口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様
ご来店日 2023年08月06日
一週間前、つまり先週の日曜日も、れもんちゃんに会った。その帰りの電車の中で、シン太郎左衛門はいつにも増して興奮していた。
「今日のれもんちゃんの、あの自由奔放すぎる可愛さ、あれは尋常ではなかった。父上、あれは許せませぬな」
「そうだな」
「それに、今日のれもんちゃんの、上目遣いのニヤッという妖しい笑顔からのアレもいかん。父上、あれも許せませぬな」
「うん」
「ただ、最も許せぬのは、今日のれもんちゃんのアレでござる。あれは到底許しがたい。父上、あれが一番許せませぬな」
「何を言ってるか分からんのに同意を求められても困るが、多分答えはイエスだ」
「そうでござろう。れもんちゃんは、とんでもなく素敵すぎるのでござる。そして、そんな高みにありながら、何の前触れもなしに、その高みを乗り越えて平気な顔をしておる。許せん」
「ホントにそうだ。最近、れもんちゃんは益々パワーアップしている気がする」
シン太郎左衛門は、大きく頷いた。そして、急に真顔になり、
「父上」
「なんだ?」
「町内の盆踊りの件・・・」
「うん」
「どうでもよくなった」
「そうか・・・実は俺もだ。先週、あれだけ長々とクチコミを書いたが、実はあれを書いている時点、つまりこのクチコミの時間で言えば、ちょうど今頃だな、書かれている俺でなく、書いている俺はゲリラ盆踊りに全く興味を失ってしまってたんだ」
「そういう言い方をすると、時系列が入り組んで、無駄にややこしくなりまする」
「面白いだろ?」
「ちっとも面白くない」
「そうか。お前とは話が合わん」
「それは、そうと。止めましょう」
「ゲリラ盆踊りか?」
「うむ」
「そうだな・・・止めよう」
と、先週あれだけ頑張って打ち込んだ、長い長いクチコミがあっさり反古になってしまった。ひどい話ではあるが、日々パワーアップするれもんちゃんを前にすると、我々のやっていることが余りにも卑小に思えるのが原因だから、責任は、れもんちゃんにある。
そして、今日、またしても日曜日の朝。
れもんちゃんに会う日の朝は、暑くても清々しい目覚めで、さっさとシャワーを浴びて、アイスコーヒー片手にダイニングの椅子に腰を下ろした。
「シン太郎左衛門、目玉焼き、食べる?」
「拙者は食べませぬ」
「じゃ食べなくてもいいから、作って」
「何をたわけたことを」
これから数時間後には、れもんちゃんに会えるのだ。シン太郎左衛門が鼻歌を口ずさむのも当然だ。
「ほ~いのほい、ほ~いのほい・・・」の歌い出し、偽オヤジは聞いたことがあるものの、私には知らない歌だった。
「その歌、なに?」
「『れもんちゃん音頭』の二番にござる」
「へぇ~、そうなんだ。ちなみに『れもんちゃん音頭』って出来上がったの?」
「仕上がりましてござる。10番に纏めました」
「そうか」
「聞かれますか」
「そうだな。聞いてみるか。ただ、俺は忙しい」と、椅子から立ち上がって、「俺はこれから卵とトマトとパンとを相手に命懸けの闘いを繰り広げる。勝ち残った者が破れた者を食べるのが野生の掟だ。俺が負けて、卵やトマトの朝御飯にされないよう、『れもんちゃん音頭』で応援してくれ」
シン太郎左衛門の『れもんちゃん音頭』を通しで聴くのは、これが最初で最後になるかもしれないとは思いつつ、冷蔵庫から食材を取り出していると、
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
・・・
毎度お馴染みの『れもんちゃん音頭』の一番が始まった。シン太郎左衛門の歌唱力が増したのか妙に心に染みてくる。
一番が終わって二番はメロディが違っていた。
ほ~いのほい、ほ~いのほい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なる器量よし
立てば芍薬、座れば牡丹
浴衣姿の艶やかさ
あ~あ、月も恥じ入る、日も沈む・・・
これが二番だった。
民謡の類いに全く関心はないし、良し悪しの判断もつかないが、シン太郎左衛門にしては上出来に思えた。シン太郎左衛門はかなりの尻フェチだし、普段はとてもクチコミに書けない露骨な表現で、れもんちゃんのボディパーツを褒めちぎっているから、曲が進むに連れて、「エロ美人」その他の言葉が飛び出すことも予想されたが、この二番にはしっかり抑制が利いていた。れもんちゃんの浴衣姿の余りの眩さに、太陽は逃げるように沈み、代わって昇った月も、れもんちゃんの麗しさの前に恥じ入って雲間に身を隠す。この下りを聴きながら、不覚にもシン太郎左衛門の歌声に誘われて、私の妄想癖が発動してしまった。
私の脳内、地上が宵闇に包まれようとした刹那、広場には提灯の灯りが点され、『れもんちゃん盆踊り』の幕が開いた。
町内の人々が集まってきて、私の空想の中で和やかに踊っている。見知った顔ばかりだ。
はあ~、浴衣姿のレモンの君の
踊る姿に憧れて
今宵白馬で一千里
・・・
と、『れもんちゃん音頭』は三番でまたメロディを変えた。
「えぇ?一千里って、大阪ー東京4往復だぞ。どんだけ道に迷っとんねん。馬が可哀想だ」と感じたとき、盆踊り会場に、いつもの短パンとヨレヨレTシャツの金ちゃんの姿を見つけたので、「よぉ、金ちゃん。今日は、また随分めかし込んでるなぁ。盆踊りでナンパか?」と話しかけると、「冗談止めてくださいよ。両親が親戚の家に行ってて、ラッピーの散歩を任されただけですよ」と苦笑い。「ラッピーに引っ張られて、ここまで来たってわけか?」と問うと、金ちゃんは頷いた。
「それでラッピーは?」
「行方不明です」
「ラッピーは俺たちの数千倍は賢いから、心配は要らない」
「ですよね」と、言った直後、金ちゃん、眉をひそめて「今の歌詞、聞きました?」
「聴いてなかった。どうかした?」
「いや、僕の勘違いでしょう。まさか盆踊りで『後ろ姿の悩ましさ。真ん丸お尻がエロすぎる』なんて歌わないですよね」
「普通はもう少し言葉を選ぶな」
シン太郎左衛門、頑張って抑制を利かせてはいるが、一瞬感情が噴き溢れてしまったようだ。
「久しぶりの盆踊りですね。でも、いつもと何か違います。和やかなのに、息が苦しくなるような緊張感だ」
「分かるか?これは普通の盆踊りなんかじゃない。『れもんちゃん盆踊り』だ」
「『れもんちゃん盆踊り』って何ですか?」
「説明できない。今に分かる」
シン太郎左衛門の歌は続いていた。歌詞を一々聴く必要はなかった。それは、会場の空気を支配していた。嵐の前の静けさというヤツだ。
「ところで、あの人たち、凄くないですか?」と金ちゃんが指差す先に、薄桃色の揃いの浴衣を着た二人の若い女性が軽く流す程度に踊っていたが、明らかに別次元の動きだった。「私たち、マジ踊れます」オーラは、薄い浴衣では覆い切れなかった。「この町の人間ではないな」と私が言った後を追うように「あれはプロですな」と一言発したのは町内会長のYさんだった。いつの間にか、私と肩を並べていたのだ。
「ですよね。カッコいいなぁ。美人だし」と金ちゃんが言えば、「躍動する若い娘の肢体は実に見応えがある」とYさんが続き、舐めるような視線を送っていた。
「でも、おかしいとは思わないか?地元の人間でもないのに、なんでこんな田舎の盆踊りにプロのダンサーが来るんだ」と言ってやったが、聞いてない。私を除け者にして、二人で盛り上がってる。
そのとき、私は異変に気付いた。
三番から五番は同じメロディだったが、曲が五番の半ばに差し掛かったとき、それまでのアカペラに楽器の演奏が加わったのだ。
「ドラムだ。ドラムが鳴ってる」
「ホントだ、ドラムだ」と金ちゃんの口振りは呑気なものだった。
「そうだ。シン太郎左衛門の言っていた『演奏』とはこれだったんだ。あいつは、口でドラムを鳴らしてる」
「あっ、今一瞬ギターとベースも聞こえた。これ、生演奏ですよね。でも、どこで演奏してるんだろ?誰が歌ってるんだろ?」という、あくまで呑気な金ちゃんの問いに、危うく自分の股間を指差しかけて、「それは問題じゃない。れもんちゃんに対するシン太郎左衛門の想いは尋常じゃない。前から人を驚かすことを仕出かし兼ねないと思っていたんだ。いよいよ始まるぞ。『れもんちゃん盆踊り』が、その全貌を現すぞ」
口で複数の楽器の音を同時に奏で、そこに歌まで被せても、破綻を見せないとは。世の中には驚くような能力を持った人間がいるから、これを不可能事と呼ぶ気はなかったが、少なくとも自分に出来ることとは思えなかった。
ドラムの伴奏で『れもんちゃん音頭』は疾走感を手に入れた。会場の熱気が一気に高まると、二人のダンサーは「そろそろやりますか」という感じで目線を交わして、頷き合った。
五番が終わっても、ドラムはビートを刻み続け、徐々にテンポを上げていく。このまま6番に突入だ、と感じた瞬間、ベースそしてギターが加わり、見違えるような重厚なサウンドに発展した。
「何だ、これ?リンキンじゃないか!リンキン・パークの『フェイント』のイントロにそっくりだ!!」
不覚にも、カッコいいと思ってしまっていた。
二人のダンサーは、いきなりキレキレのダンス、盆踊りとは凡そかけ離れた、エッジの利いたダンス・パフォーマンスをおっぱじめた。周り全員が歓声を上げて、呼応して手を振り上げて、跳び跳ね出した。
私は群衆に向かって叫んでいた。「無理して踊ろうとしないでください。これは、普通の盆踊りじゃない!気をつけて!マイク・シノダの、いや、シン太郎左衛門のラップが来ます。頭を低くして、衝撃に備えてください」
しかし、誰も聞いていない。Yさんも金ちゃんも「スゲー」とか言いながら、小走りでダンサーたちの方に向かっていった。
よっ、今日もレモンの花が咲く
朝も早よから飯を炊く
手に塩をして握り飯
こいつがオイラの勝負飯
はっ、飯が済んだらJR
新快速に乗るのでアール
神戸駅には早めの到着
ここから始まる大冒険
・・・
これは、なんだ?日曜日、れもんちゃんに会う日の俺の様子を歌っているんだ。なんて無駄なことを。誰がこんなもん喜ぶんだ!しかし、「フェイント」を模しているなら、そろそろマイク・シノダのラップのパートは終わる。頼む、俺のことは放っておいて、チェスターばりの、狂おしいばかりに激しくも哀切なシャウトで、れもんちゃんを歌ってくれ。さあ、来い。
と祈ったが、祈りは虚しく、引き続きラップ、家でじっとしてられなくて、れもんちゃんとの予約時間のかなり前に神戸駅に到着して、所在なく過ごす私の姿を分刻みで描写するという、この世に存在する理由が一つもないラップが続いた。俺が、公衆トイレで用を足したり、100均でボールペンを買ったり、喫茶店に入ってトイレで歯磨きしたり、涙が出る程どうでもいい歌詞だった。
用もないのに100均寄って
ボールペンを纏め買い
毎週やってる不思議な行動
カバンの中はペンだらけ
・・・
どうでもいい!喫茶店のトイレの鏡を見詰めながら、伸びた鼻毛を満身の力を込めて引っこ抜くとか、「もう、止めてくれ!」と叫びそうになった。
こんなどうでもいい歌詞なのに、さすがにプロだ、ダンサーたちは驚異のシンクロ率99.9パーセントでシン太郎左衛門の歌に合わせ、「こんなの無料で見させてもらってもいいんですか?」というレベルの踊りを披露していた。激しい動きに汗が飛び散り、薄桃色の浴衣ははだけ出した。れもんちゃん以外の女性に興奮してはいけないと思いつつも、やっぱりその胸元を盗み見た瞬間、私は雷に撃たれたような衝撃とともに悟った。
「これは、伝説のダンスユニット、『れもんダンサーズ』だ」
帯が解けてダンサーたちの身体から浴衣が滑り落ち、セクシーな黒のコスチュームを纏った鍛え上げられた肉体が顕わになったとき、彼女たちはどこに忍ばせていたのか素早く黒いキャップを頭に載せた。その額には『チームれもん』の縫い取りが輝いていた。もちろん、胸元では銀の髑髏がヘニャっと笑っていた。
人垣に阻まれながらダンサーたちに近づこうと足掻いているYさんと金ちゃんに駆け寄ると、私は二人の首根っこを掴んで、猛烈に抵抗するのをモノともせず、母猫が子猫を運ぶように、櫓の近くに引きずって行った。
二人は怒り狂い、「放せ~」と怒鳴りまくっていた。
「バカ野郎!あれは、伝説のダンス・ユニット『れもんダンサーズ』だ。それが何を意味するか分からんか?」
金ちゃんは、その意味を悟ったのか、はっと目を見開いた。しかし、Yさんは、「もっと、『れもんダンサーズ』が見てたい。抱き付きたい」と駄々を捏ねた。
「目を覚ませ!」
私はYさんの横面を張り飛ばした。ついでに金ちゃんにも同様の一撃を加えた。
「『れもんダンサーズ』がいるということは、近くに、れもんちゃんがいるということだ。れもんちゃんが平地に立ち現れるなんて考えられるか?今、櫓の謎が解けた。腐った太鼓の意味も氷解した。三十年以上も前、つまり、れもんちゃんの生まれる前から、この櫓はこの瞬間を待っていたんだ。そして、腐った太鼓は相応しからぬ人物がこの櫓の上を占めるのを防ぎ続けてきたんだ」
「俺、分かってたのに、シバかれた」と、金ちゃんはブー垂れた。
まだ釈然としていないYさんだったが、櫓が突然ガタッと音を立てて大きく揺れたとき、その表情に緊張が走った。櫓は、その後も機械音とともに小刻みに揺れ続けている。紅白の幕が巻き付けられているために、その内側で起こっていることを目にすることは出来なかったが、3人は「迫り上がりだ!」「昇降機だ!」「小型エレベーターだ!」と結局は同じことを同時に叫んだ。
櫓の上で、太鼓を載せた台が傾きだした。やがて台は横倒しになり、太鼓はその台と共に櫓の背面、茂りに茂った夏草の上に大した音も立てずに落下した。
自販機見つけて缶コーヒー
コイツが今日の8本目
これだけ飲んでりゃトイレも近いぜ
便所に行くのは6回目
・・・
花屋の前を通りすぎる
レモンの花はない様子
でも、俺の瞼の奥にはいつも
れもんの花が咲いている
ゆえに、薔薇を咥えてフラメンコ
靴音響かせタップダンス
全く身に覚えのない最後の二行はさておいて、歌詞だけ切り取れば、全くどうでもいい行動の描写に終始しているが、狂おしいばかりの緊張感を孕んだシン太郎左衛門の声と怒涛のようなサウンドは、直接は描かれていないれもんちゃんを真っ直ぐ希求する魂の咆哮だった。れもんちゃんとの邂逅に向けて高まっていく期待、還暦男の感情のドラマを通して、れもんちゃんの存在感が巨大化していく。『れもんちゃん音頭』は、膨大な言葉と熱量を使って、たった一つのことしか言っていない。「早くれもんちゃんに会いたいな」、ただそれだけのことだった。
そして、いよいよ、全身全霊を投じて待ち望まれた、れもんちゃんの登場のときだった。
櫓の上に黒い影。れもんちゃんの登場を掛け声をもって迎えるつもりが、その前に「あっ、ラッピー!」と金ちゃんが叫んだ。姿を見せたのは、ラッピーだった。だが、それで「はぁ?」と拍子抜けしてはいけない。
私は、ラッピーの元に駆け寄ろうとする金ちゃんを制した。「今、ラッピーは、お前の飼い犬ラッピーではない。よく見ろ。ラッピーが首輪の代わりに着けているものを」
「あっ!ヘニャっと笑う髑髏のネックレス!」
「金ちゃん、これがラッピーの真の姿、れもんちゃんのボディーガードだ。『チームれもん』随一のヤバいヤツ。れもんちゃんに失礼な振る舞いをした者がいれば、即座に喉笛を噛み切られる。巷では『ザ・モンスター』と呼ばれている」
「嘘だ!」
「ああ、嘘だよ」
そのとき、とても優しく穏やかな表情を浮かべたラッピーの頭に、背後から『チームれもん』のキャップを被せた白い手があった。
ついに、れもんちゃんが降臨した・・・
・・・音楽は終わっていた。
『れもんちゃん音頭』のラストは、ラップではなく、歓喜と興奮の極致に至った静かな語りだった。
「クラブロイヤルにたどり着き、入り口でスタッフさんと挨拶を交わす。そして、靴からスリッパに履き替えながら、いつものように蹴躓いて、『おっとっと』と得意の六方を踏むのであった」で終わった。
我々は、しばし言葉を失っていた。
「今のは・・・夢でござるか」
「いいや、れもんちゃんでござる」
「斯様な美なものを初めて見申した」
3人ともシン太郎左衛門が憑依したかのような口調であった。
「しゃなり、しゃなりと、それは雅な踊りでござった」
「れもんちゃんと音楽とのシンクロ率は奇跡の0パーセント、しかし拙者の想いには100パーセントシンクロしてござった」
「ピンと伸びた指先が、スッと微かに反ったとき、総毛立ちましてござる」
「あれは誠に美でござった」
会場は提灯も消え、暗がりの中、時代劇に出てきそうな三人の武士を残して猫の子一匹いなかった。ぼんやりと月明かりが彼らを照らしていた
「水色の浴衣は、よう似合ってごさった。赤い金魚がスイスイ泳ぎ、それはそれは可愛かった」
「れもんちゃんは宇宙で一番でござる」
「長年夢見た通りの盆踊りでござった。宇宙一のれもんちゃんを迎え、盆踊りの復活が叶った上は、拙者、最早思い残すことはござらぬ」
「死なれまするか。さようなら」
「まだ死ぬ気はござらぬ。れもんちゃんがこの世にいる限り、我々『シン太郎左衛門ズ』は不滅でござる」
三人の顔には、目から頬にかけて感涙が滂沱として流れた跡が、月の光にくっきりと照らされていた。
「父上、そろそろ出発の時間でござる」というシン太郎左衛門の声に、はっと我に帰って、腕時計を見ようとしたら、嵌めていなかった。全裸のまま、右手に生卵、左手にスライスチーズを持って、冷蔵庫の前に立ち尽くしていたのだ。
「いかん、ぼ~っとしていた。少し待て。30秒で服を着る」と言って、二階の自室まで駈け上がると、シン太郎左衛門も付いて来ていた。
「お前は下で待ってればいいのに」
「そうはできない訳がある」
「まあいい。細かいことは気にするな。新快速に乗るのだ。駅まで走るぞ」
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様
ご来店日 2023年08月06日
「今日のれもんちゃんの、あの自由奔放すぎる可愛さ、あれは尋常ではなかった。父上、あれは許せませぬな」
「そうだな」
「それに、今日のれもんちゃんの、上目遣いのニヤッという妖しい笑顔からのアレもいかん。父上、あれも許せませぬな」
「うん」
「ただ、最も許せぬのは、今日のれもんちゃんのアレでござる。あれは到底許しがたい。父上、あれが一番許せませぬな」
「何を言ってるか分からんのに同意を求められても困るが、多分答えはイエスだ」
「そうでござろう。れもんちゃんは、とんでもなく素敵すぎるのでござる。そして、そんな高みにありながら、何の前触れもなしに、その高みを乗り越えて平気な顔をしておる。許せん」
「ホントにそうだ。最近、れもんちゃんは益々パワーアップしている気がする」
シン太郎左衛門は、大きく頷いた。そして、急に真顔になり、
「父上」
「なんだ?」
「町内の盆踊りの件・・・」
「うん」
「どうでもよくなった」
「そうか・・・実は俺もだ。先週、あれだけ長々とクチコミを書いたが、実はあれを書いている時点、つまりこのクチコミの時間で言えば、ちょうど今頃だな、書かれている俺でなく、書いている俺はゲリラ盆踊りに全く興味を失ってしまってたんだ」
「そういう言い方をすると、時系列が入り組んで、無駄にややこしくなりまする」
「面白いだろ?」
「ちっとも面白くない」
「そうか。お前とは話が合わん」
「それは、そうと。止めましょう」
「ゲリラ盆踊りか?」
「うむ」
「そうだな・・・止めよう」
と、先週あれだけ頑張って打ち込んだ、長い長いクチコミがあっさり反古になってしまった。ひどい話ではあるが、日々パワーアップするれもんちゃんを前にすると、我々のやっていることが余りにも卑小に思えるのが原因だから、責任は、れもんちゃんにある。
そして、今日、またしても日曜日の朝。
れもんちゃんに会う日の朝は、暑くても清々しい目覚めで、さっさとシャワーを浴びて、アイスコーヒー片手にダイニングの椅子に腰を下ろした。
「シン太郎左衛門、目玉焼き、食べる?」
「拙者は食べませぬ」
「じゃ食べなくてもいいから、作って」
「何をたわけたことを」
これから数時間後には、れもんちゃんに会えるのだ。シン太郎左衛門が鼻歌を口ずさむのも当然だ。
「ほ~いのほい、ほ~いのほい・・・」の歌い出し、偽オヤジは聞いたことがあるものの、私には知らない歌だった。
「その歌、なに?」
「『れもんちゃん音頭』の二番にござる」
「へぇ~、そうなんだ。ちなみに『れもんちゃん音頭』って出来上がったの?」
「仕上がりましてござる。10番に纏めました」
「そうか」
「聞かれますか」
「そうだな。聞いてみるか。ただ、俺は忙しい」と、椅子から立ち上がって、「俺はこれから卵とトマトとパンとを相手に命懸けの闘いを繰り広げる。勝ち残った者が破れた者を食べるのが野生の掟だ。俺が負けて、卵やトマトの朝御飯にされないよう、『れもんちゃん音頭』で応援してくれ」
シン太郎左衛門の『れもんちゃん音頭』を通しで聴くのは、これが最初で最後になるかもしれないとは思いつつ、冷蔵庫から食材を取り出していると、
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
・・・
毎度お馴染みの『れもんちゃん音頭』の一番が始まった。シン太郎左衛門の歌唱力が増したのか妙に心に染みてくる。
一番が終わって二番はメロディが違っていた。
ほ~いのほい、ほ~いのほい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なる器量よし
立てば芍薬、座れば牡丹
浴衣姿の艶やかさ
あ~あ、月も恥じ入る、日も沈む・・・
これが二番だった。
民謡の類いに全く関心はないし、良し悪しの判断もつかないが、シン太郎左衛門にしては上出来に思えた。シン太郎左衛門はかなりの尻フェチだし、普段はとてもクチコミに書けない露骨な表現で、れもんちゃんのボディパーツを褒めちぎっているから、曲が進むに連れて、「エロ美人」その他の言葉が飛び出すことも予想されたが、この二番にはしっかり抑制が利いていた。れもんちゃんの浴衣姿の余りの眩さに、太陽は逃げるように沈み、代わって昇った月も、れもんちゃんの麗しさの前に恥じ入って雲間に身を隠す。この下りを聴きながら、不覚にもシン太郎左衛門の歌声に誘われて、私の妄想癖が発動してしまった。
私の脳内、地上が宵闇に包まれようとした刹那、広場には提灯の灯りが点され、『れもんちゃん盆踊り』の幕が開いた。
町内の人々が集まってきて、私の空想の中で和やかに踊っている。見知った顔ばかりだ。
はあ~、浴衣姿のレモンの君の
踊る姿に憧れて
今宵白馬で一千里
・・・
と、『れもんちゃん音頭』は三番でまたメロディを変えた。
「えぇ?一千里って、大阪ー東京4往復だぞ。どんだけ道に迷っとんねん。馬が可哀想だ」と感じたとき、盆踊り会場に、いつもの短パンとヨレヨレTシャツの金ちゃんの姿を見つけたので、「よぉ、金ちゃん。今日は、また随分めかし込んでるなぁ。盆踊りでナンパか?」と話しかけると、「冗談止めてくださいよ。両親が親戚の家に行ってて、ラッピーの散歩を任されただけですよ」と苦笑い。「ラッピーに引っ張られて、ここまで来たってわけか?」と問うと、金ちゃんは頷いた。
「それでラッピーは?」
「行方不明です」
「ラッピーは俺たちの数千倍は賢いから、心配は要らない」
「ですよね」と、言った直後、金ちゃん、眉をひそめて「今の歌詞、聞きました?」
「聴いてなかった。どうかした?」
「いや、僕の勘違いでしょう。まさか盆踊りで『後ろ姿の悩ましさ。真ん丸お尻がエロすぎる』なんて歌わないですよね」
「普通はもう少し言葉を選ぶな」
シン太郎左衛門、頑張って抑制を利かせてはいるが、一瞬感情が噴き溢れてしまったようだ。
「久しぶりの盆踊りですね。でも、いつもと何か違います。和やかなのに、息が苦しくなるような緊張感だ」
「分かるか?これは普通の盆踊りなんかじゃない。『れもんちゃん盆踊り』だ」
「『れもんちゃん盆踊り』って何ですか?」
「説明できない。今に分かる」
シン太郎左衛門の歌は続いていた。歌詞を一々聴く必要はなかった。それは、会場の空気を支配していた。嵐の前の静けさというヤツだ。
「ところで、あの人たち、凄くないですか?」と金ちゃんが指差す先に、薄桃色の揃いの浴衣を着た二人の若い女性が軽く流す程度に踊っていたが、明らかに別次元の動きだった。「私たち、マジ踊れます」オーラは、薄い浴衣では覆い切れなかった。「この町の人間ではないな」と私が言った後を追うように「あれはプロですな」と一言発したのは町内会長のYさんだった。いつの間にか、私と肩を並べていたのだ。
「ですよね。カッコいいなぁ。美人だし」と金ちゃんが言えば、「躍動する若い娘の肢体は実に見応えがある」とYさんが続き、舐めるような視線を送っていた。
「でも、おかしいとは思わないか?地元の人間でもないのに、なんでこんな田舎の盆踊りにプロのダンサーが来るんだ」と言ってやったが、聞いてない。私を除け者にして、二人で盛り上がってる。
そのとき、私は異変に気付いた。
三番から五番は同じメロディだったが、曲が五番の半ばに差し掛かったとき、それまでのアカペラに楽器の演奏が加わったのだ。
「ドラムだ。ドラムが鳴ってる」
「ホントだ、ドラムだ」と金ちゃんの口振りは呑気なものだった。
「そうだ。シン太郎左衛門の言っていた『演奏』とはこれだったんだ。あいつは、口でドラムを鳴らしてる」
「あっ、今一瞬ギターとベースも聞こえた。これ、生演奏ですよね。でも、どこで演奏してるんだろ?誰が歌ってるんだろ?」という、あくまで呑気な金ちゃんの問いに、危うく自分の股間を指差しかけて、「それは問題じゃない。れもんちゃんに対するシン太郎左衛門の想いは尋常じゃない。前から人を驚かすことを仕出かし兼ねないと思っていたんだ。いよいよ始まるぞ。『れもんちゃん盆踊り』が、その全貌を現すぞ」
口で複数の楽器の音を同時に奏で、そこに歌まで被せても、破綻を見せないとは。世の中には驚くような能力を持った人間がいるから、これを不可能事と呼ぶ気はなかったが、少なくとも自分に出来ることとは思えなかった。
ドラムの伴奏で『れもんちゃん音頭』は疾走感を手に入れた。会場の熱気が一気に高まると、二人のダンサーは「そろそろやりますか」という感じで目線を交わして、頷き合った。
五番が終わっても、ドラムはビートを刻み続け、徐々にテンポを上げていく。このまま6番に突入だ、と感じた瞬間、ベースそしてギターが加わり、見違えるような重厚なサウンドに発展した。
「何だ、これ?リンキンじゃないか!リンキン・パークの『フェイント』のイントロにそっくりだ!!」
不覚にも、カッコいいと思ってしまっていた。
二人のダンサーは、いきなりキレキレのダンス、盆踊りとは凡そかけ離れた、エッジの利いたダンス・パフォーマンスをおっぱじめた。周り全員が歓声を上げて、呼応して手を振り上げて、跳び跳ね出した。
私は群衆に向かって叫んでいた。「無理して踊ろうとしないでください。これは、普通の盆踊りじゃない!気をつけて!マイク・シノダの、いや、シン太郎左衛門のラップが来ます。頭を低くして、衝撃に備えてください」
しかし、誰も聞いていない。Yさんも金ちゃんも「スゲー」とか言いながら、小走りでダンサーたちの方に向かっていった。
よっ、今日もレモンの花が咲く
朝も早よから飯を炊く
手に塩をして握り飯
こいつがオイラの勝負飯
はっ、飯が済んだらJR
新快速に乗るのでアール
神戸駅には早めの到着
ここから始まる大冒険
・・・
これは、なんだ?日曜日、れもんちゃんに会う日の俺の様子を歌っているんだ。なんて無駄なことを。誰がこんなもん喜ぶんだ!しかし、「フェイント」を模しているなら、そろそろマイク・シノダのラップのパートは終わる。頼む、俺のことは放っておいて、チェスターばりの、狂おしいばかりに激しくも哀切なシャウトで、れもんちゃんを歌ってくれ。さあ、来い。
と祈ったが、祈りは虚しく、引き続きラップ、家でじっとしてられなくて、れもんちゃんとの予約時間のかなり前に神戸駅に到着して、所在なく過ごす私の姿を分刻みで描写するという、この世に存在する理由が一つもないラップが続いた。俺が、公衆トイレで用を足したり、100均でボールペンを買ったり、喫茶店に入ってトイレで歯磨きしたり、涙が出る程どうでもいい歌詞だった。
用もないのに100均寄って
ボールペンを纏め買い
毎週やってる不思議な行動
カバンの中はペンだらけ
・・・
どうでもいい!喫茶店のトイレの鏡を見詰めながら、伸びた鼻毛を満身の力を込めて引っこ抜くとか、「もう、止めてくれ!」と叫びそうになった。
こんなどうでもいい歌詞なのに、さすがにプロだ、ダンサーたちは驚異のシンクロ率99.9パーセントでシン太郎左衛門の歌に合わせ、「こんなの無料で見させてもらってもいいんですか?」というレベルの踊りを披露していた。激しい動きに汗が飛び散り、薄桃色の浴衣ははだけ出した。れもんちゃん以外の女性に興奮してはいけないと思いつつも、やっぱりその胸元を盗み見た瞬間、私は雷に撃たれたような衝撃とともに悟った。
「これは、伝説のダンスユニット、『れもんダンサーズ』だ」
帯が解けてダンサーたちの身体から浴衣が滑り落ち、セクシーな黒のコスチュームを纏った鍛え上げられた肉体が顕わになったとき、彼女たちはどこに忍ばせていたのか素早く黒いキャップを頭に載せた。その額には『チームれもん』の縫い取りが輝いていた。もちろん、胸元では銀の髑髏がヘニャっと笑っていた。
人垣に阻まれながらダンサーたちに近づこうと足掻いているYさんと金ちゃんに駆け寄ると、私は二人の首根っこを掴んで、猛烈に抵抗するのをモノともせず、母猫が子猫を運ぶように、櫓の近くに引きずって行った。
二人は怒り狂い、「放せ~」と怒鳴りまくっていた。
「バカ野郎!あれは、伝説のダンス・ユニット『れもんダンサーズ』だ。それが何を意味するか分からんか?」
金ちゃんは、その意味を悟ったのか、はっと目を見開いた。しかし、Yさんは、「もっと、『れもんダンサーズ』が見てたい。抱き付きたい」と駄々を捏ねた。
「目を覚ませ!」
私はYさんの横面を張り飛ばした。ついでに金ちゃんにも同様の一撃を加えた。
「『れもんダンサーズ』がいるということは、近くに、れもんちゃんがいるということだ。れもんちゃんが平地に立ち現れるなんて考えられるか?今、櫓の謎が解けた。腐った太鼓の意味も氷解した。三十年以上も前、つまり、れもんちゃんの生まれる前から、この櫓はこの瞬間を待っていたんだ。そして、腐った太鼓は相応しからぬ人物がこの櫓の上を占めるのを防ぎ続けてきたんだ」
「俺、分かってたのに、シバかれた」と、金ちゃんはブー垂れた。
まだ釈然としていないYさんだったが、櫓が突然ガタッと音を立てて大きく揺れたとき、その表情に緊張が走った。櫓は、その後も機械音とともに小刻みに揺れ続けている。紅白の幕が巻き付けられているために、その内側で起こっていることを目にすることは出来なかったが、3人は「迫り上がりだ!」「昇降機だ!」「小型エレベーターだ!」と結局は同じことを同時に叫んだ。
櫓の上で、太鼓を載せた台が傾きだした。やがて台は横倒しになり、太鼓はその台と共に櫓の背面、茂りに茂った夏草の上に大した音も立てずに落下した。
自販機見つけて缶コーヒー
コイツが今日の8本目
これだけ飲んでりゃトイレも近いぜ
便所に行くのは6回目
・・・
花屋の前を通りすぎる
レモンの花はない様子
でも、俺の瞼の奥にはいつも
れもんの花が咲いている
ゆえに、薔薇を咥えてフラメンコ
靴音響かせタップダンス
全く身に覚えのない最後の二行はさておいて、歌詞だけ切り取れば、全くどうでもいい行動の描写に終始しているが、狂おしいばかりの緊張感を孕んだシン太郎左衛門の声と怒涛のようなサウンドは、直接は描かれていないれもんちゃんを真っ直ぐ希求する魂の咆哮だった。れもんちゃんとの邂逅に向けて高まっていく期待、還暦男の感情のドラマを通して、れもんちゃんの存在感が巨大化していく。『れもんちゃん音頭』は、膨大な言葉と熱量を使って、たった一つのことしか言っていない。「早くれもんちゃんに会いたいな」、ただそれだけのことだった。
そして、いよいよ、全身全霊を投じて待ち望まれた、れもんちゃんの登場のときだった。
櫓の上に黒い影。れもんちゃんの登場を掛け声をもって迎えるつもりが、その前に「あっ、ラッピー!」と金ちゃんが叫んだ。姿を見せたのは、ラッピーだった。だが、それで「はぁ?」と拍子抜けしてはいけない。
私は、ラッピーの元に駆け寄ろうとする金ちゃんを制した。「今、ラッピーは、お前の飼い犬ラッピーではない。よく見ろ。ラッピーが首輪の代わりに着けているものを」
「あっ!ヘニャっと笑う髑髏のネックレス!」
「金ちゃん、これがラッピーの真の姿、れもんちゃんのボディーガードだ。『チームれもん』随一のヤバいヤツ。れもんちゃんに失礼な振る舞いをした者がいれば、即座に喉笛を噛み切られる。巷では『ザ・モンスター』と呼ばれている」
「嘘だ!」
「ああ、嘘だよ」
そのとき、とても優しく穏やかな表情を浮かべたラッピーの頭に、背後から『チームれもん』のキャップを被せた白い手があった。
ついに、れもんちゃんが降臨した・・・
・・・音楽は終わっていた。
『れもんちゃん音頭』のラストは、ラップではなく、歓喜と興奮の極致に至った静かな語りだった。
「クラブロイヤルにたどり着き、入り口でスタッフさんと挨拶を交わす。そして、靴からスリッパに履き替えながら、いつものように蹴躓いて、『おっとっと』と得意の六方を踏むのであった」で終わった。
我々は、しばし言葉を失っていた。
「今のは・・・夢でござるか」
「いいや、れもんちゃんでござる」
「斯様な美なものを初めて見申した」
3人ともシン太郎左衛門が憑依したかのような口調であった。
「しゃなり、しゃなりと、それは雅な踊りでござった」
「れもんちゃんと音楽とのシンクロ率は奇跡の0パーセント、しかし拙者の想いには100パーセントシンクロしてござった」
「ピンと伸びた指先が、スッと微かに反ったとき、総毛立ちましてござる」
「あれは誠に美でござった」
会場は提灯も消え、暗がりの中、時代劇に出てきそうな三人の武士を残して猫の子一匹いなかった。ぼんやりと月明かりが彼らを照らしていた
「水色の浴衣は、よう似合ってごさった。赤い金魚がスイスイ泳ぎ、それはそれは可愛かった」
「れもんちゃんは宇宙で一番でござる」
「長年夢見た通りの盆踊りでござった。宇宙一のれもんちゃんを迎え、盆踊りの復活が叶った上は、拙者、最早思い残すことはござらぬ」
「死なれまするか。さようなら」
「まだ死ぬ気はござらぬ。れもんちゃんがこの世にいる限り、我々『シン太郎左衛門ズ』は不滅でござる」
三人の顔には、目から頬にかけて感涙が滂沱として流れた跡が、月の光にくっきりと照らされていた。
「父上、そろそろ出発の時間でござる」というシン太郎左衛門の声に、はっと我に帰って、腕時計を見ようとしたら、嵌めていなかった。全裸のまま、右手に生卵、左手にスライスチーズを持って、冷蔵庫の前に立ち尽くしていたのだ。
「いかん、ぼ~っとしていた。少し待て。30秒で服を着る」と言って、二階の自室まで駈け上がると、シン太郎左衛門も付いて来ていた。
「お前は下で待ってればいいのに」
「そうはできない訳がある」
「まあいい。細かいことは気にするな。新快速に乗るのだ。駅まで走るぞ」
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様ありがとうございました。