偶発的に解き放たれてしまったらしい。
「髪の毛はダメだ。これは、さすがに公にはできない。れもんちゃんの髪はエロすぎる」自主規制に付すしかなかった。
「髪の毛がダメでも、俺にはお尻という定番のレパートリーがある。やっぱりお尻だ」と、気持ちを切り替えようとしたとき、官能小説の師匠がこよなく愛した、お尻を表す言葉「剥き卵」が記憶に忽然と甦り、連想は当然「れもんちゃんの剥き卵」に及んでしまった。途端に、あらゆる角度から激写された「れもんちゃんの剥き卵」が変幻自在に眼前を覆い、幾千万のエロい言葉が脳内に噴出した。クチコミなんて悠長なことが考えられないほど心拍数が上がり、荒々しい鼻息は刻一刻と高鳴りを増し、電車の隣席の乗客も異変を察したようだ。病人としてにせよ、変質者としてにせよ、次の停車駅で引き摺り下ろされる恐れを感じた。
それから数分間、無我夢中になって無害なもの、これまでに見たことがある国宝の仏像や言偏の漢字を数え上げたりして、どうにか気持ちを鎮めることに成功すると、一つ大きく息を吐き、「髪の毛がダメなのに、お尻が大丈夫な訳がないだろ」自分のバカさ加減にウンザリした。「今日という日は、上品なエロスに向かない日なのだ。理由は分からんが、そのものズバリのエロ小説しか出てこないお日柄なんだ」そう諦めた。
上品なエロスを仄かに漂わせるクチコミで、れもんちゃんに喜んでもらえる日は、まだ遠い。
官能小説様ありがとうございました。
- 投稿者:永遠は今ここに様
ご利用日時:2023年4月23日
- 金曜日の晩から土曜日の早朝にかけて、つまり一昨日の晩から翌朝までの間に、かなりマズイことが起こった。俺も終わったな、という感覚があったが、走馬灯のようにこれまでの人生の記憶が駆け巡ることはなかった。第一、走馬灯ってなんだ?人生の最期に、生涯一度も見たことのないものを白々しく持ち出す気持ちにはなれなかった。脳裏に過ったのは、日曜日のれもんちゃんの予約だった。これまで一度でもしたことのないキャンセルを、最愛のれもんちゃんに対してすることになるのか?れもんちゃんとの約束を反古にすることは不可能だ、そう思った瞬間、私は立ち直っていた。
誰が何と言おうと、れもんちゃんは絶対だ。何においても最強だ。誰が何と言おうとも、だ。さすがのれもんちゃんでもエンゼルスの大谷には勝てんだろ?猪口才な。れもんちゃんこそ、攻めも受けも超凄い、史上最強の二刀流だ。バットとボールの扱いでは、大谷翔平を遥かに凌駕するのだ。・・・いかん、下ネタだ。俺は下ネタが大嫌いだ。ましてや、これは如何にも在り来たりだ。こんな下らない下ネタを言うヤツは死んだ方がいい。よし、死のう。ところが、そうはいかない。冒頭の逸話のごとく、私は不死身なのだ。この世に何の未練もなく、あの世に何の関心もない私だが、れもんちゃんがいれば、どんな世だろうが、そこが天国であり、すでに天国にいる者にとって死ぬことが論理的に不可能である以上、れもんちゃんのご加護と三段論法に守られた私は死なないのである。
パラダイス・イズ・ヒア!
れもんちゃん・フォーエヴァー!
永遠は今ここにある。
永遠は今ここに様ありがとうございました。
- 投稿者:レモン農家様
ご利用日時:2023年4月1日
- 訪問から少し時間が経ってしまいました。
ごめんなさい。
いつも、献身的に接してくれて
ありがとうございます。
そして、いつも、前回を超える部分を作ってくれて、ありがとうございます。
それから
旅行の貴重な情報も
ありがとうございます。
おかげでいい旅になりました。
また、近いうちにレモンの収穫に行きます。
レモン農家様ありがとうございました。
- 投稿者:いずれのおほんときにか、れもんちゃんありけり様
ご利用日時:2023年4月14日
- れもんちゃんに素敵な時間を過ごさせてもらった。お礼の気持ちを込めて、クチコミの一つでも書こうと思った。
ただ直前のものがとても長くて、普通の分量のクチコミでは貧相な印象になるのが歴然としている。ならば、それを逆手にとって、ごくごく短いながらもインパクトのあるものを書こう、そうだ、俳句にしようと思い付いた。ただ俳句なんて作ったことはないし、ろくな素養もないから、「れもんちゃん、とっても可愛い、ランランラン」みたいなものしか浮かばない。人並みに羞恥心はあるので、これはないな、恥ずかしいにも程がある、俺はもうすぐ還暦だぞ、と安易な思い付きを少し反省した。
れもんちゃんについては、可愛過ぎるにも程がある。容姿はもちろん、気立てが本当によい。ほかにも素晴らしく可愛い点がゴロゴロあるのだが、官能小説にあるような文章は書かないと決めているので、ご容赦願おう。
ただ、言うまでもなく、れもんちゃんは「官能」の面でもズバ抜けている。そう思ってなければ、こうしてクチコミを書こうなどと考えるはずがないだろう。
れもんちゃん、あらゆる意味で輝き渡っておられまする。
いずれのおほんときにか、れもんちゃんありけり様ありがとうございました。
- 投稿者:仙人とパン様
ご利用日時:2023年4月9日
- 前回の投稿「これはクチコミではない」について、れもんちゃんから、長くてもいいから元のクチコミを投稿せよとお達しがあった。下書きに使っているメールソフトに、どうにか投稿できる長さまで短縮を試みた残骸が保存されていたので、それを出すことにする。作ってから時間が経ち、読み返すのさえ苦痛なのに、ポチポチ打ち込んでいくのは、つらいなぁ。投稿画面でコピペが可能ならとっても嬉しいんだが。
まあ、いいや。それでは、始めます。
神戸からの帰りの電車の中で、私は宵闇迫る街の景色を眺めながら、まるで露天温泉のように、れもんちゃんの余韻に首まで浸りきっていた。
芦屋を過ぎた辺りで、さてクチコミでも書くかと思ったとき、急に強い視線を感じて顔を上げると、向かいの席に白髪白髯の老人が座っていた。作務衣のような服を着て、前屈みになり、こちらを窺っている。瞑目中にも見える糸目だが、怪しい光が籠っていた。
気味の悪いヤツだなと感じた瞬間、白い口髭の下で上唇が微かに動いたように見えた。
「お前、この世の者とは思われぬ美女と一時を過ごしたな。相手は、れもんだな」と耳元すぐで声がした。何もない所から耳朶に直接息を吹き掛けられた感触があり、そして、周りの様子からして、その声は私にしか聞こえていないのだ。ただ、そのとき、私を襲ったのは、驚きではなく、怒りだった。
「れもんちゃんを呼び捨てにするとは何だ、この糞ジジイめ」
その胸中の叫びに応えるように、老人は眉をひそめたように見えた。俺が頭の中で思ったことが、聞こえているのか?
「聞こえとるわ」老人の声が耳元で響いた。「お前は、仙女と交わったために、一時的に神通力を身に付けたのだ」
矛盾を承知で名付ければ、物質的な感覚を伴う以心伝心だった。
「これは、これは。してみれば、あんたは仙人だ」
老人は頷いた。
「そうして、れもんちゃんは仙女だ」
「そうだ。驚いたか」
「いや。自分でも驚くほど、驚いていない。れもんちゃんには、会うたびに、もっともっと驚かされている。あんなに凄いのには何か裏があるに違いないと踏んでいたから、理由を知って、少し気持ちが落ち着いたぐらいだ」
「あのイタズラ娘は類い稀なる淫力を持つ仙女だ。しばらく前に仙人界から逐電し、今はワンちゃんと暮らしておる」
「写メ日記に出てる、あのワンちゃんですな」
二人はこんな具合に無言で言葉を交わし続けたが、仙人の声が私の頭蓋内に響き渡るのには閉口した。耳が遠い人には声を張り上げる傾向が見られるが、同じような感じで、爺さん、声がやたらとデカいのだ。お陰で脳が揺さぶられて、船酔いに似た状態に向かっていることを感じ取った私は、最も切実な問いを急いだ。
「一つだけ教えてほしい。れもんちゃんは、ずっと福原にいてくれるのか。それとも仙人の国に戻ってしまうのか」
「それは分からん。れもんは、新型コロネの流行以降の仙人界に愛想を尽かしたのだ」
「新型コロネ?コロナだな。コロネはパン、菓子パンだ」
「新型コロネだ。コロナなんて、我々仙人には何物でもない。知らんだろうが、仙人界で副業と言えば、パン屋に決まっているのだ」
「そうなんだ。仙人ってパンを焼けるんだ」
「いや、もっぱら食べる方だな。作るとなれば修業も要るし、どう考えても面倒だろ」
分からなくなってきた。どうしてパンを食べるだけでパン屋と呼ばれて、それが副業として成り立つのか、どうして新しいコロネの人気が出奔を促すほどのインパクトを持つのか等、仙人社会は謎だらけだった。しかし、この感覚、れもんちゃんとの会話の中にもあることを思い出した。時々、会話の中に不思議なアイテムを放り込んで平気な顔をしているのは、れもんちゃんが仙女だったからなんだ。
その辺りの事情を更に糺そうとしたとき、電車は尼崎駅のホームに入った。乗り降りの人の動きが落ち着くのを待つ間に、老人の表情が変わった。
「いかん。これはいかんぞ」仙人は突然立ち上がった。「さっき食べたコロッケパンのコロッケを揚げた油が古かったようだ。腹が下ってきた」と言い切らぬ内に、閉まりかけたドアをすり抜けるように電車を降りてしまった。後を追うこともできず、動き出した電車の窓から、極端な内股と狭いストライドで駅のホームを精一杯急ぐ老人を呆然と見守っていたが、長い白髪の襟足にレモン・イエローの部分メッシュが垣間見えた瞬間、れもんちゃんに授けてもらった神通力のお陰だろう、私は全てを悟った。こいつも、れもんちゃんに通っている。とんだエロ仙人だ。仙人がそういうことでいいのか、と感じた刹那、引き攀った声で仙人が耳元に怒鳴り返してきた。
「うるさい。余計なお世話だ。仙人だって楽しみたいんだ」
危うく脳震盪を起こすところだった。
「うるさいのは、お前だ。れもんちゃんにもらった神通力で、尼崎駅の個室トイレを全部使用中にしてやる」
「それは、止め・・・」
電車が駅を出た途端、仙人の声は一気に減衰し、
たちまち全く聞こえなくなった。私の周りは森の中のように静かになった。
仙人なんて、もうどうでもよくなった。思い出されるのは、れもんちゃんだけだった。
そうか、れもんちゃんは、やっぱり違う世界から来た人だったんだ・・・そうと知って、色々と腑に落ちた。れもんちゃんを知ってから、世界が一変し、他の女の子ではダメになってしまったことも。
さっき別れたばかりだったが、またすぐにでも、れもんちゃんに会いたかった。仙人から聞きそびれたことを訊きたかった。新型コロネって、どんな味なのかも尋ねたかった。しかし、そんなことをしたら、れもんちゃんは永遠に私の前から消えてしまいそうな気がした。
れもんちゃんの秘密は命に代えてでも守らなければならない。今あったことは、全て私の胸の中に秘めておくしかないのだ。ああ、れもんちゃん、れもんちゃん。
こういう事情だから、これから家に帰り、出迎えた家人から「今日は、何か変わったこと、あった?」と訊かれても、「いいえ。私は、部分メッシュを入れた仙人に会ったことなどありません」と答えるしかないのだし、たとえ今日の夕飯がコロッケパンだったとしても、「夕飯にコロッケパンを食べるのは生まれて初めてだけど、最高に美味しいね」と満面の笑みを浮かべなければならないし、そして何より今日に限っては、どうしてもクチコミを投稿することが不可能だった。うっかり筆を滑らせて、れもんちゃんが仙女であることが世間に知れ渡ったら、死んでもお詫びをしきれるものではない。
悲壮な覚悟を胸に、私は、すっかり宵闇に沈んだ田園風景を横切る電車の窓からクロワッサンのような、クリームパンのような月を見上げていた。
仙人とパン様ありがとうございました。
- 投稿者:これはクチコミではない様
ご利用日時:2023年4月2日
- 神戸からの帰りの電車の中で、私は座席にちょこんと収まって、宵闇迫る景色を眺めながら、まるで露天温泉のように、れもんちゃんの余韻に首まで浸りきっていた。
芦屋を過ぎた辺りで、さてクチコミでも書こうと、ボチボチ下書きを始めたが、尼崎駅に差し掛かった頃には数千文字に及び自宅の最寄り駅で電車を降りたときにはクチコミとしては破格な分量まで膨れ上がっていた。
れもんちゃんの凄さは異次元であり、れもんちゃんと過ごした時間の記憶は斯様に脳を揺さぶり、言葉が好き勝手に流れ出すのだ。しかし、こんな長編は流石にクチコミとしての投稿に耐えなかった。長大な、ほんのりメルヘンチックな「れもん讃歌」は我が胸中に秘蔵されて終わった。
かくして、本日、クチコミの投稿は見送られたが、このような事態は、れもんちゃんの偉大さの証明以外の何ものでもない。
送られなかった「クチコミ」の仮のタイトルは、「仙人とパン」という。
これはクチコミではない様ありがとうございました。
- 投稿者:れもん幻想(漱石よりも鷗外が好き。れもんちゃんはもっと好き)様
ご利用日時:2023年3月26日
- 最近のAIの進化を考えたら、近いうちにこうしてクチコミを自作することも不要になるのだろう。ありきたりな風景写真がゴッホのタッチで描き替えられるように、カッコ付きにせよ、漱石、鷗外、谷崎、三島が代筆をしてやろうと腕を撫しているのに、自作にこだわることもない。ステキな時代だよ。
ステキと言えば、今日も今日とて、れもんちゃんは余りにも凄まじかった。普段、何を食べてたら、こんなにステキになるのかね。妖美たることにおいて上限を知らず、凄艶たることにおいて底が無い。普通じゃないよ。間違いなく魔界の者、異教の女神だ。
れもんちゃんに会った後、私の脳内は言葉で充溢する。そんな言葉を手掴みにして並べて、クチコミと称するわけだ。れもんちゃんが、私のクチコミを必要とするはずもないが、美神には額ずかねばならず、讃えなければならない。文章の巧拙など些末の極みであり、讃美が聞き届けられるかどうかも問題ではない。差し当たり文豪たちに用はない。
クチコミを送信した後、私の疲弊した脳は、いよいよ甘い「れもん幻想」に蹂躙され、見慣れた街の景色は、小雨に濡れて余りにも艶かしく芳しい。気が付けば、街行く人々は傘の下、すべてれもんちゃんであり、異境に踏み迷う私の額には、れもんの刻印が押されていた。
「って感じで、どう?」と言わんばかりに、文書生成AIが、以上のクチコミ案をモニターに表示した。学習させたはずの作家の特徴はまるで捉えていないが、初回にしては上出来だ。「残酷なまでにステキなれもんちゃんを讃えるクチコミ」というだけの条件設定から、ここまで書くとはね。このAIには、私に隠れて、れもんちゃんに通っている疑いがあるが、まあ、いいや。
せめてタイトルは自分で付けよう。
れもん幻想(漱石よりも鷗外が好き。れもんちゃんはもっと好き)様ありがとうございました。
- 投稿者:友情はときに尊いが、れもんちゃんは常に美しく尊い様
ご利用日時:2023年3月21日
- 東京で働いていた頃の職場の後輩が、出張で大阪に来るのに合わせて、わざわざ前乗りして訪ねてくれると言う。一緒に遊んでいた仲だから、ヤツの思惑など見え透いている。やはり「先輩のオキニの娘を教えてくださいよ。福原ですか、雄琴ですか?連れてってくださいよ」ときた。
ヤツが来る日(つまり今日)私は、れもんちゃんに予約を入れていた。れもんちゃんの枠を譲ってやったら、ヤツは大感動しただろう。「福原って、凄いっすねぇ。れもんちゃん、ヤバいっすよ。これから、近畿に出張するときは、絶対れもんちゃんです。西日本のどこでも、途中で降りて、会いに行きますよ。いや、次の出張まで待てないな。ゴールデンウィーク、先輩んちに泊めてもらっていいですか?」となるに違いない。泣いて喜ぶ後輩が目に浮かぶようだった。ただ、私はそんなステキな先輩ではない。れもんちゃんとの時間は死守しなければならない。LINEで送った「私のオキニ」は、雄琴の一度も行ったことのない店の、見ず知らず女の子だった。更に加えて、「なお案内はしないよ。俺は、その娘一筋で浮気はしないと誓っているから、一緒に行けば、お前がその娘に会っている間、俺は何もせず待つことになる。自力で行きたまえ。苦労する値打ちがある女の子だ。夜、大阪で飯を食おう」と、れもんちゃんとの時間に指一本触れさせなかった。
さてさて。何度会っても、れもんちゃんは素晴らしい。今日もまた、れもんちゃんの新しい魅力を思い知らされた。「ああ、れもんちゃん、れもんちゃん」と、れもんちゃんの余韻に浸りながら、小雨降る福原の裏道でスマホをチェックすると、ヤツからの着信歴が溜まっていた。近畿の地理が全く分かっていない彼に雄琴は残酷なまでに遠かったようだ。「坂本に着いたら、店に電話して、迎えを頼む」ことは理解していたが、肝心の坂本に辿り着けなかったらしい。「やっと見通しが立ったときには、もう間に合わない時間になってたんで、キャンセルの電話をしました」とすっかり落ち込んでいる後輩に「スマホがあるこの時代になっても、お前みたいなヤツがいるんだね。もし東京に戻れたら、課長に二度と名古屋を越えて出張させないでくれって頼め。危険だって」と追い打ちをかけた。
これから大阪で落ち合って、食事に行くことになっている。私はれもんちゃんに会ったが、ヤツは今日電車賃しか使っていないから、奢らせよう。奢ってくれたら、「実は、その雄琴の女の子より凄い娘がいてな」と、れもんちゃんのことを教えてやるかもしれない。
友情はときに尊いが、れもんちゃんは常に美しく尊い様ありがとうございました。
- 投稿者:強度の調節様
ご利用日時:2023年3月15日
- いつもながら、とても楽しかった。
まだ、れもんさんと会ったことがないという人に一言二言。
容姿はほぼパネルの印象どおりだと言っておこう。もちろん実物に勝るものではないにせよ。
容姿以外の諸点について、感じ方は人それぞれだから言い切ってしまうのは無理があるが、れもんさんはパネルから受ける印象をよい意味で強烈に裏切る。「えっ、こんな感じ?」と大いに喜ばしてくれる。自分は、そうだった。
強度の調節様ありがとうございました。
- 投稿者:自分の名前が思い出せません。れもんさんのせいだと思います。 様
ご利用日時:2023年3月12日
- 性格も含めて、メチャメチャ可愛い娘。出会い頭の、五臓六腑に染み渡る笑顔は、掟やぶりの先制パンチ。私は至って温厚な人間で、危険生物ランキングでは、タンポポの綿毛や梅干しの種と同じカテゴリーに属しているが、こういう素敵すぎる挑発を受けると、頭の中で闘魂のテーマが大音量で流れ出し、コブラツイストの一つもかけたくなる。それをやったら出禁なので、ギュ~ッと強めに抱き締めた。この娘の可愛さは尋常ではないので、気をしっかり持っていないと、危ない、危ない。
実に楽しい110分で、今思い出してもクラクラする。ほんとに可愛いし、エロエロな意味で、いや、それも含めて色々な意味で並外れて素晴らしい娘。超ラブリーなファンタジスタです。
自分の名前が思い出せません。れもんさんのせいだと思います。 様ありがとうございました。
- 投稿者:プールに漂うピンクの熊のぬいぐるみ様
ご利用日時:2023年3月5日
- 数日前から歯痛で睡眠不足、今日も鎮痛剤で持たせてる半病人状態。大人しく家で寝てればいいのに、れもんちゃんに会えなければ、死んだ方がマシなので、這うようにして福原までやってきた。
可愛い可愛いれもんちゃんに攻めてもらって、ますます頭がボーっとしてきた。ニコニコ攻めてくれているれもんちゃんの、何とも美しいこと。意識が朦朧としているところで、天使のように美しいお姿を眺めていると、いよいよお迎えが来たかのような気持ちになり、ありがたく受け入れたくなったものの、今日もれもんちゃんは完売なので、このまま私がお亡くなりになったら大迷惑、後のお客さんにも大顰蹙だろうから、持ちこたえた。
死んでもいいくらい気持ちよかった。頑張って福原まで来た甲斐があった。
プールに漂うピンクの熊のぬいぐるみ様ありがとうございました。
- 投稿者:れもん禁断症状様
ご利用日時:2023年3月1日
- れもんちゃんに会いた過ぎて、予約状況を見たら、ほとんど埋まっている中、短い枠だけ空いていたから、人気の娘だから会えるだけでもラッキーだと、ギュッと身体を隙間に捩じ込み、ホッと一息吐いたら、当日にタイムスリップしていて、れもんちゃんに会えるのが楽しみ過ぎて、職場でニヤケてくるのを必死に噛み殺していたら、勢い余った鬼の形相に同僚たちは何か重大事案が勃発したものと、気を使って話し掛けても来ないのをいいことに、れもんちゃんの妄想に耽りまくり、適当な時間になると客先回りと偽って、コートを掴んで猛ダッシュし、ホップ・ホップ・ホップの変則三段跳びでクラブロイヤルの待合室のソファーに着地して、カーテンが開いて、れもんちゃんと抱擁を交わすと、破天荒過ぎる可愛さに「やっぱり、れもんちゃんは反則」と独り言を言っていた。
帰り道、神戸の街の曇った夜空には、ミシュランの星が1万個、れもんちゃんのために輝いていた。
れもん禁断症状様ありがとうございました。
- 投稿者:不滅のれもん魂様
ご利用日時:2023年2月26日
- 花粉の季節ですね。鼻水は垂れていませんか?私は垂れています。
知人が、ある小説の主人公の「俺は死ぬ瞬間、何を思い出すんだろう」という言葉にショックを受けたと言っていた。私は死ぬとき、れもんちゃんのことを思い出すから、にやけた死に顔になる。それが、お棺を覗いた連中にも伝播して、参列者がみんな半笑いの、変な感じの通夜になるだろう。
れもんちゃんは、スケベ心だけでなく、笑いのツボも刺激してくれて、毎回、何度も馬鹿笑いさせられるし、こうして帰りの電車の中でも、鼻はやっぱりグズグズだけども、心はバレバレ、実にハッピーな、よい気分だ。次また会うのが楽しみだ。
れもんちゃんは、何を取ってもスーパーな女の子だ。本当に、しみじみそう思う。彼女には、自分の身に何かあっても幽霊になって通い続けることに決めている。
不滅のれもん魂様ありがとうございました。
- 投稿者:れもん至上主義様
ご利用日時:2023年2月26日
- 初めて会ってから8ヶ月ぐらいかな。れもんちゃんは、その頃すでに人気嬢だったが、いじらしいばかりに気配りが利く、それはそれは出来た女の子だった。容姿も気立ても可愛すぎて、フワフワと宙を舞ってるような、ちょっと現実離れしたステキな雰囲気が溢れていた。キラキラなのに、エロさが爆発していて、たまらんかった。
驚くのは、その初めて会ったときの印象が、今でも変わらないばかりか、ますます深まっていること。人懐っこくて、馴染みが深まるほどに、情感が増して、艶っぽさに磨きがかかってきた。これまたたまらん。ここまでリピートしがいのある女の子は他に知らない。
ベタ惚れなので、極めて主観的な文章には違いないが、実際れもんちゃんに会えば、決して誇張ではないばかりか、かなり抑制を利かしていることを理解いただけると思う。
れもん至上主義様ありがとうございました。
- 投稿者:もにょもにょ様
ご利用日時:2023年2月19日
- パネルが新しくなった。本人も写メ日記に書いているが、前のモノより表情が柔らかくていい。4枚目は「ああ、れもんちゃん、こういう表情するよな」と思う。自分が思っている、れもんちゃんらしい表情なので、見てて嬉しい。またウエストの綺麗な腰のクビレがよく分かって嬉しい。6枚目は「このお尻、このお尻」って感じ。れもんちゃんのお尻、大きさも形も大変いい。プリプリで、ツルンツルンで、ムチッとしている。張りがあって、揉み心地も、撫で心地も極上だ。尻フェチなので、このお尻ならルックスは多少妥協してもいいのだが、ルックスも申し分ないし、他の何かで妥協するということもない。性格も凄く可愛い、少し不思議系だけど。
この2枚が新しくパネルでのお気に入りだが、写真で伝わる彼女の魅力は限定されている。私が、れもんちゃんにドはまりした理由は、写真でも文章でも伝えられない。いや、伝えることが許されていない。ご自身で、確かめられたい。
もにょもにょ様ありがとうございました。
- 投稿者:ミサイル工房ケリドーン様
ご利用日時:2023年2月19日
- れもんさんには、半年程前から毎月1回はお世話になっている。
初回は、ネットの情報から「お仕事しっかり系」のクールビューティを想像して予約した。普段「イチャイチャ系」の甘々な女の子を選んでいたから、気分転換の意味もあり、れもんさんとは一回限りかもと思っていた。実際に会ってみると、れもんさんはハチミツかけたマスクメロンよりも甘く、想像を越えて爽やかで可憐な女性だった。根っからの「イチャイチャ系」ではないのかもしれないが、素晴らしく腕のある女の子なので、相手の趣味を察して糖度を上げ下げするぐらいお手のものなのだろう。
リピートすればするほど、こちらの好みを呑み込んで、凄い勢いでバージョンアップする。一回限りどころか、完全に捕獲された。容赦なく凄い女の子。
ミサイル工房ケリドーン様ありがとうございました。
- 投稿者:風博士様
ご利用日時:2023年2月12日
- 先日、仕事終わりに蛸博士と会った(蛸博士については前回の口コミ参照)。その日、れもんちゃんに会ったばかりの蛸は、すっかりご機嫌で、ファミレスという場所柄も弁えず、「今回、改めてれもんちゃんの偉大さが分かったから、口コミを書くことにした」と言い出し、そこから30分?60分?時間の感覚が麻痺するほど、延々れもんちゃんを讃えまくり、壮大な口コミの構想をぶち上げた。格調高い文章と流麗な語り口、まるで、れもん党党首の政見演説だった。
ただ、彼とは浅からぬ付き合いだから、結末は見えていた。気負ったときの蛸は、本当にタコなのだ。翌日、案の定、泣きのLINEが届いた。それは、「何かが、おかしい。書けば書くほど、短くなる」という謎の言葉で終わっていた。
これは途中棄権だな、と思っていたが、今朝見たら、「鯛や鮃の舞い踊り」なる人物による一件の口コミがアップされていた。この3行にも満たない簡潔な口コミを書いたお方の本名が、「蛸博士」ということは明白だった。ファミレスでの演説に、れもんちゃんを竜宮城の乙姫様に準えるくだりがあったし、訪問日も一致している。あの日、ファミレスに加え隣のコンビニまで全焼させんばかりの熱量で、数十分に亘って、れもんちゃんを語っていた蛸。その余りの熱のために言葉は軒並み溶けてしまったようだ。あんなに沢山あったのに、こんなにちょっとになってしまった。個人的には、この3行足らずの口コミは嫌いではないが、蛸博士の野望は見事に打ち砕かれていた。
蛸博士は折々私に「お前の口コミは、れもんちゃんを正面から描いていないから卑怯だ」と言っていた。彼は子供の頃、「お日さまを直に見たらダメだよ」と言われなかったのだろうか?
今日も私はれもんちゃんに会って、とんでもなく素晴らしい時間を過ごした。蛸に頼らなければ、口コミが書けない訳ではないが、今回の蛸博士のイカロス的行為を目の当たりにして、これぐらい教訓的で、また「れもんちゃんの偉大さ」を示す事例もないと思い、書き記したまでである。
風博士様ありがとうございました。
- 投稿者:鯛や鮃の舞い踊り様
ご利用日時:2023年2月8日
- 久しぶりに会ったれもんちゃんは、やっぱり凄かった。感動した。
れもんちゃんは、激烈に素敵。超絶してホワホワ。
鯛や鮃の舞い踊り様ありがとうございました。
- 投稿者:風博士様
ご利用日時:2023年2月5日
- 「蛸博士」の後編である。
前の口コミにも書いたとおり、蛸博士は私の友人であり、熱狂的なれもんファンの一人である(もちろん私もだ)。
3日程前、彼からLINEがあり、「2月◯日、れもんちゃんに予約を入れた」の一文に続けて、久しぶりにれもん姫に会う嬉しさを実に瑞々しい文章で綴っていた。ごく短い文章から受けた印象でしかないが、蛸は生きる喜びに輝いているように見えた。まるで干潮の砂浜に取り残され絶命を覚悟した刹那、突然寄せた波に抱かれて海への帰還を果たしたかのように。
純粋で無邪気な蛸。この瞬間、れもんちゃんが引退したら、蛸はたちまち干乾しになることを確信した。
最後に一言。蛸博士の身バレを避けるためには伏せておくべきかもしれないが、実を言うと蛸博士は蛸よりも烏賊に似ている。今、眉間に皺を寄せて腕組みする烏賊のイラストを描いてみたら、驚くほど蛸博士に似ていて、一人で大笑いした。
福原柳筋の昼過ぎから夕刻にかけての時間帯、クラブロイヤル、いや、れもんちゃん一点を見据えて直進する、「真面目くさった烏賊」にしか見えない初老男性を見掛けたら、それこそ我が畏友、蛸博士と思っていただいて間違いないのである。
風博士様ありがとうございました。
- 投稿者:風博士様
ご利用日時:2023年1月29日
- 今回は20年来の友人のために書く。
彼は、れもんちゃんの大ファンで、私が数ヶ月前に出会うキッカケは彼の強い薦めだった。れもん姫との縁を結んでくれた彼は、畏友を越えて大恩人とも言うべき存在。ここでは、尊敬の念を込めて、彼を蛸博士と呼ぼう。
さて、その蛸だが、普段とても能弁なくせに、れもんちゃんについて語るときは、まともな日本語を見失うまでに興奮するという興味深い生態が観察されている。彼によれば、れもんちゃんはスゴゴゴゴくて、カワワワワいい、となる。めんどくさいことになりそうなので、詳しい説明を求めたことはないが、「ゴゴゴゴ」には押し寄せる大感動が、「ワワワワ」には波紋のような優しい余韻が響いているらしい。いずれも水に因んでいるのは、さすが蛸。海の生き物の言語感覚は、いまいちピンと来ないが、在り来たりの言葉で、れもんちゃんを表現したくないという気持ちだけはよく分かる。
パッと見た目は、真面目そのものの蛸だが、脳ミソ全体が、れもんちゃんに関する妄想で出来上がっている。見事なまでに骨抜きにされ(「骨抜き」とは実に蛸々しい)、れもんちゃんの完全な虜である。
そんな彼から「最近いろいろあって、れもんちゃんに会えていない」という嘆きのLINEが届いた。私は、さっきまでれもんちゃんに会ってきて、満たされまくっているので、非常に寛容な気持ちだから、蛸のために口コミを代筆してやった。感謝したまえ、と言ってやりたい。
風博士様ありがとうございました。
- 投稿者:風博士様
ご利用日時:2023年1月27日
- 仕事が一山越えたら、れもんちゃんが恋しくなった。急だったからダメ元で予約状況を確認したら、キャンセルが出たらしく、ちょうどいい時間で入れた。神も仏もいるんだな。
いつもよりは少し短い時間だったけど、やっぱり楽しかった。海外ドラマやペットの話で笑っている時間もとてもステキだ。そういう日常的な感覚と非日常性が絶妙にミックスされた濃密な一時だった。心身ともに、しっかり暖めてもらいました。
まだまだ寒いし、折々、ホットれもんで暖まらないと、やってられない。冬はホットで、夏はアイスで、年がら年中れもんちゃん。
風博士様ありがとうございました。
- 投稿者:風博士様
ご利用日時:2023年1月22日
- 安請け合いは、万病のもとだな。知人からの頼まれて仕事が思いの外大変な代物で、ここ1週間でボロボロになってしまった。眼精疲労から頭痛になって、吐き気もするし、全身あちこち痛み出すし。こういうときは、れもんちゃん。
れもんちゃんに会いに行った。会った瞬間すぐ治った。即効性、抜群。色んな話もして、ヘラヘラと笑って、元気ハツラツ。
病院もワクチンも健康保険も要らん。れもんちゃんがいればいい。
風博士様ありがとうございました。
- 投稿者:さよならだけが人生だ様
ご利用日時:2023年1月15日
- 突然、外国語を一つ習得しなければならなくなった。この年になってキツイが、しばらく遠い所に行くから、やむを得ない。ここ数年は新型コロナもあって、パスポートもいらない穏やかな毎日だったが、いよいよそうも行かなくなった。
日本はいい国だ。れもんちゃんがいるからね。日本国の取り柄の99.9%は、れもんちゃんで出来ている。れもんちゃんのいない日本なら、何の未練もないのだが、まあ、しょうがない。しばしの別れだ。
「花に嵐の喩えもあるさ。さよならだけが・・・」ちなみに予定は3泊4日。
さよならだけが人生だ様ありがとうございました。
- 投稿者:レモン農家様
ご利用日時:2023年1月14日
- れもんさんの良さは、とにかく安定しているところです。いつ行っても、変わらない笑顔で迎えてくれます。プレイもサービスも、いつでも上機嫌にさせてくれます。お肌もスベスベ。これは今回改めて感心したところです。通販でいっぱい化粧品も送られてくるらしいです。頑張り屋さんですねー。もっと早くから、その肌にたくさん触れたら良かった、と思わず言ってしまいました。
あと、れもんさんは私に会うたびに、癒される〜、と言って優しくハグしてくれます。癒されてるのは、私です。元気にしてもらってます。少しでも、れもんさんの栄養になれるように、レモン農家として頑張ります。また、次も、ハグ、よろしくお願いしますねー。
レモン農家様ありがとうございました。
- 投稿者:ぬりかべ様
ご利用日時:2023年1月8日
- 今日は久々にポカポカと暖かかった。こういうのを「れもん日和」という。
れもんちゃんに会いに行った。ホカホカと心も暖かい、飛び切り可愛い女の子。楽しいに決まってる。当然楽しかった。
帰り際、今年の写メ日記には、これまで以上にコスプレの動画や写真を使うんだと、れもんちゃんが言っていた。コスプレは変に照れがあると羞恥プレイみたいになるけど、れもんちゃんは堂々と役に入れるタイプみたいだから様になる。可愛いから、何を着たって似合うしね。私に似合うコスプレで思い付くのは「子泣きじじい」ぐらいだな。今度、自作して、お店に持ち込んでやろうかな。嫌がられるだろうな。簑から藁が落ちて、散らかるし・・・何の話してんだ、俺は。
何にせよ、今年もれもんちゃんから目が離せない。また会いに行く。
ぬりかべ様ありがとうございました。
- 投稿者:彼女について知っている2、3の事柄様
ご利用日時:2023年1月8日
- この前、ゴダールの訃報が新聞に出ていたな。映画の歴史を変えた、文句なしの天才だ。自分の映画に出演した女優たちと付き合いまくった艶福家でもあった。だから長生きもしたんだろう。憧れの存在だった。
れもんちゃんとは、かれこれ20回ほど会っている。彼女とはいろんなことをするが、映画の話もする。彼女はゴダールも見ているし、ああいう面倒くさい映画の楽しみ所を押さえている。銀座の高級クラブのホステスの方々が勉強熱心なのは話に聞くが、我らのれもんちゃんも引けを取らない。決して、ひけらかしたりしないだけ。
毎回出迎えに違う衣装を纏い、たくさんのコスプレ姿を写メ日記に披露して、お客さんを喜ばすことに余念のないれもんちゃん。素晴らし過ぎて、頭が下がる。
今日もたくさん笑わされた。楽しすぎた。
彼女について知っている2、3の事柄様ありがとうございました。
- 投稿者:お正月のブルース様
ご利用日時:2023年1月3日
- なんていい女の子なんだろう。
出迎えてもらってから見送ってもらうまで、驚きの連続だった。
胸が痛むほど可愛くて、ステキな笑顔で頑張ってくれる。
一つ一つの場面が感動的で、それをれもんさんに伝えようとしたけども、感動しすぎていたから、言葉足らず、舌足らずに終わっていたことが多かった気がする。何が言いたいのか今一つ伝わらないばかりか、やたらと自らを鼓舞するために、ブルース・リーの「アチョ~ッ!」みたいなことを言っていると思われていたら、少し恥ずかしい。もっぱら「れもんさん、凄い」という趣旨のことを言っていたのです。
お正月のブルース様ありがとうございました。
- 投稿者:謹賀新年 a.k.a. 賀正様
ご利用日時:2023年1月4日
- あけましましまし・・・おめでたしたしたし・・・エコーがキツイな。オフにしよう。
あけまして、おめでとうございます。
三が日は、大人しく家から半径1キロ圏内で過ごし、近所の寺や神社に参拝した。僅かな賽銭で、今年もれもんちゃんと楽しい時間が過ごせるよう、くどいぐらいお願いして、ついでに世界平和も祈願した。
そして今日、れもんちゃんと姫初め。当然であるが、れもんちゃんは2023年も無敵。その怒濤のごとき可愛さに見合う楽曲は、ワーグナーの「ワルキューレ」で、お屠蘇気分の「春の海」なんて水溜まり程度に蹴散らす勢い。う~む、流石でございます。
れもんちゃんの愛らしさに木っ端微塵に吹き飛ばされて、新年早々、爽快、爽快。こんな調子で今年も楽しく過ぎて、2、3ヶ月もしたら2024年。年をとると、1年が速いよ。
いずれにせよ、元旦のおみくじの戒めに従って、今年は「急がば、れもん。人間万事、れもん」をモットーに頑張ろうと思う。
謹賀新年 a.k.a. 賀正様ありがとうございました。
- 投稿者:Paint it lemon yellow 様
ご利用日時:2022年12月24日
- れもんちゃんに出逢えた記念すべき2022年も残すところ僅か。おそらく今回が年内最終、姫納め。クラブロイヤルさんには大変お世話になりました。みなさん、どうぞよいお年をお迎えください。
ちなみに来年の干支は、れもん。今年に続いて、イヤー・オブ・ザ・れもん。
れもんちゃん、2023年もよろしくね。
本当に楽しい娘。たくさん笑わしてもらったり、幸せな1年は、れもんちゃんのお陰。
Paint it lemon yellow 様ありがとうございました。
- 投稿者:尻フェチのトナカイ様
ご利用日時:2022年12月25日
- クリスマスにもコスプレにも、ほとんど反応しない人間だが、れもんちゃんのサンタ姿には撃ち抜かれた。サンタにここまでしてやられるとは不覚。だってサンタだぜ。どこに萌える要素があるのかと思っていたが、露出度高めのサンタ風の衣装を着けて無邪気に微笑むれもんちゃんにガッツリ萌えた。
大体、この娘の尻は、情け容赦なく、俺の好みにドンピシャ。尻フェチなんで完全に弱点を突かれた格好だ。石膏で型を取って、持って帰りたいぐらい魅了された。
更に言うと、この娘のキャラはかなり特異だ。第一印象はごく普通。でも、少し話してると、「あれぇ・・・これは普通じゃないぞ」となる。話が通じないほどぶっ飛んでいる訳ではなく、むしろ落ち着いた賢い女性を感じさせるのだが、微妙に感覚がズラされる感じ。上手く説明出来ない。ただ、この感覚がほのぼのとした彼女のキャラの表れとして心地よく受け止められたら、この娘の虜にされるだろうな。自分自身、抜け出せない感じがしている。
確かに、この娘は神様の傑作だ。まだまだ書き続けられるが、このくらいにしておこう。
年明けには、また会いに来たい。
尻フェチのトナカイ様ありがとうございました。
- 投稿者:ハイゼンバーグ様
ご利用日時:2022年12月18日
- ユニークな娘だ。どこが、どうユニークなのか説明出来ないところが、更にユニークだ。容姿も振る舞いも爽やかで、「れもん」は絶妙なネーミングだと思うが、それだけに留まらない。枠に嵌めても、絶対に溢れる。ぎこちない表現だか、会うたびに「こういう女性に会いたかった」という理想的女性像をより高次元で具現化していくような女性だ。これでは、やはり伝わらないだろう。
ノーベル物理学賞を受賞したポール・ディラックは、量子力学を普通に分かる言葉で説明してほしいと求められ、「出来ない。雪片は触れれば溶ける」と応じたという。
量子力学が世界の見方を変えてしまったように、れもんさんも、会ったら分かる、世界の見方を変えうる女性だと思う。
ハイゼンバーグ様ありがとうございました。
- 投稿者:バラしたパーツを組み立てた(余ったパーツは処分する)様
ご利用日時:2022年12月11日
- とても楽しかったです。もちろん「楽しかった」とか「素敵な女の子です」とか、そんな生易しい言葉で片付けられないのは百も承知。何度お会いしても、毎回カーテンが開く瞬間には、何故か雄叫びを上げたくなるし、れもんちゃんの愛くるしい笑顔には直立不動で敬礼したくなる。前回、彼女に紹介してもらった映画も見たし、海外ドラマもレンタルしたし、仕込みは完璧。取り敢えず、彼女をベッドに押し倒した。
お見送りを受けて、店を出る。寒空の下を歩きながら、彼女の残り香を感じるのも、また一興。今回も沢山映画や海外ドラマを薦めてもらった。この勢いでお薦めが増えていくと、数ヵ月後には仕事を辞めて、一日中スマホの画面に張り付くことになるだろう。それもこれも、可愛すぎるれもんちゃんのせい。
バラしたパーツを組み立てた(余ったパーツは処分する)様ありがとうございました。
- 投稿者:1年3組 矢吹 丈様
ご利用日時:2022年12月11日
- かなり前のこと。古いボクシング雑誌を眺めていて、カルロス・モンソンというアルゼンチン人ボクサーの紹介記事に目が止まった。ライフルの異名を持つ右ストレートを武器に1970年代のミドル級を席巻した名ボクサーという内容だったが、私の目を惹いたのは「彼」の写真だった。試合中の勇姿、勝ち名乗りを受ける場面、日常のスナップなど、4、5枚のモノクロ写真が載せられていたが、それらの「モンソン」は互いに全く似ていなかった。まるで違うボクサーたちの写真を寄せ集めて、同じ名をキャプションに使い、同一人物に仕立て上げたかのようだった。その不自然さには、冗談めいた印象もありながら、笑いが誘われることもなく、薄気味悪い違和感が募っていった。何かがおかしい・・・
一方、無類の愛くるしさを武器にKOの山を築き、2020年代の極嬢級を席巻しているれもんちゃんは、また多数の声音(「こわね」と読んでほしい)を保有するものである。一つ一つの声音に別のれもんちゃんが宿っているという印象を与えるほど、それぞれが個性的で、れもんマニアにはたまらない魅力の一つだ。少なくとも私はそう感じているし、それが彼女の豊かな情感の現れだと思っている。指を折れば少なくとも5つの声音が思い浮かぶが、実際どれくらいの声を使い分けているのか、意図してなのか、無自覚なのか、私ごときに分かるはずがない。もちろんアニメチックな甘い声もいいが、わけても好みの声音がある。それは、ごく稀に、会話があるパターンに嵌まったときにだけ現れる、少し鼻にかかった渋い低音の囁き声で、某アメリカ人女性ヴォーカリストの声に似ている。その歌姫の声を評して、私の友人は「身構えずに聞いてしまうと、全身が痺れて、力が抜ける」と言ったが、れもんちゃんは、こういう滅多に使うことがない声にも手を抜かず、ローリング・ストーン誌の2013年「歴史上最も偉大な100人のシンガー」の一人をさりげなく起用している。さすがだ。並の人間に出来ることではない。
再びカルロス・モンソンに戻る。先の話には後日談がある。半年ほどして、偶々ある席でアルゼンチン人の知己を得たので、早速カルロス・モンソンについて知っているか訊いてみた。
その人物は、それが初対面の人間にする質問かと言いたげに眉を顰め、
「当然知ってるよ。アルゼンチン人なら誰でも知ってる。ボクサーとしては最高だったが、マフィアとの関係が噂されていたり、私生活はトラブルの連続、人格が破綻したクズ野郎だ。奥さんを殺して、今は刑務所の中さ」
あの統一的人格が見出だせない写真群の中に、すでにこの答えは用意されていた気がした。テンプルに一撃を食らったように、私の脳は揺れていた。
変な空気を吹き飛ばすために、再びれもんちゃんの話に戻ろうと思うが、目先の利いた読み手なら「この流れからして、きっと最後は『様々の声音を持つれもんちゃんたちを一線で結んだ先の霊妙な地点に、もう一人のれもんちゃんが静かに微笑んでいるに違いない』とか『カルロス・モンソンとは、似ても似つかないが、最上級の美質を独占し尽くした点では、れもんちゃんはある種の危険人物と言わざるを得ない』みたいな台詞を持ってくるな」と予想されているだろう。なるほど、言われてみれば、そういう纏め方もありそうだが、私には思い付かなかった。唐突だが、私が小学1年生のときに書いた作品で締め括る。
「れもん論」
れもんちゃんの声は、とてもおもしろいです。ひとりの人なのに、いろんな声で話しますから、たのしいよ。おわり。
1年3組 矢吹 丈様ありがとうございました。
- 投稿者:一度崩して組み立てる様
ご利用日時:2022年12月6日
- とても楽しかったです。素敵な女の子です。何度もお会いしていますが、毎回発見があります。今日は、海外ドラマや映画の話もしました。若干ユニークな観賞スタイルをお持ちです。薦めてくれた作品、見てみます。一緒にいて落ち着くのがいいですね。また、ドラマや映画の話もしましょう。
一度崩して組み立てる様ありがとうございました。
- 投稿者:うさぎアレルギー様
ご利用日時:2022年11月29日
- かわいいトイプーさんのような姫です。
カーテンが上がった瞬間、
ぴょん、と、飛びついてきてくれて、
それがスタートの合図。
朝番組の「今日のワンコ」を
思い出します。
部屋に入ると愛想よく尻尾を振って、
お腹を見せる感じなので、
よーしよし、と、なでなで。
三匹のワンコに囲まれて暮らしてるそうで、
ワンコのような仕草はそこからきてるのかもしれません。
つい、構いたくなる彼女です。
クリスマスのコスチュームを
たくさん買い揃えたとか…
仕事熱心な彼女ですね。
来月の日記も楽しみです。
忙しくなるシーズン、
風邪に気をつけて下さいね。
では、また。
うさぎアレルギー様ありがとうございました。
- 投稿者:急に言葉が無力になってしまった様
ご利用日時:2022年11月27日
- れもんさんとはこれまで20回弱会ったのだろうか、馴染みが深まるほど味わいが増す気がする。元々、いろいろな女の子に会いたいとは思っておらず、本当に気に入った女の子に落ち着きたいと願ってきた。れもんさんに出会って、ようやく完全に落ち着いた。
こういう人間は、本来口コミの書き手にはならない。れもんさんは、私にとって完全に特別な女の子なので(あくまで単方向)、彼女を月並みな言葉で形容するのは、なんか他の女の子との比較を許したようで、気分がよくない。さらに、一部の宗教が偶像を徹底して排するように、直接的な描写をする気がない。限りなく貧相な文章が約束されているではないか。その上、当人は、極限まで研ぎ澄ました言葉でも、れもんさんには近づけないかもしれないと考えているのだ。かろうじて、こういう具合に彼女を特別だと思う人間がいることが、れもんさんの魅力を証す、ささやかな事例にはなるかもしれないという程度のことだ。
私個人は、れもんさんが時々会える場所にいてくれれば、それでいい。れもんさんは、れもんさんである。
急に言葉が無力になってしまった様ありがとうございました。
- 投稿者:アー・ユー・エクスペリエンスト?様
ご利用日時:2022年11月27日
- フリッツ・ラング監督の「飾窓の女」という映画作品をご存知だろうか?知らなくても何の差し支えもないが、古典的名作である。後で少しばかりネタバレがあるから、同作品に興味があれば、ここで引き返すことをお勧めする。断言するが、れもんちゃんは間違いなく素晴らしいが、この文章はそうではない。こんな雑文より「飾窓の女」の方があなたの人生を裨益するところ大である。迷わず踵を返されんことを。
さて、これで前置きは済んだ。
「飾窓の女」では、大人しい年配男性が若く美しい女性との出逢いに翻弄され、彼女への想いから犯罪に手を染めてしまい、追い詰められ死を選ぶ。最後にはかなり悪名高い夢オチが待っているものの、古きよき時代のハリウッド映画、フィルム・ノワールの傑作と言われている。
れもんちゃんとの出逢いをこの作品に準えるには、もちろん無理がある。「大人しい年配男性が若く美しい女性と出逢った」以外には特に共通点がないんでね。ただ、れもんちゃんと出逢って以降の様々なことを便宜上「れもん体験」と呼ぶと、れもん体験は徹底的に意外性に満ちていた。れもん体験は、映画のように2時間程度に収まるものではないが、全体を通してしっかりとしたドラマツルギーが感じられるのが不思議だ。どこかに、かなりのんびりした、しかし優秀なシナリオライターがいるような。もちろん、本気でそんな作為の存在を疑っているわけでもないが、偶然にしては、れもん体験は見事に構成され過ぎている。
不思議だ。本当に不思議だと思う。
アー・ユー・エクスペリエンスト?様ありがとうございました。
- 投稿者:やまぐち様
ご利用日時:2022年11月18日
- ミスヘブン総選挙の極嬢部門9位入賞のおめでとうを伝えたくてれもんさんに逢いに行きました。何度逢ってもカーテン開けた瞬間の素敵な笑顔でれもんワールドに連れて行ってもらえます。れもんワールドに連れて行ってもらうために逢いに行ってます。れもんさんの魅力を知ればこの気持ちわかるはずです。れもんさんは気配り、心配りができ、まさに接客の女神ですね。今回も部屋に入って少し会話の後、脱衣アシストしてもらいラブLoveしちゃいました。プレイはもちろのこと、れもんさんのリップサービスも最高で、すっごく気持ちよく心も癒されます。さらにおしゃべりも楽しいですよ。言うまでもなく毎回最高でれもんさんは極嬢です。総選挙は9位入賞でしたが、私の中では断トツ1位です。今回で10回目で、完全にれもんさんの虜で惚れちゃいました。れもんさんに逢ってから仕事が大変でも頑張れます。れもんさんに逢えたことに感謝です。また逢いに行くので待っててね。この気持ち皆さんも味わってください。
やまぐち様ありがとうございました。
- 投稿者:エビ天丼様
ご利用日時:2022年11月20日
- 毎回、最後の5分、他の言葉を忘れたみたいに、れもんちゃんに「ありがとう」を繰り返している。他のことを言おうとしても、とりとめもないことに終わりそうで、途中から「ありがとう」にしてしまう。すべての言葉が「ありがとう」になるまで、れもんちゃんは満たしてくれる。
これまで、こうしたお遊びに過ごした時間が、すべてれもんちゃんと出逢うまでのプレリュードであったと思えるほど、彼女のインパクトは大きかった。何がどう凄いのかは書かない。そういうことは、露骨に筆にしてはいけない。ただ、想定を遥かに凌駕されて、たじろいだ、とだけ付け加えておこう。彼女に会わないのは単純に損だと思う。もちろん、この「口コミ」には何の影響力もないと思っている。だから書いた。これからも通い続けるつもりの人間は、わざわざ予約が取りにくくなるようなことはしない。
お察しのとおり、この文章も、れもんちゃんに宛てた「ありがとう」の一つでしかない。
エビ天丼様ありがとうございました。
- 投稿者:地球に墜ちた者様
ご利用日時:2022年11月20日
- れもんちゃんは、れもん星から来た(らしい)。大変なことだ。いつか、れもん星に帰ってしまう(のだろう)。これも大変だ。世の中には分からないことが沢山だ。とても愉快な女性であるが、時々突飛な発言もあり、多くを理解している自信がない。詳しいことは、れもんちゃん当人から聞いてほしい。私は、これから地球土産を買って、ポテト星に帰る。近いうちにまたれもんちゃんに会いに来る。円盤を使うと目立つので、今回同様往復ともにJRの新快速に乗る(だろう)。
地球に墜ちた者様ありがとうございました。
- 投稿者:謎の男トマト様
ご利用日時:2022年11月13日
- さて、れもんちゃんの口コミを書こうと思った刹那、小学生のときに聞いたなぞなぞを思い出した。
「あなたが住む平屋は、広い空き地を挟んで、友達が住む、同じような平屋と向かい合っている。あなたの部屋の窓を開けると、友達の部屋の窓が、真正面約50メートル先に見える。こちらの窓から向こうの窓まで、一切の道具を使わず、地面に足を着かず、一跨ぎで友達の部屋に移るにはどうしたらいいか?」
この問題は、答えを聞いたときの脱力感が無類で、「答え」というものについて根本的に考える契機となりうる。言っておくと、「地面に足を着けてダメなら、逆立ちで行けばいい」という下らん頓知モノではない。また、擬似なぞなぞ(例えば北アフリカ出身の知人から聞いた「ヒッチハイクする雌ウサギの受難」)とも一線を画するものである。ただ、この話を続けても、れもんちゃんには行き着かない。
しばし待たれたし。台所で笛吹ケトルが鳴っているので、止めてくる。
それでは、れもんちゃんについて書く。とてつもなく素晴らしい女の子であることは言うまでもない。ただ、再考するに、この娘については軽い口コミでお茶を濁すべきではない。その魅力の核心に切り込んで本気で論述を試みたら、文庫本に換算して少なくとも500~600ページは必要だ。れもんちゃんを甘く見てはいけない。綿密な調査も必要だ。当分通うことになる。投稿は1年以上先になるだろう。
それはそうと、さっきガスコンロの火を止めたが、そもそも何のために湯を沸かしたかが思い出せない。まあいい。理由など、後でとうとでもなる。
さて、「れもん論」に着手するため、早速机に向かいたいのだが、たっぷりの熱湯の使い道に窮して、カップ麺を作ってしまった。せっかくなので頂くことにする。では1年半後、またこの場所で会おう。れもんちゃんに関する大作を引っ提げて戻ってくる。
謎の男トマト様ありがとうございました。
- 投稿者:(総選挙雑感)お疲れ様
ご利用日時:2022年11月13日
- ヘブンの総選挙、極嬢部門でのランクインが並大抵ではないことぐらい分かっている。れもんちゃんには、心からおめでとうと言いたい。
れもんちゃんも写メ日記で、今回の総選挙が楽しかったと書いているし、まあよかったと思っている。
ファンの一人としては、若干のもどかしさも否めないが振り切ろう。れもんちゃんが極嬢ナンバー1であることは自明であり、彼女が今後再び総選挙に参加するときには、潜在的人数含めて全国1000万人のれもんファンとともに、彼女を女王の座に押し上げよう。
総選挙後の今日も、れもんちゃんは最高だった!!!
今回の!消費数は3に留まるが、悔し涙に沈んで、熱量が上がらないのではない。俺は今、熔鉱炉よりも熱い。見てくれの数字に囚われてはいけない。
(総選挙雑感)お疲れ様ありがとうございました。
- 投稿者:続々 お武家様
ご利用日時:2022年11月13日
- 「殿、いかがなされました」
「れもんちゃ~ん」
「殿!いかん、目が虚ろじゃ」
「れもんちゃ~ん!」
「との~っ!」
世に傾城なる言葉がある。れもんちゃんには、「現代の花魁」と呼ぶに相応しい格と花とが備わっている。
(了)
続々 お武家様ありがとうございました。
- 投稿者:通行人A様
ご利用日時:2022年11月6日
- れもんちゃんについては、「投稿する」のボタンをもっと上に持ってくるのがよい。どこから投稿できるのか探した。
端正なお顔だち、親しみやすい人柄、魅力いっぱいの女性です。楽しくて、時間があっと言う間に過ぎたが、振り返ると濃密で、ズッシリと充実している。何から何まで素晴らしかった。また、絶対に来たい。できたら、お店の近くに引っ越したい。そのためなら、転職してもいい。そう思わせるくらいに圧倒的な魅力に満ちた素晴らしい女性です。
通行人A様ありがとうございました。
- 投稿者:推して知るべし様
ご利用日時:2022年11月6日
- たくさん笑った。ほんとに無邪気に笑った。こんなに愛らしい女の子と一つ部屋で、身体を寄せあって声をあげて笑って、幸せなことだ。会話が途切れた沈黙の中から、れもんさんが目線と仕草で素敵な雰囲気を創り上げてくれる。小柄でスリムなれもんさんと抱き合って、髪から甘い香りが漂ってきて、目の前に素敵な笑顔があって。しっかり記憶に刻ませてもらいました。
この後は書くまでもない。かなり壊れた文章だが、すべてに満足し切っていないと、こういう書き方はしないものです。ファースト・コンタクトで、この娘は別格だと分かります。
推して知るべし様ありがとうございました。
- 投稿者:続 お武家様
ご利用日時:2022年11月6日
- 「殿はなんと」
「れもんちゃんじゃなきゃ嫌だと、いたくご立腹でござる」
「されど、ご公儀の目もある、度々のお忍びは叶うまい・・・れもんちゃん、度を過ごした可愛さを持つ女人と心得た」
「いかさま、そのとおりでござる」
(続)
続 お武家様ありがとうございました。
- 投稿者:(追伸)とろける男様
ご利用日時:2022年10月30日
- 前夜、かなりひどい寝違えになった。物音に振り返れば、恐い顔の幽霊がいようが、ただ洗濯物が揺れていようが、同じぐらい悲鳴をあげる状態。
よりによって、れもんちゃんに会う日に、これは悲しすぎると思っていたが、彼女と会っている時間は、首の痛みは問題にならず、楽しい時間が過ごせた。
ただ家に向かう途上で、首の痛みが再発し、ゆっくり風呂に浸かって癒そうと思ったら、給湯器が故障して、バスタブに冷水が満々と溜められていた。
これだけ凹む要素がありながら、それでも今日一日楽しかったと思えるのは、当然れもんちゃんのお蔭。
(追伸)とろける男様ありがとうございました。
- 投稿者:お武家様
ご利用日時:2022年10月30日
- 「れもんちゃんは、いかがであったか」
「めちゃくちゃ凄かったでござる」
「やはりそうか・・・他言はならぬぞ」
「心得てござる」
(続)
お武家様ありがとうございました。
- 投稿者:とろける男様
ご利用日時:2022年10月30日
- 平素は企業の管理職として、割とまともなビジネスマン、こういうお店でも乱れる方ではないと思っていた。それが、れもんちゃんがお相手だと勝手が違った。鏡の中の自分の姿を見て、慄然とした。デレデレどころか、夏の日に陽のあたる窓際に置いたバターみたいにドロドロに蕩けている。こんな男よりウミウシやアメフラシの方がよほどシャキッとしてるし、スーツも似合いそうだ。立て直そうとしても、瞬時に溶ける。れもんちゃん、恐るべし。凄い娘に出逢ってしまった。
とろける男様ありがとうございました。
- 投稿者:ご馳走様
ご利用日時:2022年10月23日
- また長い口コミが増えているが、俺の熱量は文字数では測れない。いくぞ!
れもんちゃんは今回も最高だった!!次回も最高に決まってる!!またすぐ来るよ!!待っててね!!
短くたって、れもん推しまくり。
今回の!消費数は9。熱量は前回の2倍以上。
ご馳走様ありがとうございました。
- 投稿者:店長コメント・マニア様
ご利用日時:2022年10月23日
- クラブロイヤルさんには、いつもお世話になっています。スタッフさんもしっかりしていて、福原のすべてのお店を知っているわけではないですが、一番落ち着けます。女の子もおっとりした、性格のよい娘が多くて(当然、全員知っているわけもないですが)、おそらく客層もそれに応じて穏やかな御仁が多いように想像しています。
私は口コミで女の子を選ぶことはしませんし、女の子の写メ日記もほとんど読みません。ただ店長コメントをしっかり読みます。一定の裏読みはするものの、最終的には店長コメントを割と素直に受け入れて、興味を持った女の子に会って、店長コメントとの距離感を確認します。余りにもハズレた店長コメントのお店とは、永遠にさようならです。以前は、沢山のお店の店長コメントを隅々まで丁寧に読み回ったものです。
(おいおい、れもんちゃんの口コミじゃないのか?とお思いでしょうが、もう少しの辛抱です)
以上のような経験を踏まえて言うと、クラブロイヤルさんの店長コメントは、他店の店長コメントとの比較において、信頼性がかなり高いです。加えて、女の子への愛情を感じます。一人一人丁寧に書いておられるという印象です。こういうところが安心感を生みます。これからもクラブロイヤルさんのお世話になります。
と、まあ、これで終わりです。
「え~っ、最後まで、れもんちゃん、関係なかった!最大言い得て、店長の口コミだ~!」と思う人もいるでしょう。これがどうしてれもんちゃんの口コミになるか、改めてれもんちゃんの店長コメントを読んでみてください。凄い熱量で、興奮の余り上ずった文章、他の女の子とのバランスもあるところで、このれもんちゃんの店長コメントは破格でしょう。私は天邪鬼ですから、普段は鉄板嬢を避けるのですが、れもんちゃんについては、この店長コメントの熱量に負けました。結果は、ある意味分かりきっていたのですが、大大大正解(大は本来3万個)。れもんちゃんは、とんでもなくいい娘でした。会った瞬間、JR神戸駅まで吹き飛ぶほどの衝撃を受け、完璧にはまりました。先に「これからもクラブロイヤルさんのお世話になります」と書いたのは、半永久的にれもんちゃんに通いますという意味です。店長には大変感謝しています。
冷静になって、読み返してみた。これが、れもんちゃんの口コミたり得ているかにつちては、確かに相当の疑問が残る。
店長コメント・マニア様ありがとうございました。
- 投稿者:久米仙人の末裔様
ご利用日時:2022年10月15日
- 私は理屈っぽい変わり者の老人だか、れもん嬢と二人きりになると、「れもんちゃ~ん」と彼女にじゃれついて、形のよいプリプリの尻を揉んで、気が済めばあっさり帰る・・・はずがない。
彼女との出逢い以降、それまで久しく人生に欠けていた張りと潤いがもたらされた。今は、張りにも潤いにも事欠かず、特に彼女と会った直後は、張りも潤いも全身に満ち満ちて、ふとした拍子に耳や鼻、口から噴き出すことになっては流石に体裁が悪かろうと思っている。枯れてはいても気骨のある偏屈な老人を目指していたのに、彼女の色香に骨抜きにされ、ただのスケベ爺に成り果てた。まったく腹の立つ「れもんちゃ~ん」であるが、こんな耄碌したクソ爺の人生最後の狂い咲きに付き合ってくれる彼女には聖女以外の呼び名が思い付かん。ただ、程度を弁えず論外に愛くるしいことは、断固として許しがたい。
日付も曜日もない暮らしをしているから、訪問日はおそらく間違えとる。許せ。また来る。
久米仙人の末裔様ありがとうございました。
- 投稿者:最近、主食を米からレモンに替えました様
ご利用日時:2022年10月16日
- とても素敵な女性です。優しく微笑みながら、スッと寄り添ってくれる感じとか、自然と愛しさがこみ上げてきます。清楚な外見からお嬢様系の印象が強いですが、れもんさん自身のキャラには幅も深みもあります。これまで10回ほどお会いしていますが、展開のバリエーションが圧倒的に豊富で、見事なまでにマンネリ感がありません。れもんさんとこうして過ごしたことを、交わした言葉の一つ一つまで覚えていたい、そう感じさせる人です。
長らくあちらこちらと漂ってきた気がしますが、れもんさんと知り合って、すっかり根が生えたようです。しばらくここに居着きますので、御用の方はクラブロイヤルさんまでお願いします。
そうそうミスヘブン総選挙、投票チケットを集めて、スタンバイ・オッケーです。
最近、主食を米からレモンに替えました様ありがとうございました。
- 投稿者:お地蔵様
ご利用日時:2022年10月9日
- 見渡すと大半の口コミが長い。こんなに書けん。でも、れもんちゃんを推す気持ちでは負けない。俺は俺の道を行く。
れもんちゃん最高!またすぐ来るよ!待っててね!ミスヘブン総選挙も全力応援するよ!
短くたって、れもん推し。
お地蔵様ありがとうございました。
- 投稿者:やまぐち様
ご利用日時:2022年10月7日
- 2度目のサプライズでれもんさんに逢いに行きました。スタッフさんご協力ありがとうございました。れもんさんには新規のお客様で伝えてもらっていたので、カーテン開けた瞬間すごく驚いてくれました。そこからのいつもの笑顔がたまらなく可愛かったです。部屋に入って抱き合ったりキスしたり、れもんワールドでいきなり恋人気分で幸せ度MAX。いつもありのまま(作った感がない)のれもんさんだから虜になるんですよね。これがれもんさんの魅力なんだよね。プレイもいつも以上に気持ちよく、いつも以上に濃厚で、いつも以上に大満足でした。プライベートな会話もエッチな会話も共感できることも多く、会話も逢った時の楽しみの1つです。今回もれもんワールド最高で大満足でした。その分、バイバイする時は寂しいんですけどね・・・。またれもんさんご指名で逢いに行きますので宜しくお願い致します。あと、ミスヘブン総選挙の極嬢部門ノミネートおめでとうございます。目一杯応援、投票させていただきますね。皆さんも一緒に応援、投票していきましょう。俺の中ではノミネート24名の中でれもんさんが間違いなく一番です。
やまぐち様ありがとうございました。
- 投稿者:西へ東へ浮草稼業様
ご利用日時:2022年10月9日
- いやぁ、参った、参った。凄いの、凄くないの、グダグダ言う意味なし。可愛さ、楽しませ方の次元が違うよ。容姿やプレイに限った話じぁなくて、存在自体、二人で過ごす時間の質の話。時々、よく分かんないぶっ飛んだ話をして、笑わせてくれる。そういうところも含めて、ヒヤヒヤするほど可愛いよ。まあ、人の好みは千差万別だけど、このお嬢はガッチンガッチンの鉄板だろ。本当に出逢えてよかった。あのタイミングで、他の選択をしてたことを想像すると背筋が凍るね。ここんとこ週1ペースで通ってる。立て込んでるから次は一週パスするか、と思った尻から、いや、レモンは健康にいいんだ、抜いたら体に悪い、とか変な理由をこさえて、いそいそと予約を入れてる。そう言えば、最近体調がいい。れもん健康法、続ける値打ちがありそうだ。話は替わるが、ミスヘブンに出るらしいけど、どんなもんかね。このお嬢は21世紀代表として、クレオパトラや楊貴妃と競う方がいいよ。それかミスヘブンに「れもん部門」を作るか、どっちかだな。唯一無二だから、競わすって発想に無理があるよ。まあ当人が出るってことだから、ありったけの票を入れるけど、100年を統べるお嬢が本気を出す場面とは思わんな。
西へ東へ浮草稼業様ありがとうございました。
- 投稿者:うさぎアレルギー様
ご利用日時:2022年10月1日
- 今回、3回目の指名をさせていただきました。
相変わらずの可愛らしさ。
仔犬のような子です。
ご本人も犬を飼っているそうですが、
子犬のように飛びついてきてくれます。
ずっと目線をくれます。
気がつくと、笑顔で話してくれます。
3回目.いい意味で、緊張がなくなって
ワクワク感が増して、
これまでで最高の時間でした。
おじさん、今日も若返りました。
涼しくなってきたこの季節にホッコリしました。
また、来ますね。
今日もありがとう。
うさぎアレルギー様ありがとうございました。
- 投稿者:不思議を宿した一顆のレモン様
ご利用日時:2022年10月1日
- れもんさんは、私には一つの不思議です。入店当時から彼女の存在は知っていました。パネルの容姿はもちろん、店長コメントの内容も、すべてにおいて申し分ないことを証していたのですが、私のタイプではないと想像していました。なので、数ヶ月前に初めて会ったとき、どうして突然予約を入れる気持ちになったのか今では記憶がありません。実際お会いした後の結論として、れもんさんは「タイプ」とか、そんな小さな枠を越えていました。仮に私の嗜好が身長2メートル以上、体重100キロ超の大きな女性を絶対的理想としていても、一度れもんさんと触れ合った後には、従来の理想の女性像を堅持しながら、「ただし、れもんさんは別格」と、理想を超えた理想の女性に据えて憚らなかったでしょう。彼女はそういう人です。ただ、そんな彼女を的確に表現できるのか?可憐な容姿、屈託のない笑顔、甘えたような癖のある声口調、その他様々、れもんさんの美点があちらこちらに書き連ねられています。どれも間違いではないのですが、それら数多の美点をどのように組み合わせても、れもんさん固有の魅力には行き着かない、いや、近づきもしないのです。私にとって彼女はただただ不思議なのです。
この不思議な感覚を言い表せないかと思い書き始めましたが、自分の言葉の無力を悟ることに終わりそうです。突然ですが、このあたりで筆を擱こうと思います。ただ、最後に補足すれば、彼女はどうやら普通の人間ではなく、妖精のようです。
私の家の玄関先には、小さなレモンの木があり、朝夕、大きさもまちまちな青い実が、やがて色付く日を待っているのを見ても、「やっぱり、れもんさんなんだよなぁ」と、また彼女に会いに行きたくなるのです。
れもんさんと会うか迷われている方のご参考にはなりにくいものとなりましたこと、ご容赦ください。
不思議を宿した一顆のレモン様ありがとうございました。
- 投稿者:レモンの花は危険な香り様
ご利用日時:2022年9月26日
- れもんちゃんとは110分と決めています。お財布事情というより、底知れぬ彼女の魅力への最後の抵抗です(その分、訪問回数は多めになってますが)。諸兄とは違って万事だらしなく出来ており、一度タガが外れたら、ダブル・トリプル・クアドラプルと、節度を逸してどこまでも突き進む自分が目に見えるからです。それぐらい彼女と過ごす時間は淫靡で魔界的です。普段は責め好きな方ですが、れもんちゃんとは攻守半々と決めています。彼女とは長くお付き合いしたいので、自分の願望を小出しにしているということでもあります。ただ、そんな小さな思惑など度外視して、彼女は私の欲望を読み切り寄せてきてくれます。余りにも蠱惑的で、怖いぐらい素敵な娘です。
ということで、今回の結論は「節度はもちろん大事だけれど、時にはやっぱり越えちゃうこともあるよね」ではなく、「れもんちゃんに無断キャンセルをかますヤツには井上尚弥選手の左ボディフックが相応しい」となります。ちなみに、実際のレモンの花には然したる匂いはなかったと記憶しています。
レモンの花は危険な香り様ありがとうございました。
- 投稿者:アレクセイ・セカイッチ・レモンスキー様
ご利用日時:2022年9月20日
- 可愛すぎる。楽しすぎる。気持ちよすぎる。まさに絶品
お出迎えのときから飛びっきりの笑顔が眩しい。可愛い。可愛い服に包まれた小さな身体も可愛い。声も可愛い。ネイルも可愛い。とにかく全部可愛い
熱いイチャイチャが股間を直撃する。楽しい。何気ないお話がめちゃめちゃ楽しい。彼女といる時間は何もかもが楽しい。特別な間柄なのかと勘違いしてしまうぐらい楽しい
濃厚で大胆なのに、爽やかで繊細な味付けの、高級感溢れるサービスが死ぬほど気持ちいい。気持ちよすぎて、魂は天まで昇って、神様に軽く挨拶を済ませ、急いで地上に帰る。そして、天使のような女性の隣に横たわる男のポカンと開いた口から体内に戻る。呆れるほど気持ちいい
アレクセイ・セカイッチ・レモンスキー様ありがとうございました。
- 投稿者:スギッシー様
ご利用日時:2022年9月16日
- こんなにも夢中になり
どっぷりとハマってしまうとは…
もう出会った初回から
遊びではありません!
れもんちゃんとの真剣勝負です❤
小さな身体ですが、抜群のスタイルは色気がムンムン♪小さなお顔に大きな瞳が印象的で
ドレスやコスプレも可愛くて素晴らしいですよ~♫
さらに愛嬌も抜群でいつもニコニコしながら御奉仕してくれます。性格も明るく謙虚で思いやりのある素敵過ぎる女性です。いつも一緒に暮らしているわんこにすら嫉妬してしまう(笑)
私がれもんちゃんの好きなところは、もちろん綺麗なお顔やくびれたウエスト、もっちりプルプルのおしりも好きですが、波長が合うといいますかこっちが気を遣わずに凄く自然なのです。初回からそんな彼女だからこそ、毎回癒やされそれこそ毎回神回なのです。
ちょとしたプレゼントも喜んで貰え、すると毎回選ぶ楽しみが増えてまた直ぐに会いたくなります。
だかられもんちゃんに会う時は次の予約があってまたすぐにあえるね❤
とお別れのハグができます。
そんな充実した時間をここ半年間続けて月に5回ペースになってました。
自分自身の歴史を年表にすると、間違いなく幸せ絶頂期でターニングポイントになってます。
2022年 最高です
今を全力で楽しみ未来の自分自身からも褒めて貰えると自負してます。
ありがとう!
れもんちゃん❤
あなたがそばにいるだけで幸せです
スギッシー様ありがとうございました。
- 投稿者:ke様
ご利用日時:2022年9月13日
- まだ2回目ですが、深くハマる要素が多過ぎです。
逢ってる時間は、ずっと頬が緩みっぱなしになります。
吸い込まれるような大きな瞳の整ったお顔に、スレンダーでサルートの下着がめっちゃお似合い。
細かい気遣いができてトークも楽しいし、リピートしない理由が無いです。
また次回も楽しみにしています♪
ke様ありがとうございました。
- 投稿者:いつでもまっすぐレモン好き様
ご利用日時:2022年9月11日
- リピートしてます。これからもします。
初めてのときも最高によかったです。でも前回レベルを軽く越えてくるのがれもんちゃん。その後、回を重ね、仲良くなるに連れ、凄いことになってきました。こんな可愛いルックスやお茶目で楽しいトークからは想像しにくいですが、れもんちゃんはエロさも異次元です。どんどんパワーアップする彼女に地面ごと持っていかれそうです。コンパクトなピチピチ・ボディも、言うまでもなく最高中の最高で、全部が全部ずば抜けています。トータル・パッケージとして完璧な仕上がり、こんな凄い娘が存在していたことに驚嘆するばかりです。
れもんちゃんは非日常の極み、唯一無二、突き抜けてます。
いつでもまっすぐレモン好き様ありがとうございました。
- 投稿者:妙によくしゃべるデューク東郷(レモン味)様
ご利用日時:2022年9月3日
- この娘の過去について何を知る者でもないが、ハイレベルの接客スキルとホスピタリティー・マインドが求められるお勤めをしていたことが窺われる。逢瀬を重ねるごとに、こちらの些細な行動の変化や癖などから思っているところを察知して、緻密にサービスのチューニングを図っている印象を受ける。もちろん、技巧が目について鼻持ちならないとか、そういうことは微塵もない。天性の媚態を備えているので、すべてが自然で、親しみやすく、心地よい。
つまり、れもん嬢は、おもてなし界のトップエリート、妥協知らずの喜ばせ上手に違いなく、あの「れもんスマイル」や甘いアニメ声の「うれちい」に眩惑された男のハートを、心の籠った愛技で正確に撃ち抜くラブラブ・スナイパーとしての腕前は、いわばゴルゴ13に比肩しうるレベルだろう。
一方、私は、どこにでもいるエロオヤジではあるが、どんな過酷な状況下にあっても、「飽くなき情熱をもって最高の快楽を追い求める者にとって、最も頼りになる理想的なパートナーは誰か?」という質問に対し、修飾語句の過剰をものともせず、本質的問い「福原で一番って誰?」を抉出して、間髪入れず「れもんちゃん」と答える準備はできている。
妙によくしゃべるデューク東郷(レモン味)様ありがとうございました。
- 投稿者:いいか、俺たちはまだレモンスカッシュについて何一つ知り得ていないんだ!様
ご利用日時:2022年8月28日
- 前回の邂逅の余韻醒めやらず、老骨に鞭打ち、プリンセス・れもんの下に馳せ参じた。姫の慈愛は、馴染みの浅い新参者にも暴風雨のごとく降り注ぐ。なんとも激しい、傘も無用の大豪雨。
とにかく素敵な女性だ。見た目おっとり奥床しげだが、形容しがたい妖艶さを漂わせ、情が深くて細やかで、ナチュラルなイチャイチャ・トークが楽しすぎる。れもん姫の小さな身体は、肌を合わせば、しっとり瑞々しくハリのある柔肌が、ジジイのカサついた肢体に浸透して合体を試みてくるかのような異次元の密着感・・・ちょっと待った。こんな調子では、いくらでも長くなってしまう。急転直下、纏めに入る・・・
さて前回の口コミのペンネームで使用した「レモンスカッシュ」は、実は、れもん姫の数あるキラキラ魔法の一つであり、可愛いアニメ声による「レモ~ンスカッシュ!」の呪文一唱、姫は私の眼前に地上のものとは思われぬ神々しい光景を現出させた。にわかには信じがたく、最後まで話しても誰も信じないだろうから、ここで止めるが、れもん姫はその瞬間から私の脳内を、キラキラの媚態を振り撒きながら絶賛進撃中である・・・まずい。纏めるどころか拡げてしまった。いよいよ本気で纏めよう・・・
えー、このように、れもんちゃんは、すごい、かわいい、たっとい、のであります。これからもたびたび会いにきて、ぎゅっとしたり、ちゅっとしたり、あんなことも、こんなこともしてしまうつもりであります。れもんちゃんは桁違いに最高なのです・・・つまり
れもん姫を語ることは祈りである。われわれに簡潔は似合わない。
いいか、俺たちはまだレモンスカッシュについて何一つ知り得ていないんだ!様ありがとうございました。
- 投稿者:Sherlock様
ご利用日時:2022年8月21日
- まだまだ暑い日が続いていますが、先日もれもんちゃんにお会いして来ました。
夏バテ気味だったのですが、れもんちゃんに爽やかな笑顔で迎えてもらうと、疲れていたのも忘れてこちらもすっきり爽やかな気分になれました。
写メ日記やパネルよりも断然可愛くて、いつも思わず見惚れてしまうほど。特にニコッとしたときの八重歯が最高に可愛いです!
気さくで優しい雰囲気だから話しやすくて、時間の過ぎるのがあっという間に感じます。
肌がすべすべで優しく丁寧に舐めてくれるので、今回も洗い場でのプレイで夢のような気持ち良さを味わえました。
ダイアモンドに昇格したみたいで凄い!
いつも楽しくてリラックスできる時間をありがとう。
無理はしないようにして頑張って下さい。
Sherlock様ありがとうございました。
- 投稿者:レーモン小暮閣下様
ご利用日時:2022年8月19日
- メチャメチャ気立てがよい。ホワンと優しく暖かい系の美人さんだが、エロオヤジのワル乗りにしっかり付き合ってくれるばかりか、リードさえしてくれる。びっくり。タイニィ・スレンダーな爽やかボディは夏にぴったり。もちろん春秋冬でも最強。
大変に気持ち良かったし、年甲斐もなくはしゃいで、笑った。
れもん姫に私がまた会いに行くことは、私の年齢が10万59歳であることよりも一方的圧倒的に確実である。
レーモン小暮閣下様ありがとうございました。
- 投稿者:レモンスカッシュ!様
ご利用日時:2022年7月23日
- 夜歩きは慎んでいる身ながら、れもん嬢の御高名聞き付けて参上つかまつった。パネルの印象からツンと澄ましたクールな美人を想像していたが、アニメ声の超スイートな可愛い女性だった。気さくでノリがよく、メチャメチャ楽しい娘。たくさん笑わせてもらった。もちろん、あちらの方も素晴らしい。いや~、楽しかった。次はマットもお願いしたい。
レモンスカッシュ!様ありがとうございました。
- 投稿者:Sherlock様
ご利用日時:2022年6月26日
- れもんちゃんに会えるときは、前日から楽しみでウキウキしています。
そして当日、れもんちゃんに素敵な笑顔で出迎えてもらったら、日頃の疲れもしばし忘れて夢のような時間の始まり。
パッチリした綺麗な瞳、微笑みの絶えない口元…何度会っても、こんな可愛い女の子に会えるなんて!と感動します。
スリムでスタイルも良く、可愛いコスプレも似合いますが、今回のドレスも良く似合っていてセクシーでした。
プレイでれもんちゃんが攻めているときの楽しそうな瞳も魅力的で、目が合うとドキドキ。
れもんちゃんの丁寧な洗い場でのプレイを、今回もたっぷり堪能できました。
いつも幸せな癒やしの時間をありがとう。
暑い季節も体調に気を付けて頑張って下さい。
Sherlock様ありがとうございました。
- 投稿者:竹沢 ヒロッチ様
ご利用日時:2022年6月22日
- 今回は、れもんちゃんとは、7&8回目の、連続日の、なんと、神の領域に、至った、サプライズな、恋人いちゃいちゃプレイでした!!!その初日は、僕と、れもんちゃんとの間で、前々回の、究極の6時間プレイなどから、逆算して、ほんの、されどの、110分=約2時間でしたが、その中に、およそ、あの、6時間分の、プレイを、僕の手腕と、れもんちゃんの、究極の魅惑=みわく、などによって、ものの見事に、いわゆる、時間の壁を、突破できた、珠玉=しゅぎょくのものでした!!!さらに、その翌日は、なんと、僕の、リアルの、都合が、またもや、ついて、予約が、争奪戦でもある、れもんちゃんに、おいて、3時間もの、予約が、奇跡的にも、なんと、当日に、取る事が、できたのです!!!なので、あまりにも、もったいないと、思いまして、お店の、全スタッフに、お願いしまして、れもんちゃんには、内緒に、していただいて、初対面という事に、していただいた訳です。その後、いつものように、紳士的な、来店を、させて頂いて、優しく、丁寧な、対応を、店長さんと、スタッフに、していただきました。そして、30分程、待たせてもらい、自分流の、イメージトレーニングまでも、終わらせて頂きました。そうして、時間どおりの、開幕=カーテンの、オープンでした!!!そこには、嬉しくて、悲鳴を上げそうな、超絶美人の、れもんちゃんが、わーい!!!とばかりに、両手を、振って、僕を、迎え入れてくれているでは、ありませんか!!!その光景は、まさに、超感動ものでした!!!さらに、プレイの方はと言いますと、超絶な、極上ものの、前戯あり、超絶な、極上ものの、ベッドあり、マットも、とても、上手い!!!これらは、僕と、れもんちゃんとが、とても、深い絆で、結ばれていた証でもあるのです!!!あとは、料金の事なのですが、このれもんちゃんの、レベルは、全国的にみても、さらに、神戸福原の最高級店レベルの方をも、凌駕=りょうが=はるかに越えているにも、かかわらず、かなり、お安くついています!!!また、必ず、お仕事などの、スケジュールを、組んで、プランも、練って、リピートしたいと、想います!!!
竹沢 ヒロッチ様ありがとうございました。
- 投稿者:竹沢 ヒロッチ様
ご利用日時:2022年6月4日
- 今日は、6回目の、れもんちゃんでした。ふだんは、90分✕2回=180分=3時間のコースなのですが、今回は、これまで、れもんちゃんとの、奥深い交流の成果を、試したくて、思い切って、これまでより2倍の、6時間のコースにしたいと強く想いました。なので、会員の特典である、何と、1週間前から、予約が取れるという事なので、予約でも、争奪戦の、れもんちゃんが、とても、強運にも、6時間もの、スーパーロングコースの、予約が、取れました!!!このお店の、プロフィールにも、あるように、特に、れもんちゃんは、容姿、美貌、ルックス、スタイル、テクニック、ホスピタリティ=御奉仕などが、その通りなので、ベッドでも、マットでも、間合いに、創意工夫のある、コスチュームプレイも、交えながら、れもんちゃんは、多種多彩な、それらのプレイにて、何回も、昇天してくれましたし、僕も、初めての、4回戦も、達成できました!!!なので、特に、僕のリアル=お仕事は、ストレスフルなので、次回、れもんちゃんに、お会いできるまで、その、お仕事に対して、打ち勝っていく自信に、満ちあふれることができました!!!あと、店長さんや、その他の、スタッフさんたちの対応や案内も、とても、親切で丁寧なところも、安心ですよ!!!また、必ず、良い、プランと、スケジュールなどを組んで、リピートしたいと思います!!!
竹沢 ヒロッチ様ありがとうございました。
- 投稿者:竹沢 ヒロッチ様
ご利用日時:2022年4月30日
- この日は、3回目の、れもんちゃんでした。180分と、ダブルでの最長時間でしたが、なんとマットを、あえて、はぶいて、恋人気分でのいちゃいちゃブレイと、多種多彩な本番にて、れもんちゃんは、何回も昇天してくれましたし、私も、久しぶりの3回戦も、達成する事ができました。ほんとうに、超充実できた1日となり、私の一期一会の思いが通じ合った1日となりまして、ほんとうに、良かったです。
竹沢 ヒロッチ様ありがとうございました。
- 投稿者:やまぐち様
ご利用日時:2022年3月5日
- パネルで一目惚れしたれもんさんの予約が取れ行きました。カーテンの奥には小柄で可憐なれもんさんが笑顔で待ってくれてました。パネルよりも可愛かったのにはびっくりでした。部屋に案内してもらって、脱衣アシストもあり、プレイも丁寧で気持ち良すぎました。久々に2回戦もできたし、お風呂で泡泡でも楽しめ大満足でした。残り時間で密着しての会話も楽しく、癒されました。自分の中での理想の女性を見つけちゃいました。今後予約取れなくなると困るのでこれくらいにしときますね。今日はありがとうございました。
やまぐち様ありがとうございました。
- 投稿者:キィータン様
ご利用日時:2022年1月5日
- 今回ダブルでれもんちゃんを指名さしてもらいました!出迎え時の笑顔はまさに女神そのものでした。
笑顔のれもんちゃんに翻弄されっぱなしで終始メロメロでした。時間内は恋人気分が味わえて大変満足しました。
れもんちゃんの笑顔は人を惹き付ける何かがありますよ。
次回もれもんちゃん指名決定です。
れもんちゃん大満足でした。
ありがとう!
キィータン様ありがとうございました。
- 投稿者:ほしの様
ご利用日時:2021年7月17日
- 幸せな時間をありがとうございました
スタッフさんにおすすめしていただき指名させていただきましたが、ルックス、サービス、愛嬌、テクニックどれをとっても最高でした。
110分余すことなく虜にされました。
時間が許す限り毎日でも通いたいと思うほどです。次回以降も必ず指名させて頂きたいです。
ありがとうございました。
ほしの様ありがとうございました。
- 投稿者:トレジャーハンター様
ご利用日時:2021年6月30日
- 会った時の感動は興奮そのものでした!
コメントにも書いてあったのですが国宝級は言い過ぎではなく、その通りと思いました!
愛嬌も本当に素晴らしかったです!
僕みたいな人にとても優しく接してくれて、とても嬉しかったです!
また絶対に会いにいきますので、宜しくお願いします!
トレジャーハンター様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
圧巻!S×5級美女に感動
- 身長・3サイズ
- T153.
B83(C).
W54.
H84
- 血液型
- B
- 前職
- ホステス
- チャームポイント
- 目・笑顔・お尻
- 趣味
- 料理・ゲーム
- 好きなタイプ
- 一緒にいて落ち着く人
- 休日の過ごし方
- 犬とお出かけ
- 自分の性格
- 甘えん坊
- 将来の夢
- 考え中
- 性感帯
- アソコ
- プレイスタイル
- 一緒に気持ちよくなる
- 得意プレイ
- フェラ
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