福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
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れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様
ご利用日時:2023年7月23日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当は違うかもしれない。
日曜日の朝。暑いし湿度も高いから、起きると、まずシャワーを浴びた。グラスに注いだアイスコーヒーをテーブルに置くと、全裸のまま新聞を開いた。
「父上、何を泣いておられる」
「泣いてはいない。涙が出ただけだ」
「まさか、シン太郎左衛門シリーズの最終回でござるか」
「違う。そんなことで涙は出ない。上の文章、前回の出だしと全く同じだろ。まさかとは思ったが、また夢オチかもしれないと、頬をつねってみたが、痛いというほどでもない。『またもや、してやられたか』と、最終確認の積もりで鼻の上を拳で叩いてみたら、まともに痛くて涙が出てきた。もう少し手加減すればよかった」
「父上は、近頃珍しい古典的な馬鹿でござるな」
「何とでも言え。れもんちゃんに会う日、俺の心はとっても広い。馬鹿と呼ばれようが、鼻が痛かろうが、全く問題にならん。車に跳ねられて肋骨の2、3本折れても、『全然大丈夫』と言ってしまいそうだ」
「それは尤も。れもんちゃんの力は恐ろしいほどでござる。ちなみに、拙者の場合、れもんちゃんに会う日の朝は、無性に歌いたくなりまする」と、私の同意を求めることもなく、全777番あるとも言われる曲を歌い始めた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて・・・
シン太郎左衛門は否定するが、この1番を聴く限り、『れもんちゃん音頭』以外の曲名は考えられなかった。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番れもんちゃん
と、1番が終わり、1番以外で唯一聴いたことのある27番は二度と聞きたくなかったし、とにかく何番だろうが、変なのが来たら、すぐに止めようと身構えていると、「は~いのはい・・・」と民謡調で来たので、ひとまず胸を撫で下ろした。
は~いのはい、は~いのはい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なるエロ美人
立てば芍薬、座れば牡丹
歩く姿もエロ美人
あ~あ、フェロモンが芳しい・・・
「ちょっと待て」
興が乗ったところで水を注されたシン太郎左衛門は不満げに、「なんでござるか」
「歌詞に品がない」
「品がないとは失礼でござろう」
「そうだ。この歌詞では、れもんちゃんに失礼だ。盆踊りに使えない」
「盆踊りに使う予定はごさらぬ」
「以前、この歌の名は『れもんちゃん音頭』ではないとキッパリ断言したのに、今聞けば、この歌は自らを『れもんちゃん音頭』と明言しておる」
「なんの。この歌全体は未だ名を持ちませぬ。初めの10番ほどを便宜上『れもんちゃん音頭』と呼んでおるばかりでござる」
「便宜上でも音頭と呼ぶからには、盆踊りを意識しなければならない」
「なるほど、そういうものでござるか」
「当たり前だ。一流の音頭は盆踊りで使われるものだ。れもんちゃんは、一流ではないのか?」
「聞き捨てなりませぬ。れもんちゃんは超一流の面々が反り返って仰ぎ見なければならぬほどの高みにおられるお方じゃ」
「もちろん分かってる。当然そうだ。だから仮にも、れもんちゃんの名を冠する以上、盆踊りで使えるような歌詞にすべきだ。そうして、我らが町内会の盆踊りを手始めに『れもんちゃん音頭』を売り出そう」
「本気でござるか」
「うむ。新型コロナ以降、開催されていないが、それ以前の、この町内会の盆踊りについて気が付いたことはないか?」
「う~む。選曲が出鱈目でござった」
「だろ?そうなんだ。我らが町内会の盆踊りで使われていた音源には、日本各地の余り有名でない民謡が脈絡なく収められていた。地元の音頭も含まれてはいたが、扱いは他の曲と同じだ。あのCDを編集したのは誰だと思う?」
「町内会長のY殿でござろう」
「世間では、そう思われているが、実は違う。あのCDを纏めたのは俺だ。まあ聴け。町内会長のYさんは、元エリートサラリーマンらしいが、東京本社勤務のときに住んでいた社宅の隣の公園で、毎年盆踊りになると延々と『東京音頭』が繰り返されることに辟易していたらしい。これでは新しいことにチャレンジする姿勢や創造性は育まれないと、Yさんは考えた。それで退職後に移り住んだこの町で町内会長を任されたとき、まず第一に手を着けたのが、盆踊り改革だったのだ。その当時は、この町の盆踊りでも、地元の音頭を飽きもせず繰り返し流していたからな。しかし、Yさんは音楽に詳しくないから、誰か選曲の手助けをしてくれないかと、よりによって盆踊りの音楽に全く無知な俺に頼ってきた訳だ」
「こんな音痴に頼むとは・・・ひどい話でござる」
「全くだ。寄合のとき、俺が『それなら、なんとか音頭とか、なんとか節とか、民謡の類いを適当に寄せ集めたCDを作りゃいい』と言ったら、その通りになってしまった。盆踊りの当日は大混乱で、『こんなので踊れるか』と非難轟々だったが、Yさんは懲りることなく、翌年以降も同じ路線を突っ走ったのだ。ただ数年経つと、みんなその環境に慣れてきて、聴いたこともない曲に合わせて、何となく踊るようになっていた。もちろん、一切統制が取れてない、てんでばらばらの踊りだったがな。慣れというのは大したもんだ」
「父上、延々とY殿の話をしておられるが、これは、れもんちゃんのクチコミでござるぞ」と、シン太郎左衛門が見かねて口を挟んできた。
「分かってる。分かってる。もう終わる。俺も好きでYさんの話をしている訳じゃない。まあ、そういうことで、この町内会は全国でもトップレベルで盆踊りの音楽に対して革新的なのだ。だから盆踊りが復活したとき、『れもんちゃん音頭』を流しても、歌詞の中で『エロ美人』だの『フェロモン』だのと言わなければ、この町の人達は何の違和感もなく、踊ってしまうのさ」
「う~む、なにやら変な夢を見ているような感覚じゃ」
「俺も、ここ最近ずっとそうだ。れもんちゃんと会っている時間だけが素敵な夢で、それ以外の時間は全て変テコな夢だ。それは、それでいい。お前の『れもんちゃん音頭』、なかなか面白い。この町内の人々は即興で踊るのに慣れてるし、きっと喜んで踊るだろう。それを撮影して、動画サイトにアップしよう。『大人気!!れもんちゃん音頭』とタイトルを付ける。なんとも楽しいな」
「とんと分からん。楽しい以前に、それは、れもんちゃんの許しを得ずに、やってもよいことなのでござるか」
「多分やってよいだろう。他の町内会から引き合いがあるだろうから、概要欄に『れもんちゃん音頭の音源をご希望の方は以下にご連絡下さい』として、Yさんのメルアドを載せておく」
「Y殿には寝耳に水・・・」
「大丈夫だ。ちゃんと説明しておく。なかなかいい曲だから、瞬く間に日本中の盆踊り会場で流れることだろう。そのうち誰かが『ところで、れもんちゃんって何者だ?』と疑問に思う、ネットで検索する、クラブロイヤルのホームページにたどり着く、そして、このクチコミを呼んで納得する。れもんちゃんの全国的な知名度がガッと上がる」
「今日の父上は変でござる。なんだか嫌な予感。もしや、今回は拙者の夢オチではござらぬか」
「夢オチ?何を言い出すことやら」と鼻で笑うと、シン太郎左衛門も照れ笑いを浮かべ、「思えば、父上は作者。夢と消えるはずがない。拙者の思い過ごしでござった」
「ましてや、3回連続で夢オチなんてことは流石にないだろう・・・なんて油断をしてはいけないよ。二度あることは三度あると、ナポレオンの辞書にも書いてある。まあ、そういうことだ」と、私はシン太郎左衛門の肩をポンと叩いて、霧散した。
「な、なんと、作者が突然いなくなってしもうた。こんな途轍もなく長く、しかも書きかけのクチコミを残して、作者が消えてしもうた・・・今度こそ、れもんちゃんに叱られまするぞ」
次の瞬間、シン太郎左衛門は、突然寝返りを打った父親の下敷きになり、「むぎゅ~っ」と呻き声を上げていた。
「苦しい~。父上、起きてくだされ」
「へぇ?なんだ?」
「寝返りは打たぬ約束。まずは仰向けになり、その後、拙者の話を聴いてくだされ」
たった今見た夢の話を、シン太郎左衛門が語り終えると、彼の父親は「うそ~ん。これって、れもんちゃんに会う大事な日の朝5時に起きて聴くべき話か?」と、顔をしかめた。「シン太郎左衛門、もう起こすなよ。目覚ましが鳴るまで『し~』だからね」と、ブランケットを額の上まで引き被った。しかし、すぐに素っ気ない態度を反省したのか、「でも、『れもんちゃん音頭』、ちゃんと作ってみたら?」とブランケットの下から、くぐもった声がした。「れもんちゃんは洒落の分かる娘だし、多分喜んでくれるよ。それと、Yさんは今、盆踊りの復活に燃えているから、今年は無理でも来年は再開するかもな。あの会場の広場に『れもんちゃん音頭』が流れたら、痛快だな。CDに入れて、『これかけて』って言ったら、『はいよ』って流してくれるぐらいの緩い運営だから、出来ない話じゃないしな」
「それは誠でござるか」
「うん。でも777番全部はダメ。10番まで。後、くれぐれも27番は入れないでね。じゃ、おやすみ」
薄暗がりの中、シン太郎左衛門は寝付けなかった。あの偽オヤジの言葉が耳から離れなかった。
「盆踊りに使われてこそ音頭とは、思えば的を射た意見。777番まで膨れた歌だが、元はと言えば、シャナリシャナリと踊る浴衣姿のれもんちゃんに憧れて作り始めたもの。今一度初心に戻り、全10番の『れもんちゃん音頭』を仕上げてみせよう。れもんちゃんの素晴らしさを世に知らしめることは、男子畢生の事業に相応しいのだ」
窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。
松江出張の折、父親は暇に飽かしてスマートフォンで音楽を流し続けていたが、その時すでに、れもんちゃんに捧げる楽曲の構想を抱いていたシン太郎左衛門は全身全霊を傾けて、それら数多の曲の精髄を吸収しようと努めていたのだ。そんなこととは露知らず、父親はすっかり眠りこけていた。
と、『ズンズン』と控え目にバスドラムが鳴り響き、ブランケットを微かに揺らした。父親の寝息を確認すると、小さくドラムスティックが打ち鳴らされ、小鳥の囀りと大差ないほどの小さな音でギター、ベース、ドラムの演奏が始まった。父親は熟睡していたために、ブランケットの中で密やかに響く曲の出だしが、妙に、いや露骨にリンキン・パークの「フェイント」のイントロに似ていることなど、知るよしもなかった。
(続く)
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、セカンド・シーズンの告知(あるいは武士の商売)様
ご利用日時:2023年7月16日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。当人がそう言い張るのだから、止められない。
シン太郎左衛門のシリーズも10回近く書いたと思う。これを期に、今回からセカンド・シーズンとすることに決めた。ただ、シン太郎左衛門が名探偵になって難事件を解決するとか、グルメになって神戸の街で食レポをするとか、そんな新展開・新企画が用意されているわけではない。グダグダの文章で、れもんちゃんを讃える点では、これまでと何も違わない。では何のためにシーズンを改めるのか?自分に喝を入れるためである。本シリーズ、回数を重ねるにつれて、一本がドンドン長くなり、自分でも耐えられない長さになってきた。この流れを絶ち切りたい。そこで今回、当初予定していた「音楽」ネタの第三弾を一旦ボツにして、心機一転、短いことを最優先として筆を執り直した。だから、多分短いものになると思うが、保証はできない。
日曜日の朝。すでに暑いし湿度も高いから、起きるとまずシャワーを浴びた。アイスコーヒーを注いだグラスを片手にテーブルにつくと、新聞を開いた。
今日は、れもんちゃんに会える日なので、シン太郎左衛門は元々ご機嫌な上に、シャワーでスッキリした後、トランクスに押し込まれることもなかったから、解放感も手伝って鼻歌が止まらない。
れもんちゃんに会う日の朝は、我々親子にとって、期待に胸躍る、掛け替えのない時間なのだ。
さて、シン太郎左衛門、急に鼻歌を止めて、「れもんちゃんは大人気でござるな。一週先まで予約完売が続いておりまする」と言ってきた。スマホを見せた覚えもないのに、見てきたような口の利き方は多少気になったが、問い質すほどのことでもない。
「そうだな。すっかり予約困難になってしまった。上限いっぱい売れっ子になったれもんちゃんのクチコミを書いて、なんの意味があるのか、と自分でも思うよ。クチコミしか趣味のない、寂しい人間と世間で思われているかもしれん」
「まこと、れもんちゃんの人気、大変なものでござる。拙者も、れもんちゃんの人気にあやかり、商売を始めようと存じまする」
「商売?武士なのに?」
「うむ。武士とはいえ、いい年をして、いつまでもブラブラしても居られますまい」
還暦近くまでブラブラしてきたのだから、いっそ最後までブラブラしてたらいいのに、と思ったが、誰しも時に変化を求めるものだろう。
「商売って、何するの?」
「れもんちゃんグッズの製造販売でござる」
ほぼ思ったとおりの回答だった。
「ふ~ん。それは難しいだろうな。その前に、お前が『グッズ』という言葉を使うのは感心しないな。武士という設定から逸脱してる」
「向後、気を付けまする。『れもんちゃん小物』でござった」
正直、この話題は、さっさと切り上げたかったが、シン太郎左衛門はまだ先を聴いて欲しそうにしている。気乗りはしなかったが、れもんちゃんに会う目出度い日に親子関係に亀裂を入れたくはなかった。
「一応訊いてやるが、その『れもんちゃん小物』とは何だ?」
「キャップとアクセでござる」
「キャップとアクセだと?」
コイツ、今日は平気な顔して、設定をぶち壊してくる。ただ、一々訂正していくのは、どう考えても面倒だった。
「拙者の友人のイタリア人が腕のよい帽子職人で、高級ブランドの仕事もしております。例えば・・・」と有名なハイブランドの名前を並べた上に、「また拙者、最近メキシコ人の新進気鋭の銀細工職人と懇意にしてござる」
「待て待て。お前の友人にイタリア人やメキシコ人がいれば、四六時中こんな身近で過ごしている俺が知らんはずがない。今回も夢オチか?」
「いやいや、両名とも立派な人物でござる。キャップはロゴこそないが、高級ブランドの品に勝るとも劣らず、シルバーのネックレスやブレスレットも、それはそれは可愛いものでござる」
シン太郎左衛門、普段よりもずっとキリッとした顔をしている。
「でも、れもんちゃんがデザインに協力してくれた訳でもないのに、そのキャップやアクセサリーを『れもんちゃん小物』と呼んでいいのか?」
「キャップは、生地も縫製も最上級の高級感漂うものではありますが、一見したところは単なる黒いキャップでござる」
「れもんちゃん的要素は?」
「生地の手触りは息を呑むほど」
「確かに、れもんちゃんのお尻の手触りには毎回息を呑んでいるが、それが共通しているから『れもんちゃんグッズ』とは、いくら何でもこじつけが過ぎる」
「確かに仕入れの段階では、れもんちゃん小物とは分かりますまい。肝心なのは、その後でござる。ミラノの工房から届いたキャップの一品一品に拙者が気持ちを込めて縫い取りを施しまする」
「お前が?できるの?」
「無論できまする」
「縫い取りって、何を縫い取るの?」
「ツバの上の、つまり額に当たる部分、そこに白い糸を以ち、勘亭流の書体で『チームれもん』と縫い取りまする」
「マジで?」
「いかにもマジでござる。ご要望とあらば、『Team れもんちゃん』とも致しますが、追加料金を申し受けまする」
「そうか・・・」
シン太郎左衛門は元々馬鹿だし、猛暑も加わり、とうとう一線を越えてしまったんだな、と思う一方、そんなキャップがあれば一つ欲しいな、とも感じていた。
「さらにシルバーのアクセサリーは、髑髏がモチーフでござる」
「髑髏?イカツいな。れもんちゃんのイメージから外れてるよ」
「ところが、この髑髏にイカツさはござらぬ。ヘニャっと可愛く微笑んでおりまする」
「ヘニャっと笑う髑髏か・・・それ、可愛いか?」
「これが、とんでもなく可愛いのでござる。思い出してくだされ。れもんちゃんがイタズラっぽく微笑むときの表情、あの小悪魔的な妖しい可愛さ」
「う~っ、確かにあれは刺激的だな」
「れもんちゃんは、ちょっぴりやんちゃな服装を身に纏っても、絶対に可愛いに決まっておりまする。このキャップとアクセは、そんな場面の極めアイテムともなりまするぞ」
私の頭の中で、想像が巨人な積乱雲のように成長してしまっていた。
「う~、いくらだ?」
「値はかなり張りまする」
「だから、いくらだ?」
「拙者の取り分は、工賃込みで一両二分二朱でござる」
「分からん。いろんな意味で分からん。結局いくらなのかも分からないし、今日は徹底的に無視してきた武士の設定に、何故この場面に限って忠実であろうとするのかも分からん」
「お買い求めでござるか」
「1セット買おう」
「れもんちゃんへのプレゼントでござるな」
「うん」
「それであれば、れもんちゃんに、これらを身に着けて写メを撮り、日記に使ってもらうよう頼んでくだされ。出精値引き致しまする」
この言葉に疑念は確信へと変わった。
「貴様、何者だ?その物言い、シン太郎左衛門のものではあり得ない。偽者だ。というか・・・またしても、夢オチなんだろ」
シン太郎左衛門の姿をした者は憤然とした表情を浮かべていたが、口を開くや、「へへへへ」と笑い出した。
「そうだよ。またもや夢オチだよ~ん」
「ひどい話だ。セカンド・シーズンの初回だったのに。もう誰も信じられない」
多分、声を上げていたのだろう。
すぐにシン太郎左衛門が「父上、いかがなされましたか」と問い掛けてきたが、お前の偽者が出たと言う気にはならなかった。
布団に横になったまま、スマホを見た。すでに外は明るかったが目覚ましが鳴るまでには、まだ時間があった。
「特に何もない。もう少し寝よう。ただ、ひとつ言っておきたいのは、れもんちゃんは何を着ても可愛いということだ」
「それは1足す1が2であること以上に、世に知れ亘ったことでござる」
「では、れもんちゃんが黒いキャップを被り、髑髏のアクセサリーを着けていたらどうだ?」
「聞き覚えのない言葉が多ござるが、可愛いに決まっておりまする」
「そうなのだ。れもんちゃんは何をやっても可愛いのだ。それだけのことなのだが、しっかり胸に刻んでおけ。これは、普通のことではないからな」
「畏まってござる」と、シン太郎左衛門は神妙な顔で頷いた。
「それと、二作連続で夢オチを使うなんて聞いたこともない。このクチコミの作者に『ふざけるな』と言っておけ」
結局、ちっとも短くならなかった。シーズンを新しくしたぐらいでは何も変わらないことは証明済みだが、セカンド・シーズンは今回限りとし、次回いよいよサード・シーズンに突入する。
シン太郎左衛門、セカンド・シーズンの告知(あるいは武士の商売)様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と怖い夢様
ご利用日時:2023年7月9日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だ。当人がそう言うんだから、しょうがない。
前回も書いたが、夜なかなか寝付けない。暑さだけでなく、加齢も原因に違いない。エアコンをかけても、ほとんど効果がない。睡眠2、3時間の日が2週間も続くと、さすがにグッタリしてきた。職場でも「夢遊病者」という渾名が付いた。
初めの1週間ほどは眠れぬ夜に付き合ってくれていたシン太郎左衛門だが、先週の某日、深夜12時頃、「もういかん。父上、本日はお先に失礼致しまする」と言って、クルッと丸くなって眠ってしまった。私は独り布団の上に取り残された。
それから1時間ほど過ぎただろうか。眠れなくてもジタバタせず、目を瞑って身体を横にしていれば、身体も脳もかなり回復するという知人の助言に従って、布団の上で大人しくしていた。
と、それまでクークーと寝息を立てていたシン太郎左衛門が突然暗闇の中でムクッと起き上がり、「それにしても、れもんちゃんはいい娘でござるな」と、とんでもない大声を張り上げたので、こちらも驚いて叫び声を上げそうになった。
去年の夏、れもんちゃんに出会って以降、真夜中に突然何者かにどやされた感覚とともに目を覚ますことがしばしばあったが、すべてコイツのせいだったんだ。
シン太郎左衛門は、ムニャムニャ言いながら、また眠りに落ちた。
それから、また1時間ほど経っただろうか。シン太郎左衛門、「れもんちゃんは、誠にお美しい。美しすぎまする」と寝言を始めた。どうやら夢の中、れもんちゃんと二人きりで語らっているようだ。
「いやはや、れもんちゃんから仄かに立ち上る芳香はタダ者ではござらぬな。心を捉えて離さぬ・・・そうそう、れもんちゃんのために、近頃、拙者、唄を作っておりまする・・・『れもんのために唄を作ってくれるなんてステキ』とな。いやいや、ステキなのは、れもんちゃんでござるよ」と、すっかり舞い上がっている。
「『唄が作れるなんて、シン太郎左衛門さんは才能がある』とな。いやいや、才能に溢れているのは、れもんちゃんでござる。れもんちゃんは、男をその気にさせる天才。拙者はただ、浴衣を着たれもんちゃんがシャナリシャナリと踊る姿に憧れておりました故、似合いの唄を思案して、いくつか捻り出したのが、事の始まりでござる。れもんちゃんは、まさに変幻自在でござるによって、様々なれもんちゃんの姿を想い描くと、その一つ一つが唄になり、瞬く間にそこそこの長さとなり申した・・・いやいや、大したことはござらぬ。たった777番の短い唄でござる」
思わず、(クチコミと一緒で、長すぎる。桁を間違えてるよ)と胸の内で呟いた。
すると、シン太郎左衛門、「長すぎまするか」と不安そうに訊き返してきた。もしや、私が胸中で呟いたことが夢の中での、れもんちゃんの発言に影響を及ぼすのではないか?そう思うと、余計なことをして、後で面倒になっても嫌だったから、(長すぎるなんて言ってないよ。嬉しいよ)と取り繕った。
すると、シン太郎左衛門、「今日は拙者、耳の具合がおかしいようじゃ。れもんちゃんの声が妙に野太く聞こえまする」
慌てて、(エアコンのせいかなぁ)と極力れもんちゃんの声に似せようとしたが、
「まるでオッサンの声じゃ。普段の、れもんちゃんの可愛い声ではない。あっ、れもんちゃんの可愛い顔が・・・」
シン太郎左衛門がガバッと起き上がった。「恐ろしい夢を見申した」
「どんな夢?」
シン太郎左衛門は、私の顔をまじまじと眺めた後、首を振り、「言いたくござらぬ」
それから、また更に1時間は経過したに違いない。先の夢が余程ショックだったのか、シン太郎左衛門は「寝るのが怖くなり申した」と、しばらく睡魔に抗っていたが、いつしか眠りに落ちていた。
そしてまた、シン太郎左衛門の寝言が始まった。「れもんちゃんでござるか。誠、れもんちゃんでござるな」と警戒感を顕にしている。
シン太郎左衛門の夢に介入する恐れから、私は精一杯、何も考えないことを我が身に課した。
「ああ、れもんちゃんじゃ。優しい、可愛い、美しい、みんな大好きな、れもんちゃんでござる。聞いてくだされ。先刻、恐ろしい夢を見申した。れもんちゃんだと思って、語り合っておりましたところが、れもんちゃんの声からいつもの愛らしさが消え、姿までウチのオヤジに変じましてござる・・・いやいや、笑い事ではござらぬ。恐ろしゅうて悲しゅうて、魂消え申した」
そこからシン太郎左衛門は、れもんちゃんがどれだけ掛け替えのない存在であるか切々と訴え、戯れにも他の誰か、特に彼の父、つまり私に変身するのだけは止めてほしいと懇願していた。
「くれぐれもお頼み申す。れもんちゃんは、いつまでも、れもんちゃんでいてくだされ」
やってみて分かったが、何も考えないというのは、とても疲れる行為だった。集中の糸が途絶えれば、たちまちシン太郎左衛門の寝言に突っ込みを入れてしまいそうな自分がいた。
「ところで、今後、例の唄を仕上げるにあたり参考に致したい。れもんちゃんの音曲の好みをお教えくだされ・・・ほう、クラッシックとな。それは、いかなるものでござるか・・・なるほど南蛮由来の古式床しき音楽とな・・・モーツァルトがよいと。特にお薦めは『福原行進曲』でござるな。忘れてはいかんので、書き留めまする」
(書き留めてどうする。ギャグだ。『トルコ行進曲』と引っ掛けてるんだ)
「何と言われましたか・・・」
危ない危ない。思わず口を挟んでしまった。
「『何も言ってない』と・・・そうでござるか」
言っておくと、れもんちゃんは話も面白い。突拍子もないことを言って笑わせてくる。ただ、若い女の子だから、『福原行進曲』のようなオッサン臭い冗談は、れもんちゃんらしいとは言い難かった。
「う~む。モーツァルトの『福原行進曲』、れもんちゃんのお薦めにより聴いてみたいと思いながら、いずこよりか『そんなものは存在しない』という声がする」とシン太郎左衛門が呻くように言った。
「考えない」ことを一定以上継続すると、頭の中に溜まった言葉が少しずつ漏れ出してしまうらしい。眠れなくてツラい上に、こんな苦行まで課されては堪ったものではない。
「なんと、『実は、れもんには、クラッシックよりも好きな音楽がある』とな。それは何でござるか」
私自身、れもんちゃんの音楽の好みが分かっていなかったから、この答えには興味津々だった。
「ほう、『デスメタル』とな・・・それは、いかなるものでござるか・・・とにかく落ち着く音楽で・・・夜、寝付けないときには、音量を上げて聴いたら、すぐ眠れる、とな。これはよいことを聞いた。早速、オヤジに聴かせまする」
思わず、「シン太郎左衛門、騙されるな。お前が今話しているのは、れもんちゃんではないぞ」と叫んでいた。
「父上、大丈夫でござるか」
「へぇ?」
「寝言を言われているかと思えば、いきなり大声を張り上げて」
ゆっくりと半身を起こして、こめかみを押さえた。「俺は寝てたのか」
「うむ、寝ながら、ごちゃごちゃと言うてござった」
「そうか。俺は、お前が夢の中で、俺の考えていることに影響を受けてしまう偽れもんちゃんに唆されて、夜中に大音量でデスメタルを流すという夢を見た」
「何が言いたいのか一つも分かりませぬ。ただ、本物のれもんちゃんは、それはそれは気持ちの優しい、心の綺麗な娘でござる」
「そうだ。それに、話していても、楽しいしな」
「れもんちゃんは宇宙で一番でござる。ただ物騒な世の中でござるによって、偽物には気を付けねばなりませぬな」
「れもんちゃんの偽物は許せん」
「うむ。拙者、世に偽れもんちゃんが蔓延らぬよう戦いまする」
「一緒に頑張ろう」
こんなふうに親子で固く誓いを立て、しばし気分を高揚させたが、れもんちゃんは異次元だから、誰が真似てもすぐ化けの皮が剥がれる。つまり、れもんちゃんの偽物は夢か想像の中にしか存在できないので、偽れもんちゃんの撲滅のため、親子揃って立ち上る意味はないという結論に至ったときには、外はボンヤリ明るくなっていた。
「父上、もう朝でござる」
「シン太郎左衛門、日本の夜明けだ」
「れもんちゃんのお蔭でござるな」
「そのとおり」
そう言いながら、私は、せめて後1時間は寝なければ、と考えていた。
シン太郎左衛門と怖い夢様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と眠れぬ夜様
ご利用日時:2023年7月2日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だそうだ。少なくとも当人は、そう言っている。
最近、日々暑さが増している。暑さ、特に寝苦しい夜は大の苦手だ。
先日、日中の熱が籠ったままの布団では、なかなか寝付かれず、エアコンを入れるべきか思い悩んでいると、近くでプ~ンと例の羽音まで聞こえてきた。
「嫌なヤツが来た。シン太郎左衛門、お友達が来たぞ」
「蚊が飛んでござるな」
「シン太郎左衛門、斬れ」
「拙者、無益な殺生は致しませぬ」
「しょうがない。蚊取り線香を焚こう」
部屋の明かりを点けて、蚊取り線香を探してゴソゴソしたせいで、いよいよ目が冴えてしまった。
布団に戻ったが、眠れそうな気がしない。
「父上、寝苦しい夜でござるな」
「うん。これはたまらんな」
「しりとりでも致しまするか」
「絶対に嫌だ」
「では唄でも歌いましょうか」
「お前が歌うか?」
「無論、拙者が歌いまする。父上が歌えば、蚊がポトポト落ちてくる」
確かに私は酷い音痴だった。
「うむ。では、歌ってもらうとするが、俺が『もういい』と言ったら止めること。いいね?」
「畏まってござる。それでは、拙者の新作でござる」
「新作か。それは楽しみだ」と、心にもないことを言っていた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて
出来た行列、五万キロ
・・・
そんな行列の最後尾にいれば順番が回ってくるのは二、三百年は先だろうが、シン太郎左衛門は確かに歌が上手い。これは認めざるを得ない。伸びやかな歌声に、思わず手拍子を取っていた。
宵闇の中、沢山の提灯に飾られた櫓、そして団扇片手に歩く浴衣姿の人々が目に浮かんできた。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番、れもんちゃん
「うん。これは盆踊りにピッタリだ。曲名は『れもんちゃん音頭』か?」
「まだ名を付けてはおりませぬが、『れもんちゃん音頭』とはなりませぬ」
「それは何故だ?どう考えても『れもんちゃん音頭』だろ」
「そうはなりませぬ。先を聞けば分かりまする」
急に妙な胸騒ぎが始まった。
「先って、この曲、めちゃ長かったりする?」
「れもんちゃんのための唄が短いはずがござるまい。たっぷりと先はござる。さらに、れもんちゃんには、様々魅力がござる故、この曲も一本調子とはいきませぬ。どんどん曲調が変わりまする」
「そうなのか」
「先を続けて宜しいか」と訊かれても、すぐに返事をしかねた。
シン太郎左衛門、私の沈黙に心証を害した様子で、「れもんちゃんへの想いを込めた唄でござる。耳でなく心で聴いてくだされ」と、何の安心感も与えてくれないことを言った。
「うん。分かった。ただ俺が『もういい』と言ったら、すぐ止めてな」と再度念を押すと、シン太郎左衛門、「うむ」と大きく頷いた。
そして、私の嫌な予感は当たった。
男と生まれて短い一生
終わるとなったらニッコリ合掌
挽肉丸めて平たく伸ばす
胡椒を少々、でもノー・ソルト
塩の結晶、俺の敵
砕いてやるぜ、しょっぱい野望
塩分0.0000
健康第一、れもんちゃん
「待て、待て。何だ、これ?」
「少し飛ばしまして、27番でござる」
「いや、何番かは訊いてない。なんで、27番はラップ風なの?」
「ラップとな」
「いや、何と言ったらいいか」
私自身、日本語のラップをマトモに聴いた経験がない。シン太郎左衛門が、いつどこで、この種の音楽と接点を持ったのか全く解せなかった。ただ思えば、追求するのも面倒だった。
「まあ、いいや。シン太郎左衛門、確かに、れもんちゃんに、しょっぱさは皆無だな」
「いかにも。塩対応ゼロ。大変な甘さでござる」
「いわば、山のような生クリームに」
「たっぷりの蜂蜜をかけ」
「どっさりとチョコチップをまぶした上に」
「これでもかと練乳をかけ流したぐらいには」
「甘いわなぁ~」と二人の声が重なった。
「れもんちゃんを歌うには、その甘い甘い、蕩けるような甘さだけを言葉にすればよいのであって、塩抜きのハンバーグを作って、俺の健康診断の結果を匂わす必要はないのだ」
「つまり簡潔を旨とすべしということでござるな」
「そういうこと。大体、シン太郎左衛門のクチコミは毎回長すぎるよ」
「書いているのは父上でござる」
「だから反省している。毎回すごく反省してる。次回からは徹底的に短くする」
「父上に短く出来まするか」
街灯が微かに射し込む以外には、ほぼ真っ暗な部屋の中で、しばしの沈黙があった。
「やってみるよ」
「父上、おとぎ話をして進ぜよう」
「ふむ」
「昔むかし、あるところに、れもんちゃんがおりました」
「ほう」
「大変な美人でした」
「それはそうだろう」
「おしまい」
隣の犬が数回吠えた。
「なるほど、よく分かった。よく分かったら、眠くなってきた」
「日曜日れもんちゃんと会うのに、寝不足はなりませぬ」
「れもんちゃんは素晴らしいからな」
「素晴らしすぎまする」
ときには、負うた子に教わることもある。
ただ、あいつのラップだけは、どうにもいただけなかった。
シン太郎左衛門と眠れぬ夜様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と「れもんちゃんしりとり」様
ご利用日時:2023年6月25日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士だ。当人が、そう言うのだから、多分そうなんだろう。
我々親子は、出張中の松江のホテルで、れもんちゃんを守るために、しりとりの特訓をしていた(前回を読んでいないと、全く意味不明だと思うが、これまでのあらすじを書く気は毛頭ない)。
延々と続くであろう、シン太郎左衛門とのしりとりを思い、私は暗澹たる気持ちになっていた。速やかにしりとりを終えるために一計を案じ、これならどうにか行けそうだという策略に思い至ってはいた。それは、シン太郎左衛門が曲がりなりにもマトモな答えをしたとき、私がわざと答え損なって、負けてやる。そして、「よくぞ、このような短期間で、ここまで腕を上げた。知恵が付いた。知力が増した」と逆上せるまで、シン太郎左衛門を煽てて、「れもんちゃんへの想いが起こした奇跡だ。馬鹿が突然、知恵者になった。かような知恵者が味方に居れば、れもんちゃんは御安泰、もはや何の憂いもない」と二人揃った豪傑笑いを以って、しりとりに幕を引いてしまう算段だった。
そのためには、何としてもシン太郎左衛門にマトモな答えをさせる必要があった。
さて、前回に続き、場面は松江のビジネスホテルの一室、我々はれもんちゃんしりとりの真っ最中である。
「シン太郎左衛門、『ん』で終わったとは言え、『れもんちゃんの指先』に一太刀報いるとは、天晴れであったぞ」
「いやいや、負けは負け。負けに優劣はござらぬ。負けから学び取るものに優劣があるのみでござる。ささ、続けてくだされ」と、やけにマトモなことを言う。
「うむ、その意気だ。シン太郎左衛門、私情を挟まず、勝負に徹するのだぞ」
「心得てござる。れもんちゃんのこととなると、我を忘れてしまうのが、拙者の弱み。私情に溺れず、れもんちゃんへの忠の鬼となりまする」
「よく言った。それではいくぞ。『れもんちゃんの足の指』、『び』だぞ」
「うっ」と呻いたまま、シン太郎左衛門、ピクリとも動かない。
「どうした?」
「拙者、れもんちゃんのアシが好きでござる」
「足か脚か、どっちだ?」
「どっちも」
「俺も好きだ」
「では言わずとも察してくだされ。『れもんちゃんの足の指』はいかん」
「なぜ、いかん」
「可愛いから」
「シン太郎左衛門、今さっきお前自身が言った言葉を思い出せ。早速、れもんちゃんへの想いに溺れ、チョンマゲだけを残して私情の波間に沈んでいるではないか。私情に溺れず、勝負に徹するのだ。最後の一文字だけを見ろ。『び』だぞ。それ以外には目もくれるな」
「『美人』」
「えっ?」
「れもんちゃんは『美人』でござる」
「勝負に徹しないの?」
「こればかりは譲れない」
先刻の発言は、どこへやら。早くもグダグダだった。
「待て、待て、ちゃんとやろうよ。そう、例えば『美女』にするとか」
「笑止。『美女』では語尾にキレがござらぬ」
「それじゃ、『美人のれもんちゃんのニコニコ笑顔』とかは?」
「無駄に長い。美人と言えば、れもんちゃん。れもんちゃんと言えば、美人。並べるのは冗漫。れもんちゃんのホクホクと湯気の出そうな暖かい笑顔も、『れもんちゃん』と言えば自然と目に浮かぶもの。父上のように無駄に言葉を使うのは愚かでござる」
絞め殺してやろうかと思うのをグッと堪えて、「それじゃ、『美人』でいいのね?」
「うむ。後は善きに計らってくだされ」
「それでは容赦なくブーッ!『ん』で終わってるからね」
「一向に構わぬ。れもんちゃんだけは、拙者の心を分かってくださるであろう」
やはり、この馬鹿、一筋縄ではいかん。
「おい、ちゃんとやれ。勝負に徹するって言っただろ」
「れもんちゃんへの忠に照らして曲がったことは承引しかねまする」
「では、しりとりを止めるか?」
「いや止めない」
こいつ、面倒くせぇ、と思ったが、とりあえず、「じゃあ、次いくぞ。読み手のためとか思って、ふざけなくていいからね」
「何を訳の分からぬことを言っておられる」
「いくよ。『れもんちゃんのドレスの裾』、『そ』だぞ」
「うぐっ」と腹に刃を突き立てられたかのように短く呻くと、「れっ、れもんちゃんの、ドレスの、裾とな・・・拙者が、れもんちゃんの忠の鬼であるように、父上は、れもんちゃんしりとりの鬼。しりとり鬼を本気にさせてしまったようじゃ」
「そういうことはいいから、早く答えてくれないかなぁ」
「『れもんちゃんのドレスの裾』は、いかん」
「何故いかん」
「眼前に、れもんちゃんのふくらはぎを垣間見申した。拙者、れもんちゃんのふくらはぎをこよなく好みまする」
「俺もだけどね」
「ううっ、いかん。ドレスの裾だけはいかん」
「降参か?」
「いいや。『蕎麦でなくうどん』でござる」
「何それ?答えなの?」
「いかにも。『蕎麦でなくうどん』、答えでござる」
「『蕎麦』で止めりゃいいものを、どうして『うどん』まで付けるかねぇ」
「待たれよ。やはり『蕎麦よりうどん』に替えまする」
「何が違うの?勝負の観点では、全く無価値な言い替えだけど」
「れもんちゃんのふくらはぎのプリッ、プリプリッとした感じは蕎麦ではござらぬ。色も違う。色白で腰のあるうどんの方が未だしも近い」
「困ったなぁ。ちなみに真面目にやってる?」
「当然でござる。ささ、続けてくだされ」
「念のために言っておくけど、『ん』で終わってはダメというのが、しりとりのルールだからね」
「存じておりまする」
「存じておったら、ちゃんとしてくれ。お前の答えは全部『ん』で終わってるからな」
「そう言えば、『れもんちゃん』も『ん』で終わってござるな」
「だからって、『ん』で終わっていいことにはならないの。これは、しりとりだから。次こそビシッと決めてな。いくよ。『れもんちゃんのふくらはぎ』、『ぎ』だぞ」
「おおっ、先刻相見えし、愛しのふくらはぎ殿が、まさかの追い討ちとは、シン太郎左衛門、感激でごさる。かように麗しき追っ手でござれば、討たれて死ぬるが本望じゃ。久米仙人の昔から女人の脛は魔力を備えておるもの。ことに、れもんちゃんのふくらはぎともなれば、久米仙人が雨あられと降って参ろう・・・」
待てど暮らせど、シン太郎左衛門、れもんちゃんのふくらはぎを讃えて終わらない。鳥取砂丘の怪しい集団など、私の知らぬ間に木っ端微塵に吹き飛ばされてしまったらしく、影も形も見当たらない。
「シン太郎左衛門、『ぎ』だよ」
「ん?『ぎ』とは」
「しりとり」
「ああ、しりとり。もう、しりとりは十分でござる。拙者、これより独り、れもんちゃんへの想いに耽ります故、そうと言うまではお静かに願いたい」
「あっ、そうなんだね」
突然の解放感に呆然とする私に、シン太郎左衛門、「父上は、まだ物足りないご様子。誠にしりとりがお好きな御仁じゃて。カッカッカッカッ」と、一人で豪傑笑いをして、勝手に幕を引いてしまった。
「好きも嫌いも、一体これのどこが、しりとりなんだ!」と言い返したが、空想の中で視線をれもんちゃんの足の指からふくらはぎ、そして膝から更にその上へと滑らせながらヘラヘラ笑っているシン太郎左衛門に、私の言葉の届くはずがなかった。
設定も前言も蹴散らすためにある。シン太郎左衛門は、いつでも、れもんちゃんにまっしぐら。
シン太郎左衛門と「れもんちゃんしりとり」様ありがとうございました。
あすな【VIP】(25)
投稿者:歯抜田 猿兵衛様
ご利用日時:2023年6月25日
本日の内止め一本勝負
私個人道場のハヌケタ サルベイとクラブロイヤル道場あすな嬢との本日の一本勝負。鮮やかな寝技で一本取ったと思いきや土俵際、天空の夢の空へのあすな嬢の釣り出しうっちゃりの逆転負け。いつも楽しく面白い茶話会のような居心地の良さ。半端ないあすな嬢の対応に感服しております。次回もまたあすな嬢との取り組み楽しみにしております。クラブロイヤルのスタッフの皆様も気持ちの良いご対応いただき感謝しております。これからもあすな嬢とお店共々応援させていただきます。ありがとうございました。
歯抜田 猿兵衛様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、松江で暇を持て余す様
ご利用日時:2023年6月18日
前回に続いて、松江出張の間の出来事を記す。
今回で何度目の登場なのか忘れてしまったが、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士を自称している。真偽の程は定かでない。
さて、松江出張は、万事順調に運んだ。いや、余りにもアッサリと用事が済んでしまい、空き時間がドッサリ出来てしまった。
「すんなり行き過ぎて、拍子抜けですね。午後は、ゆっくり松江観光でもなさってください。明日も、14時に来ていただいたら十分でしょう」
こんなふうに取引先の担当者に見送ってもらうと、何の宛もなく街をブラブラする気にもならず、宿泊先のホテルに戻った。軽くシャワーを浴びて、裸のままベッドに仰向けになると、放心して天井を見上げていた。
1時間は経っただろう。ぼちぼち昼飯時なのだが、日頃の疲れが出たのか、全身に気だるさがあり、なかなか起き上がる気になれない。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「起きておりまする」
「何をしている?」
「天井を見てござる」
「楽しいか?」
返事はなかった。
以上の会話は、字面からはトントンと進んでいると思えるだろうが、それぞれの発話の間に30秒、長ければ1分以上の沈黙がある。以下も同様のモノとしてお読み頂きたい。
「それにしても暇だな」
「暇でござる」
「今は何をしてる?」
「引き続き天井を見てござる」
「お前は本当に天井が好きだな」
また返事がなかった。
「れもんちゃんと一緒のときは『あっ』と言う間に時間が経つが、ここでこうしてお前と二人だけだと『あ』と言っても1秒も経っていない。こういう時間・・・」と言っている最中に、何を考えたか、シン太郎左衛門が「あ~」と言い始め、私の言葉の続きは、シン太郎左衛門の「あ~」の伴奏付きとなった。
「・・・を過ごしていると、よく分かる。俺の日常は、どうにも救いようがない退屈に、誤魔化しのシュガーコーティングを施したものでしかないのだ。ただ、れもんちゃんだけが輝き亘っている。れもんちゃんは灰色の日常に紛れ込んだ奇跡である・・・そして、近くに抑揚もなく『あ~』と言い続けるヤツがいると本当に喋りにくいこともまた紛れのない事実であった」
その後も、静かなホテルの部屋に、かれこれ5分以上、シン太郎左衛門の、息継ぎなしの「あ~」が、単調な時間の経過を際立たせていた。
「シン太郎左衛門、楽しいか?」
「一向に楽しくはござらぬ」
「今の長~い『あ』には特別な想いとかが込められていたのか?」
「何の意味もない一塊の『あ』でござる。ただ、『あ~』と言いながら、れもんちゃんの海外ドラマの上映日が、本日であれば良かったものを、とは考えてござった」
そう。以前クチコミに書いた出来事の教訓から、れもんちゃんの写メ動画の上映日は、奇数月の最終日曜日に限定されていることを、シン太郎左衛門には厳に通告していた。これは、世界共通の取り決めであり、私にはどうしてやることもできない、と。
今、れもんちゃんの動画を見せてやれば、気詰まりな雰囲気など一掃されるのは明らかだったが、その後が大変なことになる。一度吐いたウソは、吐き続けるしかない。
「叶えてやりたいのは山々だが、こればっかりは、どうしようもない。国連で決めたことだからな」
「『コクレン』とな。それは何者でござるか」
もちろん、シン太郎左衛門がこう尋ねてくるのは予期できたし、真面目に答えかかったのだが、人がキメのセリフを言っている最中に「あ~」と妨害電波を送ってくるようなヤツにマトモに解説をする必要もあるまい。
「国連とは国際的な秘密結社で、松江から120キロ東の鳥取砂丘に本部を置いている。鳥取砂丘では、世界各国から集まった背広姿のイカツい連中が、各々の国の国旗をモチーフとする色とりどりのテントに暮らしていて、夜になるとバーベキューをしたり大鍋でカレーを作ったりするが、日中はれもんちゃんの海外ドラマの監視と砂丘の清掃活動をする他に、紙飛行機を沢山飛ばして砂丘の景観を損なっている」とか、嘘八百を並べていた。
シン太郎左衛門は、眉間に深い皺を寄せ、「そのような怪しい連中が、れもんちゃんを付け狙っていると」
「そういうこと」
「国連の魔の手から、れもんちゃんを守らねばなりませぬな」
「そういうこと」
「これは一大事でござる」
「いや、まあ、そんなに差し迫ったことでもない」
「直ちに鳥取砂丘に赴き、きゃつらを退治致しましょうぞ」
「いやいや連中を甘くみてはいかんな。彼らの武器が、清掃用の熊手やカレー鍋ぐらいだと思っていたら、大きな間違いだ」
「大筒がございまするか」
「あるに決まってる。外国人だもん、みんな、お前より大きい」
「何の話でござるか」
「とにかく危険だ。ガットリング砲とかもある。普通にやったら、コテンパンにやられる」
「しかし、父上、れもんちゃんに関わること、見過ごせませぬ」
「分かってるさ。力では勝てんから、知恵で勝負するしかない。相手の裏の裏の裏の裏をかくような秘策を練るしかない」
「ふむふむ」
「ただ今のお前には知恵が足りんから、鍛えねばならん」
「なるほど、言われてみれば、拙者、些か知恵が足りませぬ。如何にして鍛えまするか」
「しりとりだ」
「おお、それは願ったり叶ったり」
「いつものようにデレデレになってはいかんぞ。気持ちを入れてやるように」
「それを言ってくださるな。れもんちゃんの一大事。拙者の命に代えて、お守り申す」
「それではいくぞ」
「知恵を鍛えるためでござる。キツいのを頼みまする」
「よし。では、『れもんちゃんの指先』、『き』だぞ」
「うぐっ。いきなり拙者の知力の弱点を突いて参った。指先は考えになかった。可愛いネイルが目に浮かび、脳が蕩けそうじゃ」
「降参か?」
「まっ、待たれよ」
シン太郎左衛門の必死さ、平素の比ではなかった。
「もう次の問題にしないか?」
「暫く。おっ、そうじゃ、キリン!いや、キリンさん!」
「『ん』だな。お前の負けだ」
「キリンさん!」
何故繰り返したのかは分からなかったが、シン太郎左衛門の様子がいつもとは違う。「ん」で終わっていようが、言葉を返してきたのは、今のが初めてだった。
そのとき、私は自分の失策を悟った。シン太郎左衛門、元々大好きなしりとりに、れもんちゃんの命運がかかっているという展開に、我を忘れんばかりに興奮しているのだった。シン太郎左衛門の妖しく眼の輝きに、私は自らが窮地に立たされていることを自覚した。
(やってしまった。普段は10分程度の「れもんちゃんしりとり」だが、今日は下手をすると徹夜になるぞ)
私は自ら招いたピンチからいかにして脱出したのであろうか?
次回に続く
シン太郎左衛門、松江で暇を持て余す様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、出張中様
ご利用日時:2023年6月11日
(タイトルは、「シン太郎左衛門、出張中」だが、出張したのは私であって、シン太郎左衛門は単にくっ付いてきた。シン太郎左衛門シリーズも今回で5回目。なぜか毎回長くなる。今回は頑張って、短かくしたい)
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は自称武士だが、私はそんなこと信じていない。目下、彼の最大の願いは、私とスッパリ縁を切り、れもんちゃんの部屋の置物になることらしい。こんなことを考えている馬鹿が武士である訳がない。
願いと言えば、シン太郎左衛門には、置物願望以外にも、私と縁を切って、電車で独り旅に出るという長年の夢がある。行き先なんて、どこでもいい。駅弁を広げて、車窓を流れる景色をぼんやりと眺めていたい。そんな他愛ない話だ。やっぱり武士らしくない。
さて、昨日まで松江に出張していた。
私は元々旅行が嫌いな上に、独り旅に強い憧れを持つシン太郎左衛門が、その旅行嫌いに拍車をかけてきて、本当に辛い出張だった。
準備を済ませて職場を出たのは夕方6時。大汗かいて飛び乗った新幹線から、岡山駅で「特急やくも」に乗り継いだときには、もう疲れ切っていたのに、席に座って、一息吐いた後、レジ袋から駅弁を取り出す音を聞き付けたシン太郎左衛門が難癖を付けてきた。
「その音、弁当でござるな。座敷牢にも似た暗がりに拙者を押し込めておいて、父上は独り弁当を広げ、旅気分をご満喫とは、まことにもって羨ましい」と嫌味タラタラだ。
食欲がある訳でもなく、ただ何か腹に入れておかねば、と買った弁当だったし、羨望に値する要素は何一つないのだが、それを言って聞かせば理解できるシン太郎左衛門ではない。
「拙者にも弁当をくだされ」
「お主は飲み食いとは無縁だろ」
「駅にて求める弁当は食べ物ではござらぬ。旅に彩りを添えるための飾り物でござる。無事に旅を終えた後は、感謝の気持ちを込めて河に流しまする」
「駅弁って、そんな仏様のお供えみたいなものだったのか。そうとは知らずに、これまで普通に食ってきた。そして、これからも普通に食う」
「なんとも野卑な。父上に買われた弁当が可哀想でござる。心ある旅人に賞られるために生まれて参ったのに、野人の顎にかかって果てようとは」
元々グラついていた食欲が、この一言で根こそぎにされてしまった。
「全く食べたくなくなった。弁当はお前にやろう」
「それは忝ない。父上の幕の内弁当、拙者の旅のお供として大切に致しまする」
「幕の内?違うぞ。焼肉弁当だ」
「焼肉弁当でござるか。なんと、また、これくらい見ていて楽しくない弁当もない。一面に腐した桜花の色でござる」
「そう言われると、風情を感じるなぁ」
「何を愚かな。焼肉弁当に旅情を掻き立てられるなどと、れもんちゃんに言ってはなりませぬぞ。とんだ変態だと思われまする」
シン太郎左衛門に何と言われようと、私は腐した桜花色の焼肉弁当のため、一肌脱ぐ覚悟を決めていた。
「では、この焼肉弁当、要らんのだな。ただ、言っておく。この一面の腐した桜花の色こそ、侘び寂びの世界だぞ」
シン太郎左衛門、うっと言葉に詰まった。
「焼肉弁当は、侘び寂びでござるか」
「そうだ。和の心そのものだ」
「う~む、拙者、幕の内弁当や季節の彩り弁当など、目にも鮮やかであってこそ、旅情を添えると考えてござった。しかし、それは拙者の早合点。その侘び寂び、早速賞翫致したい。拙者をここから出してくだされ」
「断る」
「かくまで焼肉弁当を勧めておきながら、何故断られるか。ここに閉じ込められておっては、侘びも寂びもござらぬ。外の景色も見たい。出してくだされ」
「断る。夜も更けてきた。外の景色もない。ただ暗闇に灯りがポツポツ見えるばかりだ」
「それが見たい。出してくだされ」
「何と言われても断る。お前を出した途端に行き先が変わってしまうからな」
「異なことを。行き先が何処になると」
「それは俺にも分からん。制止されても、お前を出し続けることに執着すれば、鉄格子の向こうになるかも知れん。とにかく一旦電車から降ろされる。せっかく指定までとったのに」
「それでも構わぬ。うん十年来の宿願、ここにて果たす。ここから出せ。この変態オヤジめ」
シン太郎左衛門は、一見手が付けられないほど怒り狂っている。しかし、れもんちゃんのことで怒らせたときは別として、それ以外の原因なら彼の怒りを静めるのは実に容易いことなのだ。
「シン太郎左衛門、お前の浅慮には呆れるぞ。この出張から帰った翌日、誰がお主を待っているか、忘れたか」
この一言に、シン太郎左衛門の怒声はピタリと止んだ。そして、脂下がった、いや鼻の下が伸び切った声で、「忘れる訳がござらぬ。れもんちゃんでござる」
まるでマタタビをもらった猫のように喉をゴロゴロ鳴らしている。
「れもんちゃんは素晴らしいな」
「素晴らしすぎるでござる」
「早く会いたいな」
「今すぐ会いたい」
「そうだ。しりとりをしよう。俺からいくぞ。『れもんちゃんの笑顔』、『お』だぞ」
「『お』?それはいかん。『お』だけは勘弁してくだされ」
「では、『れもんちゃんの髪の毛』、『け』だぞ」
「『髪の毛』?『髪の毛』だけは許してくだされ」
れもんちゃんしりとりは、いつやってもシン太郎左衛門を興奮の坩堝に叩き込む。喜びすぎて、ヒーヒー言っている。
「父上は、まこと、しりとりがお強い。そう初手から大将級を繰り出されては、拙者では、とても相手になり申さぬ」
「参ったか」
「参りました」
「では訊く。れもんちゃんと独り旅、どちらが大事なのだ」
「言うまでもないこと。帰還の翌日、れもんちゃんに会えることを思えば、初めからケチのついたこの旅も楽しいものに思えて参った」
「そうだろう」
「だが父上」と、やり込められたはずのシン太郎左衛門が急に凛々しい表情になり、「れもんちゃんは侘び寂びではござらぬ。雅びでござろう」
「うむ。いかにもその通りだ。我々親子、確かに侘び寂び派ではないな。次から駅弁は、幕の内弁当か季節の彩り弁当にしよう」
「それがようござる。れもんちゃんは、彩りばかりでなく、味わいも格別でござる」
「それは言うな。品格が問われる」
「口が滑り申した」
「向後、気を付けぃ」
「畏まってござる」
「シン太郎左衛門、聴け、レールの上を走る車輪の音を。この電車は今、松江に向かっているのではない。3日後の、れもんちゃんに向かって走るのだ」
「おお、左様でござれば、何があっても行き先を変える訳にはゆきませぬ」
「そういうことだ。肝に銘じておけ」
「確かに承ってござる」
それからシン太郎左衛門は静かになった。車輪の音を聴いているのだろう。それは今、シン太郎左衛門の耳に、「ガタンゴトン、ガタンゴトン」ではなく、「れもん、れもん。れもん、れもん」と響いている。
今回も、れもんちゃんの取り成しにより、親子の絆は保たれた。
一件落着。めでたし、めでたし。
そうこうしているうちに、今回もやはり長くなってしまった。済まぬことでござる。
シン太郎左衛門、出張中様ありがとうございました。
けい【VIP】(23)
投稿者:いしだ様
ご利用日時:2023年6月11日
初めての利用。ネットの写真で彼女に決めました。 とても話しやすくあっという間に時間が来てしまいました。
プレイは、客に気持ち良くなってもらいたいとの一心で、テクニックを駆使して楽しませてくれました。
プロとしてのプライドの高さを感じました。 とても良かったです。
お疲れ様でした。 またリピートしたいです。
いしだ様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と海外ドラマ様
ご利用日時:2023年6月4日
今回で4回目の登場の、我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は相変わらず自分は武士だと言い張っている。
前回れもんちゃんに会って帰宅した後、自室でのんびりしていると、シン太郎左衛門が「先刻、れもんちゃんに、多用に付き、御指南たまわった何やらが遅滞しておるとの由、お伝えでござったが、あれは何のことにござるか」
「れもんちゃんに教えてもらった海外ドラマが観れずにいる、ということだ」
「『海外ドラマ』とな。それはいかなるものでござるか」
面倒臭いとは思ったが、絡まれると、もっと面倒臭くなるので、説明してやった。
「なるほど。詮ずるに、海外ドラマとは、南蛮渡来の絵芝居の類いでござるな。何にせよ、れもんちゃんの仰せ付け、果たさではなりますまい。ささ、父上、その何とかいうもの、御覧になられよ。拙者も見たい。早速見せてくだされ」
「今すぐ?」
「この期に及んで、更なる遅滞、罷りならん。れもんちゃんの有難いお言葉、蔑ろにするなら、この場で斬る」と一喝され、更にそこから一通り説教された。私は、世の人々、特にれもんちゃんの情けに縋って生かされている天下無双の穀潰しであるとまで言われた。海外ドラマを観ずに過ごしたことで、ここまでの辱しめを受けようとは思ってもいなかった。
「れもんちゃんの命に背く者には死あるのみでござる」
れもんちゃんの海外ドラマへの思い入れが生き死に関わるほど強いものとは思わなかったが、目の前の相手が無類の馬鹿だから、折れるしかなかった。
机に向かい、パソコンが起動するのを待っていると、シン太郎左衛門が「父上、これでは何も見えませぬ。このチンチクリンで窮屈な袴と前後ろに違いのない珍妙な褌を脱いでくだされ」
ズボンとトランクスを言っているのは分かったが、下半身素っ裸というのは海外ドラマを観る格好ではない。ただ、この流れではしかたない。言われた通り服を脱いで椅子に座り直すと、「これでどうだ」
「どうもこうもござらぬ。机の引き出ししか見えませぬ」
シン太郎左衛門の視界を広げるために、椅子をズズ~っと
壁まで引いた。
「これでよかろう。それで、あれ」と、机の上のモニターを指差し、「あそこで、お前が言うところの南蛮絵芝居が繰り広げられるのだぞ」
「それは何とも奇妙。早速始めてくだされ」
「無理だな。椅子を引きすぎたから、マウスに手が届かん」
「父上は稀代の愚か者でござるな。スタートボタンを押してから、戻ってこられよ」
「『スタートボタン』だと」と追及すると、シン太郎左衛門は咳払いをして、「ところで、掛け声は、如何様に致しまするか」
「掛け声?」
「芝居に掛け声は付き物でござる」
「あの『音羽屋』とか『成駒屋』とかっていうヤツか。要らん。静かに観てたらいいの」
「そういう訳には参りませぬ。父上は、れもんちゃんが見得を切ったときに無言でやり過ごすのでござるか」
「れもんちゃんが見得を切る?」
「キメのセリフもござろう。『こいつぁ春から縁起がいいわぇ』とか『首が飛んでも動いてみせるわ』とか」
「そんなセリフを言って、れもんちゃんが見得を切るの?」
「違いまするか」
「ずいぶんと大きな誤解があるな。これから観ようとしているドラマは歌舞伎のようなものではないし、まず第一に、れもんちゃんは出て来ない」
「れもんちゃんに出番のない場面でござるな。それは見たくない。飛ばして、れもんちゃんが登場する段を観ることに致しましょう」
「いや。そうでなくて、シリーズ全編を通して、れもんちゃんは出ないの」
「な、なんと。それは誠でござるか」
「うん。犯罪に手を染めた、アメリカの高校教師の話だもん」
「それは、れもんちゃんを出さぬ理由にはなりませぬ。御法度を犯した重罪人を、白馬に乗って駆け付けたれもんちゃんが一刀両断」
「だめでしょ、いきなり主人公を斬り殺しちゃ」
「れもんちゃんに一切出番のない芝居の主人公など、どうなろうと知ったことではござらぬ」
シン太郎左衛門の表情は、いよいよ険しさを増し、
「もう一度最後にお尋ね申す。この芝居に、れもんちゃんは・・・」
「出ない」
「何故。何故、れもんちゃんは斯様なものを勧められたのでござろう。れもんちゃんは、我々親子が、れもんちゃんの出ない芝居を観れば、退屈の余り嘔吐が止まらなくなることをご存知のはず」
「待て待て。少なくとも俺は、そんなことにはならんぞ」
「信じられん、れもんちゃんが、斯様なものを拙者に観るように仰せられたとは」
「それ、間違い。れもんちゃんは、お前に観ろとは言ってない。お前が勝手に観ると言い出したんだ」
シン太郎左衛門はガックリと肩を落としたが、その落ち込み様は、しょんぼりと小さくなるタイプではなく、腹部にめり込んで背中に突き出てきそうな激しさを内包していた。どうにかしてやらないと、こちらにもトバッチリが来そうな気がした。
「そうだ。いいものがあるぞ」
パソコンを操作して、「ほれ、シン太郎左衛門、これでどうだ。これなら文句あるまい」
モニターを見上げるなり、虚ろだったシン太郎左衛門は破顔して、一筋の感涙が両の頬を伝った。
「れもんちゃん。れもんちゃんでござる。これも南蛮渡来の絵芝居にござるか」
「れもんちゃんの写メ日記の動画だ」と普通に答えようとした瞬間、あれこれ説明を求められる危険を察知し、「もちろん、これも海外ドラマである」と嘘を言っていた。
「芝居というのに、れもんちゃん、止まってござる」
「ちょっと待て。今、れもんちゃんが動き出すぞ」
再生ボタンを押して、後方に跳び退くと、ドレス姿のれもんちゃんが口元に指を寄せる瞬間だった。
シン太郎左衛門は、「おおっ!よっ、れもん屋!」
「なんだ、それ」
「掛け声でござる」
「おかしい、おかしい。『れもん屋』は止めておけ」
「では、『果物屋』でござるか」
「もっとおかしい。見ろ。怒りの余り、れもんちゃんが凍り付いてるぞ」
当然、短い動画が再生し終わっただけのことだが、シン太郎左衛門は「れもんちゃん、許してくだされ」と狼狽えている。
「父上、どのような掛け声なら、れもんちゃんの怒りに触れませぬか」
「普通に『れもんちゃん』と言えばよい」
「畏まってござる」
「反省したか」
「反省致しました」
「では、今一度いくぞ」
「お頼み申す」
動画が始まると、シン太郎左衛門は目を細め、「れもんちゃん本人には及ばぬが、よくできたカラクリでござ・・・あれ、また止まった。拙者、何もしておりませぬぞ」
写メ日記の動画は一本一本が短いので、そこからが大変だった。間を持たすため、再生速度を半分にしたら、「れもんちゃん、疲労困憊して、今にも倒れそうでござるのに、我が身を削って笑顔を見せてござる。痛わしくて、胸が張り裂けそうじゃ」とシャツの裾で涙を拭かれ、声付き動画で歓喜させれば、親父の忠告を無視して「よっ、果物屋!」の声が飛んだ。「もういいだろう?」の問い掛けは、「ささ、続けてくだされ」の一言で撥ね除けられた。
動画選択、再生ボタンのクリック、壁まで跳び退く、この一連の動作が1時間を超えると、手首、膝から始まった痛みが全身に及んでいた。
「もう疲れた。少し休ませろ」
「そう無闇にピョコピョコ動き回れば、疲れるのは必定。何故、リピートモードを使われぬか、不思議でござった」
「『リピートモード』って言った?」
シン太郎左衛門は、しまった、という顔をして、「さて、面妖なことを仰せられる」と妙な空気を誤魔化すように、「興が乗って参った。拙者、舞いまする」と扇子を打ち開いた。
「よし、舞ってみろ。俺は謡おう」
「いやいや。父上の謡いは聞けたものではごさらぬ。拙者が謡って、舞いまする」
舞台は古屋の六畳間
短い夢を重ねに重ね
写し出したる福原の
世にも目出度き姫御前
親子二人の大向こう
やんややんやの喝采に
夜はしんしんと深けにけり
即興の唄は、いかにも捻りが足りなかったものの、シン太郎左衛門、なかなか良い声である。
ただ、謡いはまだ許せたが、舞いには心底難儀した。二人の関係上、ヤツに舞われると、私も付き合わざるを得ず、部屋の中央、下半身裸で、疲れた身体をクルクルと独楽のように回転させる羽目になった。事情を知らぬ人の目には、シン太郎左衛門はともかく、私の方は確実にクルクルパーに見えただろう。
シン太郎左衛門は、もちろん馬鹿なのだが、かなり手の込んだ馬鹿なのである。
こんなことがあったせいで、この一週間疲れが抜けずに困っていたが、今日れもんちゃんに会って、元気をもらったから、もう大丈夫。すっかり癒された。
あくまで主人公は、れもんちゃん。
シン太郎左衛門と海外ドラマ様ありがとうございました。
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日曜日の朝。暑いし湿度も高いから、起きると、まずシャワーを浴びた。グラスに注いだアイスコーヒーをテーブルに置くと、全裸のまま新聞を開いた。
「父上、何を泣いておられる」
「泣いてはいない。涙が出ただけだ」
「まさか、シン太郎左衛門シリーズの最終回でござるか」
「違う。そんなことで涙は出ない。上の文章、前回の出だしと全く同じだろ。まさかとは思ったが、また夢オチかもしれないと、頬をつねってみたが、痛いというほどでもない。『またもや、してやられたか』と、最終確認の積もりで鼻の上を拳で叩いてみたら、まともに痛くて涙が出てきた。もう少し手加減すればよかった」
「父上は、近頃珍しい古典的な馬鹿でござるな」
「何とでも言え。れもんちゃんに会う日、俺の心はとっても広い。馬鹿と呼ばれようが、鼻が痛かろうが、全く問題にならん。車に跳ねられて肋骨の2、3本折れても、『全然大丈夫』と言ってしまいそうだ」
「それは尤も。れもんちゃんの力は恐ろしいほどでござる。ちなみに、拙者の場合、れもんちゃんに会う日の朝は、無性に歌いたくなりまする」と、私の同意を求めることもなく、全777番あるとも言われる曲を歌い始めた。
はぁ~、広い世界にただ一輪
可憐に咲いたレモン花
甘い香りに誘われて・・・
シン太郎左衛門は否定するが、この1番を聴く限り、『れもんちゃん音頭』以外の曲名は考えられなかった。
・・・
優しい、可愛い、美しい
宇宙で一番れもんちゃん
と、1番が終わり、1番以外で唯一聴いたことのある27番は二度と聞きたくなかったし、とにかく何番だろうが、変なのが来たら、すぐに止めようと身構えていると、「は~いのはい・・・」と民謡調で来たので、ひとまず胸を撫で下ろした。
は~いのはい、は~いのはい
『れもんちゃん音頭』の2番にござ~る
類い稀なるエロ美人
立てば芍薬、座れば牡丹
歩く姿もエロ美人
あ~あ、フェロモンが芳しい・・・
「ちょっと待て」
興が乗ったところで水を注されたシン太郎左衛門は不満げに、「なんでござるか」
「歌詞に品がない」
「品がないとは失礼でござろう」
「そうだ。この歌詞では、れもんちゃんに失礼だ。盆踊りに使えない」
「盆踊りに使う予定はごさらぬ」
「以前、この歌の名は『れもんちゃん音頭』ではないとキッパリ断言したのに、今聞けば、この歌は自らを『れもんちゃん音頭』と明言しておる」
「なんの。この歌全体は未だ名を持ちませぬ。初めの10番ほどを便宜上『れもんちゃん音頭』と呼んでおるばかりでござる」
「便宜上でも音頭と呼ぶからには、盆踊りを意識しなければならない」
「なるほど、そういうものでござるか」
「当たり前だ。一流の音頭は盆踊りで使われるものだ。れもんちゃんは、一流ではないのか?」
「聞き捨てなりませぬ。れもんちゃんは超一流の面々が反り返って仰ぎ見なければならぬほどの高みにおられるお方じゃ」
「もちろん分かってる。当然そうだ。だから仮にも、れもんちゃんの名を冠する以上、盆踊りで使えるような歌詞にすべきだ。そうして、我らが町内会の盆踊りを手始めに『れもんちゃん音頭』を売り出そう」
「本気でござるか」
「うむ。新型コロナ以降、開催されていないが、それ以前の、この町内会の盆踊りについて気が付いたことはないか?」
「う~む。選曲が出鱈目でござった」
「だろ?そうなんだ。我らが町内会の盆踊りで使われていた音源には、日本各地の余り有名でない民謡が脈絡なく収められていた。地元の音頭も含まれてはいたが、扱いは他の曲と同じだ。あのCDを編集したのは誰だと思う?」
「町内会長のY殿でござろう」
「世間では、そう思われているが、実は違う。あのCDを纏めたのは俺だ。まあ聴け。町内会長のYさんは、元エリートサラリーマンらしいが、東京本社勤務のときに住んでいた社宅の隣の公園で、毎年盆踊りになると延々と『東京音頭』が繰り返されることに辟易していたらしい。これでは新しいことにチャレンジする姿勢や創造性は育まれないと、Yさんは考えた。それで退職後に移り住んだこの町で町内会長を任されたとき、まず第一に手を着けたのが、盆踊り改革だったのだ。その当時は、この町の盆踊りでも、地元の音頭を飽きもせず繰り返し流していたからな。しかし、Yさんは音楽に詳しくないから、誰か選曲の手助けをしてくれないかと、よりによって盆踊りの音楽に全く無知な俺に頼ってきた訳だ」
「こんな音痴に頼むとは・・・ひどい話でござる」
「全くだ。寄合のとき、俺が『それなら、なんとか音頭とか、なんとか節とか、民謡の類いを適当に寄せ集めたCDを作りゃいい』と言ったら、その通りになってしまった。盆踊りの当日は大混乱で、『こんなので踊れるか』と非難轟々だったが、Yさんは懲りることなく、翌年以降も同じ路線を突っ走ったのだ。ただ数年経つと、みんなその環境に慣れてきて、聴いたこともない曲に合わせて、何となく踊るようになっていた。もちろん、一切統制が取れてない、てんでばらばらの踊りだったがな。慣れというのは大したもんだ」
「父上、延々とY殿の話をしておられるが、これは、れもんちゃんのクチコミでござるぞ」と、シン太郎左衛門が見かねて口を挟んできた。
「分かってる。分かってる。もう終わる。俺も好きでYさんの話をしている訳じゃない。まあ、そういうことで、この町内会は全国でもトップレベルで盆踊りの音楽に対して革新的なのだ。だから盆踊りが復活したとき、『れもんちゃん音頭』を流しても、歌詞の中で『エロ美人』だの『フェロモン』だのと言わなければ、この町の人達は何の違和感もなく、踊ってしまうのさ」
「う~む、なにやら変な夢を見ているような感覚じゃ」
「俺も、ここ最近ずっとそうだ。れもんちゃんと会っている時間だけが素敵な夢で、それ以外の時間は全て変テコな夢だ。それは、それでいい。お前の『れもんちゃん音頭』、なかなか面白い。この町内の人々は即興で踊るのに慣れてるし、きっと喜んで踊るだろう。それを撮影して、動画サイトにアップしよう。『大人気!!れもんちゃん音頭』とタイトルを付ける。なんとも楽しいな」
「とんと分からん。楽しい以前に、それは、れもんちゃんの許しを得ずに、やってもよいことなのでござるか」
「多分やってよいだろう。他の町内会から引き合いがあるだろうから、概要欄に『れもんちゃん音頭の音源をご希望の方は以下にご連絡下さい』として、Yさんのメルアドを載せておく」
「Y殿には寝耳に水・・・」
「大丈夫だ。ちゃんと説明しておく。なかなかいい曲だから、瞬く間に日本中の盆踊り会場で流れることだろう。そのうち誰かが『ところで、れもんちゃんって何者だ?』と疑問に思う、ネットで検索する、クラブロイヤルのホームページにたどり着く、そして、このクチコミを呼んで納得する。れもんちゃんの全国的な知名度がガッと上がる」
「今日の父上は変でござる。なんだか嫌な予感。もしや、今回は拙者の夢オチではござらぬか」
「夢オチ?何を言い出すことやら」と鼻で笑うと、シン太郎左衛門も照れ笑いを浮かべ、「思えば、父上は作者。夢と消えるはずがない。拙者の思い過ごしでござった」
「ましてや、3回連続で夢オチなんてことは流石にないだろう・・・なんて油断をしてはいけないよ。二度あることは三度あると、ナポレオンの辞書にも書いてある。まあ、そういうことだ」と、私はシン太郎左衛門の肩をポンと叩いて、霧散した。
「な、なんと、作者が突然いなくなってしもうた。こんな途轍もなく長く、しかも書きかけのクチコミを残して、作者が消えてしもうた・・・今度こそ、れもんちゃんに叱られまするぞ」
次の瞬間、シン太郎左衛門は、突然寝返りを打った父親の下敷きになり、「むぎゅ~っ」と呻き声を上げていた。
「苦しい~。父上、起きてくだされ」
「へぇ?なんだ?」
「寝返りは打たぬ約束。まずは仰向けになり、その後、拙者の話を聴いてくだされ」
たった今見た夢の話を、シン太郎左衛門が語り終えると、彼の父親は「うそ~ん。これって、れもんちゃんに会う大事な日の朝5時に起きて聴くべき話か?」と、顔をしかめた。「シン太郎左衛門、もう起こすなよ。目覚ましが鳴るまで『し~』だからね」と、ブランケットを額の上まで引き被った。しかし、すぐに素っ気ない態度を反省したのか、「でも、『れもんちゃん音頭』、ちゃんと作ってみたら?」とブランケットの下から、くぐもった声がした。「れもんちゃんは洒落の分かる娘だし、多分喜んでくれるよ。それと、Yさんは今、盆踊りの復活に燃えているから、今年は無理でも来年は再開するかもな。あの会場の広場に『れもんちゃん音頭』が流れたら、痛快だな。CDに入れて、『これかけて』って言ったら、『はいよ』って流してくれるぐらいの緩い運営だから、出来ない話じゃないしな」
「それは誠でござるか」
「うん。でも777番全部はダメ。10番まで。後、くれぐれも27番は入れないでね。じゃ、おやすみ」
薄暗がりの中、シン太郎左衛門は寝付けなかった。あの偽オヤジの言葉が耳から離れなかった。
「盆踊りに使われてこそ音頭とは、思えば的を射た意見。777番まで膨れた歌だが、元はと言えば、シャナリシャナリと踊る浴衣姿のれもんちゃんに憧れて作り始めたもの。今一度初心に戻り、全10番の『れもんちゃん音頭』を仕上げてみせよう。れもんちゃんの素晴らしさを世に知らしめることは、男子畢生の事業に相応しいのだ」
窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。
松江出張の折、父親は暇に飽かしてスマートフォンで音楽を流し続けていたが、その時すでに、れもんちゃんに捧げる楽曲の構想を抱いていたシン太郎左衛門は全身全霊を傾けて、それら数多の曲の精髄を吸収しようと努めていたのだ。そんなこととは露知らず、父親はすっかり眠りこけていた。
と、『ズンズン』と控え目にバスドラムが鳴り響き、ブランケットを微かに揺らした。父親の寝息を確認すると、小さくドラムスティックが打ち鳴らされ、小鳥の囀りと大差ないほどの小さな音でギター、ベース、ドラムの演奏が始まった。父親は熟睡していたために、ブランケットの中で密やかに響く曲の出だしが、妙に、いや露骨にリンキン・パークの「フェイント」のイントロに似ていることなど、知るよしもなかった。
(続く)