福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
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れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と初夢 様
ご利用日時:2025年1月5日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
シン太郎左衛門が、「みなさま、あけましておめでとうございます」と言っている。
年末年始、家から一歩も出ずに過ごすと宣言し、元旦の初詣さえ見送った。
このまま、れもんちゃんに会う5日まで外出はしないつもりだったが、2日の朝、まだ暗いのに、シン太郎左衛門が剣術の稽古を始めた。「やあっ!とおっ!」と言って、割り箸を振り始めたが、まるで気合いが入っていない。単に寝ぼけていただけなのか、30秒程で止めてしまって、再びグーカー寝始めた。時計を見ると、早朝5時1分だった。いきなり起こされた怒りも相まって、私は眠れなくなった。7時を過ぎても眠れなかったので、イライラして布団から出て、ドテラを羽織ると家から出た。
空はドンヨリと曇っていたが、思ったほど寒くなかった。金ちゃんの家も他の家もシ〜ンとしていて、近所一円眠っているようだ。人っ子一人歩いてなかった。
「シン太郎左衛門、久し振りに外に出たから少し散歩をしよう」と言って、シン太郎左衛門をモコモコパジャマから掴み出して、肩に乗せ、丘の公園に向かう坂を登っていった。
丘の上の公園を行き過ぎると、去年、新兵衛(クワガタ)を放した雑木林が視界に入ってきた。シン太郎左衛門に「新兵衛は、元気にやってるかなぁ」と言うと、
「うむ。新兵衛は達者でござる。年賀状が届いておった」
「そうなんだ。俺には誰からも年賀状が来ていなかった」
「父上は寂しい老人でござる。拙者には、新兵衛だけでなく、苦労左衛門、鬼熊安兵衛ほか数十名の武士仲間から年賀状が届いた。クリスマスにはLINEメッセージも来ておった」
「そうなのか・・・ところで、この道は、この先、どこに行くんだろう?」
「拙者に分かるはずがない」
これまでに、この坂道を登ったのは新兵衛を見送った雑木林の付近までだった。その先には、宅地開発の計画が頓挫した、広大な荒れ地があるだけだと聞いていた。雑木林をやり過ごし、更に100メートルほど歩いて行くと、見知らぬ景色が待っていた。
道は舗装されていたが、車の行き違えが困難なほど幅が狭くなっていた。視界にある限りは平坦な道が続いていたが、山脈の麓の斜面に沿って曲がり込み、先は全く見通せなかった。頭上は常緑樹が覆い、分厚い影を落としていた。
「何か変な感じだ。緑のトンネルって感じだな」
「うむ。まるで魔界の入り口のようでござる」
「引き返すか・・・」
「いや、もう少し進んでみましょうぞ」
時々、耳馴染みのない鳥の声が聞こえてくるほかは森閑としていた。見上げても、葉蔭に遮られて、空は殆ど見えない。家を出てから15分ほど歩いても、人にも車にも出会わなかった。
「もう帰ろう。なんで年明け早々から森林浴をしなきゃならんのだ」と引き返しかけたとき、
「父上、あれは!」とシン太郎左衛門が指さす先に目を向けると、一軒の店舗が建っていた。どこか見覚えがある店だった。近寄ってみた。
「これは・・・」
「・・・クラブロイヤルでござる」
「そうだ・・・クラブロイヤルだ」
二人ともしばらく言葉を失った。
「・・・まだ開店しておりませぬな」
「うん。7時半だからな・・・クラブロイヤルって、こんな身近にあったんだ。ウチの裏山じゃないか・・・それなのに毎週、わざわざ新快速で何時間もかけて通ってた」
「徒歩15分で行けるものを、大きく遠回りして、往復2000円以上も電車賃を使って、父上は実に立派な愚か者でござるなぁ」
「これから駅に行って、去年使った電車賃を半分返してくれるように頼もうかなぁ・・・」
こんなくだらない会話の最中に目が覚めた。これが私の初夢だった。
「おい、シン太郎左衛門。起きろ。今年は、ロクな年にならんかもしれん。ここ数年でも、記録的にくだらない初夢を見た」
シン太郎左衛門は、モコモコパジャマのズボンからズルズルと這い出てきて、
「あ、夢でござったか・・・父上の声に起こされた。拙者の初夢も実に不快でござった」
「どんな夢だったの?」
「どんなも、こんなもござらぬ。どこで聞いてきたのか、父上が『オチンを暖めるとインフルエンザに罹らないらしい』と言い出して、嫌がる拙者を貼るタイプのカイロで包もうとする話でござる。『拙者、新年早々、そんな目に遭いたくない。拙者は、ソーセージパンや手巻き寿司の具材ではござらぬ』と叫びながら逃げ回っておった」
「俺は、そんなことはしない。お前の初夢もダメだ。今年も詰まらん1年になるんだろうな・・・もちろん、れもんちゃんに会っている時間は別だ」
「うむ。元々、我々の人生は、れもんちゃんと会っている短い時間だけ光が当たり、後は暗闇の中に沈んでござる」
「まあ、そういうことだな」
「我々、元々、どうしようもない親子でござる」
「ホントだよ。よし、餅でも焼いて食おう」
これが正月2日に起こったことだった。
そして、今日は、日曜日。つまり、新年初れもんちゃんデー。
我々は、今年もやはりJR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。そして、素晴らしい時間を過ごさせてもらった。
れもんちゃんは、2025年も元気いっぱいだった。もちろん、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。
れもんちゃんと会っているこの時間が、我々にとっての夢、今年の初夢なのであった。
シン太郎左衛門と初夢 様ありがとうございました。
けい【VIP】(23)
投稿者:竹内様
ご利用日時:2025年1月5日
けいさん本日のトップバッターのヒデです。初対面なのに気軽にお話しできて満足です。サービスの方は完全に参りました。近いうちすぐに次は僕の方がサービスして負かせます。期待してください。本当に本日は体も心も癒されました。有難うございました。
竹内様ありがとうございました。
けい【VIP】(23)
投稿者:カカロン様
ご利用日時:2025年1月4日
今年1番の姫はじめで、当たりのケイさん、しかも今年1番目で、すんごい美人さん、しかも、今までたずさわってきた姫って、流れ作業的で先が見えて次なにするか、わかっているから面白くないんよな?俺も飛行機とか乗って土浦や、佐賀の嬉野市とかに行くけど、お気に入りが全国飛び回るから、近くて、いいお気に入り見つけたよ。けど福原って写真撮影がないんよな?まあ、美人のケイちゃんならそれもいいよ。
カカロン様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(『カズノコちゃん登場』) 様
ご利用日時:2024年12月29日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。いよいよ年末だが、だからどうということもない。
会社は、金曜日を年内最終出勤日として、年末年始の休業期間に入った。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。しっかり睡眠を取り、昼近くに目を覚ました。
「シン太郎左衛門、今、世の中はインフルエンザが大流行らしい。明日、れもんに会いに行ったら、翌月曜から土曜まで6日間、家に籠もることに決めた」
「12月30日から年明け1月4日まで、金ちゃんを人質に取って家に立て籠もり、機動隊との緊迫した睨み合いの内に年を越すということでござるな」
「俺がそんなことを言ったのか?」
「うむ。言った」
「そうか。では訂正しよう。金ちゃんだろうが誰だろうが人質は取らない。人知れず、家に籠もって、静かに過ごす。れもんちゃんに会いに行くのでもないのに、インフルやコロナの危険を冒して人混みに飛び込んでいくのは御免だからな」
「うむ。で、その間の食事はいかがなされますか」
「これから大きなリュックを背負って買い出しに行く」
私の答えに、シン太郎左衛門は、したり顔を浮かべて、「ということは、今回のクチコミは、駅前スーパーを舞台にしたものでござるな」
「まあ、そうなる」
軽く御飯を食べると、温かい服に着替え、二重にマスクをして、駅近くのスーパーに出かけた。
いつものスーパーに足を踏み入れると、シン太郎左衛門は、
「今日は明太子ちゃんの出勤日でござろうか」
「どうだろう・・・」
耳を澄ましてみたが、例の呼び込みのセリフは聞こえて来なかった。
「年末だからな。おせち料理やら鏡餅やら、正月アイテムに特設コーナーを横取りされて、明太子ちゃんは非番となったようだ」
「それは寂しいことでござる」
カップ麺や切り餅などをカートに載せた2つのカゴに投げ込みながら、意気揚々とスーパーの通路を進んでいくと、やがて特設コーナーに差し掛かった。
そこには、パック詰めされた数の子が山と積まれ、若い女性の売り子さんがいた。
その子は・・・
「あっ!君は、明太子ちゃんじゃないか!!」
「あっ、オジさん!」
「どうしたんだ?カズノコの被り物などして!」
「今日は、カズノコを売ることになっちゃった・・・」
「どうして、そんなことに・・・君は明太子ちゃんじゃないか!どうして、カズノコを売るんだ!」
「でも、私、昨日までは、鏡餅を売ってたよ。私の担当は、明太子だけって決まってないよ」
「そうだったのか・・・君は、昨日まで頭の上に鏡餅をのせて、鏡餅を売っていたのか・・・」
「頭の上に鏡餅なんて、のせてないよ。そんなの恥ずかしいよ」
「じゃあ、何で今日はカズノコの被り物をしてるんだ?」
「これは・・・これ、妹が作ったの。本当は、今日から妹がカズノコを売る予定だったのに、昨日、自転車でコケて骨折しちゃったの・・・」
「じゃあ、君はピンチヒッターなんだね」
『明太子ちゃん』改め『カズノコちゃん』は、悲しそうに頷くと、
「私、元々、明太子もカズノコも全然好きじゃない。妹が、カズノコの売り文句を考えてくれてなかったから、何て言って売ればいいか、分からないよ」
「そうなのか。よし、任せたまえ。自慢じゃないが、俺はカズノコ好きだ。売り文句を考えてあげるから、メモしたまえ」
「ホントに?」
「うん。いくよ。『美味しいカズノコは、いかがっすか〜。おせちにはカズノコが欠かせない。カズノコは、和の心。是非お買い求めくだされと、シン太郎左衛門も言っている』、こう言って売りなさい」
「分かった」
カズノコちゃんは、メモの内容を復唱して、
「これでいいですか?」
とても「いい」とは思えなかったが、
「とりあえず、それでやっておきなさい。店内で買い物を続けながら、もう少し考えてみる」
カズノコちゃんを後に残して、買い物を再開した。
美味しいカズノコは、いかがっすか〜
おせちにはカズノコが欠かせない
カズノコは、和の心
是非お買い求めくだされと、シン太郎左衛門も言っている
と、カズノコちゃんが恥ずかしそうに、でも精一杯声を出しているのを聞きながら、『これでは、売れないだろうなぁ』と感じた。
10分ほど店内を回って、2つのカゴをいっぱいにして帰ってくると、カズノコちゃんの声が聞こえてきた。売り文句がスッカリ変わっていた。
無漂白カズノコ、美味しいよ〜!
新発売、無漂白カズノコ!カリッとプチプチ、素敵な歯応え!濃厚な旨味が後を引く!
新発売、無漂白カズノコ!これぞ、ベーリング海の恵み!一口サイズのカズノコを是非ご賞味ください!
れもんちゃんの大好物!無漂白のカズノコですよ!是非、お買い求めくださ〜い!
「お〜っ、シン太郎左衛門、聴いたか?カズノコちゃんが頑張ってる。売り文句も進化しているぞ」と言ったものの、このセリフ、なんかどこかで聞いたことがある気がした。
「あっ、そうだ。『大王イカフライ』だ。Cが、まだ俺の周りをウロウロしているようだ。アイツ、いい加減に成仏しろよな」
特設コーナーでは、行き交う客に向かって、カズノコちゃんが元気に呼び込みをやっていた。
「れもんちゃんの大好物!無漂白のカズノコですよ〜!是非、お買い求めくださ〜い!」
年配の婦人が、カズノコのパックを2つカゴに入れながら、「れもんちゃんって、誰?」とカズノコちゃんに訊いていた。
カズノコちゃんは、困った顔で、「それが、よく分からなくて・・・でも、『れもんちゃん』と言うと売れ行きが上がって、『シン太郎左衛門』って言うと売れ行きが落ちるって、さっき教えられて・・・ホントにそうなんです・・・」
カズノコちゃんは、私に気が付くと、
「あっ、オジさん!さっきオジさんが行った後、オジさんの友達っていう人が来て、別の売り文句を教えてくれて、こっちの方が売れるからって」
「ああ、分かってるよ」
「とにかく、『シン太郎左衛門』じゃ絶対に売れないって」
「そうだね。『れもんちゃん』にしたから、売れ行き絶好調だね」
「うん。急に売れ出して、もうじき完売しちゃうよ」
無漂白のカズノコを3パック買うと、1パックおまけしてくれた。
私は、大きなリュックをパンパンにして、さらに両手に大きなエコバッグを下げて、家路を急ぐのであった。
そして、今日は日曜日。年内最終の、れもんちゃんデー。
勇んで、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、やっぱり宇宙一に宇宙一で、今年一年、1日も欠かさず、宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「れもんちゃん、今年最後のお願いしていい?」
「いいよ〜」
「先週凄く忙しくて、今回はクチコミが1行も書けてないし、そもそも、いよいよクチコミのネタがなくっちゃったよ。れもんちゃん、なんかアイデア、くれないかなぁ」
れもんちゃんは、可愛い首を傾げてから「『カズノコちゃん』は、どうかな?」
「『カズノコちゃん』?それって、どんな感じ?」
「カズノコの被り物を着けて、カズノコを売ってる女の子だよ〜」
「カズノコの被り物って、布で作った大きなカズノコを被って、顔だけ出す感じ?」
「そうそう、そんな感じだよ〜」
「それ、頂こう。『明太子ちゃん』のお正月バージョン的な感じで書くね」
「うん。頑張ってね〜」
「いつもピンチのとき、助けてくれてありがとうね」
帰りの電車の中で、このクチコミを書いていると、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「クチコミを書いてござるか」
「うん。昨日、俺たちはスーパーに買い出しに行ったことになった」
「昨日は夜まで仕事でござった。スーパーに行くのは明日の予定でござる」
「そういう細かい話は気にしなくてよい。重要なのは、来年もまた、れもんに会えるということだ」
「うむ。間違いない。今年も、れもんちゃんのお蔭でよい年でござった」
れもんちゃんとの姫納めを終えた我々の想いは、1週間後に控える、れもんちゃんとの姫初めに向けて、年末の暗い夜空を光の速さで駆け抜けて行くのであった。
シン太郎左衛門(『カズノコちゃん登場』) 様ありがとうございました。
ゆず【VIP】(23)
投稿者:Uの字様
ご利用日時:2024年12月23日
ご本人や業界内でも、アイドル・ロリ路線かと存じますが、カーテンを開けてご本人のお迎えを受けた時、綺麗で可愛い女性という印象を受けました。
随分と色々な店に行きましたが、ハグで迎えて頂いたのは初めてです。プレイは盆と正月とクリスマスが一度にやって来て、更に海を越えてアメリカの独立記念日と感謝祭、ブラジル・リオのカーニバルまでやって来たような、楽しいひと時でした。
Uの字様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と下品な話 様
ご利用日時:2024年12月22日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。来年から、また剣術の稽古に励むことに決めたと言っている。怪しいもんだ。ホントにやる気があれば、今日からすぐ始めるはずだ。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。親子揃って、終日ゴロゴロと過ごした。
何もしていないのに、お腹は減るので、朝昼兼ねて明太子ご飯を食べ、このままだと夕飯も明太子ご飯になってしまうなぁと考えていると、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「父上、年の瀬も迫ってござる。年越し準備をいたしましょう」
「年越しの準備って何?」
「注連縄を飾るとか」
「そんなことして楽しいか?」
「餅搗きをするとか」
「一人でやることじゃないよ」
「しかし、こんなふうに終日ゴロゴロしておれば、脳ミソが腐りまする」
「なるほど、そうか。道理でさっきから変な臭いがすると思った。俺の脳ミソが腐りかかってるのだな」
「それは違う。さっき拙者が屁をこいた」
「何だ、お前か」
「うむ。朝から屁が止まらぬ」
「道理で朝から変な臭いがすると思った。れもんちゃんのクチコミの収録中に緊張感が足らんな」
「そう言う父上も朝から数回屁をこいてござる」
「もう、この話は止めよう。れもんちゃんのクチコミにこんな話題は相応しくない」
「うむ」と言いながら、シン太郎左衛門が屁をこいた。
「お前、いい加減にしろ!こんなクチコミがあるか!れもんちゃんに怒られるぞ」
「れもんちゃんは至って気立てがよい。こんなことで腹を立てる娘ではござらぬ」と言いながら、シン太郎左衛門が、また屁をこいた。
「お前、胃腸の病気じゃないか?」
「拙者、胃も腸も持たぬ」
「じゃあ、何のために尻の穴だけは持ってるんだよ」
「屁をこくためでござる」
そんな救いようのない会話をしているうちに、いつの間にか布団の上に居場所を移し、うたた寝をしてしまっていた。
目覚めたら、昼の2時だった。
「まだ、こんな時間か・・・どうせなら日曜日の朝であって欲しかった」
「父上、話をいたしましょう」
「もう屁の話は要らんぞ」
「違いまする。Bという御仁が父上を恨んでいると度々聞いたが、父上、一体どんなことを仕出かしましたか」
「その話はしたくない」
「語れぬような禍々しい事でござるか」
「違う。そんなんじゃない。別に俺は悪い事なんてしていない。完璧な逆恨みだ」
「では話してくだされ」
「屁の話よりは若干マシかもしれんが、大して面白い話ではない。それに、あれこれと前もって説明しなければならないことが多すぎて面倒臭い」
「時間はたっぷりござる。拙者が昼寝を続けている間、一人で喋っておいてくだされ」
「そんな馬鹿みたいなこと、できるか!」
「まあよい。ささ、『なぜ父上はBに恨まれているか』を語ってくだされ」
「よし。では、ダイジェスト版でお届けしよう」
「うむ」と、シン太郎左衛門は枕を引き寄せて、布団を引き被った。
「お前、寝る気満々じゃないか」
「聞くに堪えぬ退屈な話でござる」
「まだ話してない!」
それは、40年ほど前、私が大学に入学した直後のことだった。キャンパスの近くを歩いていると、学ランを着た、見た目40歳を超える、酒臭い人物が近寄ってきて・・・
「それがK先輩で、そのままK先輩が主宰する部活のメンバーにされてしまった。そのクラブの新歓コンパで・・・」
「そのクラブは、何部でござるか」
「知らん。1年在籍していたが、最後まで分からんかった。そういう細部に拘ると、1日かけても話し終わらないから、無視してくれ」
「うむ」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「新歓コンパは、K先輩が不法占拠していた茶道部の部室で開かれた。ボロボロの畳が敷かれた和室の真ん中に、どこかで拾ってきたと思われるチャブ台が置かれていた。K先輩のほかに、影の薄い先輩が3、4人いて、全員ベロンベロンに酔っていた。新入生はABCと俺の4人。狭い部屋に男ばかりだ」
「この話、やはり聞くに堪えませぬな」
「うん。K先輩が俺たち4人に『新入生、一人一芸やってみろ』と言った。俺はABCとは、その日が初対面だったから、どういう連中なのか全然分からんかった。すると、最初にAが『では、自分は面白い話をします』と、彼の出身高校の名物教師の話をした。Aは話が上手いから、みんな、腹を抱えて笑った。どんな話だったかは思い出せん。Aはホラ吹きだから、ウソに決まってるしな」
「Aは、くだらんヤツでござる」
「うん。で、Aが話し終わると、Cがニコニコしながら手を上げた」
「先日会った、無口な御仁でござるな」
「そうだ。K先輩に『次はお前か?何をする』って訊かれても、何も言わない。ニコニコしながら、大きな鞄からビーカーやらアルコールランプやら理科実験の道具を取り出して、チャブ台の上に並べた。その次に、やっぱりニコニコしながら、無色透明の液体が入った、小さな蓋付き瓶をズラッと並べると、黙ってニコニコしている」
「うむ」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「若い頃のCはホントに凄い美少年だった。歴史上の人物で言うと、森蘭丸みたいなモンだ。それまで爽やかにニコニコしていた18歳の美少年が、急にキリッとした顔になり白衣を纏うと、真剣な面持ちでビーカーに無色透明の2種類の液体を注いだ。透明の液体が混ざると、さ〜っと赤くなった」
「うむ」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「続けて、次のビーカーに別の液体を組み合わせて注ぐと、今度はオレンジ色になった。次々と同じことを繰り返して、虹の七色の液体が並ぶと、Cは無言のまま『どうです、凄いでしょ。心ゆくまで御覧ください』という感じで両手を拡げて、得意げにニコニコしていた」
「それは感心するほどのことでござるか」
「分からん。そこにいたC以外の誰も化学に詳しくなかったから、皆ポカンとしてしまっていた。気まずい沈黙を破るようにK先輩が『分かった。次に行こう』と言ったが、Cは『次の実験をやってくれ』と解釈したのか、アルコールランプに火を点けて、真剣な表情で金属片を翳した。炎が真っ赤になった。別の金属片を翳すと、鮮やかなオレンジ色になった。そうやって、我々は望みもしないのに、虹の七色の炎を順番に見せられた。Cはやっぱり得意満面で、さも凄いことをやり遂げたかのように両手を拡げてニコニコしていた」
「Cは空気が読めぬ御仁でござる」
「そうなんだ。K先輩は呆れて、Cに『お前はもういい』と言って、Bに『次は、お前、なんかやれ』と言った。指名されたBがスクッと立ち上がると、身長2メートルの無表情な男が発する威圧感にみんな圧倒された。Bはボソッと『怖い話をする』と言ったが、その隣ではCがまだ理科実験を続けていて、またビーカーを7つ並べて、それぞれに無色透明の液体を入れていった」
「ニコニコしてござったか」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「当然だ。Cは一人だけ楽しそうだった。Bが無表情でボソボソと話し始めたが、何を言っているか、まるで聞き取れん。そのうち、Cは真剣な表情になり、ビーカーの液体に、それぞれ違う固形物を入れていった。モクモクと七色の煙が立ち昇った。虹色の煙の中で、ノメッとして表情のない大男がボソボソと訳の分からんことを喋ってる。それは、とっても気持ち悪い光景だった。K先輩は『お前、気持ち悪い!もういい。座れ!』とBを怒鳴りつけて座らせると、俺の方を向いて『お前は大丈夫だろうな?』と訊いたらしい」
「・・・『らしい』とは、どういうことでござるか」
「記憶がない。後で、Aから聞かされた」
「記憶がないとは、どういうことでござるか」
「Cが発生させたガスが有毒だったんだと思う。俺は急にメチャメチャ気分がハイになっていくのを感じたが、そこから先、何が起きたか、まったく覚えていない。Aが言うには、俺はスクッと立ち上がって、『僕も怖い話をします』と宣言して、当時流行っていた『口裂け女』の話を始めたらしい」
「マスクを着けた女の都市伝説でござるな」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「うん。ただ、そのとき俺が語ったのは、巷で流布されているモノとは全く違う展開で、Cを除いた全員がパニックに陥るほど怖い話だったらしい。壁際まで後ずさりしたK先輩は涙目になって『お前、いい加減にしろ!こんな怖い話をする馬鹿があるか!』って怒ったらしい。でも、俺は『止める訳にはいかないな。最後まで話してやるから、黙って聴け!お前ら全員、呪い殺す!』と、恐ろしい形相で応じたらしい。それで、俺は先輩たちに押さえ付けられて、タオルで口を塞がれたとのことだ。その間、Aはヘラヘラ笑っていて、Bは茫然自失としていて、Cはニコニコしながら理科実験の後片付けをしていたらしい。これが、Bが俺を恨んでいる理由だ」
「・・・まるで分からぬ」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「だろうな。説明してやる。Bは子供の頃から怪談好きで、怪談を語れば自分の右に出る者はいないと思い込んでいた。数学や外国語の天才である以上に、怪談師としての誇りを持っていた。そのプライドが、俺の『口裂け女』によってズタズタにされたらしい。そうAが言っていた」
「Aの言うことなど当てにならぬ」
「まあな。でも本当に怖い話だったらしい。K先輩も、その後しばらく俺の顔を見ると、話の続きを始めるんじゃないかと、ビクビクしてた。我々の間では『伝説の怪談』だ。話した当人には全く記憶がないがな」
「ところで、『伝説』と言えば、れもんちゃんでござるな」
「そうだ。れもんちゃんは、現役バリバリの、人を幸せにする『伝説』だ。それはそれは貴いよ。オマケだが、Bは怪談好きのくせに根っからの怖がりで、その日以降、数ヶ月、独りぼっちの下宿に戻ることが出来なくなって、AやCの所で世話になってたらしい。その後もマスクを着けた人を見ると、居ても立ってもおれず、逃げ出すようになったという事だ」
「それは、いわゆる『リラックマ』・・・いや、『トラウマ』というものでござるな」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「そうだ。それが、この前の新型コロナ騒ぎだろ。街中、老若男女を問わず、全員マスク着用だ。Bは怖くて家から出られなくなって、仕事を辞めたらしい」
「それはAの作り話でござろう」
「いや。B自身の手紙に書いてあった。『俺は、お前を許さない』と書いてあった。ただ追伸として『ところで、あの口裂け女の話、最後がどうなるのか気になってしょうがない。よかったら書いて送ってほしい』とあった」
「Bは、確かに変なヤツでござる」
「とにかく、俺にはBに恨まれる理由がない」
「うむ。悪いのはCでござる。Cは毒ガス野郎でござる」と言いながら、シン太郎左衛門は屁をこいた。
「いい加減にしろ!毒ガス野郎は、お前だ!人が話してる間、ずっとプスプス屁をこき続けやがって」
「うむ。今回のクチコミは、実に下品で、くだらぬ。れもんちゃんは宇宙一に宇宙一の麗人でござるぞ。こんな下品でくだらぬクチコミを投稿するわけにはいかぬ。削除いたしましょう」
「こんなに長々書いて、今更消せるか!全部お前のせいだ!」
ということで、今回、とんでもなくヒドいクチコミが出来上がってしまった。
そして、今日は日曜日、れもんちゃんデー。このクチコミは最低だが、れもんは、そんなことお構い無しに宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「ゴメンね。今回のクチコミは、ヒドいんだ」
「そうなんだね。でも大丈夫だよ〜」
「くだらないし、下品だし」
「うん。でも大丈夫だよ〜」
れもんちゃんの笑顔には、極寒のシベリアの吹雪さえ、爽やかな春風に変える力がある。クチコミのことなど、どうでもよくなってしまった。
我々親子は、こういう次第で、クリスマス・シーズンも、なくてはならぬのは、やっぱり、れもんちゃんなのだ、と改めて痛感したのであった。
シン太郎左衛門と下品な話 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とレモンの木 様
ご利用日時:2024年12月15日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。このところ、本格的に寒くなってきたので、シン太郎左衛門の要望で、モコモコでポカポカのパジャマをネット通販で買った。
このパジャマのお蔭も多少あるが、専ら、ホットなれもんちゃん(略して「ホットれもんちゃん」)のお蔭で、この冬も暖かく過ごせている。
昨日は土曜日、つまり、れもんちゃんイブ。それなのに出勤だった。休んで、家でゴロゴロと英気を養いたかったが、昼から外せない仕事が入っていた。
「シン太郎左衛門、起きろ」
「言われずとも、起きておる」
「今日は、急遽お前が一人で会社に行くことになった」
「それは実に迷惑な話でござる」
「俺は行かない。お前が一人で行く」
「それは大迷惑でござる」
「決まったことだから、仕方ない。では、よろしく頼む」
「うむ」
5分経っても10分経っても、シン太郎左衛門はモコモコパジャマのズボンから出てこない。
「シン太郎左衛門、そろそろ出かけろ」
「よく考えれば、拙者、イコカを持っておらぬ」
「俺のを貸してやる。ジャケットの内ポケットに入ってる。勝手に使ってくれ」
「それはできぬ」
「なぜ?」
「拙者の身長では、イコカをピッとできぬ」
「回りの人に頼め」
「それはできぬ。自分でピッとできぬ者が、イコカを持っていては不審者でござる。怪しまれて、警察を呼ばれる」
「しょうがない。それじゃ、駅の改札まで見送ってやる」
「降りるときは?」
「しょうがない。会社の最寄り駅まで付き添ってやる」
「帰りは?」
「小銭を渡しておいてやる。キップを買え」
「券売機に手が届かぬ」
「・・・あれこれ言ってるが、お前、行く気ないだろ?」
「ない」
「偉そうに断言するな、この怠け者め!」
「そのセリフ、鏡に向かって言われよ」
「なんとしても行かないつもりか?」
「行かぬ」
「しょうがない。俺が行くことにしよう。考えてみたら、ウチの社員は誰一人として好き好んで職場に来ていない。もし、代理がオッケーなら、みんな自分では出勤しなくなって、職場にはオチンばっかりになってしまう。そんな会社、聞いたことがない」
会社に行きたくなさすぎて、食欲も出ないので、渋々スーツに着替え、朝飯抜きで家を出た。
家の前の道に出たら、隣の家、つまり金ちゃんの家の庭から話し声がする。塀越しにそっと生垣に首を突っ込んで、庭を覗き込むと、金ちゃんと金ちゃんママが、レモンの木を前に話をしていた。
知らない人のために言っておくと、レモンの木には年中、青々とした葉が茂っている。秋口には緑色の実がたわわに実り、冬を通して輝くような黄色に変わっていく。
私にとっては年がら年中『れもんの季節』ではあるが、冬はレモンの収穫期で、お隣のレモンの木でも沢山の黄色い実が、夜間の雨に濡れて朝日に輝いていた。
金ちゃん親子に「君たちは何を話し合っているのだ?」と尋ねると、声の方に振り返り、生垣の間から男の顔がニュッと突き出しているのを見た金ちゃんママは「キャ〜っ!」と悲鳴を上げた。
「驚くことはない。よく見なさい。私だ」
「止めてください!そんなところから顔を出したら、ビックリするじゃないですか」と金ちゃんママは本気でお怒りだった。
「うん。それで、お二人は何を話していたのかな?」
金ちゃんが、「今年もレモンが沢山なったけど、いつも貰ってくれてたNさん一家が引っ越してしまったから、こんなに沢山の実をどうしようかと話し合っていました」と、ニコニコしていた。
「そうか。他の果物ならいざ知らず、レモンの話は極めて重要だから、私も加わろう。それで、どうするつもりなんだ?」
「いやぁ、特に考えもないです・・・オジさんが貰ってくれますか?」
「貰っても、何に使えるのか分からない」
「Nさん一家は、ハチミツに漬けたり、焼酎に漬けたり、レモン風呂をしたり、レモンケーキを作ったりしてたみたいです」
「そうか・・・そうだな・・・レモンのレアチーズケーキがいいな。それと、ハチミツに漬けたレモン入りのホットの紅茶にしよう」
「美味しそうですね」
金ちゃんに五千円札を1枚渡し、
「名前に『れもん』と付いてれば美味しいに決まってる。これから俺は仕事だが、夕方には帰る。それまでに必要な材料を買ってきてくれ。俺は今スーパーに立ち入ることを医者から止められているからな」
「分かりました」
「それと、作り方をネットでググって、俺が帰るまでに作っておいてね」
生垣から顔を引っ込めて、私は駅に向かって歩き始めた。
夕方、帰宅すると、モコモコパジャマに着替えて、隣の家を訪ねた。
金ちゃんの作ったレモンのレアチーズケーキは、普通に美味しかった。紅茶も美味しかった。お腹いっぱい食べたので、夕食が要らなくなった。これからも折々作ってもらうこととなった。
金ちゃんは仕事も順調で、冬のボーナスを沢山もらったと、ご機嫌だった。アニメキャラのフィギュアを爆買いしたらしい。馬鹿だ。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。もちろん、イコカを使ってJR新快速に乗り、れもんちゃんに会いに行った。
当然のことではあるが、冬仕様のれもんちゃん(ホットれもんちゃん)も、ポカポカと宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「昨日、レモンのレアチーズケーキ、食べたよ。美味しかったよ。大王カフェのメニューに加えてもいいんじゃない?」
「う〜ん。それは、とっても難しいよ〜」
「なんで?」
「レモンは、れもん星では採れないよ〜」
「それは意外だ。そうだったんだ・・・」
「うん。そうなの。不思議なの」と、れもんちゃんは、とってもとっても可愛い笑顔を浮かべていた。
れもんちゃんも、れもん星も、可愛い秘密や不思議がいっぱいだった。
宇宙はとっても広いのだが、そんな広い広い宇宙の中で、れもんちゃんは、年がら年中、季節を問わず、涼しい顔して、ダントツ一番であり続けている。
これは実に素晴らしいことである。
シン太郎左衛門とレモンの木 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とラスボスの誤配(あるいは「海を見ていた午後」) 様
ご利用日時:2024年12月6日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。暑いときにはグッタリしていて、寒くなると動かなくなる、まるで頼りにならない武士だった。
水曜日の夜、忘年会でAに会った。
学生時代の知り合い5人が、お互い棺桶に片足を突っ込んでいることをしみじみ確認し合うような寂しい集まりの後、Aに誘われて、二人だけで喫茶店に寄った。
その日のAは、いつになく饒舌だった。
さっきまで一緒にいた連中について、一頻り悪口を言った後、Aはコートのポケットから煙草の箱を出しながら、「Cを覚える?」
「覚えてるさ。Cの下宿には、よく遊びに行った。あいつは全然喋らないから、カセットプレーヤーで音楽流して、一緒に聴いてただけだけど。俳優になれるような美男子だった」
「で、実際どんな顔だったか思い出せる?」
「全く思い出せん」
「そうなんだよな。誰一人思い出せないんだ。C、死んだぜ」
「そうなんだ」
「悲しいか?」
「いや、全く悲しくない」
「そうなんだよな。誰一人悲しまないんだ。Cの葬式に行ってきた」
「いつ?」
「11月の20日過ぎ。奥さんも全然悲しんでなかった。参列者の誰も悲しんでなかった。故人を偲ぶにも、誰もCの記憶が殆どないんだ。とても変な葬式だった」
「俺は葬儀に呼ばれんかった」
「知ってる。Cの奥さんから聞いた。Cが『声を掛けたら葬儀に来るヤツ』『呼んでも来ないヤツ』のリストを残していて、お前は『呼んでも絶対に来ないヤツ』の中にいたそうだ。別枠で『絶対に呼んじゃいけないヤツ』として、BとK先輩の名前があったらしい」
「当たり前だ。何を仕出かすか分からん奴らだ」
『昭和』を思わす、古びた喫茶店には、我々二人以外に客がいなかった。Aは煙草をくわえ、火をつけると、「C自身も薄気味が悪いヤツだったけどな。全然何も喋んないし」
「うん・・・でも、Cはホントに毒ガスや爆弾を作ってたんだろうか?」
Cは我々が通っていた大学の理学部化学科設立以来の大秀才と言われていたが、常に危険人物扱いされていた。
「分からん。結局、根も葉もない噂だったのかも知れない」
「でも、その噂のせいで、Cは半年に一度は下宿を追われ、文句一つ言うでもなく、淡々と引っ越しを繰り返していた」
「どこに行っても、決まって変な噂が立つって、あれは何だったんだろう」と、Aは煙草の煙を吐いた。
学生時代からAはタチの悪い悪戯の常習犯で、私はずっとAが噂の火元ではないかと疑っていた。しかし、その疑いにも大した根拠はなかった。
Aは、また煙を吐くと、「ところで、今、BはK先輩のところに居候してるらしい」
私はAに向かって煙を吹き返すと、「ああ、うすうす察してた」
Aは少し驚いた様子で、「なんで?」
「なんとなく」と答えた。まさか、れもん星の大王カフェ七号店で、二人が並んで写ってる写真を見たから、とは言えなかった。
「徳島県の僻地で、二人で自給自足の生活してるって、この前、K先輩から来た手紙に書いてあった」
「そうなんだ」
「それが変な手紙でさ。『ご依頼により、一筆啓上仕り候』で始まるんだ。俺、頼んでねえし、と不思議に思いながら読んだ」
「待て待て、それは・・・ゴメン、続けてくれ」
「どうでもいい話が延々と続くから、最後まで読まずに捨てた」
「そうなんだ・・・」
やっぱり馬鹿だった。K先輩は、私に送るべき手紙をAに送ったのだ。
「中身、覚えてる?」
「つまらん思い出話ばかりだったな。あっ、そうだ。Bが今でもお前のことを恨んでるってさ」
「その話はいいわ」
「手紙が届いて数日後、K先輩から電話があって、早くバイト代を送れとか訳の分からんことを言ってきたから、サッサと切った」
もう何も言う気にならなかった。
帰りの電車の中、私はシン太郎左衛門に、「我々のラスボスは、違う人間のところに誤配されて、呆気なく蹴散らされてしまった」
「なんと。それは情けない話でござる」
「まあ、別にいいんだけどね」
「うむ。結局、れもんちゃんさえいれば、我々は困らぬ。れもん星に行ったり、金ちゃんたちを登場させたりすれば、『シン太郎左衛門』シリーズの10回や20回は簡単に出来まする」
書くのは俺だぞ、と言い返したくなったが、黙っていた。何故か気持ちが沈んでいた。
帰宅後、さっさと寝ることにした。何故か、れもん星に行かねばならない気持ちになっていた。
「シン太郎左衛門、俺はこれかられもん星に行く。お前も来るか?」
「お供いたしましょう」
布団に入ると、電気を消して、二人で、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と、夢でれもん星に行く呪文を10回唱えた。すると・・・
いきなり目の前に青い空が広がった。
オシャレで落ち着いた街並みに、「あっ!ここは、見覚えがござる」と肩の上のシン太郎左衛門が声を上げた。
我々が着いたのは、れもんちゃんのパパが経営する大王カフェ七号店の前だった。
「なんと!これは嬉しい!父上、また大王カフェに来れましたぞ」
大王カフェ七号店は、海を見渡せる高台の上に立つ、瀟洒で愛らしい、小さなお店だった。
「・・・そうでござったか。気が付かなんだが、守護霊殿も一緒に来られたものと思われまする」
「なるほどね。我々のような徳の低い奴が度々来れる場所ではないからな」
シン太郎左衛門は「守護霊殿、ありがたき幸せ。御礼申し上げまする」と、どこにいるのか分からない守護霊さんに当てずっぽうで御礼を言っていた。
カフェの入り口には、例によって小さな黒板がイーゼルに置かれていた。赤白青のチョークで、
「新メニュー 大王イカフライ!!
れもんちゃんも大絶賛!!
美味しいよ〜」
と書かれていた。
ドアを開けると、小さなカウベルが軽やかに鳴った。
いつもクラブロイヤルの入り口で気持ち良く迎えてくれるスタッフさんにそっくりなれもん星人さんが迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」と言って、我々を海の見える窓際の席に案内してくれた。
「守護霊殿が席を予約してくれていたものと思われまする。いや〜、それにしても絶景でござるなぁ」
水平線までコバルトブルーの海が広がり、遠くに白い客船が浮かんでいた。近くには、白いモモンガの群れが飛び交っていた。
スタッフさんは、カトラリーの小籠とお冷を運んで来て、「ご注文は、大王イカフライとグラスの大王白ワインを3名様分でございますね」
シン太郎左衛門が私の方を見て、「守護霊殿が注文まで済ませてくれてござるな」
「うん」とだけ答えた。
やがて料理が運ばれてきた。一口サイズのイカのフライが、可愛いお皿に、こんもりと盛られて、ホカホカと湯気を立て、甘い香りを漂わせていた。
シン太郎左衛門は、「父上、我々がここに居ては、守護霊殿が食べにくい。トイレに行きましょう」
私は、テーブルの上からシン太郎左衛門を肩に乗せ、席を立った。
別にトイレに行きたい訳ではなかったので、店の奥でスタッフさんをつかまえて、「今日も、れもん大王さんは本店なの?」と尋ねた。
「いいえ。今日は、こちらに来られてますが、発売以来、大王イカフライの注文が殺到しておりまして、れもん女王さまから『もっと沢山イカちゃんを捕って来なきゃダメだよ〜』と怒られて、泣く泣く漁に出かけておられます」
「・・・れもん女王さまはシッカリ者みたいだね」
「それはもう。大王さまは、美味しいものを作って、みんなに喜んでもらったら、それで満足される御方ですから、女王さまがいないと大変なことになります」
「なるほどね」
れもん女王さま、つまり、れもんちゃんのママに会いたいのは山々だったが、仕事の邪魔はしたくなかった。
テーブルに戻ると、私の向かい席には半身をよじって窓の外を見ている男がいた。
シン太郎左衛門は憤然と、「なんと!無礼な者が、守護霊殿の席に座っておりまする」
「いや、守護霊さんは今日は来ていない。そこには、最初から、こいつが座っていたんだ」
シン太郎左衛門は事態が飲み込めていなかった。
「こいつはC、俺の学生時代からの知り合いだ」
私が席に座った後も、Cはじっと海を見ていた。その横顔は、若々しさを失っていたが、ギリシャ彫刻のように整っていた。学生時代、下宿の部屋の窓から寂れた裏通りをボンヤリ眺めていたCの姿が脳裏に蘇った。
「お前、友達甲斐のないヤツだな。葬式ぐらい呼べよ。行ってやったのに」と言うと、Cは徐ろに向き直り、皮肉な笑みを浮かべた。
私は苦笑いを浮かべて、「・・・そうだな。お前の見込みどおり、行かなかったかもしれない」
Cは、皿に視線を落として、イカフライを一つ口に運んだ。
私はCの向こう、コバルトブルーの海を見ながら、「そう言えば、松任谷由実の『海を見ていた午後』を初めて聴いたのは、お前の下宿だった」
Cは小さく頷いた。
「あの頃から全然変わらんな。相変わらず、お前の無口は度を過ごしてる。いつも俺ばかりに話させやがって。お前も、なんか喋れよ」
Cは微かに微笑んだ。そして、「大王イカフライ、美味しいよ〜」
「・・・俺の記憶が正しかったら、お前の声を聞くのは、これが初めてだよ。それが、まさかこんなセリフだったとはな」
俳優並みの美男子はCM向きの微笑みを浮かべ、
「新メニュー『大王イカフライ』!カリッとサクサク!!ジューシーな甘みが後を引く!!」
「どうしたんだ、お前?」
「新メニュー『大王イカフライ』!これぞ、れもん海の恵み!一口サイズの極上イカを是非ご賞味ください!」
「言われなくても、これから食べるよ」
「新メニュー『大王イカフライ』!イカフライを超えたイカフライ!!これは、もうイカフライではない!!」
「いや、どう見てもイカフライだろ」
「新メニュー『大王イカフライ』!大王ちゃんの秘伝のレシピ!!これは、もうイカフライではない!!」
「お前、くどいよ」
「新メニュー『大王イカフライ』!!ビールもワインも止まらない!!」
「さっき少し感動しかけてたのを後悔してるよ」
「新メニュー『大王イカフライ』!!税込9500円!!」
「高いよ!」
「ご一緒に大王ポテトフライはいかがですか?」
「要らないよ。揚げ物ばっかり食えねえよ」
「では、メニューをお持ちしましょうか?」
「お前、もう喋んなくていいよ」
Cは黙って、苦笑いを浮かべ、そして、イカフライを口に運んだ。
私も大王イカフライを食べてみた。れもんちゃんが絶賛するだけのことはあった。
「これは美味い!」
Cは笑顔を浮かべて頷いた。「ホントは、税込1200円だよ」
「それなら安い」
二人は無言で食べ進め、すっかり完食した。
Cは、もういなかった。
私は、凪いだれもん海を見ていた。
「C殿は最後に会いに来てくれたのでござるな」
「ああ」
「きっと、れもんちゃんの計らいでござろう」
「そうだ。俺の人生に起こるいい事は全て、れもんちゃんのお蔭だからな」
「うむ」
そのとき、静かなピアノの音色が聞こえてきた。振り向くと、『ひみつのアッコちゃん』のお面を被った女性がアップライト・ピアノに向かい「海を見ていた午後」のイントロを優しいタッチで奏でていた。
これも、れもんちゃんの計らいなのだろう、そう感じていると、れもん女王さんの見事なピアノ演奏をバックに、マイクを手にして現れたのは、いつもクラブロイヤルの入り口で迎えてくれる愛想のよいスタッフさんにソックリのれもん星人だった。
思わず「お前が歌うんか〜い!」と言ってしまった。
この店にくるたび
あなたを思い出す・・・
スタッフさんは、かなりの音痴だった。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる私に、シン太郎左衛門が、
「最後のこれは余計でござったな」
「うん。ここは、何が何でも、れもんちゃんに歌ってほしかった。なんなら他の曲でもよかった」
そして、今日は金曜日だが、都合により、れもんちゃんデー。れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も元気に、宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「あっ、そうだ。友達と大王カフェで大王イカフライを食べたよ」
「そうなんだね。パパの作るイカフライは美味しいよ〜。れもんも大好きだよ〜」
「本当に美味しかったよ。それと、『シン太郎左衛門』のラスボスが手違いで他所に送られて、何もしないうちに退治されてしまったよ」
「そうなんだね。それじゃあ、れもんが、ラスボスやってあげるよ〜」
「それは光栄だけど・・・」
それは無茶な話だった。れもんちゃんに勝てるわけがない。れもんちゃんは、あらゆる面で宇宙一無敵だった。
シン太郎左衛門とラスボスの誤配(あるいは「海を見ていた午後」) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と明太子シスターズ 様
ご利用日時:2024年12月1日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。前回の「劇場版」投稿以降、無闇に、れもん星に行きたがっている。訊けば、案の定、前回の件があって、我々は、れもん星を救った者として歓迎されると思っている。あれはまだ起こっていないこと、3月ぐらいに起こることであって、さらに、それ以降も大半のれもん星人にとっては知る由もないことで、歓迎されるわけがないと言ってやっても納得しない。時系列が錯綜しているせいで、すっかり混乱している。
さて、昨日は、土曜日。れもんちゃんイブ。どれだけ言って聞かせても納得できないシン太郎左衛門は、その朝も不貞腐れて目を覚ました。
憤然としているシン太郎左衛門に、
「また、れもん星に行ってきたのか?」
「うむ。行って参った」
「で、良いことがあったか?」
「空気の缶詰工場で働かされた」
「楽しかったか?」
「楽しい訳がない。こき使われた挙句、最後は缶に閉じ込められた」
「踏んだり蹴ったりだな。しかし、閉じ込められたのは、悪意あってのことではあるまい」
「うむ。缶の中に落ちたところに構わず蓋をされた」
「お前に存在感がないから、気付かれんかっただけだ。まあ、結局、人の言うことを聞かんお前が悪い。守護霊さんは、大王カフェに入り浸りで、手を貸してくれないし、どこに飛ばされるか分かったもんじゃない。そろそろ諦めろ」
「うむ。今週は、砂漠の砂の上で焼きウインナーになるほど暑い思いをしたり、浮き輪もなしにプールの上に落ちて溺れ続けたり、実に散々でござった。当分、怖くて、れもん星には行けぬ」
「魔法は気安く使うもんじゃないってことだ」
「うむ。それにしても、れもんちゃんは引き続き立派なものでござるな」
「当たり前だ。れもんちゃんは我々のような有象無象じゃないからな。俺たちみたいなモンに、れもんちゃんを語る資格などないが、残り十数回、頑張って『シン太郎左衛門』シリーズを続けていこうな」
「うむ。いよいよ、例のK先輩の登場ですな」
「いやぁ、それは分からんな。『ラスボス』と、ノリで言ってはみたものの、ホントは、そんなんじゃないよ。出鱈目なオッサンだもん。アル中だし」
「なんと」
「結局最後まで姿を見せない気もする。手紙も送ってこないかもよ」
「そんなレベルでござるか」
「ホントに変人なんだ。期待してもしょうがない」
そんな話をした後、寝床から出て、
「ああ、本格的に寒くなったなぁ」とドテラを羽織った。
夕方までゴロゴロ過ごすと、ドテラ姿のまま、駅前のスーパーに買い出しに行った。
「今日も鍋でござるか」
「鍋はもういいや。カシワ、豚、牛のローテーションで、この2週間過ごしてきたが、もうポン酢の味を身体が受け付けなくなってきた。俺は元来飽きっぽいんだ」
「れもんちゃんだけは別でござるな」
「うん。れもんちゃんだけは別格だ。れもんちゃんは毎回進化するしな」
食べたいものが何一つないのに歩き回るスーパーの店内ぐらい、味気ないものもなかった。
すると、特設コーナーの方から、「美味しい明太子、とっても美味しい明太子、ご夕食に明太子はいかがですか。晩酌のアテに明太子はいかがですか。明日の朝食に明太子トースト、お昼に明太子パスタ、3時のオヤツに明太子はいかがですか」という若い女の子の声が聞こえた。
「おっ、あれは明太子ちゃん!あの日以来、姿を消しておったが、父上、明太子ちゃんが戻って参りましたぞ」とシン太郎左衛門が嬉しそうに声を上げた。
「う〜ん、それは困ったな」
「それは何故?父上も、明太子ちゃんを懐かしんでおられたはず」
「確かにあの日の翌日から、特設コーナーではイカツいオジさんが広島焼きを焼いていた。翌週はオデンの具材が並び、青白くて幽霊みたいなオジさんが無言で立っていた。あのときは、あの子はどこに行ったんだろうと思ったよ。ただ、いないから懐かしんだだけであって、戻ってきたから嬉しいということにはならない」
「全く何を言っているか分からぬ」
「早い話が、俺は今、明太子の口ではない。あの子と目が合って、『あっ、この前の人だ』って気付かれて、また明太子を勧められるのが嫌なのだ」
「素知らぬ顔をして通り過ぎたらよかろう」
「そんなことできるか!鍋の作り方を教わった恩人に、『今日は、明太子は要りません。実は、もう鍋にもウンザリしてます』なんて態度を採れる訳がない」
「では、どうされますか」
「特設コーナーを徹底的に避けながら、買い物を続ける」
そう言って、踵を返し、逆回りに店内を歩き出したが、ボーッと何も考えずに商品を眺めていたら、いつの間にか特設コーナーの前に立って、明太子ちゃんの視線を浴びていた。
例の高校生ぐらいの女の子が恥じらいがちに「鍋は無事に出来ましたか?」と話し掛けてきたとき、事態がよく理解出来ていなかった私は「あっ!えっ?ええっ?ど、どうにか・・・」と、マヌケな受け答えをしてしまった。
それから、気持ちを落ち着けて、「こ、この前は、ありがとうね。鍋、ちゃんと出来たよ。お母さんにも、よろしく伝えてね」
「よかった」と、小さく微笑む顔は、れもんちゃんのような超絶美人では勿論ないながら、そこに、頑張り屋さんのれもんちゃんの健気さに通じるものを感じてしまい、立ち去ろうとする足が引き留められてしまった。
とにかく思い付くまま「君は高校生?」と尋ねると、そうだと言う。
「じゃあ、バイトだね。明太子のスペシャリストなの?」と訊くと、そんなスペシャリストじゃない、と笑って、このスーパーの店長が親戚で、時々手伝わされるのだ、とのことだった。
「あの売り文句、1日中、明太子を食べ続けさせようとする文句は君が考えたの?」
「あれは・・・」と、明太子ちゃんは、恥ずかしそうに「私の妹が考えたの」
「妹さんはいくつ?」
「私と年子で、高1」
「そうなんだ・・・」
「・・・」
妙に気まずい沈黙だった。余分な話をしたせいで、余計に買わずに帰れなくなってしまった。
「じゃあ、明太子を1つもらおうかな」
明太子ちゃんの表情がパッと明るくなった。
「オジさんは、お得意さまだから、2パック買ってくれたら、サービスでもう1パック付けますよ」
「えっ・・・そうなの・・・じゃあ、そうする」
明太子3パック(1つは「サービス」のシール付き)をカゴに入れると、笑顔の明太子ちゃんに、「じゃあ、またね」と、その場を立ち去った。
「シン太郎左衛門、当分、このスーパーに足を踏み入れるのは止めよう。俺は健康診断で塩分を控えるように言われてるのだ。来る度に明太子を2パックも3パックも買ってたら、命がもたん」
「拙者のれもん星と同じでござるな」
「・・・それは何とも言えん。俺は、あの子の健気さに、微かに、れもんちゃんを感じてしまうのだ。そうすると、なんか素っ気なく出来なくなる」
「それはもう結婚するしかありませぬな」
「下らないことを言うな。いやぁ、困ったな。ここ以外に歩いて来れるスーパーはないのに・・・」
歩きながら、そんな話をしているうちに、またも特設コーナーの前に戻ってしまっていた。
明太子ちゃんは、私に手を振りながら、「オジさん、久しぶり〜。元気にしてた?」と、完全に友達扱いされた。
「いや、余り元気でもないよ」
「そうなの?そうだ。明日は、私の代わりに妹が来るの。妹にオジさんのこと、教えておくね。サービスするように言っておくから、明日も買いに来てね」
「・・・考えとく・・・シン太郎左衛門、帰ろう」
明太子ばかりをエコバッグに入れて、家路についた。
帰り道、シン太郎左衛門が、「明日、明太子ちゃん(妹)に会いに行かれまするか」
「明日は、れもんちゃんデー、神聖な日だ。神聖な日には、れもんちゃん以外の誰にも会いには行かん」
「なるほど」
「ただ駅からの帰り道にスーパーに寄って、あんな下らない売り文句を考えたのが、どんな子なのか確認するつもりだ」
「また明太子を買わされますな」
「多分な」
劇場版で活躍した者たちとは思えない、小さい小さい話になってしまった。
そして、今日は日曜日、れもんちゃんデー。JR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も運命的に宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「れもんちゃんは、どんな食べ物が好きなの?」
「美味しいものは何でも好きだよ〜」
「明太子、好き?」
「う〜ん。今はイチゴが食べた〜い」
「れもんちゃんなのに?」
「うん、イチゴ食べた〜い」
れもんちゃんは、宇宙一自由で大らかだった。そして、いつも宇宙一元気に頑張っていた。
こんな素敵な娘は宇宙に一人しかいない。
シン太郎左衛門と明太子シスターズ 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様
ご利用日時:2024年11月24日
前回、お伝えしたとおり、「劇場版」をお送りする。
本篇は、本来「シン太郎左衛門」シリーズ全100回の終了の翌週にオマケとして投稿予定だった。前倒しで投稿するので、そこらへんに関する記述に辻褄の合わないところがある。些細な点なので無視してほしい。
では始めよう・・・
今回は、劇場版である。どこでもお好きな劇場で、映画が始まる前にでも読んでくれたまえ。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。いよいよ、『シン太郎左衛門』シリーズの最終話となった。アニメも映画も観ないから、よく分からないが、「劇場版」はスケールの大きな話にするのが礼儀だと理解している。そういう訳で、今回のクチコミは、無闇に大袈裟で、とにかく長い。これまでだって、大概長かったとお感じだろうが、今回のモノは特にひどい。更に最早クチコミには見えないまでに、れもんちゃんの出番がない。また、昭和の事物をかなり盛り込んでいる。れもんちゃんを初め、平成生まれの人々にはチンプンカンプンな部分もあるだろう。覚悟して読まれたし。
20XX年12月某日。土曜日。つまり、れもんちゃんイブ。
私は終日、家でゴロゴロ過ごし、夕飯を駅前の中華料理屋の麻婆丼で済ませ、家に戻ってくると、シン太郎左衛門に、「明日は、れもんちゃんデーだから、今夜は早く寝なければならない」
「うむ。『シン太郎左衛門』シリーズが終わったからと言って、我々の生活は何一つ変わっておりませぬな」
「当たり前だ。連載が終わってから、まだ一週間しか経ってないしな」
風呂を済ませて、夜8時過ぎ、そろそろ寝ようと思っていたら、固定電話が鳴りだした。放置していると、ファックスに切り替わった。
「父上、今時珍しいファックスでござる」
「うん」
普段なら完全に無視するのだが、そのときは何故か放っておけない気持ちになった。妙な胸騒ぎがした。急いで手に取って見てみると、ただ一言「未来Bを救え」とだけ手書きされていて、「未来」に「フューチャー」とルビが振られていた。見覚えのある筆跡だったが、誰のモノだか思い出せなかった。何か良からぬことが起こる予感がした。
「シン太郎左衛門、れもん星に行くぞ」
「うむ。拙者、良からぬ胸騒ぎが致しまする」
「俺もだ。俺が胸騒ぎを感じるなんて、れもんちゃん関係に決まってる」
手早く歯磨きを済ますと、スーツに着替えて、布団に入った。
「スーツでござるか」
「そうだ。スーツはサラリーマンの戦闘服だ。何かただならぬ予感がする」
「うむ。冒険の匂いが致しまする。こんなことなら、もう少し剣術の稽古をしておけばよかった」
「最近サボりまくってたからな。いまさら手遅れだ。いくぞ」
部屋の灯りを消した。
二人は「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と十回唱えた。
そして、シン太郎左衛門ズ、最初で最後の冒険が始まった。
「・・・ここはどこだ?」
見渡すとNASAの管制室の小型版といった場所で、モニターや機械類が犇めき合っていた。そこにレモンイエローのタイトな制服を着た男性が、5、6人、ノンビリと雑談を交わしていた。それぞれ、フェイス・シールド付きのヘルメットを近くの机の上に置いていた。照明が異様に明るかった。昔テレビ番組で見た地球防衛軍の司令室に似ていると思った。
「ここの人たちは随分くつろいでおりますな。何とも奇抜な服装でござる・・・あっ、よく見れば、クラブロイヤルのスタッフさんたちに瓜二つ!」
「ホントだ。いつも気持ちよく接してもらってる人たちにそっくりだ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちは、皆、よい人たちばかりでござる」
「ちょっと話し掛けてみよう」
スタッフさんたちに近寄り、「すみません」と言うと、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにそっくりなれもん星人が、
「あっ、いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「いや。今日は予約はしてません。明日、れもんちゃんの予約をしています」
「大丈夫ですよ。ご新規様ですか?」とスタッフさんが言うので、
「いや、そういうことじゃなく・・・手短に済ませます。ここは、どこですか?」
「ここは、ロイヤル警備隊の本部です」
「ロイヤル警備隊って何ですか?」
「ロイヤル警備隊は、れもん星の平和を守る正義の味方です」
「ウルトラ警備隊みたいな感じですか?れもん星を怪獣や邪悪な宇宙人の侵略からを守る的な」
「まあ、そんな感じです」
「随分と暇そうですね」
「はい。れもん星はいつも平和で、怪獣も邪悪な宇宙人も来ないんです。これまで一度もそういうことはなかったんです・・・空気の缶詰、買ってくれます?」
「要りません。ところで、『未来B』って心当たりありませんか?」
スタッフさんは、少し思案顔になって、他のスタッフさんたちに「『未来B』って知ってる?」と尋ねたが、みんな首を傾げた。
一人のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「レモニウムってなんですか?」と尋ねると、スタッフさんたちは、みんな首を傾げた。
すると、さっきとは別のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「すみません。これじゃ何日かけても話が進みません。今回は『劇場版』なんで、もう少し真面目にやってもらえますか」
「『真面目に』って言われても・・・そこに新聞があります。お探しの件、何か書いてあるかもしれませんよ」
なんだかロールプレイング・ゲームをしているような気分だった。
部屋の隅に一体何年分なのかと思うほどスポーツ新聞が積まれていたので、上の10日分ほど手に取って、近くの椅子に座った。
早速お色気欄を探した。れもん星でも、やっぱりスポーツ紙にお色気は欠かせないらしい。
「へぇ〜。シン太郎左衛門、見てみろ。思ったとおり、れもん星はハイレベルだぞ」
ズボンのチャックを内側から下ろして、シン太郎左衛門が顔を覗かせたので、紙面を翳してやった。
「ほれ」
「おおっ!これは中々のモノ!れもんちゃんには及ばぬまでも大した優れモノでござる」
「まだあるぞ」
我々は、はしゃぎながら次々とお色気欄を制覇していった。
「いや〜、れもんちゃんを生んだ星は、なんともアッハンウッフンでござるな」
「ホントだよ。楽しいな・・・いや、待て。こんなことをやってる場合ではない」
私は、改めて真面目に紙面に目を通したが、関係しそうな記事は全くなかった。スポーツ新聞には、卓球とお色気記事とクロスワードパズルしかなかった。
「この星には、どれだけ卓球好きが集まってるんだ。平和すぎる」
「父上、あちらにテレビがある。勝手につけてみましょうぞ」
「どうせピンポン大会の実況だろ。無駄を承知で見てみるか」
テレビの電源を入れたら、案の定、卓球の試合をやっていた。リモコンでチャネルを切り替えていった。画面に時刻がデジタル表示されていた。今は朝の9時だった。
「れもん星と日本だと、12時間の時差があるらしい。朝っぱらから卓球なんて、よくやるよ。楽しいのかね」
「お色気番組はありませぬか」
「ないよ。やたらとチャンネルは多いが、卓球とニュースばかりだった。どうなってるのかね、この星は・・・いかん、いかん、ニュースでいいんだ。ニュースを見るためにつけたんだ」
30分ほど、ザッピングをして情報を掻き集めた。というより、ニュース番組はレモニウム関連で持ち切りだった。ざっと纏めると、次のようなことだった。
レモニウムは、れもん星にしか存在しない物質で、放射性物質に似てはいるが別モノで、人体にも無害な金属らしい。原発と同様の原理で、もっと安全かつ安定的に電力が得られるらしい。ただ、レモニウムは極めて稀少で、採掘できる場所は長らく、れもん大王のみの知るところであった。しかし、最近ある科学者チームがその在処を特定して、昨日調査に向かったが、巨大な怪獣に阻まれて逃げ帰ったとのこと。
「なるほどね・・・真面目すぎる。どう考えても、俺たちとは何の関係ない」
テレビ画面では、ギラギラとエネルギッシュな中年男性が、エネルギッシュに拳を振り回し、熱弁をふるっていた。
「レモニウムの確保は、れもん星の未来のために必要不可欠です。我々は速やかに怪獣を倒さねばなりません」
字幕から、その人物が、れもん星のエネルギー大臣だと知った。
振り向いてみると、ロイヤル警備隊の面々はスマホでゲームをしたり、椅子に座ったまま白眼を剝いてイビキをかいていた。
「これこそ、『ロイヤル警備隊』の出番に思えるが、彼らには全く関心がなさそうだ」
テレビ画面の中で、エネルギー大臣が叫び続けていた。
「うむ。父上、どうされますか」
「どうしようかね」
「怪獣を倒しに行きまするか」
「なんで?」
「話を聴いておられましたか。れもん星のエネルギー問題を解決するためでござる」
「それは、なんか違う気がする」
「父上、益々胸騒ぎが激しくなって参った。急が迫ってきた気が致しまする」
「俺もそうだ。胸が苦しいほど、得体の知れない不安が募ってきた。どうするか、ちょっと考えてみる」
れもん星のように平和な星に、本当に凶悪な怪獣なんているんだろうか?怪獣が最近星外からやって来たのなら、ロイヤル警備隊はともかく、他の誰かが気付いただろう。怪獣が昔からレモニウムのある場所の近くに生息していれば、れもん大王は、それを知っていたのではないか。私は、あれこれと想像を巡らして、あるかないかも分からない答えを探した。
エネルギー大臣は、「本日、れもん星防衛軍を出動させ、怪獣の存在を確認した場合には必要な対処を行うことを決定した」と言っている。
「シン太郎左衛門、行き先が決まったぞ」
「うむ。では参りましょう・・・で、どこへ?」
私は、スタッフさんたちのところに戻り、
「すみません。『大王カフェ』の本店って、どこですか?」
スタッフさんたちは、一斉に同じ方向を指差し、ユニゾンで「隣のビルの最上階。でも、予約がないと入れないよ。予約は3年待ちだよ」
ガラス張りのエレベーターで最上階、126階に急ぐ。「大王カフェ」本店は、この超高層ビルの最上階を占有していた。
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「父上、食事をしてる場合ではござらぬぞ」
「違う。れもんちゃんのパパ、れもん大王に会うのだ」
「れもんちゃんの無際限の魅力について語り合うためでござるか」
「違う。レモニウムを使わない未来、つまり『未来B』について訊くためだ」
ガラスのエレベーターから見下ろす街並み、れもんシティは美しい街だった。
エレベーターを降りると、シン太郎左衛門が、「こんなところだと、莫大なテナント料を取られましょうな」
「心配するな。れもん大王は商売上手だ」
我々は、「大王カフェ」の看板に向けて、フカフカの絨毯の上を急いだ。
我々は入り口で止められてしまった。
上品だが、イカツイまでに体格のよい受付担当のスタッフさんは、「御予約のないお客様はご入店いただけません」
「れもん大王と話がしたい」
「社長は他用で取り込んでおりますのでお会いできません」
「そこを何とかお願いでござる」
「何とも致しかねます」
オシャレで可愛く、見るからにリッチなお店の入り口で、そんな押し問答に虚しく時間が過ぎていった。これ以上粘っても、力ずくで追い返されるか、警察を呼ばれるのが落ちだ、と思いかけたとき、背後から芳しく焚きしめた香の匂いが漂ってきた。
振り向くと、十二単衣を着た長い髪の女性が滑るように近付いてきた。
「これは、式部さま。いつもありがとうございます」と、受付担当スタッフさんは、店内の他のスタッフさんたちに手を振って合図した。
「あっ、もしかして!」
「式部さん」と呼ばれた女性は、私の方を横目で見ながら、口の前に指を立てた。
空気の読めないシン太郎左衛門は、
「もしや、守護霊殿ではござらぬか?」
守護霊さんは思いっ切り眉をひそめた後、「スタッフ殿、大変失礼致しました。これらは下賤な者なれど、わらわの供の者。日頃れもん姫のご厚恩に預かり、御礼を申し上げたいとの願いゆえ、大王様に御目通り叶えてやってたもれ」
スタッフさんは困惑した様子であったが、
「かしこまりました。確認してまいりますので、しばしお待ちください」
「フューチャーB、いや、レモニウムの件で重要な話があるとお伝えください」
「拙者からも宜しくお頼み申す」
スタッフさんがその場を去ると、私は「守護霊さんは、あの日以来、私の守護はそっちのけにして、『大王カフェ』に通い詰めているのではありませんか?」
守護霊さんは、「ほほほほほ」と上品に笑いながら、女性のスタッフさんに案内されて店の奥に消えていった。
「・・・守護霊さんって、あんな人だったんだ」
「割と美人でござった」
「うん。結構、俺の好みだ。もちろん、れもんちゃんには及ばんが」
いかついスタッフさんが戻って来て、「社長がお会いになるそうです」
スタッフさんは「スタッフ・オンリー」の表示があるドアを鍵で開け、私に入るように促した。「曲がり角を右、左、真っ直ぐ、左、左、右、仮面ライダーのシールが貼ってあるドアを『トントト・トトトト・ン・トントン』と叩いてください」
「分かりました。ちなみに『トントト・トトトト・ン・トントン』というのは、『笑点』のオープニング・ソングではありませんか?」
「知りません」
「ありがとうございます」
私は、複雑に曲がりくねって分岐する狭い廊下を言われた通りに進んでいった。
シン太郎左衛門は、私の肩の上で『笑点』のテーマソングを口笛で吹いていた。
「どうして、こんな迷路みたいなものを作ったんだろう」
「とんと見当も付きませぬ」
「れもん大王って、どんな人なんだろう」
「れもんちゃんのお父上であれば、さぞ立派な人に違いない」
「でも、れもんちゃんも、かなり変わってるからな〜。れもんちゃんパパは、凄く変な人かもしれない。普通に考えたら、職場にこんな迷路を作るヤツが普通な訳ないだろ」
「うむ」
言われた通りに歩いたつもりだった。言われた通り、『仮面ライダー』のシールが貼られたドアに行き当たった。シールが1枚貼られているのを想像していたが、ドア一面、隈なく仮面ライダー1号・2号・V3と怪人たちのシールで埋め尽くされていた。
「仮面ライダー」といい、「笑点」といい、昭和っぽかった。大王は、そういう世代の人なんだろうと思いながら、「仮面ライダー」のドアを「笑点」のリズムで叩いた。
しばらく待つと、ドアが開いた。
出迎えてくれた人、つまり、れもん大王は、フレンチ・シェフを思わせる純白のコックスーツを身に纏い、高さが50センチもある帽子を被り、変なお面を付けていた。
招き入れられた部屋は、れもん大王さんのオフィスらしかった。ゆったりとした空間に、奥にデスクが一つと壁に沿って沢山の書架があった。
お面を被った人は、私に木製の丸椅子を勧めると、自分はオフィス机の向こう側に腰を下ろした。二人の間は20メートル以上離れていた。
「いらっしゃいだよ〜」
それが、仮面の人物の第一声だった。
「れもん大王さんですか?」
「そうだよ〜。れもん大王ちゃんだよ〜」
拍子抜けしなかったと言えば嘘になる。
「『大王さま』とお呼びしたら宜しいですか?」
「『大王ちゃん』でいいよ〜」
「こっちが嫌です。お忙しいところをお邪魔して、すみません」
「新しいメニューを考えてたよ〜。『大王イカフライ』だよ〜。美味しいよ〜」
「大王さま。初対面でこんなことを言うのもなんですが、『大王イカ』と聞くと、我々地球人は全長10メートルを越す馬鹿デカいイカを想像して、食欲を無くしてしまいます」
「そんな大きなイカ、れもん星にはいないよ〜。れもん星のイカは、みんな一口サイズだよ〜」
「それは、ワカサギのフライみたいで、白ワインに合いそうですね」
「ビールにも合うよ〜」
「・・・大王さま、私は、ここにイカフライの話をしに来たのではありません。単刀直入にお尋ねします。『未来B』とは何ですか?」
お面の顔が斜めに傾いた。
「知らな〜い。聞いたこともないよ〜」
「では質問を替えます。れもん大王さんが、語尾に『よ〜』と付けるのは何故ですか?」
「威厳を示すためだよ〜」
「『威厳』・・・ですか?」
「そうだよ〜。れもん星では、偉い人は語尾に『よ〜』を付けるよ〜」
「日本語とは違うんですね。じゃあ、れもん語の『れもんちゃんだよ〜』を日本語に直すと、どうなりますか?」
「『朕は、れもんちゃんなるぞ』になるよ〜」
「そうでしたか。私はこれまで大きな勘違いをしていました。それでは本題に戻ります。れもん大王さんは、どうしてレモニウムのある場所を秘密にしてこられたのですか?」
「みんながレモニウムを持ってっちゃうと、れもんギドラちゃんが困るからだよ〜」
「れもんギドラちゃん・・・それは怪獣ですね?」
「そうだよ。全長50メートルの大っきな怪獣ちゃんだよ〜」
「れもんギドラは、可愛いですか?」
「れもんギドラちゃんは、顔が怖いよ〜。でも優しいよ〜。いつも地底深くで眠ってて、50年に一度お腹を空かせて、地表近くまでやって来て、レモニウムを一粒食べて、また地底深くに帰ってくよ〜」
「なるほど・・・名前に『ちゃん』を付けて呼ぶのは、可愛い人や可愛い動物に限る、今後、そういうルールでいきたい思います。ところで、お会いして以来、ずっとお訊きしたかったんですが、れもん大王さんは、どうして『ひみつのアッコちゃん』のお面を被っているのですか?」
「これ?特に意味はないよ〜」
「なんだ、意味ないんかい!いや、失礼しました。その『ひみつのアッコちゃん』のお面、私が子供の頃、縁日の出店に並んでいたお面とよく似ています。子供心に『こんなもん、誰が買うんだろう?』と思った記憶があります。そのお面は、大王様が子供の頃に縁日でお買い求めになったものですか?」
「違うよ〜。れもん姫の地球土産だよ〜。大王ちゃんのお気に入りだよ〜」
「れもんちゃんは、昭和レトロが好みなんですか?」
「知らないよ〜。多分違うよ〜」
「では、本題に戻ります。今日、れもん星防衛軍が、レモニウムの採掘を邪魔する怪獣の退治に向かうとのことです」
「そんなことしちゃダメだよ〜」
「でも、すでに出動してしまったかもしれません」
「止めないとダメだよ〜」
「れもん大王さんが電話をすれば、すぐに止められるのではないですか?」
「そんな簡単な話じゃないよ〜。大変なことになっちゃったよ〜」
「大王さまが引退されてから、大切な申し送りが蔑ろにされていたみたいですね。これを期に英雄として復帰されたら、どうですか?」
「イヤだよ〜。コックさん兼カフェ経営者の方が楽しいよ〜」
「でも、大王さんがいないと、れもん星は、きっと終わってしまいますよ」
「分かったよ〜。それなら、れもん姫を呼び戻して、大王を譲っちゃうよ〜」
「それはダメです。そんなことをしたら地球が終わってしまいます」
「でも、大王ちゃんは、コックさんもカフェのオーナーもやめないよ〜。もう英雄なんてしないよ〜」
「分かりました。それなら、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門を・・・いや、こんなの置いてってもしょうがないか・・・今のは忘れてください。ともかく、今は、れもんギドラちゃんを守るのが第一です。私に何かお手伝い出来ることがあれば、おっしゃってください」
れもん大王さんは立ち上がると、
「隣の部屋に移動するよ〜」
れもん大王に続いて隣の部屋に入った。分厚い木の壁に囲まれたレトロな部屋は、豪華なシャンデリアから降り注ぐリッチな光に包まれていた。部屋の中央にはビリヤード台が置かれていた。
1から15までの数字が振られた球が台に散らばっていた。大王様は、私に白い球を手渡して、
「ビリヤード、やったことある?」
「少しだけ」
「じゃあ、数の小さい順に球をポケットに入れてみてね〜。白球をどこに置いて始めてもいいよ〜」
どういう意図があるのか計り知れなかったが、取り敢えずれもん大王さんが差し出したキューを受け取り、1の球が狙いやすそうな場所に白球を置いた。そして、狙いを定めて慎重に撞いた。白球は意図せぬ方向に2センチほど転がって止まった。
アッコちゃんのお面のせいで、大王さんの表情はまるで分からなかったが、ククッと笑ったような気がした。
「じゃあ次は大王ちゃんの番だよ〜」
れもん大王は、私からキューを受け取ると、テーブル上のボールの位置をざっと確認して、何のためらいもなく、白いボールを撞いた。白球はとんでもない初速で撃ち出され、カツン、カツン、カツンと、球の衝突の連鎖を生み出し、1から15の球を全て順番にポケットに落としていった。
感激して思わず拍手すると、大王さんは、
「こんなのちっとも凄くないよ〜。れもん姫は、一撞きで全部のボールを番号順に積み上げられるよ〜」
「それはもう奇跡だ」
「れもん姫には、それが普通にできるよ〜」
「分かります。れもんちゃんが奇跡そのものですから。それで、このビリヤードの意味はなんだったのですか?」
「・・・忘れちゃったよ〜」
「そうですか。あなたが、れもんちゃんのお父さんでなければ、怒鳴りつけてるところです」
「思い出したら教えてあげるよ〜。とにかく、れもんギドラちゃんは、れもん星にとって、とっても大切な怪獣ちゃんだよ〜。れもんギドラちゃんは、地中深くで眠りながら、れもん星のために頑張ってるんだよ〜」
「眠ってるのに、一体何を頑張っているんですか?」
「それを説明するのは大変過ぎて、時間が足りないよ〜。あっ、この部屋に来た理由を思い出したよ〜」
れもん大王は、造り付けの本棚にびっしりと詰まった、何やら古文書風のものを指差して、「これは、古代オチン語で書かれた太古の記録だよ〜。ここに、れもん星の秘密が細かく書いてあるよ〜。レモニウムは、れもんギドラちゃんのご飯だから、無くなったら、死んじゃうよ〜。れもんギドラちゃんは、れもん星の守り神だから、死んじゃったら、れもん星が終わっちゃうよ〜」
「分かりました。それじゃ、れもん星防衛軍が、れもんギドラちゃんと衝突するのを防ぎましょう」
「頼んだよ〜。ヘリコプターで連れてってあげるよ〜」
「えっ?私一人ですか?」
「そうだよ〜。一人で頑張ってね。大王ちゃんは、君をれもんギドラちゃんのおウチがあるところに連れて行ったら、れもん星の総理大臣ちゃんや他の大臣ちゃんたちとお話するよ〜」
「私一人で、れもん星防衛軍を押し留めるなんて、全く出来る気がしないんですけど」
「頑張ってね〜。それじゃ、屋上のヘリポートで待ってるよ〜」
大王さまに背中を押されて、部屋から追い出された。背後でドアが閉められた。振り返ると、仮面ライダーたちがいた。こいつら全員引き連れて行っても、れもんギドラとれもん星防衛軍の相手をするなんて、到底出来ない話に思えた。
スタッフさんに話をすると、非常階段に繋がる扉の鍵を開けてくれた。階段を駆け上がると、屋上に出た。真っ青な空を背景に、ダークグリーンのジェットヘリは、すでに離陸準備を整えていた。耳をつんざくようなプロペラの音を聞いて、私はすっかり腰が退けてしまった。
「あんなのに乗りたくないなぁ」
肩の上のシン太郎左衛門は、
「ヘリコプターには初めて乗る。楽しみでござるな」
「何が楽しみなもんか。飛行機よりもタチが悪い。一応、電車で行く方法がないか訊いてみようか?」
「情けないことを言うものではござらぬ。腹を括りなされ」
ヘリの操縦席から大王さんが手を振っていた。
後部席に乗り込むと、れもん大王さんは、
「そうだ。これ、あげるよ〜」と、不思議な色の金属でできた指輪を右手の指から外して、渡してくれた。
「これは?」
「それは、れもん王家の紋章入りのレモニウムの指輪だよ〜。あっちこっちのレストランで割引が効くよ〜。あっちこっちのテーマパークも、フリーパスだよ〜。USJでは使えないよ〜」
「でしょうね」
「ひらかたパークは使えるよ〜」
「そうですか・・・少し真面目にやりませんか?」
「いやだよ〜。じゃあ、飛ぶよ〜」
軍用ヘリは一気に高度を上げた。青い空に私の悲鳴が響き渡った。
「ビュ〜ン!ビュ〜ン!ウヒャヒャヒャヒャ〜!!」
「速すぎる、速すぎる!!大王さん、スピード落として!!」
大王さんは、かなりのスピード狂なのか、
「ヒャッホ〜!ヒャッホ〜!」と、大はしゃぎだった。
「飛ばしすぎ!飛ばしすぎ!大王さん、頼むから、少しスピード落として!!」
「ダメだよ〜」
そう言った大王さんの声が先刻室内での談話時とは全く違って聞こえた。女性が無理に作った男の声のようだった。
よく見ると、操縦席の大王さんは、やはりコックスーツを着て、アッコちゃんのお面を被っていたが、帽子の高さは70センチぐらいまで伸びて天井に擦れていたし、身長は小さくなり、体型も華奢になったようだった。
「もしかして、れもんちゃん?」と尋ねようとしたとき、乱気流に巻き込まれたヘリは大きく上下した。雲の中で私の悲鳴が響き渡った。
上下動が落ち着くと、大王さまは、
「そうだ。れもんギドラちゃんは、古代オチン語を理解できるよ〜。シン太郎左衛門が役に立っちゃうよ〜」
やはりおかしい。私は大王さんにシン太郎左衛門をまともに紹介していないはずだった。
「もしかして、あなたは、れもんちゃん?」と尋ねたが、お面の人は、私の問いを無視して、
「もうすぐ到着するよ〜。パラシュート着けてね」
「パラシュート!?」
「そうだよ〜。足下に転がってるよ〜。着陸する場所がないから、パラシュートで降りてね」
「マジっすか?」
「マジだよ〜。ツベコベ言わずに、早くパラシュート着けてね〜。さっさとしないと、パラシュートなしで、突き落とすよ〜」
慌ててパラシュートを着け、肩の上のシン太郎左衛門をズボンの中、所定の位置に戻すと、「これで良いですか?」
「上手、上手」
れもん大王がパチパチと拍手をしたので、思わず「操縦桿を放さないで!!」と叫んでしまった。
ヘリは高度を下げて雲を突き抜けた。
「もうすぐだよ〜」
「あっ、戦車が縦隊を組んで進んでる」
「追い越すよ〜」
ヘリの窓から戦車隊を見下ろすと、目が回るような高さだった。
「怖い、怖い、怖い!!こんな高いところから、飛び降りろって、無理、無理、無理!!」
ヘリが減速していくのが体感で分かった。
「ドアを開けてね〜」
「怖いよ〜」と半ベソかきながら、ドアを開けると、凄い風圧に全ての髪の毛が逆立った。
「じゃあ、頑張ってね〜」
「無理、無理、無理!!」
「無理じゃないよ〜。やるんだよ〜」
私は右の拳を強く握り締めて、目を閉じた。そして、胸の中で、(逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなんだ!!)
「分かりました。やります」
れもん大王は満足げに頷くと、
「それと追加でお願いがあるよ〜」
「なんですか?」
「ヘリコプターから飛び出すとき、なんかギャグをやってほしいよ〜」
「何を言ってるんですか!!」
「よろしくだよ〜。さあ着いたよ〜。飛んでいいよ〜」
もう飛ぶしかなかった。
「はい。それじゃ、れもん大王様、お達者で」
「れもんギドラちゃんによろしくね〜」
私はシートベルトを外すと、機外へと飛び出し、「飛びます!飛びます!」と叫んだ。
「それは、コント55号の坂上二郎さんのギャグだよ〜。昭和の人にしか分からないよ〜」という大王の声は一気に遠のいた。私の身体は、一気に速度を増して落下していく。気を失う寸前で、ズドンと全身に衝撃が走った。落下傘が開いたのだ。
「・・・ふっ・・・ふふふふふ・・・」
何故か笑えてきた。フリーフォールの恐怖でオシッコをチビる寸前だったが、辛うじて持ちこたえていた。
シン太郎左衛門が、「父上、オシッコ」
「シン太郎左衛門、出てこい。落下傘から見る景色は、まさに絶景だ」
ズボンのチャックを開けて、顔を出したシン太郎左衛門は、
「これは素晴らしい!!この眺めに勝るのは、れもんちゃんだけでござる」
遠くに海が見えた。あの海の近くに「大王カフェ」七号店があるのかもしれない。そんなことを考えながら、しばしの空中散歩を満喫した。
「・・・さっきまで俺たちが乗っていたヘリを運転していたのは、れもんちゃんかもしれない」
「それは誠でござるか!!」
「ああ。ヘリの中は、とってもいい匂いだった」
レモニウムの指輪を胸ポケットから出して左手の薬指に当てたが、入るはずもない。明らかに女性モノだった。
私は、岩山の麓にグリコマンのポーズで降り立つと、「やれやれ、ご到着だぜ」と言った後、続けて降りてきた落下傘にスッポリ包まれた。ベルトを外して、落下傘の下から這い出した。
辺りを見回すと、岩山の斜面に巨大な洞窟が大きな口を開けていた。
「多分、あそこが、れもんギドラちゃんのおウチの入り口だ」
足下に大小の岩が転がっていて、走ることは覚束なかった。どうにか、洞窟の入り口に近付くと、例の『ロイヤル警備隊』の面々が車座になって不貞腐れているのが目に入った。向こうも、私に気付いて、手を振ってくれた。
「こんなところで何してるんですか?」と尋ねると、
「それは、こっちのセリフだよ。俺たちは、緊急動員をかけられて、洞窟の入り口を見張ってるんだ」
「それは御苦労様です。洞窟に入ってもいいですか?」
「いいよ。でも、多分なんもないよ。しばらくすると、戦車が来るから危ないし・・・あっ、もう来た」
岩だらけの、道なき道を踏み固めるように戦車軍団が姿を現した。我々の存在など眼中にないようで、地鳴りを上げながら、次々に洞窟に入っていった。
「それじゃ、みなさん、ごきげんよう。また、明日、日曜日、クラブロイヤルでお会いしましょう」
ロイヤル警備隊の皆さんは、軽く手を振りながら、
「じゃあ元気で。くれぐれも気を付けてね」
私は戦車を追って走り出した。
洞窟に入ると、戦車のライトの残光を追って精一杯走ったが、あっと言う間に息が上がってしまった。
一息吐いている間に、戦車隊の地鳴りが遥か遠くなってしまった。
微かな明かりさえ失われた洞窟の中は暗黒だった。
社会の窓を開けて、周りの様子を窺ったシン太郎左衛門が、
「真っ暗でござる。これでは先に進めませぬな」
「手探りで進むしかない・・・」
希望を失いかけたとき、私の胸辺りから青色がかった涼しい光が広がっていった。ワイシャツのポケットの中で、レモニウムの指輪が光を放ち始めたのだ。
「希望を捨ててはいかん。これなら足下ぐらいは見える。シン太郎左衛門、行くぞ」
100メートルほど進んだだろうか。こんな調子では、到底戦車には追い付かないと、いよいよ心が折れそうになったとき、レモニウムの光に照らされた岩の壁面に「れもんギドラちゃんのおウチへの近道」と、レモンイエローのペンキで書かれているのを発見した。そこにポッカリと穴が開いていた。
「シン太郎左衛門、抜け道だ!!」
直径50センチほどの抜け穴を数十メートル這って進むと、再び巨大な洞窟に合流した。そこはドーム状に広がった、学校の体育館ぐらいの空間で、天井は途轍もなく高かった。全体を柔らかな光が包んでいた。
シン太郎左衛門をズボンから出し、肩の上に乗せてやった。二人は驚きの余り言葉を失っていた。
洞窟の天井までうず高く積み上がったレモニウムの山が壁面を覆っていた。そして、そのレモニウムの清らかな光を浴びた巨大な生き物が小さくうずくまっていた。言うまでもなく、れもんギドラちゃんだった。それは、余りにも幻想的な光景だった。
れもんギドラちゃんは怯えていた。そして、怒っていた。これまで誰からも意地悪なんてされたことがない。50年振りに地上に上がってきて、美味しいご飯を目の前にして突然邪魔されて、そりゃ悲しいし、腹も立つだろう。
遠くから戦車の地響が近付いているのが分かった。
「これが、れもんギドラちゃんか・・・大きいなぁ・・・」
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「うむ。思っていたよりも巨大でござる。しかし結構可愛いですな」
「そうかなぁ〜、俺には、そうは思えんが」
「目が可愛い。キュルっとしたお目々が愛らしい」
私は足下に落ちているレモニウムの粒を何個か拾って、掌の上でボンヤリと光るのを見つめた。
「こんなチョコボールぐらいの小さなモノを一粒食べて50年も頑張れるって凄いよな・・・チョコボールと言えば、俺は人生で一度だけ『金のエンゼル』を当てたことがある」
「れもんちゃんは、ダイヤモンドのエンゼルちゃんでござる」
「全くだ。れもんちゃんもれもんギドラちゃんも、ホントに健気に頑張ってるよな」
「うむ」
「俺、れもんギドラっていうから、頭が3つあるのかと思ったら、違ってた。角の格好からしても、ブラックキングに似てるよ。知ってるか?ブラックキングは強いんだぞ。帰ってきたウルトラマンがヤラれてしまったぐらいだからな」
「・・・父上、この話、今しなければならぬモノでござるか」
「明らかに違うな」
高まり続けていた戦車軍団の物音が止んだ。振り向くと、戦車軍団はすでに我々の視界のうちだった。編隊を組み直して、攻撃準備をしていた。
「やれやれ。役者が揃っちまったな。どっちが悪いって訳でなく、お互い退けない道があるってことだ」
もはや一刻の猶予も許されなかった。
シン太郎左衛門を掴んで、地面に下ろした。
「よし、シン太郎左衛門、変身だ!!シン太郎左衛門マンに変身しろ!!」
「なんですと?もう一度言ってくだされ」
「何度言っても同じだ」
「拙者が、そんなものになれまするか?」
「できる!!やれっ!!なんか叫べば巨大化する」
「真面目な話をしてくだされ。そんな設定、聞いておらぬ。できる訳がない」
戦車軍団は、攻撃準備を整え、機を見計らっているようだった。
「大丈夫。出来る。巨大化して、戦車軍団を洞窟の入り口まで押し返せ。くれぐれも乗組員を傷つけないようにね」
「全く出来る気がせぬ」
戦車軍団がエンジンをふかして前進を再開すると、れもんギドラちゃんが憤然として、ギャオーと吠えた。
「大丈夫。どうせ書くのは俺だ。どうとでもなる。やれ!」
「うむ。では、やりましょう・・・いきますぞ!!・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は、シン太郎左衛門マンに変身した。
「・・・おい!!」
「ん?なにか?」
シン太郎左衛門マンは、小学三年生ぐらいの大きさだった。
「お前、そんなんで、よく全長50メートルの怪獣や戦車軍団の相手をする気になれるな」
「これでも相当背伸びをしたつもりでござるが、まだ足りませぬか」
「全然足らん。れもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の両方から同時に攻撃を受けるんだぞ。もう少し真面目にやれ!」
「では、もう少し頑張りまする・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は更に巨大化したが、それでも私より幾らか大きいだけだった。
「これが限界。一杯一杯でござる」
「お前!普段から剣術の稽古を怠けているからだ!反省しろ!」
「うむ。反省いたした。かくなる上は、父上が父上マンになるしかありませぬな」
「え〜っ!!それは困る」
「れもん星を救うためですぞ!!」
「れもん星を救うため」・・・その言葉に、これまでの、れもん星での楽しい思い出が走馬灯のように脳裏に・・・蘇ってはこなかった。これまで書いた数々のれもん星の話は、缶バッチがどうの、空気の缶詰がどうの、くだらないものばかりだった。しかし、れもん星は、れもんちゃんの故郷だった。
「しょうがないなぁ・・・おい、これを持っておけ」
シン太郎左衛門にレモニウムのリングを渡した。
「失くすなよ」
れもんギドラちゃんと戦車軍団は、もはや衝突寸前だった。
「よ〜し、やってやろうじゃねぇか。窓際サラリーマンだって、やるときはやるんだ!!南無八幡大菩薩!!そして何より・・・れもんちゃ〜ん!!」
せっかくのスーツは無残に裂けた。薄暗闇の中、私は全長45メートルの、全裸の父上マンに変身した。
そして、「シュワッチ!」と言いながら、激突寸前のれもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の戦車軍団の間に飛び込んだ。
途端に戦車軍団の一斉砲射を浴びた。
「痛い、痛い、痛い!!それなりに痛い!!」
私は、中の人たちに怪我を負わせないように戦車を1台丁寧にひっくり返した。
また一斉砲射を浴びた。
「お前ら、ふざけんな!!痛いって言ってんだろ!!」
また戦車を1台ひっくり返した。
激高したれもんギドラちゃんに背後から殴られたり蹴られたりもした。
「痛い、痛い、痛い!!れもんギドラちゃん、落ち着いてくれ!!」
また一斉砲撃を浴びた。
「お前ら、いい加減にしろよ!!子供の頃に円谷プロの特撮を見てないのか?名前の終わりに『マン』と付く巨人に戦車の攻撃なんて、実は大して効かないんだ!ただメチャメチャ鬱陶しい!やめろ!」
さらに戦車をひっくり返していった。
またしても、背後かられもんギドラちゃんの攻撃を受けた。
「れもんギドラちゃん!!あんたの攻撃は本当に痛い!!特に尖ったヒールの先で蹴るのは止めてくれ!!俺は、そういうので興奮するタイプじゃないから」
シン太郎左衛門マンは、私の肩の上で、「赤勝て、白勝て」と、広げた扇子を振り回して踊っていた。
戦車を残らず裏返しにして無力化したのを確認すると、今度は1台ずつ丁寧に洞窟の外に運び出した。全部片付けたときには、全身が汗と埃にまみれていた。
最後の1台を地上に運び出して、洞窟の奥に戻ると、れもんギドラちゃんは、私の意図するところを多少は悟ってくれたように見えた。
私は、シン太郎左衛門、いや、シン太郎左衛門マンに「れもんギドラちゃんに、『迷惑かけて、ごめんなさい。もう心配ないから安心してね。これからも、れもん星を守ってね』、そう古代オチン語で伝えてくれ」
シン太郎左衛門は、難しい顔をして、
「父上マンは、シン太郎左衛門マンの古代オチン語の能力を見くびっておられまするな。拙者、読み書きとリスニング能力は、それなりでござるが、話すとなると、エロいことしか言えぬ」
「・・・お前、何なんだよ!剣術の稽古もサボってるし、古代オチン語も中途半端。『見くびる』も間違えた使い方をしてるし、反省しろ!」
「うむ。反省しきりでござる」
我々の会話を側で聞いていたれもんギドラちゃんが、思い立ったように私に近寄って、レモニウムを一粒渡してくれた。
それは、巨大化した私の掌の上では、仁丹よりも小さく見えた。
「父上マン、れもんギドラちゃんは賢い子でござるな。聞かされずとも、我々の想いを悟ってくれてござる」
「お前は少しれもんギドラちゃんを見習え!」
私はレモニウムをれもんギドラちゃんに差し出すと、
「・・・これは貴重なものだし、気持ちだけもらっておくよ。事情があって、家には持って帰れないんだ。君が食べてね」
れもんギドラちゃんは、レモニウムを受け取ると、
「今は食べない。また50年経ったら食べる。一度に2つも食べると、お腹が痛くなる」と言った。
「そうだね。大事に持っておいてね・・・それから、れもんちゃんが『よろしく』って言ってたよ・・・それと・・・」
私は、シン太郎左衛門マンからレモニウムで出来た王家の指輪を受け取り、れもんギドラちゃんに手渡した。
「これ、次に、れもんちゃんに会ったときに返しておいてくれるかな」
れもんギドラちゃんは頷いた。
帰り道、あちこちで岩を崩して、戦車では通れない程度に道を塞いでおいた。
洞窟の入り口に戻ったときには、疲労困憊の余り、勝手に父上マンから普通の父上に戻ってしまった。シン太郎左衛門マンは何も疲れることをしていないので、大きいままだったから、肩の上に自分よりも大きなヤツに乗られていた私は、顔から地面に倒れ込んだ。
「痛ってぇ〜!!」
その日受けた最大のダメージは、シン太郎左衛門マンによるものだった。
外はもう日が暮れかかっていた。
洞窟の入り口近くでは、ひっくり返して置かれた戦車を元に戻す作業が進められていた。
ロイヤル警備隊の面々は、そんな状況も素知らぬ顔で、引き続き車座になって雑談していた。私は素っ裸だったので、近付いて話をする気にはなれなかった。
今頃、れもん大王さんが、れもん星の偉い人たちに二度とレモニウムの採掘なんて考えないように、きっちり話を付けてくれているだろう。
夕焼け空が広がった。
鼻骨が折れていないか心配になるほど、鼻が痛かったが、そんなことも忘れてしまうぐらいに美しい夕焼け、これまでに見たこともない素敵な、素敵な、れもん色の夕焼けだった。
これからも、れもん星は、のどかで素敵な星であり続けるに違いない。
我々の任務は終った。
目覚ましが鳴った。
私は布団から這い出ると、目覚ましを止めた。全身あちこち痛かった。
取り敢えず立ち上がり、少し気になることがあって、電話器の置かれた棚の方に向かって歩いていった。
電話器の側に二つ折りにして置かれた昨夜のファックスを手に取って広げた。そのとき、電話が鳴り出した。
昨日のファックスの発信者が誰なのか、ぼんやりと分かってきた。用紙の最上部に印刷された発信元の電話番号は、今、目の前でファックスに切り替わった電話、つまり私の家のものだった。そして、「未来Bを救え」の筆跡は、よく考えれば私自身のものだった。送信日は、十年後の昨日だった。
届いたばかりのファックスを手に取った。
そこには、ただ「ありがとう」とあった。十年後のシン太郎左衛門ズからの感謝の言葉だった。
・・・・・
私たちは、これから、れもんちゃんに会いに行く。もちろん、JR新快速に乗って。
この世に永遠なんてないのは分かっている。しかし、我々は今、れもんちゃんの中に永遠と呼んでもよい何かを発見する。
れもんちゃんが宇宙一に宇宙一であることは、会う前から分かりきっていた。
れもんちゃんは、我々の日常に舞い降りた奇跡なのだから。
【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様ありがとうございました。
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シン太郎左衛門が、「みなさま、あけましておめでとうございます」と言っている。
年末年始、家から一歩も出ずに過ごすと宣言し、元旦の初詣さえ見送った。
このまま、れもんちゃんに会う5日まで外出はしないつもりだったが、2日の朝、まだ暗いのに、シン太郎左衛門が剣術の稽古を始めた。「やあっ!とおっ!」と言って、割り箸を振り始めたが、まるで気合いが入っていない。単に寝ぼけていただけなのか、30秒程で止めてしまって、再びグーカー寝始めた。時計を見ると、早朝5時1分だった。いきなり起こされた怒りも相まって、私は眠れなくなった。7時を過ぎても眠れなかったので、イライラして布団から出て、ドテラを羽織ると家から出た。
空はドンヨリと曇っていたが、思ったほど寒くなかった。金ちゃんの家も他の家もシ〜ンとしていて、近所一円眠っているようだ。人っ子一人歩いてなかった。
「シン太郎左衛門、久し振りに外に出たから少し散歩をしよう」と言って、シン太郎左衛門をモコモコパジャマから掴み出して、肩に乗せ、丘の公園に向かう坂を登っていった。
丘の上の公園を行き過ぎると、去年、新兵衛(クワガタ)を放した雑木林が視界に入ってきた。シン太郎左衛門に「新兵衛は、元気にやってるかなぁ」と言うと、
「うむ。新兵衛は達者でござる。年賀状が届いておった」
「そうなんだ。俺には誰からも年賀状が来ていなかった」
「父上は寂しい老人でござる。拙者には、新兵衛だけでなく、苦労左衛門、鬼熊安兵衛ほか数十名の武士仲間から年賀状が届いた。クリスマスにはLINEメッセージも来ておった」
「そうなのか・・・ところで、この道は、この先、どこに行くんだろう?」
「拙者に分かるはずがない」
これまでに、この坂道を登ったのは新兵衛を見送った雑木林の付近までだった。その先には、宅地開発の計画が頓挫した、広大な荒れ地があるだけだと聞いていた。雑木林をやり過ごし、更に100メートルほど歩いて行くと、見知らぬ景色が待っていた。
道は舗装されていたが、車の行き違えが困難なほど幅が狭くなっていた。視界にある限りは平坦な道が続いていたが、山脈の麓の斜面に沿って曲がり込み、先は全く見通せなかった。頭上は常緑樹が覆い、分厚い影を落としていた。
「何か変な感じだ。緑のトンネルって感じだな」
「うむ。まるで魔界の入り口のようでござる」
「引き返すか・・・」
「いや、もう少し進んでみましょうぞ」
時々、耳馴染みのない鳥の声が聞こえてくるほかは森閑としていた。見上げても、葉蔭に遮られて、空は殆ど見えない。家を出てから15分ほど歩いても、人にも車にも出会わなかった。
「もう帰ろう。なんで年明け早々から森林浴をしなきゃならんのだ」と引き返しかけたとき、
「父上、あれは!」とシン太郎左衛門が指さす先に目を向けると、一軒の店舗が建っていた。どこか見覚えがある店だった。近寄ってみた。
「これは・・・」
「・・・クラブロイヤルでござる」
「そうだ・・・クラブロイヤルだ」
二人ともしばらく言葉を失った。
「・・・まだ開店しておりませぬな」
「うん。7時半だからな・・・クラブロイヤルって、こんな身近にあったんだ。ウチの裏山じゃないか・・・それなのに毎週、わざわざ新快速で何時間もかけて通ってた」
「徒歩15分で行けるものを、大きく遠回りして、往復2000円以上も電車賃を使って、父上は実に立派な愚か者でござるなぁ」
「これから駅に行って、去年使った電車賃を半分返してくれるように頼もうかなぁ・・・」
こんなくだらない会話の最中に目が覚めた。これが私の初夢だった。
「おい、シン太郎左衛門。起きろ。今年は、ロクな年にならんかもしれん。ここ数年でも、記録的にくだらない初夢を見た」
シン太郎左衛門は、モコモコパジャマのズボンからズルズルと這い出てきて、
「あ、夢でござったか・・・父上の声に起こされた。拙者の初夢も実に不快でござった」
「どんな夢だったの?」
「どんなも、こんなもござらぬ。どこで聞いてきたのか、父上が『オチンを暖めるとインフルエンザに罹らないらしい』と言い出して、嫌がる拙者を貼るタイプのカイロで包もうとする話でござる。『拙者、新年早々、そんな目に遭いたくない。拙者は、ソーセージパンや手巻き寿司の具材ではござらぬ』と叫びながら逃げ回っておった」
「俺は、そんなことはしない。お前の初夢もダメだ。今年も詰まらん1年になるんだろうな・・・もちろん、れもんちゃんに会っている時間は別だ」
「うむ。元々、我々の人生は、れもんちゃんと会っている短い時間だけ光が当たり、後は暗闇の中に沈んでござる」
「まあ、そういうことだな」
「我々、元々、どうしようもない親子でござる」
「ホントだよ。よし、餅でも焼いて食おう」
これが正月2日に起こったことだった。
そして、今日は、日曜日。つまり、新年初れもんちゃんデー。
我々は、今年もやはりJR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。そして、素晴らしい時間を過ごさせてもらった。
れもんちゃんは、2025年も元気いっぱいだった。もちろん、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。
れもんちゃんと会っているこの時間が、我々にとっての夢、今年の初夢なのであった。