口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様
ご来店日 2024年01月16日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。前回軽く触れたロボットの話をしておく。
三が日が終わった辺り、4日だったか5日だったか覚えていないが、朝、宅配便が届いた。Aからだった(昨年12月17日のクチコミを参照のこと)。品名に「ロボット」と書いてあるのを見て、そのまま庭に投げ捨てて、朽ちるに任せたい気持ちになったが、取り敢えずリビングに持ち込んだ。
「シン太郎左衛門、またAからロボットが届いた」
「年明け早々、縁起でもないことでござる」
「今回は箱も開けずに済ますか」
「うむ。それがよかろう」
「いや。でも、なんか気になる。中身を見るだけは、見ておこう」
段ボール箱を開けると、やはり封筒があって、その下に新聞紙でくるまれた物体が潜んでいた。封筒から取り出した便箋を広げ、最初の数行を読んで、思わず「何じゃ、こりゃ」と叫んでしまった。
「父上、いかがなされました」
「これは・・・読んで聞かせてやる」
シン太郎左衛門がズボンのチャックを内側から開けて、テーブルの上にピョコンと飛び移ると、私はAからの手紙を声に出して読んだ。
あけおめだよ~ん。
ネコ型ロボット『俊之』は気に入ってくれたようだな。クラブロイヤルのHPで、お前の書いたクチコミを読んだぜ。もう少し遊んでくれたら、俊之の真の実力が分かったものを、早々に隣の金ちゃんにやってしまったようだな。
ということで、『俊之』を手放して寂しくなっただろうから、代わりにもっと素敵なお相手をプレゼントしよう。
箱入り娘型ロボット『れもんちゃん』だ!!電源を入れると、約1分で起動する。今度は大事にしてくれよな。月に最低一度は美容院に連れて行ってくれ。
怪人百面相より
追伸。俺も、実物のれもんちゃんに会いたいと思いながら、ずっと完売で予約が取れない。お前のせいでもあるんだぞ!そのうち、シバく。
「以上だ」
「父上、身バレしてござる」
「俺のクチコミなど誰も読まないと、油断していた・・・アイツには知られたくなかった」
「ピンチでござるな」
「しょうがない。Aには消えてもらおう。何が『怪人百面相』だ。俺だって、着脱式のオチン武士を自在に操る怪人だ。シン太郎左衛門、この荷札にAの住所が書いてある。お前一人でAの家に忍び込んで、隙を狙ってヤツの心臓を一刺しにしろ」
「拙者が・・・でござるか」
「そうだ。お前は武士だ。それぐらい容易いことだ」
「うむ。拙者、武士でござる」
「ちなみに、お前の剣術の流派は何だ?」
「流派とな・・・」
「柳生神影流とかあるだろ」
「大きな声では言えぬが、拙者、池坊の流れを汲む者でござる」
「池坊?・・・それはお華の流派だ」
「うむ。拙者、お華が大好きでござる。正確に言えば、振り袖を着てお華を活けるれもんちゃんが大好きでござる」
「そうか。それは、うっとりするような光景だな。れもんちゃんは、お華をするのか」
「うむ。れもんちゃんは、穴澤流でござる」
「穴澤流?それは、薙刀の流派だな」
「うむ。れもんちゃんは、薙刀の達人でござる。一振りで百人の首が飛ぶ」
「・・・それは嘘だな」
「いかにも嘘でござる」
「お前、メチャメチャだな」
「うむ。拙者、メチャメチャでござる」
「そんなこと、自慢気に言うな」
しばしの沈黙の後、「まあいい」と、私は段ボール箱から新聞紙に包まれた物体を取り出し、包装を解いた。
「見ろ。俊之と全く同じ大きさだ。同じくタダのプラスチックの箱だ。マイクとカメラとスピーカーが内蔵されているのも同じだ」
「色が違うようでござる」
「いや、箱の色は同じだ。ただ、今回のは果物のシールが沢山ペタペタ貼ってある。オレンジに桃、ブドウにキーウィ、メロンに洋ナシ、スイカもイチゴもある・・・ただレモンはない」
「うむ。悪意を感じまする。動かしまするか」
「止めておこう。変な胸騒ぎがする」
「では、金ちゃんに押し付けましょう」
「そこが悩み所だ。仮にも『れもんちゃん』と名付けられたものをあだ疎かにはできない」
「では、電源を入れてみまするか」
「いや、そんな気持ちには到底ならない」
結局、隣の家に持っていくことにした。
家を出ると、シン太郎左衛門が、「ところで、金ちゃんはこの前の『俊之』をどうしたのでござろうか」
「すっかり忘れてた。元旦に会ったとき、訊けばよかった」
呼び鈴を鳴らすと、金ちゃんのママが出た。金ちゃんは寝ているとのことだったが、緊急の用事だと言って、家に上がり込んだ。
部屋に入ると、寝起きの金ちゃんは、布団の上であぐらを組み、髪の毛はボサボサ、目はまだ半分閉じていた。
「金ちゃん・・・お前の寝起き姿がセクシー過ぎて、用件を忘れてしまった。あっ、そうだ。緊急事態だ」
金ちゃんは目を擦りながら、「はい、はい」と、あくび混じりに言うだけで、てんで真面目に聴いてない。
「落ち着いて聴け。今、お前の家が火事だ」
「そうですか・・・逃げたらいいんですか?」と、まともに取り合う様子もない。
「いや。もう手遅れだ。すっかり火の手が回ってしまった。一緒に死んでやろうと思って、来てやった」
「それはご苦労様です」
「礼は要らん。ところで、年末に上げたロボットはどうだった?」
金ちゃんは、ドテラを羽織ると、しばらく考えた挙げ句、「ああ、あれ。あれ、むっちゃ怖かったですよ」
「怖かったか?」
「ひどいもんですよ。あれ、オジさんの趣味ですか?」
「違う。『怪人百面相』と名乗る大馬鹿野郎が送り付けてきた。悪質な嫌がらせの類いだから、お前に押し付けた」
「オジさん、最低ですね」
「そうだ。俺は最低だ。で、どんなふうに怖かった?」
「電源入れて、しばらくすると、お仏壇の鐘みたいに『チーン』って音がして、その後、お経が始まりました。気持ち悪いでしょ?」
「・・・それから?」
「それから、年をとった男の声で、『はぁ・・・はぁ・・・』って、息苦しそうに、ずっと呻いてるんです」
「コワっ!」
「でしょ?怖すぎて、急いで電源を切りました」
「お寺に持っていって、お祓いしてもらったか?」
「そんな面倒くさいことしてません。まだ、そこにあります」と、金ちゃんが指差す先に、クリーム色のプラスチックの箱が転がっていた。
「お前、よくこんなものと一緒に暮らせるな」
「電源入れなきゃ、ただの箱ですからね」
「見上げた根性だ。そういう君に、はい・・・プレゼント」と、『れもんちゃん』を差し出した。
金ちゃんは、複雑な表情を浮かべ、「これ、受け取らなきゃダメですか?」
「当たり前だ。『れもんちゃん』だぞ。ありがたく受け取れ」
「そんなにありがたいものなら、なんで、僕にくれるんですか?」
「本当の『れもんちゃん』じゃないからだ。早く受け取れ」
金ちゃんは、渋々手を伸ばしながら、「オジさん、何度も訊いてるけど、れもんちゃんって、何なんですか?」
「お前なぁ、毎回毎回、同じことを言わせやがって。れもんちゃんは宇宙一だって、言ってるだろ。もちろん、それは本物のれもんちゃんの話だ。ニセモノのれもんちゃんは、この箱だ」
「全然答えになってない・・・電源入れてみます?」
「やれるもんなら、やってみろ」
「止めときます?」
「やってみろ」
金ちゃんがスイッチに指を伸ばすと、私はドアの近くまで後退りした。
「スイッチ入れますよ」
「うん」
金ちゃんの指がスイッチを押すと、箱の中からカラカラカラと音がして、ファンが回りだした。
「嫌な予感しかしない。お経とか変なのが始まったら、すぐ切れよ」
「分かりました」
約1分が過ぎた頃、箱の中から明るく軽快な音楽が聞こえてきた。
「あれ?これ、何の曲だっけ?」と言ったそばから、シン太郎左衛門が嬉しそうに曲に合わせて口笛を吹き出した。
「あ、そうだ。『とくし丸』のイントロだ・・・」
例の移動スーパーのテーマソング、その前奏部分だった。シン太郎左衛門は得意げに口笛を吹きまくっている。
前奏が終わると、一瞬の静寂。そして、華やいだ女性の声が、「れもんちゃんだよ~ん。美容院に行ったよ~ん」
その声に、金ちゃんが「うわ~、可愛い!!」と歓声を上げた一方で、シン太郎左衛門と私は、究極の仏頂面になった。
金ちゃんは、「これ、僕が大好きな声優さんの声です」
「ふ~ん。そうなんだ」
私は立ち上がって、ロボットに歩み寄ると、力一杯電源を切った。「最悪だ。れもんちゃんの声じゃない。ニセモノの名にも値しない粗悪品だ」
「じゃあ、これ、僕がもらってもいいんですか?」
「ああ、好きにしろ」
「嬉しいなぁ。れもんちゃんって、もしかして新作アニメのキャラですか?」
「うるさい。本物のれもんちゃんは、もっともっと可愛い声をしてるんだ」
プンプン怒りながら、金ちゃんの家を出ると、外は冷たい雨が降っていた。親子共々、怒りに肩が震えていた。
「あんなものが、れもんちゃんを騙るとは許せませぬな」
「Aは絶対に許さん。次にAに会ったら、道頓堀川に突き落とす」
「うむ。拙者も助太刀いたしまする」
「・・・いや、お前はいい。お前自身が誤って道頓堀川に落ちそうな気がする」
そして、今日、れもんちゃんに会った。帰りの電車の中、シン太郎左衛門は、「本日の主役」のタスキを付けて、れもんちゃんの声の可愛さについて、どんな政治家の演説よりも雄弁に語り、私は盛んに拍手を送った。
本物のれもんちゃんは、余りにも宇宙一すぎる。結局は、あんなに腹が立ったAのことも、変なロボットのことも、れもんちゃんに会った後は、全くどうでもよくなっているのであった。
シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様
ご来店日 2024年01月16日
三が日が終わった辺り、4日だったか5日だったか覚えていないが、朝、宅配便が届いた。Aからだった(昨年12月17日のクチコミを参照のこと)。品名に「ロボット」と書いてあるのを見て、そのまま庭に投げ捨てて、朽ちるに任せたい気持ちになったが、取り敢えずリビングに持ち込んだ。
「シン太郎左衛門、またAからロボットが届いた」
「年明け早々、縁起でもないことでござる」
「今回は箱も開けずに済ますか」
「うむ。それがよかろう」
「いや。でも、なんか気になる。中身を見るだけは、見ておこう」
段ボール箱を開けると、やはり封筒があって、その下に新聞紙でくるまれた物体が潜んでいた。封筒から取り出した便箋を広げ、最初の数行を読んで、思わず「何じゃ、こりゃ」と叫んでしまった。
「父上、いかがなされました」
「これは・・・読んで聞かせてやる」
シン太郎左衛門がズボンのチャックを内側から開けて、テーブルの上にピョコンと飛び移ると、私はAからの手紙を声に出して読んだ。
あけおめだよ~ん。
ネコ型ロボット『俊之』は気に入ってくれたようだな。クラブロイヤルのHPで、お前の書いたクチコミを読んだぜ。もう少し遊んでくれたら、俊之の真の実力が分かったものを、早々に隣の金ちゃんにやってしまったようだな。
ということで、『俊之』を手放して寂しくなっただろうから、代わりにもっと素敵なお相手をプレゼントしよう。
箱入り娘型ロボット『れもんちゃん』だ!!電源を入れると、約1分で起動する。今度は大事にしてくれよな。月に最低一度は美容院に連れて行ってくれ。
怪人百面相より
追伸。俺も、実物のれもんちゃんに会いたいと思いながら、ずっと完売で予約が取れない。お前のせいでもあるんだぞ!そのうち、シバく。
「以上だ」
「父上、身バレしてござる」
「俺のクチコミなど誰も読まないと、油断していた・・・アイツには知られたくなかった」
「ピンチでござるな」
「しょうがない。Aには消えてもらおう。何が『怪人百面相』だ。俺だって、着脱式のオチン武士を自在に操る怪人だ。シン太郎左衛門、この荷札にAの住所が書いてある。お前一人でAの家に忍び込んで、隙を狙ってヤツの心臓を一刺しにしろ」
「拙者が・・・でござるか」
「そうだ。お前は武士だ。それぐらい容易いことだ」
「うむ。拙者、武士でござる」
「ちなみに、お前の剣術の流派は何だ?」
「流派とな・・・」
「柳生神影流とかあるだろ」
「大きな声では言えぬが、拙者、池坊の流れを汲む者でござる」
「池坊?・・・それはお華の流派だ」
「うむ。拙者、お華が大好きでござる。正確に言えば、振り袖を着てお華を活けるれもんちゃんが大好きでござる」
「そうか。それは、うっとりするような光景だな。れもんちゃんは、お華をするのか」
「うむ。れもんちゃんは、穴澤流でござる」
「穴澤流?それは、薙刀の流派だな」
「うむ。れもんちゃんは、薙刀の達人でござる。一振りで百人の首が飛ぶ」
「・・・それは嘘だな」
「いかにも嘘でござる」
「お前、メチャメチャだな」
「うむ。拙者、メチャメチャでござる」
「そんなこと、自慢気に言うな」
しばしの沈黙の後、「まあいい」と、私は段ボール箱から新聞紙に包まれた物体を取り出し、包装を解いた。
「見ろ。俊之と全く同じ大きさだ。同じくタダのプラスチックの箱だ。マイクとカメラとスピーカーが内蔵されているのも同じだ」
「色が違うようでござる」
「いや、箱の色は同じだ。ただ、今回のは果物のシールが沢山ペタペタ貼ってある。オレンジに桃、ブドウにキーウィ、メロンに洋ナシ、スイカもイチゴもある・・・ただレモンはない」
「うむ。悪意を感じまする。動かしまするか」
「止めておこう。変な胸騒ぎがする」
「では、金ちゃんに押し付けましょう」
「そこが悩み所だ。仮にも『れもんちゃん』と名付けられたものをあだ疎かにはできない」
「では、電源を入れてみまするか」
「いや、そんな気持ちには到底ならない」
結局、隣の家に持っていくことにした。
家を出ると、シン太郎左衛門が、「ところで、金ちゃんはこの前の『俊之』をどうしたのでござろうか」
「すっかり忘れてた。元旦に会ったとき、訊けばよかった」
呼び鈴を鳴らすと、金ちゃんのママが出た。金ちゃんは寝ているとのことだったが、緊急の用事だと言って、家に上がり込んだ。
部屋に入ると、寝起きの金ちゃんは、布団の上であぐらを組み、髪の毛はボサボサ、目はまだ半分閉じていた。
「金ちゃん・・・お前の寝起き姿がセクシー過ぎて、用件を忘れてしまった。あっ、そうだ。緊急事態だ」
金ちゃんは目を擦りながら、「はい、はい」と、あくび混じりに言うだけで、てんで真面目に聴いてない。
「落ち着いて聴け。今、お前の家が火事だ」
「そうですか・・・逃げたらいいんですか?」と、まともに取り合う様子もない。
「いや。もう手遅れだ。すっかり火の手が回ってしまった。一緒に死んでやろうと思って、来てやった」
「それはご苦労様です」
「礼は要らん。ところで、年末に上げたロボットはどうだった?」
金ちゃんは、ドテラを羽織ると、しばらく考えた挙げ句、「ああ、あれ。あれ、むっちゃ怖かったですよ」
「怖かったか?」
「ひどいもんですよ。あれ、オジさんの趣味ですか?」
「違う。『怪人百面相』と名乗る大馬鹿野郎が送り付けてきた。悪質な嫌がらせの類いだから、お前に押し付けた」
「オジさん、最低ですね」
「そうだ。俺は最低だ。で、どんなふうに怖かった?」
「電源入れて、しばらくすると、お仏壇の鐘みたいに『チーン』って音がして、その後、お経が始まりました。気持ち悪いでしょ?」
「・・・それから?」
「それから、年をとった男の声で、『はぁ・・・はぁ・・・』って、息苦しそうに、ずっと呻いてるんです」
「コワっ!」
「でしょ?怖すぎて、急いで電源を切りました」
「お寺に持っていって、お祓いしてもらったか?」
「そんな面倒くさいことしてません。まだ、そこにあります」と、金ちゃんが指差す先に、クリーム色のプラスチックの箱が転がっていた。
「お前、よくこんなものと一緒に暮らせるな」
「電源入れなきゃ、ただの箱ですからね」
「見上げた根性だ。そういう君に、はい・・・プレゼント」と、『れもんちゃん』を差し出した。
金ちゃんは、複雑な表情を浮かべ、「これ、受け取らなきゃダメですか?」
「当たり前だ。『れもんちゃん』だぞ。ありがたく受け取れ」
「そんなにありがたいものなら、なんで、僕にくれるんですか?」
「本当の『れもんちゃん』じゃないからだ。早く受け取れ」
金ちゃんは、渋々手を伸ばしながら、「オジさん、何度も訊いてるけど、れもんちゃんって、何なんですか?」
「お前なぁ、毎回毎回、同じことを言わせやがって。れもんちゃんは宇宙一だって、言ってるだろ。もちろん、それは本物のれもんちゃんの話だ。ニセモノのれもんちゃんは、この箱だ」
「全然答えになってない・・・電源入れてみます?」
「やれるもんなら、やってみろ」
「止めときます?」
「やってみろ」
金ちゃんがスイッチに指を伸ばすと、私はドアの近くまで後退りした。
「スイッチ入れますよ」
「うん」
金ちゃんの指がスイッチを押すと、箱の中からカラカラカラと音がして、ファンが回りだした。
「嫌な予感しかしない。お経とか変なのが始まったら、すぐ切れよ」
「分かりました」
約1分が過ぎた頃、箱の中から明るく軽快な音楽が聞こえてきた。
「あれ?これ、何の曲だっけ?」と言ったそばから、シン太郎左衛門が嬉しそうに曲に合わせて口笛を吹き出した。
「あ、そうだ。『とくし丸』のイントロだ・・・」
例の移動スーパーのテーマソング、その前奏部分だった。シン太郎左衛門は得意げに口笛を吹きまくっている。
前奏が終わると、一瞬の静寂。そして、華やいだ女性の声が、「れもんちゃんだよ~ん。美容院に行ったよ~ん」
その声に、金ちゃんが「うわ~、可愛い!!」と歓声を上げた一方で、シン太郎左衛門と私は、究極の仏頂面になった。
金ちゃんは、「これ、僕が大好きな声優さんの声です」
「ふ~ん。そうなんだ」
私は立ち上がって、ロボットに歩み寄ると、力一杯電源を切った。「最悪だ。れもんちゃんの声じゃない。ニセモノの名にも値しない粗悪品だ」
「じゃあ、これ、僕がもらってもいいんですか?」
「ああ、好きにしろ」
「嬉しいなぁ。れもんちゃんって、もしかして新作アニメのキャラですか?」
「うるさい。本物のれもんちゃんは、もっともっと可愛い声をしてるんだ」
プンプン怒りながら、金ちゃんの家を出ると、外は冷たい雨が降っていた。親子共々、怒りに肩が震えていた。
「あんなものが、れもんちゃんを騙るとは許せませぬな」
「Aは絶対に許さん。次にAに会ったら、道頓堀川に突き落とす」
「うむ。拙者も助太刀いたしまする」
「・・・いや、お前はいい。お前自身が誤って道頓堀川に落ちそうな気がする」
そして、今日、れもんちゃんに会った。帰りの電車の中、シン太郎左衛門は、「本日の主役」のタスキを付けて、れもんちゃんの声の可愛さについて、どんな政治家の演説よりも雄弁に語り、私は盛んに拍手を送った。
本物のれもんちゃんは、余りにも宇宙一すぎる。結局は、あんなに腹が立ったAのことも、変なロボットのことも、れもんちゃんに会った後は、全くどうでもよくなっているのであった。
シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様ありがとうございました。