我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
前回書いたとおり、れもんちゃんのアドバイスを受けて、今回のクチコミは、電車くんとシン太郎左衛門の再会をテーマすることに決めた。
ただ、抜き身のシン太郎左衛門を電車に持ち込むことは流石に憚られる。カッパの衣装は頑として受け付けないので、渋々ヤツの要望を呑んで、セクシー・バニーの衣装を作ってやることにした。
土曜日、家にある部材だけでは足りず、ホームセンターで不足の材料を買い込んで、半日かけて作業した。ウサ耳から網タイツ、ピンヒールまで、ネット通販サイト掲載の写真を見ながら各パーツを手作りし、シン太郎左衛門に試着させて、若干の手直しを加えた。
「出来たぞ。着てみろ」
「おお、これはステキなバニーちゃんの衣装でござる」
「それが武士のセリフかよ」
コスチューム一式を身に着けると、世にも奇妙なセクシー・バニーが出来上がった。
一体俺は何をやってるんだ、と実に情けない気持ちになったが、シン太郎左衛門は、鏡の前でポーズを決めながら、
「これは上出来でござる。父上にこんな腕があるとは思いも寄らなんだ」と満足げだった。
「喜んでもらえて嬉しいよ」と心にもないことを冷ややかに言った後、ついでに「俺は小学校の図画工作は、いつも満点だった」と自慢したが、シン太郎左衛門は全く聴いていなかった。鏡に映った自分の姿に見惚れているばかりだった。
そして日曜日。つまり、れもんちゃんデー。いつもより随分早く起きた。
「父上、何故このような時間に目覚ましを鳴らしたのでござるか」とシン太郎左衛門は不満げに目を擦っている。
「れもんちゃんが、今回のクチコミのテーマは、電車くんとの再会がよいと教えてくれたからだ。いつもの時間じゃ、電車くんの運転する電車に乗れないと思ったのさ」
「なるほど。確かに電車くんの電車は朝10時台でござった。しかし、それでは神戸駅に早く着きすぎまするぞ」
「分かってるよ。でも、れもんちゃんが言うんだから、しょうがないよ」
「なるほど。れもんちゃんが言うのであれば、致し方ない」
そう言いながら、シン太郎左衛門は昨日作ってやったセクシー・バニーの衣装を身にまとっていった。
朝食を済ませると、気色悪いセクシー・バニーをジャケットのポケットに入れて、〇〇駅に急いだ。
駅のホームの先頭に立って待つこと、しばし。『電車くん』は、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれるスタッフさんにソックリなれもん星人にソックリだと聞いていたが、最初に到着したJR新快速の運転手さんは女性だった。
「違う。これはどこにでもあるJR新快速に過ぎない。我々が乗るべきなのは、『スーパーれもんちゃん号』、夢の世界への直行便なのだ」
次に来たのも、何の変哲もないJR新快速だったので、やり過ごした。
そして、その次に到着した電車の運転室を覗いて、「あっ、これだ!」と声を上げてしまった。その運転者さんはクラブロイヤルのスタッフさんにソックリのれもん星人に瓜二つだった。
私は運転室のドアをノックして、出てきた運転者さんに話しかけた。
「君は『電車くん』だね?」
「はい。僕は『電車くん』です」
「はじめまして。私は『父上』だ」
電車くんは少し緊張した様子で、
「・・・僕のですか?」
「そんな訳ない。シン太郎左衛門の父上だ」
「よかった」
「それはお互い様だ。これを受け取ってくれたまえ」
電車くんは差し出されたモノを受け取り、マジマジと眺めながら、「これは何ですか?」
「見てのとおり、セクシー・バニーちゃんだ」
「ちっともセクシーじゃないです」
「そりゃ、そうだ。中身はシン太郎左衛門だからな」
「セクシーどころか、不気味です」
「繰り返しになるが、中身がシン太郎左衛門だから、当然そうなる」
「それで、これをどうしろと?」
「神戸駅まで頼む」
「この前も明太子ちゃんから同じようなことを頼まれました」
「知っている。同種の依頼だ」
「・・・これからも度々こういう依頼があるんですか?一応、規則違反なんですけど・・・」
「当然そうだろうな。度々頼むつもりはないが、今回は、れもんちゃんからの提案だから、受けてもらうほかない」
「よく分からないけど、分かりました」
電車くんは、いいヤツだった。
「ありがとう。大変に助かる。くれぐれも安全運転で頼む」
電車くんにシン太郎左衛門を託すと、私は電車に乗り込み、先頭車両の運転室のガラスにへばりついた。
電車くんは、セクシー・バニー左衛門を運転台に置いた。「出発進行!」と言う声がガラス越しに聞こえた。
しばらくすると、運転室から電車くんの歌声が聞こえてきた。シン太郎左衛門の話にあった『およげ!たいやきくん』の替え歌らしいが、
毎日毎日僕らは鉄板を
曲げて作った電車くん
・・・
と、呆れるほど安直な替え歌だった。
しばらくすると歌が止み、シン太郎左衛門と電車くんの談笑に変わった。何を話しているかまでは分からなかったが、二人は旧知の仲のように和やかに語り合っていた。やがて『元祖れもんちゃん音頭』の熱唱が始まった。電車くんとシン太郎左衛門は、フロントガラスのワイパーのように、揃って体を左右に揺らしながら、
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
・・・
と自慢の喉を震わせている。かなり異様な光景だった。『元祖れもんちゃん音頭』は長い長い歌なのだが、そのうち二人の動きがぎこちなくなり、私の目には見えない何かによって彼らは揉みくちゃにされていった。『元祖れもんちゃん音頭』に誘われたオチン武士たちが運転室に殺到していることが察せられた。芦屋駅の手前で電車は緊急停車した。
そんな光景を、ギシギシと音を立てるガラス越しに見ながら、私は一人でハラハラしていた。
運転が再開され、二人はまた何事もなかったかのように談笑を始めたが、私はまだ心臓がドキドキしていた。
神戸駅に着くと、私はシン太郎左衛門を受け取って、電車くんに御礼を言った。
セクシー・バニー左衛門は、「今日も実に楽しかった。ぜひまたお会いしたいものでござる」と言って、電車くんと固い握手を交わしていた。
そして、しばらく神戸駅の周辺で時間を潰した後、れもんちゃんに会いに行った。
当たり前だが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、どんな危険を冒しても会いに行く値打ちがあることを再確認した。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「今日、電車くんの電車に乗って来たんだよ」
「そうなんだね。また電車くんに会えたんだね」
「うん。でも、電車くんとシン太郎左衛門を運転室で一緒にすると、とっても危険なんだ。必ず緊急停車が起こるんだ。二度とやっちゃいけないって、よく分かったよ」
「そうなんだね。じゃあ、電車くんの登場は今回のクチコミが最後なんだね」
「そうなると思う。本当に危険だからね」
「うん。分かった。安全第一だよね」と、れもんちゃんは、それはそれは優しく微笑んだ。
れもんちゃんは、セクシー・バニー左衛門などとは大違いで、とても賢い娘なのだった。
シン太郎左衛門と電車くん 様ありがとうございます。
訪問日は一ヶ月以上前ですが、投稿させて頂きます。
とっても笑顔の素敵な可愛らしい子です。
優しく触られるのが好きだそうで、じっくりと体を触りたい自分ととても相性のいい子でした。
感度もとっても良くて、反応がいいのでこちらも一緒に昂ぶるのでとても楽しい時間が過ごせます。
またぜひお伺いしたいと思います。
エンドウ様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。すっかり春の陽気になって、シン太郎左衛門は、カッパの衣装を着たがらなくなった。カッパ姿を見慣れたせいか、裸のシン太郎左衛門に違和感を覚えてしまう。
先週の日曜日。本来れもんちゃんデーなのだが、その日は、れもんちゃんが「女の子休暇」だったので、ただの休日だった。昼前まで寝て過ごした。
目を覚ますと、シン太郎左衛門が枕元に控えていた。正座して、こちらの様子を窺っている。ギョッとした。
「おい、どうしたんだ、裸で。ちゃんと服を着ろ」
「イヤだ!」
「みっともないから、服を着ろ」
「拙者、裸の方がよい」とシン太郎左衛門は逃げ出した。
部屋中追い掛け回し、むんずと捕まえ、無理矢理カッパの衣装を着せた。
「風邪をひかぬように着ておけ」
「やめろ〜!暑い上に、もうカッパの格好には飽き申した。どうしても着ろというなら、別の衣装をくだされ」
「この家には、そんなものはない。どうしてもと言うなら、染料で色を変えてやる」
「そんなことをしても所詮はカッパ。通気性、機能性、その他諸点を勘案して、拙者、セクシー・バニーちゃんの衣装を所望いたす。露出多めでお願い申す」
「ありえんな。俺はコスプレに興味がない。れもんちゃんにすらお願いしたことがないのに、何でお前にそんな格好をさせてやらねばならんのだ」
「一度試されよ。思いの外、萌えるかもしれぬ」
「断る」
そうこうしているうちに、シン太郎左衛門はカッパの衣装を脱いで、「いやはや、暑い暑い」と額の汗を拭っている。カッパ姿を見慣れた私には、抜き身のシン太郎左衛門は異様でしかなかった。
「実に見るに堪えん・・・どうにかせねばならん」
私は書斎からハサミを持ってきて、金ちゃんママにもらったバレンタインデー・チョコのラッピング用リボンが大した意図もなく取ってあったのを適当な大きさに切って、シン太郎左衛門に鉢巻きをしてやった。
「何をしておられる」
「鉢巻きなんだが・・・ダメだ。どうもシックリ来ない」
鉢巻きを外すと、次は新聞紙を四角く切って、折り紙の兜を作った。それをシン太郎左衛門に被せてみたら、その格好が余りにも滑稽で腹を抱えて笑ってしまったものの、急に「何をやってんだ、俺は」と真顔になって呟いた。
「こんなことをして楽しいか?」と、紙の兜を被ったシン太郎左衛門に訊かれて、恥じ入った。
「すまん、すまん。もう大丈夫だ。やっと目が慣れてきて、オチン姿のお前に違和感がなくなった」
「拙者はコスプレでオチン姿をしてるわけではない。元々がオチンでござる」
「そうだった、そうだった」
シン太郎左衛門は「ふざけた馬鹿オヤジめ」と紙の兜を脱ぎ捨てて、
「ところで、父上、『シン太郎左衛門』シリーズは100回で終わるはず。もう遠に100回を越えておりませぬか」
「そう思うだろ?俺もそう考えた。それで、念の為クラブロイヤルのオフィシャルサイトのれもんちゃん(ダイヤモンドかつ永遠の23歳)のページで、『シン太郎左衛門』シリーズの回数を数えてみたんだ。そうしたら、あろうことか20数回分しかなかった」
「さすがに、そんなことはござるまい」
「だろ?だから、もう一度数え直したら、更に回数が減って18回になった」
「誰かが『シン太郎左衛門』シリーズのクチコミを削除しているのでござろうか」
「それはありうる。消されてもしょうがないぐらい下らないからな。消しているのは、れもんちゃんかもしれん」
「へへへ、れもんちゃん、可愛い」
「だろ?『シン太郎左衛門』のクチコミを消しているれもんちゃんを想像すると、それもまた可愛いのだ。何はともあれ、れもんちゃんに100回書くと言った以上、勝手に連載を止めるわけにいかない」
「うむ。れもんちゃんとの約束は絶対でござる」
「ただ、もう完全にネタ切れだし、回を追うごとに、どんどんヒドい出来になっていくだろうな。最後には、れもんちゃんから『もういい加減、シン太郎左衛門シリーズ、止めてほしいよ〜』と言われるだろう」
「なんと、実に悲惨な結末。しかし、れもんちゃんに愛想を尽かされて終わるのは、『シン太郎左衛門』シリーズに相応しい最後でござる」
「お前もそう思ってくれるか」
「おうよ」
我々は互いの手を握って、大きく頷き合った。
れもんちゃんに会えない日曜日は、かくも無為に過ぎていった。
そして、その次の日曜日も、止むに止まれぬ事情があって、またしても、れもんちゃんに会えなかった。
今日は火曜日。臨時れもんちゃんデー。
いつものJR新快速ではなく、とっても特別な普通電車、正式名称『ドリーミング・ファンタジック・トレイン れもんちゃん電車』に乗って、のんびりと各駅停車で、れもんちゃんに会いに行った。
久しぶりに会う、れもんちゃんは、それはそれは宇宙一に宇宙一で、『これでもかっ!』と言わんばかりに宇宙一であった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「『シン太郎左衛門』シリーズの最後は悲惨なものだって分かったんだ。でも頑張って書くよ」
「そうなんだね〜。頑張ってね〜」
「うん。でも、早速、次回のテーマが思い付かないんだ。何にしたらいいかなぁ」
れもんちゃんは可愛く首を傾げて思案すると、
「電車くんに再会するっていうのは?久しぶりに金ちゃんやラッピーに会う話でもいいと思うよ〜」
「なるほど、それは妙案だ。ありがとう。そうするよ」
れもんちゃんは、ニッコリ笑顔で頷いた。
れもんちゃんが宇宙一に宇宙一だというのは何の誇張でもなく、若干控え目な表現ですらあることを、知っている人は知っている。
シン太郎左衛門、最後の形(あるいは『無為に過ごされた日曜日』) 様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
随分と暖かくなってきた。どこも桜が満開だ。先日、家の前で金ちゃんママに出会ったときにも、丘の上の公園が花盛りだと言っていた。ただ、私は桜にも花見にも関心がないし、生まれてこの方、マトモに花見をしたことがない。
先週火曜日は4月1日。朝、出社したとき、建物の入り口で旧福岡支店の連中と出くわした。
「今日からこっち?」と訊くと、
「昨日からだよ~。昨日は引っ越しだったよ〜」
「そうなんだ。で、みんな揃ってどこ行くの?」
「僕たちは旧社屋の1階でお仕事だよ〜」
私の勤め先は、昨年新しい自社ビルを建てて移転したが、すぐそばにある旧社屋、地上3階地下1階のオンボロのビルを倉庫代わりに使っていた。
「それじゃ、引っ越しは、まずガラクタの移動からだったんだね。大変だったね」
「大変だったよ〜。頑張ったよ〜」
「・・・ねえ、その『よ〜』って付けるの止めない?」
「でも、みんな、こうしてるよ〜」
「そうなんだけど・・・みんなでやると、やっぱり会社としては異様だよ〜」
飛んでもないものを流行らせてしまったと少し後悔した。
出社して席に着くまでもなく、社長から呼び出された。先週のクチコミに書かれている一件で、お詫びの高級和菓子の贈呈式かと思い、喜んで社長室に入っていくと、社長は「よく来たよ〜。僕は社長ちゃんだよ〜。君は今日から新しい部署に異動だよ〜」と、どうでもいい話を始めた。
「そんなことより和菓子ちゃんだよ〜」と言い返すと、
「和菓子はまだ買ってないよ〜。今日の夜、買いに行ってあげるよ〜」
「じゃあ、今日は、もう家に帰るよ〜。また明日だよ〜」と言って、部屋を出ようとすると、
「帰っちゃダメだよ〜。君は今日から旧福岡支店メンバーのリーダーちゃんとして頑張るんだよ~。福岡組の組長だよ〜。その肩書きで名刺も作り直してあげたよ〜」
「そんな名刺、人に渡しにくいよ〜」
「とにかく、新しいお仕事ちゃんを頑張るんだよ~」
「どんな仕事か聞いてないよ〜」
「福岡組ちゃんは『秘密のお仕事ちゃん』をするよ〜」
「意味分かんないよ〜。可愛い秘密がいっぱいなのは、れもんちゃんだよ〜。れもんちゃんは可愛いよ〜。スゴ腕だよ〜。〇〇〇(自主検閲済)だよ〜。宇宙一に宇宙一だよ〜」
「お仕事ちゃんの中身は、そのうち話すよ〜。とにかく早く旧社屋に行って、福岡組ちゃんのみんなと仲良くするんだよ〜」
みんなで昼ご飯でも食べるようにと1万円札を渡されたが、これじゃ少ないと、もう1枚巻き上げた。
旧社屋に行くと、計11人のオッサンが暇そうにしていた。
知ってる顔も二、三人はいたが、取り敢えず自己紹介をし合って、
「で、どういう仕事か聞いてる?」と尋ねたが、みんな首を振って、「知らないよ〜。『秘密だよ〜』って言われたよ〜。何をするのか分からないけど、頑張るよ〜」
「何やるか知らないのに、どう頑張んの?ヒドい話だな・・・ところで、みんな、その『よ〜』って言うの止めない?」
「イヤだよ〜。止めないよ〜」
「いやいや。よく考えたら、実物のれもんちゃんは『よ〜』なんて滅多に言わないし、ましてや、いい年したオッサンが『よ〜』なんて、おかしいよ」
「止めないよ〜。それよりお仕事ちゃんが分からないから、暇すぎるよ〜」
「・・・その『ちゃん』づけも止めない?『ちゃん』は可愛い人や可愛い動物にだけにしようよ。れもんちゃんとかワンちゃんとか、ホントに可愛い人や動物だけに・・・」
「イヤだよ〜。それより暇すぎて死にそうだよ〜」
勝手に死んどけ、と言いたくなったが、グッと堪えた。
「よし、こうしよう。天気もいいし、この近くの川の土手には桜が咲いてる。これから、みんなでお花見をして親睦を深めよう」
「『わ〜い』だよ〜。それがいいよ〜。お花見ちゃんで、親睦ちゃんだよ〜」と、福岡組の面々は大はしゃぎだった(念の為に言っておくと、福岡組に福岡県出身者は一人もいない)。
「嬉しいよ〜。僕たち、朝御飯を食べてないから、お腹ペコペコちゃんだよ〜」
「喉もカラカラちゃんだよ〜」
「2階にブルーシートちゃんがあったから持ってくるよ〜」
(コイツらメチャメチャだな・・・)と思ったが、口には出さなかった。
爽やかな春の日、河原までの道々、彼らは誰から教わったのか、『元祖れもんちゃん音頭』の一番を大声で歌っていた。私は彼らのノリに全く付いていけなくて、妙な孤独感を味わった。
土手の桜並木は満開だった。
彼らは口々に「桜ちゃんがキレイだよ〜」と感心していた。
適当な所にブルーシートと広げると、「ここに2万円あるから、コンビニで君たちの好きなモノを買ってきたらいいよ。私は朝御飯をちゃんと食べてきたから、缶コーヒーだけでいいからね。ブラックでね」
「僕は、おにぎりちゃんがほしいよ〜。お菓子ちゃんもほしいよ〜」と誰かが言うので、
「好きなモノを買ったらいいよ」と返すと、
「僕はお弁当ちゃんがほしいよ〜。チーカマちゃんもほしいよ〜」と別の誰かが言うので、
「いいよ」と答える。
また、別の誰かが、「僕は唐揚げちゃんがいいよ〜」
「好きなモノ、買えって言ってんだろ!」
「じゃあ行ってくるよ〜」
11人のオッサンたちは嬉しそうに出掛けていった。
彼らが行ってしまうと、私は一人ブルーシートの上に横になって、桜を見上げた。これが何桜なのか知らなかったし、桜に関してなんの蘊蓄も持ち合わせていなかった。確かにキレイなモノだとは思ったが、
「それでも、れもんちゃんの方がずっとずっとキレイだよ〜」と独り言を言っていた。
しばらくウトウトと居眠りをしてしまっていたが、やがて福岡組のみんなが大声で話しながら帰ってくる物音に目を覚ました。声の方向に視線をやると、全員、両手に500mlの缶ビールを持って、グビグビ飲みながら歩いてくる。
「ビールちゃん、美味しいよ〜」とか言っている。中にはすでに足元が怪しいヤツもいる。
思わず「おい、お前ら、こんな朝から飲むヤツがあるか!」
「ここに合計11人いるよ〜。組長ちゃんも飲んだら12人に増えるよ〜」
何故か『ビールのようなアルコールの入ってるものは買っちゃダメ』と言っておかなかった自分の方が悪い気がしてきた。それに全員すでに取り返しがつかないぐらい酔っ払っていた。
「まあいいや。それでビール以外は何を買ったの?」
「ビールちゃんの他にはビールちゃんだよ〜」
「おにぎりとお菓子は?」
「買ってないよ〜」
「俺のコーヒーは?」
「買ってないよ〜。自分で買ってくればいいよ〜」
こんなマヌケなことを言いながらニコニコしている彼らを見ていると、もう何でもよくなってきてしまって、
「・・・僕もビールちゃん、飲むよ〜。一本ちょうだいだよ〜」
「沢山あるよ〜。はい、これ、あげるよ〜。美味しいよ〜」
よく冷えた缶ビールを受け取り、プルタブをグイッと引き上げ、グビグビっと一呑みすると、「苦いよ〜。美味しくないよ〜」
「そんなことないよ〜。美味しいよ〜」とみんなはグビグビグビっと喉にビールを流し込み、「美味しいよ〜」と声を揃え、その勢いのまま、
はぁ〜、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて
出来た行列、五万キロ
と合唱を始めた。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番、れもんちゃん
「その歌は『元祖れもんちゃん音頭』だよ〜」
「知ってるよ〜。名曲だよ〜。小さなカッパに教わったよ〜」
「作詞・作曲シン太郎左衛門だよ〜」
「そんなヤツ知らないよ〜」
そんなやり取りをしながら、普段アルコールを口にしない私は急に気分が悪くなっていった。
「『おえ〜』だよ〜。気分が悪くなってきたよ〜」
「ブルーシートに横になってたらいいよ〜」
「そうするよ~。『おえ〜』だよ〜」
ブルーシートに横になった途端、私は気を失ってしまった。
「組長ちゃん・・・組長ちゃん・・・」
揺り起こされてしばらくは、事態が呑み込めずボーッとして黙っていた。
何で俺は川の土手にいるのか、このオッサンたちが誰なのか、なかなか記憶は甦らなかった。
「もう夕方だよ〜。おウチに帰る時間だよ〜」と、福岡組の一人に抱き起こしてもらった。爽やかな春風に満開の桜から花びらがハラハラと散っている。
まだ微かに頭が痛かったが、私は福岡組のみんなと『元祖れもんちゃん音頭』を元気に歌いながら、旧社屋に帰っていったのであった。
そして今日は日曜日。れもんちゃんデー。
JR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
福岡組のメンバーたちでさえ知っていて、今更言うまでもないことではあるが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。それに、れもんちゃんは宇宙一の〇〇〇(自主検閲済)だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、「この前、お花見に行ったよ」
「お花見、楽しいよね」
「ところが全然楽しくなかったんだ。ほとんど気を失ってたし」
「大変だったね」
「そうなんだ。4月になってから無意味に大変なんだ。仕事もせずに9時5時で親睦だからね。ずっと『元祖れもんちゃん音頭』を歌っているし」
「だから声が枯れてるんだね」
「そういうこと」
「身体に気を付けてね」と、れもんちゃんは優しく微笑んだ。
れもんちゃんは『よ〜』なんて本当に稀にしか言わないし、本当にステキで真面目な頑張り屋さんだ。
これまで散々ふざけ散らした私だが、根は大変真面目な人間だったことを今更ながら思い出した。
そして、今回のクチコミにシン太郎左衛門をタダの一度も登場させていなかったことに今になって気付いたのであった。
シン太郎左衛門とお花見(あるいは「父上、突然真面目になる」) 様ありがとうございます。
先日の投稿はボツですか。ボツでもいいですが、その内容は伝えておいてください。プレーヤーはいつも最高ですが。お礼日記の遅さだけを気をつけていただきたいです。私は1番の本指名でありまいとおもっています。他の本指名の方も早いお礼日記を望んでいろと思いますよ。
島中清蔵様ありがとうございます。
いつもゆあちゃんと楽しい時間を過ごせています。いつもポジティブで最高の笑顔で接客してくれています。私はゆあちやんを指名するようになって、3年はんほどになりますが、最近ちょっと気になる事あります。
ひのつはお礼日記が異常に遅い。以前は当日かせいぜい次の日くたいでしたが、最近では5日6日はあたりまえおになっています。今日届いた日記には遅くなりましたの一言もなし。もう一つ気になるのが、時間の変更が頻繁になってきている。お礼日記を楽しみにしている私にとっては一週間近くの遅れは致命的ショックです。以前はすごく早かったです。ベテランさんになってしまいましたが、初心な戻り頑張って下さい。
seimari様ありがとうございます。
拙者、富士山シン太郎左衛門は武士である。現今、人目を忍んで、カッパに身をやつしておる。
先週のクチコミの通り、父上は島流しの刑をあい、一昨日、つまり金曜日の夜にリュックサックを背負って、「じゃあ、福岡に行ってくるわ」と寂しそうに家を出ていった。
金曜と土曜の晩、一人で広々と布団を使って寝て、実に快適でござった。やっぱりあんなクソ親父はおらん方がよいと、つくづく実感いたした。
そして、今日は、日曜日。巷で言うところの『れもんちゃんデー』。朝9時、拙者、一人旅には慣れぬ故、福原までの遠路を思えば、早めの出立が肝要と心得、キッチンの流しにて冷水で身を清め、洗いたてのカッパの衣装を身にまとうと、愛刀の貞宗(割り箸)を腰に帯びて、台所の小窓から外に出た。
涼やかな風が実に心地よい『れもんちゃん日和』。取り敢えず坂道をヒョロヒョロと下り、国道に行き当たると、「神戸まで、よろしくお頼み申す」と書いた段ボールを精一杯高く掲げてヒッチハイクを始めたが、行き交う車の運転手たちの目に留まることもなく、虚しく時間が過ぎてゆき、多少の焦りが生まれてきたとき、
「あっ!オジさんのカッパだ!」という明るい声がした。それは自転車に乗った明太子ちゃんでござった。
自転車を停めた明太子ちゃんは拙者を摘み上げ、荷カゴに下ろすと、「カッパさん、神戸に行くの?」
拙者が頷くと、明太子ちゃんは「神戸は遠いよ。多分ヒッチハイクじゃ行けないよ」
「なるほど、そういうものでござるか」
「うん、行けない。反省した方がいいよ」
「うむ。では、反省いたそう」
「電車で行かなきゃね。JR新快速に乗るんだよ」
「うむ。何を隠そう、拙者、その電車には詳しい。その電車の正式名称は『スーパーれもんちゃん号』、またの名を『それいけ!れもんちゃん号』とも言う。夢を運ぶ電車でござる」
「そうなの?〇〇駅まで乗せてってあげる」
明太子ちゃんの自転車の荷カゴで揺られ、駅まで快適な一時であった。明太子ちゃんは、駅近のコンビニの前に自転車を停めると、拙者をムズっと掴んで、駅の階段を駆け上がり、駅員さんに「トイレ借りま〜す」と声を掛けて改札を抜け、ホームに向かう階段を駆け降ると、ホームの先頭で列車の到着を待った。
拙者、散々振り回されて目が回っていたが、それが収まると、「明太子殿、忝ない。一生恩に着まする」と伝えた。
「気にしなくていいよ。オジさんにまた買い物に来てって言っておいてね」
『スーパーれもんちゃん号』が到着すると、明太子ちゃんは、運転席の窓を叩き、ドアを開けて出てきた運転手さんに「このカッパさん、神戸駅までお願いします」と拙者を差し出した。
その運転手さんは、いつもクラブロイヤルの入り口で笑顔で出迎えてくれるスタッフさんにソックリな『れもん星人』にソックリだった。
運転手さんは拙者を受け取ると、「いいよ。ところで、明太子ちゃん、もう高3なんだから、バイトばかりでなく、勉強も頑張るんだよ」
明太子ちゃんは「頑張ってるって・・・じゃあ、カッパさん、またね。オジさんによろしく」と、にこやかに手を振ってくれた。
運転手さんは拙者を運転台に乗せると、電車を出発させ、運転中はずっと楽しそうにニコニコしておる。仕事の邪魔はしたくなかったが、どうしても運転手さんと明太子ちゃんの関係が気になって、「お仕事中に恐縮でござるが、貴殿は明太子ちゃんの御親戚でござるか?」と訊いてみた。
運転手さんは、楽しそうに口ずさんでいた『およげ!たいやきくん』の替え歌を中断して、「えっ、僕ですか?僕は『電車くん』。明太子ちゃんの婚約者です」と言った。
訊くんじゃなかったと思った。設定がデタラメ過ぎて、クラクラと目眩がした。こんな馬鹿な設定は父上の仕業としか思われぬ。アヤツめ、福岡に転勤したとか言いながら、まだ近くにいるような気がした。
『スーパーれもんちゃん号』の先頭に陣取って、拙者、久しぶりに『元祖れもんちゃん音頭』をフルコーラス熱唱いたした。電車くんも中々の声の持ち主で、見事なハーモニーを奏でてくれた。二人の名演奏に惹き寄せられて、苦労左衛門ほかオチン武士が集まってきて、やがて100名を越えるオチン武士による大合唱へと発展したが、運転室がギュウギュウ詰めで、電車くんの視界が完全に遮られてしまい、『スーパーれもんちゃん号』は芦屋駅の手前で緊急停車した。
『電車くん』とは神戸駅で握手をして別れた。またいつの日か再会し、『元祖れもんちゃん音頭』を合唱することを固く誓い合った。
さて、ホームに降ろしてもらってからが、一苦労でござった。
読者各位もご存知のとおり、オチンは歩くのが苦手であり、特に人通りが多い道にあっては、酔っぱらいが阪神高速を千鳥足で歩くのと同じぐらい危険な状況に置かれる。危なくて、とても歩けない。乗り物を探すしかない。
ホームを見回していると、いかにも『これから福原に遊びに行きます』顔のスーツ姿の男がいたので、その御仁のズボンの裾に飛び付いて攀じ登り、スーツケースの上に飛び移った。ところが、この御仁の向かった先は『アンパンマンこどもミュージアム』で、すっかり無駄足を踏んでしまった。それから後も、色々な男性に飛び移ったが、どいつもこいつも見当違いな方向に行くので、神戸駅の周辺を行ったり来たりするばかりで一向に福原に辿り着けない。その代わり、短い時間に三度も湊川神社に参拝した。
こんなことを続けておっては、予約の時間までにクラブロイヤルに到着出来ないかもしれない、そう考えると、気持ちが焦ってきた。そして、またしても『ふりだし』である神戸駅に戻ってきて、イカついオッサンの肩から、前をチョコチョコ歩く、リュックを背負ったオッサンに向けて「南無八幡大菩薩!」と胸中で唱えながら飛び移った。頭頂部がハゲかかったオッサンのリュックサックに腰を下ろしてしばらくすると、オッサンはエスカレーターで地下に降り、デュオこうべ浜の手からJR神戸駅の下を通って、デュオこうべ山の手を抜けて、高速神戸駅の方に進んでいく。『この道でよいが、湊川神社に行くではないぞ。電車に乗ろうとしたら斬る』と胸中呟いていると、男は高速神戸駅の改札前で新開地駅方面に左折した。思わずリュックの上で手を叩いた。男は神戸タウンの6番出口から地上に上がり、有馬街道を北上して行く。思わず、「でかした!この調子で、クラブロイヤルまで行くのじゃ!」と叫んでしもうた。すると、リュックサックの主は、
「おい、シン太郎左衛門、2日会わぬだけで忘れたか・・・俺だ」
「おお!この声、この後頭部は〇〇駅前の中華料理屋のご店主!」
「違う。俺だ。父上だ」
「なんと!父上の幽霊だ!」
「違う。化けて出たのではない。さっき新幹線で福岡から戻ってきた」
クラブロイヤルに到着すると、いつもの愛想のよいスタッフさんに笑顔で迎えてもらい、待合室に通された。そこで父上の話を聞かされた。
「金曜日の夜は、博多のホテルに泊まって、翌日、昼前に福岡支店に寄ったんだ。土曜日だから社員の半分も出勤してないだろうと思ってたが、総出でバタバタと作業をしてる。知ってる顔がいたから『何してんの?』って訊いたら『荷造りをしてるよ〜。手伝ってほしいよ〜』と言われて、一緒にキャビネットの書類を段ボール箱に詰めていった。夕方まで飯も食わずに頑張って荷造りを手伝って、フラフラになったからホテルに帰って飯食って風呂に入ろうと思って、『それじゃ帰るね。実は俺、来週から福岡支店でお世話になるから、よろしくね』と言ったら、『助かったよ〜。でも福岡支店は今日で閉鎖だよ〜』と言われた」
思わず「なんと!」と言ってしまうと、父上は拙者の反応に勢い付き、「だろ?俺も思わず『はあっ?』と言ってしまったよ。『この荷物は大阪本社に送るんだよ〜。俺たちみんな来週から大阪に帰るんだよ〜』と言われた。頭が真っ白になって、社長のスマホに電話をかけた。なかなか出ないから一旦切ろうとしたとき、やっと出たかと思ったら、『社長ちゃんは今忙しいよ〜。シマリスちゃんにご飯を上げてたよ〜』と不満そうにヌカすから、『この愚か者め!』と怒鳴りつけて、今日俺の身に起こったことを説明し、『俺は引越し屋さんのバイトじゃないよ〜。社長ちゃんが今、俺の目の前にいたら手が出てるよ〜』と怒ると、『あ〜、そうだったよ〜。福岡支店を閉めることをすっかり忘れてたよ〜。ゴメンだよ〜』と謝られた。『馬鹿も休み休み言った方がいいよ〜。鼻の穴にワサビを詰めて、反省した方がいいよ〜』と言ってやると、『反省してるよ〜。でも、ワサビはイヤだよ〜。それと、シマリスちゃんは可愛いよ〜』と馬鹿なことを言ってきたので、『れもんちゃんの方がずっとずっと可愛いよ〜。宇宙一に宇宙一だよ〜』と言い返し、更にお詫びのしるしとして3万円相当の高級和菓子を贈って寄越すことを条件に和解してやった」と自慢げに語った。
父上も馬鹿だが、父上の周りの人間も馬鹿ばかりだった。
そして、我々親子は、今日もいつも通り、れもんちゃんに会った。言うまでもなく、宇宙一に宇宙一でござった。
れもんちゃんは、父上の顔を見るなり、ニッコリと微笑むと、「父上さん、こんなにすぐに帰ってきちゃダメだよ〜。今日もやっぱり反省した方がいいよ〜」と言って、父上を大混乱に陥れた。
この世には、嫌なことも腹が立つこともゴマンとあるが、れもんちゃんがいれば、そんなことは大概笑って済ませる、そう父上が言っておった。
父上は大馬鹿者だが、時々正しいことを言う。
シン太郎左衛門(『カッパ左衛門、一人で福原に行く』の巻) 様ありがとうございます。
初めてめるさんと遊びました。カーテンを開けて、一目見たときにあまりに可愛すぎてビックリしました。写真よりも実物の方がはるかに可愛いです。
当日は小雨がぱらついていて蒸し暑かったのですぐにシャワーを浴びました。洗い場での泡洗体はフワフワの泡の感触も相まって最高でした。柔らかくて抱き心地が最高でした。そのあとのベッドでのプレイは、最初はイチャイチャしつつ、だんだん激しく盛り上がって、攻めたり攻められたり汗だくになりながら色々な体位で時間いっぱいまで楽しめました。
気持ちよさだけでなく、笑顔が素敵なのと、とても愛嬌があってイチャイチャした時間を過ごせました。次回もぜひ指名させていただきます。
m0327様ありがとうございます。
大変楽しいひと時でした!もっともっと一緒にいたかったです。最高に興奮しました!今度も日が合えばお願いしますね!
Y君です様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門はかつては武士であった。今はカッパだ。春になれば、着ぐるみを脱ぎ、また武士に戻るのだろう。冬になるとまたカッパだ。二毛作だ。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。仕事が休みだったので昼までグッスリ寝た。起きたら、そこには小さなカッパがいた。
「よう、カッパ、元気か?」
「うむ。まあまあ元気でござる」
「そうか・・・」
「父上は元気がないようにお見受けいたす」
「そうなのだ。俺は打ちのめされているのだ」
「父上が打ちのめされるとな。それは無理がある」とシン太郎左衛門はヘラヘラと笑った。「父上は、水の中でプカプカ浮いているクラゲのような呑気な生き物でござる。打ちのめされるわけがない」
「ところがドッコイ、打ちのめされて、落ち込んでいる」
「それは一体何ゆえでござるか」
「・・・いずれ、お前も知らねばならぬことだ。教えてやろう」
私は布団から出て、ドテラに袖を通した。
「昨日、社長から呼ばれたので、社長室に会いに行った」
シン太郎左衛門は深刻そうに「うむ」と頷いたが、格好が笑っているカッパなので、ふざけているようにしか見えなかった。
「社長室のドアをノックもせずに全開して、『呼ばれたから、来てやったよ〜』と室内に入った。すると、社長は、『社長ちゃんだよ〜。よく来たよ〜。そこに座ったらいいよ〜』と、指差す先がどう見てもソファーセットのテーブルな方だったから、テーブルの上に靴のまま乗ってアグラをかくと、社長から『そこに座っちゃダメだよ〜』と・・・」
「少し待ってくだされ。父上の会社の社長は、『れもん大王』様でござるか」
「そんな偉い人なわけがないだろ。どこにでもいる鬱陶しい爺さんだ」
「では、何ゆえ語尾に『よ〜』を付けるのでござるか」
「ウチの会社では誰でもそうしている。俺が流行らせた」
「ヒドい会社でござる」
「だろ?緊張感ゼロだ・・・まあいい、話の続きをしよう。ソファーに向かい合って座ると、社長が何の脈絡もなく、最近、ペットショップでシマリスを買った、とっても可愛いと自慢し始めたから、こちらも負けじと、俺の家にはカッパがいて、めちゃ鬱陶しいと言い返してやった」
「いい年をした大人の会話とは思えぬ」
「まあな。とにかく、社長の頭の中でシマリスvsカッパの対決は、カッパの圧勝だったらしい。屈辱感に浸って、しばし沈黙していた社長が『ところで、君は、お仕事ちゃんをちゃんとしなきゃダメだよ〜』と俺に悔し紛れのイチャモンを付けてきた。『ちゃんとやってるよ~』と言い返してやっても納得しない。そこから『君はお仕事ちゃんをちゃんとやってないよ〜』『やってるよ〜』と、互いが自分の主張を譲らず、『やってる』『やってない』の押し問答は昼食を挟んで夕方まで続き、挙句の果てに社長は『君は、お仕事ちゃんをちゃんとやってないから、今すぐ反省しないと4月から福岡勤務だよ〜』と言いクサった。少し事情があってウチの福岡支店は、『流刑地』と呼ばれていて、誰も行きたがらないのだ」
「形だけ反省してみせて、収めたらよかろう」
「ダメだな。そんなことは出来ん。俺が反省するのは、れもんちゃんに言われたときだけだ。社長なんかに言われても、反省は出来ない」
「しかし、福岡勤務になれば、これまでのように毎週れもんちゃんに会えなくなりまするぞ」
「それは分かってる。それは、つまり義に生きるか、それとも忠に生きるかということだろ?」
「義に生きるか、忠に・・・分からぬ。説明してくだされ」
「分からないのか?それなら、しょうがない。義だの忠だのは、武士やサムライの得意分野で、俺の知った事じゃない。武士のお前に分からなけりゃ、俺に分かるはずがない」
「・・・結局、父上はいかがなされましたか」
「俺は、れもんちゃんに忠誠を誓った身だから、社長に求められても反省できるわけがない。だから『反省しないよ〜』と言って、『それじゃ、転勤だよ〜』と言われた」
「なんと・・・マジで?」
「うん。だから、落ち込んでた。明日、れもんちゃんに会いに行ったら、次の日曜日には福岡に引っ越してるから会えないと伝えねばならん」
「・・・お前は馬鹿か!」
「れもんちゃんに会えなくなるのは大ショックだが、俺達みたいな変な客が来なくなって、れもんちゃんがホッとすることを考えると、『これはこれでよかったかな』と思ってる」
「呆れて言葉も出ぬ。父上は一人で福岡に行けばよい。拙者は行かぬ」
「そうなの?」
「拙者は、これからも毎週日曜日、れもんちゃんに会いに行く」
カッパの決意は固かった。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。我々は、いつものJR新快速、通称『スーパーれもんちゃん号』に乗って、れもんちゃんに会いに行った。神戸まで時速10000キロで砂煙を上げて驀進した。
言うまでもなく、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、こんなに宇宙一な女の子と会うのが下手すると今日が最後かと思うと、メチャ落ち込んだ。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「来週の日曜日には、私は福岡在住だから、もう会いに来れないと思うんだ」
れもんちゃんは元気に、「うん、分かった〜」
「でも、私は来れなくても、シン太郎左衛門が一人で会いに来るよ」
「そうなんだね〜」
「シン太郎左衛門はカッパの格好で来ると思うから、スタッフさんにも伝えておいてね」
「うん。言っておく〜」
「『シン太郎左衛門』シリーズは、多分今回が100話目で、予告どおり、これが最後の回になるよ」
「そうなんだね〜。父上さんとのお別れは寂しいよ〜」
「本当にそう思ってる?」
「・・・実はそうでもないよ〜」
「・・・まあいいや。れもんちゃん、また会う日までだよ」
「うん。分かった〜」
れもんちゃんの笑顔は最後まで太陽のように明るく、地の果てまでも輝かしく照らしていた。自分のボケを自覚している私は、その眩しい笑顔を胸に刻もうと精一杯の努力をするのであった。
ということで、れもんちゃんの笑顔を胸にクラブロイヤルを後にした私ではあったが、やがて項垂れてしまい、トボトボと帰り道を辿っていった。「全ての言葉は『サヨウナラ』だ。サヨナラだけが人生だ」と呟きながら。
シン太郎左衛門、『さらば父上』 様ありがとうございます。