福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
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れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とカッパ巻き 様
ご利用日時:2025年3月16日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
3回続けて料理をテーマにしたことから、シン太郎左衛門、そろそろ自分が何か作るという設定が巡ってくるに違いないと、最近カッパ巻きの練習をしている。お気に入りのカッパの着ぐるみを着け、板さんの鉢巻きをして、「へい、いらっしゃい」と元気いっぱいだ。ただ、シン太郎左衛門のカッパ巻きにキュウリは入っていない。レンチンご飯を海苔で巻いただけだが、カッパが巻いたから『カッパ巻き』だと言う。ご飯は均等でないし、巻きも緩く、尖端恐怖症で包丁が使えないから切られてもいない。およそ不格好な具のない海苔巻きだ。当然美味しくない。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。前夜の飲み会で深酒をして帰宅し、暖房を効かしたままのリビングのソファーで、ドテラを布団代わりに眠りに落ち、そのままグーカー爆睡していた。夜明け過ぎにトイレに行き、戻って再び眠りに落ちた。
どれくらい時間が経ったのか、小さな物音に『そろそろ昼かな』と目を覚ますと、薄明かりの中、目の前に捻り鉢巻きのカッパがいた。着ぐるみの表情そのまま、愛想よくニコニコしていた。
「へい、いらっしゃい」
カッパのお寿司屋さんだった。
「こんな朝は俺の好みではない」
「旦那、何握りましょう」
「さっき『チン』という音を聞いた気がする。お前、また大事なレンチンご飯を勝手にチンしたな」
「何握りましょう」
「お前には何も握れない。着ぐるみの構造上、辛うじて巻くことが出来るだけだ」
「今日はイキのいい海苔が入ってますよ」
「そんなはずはない。この家にある寿司海苔は、数日前に駅前スーパーで買って、その日に封を切ったものだ」
「今日はイキのいい海苔・・・」
「分かったよ・・・適当に・・・巻いてくれ」
「へい」と威勢よく言うと、シン太郎左衛門は袋から海苔を1枚取り出して広げ、スプーンでご飯を盛り付けだした。その格好は雪掻きを連想させた。カッパ巻き作りは、シン太郎左衛門にはそれなりの重労働だから、時間がかかる。思わずまどろんでいると、「へい、お待ち」と、急に鼻先に海苔巻を押し付けられて、ビックリして叫びそうになった。
渋々ソファーから身体を起こすと部屋の明かりを点け、シン太郎左衛門から黒い物体を受け取った。シン太郎左衛門が直接触れていないので、辛うじて食べてよいだろうと、恵方巻のように丸かぶりした。当たり前に海苔とご飯の味がして、微かにぬいぐるみの匂いがした。
「次、何握りましょう」
「もう何も握って欲しくないし、巻いて欲しくもない」
「で、何握りましょう」
「・・・人の言う事聞いてた?おアイソを頼む」
「へい」
スマホを見ると、まだ8時過ぎだった。仕事が休みの日は昼前まで寝ないと、平素の疲れが抜けない。めちゃくちゃ腹が立ってきた。
「もう少し寝かしておいて欲しかった」
シン太郎左衛門は勘定書を差し出して、
「カッパ巻き一本、締めて12円でござる」
「・・・ずいぶん安いね」
「では、12万円にしよう」
「今度は高すぎる」
「ではタダでよい。その代わり、これから駅前スーパーでまたレンチンご飯と寿司海苔を買ってくだされ」
「ダメだ。もう海苔は買わん!ここしばらく付き合ってやったが、こんなカッパ巻きがあるか!食べ物を無駄にしたくないという気持ちだけで食べてきたが、れもんちゃんに知られたら、また叱られる」
「反省させられますか」
「当たり前だ。『そんなのカッパ巻きじゃないよ〜。反省した方がいいよ〜』と言われる。『美味しくて栄養のあるものを食べないと元気になれないよ〜』という、れもん姫の優しくも、ありがたいお心遣いだ」
「では、父上は喜んで反省なされよ」
「イヤだ!もう3週連続で反省した。もういい」
「では、カッパ巻きの件は・・・」
「れもんちゃんには秘密にしておく」
そして、今日は日曜日。待ち焦がれていた『れもんちゃんデー』。
JR新快速『スーパーれもんちゃん号』に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、いつにも増して宇宙一に宇宙一で、れもんちゃんのグレードアップの度合いから、宇宙が現在も急速に膨張していることを実感できた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、シン太郎左衛門の『カッパ巻き』を食べたことを隠すために、「最近、カッパ巻きを食べたことなんてないよ」と言ったが、れもんちゃんは怪訝そうな顔をして、「ウソついても分かるよ~。『カッパ巻き』って名前の、変な海苔巻きを食べた顔してるよ〜」
「バレちゃってるんだ」
「バレてるよ〜」
「じゃあ、何で『反省した方がいいよ〜』って言わないの?」
れもんちゃんは少しモジモジして、
「この前の女の子休暇中にカップ麺を食べちゃったよ〜」
「え〜!カップ麺はニキビができたり、美容の敵だから食べないって言ってたのに」
「女の子休暇中だったし・・・たまに食べたら美味しいよ〜!」
れもんちゃんは元気に叫んだが、少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「・・・れもんちゃん、反省した方がよくない?私も『カッパ巻き』の件、反省するから」
「う、うん・・・反省するよ~。それと、『カッパ巻き』と『カップ麺』は少しだけ似ているよ〜」
「・・・そんなことを付け足したら、反省してるようには見えないよ〜」
れもんちゃんは真面目に生きている、とっても健気な、宇宙一に可愛い女の子なのだが、不思議な部分と真面目な部分が絶妙なバランスで混じり合っていて、そのブレンドの加減は日によっても適度にバラついているんだよ~。だから、れもんちゃんに関して記述するのは、とっても難しいよ〜。
シン太郎左衛門とカッパ巻き 様ありがとうございました。
るか【VIP】(24)
投稿者:ひろくん様
ご利用日時:2025年3月16日
ロイヤルクラブさんは美人が多いけど、話し上手は相性ありますよね
前職「受付」を見て、るかさんを指名
ルックスはハーフのようでスタイル良すぎ
話し上手で聞き上手
大当たりです!自称Sらしいですが、攻めテクだけでイキそうになった
合体しても具合良すぎてイッちゃいました
他の人には教えたくないくらい、心身綺麗な姫です
彼女がもし眠そうにしてたら「アレルギーの薬服用中」だろうから、優しくしてあげてくださいね
次も、るかさん一択!
ひろくん様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とパスタ 様
ご利用日時:2025年3月9日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。この所、シン太郎左衛門は家にいる間ずっとカッパのコスプレをしているので、もはやカッパとしか思えなくなってきた。目の前を小さなカッパが行ったり来たりしていても何の違和感もないなんて、常軌を逸しているとは思うが、実際特に何も感じない。
昨日は土曜日、れもんちゃんイブ。
仕事が休みだったので、昼近くまでゆっくり寝た。目覚ましが鳴り出すと、パジャマのズボンから飛び出したシン太郎左衛門が「鎮まれ!」と一喝することで目覚ましを止めた。
その姿に思わず、「今日のお前は一味違うな。なんだか・・・凛々しい気がする」
「うむ」と言って頷くと、シン太郎左衛門はカッパの着ぐるみを装着し、「拙者はいつでも凛々しい」
「やっぱりまたカッパだ・・・まあいいや。今日、俺はスパゲッティを作る」
「それは何故」
「・・・そんなこと、説明しなければならないのか?」
「うむ。是が非でも」
「そうか・・・昨日、職場の女性社員たちが、イタリア料理店で食べたパスタの話で盛り上がっているのを聞いて、俺も食べたくなった」
「それは理不尽でござろう」
「えっ・・・なんで?」
「理由は三つござる。聴きたい?」
「聴きたくないね」
「では教えて進ぜよう。第一に、父上は女性社員ではござらぬ」
「・・・面倒臭いから第二、第三の理由もまとめて言って」
「第二に女性社員の話を立ち聞きしている父上がキモい。第三に料理の腕もないくせに自分で作ろうとは笑止、大人しくイタ飯屋に行けばよい」
「分かった。第一第二の点は反駁する気にもならない。第三の点について言うと、イタ飯屋は普通お一人様では入らないもので、特に俺みたいにムサ苦しい人間は絶対に一人で入ってはいけないのだ。れもんちゃんに知られたら、また反省させられる」
「なるほど。納得いたしてござる」
ということで、朝昼兼用としてスパゲッティを作ることが確定した。
着替えて外に出ると、空気はひんやりしていたが陽射しはそこそこ暖かく、爽やかな散歩日和だった。お得意のエコバッグの中からシン太郎左衛門が、
「それで父上が作るのは、ミートソースでござるか、それともカルボナーラ?」
「それは言えぬ。国家機密だ」
「では訊くまい」
「ヒントは、『な』で始まって、『ん』で終わる」
「ナパーム弾」
「そんなもん、食えるか」
駅前スーパーに入ると、他のモノには目もくれず、スパゲッティの麺とナポリタンソースをカゴに入れた。そして、調味料コーナーでしばし思案に暮れた。
「おい。シン太郎左衛門、タバスコを買うつもりだが、大丈夫だろうか?」
「何を心配しておられる。スパゲッティにはタバスコでござる」
「本当か?オデンにカラシを付けずに怒られ、アメリカンドッグにカラシを付けて怒られ、すっかり自信を無くした。スパゲッティにタバスコをかけたら、また、れもんちゃんに怒られそう気がする」
「スパゲッティにタバスコは王道でござる。逆にタバスコを使わねば、れもんちゃんに『反省しなきゃダメだよ〜』と言われまする」
「だよな。よし、タバスコを買おう」と一瓶取ってカゴに入れた。
特売コーナーではイカツいオジさんが広島焼きを売っていたので、スパゲッティの茹で方を尋ねて、ヒドく怒られた。売り場の前で、「美味しいパスタの茹で方」をスマホで検索していて、「邪魔だ!」と更に怒られた。
他にも何か買って帰ろうと思ったが、うっかり広島焼きの特売コーナーの前を通ると、また怒られそうなので、菓子パンを適当に見繕ってカゴに投げ入れ、レジに並んだ。
そして、家に帰ると、生まれて初めてスパゲッティ、ナポリタンを作った。これが奇跡的に美味しかった。いつ買ったものかオリーブオイルを台所の戸棚で発見したことが大きかった。
「これなら舌の肥えたれもんちゃんでも納得するだろう」という素晴らしい出来栄えだった。
こんなに美味しいパスタが出来たのは、決してビギナーズ・ラックではなく、れもんちゃんの御加護のお蔭に違いなかった。あのオリーブオイルは、れもんちゃんが念力で送ってくれたものと親子共々信じて疑わなかった。
そして、翌日の今日は日曜日。れもんちゃんデー。いつものJR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
大変に有名なことなので言うまでもないだろうが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だった。れもんちゃん、いつも宇宙一ステキな時間をありがとう、とシン太郎左衛門も言っていた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「昨日、ナポリタンを自分で作ったら、殊の外、美味しかったよ」
「パスタ、美味しいよね〜。ナポリタンも大好きだよ〜」
「軽くタバスコをかけたら、いい感じになったよ」
「え〜っ!タバスコかけちゃダメだよ〜。ナポリタンには、粉チーズだよ〜」
「・・・やっぱりそうだ!だから『タバスコは違う気がする』って言ってたんだ!」
「れもんは辛いのがキライだよ〜」
「えっ?でもオデンにはカラシで、アメリカンドッグにはマスタードなんでしょ?」
「その二つは美味しいよ〜。でもワサビやタバスコは辛いよ〜」
「・・・今日も反省しなきゃダメ?」
「今日もしっかり反省しなきゃダメだよ〜」
「分かったよ〜。反省するよ~」
今日も我々親子は、れもんちゃんにもらった沢山のステキな想い出といくつかの反省を胸にJR新快速に乗って、家のある遠い街まで帰っていったのである。
シン太郎左衛門とパスタ 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とアメリカンドッグ 様
ご利用日時:2025年3月2日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。
3月になった。縁起でもないが、私の勤める会社には幾つか支店があるから、転勤の可能性がゼロではない。
社長から「君は4月から福岡に転勤だよ〜」と言われないとも限らない。「福原ならいいけど、福岡なんて嫌だよ〜。れもんちゃんがいる近畿圏から離れないよ〜」と訴えたところで、「分かったよ〜。そういう事情があるなら考え直すよ〜」なんて、言ってもらえる訳がない。
そんな私の心配を他所に、シン太郎左衛門は毎日カッパの着ぐるみを身にまとい、これからも日曜日には、れもんちゃんに会い続けられると信じて疑わない。
さて、昨日は土曜日、れもんちゃんイブ。
仕事が休みだったので、駅前スーパーまで買い出しに行くことに決めていた。
平日より遅めの目覚ましが鳴ると、シン太郎左衛門は、素早く布団から飛び出し、当然のごとくカッパの着ぐるみに収まった。
「父上、起きてくだされ。今日は買い出しでござる」
「分かってる」
「とにかくカラシを買わねばならぬ」
「分かってる」
「次またカラシを付けずにオデンを食べたら、今度こそ、れもんちゃんから破門されますぞ」
「分かってる」
「冷蔵庫をカラシで一杯にしましょう」
「さすがにそこまではしない。でも、もし今日あの幽霊みたいなオジさんがオデンを売ってたら買って帰る」
「たっぷりカラシをつけてオデンを食べ、れもんちゃんに報告するのでござるな」
「そうだ。前回の名誉挽回だ」
「一つの具ごとにカラシを1チューブ使えば、れもんちゃんからお褒めの言葉がござろう」
「そこまでする気はない。れもんちゃんも、そこまでやれとは言っていない」
「うむ」
服を着替え、お気に入りのエコバッグを持って家を出た。穏やかな天気で、寒さはマシだった。エコバッグの中で、カッパのシン太郎左衛門がモゾモゾと動いた。
駅前スーパーに着くと、まずはチューブの和ガラシを10本買い物カゴに放り込んだ。レンジでチンするご飯を10パック、ふりかけと塩コンブを各一袋、カゴに入れた。我ながら貧しすぎる食生活だった。
「よし、特売コーナーに行こう。レンチンご飯+ふりかけ+塩コンブ+カラシ ≠『楽しい食卓』だ。食卓には夢や希望が必要だからな」
パラパラと客が行き来する店内を、特売コーナーに向かって歩いていったが、呼び込みなどは聞こえてこなかった。
「特売コーナーはシ~ンとしている。今日は、明太子ちゃんの日ではないようだ。広島焼きのイカツいオジさんの日でもない。イチゴ大福のおネエさんの日でもない。泳ぎを止めたサメが死んでしまうように、彼らは黙ったら死んでしまうのだ。一方、オデンを売るオジさん、お彼岸のお供え物を売るおバアさんは一切呼び込みをしない。これまでの経験から、今日の特売品はオデンか、お彼岸のお供え物の二択だ」
「うむ。オデンならよいが。お彼岸のお供え物では、カラシの出番がござらぬ」
「心配は要らん。お彼岸にはまだ早すぎる。オデンに決まりだ・・・待てよ。オデンの匂いがしてこないな」
陳列棚の角を曲がると、特売コーナーが視界に入った。売り場に立っていたのは・・・
「あっ!あれは、明太子ちゃんの妹だ。ギブスがとれたようだ・・・何を売ってるんだろう・・・」
明太子ちゃんの妹は、何となくモジモジしながら、小声で、
「新発売、アメリカンドッグ、おい・・・」と言って黙ってしまった。
真っ赤なノボリに黄色い文字で『新発売 アメリカンドッグ レンジでチンするだけで、すぐ美味しい!!』とあった。
「シン太郎左衛門、今日の特売はアメリカンドッグだぞ」
「おお、それはお誂え向きでござる。カラシばかりか、ケチャップにまで出番が巡って参りましたな」
「売り子は、明太子ちゃんの妹だ。でも、何か表情が冴えないな・・・」
近寄ってくる私に気が付くと、明太子ちゃんの妹、アメリカンドッグちゃんは緊張した表情を浮かべた。
「今日は、妹さんの方なんだね」と話しかけると、アメリカンドッグちゃんは、少し身体を屈めて臨戦態勢をとったように見えた。
「そんなに警戒しなくていいよ。姉さんから聞いてないかね。私は危険人物だが、全く無害だし、理由があって是非ともアメリカンドッグを購入したいと思ってるのだ」
明太子ちゃんの妹は意外そうな表情を浮かべ、「どうしてなの?オジさんがアメリカンドッグを買う理由って何なの?」
『逆に俺がアメリカンドッグを買ってはいけない理由があるのか?』とは思ったものの、「カラシを使わないといかんのだ。できたらケチャップも使いたい」
「本当にカラシやケチャップの問題なの?アメリカンドッグそのものは問題じゃないの?」
『これって、どういう会話だよ』と思いながら、「ああ、私にとって重要なのは、ちゃんとカラシを使うことだけだ。オデンならもっとよかったが、アメリカンドッグでも充分なんだ。カラシを適切に使用しないと、私は宇宙一に宇宙一の女神さまに見放されてしまうのだ」
アメリカンドッグちゃんは、少しだけ警戒心を解いたようで、試食用に小さくカットしたアメリカンドッグを爪楊枝に刺して、私に差し出した。
「食べてみて」
言われるまま口に運んでみた。
「どう?」
「あんまり美味しくない。衣がカリカリ、サクサクしてない。ソーセージは、まあまあだけど」
「でしょ?書いてあるとおりにレンジでチンしたのに全然美味しくない・・・私、美味しくないものを売るのがイヤなの」と、アメリカンドッグちゃんは涙目になっていた。
「このアメリカンドッグは、今日初めて売るの?」
アメリカンドッグちゃんは頷いた。
「今日は、いつもの明太子だよって聞いてたのに、朝来たら突然アメリカンドッグだって・・・それで書いてあるとおりにチンして試食用に準備して味見したら美味しくなかったの・・・」
「そうなのか・・・ふ〜ん・・・そうだ、少しオーブントースターであぶったらいいかもよ」
「あっ、そうか」と、アメリカンドッグちゃんの表情が明るくなり、「オジさん、ここで少し待ってて」と、アメリカンドッグを持ってバックヤードに入っていった。しばらくして、戻ってきたアメリカンドッグちゃんは笑顔で、「これ、食べてみて」と湯気の立っているアメリカンドッグにケチャップを付けて、私に手渡した。
一口食べてみると、普通に美味しかったので、「うん・・・さっきとは違って美味しいよ」
「でしょ?これなら大丈夫でしょ?オジさん、買って」
「うん。一袋もらうよ」
「違うの!!沢山オマケするから沢山買って!!」
「じゃあ二袋」
結局、買い物カゴ一杯アメリカンドッグを買うことになってしまった。
「レンジで2分ぐらいチンした後、トースターでお好み次第で1、2分焼くと美味しくなるからね」と、アメリカンドッグちゃんは、手を振りながら見送ってくれた。
エコバッグは冷凍アメリカンドッグで一杯になってしまい、シン太郎左衛門が「寒い〜っ!凍死する〜っ!」と文句を言ってきたので、コートのポケットに移してやった。
家に帰った後、大量のアメリカンドッグは冷凍庫に収まらず、6本入り5袋を隣の家にお裾分けした。30本ものアメリカンドッグをもらった金ちゃんママは、「少しお金をお渡ししましょうか」と言ってくれた。
「いや結構。逆に、貰ってもらわないと困るから」
「どうして、こんなに沢山アメリカンドッグを買ったんですか?」
「特に理由はない。何となく買ってしまった。ホントは1本あれば足りたのに・・・まあいい。レンジで2分ぐらいチンした後、トースターで1、2分焼くと美味しい。カラシとケチャップを付けて食べるように」
昼ご飯も夕食もアメリカンドッグを食べれるだけ食べたが、元々大して好きでもないものを何でこんなに沢山食べなきゃいけないのか全然理解できなかった。
そして、今日は日曜日。待ちに待った、れもんちゃんデー。
朝、またしてもアメリカンドッグを食べ、JR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。れもんちゃんは、もちろん宇宙一に宇宙一だった。親子揃って、すっかり満たされた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「昨日からアメリカンドッグしか食べてないんだ。多分20本近く食べてるよ」
「そうなんだね。アメリカンドッグ、美味しいよね〜」
「・・・何とも言えないや。もちろん、カラシを塗ってるよ」
「カラシ?アメリカンドッグはケチャップとマスタードだよ〜」
「マスタードだって!?和ガラシじゃダメなの?」
「ダメだよ〜。アメリカンドッグはカラシじゃないよ。マスタードだよ〜。やっぱり今日も反省した方がいいよ〜」
れもんちゃんは厳しいときには厳しかった。
最近、ボケが進んで、先が長いとは思えない私には、人類に言い残して置くべきことが、一つ増えて、三つある。第一には、れもんちゃんはこれからもずっと宇宙一に宇宙一だということ、第二は、オデンにはカラシが欠かせないということ、そして第三は、アメリカンドッグには・・・
シン太郎左衛門とアメリカンドッグ 様ありがとうございました。
すいれん【VIP】(22)
投稿者:フクスイ様
ご利用日時:2025年3月2日
パネル指名で、店員さんもオススメと言っていまして期待通りの女の子でした。
60分でしたが案外ゆっくり過ごせましたね。時短とかもされなく楽しいひと時でした。次は今日以上に濃厚な時間を過ごしたいです。
フクスイ様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、隣からのオデン 様
ご利用日時:2025年2月23日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。毎日寒いので、親子揃って、『今日も寒いなぁ』とか言ってしまうが、こんなことは誰でも知ってることである。ただ、人間はときに誰でも知ってることをシミジミと言ってしまう。例えば、『れもんちゃんは宇宙一に宇宙一である』とか。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。
仕事が休みだったので、家でゴロゴロ過ごした。
昼前に焼いた餅、デザートにゆで卵を食べたら、またしても家の中の食材が底を突いてしまった。
「いかん。今晩食べるものがなくなった。飢え死にだ」
シン太郎左衛門は、カッパの着ぐるみの中で軽く咳払いをすると、「駅前スーパーに買い物に行けばよい」と冷たく言い放った。
「寒いから嫌だ!」
小さなカッパは、「うむ」と関心なさそうに言ったきり、将棋盤に向かって藤井七冠の棋譜並べを続けた。
将棋をするカッパを最初に見たときは大いに笑ったが、半日も一緒に過ごせば、もう一つも可笑しくなかった。
「おい、カッパ左衛門、将棋は楽しいか?」
「拙者は、カッパ左衛門ではござらぬ」
「そうかい。こう毎日カッパの格好で過ごすんなら、名前も変えたらいい」
シン太郎左衛門は盤面に集中して、「うむ」とさえ言ってくれない。暇すぎて、私は椅子に座ったまま居眠りを始めていた。
目を覚ましたときには日が暮れかかっていた。
「しまった!日があるうちに買い物に行くつもりだったのに」
カッパ左衛門は将棋盤にうつ伏してガーガーとイビキをかいていた。
「起きろ、カッパ!駅前の中華料理屋で麻婆丼でもパッと食べて、日が落ち切る前に帰還するのだ。グズグズしてると、れもんちゃんデーを目の前にして、飢え死にか凍え死にかの二択を迫られるぞ」
「寒いのはかなわん。飢え死にの方がよい」
「お前が選ぶな・・・でも、寒いのイヤだよな。取り敢えず、水でお腹を一杯にして、風呂で暖まろうか」
「それがよい。父上自身が湯たんぽになるということでござるな」
「いや。そうは言ってない」
というような下らない話をしているうちに、本当に日が沈んでしまい、窓の外は真っ暗になった。
風呂が沸くを待ちながら、取り敢えず水を飲んだ。1杯飲んだら、もう飲みたくなくなった。
「ひどいモンだよ、この家には本当に水しかない。あっ、そうだ・・・ケチャップがあった・・・」
「それはよい。水で薄めたらトマトジュースになりますな」
「止めろ。考えただけで胸がムカムカする。う〜ん、水を飲んだら、ますます腹が減ってきた。やっぱり、しっかり着込んで、駅前の中華料理屋まで行こう」
「うむ。それがよい。お留守番は任せてくだされ」
「お前も来い」
「拙者には行く理由がない」
「いや来い!」
そんな下らない推し問答をしていると、インターホンが鳴った。モニターには、金ちゃんママが映っていた。
二人は思わず、「あっ!ゴディバのオバさんだ!」と声を揃えて、歓声をあげていた。
「何か食い物の匂いがするぞ」と言いながら、浅ましさ丸出しで玄関のドアを開けて外に飛び出した。
門の外に立っていた金ちゃんママは、街灯の灯りに照らされて、手にはレジ袋を下げていた。
「お〜、これは、これは、お隣の奥さん。本日は、どういった御用向きでございますか」と、レジ袋を凝視しながら、精一杯の猫撫で声で尋ねた。
「これ、よろしかったら、召し上がってください」と、金ちゃんママが差し出しかけたレジ袋を引ったくるように勢いよく受け取ると、中身を覗き、
「こっ、これは、駅前スーパーのオデンではありませんか!このプラスチックの容器は、間違いなく駅前スーパーのオデンだ!これは素晴らしい!この寒い日にオデンとは素晴らしい!宇宙で2番目に素晴らしい!」
私の余りの感動ぶりに、金ちゃんママは苦笑いを浮かべ、「・・・そんなに喜んでもらえて嬉しいです。たくさん買って帰ったのに、幸則が急に仕事で帰れなくなって・・・」
「ユキノリ?・・・誰ですか、それ?」
「えっ?ウチの息子です・・・」
「はあっ?・・・ああ、そうだった、そうだった。随分前にそんなことを聞いた気がする。金ちゃ、いや御子息は、お身内の間ではユキノリと呼ばれてるってことですな」
「それが本名なので」
「なるほど・・・まあいいや。ありがたくご馳走になります」
そのとき、金ちゃんママの視線が、レジ袋を持った手とは逆の、私の左手に注がれていることに気が付いた。私は左手にカッパを握っていた。
「ああ、これ?カッパです。お気に召したんなら差し上げます」
「いいえ。絶対に要りません。さっきから目がギョロギョロと動いたり、寒そうに震えてみたり、私の錯覚だとは思いますけど、ホラー映画みたいで怖いです」
「ですよね」
帰っていく金ちゃんママの背中をしばし見送った後、
「よし、夕飯をゲットだぜ」とガッツポーズを作った。
オデンはとっても美味しかった。
そして、その翌日、今日は日曜日。れもんちゃんデー。JR新快速で、れもんちゃんに会いに行った。
言うまでもなく、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一で、宇宙一のれもんちゃんと宇宙ニの駅前スーパーのオデンの間には1000兆光年の隔たりがあった。本来、比較してはいけないのだ。
帰り際、れもんちゃんのお見送りを受けながら、
「あっ、そうだ。昨日、オデン食べたよ」と言うと、れもんちゃんは目を輝かせて、
「オデン、美味しいよね。カラシたっぷり付けて食べると、もっと美味しいよ〜」
「そうだよね。でも、昨日はカラシなしで食べたよ」と応えると、れもんちゃんは悲しい目になって、
「それはダメだよ。オデンにはカラシだよ〜」
「うん。でも今ウチにはケチャップしかないんだ」
「そんなのダメだよ。オデンにはカラシだよ〜。反省した方がいいよ〜」と叱られてしまった。
れもんちゃんも怒ることがあるのだ。
最近、ボケが進んで、先が長いとは思えない私には、人類に言い残して置くべきことが二つある。第一には、れもんちゃんはこれからもずっと宇宙一に宇宙一だということ、そして第二は、オデンにはカラシが欠かせない、ということである。
シン太郎左衛門、隣からのオデン 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、何となくバレンタインデー 様
ご利用日時:2025年2月16日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ここ数日の寒さは流石にキツイ。骨身に染みる。殊に朝晩は、カッパの着ぐるみが欠かせない。
先日の金曜日は、もちろん私に限ってのことではないが、バレンタインデーだった。
仕事を終えて帰宅の途上で、シン太郎左衛門が、「父上、今年も、チョコを一つも貰えずでござるな」
「ああ、ありがたいことにな。俺は和菓子をこよなく愛する和菓子マンだ。くわえて、和菓子を超えられるのは、れもんちゃんしかいないと考える、れもんちゃん大好きマンだ。チョコなんて渡されたら迷惑千万マンだ」
「それは世に言う負け惜しみマンというものでござろう」
「分かってないマンだなぁ。俺は、ゴディバのチョコとチロルチョコの区別さえ付かんほど、チョコに興味がないマンだぞ。貰っても、箱を開けて、口に運ぶのさえ面倒臭いマンだ。その上、俺は食べ物を無駄にすることをこよなく嫌う勿体無いマンだから、貰ったチョコは全部金ちゃんに押し付けマンにならねばならん」
「うむマン。納得マンでござる」
そんな聞くに耐えない下らぬ会話をしながら家に戻り、私はモコモコパジャマに着替え、シン太郎左衛門はカッパの着ぐるみに着替え、両名ホッと一息吐いたところで、インターフォンが鳴った。
「なんだ、こんな夜中に」
「まだ七時でござる」
「いや、七時と言えば、良い子は寝てる時間だ。こんな時間にやって来るヤツに、ロクなのはいない」と立って、インターホンのモニターを覗くと、金ちゃんママが映っていた。
「ほら見ろ。やっぱりそうだ。金ちゃんママは、あれこれ俺の世話になりながら、俺がもう少しマトモな人間だったらよかったのにと考えてる不心得者だ」
「うむ。その点に関しては、拙者、金ちゃんママと同意見でござる」
「そうか」
「いずれにせよ、早く応答なされよ」
私は『通話』のボタンを押して、
「これは、これは、お隣のママさん殿。回覧板ならポストに入れておいてくだされ、とシン太郎左衛門が言っている」
金ちゃんママは、「いえ、お渡しするものがあって・・・」
「はあ・・・では、すぐ行きます、とシン太郎左衛門が言っている・・・」と、私は『通話終了』のボタンを押し、シン太郎左衛門に「行ってこい」
「ホントに拙者が行ってもよろしいか」
「いいわけないだろ」
私は、シン太郎左衛門をリビングに残して、一人で玄関を出た。1分後に戻っていた私が持つ小さな紙袋を見て、カッパのシン太郎左衛門は首を傾げて、
「それは、ゴディバの紙袋でござるな」
「そうだ」
「中身は?」
「当然、チョコレートだ」
「回覧板ではなく?」
「回覧板ではない。チョコだ」
「金ちゃんママから父上に?」
「そうだ」
「下剤入りチョコ」
「違う。普通のチョコだ」
「タバスコ入りチョコ」
「だから、普通のチョコだって」
「金ちゃんママが、父上に普通のチョコをくれるわけがない」
「でも、『いつもお世話になってる御礼に』と言って渡されたぞ」
私は袋からキレイにラッピングされた箱を取り出して、
「ほら見ろ。どう見ても、チョコだろ」
「いいや。開けてみるまで分からぬ。拙者の見るところ、中身は河原で拾ってきた小石でござる」
「金ちゃんのママが、なんでそんなことをするのだ」
「何となく」
「訳が分からん」
レンジでチンするご飯と明太子で夕食を済ませた後、シン太郎左衛門と風呂に入った。リビングに戻ると、テーブルの上に乗ったチョコの箱が目に入った。
シン太郎左衛門が、「父上、開けてみられよ。絶対にチョコではござらぬ」
「どうしても石だと主張するのだな」
「うむ。70%の確率で河原で拾った平たい小石、20%の確率でアンモナイトの化石でござる」
「何で、お前にそんなことが分かる?」
「何となく」
「訳が分からん。ちなみに残り10%の確率は何だ?」
「見た目も味もチョコレートな石」
「そうか・・・まあいい。とにかく、金ちゃんママに貰ったものを金ちゃんに押し付ける訳にはいかん」
「では、いかがなされますか」
「・・・れもんちゃんに上げよう」
「中身は石ですぞ」
「そんなはずがない。ゴディバのチョコだ」
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。れもんちゃんに会いに行った。
ゴディバの紙袋を下げ、JR新快速に乗って、神戸に向かった。
当然今日も、れもんちゃんは宇宙一に宇宙だった。
れもんちゃんにお出迎えをしてもらいながら、紙袋を渡した。
「はい。バレンタインデーのプレゼント」
「わ〜嬉しいよ〜。チョコレートだ〜」
「違うんだ。石なんだ。でも食べれるし、チョコなんだ」
「ありがとう。後で一緒に食べよう〜」
そして後刻、れもんちゃんと一緒にチョコを食べた。チョコレートは好みではないが、れもんちゃんと食べれば、チョコも捨てたものではなかった。
そして、「チョコ、美味しい〜」と、れもんちゃんが浮かべる笑顔は、チョコレートの何兆倍もスウィートなのであった。
シン太郎左衛門、何となくバレンタインデー 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とカッパの軍団 様
ご利用日時:2025年2月9日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近、カッパでもある。武士とカッパの兼業は、どうかと思うが、当人は何とも思っていない様子だ。
昨日は土曜日、れもんちゃんイブ。
夜、仕事から帰って、くつろいでいると、シン太郎左衛門はズボンのチャックを内側から開けて飛び出し、リビングのテーブルの上に脱ぎ捨ててあった、最近お気に入りのカッパのぬいぐるみを着て、カッパに変身した。
「お前、最近、毎晩カッパだなぁ」というと、目の前の小さなカッパは満面の笑みで頷き、「うむ。カッパは実に楽しい。非日常感にワクワクいたしまする」
カッパのシン太郎左衛門はテーブルから降りると、アチコチをピョコピョコ走り回った。階段を駆け上がって、2階の部屋まで覗いて回っているようで、カッパに生まれ変わったせいで、見慣れたはずの家が違って見えるようで、活き活きと楽しそうだった。
そして翌日。今日は日曜日。れもんちゃんデー。
いつもの時間に目覚ましが鳴った。
目を覚ますと、枕元に小さなカッパがいて、私の顔を覗き込んでいた。
「おい、シン太郎左衛門。今日も朝からカッパか。衆知のとおり、日曜日の俺には『れもんちゃんに会う』という大切でステキなミッションがあるから、カッパの相手はできないのだ」
一瞬首を傾げた後、カッパは脱兎の如く部屋から飛び出していった。
「なんだ、アイツ・・・」
布団の中でボンヤリ考えた。あのカッパのぬいぐるみは、どんな経緯でウチに来たのだろう?私は相当ボケているので、はっきりした記憶はないが、20年以上前、私の勤める会社で新商品のキャンペーン用のノベルティ・グッズとして、カッパのぬいぐるみを大量に発注したものの、キャンペーンが突然取り止めになって、社員1人につき1箱、つまり120個のカッパのぬいぐるみを持って帰らされたような気がする。どうやら押入れの奥に119個のカッパが眠っていて、どういう思い付きか私は1匹のカッパだけ米びつに移したらしい。
「あ〜あ、ボケると楽しいな。自分の家なのに知らないことが一杯で、ワクワクドキドキが止まらないよ」
そんな独り言を言いながら、布団を出てドテラを羽織ると、キッチンに向かった。
ゆで卵とコーヒーで朝食を済ませたが、その間もカッパのシン太郎左衛門はどこかに行ったきり戻ってこなかった。2階から断続的にガタガタと物音がしていた。
新聞を読みながら、「アイツ、何してるんだろ」と、段々と不安になってきた。シン太郎左衛門が、掃除や片付けのような人の為になることをするわけがなく、何か余計なことをしてそうな悪い予感がした。
席を立つと、階段の下から、「お〜い、シン太郎左衛門。そろそろ降りてこ〜い」と声を掛けた。
すると、いきなり2階の廊下を駆け抜ける沢山の足音がバタバタと聞こえてきて、階段の上に100匹を越える小さなカッパの集団が姿を現すなり、一気に階段を掛け下って、ドオ〜ッと勢いよく私の足元を通り過ぎて、リビングに駆け込んでいった。
後を追ってリビングに戻ると、部屋一杯に同じ格好、同じ顔をした小さなカッパが犇めいていた。
「おい、シン太郎左衛門・・・どこだ?」
「ここでござる」と答えが返ってきたが、何せ全員同じぬいぐるみの、同じ笑顔を浮かべた120匹のカッパが、240個の瞳をキラキラさせて、私を見つめている。どれがシン太郎左衛門なのか、全く分からなかった。
「おい、シン太郎左衛門、手を挙げろ」と言うと、全員が一斉に元気に右手を挙げた。
「おい、ふざけるな・・・シン太郎左衛門、どういうことだか説明しろ」と言うと、どの1匹かは分からぬが、
「うむ。拙者、昨晩、カッパの扮装をして、家の中を闊歩しておったとき、当家に住して長い年月が経つものの、書斎の押入れを訪ったことがござらなんだ故、ちと足を踏み入れてみた。すると、沢山の動物パンツと並んで、箱一杯の・・・」
「カッパのコスチュームを発見した・・・ということだな」
「いかにも。そこで、早速、霊界版LINEにより、苦労左衛門や猪熊三兄弟ほか拙者の朋友に声を掛け、そのまた朋友に声を掛けてもらい、拙者を含め都合120名の武士が本朝5時、ここに集結いたし、カッパのコスプレをして元気に戦争ごっこをしておった。名付けて『朝からカッパ大戦争』でござる」
「そうだったのか・・・ということは、ここにお集まり皆さんは・・・」
「みな武士でござる」
「それは心得ている。みんな武士だしカッパなのは重々承知しているが、さらに、カッパの中身は皆さん、すでにお亡くなりになったオチン、つまりオチンの幽霊ではないのか?」
「うむ。いかにも。拙者を除けては、全員、武士でカッパでオチンな幽霊でござる」
「やっぱり、そうだろ。俺、そんなのがこんなに沢山いる家に住むのはイヤだなぁ。これから、れもんちゃんに会いに行って、帰ってきたら、みんな居なくなっててもらえるのかなぁ」
「なに、心配ご無用。赤白両軍に分かれての大戦争、先刻、全員怪我もなく終了いたし、反省会も済ませてござる。全員同じ格好のカッパでは、赤組が勝ったやら白組が勝ったやら、まるで分からなんだ。これが本日の反省点でござる。カッ、カッカッカッ・・・」と、シン太郎左衛門が、何が可笑しいのか高笑いを始めると、他のカッパも一斉に続き、部屋全体が笑いどよめいた。私一人が笑っていなかった。
笑いの波が引いていくと、シン太郎左衛門とは別のカッパが、「皆の衆、これより父上殿とシン太郎左衛門殿が、宇宙一に宇宙一の誉れも高き、れもん姫のもとへと御出陣でござるぞ。我々カッパ武士全員で盛大にお見送りをいたそうぞ。ささ、父上殿、シン太郎左衛門殿、出立の御準備を」
カッパの群れから一匹が飛び出して、私のパジャマの裾をよじ登り肩に乗った。
「父上、出陣でござる」
「何だよ、『出陣』って・・・」
2階で着替えて、階段を降りていくと、カッパ武士たちが「エイエイオー!エイエイオー!・・・」の掛け声で迎えてくれた。ただ、全く嬉しくなかった。
カッパ武士たちに先導されて、玄関で靴を履くと、カッパ武士の代表者、おそらく苦労左衛門というカッパが、声高らかに、
「それでは、皆の衆、用意はよいか?父上殿の武運を祈念して、『元祖カッパ節』斉唱・・・」
そんな歌、聞きたくなかったので、私は慌てて耳を両手で塞いで、家を飛び出し、向こう側からカッパの歌声が微かに漏れてくる玄関のドアに素早く鍵を掛けて、足早に駅に向かった。
道々、シン太郎左衛門が、「まこと、持つべきものは友でござる。カッパ武士の仲間たちの応援を受け、拙者、勇気も元気も全身に漲っておりまする」と言うので、
「じゃあ頑張ってね」と返した。
そして、れもんちゃんに会いに行った。
『勇気と元気が漲っている』はずのシン太郎左衛門だったが、いつもどおり、れもんちゃんにコロッとやっつけられてしまった。やはり、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「れもんちゃん、カッパに会ったことある?」
「カッパには会ったことないよ〜」
「会わないほうがいいよ。いろいろと鬱陶しいから」
「分かった〜。カワウソには会ったことあるよ。可愛かったよ〜」
「カワウソかぁ。カワウソも油断しちゃダメだよ。中身がカワウソだとは限らないからね」
「うん、分かった〜。気を付ける」
れもんちゃんの笑顔は、それはそれは可愛かった。
そして、JR新快速に乗り、家の最寄り駅で降り、坂を登って家に帰り着き、2階のベランダを見上げると、物干し竿のピンチハンガーには、洗濯を済ませたカッパの着ぐるみ120枚が所狭しと干されていた。
武士たちは、ちゃんと礼儀を弁えているのであった。
シン太郎左衛門とカッパの軍団 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とカッパのぬいぐるみ 様
ご利用日時:2025年2月2日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。ただ今回のクチコミに限り、カッパになる。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。
昼前に目を覚ましたが、仕事は休みだったので、丸一日、家でゴロゴロ過ごすと決意を固め、新聞の折込広告の裏に筆ペンで「初志貫徹」と書き、セロテープで壁に貼り付けた。
「シン太郎左衛門、今日、俺は一歩たりとも家から出ないことに決めた」
「うむ。それはよいことを決めなさった。拙者もご一緒いたそう」
「よし。そうと決まれば、まずは二度寝だ」と、今出てきたばかりの布団に逆戻りした。
「実にヌクくて、気持ちいいなぁ」
「冬は、布団と風呂と、そしてもちろん、れもんちゃんが気持ちよい」
「そうだ。春は布団と散歩と、そして、何より、れもんちゃんが気持ちいい」
「夏に気持ちよいのは、エアコンとブランケットと、そして、何をおいても、れもんちゃんでござる」
「秋は、全てにおいて気持ちのよい季節だが、取り分け、れもんちゃんが気持ちいいよな」
「うむ。春夏秋冬、季節を問わず気持ちいいのが、れもんちゃんでござる」
「そういうことだ。ところで、こうして布団の中にいると、ホントに気持ちいいんだが、実は腹が減ってきてしまった」
「もう昼前ゆえ、自然と腹も減りましょう」
「うん。腹が減りすぎて、気分が悪くなってきた」
「さっさと起きて、何ぞ食されよ」
「うん。そうする」と、私はモソモソと布団から抜け出すと、ドテラを着込んで、台所に向かった。
冷蔵庫のドアを開けて驚いた。ケチャップしか入っていなかった。
野菜室も冷凍庫も空だった。
「おい、シン太郎左衛門。昨夜のうちに泥棒が来たようだ。食い物泥棒だ」
「それは全く気が付きませなんだ」
「ケチャップ嫌いの泥棒だ」
「なんと」
「食品棚にあったはずのカップ麺も全てなくなっている。お菓子も全部取られた。きっと米も・・・」
米びつの蓋を開けてみると、米もなくなっていて、代わりに何やら緑色のモノが入っていた。
「米も一粒残らずなくなっている。代わりに・・・米びつに、こんなものが入っていた」
と私は米びつに残されていたモノを手に取って、シン太郎左衛門に向かって突き出した。
「それは、カッパでござるな」
「そうだ。カッパのぬいぐるみだ」
私の掌の上で、小さなカッパのぬいぐるみが、グッタリと項垂れて、両手両足をブラ〜ンと垂らしていた。
「そのカッパ、大変お疲れでござる」
「ダレきっとる。グニャグニャだ」
「つまり昨晩、ケチャップが嫌いな泥棒さんが、この家に侵入し、ケチャップを除く全ての食材と調味料を奪った上に、カッパのぬいぐるみを置いて去っていったと。さらに、そのカッパのぬいぐるみがグニャグニャであると・・・そういうことでござるな」
「・・・ほぼ俺が言ったままのことを繰り返す理由が分からんが、そのとおりだ」
「つまり、今回のクチコミのテーマは、その犯人を捜す、つまり、『名探偵コナン』的な推理モノでござるな」
「違う。捜すまでもない」
「なんと!それは、また何ゆえ」
「犯人はもう分かっている。金ちゃんだ」
「金ちゃん?それはさすがになかろう」
「いや、ホシは金ちゃんだ。金ちゃんはトマトが嫌いだからな。必然的にケチャップも嫌いだ。それに、かなり以前のクチコミに書いた通り、俺は金ちゃんに、玄関のドアのスペアキーを金ちゃん邸のレモンの木の下に埋めてあると教えてあるからな」
「なるほど・・・では、今回、れもんちゃんからの提案を受けて、『劇場版シン太郎左衛門』第二弾、名探偵コナン的な推理モノとする積りはないということでござるな」
「そうだ。推理する余地がないからな。犯人は金ちゃんで決まりだし、この件については、これ以上話すことがない」
「うむ。しかし金ちゃんが犯人とは意外でござる」
「うん。まあ、それは、いいとして・・・見ろ、このカッパのぬいぐるみ。背中にジッパーが付いていて、開けると・・・ほら、お前にピッタリの空洞になっている」
「なるほど・・・入ってみてもよろしいか」
「入ってみろ」
ダイニングテーブルの上に飛び乗ったシン太郎左衛門にカッパのぬいぐるみを差し出した。その中に、シン太郎左衛門は実にピッタリと収まって、器用にジッパーを引き上げた。
「これはよい。ピッタリでござる。暖かくて、着心地がよい」
「確かにピッタリだが・・・」
ぬいぐるみの目の部分が覗き窓になっていて、ちょうどそこにシン太郎左衛門の目が当たっていた。
「おい!キョロキョロと目を動かすな!実に気色悪い・・・まるでホラー映画だ」
シン太郎左衛門は、カッパの格好でクネクネとダンスを踊ってみせた。
「止めろ!ますます怖い・・・」
小さなカッパが、テーブルの上から嬉しそうに私を見ていた。
「父上、拙者、この着ぐるみが気に入った。ささ、父上も着替えてくだされ。駅前スーパーまで買い物に参りましょう」
「お前、まさか、その格好で人前に出るつもりか?」
「うむ。何か不都合でも?」
「・・・少しだけ不都合だから、ちょっと手を加えさせてくれ」
外に出ると思ったほど寒くなかった。
「日が照ってて、散歩には悪くない天気だな」
私は右の肩にはエコバッグを掛け、カッパのぬいぐるみに安全ピンで紐を付け、ネックポーチのように首からぶら下げていた。
「うむ。では、参りましょう」
「人前に出たら、断りなしにエコバッグに仕舞わせてもらうぞ。出来るかぎりのことを試してみたが、結局何をしてもカッパはカッパだ。いい年をして、カッパのぬいぐるみを首から掛けて、人前に出るのは恥ずかしい」
「心得てござる」
昼飯時だったせいか、通りには全く人影がなかった。胸の前で左右に揺れるシン太郎左衛門と四方山話をしながらテクテクと坂道を下り、国道を渡る横断歩道で信号待ちをしていると、いきなり背後から、「あっ、オジさん!」と声がした。
振り向くと、目の前で明太子ちゃんが自転車を停めた。二人乗りで、後ろには妹ちゃんを乗せていた。
「ああ、誰かと思えば、明太子シスターズか」
「明太子シスターズ!?オジさんのネーミングセンス、最低!」と、明太子ちゃんは大喜びだった。妹の方は、姉の背後からチラチラとこちらの様子を窺っていた。
「今日は非番なのか?これから、君たちのスーパーに買い物に行こうと思ってたのに」
「今日、わたしたち、お休みだよ。これから、大型スーパーの偵察に行くの」
「なるほどね。君たちがいないなら、スーパーには行かず、中華屋で麻婆丼を食べて、帰ろうかなぁ」
「そんなこと言わずに買い物に行ってあげてよ。今日はオデンの日だよ」
「じゃあ、あの青白くて、幽霊みたいなオジさんが売り場に立ってるんだな」
「そうなの」
そのとき、妹の方が、明太子ちゃんの肩を突いてから、私の胸元あたりを指差した。
「あっ、カッパだ!」と、明太子ちゃんは笑い出した。
しまった、と慌てて、カッパのシン太郎左衛門を首から外して、エコバッグに放り込もうとしたが、紐が首に絡まって、取れなかった。
「オジさんのファッション、斬新〜!カッパ、可愛い〜!触らせて〜!」と明太子ちゃんが手を伸ばしてきた。
「ダメだ!女子高生が、こんなものに触っちゃダメだ!」
私は真顔で拒絶したが、それを明太子ちゃんは冗談だと受け取って、ますますカッパに触りたがった。
「カッパに触らせて〜!」
「止めてくれ〜!犯罪になってしまう!」
「オジさんのカッパに触る〜!カッパ〜!」
信号が青になったので、私は駆け出した。
「あ〜、オジさん、待て〜!」
全速力で走って、明太子シスターズをまいてしまうと、駅の近くの小さな公園でベンチに座って一息吐いた。
「明太子シスターズにカッパの中身がバレたら、大変なことになっていた」
「うむ。二度と駅前スーパーに出入りが出来なくなるところでござった。いわゆる出禁でござる」
「お前のせいだ」
カッパのシン太郎左衛門を首から外して、エコバッグに投げ入れた。
その後、私は駅前の中華料理屋で半チャンラーメンを食べ、スーパーで夕食のオデンを買って家に帰ったのであるが、坂道を登りながら十年来我が家の米びつは空っぽで、カップ麺もお菓子も先週末食べ切った上に、一昨日封を切っていないケチャップ以外の調味料を冷蔵庫から一掃したことを思い出した。
「犯人は俺自身だったんだ」
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。JR新快速を飛ばして、れもんちゃんに会いに行った。
もう言わなくても分かるだろうが、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一であり、親子共々、ステキな時間に酔い痴れた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「最近、危険なぐらいボケまくってるんだ。ホントに記憶が怪しくなってきたよ」
「そうなんだね」
「うん、そうなんだよ。クラブロイヤルに来るのは大丈夫だと思うんだけど、帰りが怪しいよ。そのうち帰り道を忘れて、家に帰れなくなるんじゃないかなぁ」
「でも、大丈夫だよ〜」
「どうして大丈夫って分かるの?」
「だって・・・」
「だって?」
「だって・・・れもんのお客さんだから?」
疑問形で返されたので、一瞬戸惑いを感じはしたが、確かに、れもんちゃんのお客さんになってから、いいことがホントに沢山あった。れもんちゃんのリピーター特典の一つとして、「決定的にはボケない」というのがあっても別に変ではないと思った。
「そうだね。れもんちゃんのお客さんだから大丈夫だね」
そう言うと、れもんちゃんは、それはそれは可愛い笑顔で頷いたのであった。
シン太郎左衛門とカッパのぬいぐるみ 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、明太子シスターズの妹の方に遭う 様
ご利用日時:2025年1月26日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。サムライではないらしい。私は、武士とサムライは同じものだと思っていたが、シン太郎左衛門は、武士とサムライを並べたら違いは一目で分かると言う。一方、モモンガとムササビは名前こそ違うが、同じ動物のオス・メスだとも言う。これらについて、私には言い返すだけの知識がないが、何か騙されている気がする。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。
昼前に目を覚ますと、モコモコパジャマの中で寝言を言っているシン太郎左衛門を揺すって起こし、
「おい、シン太郎左衛門、今日は駅前のスーパーに行かねばならぬ」
シン太郎左衛門は寝ぼけた声で、
「うむ。ご苦労」
「そうではない。お前も来るのだ」
「拙者は、スーパーに用はない。ここに残り、頑張ってお留守番を致しまする」
「留守番は要らん。この家では、元々、呼び鈴が鳴ろうが、電話が鳴ろうが出ない。外出時には一応鍵をかけるが、この家には盗るモノがない。家電は全部壊れかけだし、特にパソコンはそろそろ買い換えたいから早く持って行ってもらいたい。こんな家の留守番なんて無駄の極みだ」
「なるほど。では、拙者は家に残って、泥棒が来たときに、『他のものはともかく、どうかパソコンだけは持って行ってくだされ』とお願いし、『今時こんな低スペックのパソコンなんて要らないよ』と断られたら、『そこを何とか』と食い下がりまする」
「ああ、それはいい考えだ」
「どうにかパソコンを引き取ってもらうことに決まれば、泥棒殿とともに家具一式を運び出す」
「それは助かる。ただ、今日は、一緒に駅前のスーパーに付いて来てもらう必要がある。れもんちゃんの提案で、明太子シスターズの妹の方に遭って、その顚末を記してクチコミとすることになっているからな」
「ああ、そうでござった。しかし、明太子ちゃんの妹は、昨年末に骨折したとのこともあり、今日、売り場に立っているという保証はありますまい」
「いなかったら、しょうがない。そのときは、そのときだ。何にせよ、れもんちゃんとの約束は、命に代えても果たさねばならない」
「うむ。それは、シン太郎左衛門ズの鋼の掟でござる。では、参りましょう」
ということで、適当な外着に着替えて、エコバッグを持って、外に出た。暖かくて、よい天気だった。
駅前のスーパーに到着して、中に入ると、客は疎らで、陽気で軽快な店内ソングは逆に寂しさを際立たせていた。
「シン太郎左衛門、この店、土曜日の昼は、こんなだったっけ?」
「『こんな』と言われても困る。今、外に出てもよろしいか」
「それは困る。ちょっとした犯罪になってしまう。『こんな』というのは、客が少ないように思うという意味だ」
「父上、ご存じなかったか。先日、国道沿いに大型スーパーがオープンしてござる」
「へぇ〜、そうだったんだ。お前、どうして、こんなことを知ってるんだ?」
「新聞の折込広告で読んだ」と、言った後、シン太郎左衛門は新しい大型スーパーの所在地を説明した。
「なるほど、あそこか。我々の家からも車なら15分かからんな。大変に便利だ。でも、俺はペーパードライバーで、車も持ってないからな。ちっとも便利じゃない。そんな店、無いのと一緒だ」
「うむ。我々の暮らしを支えてくれているのは、この駅前スーパーと、同じく駅前の中華屋さん、そして一番大事な福原のクラブロイヤル(れもんちゃん)、この3店舗でござる」
「ホントだよ。どれ一つ欠けても、命に関わるぐらい大切な、無くてはならぬものだ」
そんな話をしながら、店の中を歩いていると、特設コーナーの辺りから明太子ちゃんの声が聞こえてきた。
「あっ、明太子ちゃんの声がする。シン太郎左衛門、やっぱり今日は、明太子ちゃん(姉)の出勤日だったんだ・・・今日は何を売ってるんだろう」と、耳を澄ましてみると、
特製のカラシ蓮根、美味しいよ〜!
シャッキリ、シャキシャキ、素敵な歯応え!
これぞ、ベーリング海の恵み・・・
明太子ちゃんの口上は、別の声に遮られた。
「お姉ちゃん、蓮根は魚じゃないから、ベーリング海では採れないの!」
「あっ、ごめん。また間違えた・・・でも、しょうがないじゃない。昨日まで、カズノコ、売ってたんだもん」
「ちゃんとやってよね!被り物も着けてくれないし」
「だって、この被り物、カラシ蓮根じゃなくて、ライオンみたいなんだもん」
「そりゃ、ライオンの被り物だもん。まだギブスが取れてないし、新しいのを作れる訳ないでしょ」
「何それ?なんで、ライオンの格好して、カラシ蓮根を売らなきゃいけないの?」
特設コーナーで、姉妹は言い争っていた。今日、明太子ちゃんは、カラシ蓮根ちゃんであり、そのカラシ蓮根ちゃんに販売技法を授けているギブスの女の子こそ、明太子シスターズの妹の方に違いなかった。
明太子ちゃんは、ボーッと二人を見ている私の存在に気づいて、
「あっ、オジさん!」と笑顔を浮かべた。
その声につられて振り返りざま、私と目線が合ったギブスちゃんは、慌てて明太子ちゃんの背後に隠れた。そして、姉の肩越しに私の様子を窺っていた。姉は若干ポッチャリ系で、妹はスラッとしていた。
「オジさん、今日、わたし、カラシ蓮根を売ってるの。オジさん、買って〜」と明太子ちゃんは甘えるように言った。
「私は、この年になるまで、一度として、カラシ蓮根なるモノを食べたことがない。食べれるかなぁ」
「大丈夫だよ。熊本の名物なんだって。きっと美味しいよ」
「君自身、食べたことがないのか?」
「ないよ〜。辛いの苦手だもん。『カラシ』って聞いただけで、お腹が痛くなるよ」
「売り場を替えてもらったら?」
「ホントそう。ねえ、カラシ蓮根、買って」
「いいよ」
「三本買って〜!今日はサービスできないけど、お願いします!!」
「ああ、いいよ」と言いながら、値段を見て驚いた。
「カラシ蓮根って、こんなに高いの?」
「でしょ?高いでしょ?ビックリでしょ?ああ、これ、私の妹」と、明太子ちゃんに前に押し出されそうになるのを、ギブスちゃんは姉の腰にしがみついて踏みこたえた。
「時々すごく人見知りになるの。変な子なの」
「人見知りだって、別にいいよ。それよりも、国道沿いに新しいスーパーが出来たんだってね」
「そうなの。すごく大きなスーパー」
「大型スーパーなんかに負けちゃダメだよ。応援してるから、絶対に負けないでね」
「うん。分かった。頑張る」と明太子ちゃんが言うと、ギブスちゃんも「昼のお客さんは少し取られたけど、思ったほどのダメージはなかったよ」
「そうか。シッカリ者の姉妹がいれば、このお店は大丈夫だ。店長に言って、バイト代、上げてもらうんだよ」
「うん。そうする」と二人は微笑んだ。
「それから、売り文句には必ず『れもんちゃんも大絶賛!』の一言を入れるようにね。れもんちゃんマジックで繁盛間違いなしだ。くれぐれも『シン太郎左衛門の大好物』とか言っちゃダメだよ。呪われて、一つも売れなくなるからね」
「うん。分かってるよ」
二人に見送られて、レジに向かった。
ギブスちゃんが人見知りであるように、私は初めて口にするモノに強烈な警戒心を感じてしまう人間だった。
カラシ蓮根は、カゴの中でズッシリと重かった。私の心も重かった。
家に帰ると、隣家の呼び鈴を鳴らして、「あら、お久しぶり」と口調は愛想がいいが目は笑ってない金ちゃんママにカラシ蓮根を全て渡して、それなりに感謝された。「代わりに、普通に食べれるモノを何かくれ」と言って、変な顔をされたが、卵1パックに加えて、ビーフジャーキーを1袋もらった。「名前だけは聞いていたが、これがビーフジャーキーか・・・私は、生まれてこの方、ビーフジャーキーなんて食べたことがない。今更無駄に新しいモノにチャレンジしたくないから、これはお宅でどうにかしてくれ」と言って、金ちゃんママに返した。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんデー。JR新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、言うまでもなく宇宙一に宇宙一であり、その素晴らしさは規格外もいいところであった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、
「昨日、明太子シスターズの妹の方に遭ったよ」
「そうなんだね〜。どんな女の子だったか、クチコミに書いてね」
れもんちゃんの笑顔が眩しかった。
れもんちゃんはホントにホントに素晴らしいのである。
帰りの新快速の中、れもんちゃんの素晴らしさについて、シン太郎左衛門とシミジミと語り合っていたら、感動の涙が自然と溢れ出してきて、最寄り駅で降りて駅前の中華屋で麻婆丼を食べている間も、家に戻って風呂に入ったり歯磨きしたりしてる間も、合計で約4時間半、私たちは感涙にむせび続けたのであった。
れもんちゃんは、それぐらい凄いのである。
シン太郎左衛門、明太子シスターズの妹の方に遭う 様ありがとうございました。
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Next>>
3回続けて料理をテーマにしたことから、シン太郎左衛門、そろそろ自分が何か作るという設定が巡ってくるに違いないと、最近カッパ巻きの練習をしている。お気に入りのカッパの着ぐるみを着け、板さんの鉢巻きをして、「へい、いらっしゃい」と元気いっぱいだ。ただ、シン太郎左衛門のカッパ巻きにキュウリは入っていない。レンチンご飯を海苔で巻いただけだが、カッパが巻いたから『カッパ巻き』だと言う。ご飯は均等でないし、巻きも緩く、尖端恐怖症で包丁が使えないから切られてもいない。およそ不格好な具のない海苔巻きだ。当然美味しくない。
昨日は土曜日。れもんちゃんイブ。前夜の飲み会で深酒をして帰宅し、暖房を効かしたままのリビングのソファーで、ドテラを布団代わりに眠りに落ち、そのままグーカー爆睡していた。夜明け過ぎにトイレに行き、戻って再び眠りに落ちた。
どれくらい時間が経ったのか、小さな物音に『そろそろ昼かな』と目を覚ますと、薄明かりの中、目の前に捻り鉢巻きのカッパがいた。着ぐるみの表情そのまま、愛想よくニコニコしていた。
「へい、いらっしゃい」
カッパのお寿司屋さんだった。
「こんな朝は俺の好みではない」
「旦那、何握りましょう」
「さっき『チン』という音を聞いた気がする。お前、また大事なレンチンご飯を勝手にチンしたな」
「何握りましょう」
「お前には何も握れない。着ぐるみの構造上、辛うじて巻くことが出来るだけだ」
「今日はイキのいい海苔が入ってますよ」
「そんなはずはない。この家にある寿司海苔は、数日前に駅前スーパーで買って、その日に封を切ったものだ」
「今日はイキのいい海苔・・・」
「分かったよ・・・適当に・・・巻いてくれ」
「へい」と威勢よく言うと、シン太郎左衛門は袋から海苔を1枚取り出して広げ、スプーンでご飯を盛り付けだした。その格好は雪掻きを連想させた。カッパ巻き作りは、シン太郎左衛門にはそれなりの重労働だから、時間がかかる。思わずまどろんでいると、「へい、お待ち」と、急に鼻先に海苔巻を押し付けられて、ビックリして叫びそうになった。
渋々ソファーから身体を起こすと部屋の明かりを点け、シン太郎左衛門から黒い物体を受け取った。シン太郎左衛門が直接触れていないので、辛うじて食べてよいだろうと、恵方巻のように丸かぶりした。当たり前に海苔とご飯の味がして、微かにぬいぐるみの匂いがした。
「次、何握りましょう」
「もう何も握って欲しくないし、巻いて欲しくもない」
「で、何握りましょう」
「・・・人の言う事聞いてた?おアイソを頼む」
「へい」
スマホを見ると、まだ8時過ぎだった。仕事が休みの日は昼前まで寝ないと、平素の疲れが抜けない。めちゃくちゃ腹が立ってきた。
「もう少し寝かしておいて欲しかった」
シン太郎左衛門は勘定書を差し出して、
「カッパ巻き一本、締めて12円でござる」
「・・・ずいぶん安いね」
「では、12万円にしよう」
「今度は高すぎる」
「ではタダでよい。その代わり、これから駅前スーパーでまたレンチンご飯と寿司海苔を買ってくだされ」
「ダメだ。もう海苔は買わん!ここしばらく付き合ってやったが、こんなカッパ巻きがあるか!食べ物を無駄にしたくないという気持ちだけで食べてきたが、れもんちゃんに知られたら、また叱られる」
「反省させられますか」
「当たり前だ。『そんなのカッパ巻きじゃないよ〜。反省した方がいいよ〜』と言われる。『美味しくて栄養のあるものを食べないと元気になれないよ〜』という、れもん姫の優しくも、ありがたいお心遣いだ」
「では、父上は喜んで反省なされよ」
「イヤだ!もう3週連続で反省した。もういい」
「では、カッパ巻きの件は・・・」
「れもんちゃんには秘密にしておく」
そして、今日は日曜日。待ち焦がれていた『れもんちゃんデー』。
JR新快速『スーパーれもんちゃん号』に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、いつにも増して宇宙一に宇宙一で、れもんちゃんのグレードアップの度合いから、宇宙が現在も急速に膨張していることを実感できた。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、シン太郎左衛門の『カッパ巻き』を食べたことを隠すために、「最近、カッパ巻きを食べたことなんてないよ」と言ったが、れもんちゃんは怪訝そうな顔をして、「ウソついても分かるよ~。『カッパ巻き』って名前の、変な海苔巻きを食べた顔してるよ〜」
「バレちゃってるんだ」
「バレてるよ〜」
「じゃあ、何で『反省した方がいいよ〜』って言わないの?」
れもんちゃんは少しモジモジして、
「この前の女の子休暇中にカップ麺を食べちゃったよ〜」
「え〜!カップ麺はニキビができたり、美容の敵だから食べないって言ってたのに」
「女の子休暇中だったし・・・たまに食べたら美味しいよ〜!」
れもんちゃんは元気に叫んだが、少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「・・・れもんちゃん、反省した方がよくない?私も『カッパ巻き』の件、反省するから」
「う、うん・・・反省するよ~。それと、『カッパ巻き』と『カップ麺』は少しだけ似ているよ〜」
「・・・そんなことを付け足したら、反省してるようには見えないよ〜」
れもんちゃんは真面目に生きている、とっても健気な、宇宙一に可愛い女の子なのだが、不思議な部分と真面目な部分が絶妙なバランスで混じり合っていて、そのブレンドの加減は日によっても適度にバラついているんだよ~。だから、れもんちゃんに関して記述するのは、とっても難しいよ〜。