口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様
ご来店日 2024年03月21日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。相変わらず、懲りずに5時起きをして、剣術の稽古をしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。昨日の晩、シン太郎左衛門にコンコンと説教をした。
「お前、いい加減にしろよ。毎朝毎朝5時に起こしやがって。明日は、れもんちゃんに会う大事な日だ。これまでのことは水に流してやる。明日は、何としても、8時まで寝ていろ」
「うむ。畏まってござる」
「夢の中で、れもん星の観光大臣から手紙が届いても、すぐに何かしようとするな。起きてから、俺に相談しろ。分かったか」
「うむ。しかと記憶に練り込んでござる」
(「記憶に練り込む」とは、耳慣れない表現だ)と思ったが、とりあえず、そんな会話をした後、部屋の電気を消した。
そして・・・日曜日、早朝。
「え~?!」と、私は暗闇の中で叫び声をあげ、「父上、いかがなされた」とシン太郎左衛門に揺り起こされた。
「はっ・・・今、何時だ?」
「知らぬ。御自身でスマホを見られよ。まだ外は暗い。おそらく5時でござる」
手探りでスマホを掴み取り、画面を見た。
「5時ちょうどだ」
「拙者のヨミ通りでござる」
「夢を見た」
シン太郎左衛門は、くわ~っとアクビをして、「いい年をした大人が夢の話などするものではござらぬ。拙者、まだ眠い。8時まで寝かしてくだされ」
「ダメだ。俺は、気持ちが昂って眠れない。俺の夢の話に付き合え」と起き上がって、部屋の電気を点けた。
「迷惑至極でござるが、致し方ない。聞いて進ぜよう。何に驚いて、『え~っ?!』っと、声をあげておられましたか」
「いきなり変なヤツに怒られた」
「父上のだらしない生活を見れば、誰でも怒りたくなる」
「そういうことではない。先週お前が見た夢と強い関わりのある夢だった」
「と言うことは、父上も、れもん星に行かれたましたか」
「行ってない。夢の中、職場で仕事中に、れもん星の観光大臣からメールが来た」
「それは、すぐに開いてはなりませぬぞ。開けば、5時起きになりまする」
「その助言は、昨日の晩にして欲しかった。もう手遅れだ。俺は、れもん星の観光大臣という謎の人物の正体を、れもんちゃんだと踏んでいる。れもんちゃんかもしれない人からのメールを無視できるわけがない。即座に開いて読んでしまった」
「うむ、やむを得まい。で、またしてもスピーチの依頼でござったか」
「違う。『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』へのオンライン参加のお誘いだった」
「解せぬ。それは拙者がスピーチをし損ねたイベント。すでに先週終わってござる」
「そうだ。俺も一瞬不審に感じた。でも、夜空に輝いている星が地球から100光年離れていれば、今見えているのは100年前のその星の姿だ。れもん星と地球の隔たりを思えば、れもん星で1週間前に開催されたイベントの実況を今地球上で見ることは、不自然ではないことになる」
「なるほど・・・全く理解できぬ」
「まあいい。とにかく、メールには、『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。イベントやるよ~ん。オンラインで見に来てね』と書いてあったのだ。早速、文末のURLをクリックすると、ウェブ会議システムが起動したので、ヘッドセットを着けた」
「職場で、れもん星の観光シンポジウムを見ていて大丈夫でござるか」
「俺のパソコンのモニターは、同僚たちの席からは見えないからな。難しい顔をしていたら、誰にも分からない。画面に、『開会まで、もう少し待っててね』と映し出されていたが、間もなく『これから、れもん星の紹介ビデオを流すよ~ん。1回だけだから、メモをとるのを忘れないでね』という表示に変わった。慌てて、手元の書類をひっくり返し、ペンを持った」
「うむ」
「すると、リコーダーによる『ドナドナ』の演奏が始まり、画面が法隆寺の映像に変わった」
「聖徳太子ゆかりの法隆寺でござるか」
「そうだ。他にも法隆寺ってあるのか?法隆寺の金堂と五重塔が映った写真をバックに文章が右側から左に流れていくのを大急ぎで書き取った。それが、これだ」と、私はシン太郎左衛門にメモを手渡した。
「・・・法隆寺は、れもん星とどんな関係がござるか」
「知らん。最後まで分からんかった。れもんちゃんの『店長コメント』に《国宝級》と書かれてあるのと関係するかもしれない。まあいい。メモを読んでみろ」
「汚い字でござるなぁ」
「うるさい。とにかく読め」
シン太郎左衛門は、私の速記メモを読み上げた。
夢と希望に輝く星、それが、れもん星です。地球とは違い、れもん星に「国」はありません。れもん星人は、みんな仲良しなのです。国がないので、国歌はなく、「れもんちゃんマーチ」と呼ばれる星歌があります。その1番は地球の「ドナドナ」にメロディが似ていて、2番は「蛍の光」に似ています。同様に国鳥はありませんが、星鳥が定められています。モモンガです。主な産業は、おもてなしとお菓子作りです。また近年、輸出やお土産用に空気の缶詰めの製造に力を入れてきましたが、売れ行きは芳しくありません。膨大な在庫を抱えて困り果て、この度、星外からのお客様を呼び込み、空気の缶詰めの在庫を一掃しちゃうよ~ん。
地球からのアクセス方法と所要時間は、(1)ロケット:片道約21年、(2)宇宙空母:片道2時間、(3)南港からの定期船:片道5分、(4)万博記念公園の各種ボート(白鳥の形をした、ペダルを漕ぐタイプを含む):一生かかっても到着の見込み無し
以上4種からお好きな交通手段でお越しください。待ってるよ~ん。
なお、れもん星人の主食はケーキです。
海にはお魚さんがいっぱいいるよ~ん。
シン太郎左衛門は言葉が出ずにいた。
「驚いたか?」
「うむ。クラクラする。所々れもんちゃんが加筆したようでござる」
「・・・驚くのは、そこか?お前の夢で、れもん星の子供たちが演奏してくれたのは、れもん星の星歌だったんだ。感動しただろ」
「・・・モモンガが鳥だとは知らなんだ」
「鳥ではないからな。少なくとも地球では、違う」
「ロケットで行かなくて、正解でござった」
「そうだ。これで、少しだけ、れもん星への理解が深まった。さらに、お前の夢が決して荒唐無稽な絵空事ではなかったことが明らかになった」
「うむ。誤解が解けて何より。『シン太郎左衛門シリーズ』は、一片の嘘偽りも含まぬドキュメンタリーでござる」
「これだけでも、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』に参加した値打ちがある」
「うむ・・・で、イベントはいかがでござったか」
「・・・れもん星人は、おおらかだった。私のようなコセついた地球人は大いに見習わなければならん」
「拙者の問いへの答えになっておらぬ。イベントは、どんなものでござったか」
「それが・・・今言ったように、いきなりメモを取らされて、手首がクタクタになったところで、『手首を休めるために、これから10分間の休憩といたします』とモニターに表示された」
「ありがたい心遣いでござる」
「うん。折角そう言ってもらったので、トイレで用を済ませ、戻って、ヘッドセットを着け直すと、いきなりオーケストラによる荘厳な『ドナドナ』の演奏が始まった。あんな重厚な『ドナドナ』を聴いたのは初めてで、感動して、涙が止まらんかっ・・・」
「『ドナドナ』の話は、もうよい。先を急いでくだされ」
「分かった。演奏が終わると、次の瞬間、法隆寺から画面が切り替わり、司会者の女性が映し出された」
「まだ法隆寺を映していたのでござるか」
「そうだ。まあ、それはいいとして、電波が遠くから届くせいだろう、映像が乱れていたから確たることは言えんが、その司会者さんは、れもんちゃんのように見えた」
「へへ、れもんちゃん・・・」とシン太郎左衛門は、だらしなくニヤけた。
「その司会者さんは、第一声、元気に『おはよ~ん』と言った。その声は、れもんちゃんの声に限りなく似ていた」
「であれば、それは、れもんちゃんでござる。れもんちゃんの声は特徴的でござる。何の取り柄もない父上でも、れもんちゃんの声を聴き違えるはずがない」
「俺もそう思う。だが、さっきも言ったとおり、映像はかなり乱れているし、音声にも少なからずノイズが入るのだ。99.99%れもんちゃんだと思うが、絶対とは言えない。その『多分』れもんちゃんの司会者ちゃんは、『本日、れもんちゃんメモリアルホールにお集まりの約5000人の皆様、そして宇宙の星々から御視聴頂いている90兆人を越えるオンライン参加の皆様、大変お待たせ致しました。これから・・・』と言ったきり、ピタッと黙り込んでしまった」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・と、これぐらいの沈黙が続いた後、れもんちゃんは、『わくわくイベント、始まるよ~ん』と元気よく開会宣言をした」
「『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』を『わくわくイベント』で済ますとは・・・さすがは、れもんちゃんでござる」
「さっきも言ったとおり、映像がかなり乱れていたから、れもんちゃんと断言はできない」
「うむ。しかし、れもんちゃんは、可憐で可愛い一方で、大胆さも持ち合わせた素晴らしい女の子でござる」
「・・・それはそうだ」
「続けてくだされ」
「うん。続けて、司会のれもんちゃんが、『はじめに、観光大臣ちゃんから、開会のご挨拶だよ~ん。観光大臣ちゃんは、(観光大臣ちゃんだよ~ん、インバウンド、頑張るよ~ん)って言うよ~ん』と前振りすると、れもん星の観光大臣が演壇に上り、元気いっぱい『観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん』と言って、下がっていった。映像が乱れていたものの、観光大臣ちゃんも、やっぱり、れもんちゃんだった」
「へへへ・・・れもんちゃんがいっぱいだ」と、シン太郎左衛門は、だらしなく笑った。
「司会のれもんちゃんも、観光大臣のれもんちゃんも、ドレス姿が可愛い過ぎた」
「へへへへ・・・れもんちゃんのドレス」
「そこから、1時間の休憩に入った」
「・・・」
「れもん星人は、おおらかだ」
「父上は、その1時間、何をしておられた?」
「特にやることもないから、またしても画面に映し出された法隆寺を睨め付けていた。宇宙全域で90兆人が同じことをしていたと思う」
「合計で90兆時間がモニターの前で無為に過ごされたのでござるな」
「そういうことになる。やがて、画面に司会のれもんちゃんが再登場して、『ただいま、本日の講演者、シン太郎左衛門ちゃんが、れもんちゃんメモリアルホールのエントランスに到着したから、シン太郎左衛門の今日これまでを振り返るよ~ん』と言った。『なお、この会場、れもんちゃんメモリアルホールは、野原の地下に作られた巨大な建物、入り口は派出所に似てるよ~ん』とも言った」
「えっ、そうでござったか・・・」シン太郎左衛門は真顔で唸った。
そして、モニターには、小さな船の舳先に立つ、タキシード姿のシン太郎左衛門が映し出された。宇宙全域の90兆を越える人々の前に、我が粗品が晒されていることを覚った私は、唖然として言葉を失った。次の瞬間、シン太郎左衛門は波をまともに被って濡れ鼠になり、少し間を置いて大きなくしゃみをした。すぐにシーンが、切り替わり、バトンを振るスタッフさんに先導された、リコーダーを吹く子供たちの行列の後をピョコピョコと跳ねるように追いかけるシン太郎左衛門の無邪気な姿に、私は頭を抱えた。そして、青筋を立てて「無礼者!!」と叫ぶシン太郎左衛門のアップの映像に、「もう止めてくれ」と叫びそうになった瞬間、画面に映し出されたのは、私自身の顔面のアップだった。私は、1週間前の私に「うるさい!!」
と怒鳴りつけられた。まるで鏡に映った自分に怒鳴られたような奇妙な感覚に、「・・・え~っ?!」と叫んでいた。
「・・・と、まあ、こんな夢だった」
「うむ・・・」
「考えてみれば、俺もお前も、『無礼者!!』やら『うるさい!!』やら、画面越しとは言え、90兆人を相手に罵声を浴びせてしまった」
「うむ。我々親子ともども、宇宙全体を敵に回してしまいましたな」
「そういうことだ。でも今更、どうすることもできない」
「うむ。かくなる上は、ジタバタ足掻くまでもない。武士は散り際が肝心でござる。戦いは近い。敵は多いほどよい。ささ、早く新兵衛を出してくだされ。稽古でござる」
シン太郎左衛門は妙に張り切っている。90兆人と割り箸一本で戦おうとするシン太郎左衛門の神経が、私には、どうしても理解できなかった。
こんな長い長い朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。当然、宇宙一に宇宙一だった。
私は、宇宙一幸せな気分になった。
れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「あっ、そうだ。そう言えば、今朝、ちょっとした行き違いで、宇宙全域にどっさり敵を作ってしまったよ。いざとなったら、例の宇宙空母を貸してね」と頼んだら、宇宙一の笑顔でニッコリと頷いてくれた。
れもんちゃんさえいれば、宇宙の憎まれ者になることさえ、恐れるに足らないのであった。
家に帰ると、あの速記メモは、どこかに消えてなくなっていた。
シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様
ご来店日 2024年03月21日
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。昨日の晩、シン太郎左衛門にコンコンと説教をした。
「お前、いい加減にしろよ。毎朝毎朝5時に起こしやがって。明日は、れもんちゃんに会う大事な日だ。これまでのことは水に流してやる。明日は、何としても、8時まで寝ていろ」
「うむ。畏まってござる」
「夢の中で、れもん星の観光大臣から手紙が届いても、すぐに何かしようとするな。起きてから、俺に相談しろ。分かったか」
「うむ。しかと記憶に練り込んでござる」
(「記憶に練り込む」とは、耳慣れない表現だ)と思ったが、とりあえず、そんな会話をした後、部屋の電気を消した。
そして・・・日曜日、早朝。
「え~?!」と、私は暗闇の中で叫び声をあげ、「父上、いかがなされた」とシン太郎左衛門に揺り起こされた。
「はっ・・・今、何時だ?」
「知らぬ。御自身でスマホを見られよ。まだ外は暗い。おそらく5時でござる」
手探りでスマホを掴み取り、画面を見た。
「5時ちょうどだ」
「拙者のヨミ通りでござる」
「夢を見た」
シン太郎左衛門は、くわ~っとアクビをして、「いい年をした大人が夢の話などするものではござらぬ。拙者、まだ眠い。8時まで寝かしてくだされ」
「ダメだ。俺は、気持ちが昂って眠れない。俺の夢の話に付き合え」と起き上がって、部屋の電気を点けた。
「迷惑至極でござるが、致し方ない。聞いて進ぜよう。何に驚いて、『え~っ?!』っと、声をあげておられましたか」
「いきなり変なヤツに怒られた」
「父上のだらしない生活を見れば、誰でも怒りたくなる」
「そういうことではない。先週お前が見た夢と強い関わりのある夢だった」
「と言うことは、父上も、れもん星に行かれたましたか」
「行ってない。夢の中、職場で仕事中に、れもん星の観光大臣からメールが来た」
「それは、すぐに開いてはなりませぬぞ。開けば、5時起きになりまする」
「その助言は、昨日の晩にして欲しかった。もう手遅れだ。俺は、れもん星の観光大臣という謎の人物の正体を、れもんちゃんだと踏んでいる。れもんちゃんかもしれない人からのメールを無視できるわけがない。即座に開いて読んでしまった」
「うむ、やむを得まい。で、またしてもスピーチの依頼でござったか」
「違う。『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』へのオンライン参加のお誘いだった」
「解せぬ。それは拙者がスピーチをし損ねたイベント。すでに先週終わってござる」
「そうだ。俺も一瞬不審に感じた。でも、夜空に輝いている星が地球から100光年離れていれば、今見えているのは100年前のその星の姿だ。れもん星と地球の隔たりを思えば、れもん星で1週間前に開催されたイベントの実況を今地球上で見ることは、不自然ではないことになる」
「なるほど・・・全く理解できぬ」
「まあいい。とにかく、メールには、『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。イベントやるよ~ん。オンラインで見に来てね』と書いてあったのだ。早速、文末のURLをクリックすると、ウェブ会議システムが起動したので、ヘッドセットを着けた」
「職場で、れもん星の観光シンポジウムを見ていて大丈夫でござるか」
「俺のパソコンのモニターは、同僚たちの席からは見えないからな。難しい顔をしていたら、誰にも分からない。画面に、『開会まで、もう少し待っててね』と映し出されていたが、間もなく『これから、れもん星の紹介ビデオを流すよ~ん。1回だけだから、メモをとるのを忘れないでね』という表示に変わった。慌てて、手元の書類をひっくり返し、ペンを持った」
「うむ」
「すると、リコーダーによる『ドナドナ』の演奏が始まり、画面が法隆寺の映像に変わった」
「聖徳太子ゆかりの法隆寺でござるか」
「そうだ。他にも法隆寺ってあるのか?法隆寺の金堂と五重塔が映った写真をバックに文章が右側から左に流れていくのを大急ぎで書き取った。それが、これだ」と、私はシン太郎左衛門にメモを手渡した。
「・・・法隆寺は、れもん星とどんな関係がござるか」
「知らん。最後まで分からんかった。れもんちゃんの『店長コメント』に《国宝級》と書かれてあるのと関係するかもしれない。まあいい。メモを読んでみろ」
「汚い字でござるなぁ」
「うるさい。とにかく読め」
シン太郎左衛門は、私の速記メモを読み上げた。
夢と希望に輝く星、それが、れもん星です。地球とは違い、れもん星に「国」はありません。れもん星人は、みんな仲良しなのです。国がないので、国歌はなく、「れもんちゃんマーチ」と呼ばれる星歌があります。その1番は地球の「ドナドナ」にメロディが似ていて、2番は「蛍の光」に似ています。同様に国鳥はありませんが、星鳥が定められています。モモンガです。主な産業は、おもてなしとお菓子作りです。また近年、輸出やお土産用に空気の缶詰めの製造に力を入れてきましたが、売れ行きは芳しくありません。膨大な在庫を抱えて困り果て、この度、星外からのお客様を呼び込み、空気の缶詰めの在庫を一掃しちゃうよ~ん。
地球からのアクセス方法と所要時間は、(1)ロケット:片道約21年、(2)宇宙空母:片道2時間、(3)南港からの定期船:片道5分、(4)万博記念公園の各種ボート(白鳥の形をした、ペダルを漕ぐタイプを含む):一生かかっても到着の見込み無し
以上4種からお好きな交通手段でお越しください。待ってるよ~ん。
なお、れもん星人の主食はケーキです。
海にはお魚さんがいっぱいいるよ~ん。
シン太郎左衛門は言葉が出ずにいた。
「驚いたか?」
「うむ。クラクラする。所々れもんちゃんが加筆したようでござる」
「・・・驚くのは、そこか?お前の夢で、れもん星の子供たちが演奏してくれたのは、れもん星の星歌だったんだ。感動しただろ」
「・・・モモンガが鳥だとは知らなんだ」
「鳥ではないからな。少なくとも地球では、違う」
「ロケットで行かなくて、正解でござった」
「そうだ。これで、少しだけ、れもん星への理解が深まった。さらに、お前の夢が決して荒唐無稽な絵空事ではなかったことが明らかになった」
「うむ。誤解が解けて何より。『シン太郎左衛門シリーズ』は、一片の嘘偽りも含まぬドキュメンタリーでござる」
「これだけでも、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』に参加した値打ちがある」
「うむ・・・で、イベントはいかがでござったか」
「・・・れもん星人は、おおらかだった。私のようなコセついた地球人は大いに見習わなければならん」
「拙者の問いへの答えになっておらぬ。イベントは、どんなものでござったか」
「それが・・・今言ったように、いきなりメモを取らされて、手首がクタクタになったところで、『手首を休めるために、これから10分間の休憩といたします』とモニターに表示された」
「ありがたい心遣いでござる」
「うん。折角そう言ってもらったので、トイレで用を済ませ、戻って、ヘッドセットを着け直すと、いきなりオーケストラによる荘厳な『ドナドナ』の演奏が始まった。あんな重厚な『ドナドナ』を聴いたのは初めてで、感動して、涙が止まらんかっ・・・」
「『ドナドナ』の話は、もうよい。先を急いでくだされ」
「分かった。演奏が終わると、次の瞬間、法隆寺から画面が切り替わり、司会者の女性が映し出された」
「まだ法隆寺を映していたのでござるか」
「そうだ。まあ、それはいいとして、電波が遠くから届くせいだろう、映像が乱れていたから確たることは言えんが、その司会者さんは、れもんちゃんのように見えた」
「へへ、れもんちゃん・・・」とシン太郎左衛門は、だらしなくニヤけた。
「その司会者さんは、第一声、元気に『おはよ~ん』と言った。その声は、れもんちゃんの声に限りなく似ていた」
「であれば、それは、れもんちゃんでござる。れもんちゃんの声は特徴的でござる。何の取り柄もない父上でも、れもんちゃんの声を聴き違えるはずがない」
「俺もそう思う。だが、さっきも言ったとおり、映像はかなり乱れているし、音声にも少なからずノイズが入るのだ。99.99%れもんちゃんだと思うが、絶対とは言えない。その『多分』れもんちゃんの司会者ちゃんは、『本日、れもんちゃんメモリアルホールにお集まりの約5000人の皆様、そして宇宙の星々から御視聴頂いている90兆人を越えるオンライン参加の皆様、大変お待たせ致しました。これから・・・』と言ったきり、ピタッと黙り込んでしまった」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・と、これぐらいの沈黙が続いた後、れもんちゃんは、『わくわくイベント、始まるよ~ん』と元気よく開会宣言をした」
「『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』を『わくわくイベント』で済ますとは・・・さすがは、れもんちゃんでござる」
「さっきも言ったとおり、映像がかなり乱れていたから、れもんちゃんと断言はできない」
「うむ。しかし、れもんちゃんは、可憐で可愛い一方で、大胆さも持ち合わせた素晴らしい女の子でござる」
「・・・それはそうだ」
「続けてくだされ」
「うん。続けて、司会のれもんちゃんが、『はじめに、観光大臣ちゃんから、開会のご挨拶だよ~ん。観光大臣ちゃんは、(観光大臣ちゃんだよ~ん、インバウンド、頑張るよ~ん)って言うよ~ん』と前振りすると、れもん星の観光大臣が演壇に上り、元気いっぱい『観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん』と言って、下がっていった。映像が乱れていたものの、観光大臣ちゃんも、やっぱり、れもんちゃんだった」
「へへへ・・・れもんちゃんがいっぱいだ」と、シン太郎左衛門は、だらしなく笑った。
「司会のれもんちゃんも、観光大臣のれもんちゃんも、ドレス姿が可愛い過ぎた」
「へへへへ・・・れもんちゃんのドレス」
「そこから、1時間の休憩に入った」
「・・・」
「れもん星人は、おおらかだ」
「父上は、その1時間、何をしておられた?」
「特にやることもないから、またしても画面に映し出された法隆寺を睨め付けていた。宇宙全域で90兆人が同じことをしていたと思う」
「合計で90兆時間がモニターの前で無為に過ごされたのでござるな」
「そういうことになる。やがて、画面に司会のれもんちゃんが再登場して、『ただいま、本日の講演者、シン太郎左衛門ちゃんが、れもんちゃんメモリアルホールのエントランスに到着したから、シン太郎左衛門の今日これまでを振り返るよ~ん』と言った。『なお、この会場、れもんちゃんメモリアルホールは、野原の地下に作られた巨大な建物、入り口は派出所に似てるよ~ん』とも言った」
「えっ、そうでござったか・・・」シン太郎左衛門は真顔で唸った。
そして、モニターには、小さな船の舳先に立つ、タキシード姿のシン太郎左衛門が映し出された。宇宙全域の90兆を越える人々の前に、我が粗品が晒されていることを覚った私は、唖然として言葉を失った。次の瞬間、シン太郎左衛門は波をまともに被って濡れ鼠になり、少し間を置いて大きなくしゃみをした。すぐにシーンが、切り替わり、バトンを振るスタッフさんに先導された、リコーダーを吹く子供たちの行列の後をピョコピョコと跳ねるように追いかけるシン太郎左衛門の無邪気な姿に、私は頭を抱えた。そして、青筋を立てて「無礼者!!」と叫ぶシン太郎左衛門のアップの映像に、「もう止めてくれ」と叫びそうになった瞬間、画面に映し出されたのは、私自身の顔面のアップだった。私は、1週間前の私に「うるさい!!」
と怒鳴りつけられた。まるで鏡に映った自分に怒鳴られたような奇妙な感覚に、「・・・え~っ?!」と叫んでいた。
「・・・と、まあ、こんな夢だった」
「うむ・・・」
「考えてみれば、俺もお前も、『無礼者!!』やら『うるさい!!』やら、画面越しとは言え、90兆人を相手に罵声を浴びせてしまった」
「うむ。我々親子ともども、宇宙全体を敵に回してしまいましたな」
「そういうことだ。でも今更、どうすることもできない」
「うむ。かくなる上は、ジタバタ足掻くまでもない。武士は散り際が肝心でござる。戦いは近い。敵は多いほどよい。ささ、早く新兵衛を出してくだされ。稽古でござる」
シン太郎左衛門は妙に張り切っている。90兆人と割り箸一本で戦おうとするシン太郎左衛門の神経が、私には、どうしても理解できなかった。
こんな長い長い朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。当然、宇宙一に宇宙一だった。
私は、宇宙一幸せな気分になった。
れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「あっ、そうだ。そう言えば、今朝、ちょっとした行き違いで、宇宙全域にどっさり敵を作ってしまったよ。いざとなったら、例の宇宙空母を貸してね」と頼んだら、宇宙一の笑顔でニッコリと頷いてくれた。
れもんちゃんさえいれば、宇宙の憎まれ者になることさえ、恐れるに足らないのであった。
家に帰ると、あの速記メモは、どこかに消えてなくなっていた。
シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様ありがとうございました。