口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様
ご来店日 2023年07月30日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当だと当人は言っている。
一昨日の7時頃、仕事からの帰り、町内会長のYさんの家の前を通りかかると、Yさんは庭木に水をやっていた。何故か妙にシャンとした格好で、ネクタイまで締めていた。「お帰りなさい」と挨拶されたので、挨拶を返して、ついでに盆踊り復活の見通しについて訊いてみた。Yさんは口の前に指を立てて、辺りの様子を確認すると、ホースの水を止めた。
Yさんは「実は、その件で動きがある」と囁くような小声で言った。ズボンの中でシン太郎左衛門が聞き耳を立てているのが分かっていたので、ヒソヒソ話は私にとっても好都合だった。
Yさんが言うには、町内会の集まりで夏祭りの復活が否決されたのは町内会報で周知のとおり(私が回覧板を見ずに回していることが、町内会長にバレてしまった)。しかし、それでは収まらないYさんは同志を糾合し、金のかかる籤引き大会やヨーヨー釣りはカットし、盆踊りだけを決行する計画らしい。極秘と言いながら、Yさんがヒソヒソ声だったのは最初だけで、すぐに大声を張り上げていたから、一部始終を聞いたシン太郎左衛門は満足げに頷いていた。
「なるほど、こじんまりとした盆踊りなら、広場にラジカセを持っていけばいいだけですもんね」と言ったら、Yさんは呆れ顔で、「それはいかんでしょ。櫓がなければね。太鼓がなければね。提灯を吊らなければね」
呆れているのは、こちらも同様で「櫓や太鼓なんて要ります?」と言い返したかった。でも止めた。実は、Yさんの櫓や太鼓への強い拘りが夏祭り復活の最大の障壁なのだ。盆踊りはやってもいいが、櫓や太鼓は確実に不要というのが、町内の大方の意見だった。この町内でも高齢化は進行していて、鉄骨で櫓を組み、その上に太鼓を持ち上げる作業は、コロナ前でも多大な負担だった。その上、これらは全くの飾りでしかなかった。というのは、私が引っ越してきた30年前の時点で、この町には既に太鼓の叩き手はいなかった。太鼓の手入れもされておらず、以前、私が試しに叩いてみたときには、グチャっという嫌な音がして、とても祭りの当日に鳴らせる状態ではなかった。そんなことで、コロナで一度中断してしまうと、従前通りでの復活を断固拒否する声が噴出した。
「今10人ほどが賛同してくれているから、後数名加わってくれると大助かりです」と私を誘ってきた。
「ちなみに、その10人って誰ですか?」と尋ねると、Yさんはあっさり教えてくれて、「我々は、この計画を『ゲリラ盆踊り作戦』と呼んでいます。ぜひ、あなたにも加わっていただきたい」
真っ平御免だ、と言下に断りたかったが、ズボンの中でシン太郎左衛門がせっついてくるので、彼の意を汲んで、
「数日考えされてください。それともう一つ教えてください。ゲリラ盆踊りのとき、私の希望する曲を流してもらえますか?」
「CDを持ってきてもらえれば、かけますよ。ただ、盆踊りに相応しいものでしょうな?」
「はい、もちろんです。『れもんちゃん音頭』です」
「えっ、知らないなぁ。『アンパンマン音頭』なら子供たちに人気ですけど」
「れもんちゃんは、『アンパンマン』の登場人物ではありません。れもんちゃんは、子供ではなく大人に大人気です。必殺技は『アンパンチ』ではなく、『レモンスカッシュ』です・・・まあ、いいや。さようなら」
Y邸の角を曲がると、家までは直線200メートルを残すばかりだ。
「シン太郎左衛門、聞いたか?『ゲリラ盆踊り作戦』だってさ。極秘作戦なのに、名前がそのままズバリだ。シン太郎左衛門シリーズの登場人物だけあって、言うことがてんで成ってないよな」
「それで父上は・・・」
「あいつのゲリラ盆踊りに協力するかって?多分しないな。さっき名前が上がってた10人だけど、全員80歳を軽く越えてる。Yさんを筆頭にみんな元気は元気だが、この猛暑だぞ。1時間も外に立たせておいたら、全員ブッ倒れる。熱中症でな。ましてや、町内会の倉庫に眠ってる鉄骨を広場に運んで櫓を組んで、その上に太鼓を据えて、紅白の幕を櫓に巻き付けて、櫓から四方に紐を張って提灯を吊るしてって、彼ら自身はお手伝いをするだけだ。『あと数名加わってもらうと助かる』とか言ってたが、その数名が実働部隊だ。俺が一人加わっても、何も起こらない。俺も立派に爺さんだから、連中にコキ使われたら、ぶち切れる」
「残念でござる」
「まあ完全に望みが絶たれた訳じゃない。来週のどこかで、櫓と太鼓抜きなら協力すると、Yさんに話す」
「Y殿は聞き入れましょうか」
「さっきの口振りでは、受け入れまい。そのときは、そのときだ」
通りすぎる家々から、それぞれの夕食の匂いが漂っていた。
「父上、ニートの金ちゃんに頼んではいかがでござろうか」
「金ちゃんか・・・」
シン太郎左衛門が言う「ニートの金ちゃん」は、隣家の長男である。彼を「金ちゃん」と呼んでいるのは、私とシン太郎左衛門だけで、彼の名前とは全く無縁に、ただ彼が童顔で丸々とした体型、金太郎を思わす風貌をしているために、そう呼んでいるだけのことだ。
また金ちゃんは本当はニートではない。今30歳、ほとんど家から出ないから、近所で誤解を受けているが、フリーランスのプログラマーで生活には困っていないのだ。人付き合いを極端に避けるが、何故か子供の頃から私には懐いてきた。
「何故、金ちゃんは、父上のような変人に気を許したのでござろうか」
「それは言えない。お前が、れもんちゃんのときだけ別人になる理由が簡単には説明できないのと同じだし、下手をすると俺の裏の顔に触れることになる」
「父上には裏の顔がありまするか」
「そんなものはない。説明にトコトン窮すると、実際にはないものをでっち上げることになりかねないという意味の比喩だ。まあいい。何にせよ、金ちゃんに力仕事は無理だ。不摂生を極めた生活をしているから、割り箸やプラスチックのスプーンより重いものは持てない。塗りの箸ではカップ麺も食えず、金属製のスプーンではプリンも掬えないのだ」
「それは困りましたな」
「いや・・・いいことを言ってくれた。一つ妙案が浮かんだ」
「妙案とな」
「うん。金ちゃんは年に一、二度ガッツリと部屋に引き籠ることがある。『面会謝絶』とドアに張り紙をして、一週間でも自室から出てこない。そういうとき引っ張り出してやるのが、俺の役目だ。『よお、元気か?』とアイツの部屋のドアを蹴破って、『飯食ってるか?これでも食え』とアイツが嫌いなトマトやナスやピーマンを部屋中にバラ撒いてやる。すると、金ちゃんは『冗談、止めてくださいよ』と部屋から出ていくのだ。他の人間がやっても、こうはならない。俺だけに出来る技だ。こういうことがあって、彼の両親は俺に感謝していて、真面目に頼めば盆踊りの実施に協力してくれるだろう」
「Y殿の計画にご両親を加担させるのですな」
「Yさんの計画に実現性は乏しい。多分破綻する。そうなったときに、ラッピーを含めた金ちゃんの家族と俺たちだけで盆踊り大会を決行する」
「拙者、ラッピーは苦手じゃ。よく吠えられる」
ラッピーは、金ちゃん一家が飼っている雌のラブラドール・レトリバーだった。
「ラッピーは実に賢い。この町内で俺が一目置くのはラッピーだけだ。人間は全員ダメだ。ラッピーの慧眼には畏れ入る。この町で、お前の存在を察知したのは彼女だけだ。だから吠えるんだ。敵意からではない。友達になりたいのだ」
「それは誠でござるか」
「ラッピーの目を見てみろ。あの優しく澄みきった美しい目を。れもんちゃんの目に似ている。俺が犬だったら、ラッピーに恋していた。偶々人間だったから、れもんちゃんが大好きになったのだ・・・まあいい。町内会長がやれなければ、俺たちと金ちゃんファミリーでゲリラ盆踊りを敢行する。それだけのことだ。名付けてプロジェクトK」
「プロジェクトKとな。Kは『金ちゃん』の略でござるな」
「違う。『プロジェクト金ちゃん』ではどう考えても格好悪い。Kは梶井のKだ・・・これも別に格好よくはないが、梶井は『檸檬』の作者で、『檸檬』は京都の丸善というデカい本屋の美術書コーナーで画集を積み上げて、その上にレモン爆弾を仕掛けて立ち去る男の話だ。高校の教科書に載っていた。俺たちは、広場に『れもんちゃん音頭』という爆弾を設置し、この腐った町を爆破するんだ」
シン太郎左衛門は神妙な顔で「なるほど」と頷いた。最近、よく分からないことを「なるほど」の一言で誤魔化す術を学んだようだ。
「シン太郎左衛門、お前の任務はとにかく『れもんちゃん音頭』を完成することだ。町内会長の盆踊りだろうが俺たちの盆踊りだろうが、『れもんちゃん音頭』を流すのは一回限りだ。しくじることは許されない。『れもんちゃん音頭』が不発だったら、俺たちは無駄死にだぞ」
最後の方のセリフは出鱈目だったが、私には若干妄想癖があり、こういうヒロイックな展開をかなり楽しんでいた。
「10日くだされ。立派に作ってみせまする。そして歌と演奏の技を研き、10日後には必ず『れもんちゃん音頭』、披露致しまする」
こんな真剣な顔をしたシン太郎左衛門は初めて見た。
ちょうど家の前に着いた。
「任せたぞ、シン太郎左衛門。『れもんちゃん音頭』、早く聴きたいものだ」と言いながら、私は(「歌と演奏の技を研く」って、どういう意味だろう。『れもんちゃん音頭』はアカペラなのに)と訝しさを感じていた。そして、ぼんやりとした不安感すら覚えながら、玄関の鍵を開けた瞬間、ラッピーが数回吠えた。その声が何故だか警戒を促しているようで、ぼんやりとした不安の塊は一回り大きさを増したのであった。
さて、6月11日の松江出張の篇に始まった、音楽時代劇の大作『シン太郎左衛門と音楽』は、いよいよ次回『れもんちゃん盆踊り(後編)』で、そのクライマックスを迎える。
絶世の美女、れもん姫の運命や如何に!!
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様
ご来店日 2023年07月30日
一昨日の7時頃、仕事からの帰り、町内会長のYさんの家の前を通りかかると、Yさんは庭木に水をやっていた。何故か妙にシャンとした格好で、ネクタイまで締めていた。「お帰りなさい」と挨拶されたので、挨拶を返して、ついでに盆踊り復活の見通しについて訊いてみた。Yさんは口の前に指を立てて、辺りの様子を確認すると、ホースの水を止めた。
Yさんは「実は、その件で動きがある」と囁くような小声で言った。ズボンの中でシン太郎左衛門が聞き耳を立てているのが分かっていたので、ヒソヒソ話は私にとっても好都合だった。
Yさんが言うには、町内会の集まりで夏祭りの復活が否決されたのは町内会報で周知のとおり(私が回覧板を見ずに回していることが、町内会長にバレてしまった)。しかし、それでは収まらないYさんは同志を糾合し、金のかかる籤引き大会やヨーヨー釣りはカットし、盆踊りだけを決行する計画らしい。極秘と言いながら、Yさんがヒソヒソ声だったのは最初だけで、すぐに大声を張り上げていたから、一部始終を聞いたシン太郎左衛門は満足げに頷いていた。
「なるほど、こじんまりとした盆踊りなら、広場にラジカセを持っていけばいいだけですもんね」と言ったら、Yさんは呆れ顔で、「それはいかんでしょ。櫓がなければね。太鼓がなければね。提灯を吊らなければね」
呆れているのは、こちらも同様で「櫓や太鼓なんて要ります?」と言い返したかった。でも止めた。実は、Yさんの櫓や太鼓への強い拘りが夏祭り復活の最大の障壁なのだ。盆踊りはやってもいいが、櫓や太鼓は確実に不要というのが、町内の大方の意見だった。この町内でも高齢化は進行していて、鉄骨で櫓を組み、その上に太鼓を持ち上げる作業は、コロナ前でも多大な負担だった。その上、これらは全くの飾りでしかなかった。というのは、私が引っ越してきた30年前の時点で、この町には既に太鼓の叩き手はいなかった。太鼓の手入れもされておらず、以前、私が試しに叩いてみたときには、グチャっという嫌な音がして、とても祭りの当日に鳴らせる状態ではなかった。そんなことで、コロナで一度中断してしまうと、従前通りでの復活を断固拒否する声が噴出した。
「今10人ほどが賛同してくれているから、後数名加わってくれると大助かりです」と私を誘ってきた。
「ちなみに、その10人って誰ですか?」と尋ねると、Yさんはあっさり教えてくれて、「我々は、この計画を『ゲリラ盆踊り作戦』と呼んでいます。ぜひ、あなたにも加わっていただきたい」
真っ平御免だ、と言下に断りたかったが、ズボンの中でシン太郎左衛門がせっついてくるので、彼の意を汲んで、
「数日考えされてください。それともう一つ教えてください。ゲリラ盆踊りのとき、私の希望する曲を流してもらえますか?」
「CDを持ってきてもらえれば、かけますよ。ただ、盆踊りに相応しいものでしょうな?」
「はい、もちろんです。『れもんちゃん音頭』です」
「えっ、知らないなぁ。『アンパンマン音頭』なら子供たちに人気ですけど」
「れもんちゃんは、『アンパンマン』の登場人物ではありません。れもんちゃんは、子供ではなく大人に大人気です。必殺技は『アンパンチ』ではなく、『レモンスカッシュ』です・・・まあ、いいや。さようなら」
Y邸の角を曲がると、家までは直線200メートルを残すばかりだ。
「シン太郎左衛門、聞いたか?『ゲリラ盆踊り作戦』だってさ。極秘作戦なのに、名前がそのままズバリだ。シン太郎左衛門シリーズの登場人物だけあって、言うことがてんで成ってないよな」
「それで父上は・・・」
「あいつのゲリラ盆踊りに協力するかって?多分しないな。さっき名前が上がってた10人だけど、全員80歳を軽く越えてる。Yさんを筆頭にみんな元気は元気だが、この猛暑だぞ。1時間も外に立たせておいたら、全員ブッ倒れる。熱中症でな。ましてや、町内会の倉庫に眠ってる鉄骨を広場に運んで櫓を組んで、その上に太鼓を据えて、紅白の幕を櫓に巻き付けて、櫓から四方に紐を張って提灯を吊るしてって、彼ら自身はお手伝いをするだけだ。『あと数名加わってもらうと助かる』とか言ってたが、その数名が実働部隊だ。俺が一人加わっても、何も起こらない。俺も立派に爺さんだから、連中にコキ使われたら、ぶち切れる」
「残念でござる」
「まあ完全に望みが絶たれた訳じゃない。来週のどこかで、櫓と太鼓抜きなら協力すると、Yさんに話す」
「Y殿は聞き入れましょうか」
「さっきの口振りでは、受け入れまい。そのときは、そのときだ」
通りすぎる家々から、それぞれの夕食の匂いが漂っていた。
「父上、ニートの金ちゃんに頼んではいかがでござろうか」
「金ちゃんか・・・」
シン太郎左衛門が言う「ニートの金ちゃん」は、隣家の長男である。彼を「金ちゃん」と呼んでいるのは、私とシン太郎左衛門だけで、彼の名前とは全く無縁に、ただ彼が童顔で丸々とした体型、金太郎を思わす風貌をしているために、そう呼んでいるだけのことだ。
また金ちゃんは本当はニートではない。今30歳、ほとんど家から出ないから、近所で誤解を受けているが、フリーランスのプログラマーで生活には困っていないのだ。人付き合いを極端に避けるが、何故か子供の頃から私には懐いてきた。
「何故、金ちゃんは、父上のような変人に気を許したのでござろうか」
「それは言えない。お前が、れもんちゃんのときだけ別人になる理由が簡単には説明できないのと同じだし、下手をすると俺の裏の顔に触れることになる」
「父上には裏の顔がありまするか」
「そんなものはない。説明にトコトン窮すると、実際にはないものをでっち上げることになりかねないという意味の比喩だ。まあいい。何にせよ、金ちゃんに力仕事は無理だ。不摂生を極めた生活をしているから、割り箸やプラスチックのスプーンより重いものは持てない。塗りの箸ではカップ麺も食えず、金属製のスプーンではプリンも掬えないのだ」
「それは困りましたな」
「いや・・・いいことを言ってくれた。一つ妙案が浮かんだ」
「妙案とな」
「うん。金ちゃんは年に一、二度ガッツリと部屋に引き籠ることがある。『面会謝絶』とドアに張り紙をして、一週間でも自室から出てこない。そういうとき引っ張り出してやるのが、俺の役目だ。『よお、元気か?』とアイツの部屋のドアを蹴破って、『飯食ってるか?これでも食え』とアイツが嫌いなトマトやナスやピーマンを部屋中にバラ撒いてやる。すると、金ちゃんは『冗談、止めてくださいよ』と部屋から出ていくのだ。他の人間がやっても、こうはならない。俺だけに出来る技だ。こういうことがあって、彼の両親は俺に感謝していて、真面目に頼めば盆踊りの実施に協力してくれるだろう」
「Y殿の計画にご両親を加担させるのですな」
「Yさんの計画に実現性は乏しい。多分破綻する。そうなったときに、ラッピーを含めた金ちゃんの家族と俺たちだけで盆踊り大会を決行する」
「拙者、ラッピーは苦手じゃ。よく吠えられる」
ラッピーは、金ちゃん一家が飼っている雌のラブラドール・レトリバーだった。
「ラッピーは実に賢い。この町内で俺が一目置くのはラッピーだけだ。人間は全員ダメだ。ラッピーの慧眼には畏れ入る。この町で、お前の存在を察知したのは彼女だけだ。だから吠えるんだ。敵意からではない。友達になりたいのだ」
「それは誠でござるか」
「ラッピーの目を見てみろ。あの優しく澄みきった美しい目を。れもんちゃんの目に似ている。俺が犬だったら、ラッピーに恋していた。偶々人間だったから、れもんちゃんが大好きになったのだ・・・まあいい。町内会長がやれなければ、俺たちと金ちゃんファミリーでゲリラ盆踊りを敢行する。それだけのことだ。名付けてプロジェクトK」
「プロジェクトKとな。Kは『金ちゃん』の略でござるな」
「違う。『プロジェクト金ちゃん』ではどう考えても格好悪い。Kは梶井のKだ・・・これも別に格好よくはないが、梶井は『檸檬』の作者で、『檸檬』は京都の丸善というデカい本屋の美術書コーナーで画集を積み上げて、その上にレモン爆弾を仕掛けて立ち去る男の話だ。高校の教科書に載っていた。俺たちは、広場に『れもんちゃん音頭』という爆弾を設置し、この腐った町を爆破するんだ」
シン太郎左衛門は神妙な顔で「なるほど」と頷いた。最近、よく分からないことを「なるほど」の一言で誤魔化す術を学んだようだ。
「シン太郎左衛門、お前の任務はとにかく『れもんちゃん音頭』を完成することだ。町内会長の盆踊りだろうが俺たちの盆踊りだろうが、『れもんちゃん音頭』を流すのは一回限りだ。しくじることは許されない。『れもんちゃん音頭』が不発だったら、俺たちは無駄死にだぞ」
最後の方のセリフは出鱈目だったが、私には若干妄想癖があり、こういうヒロイックな展開をかなり楽しんでいた。
「10日くだされ。立派に作ってみせまする。そして歌と演奏の技を研き、10日後には必ず『れもんちゃん音頭』、披露致しまする」
こんな真剣な顔をしたシン太郎左衛門は初めて見た。
ちょうど家の前に着いた。
「任せたぞ、シン太郎左衛門。『れもんちゃん音頭』、早く聴きたいものだ」と言いながら、私は(「歌と演奏の技を研く」って、どういう意味だろう。『れもんちゃん音頭』はアカペラなのに)と訝しさを感じていた。そして、ぼんやりとした不安感すら覚えながら、玄関の鍵を開けた瞬間、ラッピーが数回吠えた。その声が何故だか警戒を促しているようで、ぼんやりとした不安の塊は一回り大きさを増したのであった。
さて、6月11日の松江出張の篇に始まった、音楽時代劇の大作『シン太郎左衛門と音楽』は、いよいよ次回『れもんちゃん盆踊り(後編)』で、そのクライマックスを迎える。
絶世の美女、れもん姫の運命や如何に!!
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様ありがとうございました。