福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
口コミ一覧
Review
お客様の声
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と『れもん星バスツアー』 様
ご利用日時:2024年9月22日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。残暑がキツくて、バテ気味な武士である。
今日は日曜日、つまり、れもんちゃんデー。
朝9時、目を覚ました後、私は敷き布団の上でアグラをかき、しばし腕組みをしていた。どうにも釈然としない気分のうちに「う~ん」と唸った。股間からシン太郎左衛門が同じく「う~ん」と唸る声がした。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「起きておる」
「俺は夢を見た」
「うむ。拙者も夢を見てござる」
「れもん星に行ったぞ」
「拙者も、れもん星に行ってござる」
「『☆れもんちゃんと行く☆ れもん星立第一中学校見学バスツアー』に参加した」
「拙者も同じでござる」
「そうか。思えば、確かにバスの隣の席にお前がいた。シートベルトをするのに大変苦労しているようだった」
「親子揃って同じ夢を見ておったのでござる。我々の席は最後列でござった。父上は乗車早々、鼻歌を歌って、乗客全員から一斉に舌打ちをされておった」
「バスガイド姿のれもんちゃんの登場が楽しみすぎて、思わず鼻歌が出てしまったのだ。猛烈なバッシングに遭って、平謝りに謝った」
「それにしても、父上の音痴はひどい。先日も・・・」
「話題をバスツアーに戻そう」
「うむ。定刻、梅田駅前からバスが出発し、ややあって、最前列で人の動きがあったから、心待ちにしていた、バスガイドのれもんちゃんの登場かと思うたところが・・・」
「いつもクラブロイヤルの入り口で満面の笑みで出迎えてくれる、感じの良いスタッフさんとそっくりな人物が通路に立って、『本日は、れもん観光のバスツアーにご参加ありがとうございます』と言ったもんだから、車内は騒然となった」
「うむ。拙者は、やっとの事でシートベルトを装着し、『全日本れもんちゃんファンクラブ 近畿地区代表』のタスキを掛けたところでござった。父上が大きな声で『これは、れもんちゃんと行くバスツアーではないのか?!れもんちゃんのバスガイド姿を楽しみにして来たんだぞ!!』と訴えると、乗客全員から拍手が湧き上がった」
「うん。さっきの鼻歌での失態を帳消しにしてやった」
「うむ。そんなお客様の声に運営サイドから釈明の一つもあるかと思いきや、スタッフさん、平然と『れもんちゃん』のタスキを肩から掛けただけでござったな」
「そうだ。思わず『おい!タスキ一つで、この状況を打破できると思うな!やってることが、シン太郎左衛門と同レベルだぞ!反省しろ!』と言ってやったが、ヘラヘラ笑っていて、タスキも外さんかった」
「乗客全員が怒り出し、『タスキを外せ!!』と怒りの大合唱が起こってござる。彼奴のせいで、拙者まで肩身が狭かった」
「それでもスタッフさんは悪びれる様子もなく、『それでは、間もなく、れもん星立第一中学校に到着致します。皆様、降車の準備をお願い致します』と、ニコニコしていた。俺は、彼にそっくりな人に、いつも感じのよい対応をしてもらってるから、まあ、いいか、とそれ以上何も言う気にならんかった」
「うむ。クラブロイヤルのスタッフさんたちは、みんな良い人でござる」
「そうだ。それにしても、れもん星立第一中学校は凄かったな。バスから降りてビックリした」
「うむ。さすがは、れもんちゃんの母校でござった。どれだけ広いのか皆目見当が付かなんだ」
「六本木ヒルズみたいなデカいビルが、これでもかと建ち並んでいた。興奮して、『これ全部、校舎なの?』って、スタッフさんに訊いたら、『さあ・・・』って首を傾げただけだった。全くガイドの用を為していなかった」
「うむ。そこに、第一中学校の生徒さんたちが合流して、『それでは、ここからは各見学コースに分かれます。案内は、第一中学校の二年生の皆さんにお願いいたします』とのアナウンスがござった。拙者は卓球練習場を見学致した」
「俺は、古代オチン語体験レッスンを受けた。このコースの参加者は俺一人だった」
「卓球練習場の見学も拙者一人でござった。案内役は中学生ではなく、例のスタッフさんでござった」
「えっ?それは、おかしい。俺も、同じ時間に例のスタッフさんから古代オチン語を教わってたんだが・・・まあ、いいや」
「うむ。細かいことを気にしてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そうだな。しかし、卓球練習場とは、何ともマニアックな見学場所だ。れもんちゃんが、かつて練習に汗を流した場所だという以外に見学する値打ちがない」
「ところが、そうではない。この卓球練習場が、大変な代物でござった」
「そうなの?」
「とにかく巨大な建物でござった。見渡す限りの卓球台、その数、100万は下りますまい」
「それは凄いなぁ」
「とにかく広大でござるゆえ、拙者、スタッフさんの肩に止まらせてもらい、ぐる~りと遠くまで見渡した」
「お前、オウムかよ」
「拙者、オウムではござらぬ。むしろ、音ならインコに近い」
「え?・・・ああ、下らん!」
「れもんちゃん好みのギャグでござる」
「知らん。しかし、そんな沢山の卓球台で何百万という人たちが卓球をしている光景は壮観だろうな」
「いや、それが、そうではござらぬ。1キロほど先で、一組の老人が練習しているだけでござった。まるで卓球台で出来た砂漠のような風景でござった」
「ふ~ん。そんな景色の中で、中学生でもラクダでもなく、老人二人が卓球してたのか・・・よく分からんな」
「うむ。全くよく分からぬ光景でござった。すぐに見るものもなくなったので、スタッフさんに、中学生時代のれもんちゃんのことを尋ねてござる。すると、『れもんちゃんは、卓球が凄く強かったですよ。れもんちゃんサーブやれもんちゃんレシーブ、れもんスカッシュなどの必殺技を繰り出して、相手がプロ選手でも、片っ端からなぎ倒してました』との答えでござった」
「待て待て。さすがに『れもんスカッシュ』はない。『れもんスマッシュ』の間違いだろう」
「拙者もおかしいと思い、『れもんスカッシュ?れもんスマッシュの間違いでござろう』と訊き直した。すると、『いいえ。れもんスカッシュです』との答え。『いくらなんでも、卓球の試合中に、れもんスカッシュはいかん』と伝えると、『へへへ。ですよねぇ』と、だらしなく笑って、『ところで・・・ガシャポンします?』と訊くので、『せぬ!』と答えてござる」
「・・・何だ、この下らない話は?」
「話ではなく、事実をありのまま語ってござる」
「そうか・・・そうだよな・・・『シン太郎左衛門』シリーズに嘘はない」
「うむ。ところで父上の古代オチン語体験レッスンの方はいかがでござったか」
「ああ。俺は、なんか雑居ビルの小さな会議室みたいな場所に連れて行かれた。そこで、先生に、といっても例のスタッフさんなんだが、『それでは、みなさん。古代オチン語の授業を始めるよ~ん』と言われたので、俺一人なのに『みなさん』と言うのはやめてほしい、れもんちゃんじゃないのに語尾の『よ~ん』はやめてほしいと伝えた」
「真っ当なご意見でござる」
「ただ全く聴いてもらえんかったがね。『それじゃ、今日は、みんなと古代オチン語の挨拶を勉強しちゃうよ~ん。古代オチン語の挨拶は、ズビズバ~!って言うんだよ~ん』って言うから、『待て待て。それは、左卜全とひまわりキティーズの、老人と子供のポルカだろ?』と言い返したが、スタッフさんは、それを無視して、
『ズビズバ~!っ言われたら、パパパヤ~!って答えるんだよ~ん』
『ウソだ!』
『ウソではありませんよ。いや、すみません。ウソじゃないよ~ん!』
『そんなこと、わざわざ言い直すな。ズビズバ~!パパパヤ~!って、まさに、老人と子供のポルカだ。やめてケレ、やめてケレ、やめてケ~レ、ゲバゲバ、だ』
『何言ってるか、0.1ミリも分からないよ~ん』
と、それから虚しい議論が続いて、結局、バスが出る時間になってしまったのだ。慌ててバスに駆け込むと、待たされた乗客全員から白い目で睨まれて、舌打ちされて、小さくなっているうちに着いたところが東京駅の八重洲口だったから、『うそ~、梅田じゃないの?これから新幹線で帰るのかよ~』って、うんざりしたところで、目覚ましが鳴った」
「なるほど・・・クソくだらぬ話でござるな」
「そうだ。実に下らない話だが、『シン太郎左衛門』シリーズは一作残らずクソくだらぬ話なのだ・・・ところで、古代オチン語の挨拶って、ほんとに『ズビズバ~!』なのか?」
「うむ。実は、古代オチン語には、膨大な数の挨拶の言葉がありまする。古代オチン語能力検定2級の拙者は知らぬが、超1級合格者のれもんちゃんなら分かるかもしれませぬ」
「そうか。シャープやアスタリスクもないから、どうも古代オチン語っぽくないが、念のために、れもんちゃんに確認しよう」
こんな会話をした。外は雨だった。
そして、その後、ズボンの裾をずっぽり濡らして、れもんちゃんに会いに行った。
待合室で案内を受けて、れもんちゃんにお出迎えしてもらった。いつものことながら、宇宙一に宇宙一に可愛いお出迎えだった。
その可愛さに、しばし見とれてしまったが、(いかん、いかん)と気持ちを新たに「ズビズバ~!」と言ってみた。言ってみた後で、相当の羞恥心に襲われた。
れもんちゃんはキョトンとしている。
これは違いそうだと思ったが、念のため、もう一度「ズビズバ~!」と言ってみた。
恥ずかしさは初回の半分だったが、れもんちゃんは怪訝そうな表情を浮かべている。
これ以上繰り返したら、何もせぬうちに帰らされる危険を感じたので、「いや、『ズビズバ~!』が古代オチン語の挨拶だって教えられたけど、担がれたみたいだ」と言うと、れもんちゃんは可愛く首を傾げて、
「ああ、Zjub% z#v@! だね。Zjub% z#v@! って言われたら、P@b@b#h yo@! って答えるんだよ」と教えてくれた。
「それは、とても発音できないなぁ。ちなみに、古代オチン語の挨拶って沢山あるんだってね」
「うん。たくさん、たくさんあるよ~。特殊なのが、たくさんだよ。Zjub% z#v@!もほんとに特殊なときしか使わないんだ」
「どんなときに使うの?」
「それは・・・秘密じゃないけど、秘密だよ~」
やっぱり、れもんちゃんには可愛い秘密が一杯だった。
そして、いつも多かれ少なかれ私の理解を越えているのであった。
れもんちゃんは、今日もやっぱり宇宙一に宇宙一だった。
シン太郎左衛門と『れもん星バスツアー』 様ありがとうございました。
ゆあ(22)
投稿者:seimari様
ご利用日時:2024年9月20日
ゆあちゃんと3回目の誕生日祝いを楽しく過ごせました。無理なリクエストにも応じてくださりありがとう。最高に可愛いかったです。これからも出来る範囲ではありますが、応援させていただきます。いつも元気をもらっています。これからもよろしくね。
seimari様ありがとうございました。
もこ【VIP】(21)
投稿者:エンドウ様
ご利用日時:2024年9月15日
訪問時点でこのお店で一番胸が大きい子でした。
御本人は少し気にしていたようですが、スタイルもほぼパネル通りで、胸の大きさに比例して他も目立つというような事はまったくありませんでした。
素晴らしいプロポーションでした。
プレイスタイルもハグとキス多めですし、おっぱい好きの人の心理をよく理解しておられて、たっぷりと堪能させて頂けました。
対面時からお別れのその時までしっかりとした気遣いも感じられて、とても満足度の高い時間でした。
マットもお好きとのことなので、次回訪問時はぜひお願いしようと思っております。
ありがとうございました。
エンドウ様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門の新作ラップ 様
ご利用日時:2024年9月15日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近は「キャッシュ・レジスタを買ってくだされ」と、うるさくせがんで付きまとってくる、そういうタイプの武士である。
さて、今日は日曜日。つまり、れもんちゃんデー。
朝食を済ませて、ボーっとしていると、シン太郎左衛門が、ジャージのズボンからニョキッと顔を出し、
「新しいラップを作ってござる。聴いてくだされ」と言ってきた。
「『嫌だ』と言っても、歌うんだろうが、ラップかぁ・・・また、ラップかぁ・・・」と、朝からシン太郎左衛門のラップを聞くのが嫌すぎて、髪の毛を掻き毟っていると、
「今回の作品は、我ながら傑作。タイトルは、『A%*gu@tw t&kiy# *ueof#』でござる」
「うわっ、出た!古代オチン語だ。まさか、古代オチン語のラップか?ゲテモノもいいところだ。嫌だ。絶対聴かないぞ!」
「食わず嫌いは、一生の損でござるぞ」
「そんなの、どうでもいい。別に損してもいい。俺は、れもんちゃんに会えたから、それ以上のことは何も望んでない。一生このままでいい」
「いや、そうはいかぬ。聴きなされ」
Yaw#ith cr$edi kit%y&uc
Otr*eg%c in al$l ho*n es&ty%
Ej*f$stiv%c jagd#yt yi&h&f*
・・・
An*dy ju%tf Lemon-ch@n!
We are Shint@ro_z@emons!
「想像よりも長かった・・・ひどいもんだ。かろうじて最後だけ分かった。『我ら、シン太郎左衛門ズ』だ。あと一回『れもんちゃん』とも言ってた。それ以外は何一つ分からなかった」
「Lemon-ch@n は、古代オチン語で、宇宙の秩序を司る万能の女神を意味する貴い言葉でござる。しかし、拙者、『我ら、シン太郎左衛門ズ』などとは言うておらぬ」
「最後に『ウィ・アー・シン太郎左衛門ズ』って言ったじゃないか」
「聞き違いでござる。古代オチン語で『W$ ar% $hol@n t@ro z@em#ns!』とは、『れもん神へ永遠の帰依を誓う』という意味でござる。大変によく出来たラップでござる」
「分かるか!面白くも可笑しくもない」
「うむ。それは残念」
そして、しばらくすると、JRに乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、今日も今日とて、宇宙一に宇宙一であった。
実に実に楽しい時間であった。
そろそろ、お見送りの時間となったとき、シン太郎左衛門が、前触れなしに、「Uyr%cvu#t fw&yuv#xe iy$g v%jlp・・・」と呪文を唱え始めた。
(まずい!「父親の口を使って勝手に話す魔法」だ!)
シン太郎左衛門が、新作ラップを唄うつもりなのは察しがついたが、最早止めるすべがなかった。
れもんちゃんの部屋で、私は、シン太郎左衛門に、古代オチン語のラップを歌わされた。
Yaw#ith cr$edi kit%y&uc
Otr*eg%c in al$l ho*n es&ty%
Ej*f$stiv%c jagd#yt yi&h&f*
・・・
An*dy ju%tf Lemon-ch@n!
We are Shint@ro_z@emons!
歌っている当人には、何を歌っているか全く分からないのに、れもんちゃんは、とても可愛く陽気にキャッキャッと笑っていた。
普段の私は桁外れの音痴なのに、音程もリズムも狂いがなかった。
歌い終わると、れもんちゃんは、「おもしろ~い。この曲、傑作だね」と言ってくれた。
「ありがとう」と答えたが、正直全く嬉しくなかった。
「ちなみに、最後の一節は、『ウィ・アー・シン太郎左衛門ズ』って言ってるよね?」と訊くと、れもんちゃんは怪訝な表情になり、「違うよ。『W$ ar% $hol@n t@ro z@em#ns!』は、女神を讃える言葉だよ」
「ああ・・・どうしてもそうなんだ・・・それで、この歌、結局、何の歌なの?」
れもんちゃんは、真剣な面持ちになり、「それは・・・秘密だよ」と、予想したとおり教えてもらえなかったが、ちょっと困り顔のれもんちゃんも、また大変に可愛かった。
帰りの電車で、シン太郎左衛門に、ラップの歌詞の意味をしつこく尋ねたが、頑として教えようとしなかった。
「お前は、ひどいヤツだな。教えてくれてもいいじゃないか」
「そういう訳には行かぬ。れもんちゃんが秘密と言うものを拙者が話せる訳がない」
言われてみれば、その通りだった。れもんちゃんには、可愛い秘密が一杯だった。
「ところで、俺も古代オチン語を学びたくなった。お薦めの語学学校とかないか?」
「うむ。れもん星立第一中学校」
やっぱりそうだった。簡単に学べる言語ではないのだ。
れもん星に行けるのなら、私の人生に色々と新しい展開も期待できるだろう。
しかし、私のような凡夫にとって、れもん星は余りにも遠すぎるのであった。
シン太郎左衛門の新作ラップ 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門とチョンマゲ(あるいは「れもん星から遠く離れて」) 様
ご利用日時:2024年9月8日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。我が家では日曜日を「れもんちゃんデー」と呼び、祝日としている。国旗は立てない。
さて、今日は日曜日。れもんちゃんに会いに行く日。
日曜日は、いつも晴れやかな気持ちで朝を迎える。今朝も、実に清々しい目覚めであった。改めて、私の人生に日曜以外の曜日は必要ないことに深く感じ入り、腕組みの上、何度か大きく頷いていると、シン太郎左衛門が、股間から、
「ところで、父上、困ったことにバイトが見つからぬ」と言ってきた。
「・・・先行する話題がないのに、『ところで』とは言わんだろ。まあいい。お前、まだバイトを探してたのか?履歴書の用紙を全て紙飛行機にしたから、すっかり諦めたと思ってた」
「実は、諦めつつも探しておる。ついては、父上の勤め先で、拙者に相応しい仕事の空きはござらぬか」
「全く思い当たらんね。そもそもお前に相応しい仕事って、何だ?」
「例えば、社員食堂の厨房を考えてござる」
「・・・それは、お前が一番やっちゃいけないことだな」
「これは異なことを。拙者、熱いものが苦手でござる故、揚げ物やウドンの湯切りは致しかねるが、実は、おむすびを握ったり、お稲荷さんをこしらえるのは大の得意でござる」
「誰が、そんなもの、食えるんだ!俺でも食えん」
「社員さん、みんな、パン派?」
「違う!衛生上の問題だ」
「その点は、ご安心くだされ。拙者、到って綺麗好き。石鹸の消費量では誰にも負けませぬ」
「・・・風呂場の石鹸がゴイゴイ無くなる理由が分かった気がする」
「うむ。では、来週から御社の社員食堂でお世話になりまする」
「待て待て。そこまで衛生面に気を配っているなら、俺も『分かった』と言ってやりたいところだが、そうもいかん。お前は大きな勘違いをしている」
「勘違いとな」
「うん。そもそも、うちの会社には社員食堂がない」
「・・・そうなの?」
「そうなのだ。俺が出勤日の昼、欠かさずラーメン屋に行ってることから察するべきだったな」
「言われてみれば、毎日同じラーメン屋」
「だろ?ラーメン好きでもないのに、毎昼ラーメンを食べ続けると、週末近くには、グッと込み上げてくるものがある」
「それは、ごもっとも。父上も拙者も、無類のれもん好きであって、ラーメン好きではござらぬ」
「だろ?と言うことで諦めろ」
「うむ。致し方ござらぬ。それでは御社の受付嬢を致しましょう」
「察しの悪いヤツだなぁ。いいか。それは、お前が、れもんちゃんのような超絶美人でも無理だ。うちの会社には、受付がないからな」
「なんと・・・実に何にもない会社でござるな」
「そうだよ。夢も希望もない」
「よく我慢できまするな」
「だから、俺には、れもんちゃんが必要なのだ」
「うむ。確かに、れもんちゃんは人類の夢と希望でござる」
そんな話をした。そして、JRの新快速に乗って、れもんちゃんに会いに行った。
れもんちゃんは、やはり宇宙一に宇宙一であり、宇宙一に宇宙一の在位期間に関する宇宙新記録(自己記録)を継続的に更新中であった。
帰り際、れもんちゃんにお見送りしてもらいながら、「れもんちゃんの髪、いつ見ても本当にキレイだよね」と、しみじみ感嘆した。
れもんちゃんは、ニッコリとして、「美容院は、れもん星のお店が一番だよ」と教えてくれた。
もちろん、それは、前から知っているものの、我々のような凡夫にとって、れもん星は余りにも遠かった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門が、「父上、拙者、本日、大変なことを発見してござる」と言い出した。
どうせ下らんことだろう、とは思ったが、「大変なことって何だ?」
「武士の沽券に関わること故、心して聴いてくだされ」
「うん」
「父上・・・拙者、本日、チョンマゲを結っておらなんだ」
「・・・別に、本日に限ったことではない。ずっとずっと前から、お前はチョンマゲなんてしていない」
「どれくらい以前から?」
「実は、お前はチョンマゲをしたことがない」
「それは有り得ぬ。拙者は武士でござる」
「それは俺の知ったことではない」
「いや、解せぬ。先刻、父上が、れもんちゃんの髪を讃えておった折、『拙者にも立派なチョンマゲがござる』と思って、頭に手を伸ばしたら、自慢のチョンマゲが消え失せておった。『シン太郎左衛門』シリーズの最初の頃、拙者は、お茶目なチョンマゲをしておったはず。おそらく第5話あたりで、父上が設定を失念し、以降ずっと描き忘れておる。拙者のチョンマゲを元に戻してくだされ」
「最初からそんな設定はないよ。れもんちゃんに関する記述を除けば、毎回デタラメな話だけど、唯一お前がチョンマゲをしてない点では一貫している」
「いい加減なことを言うな!俺は第5話までは、確かにチョンマゲを結っていたんだ。勝手に設定を変えやがって、ふざけるな!」
「・・・お前!ちゃんと『ござる』調で話せ!設定を壊してるのはお前の方だ。お前が俺の口調を真似て、そんなことを言うと、読者は最初の5話ぐらいまで、父親である俺がチョンマゲを結っていたのか、と勘違いする」
「うむ。それもまた一興。とにかく、拙者のチョンマゲを戻してくだされ」
それから延々と出口の見えない言い争いが続いたが、私には分かっていた。シン太郎左衛門はチョンマゲに特に関心はなく、ただ髪の毛がないことが不満なのだ。髪の毛がないと、美容院に行けない。将来、テクノロジーが飛躍的に進歩して、れもん星と地球の往復が可能になっても、髪がなければ、れもん星の美容院に行く理由がない。結局、シン太郎左衛門は、れもんちゃん御用達の美容院に行ってみたいだけなのだ。
チョンマゲ、チョンマゲと、うるさく要求するシン太郎左衛門を遮って、
「ところで、先端恐怖症のお前が、ハサミでチョキチョキと髪をカットされるのに耐えられるのか?」
シン太郎左衛門は、「はっ」と言葉に詰まった。
「お前の腹は読めている。れもんちゃん御用達の美容院には、お客ではなく、シャンプーやコンディショナーの営業マンとして出入りした方がよくないか?」
「なっ、なんと、そのような手がござるか?その話、詳しく聴かせてくだされ」
「詳しく言うほどのことはない。今言ったことが全てだ」
「ちなみにシャンプーやヘアケア商品のほかに、石鹸も売りに行ってよろしいか?」
「石鹸って、当たり前の石鹸か?」
「うむ。普通の石鹸でござる」
「好きにしたらいい」
「うむ、これはよい。拙者、美容院専門の営業マンになりまする」
「それがいい。しばらく頑張ったら、美容師さんがお前の衛生意識の高さに気付いて、レジ打ちのバイトで雇ってくれるかもよ」
「なんと!そんなステキな特典までござるか」
「よく知らない。俺は美容院に行ったことがない」
それきりシン太郎左衛門は静かに物思いに耽り出した。れもんちゃん御用達の美容院でレジ打ちに邁進する自分の姿を妄想して、うっとりしているに違いない。
実際には、我々が生きている間に、れもん星と地球の間を定期的につなぐ交通機関など生まれるわけがない。
ただ、それは大した問題ではない。
れもんちゃんは人類の夢と希望である。
それ以外のことは、全て些末なことでしかなかった。
シン太郎左衛門とチョンマゲ(あるいは「れもん星から遠く離れて」) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と魔法の本 様
ご利用日時:2024年9月1日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。主従関係にも忠義にも縛られない気楽な武士、いわゆる浪人だ。結局、アルバイトも見つからなかった。
昨日は土曜日。自転車並みのスピードで、台風が接近していた。
朝のうち、雨がかなり降ったが、昼過ぎには止んだので、スーパーに買い物に行くか否かで悩んでいると、外で郵便受けがガチャンと音を立てた。何か届いたらしい。
「シン太郎左衛門、郵便物が届いたようだ」
「音からして、かなり重いものでござる」
「なんだろうか」
「電気の使用明細書ではござるまいか」
「普段の月はペラペラの紙一枚だが、今月は派手にエアコンを使いまくってしまったからな」
「破産でござるな」
「さすがに、そこまでのことはないだろう」
取りに出た。そこそこ大きな封筒が入っていた。取り出してみると、ずっしりと重かった。
「本かな?注文した記憶もないが・・・」と差出人を見ると、Bだった(Bについては、以前のクチコミにも書いたし、説明が面倒くさいので割愛)。
「おい、やめてくれよ・・・Bからの郵便物を素手で触ってしまった」
「前回も、そうしておられたはず」
「今日は、そういう気分じゃなかったんだ。大失態だ」
「うむ。で、中身はなんでござるか」
「分からんが、本みたいだぞ」
「開けてみられよ」
「え~っ、嫌だなぁ」
とりあえずリビングに戻り、テーブルの上に封筒を投げ出し、立ったままアイスコーヒーを飲んでいると、シン太郎左衛門がジャージのズボンから飛び出してきて、「拙者が開けまする」と、封筒を破り始めた。
私は椅子を引いて腰を下ろし、
「なんで、そんなに急くのかね?」
「拙者にとって重要なモノが入っている予感がいたす」
出てきたのは、100枚ほどのB5コピー用紙の束だった。紐綴じされていた。小さなメモが付いていて、「面白いものが手に入った。読め」と手書きされていた。
紙束に目をやると、タイトルからして見たこともない文字で書かれた古い印刷物の写しと思われた。
「これ何語だろ?こんなもの読めと言われてもなぁ」
と言って、シン太郎左衛門を見ると、食い入るように、その奇妙な本の写しらしいものを見つめている。
「何か分かるか?」
シン太郎左衛門は私の言葉を無視して、ページを捲って、次の一枚に目を落とした。
Bは私が知る限り最も優れた頭脳の持ち主だった(もちろん、れもんちゃんは別として)。数学においては紛れもない天才で、余技としていくつもの外国語をマスターしていた。一晩あれば辞書一冊を暗記できる頭を持っていて、古典語でも現代語でも一週間で読み書きに不自由しなくなると言っていた。ただ、話すことにおいては、現代日本語すらマトモに出来ないヤツだった。
シン太郎左衛門は興奮した様子でコピーから顔を上げ、「これは大変なモノでござる」と声を震わせたが、私には全然興味が湧かなかった。
「そうかい。お前、分かるの?エジプトの象形文字でもないし、楔形文字でもないし」
「父上、これは・・・何を隠そう、これは古代オチン語で書かれた魔法書でござる」
私はアイスコーヒーを派手に吹き出した。
「ないない。そんなものはない。古代にもオチンはいただろうが、古代オチン語はない。現代オチン語もない。それに魔法を使えるのは、れもんちゃんだけだ」
「いや、拙者もまさかとは思ったが、これは、紛れもなく古代オチン語の魔法の本、伝説の『Gd#r&yjvx*s ohr rd%d$ wrja』でござる」
「・・・なんて?」
「『Gd#r&yjvx*s ohr rd%d$ wrja』でござる」
「グドリュジュ・・・ああ、やっぱりね」と私は椅子から立ち上がり、「俺も、そうだと思ったよ・・・ところで、これから買い物に行くけど、お前はどうする?」
「拙者は、『Gd#r&yjvx*s ohr rd%d$ wrja』を読みまする」
一人で外に出た。私は、エコバッグを肩にかけ直し、空を見上げた。
ドンヨリと曇った空、南の方の雲の隙間から青空が覗いている。奇妙な形の黒雲が一つポツンと浮いていた。
私の心配は、明日JRが運休して、れもんちゃんに会えなくなることだけだった。
そして、翌日、日曜日。嬉しいことに台風の問題はなく、れもんちゃんに会いに行けた。
れもんちゃんは、今更言うまでもないことながら、宇宙一に宇宙一だった。感動的に宇宙一に宇宙一だった。
帰り際、れもんちゃんのお見送りを受けているとき、いきなりシン太郎左衛門が股間で、「Uyr%cvu#t fw&yuv#xe iy$g v%jlp・・・」と、古代オチン語の呪文を唱え始めた。それに応えるように、私の身体が震え出し、私の意志とは関係なく、シン太郎左衛門の言葉が私の口から音になって発せられた。
いきなり面と向かって、「Y#fd e$th ca*p%igfh piy#g f&%e!」と言われて、れもんちゃんはポカンとした。そのポカンとした、れもんちゃんの可愛さといったら、どう表現していいか分からないほどであった。そのせいで、シン太郎左衛門に「普通に日本語で喋れ!」と言うタイミングを逸してしまった。シン太郎左衛門は更に言葉を続け、私は言いたくもないのに、
「Ba#g%dr u$im#b if#sg%vak lj#ga r$tu?」と言っていた。
私はこの場面を取り繕いたくて、れもんちゃんに「気にしないで。これはエヘン虫の一種だから」とか言おうとしたが、魔法のせいか舌や口を自分の意志で動かすことができなかった。
さらに私は、いや、シン太郎左衛門は、「Zi&yr#f l%pqo* b#cy#gap h$go#e q&sz?」
れもんちゃんは、引き続き可愛くポカンとしている。
(終わった・・・変なクチコミを書く変な客が、連日の暑さと台風による気圧の変化で、ついに完全にぶっ壊れたと思われたに違いない・・・出禁だ)
絶望的な気持ちになった瞬間、れもんちゃんがニッコリと微笑んだ。そして、「O#j#gryu b$few#shi v*c$dr uj#f& o# ih pl#f&h# yet%aq&」と言った。
こちらがポカンとする番になったが、やがて私は救われたことを察して、安堵の余り床にへたり込んだ。そして、れもんちゃんを見上げながら、
「もしかして、れもんちゃんは、古代オチン語が話せるの?」私の発話能力は復活していた。
「うん。中学校の部活で、古代オチン語部だった」
「卓球部じゃなかったの?」
「掛け持ちしてた」
「そうなんだ。その頃から頑張り屋さんだったんだね・・・ところで、シン太郎左衛門と何を話したの?」
「・・・それはヒミツだよ」と少し困り顔をしたれもんちゃんも、当然だが、危険なほどに可愛かったし、やっぱり、れもんちゃんには可愛い秘密が沢山だった。
つまり結論は、こうなる。れもんちゃんのおもてなしは、かくも確かな教養に裏打ちされていたのである、と。
帰りの電車の中で、シン太郎左衛門に、れもんちゃんと何を話したか問い詰めたが、「それは秘密でござる」と素っ気なくあしらわれた。
「ところで、シン太郎左衛門、例の魔法の本には『勝手に父親の口を使って話す』以外に、もう少しマシな魔法はなかったのか?」
「うむ。全部読んだわけではござらぬが、『バイトを見つける魔法』はなかった」
「そんなもん、どうでもいいよ」
「『辺り一面を焼け野原にする魔法』はあった」
「使う予定がない。他は?」
「『財布の中身を倍にする魔法』もあった」
「なんで、そういうのを最初に使わないの?」
「れもんちゃんと直接話がしたかったからでござる」
「そうか・・・そのお金を増やす魔法の呪文を覚えてる?」
「覚えておらぬ」
「そうかぁ・・・じゃあ、多分もう手遅れだな」
最寄り駅で降りると、全速力で家まで駆け帰り、玄関のドアを蹴破らんばかりの勢いで開け、リビングに飛び込んだ。
テーブルの上にBから送られたコピー用紙の束は見当たらなかった。部屋中探したが、見付からなかった。
覚悟していたことではあるが、魔法の本は跡形もなく消え去っていたのである。
シン太郎左衛門と魔法の本 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(「オイラは陽気な飛行機乗り」) 様
ご利用日時:2024年8月25日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。アルバイトの件は、どれだけチャレンジしても、上手くいかない。一社だけ書類審査を通過したらしいが、勤務地を訊いたら静岡県だったので、諦めさせた。
昨日は土曜日。シン太郎左衛門は、履歴書を書く気力をすっかり失って、ダイニングテーブルの上で、A3の履歴書用紙を使って大きな紙飛行機を折っていた。
私はアイスコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。シン太郎左衛門はダイニングテーブルの上から紙飛行機を飛ばしては、落下した紙飛行機を回収してまた飛ばした。大きな紙飛行機が視界の隅を横切ると落ち着いて新聞が読めないので、止めるように言おうとしたとき、シン太郎左衛門は、投げた刹那の飛行機にヒラリと飛び乗り、巧みにバランスを取りながら、壁にぶつかる寸前に「はっ!」という掛け声とともに、クルッとトンボを切って床の上に着地した。
中々の芸ではあったが、褒めると付け上がるので、黙って新聞を読み続けた。
さらに芸は進化していく。紙飛行機の上で逆立ちしてみたり、紙飛行機の上から別の紙飛行機を飛ばして、そちらに跳び移ったり、ピエロの扮装で紙飛行機の上で玉乗りしながらジャグリングをしたり。私も思わず拍手してしまった。
「お前は結局何がしたいのだ?」
「職種は特に拘らぬが、時給1200円以上が希望でござる」
「・・・いや、バイトの話ではない・・・まあいい。お前は本当に頑張ってるよ」
「うむ。拙者は実に良く頑張っておる」
「ただ、俺が望むような方向でないことが残念だ」
「そこは父上を見習ってござる」
「どういう意味?」
「父上も毎週頑張ってクチコミを書いておられるが、れもんちゃんが望むものとは、かけ離れてござる。毎回、何となく思い付いたことを書いているばかりでござる」
「そうか・・・まあいい。とりあえず、ピエロの衣装を脱いで、メイクを落としてこい」
そして、翌日、日曜日。れもんちゃんに会った。
やはり、れもんちゃんは素晴らしかった。人生において揺るがぬ真実は2つしかない。日本の夏はクソ暑いということと、れもんちゃんは宇宙一に宇宙一だということだ。
今回も沢山の感動を与えられた。
帰り際、れもんちゃんに尋ねた。
「れもんちゃん、今回のクチコミに希望があったら教えてほしいんだけど」
れもんちゃんは、少し首を傾げて、
「う~ん。シン太郎左衛門が色々な曲芸をするお話」と、それは可愛い笑顔を浮かべた。
「そんなのでいいの?」
「うん、それがいい」と、それはそれは可愛く言うのであった。
帰りの電車の中、シン太郎左衛門に告げた。
「れもんちゃんは素晴らしすぎる」
「それは分かりきったことでござる」
「『優しい、可愛い、美しい』だけでなく、実にモノの分かった女の子だ」
「それも1000年前から知ってござる」
「そうか。ただ、そうであっても、今一度胆に銘じておけ」
「うむ。畏まってござる」
永遠に揺るがぬ真実は、何度でも繰り返し訴えなければならない。
日本の夏は鬱陶しいぐらいクソ暑い。
そして、れもんちゃんは、信じがたいまでに宇宙一に宇宙一なのである。
シン太郎左衛門(「オイラは陽気な飛行機乗り」) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(金ちゃんの近況報告) 様
ご利用日時:2024年8月18日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。アルバイトの募集に履歴書を送ること、数十回。悉く書類審査でハネられて、不貞腐れている。一度だけ、書きかけの履歴書を覗いてみたが、
氏名:富士山 シン太郎左衛門
生年月日:万延元年 某日
とあって、写真貼付欄には、逆光を浴びたマッシュルームカットの男性と思われるイラストが描かれていた。
「毎回、こんな感じの履歴書を送ってるのか?」
「うむ。用紙はダイソーで購入してござる・・・セリアの方がよろしいか?」
「いや。そこは余り問題にならないと思う」
昨日は土曜日。
10時過ぎに起きた。清々しい目覚めではあったが、盆休みの間、エアコンを付けっぱなしだから、電気料金が思いやられた。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「うむ。最前より目覚めてござる」
「今日は金ちゃんの家に行くことにした」
「金ちゃんには久しく会っておりませぬな」
「そうなんだ。金ちゃんは家族みたいなもんだから4ヶ月も会ってなければ、普通『最近、どうしてるかな?』と少しは心配になったりするもんだろうが、先週あんな変な夢まで見た後でも、やっぱり『最近、どうしてるかな?』と心配にはならないのだ」
「・・・つまり金ちゃんを家族のようだと感じたのは錯覚であったということでござるな」
「そういうことになる。完全な思い違いだったようだ。それなのに、なんでこんな暑い日に、わざわざ、そんなヤツに会いに行かねばならないんだろう?」
「うむ。確かに理由が見当たらぬ」
「だろ?なんで俺は金ちゃんに会おうなんて思ったんだろう・・・あっ、そうだ。思い出した。理由はあれだ」
私が指差す先を見て、シン太郎左衛門は、
「あれは、超高級ウィスキーでござる」
「そうだ。もう飲む気はないが、プレミアもので売値が10万円以上と聞いてるから、捨てるに捨てられん。だから、金ちゃんに押し付けようと思ったんだ。『要らないけれど捨てられないモノは隣の敷地に移す』、これが俺のモットーだ」
「うむ。実に迷惑なモットーでござる」
二階の洗面所で身支度をしていると、家の周りで鳴く蝉の声がうるさいほどだった。すると、シン太郎左衛門が、
蝉の声を聞くたびに~
目に浮かぶ九十九里浜~
と歌い出した。
「シン太郎左衛門、その歌はいかん」
「ん?それは、なに故?」
「愚か者め。『歌舞伎町の女王』は、椎名林檎の歌だぞ。リンゴはダメだろ」
「おおっ!拙者としたことが!」
「れもんちゃんに知れたら、切腹だぞ。以後気を付けるように・・・あっ、そうだ」
家を出ると、お日様が狂ったように殺人熱光線を発して街を破壊し、それを囃すように蝉たちが鳴き狂っていた。
「ひどい天気だ。これじゃ、地球滅亡の日も遠くないな」
隣家のインターホンを鳴らすと、金ちゃんの声が「どちら様ですか?」
「俺だ。先週もそう言ったはずだ。何度も言わすな」と答えて、門を開けて家の敷地に入って行った。
玄関のドアが開いて、眩しそうに目を細める金ちゃんが顔を出した。
「金ちゃんだ!!全然痩せてない。よかった。安心したぞ」
「一応ダイエット中なんですけど、逆に太りました」
「それでこそ金ちゃんだ!偉い!!」
「なんだか馬鹿にされてる気がするんですけど・・・」
「勘違いもいいところだ。アイスコーヒーを頼む」と言いながら、勝手に家に上がり込んだ。
リビングのドアを開けると、ラッピーが出迎えてくれた。心なしか夏バテのご様子だった。モンちゃんはエアコンの風が直接当たる場所で踞って寝ていた。
「みんな達者でよかったよ。パパさんママさんは和歌山の親戚の家だろ?」と、キッチンからアイスコーヒーを持ってきた金ちゃんに尋ねると、
「え?うちに和歌山の親戚なんていませんよ」
「マジか?くそ~、メタンガスに騙された」
「・・・余り訊きたくないけど、『メタンガス』って何ですか?」
「メタンガス、別名『メタン君』は、お前の成れの果てだ」
「やっぱり訊くんじゃなかった。完全に意味不明だ」
「まあいい。今日、お前を訪ねてきたのは、他でもない。贈り物がある」
「はあ」と金ちゃんは気のない返事をした。
「もっと嬉しそうにしろ。素敵な品々だぞ。まずは・・・これだ」
私はエコバッグからCDを二枚、テーブルの上に置いた。
「ご覧の通り椎名林檎のCDだ。宗教上の理由から我が家に置いておけなくなった」
「宗教上の理由?」
「そうだ。俺は、れもん教徒、つまりレモンチャンだ」
「れもんちゃん?」
「違う。れもんちゃんじゃない。イントネーションが違う。『レモンチャン』だ。『クリスチャン』に引っかけたギャグだ・・・言った当人でさえピンと来てないものを解説さすな!」
そのとき、股間から、
「へへへ、『レモンチャン』とは面白い」
「シン太郎左衛門は黙っとけ。お前が口を出すと、ややこしくなる」
「オジさん、何を言ってるんですか?訳が分からないです」
「ゴメン。シン太郎左衛門のせいだ。全部、こいつが悪い」
「へへへ、『れもん教徒は英語で言うと、レモンチャン』とな。これは笑える」
「こんな変なところにツボがあったとは知らなかった。まあいい。シン太郎左衛門は放っておこう。とにかく、ありがたく押し戴け」
「はい。ありがとうございます」と金ちゃんはCDを手元に引き寄せた。
「おい、待て。お前は、アニソンしか聴かないはずだ。アッサリもらうって、どういうことだ?押し問答の一つも期待してたのに」
「そんな深い理由はないんですけど、くれるんなら、もらいます」
「・・・そうか・・・」
「『レモンチャン』とは傑作」と、引き続きヘラヘラと笑っているシン太郎左衛門に気が散ってしょうがなかった。
「まあいい・・・で、もう一品。販売価格10万円は下らない超高級ウィスキーだ。ちょこっと飲んだが、ほぼサラだ」とボトルを取り出すと、金ちゃんの目が輝いた。
「それも貰っていいんですか?」
「超高級ウィスキーだぞ」
「嬉しいです」
「どうしてだ?お前は、アルコール分解酵素を持ってないじゃないか。こんなの飲んだら即死だぞ」
「ああ、僕が飲むんじゃないんです。会社の総務課の人に、社会保険とか税金とか、いろんなことで凄くお世話になってて、その人に上げようと思うんです」
「CDも?」
「はい。椎名林檎のファンだって言ってたから。その人のご主人が毎晩ウィスキーをチビチビ飲むのを楽しみにしてるらしいです」
そんなことを聞いたら、急に上げるのが惜しくなってきたが、今さら撤回もできなかった。
「・・・金ちゃん、仕事は楽しくやってるか?」
「まあまあですね。のんびりやってます」
「それはよかった」
「オジさんは元気ですか?」
「俺のことなら心配は要らない。俺は、れもん教徒、つまりレモンチャンだ。れもんちゃんの御加護があるから、何の不安もない」
金ちゃんの家を出ると、またしても狂った太陽の熱線と蝉の声に晒された。
シン太郎左衛門は、「いやぁ~、『レモンチャン』とは実によいギャグでござるなぁ。これまで『シン太郎左衛門』シリーズ中、父上が発した最高のギャグでござる」とヘラヘラ笑っていた。何がおかしいのか全然理解もできず、なんか妙に落ち込んだ。
そして、翌日、日曜日。れもんちゃんに会った。
当然、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一で、昨日の軽い落ち込みなど一瞬にして根刮ぎにして視界の彼方に吹き飛ばす、巨大竜巻のような可愛さだった。
れもんちゃんの力は、やはり偉大であった。
少し後日談がある。
今日は火曜日、夜、自宅で、上記のクチコミを投稿しようとしていると、金ちゃんが訪ねてきた。
「オジさんからの贈り物を渡したら、総務課の人、凄く喜んで、お返しを預りました。お盆休みに里帰りして金比羅さんにお詣りをしたときのお土産だそうです」と、ずっしりと重たい紙袋を渡された。
「『お隣さんと仲良しって、いいですね』と言われました」と言って、金ちゃんは笑顔で帰っていった。なんとも気恥ずかしかった。
袋には、丁寧な御礼の手紙と金比羅宮の御守りセットと沢山のお菓子が入っていた。
「シン太郎左衛門、超高級ウィスキーと椎名林檎を追い出したと思ったら、もっと処分に困るものたちがやって来た。お菓子は食べりゃいいが、他の二つは本当に困る・・・でも、俺は、れもん教徒で優しさをモットーにしてるから、人の好意を無にすることが出来ないのだ・・・」
「へへへ、父上はレモンチャンでござる」とシン太郎左衛門は、何がおかしいのか、相変わらずヘラヘラと笑っていた。
「お前もだろ?」
「うむ。拙者も敬虔なレモンチャンでござる」
もらった茶饅頭をモシャモシャ食べながら、この後日談を記した。これから投稿ボタンを押す。
シン太郎左衛門(金ちゃんの近況報告) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「見知らぬ隣人」) 様
ご利用日時:2024年8月11日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。理由は知らないが、ここ最近ずっとアルバイトを探している。当然のことながら、上手く行かない。先日も居酒屋チェーンから不採用の通知を受けて、凹んでいる。「ホールは無理でも厨房なら行けると思っておったが・・・」と、世の中を舐めた発言をしていた。
さて、昨日の土曜日から職場は9日間の盆休みに入った。しばらく職場に行かなくてよい解放感も手伝って、目覚ましもかけず、グーグー寝ていたが、10時前には暑くて目を覚ました。
親子揃って、「暑い!」と声を上げて寝床から飛び出した。
「なんて暑いんだ!この地球は、俺に何か恨みでもあるのか?」
「父上、エアコンを入れましょうぞ」
「うん・・・いや、待て。今日から盆休みだ。9連休の間、毎日エアコンをガンガンかけて暮らすのは、いくらなんでも電気代が勿体ない。盆休みは、隣の家で過ごそう」
「実にド厚かましい話でござるな」
リュックサックに替えの下着と本を数冊詰めて、背負うと、
「準備完了だ。行こう」
「うむ。金ちゃんに会うのは久しぶり。この4ヶ月ほど会っておりませぬな・・・父上、枕は?」
「おっ、そうだ。忘れるところだった。俺は枕が変わると寝れんからな」
外はお日様が暴れまわっていたので、馬鹿みたいに暑かった。照り付ける日差しの中、枕を小脇に抱え、隣の家のインターホンを鳴らした。
「どちら様ですか?」と金ちゃんの声がしたので、「俺だ」と答えて、門を開けて家の敷地に入って行った。
玄関のドアが開いたので、金ちゃんが顔を出すのかと思いきや、ドアの隙間から覗いた顔は想像していたものではなかった。
「おっ、お前は、誰だ!」と思わず叫んでしまった。
「僕は・・・オジさんが言うところの『金ちゃん』です」
「なんだと?嘘を言うな。お前のどこが、金ちゃんだ。金ちゃんはデブだ。長年の不規則な睡眠とだらしない食生活が産み出したデブの傑作だ」
「ここ半年ほど、毎朝5時に起きて、剣道の稽古をしてたら、こんなになってしまいました」
「ふん、そんな嘘に騙されるもんか!引き締まった体型だけじゃない。顔が全然違うじゃないか。お前は、今では死語となった『ジャニーズ風』の、爽やかなイケメンだ。金ちゃんは満月のような丸顔だ。お前は眼鏡もかけてないし、明らかに別人だ」
「痩せすぎて、眼鏡がズレるようになったから、コンタクトにしました」
「うっ・・・確かに、声と話し方は金ちゃんだな。だが、俺は認めん!金ちゃんパパと金ちゃんママは、どこだ?」
「父さんと母さんは、お盆で和歌山の親戚の家に行ってます」
「やっぱりそうだ!お前、金ちゃん一家に何をした?殺したな。目的はなんだ?」
「いやいや」
「何が『いやいや』だ。目的は分かってぞ。金ちゃん一家に成りすまし、俺を騙して、れもんちゃんの秘密を聞き出す積もりだろ!貴様は、れもんちゃんの特殊能力を使って世界制服を狙うテロリスト集団の一味だ!」
「オジさんのメインテーマは、相変わらず、『れもんちゃん』ですね」
「当然だ・・・お前が手に持ってるのは何だ!」
「これ?モンちゃんのオヤツのチュールです」
「チュール型のスタンガンだな!」
「・・・オジさん、暑いし蚊が入るから、早く中に入ってください」
「・・・うん、そうしてやろう。言っておくが、俺は、れもんちゃんの秘密について、何一つ知らんからな。俺が知っているのは、『れもんちゃんには可愛い秘密が沢山ある』ということだけだ。どれだけ拷問しても、それ以上のことは引き出せんぞ」
そう言いながら、私とシン太郎左衛門は危険を承知で金ちゃん宅に足を踏み入れた。
エアコンが効いたリビングに招き入れられて、アイスコーヒーを供された。そんな気の効いた振る舞いは、金ちゃんらしくなかったが、挨拶に来たラッピーは、やはり美しかった。
「オジさんは、ブラックでしたよね」と言ったスリムなイケメンの足元に、妖しい色気を発する美しいキジトラ猫が纏わりついていた。
「モンちゃん、チュールの続きを上げるね」とイケメンはしゃがんだ。
「大人の女の色気を発散する、この猫がモンちゃんか?・・・子猫の面影が、すっかりなくなってしまった・・・」
「前に会ってときから4ヶ月経ってますよね。すっかり美人さんになったでしょ」
「うん・・・れもんちゃんには到底太刀打ち出来んが、猫としてはかなりのものだ」
モンちゃんは無心にオヤツを舐めていた。
「しかし、お前、本当に見違えてしまったぞ。今では死語となった『ジャニーズ』・・・いや、若い頃の福山雅治にそっくりだ」
「そうですか?」
「まるで悪夢を見てるようだ・・・お前は、もう金ちゃんではない」
金ちゃんの「成れの果て」は、爽やかな笑みを浮かべて、「もう金ちゃんじゃないのかぁ・・・なんか寂しいですね。『金ちゃん』じゃなく『銀ちゃん』ですか?」
「何だと?下らん!『金ちゃんじゃなくて銀ちゃん』なんて、恥を知れ!お前のような下らんことを言うヤツには、シルバーやブロンズでも勿体ない。お前なんて、メタンガスだ。これから、お前を『メタン君』と呼ぶ。ちなみに、れもんちゃんは、ダイヤモンドだ」
福山雅治似のメタン君は、ヘラヘラと笑うだけだった。
「ところで、この部屋、エアコンが効いてるか?段々暑くなってきた気がする」
「はい。26度に設定してますよ」
「嘘を吐け!どんどん室温が上がって、息苦しくなってきた。お前、本当に世界制服を目論むテロリストの一味だろ。こんな陰湿な拷問にかけても、俺は、れもんちゃんの秘密なんて知らんから、何も話すことはない」
「僕がテロリストに見えますか?」
「いや、見えん。そもそも俺が一目でそれと見抜けるようなマヌケなテロリストなんているもんか。そんなことはどうでもいい。俺が、このクソ暑い部屋の淀んで重い空気に逆らってでも言いたいことは、ただ一つ。れもんちゃんのマジカルパワーを悪用するなんて無理だ、ということだ。れもんちゃんのマジカルパワーは、どんな使い方をしても世界がドンドン幸せに満ちて平和になってしまうのだ!!」
拳を激しく上下させながら、そんな熱弁を振るっていると、
「何をぐちゃぐちゃ言っておる!さっさと起きて、エアコンを入れてくだされ!」と、シン太郎左衛門の声がした。
目が覚めた。夢を見ていたのだ。全身汗まみれだった。
「大変に嫌な夢を見た」
「そんなことより早くエアコンを頼みまする」
「分かった」と、リモコンに手を伸ばした。ピッ、ピッと音を立て、エアコンが動き出した。
「いやぁ、実に気分が悪い夢だった。シン太郎左衛門、知ってたか?福山雅治と一つ部屋で過ごすのは、本当に居心地が悪いんだぞ」
「何の話でござるか」
「・・・まあいいや。元々、俺たちにとって、居心地のいい場所は、れもんちゃんのところしかないんだしな」
そして、翌日、日曜日。れもんちゃんに会いに行った。れもんちゃんは、やはり宇宙一に宇宙一で、れもんちゃんのいる場所は、やはり宇宙一に宇宙一の天国であった。エアコンも、ちょうどいい具合に効いていた。
帰り際、れもんちゃんに「今回のクチコミは夢の話でいい?」と訊くと、
「うん、いいよ。去年の夏も、夢のお話が一杯だったね」と、それはそれは可愛い笑顔を浮かべてくれるのであった。
確かに、れもんちゃんの言うとおりだった。しかし、実は、れもんちゃんの存在自体が素敵すぎる夢のようなものだから、『シン太郎左衛門』シリーズは、程度の多少はあれ、すべて夢の話なのである。
シン太郎左衛門(あるいは「見知らぬ隣人」) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門、酔って候 様
ご利用日時:2024年8月4日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。近所の歯科医院で受付のアルバイトを募集中と知り、勇んで毛筆を揮って志望理由書を書いている最中に、その歯科医院から「志望理由書が酷すぎるから不採用」との電話がかかってきて、周りをキョロキョロ見回している、そういうタイプの武士である。
先週の金曜日、遅くまで仕事だったが、翌日の土曜日は休みだった。帰宅して、シャワーを浴びると、シン太郎左衛門に、「明後日は、れもんちゃんに会う大事な日だ。明日は1日寝て過ごして、明後日に備えよう」
「うむ。暑いし、それがよかろう。拙者、バイトを探しておるが、中々上手く行かぬ。明日もやることがない」
「ついては、これから家呑みをする」
「父上が家で酒類を口にするとは珍しい。どういった風の吹き回しでござるか。養命酒でも呑みまするか」
「違う。明日何もしないと決めたら、普段やらないことをしたくなった。超高級なウィスキーを飲む。去年の暮れ、我が社の忘年会のビンゴ大会で当たったものだ。一等だというから小躍りして喜んだのに、賞品がウィスキーと知ってガッカリした。超高級なんて恩着せがましく言われても、普段全く酒を飲まん俺には何の有り難みもない。『重くて持ち帰るのが面倒なだけだから、末等の駄菓子の詰め合わせに代えてくれ』と頼んだのに聞いてもらえんかった。その日以来ずっと放置してきた超高級ウィスキーを飲む」
「うむ。勝手に呑まれよ。拙者は巻き込まれたくない」
「一緒に呑もう」
「嫌でござる。隣の金ちゃんでも誘えばよい」
「金ちゃんはダメなんだ。あいつは体質的にアルコールを受け付けん。小学校のとき、おばあちゃんの飲みかけの養命酒がお猪口に微かに残っていたのを飲んで、急性アルコール中毒で救急車が呼ばれたらしい」
「金ちゃんは実に使えぬヤツでござる。しかし、拙者も酒は呑めん。そもそも口がない」
「え?そのオシッコが出る穴は口じゃなかったの?」
「違う。どこの誰が口からオシッコをしまするか。どちらかと言えば、鼻の穴に近い何かでござる」
「そうだったのか・・・と言って、鼻の穴からオシッコをするヤツも知らんけどな。まあいい。とにかく高級ウィスキーを呑むぞ」
シャワーから出たままの姿、つまり、全裸で肩にバスタオルを掛けただけの格好で、ツマミ(茹で卵)を用意した。
「よし。それでは始めよう」と、私はウィスキーの栓を抜いて、グラスにほんの少しだけ注いだ。
「シン太郎左衛門、お前もストレートでいいか?」
「拙者は呑まん。正確には、『呑めん』」
「格好だけでいいから付き合え」と言ったものの、実際どのように「付き合わせ」たらよいのか分からなかった。
「あっ、そうだ。こうしよう」
私はティッシュを二、三枚取って、グラスのウィスキーを染み込ませて、シン太郎左衛門にペタッと被せた。
「なにをする!」とシン太郎左衛門は怒り出した。
「新兵衛の砂糖水と同じ理屈だ。適当にチューチューと吸え」
シン太郎左衛門は「なんとも嫌な臭いでござる。外してくだされ!」とか喚いていたが、無視してグラスを手にとり、琥珀色の液体を少しばかり口に含んでみた。
「う~ん、舌が焼ける。これのどこが超高級なのか全く分からんな。しょせんウィスキーは俺の好みではない」と、後は卵ばかりモシャモシャと食べていた。茹で卵を6個食べ終えると「こんなこと、ちっとも面白くない。以上で飲み会を終了とする」とシン太郎左衛門からティッシュを剥がすと、ヤツの目はすっかり据わっていた。
「シン太郎左衛門・・・随分と呑んだな」
シン太郎左衛門は真っ赤な顔で酒臭い息を吐きながら、「父上、『れもんちゃんダンス』を踊ってよろしいか」
「いや・・・止めておいた方がいいぞ。とてもダンスが出来る状態には見えん」
「なに!誰が『ダンスをする』と言った!」
「・・・お前がだよ」
「拙者、ダンスなどせぬ。『れもんちゃんダンス』を踊ると言ったばかりでござる。『れもんちゃんダンス』はダンスではない。『れもんちゃんダンス』は、むしろ、れもんちゃんでござる」
「・・・ごめん。なに言ってるか、全然分かんない」
「なにっ!れもんちゃんファンを騙る変態オヤジめ!貴様に、れもんちゃんの何が分かる!そもそも、れもんちゃんは・・・れもんちゃんは・・・」と、シン太郎左衛門は突然ポロポロと落涙し、「れもんちゃ~ん!!」と叫んだ。
酔っ払ったシン太郎左衛門は本当に始末に負えなかった。怒り上戸で、泣き上戸で、とにかく面倒臭かった。全く理解できない理由で長々と説教をされた。
「分かった、分かった。俺だって、れもんちゃんの素晴らしさは十分分かってるって」
「いや、足らん。全くもって、れもんちゃんに関する理解が足らん。れもんちゃんに申し訳が立たん。今すぐ腹を切りなされ・・・いや、父上は武士でないから腹を切るのは筋違い。それよりも、父上、これから、れもんちゃんに会いに行きましょう」
「無理だな。れもんちゃんは、ふと思い付いて会いに行けるような女の子ではない。一週間前に予約を取れてなければ、まず会えない」
「そんなことは言われずとも、知っておる。福原小学校の子供たちでも知っておる。で、父上は、この状況を見越して、ちゃんと予約を取っておいてくれたのでござろうな」
「いや、取ってない。こんなことになるなんて予測できなかったからな。それにもう12時過ぎだ。クラブロイヤルの営業時間は終わっている」
「なんと、これだから馬鹿オヤジは困る。れもんちゃんは宇宙一に宇宙一でござるぞ」
「知ってる。そんなことは福原小学校のみんなも知ってる」
「情けない・・・こんな夜に、れもんちゃんに会えないとは・・・れもんちゃ~ん!!・・・れもんちゃ~ん!!」
隣の家で、ラッピーが一声、ワワンっと吠えた。「うるさいよ。さっさと寝なさい」というお叱りだろうが、シン太郎左衛門はなおも声を限りに、「れもんちゃ~ん!!」と絶叫し続けた。
当然ながら、私は、二度とコイツにはアルコールを勧めまいと固く誓うのであった。
そして、今日は日曜日。れもんちゃんに会った。
こんなに可愛くて、気立てのよい女の子が本当に存在していいのだろうか?と心配になるほど、可愛くて気立てがよかった。危険なまでに宇宙一に宇宙一だった。
ところで、れもんちゃんが宇宙一に宇宙一であることは、20世紀の初頭、かのアインシュタインによって理論的にも証明されているが、その時点では、れもんちゃんがまだ生まれていなかったため、アインシュタインはこの偉大な発見の公表を見送った。もし、発表していれば、その功績をもって、アインシュタインは生涯2回目のノーベル物理学賞を受賞していたことは、その界隈の学術関係者の間では比較的よく知られたことなのである。
シン太郎左衛門、酔って候 様ありがとうございました。
PREV
[
1
] [
2
] [
3
] [
4
] [
5
] [6] [
7
] [
8
] [
9
] [
10
] [
11
] [
12
] [
13
] [
14
] [
15
] [
16
] [
17
] [
18
] [
19
] [
20
] [
21
] [
22
] [
23
] [
24
] [
25
] [
26
] [
27
] [
28
] [
29
] [
30
]
Next>>
今日は日曜日、つまり、れもんちゃんデー。
朝9時、目を覚ました後、私は敷き布団の上でアグラをかき、しばし腕組みをしていた。どうにも釈然としない気分のうちに「う~ん」と唸った。股間からシン太郎左衛門が同じく「う~ん」と唸る声がした。
「シン太郎左衛門、起きてるか?」
「起きておる」
「俺は夢を見た」
「うむ。拙者も夢を見てござる」
「れもん星に行ったぞ」
「拙者も、れもん星に行ってござる」
「『☆れもんちゃんと行く☆ れもん星立第一中学校見学バスツアー』に参加した」
「拙者も同じでござる」
「そうか。思えば、確かにバスの隣の席にお前がいた。シートベルトをするのに大変苦労しているようだった」
「親子揃って同じ夢を見ておったのでござる。我々の席は最後列でござった。父上は乗車早々、鼻歌を歌って、乗客全員から一斉に舌打ちをされておった」
「バスガイド姿のれもんちゃんの登場が楽しみすぎて、思わず鼻歌が出てしまったのだ。猛烈なバッシングに遭って、平謝りに謝った」
「それにしても、父上の音痴はひどい。先日も・・・」
「話題をバスツアーに戻そう」
「うむ。定刻、梅田駅前からバスが出発し、ややあって、最前列で人の動きがあったから、心待ちにしていた、バスガイドのれもんちゃんの登場かと思うたところが・・・」
「いつもクラブロイヤルの入り口で満面の笑みで出迎えてくれる、感じの良いスタッフさんとそっくりな人物が通路に立って、『本日は、れもん観光のバスツアーにご参加ありがとうございます』と言ったもんだから、車内は騒然となった」
「うむ。拙者は、やっとの事でシートベルトを装着し、『全日本れもんちゃんファンクラブ 近畿地区代表』のタスキを掛けたところでござった。父上が大きな声で『これは、れもんちゃんと行くバスツアーではないのか?!れもんちゃんのバスガイド姿を楽しみにして来たんだぞ!!』と訴えると、乗客全員から拍手が湧き上がった」
「うん。さっきの鼻歌での失態を帳消しにしてやった」
「うむ。そんなお客様の声に運営サイドから釈明の一つもあるかと思いきや、スタッフさん、平然と『れもんちゃん』のタスキを肩から掛けただけでござったな」
「そうだ。思わず『おい!タスキ一つで、この状況を打破できると思うな!やってることが、シン太郎左衛門と同レベルだぞ!反省しろ!』と言ってやったが、ヘラヘラ笑っていて、タスキも外さんかった」
「乗客全員が怒り出し、『タスキを外せ!!』と怒りの大合唱が起こってござる。彼奴のせいで、拙者まで肩身が狭かった」
「それでもスタッフさんは悪びれる様子もなく、『それでは、間もなく、れもん星立第一中学校に到着致します。皆様、降車の準備をお願い致します』と、ニコニコしていた。俺は、彼にそっくりな人に、いつも感じのよい対応をしてもらってるから、まあ、いいか、とそれ以上何も言う気にならんかった」
「うむ。クラブロイヤルのスタッフさんたちは、みんな良い人でござる」
「そうだ。それにしても、れもん星立第一中学校は凄かったな。バスから降りてビックリした」
「うむ。さすがは、れもんちゃんの母校でござった。どれだけ広いのか皆目見当が付かなんだ」
「六本木ヒルズみたいなデカいビルが、これでもかと建ち並んでいた。興奮して、『これ全部、校舎なの?』って、スタッフさんに訊いたら、『さあ・・・』って首を傾げただけだった。全くガイドの用を為していなかった」
「うむ。そこに、第一中学校の生徒さんたちが合流して、『それでは、ここからは各見学コースに分かれます。案内は、第一中学校の二年生の皆さんにお願いいたします』とのアナウンスがござった。拙者は卓球練習場を見学致した」
「俺は、古代オチン語体験レッスンを受けた。このコースの参加者は俺一人だった」
「卓球練習場の見学も拙者一人でござった。案内役は中学生ではなく、例のスタッフさんでござった」
「えっ?それは、おかしい。俺も、同じ時間に例のスタッフさんから古代オチン語を教わってたんだが・・・まあ、いいや」
「うむ。細かいことを気にしてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そうだな。しかし、卓球練習場とは、何ともマニアックな見学場所だ。れもんちゃんが、かつて練習に汗を流した場所だという以外に見学する値打ちがない」
「ところが、そうではない。この卓球練習場が、大変な代物でござった」
「そうなの?」
「とにかく巨大な建物でござった。見渡す限りの卓球台、その数、100万は下りますまい」
「それは凄いなぁ」
「とにかく広大でござるゆえ、拙者、スタッフさんの肩に止まらせてもらい、ぐる~りと遠くまで見渡した」
「お前、オウムかよ」
「拙者、オウムではござらぬ。むしろ、音ならインコに近い」
「え?・・・ああ、下らん!」
「れもんちゃん好みのギャグでござる」
「知らん。しかし、そんな沢山の卓球台で何百万という人たちが卓球をしている光景は壮観だろうな」
「いや、それが、そうではござらぬ。1キロほど先で、一組の老人が練習しているだけでござった。まるで卓球台で出来た砂漠のような風景でござった」
「ふ~ん。そんな景色の中で、中学生でもラクダでもなく、老人二人が卓球してたのか・・・よく分からんな」
「うむ。全くよく分からぬ光景でござった。すぐに見るものもなくなったので、スタッフさんに、中学生時代のれもんちゃんのことを尋ねてござる。すると、『れもんちゃんは、卓球が凄く強かったですよ。れもんちゃんサーブやれもんちゃんレシーブ、れもんスカッシュなどの必殺技を繰り出して、相手がプロ選手でも、片っ端からなぎ倒してました』との答えでござった」
「待て待て。さすがに『れもんスカッシュ』はない。『れもんスマッシュ』の間違いだろう」
「拙者もおかしいと思い、『れもんスカッシュ?れもんスマッシュの間違いでござろう』と訊き直した。すると、『いいえ。れもんスカッシュです』との答え。『いくらなんでも、卓球の試合中に、れもんスカッシュはいかん』と伝えると、『へへへ。ですよねぇ』と、だらしなく笑って、『ところで・・・ガシャポンします?』と訊くので、『せぬ!』と答えてござる」
「・・・何だ、この下らない話は?」
「話ではなく、事実をありのまま語ってござる」
「そうか・・・そうだよな・・・『シン太郎左衛門』シリーズに嘘はない」
「うむ。ところで父上の古代オチン語体験レッスンの方はいかがでござったか」
「ああ。俺は、なんか雑居ビルの小さな会議室みたいな場所に連れて行かれた。そこで、先生に、といっても例のスタッフさんなんだが、『それでは、みなさん。古代オチン語の授業を始めるよ~ん』と言われたので、俺一人なのに『みなさん』と言うのはやめてほしい、れもんちゃんじゃないのに語尾の『よ~ん』はやめてほしいと伝えた」
「真っ当なご意見でござる」
「ただ全く聴いてもらえんかったがね。『それじゃ、今日は、みんなと古代オチン語の挨拶を勉強しちゃうよ~ん。古代オチン語の挨拶は、ズビズバ~!って言うんだよ~ん』って言うから、『待て待て。それは、左卜全とひまわりキティーズの、老人と子供のポルカだろ?』と言い返したが、スタッフさんは、それを無視して、
『ズビズバ~!っ言われたら、パパパヤ~!って答えるんだよ~ん』
『ウソだ!』
『ウソではありませんよ。いや、すみません。ウソじゃないよ~ん!』
『そんなこと、わざわざ言い直すな。ズビズバ~!パパパヤ~!って、まさに、老人と子供のポルカだ。やめてケレ、やめてケレ、やめてケ~レ、ゲバゲバ、だ』
『何言ってるか、0.1ミリも分からないよ~ん』
と、それから虚しい議論が続いて、結局、バスが出る時間になってしまったのだ。慌ててバスに駆け込むと、待たされた乗客全員から白い目で睨まれて、舌打ちされて、小さくなっているうちに着いたところが東京駅の八重洲口だったから、『うそ~、梅田じゃないの?これから新幹線で帰るのかよ~』って、うんざりしたところで、目覚ましが鳴った」
「なるほど・・・クソくだらぬ話でござるな」
「そうだ。実に下らない話だが、『シン太郎左衛門』シリーズは一作残らずクソくだらぬ話なのだ・・・ところで、古代オチン語の挨拶って、ほんとに『ズビズバ~!』なのか?」
「うむ。実は、古代オチン語には、膨大な数の挨拶の言葉がありまする。古代オチン語能力検定2級の拙者は知らぬが、超1級合格者のれもんちゃんなら分かるかもしれませぬ」
「そうか。シャープやアスタリスクもないから、どうも古代オチン語っぽくないが、念のために、れもんちゃんに確認しよう」
こんな会話をした。外は雨だった。
そして、その後、ズボンの裾をずっぽり濡らして、れもんちゃんに会いに行った。
待合室で案内を受けて、れもんちゃんにお出迎えしてもらった。いつものことながら、宇宙一に宇宙一に可愛いお出迎えだった。
その可愛さに、しばし見とれてしまったが、(いかん、いかん)と気持ちを新たに「ズビズバ~!」と言ってみた。言ってみた後で、相当の羞恥心に襲われた。
れもんちゃんはキョトンとしている。
これは違いそうだと思ったが、念のため、もう一度「ズビズバ~!」と言ってみた。
恥ずかしさは初回の半分だったが、れもんちゃんは怪訝そうな表情を浮かべている。
これ以上繰り返したら、何もせぬうちに帰らされる危険を感じたので、「いや、『ズビズバ~!』が古代オチン語の挨拶だって教えられたけど、担がれたみたいだ」と言うと、れもんちゃんは可愛く首を傾げて、
「ああ、Zjub% z#v@! だね。Zjub% z#v@! って言われたら、P@b@b#h yo@! って答えるんだよ」と教えてくれた。
「それは、とても発音できないなぁ。ちなみに、古代オチン語の挨拶って沢山あるんだってね」
「うん。たくさん、たくさんあるよ~。特殊なのが、たくさんだよ。Zjub% z#v@!もほんとに特殊なときしか使わないんだ」
「どんなときに使うの?」
「それは・・・秘密じゃないけど、秘密だよ~」
やっぱり、れもんちゃんには可愛い秘密が一杯だった。
そして、いつも多かれ少なかれ私の理解を越えているのであった。
れもんちゃんは、今日もやっぱり宇宙一に宇宙一だった。