口コミ│神戸・福原 ソープランド Club Royal (クラブロイヤル)
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れもん【VIP】(23)
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投稿者:シン太郎左衛門とれもん星の思い出 様
ご来店日 2024年11月10日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。今回は、まったりと長い話なので、前置きは抜きにする。
昨日は土曜日。無理矢理、出勤させられて、延々と続く無意味な会議が退屈すぎて眠ってしまい、気が付いたら、夕方、電気の消えた会議室のテーブルに一人うつ伏して寝ていた。みんな、すでに退勤していた。すぐに家に帰ったが、深夜を過ぎても眠気が起きない。
「いかん。明日は、れもんちゃんデーだから、十分に睡眠をとりたいのに、昼から夕方まで寝てしまったから、ちっとも眠くならない」
シン太郎左衛門は物知り顔で、「とりあえず布団に入って、羊を数えなされ」
「その手は、俺には通じない。100までは機嫌よく数えているが、そのうち頭が混乱してきて、却って目が冴える」
「うむ。それでは、一緒にれもん星に行きましょう」
「魔法の力で、夢の中でれもん星に行くやつね。あれは気絶したみたいに眠れるが、ほとんど疲れが取れないんだよなぁ」
「では、拙者一人で、れもん星に参りまする」
「待て待て。やっぱり俺も行く」
「では、参りましょう」
「ちょっと待て。せっかくだから、守護霊さんもお誘いしよう。守護霊さんが一緒だと、クソくだらない場所には行かなくて済みそうな気がする」
「うむ。それは、よい考え」
「問題は、守護霊さんと会話ができないことだ」
「コックリさんと同じ要領で話せばよかろう」
「あっ、そうか」
新聞の折込広告の裏面にフェルトペンで、はい・いいえ、そして、「あ」から「ん」の文字を書き、もちろん守護霊さんは平安時代の御方だから「ゐゑ」も書き足した。紙の上に十円玉を1枚載せて、
「守護霊さん、これでどうですか?」
と尋ねると、十円玉が紙の上を微かな音を立てて滑っていった。
「し・・か・・へ・・た・・す・・き」
十円玉が止まった。
シン太郎左衛門と顔を見合わせ、
「『しかへたすき』ってなんだ?」
「『字が下手すぎ』ではござるまいか」
「ああ、そうか・・・まあいい。守護霊さんも、れもん星に行きます?」
十円玉が動いて「はい」の上に止まった。
「それじゃ、これから電気を消します・・・あっ、消しちゃマズイか、常夜灯にしますから、『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん』と十回唱えてくださいね」
十円玉が紙の上を動いた。
「り・・よ・・う・・か・・い」
シン太郎左衛門と顔を見合わせ、
「『了解』らしい」
部屋の灯りを暗くして布団に入ると、親子揃って、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と10回唱えた。その間、枕元で紙の上を十円玉が動く音がシャカシャカと聞こえていた。
3人揃って眠りに落ちた・・・と思う。
そして、我々が着いたのは・・・
「ここは、どこだ?」
「おおっ、随分とオシャレな街並みでござるな」
よく晴れた青い空。春めいた風が吹いていた。手入れの行き届いた街路樹、幅の広い歩道には色とりどりの、しかし落ち着いた高級感のある舗装タイルが敷かれていて、あちこちに木製の可愛いベンチが置かれていた。時刻は、お昼前ぐらいだろうか。人影は疎らで、車道を走る車も少なかったが、通るのは決まって高級車だった。
「オシャレすぎる。はっきり言って、俺たちは場違いだ。オチンを連れて歩く場所じゃない」
「うむ」
「『うむ』じゃない!反省しろ!」
「反省いたしまする。で、これから、いかがなされますか」
「そうだなぁ・・・こんなところで、何をするって訊かれても・・・」と周囲を見渡していると、シン太郎左衛門が「おっ!!」と叫んだ。
「父上、あれを!」とシン太郎左衛門が指差す先には、「大王カフェ」の看板があった。
「これは凄い!きっと、れもん大王の経営するカフェだ。れもんちゃんのパパとママのお店に間違いない」
「実にオシャレなカフェでござるなぁ」
「うん。これも守護霊さんのお導きだ」
「でもお高いんでしょ?」
「大丈夫だ。夢の中の話だから、いくら使ったって実際の財布の中身に影響ない」
「それはまた有り難い。早速入りましょう」
お店は開店前なのだろうか、店の人が入り口の側の小さな黒板の「本日のランチ」とある下に、チョークで「大王イカ」と書いている最中だった。
「すみません」
「はい」と答えて、振り返ったのは、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれる感じのいいスタッフさんにそっくりのれもん星人だった。
思わず、「またお前か!」と言いそうになって、言葉を飲み込み、代わりに「準備中?」と訊いた。
「あ、大丈夫ですよ。ご案内しますね」
と店内に導いてくれた。
「お一人様ですか?カウンター席にどうぞ」と言われたので、
「いいや、3人だ」と答えると、
「それでは、こちらのテーブルへどうぞ」と、綺麗な街並みが見渡せる窓際の席に案内してくれた。
我々が席に着くと、スタッフさんは、
「あいにく海の見えるお席は全てご予約が入ってまして。ご注文は、皆様お揃いになってからで、よろしいですね」と言うので、「いや、もう全員揃ってる」と答えると、スタッフさんはキョロキョロしている。椅子に座ったシン太郎左衛門はテーブルで死角になって見えないし、守護霊さんは居るのか居ないのか私にもよく分からなかった。スタッフさんの困惑は当然だった。
「小さくて見えないだろうが、俺の隣に江戸時代の武士がいて、そっちの席には平安時代の宮廷歌人が座ってる・・・はずだ」
「はあ・・・ところで、お客様自身は、何時代ですか?」
「俺?俺は昭和」
「では、ただ今、メニューをお持ちしますね」とスタッフさんは奥に戻り、お冷とメニューを持って戻って来て、丁寧に3人の前に置いた。
メニューには、それぞれ「平安時代」「江戸時代」「昭和時代」と書いたシールが貼られていた。全く同じメニューに見えたが、なぜか嬉しい心配りだった。
「今日のランチは、『大王イカ』って書いてあったけど、例のヤツ?」
「『例のヤツ』とは?」
「あの、大きいヤツだと20メートル近くになる巨大なイカでしょ?」
「違います。ご覧になったのは、書きかけで、今日のランチは『大王イカ墨リゾット』です」
「大王イカのイカ墨、使ってるの?」
「違います。とっても美味しい、普通のイカ墨リゾットです」
「ふ〜ん」とメニューに目を落とすと、品名は、大王コーヒー、大王ティー、大王クラフトビール・・・大王カレー、大王クラブサンドイッチ、大王ナポリタン・・・漏れなく「大王」を戴いていた。
「そういうことか・・・」
椅子にちょこんと収まっているシン太郎左衛門に「『大王カフェ』だから、すべてのメニューに『大王』が付くのだ」と教えてやると、「当然でござる」
「なにが『当然でござる』だ。知ったようなこと言いやがって。そこじゃメニューが見えないだろ。テーブルの上に上がってこい」
シン太郎左衛門は、ぴょこんとテーブルの上に跳び乗り、「おお、全てのメニューに『大王』が付いておる。流石は『大王カフェ』でござる」と喜んでいる。
「守護霊さんは何にします?」と訊くと、私の斜め前の席に置かれていた「平安時代」のメニューが正面の席まで、すーっと移動したので、その上に十円玉を置いてあげた。
十円玉の動くとおりに、「・・・大王パフェと・・・大王クリームソーダ・・・それに、大王ワッフルと・・・」と、読み上げた。
「シン太郎左衛門、お前は?」
「口がないと食べれない。拙者には口がない。よって拙者は食べれない」
「三段論法だな。いいから何か頼め」
「父上が選んでくだされ」
私はスタッフさんを見上げて、
「それじゃ、大王カレーと大王アイスコーヒー。それと、大王イカ墨リゾットと大王コーヒーのホットで」
注文を復唱すると、スタッフさんはメニューを引いて、奥に戻っていった。
「大王カフェ」という厳しいネーミングとは裏腹に、内装もとってもオシャレで可愛かった。そのうち次々とお客が来て、あっと言う間に、お店は一杯になってしまった。
しばらくして、スタッフさんは料理を運んできて、3人の前に並べ終えると、
「星外からのお客様ですよね?」と尋ねてきた。
「そうだよ。我々は地球からやってきた。ワ・レ・ワ・レ・ハ、チ・キ・ュ・ウ・ジン・ダ」
「当店、星外からのお客様の記念写真をお撮りして、店内に飾らせていただいておりまして、よろしかったら」と言うので、
「じゃあ、お願いしようかな」
シン太郎左衛門は、私の腕をよじ登って、ジャケットの肩に腰を下ろした。
「スタッフさん、あちらの席の御方も忘れないでね。守護霊さん、もっと寄ってください」
3人は料理を挟んで記念写真を撮ってもらった。
スタッフさんは、「記念写真には、お名前を添えさせていただきますね。何としましょうか?」
シン太郎左衛門がしゃしゃり出てきて、
「『シン太郎左衛門ズ フィーチャリング 守護霊さん』でお願いいたしまする」
「はい。かしこまりました。では、どうぞゆっくりとお召し上がりください」と、スタッフさんは去っていった。
「今日のスタッフさんは、いつもと様子が違うな」
「うむ。いつも良い感じで接してくれるが、今日は一際シャキッとしてござる」
シン太郎左衛門は、自席の背凭れに飛び移り、BGMのバッハに聴き惚れている。
「流石は、れもんちゃんのご両親のお店だな。何もかもが行き届いてる。料理も大変に美味しそうだ」
「うむ。何にせよ拙者には口がない」
「じゃあ、匂いだけでも楽しめ」
「拙者には鼻もない」
「お前、文句ばっかだな。じゃあ、黙って見とけ」
「ホントを言えば、目さえない」
「・・・まあいいや。守護霊さん、いただきましょう」
そう言った途端、突然耐え難いほどの尿意に襲われた。
「急にトイレに行きたくなった」
「うむ」
「『うむ』じゃない。お前も来なきゃ話にならん」
シン太郎左衛門を掴んで、ポケットにねじ込むと、
「守護霊さん、どうぞ先に召し上がっておいてください」
慌ててトイレに駆け込み、用を済ませ、スッキリとして店内を歩いていると、壁に掲げられた「星外からのお客様」のプレートの下に沢山の写真がキャプション付きで貼られていた。チラッと見ると、誰でも知ってる有名人がたくさん含まれていたが、具体的な名前を出すのは憚られる。
「凄いなぁ。この前、ワールドシリーズで優勝したチームのメンバーたちも来てたのかぁ」
そうこうしているうちに、貼られたばかりの我々の写真を見付けた。私の向かいにはボンヤリとした影が映り込んでいて、両手でピースサインをする髪の長い女性の輪郭がハッキリと見て取れたが、向こう景色が透けていた。
「なんか怖いなぁ」
シン太郎左衛門はマジックで塗りつぶされていて、不気味さに花を添えていた。
「どう見ても心霊写真だ・・・実際、心霊写真だしな」
テーブルに戻って驚いた。守護霊さんは、自分のパフェとワッフルとクリームソーダをスッカリ胃に収め、私のイカ墨リゾットやシン太郎左衛門のカレーにまで手を付けて、半分以上食べてしまっていた。
まさか、れもんちゃんの元に導いてくれた大恩人に「お前なぁ、勝手に人のモノを食うんじないよ!」とも言えず、何と言っていいものか思いつかなかったから、肩の上のシン太郎左衛門に「れもん大王に挨拶するのを忘れてた」と店の奥に向かって踵を返した。
スタッフさんに、れもん大王にご挨拶したいと伝えると、
「れもん大王さん、今日は本店ですね」
「本店って遠いの?」
スタッフさんは、私が面白いことを言ったかのように「本店があるのは、れもんシティ。北半球です」と笑った。
「そうなのか。時々こっちのお店にも来るの?」
「れもん姫が帰省したときには、必ず一緒に宇宙空母で来られますよ。ここ七号店は、れもん姫の一番のお気に入りですから」
「そうなんだ。それは感激だ」
ここは、れもんちゃんのお気に入りの店だったのだ。
席に戻ると、予想どおりイカ墨リゾットもカレーもなくなっていただけでなく、コーヒーまで全部飲まれていた。守護霊さんのいる辺りから、「げぷっ」という音が聞こえてきた気がしたが、聞き違えだろう。
「守護霊さん、少し散歩しましょう」
お勘定は渋沢栄一と津田梅子の各1枚でしっかりお釣りが来るところだったが、実際の財布の中身には影響しないので、財布に居るだけ渋沢栄一を渡した。
3人を見送りながら、スタッフさんはニコニコして「前の道を左に100メートルほど行くと、とても眺めがいいですよ」と教えてくれた。
とても気持ちのよい天気だった。言われたとおりに歩いていくと分かった。大王カフェ七号店は、海を見晴らす高台にあった。やがて、視界一杯に壮大な海が広がった。マリンブルーというよりも、コバルトブルーの静かな海だった。
「れもん星は素敵な星だ」
「れもんちゃんの故郷でござる」
「こんな素敵な星でもなければ、れもんちゃんみたいな素敵な女の子は、生まれないし、育たないのだ」
「うむ。相違ござらぬ」
しばらく黙って海を見ていると、肩の上のシン太郎左衛門が口笛を吹き出した。
「・・・『海を見ていた午後』。ユーミンだ・・・」
「山本潤子の方でござる」
「俺もそうだと思ったよ。『ソーダ水の中を貨物船が通る』の一節は日本のポップスの中で最も美しい歌詞の一つだ」
「うむ。それにしても素晴らしい眺めでござるな」
「このノンビリとしてホワーっとした感じ、これはまさに、れもんちゃんだ」
「うむ。今回はとてもよい旅でござっ・・・あっ、モモンガが飛んでる!れもん星では、海にカモメでなく、たくさんモモンガが飛んでおる!」
それからシン太郎左衛門は、「モモンガ、モモンガ」と、はしゃぎながら、モモンガたちを目で追っていた。
シン太郎左衛門の陽気な姿を見ながら、私の気持ちは少しばかり重くなっていた。
「シン太郎左衛門、今回、なんで守護霊さんが、俺たちを大王カフェに連れてきたか分かったんだ」
「ほほう。今日のランチがイカ墨リゾットだったから?」
「確かにそれもあるかもしれん。ただ、別の理由がある。俺はさっき『シン太郎左衛門』シリーズのラスボスが誰だか分かってしまったのだ」
「なんと!まさか岩熊馬之助でござるか」
「誰だよ、それ?」
「うむ、岩熊馬之助とは・・・」
「いいよ、説明しなくたって。そろそろ目覚ましが鳴りそうな予感がする・・・この話の続きは、また今度だ」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・目覚まし、鳴らないね」
「ジリリリリ!!」
「お前が鳴ってどうする!」
3人は目を覚ました。
夜は明けていたが、目覚ましが鳴るまでには、まだ1時間以上もあった。しかし、とても爽快な目覚めだった。
「守護霊さん、れもん星は、どうでしたか?」と尋ねると、昨夜作った簡易版ウィジャ・ボード(コックリさんの文字盤のこと)の上で十円玉が動き出した。
「た・・の・・し・・か・・つ・・た」
「ですね。沢山食べましたね」
「お・・な・・か・・い・・つ・・は・・い」
「でしょうね。美味しかったですか?」
「せ・・ん・・ふ・・お・・い・・し・・か・・つ・・た」
「よかったですね」
「い・・か・・す・・み・・り・・そ・・つ・・と・・と」
「『イカ墨リゾットと』」
「ほ・・つ・・と・・の・・た・・い・・お・・う・・こ・・お・・ひ・・い」
「『ホットの大王コーヒー』」
「さ・・い・・こ・・う」
「どっちも俺のじゃないか!」
「け・・ふ・・つ」
「ゲップをするな!」
シン太郎左衛門は物知り顔で、「父上、今回、守護霊さんは、初めて例の呪文を使われたゆえ、本当にお腹が一杯なのでござろうな」
「・・・どういう意味?・・・あっ!!しまった〜!!そうか、本来、あの魔法は、初めて使ったときに限り、れもん星のモノを持って帰れるものだったんだ!!忘れてた!!れもんちゃんグッズを探す余裕はなかったが、『大王カフェ』のロゴ入りコーヒーカップを譲ってもらえばよかった・・・」
悔やんでも悔やみきれない失策だったが、それに追い討ちをかけるような嫌な予感に襲われた。
「待てよ!まさか!!」
飛び起きて、階段を駆け上がった。書斎の机の上に置かれた財布を掴んで、中身を見た。れもんちゃんデーに備えて銀行からおろした渋沢栄一たちは全員行方をくらましていた。
「とんでもないことをしてしまった・・・」
その場でガックリと膝を折った。
今回、守護霊さんが初回だったから、我々はモノを持って帰ることも、置いていくことも出来たのだった。
そして、失意のうちにJR新快速に乗ったが、神戸駅に到着する頃には、すでに全身に元気がみなぎっていた。
れもんちゃんに会えるなら、他のことはどうでもいい。万事快調だった。
ATMでお金をおろした。
そして、れもんちゃんに会った。れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だったし、れもん星の青い海のように爽やかだった。れもん星の南半球の春風のように芳しかった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「あっ、そうだ。れもん星の『大王カフェ』に行ったよ。とってもオシャレなお店だったよ」
「パパのお店は、リゾットとコーヒーが特別美味しいよ〜」
「そうだよね。絶対美味しいと思うよ。食べれなかったけど・・・」
「それはもったいないよ〜。また食べに行ってね」
「うん。分かった」
れもんちゃんの笑顔は、太陽のように暖かく、そして眩しかった。
行きたいのは山々だったが、再びあのお店に行けるという保証は、どこにもなかった。
おそらく二度と行けないと思う。
シン太郎左衛門とれもん星の思い出 様ありがとうございました。
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投稿者:シン太郎左衛門とれもん星の思い出 様
ご来店日 2024年11月10日
昨日は土曜日。無理矢理、出勤させられて、延々と続く無意味な会議が退屈すぎて眠ってしまい、気が付いたら、夕方、電気の消えた会議室のテーブルに一人うつ伏して寝ていた。みんな、すでに退勤していた。すぐに家に帰ったが、深夜を過ぎても眠気が起きない。
「いかん。明日は、れもんちゃんデーだから、十分に睡眠をとりたいのに、昼から夕方まで寝てしまったから、ちっとも眠くならない」
シン太郎左衛門は物知り顔で、「とりあえず布団に入って、羊を数えなされ」
「その手は、俺には通じない。100までは機嫌よく数えているが、そのうち頭が混乱してきて、却って目が冴える」
「うむ。それでは、一緒にれもん星に行きましょう」
「魔法の力で、夢の中でれもん星に行くやつね。あれは気絶したみたいに眠れるが、ほとんど疲れが取れないんだよなぁ」
「では、拙者一人で、れもん星に参りまする」
「待て待て。やっぱり俺も行く」
「では、参りましょう」
「ちょっと待て。せっかくだから、守護霊さんもお誘いしよう。守護霊さんが一緒だと、クソくだらない場所には行かなくて済みそうな気がする」
「うむ。それは、よい考え」
「問題は、守護霊さんと会話ができないことだ」
「コックリさんと同じ要領で話せばよかろう」
「あっ、そうか」
新聞の折込広告の裏面にフェルトペンで、はい・いいえ、そして、「あ」から「ん」の文字を書き、もちろん守護霊さんは平安時代の御方だから「ゐゑ」も書き足した。紙の上に十円玉を1枚載せて、
「守護霊さん、これでどうですか?」
と尋ねると、十円玉が紙の上を微かな音を立てて滑っていった。
「し・・か・・へ・・た・・す・・き」
十円玉が止まった。
シン太郎左衛門と顔を見合わせ、
「『しかへたすき』ってなんだ?」
「『字が下手すぎ』ではござるまいか」
「ああ、そうか・・・まあいい。守護霊さんも、れもん星に行きます?」
十円玉が動いて「はい」の上に止まった。
「それじゃ、これから電気を消します・・・あっ、消しちゃマズイか、常夜灯にしますから、『キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん』と十回唱えてくださいね」
十円玉が紙の上を動いた。
「り・・よ・・う・・か・・い」
シン太郎左衛門と顔を見合わせ、
「『了解』らしい」
部屋の灯りを暗くして布団に入ると、親子揃って、「キリンれもん、キリンれもん、キリンれもんちゃん」と10回唱えた。その間、枕元で紙の上を十円玉が動く音がシャカシャカと聞こえていた。
3人揃って眠りに落ちた・・・と思う。
そして、我々が着いたのは・・・
「ここは、どこだ?」
「おおっ、随分とオシャレな街並みでござるな」
よく晴れた青い空。春めいた風が吹いていた。手入れの行き届いた街路樹、幅の広い歩道には色とりどりの、しかし落ち着いた高級感のある舗装タイルが敷かれていて、あちこちに木製の可愛いベンチが置かれていた。時刻は、お昼前ぐらいだろうか。人影は疎らで、車道を走る車も少なかったが、通るのは決まって高級車だった。
「オシャレすぎる。はっきり言って、俺たちは場違いだ。オチンを連れて歩く場所じゃない」
「うむ」
「『うむ』じゃない!反省しろ!」
「反省いたしまする。で、これから、いかがなされますか」
「そうだなぁ・・・こんなところで、何をするって訊かれても・・・」と周囲を見渡していると、シン太郎左衛門が「おっ!!」と叫んだ。
「父上、あれを!」とシン太郎左衛門が指差す先には、「大王カフェ」の看板があった。
「これは凄い!きっと、れもん大王の経営するカフェだ。れもんちゃんのパパとママのお店に間違いない」
「実にオシャレなカフェでござるなぁ」
「うん。これも守護霊さんのお導きだ」
「でもお高いんでしょ?」
「大丈夫だ。夢の中の話だから、いくら使ったって実際の財布の中身に影響ない」
「それはまた有り難い。早速入りましょう」
お店は開店前なのだろうか、店の人が入り口の側の小さな黒板の「本日のランチ」とある下に、チョークで「大王イカ」と書いている最中だった。
「すみません」
「はい」と答えて、振り返ったのは、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく迎えてくれる感じのいいスタッフさんにそっくりのれもん星人だった。
思わず、「またお前か!」と言いそうになって、言葉を飲み込み、代わりに「準備中?」と訊いた。
「あ、大丈夫ですよ。ご案内しますね」
と店内に導いてくれた。
「お一人様ですか?カウンター席にどうぞ」と言われたので、
「いいや、3人だ」と答えると、
「それでは、こちらのテーブルへどうぞ」と、綺麗な街並みが見渡せる窓際の席に案内してくれた。
我々が席に着くと、スタッフさんは、
「あいにく海の見えるお席は全てご予約が入ってまして。ご注文は、皆様お揃いになってからで、よろしいですね」と言うので、「いや、もう全員揃ってる」と答えると、スタッフさんはキョロキョロしている。椅子に座ったシン太郎左衛門はテーブルで死角になって見えないし、守護霊さんは居るのか居ないのか私にもよく分からなかった。スタッフさんの困惑は当然だった。
「小さくて見えないだろうが、俺の隣に江戸時代の武士がいて、そっちの席には平安時代の宮廷歌人が座ってる・・・はずだ」
「はあ・・・ところで、お客様自身は、何時代ですか?」
「俺?俺は昭和」
「では、ただ今、メニューをお持ちしますね」とスタッフさんは奥に戻り、お冷とメニューを持って戻って来て、丁寧に3人の前に置いた。
メニューには、それぞれ「平安時代」「江戸時代」「昭和時代」と書いたシールが貼られていた。全く同じメニューに見えたが、なぜか嬉しい心配りだった。
「今日のランチは、『大王イカ』って書いてあったけど、例のヤツ?」
「『例のヤツ』とは?」
「あの、大きいヤツだと20メートル近くになる巨大なイカでしょ?」
「違います。ご覧になったのは、書きかけで、今日のランチは『大王イカ墨リゾット』です」
「大王イカのイカ墨、使ってるの?」
「違います。とっても美味しい、普通のイカ墨リゾットです」
「ふ〜ん」とメニューに目を落とすと、品名は、大王コーヒー、大王ティー、大王クラフトビール・・・大王カレー、大王クラブサンドイッチ、大王ナポリタン・・・漏れなく「大王」を戴いていた。
「そういうことか・・・」
椅子にちょこんと収まっているシン太郎左衛門に「『大王カフェ』だから、すべてのメニューに『大王』が付くのだ」と教えてやると、「当然でござる」
「なにが『当然でござる』だ。知ったようなこと言いやがって。そこじゃメニューが見えないだろ。テーブルの上に上がってこい」
シン太郎左衛門は、ぴょこんとテーブルの上に跳び乗り、「おお、全てのメニューに『大王』が付いておる。流石は『大王カフェ』でござる」と喜んでいる。
「守護霊さんは何にします?」と訊くと、私の斜め前の席に置かれていた「平安時代」のメニューが正面の席まで、すーっと移動したので、その上に十円玉を置いてあげた。
十円玉の動くとおりに、「・・・大王パフェと・・・大王クリームソーダ・・・それに、大王ワッフルと・・・」と、読み上げた。
「シン太郎左衛門、お前は?」
「口がないと食べれない。拙者には口がない。よって拙者は食べれない」
「三段論法だな。いいから何か頼め」
「父上が選んでくだされ」
私はスタッフさんを見上げて、
「それじゃ、大王カレーと大王アイスコーヒー。それと、大王イカ墨リゾットと大王コーヒーのホットで」
注文を復唱すると、スタッフさんはメニューを引いて、奥に戻っていった。
「大王カフェ」という厳しいネーミングとは裏腹に、内装もとってもオシャレで可愛かった。そのうち次々とお客が来て、あっと言う間に、お店は一杯になってしまった。
しばらくして、スタッフさんは料理を運んできて、3人の前に並べ終えると、
「星外からのお客様ですよね?」と尋ねてきた。
「そうだよ。我々は地球からやってきた。ワ・レ・ワ・レ・ハ、チ・キ・ュ・ウ・ジン・ダ」
「当店、星外からのお客様の記念写真をお撮りして、店内に飾らせていただいておりまして、よろしかったら」と言うので、
「じゃあ、お願いしようかな」
シン太郎左衛門は、私の腕をよじ登って、ジャケットの肩に腰を下ろした。
「スタッフさん、あちらの席の御方も忘れないでね。守護霊さん、もっと寄ってください」
3人は料理を挟んで記念写真を撮ってもらった。
スタッフさんは、「記念写真には、お名前を添えさせていただきますね。何としましょうか?」
シン太郎左衛門がしゃしゃり出てきて、
「『シン太郎左衛門ズ フィーチャリング 守護霊さん』でお願いいたしまする」
「はい。かしこまりました。では、どうぞゆっくりとお召し上がりください」と、スタッフさんは去っていった。
「今日のスタッフさんは、いつもと様子が違うな」
「うむ。いつも良い感じで接してくれるが、今日は一際シャキッとしてござる」
シン太郎左衛門は、自席の背凭れに飛び移り、BGMのバッハに聴き惚れている。
「流石は、れもんちゃんのご両親のお店だな。何もかもが行き届いてる。料理も大変に美味しそうだ」
「うむ。何にせよ拙者には口がない」
「じゃあ、匂いだけでも楽しめ」
「拙者には鼻もない」
「お前、文句ばっかだな。じゃあ、黙って見とけ」
「ホントを言えば、目さえない」
「・・・まあいいや。守護霊さん、いただきましょう」
そう言った途端、突然耐え難いほどの尿意に襲われた。
「急にトイレに行きたくなった」
「うむ」
「『うむ』じゃない。お前も来なきゃ話にならん」
シン太郎左衛門を掴んで、ポケットにねじ込むと、
「守護霊さん、どうぞ先に召し上がっておいてください」
慌ててトイレに駆け込み、用を済ませ、スッキリとして店内を歩いていると、壁に掲げられた「星外からのお客様」のプレートの下に沢山の写真がキャプション付きで貼られていた。チラッと見ると、誰でも知ってる有名人がたくさん含まれていたが、具体的な名前を出すのは憚られる。
「凄いなぁ。この前、ワールドシリーズで優勝したチームのメンバーたちも来てたのかぁ」
そうこうしているうちに、貼られたばかりの我々の写真を見付けた。私の向かいにはボンヤリとした影が映り込んでいて、両手でピースサインをする髪の長い女性の輪郭がハッキリと見て取れたが、向こう景色が透けていた。
「なんか怖いなぁ」
シン太郎左衛門はマジックで塗りつぶされていて、不気味さに花を添えていた。
「どう見ても心霊写真だ・・・実際、心霊写真だしな」
テーブルに戻って驚いた。守護霊さんは、自分のパフェとワッフルとクリームソーダをスッカリ胃に収め、私のイカ墨リゾットやシン太郎左衛門のカレーにまで手を付けて、半分以上食べてしまっていた。
まさか、れもんちゃんの元に導いてくれた大恩人に「お前なぁ、勝手に人のモノを食うんじないよ!」とも言えず、何と言っていいものか思いつかなかったから、肩の上のシン太郎左衛門に「れもん大王に挨拶するのを忘れてた」と店の奥に向かって踵を返した。
スタッフさんに、れもん大王にご挨拶したいと伝えると、
「れもん大王さん、今日は本店ですね」
「本店って遠いの?」
スタッフさんは、私が面白いことを言ったかのように「本店があるのは、れもんシティ。北半球です」と笑った。
「そうなのか。時々こっちのお店にも来るの?」
「れもん姫が帰省したときには、必ず一緒に宇宙空母で来られますよ。ここ七号店は、れもん姫の一番のお気に入りですから」
「そうなんだ。それは感激だ」
ここは、れもんちゃんのお気に入りの店だったのだ。
席に戻ると、予想どおりイカ墨リゾットもカレーもなくなっていただけでなく、コーヒーまで全部飲まれていた。守護霊さんのいる辺りから、「げぷっ」という音が聞こえてきた気がしたが、聞き違えだろう。
「守護霊さん、少し散歩しましょう」
お勘定は渋沢栄一と津田梅子の各1枚でしっかりお釣りが来るところだったが、実際の財布の中身には影響しないので、財布に居るだけ渋沢栄一を渡した。
3人を見送りながら、スタッフさんはニコニコして「前の道を左に100メートルほど行くと、とても眺めがいいですよ」と教えてくれた。
とても気持ちのよい天気だった。言われたとおりに歩いていくと分かった。大王カフェ七号店は、海を見晴らす高台にあった。やがて、視界一杯に壮大な海が広がった。マリンブルーというよりも、コバルトブルーの静かな海だった。
「れもん星は素敵な星だ」
「れもんちゃんの故郷でござる」
「こんな素敵な星でもなければ、れもんちゃんみたいな素敵な女の子は、生まれないし、育たないのだ」
「うむ。相違ござらぬ」
しばらく黙って海を見ていると、肩の上のシン太郎左衛門が口笛を吹き出した。
「・・・『海を見ていた午後』。ユーミンだ・・・」
「山本潤子の方でござる」
「俺もそうだと思ったよ。『ソーダ水の中を貨物船が通る』の一節は日本のポップスの中で最も美しい歌詞の一つだ」
「うむ。それにしても素晴らしい眺めでござるな」
「このノンビリとしてホワーっとした感じ、これはまさに、れもんちゃんだ」
「うむ。今回はとてもよい旅でござっ・・・あっ、モモンガが飛んでる!れもん星では、海にカモメでなく、たくさんモモンガが飛んでおる!」
それからシン太郎左衛門は、「モモンガ、モモンガ」と、はしゃぎながら、モモンガたちを目で追っていた。
シン太郎左衛門の陽気な姿を見ながら、私の気持ちは少しばかり重くなっていた。
「シン太郎左衛門、今回、なんで守護霊さんが、俺たちを大王カフェに連れてきたか分かったんだ」
「ほほう。今日のランチがイカ墨リゾットだったから?」
「確かにそれもあるかもしれん。ただ、別の理由がある。俺はさっき『シン太郎左衛門』シリーズのラスボスが誰だか分かってしまったのだ」
「なんと!まさか岩熊馬之助でござるか」
「誰だよ、それ?」
「うむ、岩熊馬之助とは・・・」
「いいよ、説明しなくたって。そろそろ目覚ましが鳴りそうな予感がする・・・この話の続きは、また今度だ」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・目覚まし、鳴らないね」
「ジリリリリ!!」
「お前が鳴ってどうする!」
3人は目を覚ました。
夜は明けていたが、目覚ましが鳴るまでには、まだ1時間以上もあった。しかし、とても爽快な目覚めだった。
「守護霊さん、れもん星は、どうでしたか?」と尋ねると、昨夜作った簡易版ウィジャ・ボード(コックリさんの文字盤のこと)の上で十円玉が動き出した。
「た・・の・・し・・か・・つ・・た」
「ですね。沢山食べましたね」
「お・・な・・か・・い・・つ・・は・・い」
「でしょうね。美味しかったですか?」
「せ・・ん・・ふ・・お・・い・・し・・か・・つ・・た」
「よかったですね」
「い・・か・・す・・み・・り・・そ・・つ・・と・・と」
「『イカ墨リゾットと』」
「ほ・・つ・・と・・の・・た・・い・・お・・う・・こ・・お・・ひ・・い」
「『ホットの大王コーヒー』」
「さ・・い・・こ・・う」
「どっちも俺のじゃないか!」
「け・・ふ・・つ」
「ゲップをするな!」
シン太郎左衛門は物知り顔で、「父上、今回、守護霊さんは、初めて例の呪文を使われたゆえ、本当にお腹が一杯なのでござろうな」
「・・・どういう意味?・・・あっ!!しまった〜!!そうか、本来、あの魔法は、初めて使ったときに限り、れもん星のモノを持って帰れるものだったんだ!!忘れてた!!れもんちゃんグッズを探す余裕はなかったが、『大王カフェ』のロゴ入りコーヒーカップを譲ってもらえばよかった・・・」
悔やんでも悔やみきれない失策だったが、それに追い討ちをかけるような嫌な予感に襲われた。
「待てよ!まさか!!」
飛び起きて、階段を駆け上がった。書斎の机の上に置かれた財布を掴んで、中身を見た。れもんちゃんデーに備えて銀行からおろした渋沢栄一たちは全員行方をくらましていた。
「とんでもないことをしてしまった・・・」
その場でガックリと膝を折った。
今回、守護霊さんが初回だったから、我々はモノを持って帰ることも、置いていくことも出来たのだった。
そして、失意のうちにJR新快速に乗ったが、神戸駅に到着する頃には、すでに全身に元気がみなぎっていた。
れもんちゃんに会えるなら、他のことはどうでもいい。万事快調だった。
ATMでお金をおろした。
そして、れもんちゃんに会った。れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だったし、れもん星の青い海のように爽やかだった。れもん星の南半球の春風のように芳しかった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「あっ、そうだ。れもん星の『大王カフェ』に行ったよ。とってもオシャレなお店だったよ」
「パパのお店は、リゾットとコーヒーが特別美味しいよ〜」
「そうだよね。絶対美味しいと思うよ。食べれなかったけど・・・」
「それはもったいないよ〜。また食べに行ってね」
「うん。分かった」
れもんちゃんの笑顔は、太陽のように暖かく、そして眩しかった。
行きたいのは山々だったが、再びあのお店に行けるという保証は、どこにもなかった。
おそらく二度と行けないと思う。
シン太郎左衛門とれもん星の思い出 様ありがとうございました。