ご来店日 2023年08月13日
シン太郎左衛門捕物帖(あるいは父親のバーンアウト)様ありがとうございました。
ご来店日 2023年08月06日
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』後編様ありがとうございました。
ご来店日 2023年07月30日
シン太郎左衛門と『れもんちゃん盆踊り』前編(あるいはニートの金ちゃん)様ありがとうございました。
ご来店日 2023年07月23日
シン太郎左衛門と『れもんちゃん音頭』(あるいは町内会長のYさん)様ありがとうございました。
ご来店日 2023年07月16日
シン太郎左衛門、セカンド・シーズンの告知(あるいは武士の商売)様ありがとうございました。
ご来店日 2023年07月09日
シン太郎左衛門と怖い夢様ありがとうございました。
ご来店日 2023年07月02日
シン太郎左衛門と眠れぬ夜様ありがとうございました。
ご来店日 2023年06月25日
シン太郎左衛門と「れもんちゃんしりとり」様ありがとうございました。
ご来店日 2023年06月18日
シン太郎左衛門、松江で暇を持て余す様ありがとうございました。
投稿者:シン太郎左衛門のお絵描き(あるいは『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』の序)様
ご来店日 2023年08月20日
日曜日の朝、れもんちゃんに会う日の朝は心が躍る。いつものようにシャワーの後のアイスコーヒーを飲みながら、のんびりしていると、シン太郎左衛門も楽しそうだ。歌い出すに違いないと思っていたら、やはり歌い出した。
笹の葉一枚ありました
アサリが二匹にらめっこ
実験用の試験管
最近暑さが少しマシ
でも今日は突然ムチャ暑い
あ~っと言う間に可愛いれもんちゃん
『れもんちゃん絵描き歌』だが、前回とは歌詞が変わっている。
シン太郎左衛門は「う~む。似ていない」と呻いたが、笹の葉を口に、アサリを目に、試験管を鼻に見立てて、れもんちゃんの可愛い顔が出来る訳もなく、結局、そこまでに出来た変な顔を無視して、「あ~」っと言いながら、れもんちゃんの似顔絵をゼロから描くらしい。
シン太郎左衛門は、さらに歌詞を柿の葉・蛤・ビーカーに替えて再挑戦したが、やはり納得の行く出来には至らないようで、「ますます可笑しなモノが出来た。難しいものじゃ」と天を仰いだ。
「シン太郎左衛門、先週のお前の説明を聞く限り、葉っぱと貝と実験器具に特段意味はないよな。余計なモノを描かず、最初から、れもんちゃんを描いたらよくないか?」
「おお、それは妙案。どうしても、この可笑しな顔に引き摺られて、れもんちゃんの可愛い顔が捉えにくくなってござった」とシン太郎左衛門に描いた絵を見せられて、思わずコーヒーを吹いてしまった。
「では心機一転」と、シン太郎左衛門は、ダイニングテーブルの上に撒き散らされた何百という新品のボールペンを見比べている。
「どれも100均だから、大差ないよ」と言ってやったが聞いてない。「うむ、これがよいようじゃ」とキャップを外し、大きく息を吐いた後、
『南無八幡大菩薩、
我に力を与えたまえ。
とりゃ~!』
と言う間に、可愛いれもんちゃん
と歌いながら、目にも留まらぬ筆捌きで、れもんちゃんの似顔絵を仕上げた。
「おお~、これは上出来。我ながら惚れ惚れする出来栄えじゃ」
「ホントだ。すげえ」
シン太郎左衛門には然したる絵心もないのだが、寝ても覚めても、れもんちゃんの事を考えているので、その似顔絵には鬼気迫る力が籠っていて、かなり本物に肉薄していた。
「う~ん。生き写しとまでは言わないが、妖しい光で見る者の心を蕩けさせてしまう『れもんちゃんの瞳』がよく描けてるな。一瞬ヨダレが出てしまった」
「父上、このあばら家を改築致しましょう」
「なぜだ?やっとローンを払い終わったばかりだぞ。そんな予定も、余力もない」
「この似顔絵は、軸装し、床の間に飾るべきもの。されど、この茅屋には床の間がない」
シン太郎左衛門、予想を遥かに超えた似顔絵の出来に舞い上がってしまい、放っておいたら勝手にリフォームの契約をしそうな勢いだった。
とりあえず話をすり替えようと思い、
「お前は中々芸達者だな。絵描けるし、歌も上手いし、楽器も巧みだ。特に、この前の、あの『れもんちゃん音頭』の楽器演奏には心底驚いた。いつ、どうやって稽古をしたんだ?」
この問いに、シン太郎左衛門は不意を突かれたように、「あっ、あれは・・・」と口籠った。想定外の反応の裏に、何かあるのは間違いなかった。ここで、もう一押しすれば、リフォームの件は完全に封殺できそうだったが、これから、れもんちゃんに会うというタイミングで、シン太郎左衛門のヤル気を殺ぐようなことは避けたかった。
別の話題を探している僅かな沈黙のうちに、シン太郎左衛門が、「実は、あの楽器演奏は、専ら拙者ではござらぬ」と苦笑いを浮かべた。
「えっ?そうなの」
先々週の日曜日の朝の、あの『れもんちゃん盆踊り』の、あの『れもんちゃん音頭』にはバックバンドがいたのか・・・でも、そんなこと、ありえるか?あのとき、部屋には、私とシン太郎左衛門しかいなかったはずだ。
私の頭は大混乱を起こしていた。しかし、
「まあ、いいや。この話の続きは後日にしよう。これから、俺たちは、れもんちゃんに会うんだ」
「そうでござる、れもんちゃんでござる」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
「レッツゴー、れもんちゃん!!」
一度れもんちゃんモードに切り替わった我々はもう誰にも止められない。我々は素早く準備を済ますと、そのまま何百回も上記の雄叫びを交互に繰り返しながら駅まで爆走し、いつも通り無駄に早い時間の新快速に乗るのであった。
(次回は、『シン太郎左衛門と音楽』の後日談、『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』をお届けする予定である。夏と言えば怪談でござる)
シン太郎左衛門のお絵描き(あるいは『シン太郎左衛門Kwaidan(怪談)』の序)様ありがとうございました。