結論、最高でした!
凄く細くて僕の好み以上だったので嬉しかったです!
それにとても感度が敏感だったので楽しかったです!
また会いに行きます。
本日はありがとうございました!
神戸大好き!様ありがとうございます。
最高の時間でした!!
この1週間、仕事でクタクタだったけど、たくさんエネルギーをもらえました!
プレイも絶妙!トークも爆笑させてもらえました。ややこしい客だけど、もし良かったらまた相手して下さい!!
ナカマヤ?笑様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。れもんちゃんから、最近のクチコミはシン太郎左衛門の出番が少ないね、と指摘された。私自身、気が付いてはいたものの、れもんちゃんから指摘を受けては、反省しない訳にはいかなかった。
先週の月曜日。つまり、普通の出勤日。
旧社屋の『ミックスグミ』のメンバーたちは朝からオバケちゃんゴッコを始めた。
「オバケちゃんゴッコ、楽しいよ〜。れもんグミちゃんも一緒にやった方がいいよ〜」と誘われたが、「俺はいい。ルールが理解できないから」と断った。
「簡単だよ〜。見てたら分かるよ〜。楽しいよ〜」
「いや、いい」
私自身、毎日、暇を持て余していたので、度々『オバケちゃんゴッコ』の様子は観察してきた。誰かが「オバケちゃんだぞ〜」と言うと、他のグミたちはそれに応えて、「僕もオバケちゃんだよ〜」とか、「オバケちゃん、怖いよ〜」とか、好き勝手なことを言って、勝ち負けを競うのだが、何度見ても、勝敗のルールが理解できなかった。
『オバケちゃんゴッコ』から一人距離を置いて、私はオフィスの窓から外の景色を眺めていた。すると、新社屋の方から歩いてくる一人の老いた男性の姿が目に入った。我が社の社長だった。
「また、イチゴグミちゃんの勝ちだよ〜」
「7連勝だよ〜」
「イチゴグミちゃんは『オバケちゃんゴッコ』の名人だよ〜」
とか言い交わしながら、楽しそうにしていたグミたちだったが、ドアが開き、社長が入ってくると、大慌てで「社長ちゃんが来たよ〜!怖いよ〜!」と叫びながらオフィスの中を逃げ惑った。
社長は威厳に満ちた表情で、他のグミを無視して、私の方に寄ってくると、
「僕は社長ちゃんだよ〜。助けてほしいよ〜」
「私は、仮面ライダーV3ちゃんだよ〜。『あ〜かい、あか〜い、赤い仮面のV3。ダブルハリケーン、命のベルト・・・』がテーマソングのV3ちゃんだよ〜」
「知ってるよ〜。助けてほしいよ〜」
「『敵は地獄のデストロン』だよ〜」
「それも知ってるよ〜。でも、助けてほしい理由は、デストロンとは関係ないよ〜」
「じゃあ、助けないよ〜」
「そんなこと言わず、助けてほしいよ〜」
社長の話は、以下のようなことだった。
社長の奥さんが知り合いからプードルを1週間預かって欲しいと頼まれ、トイプードルを想像して気軽に引き受けたが・・・
「昨日、ゴルフから家に帰ってビックリしたよ〜。想像したのと違う、黒くて、でっかいプードルちゃんが家にいたよ〜」
「それはきっとスタンダード・プードルだよ〜。可愛いよ~」
「可愛いけど、馬鹿デカいよ〜。散歩が大変過ぎるよ〜。助けてほしいよ〜」
聞けば、昨夜、社長の奥さんが、初日の散歩で、いきなり駆け出したプードルに高級住宅街の並木道を引き摺り回されて、かなりの怪我を負ったらしい。1日、2回、各1時間の散歩が欠かせないと聞くが、夫婦二人暮らしだから、奥さんが『二度とこの子の散歩はイヤです』と言っている以上、今日から社長自らが散歩させるしかなく、そんなことが出来る自信は微塵もない・・・
社長は当初の威厳はどこへやら、訴えるような目で私を見つめていた。
「ふ〜ん。つまり、社長は俺たち『ミックスグミ』に犬の散歩を頼みたいと、そういうことだな?」
「そうだよ〜。助けてほしいよ〜」
「分かった。助けてやろう。れもんグミちゃんは優しいよ〜。れもんちゃんは宇宙一優しいよ〜」
「ありがとうだよ〜。御礼はするよ~」
「気にしないでいいよ〜。『ミックスグミ』は暇人ぞろいだよ〜。早速連れてきていいよ〜。一緒にシマリスちゃんも連れてきたらいいよ〜」
社長が嬉しそうに出ていくと、それまでオフィスの隅で小さくなっていたグミたちは、ワラワラと私の周りに集まってきて、
「社長ちゃんを怖がらないなんて、れもんグミちゃんは凄いよ〜」と尊敬の眼差しを向けた。
「当然だ。それはそうと、我ら『ミックスグミ』に一つのミッションが与えられた」
「『わ〜い』だよ〜。暇過ぎて死にそうだったよ〜」
「犬の散歩だ」
「ワンちゃんは可愛いよ~。頑張るよ〜」
「よし、頑張れ。俺はシマリスの相手をする」
1時間ほどして、社長がシマリスとプードルを連れて戻ってきた。旧社屋の前に停められた車から勢いよく跳び出してきた黒いスタンダード・プードルにグミたちは大喜びだった。
シェリーちゃん(メス3歳)の愛らしい姿に、
「可愛いよ~」「モコモコだよ〜」「フワフワだよ〜」などの歓声をもって迎え、ドッグフードやオヤツなども受け取って、グミたちはオフィスに帰っていった。社長は、シマリスのケージを私に渡すと、シマリスの飼育上の注意点をくどいぐらい丁寧に説明した。そして、シェリーちゃんの飼い主が書いたと思われるプードルのお世話に関する簡易なマニュアルを差し出して、「これを『ミックスグミ』のみんなによく読ませておいて欲しいよ〜。5時過ぎに迎えに来るから、絶対にシェリーちゃんに1時間の散歩を2回させておいて欲しいよ〜」
「分かった。安心しな」
私がシマリスを観察している間にグミたちは、手際よく餌入れや水の器をセットした。シェリーちゃんもあっと言う間に彼等と馴染んだ様子だった。
私はシマリスに「君には、何か芸の1つもないのか?」と尋ねたが、特に何もしようとはしなかった。確かに可愛かったが、それだけだった。
グミたちは、シェリーちゃんにリードを着けると、「お散歩に行ってくるよ~。お留守番ちゃんを頼んだよ~」と11人がゾロゾロと揃って出ていった。
一人で部屋に残されると、シン太郎左衛門に話しかけた。
「おい。一緒にシマリスを観察しないか?」
ズボンのチャックが内側からスルスルと開いて、シン太郎左衛門が飛び出してきた。
「なるほど。これが、シマリスという生き物でござるか」
「そうだ。社長の自慢のシマリスだ」
「なるほど・・・日頃、れもんちゃんと懇意にしてもらっているゆえ、拙者、シマリスぐらいでは特に可愛いとも思えぬ。シマリスサイズのれもんちゃんなら大いに喜べたと思いまする」
「シマリスサイズのれもんちゃんか・・・それはステキだ。家に豪華なドールハウスを作って、三食ご馳走を用意して、もてなそう」
「それより、家全体をシマリスサイズのれもんちゃんにお使いいただき、父上は玄関先に段ボールの家を作り、そこで暮らしなされ」
「それでもいいよ」
シマリスにヒマワリの種をやると、嬉しそうに頬袋に貯めていった。
「これぐらいにしておこう。『ヒマワリの種をあげ過ぎちゃダメだよ〜』と社長が言っていたからな」
そんな他愛のない時間を過ごしていると、入り口の方から慌しい足音が響いてきて、コーラグミがオフィスに駆け込んできた。
「大変だよ〜!イチゴグミちゃんが、ワンちゃんにリードでグルグル巻きにされて、道を引き摺られてるよ〜!」
「ふ〜ん。俺は今シマリスの観察に忙しいから後にしてくれないかなぁ」
コーラグミは、その場でハアハアと荒い息を整えると、
「大変だよ〜!イチゴグミちゃんが、ワンちゃんにリードでグルグル巻きにされて、道を引き摺られてるよ〜!」
「それ、さっきも聞いた」
「ワンちゃん、牛みたいな力持ちだよ〜。大変だよ〜」
「それは何よりだ。みんなで力を合わせて頑張ってくれ」
コーラグミは、それでもしばらく私をジッと見つめていたが、まったく頼りにならないと諦めて、「大変だよ〜」と言いながら、オフィスから去っていった。
「まったく使えん奴らだよ」
シマリスの観察にも飽きたので、椅子に座って、ウツラウツラしていると、またドタバタと靴音を響かせて、コーラグミが駆け込んできた。
「大変だよ〜!メロングミ1号ちゃん・2号ちゃん、二人まとめて、リードに巻かれて引き摺られてるよ〜!」
「お前ら、大の大人が11人もいて、なんてザマだ!みんなで協力して頑張れって言ってんだろ!」と怒鳴り付けて追い返した。
きっとまた戻ってくるんだろうなぁと考えていると、案の定5分と経たぬ間に、コーラグミが駆け込んできて、
「大変だよ〜!僕以外のグミちゃんたちが全員リードに巻かれて引き摺り回されてるよ〜!もう誰にも止められないよ〜!黒くてデカいプードルちゃん、怖いよ〜!」
「お前ら、何をやってるんだ!少しは頭を使えよ。例の歌は試したのか?」
「・・・『例の歌』って言われても分からないよ〜」
「『元祖れもんちゃん音頭』に決まってるだろ。お前らも、この前歌ってたじゃないか。宇宙一に宇宙一のれもんちゃんの力を借りて、シン太郎左衛門大先生が世界平和と五穀豊穣を願って作った尊い歌だぞ。『元祖れもんちゃん音頭』を歌って聴かせれば、昂ったシェリーちゃんも穏やかな心持ちになるに決まってる」
「・・・」
「キサマ、信じてないな!この無礼者め!困ったときの『れもんちゃん頼み』だ。さっさと戻って、確かめてみろ!」
「分かったよ〜。やってみるよ〜」
それから1時間以上経ったが、連中は戻ってこない。2時間近く経って、いよいよ『ミックスグミ』は全滅したのかと思っていると、遠くの方から『元祖れもんちゃん音頭』の大合唱が聞こえてきた。窓の外を眺めると、シェリーちゃんを先頭に、『ミックスグミ』のメンバーたちが楽しそうに歌いながら帰ってくるのが見えた。
「楽しかったよ〜」とオフィスに入ってきたグミたちは、コーラグミを除いて、全員スーツがボロボロになっていた。
楽しく過ごした1週間。そして、金曜日の夕方、シェリーちゃんとの最後の日、グミたちは大泣きに泣いて、別れを惜しんでいた。そして、シェリーちゃんとシマリスの乗った車を、泣きながら『元祖れもんちゃん音頭』で見送った。
そして、今日は日曜日。世に言うところの、れもんちゃんデー。JR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
当然れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「ああ、そうだ。ちょっとした事件があったせいで、やっと職場の同僚たちが、れもんちゃんの偉大さを理解したんだよ」
「そうだったんだね」
「うん。お陰で我々の部署の名前は、当初の私の希望どおり『れもん組』に変更されたよ」
「希望どおりになって、よかったね」
「うん。でも、いいことばかりでもないんだよ。これまで、『イチゴグミ』とか『メロングミ』と名乗っていたヤツらが全員『れもんグミ』に名前を変えるって言い出して、12人全員が同じ名前になったから、とっても紛らわしいんだ」
私の職場の状況が飲み込めなかったのか、れもんちゃんは一瞬困惑した表情になったが、「・・・それは、きっと大変だね」と、それはそれは優しく微笑んだのだった。
この話に結論めいたものがあるとすれば、『嫌なことがあったら、れもんちゃんに会いに行ったらいい。嬉しいことがあったら、やはり、れもんちゃんに会いに行くのがよい』、きっとそういうことなのだと思う。
そして、今回もシン太郎左衛門は出番が少なかった。
シン太郎左衛門とシマリスとでっかいプードル 様ありがとうございます。
写真どおりスタイル抜群・綺麗で、音楽演奏とジグソーパズルの共通の趣味が合って、楽しい一時を過ごせました。
また、近々お会いしましょう
福田様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。先週、れもんちゃんにもらったクチコミのお題が余りにも難度が高く、手も足も出ない。今回も適当に書くよりほかない。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。
昼前まで寝て過ごした。どうにか気持ちを奮い起こして布団を出て、服を着替えていると、シン太郎左衛門が、
「父上、お出かけでござるか」
「うん。4月に変な部署に異動させられてから、めっきり食欲が無くなって、駅前の中華屋に頼りっきりの毎日だったが、たった今、外食ばかりの食生活を改めることを決意した。これから駅前スーパーに行って、食べ物を買う」
「拙者もお供いたしましょう」
シン太郎左衛門は、嬉しそうにセクシー・バニーのコスチュームを着始めた。何度見ても、セクシー・バニー左衛門には、見慣れることが出来ない気持ち悪さがあった。
「普通にズボンの中に収まっていてほしいなぁ」
「そういうわけには行かぬ。駅前スーパーでの買い物は、拙者の晴れ舞台でござる。当然、セクシー・バニーちゃんでなければならぬ」
「それが、ホントに武士のセリフとして妥当なのかね?」
「うむ」
「セクシー・バニーは、エコバッグから出せないからね。ズボンの中で大人しくしてるのと一緒だよ」と念を押したが、シン太郎左衛門に動じる様子はなかった。
セクシー・バニー左衛門を入れたエコバッグを肩に掛けて、家の外に出た。雨がザーザー降っていた。
約二ヶ月ぶりの駅前スーパーは、雨の日にも似ず、とても賑わっていた。
「随分繁盛してないか?」
エコバッグの中から「父上、国道沿いの大型スーパーが4月末に撤退致したこと、ご存知ないか」
「そうだったの?この前出来たばかりじゃないか。もう潰れちゃったんだ」
「明太子シスターズを甘くみたのが、失敗の元でござる」
「明太子シスターズと言っても、お姉ちゃんの方は高校3年になって受験が控えてるんだろ。もうバイトはしてないんじゃないか?」
「ところが、そうではござらぬ。先日、電車くんが言うておった。明太子ちゃんは愛嬌は100点満点なものの、勉強は同級生に周回遅れで、両親が高校の三者面談に行くのを嫌がって、電車くんと妹ちゃんが同席しているとのことでござる。受験など無縁の世界で楽しく頑張っておる」
「まあ、それも悪くないよ」
「一方、妹ちゃんは成績も上々とのことでござる」
「・・・お前、色んなことを知ってるな」
「うむ。拙者、色んなことを知っておる」
店内をウロついていると、特設コーナーから聞き覚えのある若い女性の声がしてきた。
特選和菓子、美味しいよ〜
モナカに羊羹、ワラビ餅
どらやき、大福、串ダンゴ
どれを食べても美味しいよ〜
・・・
「あの声は・・・明太子ちゃんじゃないか?」
「うむ。周回遅れの明太子ちゃんでござる」
「お前、それ、当人の前では絶対言うなよ」
「心得ておる」
個数限定の上生菓子セットもありますよ〜
れもんちゃんも、はしゃぎ出す
美味しい、美味しい和菓子ですよ〜
「和菓子か・・・。和菓子は俺の好みだが、れもんちゃんが和菓子好きだなんて、聞いたことあるか?」
「ない」
「ないよな。れもんちゃんはグミ博士だ」
「うむ。和菓子をムシャムシャ食べているれもんちゃんは想像できぬ」
「いや、ムシャムシャは食べんだろ。れもんちゃんは、和菓子もグミも、それはそれは可愛く食べるのだ」
案の定、特設コーナーには明太子ちゃんが立っていた。
「明太子ちゃん」と声をかけた。
明太子ちゃんは明るく笑って、
「あっ、オジさん!久しぶり〜!最近見ないから、死んだのかと思ってたよ」
「まだ死んでないよ」
「この前、オジさんのカッパさんに道で会ったよ。神戸に行くって言うから、新快速に乗せてあげたよ」
「そうだったね。ホントに助かったよ。カッパ左衛門とは無事に神戸駅の近くで会えたよ」
「そうなんだ。よかった」
明太子ちゃんは、清々しい笑顔で相変わらず元気だった。
「明太子ちゃん、元気そうだね」
「うん。元気だよ。それと、今日は明太子ちゃんじゃないよ。和菓子ちゃんなの」と、明太子ちゃん、いや、和菓子ちゃんは、特設コーナーに飾られたノボリを指さした。
『甘味処 味自慢 特選和菓子』と染め抜かれたノボリを見ながら、私の口は勝手に、「和菓子ちゃんだよ〜。美味しいよ〜」と言っていた。
和菓子ちゃんはポカンとした顔で私を見ながら、「・・・それ、どういうこと?」
「ゴメン、ゴメン。癖なんだ」
「変わった癖だね。久しぶりだし、張り切ってオマケするから、張り切って買ってね」
「分かった。美味しい和菓子なら、張り切って買うよ。美味しくなかったら、張り切らない。これまで隠してきたけど、実は、私は和菓子マンなんだ」
「えっ!そうなの?」
「うん。そう」
「そうだったんだ・・・で、『和菓子マン』って、何?」
「・・・そう改まって訊かれると答えにくいけど、要は『和菓子好き』ってことだね」
「な〜んだ。普通に言えばいいのに」と笑われた。
「『な〜んだ』とはなんだ!」とムキになって言い返しそうになったが、どう考えても大人げないので我慢した。気を取り直して、
「で、どれがオススメかな?」
「どれも美味しいけど、イチオシは水羊羹だよ」
私は思わず、「水羊羹ちゃん、美味しいよ〜」
「うん。とっても美味しいの。沢山買ってね。キンツバもあるよ」
「キンツバちゃんも美味しいよ〜」
「うん。美味しいの。みたらし団子もあるの」
「『わ〜い』だよ〜。みたらし団子ちゃんも美味しいよ〜」
「特にオススメはオハギだよ」
「オハギちゃんだよ〜。美味しいよ〜」
「・・・オジさん、大丈夫?」
「・・・ゴメン。つい興奮してしまった」
和菓子ちゃんは、少し呆れた様子で、でも嬉しそうに微笑んだ。
結局、馬鹿みたいに沢山の和菓子を買い込んでしまった。
エコバッグは途轍もなく重かった。傘を片手にゼイゼイと息を切らしながら坂を登り、とても一人で食べ切れる量ではなかったので、自宅に戻る前に、隣の家のインターホンを鳴らした。
ドアを開けて出てきた金ちゃんママに、
「お待ち兼ね、特選和菓子のお裾分けだ。これはオハギだ。美味しいよ。これは水羊羹だ。美味しいよ。これは・・・切りが無いな・・・全部まとめて和菓子だ。個数限定の上生菓子セットもあげる。全部まとめて美味しいよ〜」
金ちゃんママは目を丸くして、
「こんなに沢山の和菓子、どうされたんですか?」
「別に盗んだモノじゃない。調子に乗って買いすぎただけだ」
「でも、ウチは3人家族で、こんなに食べ切れないですよ」と金ちゃんママは呆れ顔だった。
「甘えたことを言ってはいけない。私は同じ量を一人で食べなければならないのだ。四の五の言わず、食べなさい。お仏壇に供えて、御先祖様たちにも手伝ってもらいなさい。消費期限は明日だ」
まだまだ十分に重たいエコバッグにフラつきながら、私は家に帰っていった。ズボンの裾は雨でビショビショになっていた。
そして今日は日曜日。れもんちゃんデー。
朝起きると、昨日に続いて和菓子をムシャムシャ食べ出した。大好きな和菓子も限度を越えると、味覚も麻痺し、変な汗が止まらなかった。
これ以上食べると、大事なれもんちゃんとの時間に支障が出そうなので、適当な所で切り上げて、JR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
これだけ甘いモノに食傷していても、れもんちゃんのスイートネスは全くの別次元だった。れもんちゃんは、それほどまでに宇宙一に宇宙一なのだ。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「昨日から飛んでもないの量の和菓子を食べてるんだ」
「どれぐらい食べたの?」と、れもんちゃんが訊くので、オハギが18個、みたらし団子が24串・・・といった具合に説明すると、呆れた様子で、
「それはダメだよ。致死量を超えてるよ。急性甘いモノ中毒で死んじゃうよ!」と叱られた。
「反省した方がいい?」
「当然だよ〜」
私は、しょんぼり反省しながらお店を後にし、神戸駅までの道々、『まあ、結局のところ、史上最強の甘味処も、史上最強の味自慢も、れもんちゃんなんだよなぁ』と考えているのであった。
シン太郎左衛門と和菓子ちゃん(あるいは『父上が色んな人から呆れられる話』) 様ありがとうございます。
めるさんとは初めて入りました。泡洗体してもらって自分の感度が上がって、めるさんも感度抜群な反応してもらったので相乗効果で果ててしまいました。感度の高い姫はあそこを介して自分にも伝わるので、良い姫さんですね
時間が合ったらまた指名したいですね。
修行僧様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
れもんちゃんに今回のクチコミのお題をもらうのを忘れていた。何を書いたらよいか分からないので、適当に書く。
先の水曜日、昼前、ある件で社長に直談判をするため新社屋に出向いた。
迫る〜ショッカ〜
地獄の軍団
我らを狙う黒い影
世界の平和を守るため・・・
と、「仮面ライダー」のテーマソングを歌いながら、エレベーターで5階まで上がると、安っぽい絨毯が敷かれた廊下をドカドカ進み、「ライダーキック!!」と叫び、社長室のドアを蹴りつけたが、非力な私のキックぐらいではビクともしなかった。
やむを得ず、社長室のドアを手で開けて、「仮面ライダーちゃんだよ〜」と、颯爽と登場したが、ソファーに座った3人の来客が一斉に私に視線を向けたので、恥ずかしさのあまり凍りついた。ただ、経験上、こういうときは堂々と振る舞った方が恥ずかしさが緩和されるので、眉間にシワを寄せ、藤岡弘ばりの太い声で、
「社長、地獄の軍団ショッカーのイカデビルを見かけませんでしたか?」と尋ねた。
社長が苦々しさを噛み殺しながらも、
「イカデビルなら、さっきトイレにいた」と付き合ってくれたので、
「イカデビルめ!個室のドアを開けっ放しで、気張ってたんですね?よし。ヤッつけてきます!」と勢いよく部屋を飛び出して、その足で秘書室の女性社員Sさんにチョッカイをかけに行った。Sさんは20年ほど前までは大層な美人だった(もちろん、れもんちゃんには到底及ばない)し、今でも、ショッカーの怪人、蜂女ぐらいには色気を留めていた。
「今、社長室に来てるお客さんは何者?モグラングにソックリなのがいたけど」
Sさんは苦笑いを浮かべ、
「また、そういうことを言う。モグラングって、仮面ライダーの怪人?」
「うん。モグラングは強いんだ。ライダーキックが効かないからね。困ったもんだよ。まあ、それはいいとして、お客さんが帰るまで、ここで待たせてもらおう。なんか和菓子ない?」
「羊羹があるわよ」
「それは素晴らしい。厚めに切ってね。お茶は濃いめに淹れてね」と、誰のモノとも分からない空いてる席に腰を降ろした。
20分ほど待たされた。羊羹のおかわりを断られて不貞腐れていると、客人たちが帰っていったので、社長室に突撃した。
「随分待たされたよ〜。仮面ライダーちゃんだよ〜」
「ゴメンだよ〜。僕は社長ちゃんだよ〜。会社の中をイカデビルがウロウロするようになったら、この会社も終わりだよ〜」
「大丈夫だよ〜。ヤッつけといたよ〜」
「ありがとうだよ〜」
「代わりにお願いがあるよ〜」
「羊羹のおかわりはあげないよ〜」
「そんなことじゃないよ〜。部署の名前を変えたいよ〜」
「変えてもいいよ〜」
「『福岡組』を止めて、『れもん組』にするよ~」
「いいよ~。でも、みんなの意見を聞かないとダメだよ〜」
「分かったよ~。ウチのみんなは何組だろうが関心ないよ〜。でも、一応確認するよ~」
社長室を勢い込んで飛び出すと、
ゴー!ゴー!レッツゴー!
輝くマシン・・・
と、「仮面ライダー」のテーマソングの続きを歌いながら、全速力で旧社屋に飛んで帰ると、みんなを集め、
「この部署の名前を『れもん組』に変えたいけど、いいよね?」と訊いた。
安易に考えていたが、部署名変更は、そんなに甘いモノではなかった。私の問い掛けに対し、一斉に、
「レモン組?僕は、メロンちゃんがいいよ~」
「僕は、断然ミカンちゃんだよ〜」
「僕は、パイナップルちゃんにするよ~」
などなど、意見が百出し、全く収拾の見通しが立たない展開になった。
「いや、俺は好きな果物を選べなんて言ってないから。君たちが何と言おうと、この場面、れもんちゃん以外の選択肢はないの」
「レモンちゃんは酸っぱいよ〜。メロンちゃんは甘いよ〜」
「ミカンちゃんも甘いよ〜」
「いや。違うんだって。俺の言ってる『れもんちゃん』は、カタカナじゃなく、ひらがなだから。果物の話じゃないから」
「コーラちゃんも甘いよ〜」
「お汁粉ちゃんも甘いよ〜」
「いやいや。お前ら馬鹿かよ。この部署の名前は今日から『れもん組』だからな!」
「いやだよ〜。メロングミだよ〜」
「ミカングミがいいよ~」
「コーラグミだよ〜」
「イチゴのグミも美味しいよ〜」
「誰がグミの話をしてんだよ。この部署の名前だって言ってんだろ」
結局、多勢に無勢で、私の主張は全く通らなかった。
危うく「お前ら、揃いも揃って、れもんちゃんの凄さが全然分かってない!俺のクチコミ(クラブロイヤルのオフィシャルサイト限定)を読め!れもんちゃんは、宇宙一可愛いだけじゃなく、宇宙一の〇〇〇(自己検閲済)なんだぞ!!」と喉まで出かけたが、これを言ってしまうと、話が益々ややこしくなりそうで、グッと我慢した。
その夜、家に帰ると、シン太郎左衛門はグッタリしている私を見て、
「父上、今日もお疲れでござるな」
「うん・・・俺の部署が、いよいよ変な名前になってしまった」
「ほほう。どんな名前でござるか」
「『ミックスグミ』だ」
「なんと!まるで売れないアイドルユニットのような名前でござるな」
「だろ?ウチの連中、それぞれ好みがバラバラで、みんな拘りが強くて、どうにもまとまらなかった。俺は、『れもん組』にしたかったのに・・・」
「では、父上は『ミックスグミ』の組長でござるか」
「そうじゃない。役職とか、そういうものは廃止されて、俺は単に『れもんグミ』と呼ばれることになった。みんなそれぞれ『イチゴグミ』とか『コーラグミ』とか『パイングミ』とか好き勝手な名前を名乗ることになった。『メロングミ』は二人いる」
「それで、全員まとめて『ミックスグミ』・・・」
「そうだ。みんな50を越えたオッサンだ」
「まさか、それで名刺も作る?」
「そうだ。オマケにイラスト入りだぞ。これを見ろ」
私はジャケットのポケットから小さな紙片を出して、シン太郎左衛門に見せた。
「とても絵の上手いヤツがいて、そいつが描いたレモンのイラストだ。俺は、これを使う」
「これは、中々の出来映えでござるな」
「可愛いだろ?」
「・・・父上・・・真面目に生きてる?」
「そう疑われてもしょうがないよ。どう考えても、そんな名刺配れないしな。でも、今のところマトモな仕事もないし、まあ、いいよ」
「なんと・・・」
「今更転職も出来んしな。でも、『れもん組』の組長がよかったな〜」
「うむ。しかし、『れもん組組長』は全国5000万人のれもんちゃんファンの代表であるかの如き肩書きでござる。父上には荷が重すぎまする」
「なるほどね。言われてみれば、そうかもね。れもんちゃんは宇宙一可愛いだけじゃなく、宇宙一の〇〇〇(自己検閲済)だからな」
「その上、れもんちゃんの〇〇〇(自己検閲済)は〇〇〇〇(自己検閲済)でござる」
「そうなんだよな〜。れもんちゃんの〇〇〇(自己検閲済)は、ずば抜けて〇〇〇〇(自己検閲済)なんだよな〜」
「父上、この調子で話をしていて、大丈夫でござるか」
「大丈夫だが、ほぼほぼ伏字になるな」
「じゃあ、ダメじゃん」
「クチコミって制約が多いからな。その枠の中で、俺に出来ることはやり尽くしたよ。れもんちゃんにアイデアをもらわないと、これから毎回こんな情けないレベルになる」
そんな話をした。
そして、今日は日曜日。言わずと知れた、れもんちゃんデー。
JR新快速、夢の世界への超特急、スーパーれもんちゃん号に乗って、れもんちゃんに会いに言った。
言うまでなく、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、素晴らしすぎて、伏字だらけだった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「先週の水曜日、社長室のドアを蹴ったせいで、今も膝が痛むんだ」
「ダメだよ。ドアは優しく開けた方がいいよ~」
「ホントにそうだよね。ところで、いつも申し訳ないんだけどさ、来週のクチコミのお題をお願いしてもいいかな?」
「いいよ~。う〜ん・・・そうだ。れもんは、出勤中にお腹が減ると、グミを食べるんだよ。だから『シン太郎左衛門とグミ』の話はどうかなぁ?」
「グッ、グミ?・・・分かった・・・考えてみるよ・・・グミ、美味しいよね」
れもんちゃんは、それはそれは可愛く頷いてくれた。しかし・・・
どう考えても、2回も続けて、グミの話は書けそうになかった。
でも、れもんちゃんは、グミのことなら何でも知ってるグミ博士だよ〜!!
シン太郎左衛門と『ミックスグミ』 様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
前回のクチコミに書いたとおり、れもんちゃんの無邪気な発言により、急遽JRのダイヤ改正がされ、朝夕の通勤時間帯の新快速は廃止、すべて普通になった。更に最高速度を従来比50%にすると発表された。お陰で私は毎朝始発の普通電車に乗り、長い時間をかけ職場に通うこととなった。オマケに終業時間と同時に職場を飛び出さないと、駅前の中華屋の営業時間に間に合わなくなった。
早朝の駅のホームでも、みんなブーブー文句を言っていたが、事情を知っている私は黙って我慢するしかなかった。
れもんちゃんの言葉は、かくも絶対なのである。
ゴールデンウィーク明けの水曜日の朝、私は4時台に目を覚まし、バタバタと身支度をして、〇〇駅に向かってまだ薄暗い街路を疾走していた。
シン太郎左衛門は「父上、一体何が起きたのでござるか。まだ夜は明けておりませぬぞ」
「分かってる。今は話をしている時間がない。説明は後だ」
始発の普通電車に飛び乗って、席に腰を降ろすと、ハンカチで額や首周りの汗を拭ったが、汗が止まらなかった。
「悲惨だ・・・これから毎朝これか・・・」
「父上、これは一体何の騒ぎでござるか」
「れもんちゃんだ。前回のクチコミで、れもんちゃんが、別に転勤になったわけでもないのに、私の通勤時間が長くなったという設定をしたから、JR西日本が新快速を廃止して、辻褄を合わすという荒業に出たのだ。お陰で俺は今日から始発の各駅停車に乗らなければ遅刻するという厳しい環境に置かれた」
「うむ。れもんちゃんの命令は絶対でござる」
「そうだ。それに加えて、俺はこれからウトウトして、れもん星に行く夢を見なければならない」
「それも、れもんちゃんの申し付けでござるか」
「そうだ。ただ、普通に寝たのでは、そう都合よくれもん星には行けんからな。例の魔法を使うしかない」
「いかにも。しかし、魔法を使って夢を見るのであれば、わざわざ長い通勤時間を持ち出す理由がどこにございまするか」
「おい!お前、れもんちゃんを批判する気か?」
「そんなつもりはござらぬ。ただ論理的に無理がござろう」
「そんなことは些細なことでしかない。れもんちゃんの素晴らしさは論理的な説明を必要としない。れもんちゃんは宇宙一可愛く、宇宙一の〇〇〇(自己検閲済)だ。これは論理を超えた単純な事実だ」
「うむ。間違いござらぬ」
「では、我々はこれから長すぎる通勤時間ゆえに寝てしまおう」
「かしこまってござる。我ら、まったく寝る気もないのに、唱えたら確実に眠りに落ち、れもん星に行ってしまう呪文を唱えましょう」
「・・・まあ、いいや。いくぞ」
我々は『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん・・・』と呪文を唱えた。
そして・・・
「おい・・・ここは、どこだ?」
「知らぬ。それは、れもんちゃんの設定次第でござろう」
「れもんちゃんは、細かいことを問題にする娘ではない。『通勤時間が長くなったから電車でウトウトして、れもん星にワープしてしまう』というのが、れもんちゃんからのお題であって、『れもん星のどこ』という指定はない」
「で、ここはどこでござるか」
「それは元々俺の質問だ」
照明が消されているので、はっきりとは分からなかったが、窓から入る薄明かりに浮かぶ情景からは、まだ誰も出勤していない会社のオフィスと思われた。
「灯りを点けてくだされ」
壁に埋め込みのスイッチがあったので、押してみた。部屋の照明が点灯した。
「ここは・・・」
「どこかの会社のオフィスでござるな」
「ここは、我が社の旧社屋だよ〜。福岡組ちゃんのオフィスちゃんだよ〜」
「おお、それでは、早々、職場に到着でござるな」
「通勤時間を短縮してどうすんだ!通勤時間を伸ばすのが、れもんちゃんの命令だぞ。それに、ここは、れもん星でもないし。何かの手違いだ。一旦起きるぞ」
「うむ。残念でござる」
二人は目を覚ました。
電車はまだ一駅も進んでいなかった。
我々は再び『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん・・・』と呪文を唱えた。
そして・・・
「おい、ここは俺の家じゃないか」
「さすがに電気が点いてなくとも分かる。我が家のリビングでござる」
「家に帰って、どうすんだよ」
「また手違いでござるな」
「・・・起きよう」
次も似たようなものだった。
「あっ!ここは俺が卒業した小学校だ。俺のいた頃は1クラス50人以上で6クラスあったんだが、今は30人足らずのクラスが2つしかないって話だぞ・・・そんなこと、どうだっていいや。起きよう」
「うむ。一旦起きましょう」
二人は首を傾げて、
「おかしいなぁ。この魔法で、これまでは確実に、れもん星に行けたのに、今朝は、れもん星どころか、日本から出れない」
「我々の気合いが足らぬのでござろうか」
「そうかもしれん。もっと気合いを入れてみよう」
歯を食いしばり、コメカミに青筋を浮かべながら、真っ赤な顔で、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん!!・・・」と10回唱えると・・・
「おお、エジプト古代王朝の遺跡でござるぞ!」
「よし、大躍進だ!取り敢えず日本から出れたぞ。それにしても、スフィンクスって大きいなぁ・・・でも、れもん星じゃないから意味がない。起きよう」
次は、サバンナで野生のアフリカ象に出会った。シン太郎左衛門は大興奮だった。
万里の長城やナイアガラの滝にも行った。
ローマのコロセウムやギリシャのパルテノン神殿も訪れた。
我々は電車の中で呪文を唱えては、地球上のアチコチに出没して、すぐまた起きて、また呪文を唱えて別の場所に飛んでいった。
我々の乗る電車は、まだ京都にも着いていなかった。
「まだ京都の手前かぁ。俺たち、電車の旅にしては、ずいぶん色んなところに行ったな〜」
「軽く50ヶ国は訪れた。短時間ではござったが、沢山の世界遺産を見学いたした」
「ブラジルでサンバも踊ったし、韓国でテコンドーの体験レッスンも受けた」
「父上は何をやらせても、すぐに息を切らして『死にそうだ』と嘆いておるばかり・・・さっさと目を覚まして、切り上げればよいものを」
「行きがかり上、余り素っ気なくも出来んかった」
「楽しかったから、よしと致そう。野生の北極グマにもアフリカ象にも出会った。野生のベンガル虎には食われかけた。野生の動物たちとの触れ合いは実に楽しい」
「お前こそ、さっさと切り上げればいいものを、長々と動物たちと戯れおって」
「拙者、動物好きでござる。いずれにせよ、様々な体験が盛り沢山で、通勤時間の長さの演出は完璧でござった。しかし、肝心のれもん星には、どうしても辿り着けぬ」
「俺は世界一周の旅がしたいんじゃない。れもん星に行って、れもんちゃんとの約束を果たしたいだけだ・・・もしかしたら、呪文が違ってるんじゃないか?『キリンれもん、キリンれもん』じゃなくて、『ママれもん、ママれもん』じゃなかったっけ?」
「うむ。言われてみれば、そんな気も致しまする。『ポッカれもん、ポッカれもん』だったかもしれぬ。最近使わなんだから、よく分からぬようになった。まずは、『ママれもん』から試してみましょうぞ」
「そうしよう。いくぞ。ママれもん、ママれもん、ママれもんちゃん・・・」
呪文を唱えてみたが、目に見えて、何も起こらなかった。
「これはダメだ。もしかしたら、家の食器がピカピカになっているかもしれんが、眠ることさえできない」
「次のを試しましょう」
『ポッカれもん』は、口の中が酸っぱくなっただけだった。
全身に疲労感が蓄積されていた。
「もうクタクタだ。取り敢えず一眠りしよう」
座席の背凭れに身を委ね、目を閉じた途端、我々は眠りに落ちていた。どんな夢を見たか、全く記憶がない。
目を覚ましたときには、数駅乗り過ごしていて、職場には30分以上遅刻してしまった。
重たい身体を引き摺るようにオフィスに入ると、福岡組のみんなが、
「『おはようちゃん』だよ〜。遅いから、今日は来ないのかと思ってたよ〜」と出迎えてくれた。
「疲れたよ〜。大変だったよ〜。早朝から世界中を飛び回ってきたよ〜」
「世界中ちゃんを飛び回るのは大変ちゃんだよ〜。ビールちゃんがあるから、飲んだらいいよ〜。美味しいよ〜」
「要らないよ〜。そんなの飲んだら死んじゃうよ〜」とデスクの椅子にグッタリ腰を降ろすと、福岡組のお馬鹿さんの一人が、
「そうだ、組長ちゃん!今朝、最初に僕が出勤したとき、もう部屋の電気ちゃんが点いてたよ〜。金曜日の夕方、消して帰ったのに、不思議だよ〜。きっとオバケちゃんが出たんだよ〜」と嬉しそうにビールを渡してくれた。
ハッとして、思わず「今日の5時過ぎに・・・」と言いかけたが、福岡組のお馬鹿さんたちは、早速オバケちゃんゴッコを始めていたので、「電気を点けっぱなしにしたのは、多分私だ」とは言わなかった。
そして、今日は、日曜日。れもんちゃんデー。
平日の通勤時間帯からは姿を消したJR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、それはそれは宇宙一に宇宙一で、不当なまでに過酷な通勤によって蓄積した疲労とストレスがすっかり霧散し、れもんエネルギーが満タンにチャージされ、私もシン太郎左衛門も、れもんイエローに発光していた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらながら、
「ありがとう。見ての通り、すっかり元気になったよ。通勤時間が長くなって、れもん星に辿り着こうと、必死に地球上を飛び回って、先週3日間でボロボロになったんだ」
「そうなんだね〜。引き続き頑張ってね〜」
「いやいや。正直、もう頑張れないよ。JRのダイヤを元に戻してもいいかなぁ」
れもんちゃんは、少し首を傾げて、思案した後、
「うん。いいよ〜。れもんは、普段JRには乗らないよ〜」
かくして、JRのダイヤは元に戻った。
我々は、『キリンれもんちゃん』の呪文がJRのダイヤから何らかの影響を受けるものと推察している。
シン太郎左衛門と『JRのダイヤ改正』 様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回、前回に続き、れもんちゃんにもらったお題で書く。今回のテーマは、「金ちゃんやラッピーに会う」だから、特に用事もないし、会いたいとも思わない金ちゃんに会いに行くことにした。
その日は、たぶん土曜日。れもんちゃんイブ。
昼前まで寝ていた。そして、起きるやいなや、パジャマのまま外に飛び出した。
シン太郎左衛門は、「父上、いきなりパジャマで外に飛び出すとは、火事でも起きましたか」
「いや。ここしばらくガスコンロを使ってないし、火事が起こるとは思えんが、家の隅々までチェックして出てきたわけじゃないから、余り自信はない」
隣の家の呼び鈴を鳴らすと、金ちゃんママが出てきた。
「どうされたんですか?」と私の格好を見て、ビックリした様子だった。
「もしかしたら、私の家が火事かもしれない」
「大変!119番はされましたか?」
「それには及ばん。金ち・・・いや、ご子息はご在宅かな?」
「今日は出掛けてますが・・・」
「『出掛けた』だと!クソ〜。ヤツに出掛けられたら困るから、服も着替えず飛び出してきたのに・・・」
金ちゃんママは「はぁ」とか言っている。
「どうしよう、困ったなぁ。お母さん、私は、れもんちゃんから『金ちゃんとラッピーに会う話』を書くように言われてるんですぞ!」と、焦りの余り語気を強めた。
金ちゃんママは、全く事態が理解できない様子で、またもや「はぁ」とか言っている。
「しょうがない。せめてラッピーに会っておこう。お母さん、ラッピーをお願いします」
「ラッピーは幸則が連れていきました」
「えっ、なんてことだ・・・『ユキノリが連れていった』って?ユキノリ・・・ユキノリって誰だっけ?」
金ちゃんママは当惑した顔で、
「幸則はウチの息子です」
「あっ、そうだ、そうだ」と言った後、思惑が外れた苛立ちもあって、私は思わず、
「ご子息に相応しい名前は、ユキノリではなく、金ちゃんですぞ。今からでも遅くないから、改名させなさい」と口走っていた。
その一言に金ちゃんママの表情が一変した。唖然とした表情を浮かべ、両目に溢れた涙が一気に頬を伝った。
余計なことを言って、泣くほど怒らせてしまったかと慌てたが、金ちゃんママの口から出た言葉は私が想像していたものではなかった。
「私の亡くなった祖母が同じことを言っていました。『この子は金太郎の金ちゃんだよ。ユキノリなんて似合わないよ』って。祖母は、それはそれは曾孫の幸則を可愛がって、私が嫌がっても、ずっと『金ちゃん』と呼んで・・・実は今日、その祖母の命日なんです」
金ちゃんママは、両目を手で覆い、泣き崩れた。
私は人の涙を見るのが大の苦手で、どうしていいか分からず、オロオロしてしまい、「そうだ。家が燃えてるかもしれないので帰ります」と、慌ててその場を立ち去った。
家に戻っても、動揺が止まらなかった。
「シン太郎左衛門、金ちゃんママを泣かせてしまった。実に気分が悪い」
「なんと!そんなことをしては、もうここには住めませぬぞ!」
「・・・お前の言う『そんなこと』がどんなことを想像しての言葉かは知らないが、俺は別に大それたことをしでかしたわけではない」
事情を説明してやると、シン太郎左衛門は、
「なるほど。金ちゃんママの御祖母殿の霊が父上の口を借りて話されたと、そういうことでござるな」
「そんなことがあるのかね」
「うむ。よくあることでござる。拙者も父上の口を借りて、れもんちゃんとオチン語で話を致した。父上の口は、借りやすい口でござる」
「そんな口があるか!」
そんな馬鹿なことを話していると、インターホンが鳴った。モニターに映る金ちゃんママの姿を、『貞子』を見るような怯えた目で見詰めながら、私は居留守を使おうか迷っていたが、結局、玄関に向かった。
またもやパジャマのままで家の外に出て、門まで歩いていくと、金ちゃんママが、
「先程は取り乱して申し訳ありませんでした。これ、祖母の仏前にお供えしていたオハギです。どうぞ召し上がってください」と、ズッシリ重いプラパックを渡してくれた。
「どうもありがとうございます」
オハギをもらった私は手のひらを返したようにご機嫌になっていた。和菓子好きの私は、オハギも大好物だった。
思わず『オハギちゃん、美味しいよ〜』と言いそうになったが、かろうじて理性が働いた。
「ところで、金ちゃんは今日何時に帰る予定ですか?」
「それが・・・実は今日はデートに行っていまして・・・」
「デート?ラッピーと?」
「いいえ。勤め先の会社の方のご紹介で、最近、彼女が出来まして・・・」
「いやいやいや、いくらなんでも冗談が過ぎる」
「それが冗談ではなく、先日、彼女さんをウチに連れてきて、『結婚を前提に付き合っている』と言っておりました」
「ウソだろ。そんなセリフ、金ちゃんが言うはずがない。明らかに幸則だ。アイツ、俺に何の断りもなく、幸則になりやがったな・・・ところで相手の女性は?」
「はい。幸則にはもったいないほど可愛い方で」
「えっ!そんなに可愛いのか?名前は?まさか『れもんちゃん』じゃないだろうな?」
「いいえ、違います」
「ふ〜ん。じゃあ、いいや。『おめでとう』と伝えておいてくだされ、とシン太郎左衛門が言っている」
私は、オハギの詰まったプラパックを手に意気揚々と、スキップをしながら家に戻っていった。
台所で緑茶を淹れるためにお湯を沸かしながら、
「いやぁ、世の中の変化に付いていけないよ。シン太郎左衛門、聞いたか?金ちゃんが結婚するってよ」
「うむ。聞いておった。金ちゃんは『ヤルときはヤル男』でござったな」
「それ、どういう意味?」
「そのまんまでござる。金ちゃんは『ヤルときはヤル男』でござる」
「いや〜、二次元の女の子しか愛せないアニメ好きだと偽り、相手を油断させておいて、ヤルときはヤルんだから、あくどいヤツだよな」
お茶を入れた湯飲みを片手に、オハギの待つダイニングテーブルに着き、プラパックを開けた。
「『わ〜い』だよ〜。オハギちゃんだよ〜。嬉しいよ〜」と言った直後に、変な匂いを嗅ぎ取った。
「なんだ、このオハギ。お線香の匂いがするぞ」
「御仏壇に供えてあったというからやむを得ないことでござる」
「いや、そんなレベルじゃない。まるでお線香でいぶしたぐらいスゴイお線香の匂いだ。金ちゃんの家では、どれだけ大量の線香を焚いてるんだ。火事になるとしたら、ウチじゃなくて、隣の家だ」
箸で口元に持っていくと、むせるほどモノ凄いお線香の匂いに思わず顔を背けた。
「どういう食べ物なんだ。こんなもん、食えねえよ」
そう呻いた自分の声で目を覚ました。
「・・・なんだ、夢だったのか・・・クソ〜、オハギを食べそこねた」
涙が出そうだった。
スマホを見たら、7時前だった。オハギを食べ損ねたショックから再び眠れる気がしなかったので、新聞を取りに表に出ると、ラッピーを連れた金ちゃんに出くわした。
「ああ、オジさん、お久しぶりです」
ラッピーも金ちゃんも理由は分からないが異様に楽しそうに見えた。
郵便受けから新聞を取り出すと、
「お前が結婚する夢を見た」
「ホントですか?相手は誰ですか?」
「俺は知らん。お母さんに訊いてくれ。俺はオハギを食べそこねて、不機嫌なんだ」
「相変わらず意味不明だなぁ」
「ところで、お前の母方の曾祖母さんは、お前を『金ちゃん』と呼んでなかったか?」
「それはないですね。僕が生まれる前に亡くなってたから。でも、僕の父方の曾祖父さんが僕を『金ちゃん』と呼んでましたよ」
「ふ〜ん」
ふと、金ちゃんの着ている黒いTシャツの胸元に目が行った。そこには、白い文字で、I'm a liar. と書かれていた。
「・・・それは嘘だな」
「嘘じゃないですよ」
金ちゃんが連れている犬は、いつの間にかマルチーズに変わっていた。
「じゃあ夢だ」
「そうなんです・・・」金ちゃんは巨大なプードルに変わっていた。「これも夢なんです」
私は相変わらず布団の中にいた。
私は夢の中で夢を見て、その夢から覚めて、また覚めたのだった。今がまだ夢の中なのか、そうでないのか分からない。変にジタバタしても、実はまだ夢の中で、またしても夢から覚めるだけかもしれない。そう思って、布団の中でジッとしていた。そのうち、また眠りに落ちていた。
そして今日は日曜日。れもんちゃんデー。
あるいは、まだ夢の中を彷徨っているのかもしれない。
これも夢の続きかもしれないと、訝りながら、JR新快速、正式名称『スーパーれもんちゃん号(ゴールデンウィーク・バージョン)』に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、どんな形容詞でも表現できないぐらい宇宙一に宇宙一で、『やっぱり俺はまだ夢の中なんだろうか』と感じるほどであった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「福岡組は、相変わらず懇親ばかりしてるんだよ。一ヶ月近く、毎日歌って騒いでるから、とっても疲れてて、どれだけ寝ても寝たりないんだ」
「懇親疲れなんだね。身体に気を付けてね」
「ありがとう。ホント、懇親のしすぎで、福岡組の連中が嫌いになりそうだよ。それと今回でまたクチコミのネタが切れちゃったから、新しいアイデアくれない?」
「そうなんだね」と、れもんちゃんは可愛く首を傾げ、「・・・そうだ。『通勤時間が長くなったから電車でウトウトして、れもん星にワープしてしまう』とかどうかなぁ?」
「・・・ステキなアイデアをありがとう。それで考えてみるよ」
れもんちゃんは、それはそれは可愛く微笑んだ。
いつもの愛想のよいスタッフさんに送られて、お店の外に出た私は、「『通勤時間が長くなった』って言われてもなぁ・・・」と呟いた。
確かに仕事場は新社屋から旧社屋に変わったが、言っても目と鼻の先で、最寄り駅も同じだから、通勤時間は全く変わっていないのだが、れもんちゃんの言うことだから、逆らえない。
『こうなったら、通勤時間が長くなるように、JR西日本にダイヤを改正してもらうしかないなぁ』、そんなことを考えながら、クラブロイヤルを後にするのであった。
シン太郎左衛門と金ちゃん(あるいは「夢のマトリョーシカ」) 様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
前回書いたとおり、れもんちゃんのアドバイスを受けて、今回のクチコミは、電車くんとシン太郎左衛門の再会をテーマすることに決めた。
ただ、抜き身のシン太郎左衛門を電車に持ち込むことは流石に憚られる。カッパの衣装は頑として受け付けないので、渋々ヤツの要望を呑んで、セクシー・バニーの衣装を作ってやることにした。
土曜日、家にある部材だけでは足りず、ホームセンターで不足の材料を買い込んで、半日かけて作業した。ウサ耳から網タイツ、ピンヒールまで、ネット通販サイト掲載の写真を見ながら各パーツを手作りし、シン太郎左衛門に試着させて、若干の手直しを加えた。
「出来たぞ。着てみろ」
「おお、これはステキなバニーちゃんの衣装でござる」
「それが武士のセリフかよ」
コスチューム一式を身に着けると、世にも奇妙なセクシー・バニーが出来上がった。
一体俺は何をやってるんだ、と実に情けない気持ちになったが、シン太郎左衛門は、鏡の前でポーズを決めながら、
「これは上出来でござる。父上にこんな腕があるとは思いも寄らなんだ」と満足げだった。
「喜んでもらえて嬉しいよ」と心にもないことを冷ややかに言った後、ついでに「俺は小学校の図画工作は、いつも満点だった」と自慢したが、シン太郎左衛門は全く聴いていなかった。鏡に映った自分の姿に見惚れているばかりだった。
そして日曜日。つまり、れもんちゃんデー。いつもより随分早く起きた。
「父上、何故このような時間に目覚ましを鳴らしたのでござるか」とシン太郎左衛門は不満げに目を擦っている。
「れもんちゃんが、今回のクチコミのテーマは、電車くんとの再会がよいと教えてくれたからだ。いつもの時間じゃ、電車くんの運転する電車に乗れないと思ったのさ」
「なるほど。確かに電車くんの電車は朝10時台でござった。しかし、それでは神戸駅に早く着きすぎまするぞ」
「分かってるよ。でも、れもんちゃんが言うんだから、しょうがないよ」
「なるほど。れもんちゃんが言うのであれば、致し方ない」
そう言いながら、シン太郎左衛門は昨日作ってやったセクシー・バニーの衣装を身にまとっていった。
朝食を済ませると、気色悪いセクシー・バニーをジャケットのポケットに入れて、〇〇駅に急いだ。
駅のホームの先頭に立って待つこと、しばし。『電車くん』は、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにソックリなれもん星人にソックリだと聞いていたが、最初に到着したJR新快速の運転手さんは女性だった。
「違う。これはどこにでもあるJR新快速に過ぎない。我々が乗るべきなのは、『スーパーれもんちゃん号』、夢の世界への直行便なのだ」
次に来たのも、何の変哲もないJR新快速だったので、やり過ごした。
そして、その次に到着した電車の運転室を覗いて、「あっ、これだ!」と声を上げてしまった。その運転者さんはクラブロイヤルのスタッフさんにソックリのれもん星人に瓜二つだった。
私は運転室のドアをノックして、出てきた運転者さんに話しかけた。
「君は『電車くん』だね?」
「はい。僕は『電車くん』です」
「はじめまして。私は『父上』だ」
電車くんは少し緊張した様子で、
「・・・僕のですか?」
「そんな訳ない。シン太郎左衛門の父上だ」
「よかった」
「それはお互い様だ。これを受け取ってくれたまえ」
電車くんは差し出されたモノを受け取り、マジマジと眺めながら、「これは何ですか?」
「見てのとおり、セクシー・バニーちゃんだ」
「ちっともセクシーじゃないです」
「そりゃ、そうだ。中身はシン太郎左衛門だからな」
「セクシーどころか、不気味です」
「繰り返しになるが、中身がシン太郎左衛門だから、当然そうなる」
「それで、これをどうしろと?」
「神戸駅まで頼む」
「この前も明太子ちゃんから同じようなことを頼まれました」
「知っている。同種の依頼だ」
「・・・これからも度々こういう依頼があるんですか?一応、規則違反なんですけど・・・」
「当然そうだろうな。度々頼むつもりはないが、今回は、れもんちゃんからの提案だから、受けてもらうほかない」
「よく分からないけど、分かりました」
電車くんは、いいヤツだった。
「ありがとう。大変に助かる。くれぐれも安全運転で頼む」
電車くんにシン太郎左衛門を託すと、私は電車に乗り込み、先頭車両の運転室のガラスにへばりついた。
電車くんは、セクシー・バニー左衛門を運転台に置いた。「出発進行!」と言う声がガラス越しに聞こえた。
しばらくすると、運転室から電車くんの歌声が聞こえてきた。シン太郎左衛門の話にあった『およげ!たいやきくん』の替え歌らしいが、
毎日毎日僕らは鉄板を
曲げて作った電車くん
・・・
と、呆れるほど安直な替え歌だった。
しばらくすると歌が止み、シン太郎左衛門と電車くんの談笑に変わった。何を話しているかまでは分からなかったが、二人は旧知の仲のように和やかに語り合っていた。やがて『元祖れもんちゃん音頭』の熱唱が始まった。電車くんとシン太郎左衛門は、フロントガラスのワイパーのように、揃って体を左右に揺らしながら、
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
・・・
と自慢の喉を震わせている。かなり異様な光景だった。『元祖れもんちゃん音頭』は長い長い歌なのだが、そのうち二人の動きがぎこちなくなり、私の目には見えない何かによって彼らは揉みくちゃにされていった。『元祖れもんちゃん音頭』に誘われたオチン武士たちが運転室に殺到していることが察せられた。芦屋駅の手前で電車は緊急停車した。
そんな光景を、ギシギシと音を立てるガラス越しに見ながら、私は一人でハラハラしていた。
運転が再開され、二人はまた何事もなかったかのように談笑を始めたが、私はまだ心臓がドキドキしていた。
神戸駅に着くと、私はシン太郎左衛門を受け取って、電車くんに御礼を言った。
セクシー・バニー左衛門は、「今日も実に楽しかった。ぜひまたお会いしたいものでござる」と言って、電車くんと固い握手を交わしていた。
そして、しばらく神戸駅の周辺で時間を潰した後、れもんちゃんに会いに行った。
当たり前だが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、どんな危険を冒しても会いに行く値打ちがあることを再確認した。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「今日、電車くんの電車に乗って来たんだよ」
「そうなんだね。また電車くんに会えたんだね」
「うん。でも、電車くんとシン太郎左衛門を運転室で一緒にすると、とっても危険なんだ。必ず緊急停車が起こるんだ。二度とやっちゃいけないって、よく分かったよ」
「そうなんだね。じゃあ、電車くんの登場は今回のクチコミが最後なんだね」
「そうなると思う。本当に危険だからね」
「うん。分かった。安全第一だよね」と、れもんちゃんは、それはそれは優しく微笑んだ。
れもんちゃんは、セクシー・バニー左衛門などとは大違いで、とても賢い娘なのだった。
シン太郎左衛門と電車くん 様ありがとうございます。