ミヤモト様ありがとうございました。
ご来店日 2024年02月19日
シン太郎左衛門とダンボールのラケット 様ありがとうございました。
ご来店日 2024年02月11日
シン太郎左衛門と海外ドラマ2 様ありがとうございました。
ご来店日 2024年02月04日
シン太郎左衛門の原点回帰 様ありがとうございました。
ご来店日 2024年01月30日
レモン農家様ありがとうございました。
ご来店日 2024年01月28日
シン太郎左衛門とれもんちゃんのネイル 様ありがとうございました。
ご来店日 2024年01月21日
シン太郎左衛門と俳句 様ありがとうございました。
ご来店日 2024年01月16日
シン太郎左衛門とれもんちゃんのニセモノ様ありがとうございました。
ご来店日 2024年01月08日
シン太郎左衛門、初詣に行く様ありがとうございました。
投稿者:シン太郎左衛門と金ちゃんの就職 様
ご来店日 2024年02月25日
一昨日、金曜日の朝、やはり5時にシン太郎左衛門のけたたましい掛け声で起こされた。
「シン太郎左衛門、稽古は1時間と決めてるなら、6時起きにしてくれないかなぁ。無駄に1時間早起きだ」
「うむ。考えておく」
「考えなくていい!6時に起きろ!」
シン太郎左衛門の稽古が終わると、新聞を取りに表に出た。辺りはまだ暗く、霧雨が降っていた。門扉の向こうに人影が見えたと思ったら、ラッピーとモンちゃんを連れた金ちゃんだった。傘もささず、手には竹刀を持っていた。
「おお、金ちゃん。もしかして、朝練か?」
「はい。丘の上の公園で竹刀を振ってきました。あれから毎朝やってます」
「ご苦労なことだ。もしかして、5時起きか?」
「はい。5時起きです」
「やっぱりそうだ。馬鹿は決まって5時に起きる。金ちゃん、寒くないのか?」
「暑いぐらいです。稽古をしたから、全身がポカポカしてます」
「そうか。俺は寒い。でも、股間はポカポカしている。朝練をしたからな」
「・・・相変わらず発言が意味不明だなぁ」
街灯の灯りの中で、モンちゃんは心なしかスリムになったように見えた。ラッピーは澄んだ綺麗な瞳で、こちらを見詰めてくれていた。
「モンちゃんのダイエットが順調に進んでいるようで安心した。ラッピーについては何の心配もない。元々スリムなナイスボディだし、なんて美しい目をしているんだ。宇宙で二番目に綺麗な目をしている。流石は、『チームれもん』のメンバーだけのことはある」
「・・・『チームれもん』?ああ、例の『宇宙一のれもんちゃん』の仲間のことですね」
「そうだ。金ちゃん、お前、学習してるじゃないか。この調子で、れもんちゃんに関する学びを深めていけば、明るい未来が待ってるぞ」
金ちゃんは、何とも言えない表情を浮かべた後、「あっ、そうだ。僕、4月から就職することになりました」
「なんだと?!どういうことだ?ちゃんと説明しろ」
「大したことじゃないです。今仕事をもらっている会社から社員にならないかって誘われて、条件もいいし、お世話になることにしました」
「正社員か?」
「正社員です」
「止めとけ、止めとけ。サラリーマンなんてくだらない。今のお前の生き方の方がずっといい。俺は30年以上もサラリーマンをやってきたが、人生を豊かにする要素なんて一つもなかった。そんなものになるぐらいなら、武士になれ」
「武士ですか?」
「そうだ。武士になれ。武士はいいぞ。思い付いたときに木刀を振って、偉そうな顔をして語尾に『ござる』を付けて下らないことを喋ってるだけだ。これ以上ない楽な仕事だ。そのくせ、いい思いができる。週に1回、れもんちゃんに会える。極楽だ」
「でも、どうやったら、武士になれるんですか?」
「生まれ変わるしかない。一度死ぬんだな」
「・・・そんなの嫌だなぁ」
「何を言ってるんだ!チャンスに賭けろ。人生は一度しかないんだぞ」
「でも、死んだら、その一度を使い切っちゃうじゃないですか」
「・・・ホントだ。じゃあ、武士は諦めろ。これまでどおりニートでいろ」
「でも、僕はニートじゃないですよ」
「見た目がニートだ。小学生でも恥ずかしくて着れないような、アニメキャラのTシャツを堂々と着ているお前は輝いている。それに引き換え、スーツ姿のお前なんて見られたもんじゃない」
「その点は大丈夫です。服装に自由な会社だから、スーツなんて着てる人はいませんよ」
「ふざけたことを言うな。サラリーマンならスーツを着ろ」
「言ってることが滅茶苦茶だ」
「うるさい。お前が隣の家でゴロゴロ過ごしていることを、俺がどれだけ頼もしく思ってきたか。俺に何かあったらお前に世話してもらおうと思ってたんだぞ」
「ええぇ?そんな恐ろしいことを企んでたんですか?」
「誤解するな。大したことじゃない。別にお前に車椅子を押してもらったり、オムツを替えてもらおうなんて料簡はない。俺は若いことに無茶をしてるから、後2、3年でコロッと死んでしまう。死んだら、すぐにお前にLINEを送る。『今死んだ』というメッセージを受け取ったら、俺の家の二階に上がって、書斎のパソコンを立ち上げろ」
「でも、オジさんの家の鍵は?」
「なんだ、まだ気が付いてなかったのか?お前の家の庭にレモンの木があるだろ。その根っ子のところを掘れ」
「そんなところに合鍵を隠してたんですか?」
「うん。それはともかく、俺のパソコンのログインIDは『シン太郎左衛門』で、パスワードは『れもんちゃん好き好き』だ。ログインしたら、ブラウザを立ち上げろ。ホーム設定は、クラブロイヤルの『お客様の声(投稿)』になってるから、投稿者氏名は『シン太郎左衛門と俳句2』としろ。訪問日も忘れるなよ。女の子は当然れもんちゃんだ。文面はまず『(番組内容を大幅に変更してお送りしております)』として改行、その後に机の2段目の引き出しにある『シン太郎左衛門 辞世の俳句集(傑作選)』と書かれたノートから約500の俳句を一字一句間違えずに打ち込んでから送信しろ」
「拙者からも、よろしく頼む」とシン太郎左衛門が付け加えたが、金ちゃんには聞こえなかっただろう。
「ここまでは覚えられたか?」と訊くと、金ちゃんは狼狽えた様子で、
「理解も出来ないものを覚えられませんよ。ところで、その『シン太郎左衛門』ってオジさんのハンドルネームなんですか?」
「なんだと?こんな馬鹿と一緒にするな!」
シン太郎左衛門も、いきり立ち、「それはこっちのセリフでござる」と言い返したが、この言葉は金ちゃんには聞こえなかったはずだ。
「金ちゃんが余計な口を挟むから、親子喧嘩になるところだったぞ。まあいい。投稿が済んだら、家の全室を回って、俺とシン太郎左衛門の死体を探し出せ」
「なんで死体が2つもあるんですか?」
「それは大したことじゃない。取り敢えず、俺の死体を見つけてくれたらいい。ただ、俺のズボンのチャックが内側から開いていたら、念のために周りに変なモノが落ちてないか捜してくれ・・・あっ、ごめん。チャックが内側から開いたか、外側から開けたかを区別する方法がないな。『俺のズボンのチャックが開いていたら』に訂正する」
「オジさんって、やっぱり普通じゃないです」
「そんなことを言うのは、お前がまだ本物の変人を知らない証拠だ。俺の学生時代の知り合い、A、B、CやK先輩の誰か一人にでも会ったら、一瞬にして認識が改まる。俺が飛んでもない常識人に見えてくる。会うか?」
「・・・遠慮しておきます」
「それが正しい選択だ。じゃあ、そんな常識人の遺言を続けるぞ。俺たちの死体を見つけたら、おぶれ。そして、丘の上の公園に持っていって焼くんだ」
「でも、そんなことをしたら、法律違反です」
「大丈夫。当人がそうしてくれと言っているんだから問題ない。それに、丘の上の公園は、いつ行っても無人だ。誰にも気付かれない。もし、誰かに見咎められたら、『狼煙を上げて、知り合いのインディアンに就職祝いのパーティの招待状を送ってる』と言えば、それ以上、何も訊いてこない」
「・・・分かりました」
「俺とシン太郎左衛門がすっかり灰になったのを確認したら、コンビニのレジ袋に入れて持ち帰れ。新しくてキレイなレジ袋だぞ。お前が鼻をかんだティッシュとかを一緒に入れるなよ。ラッピーやモンちゃんのウンコと一緒にしたら、呪い殺すからな。持ち帰ったら、涼しくて快適な場所に保存しろ。そして、その後、クラブロイヤルに電話して、今後、れもんちゃんが在籍する限り、お盆時期の日曜日に、『シン太郎左衛門ズ』が、どこからともなく現れるから、予約(110分コース)を入れてくれるように頼んで、取り敢えず10年分のお金を前金で払いに行け。そして、れもんちゃんには、俺が『呆気なく死んじゃったけど、お盆になったら絶対に会いに行くから、お経を唱えて撃退しないでね』と言っていたと伝えてくれ」
シン太郎左衛門が「拙者からもお頼み申す」と言ったが、金ちゃんの耳には届かなかったものと思う。
「ここまでは覚えたな?」
「一つとして、頭に残ってません」
「なんだと?いやぁ、寒くてたまらん。いよいよ風邪を引きそうだ。ここから一気呵成に俺の遺言の続きを捲くし立てるから、一言一句正確に記憶しろ」
「だから、無理です」
「さて、俺とシン太郎左衛門の灰の処分だが、俺は重度の閉所恐怖症だから、お墓に納めるなんて論外だぞ。一瞬にして髪が全て真っ白になって、気が狂ってしまう。日本全国の名所旧跡に散骨しろ。300か所以上に分散させろよ。俺は、どんな美しい景色でも5分で飽きるからな。移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ。以上、覚えたか?」
「一つも覚えてません。後で纏めてLINEを送ってください」
「無茶を言うな!今言ったことは、『移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ』の部分を除いて、最初から最後まで完全な思い付きだぞ。言った尻から忘れたわ。それに、お前は、もう4月から家にいなくなる。転勤する可能性さえある。そんなヤツ、頼りにならない」
「でも、仕事はこれまでどおりテレワークだから、4月以降もずっと家にいるんですけど・・・」
「なんだ、それ?変な会社。ああ、寒い。もう凍死寸前だ。俺はそろそろ出勤の準備をするからな。アディオス・アミーゴ」と踵を返したとき、金ちゃんが、
「今日は祝日なのに、オジさん、出勤なんですか?」
私は振り向いて、「えっ?ああ、忘れてた。まあいい。お前は、お前が良いように生きろ。俺のことなど心配するな。一応、『就職おめでと』」
リビングに戻ると、テーブルの上に新聞を放り投げ、
「シン太郎左衛門、聞いたか?金ちゃん、就職するってよ」
「うむ。で、一体何が変わりまするか」
「何も変わりはしないさ」
・・・と、今日れもんちゃんに会った後の帰りの電車の中で、こんな風にクチコミを作成した最中に、下書きに使っているメールソフトが突然ハングした。立ち上げ直すと、全文消えて無くなっていた。
「シン太郎左衛門、大変だ。クチコミの原稿が飛んだ」
「どこに?」
「無くなったという意味だ」
れもんちゃんの余韻に浸るのを邪魔されたシン太郎左衛門は「大したことではござらぬ」と冷淡に言い放った。
「30分以上掛けて書いたんだぞ」と言ったものの後の祭りだった。
「まあいい。考えてみれば、『移り気で、フラフラと腰の据わらない俺を魅了し続けられるのは、れもんちゃんだけだ』の箇所を除けば、思い付きを書いただけだから、消えても惜しくない」
「うむ。れもんちゃんが宇宙一可愛いから、他のことはどうでもいいのでござる」
そう。確かに今日も、れもんちゃんは宇宙一で、宇宙一可愛くて、『可愛かった』。他は、消えてなくなったところで、別にどうでもいいことばかりだった。
シン太郎左衛門と金ちゃんの就職 様ありがとうございました。