口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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投稿者:【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様
ご来店日 2024年11月24日
前回、お伝えしたとおり、「劇場版」をお送りする。
本篇は、本来「シン太郎左衛門」シリーズ全100回の終了の翌週にオマケとして投稿予定だった。前倒しで投稿するので、そこらへんに関する記述に辻褄の合わないところがある。些細な点なので無視してほしい。
では始めよう・・・
今回は、劇場版である。どこでもお好きな劇場で、映画が始まる前にでも読んでくれたまえ。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。いよいよ、『シン太郎左衛門』シリーズの最終話となった。アニメも映画も観ないから、よく分からないが、「劇場版」はスケールの大きな話にするのが礼儀だと理解している。そういう訳で、今回のクチコミは、無闇に大袈裟で、とにかく長い。これまでだって、大概長かったとお感じだろうが、今回のモノは特にひどい。更に最早クチコミには見えないまでに、れもんちゃんの出番がない。また、昭和の事物をかなり盛り込んでいる。れもんちゃんを初め、平成生まれの人々にはチンプンカンプンな部分もあるだろう。覚悟して読まれたし。
20XX年12月某日。土曜日。つまり、れもんちゃんイブ。
私は終日、家でゴロゴロ過ごし、夕飯を駅前の中華料理屋の麻婆丼で済ませ、家に戻ってくると、シン太郎左衛門に、「明日は、れもんちゃんデーだから、今夜は早く寝なければならない」
「うむ。『シン太郎左衛門』シリーズが終わったからと言って、我々の生活は何一つ変わっておりませぬな」
「当たり前だ。連載が終わってから、まだ一週間しか経ってないしな」
風呂を済ませて、夜8時過ぎ、そろそろ寝ようと思っていたら、固定電話が鳴りだした。放置していると、ファックスに切り替わった。
「父上、今時珍しいファックスでござる」
「うん」
普段なら完全に無視するのだが、そのときは何故か放っておけない気持ちになった。妙な胸騒ぎがした。急いで手に取って見てみると、ただ一言「未来Bを救え」とだけ手書きされていて、「未来」に「フューチャー」とルビが振られていた。見覚えのある筆跡だったが、誰のモノだか思い出せなかった。何か良からぬことが起こる予感がした。
「シン太郎左衛門、れもん星に行くぞ」
「うむ。拙者、良からぬ胸騒ぎが致しまする」
「俺もだ。俺が胸騒ぎを感じるなんて、れもんちゃん関係に決まってる」
手早く歯磨きを済ますと、スーツに着替えて、布団に入った。
「スーツでござるか」
「そうだ。スーツはサラリーマンの戦闘服だ。何かただならぬ予感がする」
「うむ。冒険の匂いが致しまする。こんなことなら、もう少し剣術の稽古をしておけばよかった」
「最近サボりまくってたからな。いまさら手遅れだ。いくぞ」
部屋の灯りを消した。
二人は「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と十回唱えた。
そして、シン太郎左衛門ズ、最初で最後の冒険が始まった。
「・・・ここはどこだ?」
見渡すとNASAの管制室の小型版といった場所で、モニターや機械類が犇めき合っていた。そこにレモンイエローのタイトな制服を着た男性が、5、6人、ノンビリと雑談を交わしていた。それぞれ、フェイス・シールド付きのヘルメットを近くの机の上に置いていた。照明が異様に明るかった。昔テレビ番組で見た地球防衛軍の司令室に似ていると思った。
「ここの人たちは随分くつろいでおりますな。何とも奇抜な服装でござる・・・あっ、よく見れば、クラブロイヤルのスタッフさんたちに瓜二つ!」
「ホントだ。いつも気持ちよく接してもらってる人たちにそっくりだ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちは、皆、よい人たちばかりでござる」
「ちょっと話し掛けてみよう」
スタッフさんたちに近寄り、「すみません」と言うと、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにそっくりなれもん星人が、
「あっ、いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「いや。今日は予約はしてません。明日、れもんちゃんの予約をしています」
「大丈夫ですよ。ご新規様ですか?」とスタッフさんが言うので、
「いや、そういうことじゃなく・・・手短に済ませます。ここは、どこですか?」
「ここは、ロイヤル警備隊の本部です」
「ロイヤル警備隊って何ですか?」
「ロイヤル警備隊は、れもん星の平和を守る正義の味方です」
「ウルトラ警備隊みたいな感じですか?れもん星を怪獣や邪悪な宇宙人の侵略からを守る的な」
「まあ、そんな感じです」
「随分と暇そうですね」
「はい。れもん星はいつも平和で、怪獣も邪悪な宇宙人も来ないんです。これまで一度もそういうことはなかったんです・・・空気の缶詰、買ってくれます?」
「要りません。ところで、『未来B』って心当たりありませんか?」
スタッフさんは、少し思案顔になって、他のスタッフさんたちに「『未来B』って知ってる?」と尋ねたが、みんな首を傾げた。
一人のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「レモニウムってなんですか?」と尋ねると、スタッフさんたちは、みんな首を傾げた。
すると、さっきとは別のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「すみません。これじゃ何日かけても話が進みません。今回は『劇場版』なんで、もう少し真面目にやってもらえますか」
「『真面目に』って言われても・・・そこに新聞があります。お探しの件、何か書いてあるかもしれませんよ」
なんだかロールプレイング・ゲームをしているような気分だった。
部屋の隅に一体何年分なのかと思うほどスポーツ新聞が積まれていたので、上の10日分ほど手に取って、近くの椅子に座った。
早速お色気欄を探した。れもん星でも、やっぱりスポーツ紙にお色気は欠かせないらしい。
「へぇ〜。シン太郎左衛門、見てみろ。思ったとおり、れもん星はハイレベルだぞ」
ズボンのチャックを内側から下ろして、シン太郎左衛門が顔を覗かせたので、紙面を翳してやった。
「ほれ」
「おおっ!これは中々のモノ!れもんちゃんには及ばぬまでも大した優れモノでござる」
「まだあるぞ」
我々は、はしゃぎながら次々とお色気欄を制覇していった。
「いや〜、れもんちゃんを生んだ星は、なんともアッハンウッフンでござるな」
「ホントだよ。楽しいな・・・いや、待て。こんなことをやってる場合ではない」
私は、改めて真面目に紙面に目を通したが、関係しそうな記事は全くなかった。スポーツ新聞には、卓球とお色気記事とクロスワードパズルしかなかった。
「この星には、どれだけ卓球好きが集まってるんだ。平和すぎる」
「父上、あちらにテレビがある。勝手につけてみましょうぞ」
「どうせピンポン大会の実況だろ。無駄を承知で見てみるか」
テレビの電源を入れたら、案の定、卓球の試合をやっていた。リモコンでチャネルを切り替えていった。画面に時刻がデジタル表示されていた。今は朝の9時だった。
「れもん星と日本だと、12時間の時差があるらしい。朝っぱらから卓球なんて、よくやるよ。楽しいのかね」
「お色気番組はありませぬか」
「ないよ。やたらとチャンネルは多いが、卓球とニュースばかりだった。どうなってるのかね、この星は・・・いかん、いかん、ニュースでいいんだ。ニュースを見るためにつけたんだ」
30分ほど、ザッピングをして情報を掻き集めた。というより、ニュース番組はレモニウム関連で持ち切りだった。ざっと纏めると、次のようなことだった。
レモニウムは、れもん星にしか存在しない物質で、放射性物質に似てはいるが別モノで、人体にも無害な金属らしい。原発と同様の原理で、もっと安全かつ安定的に電力が得られるらしい。ただ、レモニウムは極めて稀少で、採掘できる場所は長らく、れもん大王のみの知るところであった。しかし、最近ある科学者チームがその在処を特定して、昨日調査に向かったが、巨大な怪獣に阻まれて逃げ帰ったとのこと。
「なるほどね・・・真面目すぎる。どう考えても、俺たちとは何の関係ない」
テレビ画面では、ギラギラとエネルギッシュな中年男性が、エネルギッシュに拳を振り回し、熱弁をふるっていた。
「レモニウムの確保は、れもん星の未来のために必要不可欠です。我々は速やかに怪獣を倒さねばなりません」
字幕から、その人物が、れもん星のエネルギー大臣だと知った。
振り向いてみると、ロイヤル警備隊の面々はスマホでゲームをしたり、椅子に座ったまま白眼を剝いてイビキをかいていた。
「これこそ、『ロイヤル警備隊』の出番に思えるが、彼らには全く関心がなさそうだ」
テレビ画面の中で、エネルギー大臣が叫び続けていた。
「うむ。父上、どうされますか」
「どうしようかね」
「怪獣を倒しに行きまするか」
「なんで?」
「話を聴いておられましたか。れもん星のエネルギー問題を解決するためでござる」
「それは、なんか違う気がする」
「父上、益々胸騒ぎが激しくなって参った。急が迫ってきた気が致しまする」
「俺もそうだ。胸が苦しいほど、得体の知れない不安が募ってきた。どうするか、ちょっと考えてみる」
れもん星のように平和な星に、本当に凶悪な怪獣なんているんだろうか?怪獣が最近星外からやって来たのなら、ロイヤル警備隊はともかく、他の誰かが気付いただろう。怪獣が昔からレモニウムのある場所の近くに生息していれば、れもん大王は、それを知っていたのではないか。私は、あれこれと想像を巡らして、あるかないかも分からない答えを探した。
エネルギー大臣は、「本日、れもん星防衛軍を出動させ、怪獣の存在を確認した場合には必要な対処を行うことを決定した」と言っている。
「シン太郎左衛門、行き先が決まったぞ」
「うむ。では参りましょう・・・で、どこへ?」
私は、スタッフさんたちのところに戻り、
「すみません。『大王カフェ』の本店って、どこですか?」
スタッフさんたちは、一斉に同じ方向を指差し、ユニゾンで「隣のビルの最上階。でも、予約がないと入れないよ。予約は3年待ちだよ」
ガラス張りのエレベーターで最上階、126階に急ぐ。「大王カフェ」本店は、この超高層ビルの最上階を占有していた。
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「父上、食事をしてる場合ではござらぬぞ」
「違う。れもんちゃんのパパ、れもん大王に会うのだ」
「れもんちゃんの無際限の魅力について語り合うためでござるか」
「違う。レモニウムを使わない未来、つまり『未来B』について訊くためだ」
ガラスのエレベーターから見下ろす街並み、れもんシティは美しい街だった。
エレベーターを降りると、シン太郎左衛門が、「こんなところだと、莫大なテナント料を取られましょうな」
「心配するな。れもん大王は商売上手だ」
我々は、「大王カフェ」の看板に向けて、フカフカの絨毯の上を急いだ。
我々は入り口で止められてしまった。
上品だが、イカツイまでに体格のよい受付担当のスタッフさんは、「御予約のないお客様はご入店いただけません」
「れもん大王と話がしたい」
「社長は他用で取り込んでおりますのでお会いできません」
「そこを何とかお願いでござる」
「何とも致しかねます」
オシャレで可愛く、見るからにリッチなお店の入り口で、そんな押し問答に虚しく時間が過ぎていった。これ以上粘っても、力ずくで追い返されるか、警察を呼ばれるのが落ちだ、と思いかけたとき、背後から芳しく焚きしめた香の匂いが漂ってきた。
振り向くと、十二単衣を着た長い髪の女性が滑るように近付いてきた。
「これは、式部さま。いつもありがとうございます」と、受付担当スタッフさんは、店内の他のスタッフさんたちに手を振って合図した。
「あっ、もしかして!」
「式部さん」と呼ばれた女性は、私の方を横目で見ながら、口の前に指を立てた。
空気の読めないシン太郎左衛門は、
「もしや、守護霊殿ではござらぬか?」
守護霊さんは思いっ切り眉をひそめた後、「スタッフ殿、大変失礼致しました。これらは下賤な者なれど、わらわの供の者。日頃れもん姫のご厚恩に預かり、御礼を申し上げたいとの願いゆえ、大王様に御目通り叶えてやってたもれ」
スタッフさんは困惑した様子であったが、
「かしこまりました。確認してまいりますので、しばしお待ちください」
「フューチャーB、いや、レモニウムの件で重要な話があるとお伝えください」
「拙者からも宜しくお頼み申す」
スタッフさんがその場を去ると、私は「守護霊さんは、あの日以来、私の守護はそっちのけにして、『大王カフェ』に通い詰めているのではありませんか?」
守護霊さんは、「ほほほほほ」と上品に笑いながら、女性のスタッフさんに案内されて店の奥に消えていった。
「・・・守護霊さんって、あんな人だったんだ」
「割と美人でござった」
「うん。結構、俺の好みだ。もちろん、れもんちゃんには及ばんが」
いかついスタッフさんが戻って来て、「社長がお会いになるそうです」
スタッフさんは「スタッフ・オンリー」の表示があるドアを鍵で開け、私に入るように促した。「曲がり角を右、左、真っ直ぐ、左、左、右、仮面ライダーのシールが貼ってあるドアを『トントト・トトトト・ン・トントン』と叩いてください」
「分かりました。ちなみに『トントト・トトトト・ン・トントン』というのは、『笑点』のオープニング・ソングではありませんか?」
「知りません」
「ありがとうございます」
私は、複雑に曲がりくねって分岐する狭い廊下を言われた通りに進んでいった。
シン太郎左衛門は、私の肩の上で『笑点』のテーマソングを口笛で吹いていた。
「どうして、こんな迷路みたいなものを作ったんだろう」
「とんと見当も付きませぬ」
「れもん大王って、どんな人なんだろう」
「れもんちゃんのお父上であれば、さぞ立派な人に違いない」
「でも、れもんちゃんも、かなり変わってるからな〜。れもんちゃんパパは、凄く変な人かもしれない。普通に考えたら、職場にこんな迷路を作るヤツが普通な訳ないだろ」
「うむ」
言われた通りに歩いたつもりだった。言われた通り、『仮面ライダー』のシールが貼られたドアに行き当たった。シールが1枚貼られているのを想像していたが、ドア一面、隈なく仮面ライダー1号・2号・V3と怪人たちのシールで埋め尽くされていた。
「仮面ライダー」といい、「笑点」といい、昭和っぽかった。大王は、そういう世代の人なんだろうと思いながら、「仮面ライダー」のドアを「笑点」のリズムで叩いた。
しばらく待つと、ドアが開いた。
出迎えてくれた人、つまり、れもん大王は、フレンチ・シェフを思わせる純白のコックスーツを身に纏い、高さが50センチもある帽子を被り、変なお面を付けていた。
招き入れられた部屋は、れもん大王さんのオフィスらしかった。ゆったりとした空間に、奥にデスクが一つと壁に沿って沢山の書架があった。
お面を被った人は、私に木製の丸椅子を勧めると、自分はオフィス机の向こう側に腰を下ろした。二人の間は20メートル以上離れていた。
「いらっしゃいだよ〜」
それが、仮面の人物の第一声だった。
「れもん大王さんですか?」
「そうだよ〜。れもん大王ちゃんだよ〜」
拍子抜けしなかったと言えば嘘になる。
「『大王さま』とお呼びしたら宜しいですか?」
「『大王ちゃん』でいいよ〜」
「こっちが嫌です。お忙しいところをお邪魔して、すみません」
「新しいメニューを考えてたよ〜。『大王イカフライ』だよ〜。美味しいよ〜」
「大王さま。初対面でこんなことを言うのもなんですが、『大王イカ』と聞くと、我々地球人は全長10メートルを越す馬鹿デカいイカを想像して、食欲を無くしてしまいます」
「そんな大きなイカ、れもん星にはいないよ〜。れもん星のイカは、みんな一口サイズだよ〜」
「それは、ワカサギのフライみたいで、白ワインに合いそうですね」
「ビールにも合うよ〜」
「・・・大王さま、私は、ここにイカフライの話をしに来たのではありません。単刀直入にお尋ねします。『未来B』とは何ですか?」
お面の顔が斜めに傾いた。
「知らな〜い。聞いたこともないよ〜」
「では質問を替えます。れもん大王さんが、語尾に『よ〜』と付けるのは何故ですか?」
「威厳を示すためだよ〜」
「『威厳』・・・ですか?」
「そうだよ〜。れもん星では、偉い人は語尾に『よ〜』を付けるよ〜」
「日本語とは違うんですね。じゃあ、れもん語の『れもんちゃんだよ〜』を日本語に直すと、どうなりますか?」
「『朕は、れもんちゃんなるぞ』になるよ〜」
「そうでしたか。私はこれまで大きな勘違いをしていました。それでは本題に戻ります。れもん大王さんは、どうしてレモニウムのある場所を秘密にしてこられたのですか?」
「みんながレモニウムを持ってっちゃうと、れもんギドラちゃんが困るからだよ〜」
「れもんギドラちゃん・・・それは怪獣ですね?」
「そうだよ。全長50メートルの大っきな怪獣ちゃんだよ〜」
「れもんギドラは、可愛いですか?」
「れもんギドラちゃんは、顔が怖いよ〜。でも優しいよ〜。いつも地底深くで眠ってて、50年に一度お腹を空かせて、地表近くまでやって来て、レモニウムを一粒食べて、また地底深くに帰ってくよ〜」
「なるほど・・・名前に『ちゃん』を付けて呼ぶのは、可愛い人や可愛い動物に限る、今後、そういうルールでいきたい思います。ところで、お会いして以来、ずっとお訊きしたかったんですが、れもん大王さんは、どうして『ひみつのアッコちゃん』のお面を被っているのですか?」
「これ?特に意味はないよ〜」
「なんだ、意味ないんかい!いや、失礼しました。その『ひみつのアッコちゃん』のお面、私が子供の頃、縁日の出店に並んでいたお面とよく似ています。子供心に『こんなもん、誰が買うんだろう?』と思った記憶があります。そのお面は、大王様が子供の頃に縁日でお買い求めになったものですか?」
「違うよ〜。れもん姫の地球土産だよ〜。大王ちゃんのお気に入りだよ〜」
「れもんちゃんは、昭和レトロが好みなんですか?」
「知らないよ〜。多分違うよ〜」
「では、本題に戻ります。今日、れもん星防衛軍が、レモニウムの採掘を邪魔する怪獣の退治に向かうとのことです」
「そんなことしちゃダメだよ〜」
「でも、すでに出動してしまったかもしれません」
「止めないとダメだよ〜」
「れもん大王さんが電話をすれば、すぐに止められるのではないですか?」
「そんな簡単な話じゃないよ〜。大変なことになっちゃったよ〜」
「大王さまが引退されてから、大切な申し送りが蔑ろにされていたみたいですね。これを期に英雄として復帰されたら、どうですか?」
「イヤだよ〜。コックさん兼カフェ経営者の方が楽しいよ〜」
「でも、大王さんがいないと、れもん星は、きっと終わってしまいますよ」
「分かったよ〜。それなら、れもん姫を呼び戻して、大王を譲っちゃうよ〜」
「それはダメです。そんなことをしたら地球が終わってしまいます」
「でも、大王ちゃんは、コックさんもカフェのオーナーもやめないよ〜。もう英雄なんてしないよ〜」
「分かりました。それなら、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門を・・・いや、こんなの置いてってもしょうがないか・・・今のは忘れてください。ともかく、今は、れもんギドラちゃんを守るのが第一です。私に何かお手伝い出来ることがあれば、おっしゃってください」
れもん大王さんは立ち上がると、
「隣の部屋に移動するよ〜」
れもん大王に続いて隣の部屋に入った。分厚い木の壁に囲まれたレトロな部屋は、豪華なシャンデリアから降り注ぐリッチな光に包まれていた。部屋の中央にはビリヤード台が置かれていた。
1から15までの数字が振られた球が台に散らばっていた。大王様は、私に白い球を手渡して、
「ビリヤード、やったことある?」
「少しだけ」
「じゃあ、数の小さい順に球をポケットに入れてみてね〜。白球をどこに置いて始めてもいいよ〜」
どういう意図があるのか計り知れなかったが、取り敢えずれもん大王さんが差し出したキューを受け取り、1の球が狙いやすそうな場所に白球を置いた。そして、狙いを定めて慎重に撞いた。白球は意図せぬ方向に2センチほど転がって止まった。
アッコちゃんのお面のせいで、大王さんの表情はまるで分からなかったが、ククッと笑ったような気がした。
「じゃあ次は大王ちゃんの番だよ〜」
れもん大王は、私からキューを受け取ると、テーブル上のボールの位置をざっと確認して、何のためらいもなく、白いボールを撞いた。白球はとんでもない初速で撃ち出され、カツン、カツン、カツンと、球の衝突の連鎖を生み出し、1から15の球を全て順番にポケットに落としていった。
感激して思わず拍手すると、大王さんは、
「こんなのちっとも凄くないよ〜。れもん姫は、一撞きで全部のボールを番号順に積み上げられるよ〜」
「それはもう奇跡だ」
「れもん姫には、それが普通にできるよ〜」
「分かります。れもんちゃんが奇跡そのものですから。それで、このビリヤードの意味はなんだったのですか?」
「・・・忘れちゃったよ〜」
「そうですか。あなたが、れもんちゃんのお父さんでなければ、怒鳴りつけてるところです」
「思い出したら教えてあげるよ〜。とにかく、れもんギドラちゃんは、れもん星にとって、とっても大切な怪獣ちゃんだよ〜。れもんギドラちゃんは、地中深くで眠りながら、れもん星のために頑張ってるんだよ〜」
「眠ってるのに、一体何を頑張っているんですか?」
「それを説明するのは大変過ぎて、時間が足りないよ〜。あっ、この部屋に来た理由を思い出したよ〜」
れもん大王は、造り付けの本棚にびっしりと詰まった、何やら古文書風のものを指差して、「これは、古代オチン語で書かれた太古の記録だよ〜。ここに、れもん星の秘密が細かく書いてあるよ〜。レモニウムは、れもんギドラちゃんのご飯だから、無くなったら、死んじゃうよ〜。れもんギドラちゃんは、れもん星の守り神だから、死んじゃったら、れもん星が終わっちゃうよ〜」
「分かりました。それじゃ、れもん星防衛軍が、れもんギドラちゃんと衝突するのを防ぎましょう」
「頼んだよ〜。ヘリコプターで連れてってあげるよ〜」
「えっ?私一人ですか?」
「そうだよ〜。一人で頑張ってね。大王ちゃんは、君をれもんギドラちゃんのおウチがあるところに連れて行ったら、れもん星の総理大臣ちゃんや他の大臣ちゃんたちとお話するよ〜」
「私一人で、れもん星防衛軍を押し留めるなんて、全く出来る気がしないんですけど」
「頑張ってね〜。それじゃ、屋上のヘリポートで待ってるよ〜」
大王さまに背中を押されて、部屋から追い出された。背後でドアが閉められた。振り返ると、仮面ライダーたちがいた。こいつら全員引き連れて行っても、れもんギドラとれもん星防衛軍の相手をするなんて、到底出来ない話に思えた。
スタッフさんに話をすると、非常階段に繋がる扉の鍵を開けてくれた。階段を駆け上がると、屋上に出た。真っ青な空を背景に、ダークグリーンのジェットヘリは、すでに離陸準備を整えていた。耳をつんざくようなプロペラの音を聞いて、私はすっかり腰が退けてしまった。
「あんなのに乗りたくないなぁ」
肩の上のシン太郎左衛門は、
「ヘリコプターには初めて乗る。楽しみでござるな」
「何が楽しみなもんか。飛行機よりもタチが悪い。一応、電車で行く方法がないか訊いてみようか?」
「情けないことを言うものではござらぬ。腹を括りなされ」
ヘリの操縦席から大王さんが手を振っていた。
後部席に乗り込むと、れもん大王さんは、
「そうだ。これ、あげるよ〜」と、不思議な色の金属でできた指輪を右手の指から外して、渡してくれた。
「これは?」
「それは、れもん王家の紋章入りのレモニウムの指輪だよ〜。あっちこっちのレストランで割引が効くよ〜。あっちこっちのテーマパークも、フリーパスだよ〜。USJでは使えないよ〜」
「でしょうね」
「ひらかたパークは使えるよ〜」
「そうですか・・・少し真面目にやりませんか?」
「いやだよ〜。じゃあ、飛ぶよ〜」
軍用ヘリは一気に高度を上げた。青い空に私の悲鳴が響き渡った。
「ビュ〜ン!ビュ〜ン!ウヒャヒャヒャヒャ〜!!」
「速すぎる、速すぎる!!大王さん、スピード落として!!」
大王さんは、かなりのスピード狂なのか、
「ヒャッホ〜!ヒャッホ〜!」と、大はしゃぎだった。
「飛ばしすぎ!飛ばしすぎ!大王さん、頼むから、少しスピード落として!!」
「ダメだよ〜」
そう言った大王さんの声が先刻室内での談話時とは全く違って聞こえた。女性が無理に作った男の声のようだった。
よく見ると、操縦席の大王さんは、やはりコックスーツを着て、アッコちゃんのお面を被っていたが、帽子の高さは70センチぐらいまで伸びて天井に擦れていたし、身長は小さくなり、体型も華奢になったようだった。
「もしかして、れもんちゃん?」と尋ねようとしたとき、乱気流に巻き込まれたヘリは大きく上下した。雲の中で私の悲鳴が響き渡った。
上下動が落ち着くと、大王さまは、
「そうだ。れもんギドラちゃんは、古代オチン語を理解できるよ〜。シン太郎左衛門が役に立っちゃうよ〜」
やはりおかしい。私は大王さんにシン太郎左衛門をまともに紹介していないはずだった。
「もしかして、あなたは、れもんちゃん?」と尋ねたが、お面の人は、私の問いを無視して、
「もうすぐ到着するよ〜。パラシュート着けてね」
「パラシュート!?」
「そうだよ〜。足下に転がってるよ〜。着陸する場所がないから、パラシュートで降りてね」
「マジっすか?」
「マジだよ〜。ツベコベ言わずに、早くパラシュート着けてね〜。さっさとしないと、パラシュートなしで、突き落とすよ〜」
慌ててパラシュートを着け、肩の上のシン太郎左衛門をズボンの中、所定の位置に戻すと、「これで良いですか?」
「上手、上手」
れもん大王がパチパチと拍手をしたので、思わず「操縦桿を放さないで!!」と叫んでしまった。
ヘリは高度を下げて雲を突き抜けた。
「もうすぐだよ〜」
「あっ、戦車が縦隊を組んで進んでる」
「追い越すよ〜」
ヘリの窓から戦車隊を見下ろすと、目が回るような高さだった。
「怖い、怖い、怖い!!こんな高いところから、飛び降りろって、無理、無理、無理!!」
ヘリが減速していくのが体感で分かった。
「ドアを開けてね〜」
「怖いよ〜」と半ベソかきながら、ドアを開けると、凄い風圧に全ての髪の毛が逆立った。
「じゃあ、頑張ってね〜」
「無理、無理、無理!!」
「無理じゃないよ〜。やるんだよ〜」
私は右の拳を強く握り締めて、目を閉じた。そして、胸の中で、(逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなんだ!!)
「分かりました。やります」
れもん大王は満足げに頷くと、
「それと追加でお願いがあるよ〜」
「なんですか?」
「ヘリコプターから飛び出すとき、なんかギャグをやってほしいよ〜」
「何を言ってるんですか!!」
「よろしくだよ〜。さあ着いたよ〜。飛んでいいよ〜」
もう飛ぶしかなかった。
「はい。それじゃ、れもん大王様、お達者で」
「れもんギドラちゃんによろしくね〜」
私はシートベルトを外すと、機外へと飛び出し、「飛びます!飛びます!」と叫んだ。
「それは、コント55号の坂上二郎さんのギャグだよ〜。昭和の人にしか分からないよ〜」という大王の声は一気に遠のいた。私の身体は、一気に速度を増して落下していく。気を失う寸前で、ズドンと全身に衝撃が走った。落下傘が開いたのだ。
「・・・ふっ・・・ふふふふふ・・・」
何故か笑えてきた。フリーフォールの恐怖でオシッコをチビる寸前だったが、辛うじて持ちこたえていた。
シン太郎左衛門が、「父上、オシッコ」
「シン太郎左衛門、出てこい。落下傘から見る景色は、まさに絶景だ」
ズボンのチャックを開けて、顔を出したシン太郎左衛門は、
「これは素晴らしい!!この眺めに勝るのは、れもんちゃんだけでござる」
遠くに海が見えた。あの海の近くに「大王カフェ」七号店があるのかもしれない。そんなことを考えながら、しばしの空中散歩を満喫した。
「・・・さっきまで俺たちが乗っていたヘリを運転していたのは、れもんちゃんかもしれない」
「それは誠でござるか!!」
「ああ。ヘリの中は、とってもいい匂いだった」
レモニウムの指輪を胸ポケットから出して左手の薬指に当てたが、入るはずもない。明らかに女性モノだった。
私は、岩山の麓にグリコマンのポーズで降り立つと、「やれやれ、ご到着だぜ」と言った後、続けて降りてきた落下傘にスッポリ包まれた。ベルトを外して、落下傘の下から這い出した。
辺りを見回すと、岩山の斜面に巨大な洞窟が大きな口を開けていた。
「多分、あそこが、れもんギドラちゃんのおウチの入り口だ」
足下に大小の岩が転がっていて、走ることは覚束なかった。どうにか、洞窟の入り口に近付くと、例の『ロイヤル警備隊』の面々が車座になって不貞腐れているのが目に入った。向こうも、私に気付いて、手を振ってくれた。
「こんなところで何してるんですか?」と尋ねると、
「それは、こっちのセリフだよ。俺たちは、緊急動員をかけられて、洞窟の入り口を見張ってるんだ」
「それは御苦労様です。洞窟に入ってもいいですか?」
「いいよ。でも、多分なんもないよ。しばらくすると、戦車が来るから危ないし・・・あっ、もう来た」
岩だらけの、道なき道を踏み固めるように戦車軍団が姿を現した。我々の存在など眼中にないようで、地鳴りを上げながら、次々に洞窟に入っていった。
「それじゃ、みなさん、ごきげんよう。また、明日、日曜日、クラブロイヤルでお会いしましょう」
ロイヤル警備隊の皆さんは、軽く手を振りながら、
「じゃあ元気で。くれぐれも気を付けてね」
私は戦車を追って走り出した。
洞窟に入ると、戦車のライトの残光を追って精一杯走ったが、あっと言う間に息が上がってしまった。
一息吐いている間に、戦車隊の地鳴りが遥か遠くなってしまった。
微かな明かりさえ失われた洞窟の中は暗黒だった。
社会の窓を開けて、周りの様子を窺ったシン太郎左衛門が、
「真っ暗でござる。これでは先に進めませぬな」
「手探りで進むしかない・・・」
希望を失いかけたとき、私の胸辺りから青色がかった涼しい光が広がっていった。ワイシャツのポケットの中で、レモニウムの指輪が光を放ち始めたのだ。
「希望を捨ててはいかん。これなら足下ぐらいは見える。シン太郎左衛門、行くぞ」
100メートルほど進んだだろうか。こんな調子では、到底戦車には追い付かないと、いよいよ心が折れそうになったとき、レモニウムの光に照らされた岩の壁面に「れもんギドラちゃんのおウチへの近道」と、レモンイエローのペンキで書かれているのを発見した。そこにポッカリと穴が開いていた。
「シン太郎左衛門、抜け道だ!!」
直径50センチほどの抜け穴を数十メートル這って進むと、再び巨大な洞窟に合流した。そこはドーム状に広がった、学校の体育館ぐらいの空間で、天井は途轍もなく高かった。全体を柔らかな光が包んでいた。
シン太郎左衛門をズボンから出し、肩の上に乗せてやった。二人は驚きの余り言葉を失っていた。
洞窟の天井までうず高く積み上がったレモニウムの山が壁面を覆っていた。そして、そのレモニウムの清らかな光を浴びた巨大な生き物が小さくうずくまっていた。言うまでもなく、れもんギドラちゃんだった。それは、余りにも幻想的な光景だった。
れもんギドラちゃんは怯えていた。そして、怒っていた。これまで誰からも意地悪なんてされたことがない。50年振りに地上に上がってきて、美味しいご飯を目の前にして突然邪魔されて、そりゃ悲しいし、腹も立つだろう。
遠くから戦車の地響が近付いているのが分かった。
「これが、れもんギドラちゃんか・・・大きいなぁ・・・」
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「うむ。思っていたよりも巨大でござる。しかし結構可愛いですな」
「そうかなぁ〜、俺には、そうは思えんが」
「目が可愛い。キュルっとしたお目々が愛らしい」
私は足下に落ちているレモニウムの粒を何個か拾って、掌の上でボンヤリと光るのを見つめた。
「こんなチョコボールぐらいの小さなモノを一粒食べて50年も頑張れるって凄いよな・・・チョコボールと言えば、俺は人生で一度だけ『金のエンゼル』を当てたことがある」
「れもんちゃんは、ダイヤモンドのエンゼルちゃんでござる」
「全くだ。れもんちゃんもれもんギドラちゃんも、ホントに健気に頑張ってるよな」
「うむ」
「俺、れもんギドラっていうから、頭が3つあるのかと思ったら、違ってた。角の格好からしても、ブラックキングに似てるよ。知ってるか?ブラックキングは強いんだぞ。帰ってきたウルトラマンがヤラれてしまったぐらいだからな」
「・・・父上、この話、今しなければならぬモノでござるか」
「明らかに違うな」
高まり続けていた戦車軍団の物音が止んだ。振り向くと、戦車軍団はすでに我々の視界のうちだった。編隊を組み直して、攻撃準備をしていた。
「やれやれ。役者が揃っちまったな。どっちが悪いって訳でなく、お互い退けない道があるってことだ」
もはや一刻の猶予も許されなかった。
シン太郎左衛門を掴んで、地面に下ろした。
「よし、シン太郎左衛門、変身だ!!シン太郎左衛門マンに変身しろ!!」
「なんですと?もう一度言ってくだされ」
「何度言っても同じだ」
「拙者が、そんなものになれまするか?」
「できる!!やれっ!!なんか叫べば巨大化する」
「真面目な話をしてくだされ。そんな設定、聞いておらぬ。できる訳がない」
戦車軍団は、攻撃準備を整え、機を見計らっているようだった。
「大丈夫。出来る。巨大化して、戦車軍団を洞窟の入り口まで押し返せ。くれぐれも乗組員を傷つけないようにね」
「全く出来る気がせぬ」
戦車軍団がエンジンをふかして前進を再開すると、れもんギドラちゃんが憤然として、ギャオーと吠えた。
「大丈夫。どうせ書くのは俺だ。どうとでもなる。やれ!」
「うむ。では、やりましょう・・・いきますぞ!!・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は、シン太郎左衛門マンに変身した。
「・・・おい!!」
「ん?なにか?」
シン太郎左衛門マンは、小学三年生ぐらいの大きさだった。
「お前、そんなんで、よく全長50メートルの怪獣や戦車軍団の相手をする気になれるな」
「これでも相当背伸びをしたつもりでござるが、まだ足りませぬか」
「全然足らん。れもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の両方から同時に攻撃を受けるんだぞ。もう少し真面目にやれ!」
「では、もう少し頑張りまする・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は更に巨大化したが、それでも私より幾らか大きいだけだった。
「これが限界。一杯一杯でござる」
「お前!普段から剣術の稽古を怠けているからだ!反省しろ!」
「うむ。反省いたした。かくなる上は、父上が父上マンになるしかありませぬな」
「え〜っ!!それは困る」
「れもん星を救うためですぞ!!」
「れもん星を救うため」・・・その言葉に、これまでの、れもん星での楽しい思い出が走馬灯のように脳裏に・・・蘇ってはこなかった。これまで書いた数々のれもん星の話は、缶バッチがどうの、空気の缶詰がどうの、くだらないものばかりだった。しかし、れもん星は、れもんちゃんの故郷だった。
「しょうがないなぁ・・・おい、これを持っておけ」
シン太郎左衛門にレモニウムのリングを渡した。
「失くすなよ」
れもんギドラちゃんと戦車軍団は、もはや衝突寸前だった。
「よ〜し、やってやろうじゃねぇか。窓際サラリーマンだって、やるときはやるんだ!!南無八幡大菩薩!!そして何より・・・れもんちゃ〜ん!!」
せっかくのスーツは無残に裂けた。薄暗闇の中、私は全長45メートルの、全裸の父上マンに変身した。
そして、「シュワッチ!」と言いながら、激突寸前のれもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の戦車軍団の間に飛び込んだ。
途端に戦車軍団の一斉砲射を浴びた。
「痛い、痛い、痛い!!それなりに痛い!!」
私は、中の人たちに怪我を負わせないように戦車を1台丁寧にひっくり返した。
また一斉砲射を浴びた。
「お前ら、ふざけんな!!痛いって言ってんだろ!!」
また戦車を1台ひっくり返した。
激高したれもんギドラちゃんに背後から殴られたり蹴られたりもした。
「痛い、痛い、痛い!!れもんギドラちゃん、落ち着いてくれ!!」
また一斉砲撃を浴びた。
「お前ら、いい加減にしろよ!!子供の頃に円谷プロの特撮を見てないのか?名前の終わりに『マン』と付く巨人に戦車の攻撃なんて、実は大して効かないんだ!ただメチャメチャ鬱陶しい!やめろ!」
さらに戦車をひっくり返していった。
またしても、背後かられもんギドラちゃんの攻撃を受けた。
「れもんギドラちゃん!!あんたの攻撃は本当に痛い!!特に尖ったヒールの先で蹴るのは止めてくれ!!俺は、そういうので興奮するタイプじゃないから」
シン太郎左衛門マンは、私の肩の上で、「赤勝て、白勝て」と、広げた扇子を振り回して踊っていた。
戦車を残らず裏返しにして無力化したのを確認すると、今度は1台ずつ丁寧に洞窟の外に運び出した。全部片付けたときには、全身が汗と埃にまみれていた。
最後の1台を地上に運び出して、洞窟の奥に戻ると、れもんギドラちゃんは、私の意図するところを多少は悟ってくれたように見えた。
私は、シン太郎左衛門、いや、シン太郎左衛門マンに「れもんギドラちゃんに、『迷惑かけて、ごめんなさい。もう心配ないから安心してね。これからも、れもん星を守ってね』、そう古代オチン語で伝えてくれ」
シン太郎左衛門は、難しい顔をして、
「父上マンは、シン太郎左衛門マンの古代オチン語の能力を見くびっておられまするな。拙者、読み書きとリスニング能力は、それなりでござるが、話すとなると、エロいことしか言えぬ」
「・・・お前、何なんだよ!剣術の稽古もサボってるし、古代オチン語も中途半端。『見くびる』も間違えた使い方をしてるし、反省しろ!」
「うむ。反省しきりでござる」
我々の会話を側で聞いていたれもんギドラちゃんが、思い立ったように私に近寄って、レモニウムを一粒渡してくれた。
それは、巨大化した私の掌の上では、仁丹よりも小さく見えた。
「父上マン、れもんギドラちゃんは賢い子でござるな。聞かされずとも、我々の想いを悟ってくれてござる」
「お前は少しれもんギドラちゃんを見習え!」
私はレモニウムをれもんギドラちゃんに差し出すと、
「・・・これは貴重なものだし、気持ちだけもらっておくよ。事情があって、家には持って帰れないんだ。君が食べてね」
れもんギドラちゃんは、レモニウムを受け取ると、
「今は食べない。また50年経ったら食べる。一度に2つも食べると、お腹が痛くなる」と言った。
「そうだね。大事に持っておいてね・・・それから、れもんちゃんが『よろしく』って言ってたよ・・・それと・・・」
私は、シン太郎左衛門マンからレモニウムで出来た王家の指輪を受け取り、れもんギドラちゃんに手渡した。
「これ、次に、れもんちゃんに会ったときに返しておいてくれるかな」
れもんギドラちゃんは頷いた。
帰り道、あちこちで岩を崩して、戦車では通れない程度に道を塞いでおいた。
洞窟の入り口に戻ったときには、疲労困憊の余り、勝手に父上マンから普通の父上に戻ってしまった。シン太郎左衛門マンは何も疲れることをしていないので、大きいままだったから、肩の上に自分よりも大きなヤツに乗られていた私は、顔から地面に倒れ込んだ。
「痛ってぇ〜!!」
その日受けた最大のダメージは、シン太郎左衛門マンによるものだった。
外はもう日が暮れかかっていた。
洞窟の入り口近くでは、ひっくり返して置かれた戦車を元に戻す作業が進められていた。
ロイヤル警備隊の面々は、そんな状況も素知らぬ顔で、引き続き車座になって雑談していた。私は素っ裸だったので、近付いて話をする気にはなれなかった。
今頃、れもん大王さんが、れもん星の偉い人たちに二度とレモニウムの採掘なんて考えないように、きっちり話を付けてくれているだろう。
夕焼け空が広がった。
鼻骨が折れていないか心配になるほど、鼻が痛かったが、そんなことも忘れてしまうぐらいに美しい夕焼け、これまでに見たこともない素敵な、素敵な、れもん色の夕焼けだった。
これからも、れもん星は、のどかで素敵な星であり続けるに違いない。
我々の任務は終った。
目覚ましが鳴った。
私は布団から這い出ると、目覚ましを止めた。全身あちこち痛かった。
取り敢えず立ち上がり、少し気になることがあって、電話器の置かれた棚の方に向かって歩いていった。
電話器の側に二つ折りにして置かれた昨夜のファックスを手に取って広げた。そのとき、電話が鳴り出した。
昨日のファックスの発信者が誰なのか、ぼんやりと分かってきた。用紙の最上部に印刷された発信元の電話番号は、今、目の前でファックスに切り替わった電話、つまり私の家のものだった。そして、「未来Bを救え」の筆跡は、よく考えれば私自身のものだった。送信日は、十年後の昨日だった。
届いたばかりのファックスを手に取った。
そこには、ただ「ありがとう」とあった。十年後のシン太郎左衛門ズからの感謝の言葉だった。
・・・・・
私たちは、これから、れもんちゃんに会いに行く。もちろん、JR新快速に乗って。
この世に永遠なんてないのは分かっている。しかし、我々は今、れもんちゃんの中に永遠と呼んでもよい何かを発見する。
れもんちゃんが宇宙一に宇宙一であることは、会う前から分かりきっていた。
れもんちゃんは、我々の日常に舞い降りた奇跡なのだから。
【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様ありがとうございました。
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投稿者:【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様
ご来店日 2024年11月24日
本篇は、本来「シン太郎左衛門」シリーズ全100回の終了の翌週にオマケとして投稿予定だった。前倒しで投稿するので、そこらへんに関する記述に辻褄の合わないところがある。些細な点なので無視してほしい。
では始めよう・・・
今回は、劇場版である。どこでもお好きな劇場で、映画が始まる前にでも読んでくれたまえ。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。いよいよ、『シン太郎左衛門』シリーズの最終話となった。アニメも映画も観ないから、よく分からないが、「劇場版」はスケールの大きな話にするのが礼儀だと理解している。そういう訳で、今回のクチコミは、無闇に大袈裟で、とにかく長い。これまでだって、大概長かったとお感じだろうが、今回のモノは特にひどい。更に最早クチコミには見えないまでに、れもんちゃんの出番がない。また、昭和の事物をかなり盛り込んでいる。れもんちゃんを初め、平成生まれの人々にはチンプンカンプンな部分もあるだろう。覚悟して読まれたし。
20XX年12月某日。土曜日。つまり、れもんちゃんイブ。
私は終日、家でゴロゴロ過ごし、夕飯を駅前の中華料理屋の麻婆丼で済ませ、家に戻ってくると、シン太郎左衛門に、「明日は、れもんちゃんデーだから、今夜は早く寝なければならない」
「うむ。『シン太郎左衛門』シリーズが終わったからと言って、我々の生活は何一つ変わっておりませぬな」
「当たり前だ。連載が終わってから、まだ一週間しか経ってないしな」
風呂を済ませて、夜8時過ぎ、そろそろ寝ようと思っていたら、固定電話が鳴りだした。放置していると、ファックスに切り替わった。
「父上、今時珍しいファックスでござる」
「うん」
普段なら完全に無視するのだが、そのときは何故か放っておけない気持ちになった。妙な胸騒ぎがした。急いで手に取って見てみると、ただ一言「未来Bを救え」とだけ手書きされていて、「未来」に「フューチャー」とルビが振られていた。見覚えのある筆跡だったが、誰のモノだか思い出せなかった。何か良からぬことが起こる予感がした。
「シン太郎左衛門、れもん星に行くぞ」
「うむ。拙者、良からぬ胸騒ぎが致しまする」
「俺もだ。俺が胸騒ぎを感じるなんて、れもんちゃん関係に決まってる」
手早く歯磨きを済ますと、スーツに着替えて、布団に入った。
「スーツでござるか」
「そうだ。スーツはサラリーマンの戦闘服だ。何かただならぬ予感がする」
「うむ。冒険の匂いが致しまする。こんなことなら、もう少し剣術の稽古をしておけばよかった」
「最近サボりまくってたからな。いまさら手遅れだ。いくぞ」
部屋の灯りを消した。
二人は「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と十回唱えた。
そして、シン太郎左衛門ズ、最初で最後の冒険が始まった。
「・・・ここはどこだ?」
見渡すとNASAの管制室の小型版といった場所で、モニターや機械類が犇めき合っていた。そこにレモンイエローのタイトな制服を着た男性が、5、6人、ノンビリと雑談を交わしていた。それぞれ、フェイス・シールド付きのヘルメットを近くの机の上に置いていた。照明が異様に明るかった。昔テレビ番組で見た地球防衛軍の司令室に似ていると思った。
「ここの人たちは随分くつろいでおりますな。何とも奇抜な服装でござる・・・あっ、よく見れば、クラブロイヤルのスタッフさんたちに瓜二つ!」
「ホントだ。いつも気持ちよく接してもらってる人たちにそっくりだ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちは、皆、よい人たちばかりでござる」
「ちょっと話し掛けてみよう」
スタッフさんたちに近寄り、「すみません」と言うと、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにそっくりなれもん星人が、
「あっ、いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「いや。今日は予約はしてません。明日、れもんちゃんの予約をしています」
「大丈夫ですよ。ご新規様ですか?」とスタッフさんが言うので、
「いや、そういうことじゃなく・・・手短に済ませます。ここは、どこですか?」
「ここは、ロイヤル警備隊の本部です」
「ロイヤル警備隊って何ですか?」
「ロイヤル警備隊は、れもん星の平和を守る正義の味方です」
「ウルトラ警備隊みたいな感じですか?れもん星を怪獣や邪悪な宇宙人の侵略からを守る的な」
「まあ、そんな感じです」
「随分と暇そうですね」
「はい。れもん星はいつも平和で、怪獣も邪悪な宇宙人も来ないんです。これまで一度もそういうことはなかったんです・・・空気の缶詰、買ってくれます?」
「要りません。ところで、『未来B』って心当たりありませんか?」
スタッフさんは、少し思案顔になって、他のスタッフさんたちに「『未来B』って知ってる?」と尋ねたが、みんな首を傾げた。
一人のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「レモニウムってなんですか?」と尋ねると、スタッフさんたちは、みんな首を傾げた。
すると、さっきとは別のスタッフさんが「ああ、そう言えば、この前テレビで、エネルギー大臣さんが、『安定的な電力確保の観点から、れもん星の未来には一つの選択肢しかない。レモニウムの活用、これが、れもん星の唯一の未来である』って言ってたよ」
他のみんなは、つまらなそうに、「ふ〜ん」と言った。
「すみません。これじゃ何日かけても話が進みません。今回は『劇場版』なんで、もう少し真面目にやってもらえますか」
「『真面目に』って言われても・・・そこに新聞があります。お探しの件、何か書いてあるかもしれませんよ」
なんだかロールプレイング・ゲームをしているような気分だった。
部屋の隅に一体何年分なのかと思うほどスポーツ新聞が積まれていたので、上の10日分ほど手に取って、近くの椅子に座った。
早速お色気欄を探した。れもん星でも、やっぱりスポーツ紙にお色気は欠かせないらしい。
「へぇ〜。シン太郎左衛門、見てみろ。思ったとおり、れもん星はハイレベルだぞ」
ズボンのチャックを内側から下ろして、シン太郎左衛門が顔を覗かせたので、紙面を翳してやった。
「ほれ」
「おおっ!これは中々のモノ!れもんちゃんには及ばぬまでも大した優れモノでござる」
「まだあるぞ」
我々は、はしゃぎながら次々とお色気欄を制覇していった。
「いや〜、れもんちゃんを生んだ星は、なんともアッハンウッフンでござるな」
「ホントだよ。楽しいな・・・いや、待て。こんなことをやってる場合ではない」
私は、改めて真面目に紙面に目を通したが、関係しそうな記事は全くなかった。スポーツ新聞には、卓球とお色気記事とクロスワードパズルしかなかった。
「この星には、どれだけ卓球好きが集まってるんだ。平和すぎる」
「父上、あちらにテレビがある。勝手につけてみましょうぞ」
「どうせピンポン大会の実況だろ。無駄を承知で見てみるか」
テレビの電源を入れたら、案の定、卓球の試合をやっていた。リモコンでチャネルを切り替えていった。画面に時刻がデジタル表示されていた。今は朝の9時だった。
「れもん星と日本だと、12時間の時差があるらしい。朝っぱらから卓球なんて、よくやるよ。楽しいのかね」
「お色気番組はありませぬか」
「ないよ。やたらとチャンネルは多いが、卓球とニュースばかりだった。どうなってるのかね、この星は・・・いかん、いかん、ニュースでいいんだ。ニュースを見るためにつけたんだ」
30分ほど、ザッピングをして情報を掻き集めた。というより、ニュース番組はレモニウム関連で持ち切りだった。ざっと纏めると、次のようなことだった。
レモニウムは、れもん星にしか存在しない物質で、放射性物質に似てはいるが別モノで、人体にも無害な金属らしい。原発と同様の原理で、もっと安全かつ安定的に電力が得られるらしい。ただ、レモニウムは極めて稀少で、採掘できる場所は長らく、れもん大王のみの知るところであった。しかし、最近ある科学者チームがその在処を特定して、昨日調査に向かったが、巨大な怪獣に阻まれて逃げ帰ったとのこと。
「なるほどね・・・真面目すぎる。どう考えても、俺たちとは何の関係ない」
テレビ画面では、ギラギラとエネルギッシュな中年男性が、エネルギッシュに拳を振り回し、熱弁をふるっていた。
「レモニウムの確保は、れもん星の未来のために必要不可欠です。我々は速やかに怪獣を倒さねばなりません」
字幕から、その人物が、れもん星のエネルギー大臣だと知った。
振り向いてみると、ロイヤル警備隊の面々はスマホでゲームをしたり、椅子に座ったまま白眼を剝いてイビキをかいていた。
「これこそ、『ロイヤル警備隊』の出番に思えるが、彼らには全く関心がなさそうだ」
テレビ画面の中で、エネルギー大臣が叫び続けていた。
「うむ。父上、どうされますか」
「どうしようかね」
「怪獣を倒しに行きまするか」
「なんで?」
「話を聴いておられましたか。れもん星のエネルギー問題を解決するためでござる」
「それは、なんか違う気がする」
「父上、益々胸騒ぎが激しくなって参った。急が迫ってきた気が致しまする」
「俺もそうだ。胸が苦しいほど、得体の知れない不安が募ってきた。どうするか、ちょっと考えてみる」
れもん星のように平和な星に、本当に凶悪な怪獣なんているんだろうか?怪獣が最近星外からやって来たのなら、ロイヤル警備隊はともかく、他の誰かが気付いただろう。怪獣が昔からレモニウムのある場所の近くに生息していれば、れもん大王は、それを知っていたのではないか。私は、あれこれと想像を巡らして、あるかないかも分からない答えを探した。
エネルギー大臣は、「本日、れもん星防衛軍を出動させ、怪獣の存在を確認した場合には必要な対処を行うことを決定した」と言っている。
「シン太郎左衛門、行き先が決まったぞ」
「うむ。では参りましょう・・・で、どこへ?」
私は、スタッフさんたちのところに戻り、
「すみません。『大王カフェ』の本店って、どこですか?」
スタッフさんたちは、一斉に同じ方向を指差し、ユニゾンで「隣のビルの最上階。でも、予約がないと入れないよ。予約は3年待ちだよ」
ガラス張りのエレベーターで最上階、126階に急ぐ。「大王カフェ」本店は、この超高層ビルの最上階を占有していた。
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「父上、食事をしてる場合ではござらぬぞ」
「違う。れもんちゃんのパパ、れもん大王に会うのだ」
「れもんちゃんの無際限の魅力について語り合うためでござるか」
「違う。レモニウムを使わない未来、つまり『未来B』について訊くためだ」
ガラスのエレベーターから見下ろす街並み、れもんシティは美しい街だった。
エレベーターを降りると、シン太郎左衛門が、「こんなところだと、莫大なテナント料を取られましょうな」
「心配するな。れもん大王は商売上手だ」
我々は、「大王カフェ」の看板に向けて、フカフカの絨毯の上を急いだ。
我々は入り口で止められてしまった。
上品だが、イカツイまでに体格のよい受付担当のスタッフさんは、「御予約のないお客様はご入店いただけません」
「れもん大王と話がしたい」
「社長は他用で取り込んでおりますのでお会いできません」
「そこを何とかお願いでござる」
「何とも致しかねます」
オシャレで可愛く、見るからにリッチなお店の入り口で、そんな押し問答に虚しく時間が過ぎていった。これ以上粘っても、力ずくで追い返されるか、警察を呼ばれるのが落ちだ、と思いかけたとき、背後から芳しく焚きしめた香の匂いが漂ってきた。
振り向くと、十二単衣を着た長い髪の女性が滑るように近付いてきた。
「これは、式部さま。いつもありがとうございます」と、受付担当スタッフさんは、店内の他のスタッフさんたちに手を振って合図した。
「あっ、もしかして!」
「式部さん」と呼ばれた女性は、私の方を横目で見ながら、口の前に指を立てた。
空気の読めないシン太郎左衛門は、
「もしや、守護霊殿ではござらぬか?」
守護霊さんは思いっ切り眉をひそめた後、「スタッフ殿、大変失礼致しました。これらは下賤な者なれど、わらわの供の者。日頃れもん姫のご厚恩に預かり、御礼を申し上げたいとの願いゆえ、大王様に御目通り叶えてやってたもれ」
スタッフさんは困惑した様子であったが、
「かしこまりました。確認してまいりますので、しばしお待ちください」
「フューチャーB、いや、レモニウムの件で重要な話があるとお伝えください」
「拙者からも宜しくお頼み申す」
スタッフさんがその場を去ると、私は「守護霊さんは、あの日以来、私の守護はそっちのけにして、『大王カフェ』に通い詰めているのではありませんか?」
守護霊さんは、「ほほほほほ」と上品に笑いながら、女性のスタッフさんに案内されて店の奥に消えていった。
「・・・守護霊さんって、あんな人だったんだ」
「割と美人でござった」
「うん。結構、俺の好みだ。もちろん、れもんちゃんには及ばんが」
いかついスタッフさんが戻って来て、「社長がお会いになるそうです」
スタッフさんは「スタッフ・オンリー」の表示があるドアを鍵で開け、私に入るように促した。「曲がり角を右、左、真っ直ぐ、左、左、右、仮面ライダーのシールが貼ってあるドアを『トントト・トトトト・ン・トントン』と叩いてください」
「分かりました。ちなみに『トントト・トトトト・ン・トントン』というのは、『笑点』のオープニング・ソングではありませんか?」
「知りません」
「ありがとうございます」
私は、複雑に曲がりくねって分岐する狭い廊下を言われた通りに進んでいった。
シン太郎左衛門は、私の肩の上で『笑点』のテーマソングを口笛で吹いていた。
「どうして、こんな迷路みたいなものを作ったんだろう」
「とんと見当も付きませぬ」
「れもん大王って、どんな人なんだろう」
「れもんちゃんのお父上であれば、さぞ立派な人に違いない」
「でも、れもんちゃんも、かなり変わってるからな〜。れもんちゃんパパは、凄く変な人かもしれない。普通に考えたら、職場にこんな迷路を作るヤツが普通な訳ないだろ」
「うむ」
言われた通りに歩いたつもりだった。言われた通り、『仮面ライダー』のシールが貼られたドアに行き当たった。シールが1枚貼られているのを想像していたが、ドア一面、隈なく仮面ライダー1号・2号・V3と怪人たちのシールで埋め尽くされていた。
「仮面ライダー」といい、「笑点」といい、昭和っぽかった。大王は、そういう世代の人なんだろうと思いながら、「仮面ライダー」のドアを「笑点」のリズムで叩いた。
しばらく待つと、ドアが開いた。
出迎えてくれた人、つまり、れもん大王は、フレンチ・シェフを思わせる純白のコックスーツを身に纏い、高さが50センチもある帽子を被り、変なお面を付けていた。
招き入れられた部屋は、れもん大王さんのオフィスらしかった。ゆったりとした空間に、奥にデスクが一つと壁に沿って沢山の書架があった。
お面を被った人は、私に木製の丸椅子を勧めると、自分はオフィス机の向こう側に腰を下ろした。二人の間は20メートル以上離れていた。
「いらっしゃいだよ〜」
それが、仮面の人物の第一声だった。
「れもん大王さんですか?」
「そうだよ〜。れもん大王ちゃんだよ〜」
拍子抜けしなかったと言えば嘘になる。
「『大王さま』とお呼びしたら宜しいですか?」
「『大王ちゃん』でいいよ〜」
「こっちが嫌です。お忙しいところをお邪魔して、すみません」
「新しいメニューを考えてたよ〜。『大王イカフライ』だよ〜。美味しいよ〜」
「大王さま。初対面でこんなことを言うのもなんですが、『大王イカ』と聞くと、我々地球人は全長10メートルを越す馬鹿デカいイカを想像して、食欲を無くしてしまいます」
「そんな大きなイカ、れもん星にはいないよ〜。れもん星のイカは、みんな一口サイズだよ〜」
「それは、ワカサギのフライみたいで、白ワインに合いそうですね」
「ビールにも合うよ〜」
「・・・大王さま、私は、ここにイカフライの話をしに来たのではありません。単刀直入にお尋ねします。『未来B』とは何ですか?」
お面の顔が斜めに傾いた。
「知らな〜い。聞いたこともないよ〜」
「では質問を替えます。れもん大王さんが、語尾に『よ〜』と付けるのは何故ですか?」
「威厳を示すためだよ〜」
「『威厳』・・・ですか?」
「そうだよ〜。れもん星では、偉い人は語尾に『よ〜』を付けるよ〜」
「日本語とは違うんですね。じゃあ、れもん語の『れもんちゃんだよ〜』を日本語に直すと、どうなりますか?」
「『朕は、れもんちゃんなるぞ』になるよ〜」
「そうでしたか。私はこれまで大きな勘違いをしていました。それでは本題に戻ります。れもん大王さんは、どうしてレモニウムのある場所を秘密にしてこられたのですか?」
「みんながレモニウムを持ってっちゃうと、れもんギドラちゃんが困るからだよ〜」
「れもんギドラちゃん・・・それは怪獣ですね?」
「そうだよ。全長50メートルの大っきな怪獣ちゃんだよ〜」
「れもんギドラは、可愛いですか?」
「れもんギドラちゃんは、顔が怖いよ〜。でも優しいよ〜。いつも地底深くで眠ってて、50年に一度お腹を空かせて、地表近くまでやって来て、レモニウムを一粒食べて、また地底深くに帰ってくよ〜」
「なるほど・・・名前に『ちゃん』を付けて呼ぶのは、可愛い人や可愛い動物に限る、今後、そういうルールでいきたい思います。ところで、お会いして以来、ずっとお訊きしたかったんですが、れもん大王さんは、どうして『ひみつのアッコちゃん』のお面を被っているのですか?」
「これ?特に意味はないよ〜」
「なんだ、意味ないんかい!いや、失礼しました。その『ひみつのアッコちゃん』のお面、私が子供の頃、縁日の出店に並んでいたお面とよく似ています。子供心に『こんなもん、誰が買うんだろう?』と思った記憶があります。そのお面は、大王様が子供の頃に縁日でお買い求めになったものですか?」
「違うよ〜。れもん姫の地球土産だよ〜。大王ちゃんのお気に入りだよ〜」
「れもんちゃんは、昭和レトロが好みなんですか?」
「知らないよ〜。多分違うよ〜」
「では、本題に戻ります。今日、れもん星防衛軍が、レモニウムの採掘を邪魔する怪獣の退治に向かうとのことです」
「そんなことしちゃダメだよ〜」
「でも、すでに出動してしまったかもしれません」
「止めないとダメだよ〜」
「れもん大王さんが電話をすれば、すぐに止められるのではないですか?」
「そんな簡単な話じゃないよ〜。大変なことになっちゃったよ〜」
「大王さまが引退されてから、大切な申し送りが蔑ろにされていたみたいですね。これを期に英雄として復帰されたら、どうですか?」
「イヤだよ〜。コックさん兼カフェ経営者の方が楽しいよ〜」
「でも、大王さんがいないと、れもん星は、きっと終わってしまいますよ」
「分かったよ〜。それなら、れもん姫を呼び戻して、大王を譲っちゃうよ〜」
「それはダメです。そんなことをしたら地球が終わってしまいます」
「でも、大王ちゃんは、コックさんもカフェのオーナーもやめないよ〜。もう英雄なんてしないよ〜」
「分かりました。それなら、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門を・・・いや、こんなの置いてってもしょうがないか・・・今のは忘れてください。ともかく、今は、れもんギドラちゃんを守るのが第一です。私に何かお手伝い出来ることがあれば、おっしゃってください」
れもん大王さんは立ち上がると、
「隣の部屋に移動するよ〜」
れもん大王に続いて隣の部屋に入った。分厚い木の壁に囲まれたレトロな部屋は、豪華なシャンデリアから降り注ぐリッチな光に包まれていた。部屋の中央にはビリヤード台が置かれていた。
1から15までの数字が振られた球が台に散らばっていた。大王様は、私に白い球を手渡して、
「ビリヤード、やったことある?」
「少しだけ」
「じゃあ、数の小さい順に球をポケットに入れてみてね〜。白球をどこに置いて始めてもいいよ〜」
どういう意図があるのか計り知れなかったが、取り敢えずれもん大王さんが差し出したキューを受け取り、1の球が狙いやすそうな場所に白球を置いた。そして、狙いを定めて慎重に撞いた。白球は意図せぬ方向に2センチほど転がって止まった。
アッコちゃんのお面のせいで、大王さんの表情はまるで分からなかったが、ククッと笑ったような気がした。
「じゃあ次は大王ちゃんの番だよ〜」
れもん大王は、私からキューを受け取ると、テーブル上のボールの位置をざっと確認して、何のためらいもなく、白いボールを撞いた。白球はとんでもない初速で撃ち出され、カツン、カツン、カツンと、球の衝突の連鎖を生み出し、1から15の球を全て順番にポケットに落としていった。
感激して思わず拍手すると、大王さんは、
「こんなのちっとも凄くないよ〜。れもん姫は、一撞きで全部のボールを番号順に積み上げられるよ〜」
「それはもう奇跡だ」
「れもん姫には、それが普通にできるよ〜」
「分かります。れもんちゃんが奇跡そのものですから。それで、このビリヤードの意味はなんだったのですか?」
「・・・忘れちゃったよ〜」
「そうですか。あなたが、れもんちゃんのお父さんでなければ、怒鳴りつけてるところです」
「思い出したら教えてあげるよ〜。とにかく、れもんギドラちゃんは、れもん星にとって、とっても大切な怪獣ちゃんだよ〜。れもんギドラちゃんは、地中深くで眠りながら、れもん星のために頑張ってるんだよ〜」
「眠ってるのに、一体何を頑張っているんですか?」
「それを説明するのは大変過ぎて、時間が足りないよ〜。あっ、この部屋に来た理由を思い出したよ〜」
れもん大王は、造り付けの本棚にびっしりと詰まった、何やら古文書風のものを指差して、「これは、古代オチン語で書かれた太古の記録だよ〜。ここに、れもん星の秘密が細かく書いてあるよ〜。レモニウムは、れもんギドラちゃんのご飯だから、無くなったら、死んじゃうよ〜。れもんギドラちゃんは、れもん星の守り神だから、死んじゃったら、れもん星が終わっちゃうよ〜」
「分かりました。それじゃ、れもん星防衛軍が、れもんギドラちゃんと衝突するのを防ぎましょう」
「頼んだよ〜。ヘリコプターで連れてってあげるよ〜」
「えっ?私一人ですか?」
「そうだよ〜。一人で頑張ってね。大王ちゃんは、君をれもんギドラちゃんのおウチがあるところに連れて行ったら、れもん星の総理大臣ちゃんや他の大臣ちゃんたちとお話するよ〜」
「私一人で、れもん星防衛軍を押し留めるなんて、全く出来る気がしないんですけど」
「頑張ってね〜。それじゃ、屋上のヘリポートで待ってるよ〜」
大王さまに背中を押されて、部屋から追い出された。背後でドアが閉められた。振り返ると、仮面ライダーたちがいた。こいつら全員引き連れて行っても、れもんギドラとれもん星防衛軍の相手をするなんて、到底出来ない話に思えた。
スタッフさんに話をすると、非常階段に繋がる扉の鍵を開けてくれた。階段を駆け上がると、屋上に出た。真っ青な空を背景に、ダークグリーンのジェットヘリは、すでに離陸準備を整えていた。耳をつんざくようなプロペラの音を聞いて、私はすっかり腰が退けてしまった。
「あんなのに乗りたくないなぁ」
肩の上のシン太郎左衛門は、
「ヘリコプターには初めて乗る。楽しみでござるな」
「何が楽しみなもんか。飛行機よりもタチが悪い。一応、電車で行く方法がないか訊いてみようか?」
「情けないことを言うものではござらぬ。腹を括りなされ」
ヘリの操縦席から大王さんが手を振っていた。
後部席に乗り込むと、れもん大王さんは、
「そうだ。これ、あげるよ〜」と、不思議な色の金属でできた指輪を右手の指から外して、渡してくれた。
「これは?」
「それは、れもん王家の紋章入りのレモニウムの指輪だよ〜。あっちこっちのレストランで割引が効くよ〜。あっちこっちのテーマパークも、フリーパスだよ〜。USJでは使えないよ〜」
「でしょうね」
「ひらかたパークは使えるよ〜」
「そうですか・・・少し真面目にやりませんか?」
「いやだよ〜。じゃあ、飛ぶよ〜」
軍用ヘリは一気に高度を上げた。青い空に私の悲鳴が響き渡った。
「ビュ〜ン!ビュ〜ン!ウヒャヒャヒャヒャ〜!!」
「速すぎる、速すぎる!!大王さん、スピード落として!!」
大王さんは、かなりのスピード狂なのか、
「ヒャッホ〜!ヒャッホ〜!」と、大はしゃぎだった。
「飛ばしすぎ!飛ばしすぎ!大王さん、頼むから、少しスピード落として!!」
「ダメだよ〜」
そう言った大王さんの声が先刻室内での談話時とは全く違って聞こえた。女性が無理に作った男の声のようだった。
よく見ると、操縦席の大王さんは、やはりコックスーツを着て、アッコちゃんのお面を被っていたが、帽子の高さは70センチぐらいまで伸びて天井に擦れていたし、身長は小さくなり、体型も華奢になったようだった。
「もしかして、れもんちゃん?」と尋ねようとしたとき、乱気流に巻き込まれたヘリは大きく上下した。雲の中で私の悲鳴が響き渡った。
上下動が落ち着くと、大王さまは、
「そうだ。れもんギドラちゃんは、古代オチン語を理解できるよ〜。シン太郎左衛門が役に立っちゃうよ〜」
やはりおかしい。私は大王さんにシン太郎左衛門をまともに紹介していないはずだった。
「もしかして、あなたは、れもんちゃん?」と尋ねたが、お面の人は、私の問いを無視して、
「もうすぐ到着するよ〜。パラシュート着けてね」
「パラシュート!?」
「そうだよ〜。足下に転がってるよ〜。着陸する場所がないから、パラシュートで降りてね」
「マジっすか?」
「マジだよ〜。ツベコベ言わずに、早くパラシュート着けてね〜。さっさとしないと、パラシュートなしで、突き落とすよ〜」
慌ててパラシュートを着け、肩の上のシン太郎左衛門をズボンの中、所定の位置に戻すと、「これで良いですか?」
「上手、上手」
れもん大王がパチパチと拍手をしたので、思わず「操縦桿を放さないで!!」と叫んでしまった。
ヘリは高度を下げて雲を突き抜けた。
「もうすぐだよ〜」
「あっ、戦車が縦隊を組んで進んでる」
「追い越すよ〜」
ヘリの窓から戦車隊を見下ろすと、目が回るような高さだった。
「怖い、怖い、怖い!!こんな高いところから、飛び降りろって、無理、無理、無理!!」
ヘリが減速していくのが体感で分かった。
「ドアを開けてね〜」
「怖いよ〜」と半ベソかきながら、ドアを開けると、凄い風圧に全ての髪の毛が逆立った。
「じゃあ、頑張ってね〜」
「無理、無理、無理!!」
「無理じゃないよ〜。やるんだよ〜」
私は右の拳を強く握り締めて、目を閉じた。そして、胸の中で、(逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなんだ!!)
「分かりました。やります」
れもん大王は満足げに頷くと、
「それと追加でお願いがあるよ〜」
「なんですか?」
「ヘリコプターから飛び出すとき、なんかギャグをやってほしいよ〜」
「何を言ってるんですか!!」
「よろしくだよ〜。さあ着いたよ〜。飛んでいいよ〜」
もう飛ぶしかなかった。
「はい。それじゃ、れもん大王様、お達者で」
「れもんギドラちゃんによろしくね〜」
私はシートベルトを外すと、機外へと飛び出し、「飛びます!飛びます!」と叫んだ。
「それは、コント55号の坂上二郎さんのギャグだよ〜。昭和の人にしか分からないよ〜」という大王の声は一気に遠のいた。私の身体は、一気に速度を増して落下していく。気を失う寸前で、ズドンと全身に衝撃が走った。落下傘が開いたのだ。
「・・・ふっ・・・ふふふふふ・・・」
何故か笑えてきた。フリーフォールの恐怖でオシッコをチビる寸前だったが、辛うじて持ちこたえていた。
シン太郎左衛門が、「父上、オシッコ」
「シン太郎左衛門、出てこい。落下傘から見る景色は、まさに絶景だ」
ズボンのチャックを開けて、顔を出したシン太郎左衛門は、
「これは素晴らしい!!この眺めに勝るのは、れもんちゃんだけでござる」
遠くに海が見えた。あの海の近くに「大王カフェ」七号店があるのかもしれない。そんなことを考えながら、しばしの空中散歩を満喫した。
「・・・さっきまで俺たちが乗っていたヘリを運転していたのは、れもんちゃんかもしれない」
「それは誠でござるか!!」
「ああ。ヘリの中は、とってもいい匂いだった」
レモニウムの指輪を胸ポケットから出して左手の薬指に当てたが、入るはずもない。明らかに女性モノだった。
私は、岩山の麓にグリコマンのポーズで降り立つと、「やれやれ、ご到着だぜ」と言った後、続けて降りてきた落下傘にスッポリ包まれた。ベルトを外して、落下傘の下から這い出した。
辺りを見回すと、岩山の斜面に巨大な洞窟が大きな口を開けていた。
「多分、あそこが、れもんギドラちゃんのおウチの入り口だ」
足下に大小の岩が転がっていて、走ることは覚束なかった。どうにか、洞窟の入り口に近付くと、例の『ロイヤル警備隊』の面々が車座になって不貞腐れているのが目に入った。向こうも、私に気付いて、手を振ってくれた。
「こんなところで何してるんですか?」と尋ねると、
「それは、こっちのセリフだよ。俺たちは、緊急動員をかけられて、洞窟の入り口を見張ってるんだ」
「それは御苦労様です。洞窟に入ってもいいですか?」
「いいよ。でも、多分なんもないよ。しばらくすると、戦車が来るから危ないし・・・あっ、もう来た」
岩だらけの、道なき道を踏み固めるように戦車軍団が姿を現した。我々の存在など眼中にないようで、地鳴りを上げながら、次々に洞窟に入っていった。
「それじゃ、みなさん、ごきげんよう。また、明日、日曜日、クラブロイヤルでお会いしましょう」
ロイヤル警備隊の皆さんは、軽く手を振りながら、
「じゃあ元気で。くれぐれも気を付けてね」
私は戦車を追って走り出した。
洞窟に入ると、戦車のライトの残光を追って精一杯走ったが、あっと言う間に息が上がってしまった。
一息吐いている間に、戦車隊の地鳴りが遥か遠くなってしまった。
微かな明かりさえ失われた洞窟の中は暗黒だった。
社会の窓を開けて、周りの様子を窺ったシン太郎左衛門が、
「真っ暗でござる。これでは先に進めませぬな」
「手探りで進むしかない・・・」
希望を失いかけたとき、私の胸辺りから青色がかった涼しい光が広がっていった。ワイシャツのポケットの中で、レモニウムの指輪が光を放ち始めたのだ。
「希望を捨ててはいかん。これなら足下ぐらいは見える。シン太郎左衛門、行くぞ」
100メートルほど進んだだろうか。こんな調子では、到底戦車には追い付かないと、いよいよ心が折れそうになったとき、レモニウムの光に照らされた岩の壁面に「れもんギドラちゃんのおウチへの近道」と、レモンイエローのペンキで書かれているのを発見した。そこにポッカリと穴が開いていた。
「シン太郎左衛門、抜け道だ!!」
直径50センチほどの抜け穴を数十メートル這って進むと、再び巨大な洞窟に合流した。そこはドーム状に広がった、学校の体育館ぐらいの空間で、天井は途轍もなく高かった。全体を柔らかな光が包んでいた。
シン太郎左衛門をズボンから出し、肩の上に乗せてやった。二人は驚きの余り言葉を失っていた。
洞窟の天井までうず高く積み上がったレモニウムの山が壁面を覆っていた。そして、そのレモニウムの清らかな光を浴びた巨大な生き物が小さくうずくまっていた。言うまでもなく、れもんギドラちゃんだった。それは、余りにも幻想的な光景だった。
れもんギドラちゃんは怯えていた。そして、怒っていた。これまで誰からも意地悪なんてされたことがない。50年振りに地上に上がってきて、美味しいご飯を目の前にして突然邪魔されて、そりゃ悲しいし、腹も立つだろう。
遠くから戦車の地響が近付いているのが分かった。
「これが、れもんギドラちゃんか・・・大きいなぁ・・・」
私の肩の上に乗ったシン太郎左衛門は、
「うむ。思っていたよりも巨大でござる。しかし結構可愛いですな」
「そうかなぁ〜、俺には、そうは思えんが」
「目が可愛い。キュルっとしたお目々が愛らしい」
私は足下に落ちているレモニウムの粒を何個か拾って、掌の上でボンヤリと光るのを見つめた。
「こんなチョコボールぐらいの小さなモノを一粒食べて50年も頑張れるって凄いよな・・・チョコボールと言えば、俺は人生で一度だけ『金のエンゼル』を当てたことがある」
「れもんちゃんは、ダイヤモンドのエンゼルちゃんでござる」
「全くだ。れもんちゃんもれもんギドラちゃんも、ホントに健気に頑張ってるよな」
「うむ」
「俺、れもんギドラっていうから、頭が3つあるのかと思ったら、違ってた。角の格好からしても、ブラックキングに似てるよ。知ってるか?ブラックキングは強いんだぞ。帰ってきたウルトラマンがヤラれてしまったぐらいだからな」
「・・・父上、この話、今しなければならぬモノでござるか」
「明らかに違うな」
高まり続けていた戦車軍団の物音が止んだ。振り向くと、戦車軍団はすでに我々の視界のうちだった。編隊を組み直して、攻撃準備をしていた。
「やれやれ。役者が揃っちまったな。どっちが悪いって訳でなく、お互い退けない道があるってことだ」
もはや一刻の猶予も許されなかった。
シン太郎左衛門を掴んで、地面に下ろした。
「よし、シン太郎左衛門、変身だ!!シン太郎左衛門マンに変身しろ!!」
「なんですと?もう一度言ってくだされ」
「何度言っても同じだ」
「拙者が、そんなものになれまするか?」
「できる!!やれっ!!なんか叫べば巨大化する」
「真面目な話をしてくだされ。そんな設定、聞いておらぬ。できる訳がない」
戦車軍団は、攻撃準備を整え、機を見計らっているようだった。
「大丈夫。出来る。巨大化して、戦車軍団を洞窟の入り口まで押し返せ。くれぐれも乗組員を傷つけないようにね」
「全く出来る気がせぬ」
戦車軍団がエンジンをふかして前進を再開すると、れもんギドラちゃんが憤然として、ギャオーと吠えた。
「大丈夫。どうせ書くのは俺だ。どうとでもなる。やれ!」
「うむ。では、やりましょう・・・いきますぞ!!・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は、シン太郎左衛門マンに変身した。
「・・・おい!!」
「ん?なにか?」
シン太郎左衛門マンは、小学三年生ぐらいの大きさだった。
「お前、そんなんで、よく全長50メートルの怪獣や戦車軍団の相手をする気になれるな」
「これでも相当背伸びをしたつもりでござるが、まだ足りませぬか」
「全然足らん。れもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の両方から同時に攻撃を受けるんだぞ。もう少し真面目にやれ!」
「では、もう少し頑張りまする・・・れもんちゃ〜ん!!」
シン太郎左衛門は更に巨大化したが、それでも私より幾らか大きいだけだった。
「これが限界。一杯一杯でござる」
「お前!普段から剣術の稽古を怠けているからだ!反省しろ!」
「うむ。反省いたした。かくなる上は、父上が父上マンになるしかありませぬな」
「え〜っ!!それは困る」
「れもん星を救うためですぞ!!」
「れもん星を救うため」・・・その言葉に、これまでの、れもん星での楽しい思い出が走馬灯のように脳裏に・・・蘇ってはこなかった。これまで書いた数々のれもん星の話は、缶バッチがどうの、空気の缶詰がどうの、くだらないものばかりだった。しかし、れもん星は、れもんちゃんの故郷だった。
「しょうがないなぁ・・・おい、これを持っておけ」
シン太郎左衛門にレモニウムのリングを渡した。
「失くすなよ」
れもんギドラちゃんと戦車軍団は、もはや衝突寸前だった。
「よ〜し、やってやろうじゃねぇか。窓際サラリーマンだって、やるときはやるんだ!!南無八幡大菩薩!!そして何より・・・れもんちゃ〜ん!!」
せっかくのスーツは無残に裂けた。薄暗闇の中、私は全長45メートルの、全裸の父上マンに変身した。
そして、「シュワッチ!」と言いながら、激突寸前のれもんギドラちゃんとれもん星防衛軍の戦車軍団の間に飛び込んだ。
途端に戦車軍団の一斉砲射を浴びた。
「痛い、痛い、痛い!!それなりに痛い!!」
私は、中の人たちに怪我を負わせないように戦車を1台丁寧にひっくり返した。
また一斉砲射を浴びた。
「お前ら、ふざけんな!!痛いって言ってんだろ!!」
また戦車を1台ひっくり返した。
激高したれもんギドラちゃんに背後から殴られたり蹴られたりもした。
「痛い、痛い、痛い!!れもんギドラちゃん、落ち着いてくれ!!」
また一斉砲撃を浴びた。
「お前ら、いい加減にしろよ!!子供の頃に円谷プロの特撮を見てないのか?名前の終わりに『マン』と付く巨人に戦車の攻撃なんて、実は大して効かないんだ!ただメチャメチャ鬱陶しい!やめろ!」
さらに戦車をひっくり返していった。
またしても、背後かられもんギドラちゃんの攻撃を受けた。
「れもんギドラちゃん!!あんたの攻撃は本当に痛い!!特に尖ったヒールの先で蹴るのは止めてくれ!!俺は、そういうので興奮するタイプじゃないから」
シン太郎左衛門マンは、私の肩の上で、「赤勝て、白勝て」と、広げた扇子を振り回して踊っていた。
戦車を残らず裏返しにして無力化したのを確認すると、今度は1台ずつ丁寧に洞窟の外に運び出した。全部片付けたときには、全身が汗と埃にまみれていた。
最後の1台を地上に運び出して、洞窟の奥に戻ると、れもんギドラちゃんは、私の意図するところを多少は悟ってくれたように見えた。
私は、シン太郎左衛門、いや、シン太郎左衛門マンに「れもんギドラちゃんに、『迷惑かけて、ごめんなさい。もう心配ないから安心してね。これからも、れもん星を守ってね』、そう古代オチン語で伝えてくれ」
シン太郎左衛門は、難しい顔をして、
「父上マンは、シン太郎左衛門マンの古代オチン語の能力を見くびっておられまするな。拙者、読み書きとリスニング能力は、それなりでござるが、話すとなると、エロいことしか言えぬ」
「・・・お前、何なんだよ!剣術の稽古もサボってるし、古代オチン語も中途半端。『見くびる』も間違えた使い方をしてるし、反省しろ!」
「うむ。反省しきりでござる」
我々の会話を側で聞いていたれもんギドラちゃんが、思い立ったように私に近寄って、レモニウムを一粒渡してくれた。
それは、巨大化した私の掌の上では、仁丹よりも小さく見えた。
「父上マン、れもんギドラちゃんは賢い子でござるな。聞かされずとも、我々の想いを悟ってくれてござる」
「お前は少しれもんギドラちゃんを見習え!」
私はレモニウムをれもんギドラちゃんに差し出すと、
「・・・これは貴重なものだし、気持ちだけもらっておくよ。事情があって、家には持って帰れないんだ。君が食べてね」
れもんギドラちゃんは、レモニウムを受け取ると、
「今は食べない。また50年経ったら食べる。一度に2つも食べると、お腹が痛くなる」と言った。
「そうだね。大事に持っておいてね・・・それから、れもんちゃんが『よろしく』って言ってたよ・・・それと・・・」
私は、シン太郎左衛門マンからレモニウムで出来た王家の指輪を受け取り、れもんギドラちゃんに手渡した。
「これ、次に、れもんちゃんに会ったときに返しておいてくれるかな」
れもんギドラちゃんは頷いた。
帰り道、あちこちで岩を崩して、戦車では通れない程度に道を塞いでおいた。
洞窟の入り口に戻ったときには、疲労困憊の余り、勝手に父上マンから普通の父上に戻ってしまった。シン太郎左衛門マンは何も疲れることをしていないので、大きいままだったから、肩の上に自分よりも大きなヤツに乗られていた私は、顔から地面に倒れ込んだ。
「痛ってぇ〜!!」
その日受けた最大のダメージは、シン太郎左衛門マンによるものだった。
外はもう日が暮れかかっていた。
洞窟の入り口近くでは、ひっくり返して置かれた戦車を元に戻す作業が進められていた。
ロイヤル警備隊の面々は、そんな状況も素知らぬ顔で、引き続き車座になって雑談していた。私は素っ裸だったので、近付いて話をする気にはなれなかった。
今頃、れもん大王さんが、れもん星の偉い人たちに二度とレモニウムの採掘なんて考えないように、きっちり話を付けてくれているだろう。
夕焼け空が広がった。
鼻骨が折れていないか心配になるほど、鼻が痛かったが、そんなことも忘れてしまうぐらいに美しい夕焼け、これまでに見たこともない素敵な、素敵な、れもん色の夕焼けだった。
これからも、れもん星は、のどかで素敵な星であり続けるに違いない。
我々の任務は終った。
目覚ましが鳴った。
私は布団から這い出ると、目覚ましを止めた。全身あちこち痛かった。
取り敢えず立ち上がり、少し気になることがあって、電話器の置かれた棚の方に向かって歩いていった。
電話器の側に二つ折りにして置かれた昨夜のファックスを手に取って広げた。そのとき、電話が鳴り出した。
昨日のファックスの発信者が誰なのか、ぼんやりと分かってきた。用紙の最上部に印刷された発信元の電話番号は、今、目の前でファックスに切り替わった電話、つまり私の家のものだった。そして、「未来Bを救え」の筆跡は、よく考えれば私自身のものだった。送信日は、十年後の昨日だった。
届いたばかりのファックスを手に取った。
そこには、ただ「ありがとう」とあった。十年後のシン太郎左衛門ズからの感謝の言葉だった。
・・・・・
私たちは、これから、れもんちゃんに会いに行く。もちろん、JR新快速に乗って。
この世に永遠なんてないのは分かっている。しかし、我々は今、れもんちゃんの中に永遠と呼んでもよい何かを発見する。
れもんちゃんが宇宙一に宇宙一であることは、会う前から分かりきっていた。
れもんちゃんは、我々の日常に舞い降りた奇跡なのだから。
【劇場版】シン太郎左衛門(『れもん星の危機!!未来(フューチャー)Bを救え!!』) 様ありがとうございました。