口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様
ご来店日 2023年09月03日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。もちろん証拠はない。
いつも通り、日曜日の朝。
目覚ましが鳴るのを待たずして、スカッと目が覚めた。清々しい朝、素晴らしいれもんちゃん日和だ。
シン太郎左衛門も、すっかりはしゃいでいる。「今日はまた何時にも増して、れもんちゃん日和でござるな」
「煌めくばかりに美しい朝だ」と応じた後、よい朝すぎて、布団の上でインディアン・ダンスでも踊ってやろうかと思っていると、シン太郎左衛門が、突然「あれは、クロウ左衛門でござった」と言い出した。
「なんの話?」
「あの日、拙者が歌っている間、楽器を演奏していた者の話でござる」
ああ、そうだ。すっかり忘れていた。今回は前回からの続きだったのだ。
「クロウ左衛門か・・・」
「いかにも」
「そうか、あれはやっぱりクロウ左衛門だったのか・・・」
「クロウ左衛門をご存知でござるか」
「いや、知らん。全く知らん。有り体に言えば知りたくもない。だって、そいつ、名前からして武士だろ?」
「クロウ左衛門、確かに武士でござる」
「やっぱりそうだ。また武士だ。俺、武士が本当に苦手なんだよなぁ。ましてや九郎左衛門なんて言われると、武士がズラッと9人並んだ様が目に浮かんでゲンナリする」
「何を言っておられるか判りかねまする」
「九郎左衛門なら太郎から八郎まで兄さんがいるんだろ?」
「は?いや、クロウ違いでござる。大変な苦労人ゆえに、苦労左衛門でござる」
「あ、そっち。なんだ、渾名か」
「渾名ではござらぬ」
「それが本名なの?」
「いかにも」
「お前、原因と結果を取り違えてるな。そいつの苦労の原因は、その名前だ」
「なるほど・・・そんなことがあるやも知れませぬ」
「いや、間違いなく、そうだ。それで、その苦労左衛門は何者なの?」
「苦労人でござる」
「それは、さっき聞いた。俺が訊いてるのは・・・そいつも、つまり、誰かの、おチン・・・か?」
「聞き取りませなんだ」
「同種のネタ、前に使ってる。聞き取れなくても分かってるんだから、答えろ」
「苦労左衛門は、おチンでござる。いや正しくは、おチンでござった」
「ござった・・・今は違うのか?」
「若干違う」
「『若干違う』・・・嫌な言い方だな。えっ、もしかして、苦労左衛門って、これか?」
私は「小さく前へ倣え」の格好から甲を表に両手をプランと垂らしてみせた。
「それでござる」
「幽ちゃんだ」
「幽ちゃんでござる」
「武士の幽霊かぁ。苦労左衛門、やりたい放題だな。この話、止めない?」
「いやいや、苦労左衛門ぐらい出来た人物もござらぬ。それはそれはモノの道理を弁えた立派なご仁でござった」
「分かった。いや、何にも分からん。結局、その苦労左衛門って何者?」
シン太郎左衛門は、それから、苦労左衛門なる者との出会いに始まり、いかに親交を深め、この世での別れの後に再会を果たすとことなったかを語って聞かせた。とてもとても長い話で、間にコーヒーを3杯お代わりした。
「・・・以上でござる」
シン太郎左衛門が語り終えると、私は、しばしボンヤリしてしまった。
「とんでもなく長い話だった・・・でも、なんかいい話だった。れもんちゃんに対するお前の想いに動かされて、苦労左衛門が冥界の掟を破るシーンとか、よくある展開だと感じつつも、感動してしまった」
「真実でござる」
「分かってる」
「クチコミにぴったりでござる」
「その点については同意しかねる。かなり大幅にカットせねばならん」
「長すぎまするか」
「れもんちゃんと直接関係ない話が延々と続くのは、『シン太郎左衛門シリーズ』ではよくあることだが、それにしても、これは常軌を逸している。これまでの『シン太郎左衛門シリーズ』全作を足し合わせたよりも、まだ長い。その上、他にも大きな問題がある」
「一体どこが不都合でござるか」
「一々指摘して回るのが嫌になるぐらい問題だらけだ。たとえば、二人が初めて出会った場所からしてマズイ」
「それは、また何故でござるか。拙者には、何の障りもなく思えまする」
「少し考えてみろ」
シン太郎左衛門、首を傾け思案顔を浮かべていたが、特に思い当たるものはなく、「う~ん」と唸りながら居眠りを始めた。
「起きろ!」
シン太郎左衛門は目を擦りながら、「拙者には分からん。その場所で出会ったと書けなければ、コンビニのレジに並んでいるときに出会ったとでもしてくだされ」
「そんなことをしたら、後で辻褄が合わなくなるだろ。それに作り話はダメだ。『シン太郎左衛門シリーズ』はドキュメンタリーだから、たった一つの嘘も含まれてはいけない。都合が悪い部分は、書かずに済ますしかない」
「どこを削りまするか」
「残念ながら、大半を削る」
「では、どこを残されまするか」
「たとえば、あの場面がいい。3度目に会ったとき、苦労左衛門が『今宵を以って今生の別れ』と告げ、自らは日もなく儚き一生を終えるが、シン太郎左衛門は1年内に絶世の美女との出逢いがあるだろうと予言するシーン。あのシーンは使おう」
「父上、なかなかお目が高い。では、その段に限り、今一度語りましょう」
「別に二度も語ってもらわんでいい」
「いやいや、大半を消されるとあらば、残されるところは大事に扱ってくだされ。拙者の語るとおりにお書き願いたい」
そう言うと、シン太郎左衛門は、講談師か落語家のように一人二役で語り出した。
「シン太郎左衛門殿、今宵を限りに、生きて再びお会いすることはございますまい」
「それは何ゆえ」
「理由はお訊きくださいますな。拙者、我が身と周囲に起こることを予知する力を有してござる。拙者、遠からず、この世を去りまする故、今宵が今生の別れにござる」
「苦労左衛門殿のお言葉でござれば、偽りはござりますまい。お互い武士でござるによって、名残惜しいとは申しませぬ。短い間ではござったが、ご交誼に感謝申し上げまする」
「拙者も御礼申し上げまする。ところで、拙者からの置き土産、受け取ってくださりませぬか」
「置き土産とな。いかなるものでござるか」
「拙者には、シン太郎左衛門殿に遠からずよいご縁があることも見えてござる」
「よい縁とな」
「いかにも。シン太郎左衛門殿は、向後一年内に素晴らしい姫君と出逢われまする」
「それは誠でござるか」
「うむ。間違いござらぬ。宇宙で一番のよい娘でござる。果物に因んだ名を持ちまするぞ」
「果物に因む名でござるか・・・梨ちゃんでござるか」
「あまり語呂が良くないようでござる」
「では二十世紀ちゃん」
「違いまする」
「長十郎ちゃん」
「シン太郎左衛門殿、一旦梨から離れてくだされ」
「メロンちゃん」
「おお、一気に近付いた気が致しまするぞ」
「ドラゴンフルーツちゃん」
「あ、また離れた。そんな名前の姫はござらぬ。シン太郎左衛門殿、名前で遊んではなりませぬぞ」
「うむ。失礼つかまつった。では、シャインマスカットちゃん」
「おいおい。何だ、これ?」私は思わずシン太郎左衛門の話を中断した。
「さっき聞いた話と全然違うぞ。さっきはあんなに感動的だったのに、今度は下らない事ばかり言ってて、全く話が進まない。この話のどこで感動できるか言ってみろ」
「さっきと同じ話でございまする。父上の耳が肥えたのでござる」
「そんなこと、あるか!シン太郎左衛門、お前、その場の思い付きで話をしてるな」
「とんだ言い掛かり。『シン太郎左衛門シリーズ』は全て真実。嘘はないのでござる。まあ、今しばしお聞きあれ」と、宥められ、再びシン太郎左衛門の演芸大会に付き合わされた。
「その姫の名は置いておきましょう。肝心なのは、その後でござる。絶世の美女との出会いでシン太郎左衛門殿は人柄も温厚になり、やがて、その麗しい姫に捧げる音曲を作ろうと一念発起されまする。これは決まったことでござる。そして、その音曲の演奏にあたって、お囃子の一つもないことに物足りなさを覚えられまする。これもまた避けられないことでござる。このように感じられたときは、必ず拙者をお呼びくだされ。拙者、骨肉は滅んでも、魂魄にてシン太郎左衛門殿をお助け致す。これが拙者の置き土産でござる」
「忝なく頂戴つかまつる。苦労左衛門殿は、音曲に通じておられまするか」
「うむ、諸芸一般身に付け、音曲は様々な楽器の音を声色にて奏で分けまする。清朝の初めに書かれた『聊斎志異』にも書かれている『口技』と申すもの。拙者、二十ほどの楽器であれば、容易く同時に操りまする。先日、日本公演を予定していた海外のオーケストラが、台風で来日が遅れたため、初日は拙者が代役として公演を成功させました。ベートーヴェンの交響曲を一人でこなすのは、さすがに大変でござった」
「それはご苦労でござった。ところで、『口技』と言われましたな。『口技』はれもんちゃんも得意とするところでござる」
「うむ。シン太郎左衛門の言われる口技は、恐らく別のものでござろう」
「確かに。拙者は断然れもんちゃん派でござる」
「なんだ、これ?ひどいなぁ。全く別の話になってる。さっきの話には、そこはかとなく哀愁が漂っていて、それでいて妖気に溢れていた。今聞いたのは違う。ただ単に『シン太郎左衛門』だ」
「先刻、父上は飲み食いしながら、勝手な想像で頭を一杯にしてござったのであろう。全く同じ話でござる」
「まあいい。こんなことで言い争いも無益だ。お前の言うとおり、同じ話だったにせよ、2度目にはまるで違う話に聞こえて、ガッカリした。これは間違いない事実だ。ところが、れもんちゃんとは、何十回も会っているが、期待をがっつり超えられてビックリすることはあっても、ガッカリしたなんて一度もない。えらい違いだ」
「うむ。れもんちゃんと比べられても困る。勝てるわけがござらぬ」
「まあいい。とにかく、話を纏めてしまおう。お前は苦労左衛門から楽器演奏について困ったことがあれば、助けを求めよと言われたわけだ」
「いかにも。『南無八幡大菩薩、我に力を与えたまえ』と強く念じれば、馳せ参じると」
「それって、似顔絵・・・いやいや、そんなこと、どうでもいい。とにかく、お前は、その後、苦労左衛門の予言どおり『れもんちゃん音頭』を作り始め、『ここはリンキンパークっぽくしたいな』と感じたとき、苦労左衛門の置き土産のことを思い出したと」
「そうでござる」
「それで、楽器演奏を学ぼうと、言われたとおりに『南無八幡大菩薩』云々と唱えたら、苦労左衛門の霊が現れて稽古をつけてくれるようになったわけだ」
「相違ござらぬ。毎日早朝、それは厳しい稽古でごさった」
「俺のお気に入りのブランケットの中で朝練をしてた訳だ。でも、モノになったのはドラムにボーカルを被せるところまでだったんだな」
「うむ。あの日、他の楽器は苦労左衛門を呼び立てて、演奏してもらったのでござる」
「大体、こういう話だ」
「かなり乱暴に縮めてありまするが、粗筋はこんなものでござる」
「そうか・・・やっぱり、こうなった・・・全く怖くない。怪談って予告しておいて、このザマだ」
「さすがに削り過ぎましたな」
「削ったのが悪い訳ではない。元から怖くないのだ」
気まずい空気が漂い始めたのを誤魔化すように、「ところで、苦労左衛門の幽霊って、どんな風に見えるの?」
「定かには見えませぬ。湯気のようなものでござる」
「ふ~ん、湯気か・・・そこだけ景色が微かに歪むって感じ?」
「うむ。苦労左衛門については、そんな感じでござる」
「『苦労左衛門については』って、他の幽霊がいるみたいな言い方だな」と笑ったとき、シン太郎左衛門の表情が急に険しくなった。
私は何かを・・・そうだ。私は悟った。私は、苦労左衛門の父親の存在を完全に見落としていたのだ。湯気のようだという苦労左衛門はただモザイクがかかっているばかりであるに違いない。
私と目を合わせていたのも束の間、シン太郎左衛門の視線は、私の肩越しに、ダイニングの壁から天井へとジリジリと移動していった。のどかなはずの朝の風景が一気に塗り替えられてしまった。
私は天井を見上げる気にはならなかった。どんな最期を遂げたか分からぬ中年男性が、股間ばかりモザイクがかかった全裸で、部屋の壁から天井へと這い回る姿など見たくもない。まして、そんなヤツが知らぬ間に私のブランケットの中に入り込んでいたかと思うと背筋が凍りついた。
と、シン太郎左衛門は突然莞爾として、「久しぶりに見た。立派なカブトムシ」
その言葉の意味は俄には理解できなかったが、やがて全身の脱力感とともに腑に落ちた。
そいつは、開け放った窓から出ていった。
「お前の望むとおり、逃がしてやったぞ」
シン太郎左衛門は「達者で暮らせよ」と手を振っていたが、私にはもうどこに行ったやら分からなかった。
シン太郎左衛門が「行ってしまった」と言うので、窓を閉めた。そろそろ出掛ける準備をする時間だ。
「立派なカブトムシでござったな」と、シン太郎左衛門は言うが、私にカブトムシの目利きは出来なかった。
「ちなみに、苦労左衛門の幽霊は、理由は知らぬが単体でござる。親父殿は同伴せぬので見たことがござらぬ」
「そうか。少しホッとしたよ。でも、そんなことはもうどうでもいい。怪談もカブトムシも済んだ話だ。さあ、そろそろ出掛けるぞ」
「れもんちゃんに向けて出陣でござるな」
「いざ出陣じゃ。いつもの新快速に鞍を載せておけ。一鞭で神戸に到着してくれようぞ」
「れもんちゃんの笑顔が目に浮かびまするな」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
我々はもう走り出していた。
シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様
ご来店日 2023年09月03日
いつも通り、日曜日の朝。
目覚ましが鳴るのを待たずして、スカッと目が覚めた。清々しい朝、素晴らしいれもんちゃん日和だ。
シン太郎左衛門も、すっかりはしゃいでいる。「今日はまた何時にも増して、れもんちゃん日和でござるな」
「煌めくばかりに美しい朝だ」と応じた後、よい朝すぎて、布団の上でインディアン・ダンスでも踊ってやろうかと思っていると、シン太郎左衛門が、突然「あれは、クロウ左衛門でござった」と言い出した。
「なんの話?」
「あの日、拙者が歌っている間、楽器を演奏していた者の話でござる」
ああ、そうだ。すっかり忘れていた。今回は前回からの続きだったのだ。
「クロウ左衛門か・・・」
「いかにも」
「そうか、あれはやっぱりクロウ左衛門だったのか・・・」
「クロウ左衛門をご存知でござるか」
「いや、知らん。全く知らん。有り体に言えば知りたくもない。だって、そいつ、名前からして武士だろ?」
「クロウ左衛門、確かに武士でござる」
「やっぱりそうだ。また武士だ。俺、武士が本当に苦手なんだよなぁ。ましてや九郎左衛門なんて言われると、武士がズラッと9人並んだ様が目に浮かんでゲンナリする」
「何を言っておられるか判りかねまする」
「九郎左衛門なら太郎から八郎まで兄さんがいるんだろ?」
「は?いや、クロウ違いでござる。大変な苦労人ゆえに、苦労左衛門でござる」
「あ、そっち。なんだ、渾名か」
「渾名ではござらぬ」
「それが本名なの?」
「いかにも」
「お前、原因と結果を取り違えてるな。そいつの苦労の原因は、その名前だ」
「なるほど・・・そんなことがあるやも知れませぬ」
「いや、間違いなく、そうだ。それで、その苦労左衛門は何者なの?」
「苦労人でござる」
「それは、さっき聞いた。俺が訊いてるのは・・・そいつも、つまり、誰かの、おチン・・・か?」
「聞き取りませなんだ」
「同種のネタ、前に使ってる。聞き取れなくても分かってるんだから、答えろ」
「苦労左衛門は、おチンでござる。いや正しくは、おチンでござった」
「ござった・・・今は違うのか?」
「若干違う」
「『若干違う』・・・嫌な言い方だな。えっ、もしかして、苦労左衛門って、これか?」
私は「小さく前へ倣え」の格好から甲を表に両手をプランと垂らしてみせた。
「それでござる」
「幽ちゃんだ」
「幽ちゃんでござる」
「武士の幽霊かぁ。苦労左衛門、やりたい放題だな。この話、止めない?」
「いやいや、苦労左衛門ぐらい出来た人物もござらぬ。それはそれはモノの道理を弁えた立派なご仁でござった」
「分かった。いや、何にも分からん。結局、その苦労左衛門って何者?」
シン太郎左衛門は、それから、苦労左衛門なる者との出会いに始まり、いかに親交を深め、この世での別れの後に再会を果たすとことなったかを語って聞かせた。とてもとても長い話で、間にコーヒーを3杯お代わりした。
「・・・以上でござる」
シン太郎左衛門が語り終えると、私は、しばしボンヤリしてしまった。
「とんでもなく長い話だった・・・でも、なんかいい話だった。れもんちゃんに対するお前の想いに動かされて、苦労左衛門が冥界の掟を破るシーンとか、よくある展開だと感じつつも、感動してしまった」
「真実でござる」
「分かってる」
「クチコミにぴったりでござる」
「その点については同意しかねる。かなり大幅にカットせねばならん」
「長すぎまするか」
「れもんちゃんと直接関係ない話が延々と続くのは、『シン太郎左衛門シリーズ』ではよくあることだが、それにしても、これは常軌を逸している。これまでの『シン太郎左衛門シリーズ』全作を足し合わせたよりも、まだ長い。その上、他にも大きな問題がある」
「一体どこが不都合でござるか」
「一々指摘して回るのが嫌になるぐらい問題だらけだ。たとえば、二人が初めて出会った場所からしてマズイ」
「それは、また何故でござるか。拙者には、何の障りもなく思えまする」
「少し考えてみろ」
シン太郎左衛門、首を傾け思案顔を浮かべていたが、特に思い当たるものはなく、「う~ん」と唸りながら居眠りを始めた。
「起きろ!」
シン太郎左衛門は目を擦りながら、「拙者には分からん。その場所で出会ったと書けなければ、コンビニのレジに並んでいるときに出会ったとでもしてくだされ」
「そんなことをしたら、後で辻褄が合わなくなるだろ。それに作り話はダメだ。『シン太郎左衛門シリーズ』はドキュメンタリーだから、たった一つの嘘も含まれてはいけない。都合が悪い部分は、書かずに済ますしかない」
「どこを削りまするか」
「残念ながら、大半を削る」
「では、どこを残されまするか」
「たとえば、あの場面がいい。3度目に会ったとき、苦労左衛門が『今宵を以って今生の別れ』と告げ、自らは日もなく儚き一生を終えるが、シン太郎左衛門は1年内に絶世の美女との出逢いがあるだろうと予言するシーン。あのシーンは使おう」
「父上、なかなかお目が高い。では、その段に限り、今一度語りましょう」
「別に二度も語ってもらわんでいい」
「いやいや、大半を消されるとあらば、残されるところは大事に扱ってくだされ。拙者の語るとおりにお書き願いたい」
そう言うと、シン太郎左衛門は、講談師か落語家のように一人二役で語り出した。
「シン太郎左衛門殿、今宵を限りに、生きて再びお会いすることはございますまい」
「それは何ゆえ」
「理由はお訊きくださいますな。拙者、我が身と周囲に起こることを予知する力を有してござる。拙者、遠からず、この世を去りまする故、今宵が今生の別れにござる」
「苦労左衛門殿のお言葉でござれば、偽りはござりますまい。お互い武士でござるによって、名残惜しいとは申しませぬ。短い間ではござったが、ご交誼に感謝申し上げまする」
「拙者も御礼申し上げまする。ところで、拙者からの置き土産、受け取ってくださりませぬか」
「置き土産とな。いかなるものでござるか」
「拙者には、シン太郎左衛門殿に遠からずよいご縁があることも見えてござる」
「よい縁とな」
「いかにも。シン太郎左衛門殿は、向後一年内に素晴らしい姫君と出逢われまする」
「それは誠でござるか」
「うむ。間違いござらぬ。宇宙で一番のよい娘でござる。果物に因んだ名を持ちまするぞ」
「果物に因む名でござるか・・・梨ちゃんでござるか」
「あまり語呂が良くないようでござる」
「では二十世紀ちゃん」
「違いまする」
「長十郎ちゃん」
「シン太郎左衛門殿、一旦梨から離れてくだされ」
「メロンちゃん」
「おお、一気に近付いた気が致しまするぞ」
「ドラゴンフルーツちゃん」
「あ、また離れた。そんな名前の姫はござらぬ。シン太郎左衛門殿、名前で遊んではなりませぬぞ」
「うむ。失礼つかまつった。では、シャインマスカットちゃん」
「おいおい。何だ、これ?」私は思わずシン太郎左衛門の話を中断した。
「さっき聞いた話と全然違うぞ。さっきはあんなに感動的だったのに、今度は下らない事ばかり言ってて、全く話が進まない。この話のどこで感動できるか言ってみろ」
「さっきと同じ話でございまする。父上の耳が肥えたのでござる」
「そんなこと、あるか!シン太郎左衛門、お前、その場の思い付きで話をしてるな」
「とんだ言い掛かり。『シン太郎左衛門シリーズ』は全て真実。嘘はないのでござる。まあ、今しばしお聞きあれ」と、宥められ、再びシン太郎左衛門の演芸大会に付き合わされた。
「その姫の名は置いておきましょう。肝心なのは、その後でござる。絶世の美女との出会いでシン太郎左衛門殿は人柄も温厚になり、やがて、その麗しい姫に捧げる音曲を作ろうと一念発起されまする。これは決まったことでござる。そして、その音曲の演奏にあたって、お囃子の一つもないことに物足りなさを覚えられまする。これもまた避けられないことでござる。このように感じられたときは、必ず拙者をお呼びくだされ。拙者、骨肉は滅んでも、魂魄にてシン太郎左衛門殿をお助け致す。これが拙者の置き土産でござる」
「忝なく頂戴つかまつる。苦労左衛門殿は、音曲に通じておられまするか」
「うむ、諸芸一般身に付け、音曲は様々な楽器の音を声色にて奏で分けまする。清朝の初めに書かれた『聊斎志異』にも書かれている『口技』と申すもの。拙者、二十ほどの楽器であれば、容易く同時に操りまする。先日、日本公演を予定していた海外のオーケストラが、台風で来日が遅れたため、初日は拙者が代役として公演を成功させました。ベートーヴェンの交響曲を一人でこなすのは、さすがに大変でござった」
「それはご苦労でござった。ところで、『口技』と言われましたな。『口技』はれもんちゃんも得意とするところでござる」
「うむ。シン太郎左衛門の言われる口技は、恐らく別のものでござろう」
「確かに。拙者は断然れもんちゃん派でござる」
「なんだ、これ?ひどいなぁ。全く別の話になってる。さっきの話には、そこはかとなく哀愁が漂っていて、それでいて妖気に溢れていた。今聞いたのは違う。ただ単に『シン太郎左衛門』だ」
「先刻、父上は飲み食いしながら、勝手な想像で頭を一杯にしてござったのであろう。全く同じ話でござる」
「まあいい。こんなことで言い争いも無益だ。お前の言うとおり、同じ話だったにせよ、2度目にはまるで違う話に聞こえて、ガッカリした。これは間違いない事実だ。ところが、れもんちゃんとは、何十回も会っているが、期待をがっつり超えられてビックリすることはあっても、ガッカリしたなんて一度もない。えらい違いだ」
「うむ。れもんちゃんと比べられても困る。勝てるわけがござらぬ」
「まあいい。とにかく、話を纏めてしまおう。お前は苦労左衛門から楽器演奏について困ったことがあれば、助けを求めよと言われたわけだ」
「いかにも。『南無八幡大菩薩、我に力を与えたまえ』と強く念じれば、馳せ参じると」
「それって、似顔絵・・・いやいや、そんなこと、どうでもいい。とにかく、お前は、その後、苦労左衛門の予言どおり『れもんちゃん音頭』を作り始め、『ここはリンキンパークっぽくしたいな』と感じたとき、苦労左衛門の置き土産のことを思い出したと」
「そうでござる」
「それで、楽器演奏を学ぼうと、言われたとおりに『南無八幡大菩薩』云々と唱えたら、苦労左衛門の霊が現れて稽古をつけてくれるようになったわけだ」
「相違ござらぬ。毎日早朝、それは厳しい稽古でごさった」
「俺のお気に入りのブランケットの中で朝練をしてた訳だ。でも、モノになったのはドラムにボーカルを被せるところまでだったんだな」
「うむ。あの日、他の楽器は苦労左衛門を呼び立てて、演奏してもらったのでござる」
「大体、こういう話だ」
「かなり乱暴に縮めてありまするが、粗筋はこんなものでござる」
「そうか・・・やっぱり、こうなった・・・全く怖くない。怪談って予告しておいて、このザマだ」
「さすがに削り過ぎましたな」
「削ったのが悪い訳ではない。元から怖くないのだ」
気まずい空気が漂い始めたのを誤魔化すように、「ところで、苦労左衛門の幽霊って、どんな風に見えるの?」
「定かには見えませぬ。湯気のようなものでござる」
「ふ~ん、湯気か・・・そこだけ景色が微かに歪むって感じ?」
「うむ。苦労左衛門については、そんな感じでござる」
「『苦労左衛門については』って、他の幽霊がいるみたいな言い方だな」と笑ったとき、シン太郎左衛門の表情が急に険しくなった。
私は何かを・・・そうだ。私は悟った。私は、苦労左衛門の父親の存在を完全に見落としていたのだ。湯気のようだという苦労左衛門はただモザイクがかかっているばかりであるに違いない。
私と目を合わせていたのも束の間、シン太郎左衛門の視線は、私の肩越しに、ダイニングの壁から天井へとジリジリと移動していった。のどかなはずの朝の風景が一気に塗り替えられてしまった。
私は天井を見上げる気にはならなかった。どんな最期を遂げたか分からぬ中年男性が、股間ばかりモザイクがかかった全裸で、部屋の壁から天井へと這い回る姿など見たくもない。まして、そんなヤツが知らぬ間に私のブランケットの中に入り込んでいたかと思うと背筋が凍りついた。
と、シン太郎左衛門は突然莞爾として、「久しぶりに見た。立派なカブトムシ」
その言葉の意味は俄には理解できなかったが、やがて全身の脱力感とともに腑に落ちた。
そいつは、開け放った窓から出ていった。
「お前の望むとおり、逃がしてやったぞ」
シン太郎左衛門は「達者で暮らせよ」と手を振っていたが、私にはもうどこに行ったやら分からなかった。
シン太郎左衛門が「行ってしまった」と言うので、窓を閉めた。そろそろ出掛ける準備をする時間だ。
「立派なカブトムシでござったな」と、シン太郎左衛門は言うが、私にカブトムシの目利きは出来なかった。
「ちなみに、苦労左衛門の幽霊は、理由は知らぬが単体でござる。親父殿は同伴せぬので見たことがござらぬ」
「そうか。少しホッとしたよ。でも、そんなことはもうどうでもいい。怪談もカブトムシも済んだ話だ。さあ、そろそろ出掛けるぞ」
「れもんちゃんに向けて出陣でござるな」
「いざ出陣じゃ。いつもの新快速に鞍を載せておけ。一鞭で神戸に到着してくれようぞ」
「れもんちゃんの笑顔が目に浮かびまするな」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
「レッツゴー・れもんちゃん!!」
我々はもう走り出していた。
シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)様ありがとうございました。