我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。定かな記憶ではないが、本シリーズは約70回を数えるはずだ。シン太郎左衛門とは、100回をもって本シリーズを終わらせて、その後は「劇場版シン太郎左衛門」を数作作ろうと話している。
昨日は土曜日、れもんちゃんイブ。
つまり、翌日は大事なれもんちゃんデーだから、土曜の夜更かしは禁物である。
夜10時を回り、そろそろ休もうと思っていると、シン太郎左衛門が話しかけてきた。
「父上、聞かれましたか。れもんちゃんの新しいマネージャーは、飛んでもないポンコツとのことでござるな」
「そうなの?初耳だ。新しいマネージャーどころか、れもんちゃんにマネージャーが居ること自体、知らんかった」
「れもんちゃんぐらいの人気者ともなれば、日々秒に追われて暮らしておる。マネージャーは欠かせませぬ」
「そうだったのか。いつも、れもんちゃん、ノ~ンビリとした感じで接してくれるから、そんなこと考えもしなかった」
「父上は実に世慣れぬウツケ者。そういうことだから、いつまで経っても、周囲の信頼が得られないのでござる」
「周囲の信頼なんて要らんね。超高級ウイスキーと同じで、俺には何の役にも立たんからな。それより、れもんちゃんの新しいマネージャーは、どうポンコツなんだ?」
「うむ。れもんちゃんの新しいマネージャーさんは、女性でござる」
「そうかい。俺の質問には答えていないが、重要な情報だ」
「年は四十と五十の間で、派手な化粧をしてござる」
「それも、まあまあ重要な情報だ」
「左の耳に小さなホクロがある」
「それは、もう全く重要じゃない!さっさと俺の質問に答えろ、このポンコツめ!れもんちゃんの新しいマネージャーは、どうポンコツなんだ!?」
「うむ。頻繁に、れもんちゃんにお小遣いをねだるそうでござる」
「・・・そんな理由で、ポンコツとは言わんだろ?仕事ぶりと関係ない」
「うむ。仕事ぶりと言えば、先日、某ファッション雑誌から『れもんちゃんの冬コーデ』の特集を組みたいとの依頼を受けたとき、マネージャーさん、言下に『今、れもんちゃんは忙しいから、できましぇ~ん!』と電話を切り、代わりに三宮駅前のティッシュ配りの仕事を入れようとして、れもんちゃんに怒られた」
「そりゃ怒られるだろ」
「その日、その時間は、クラブロイヤルの出勤でござった故、優しいれもんちゃんも『ダメだよ~』と、たしなめたとのことでござる」
「甘過ぎないか?俺なら窓の外に放り投げるけどね」
「うむ。れもんちゃんは至って心の優しい娘でござる」
「それは間違いない」
「さらに別の日には、大手広告代理店から、れもんちゃんに音楽活動の企画提案があった。れもんちゃんが歌う『卒業写真』や『異邦人』など昭和の懐メロをネット配信し、今年の暮れは東京ドームを昭和オヤジで一杯にしようという計画でござったが、マネージャーさんは、これも『今、れもんちゃんは忙しいから、できましぇ~ん!』と言下に断った」
「ポンコツの域を越えている。俺は、れもんちゃんの『異邦人』を聴きたかったぞ!」
「その代わりに、マネージャーさん、配送センターでの仕分けの仕事を入れようとして、やっぱり、れもんちゃんに怒られた。お店の出勤日と丸被りしておったので、れもんちゃんも呆れて、『そんなことしちゃダメだよ~』と、パチパチとまばたきをした」
「ひどいもんだなぁ・・・れもんちゃんが気の毒で、腹が立ってきた」
「うむ。ひどい話でござる」
「マネージャーに腕がないと、タレントが台無しだ。ところで、お前、この話をれもんちゃんから聞いたのか?」
その問いに、シン太郎左衛門は、ハッとして、押し黙ってしまった。
「どうした?なぜ黙っている?」
「父上、今の話、忘れてくだされ」
「なぜだ?」
「それは言えぬ」
「・・・あっ、分かった。今のは、れもんちゃんとお前が古代オチン語で交わした内緒の話だな。『絶対にヒミツだよ~』と強く念押しされてたのに、ベラベラ喋ってしまったんだな」
「そうではござらぬ」
「違うの?・・・じゃあ、何で、今のマネージャーの話を忘れなけりゃならんのだ?」
「よく考えたら、今の話は、丸っきり拙者の思い付きでござった」
「・・・マジで?」
「マジで」
「口から出任せ?」
「うむ。無自覚のうちにホラを吹いておった。れもんちゃんにマネージャーがいるとか拙者が知る訳がない」
「おい!寝言は、寝てから言え!これから寝ようと思ったのに、眠気が失せてしまった」
「あい済まぬことでござる」
「お前なぁ~、『シン太郎左衛門』シリーズは、これまで真実一筋でやってきたんだぞ!なんてことをしてくれたんだ。この愚か者め。反省しろ!」
「うむ。反省いたしてござる。もう二度とホラ話はいたしませぬ」
「よし。それでは今回に限り許してやろう。ところで、そのマネージャーは、まだクビになってないのか?」
「うむ。まだクビになっておりませぬ。昨日も、とある化粧品メーカーから、れもんちゃんをテレビCMに起用したいと打診を受けて、マネージャーさんが『れもんちゃんは今忙しいから、できましぇ~ん!』と言う前に、れもんちゃん自身が断ってござる」
「断っちゃったんだ・・・理由は?」
「つまらなそうだから」
「れもんちゃん、大胆だな・・・」
「うむ。れもんちゃんは大胆極まりない」
と、こんな話をした。
そして、今日は日曜日、れもんちゃんデー。
JR新快速の窓から、青空に柔らかそうな雲がポカポカと浮いているのを眺めながら、れもんちゃんに会いに行った。
やっぱり、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんのお見送りを受けながら、「れもんちゃんには、マネージャーがいるの?」と訊いてみた。当然、「それはヒミツだよ~」と言われるのを覚悟していたが、れもんちゃんは、ニッコリと微笑み、
「うん。ワンちゃん、飼ってるよ」と、嬉しそうに言った。
帰り道、そのやりとりについて、しばらく考えたが、よく分からない。れもんちゃんが私の質問を聞き違えたのか、それとも、れもんちゃんのマネージャーが実際にワンちゃんなのか、答えはいまだに出ていない。
シン太郎左衛門とれもんちゃんのマネージャー 様ありがとうございます。
気配りも良く、フェラテクも良い、おまけに話も面白いでで最高に気持ちいい&楽しい時間でした。
少し気が落ちていましたがおかげで元気になりました、ありがとうございました。
変なお兄さん様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。涼しくなってきたので、嬉しそうにしている。
昨日は土曜日、つまり、れもんちゃんイブ。
夜、仕事から疲れて帰ってきて、パッと食事を済ませて、寝る準備をしていると、シン太郎左衛門が話しかけてきた。
「早くもお休みでござるか」
「うん。クタクタだし、明日は大事なれもんちゃんデーだから、もう寝ることにする」
「うむ。それは好都合。拙者もご一緒つかまつる。拙者、これから、れもん星に参りまする」
「そうか。強く念じたら、そういう夢が見れるかも、という話だな」
「違いまする。確実に行けるのでござる」
「ふ~ん。その自信の根拠は?」
「古代オチン語の魔法書に書いてあった呪文を使いまする」
「そんなのがあったのか?」
「うむ。『父上の口を使って話す魔法』だけでなく、『夢でれもん星に行く魔法』を覚えてござる」
「そうか・・・そんなの使わなくても、結構な頻度で行けるけどな。『財布の中身を倍にする魔法』にしときゃよかったのに」
「うむ。こっちの方が覚えやすかった」
「そうか。まあいいや。それで、れもん星に行って何をするんだ?」
「うむ。季節は秋。れもん星に行き、秋の新作を求め、明日れもんちゃんにお見せ致しまする」
「なるほどね。しかし、一口に『秋の新作』って言っても、色々とある。秋の新作スイーツもあれば、新作ファッションもある。何を持って帰る積もりだ?」
「それは行ってみなければ、分からぬ。とにかく、『れもん星の秋の新作』を持ち帰り、れもんちゃんを驚かせまする」
「『行ってみなけりゃ』って、そんな適当な考えではダメだろ。ロクな結果にならんぞ」
「いやいや、そこは拙者にお任せくだされ。何にせよ、持ち帰るのが大事。この魔法、生涯に一度しか使えぬが、確実にれもん星のモノを得て帰ることができまする」
「えっ?夢の中から、こっちの世界に持って来れるってこと?」
「うむ。それが、この魔法の値打ちでござる」
「それは素敵だ!また、いつもみたいに、目覚めたら、夢の世界に置き忘れてきたって結末じゃないんだな。そういうことなら俺も行く。れもんちゃんグッズを大量にゲットだ」
ということで、さっさと床に就くと、リモコンで明かりを消し、
「よし。では、呪文を教えろ」
「うむ。『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん』と10回唱える」
「なるほど、大変に覚えやすい・・・ふざけるな!」
「ふざけてはおらぬ。さっさと、唱えなされ」
こんなのダメだろ、とは思ったが、闇の中で天井を見上げながら、言われたとおりに呪文を唱えた。
「これだけ『キリンれもん』と言わされたら、口の中がシュワシュワしてきた。せっかく歯を磨いたのに、磨き直したい気分だ」
シン太郎左衛門も呪文を唱えた。
二人揃って眠りに落ちた。
やがて・・・
目を射るような日差しに、思わず目の上に掌を翳した。
「ここはどこだ?!」
「れもん星でござる」
「砂漠じゃないか!広大な砂漠だ。写真で見たサハラ砂漠にそっくりだ」
「うむ」
「『うむ』じゃない!こんなところに、れもんちゃんグッズが売ってるか!見ろ。砂しかない」と、焼け付くような熱い砂を両手に掬って、「ここには、こんなものしかない。この砂が秋の新作か?どう見ても何億年も前からある旧作の定番商品だ」
「まあ、落ち着かれよ」とシン太郎左衛門は、私のパジャマのズボンの裾にすがり付いて、スルスルと登り始め、やがて私の肩の上に乗った。
「なんてこった。ああ、この日差し、夏に逆戻りしている。眩しくて目を開けているのもツラい」
「父上、あれをご覧なされ」とシン太郎左衛門が指差す辺りを、目を細めて見やると、
「あっ、あれは!」
「うむ。れもん星立第一中学校の巨大ビル群でござる」
「ほんとだ。あっちの方角が街なのは分かった。しかし、遥か先だぞ」
「ざっと50キロほどでござる。行きましょうぞ」
「そんなに歩けるか!」
「いや、行くしかあるまい」
「着く前に目覚ましが鳴ってしまうわ!」と、不満を言ったものの、砂漠の真ん中に留まる訳にもいかず、ボチボチと歩き始めることになった。
砂地は足元がおぼつかず、たちまち疲れてきた。
「お前はいいよな。そうやって、オウムのように肩に乗っときゃいいんだから」
「何度も言うが、拙者、音からすると、インコでござる」
繰り返すほどのネタかよ、とシン太郎左衛門に一瞥をくれると、いつの間にか、麦わら帽子をかぶり、サングラスを掛け、手にはカップのかき氷を持っていた。
「お前、随分手回しがいいな。最初から行き先が砂漠だと知ってたのか?」
「砂漠とは知らなんだが、『備えあれば憂いなし』と申しまする」
「そうだね・・・ああ、ラクダでも落ちてないかなぁ」と、思わず溜め息を漏らすと、シン太郎左衛門が、
「あっ、あそこに何かありまする」と指差す先、砂に紛れてA4のコピー用紙のようなものが見えた。砂に足を取られながら駆け寄り、手に取って読んだ。
「ラクダに乗ると楽だ」
丸めて捨てた。
「父上、何と書いてありましたか」
「言いたくない。ダジャレだ。オヤジギャグが好きなれもんちゃんでも呆れるレベルだった」
それから更に歩いた。第一中学校は、やはり遥か彼方だった。
「全然近づいてる気がしない」
額の汗を拭って、大きな溜め息を吐いた。
「もう諦めよう。砂を持って帰って、れもんちゃんに見せよう。そして、『ほら、見て見て、凄いでしょ?サラサラの砂だよ』って言おう」
そう弱々しく呟いたとき、私の脇を一人の男が「御免」と言いながら通りすぎた。
伸びた髪を結い上げて、黒い馬乗り袴を着た人物は、腰に大小を挿していた。後ろ姿だけで分かる、どう見ても武士だった。
シン太郎左衛門は、すかさず、「もし。そこのご仁」と呼び止めた。クルッと振り向いた姿は、まさしく野武士だった。
「拙者に御用か」
「うむ。拙者、富士山シン太郎左衛門と申す武士でござる。不躾ながら、貴殿、馬をお持ちでないか」
私の肩の上のシン太郎左衛門から、そう尋ねられて、髭面の武士は、「拙者は、秋野晋作。武士でござる。馬は持たん」
私は、溜め息混じりにシン太郎左衛門に囁いた。
「ほら見ろ。だから言ったろ。ちゃんと最初に買うモノを決めておかないから、こういうことになる。『秋野晋作(あきのしんさく)』って言ってるぞ。こんなの持って帰るのは嫌だからな」
シン太郎左衛門は、私の言葉を無視して、
「馬は持たれぬとな。では、ラクダをお持ちでないか?」
シン太郎左衛門、懲りないヤツだった。
「ラクダ?ラクダなら、ほれ、あそこに拙者の父、秋野久作も連れておる」
秋野晋作が指差す砂丘の頂、老いてなお颯爽とした武士がラクダの手綱を引いていた。
「そして、母のお竹、兄の良作、弟の凜作と正作、拙者の妻お夕、息子の晋吾と晋平、娘のお千代・・・」
砂丘の陰から一団の武士とその一族郎党、そして沢山のラクダがワラワラと姿を現した。
「・・・凜作の妻お美代、息子の平助と源助、お美代の母お鶴、ラクダのシン太郎左衛門・・・」
秋野晋作の一族紹介は続いていたが、
「一体何人出てくるんだ。とても全員の名前は覚えられん。何なんだ、この砂漠は!」
「うむ。れもん星には実に大きな謎が潜んでおるようでござる」
「れもん星は謎だらけだ。れもんちゃんと一緒だ。俺の想像を遥かに越えている。もしかすると、この砂漠には、『シン太郎左衛門』誕生の秘密も隠されているのかもしれない」
「うむ。いわゆる『人類補完計画』でござるな」
「・・・お前、ちゃんと考えてから発言しろ!!」
と、叫んだ瞬間に、自分の声で目を覚ましてしまった。
外は、まだ真っ暗だった。
シン太郎左衛門を暗闇の中で座らせて、こんこんと説教をした。
結局、足に付いた砂以外、何も持ち帰れなかった。
そして、翌日。今日は日曜日、れもんちゃんデー。JRの新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、言うまでもなく、宇宙一に宇宙一だった。
我々親子は、昨晩のことはともかく、れもんちゃんのお蔭で宇宙一の幸せ者になった。
お見送りをしてもらいながら、れもんちゃんに訊いてみた。
「れもん星には大きな砂漠があるんだね」
「うん。小学一年生のとき、遠足に行った。ラクダさんがいるよ。楽しい武士の一族も住んでる。一緒に鬼ゴッコした」
「そうかぁ・・・だから、れもんちゃんは武士の扱いに慣れているんだね」
「うん。そうなの」
そう言ってニッコリ笑ったれもんちゃんは、宇宙一可愛かった。
シン太郎左衛門と『れもん星の秋』 様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。残暑がキツくて、バテ気味な武士である。
今日は日曜日、つまり、れもんちゃんデー。
朝9時、目を覚ました後、私は敷き布団の上でアグラをかき、しばし腕組みをしていた。どうにも釈然としない気分のうちに「う~ん」と唸った。股間からシン太郎左衛門が同じく「う~ん」と唸る声がした。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「起きておる」
「俺は夢を見た」
「うむ。拙者も夢を見てござる」
「れもん星に行ったぞ」
「拙者も、れもん星に行ってござる」
「『☆れもんちゃんと行く☆ れもん星立第一中学校見学バスツアー』に参加した」
「拙者も同じでござる」
「そうか。思えば、確かにバスの隣の席にお前がいた。シートベルトをするのに大変苦労しているようだった」
「親子揃って同じ夢を見ておったのでござる。我々の席は最後列でござった。父上は乗車早々、鼻歌を歌って、乗客全員から一斉に舌打ちをされておった」
「バスガイド姿のれもんちゃんの登場が楽しみすぎて、思わず鼻歌が出てしまったのだ。猛烈なバッシングに遭って、平謝りに謝った」
「それにしても、父上の音痴はひどい。先日も・・・」
「話題をバスツアーに戻そう」
「うむ。定刻、梅田駅前からバスが出発し、ややあって、最前列で人の動きがあったから、心待ちにしていた、バスガイドのれもんちゃんの登場かと思うたところが・・・」
「いつもクラブロイヤルの入り口で満面の笑みで出迎えてくれる、感じの良いスタッフさんとそっくりな人物が通路に立って、『本日は、れもん観光のバスツアーにご参加ありがとうございます』と言ったもんだから、車内は騒然となった」
「うむ。拙者は、やっとの事でシートベルトを装着し、『全日本れもんちゃんファンクラブ 近畿地区代表』のタスキを掛けたところでござった。父上が大きな声で『これは、れもんちゃんと行くバスツアーではないのか?!れもんちゃんのバスガイド姿を楽しみにして来たんだぞ!!』と訴えると、乗客全員から拍手が湧き上がった」
「うん。さっきの鼻歌での失態を帳消しにしてやった」
「うむ。そんなお客様の声に運営サイドから釈明の一つもあるかと思いきや、スタッフさん、平然と『れもんちゃん』のタスキを肩から掛けただけでござったな」
「そうだ。思わず『おい!タスキ一つで、この状況を打破できると思うな!やってることが、シン太郎左衛門と同レベルだぞ!反省しろ!』と言ってやったが、ヘラヘラ笑っていて、タスキも外さんかった」
「乗客全員が怒り出し、『タスキを外せ!!』と怒りの大合唱が起こってござる。彼奴のせいで、拙者まで肩身が狭かった」
「それでもスタッフさんは悪びれる様子もなく、『それでは、間もなく、れもん星立第一中学校に到着致します。皆様、降車の準備をお願い致します』と、ニコニコしていた。俺は、彼にそっくりな人に、いつも感じのよい対応をしてもらってるから、まあ、いいか、とそれ以上何も言う気にならんかった」
「うむ。クラブロイヤルのスタッフさんたちは、みんな良い人でござる」
「そうだ。それにしても、れもん星立第一中学校は凄かったな。バスから降りてビックリした」
「うむ。さすがは、れもんちゃんの母校でござった。どれだけ広いのか皆目見当が付かなんだ」
「六本木ヒルズみたいなデカいビルが、これでもかと建ち並んでいた。興奮して、『これ全部、校舎なの?』って、スタッフさんに訊いたら、『さあ・・・』って首を傾げただけだった。全くガイドの用を為していなかった」
「うむ。そこに、第一中学校の生徒さんたちが合流して、『それでは、ここからは各見学コースに分かれます。案内は、第一中学校の二年生の皆さんにお願いいたします』とのアナウンスがござった。拙者は卓球練習場を見学致した」
「俺は、古代オチン語体験レッスンを受けた。このコースの参加者は俺一人だった」
「卓球練習場の見学も拙者一人でござった。案内役は中学生ではなく、例のスタッフさんでござった」
「えっ?それは、おかしい。俺も、同じ時間に例のスタッフさんから古代オチン語を教わってたんだが・・・まあ、いいや」
「うむ。細かいことを気にしてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そうだな。しかし、卓球練習場とは、何ともマニアックな見学場所だ。れもんちゃんが、かつて練習に汗を流した場所だという以外に見学する値打ちがない」
「ところが、そうではない。この卓球練習場が、大変な代物でござった」
「そうなの?」
「とにかく巨大な建物でござった。見渡す限りの卓球台、その数、100万は下りますまい」
「それは凄いなぁ」
「とにかく広大でござるゆえ、拙者、スタッフさんの肩に止まらせてもらい、ぐる~りと遠くまで見渡した」
「お前、オウムかよ」
「拙者、オウムではござらぬ。むしろ、音ならインコに近い」
「え?・・・ああ、下らん!」
「れもんちゃん好みのギャグでござる」
「知らん。しかし、そんな沢山の卓球台で何百万という人たちが卓球をしている光景は壮観だろうな」
「いや、それが、そうではござらぬ。1キロほど先で、一組の老人が練習しているだけでござった。まるで卓球台で出来た砂漠のような風景でござった」
「ふ~ん。そんな景色の中で、中学生でもラクダでもなく、老人二人が卓球してたのか・・・よく分からんな」
「うむ。全くよく分からぬ光景でござった。すぐに見るものもなくなったので、スタッフさんに、中学生時代のれもんちゃんのことを尋ねてござる。すると、『れもんちゃんは、卓球が凄く強かったですよ。れもんちゃんサーブやれもんちゃんレシーブ、れもんスカッシュなどの必殺技を繰り出して、相手がプロ選手でも、片っ端からなぎ倒してました』との答えでござった」
「待て待て。さすがに『れもんスカッシュ』はない。『れもんスマッシュ』の間違いだろう」
「拙者もおかしいと思い、『れもんスカッシュ?れもんスマッシュの間違いでござろう』と訊き直した。すると、『いいえ。れもんスカッシュです』との答え。『いくらなんでも、卓球の試合中に、れもんスカッシュはいかん』と伝えると、『へへへ。ですよねぇ』と、だらしなく笑って、『ところで・・・ガシャポンします?』と訊くので、『せぬ!』と答えてござる」
「・・・何だ、この下らない話は?」
「話ではなく、事実をありのまま語ってござる」
「そうか・・・そうだよな・・・『シン太郎左衛門』シリーズに嘘はない」
「うむ。ところで父上の古代オチン語体験レッスンの方はいかがでござったか」
「ああ。俺は、なんか雑居ビルの小さな会議室みたいな場所に連れて行かれた。そこで、先生に、といっても例のスタッフさんなんだが、『それでは、みなさん。古代オチン語の授業を始めるよ~ん』と言われたので、俺一人なのに『みなさん』と言うのはやめてほしい、れもんちゃんじゃないのに語尾の『よ~ん』はやめてほしいと伝えた」
「真っ当なご意見でござる」
「ただ全く聴いてもらえんかったがね。『それじゃ、今日は、みんなと古代オチン語の挨拶を勉強しちゃうよ~ん。古代オチン語の挨拶は、ズビズバ~!って言うんだよ~ん』って言うから、『待て待て。それは、左卜全とひまわりキティーズの、老人と子供のポルカだろ?』と言い返したが、スタッフさんは、それを無視して、
『ズビズバ~!っ言われたら、パパパヤ~!って答えるんだよ~ん』
『ウソだ!』
『ウソではありませんよ。いや、すみません。ウソじゃないよ~ん!』
『そんなこと、わざわざ言い直すな。ズビズバ~!パパパヤ~!って、まさに、老人と子供のポルカだ。やめてケレ、やめてケレ、やめてケ~レ、ゲバゲバ、だ』
『何言ってるか、0.1ミリも分からないよ~ん』
と、それから虚しい議論が続いて、結局、バスが出る時間になってしまったのだ。慌ててバスに駆け込むと、待たされた乗客全員から白い目で睨まれて、舌打ちされて、小さくなっているうちに着いたところが東京駅の八重洲口だったから、『うそ~、梅田じゃないの?これから新幹線で帰るのかよ~』って、うんざりしたところで、目覚ましが鳴った」
「なるほど・・・クソくだらぬ話でござるな」
「そうだ。実に下らない話だが、『シン太郎左衛門』シリーズは一作残らずクソくだらぬ話なのだ・・・ところで、古代オチン語の挨拶って、ほんとに『ズビズバ~!』なのか?」
「うむ。実は、古代オチン語には、膨大な数の挨拶の言葉がありまする。古代オチン語能力検定2級の拙者は知らぬが、超1級合格者のれもんちゃんなら分かるかもしれませぬ」
「そうか。シャープやアスタリスクもないから、どうも古代オチン語っぽくないが、念のために、れもんちゃんに確認しよう」
こんな会話をした。外は雨だった。
そして、その後、ズボンの裾をずっぽり濡らして、れもんちゃんに会いに行った。
待合室で案内を受けて、れもんちゃんにお出迎えしてもらった。いつものことながら、宇宙一に宇宙一に可愛いお出迎えだった。
その可愛さに、しばし見とれてしまったが、(いかん、いかん)と気持ちを新たに「ズビズバ~!」と言ってみた。言ってみた後で、相当の羞恥心に襲われた。
れもんちゃんはキョトンとしている。
これは違いそうだと思ったが、念のため、もう一度「ズビズバ~!」と言ってみた。
恥ずかしさは初回の半分だったが、れもんちゃんは怪訝そうな表情を浮かべている。
これ以上繰り返したら、何もせぬうちに帰らされる危険を感じたので、「いや、『ズビズバ~!』が古代オチン語の挨拶だって教えられたけど、担がれたみたいだ」と言うと、れもんちゃんは可愛く首を傾げて、
「ああ、Zjub% z#v@! だね。Zjub% z#v@! って言われたら、P@b@b#h yo@! って答えるんだよ」と教えてくれた。
「それは、とても発音できないなぁ。ちなみに、古代オチン語の挨拶って沢山あるんだってね」
「うん。たくさん、たくさんあるよ~。特殊なのが、たくさんだよ。Zjub% z#v@!もほんとに特殊なときしか使わないんだ」
「どんなときに使うの?」
「それは・・・秘密じゃないけど、秘密だよ~」
やっぱり、れもんちゃんには可愛い秘密が一杯だった。
そして、いつも多かれ少なかれ私の理解を越えているのであった。
れもんちゃんは、今日もやっぱり宇宙一に宇宙一だった。
シン太郎左衛門と『れもん星バスツアー』 様ありがとうございます。
ゆあちゃんと3回目の誕生日祝いを楽しく過ごせました。無理なリクエストにも応じてくださりありがとう。最高に可愛いかったです。これからも出来る範囲ではありますが、応援させていただきます。いつも元気をもらっています。これからもよろしくね。
seimari様ありがとうございます。
しっかりと受けとめてもらいました 老僧の煩悩を果たしてもらってありがとう 優しい手が印象的です
修行老僧様ありがとうございます。
訪問時点でこのお店で一番胸が大きい子でした。
御本人は少し気にしていたようですが、スタイルもほぼパネル通りで、胸の大きさに比例して他も目立つというような事はまったくありませんでした。
素晴らしいプロポーションでした。
プレイスタイルもハグとキス多めですし、おっぱい好きの人の心理をよく理解しておられて、たっぷりと堪能させて頂けました。
対面時からお別れのその時までしっかりとした気遣いも感じられて、とても満足度の高い時間でした。
マットもお好きとのことなので、次回訪問時はぜひお願いしようと思っております。
ありがとうございました。
エンドウ様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は「キャッシュ・レジスタを買ってくだされ」と、うるさくせがんで付きまとってくる、そういうタイプの武士である。
さて、今日は日曜日。つまり、れもんちゃんデー。
朝食を済ませて、ボーっとしていると、シン太郎左衛門が、ジャージのズボンからニョキッと顔を出し、
「新しいラップを作ってござる。聴いてくだされ」と言ってきた。
「『嫌だ』と言っても、歌うんだろうが、ラップかぁ・・・また、ラップかぁ・・・」と、朝からシン太郎左衛門のラップを聞くのが嫌すぎて、髪の毛を掻き毟っていると、
「今回の作品は、我ながら傑作。タイトルは、『A%*gu@tw t&kiy# *ueof#』でござる」
「うわっ、出た!古代オチン語だ。まさか、古代オチン語のラップか?ゲテモノもいいところだ。嫌だ。絶対聴かないぞ!」
「食わず嫌いは、一生の損でござるぞ」
「そんなの、どうでもいい。別に損してもいい。俺は、れもんちゃんに会えたから、それ以上のことは何も望んでない。一生このままでいい」
「いや、そうはいかぬ。聴きなされ」
Yaw#ith cr$edi kit%y&uc
Otr*eg%c in al$l ho*n es&ty%
Ej*f$stiv%c jagd#yt yi&h&f*
・・・
An*dy ju%tf Lemon-ch@n!
We are Shint@ro_z@emons!
「想像よりも長かった・・・ひどいもんだ。かろうじて最後だけ分かった。『我ら、シン太郎左衛門ズ』だ。あと一回『れもんちゃん』とも言ってた。それ以外は何一つ分からなかった」
「Lemon-ch@n は、古代オチン語で、宇宙の秩序を司る万能の女神を意味する貴い言葉でござる。しかし、拙者、『我ら、シン太郎左衛門ズ』などとは言うておらぬ」
「最後に『ウィ・アー・シン太郎左衛門ズ』って言ったじゃないか」
「聞き違いでござる。古代オチン語で『W$ ar% $hol@n t@ro z@em#ns!』とは、『れもん神へ永遠の帰依を誓う』という意味でござる。大変によく出来たラップでござる」
「分かるか!面白くも可笑しくもない」
「うむ。それは残念」
そして、しばらくすると、JRに乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も今日とて、宇宙一に宇宙一であった。
実に実に楽しい時間であった。
そろそろ、お見送りの時間となったとき、シン太郎左衛門が、前触れなしに、「Uyr%cvu#t fw&yuv#xe iy$g v%jlp・・・」と呪文を唱え始めた。
(まずい!「父親の口を使って勝手に話す魔法」だ!)
シン太郎左衛門が、新作ラップを唄うつもりなのは察しがついたが、最早止めるすべがなかった。
れもんちゃんの部屋で、私は、シン太郎左衛門に、古代オチン語のラップを歌わされた。
Yaw#ith cr$edi kit%y&uc
Otr*eg%c in al$l ho*n es&ty%
Ej*f$stiv%c jagd#yt yi&h&f*
・・・
An*dy ju%tf Lemon-ch@n!
We are Shint@ro_z@emons!
歌っている当人には、何を歌っているか全く分からないのに、れもんちゃんは、とても可愛く陽気にキャッキャッと笑っていた。
普段の私は桁外れの音痴なのに、音程もリズムも狂いがなかった。
歌い終わると、れもんちゃんは、「おもしろ~い。この曲、傑作だね」と言ってくれた。
「ありがとう」と答えたが、正直全く嬉しくなかった。
「ちなみに、最後の一節は、『ウィ・アー・シン太郎左衛門ズ』って言ってるよね?」と訊くと、れもんちゃんは怪訝な表情になり、「違うよ。『W$ ar% $hol@n t@ro z@em#ns!』は、女神を讃える言葉だよ」
「ああ・・・どうしてもそうなんだ・・・それで、この歌、結局、何の歌なの?」
れもんちゃんは、真剣な面持ちになり、「それは・・・秘密だよ」と、予想したとおり教えてもらえなかったが、ちょっと困り顔のれもんちゃんも、また大変に可愛かった。
帰りの電車で、シン太郎左衛門に、ラップの歌詞の意味をしつこく尋ねたが、頑として教えようとしなかった。
「お前は、ひどいヤツだな。教えてくれてもいいじゃないか」
「そういう訳には行かぬ。れもんちゃんが秘密と言うものを拙者が話せる訳がない」
言われてみれば、その通りだった。れもんちゃんには、可愛い秘密が一杯だった。
「ところで、俺も古代オチン語を学びたくなった。お薦めの語学学校とかないか?」
「うむ。れもん星立第一中学校」
やっぱりそうだった。簡単に学べる言語ではないのだ。
れもん星に行けるのなら、私の人生に色々と新しい展開も期待できるだろう。
しかし、私のような凡夫にとって、れもん星は余りにも遠すぎるのであった。
シン太郎左衛門の新作ラップ 様ありがとうございます。
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。我が家では日曜日を「れもんちゃんデー」と呼び、祝日としている。国旗は立てない。
さて、今日は日曜日。れもんちゃんに会いに行く日。
日曜日は、いつも晴れやかな気持ちで朝を迎える。今朝も、実に清々しい目覚めであった。改めて、私の人生に日曜以外の曜日は必要ないことに深く感じ入り、腕組みの上、何度か大きく頷いていると、シン太郎左衛門が、股間から、
「ところで、父上、困ったことにバイトが見つからぬ」と言ってきた。
「・・・先行する話題がないのに、『ところで』とは言わんだろ。まあいい。お前、まだバイトを探してたのか?履歴書の用紙を全て紙飛行機にしたから、すっかり諦めたと思ってた」
「実は、諦めつつも探しておる。ついては、父上の勤め先で、拙者に相応しい仕事の空きはござらぬか」
「全く思い当たらんね。そもそもお前に相応しい仕事って、何だ?」
「例えば、社員食堂の厨房を考えてござる」
「・・・それは、お前が一番やっちゃいけないことだな」
「これは異なことを。拙者、熱いものが苦手でござる故、揚げ物やウドンの湯切りは致しかねるが、実は、おむすびを握ったり、お稲荷さんをこしらえるのは大の得意でござる」
「誰が、そんなもの、食えるんだ!俺でも食えん」
「社員さん、みんな、パン派?」
「違う!衛生上の問題だ」
「その点は、ご安心くだされ。拙者、到って綺麗好き。石鹸の消費量では誰にも負けませぬ」
「・・・風呂場の石鹸がゴイゴイ無くなる理由が分かった気がする」
「うむ。では、来週から御社の社員食堂でお世話になりまする」
「待て待て。そこまで衛生面に気を配っているなら、俺も『分かった』と言ってやりたいところだが、そうもいかん。お前は大きな勘違いをしている」
「勘違いとな」
「うん。そもそも、うちの会社には社員食堂がない」
「・・・そうなの?」
「そうなのだ。俺が出勤日の昼、欠かさずラーメン屋に行ってることから察するべきだったな」
「言われてみれば、毎日同じラーメン屋」
「だろ?ラーメン好きでもないのに、毎昼ラーメンを食べ続けると、週末近くには、グッと込み上げてくるものがある」
「それは、ごもっとも。父上も拙者も、無類のれもん好きであって、ラーメン好きではござらぬ」
「だろ?と言うことで諦めろ」
「うむ。致し方ござらぬ。それでは御社の受付嬢を致しましょう」
「察しの悪いヤツだなぁ。いいか。それは、お前が、れもんちゃんのような超絶美人でも無理だ。うちの会社には、受付がないからな」
「なんと・・・実に何にもない会社でござるな」
「そうだよ。夢も希望もない」
「よく我慢できまするな」
「だから、俺には、れもんちゃんが必要なのだ」
「うむ。確かに、れもんちゃんは人類の夢と希望でござる」
そんな話をした。そして、JRの新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、やはり宇宙一に宇宙一であり、宇宙一に宇宙一の在位期間に関する宇宙新記録(自己記録)を継続的に更新中であった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、「れもんちゃんの髪、いつ見ても本当にキレイだよね」と、しみじみ感嘆した。
れもんちゃんは、ニッコリとして、「美容院は、れもん星のお店が一番だよ」と教えてくれた。
もちろん、それは、前から知っているものの、我々のような凡夫にとって、れもん星は余りにも遠かった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門が、「父上、拙者、本日、大変なことを発見してござる」と言い出した。
どうせ下らんことだろう、とは思ったが、「大変なことって何だ?」
「武士の沽券に関わること故、心して聴いてくだされ」
「うん」
「父上・・・拙者、本日、チョンマゲを結っておらなんだ」
「・・・別に、本日に限ったことではない。ずっとずっと前から、お前はチョンマゲなんてしていない」
「どれくらい以前から?」
「実は、お前はチョンマゲをしたことがない」
「それは有り得ぬ。拙者は武士でござる」
「それは俺の知ったことではない」
「いや、解せぬ。先刻、父上が、れもんちゃんの髪を讃えておった折、『拙者にも立派なチョンマゲがござる』と思って、頭に手を伸ばしたら、自慢のチョンマゲが消え失せておった。『シン太郎左衛門』シリーズの最初の頃、拙者は、お茶目なチョンマゲをしておったはず。おそらく第5話あたりで、父上が設定を失念し、以降ずっと描き忘れておる。拙者のチョンマゲを元に戻してくだされ」
「最初からそんな設定はないよ。れもんちゃんに関する記述を除けば、毎回デタラメな話だけど、唯一お前がチョンマゲをしてない点では一貫している」
「いい加減なことを言うな!俺は第5話までは、確かにチョンマゲを結っていたんだ。勝手に設定を変えやがって、ふざけるな!」
「・・・お前!ちゃんと『ござる』調で話せ!設定を壊してるのはお前の方だ。お前が俺の口調を真似て、そんなことを言うと、読者は最初の5話ぐらいまで、父親である俺がチョンマゲを結っていたのか、と勘違いする」
「うむ。それもまた一興。とにかく、拙者のチョンマゲを戻してくだされ」
それから延々と出口の見えない言い争いが続いたが、私には分かっていた。シン太郎左衛門はチョンマゲに特に関心はなく、ただ髪の毛がないことが不満なのだ。髪の毛がないと、美容院に行けない。将来、テクノロジーが飛躍的に進歩して、れもん星と地球の往復が可能になっても、髪がなければ、れもん星の美容院に行く理由がない。結局、シン太郎左衛門は、れもんちゃん御用達の美容院に行ってみたいだけなのだ。
チョンマゲ、チョンマゲと、うるさく要求するシン太郎左衛門を遮って、
「ところで、先端恐怖症のお前が、ハサミでチョキチョキと髪をカットされるのに耐えられるのか?」
シン太郎左衛門は、「はっ」と言葉に詰まった。
「お前の腹は読めている。れもんちゃん御用達の美容院には、お客ではなく、シャンプーやコンディショナーの営業マンとして出入りした方がよくないか?」
「なっ、なんと、そのような手がござるか?その話、詳しく聴かせてくだされ」
「詳しく言うほどのことはない。今言ったことが全てだ」
「ちなみにシャンプーやヘアケア商品のほかに、石鹸も売りに行ってよろしいか?」
「石鹸って、当たり前の石鹸か?」
「うむ。普通の石鹸でござる」
「好きにしたらいい」
「うむ、これはよい。拙者、美容院専門の営業マンになりまする」
「それがいい。しばらく頑張ったら、美容師さんがお前の衛生意識の高さに気付いて、レジ打ちのバイトで雇ってくれるかもよ」
「なんと!そんなステキな特典までござるか」
「よく知らない。俺は美容院に行ったことがない」
それきりシン太郎左衛門は静かに物思いに耽り出した。れもんちゃん御用達の美容院でレジ打ちに邁進する自分の姿を妄想して、うっとりしているに違いない。
実際には、我々が生きている間に、れもん星と地球の間を定期的につなぐ交通機関など生まれるわけがない。
ただ、それは大した問題ではない。
れもんちゃんは人類の夢と希望である。
それ以外のことは、全て些末なことでしかなかった。
シン太郎左衛門とチョンマゲ(あるいは「れもん星から遠く離れて」) 様ありがとうございます。
写メ日記はフォロ-してます。りおさん一押しですがまた4時台の出店復活してくれるとありがたいなあ ご無沙汰してます
Jay様ありがとうございます。