口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
れもん【VIP】の口コミだけ見る
投稿者:シン太郎左衛門と『おとぼけ観光大臣ちゃん』(あるいは『選挙の季節』) 様
ご来店日 2024年10月20日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回、久し振りに観光大臣ちゃんが登場する。知らない人のために文末に注を置いた。しかし、なんで、今回に限って、こんな変な親切心を起こしたんだろうか?分からない。自分でも気持ち悪い。
れもんちゃんは、いつも優しい。
先の火曜日から3泊4日の日程で、東南アジアの某国に出張に行った。
搭乗手続きを済ませ、関西国際空港の国際線のロビーでゲートが開くのを待っていると、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「ここは空港ではござらぬか?」
「いかにも関空だ。これから飛行機に乗る」
「なんと。父上は大の飛行機嫌い。国内であれば、沖縄でも電車で行くと言って譲らぬ男」
「そうだ。今回は海外だ。飛行機だ。悲劇だ」
「ついに日本に居れぬようなことを仕出かしましたか」
「違う。ただの出張だ。本来行くべきヤツが、理由は知らんが、最近出社拒否をしてるらしい。代わりに行ってくれと頼まれて、散々ゴネたが、最後は豪華な逆お土産を条件に引き受けた」
「逆お土産とは、何でござるか」
「俺が帰国したら、職場の者それぞれが俺の指定する豪華な和菓子をもって、嫌々異国で過ごした労をねぎらうのだ。俺はしばらくの間、合計50000円を越える和菓子に囲まれて暮らす」
「父上がお土産を買って帰るのが筋ではござらぬか」
「そんなこと誰がするか。馬鹿馬鹿しい」
「ひどい話でござる」
「まったくだよ」
私は、原因は全く分からないが、とにかく飛行機が苦手だ。こんな嫌なものはない。嫌すぎて半ベソをかきながら飛行機に乗り込み、指定の座席に座って、シートベルトを閉めると、一気に変な汗が出てきた。
「大丈夫。たった数時間のことじゃないか。あっという間だよ」
「下らん気休めを言うな!」
「新幹線と同じだよ」
「じゃあ新幹線に乗せてくれ!」
「でも、新幹線じゃ海は越えられないからなぁ」
「お前、今『新幹線と同じ』って言ったじゃないか。ウソつき!」
そんなふうに一人二役の言い争いをしていると、女性のキャビンアテンダントが寄ってきて、「アー・ユー・オーケー?」と声を掛けられた。
「・・・これがオーケーな人間に見えるか?ユーが、れもんちゃんだったら、アイ・アム・オーケーになるが、ユーが、れもんちゃんじゃないから、オーケーじゃない!」と言って追い返した。
しばらくすると、さっきのキャビンアテンダントが戻ってきて、お菓子の詰め合わせをくれた。「俺は子供か!」と怒った。
それから飛行機が某国の空港に到着するまでの長い時間、お菓子の詰め合わせを胸にしっかりと抱き締め、アワアワ言いながら過ごした。
異国の空港、スーツケースを引きずって建物の外に出ると、物凄い湿気と暑さが襲ってきた。
シン太郎左衛門も、「これは堪らぬ暑さでござるな。父上、日本に帰りましょう」
「そんなこと出来る訳がない。続けざまに飛行機に乗せるつもりか!こんなことなら、出張に行ったふりをして家に引きこもっておけばよかった」
空港からタクシーを飛ばして、予約していたホテルに急いだ。高速道路の両側では、夕陽を浴びたヤシの林が南国ムードを醸し出していた。シン太郎左衛門は、バッハの「トッカータとフーガ」の旋律を口笛で吹いていた。
やがてタクシーの窓から見る風景が、行き交う人々の活気を帯びていった。わりと立派なホテルの前で降ろされたから、これなら快適に過ごせそうだと思ったら、私の宿は隣の安ホテルだった。古い上に、建物全体が傾いているように見えた。
チェックインをして、部屋に入ると、更に驚かされた。部屋の中央に、むき出しのコンクリートの柱が屹立していて、とんでもない威圧感で私を迎えた。
「こんなでっかい柱と一緒に過ごすのか・・・相部屋なら相部屋と、最初から教えといてくれりゃいいのに」
とりあえずシャワーを浴びて、バスルームから出てくると、シン太郎左衛門も部屋の中央を占拠する太いコンクリの柱の偉容に声を上げた。
「おおっ!ずいぶん立派な柱でござるなぁ」
「だろ。こんな部屋、嫌だ。こんな無愛想で太い柱に串刺しにされた部屋なんて見たこともない」
「うむ。落ち着かないこと、この上ない。狭いとは言えぬが、窮屈で息苦しい部屋でござる」
「でも・・・もう何でもいいや。エアコンはガンガンに効いてるから、実に涼しい。それだけで十分だ」
私はもう悟りきったような気持ちになっていた。
しばらくボーっと過ごした。テレビに見るものはなく、部屋のどこにいても柱に見下されている感覚になって落ち着かない。眠たくもないし、クサクサした気分になっていると、窓の外で大勢の人が歓声を上げているのが聞こえた。
気になって、遮光カーテンを開けると、掃き出し窓になっていた。窓を開けて外に出ると広いベランダになっていた。
すっかり陽は沈み、南国の香辛料をまぶしたような爽やかな風が鼻腔をくすぐった。
三階のベランダの手摺から身を乗り出すと、学校の野球場ぐらいのグラウンドがホテルの側まで広がっていて、群衆が仮設のステージを取り巻いているのが見えた。その数ざっと千人程。左右から演台にスポットライトが当てられていたが、電力供給が安定しないのか時折照明が暗くなった。演台から離れるほど、闇は深くなるが、乏しい明かりの中でも熱気を帯びた人々の動きは見て取れた。
「なんだろう?すごい数の聴衆だな」
シン太郎左衛門はバスローブの陰からピョンと跳ね上がって、手摺の上に飛び乗った。
「おい、シン太郎左衛門、落ちないように気を付けろよ」
「うむ。父上、実に心地よい風が吹いておりまするな」
「ああ、夜風が気持ちいい」
「それにしても、大変な人の出。一揆でござるか」
「違うだろ。演台にスポットライトが当たってるから、街頭演説の類いだ。この国も選挙が控えてるのかもしれん」
そのとき、異国の言葉で、おそらく開会を告げるアナウンスが流れ、大聴衆の興奮が一気に高まった。広場は轟々たる歓声に包まれた。
小柄な若い女性が、観衆に手を振りながらステージに登ったとき、我々親子は揃って、「れもんちゃんだ!!」と叫んだ。
小柄な女性は、演台のマイクに向かって「観光大臣ちゃんだよ~!」と第一声を発した。群衆から天まで届くような歓声が上がった。
「父上、我々、れもん星に来ておりましたか?」
「そんなはずがない。俺たちは、東南アジアの某国にいる。どことは言えん。そこまで書いてしまうと、出国者名簿にアクセスできる人間に、俺が誰だかバレてしまうからな」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、再び、「観光大臣ちゃんだよ~!」と朗らかに声を上げた。またしても地を揺るがすような歓声が上がった。
「凄い歓声だ」
「うむ。遠くから見ても、れもんちゃんは大変な美人でござるなぁ」
「いや。れもんちゃんが、観光大臣ちゃんであるという確証は得ていない」
「父上、広場に行って、それを確かめましょうぞ」
「無理無理。あんな人混みを掻き分けて、近くまで行ける訳がない。ここから見ている方が無難だ」
聴衆の歓声が鳴り止むと、観光大臣ちゃんは、三たび、「観光大臣ちゃんだよ~」と声を上げたが、今回は何故か少し恥ずかしそうだった。月や星が落ちてきそうな大歓声が上がった。
「・・・全然、話が進まんな」
「うむ・・・」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、またしても、「観光大臣ちゃんだよ~!」と言った後、「応援演説やっちゃうよ~!」
地球が割れるほどの歓声が上がった。
「やっぱり選挙だったな」
「うむ。日本も衆議院選挙、アメリカも大統領選でござる」
「そうだね。そういう選挙は『シン太郎左衛門』シリーズで扱うネタじゃないけどね」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、「・・・原稿を置いてきちゃったよ~!」と言って、ピョコピョコとステージから降りていった。やはり凄まじい歓声が上がった。
しばらくして、観光大臣ちゃんが小走りでステージに戻ってくると、怒涛のような大歓声が迎えた。
観光大臣ちゃんが、気を取り直して、元気一杯「観光大臣ちゃんだよ~!応援演説やっちゃうよ~!」と言ったが、その最中に照明がスーっと薄暗くなってしまった。観光大臣ちゃんが「・・・原稿が読めないよ~!懐中電灯を取ってくるよ~!」と言うと、やはり火山の大噴火を思わす歓声が上がった。
シン太郎左衛門は「へへへ・・・れもんちゃん、可愛い」と、にやけた。
「れもんちゃんとは決まっていない。とりあえず、観光大臣ちゃんだ」
観光大臣ちゃんが懐中電灯を持ってステージに小走りで戻ってくると、当然のことながら、周囲の木々を薙ぎ倒さんばかりの大歓声が迎えた。
ぼんやりと暗い灯りの中で、観光大臣ちゃんが、「観光大臣ちゃんだよ~!応援演説、頑張るよ~!」と言った後、原稿を懐中電灯で照らしながら顔を近付けて読もうとしている。聴衆は、それを固唾を呑んで見守っていた。
すると、観光大臣ちゃんは、顔を上げて、「よく見たら、原稿じゃなくて、ティッシュだよ~!」
その言葉に大観衆の興奮は最高潮に達し、耳をつんざくばかりの大歓声が起こったかと思うと、いきなり強烈な突風が広場を襲い、千人を越える聴衆は次々と白い紙を切り抜いた形代に姿を変え、蝶々の大群のように夜空に渦を巻いて舞い上がっていった。そして、そのとき、どこからともなく、「れもん!れもん!」という「れもんちゃんコール」が聞こえてきたが、白い蝶々の群れが夜空の闇に消えていくと、辺りはキーンと研ぎ澄まされた静寂に包まれてしまった。広場は疎らな街灯を残し、完全に闇に沈んでいた。
我々は、訳も分からず拍手をしていた。
呆気にとられていたシン太郎左衛門が、「今のは一体・・・」
「・・・よく分からん」
「我々、夢を見ていたのでござるか」
「違う。夢ではない。きっと、飛行機に始まり嫌な出来事の波状攻撃を受けて、俺が打ちのめされているのを察知したれもんちゃんが、マジカルパワーで励ましてくれたに違いない」
「そんなことがありまするか」
「知らんが、そうとしか思えん。見ていて楽しかったし、元気になった」
「それでは、今のは『劇団れもんちゃん』の出し物、『おとぼけ観光大臣ちゃん』でござるな」
「うん。そういうことになる」
涼しい夜風が、果物のような甘い匂いを運んできて、一瞬恍惚としてしまった。
「・・・実によい夜でござるな。南国の夜も悪くない」
「うん。案外、異国も悪くない」
「そう気付かせてくれたのは、れもんちゃんでござるな」
「うん。れもんちゃんは本当に素晴らしいよ」
見上げると満天の星だった。
肌寒い風に誘われて、突然くしゃみをしてしまった。それは、広場の遥か向こうまで響き渡るような、でっかいくしゃみだった。
翌朝、ホテルのフロントで、この国は選挙が近いのか訊いてみたが、私の質問は清々しいほど見事に無視された。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。衆議院選挙の投票日。
れもんちゃんに逢いに行った。
れもんちゃんは、当然、宇宙一に宇宙一だった。感動の嵐が吹き荒れた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、「ああ、この前の出張のときは、応援してくれてありがとう」と言うと、れもんちゃんは、「ん?」と一瞬首を傾げたが、「うん。いつも応援してるよ~」と笑顔で答えてくれた。
れもんちゃんは、実に素晴らしい女の子である。
注)観光大臣ちゃん・・・れもんちゃんの出身地であるれもん星(これは当人が言っていることだから疑うべからず)の観光大臣。インバウンド政策に力を入れているが、バカ売れを期待して大量生産した「空気の缶詰め」の売れ行きが伸び悩み、在庫の富士山を抱えている。しかし、全然へこたれていない。私はモニター画面の粗い映像で見たことがあるだけだが、話し方、声などを考慮すると、その正体は、れもんちゃん当人である可能性が高い。
この他にも、『シン太郎左衛門』シリーズの登場人物には、金ちゃん、ラッピー、もんちゃん、(クラブロイヤルの愛想のいいスタッフさんに似た)れもん星人のような準レギュラーメンバーがいるほか、新兵衛、苦労左衛門、秋野晋作とその一族のような名前付きの者たち、あるいはA、B、T、Yなどのイニシャルで表される人物たちや、れもんちゃんダンサーズ、チクビ左衛門、お寿司ちゃん、Mさんちのお爺ちゃんのような今後再登場の見込みが全くない人々、CやK先輩のように名前を出すだけで終わった人々(彼らが出てくるエピソードは一応書いたが、論外に長くなったので、ボツにした)などがいる。
今後、これらの人物が再登場する場面があっても、今回のような注は付さない。
『シン太郎左衛門』シリーズは、れもんちゃんのクチコミだから、私のかつての交友関係やご近所付き合い等、本来全くどうでもいい話だ。
れもんちゃんが、余りにも素晴らしすぎるので、その素晴らしさに対抗しようと援軍をかき集めたら、このような状況になってしまったものとご理解いただきたい。
シン太郎左衛門と『おとぼけ観光大臣ちゃん』(あるいは『選挙の季節』) 様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門と『おとぼけ観光大臣ちゃん』(あるいは『選挙の季節』) 様
ご来店日 2024年10月20日
れもんちゃんは、いつも優しい。
先の火曜日から3泊4日の日程で、東南アジアの某国に出張に行った。
搭乗手続きを済ませ、関西国際空港の国際線のロビーでゲートが開くのを待っていると、シン太郎左衛門が話し掛けてきた。
「ここは空港ではござらぬか?」
「いかにも関空だ。これから飛行機に乗る」
「なんと。父上は大の飛行機嫌い。国内であれば、沖縄でも電車で行くと言って譲らぬ男」
「そうだ。今回は海外だ。飛行機だ。悲劇だ」
「ついに日本に居れぬようなことを仕出かしましたか」
「違う。ただの出張だ。本来行くべきヤツが、理由は知らんが、最近出社拒否をしてるらしい。代わりに行ってくれと頼まれて、散々ゴネたが、最後は豪華な逆お土産を条件に引き受けた」
「逆お土産とは、何でござるか」
「俺が帰国したら、職場の者それぞれが俺の指定する豪華な和菓子をもって、嫌々異国で過ごした労をねぎらうのだ。俺はしばらくの間、合計50000円を越える和菓子に囲まれて暮らす」
「父上がお土産を買って帰るのが筋ではござらぬか」
「そんなこと誰がするか。馬鹿馬鹿しい」
「ひどい話でござる」
「まったくだよ」
私は、原因は全く分からないが、とにかく飛行機が苦手だ。こんな嫌なものはない。嫌すぎて半ベソをかきながら飛行機に乗り込み、指定の座席に座って、シートベルトを閉めると、一気に変な汗が出てきた。
「大丈夫。たった数時間のことじゃないか。あっという間だよ」
「下らん気休めを言うな!」
「新幹線と同じだよ」
「じゃあ新幹線に乗せてくれ!」
「でも、新幹線じゃ海は越えられないからなぁ」
「お前、今『新幹線と同じ』って言ったじゃないか。ウソつき!」
そんなふうに一人二役の言い争いをしていると、女性のキャビンアテンダントが寄ってきて、「アー・ユー・オーケー?」と声を掛けられた。
「・・・これがオーケーな人間に見えるか?ユーが、れもんちゃんだったら、アイ・アム・オーケーになるが、ユーが、れもんちゃんじゃないから、オーケーじゃない!」と言って追い返した。
しばらくすると、さっきのキャビンアテンダントが戻ってきて、お菓子の詰め合わせをくれた。「俺は子供か!」と怒った。
それから飛行機が某国の空港に到着するまでの長い時間、お菓子の詰め合わせを胸にしっかりと抱き締め、アワアワ言いながら過ごした。
異国の空港、スーツケースを引きずって建物の外に出ると、物凄い湿気と暑さが襲ってきた。
シン太郎左衛門も、「これは堪らぬ暑さでござるな。父上、日本に帰りましょう」
「そんなこと出来る訳がない。続けざまに飛行機に乗せるつもりか!こんなことなら、出張に行ったふりをして家に引きこもっておけばよかった」
空港からタクシーを飛ばして、予約していたホテルに急いだ。高速道路の両側では、夕陽を浴びたヤシの林が南国ムードを醸し出していた。シン太郎左衛門は、バッハの「トッカータとフーガ」の旋律を口笛で吹いていた。
やがてタクシーの窓から見る風景が、行き交う人々の活気を帯びていった。わりと立派なホテルの前で降ろされたから、これなら快適に過ごせそうだと思ったら、私の宿は隣の安ホテルだった。古い上に、建物全体が傾いているように見えた。
チェックインをして、部屋に入ると、更に驚かされた。部屋の中央に、むき出しのコンクリートの柱が屹立していて、とんでもない威圧感で私を迎えた。
「こんなでっかい柱と一緒に過ごすのか・・・相部屋なら相部屋と、最初から教えといてくれりゃいいのに」
とりあえずシャワーを浴びて、バスルームから出てくると、シン太郎左衛門も部屋の中央を占拠する太いコンクリの柱の偉容に声を上げた。
「おおっ!ずいぶん立派な柱でござるなぁ」
「だろ。こんな部屋、嫌だ。こんな無愛想で太い柱に串刺しにされた部屋なんて見たこともない」
「うむ。落ち着かないこと、この上ない。狭いとは言えぬが、窮屈で息苦しい部屋でござる」
「でも・・・もう何でもいいや。エアコンはガンガンに効いてるから、実に涼しい。それだけで十分だ」
私はもう悟りきったような気持ちになっていた。
しばらくボーっと過ごした。テレビに見るものはなく、部屋のどこにいても柱に見下されている感覚になって落ち着かない。眠たくもないし、クサクサした気分になっていると、窓の外で大勢の人が歓声を上げているのが聞こえた。
気になって、遮光カーテンを開けると、掃き出し窓になっていた。窓を開けて外に出ると広いベランダになっていた。
すっかり陽は沈み、南国の香辛料をまぶしたような爽やかな風が鼻腔をくすぐった。
三階のベランダの手摺から身を乗り出すと、学校の野球場ぐらいのグラウンドがホテルの側まで広がっていて、群衆が仮設のステージを取り巻いているのが見えた。その数ざっと千人程。左右から演台にスポットライトが当てられていたが、電力供給が安定しないのか時折照明が暗くなった。演台から離れるほど、闇は深くなるが、乏しい明かりの中でも熱気を帯びた人々の動きは見て取れた。
「なんだろう?すごい数の聴衆だな」
シン太郎左衛門はバスローブの陰からピョンと跳ね上がって、手摺の上に飛び乗った。
「おい、シン太郎左衛門、落ちないように気を付けろよ」
「うむ。父上、実に心地よい風が吹いておりまするな」
「ああ、夜風が気持ちいい」
「それにしても、大変な人の出。一揆でござるか」
「違うだろ。演台にスポットライトが当たってるから、街頭演説の類いだ。この国も選挙が控えてるのかもしれん」
そのとき、異国の言葉で、おそらく開会を告げるアナウンスが流れ、大聴衆の興奮が一気に高まった。広場は轟々たる歓声に包まれた。
小柄な若い女性が、観衆に手を振りながらステージに登ったとき、我々親子は揃って、「れもんちゃんだ!!」と叫んだ。
小柄な女性は、演台のマイクに向かって「観光大臣ちゃんだよ~!」と第一声を発した。群衆から天まで届くような歓声が上がった。
「父上、我々、れもん星に来ておりましたか?」
「そんなはずがない。俺たちは、東南アジアの某国にいる。どことは言えん。そこまで書いてしまうと、出国者名簿にアクセスできる人間に、俺が誰だかバレてしまうからな」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、再び、「観光大臣ちゃんだよ~!」と朗らかに声を上げた。またしても地を揺るがすような歓声が上がった。
「凄い歓声だ」
「うむ。遠くから見ても、れもんちゃんは大変な美人でござるなぁ」
「いや。れもんちゃんが、観光大臣ちゃんであるという確証は得ていない」
「父上、広場に行って、それを確かめましょうぞ」
「無理無理。あんな人混みを掻き分けて、近くまで行ける訳がない。ここから見ている方が無難だ」
聴衆の歓声が鳴り止むと、観光大臣ちゃんは、三たび、「観光大臣ちゃんだよ~」と声を上げたが、今回は何故か少し恥ずかしそうだった。月や星が落ちてきそうな大歓声が上がった。
「・・・全然、話が進まんな」
「うむ・・・」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、またしても、「観光大臣ちゃんだよ~!」と言った後、「応援演説やっちゃうよ~!」
地球が割れるほどの歓声が上がった。
「やっぱり選挙だったな」
「うむ。日本も衆議院選挙、アメリカも大統領選でござる」
「そうだね。そういう選挙は『シン太郎左衛門』シリーズで扱うネタじゃないけどね」
聴衆の歓声が収まると、観光大臣ちゃんは、「・・・原稿を置いてきちゃったよ~!」と言って、ピョコピョコとステージから降りていった。やはり凄まじい歓声が上がった。
しばらくして、観光大臣ちゃんが小走りでステージに戻ってくると、怒涛のような大歓声が迎えた。
観光大臣ちゃんが、気を取り直して、元気一杯「観光大臣ちゃんだよ~!応援演説やっちゃうよ~!」と言ったが、その最中に照明がスーっと薄暗くなってしまった。観光大臣ちゃんが「・・・原稿が読めないよ~!懐中電灯を取ってくるよ~!」と言うと、やはり火山の大噴火を思わす歓声が上がった。
シン太郎左衛門は「へへへ・・・れもんちゃん、可愛い」と、にやけた。
「れもんちゃんとは決まっていない。とりあえず、観光大臣ちゃんだ」
観光大臣ちゃんが懐中電灯を持ってステージに小走りで戻ってくると、当然のことながら、周囲の木々を薙ぎ倒さんばかりの大歓声が迎えた。
ぼんやりと暗い灯りの中で、観光大臣ちゃんが、「観光大臣ちゃんだよ~!応援演説、頑張るよ~!」と言った後、原稿を懐中電灯で照らしながら顔を近付けて読もうとしている。聴衆は、それを固唾を呑んで見守っていた。
すると、観光大臣ちゃんは、顔を上げて、「よく見たら、原稿じゃなくて、ティッシュだよ~!」
その言葉に大観衆の興奮は最高潮に達し、耳をつんざくばかりの大歓声が起こったかと思うと、いきなり強烈な突風が広場を襲い、千人を越える聴衆は次々と白い紙を切り抜いた形代に姿を変え、蝶々の大群のように夜空に渦を巻いて舞い上がっていった。そして、そのとき、どこからともなく、「れもん!れもん!」という「れもんちゃんコール」が聞こえてきたが、白い蝶々の群れが夜空の闇に消えていくと、辺りはキーンと研ぎ澄まされた静寂に包まれてしまった。広場は疎らな街灯を残し、完全に闇に沈んでいた。
我々は、訳も分からず拍手をしていた。
呆気にとられていたシン太郎左衛門が、「今のは一体・・・」
「・・・よく分からん」
「我々、夢を見ていたのでござるか」
「違う。夢ではない。きっと、飛行機に始まり嫌な出来事の波状攻撃を受けて、俺が打ちのめされているのを察知したれもんちゃんが、マジカルパワーで励ましてくれたに違いない」
「そんなことがありまするか」
「知らんが、そうとしか思えん。見ていて楽しかったし、元気になった」
「それでは、今のは『劇団れもんちゃん』の出し物、『おとぼけ観光大臣ちゃん』でござるな」
「うん。そういうことになる」
涼しい夜風が、果物のような甘い匂いを運んできて、一瞬恍惚としてしまった。
「・・・実によい夜でござるな。南国の夜も悪くない」
「うん。案外、異国も悪くない」
「そう気付かせてくれたのは、れもんちゃんでござるな」
「うん。れもんちゃんは本当に素晴らしいよ」
見上げると満天の星だった。
肌寒い風に誘われて、突然くしゃみをしてしまった。それは、広場の遥か向こうまで響き渡るような、でっかいくしゃみだった。
翌朝、ホテルのフロントで、この国は選挙が近いのか訊いてみたが、私の質問は清々しいほど見事に無視された。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。衆議院選挙の投票日。
れもんちゃんに逢いに行った。
れもんちゃんは、当然、宇宙一に宇宙一だった。感動の嵐が吹き荒れた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、「ああ、この前の出張のときは、応援してくれてありがとう」と言うと、れもんちゃんは、「ん?」と一瞬首を傾げたが、「うん。いつも応援してるよ~」と笑顔で答えてくれた。
れもんちゃんは、実に素晴らしい女の子である。
注)観光大臣ちゃん・・・れもんちゃんの出身地であるれもん星(これは当人が言っていることだから疑うべからず)の観光大臣。インバウンド政策に力を入れているが、バカ売れを期待して大量生産した「空気の缶詰め」の売れ行きが伸び悩み、在庫の富士山を抱えている。しかし、全然へこたれていない。私はモニター画面の粗い映像で見たことがあるだけだが、話し方、声などを考慮すると、その正体は、れもんちゃん当人である可能性が高い。
この他にも、『シン太郎左衛門』シリーズの登場人物には、金ちゃん、ラッピー、もんちゃん、(クラブロイヤルの愛想のいいスタッフさんに似た)れもん星人のような準レギュラーメンバーがいるほか、新兵衛、苦労左衛門、秋野晋作とその一族のような名前付きの者たち、あるいはA、B、T、Yなどのイニシャルで表される人物たちや、れもんちゃんダンサーズ、チクビ左衛門、お寿司ちゃん、Mさんちのお爺ちゃんのような今後再登場の見込みが全くない人々、CやK先輩のように名前を出すだけで終わった人々(彼らが出てくるエピソードは一応書いたが、論外に長くなったので、ボツにした)などがいる。
今後、これらの人物が再登場する場面があっても、今回のような注は付さない。
『シン太郎左衛門』シリーズは、れもんちゃんのクチコミだから、私のかつての交友関係やご近所付き合い等、本来全くどうでもいい話だ。
れもんちゃんが、余りにも素晴らしすぎるので、その素晴らしさに対抗しようと援軍をかき集めたら、このような状況になってしまったものとご理解いただきたい。
シン太郎左衛門と『おとぼけ観光大臣ちゃん』(あるいは『選挙の季節』) 様ありがとうございました。