口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
れもん【VIP】の口コミだけ見る
投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様
ご来店日 2023年07月23日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当は違うかもしれない。
日曜日の朝。暑いし湿度も高いから、起きると、まずシャワーを浴びた。グラスに注いだアイスコーヒーをテーブルに置くと、全裸のまま新聞を開いた。
「父上、何を泣いておられる」
「泣いてはいない。涙が出ただけだ」
「まさか、シン太郎左衛門シリーズの最終回でござるか」
「違う。そんなことで涙は出ない。上の文章、前回の出だしと全く同じだろ。まさかとは思ったが、また夢オチかもしれないと、頬をつねってみたが、痛いというほどでもない。『またもや、してやられたか』と、最終確認の積もりで鼻の上を拳で叩いてみたら、まともに痛くて涙が出てきた。もう少し手加減すればよかった」
「父上は、近頃珍しい古典的な馬鹿でござるな」
「何とでも言え。れもんちゃんに会う日、俺の心はとっても広い。馬鹿と呼ばれようが、鼻が痛かろうが、全く問題にならん。車に跳ねられて肋骨の2、3本折れても、『全然大丈夫』と言ってしまいそうだ」
「それは尤も。れもんちゃんの力は恐ろしいほどでござる。ちなみに、拙者の場合、れもんちゃんに会う日の朝は、無性に歌いたくなりまする」と、私の同意を求めることもなく、全777番あるとも言われる曲を歌い始めた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて・・・
シン太郎左衛門は否定するが、この1番を聴く限り、『れもんちゃん音頭』以外の曲名は考えられなかった。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番れもんちゃん
と、1番が終わり、1番以外で唯一聴いたことのある27番は二度と聞きたくなかったし、とにかく何番だろうが、変なのが来たら、すぐに止めようと身構えていると、「は~いのはい・・・」と民謡調で来たので、ひとまず胸を撫で下ろした。
は~いのはい、は~いのはい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なるエロ美人
立てば芍薬、座れば牡丹
歩く姿もエロ美人
あ~あ、フェロモンが芳しい・・・
「ちょっと待て」
興が乗ったところで水を注されたシン太郎左衛門は不満げに、「なんでござるか」
「歌詞に品がない」
「品がないとは失礼でござろう」
「そうだ。この歌詞では、れもんちゃんに失礼だ。盆踊りに使えない」
「盆踊りに使う予定はごさらぬ」
「以前、この歌の名は『れもんちゃん音頭』ではないとキッパリ断言したのに、今聞けば、この歌は自らを『れもんちゃん音頭』と明言しておる」
「なんの。この歌全体は未だ名を持ちませぬ。初めの10番ほどを便宜上『れもんちゃん音頭』と呼んでおるばかりでござる」
「便宜上でも音頭と呼ぶからには、盆踊りを意識しなければならない」
「なるほど、そういうものでござるか」
「当たり前だ。一流の音頭は盆踊りで使われるものだ。れもんちゃんは、一流ではないのか?」
「聞き捨てなりませぬ。れもんちゃんは超一流の面々が反り返って仰ぎ見なければならぬほどの高みにおられるお方じゃ」
「もちろん分かってる。当然そうだ。だから仮にも、れもんちゃんの名を冠する以上、盆踊りで使えるような歌詞にすべきだ。そうして、我らが町内会の盆踊りを手始めに『れもんちゃん音頭』を売り出そう」
「本気でござるか」
「うむ。新型コロナ以降、開催されていないが、それ以前の、この町内会の盆踊りについて気が付いたことはないか?」
「う~む。選曲が出鱈目でござった」
「だろ?そうなんだ。我らが町内会の盆踊りで使われていた音源には、日本各地の余り有名でない民謡が脈絡なく収められていた。地元の音頭も含まれてはいたが、扱いは他の曲と同じだ。あのCDを編集したのは誰だと思う?」
「町内会長のY殿でござろう」
「世間では、そう思われているが、実は違う。あのCDを纏めたのは俺だ。まあ聴け。町内会長のYさんは、元エリートサラリーマンらしいが、東京本社勤務のときに住んでいた社宅の隣の公園で、毎年盆踊りになると延々と『東京音頭』が繰り返されることに辟易していたらしい。これでは新しいことにチャレンジする姿勢や創造性は育まれないと、Yさんは考えた。それで退職後に移り住んだこの町で町内会長を任されたとき、まず第一に手を着けたのが、盆踊り改革だったのだ。その当時は、この町の盆踊りでも、地元の音頭を飽きもせず繰り返し流していたからな。しかし、Yさんは音楽に詳しくないから、誰か選曲の手助けをしてくれないかと、よりによって盆踊りの音楽に全く無知な俺に頼ってきた訳だ」
「こんな音痴に頼むとは・・・ひどい話でござる」
「全くだ。寄合のとき、俺が『それなら、なんとか音頭とか、なんとか節とか、民謡の類いを適当に寄せ集めたCDを作りゃいい』と言ったら、その通りになってしまった。盆踊りの当日は大混乱で、『こんなので踊れるか』と非難轟々だったが、Yさんは懲りることなく、翌年以降も同じ路線を突っ走ったのだ。ただ数年経つと、みんなその環境に慣れてきて、聴いたこともない曲に合わせて、何となく踊るようになっていた。もちろん、一切統制が取れてない、てんでばらばらの踊りだったがな。慣れというのは大したもんだ」
「父上、延々とY殿の話をしておられるが、これは、れもんちゃんのクチコミでござるぞ」と、シン太郎左衛門が見かねて口を挟んできた。
「分かってる。分かってる。もう終わる。俺も好きでYさんの話をしている訳じゃない。まあ、そういうことで、この町内会は全国でもトップレベルで盆踊りの音楽に対して革新的なのだ。だから盆踊りが復活したとき、『れもんちゃん音頭』を流しても、歌詞の中で『エロ美人』だの『フェロモン』だのと言わなければ、この町の人達は何の違和感もなく、踊ってしまうのさ」
「う~む、なにやら変な夢を見ているような感覚じゃ」
「俺も、ここ最近ずっとそうだ。れもんちゃんと会っている時間だけが素敵な夢で、それ以外の時間は全て変テコな夢だ。それは、それでいい。お前の『れもんちゃん音頭』、なかなか面白い。この町内の人々は即興で踊るのに慣れてるし、きっと喜んで踊るだろう。それを撮影して、動画サイトにアップしよう。『大人気!!れもんちゃん音頭』とタイトルを付ける。なんとも楽しいな」
「とんと分からん。楽しい以前に、それは、れもんちゃんの許しを得ずに、やってもよいことなのでござるか」
「多分やってよいだろう。他の町内会から引き合いがあるだろうから、概要欄に『れもんちゃん音頭の音源をご希望の方は以下にご連絡下さい』として、Yさんのメルアドを載せておく」
「Y殿には寝耳に水・・・」
「大丈夫だ。ちゃんと説明しておく。なかなかいい曲だから、瞬く間に日本中の盆踊り会場で流れることだろう。そのうち誰かが『ところで、れもんちゃんって何者だ?』と疑問に思う、ネットで検索する、クラブロイヤルのホームページにたどり着く、そして、このクチコミを呼んで納得する。れもんちゃんの全国的な知名度がガッと上がる」
「今日の父上は変でござる。なんだか嫌な予感。もしや、今回は拙者の夢オチではござらぬか」
「夢オチ?何を言い出すことやら」と鼻で笑うと、シン太郎左衛門も照れ笑いを浮かべ、「思えば、父上は作者。夢と消えるはずがない。拙者の思い過ごしでござった」
「ましてや、3回連続で夢オチなんてことは流石にないだろう・・・なんて油断をしてはいけないよ。二度あることは三度あると、ナポレオンの辞書にも書いてある。まあ、そういうことだ」と、私はシン太郎左衛門の肩をポンと叩いて、霧散した。
「な、なんと、作者が突然いなくなってしもうた。こんな途轍もなく長く、しかも書きかけのクチコミを残して、作者が消えてしもうた・・・今度こそ、れもんちゃんに叱られまするぞ」
次の瞬間、シン太郎左衛門は、突然寝返りを打った父親の下敷きになり、「むぎゅ~っ」と呻き声を上げていた。
「苦しい~。父上、起きてくだされ」
「へぇ?なんだ?」
「寝返りは打たぬ約束。まずは仰向けになり、その後、拙者の話を聴いてくだされ」
たった今見た夢の話を、シン太郎左衛門が語り終えると、彼の父親は「うそ~ん。これって、れもんちゃんに会う大事な日の朝5時に起きて聴くべき話か?」と、顔をしかめた。「シン太郎左衛門、もう起こすなよ。目覚ましが鳴るまで『し~』だからね」と、ブランケットを額の上まで引き被った。しかし、すぐに素っ気ない態度を反省したのか、「でも、『れもんちゃん音頭』、ちゃんと作ってみたら?」とブランケットの下から、くぐもった声がした。「れもんちゃんは洒落の分かる娘だし、多分喜んでくれるよ。それと、Yさんは今、盆踊りの復活に燃えているから、今年は無理でも来年は再開するかもな。あの会場の広場に『れもんちゃん音頭』が流れたら、痛快だな。CDに入れて、『これかけて』って言ったら、『はいよ』って流してくれるぐらいの緩い運営だから、出来ない話じゃないしな」
「それは誠でござるか」
「うん。でも777番全部はダメ。10番まで。後、くれぐれも27番は入れないでね。じゃ、おやすみ」
薄暗がりの中、シン太郎左衛門は寝付けなかった。あの偽オヤジの言葉が耳から離れなかった。
「盆踊りに使われてこそ音頭とは、思えば的を射た意見。777番まで膨れた歌だが、元はと言えば、シャナリシャナリと踊る浴衣姿のれもんちゃんに憧れて作り始めたもの。今一度初心に戻り、全10番の『れもんちゃん音頭』を仕上げてみせよう。れもんちゃんの素晴らしさを世に知らしめることは、男子畢生の事業に相応しいのだ」
窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。
松江出張の折、父親は暇に飽かしてスマートフォンで音楽を流し続けていたが、その時すでに、れもんちゃんに捧げる楽曲の構想を抱いていたシン太郎左衛門は全身全霊を傾けて、それら数多の曲の精髄を吸収しようと努めていたのだ。そんなこととは露知らず、父親はすっかり眠りこけていた。
と、『ズンズン』と控え目にバスドラムが鳴り響き、ブランケットを微かに揺らした。父親の寝息を確認すると、小さくドラムスティックが打ち鳴らされ、小鳥の囀りと大差ないほどの小さな音でギター、ベース、ドラムの演奏が始まった。父親は熟睡していたために、ブランケットの中で密やかに響く曲の出だしが、妙に、いや露骨にリンキン・パークの「フェイント」のイントロに似ていることなど、知るよしもなかった。
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様
ご来店日 2023年07月23日
日曜日の朝。暑いし湿度も高いから、起きると、まずシャワーを浴びた。グラスに注いだアイスコーヒーをテーブルに置くと、全裸のまま新聞を開いた。
「父上、何を泣いておられる」
「泣いてはいない。涙が出ただけだ」
「まさか、シン太郎左衛門シリーズの最終回でござるか」
「違う。そんなことで涙は出ない。上の文章、前回の出だしと全く同じだろ。まさかとは思ったが、また夢オチかもしれないと、頬をつねってみたが、痛いというほどでもない。『またもや、してやられたか』と、最終確認の積もりで鼻の上を拳で叩いてみたら、まともに痛くて涙が出てきた。もう少し手加減すればよかった」
「父上は、近頃珍しい古典的な馬鹿でござるな」
「何とでも言え。れもんちゃんに会う日、俺の心はとっても広い。馬鹿と呼ばれようが、鼻が痛かろうが、全く問題にならん。車に跳ねられて肋骨の2、3本折れても、『全然大丈夫』と言ってしまいそうだ」
「それは尤も。れもんちゃんの力は恐ろしいほどでござる。ちなみに、拙者の場合、れもんちゃんに会う日の朝は、無性に歌いたくなりまする」と、私の同意を求めることもなく、全777番あるとも言われる曲を歌い始めた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて・・・
シン太郎左衛門は否定するが、この1番を聴く限り、『れもんちゃん音頭』以外の曲名は考えられなかった。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番れもんちゃん
と、1番が終わり、1番以外で唯一聴いたことのある27番は二度と聞きたくなかったし、とにかく何番だろうが、変なのが来たら、すぐに止めようと身構えていると、「は~いのはい・・・」と民謡調で来たので、ひとまず胸を撫で下ろした。
は~いのはい、は~いのはい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なるエロ美人
立てば芍薬、座れば牡丹
歩く姿もエロ美人
あ~あ、フェロモンが芳しい・・・
「ちょっと待て」
興が乗ったところで水を注されたシン太郎左衛門は不満げに、「なんでござるか」
「歌詞に品がない」
「品がないとは失礼でござろう」
「そうだ。この歌詞では、れもんちゃんに失礼だ。盆踊りに使えない」
「盆踊りに使う予定はごさらぬ」
「以前、この歌の名は『れもんちゃん音頭』ではないとキッパリ断言したのに、今聞けば、この歌は自らを『れもんちゃん音頭』と明言しておる」
「なんの。この歌全体は未だ名を持ちませぬ。初めの10番ほどを便宜上『れもんちゃん音頭』と呼んでおるばかりでござる」
「便宜上でも音頭と呼ぶからには、盆踊りを意識しなければならない」
「なるほど、そういうものでござるか」
「当たり前だ。一流の音頭は盆踊りで使われるものだ。れもんちゃんは、一流ではないのか?」
「聞き捨てなりませぬ。れもんちゃんは超一流の面々が反り返って仰ぎ見なければならぬほどの高みにおられるお方じゃ」
「もちろん分かってる。当然そうだ。だから仮にも、れもんちゃんの名を冠する以上、盆踊りで使えるような歌詞にすべきだ。そうして、我らが町内会の盆踊りを手始めに『れもんちゃん音頭』を売り出そう」
「本気でござるか」
「うむ。新型コロナ以降、開催されていないが、それ以前の、この町内会の盆踊りについて気が付いたことはないか?」
「う~む。選曲が出鱈目でござった」
「だろ?そうなんだ。我らが町内会の盆踊りで使われていた音源には、日本各地の余り有名でない民謡が脈絡なく収められていた。地元の音頭も含まれてはいたが、扱いは他の曲と同じだ。あのCDを編集したのは誰だと思う?」
「町内会長のY殿でござろう」
「世間では、そう思われているが、実は違う。あのCDを纏めたのは俺だ。まあ聴け。町内会長のYさんは、元エリートサラリーマンらしいが、東京本社勤務のときに住んでいた社宅の隣の公園で、毎年盆踊りになると延々と『東京音頭』が繰り返されることに辟易していたらしい。これでは新しいことにチャレンジする姿勢や創造性は育まれないと、Yさんは考えた。それで退職後に移り住んだこの町で町内会長を任されたとき、まず第一に手を着けたのが、盆踊り改革だったのだ。その当時は、この町の盆踊りでも、地元の音頭を飽きもせず繰り返し流していたからな。しかし、Yさんは音楽に詳しくないから、誰か選曲の手助けをしてくれないかと、よりによって盆踊りの音楽に全く無知な俺に頼ってきた訳だ」
「こんな音痴に頼むとは・・・ひどい話でござる」
「全くだ。寄合のとき、俺が『それなら、なんとか音頭とか、なんとか節とか、民謡の類いを適当に寄せ集めたCDを作りゃいい』と言ったら、その通りになってしまった。盆踊りの当日は大混乱で、『こんなので踊れるか』と非難轟々だったが、Yさんは懲りることなく、翌年以降も同じ路線を突っ走ったのだ。ただ数年経つと、みんなその環境に慣れてきて、聴いたこともない曲に合わせて、何となく踊るようになっていた。もちろん、一切統制が取れてない、てんでばらばらの踊りだったがな。慣れというのは大したもんだ」
「父上、延々とY殿の話をしておられるが、これは、れもんちゃんのクチコミでござるぞ」と、シン太郎左衛門が見かねて口を挟んできた。
「分かってる。分かってる。もう終わる。俺も好きでYさんの話をしている訳じゃない。まあ、そういうことで、この町内会は全国でもトップレベルで盆踊りの音楽に対して革新的なのだ。だから盆踊りが復活したとき、『れもんちゃん音頭』を流しても、歌詞の中で『エロ美人』だの『フェロモン』だのと言わなければ、この町の人達は何の違和感もなく、踊ってしまうのさ」
「う~む、なにやら変な夢を見ているような感覚じゃ」
「俺も、ここ最近ずっとそうだ。れもんちゃんと会っている時間だけが素敵な夢で、それ以外の時間は全て変テコな夢だ。それは、それでいい。お前の『れもんちゃん音頭』、なかなか面白い。この町内の人々は即興で踊るのに慣れてるし、きっと喜んで踊るだろう。それを撮影して、動画サイトにアップしよう。『大人気!!れもんちゃん音頭』とタイトルを付ける。なんとも楽しいな」
「とんと分からん。楽しい以前に、それは、れもんちゃんの許しを得ずに、やってもよいことなのでござるか」
「多分やってよいだろう。他の町内会から引き合いがあるだろうから、概要欄に『れもんちゃん音頭の音源をご希望の方は以下にご連絡下さい』として、Yさんのメルアドを載せておく」
「Y殿には寝耳に水・・・」
「大丈夫だ。ちゃんと説明しておく。なかなかいい曲だから、瞬く間に日本中の盆踊り会場で流れることだろう。そのうち誰かが『ところで、れもんちゃんって何者だ?』と疑問に思う、ネットで検索する、クラブロイヤルのホームページにたどり着く、そして、このクチコミを呼んで納得する。れもんちゃんの全国的な知名度がガッと上がる」
「今日の父上は変でござる。なんだか嫌な予感。もしや、今回は拙者の夢オチではござらぬか」
「夢オチ?何を言い出すことやら」と鼻で笑うと、シン太郎左衛門も照れ笑いを浮かべ、「思えば、父上は作者。夢と消えるはずがない。拙者の思い過ごしでござった」
「ましてや、3回連続で夢オチなんてことは流石にないだろう・・・なんて油断をしてはいけないよ。二度あることは三度あると、ナポレオンの辞書にも書いてある。まあ、そういうことだ」と、私はシン太郎左衛門の肩をポンと叩いて、霧散した。
「な、なんと、作者が突然いなくなってしもうた。こんな途轍もなく長く、しかも書きかけのクチコミを残して、作者が消えてしもうた・・・今度こそ、れもんちゃんに叱られまするぞ」
次の瞬間、シン太郎左衛門は、突然寝返りを打った父親の下敷きになり、「むぎゅ~っ」と呻き声を上げていた。
「苦しい~。父上、起きてくだされ」
「へぇ?なんだ?」
「寝返りは打たぬ約束。まずは仰向けになり、その後、拙者の話を聴いてくだされ」
たった今見た夢の話を、シン太郎左衛門が語り終えると、彼の父親は「うそ~ん。これって、れもんちゃんに会う大事な日の朝5時に起きて聴くべき話か?」と、顔をしかめた。「シン太郎左衛門、もう起こすなよ。目覚ましが鳴るまで『し~』だからね」と、ブランケットを額の上まで引き被った。しかし、すぐに素っ気ない態度を反省したのか、「でも、『れもんちゃん音頭』、ちゃんと作ってみたら?」とブランケットの下から、くぐもった声がした。「れもんちゃんは洒落の分かる娘だし、多分喜んでくれるよ。それと、Yさんは今、盆踊りの復活に燃えているから、今年は無理でも来年は再開するかもな。あの会場の広場に『れもんちゃん音頭』が流れたら、痛快だな。CDに入れて、『これかけて』って言ったら、『はいよ』って流してくれるぐらいの緩い運営だから、出来ない話じゃないしな」
「それは誠でござるか」
「うん。でも777番全部はダメ。10番まで。後、くれぐれも27番は入れないでね。じゃ、おやすみ」
薄暗がりの中、シン太郎左衛門は寝付けなかった。あの偽オヤジの言葉が耳から離れなかった。
「盆踊りに使われてこそ音頭とは、思えば的を射た意見。777番まで膨れた歌だが、元はと言えば、シャナリシャナリと踊る浴衣姿のれもんちゃんに憧れて作り始めたもの。今一度初心に戻り、全10番の『れもんちゃん音頭』を仕上げてみせよう。れもんちゃんの素晴らしさを世に知らしめることは、男子畢生の事業に相応しいのだ」
窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。
松江出張の折、父親は暇に飽かしてスマートフォンで音楽を流し続けていたが、その時すでに、れもんちゃんに捧げる楽曲の構想を抱いていたシン太郎左衛門は全身全霊を傾けて、それら数多の曲の精髄を吸収しようと努めていたのだ。そんなこととは露知らず、父親はすっかり眠りこけていた。
と、『ズンズン』と控え目にバスドラムが鳴り響き、ブランケットを微かに揺らした。父親の寝息を確認すると、小さくドラムスティックが打ち鳴らされ、小鳥の囀りと大差ないほどの小さな音でギター、ベース、ドラムの演奏が始まった。父親は熟睡していたために、ブランケットの中で密やかに響く曲の出だしが、妙に、いや露骨にリンキン・パークの「フェイント」のイントロに似ていることなど、知るよしもなかった。
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様ありがとうございました。