口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん警報』と王さんのレシピと金ちゃん様
ご来店日 2023年12月10日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ、武士道ではなく、れもん道に邁進し、座右の銘は「れもん一筋」らしい。こうなると、もう武士にこだわる理由が分からない。
先週の某日の朝、体調がすぐれなかったので、職場に電話で断りを入れて休みをとった。昼まで寝床でゴロゴロしていると、体調は微かに持ち直してきた。
そろそろ起きて、朝食兼昼食、場合によっては夕飯も兼ねたものを食べよう、そして、熱があるのか無いのか、何が体調不良の原因だか分からないが葛根湯を飲んで、水分補給をして明日の朝まで眠り続けよう、そうボンヤリ考えていると、シン太郎左衛門が突然「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と電子音めいた音を発し始めた。知っている人は知っている(もちろん、知らない人は知らない)、シン太郎左衛門の「絶対れもん主義宣言」のイントロだった。
体調が悪いのに、キツいのが始まったなぁと思いつつ、「止めろ」と言う元気もないので、放っておいた。「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」を4回繰り返した後、「美容院に行ったよ~ん」と歌が始まるはずなのだが、5回でも6回でも「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」が繰り返され、段々ピッチが早くなっていくようだ。
いよいよ耐えられなくなって、「おい、シン太郎左衛門、それ止めてくれ・・・いつ歌が始まるかという不安も手伝って、精神が蝕まれていく」
「うむ?歌とは何のことでござるか」
「今、お前がやってるヤツだ」
知っている人には知っての通り、シン太郎左衛門は歌いながら太鼓の音を口真似するなど、同時に複数の音を口から発することができる。「これは、歌ではござらぬ」と言いながら、並行して引き続き「ビ!ビビビ!!ビ!ビビビ!!」と益々ピッチを上げて甲高い電子音まがいの音を立てていた。
「これは『れもんちゃん警報』。れもんちゃんの接近を知らせてござる」
「無礼者め!れもんちゃんを台風や津波のように言うな」
「それより、父上、大事なことを言い忘れてござった」
「どうした?」
「れもんちゃんが近づいてござる」
「今さっき聞いた。だから『ビビビビ』言ってるって、たった今、お前自身が言ったじゃないか」
「うむ。父上、大変なことでござるな」
「・・・何が?会話が全く噛み合ってない。まずその『ビビビビ』を止めてくれ」
「『れもんちゃん警報』は、その重要性ゆえ、タマタマを捻って音量を変えたり、エコーをかけたりは出来ぬ。今、南西方向約1800メートル、高度2000メートルの位置に『宇宙空母れもんちゃん号』が飛行してござる」
「どうして、お前に、そんなことが分かる?何の音もしないし、震動もないのに」
「そこが、父上のような口先だけの人間と、拙者のような真の求道者、絶対れもん主義者(黒帯)の違いでござる」
「失礼のことを言うな!」
その瞬間、「び・・・び・・び・・・」と『れもんちゃん警報』が止んだ。
「どうした?」
「宇宙空母が突然飛び去ってござる。おそらく、れもんちゃん、コックピットで『いやん、美容院の予約時間を勘違いしてた。遅刻しちゃう。ワープするよ~ん』と奥の手を使ったのでござろう」
「そうか。普段、れもんちゃんに、時間にルーズな印象を受けたことはないけど、プライベートでは結構やらかすタイプなのかもしれん」
「何をグダグダと言っておられる。警報が鳴ってすぐに外に出れば、れもんちゃんの宇宙空母が見れたのに、父上がウスノロだから見れなかった」
「しょうがない。元気だったら見に出たさ。今日は体調不良で仕事を休んだのだ」
「そうでござったか。どこが悪いのでござるか」
「分からん。昨日、悪いモノでも食ったのかなぁ・・・」
「父上が悪いモノを食ったかは知らぬが、良いモノを食っていないのは間違いござらぬ。最近食したマトモなものは、三日前の夜に駅前の中華屋さんで食べた麻婆茄子定食ぐらいでござる」
「ホントだ。思えば、昨日は、ほとんど何も食べなかった。夜、帰って来て、冷蔵庫を開けたら、何もなかったから水を飲んで寝た・・・つまり俺は今、栄養失調なのか?」
「おそらく、そうでござる」
「もう一眠りしてたら、そのまま死んでたかもしれない。大雑把すぎる性格のせいで、危うく命を落とすところだった。とにかく何か食べよう」
「でも、冷蔵庫には何もござらぬ。駅前まで歩けまするか」
「歩けないね。でも、大丈夫」
外はいい天気だった。隣家の呼び鈴を鳴らすと、インターホンに金ちゃんが出た。
「オジさん、今日、お休みだったんですか?よかった。助かった」とか言っている。
どういう意味で助かるのか分からなかったが、「さっき俺の家で警報が鳴り続けていた。お前の身に何かあったのではないかと心配になって見に来てやった。5秒以内に玄関のドアを開けろ。何はともあれ飯を作ってやる。俺も一緒に食べる」
「ああ、助かった。ホントに、ありがとうございます」
こんなに感謝されるとは全く予想外だった。
聞けば、こんな事情だった。仕事の納期が迫っていて、金ちゃん、この数日ほぼ不眠不休だったらしい。今朝ようやくプログラムを仕上げて納品を終え、緊張感から解き放たれた途端、金ちゃんは自分が死ぬほど疲れていて、死ぬほどお腹が空いていることを発見したが、両親は朝から外出していて、誰も助けにならない状況にパニックになっていたらしい。
「疲労感がひどくて、全身寒気がするし、空腹で立ってることもできないほどだったのに、オジさんの声を聞いたら、不思議と元気が出ました」
「よかったな。とにかく今は飯だ」
金ちゃんと私は、玄関からダイニングまでお互いを抱きかかえ合うように千鳥足で廊下を歩いた。
「ご飯は炊けてますよ」と、金ちゃん。
「いや。今の俺たちに必要なのは、ふりかけご飯ではない。栄養バランスの取れた、ちゃんとした食事だ」
「はい」
「反省しろ」
「はい。反省します」
「反省したら、ダイニングの椅子に座って、石川さゆりの『天城越え』を歌って、大人しく待っておけ」
「その歌、知らないんですけど」
「なに?石川さゆりを知らんのか」
「石川さゆりは知ってます」
「美人だ」
「はい」
「でも、れもんちゃんほどではない」
「・・・れもんちゃんって誰ですか?」
「とっても偉い人だ。得意技は『レモンスカッシュ』ほか数え切れない」
「全然分かんないです。得意技って、れもんちゃんは、プロレスラーなんですか?」
私は冷蔵庫を開けて食材の確認に忙しかった。
「違う。れもんちゃんは、プロレスラーではない。人生そのものだ」
「・・・全然分からない・・・オジさん、熱でもあるんですか?」
「腹が減ってるだけだ。お前は黙って座っておけ」
私は、食材に続いて、調味料のラインナップのチェックを済ますと、声高らかに宣言した。「メニューが決まった。王さんの幸せ酢豚と王さんのニコニコ五目チャーハン、そして王さんのふんわり玉子スープ、デザートには市販の杏仁豆腐だ」
「王さんって誰ですか?」
「何も知らないヤツだな。お前、まさか俺の正体が王さんではないかと疑っているのか?」
「そんなこと、思ってませんよ。オジさんちの表札は頻繁に見てるし」
「そうだ。俺は、王さんではない。『王さんの中華レシピ』は、若い頃、日本中で単身赴任を繰り返していた時代の、俺の愛読書だ。全文暗記している。毎日欠かさず、王さんのお世話になった。筆者近影によれば、大変陽気そうな五十絡みの中国人だった。当人には一度も会ったことがなく、今どこで何をしているか、生死を含めて俺は知らない。以上が、俺が持っている王さん情報の全てだ。満足したか?」
「はい」
「では、黙って、石川さゆりの『天城越え』を歌っとけ」
金ちゃんは、小声で「だから、知らないって・・・大体『黙って歌っとけ』って、どういうことだよ」と文句を言っていたが、彼はもう私の眼中になかった。
炎を上げて、一気呵成に調理した。
「うわぁ~、凄い美味そうな匂いだ」と金ちゃんは感動の声を上げた。
「確かに、いい匂いだが、れもんちゃんの甘い薫りには勝てない。れもんちゃんの薫りは、人を幸福の絶頂に誘うのだ」
「れもんちゃんって、一体誰なんですか?」
「今、その話はできない。王さんのニコニコ五目チャーハンが、真っ黒焦げ焦げチャーハンになってもいいなら、話してやる」
「じゃあ後でいいです」
「よし出来た。まず玉子スープだ」
「ああ凄い!!」
金ちゃんは、満面の笑みで箸をとった。
「続いて酢豚だ」
「うわぁ、感動するなぁ」
金ちゃんは、感動で目を潤ませた。
「そして、チャーハンだ」
「いやぁ、完璧だ」
感涙が金ちゃんの頬を伝った。
「さあ食え。そして、この世に完璧なのは、れもんちゃんだけで、れもんちゃん以上の感動はない。よく覚えておけ」
我ながら大変上出来で、食べながら、幸福感に満たされていった。少し作り過ぎたと思ったが、そんなこともなかった。
「いやぁ、オジさん、何で、プロの料理人にならなかったんですか?」という金ちゃんの言葉は全くお世辞に聞こえなかった。
「毎回、これだけのものが作れるなら、料理人になっていたかもしれん。実際には、毎回、味が一定しない。そもそも俺のウチのコンロの火力では中華は無理だ。期せずして、今回、生涯最高の出来を実現してしまったのだ」
「本当に美味しかった。ご馳走様でした。お蔭で生き返りました」
「俺には感謝しなくていい。食材を買い揃えておいてくれた、お前のお母さんに感謝しろ。お前の家の、火力の強いコンロにも感謝しろ。レシピを考えた王さんにもな。そして、当然れもんちゃんにもだ」
「結局、れもんちゃんって誰なんですか?」
「れもんちゃんというのはだな・・・」と話し始めたとき、股間で「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と、シン太郎左衛門が警報を発し始めた。
私は椅子から立ち上がり、「あっ、大変だ!『れもんちゃん警報』だ」
「『れもんちゃん警報』?何ですか、それ?」
「説明している暇はない。悪いが、皿洗いは、お前に任せた。さらばだ。あっ、後で気が向いたら、ラッピーたちを散歩させてやる」
私は一目散に表に飛び出した。
「シン太郎左衛門、空母はどっちだ?」
シン太郎左衛門は、ズボンのチャックを勝手に開けて、周囲をキョロキョロ見回しながら、「それが、今回ばかりは皆目見当が付きませぬ。近付いているのは、確実でござる」
抜けるような青空には清々しい風が吹いているばかり。通りには誰一人いない。
「厄介だな。取り敢えず、丘の上に登ろう」
丘の上の公園まで小走りで急ぐと、眼下の風景を見渡したが、空母は影も形もなかった。しかし、シン太郎左衛門は、いよいよ激しく「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と『れもんちゃん警報』を繰り返している。
「シン太郎左衛門、どういうことだ?あんな馬鹿デカいもの、見逃すはずがない」
「うむ、ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!拙者にも分からぬ」と言った直後、
美容院に行ったよ~ん
宇宙空母で行ったよ~ん
と歌が始まった。
「シン太郎左衛門、歌が始まったぞ」
「れもんちゃんの登場でござる」
そのとき、背後の山が競り上がって、覆い被さって来るような異様な感覚に襲われた。頭上に顔を向け、喉チンコをお日様に晒しながら、「あっ、れもんちゃんだ」と呟いた次の瞬間から、地上は巨大な影に包まれていった。背後の山脈から姿を現した巨大な空母は、我々の頭上を静かに通過していった。
「やっぱり、れもんちゃんは凄いなぁ」
「れもん星の美容院からお帰りでござる」
「宇宙海賊の討伐を兼ねて、美しさに磨きを掛けてきた訳だ」
「れもんちゃんは、いろんな意味で宇宙一でござる」
「ホントに破格だ。スケールが大きすぎる」
トボトボと坂道を下りながら、
「れもんちゃんに会った後は、爽快なまでに茫然自失となりまするなぁ」
「ほんとだよ。嵐のような女の子だ」
「このまま帰られまするか」
「いや。スーパーに買い出しに行く。こんな風に人の家のモノを使って、只飯を食わせてもらっていては、れもんちゃんファンの名折れだからな」
「うむ」
「買い出し、楽しみでござる」
「今日からは、毎日、栄養のあるものを食べて、元気になることに決めた。れもん道の第一歩は食事だ」
「うむ。間違いない」
そして、今日、れもんちゃんに会ってきた。やっぱり、れもんちゃんは、宇宙一も、いいところだった。
ところで、金ちゃんは、未だに、れもんちゃんが誰なのかを知らない。教えてやる気は全くない。
シン太郎左衛門と『れもんちゃん警報』と王さんのレシピと金ちゃん様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん警報』と王さんのレシピと金ちゃん様
ご来店日 2023年12月10日
先週の某日の朝、体調がすぐれなかったので、職場に電話で断りを入れて休みをとった。昼まで寝床でゴロゴロしていると、体調は微かに持ち直してきた。
そろそろ起きて、朝食兼昼食、場合によっては夕飯も兼ねたものを食べよう、そして、熱があるのか無いのか、何が体調不良の原因だか分からないが葛根湯を飲んで、水分補給をして明日の朝まで眠り続けよう、そうボンヤリ考えていると、シン太郎左衛門が突然「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と電子音めいた音を発し始めた。知っている人は知っている(もちろん、知らない人は知らない)、シン太郎左衛門の「絶対れもん主義宣言」のイントロだった。
体調が悪いのに、キツいのが始まったなぁと思いつつ、「止めろ」と言う元気もないので、放っておいた。「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」を4回繰り返した後、「美容院に行ったよ~ん」と歌が始まるはずなのだが、5回でも6回でも「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」が繰り返され、段々ピッチが早くなっていくようだ。
いよいよ耐えられなくなって、「おい、シン太郎左衛門、それ止めてくれ・・・いつ歌が始まるかという不安も手伝って、精神が蝕まれていく」
「うむ?歌とは何のことでござるか」
「今、お前がやってるヤツだ」
知っている人には知っての通り、シン太郎左衛門は歌いながら太鼓の音を口真似するなど、同時に複数の音を口から発することができる。「これは、歌ではござらぬ」と言いながら、並行して引き続き「ビ!ビビビ!!ビ!ビビビ!!」と益々ピッチを上げて甲高い電子音まがいの音を立てていた。
「これは『れもんちゃん警報』。れもんちゃんの接近を知らせてござる」
「無礼者め!れもんちゃんを台風や津波のように言うな」
「それより、父上、大事なことを言い忘れてござった」
「どうした?」
「れもんちゃんが近づいてござる」
「今さっき聞いた。だから『ビビビビ』言ってるって、たった今、お前自身が言ったじゃないか」
「うむ。父上、大変なことでござるな」
「・・・何が?会話が全く噛み合ってない。まずその『ビビビビ』を止めてくれ」
「『れもんちゃん警報』は、その重要性ゆえ、タマタマを捻って音量を変えたり、エコーをかけたりは出来ぬ。今、南西方向約1800メートル、高度2000メートルの位置に『宇宙空母れもんちゃん号』が飛行してござる」
「どうして、お前に、そんなことが分かる?何の音もしないし、震動もないのに」
「そこが、父上のような口先だけの人間と、拙者のような真の求道者、絶対れもん主義者(黒帯)の違いでござる」
「失礼のことを言うな!」
その瞬間、「び・・・び・・び・・・」と『れもんちゃん警報』が止んだ。
「どうした?」
「宇宙空母が突然飛び去ってござる。おそらく、れもんちゃん、コックピットで『いやん、美容院の予約時間を勘違いしてた。遅刻しちゃう。ワープするよ~ん』と奥の手を使ったのでござろう」
「そうか。普段、れもんちゃんに、時間にルーズな印象を受けたことはないけど、プライベートでは結構やらかすタイプなのかもしれん」
「何をグダグダと言っておられる。警報が鳴ってすぐに外に出れば、れもんちゃんの宇宙空母が見れたのに、父上がウスノロだから見れなかった」
「しょうがない。元気だったら見に出たさ。今日は体調不良で仕事を休んだのだ」
「そうでござったか。どこが悪いのでござるか」
「分からん。昨日、悪いモノでも食ったのかなぁ・・・」
「父上が悪いモノを食ったかは知らぬが、良いモノを食っていないのは間違いござらぬ。最近食したマトモなものは、三日前の夜に駅前の中華屋さんで食べた麻婆茄子定食ぐらいでござる」
「ホントだ。思えば、昨日は、ほとんど何も食べなかった。夜、帰って来て、冷蔵庫を開けたら、何もなかったから水を飲んで寝た・・・つまり俺は今、栄養失調なのか?」
「おそらく、そうでござる」
「もう一眠りしてたら、そのまま死んでたかもしれない。大雑把すぎる性格のせいで、危うく命を落とすところだった。とにかく何か食べよう」
「でも、冷蔵庫には何もござらぬ。駅前まで歩けまするか」
「歩けないね。でも、大丈夫」
外はいい天気だった。隣家の呼び鈴を鳴らすと、インターホンに金ちゃんが出た。
「オジさん、今日、お休みだったんですか?よかった。助かった」とか言っている。
どういう意味で助かるのか分からなかったが、「さっき俺の家で警報が鳴り続けていた。お前の身に何かあったのではないかと心配になって見に来てやった。5秒以内に玄関のドアを開けろ。何はともあれ飯を作ってやる。俺も一緒に食べる」
「ああ、助かった。ホントに、ありがとうございます」
こんなに感謝されるとは全く予想外だった。
聞けば、こんな事情だった。仕事の納期が迫っていて、金ちゃん、この数日ほぼ不眠不休だったらしい。今朝ようやくプログラムを仕上げて納品を終え、緊張感から解き放たれた途端、金ちゃんは自分が死ぬほど疲れていて、死ぬほどお腹が空いていることを発見したが、両親は朝から外出していて、誰も助けにならない状況にパニックになっていたらしい。
「疲労感がひどくて、全身寒気がするし、空腹で立ってることもできないほどだったのに、オジさんの声を聞いたら、不思議と元気が出ました」
「よかったな。とにかく今は飯だ」
金ちゃんと私は、玄関からダイニングまでお互いを抱きかかえ合うように千鳥足で廊下を歩いた。
「ご飯は炊けてますよ」と、金ちゃん。
「いや。今の俺たちに必要なのは、ふりかけご飯ではない。栄養バランスの取れた、ちゃんとした食事だ」
「はい」
「反省しろ」
「はい。反省します」
「反省したら、ダイニングの椅子に座って、石川さゆりの『天城越え』を歌って、大人しく待っておけ」
「その歌、知らないんですけど」
「なに?石川さゆりを知らんのか」
「石川さゆりは知ってます」
「美人だ」
「はい」
「でも、れもんちゃんほどではない」
「・・・れもんちゃんって誰ですか?」
「とっても偉い人だ。得意技は『レモンスカッシュ』ほか数え切れない」
「全然分かんないです。得意技って、れもんちゃんは、プロレスラーなんですか?」
私は冷蔵庫を開けて食材の確認に忙しかった。
「違う。れもんちゃんは、プロレスラーではない。人生そのものだ」
「・・・全然分からない・・・オジさん、熱でもあるんですか?」
「腹が減ってるだけだ。お前は黙って座っておけ」
私は、食材に続いて、調味料のラインナップのチェックを済ますと、声高らかに宣言した。「メニューが決まった。王さんの幸せ酢豚と王さんのニコニコ五目チャーハン、そして王さんのふんわり玉子スープ、デザートには市販の杏仁豆腐だ」
「王さんって誰ですか?」
「何も知らないヤツだな。お前、まさか俺の正体が王さんではないかと疑っているのか?」
「そんなこと、思ってませんよ。オジさんちの表札は頻繁に見てるし」
「そうだ。俺は、王さんではない。『王さんの中華レシピ』は、若い頃、日本中で単身赴任を繰り返していた時代の、俺の愛読書だ。全文暗記している。毎日欠かさず、王さんのお世話になった。筆者近影によれば、大変陽気そうな五十絡みの中国人だった。当人には一度も会ったことがなく、今どこで何をしているか、生死を含めて俺は知らない。以上が、俺が持っている王さん情報の全てだ。満足したか?」
「はい」
「では、黙って、石川さゆりの『天城越え』を歌っとけ」
金ちゃんは、小声で「だから、知らないって・・・大体『黙って歌っとけ』って、どういうことだよ」と文句を言っていたが、彼はもう私の眼中になかった。
炎を上げて、一気呵成に調理した。
「うわぁ~、凄い美味そうな匂いだ」と金ちゃんは感動の声を上げた。
「確かに、いい匂いだが、れもんちゃんの甘い薫りには勝てない。れもんちゃんの薫りは、人を幸福の絶頂に誘うのだ」
「れもんちゃんって、一体誰なんですか?」
「今、その話はできない。王さんのニコニコ五目チャーハンが、真っ黒焦げ焦げチャーハンになってもいいなら、話してやる」
「じゃあ後でいいです」
「よし出来た。まず玉子スープだ」
「ああ凄い!!」
金ちゃんは、満面の笑みで箸をとった。
「続いて酢豚だ」
「うわぁ、感動するなぁ」
金ちゃんは、感動で目を潤ませた。
「そして、チャーハンだ」
「いやぁ、完璧だ」
感涙が金ちゃんの頬を伝った。
「さあ食え。そして、この世に完璧なのは、れもんちゃんだけで、れもんちゃん以上の感動はない。よく覚えておけ」
我ながら大変上出来で、食べながら、幸福感に満たされていった。少し作り過ぎたと思ったが、そんなこともなかった。
「いやぁ、オジさん、何で、プロの料理人にならなかったんですか?」という金ちゃんの言葉は全くお世辞に聞こえなかった。
「毎回、これだけのものが作れるなら、料理人になっていたかもしれん。実際には、毎回、味が一定しない。そもそも俺のウチのコンロの火力では中華は無理だ。期せずして、今回、生涯最高の出来を実現してしまったのだ」
「本当に美味しかった。ご馳走様でした。お蔭で生き返りました」
「俺には感謝しなくていい。食材を買い揃えておいてくれた、お前のお母さんに感謝しろ。お前の家の、火力の強いコンロにも感謝しろ。レシピを考えた王さんにもな。そして、当然れもんちゃんにもだ」
「結局、れもんちゃんって誰なんですか?」
「れもんちゃんというのはだな・・・」と話し始めたとき、股間で「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と、シン太郎左衛門が警報を発し始めた。
私は椅子から立ち上がり、「あっ、大変だ!『れもんちゃん警報』だ」
「『れもんちゃん警報』?何ですか、それ?」
「説明している暇はない。悪いが、皿洗いは、お前に任せた。さらばだ。あっ、後で気が向いたら、ラッピーたちを散歩させてやる」
私は一目散に表に飛び出した。
「シン太郎左衛門、空母はどっちだ?」
シン太郎左衛門は、ズボンのチャックを勝手に開けて、周囲をキョロキョロ見回しながら、「それが、今回ばかりは皆目見当が付きませぬ。近付いているのは、確実でござる」
抜けるような青空には清々しい風が吹いているばかり。通りには誰一人いない。
「厄介だな。取り敢えず、丘の上に登ろう」
丘の上の公園まで小走りで急ぐと、眼下の風景を見渡したが、空母は影も形もなかった。しかし、シン太郎左衛門は、いよいよ激しく「ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!」と『れもんちゃん警報』を繰り返している。
「シン太郎左衛門、どういうことだ?あんな馬鹿デカいもの、見逃すはずがない」
「うむ、ビッ!ビッ、ビッ、ビッ!!拙者にも分からぬ」と言った直後、
美容院に行ったよ~ん
宇宙空母で行ったよ~ん
と歌が始まった。
「シン太郎左衛門、歌が始まったぞ」
「れもんちゃんの登場でござる」
そのとき、背後の山が競り上がって、覆い被さって来るような異様な感覚に襲われた。頭上に顔を向け、喉チンコをお日様に晒しながら、「あっ、れもんちゃんだ」と呟いた次の瞬間から、地上は巨大な影に包まれていった。背後の山脈から姿を現した巨大な空母は、我々の頭上を静かに通過していった。
「やっぱり、れもんちゃんは凄いなぁ」
「れもん星の美容院からお帰りでござる」
「宇宙海賊の討伐を兼ねて、美しさに磨きを掛けてきた訳だ」
「れもんちゃんは、いろんな意味で宇宙一でござる」
「ホントに破格だ。スケールが大きすぎる」
トボトボと坂道を下りながら、
「れもんちゃんに会った後は、爽快なまでに茫然自失となりまするなぁ」
「ほんとだよ。嵐のような女の子だ」
「このまま帰られまするか」
「いや。スーパーに買い出しに行く。こんな風に人の家のモノを使って、只飯を食わせてもらっていては、れもんちゃんファンの名折れだからな」
「うむ」
「買い出し、楽しみでござる」
「今日からは、毎日、栄養のあるものを食べて、元気になることに決めた。れもん道の第一歩は食事だ」
「うむ。間違いない」
そして、今日、れもんちゃんに会ってきた。やっぱり、れもんちゃんは、宇宙一も、いいところだった。
ところで、金ちゃんは、未だに、れもんちゃんが誰なのかを知らない。教えてやる気は全くない。
シン太郎左衛門と『れもんちゃん警報』と王さんのレシピと金ちゃん様ありがとうございました。