福原ソープランド 神戸で人気の風俗店【クラブロイヤル】
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お客様の声
れもん【VIP】(23)
投稿者:富士山シン太郎左衛門(本人) 様
ご利用日時:2024年4月28日
拙者、毎度お馴染みのシン太郎左衛門でござる。日頃のご交誼に心より御礼申し上げまする。
さて、今日は、月曜日、「昭和の日」の朝。時刻は10時。
拙者は古家のリビングにおった。もちろん、馬鹿オヤジも一緒でござる。
恥ずかしながら、拙者の馬鹿オヤジは、「『シン太郎左衛門』シリーズには、複数の作者がいる」という妄想に取り付かれ、「みんな仲良く順番に書くべきだ。俺は前回も前々回も書いたんだから、今回は何があっても書かない」と主張して譲らぬ。
「何を戯けたことを。それでは、昨日、宇宙一の幸せ者にしてくれた宇宙一のれもんちゃんに申し訳が立たぬ」と説得を試みたものの、頑として聞かぬ。
「そこまで言うなら、お前が書け」と、拙者にスマホを押し付けて、「くわぁ~」と大アクビをかましおった。
父上の書くクチコミは、どうにも色気がない。かくなる上は、拙者が熱気で逆上せるぐらい濃厚なクチコミの一大傑作を物してくれんと、クラブロイヤル公式サイトの「お客様の声(投稿)」のページに向かい合い、「お遊びになられた女の子の名前」として「れもんちゃん(ダイヤモンドかつ永遠の23歳)」を、岩をも砕く勢いで選択いたした。続けて、渾身の力を込めて、「そもそも、れもんちゃんのオッパイとは」と、本文に打ち込んだ刹那、父上が眠そうに眼を擦りながら、「言っとくけど、そのままズバリの描写とかすると、不掲載になるからね。折角の苦労が水の泡だよ~ん」と、猪口才にも、れもんちゃんの口調を真似て宣いおった。
くそ忌々しい馬鹿オヤジめ、と思わず愛刀の貞宗(割り箸)に手が伸びかけたが、不掲載は拙者も望まぬので、「うむ」とだけ言うて返した。
ふと、以前のクチコミに同種の展開があったことを思い出し、この先どう書いたらよいものやらと悩んでおると、笛吹きケトルが甲高い音を立て、父上は立ち上がって台所に向かい二三歩歩いたところで、「歩きにくいと思ったら、お前にスマホを渡してたんだった」とヘラヘラと笑いおった。やはりコイツ、馬鹿だった。
コーヒーを淹れると、馬鹿オヤジは、二階の書斎から平素使わぬノートパソコンを持ってきて食卓の上に置くと、「これから俺は動画サイトで久保田早紀の『異邦人』を聴く」と、無駄に厳粛かつ悲壮感漂う表情を浮かべて宣言しおった。
さらに、「『異邦人』はいい歌だ。宮本浩次のカバーも素晴らしいが、『昭和の日』の朝には、やっぱり久保田早紀のオリジナルが一番だ」と訊いてもないことをベラベラと喋り続けておる。こんな馬鹿に付き合っていたら、いつになってもクチコミが出来ぬので、無視致した。
イントロが流れ始めると、「中近東風だろ?シルクロードがテーマだからな。久保田早紀の顔は俺の好みだ。もちろん、若い頃の俺の、という意味だ。今の好みは絶対的に、れもんちゃん」と、懲りずに要らぬ解説をしてくる。
無視しておると、あろうことか馬鹿オヤジは、久保田早紀に合わせて歌い出した。
子供たちが空に向かい
両手を広げ~
振りまでつけて歌っておるが、馬鹿オヤジの音痴には、笑って許せる要素が微塵もない。それはそれは悪質な音痴でござる。拙者、危険な化学薬品を浴びせられたかのように噎せかえり、両目がヒリヒリと焼かれるような痛みに苛まれ申した。
「父上、止めてくだされ!機嫌よくネグラで休んでいた新兵衛も慌てて這い出し、苦しそうにプラスチックのケースを掻いて訴えておりまする」
「ああ、ごめん、ごめん。うっかりしていた。また近所から苦情が来るところだった」
「父上の歌は、笑い事では済まされませぬぞ。並外れた音痴の上に、妙に媚びた歌い方が度を過ごして不快でござる。実に気分が悪くなった」
「分かってるって」と、馬鹿オヤジは無責任にヘラヘラと笑っておった。実に不愉快千万、斬り殺したいという強い衝動に駆られたものの、我慢致した。理由は、ただ、そんなことをすれば、れもんちゃんに会えなくなる、それだけでござる。
宇宙一下らぬ馬鹿オヤジは放っておいて、宇宙一可愛いれもんちゃんのクチコミを早く完成させねば、とは思ったものの、毒ガスのような歌を聞かされたせいで、拙者は全身に強烈な虚脱感を覚え、スマホは拙者の手を離れてフローリングの床で乾いた音を立てたのでござる。
という訳で、今回クチコミは完成いたさなんだ。無念でござる。
最後に、父上からの告知がござる。読んでくだされ。
(次回予告)
さて、次回の『シン太郎左衛門』は、またもや最終回、「さらば新兵衛」だ。感動の名作になるように、誰かが書け。俺は書かん。
富士山シン太郎左衛門(本人) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「今回クチコミを書かずにやり過ごしたヤツ」)様
ご利用日時:2024年4月21日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。本当に武士なのだろうか?よく分からない。
今日は水曜日。れもんちゃんに会う大事な日は日曜日であり、水曜日は全く大事ではない。
そんな大事ではない水曜日の朝、シン太郎左衛門が「父上、今回はまだクチコミを書いてござらぬな」と言い出した。
「うん。書いてないよ。何かとバタバタしているからな」
「書こうとする素振りも見せておられぬ。先の日曜日、宇宙一のれもんちゃんに、宇宙一の幸せ者にしてもらいながら、クチコミ一つ書かぬでは申し訳が立たぬ。さっさと書かれよ」
「いや。それが、大丈夫なんだ」
「何が『大丈夫』でござるか」
「最近、分かったんだ」
「何が分かったと」
「『シン太郎左衛門』シリーズを書いているのは、俺一人じゃないんだ」
「なんと。何を訳の分からぬことを言っておられるか。こんな下らぬものを書くのは父上だけでござる」
「それが、そうじゃなかったんだ。この前、お前から『シン太郎左衛門』シリーズは一周年で、これまで50回ほど投稿したと聞いたが、俺自身こんなものを50回も書いた覚えはないし、確認のため、クラブロイヤルのオフィシャルサイトを見てみた」
「れもんちゃん(ダイヤモンド)の『お客様の声』でござるな」
「そうだ。すると、確かに毎週日曜日、投稿者名に『シン太郎左衛門』を含むクチコミが投稿されていた。しかし、ざっと目を通してみると、自分で書いたと記憶のあるものは全体の3分の1ほどだった。残りは完全に身に覚えがない。つまり、別の誰かが書いたものだった」
「・・・お前、大丈夫か?」
「父親をお前呼ばわりするな!」
「申し訳ござらぬ。思わず口が滑った。しかし、父上、繰り返しになりまするが、『シン太郎左衛門』シリーズのような下らぬものを書く馬鹿は、父上以外には見当たりませぬぞ」
「そんなことを言われても困る。確かに、俺は自分でも呆れるくらいの怠け者で、興味のないことからは全力で目を背けようとする最低のヤツだ。人間として終わっている。でも、『シン太郎左衛門』の大半を俺が書いていないというのは疑いようがない。れもんちゃんファンは世の中に溢れているから、俺が書かなければ、他の誰かが『しょうがないなぁ』と、俺の代わりに『シン太郎左衛門』の続きを書いてくれる。世の中は、そういうふうで出来上がっているらしい。だから、今回、俺がパスしても大丈夫なのだ」
「いやいや。父上の場合には、『書いた記憶がない』のと『書いていない』は別物でござる。父上は、単純にボケが進んでいるのでござる」
「俺は、ボケてるわけではないぞ。その証拠に、大事なことは忘れない。だから、れもんちゃんに会う日を忘れたことがない。要するに、俺は関心のないことにトコトン無頓着なだけだ。子供の頃から、そうだった。例えば、小学生のとき、町を歩いていたら、床屋から出てきたガラの悪そうな男に思いっきり睨まれて、気持ち悪いから道を渡って避けた。しばらくしたら、向こうから歩いてきた買い物籠を下げた太ったオバさんが怪訝そうな顔で俺をじ~っと見ていたから、目線が合わないようにすれ違った。何で今日は、こんなに色んな人にジロジロ見られるんだろうと不思議に思って、よく考えたら、父さんと母さんだった。その程度のことなら度々ある」
シン太郎左衛門は呆気にとられた様子で、「お前、本当に大丈夫か?」
「何度も親をお前呼ばわりするな!」
「父上こそ親をなんと心得おるか!」
「一種の他人だ。でも、そんなことは、どうでもいい。とにかく、今週は俺の番ではない。今頃、誰かが新しい『シン太郎左衛門』をアップしているに違いない」
「では、今すぐ、れもんちゃん(ダイヤモンド)の『お客様の声』を見られよ」と、シン太郎左衛門に言われて、渋々スマホを操作した。
「う~ん、まだ掲載されてないな。今週の当番が誰だか知らんが、さっさと書けよ」
「そのセリフ、鏡に向かって言われよ」
「・・・お前、本気で、あれ全部を俺が書いたと言うのか?」
「うむ。間違いござらぬ。どれだけ待っても、父上が書かぬ限り、新しい『シン太郎左衛門』は投稿されませぬ」
「そうか・・・そこまで言うなら、こうしよう。今日の夕方まで待っても、『シン太郎左衛門』の新作が掲載されなければ、俺が書く。お互いお見合いをして、ポテンヒットになってはいかんからな」
「うむ。夕方になってから、慌てぬよう、今から準備されるがよい」
そして、職場からの帰り道、スマホでチェックした。結局、何の変化もなかった。そういう訳で、今、こんなものを書いている。
何とも釈然としないので、「おかしいなぁ・・・『シン太郎左衛門』の書き手は、俺だけじゃないはずなんだがなぁ」と呟くと、シン太郎左衛門から、「往生際が悪い!」と窘められた。
やはり何かがおかしいと感じつつも、れもんちゃんの笑顔(宇宙一)を思い浮かべると、この宇宙には何の問題もないと思えてきた。やっぱり、どう考えても、れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一だった。
「まあいいや」と言いながら、送信ボタンをクリックした。
シン太郎左衛門(あるいは「今回クチコミを書かずにやり過ごしたヤツ」)様ありがとうございました。
けい【VIP】(23)
投稿者:ぬらりひょん様
ご利用日時:2024年4月19日
昨年11月に初めてけいさんにお会いして完全にハマってしまっちゃいました。
カーテンが空き写真どうりな綺麗なお顔とスレンダーな身体、少しクールに見えるのですがお話しをすればとっても話しやすくあちらもめっちゃ攻めまくられ極楽浄土に行きそうになり
キ⚪︎ス、マ⚪︎ト、フ⚪︎ラどれも素晴らしく
けいさんと会うのがいつも待ち遠しいです。
これからも宜しく!
ぬらりひょん様ありがとうございました。
りお【VIP】(23)
投稿者:Jay様
ご利用日時:2024年4月16日
入って締まりはすごい良かったです。にぎにぎされた感がたまりませんでした。またリオちゃんに相手してもらいたいです
Jay様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「金ちゃんを待ちながら」) 様
ご利用日時:2024年4月14日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。この数日もやっぱり5時に起きて、剣術の稽古に励んでいる。立場上、私も付き合わざるを得ない。平日だろうが、土日・祝日だろうが、5時に起きて、その後1日親子共々「眠い、眠い」と嘆きながら過ごしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う大事な日。親子そろって5時に目を覚ました。
「5時だな」
「うむ。5時でござる。スマホで確認するまでもない」
「俺は、何を目的に、平日は7時、週末は8時に目覚ましをセットしているのだろう」
スマホを見たら、やはり5時だった。
シン太郎左衛門が弟子の新兵衛(クワガタ)と剣術の稽古を済ませた後、新兵衛をおウチに返して、砂糖水を作ろうと、台所に向かいかけたとき、はたと思い出したことがあった。「あっ、しまった。忘れてた」と呟いた。
シン太郎左衛門は呆れた様子で、「また、エープリル・フールに金ちゃんを騙す話でござるか」
「エープリル・フール?金ちゃんを騙す?お前、何を言ってるんだ。俺は、そんな子供じみたことはしない」
「ひどいボケ具合でござるな。先週、父上がそう言っておられた。前回のクチコミを読み返されよ」と、まるで訳の分からぬ言い掛かりを付けてきた。
「読むまでもない。ボケているのは、お前の方だ。そんなこと、考えたこともない。金ちゃんは、いいヤツだし、なかなか可愛げもある。れもんちゃんの気立ての良さを90兆としたとき、金ちゃんの気立ての良さは0.0001ぐらいで、れもんちゃんの可愛さを90京としたら、金ちゃんの可愛さはゼロだ」
「・・・結局、『金ちゃんは、大して良いヤツでもなく、可愛げもない』、そう言いたいのでござるな」
「違う。比較対象に、れもんちゃんを選んだのが間違いだった。金ちゃんは本当に良いヤツだし、愛嬌もあるが、れもんちゃんに感じる愛しさを90垓としたら、金ちゃんへの愛しさは、やっぱりゼロだ」
「そういう言い方をするぐらいなら、いっそ『俺は、金ちゃんが全く好きではない』と言った方がよかろう」
「変なこと、言うな。俺は金ちゃんがそこそこ好きだ。だからこそ、アイツに就職祝いのプレゼントを買った。でも、れもんちゃんの事ばかり考えていて、渡すのを忘れていた。これから渡しに行く」
「父上にしては珍しく儀礼に沿った、常識的な振る舞いでござる。お供いたそう」
玄関から外に出ると、夜はすっかり明けていた。私は、紙の手提げ袋を郵便受けの上に載せると、新聞を取り出し、読み始めた。
「父上、何をしてござる」
「新聞を読んでる」
「そういうことではござらぬ。早く金ちゃんの家に行き、就職祝いの品を渡されよ」
「今、金ちゃんは家にいない。さっきまで丘の上の公園で剣道の素振りをしていたが、今はラッピーたちの散歩のために、町内を一周している。じきに戻るから、ここで待っていればいい」
「・・・何でそんなことが分かりまするか」
「何故だか分からんが、分かる。今朝、俺の頭は冴え渡っている・・・それにしても、新聞というのは退屈な読み物だなぁ。相変わらず、れもんちゃんのことに一言も触れていない。来月から購読停止にしよう」
私は、新聞を郵便受けに戻した。
「ところで、父上、金ちゃんの就職祝いは何でござるか」
「ネクタイ」
「金ちゃんの会社では、スーツを着ないと聞いてござる」
「そうらしいな。でも、それは問題ではない。観賞用だから」
「ネクタイに観賞用がござるか」
「別に着けてもいいが・・・これだ」
私は紙の手提げ袋から、モノを出してシン太郎左衛門に見せてやった。
「これは・・・レモンでござるな」
「そうだ。プリント柄ではないぞ。レモンの刺繍だ。高かった」
「しかし、これを着けて家から出るのは・・・」
「なかなか出来ないことだろ?だから観賞用だ」
「得心いってござる」
「ほかに、レモン柄の靴下とレモン柄のハンカチもある。れもんちゃん三点セットだ」
「ネクタイと靴下とハンカチでござるな」
「そうだ。だから、れもんちゃん三点セットだ」
「・・・よく分からぬが、『れもんちゃん三点セット』と聞くと、何故か物凄くエロく感じる」
「考え過ぎだ。これのどこがエロい」と、紙の手提げ袋を大きく開いて、中身のネクタイと靴下とハンカチを見せてやった。
「これらの物自体は何もエロくはござらぬ」
「だろ?『れもんちゃん三点セット』だ」
「そう言われると、ムラムラする」
「変なヤツだ」
ひんやりした、しかし、すっかり春めいた風が吹いていた。空を見上げると、
「ああ、今日も良い天気になる。れもん日和だ・・・ところで、れもん星って、どこにあるんだろう」
「我々の夢の中にござる」
「いや、そうではない。本当にあるのだ。れもんちゃんが、そう言っている」
「うむ。れもんちゃんは、不思議な女の子でござる」
「そうだ。れもんちゃんは、宇宙空間にポッカリ浮いたレモンイエローの巨大な疑問符だ。永遠に解けない謎だ」
「うむ」
そのとき、丘の方から坂道を下り、角を曲がってきた人影が目に入った。動物を連れて、竹刀を持っていた。我々を見て、レトリーバーが嬉しそうに小さく一声吠えた。
リビングに戻ると、シン太郎左衛門は、「金ちゃん、喜んでござったな」と満足げだった。
「当たり前だ。れもんちゃん三点セットだぞ」
「れもんちゃんに一刻も早く会いたくなってまいった」
「よし。では腹ごしらえをしよう」
そんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。一点の疑う余地もなく、宇宙一に宇宙一だった。
シン太郎左衛門は、「流石は、れもんちゃん三点セット。まさに宇宙一の名品、宇宙一お見事でござる」と、頻りに感動していたが、ヤツの発言の意味が私にはよく理解できなかった。
お見送りをしてもらいながら、「そうだ。よく分からないけど、今回のクチコミ、エロい言葉を連発してるかもしれない。問題があったら、容赦なく不掲載にしてね」と言うと、れもんちゃんは、「うん。分かった」と、宇宙一の笑顔を浮かべた。この一片の笑顔でさえ、地球人が90億人、束になってかかっても敵う相手ではない。
夢の外で、れもん星に行ける気はしない。しかし、れもん星が宇宙のどこかに存在しているのは確かなことであった。
シン太郎左衛門(あるいは「金ちゃんを待ちながら」) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「日々のうたかた」) 様
ご利用日時:2024年4月7日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近も、やっぱり5時に起きて、弟子の新兵衛(クワガタ)と剣術の稽古に励んでいる。
日曜日は大事な日(れもんちゃんに会うから)なので、8時までゆっくり眠りたい。昨晩も、シン太郎左衛門によく言い聞かせていたが、夜明け前に自分の方が目を覚ましてしまい、スマホを見ると、思ったとおり5時だった。
「シン太郎左衛門、5時だぞ」と言うと、「だから、どうした」という不機嫌そうな、素っ気ない答えが返ってきた。
「お前に起こされそうな気配がして、目が覚めてしまった」
「濡れ衣もいいところでござる。拙者、気持ちよく寝てござった」
「そうか。すまん。俺の思い過ごしだった。・・・あっ、そうだ。大事なことを忘れていた」
「何を忘れておられた。まさか、れもんちゃんに係わることではござるまいな」
「違う。れもちんゃんには関係ない」
「『れもちんゃん』とな?」
「揚げ足を取るな。打ち間違えただけだ。口では、ちゃんと、『れもんちゃん』と言っただろ。大体、『れもちんゃん』なんて、どうやって発音するんだ」
「うむ。れもちんゃんに関係ない話なら、拙者には関心がない」
「鬱陶しいヤツだな。いつまでも、『れもちんゃん』を引っ張るな。エープリル・フールに金ちゃんを騙してやろうと、沢山ネタを仕込んでおいたのに、すっかり忘れていた」
「・・・実に下らぬ。呆れ果てた馬鹿オヤジでござる」
私は部屋の電気を点け、新兵衛をメゾン・ド・新兵衛から摘まみ出して布団の上に載せ、ペタリと座り込んだ。
「くそぉ。あんなに綿密な仕込みをしたのに、肝心の4月1日を普通の1日として過ごしてしまった。これだから年は取りたくない・・・でも、まあいいや。エープリル・フールでは、金ちゃんも警戒してるから、タイミングをずらした方が効果的だ。これから金ちゃん宅に襲撃をかけよう」
「・・・もう少しマシな時間の使い方があろうものを」
「俺に、マシな時間の使い方なんて、あるもんか。れもんちゃんと過ごす時間以外に、俺の人生にロクなことはない。れもんちゃんがいなければ、俺の人生は終わっている。暗黒世界だ。れもんちゃんがいなくなれば、俺の行き場のない、理由もない怒りが周りの人たちにどれだけ迷惑をかけることか、想像するだに申し訳ない気持ちになる」
「つまり、この町の平和は、れもんちゃんにかかっているということでござるな」
「そうだ。それなのに、この町の連中は、れもんちゃんにどれだけお世話になっているか理解していない。れもんちゃんに足を向けては寝れないはずなのに、今も好き勝手な方向に足を向けてグーカー寝ているに違いない。これから、街宣車で、『れもんちゃんマーチ』を大音量で流しながら町内を一周して、ヤツら全員、叩き起こしてやる」
シン太郎左衛門は、素振りをしながら、
「全くもって理不尽。そんなことをしても、れもんちゃんは喜ばぬ」
「・・・それは、そうだな。まあいい。今日のクチコミは以上だ」
「・・・父上にしては随分短いクチコミでござるな」
「前回のクチコミに、とんでもなく手こずった。日曜日の夜に書き始めて、木曜日の夕方までかかった。こんなに苦労したのは初めてだ。年度初めの多忙な時期に仕事もそっちのけで4日もかけて、あんなアホなものを書いてしまった。自己嫌悪で一杯だ。だから、今日は、手短にすると決めたのだ」
「うむ。ところで、『シン太郎左衛門』シリーズは、後1ヶ月で一周年を迎えまする」と言いながら、シン太郎左衛門は、熱心に素振りを続けている。
「・・・そうか・・・れもんちゃんは本当にとんでもない女の子だ。クチコミを書くなんて俺の性分には合わないのに、れもんちゃんに会った後は、自分の意思とは関係なく勝手に指が動いてしまう。そんな状況が一年も続いている。まるで底なし沼だ」
「燦然と輝く、宇宙一の底なし沼でござる」
そんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。やっぱり宇宙一に宇宙一だった。はまれば、抜けられる訳がない。れもんちゃんの部屋の前には「はまるぞ!危険」と立て札をしておくべきだろう。
お見送りをしてもらいながら、「今回のクチコミは、事前の筋書きなしで、行き当たりバッタリに、短く書くよ」と言うと、れもんちゃんは、「うん」と燦然と輝く、宇宙一の笑顔で頷いてくれた。この笑顔もまた、一個の巨大な底なし沼だ、と思い知らされた。
こんなふうに書き終えて軽く読み直してみると、一生懸命書いたクチコミと、こんなにラフに書いたものに大きな違いがないことを知り、自己嫌悪が益々深まってしまうのであった。
シン太郎左衛門(あるいは「日々のうたかた」) 様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様
ご利用日時:2024年3月31日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。相変わらず、懲りずに5時起きをして、剣術の稽古をしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。昨日の晩、シン太郎左衛門にコンコンと説教をした。
「お前、いい加減にしろよ。毎朝毎朝5時に起こしやがって。明日は、れもんちゃんに会う大事な日だ。これまでのことは水に流してやる。明日は、何としても、8時まで寝ていろ」
「うむ。畏まってござる」
「夢の中で、れもん星の観光大臣から手紙が届いても、すぐに何かしようとするな。起きてから、俺に相談しろ。分かったか」
「うむ。しかと記憶に練り込んでござる」
(「記憶に練り込む」とは、耳慣れない表現だ)と思ったが、とりあえず、そんな会話をした後、部屋の電気を消した。
そして・・・日曜日、早朝。
「え~?!」と、私は暗闇の中で叫び声をあげ、「父上、いかがなされた」とシン太郎左衛門に揺り起こされた。
「はっ・・・今、何時だ?」
「知らぬ。御自身でスマホを見られよ。まだ外は暗い。おそらく5時でござる」
手探りでスマホを掴み取り、画面を見た。
「5時ちょうどだ」
「拙者のヨミ通りでござる」
「夢を見た」
シン太郎左衛門は、くわ~っとアクビをして、「いい年をした大人が夢の話などするものではござらぬ。拙者、まだ眠い。8時まで寝かしてくだされ」
「ダメだ。俺は、気持ちが昂って眠れない。俺の夢の話に付き合え」と起き上がって、部屋の電気を点けた。
「迷惑至極でござるが、致し方ない。聞いて進ぜよう。何に驚いて、『え~っ?!』っと、声をあげておられましたか」
「いきなり変なヤツに怒られた」
「父上のだらしない生活を見れば、誰でも怒りたくなる」
「そういうことではない。先週お前が見た夢と強い関わりのある夢だった」
「と言うことは、父上も、れもん星に行かれたましたか」
「行ってない。夢の中、職場で仕事中に、れもん星の観光大臣からメールが来た」
「それは、すぐに開いてはなりませぬぞ。開けば、5時起きになりまする」
「その助言は、昨日の晩にして欲しかった。もう手遅れだ。俺は、れもん星の観光大臣という謎の人物の正体を、れもんちゃんだと踏んでいる。れもんちゃんかもしれない人からのメールを無視できるわけがない。即座に開いて読んでしまった」
「うむ、やむを得まい。で、またしてもスピーチの依頼でござったか」
「違う。『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』へのオンライン参加のお誘いだった」
「解せぬ。それは拙者がスピーチをし損ねたイベント。すでに先週終わってござる」
「そうだ。俺も一瞬不審に感じた。でも、夜空に輝いている星が地球から100光年離れていれば、今見えているのは100年前のその星の姿だ。れもん星と地球の隔たりを思えば、れもん星で1週間前に開催されたイベントの実況を今地球上で見ることは、不自然ではないことになる」
「なるほど・・・全く理解できぬ」
「まあいい。とにかく、メールには、『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。イベントやるよ~ん。オンラインで見に来てね』と書いてあったのだ。早速、文末のURLをクリックすると、ウェブ会議システムが起動したので、ヘッドセットを着けた」
「職場で、れもん星の観光シンポジウムを見ていて大丈夫でござるか」
「俺のパソコンのモニターは、同僚たちの席からは見えないからな。難しい顔をしていたら、誰にも分からない。画面に、『開会まで、もう少し待っててね』と映し出されていたが、間もなく『これから、れもん星の紹介ビデオを流すよ~ん。1回だけだから、メモをとるのを忘れないでね』という表示に変わった。慌てて、手元の書類をひっくり返し、ペンを持った」
「うむ」
「すると、リコーダーによる『ドナドナ』の演奏が始まり、画面が法隆寺の映像に変わった」
「聖徳太子ゆかりの法隆寺でござるか」
「そうだ。他にも法隆寺ってあるのか?法隆寺の金堂と五重塔が映った写真をバックに文章が右側から左に流れていくのを大急ぎで書き取った。それが、これだ」と、私はシン太郎左衛門にメモを手渡した。
「・・・法隆寺は、れもん星とどんな関係がござるか」
「知らん。最後まで分からんかった。れもんちゃんの『店長コメント』に《国宝級》と書かれてあるのと関係するかもしれない。まあいい。メモを読んでみろ」
「汚い字でござるなぁ」
「うるさい。とにかく読め」
シン太郎左衛門は、私の速記メモを読み上げた。
夢と希望に輝く星、それが、れもん星です。地球とは違い、れもん星に「国」はありません。れもん星人は、みんな仲良しなのです。国がないので、国歌はなく、「れもんちゃんマーチ」と呼ばれる星歌があります。その1番は地球の「ドナドナ」にメロディが似ていて、2番は「蛍の光」に似ています。同様に国鳥はありませんが、星鳥が定められています。モモンガです。主な産業は、おもてなしとお菓子作りです。また近年、輸出やお土産用に空気の缶詰めの製造に力を入れてきましたが、売れ行きは芳しくありません。膨大な在庫を抱えて困り果て、この度、星外からのお客様を呼び込み、空気の缶詰めの在庫を一掃しちゃうよ~ん。
地球からのアクセス方法と所要時間は、(1)ロケット:片道約21年、(2)宇宙空母:片道2時間、(3)南港からの定期船:片道5分、(4)万博記念公園の各種ボート(白鳥の形をした、ペダルを漕ぐタイプを含む):一生かかっても到着の見込み無し
以上4種からお好きな交通手段でお越しください。待ってるよ~ん。
なお、れもん星人の主食はケーキです。
海にはお魚さんがいっぱいいるよ~ん。
シン太郎左衛門は言葉が出ずにいた。
「驚いたか?」
「うむ。クラクラする。所々れもんちゃんが加筆したようでござる」
「・・・驚くのは、そこか?お前の夢で、れもん星の子供たちが演奏してくれたのは、れもん星の星歌だったんだ。感動しただろ」
「・・・モモンガが鳥だとは知らなんだ」
「鳥ではないからな。少なくとも地球では、違う」
「ロケットで行かなくて、正解でござった」
「そうだ。これで、少しだけ、れもん星への理解が深まった。さらに、お前の夢が決して荒唐無稽な絵空事ではなかったことが明らかになった」
「うむ。誤解が解けて何より。『シン太郎左衛門シリーズ』は、一片の嘘偽りも含まぬドキュメンタリーでござる」
「これだけでも、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』に参加した値打ちがある」
「うむ・・・で、イベントはいかがでござったか」
「・・・れもん星人は、おおらかだった。私のようなコセついた地球人は大いに見習わなければならん」
「拙者の問いへの答えになっておらぬ。イベントは、どんなものでござったか」
「それが・・・今言ったように、いきなりメモを取らされて、手首がクタクタになったところで、『手首を休めるために、これから10分間の休憩といたします』とモニターに表示された」
「ありがたい心遣いでござる」
「うん。折角そう言ってもらったので、トイレで用を済ませ、戻って、ヘッドセットを着け直すと、いきなりオーケストラによる荘厳な『ドナドナ』の演奏が始まった。あんな重厚な『ドナドナ』を聴いたのは初めてで、感動して、涙が止まらんかっ・・・」
「『ドナドナ』の話は、もうよい。先を急いでくだされ」
「分かった。演奏が終わると、次の瞬間、法隆寺から画面が切り替わり、司会者の女性が映し出された」
「まだ法隆寺を映していたのでござるか」
「そうだ。まあ、それはいいとして、電波が遠くから届くせいだろう、映像が乱れていたから確たることは言えんが、その司会者さんは、れもんちゃんのように見えた」
「へへ、れもんちゃん・・・」とシン太郎左衛門は、だらしなくニヤけた。
「その司会者さんは、第一声、元気に『おはよ~ん』と言った。その声は、れもんちゃんの声に限りなく似ていた」
「であれば、それは、れもんちゃんでござる。れもんちゃんの声は特徴的でござる。何の取り柄もない父上でも、れもんちゃんの声を聴き違えるはずがない」
「俺もそう思う。だが、さっきも言ったとおり、映像はかなり乱れているし、音声にも少なからずノイズが入るのだ。99.99%れもんちゃんだと思うが、絶対とは言えない。その『多分』れもんちゃんの司会者ちゃんは、『本日、れもんちゃんメモリアルホールにお集まりの約5000人の皆様、そして宇宙の星々から御視聴頂いている90兆人を越えるオンライン参加の皆様、大変お待たせ致しました。これから・・・』と言ったきり、ピタッと黙り込んでしまった」
「うむ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・と、これぐらいの沈黙が続いた後、れもんちゃんは、『わくわくイベント、始まるよ~ん』と元気よく開会宣言をした」
「『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』を『わくわくイベント』で済ますとは・・・さすがは、れもんちゃんでござる」
「さっきも言ったとおり、映像がかなり乱れていたから、れもんちゃんと断言はできない」
「うむ。しかし、れもんちゃんは、可憐で可愛い一方で、大胆さも持ち合わせた素晴らしい女の子でござる」
「・・・それはそうだ」
「続けてくだされ」
「うん。続けて、司会のれもんちゃんが、『はじめに、観光大臣ちゃんから、開会のご挨拶だよ~ん。観光大臣ちゃんは、(観光大臣ちゃんだよ~ん、インバウンド、頑張るよ~ん)って言うよ~ん』と前振りすると、れもん星の観光大臣が演壇に上り、元気いっぱい『観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん』と言って、下がっていった。映像が乱れていたものの、観光大臣ちゃんも、やっぱり、れもんちゃんだった」
「へへへ・・・れもんちゃんがいっぱいだ」と、シン太郎左衛門は、だらしなく笑った。
「司会のれもんちゃんも、観光大臣のれもんちゃんも、ドレス姿が可愛い過ぎた」
「へへへへ・・・れもんちゃんのドレス」
「そこから、1時間の休憩に入った」
「・・・」
「れもん星人は、おおらかだ」
「父上は、その1時間、何をしておられた?」
「特にやることもないから、またしても画面に映し出された法隆寺を睨め付けていた。宇宙全域で90兆人が同じことをしていたと思う」
「合計で90兆時間がモニターの前で無為に過ごされたのでござるな」
「そういうことになる。やがて、画面に司会のれもんちゃんが再登場して、『ただいま、本日の講演者、シン太郎左衛門ちゃんが、れもんちゃんメモリアルホールのエントランスに到着したから、シン太郎左衛門の今日これまでを振り返るよ~ん』と言った。『なお、この会場、れもんちゃんメモリアルホールは、野原の地下に作られた巨大な建物、入り口は派出所に似てるよ~ん』とも言った」
「えっ、そうでござったか・・・」シン太郎左衛門は真顔で唸った。
そして、モニターには、小さな船の舳先に立つ、タキシード姿のシン太郎左衛門が映し出された。宇宙全域の90兆を越える人々の前に、我が粗品が晒されていることを覚った私は、唖然として言葉を失った。次の瞬間、シン太郎左衛門は波をまともに被って濡れ鼠になり、少し間を置いて大きなくしゃみをした。すぐにシーンが、切り替わり、バトンを振るスタッフさんに先導された、リコーダーを吹く子供たちの行列の後をピョコピョコと跳ねるように追いかけるシン太郎左衛門の無邪気な姿に、私は頭を抱えた。そして、青筋を立てて「無礼者!!」と叫ぶシン太郎左衛門のアップの映像に、「もう止めてくれ」と叫びそうになった瞬間、画面に映し出されたのは、私自身の顔面のアップだった。私は、1週間前の私に「うるさい!!」
と怒鳴りつけられた。まるで鏡に映った自分に怒鳴られたような奇妙な感覚に、「・・・え~っ?!」と叫んでいた。
「・・・と、まあ、こんな夢だった」
「うむ・・・」
「考えてみれば、俺もお前も、『無礼者!!』やら『うるさい!!』やら、画面越しとは言え、90兆人を相手に罵声を浴びせてしまった」
「うむ。我々親子ともども、宇宙全体を敵に回してしまいましたな」
「そういうことだ。でも今更、どうすることもできない」
「うむ。かくなる上は、ジタバタ足掻くまでもない。武士は散り際が肝心でござる。戦いは近い。敵は多いほどよい。ささ、早く新兵衛を出してくだされ。稽古でござる」
シン太郎左衛門は妙に張り切っている。90兆人と割り箸一本で戦おうとするシン太郎左衛門の神経が、私には、どうしても理解できなかった。
こんな長い長い朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。当然、宇宙一に宇宙一だった。
私は、宇宙一幸せな気分になった。
れもんちゃんにお見送りをしてもらいながら、
「あっ、そうだ。そう言えば、今朝、ちょっとした行き違いで、宇宙全域にどっさり敵を作ってしまったよ。いざとなったら、例の宇宙空母を貸してね」と頼んだら、宇宙一の笑顔でニッコリと頷いてくれた。
れもんちゃんさえいれば、宇宙の憎まれ者になることさえ、恐れるに足らないのであった。
家に帰ると、あの速記メモは、どこかに消えてなくなっていた。
シン太郎左衛門(あるいは「宇宙の憎まれ者」)様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と空気の缶詰め 様
ご利用日時:2024年3月24日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。5時になると、剣術の稽古を始める。当初、5時起きをみなぎる気合いの為せる業と勘違いしていたようだが、実は加齢の影響以外の何物でもないという現実を馬鹿なりに察したらしく、最近は「眠い、眠い」とボヤキながら、割り箸を至極重たそうに振っている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。れもんちゃんに会う日だけは十分睡眠をとりたいので、昨晩の就寝時に明日は8時まで静かにしているように厳に命じていた。
「約束だぞ。5時に目が覚めても、俺の目覚ましが鳴るまでは、静かにしてるんだぞ」
「うむ。天地神明に誓いまする」
そう固く約束していたのに、今朝も、やっぱり夜明け前に叩き起こされた。
「この無礼者め!手討ちに致す!」とか大声で怒鳴っている。布団を捲って、「うるさい!」と一喝すると、シン太郎左衛門、ハッと目を覚ました。
「今、何時でござるか」
手探りでスマホを探し当て、画面を股間に向けてやった。
「見ろ。5時ジャストだ」
「父上は、5時起きの星の下に産まれてござるな」
「そんな星はない。どう考えてもお前のせいだ」
「うむ。拙者、夢を見てござった」
私はモソモソと布団から起き出し、
「そうだろうな。何の脈絡もなく『無礼者』と叫ぶヤツはいない。俺も夢を見ていたはずだが、お前の罵声に叩き起こされて、記憶が飛んでしまった」
と、部屋の電気を点けた。
「拙者、またしても、れもん星の夢を見てござった」
「夢の中で、れもん星に行く話は以前にもあった」
「いかにも。ただ、拙者が今回れもん星に行ったのは遊びではござらぬ。れもん星の観光大臣から依頼を受け、『れもん星ワクワク観光シンポジウム2024 ~夢と希望に溢れる星~』で、れもんちゃんを讃えるスピーチをするため、れもん星に行ったのでござる」
私は、新兵衛(クワガタ)を摘まんで、水槽から出すと、布団の上に置いて、あぐらをかいた。
「それは名誉なことだ。大臣から手紙でも来たのか?」
割り箸を渡してやると、シン太郎左衛門は素振りを始めた。
「うむ。親書が届いた。ディズニーの便箋に『れもん星の観光大臣ちゃんだよ~ん。インバウンド、頑張るよ~ん。イベントするから、れもん星PRのスピーチしてねっ(ハート)』と書いてござった。イベントのチラシが同封されておった」
手の甲で眠い目をゴシゴシ擦りながら、
「もしかして、れもん星の観光大臣は、れもんちゃんか?」
「それは分からぬ。ただ、こういう機会もあろうかと、拙者、前々から、れもんちゃんを讃えるスピーチを用意してござった」
「それは見上げた心掛けだ」
「拙者、手紙を一読、素早くタキシードに着替え、スピーチ原稿を手にすると、次の瞬間には、南港から出発するポンポン船の甲板に立っておった」
「お前、れもん星を舐めてるだろ?何で毎回、船で、れもん星に行くのだ。ちゃんとロケットに乗れ」
シン太郎左衛門は真面目に素振りを続けながら、
「船に乗ったものを、嘘は吐けぬ。『シン太郎左衛門』シリーズは、ドキュメンタリーでござる。出来るものなら、拙者もロケットがよかった。港を出た途端、船が波をかぶり、折角のタキシードはズブ濡れ、原稿もどこかへ行ってしもうた」
「船で行くからだ」
「うむ。そうこうしているうちに、小船は港に入り、早くも、れもん星に到着しておった」
「れもん星って、そんなに近いのか?今の話を聞く限り、れもん星の最寄り駅はユニバーサルシティ駅かもしれない。近畿圏なのは間違いない」
「真面目に考えてもしょうがない。所詮、夢の話でござる」
「そりゃ、そうだ」
シン太郎左衛門は引き続き割り箸を振り回している。
「今回も、周りに何もない殺風景な港に到着いたしたが、波止場には『歓迎 シン太郎左衛門様 ~よく覚えてないけど長い名前のシンポジウムへようこそ~』と横断幕が掲げられておった」
「れもん星人は、かなりいい加減なヤツらだな」
「うむ。船から降りると、いつもクラブロイヤルの入り口で愛想よく出迎えてくれるスタッフさんにそっくりな『れもん星人』が出迎えてくれた。周りには、10人程の小学生のマーチング・バンドが控えておった。彼らも当然『れもん星人』でござる」
「心温まる歓迎風景だ」
「うむ。スタッフさんが、『ようこそお越しくださいました。会場まで約4キロございます』と先導してくれて、歩いて会場に向かった」
「徒歩なの?」と私はあくび混じりに言った。
シン太郎左衛門は益々元気に素振りを続けながら、
「うむ。道々子供たちがリコーダーで『ドナドナ』を吹いてくれた。スタッフさんがバトンを振ってござった」
「リコーダーのみのマーチング・バンドというのは斬新だが、『ドナドナ』とは微妙な選曲だな」
「うむ。悲しいメロディに合わせて、スタッフさんは満面の笑みを浮かべ、陽気にバトンを振っておった。『蛍の光』も演奏してくれた」
「通常、帰宅を促すのに使われる曲だな。『さっさと帰れ』という意味だろう」
「なるほど。とぼとぼ歩いて着いたところが、国を挙げたイベントの会場とは思えぬ場所でござった」
「具体的に言うと?」
「野原にポツンと建った小さな建物。形は駅前の派出所に似ておった」
「イベント会場とは思えん・・・警官が詰めているのを見たことがないし、最近は灯りも点いてない」
「うむ。スタッフさんに促され、派出所にそっくりの建物に入ると、『まあ、座れ』と椅子を勧められ、まるで取り調べが始まりそうな雰囲気になった」
「こんな短い滞在期間で、お前、法に触れることをしたのか?・・・あっ、そうか。お前の姿を小学生の目に晒したのはマズかった。猥褻物陳列罪だ」
「うむ。拙者も、それに気付いて、すっかり観念した。何のために、れもん星まで来たのか、と悲しくなってござる」
「『ドナドナ』の謎が解けた。しっかり逮捕されたか?」
「ところが、結局、取り調べもされなんだ。そこは派出所ではなく、気が付けば、壁際に1台ガシャポンがあった」
「・・・またガシャポンか?ここで、前回れもん星に来た話に合流してしまった。もう後の展開は聞くまでもない」
「うむ。拙者がガシャポンを見詰めているのを察したスタッフさんが『シン太郎左衛門さんの出番までは、まだたっぷり時間がありますから、ガシャポン、どうですか?1回2000円です』と言った」
「前回より値段が上がってる」
シン太郎左衛門は疲れてきたらしく、息を切らして割り箸を重たそうに振っている。
「賞品のグレードが上がっているとのことでござった。拙者が黙っていると、スタッフさんは『豪華なれもんちゃんグッズが当たりますよ。特等は、れもんちゃんの実物大フィギュアだ!!』と叫んでござる」
「それは、気持ちが動くな」
「更に『末等の10等でさえ、これだ!!れもんちゃんトートバッグだ!!』と叫んで、実物を見せてくれた」
「よく叫ぶスタッフさんだ」
「うむ。ただ、その『れもんちゃんトートバッグ』が実に可愛かった!!」
「お前まで叫ばんでいい。当たり前だ。『れもんちゃん』と名前に付いていれば、可愛いに決まってる。丁度、買い物袋が壊れて困っていた。絶対に欲しい」
「拙者も欲しかった」
「特等は無理だ。末等のトートバッグを狙え。当たるまで、お前は、れもん星から帰って来なくていい」
「ところが、そんな甘い話ではござらなんだ」
「だろうな。もし、れもんちゃんグッズが当たっていれば、お前は死んでも、れもん星から持ち帰ってきたはずだ」
「いかにも」
シン太郎左衛門は疲れ果てて、布団の上にペタンと座った。
「で、何が当たった?またモモンガの缶バッジか?」
「今回は缶バッジではござらぬ。れもんちゃんの等身大フィギュアが当たる気は致さなんだが、れもんちゃんトートバッグが当たれば、父上も、さぞやお喜びと思い、スタッフさんに『では、一回やろう。だが、くれぐれも、モモンガの缶バッジではないな?』と確かめた。缶バッジは入っていないとのことでござった。2000円渡して、コインを受け取ったとき、スタッフさんが気になることを言った。『れもん星の素敵な特産品も当たりますよ!!』」
「待て待て、それはマズい。俺たちが欲しいのは、れもんちゃんグッズであって、れもん星の特産品ではない」
「うむ」
「・・・分かった・・・お前が当てたのは、れもん星の特産品だな」
「うむ。ガシャポンを回すと、カプセルが出て来て、中には小さく畳んだ紙が入っておった。開くと『3等』とあった。3等は『れもん星の空気の缶詰め』でござった」
「ラベルに、れもんちゃんの写真が使われていて、メチャクチャ可愛いとか?」
「ラベルなど貼られておらぬ愛想のない缶でござる。マジックで『空気』と手書きされておった」
「要らん要らん。俺は小学生のとき、近所に住む人から『スイスの空気の缶詰め』というものを貰ったことがあるが、開けたら鉄サビの臭いがしただけだった。スイスの印象がかなり悪くなった」
「拙者、元々、缶の類いは好かぬ。スタッフさんに、末等と替えてくれるように頼んだが、断られた。意地になって、追加で2回挑戦したが、残念ながら2回とも1等、『れもん星の空気の缶詰め(特大)』でござった。要は、『空気(特大)』とマジックで書かれた、ただの大きな缶でござる」
「1等のくせに、かさ張るだけで、お土産にしても誰にも喜ばれない」
「嫌われる覚悟がなければ、人には渡せぬ。スタッフさんから、『これ、どうやって持って帰ります?全部まとめて、紐を掛けて、持ち手を付けましょうか?』と訊かれたので、腹の中は煮えくり返っておったが、平静を装い、『いや。そこまでしてもらうのも恐縮。お世話になったお礼に、貴殿に差し上げまする』と言うと、スタッフさん、『こんな変なモノ、要りませ~ん』と大爆笑してござった。それで思わず・・・」
「『無礼者!』と叫んだ訳だな」
「うむ」
「・・・くだらん。なんて下らない話だ。今度こそ、本当に、れもんちゃんに怒られる。『下らないにも程がある』って、真顔で怒られる」
「うむ。では、今回を最終回と致しましょう」
「そんなの、何の意味もない。お前の夢に出てくる『れもん星』には夢も希望もない。こんな話をクチコミに揚げたら、れもんちゃんのイメージを損ないかねない。本当に素晴らしい娘なのに」
「うむ」
「クラブロイヤルのスタッフさんたちにも失礼だ。みんな、いい人ばかりだ」
「うむ・・・ところで、Bの手紙の解読は済んでござるか」
シン太郎左衛門には、旗色が悪くなると、話を逸らす悪い癖があるが、私は話を戻すことさえ面倒くさいと思ってしまう横着者だった。
「まだ手も付けてない」と言うと、新兵衛を摘まんで、おウチに帰してやった。
こんな朝だった。
そして、今日も、れもんちゃんに会った。言うまでもなく宇宙一だった。
「れもんちゃん、今回のクチコミ、すごく下らないけどいい?」と尋ねると、「うん。いいよ」と、宇宙一可愛い笑顔で答えてくれた。普通、こういう場面では、(だって、毎回下らないし)という心の声が聞こえてくるものだが、れもんちゃんに限っては、そういうことさえない。気立てのよさも宇宙一だった。
ついでに「れもん星って、割りとユニバに近かったりする?」と訊いてみようとしたが、無意味なので止めた。
彼女の故郷がどこにあろうと、れもんちゃんの魅力の総体を収めきるには、地球は余りにも小さすぎた。
シン太郎左衛門と空気の缶詰め 様ありがとうございました。
あき【VIP】(26)
投稿者:Ifix様
ご利用日時:2024年3月23日
あきちゃんに優しく話したり、愛撫してあげたら、あきちゃんの表情がどんどん和らいで、楽しい時間が過ごせ、〇〇まくった。
Ifix様ありがとうございました。
れもん【VIP】(23)
投稿者:シン太郎左衛門と謎の手紙 様
ご利用日時:2024年3月17日
我が馬鹿息子、シン太郎左衛門は武士である。最近も、やっぱり朝5時に起きて、「やあっ!とおっ!」と、クワガタと一緒に剣術の稽古をしている。
今日は日曜日、れもんちゃんに会う日。
約1時間の稽古を終えたシン太郎左衛門は大きなアクビをして、「ああ~、眠たい」と、ふざけたことをぬかした。
同じく朝稽古を終えた新兵衛(クワガタ)を摘まんで、蓋付きの小さな水槽(メゾン・ド・新兵衛)に戻しながら、「昨日の夜、寝る前に、『明日は、れもんちゃんに会う大事な日だから、8時までは絶対に起こすな』と言ってあったはずだ」と苦言を呈した。
「うむ。忘れてはおらなんだが、5時になると勝手に目が覚めてしまうのでござる」
「目が覚めても構わんが、静かに横になっていればいいものを、『やあ』だの『とお』だの奇声を上げて、割り箸を振り回しやがって・・・ひどい話だ」
「うむ」
「『うむ』じゃない。真面目に5時起きを改めろ」と言ったが、シン太郎左衛門は、またもや大アクビをかまして、
「ところで、シン太郎左衛門シリーズは前回で終わったのではござらぬか」と話を逸らした。面倒くさいと思うと、すぐ話を逸らすのは、ヤツの悪い癖だが、話を戻すのも面倒くさかった。
「ああ、前回のあれね。あれは、大した意味はない。一旦普通にクチコミを書き終えた後、もし仮に、この話を最終回にするとしたら、どんな風にしたらいいんだろうという素朴な疑問が湧いた。それで、何となく数行書き加えたら、結構いい具合に最終回っぽくなった。ただ、それだけのことだ」
「・・・そんなものを普通に投稿したと?」
「うん」
シン太郎左衛門は呆気に取られた様子で、「普通そんなこと、する?」
「知らん。元に戻すのが、面倒くさかったというのもあるが、『シン太郎左衛門』の普通の回がわずか数行の改変であっさり最終回になるって、凄くないか?なんか手品みたいで楽しかった。これからも、最終回に変えられるものは、どんどん最終回に変えて投稿しようと思っている」
「駅前の靴屋が、年中、閉店セールをやっているのと似てござるな」
「・・・特に、そうは思わん」
こんなことを話していたが、とにかく連日の寝不足で、私は頭がボーっとしていて、何を話しているか、ほとんど自覚がなかった。
新兵衛に朝御飯(砂糖水)を用意すると、表に新聞を取りに出た。新聞を取り出すと、その下に例の封筒があった。迷いはあったが、意を決して取り出し、差出人を見ると、案の定Bからだった。
リビングに戻ると、
「シン太郎左衛門、あの手紙はやっぱりBからだった」
「なんと書いてござった?」
「まだ読んでいないが、この封筒、随分と軽い。中身を入れ忘れたのかもしれない」
ジャージのズボンからニュッと顔を覗かせたシン太郎左衛門に、「開けてみられよ」と言われ、封を切ってみたが、便箋らしいものは見当たらなかった。逆さにして振ってみると、折り畳まれた小さな紙片が転がり出た。開いてみると、小さな字で一言「続報を待て」とだけ記されていた。
「何だ、これ?・・・見てみろ」とシン太郎左衛門に渡した。
「・・・分からぬ」
「こんなものをわざわざ速達で送ってきた。言っておくが、Bに限ってウケ狙いも悪ふざけもない」
「変なヤツでござる」
「そうだ。Bは変人だ。見た目からして、普通ではない。とにかくデカい」
「おチンが?」
「いや。おチンはともかく、身長が2メートルほどある。それでいながら、手足は長くない。やたらと胴が長い。だから、立っていても、座っても、頭の位置は、さして変わらない。隣の席に座られると、こっちだけが座っている感覚になる。『横に立たれると鬱陶しい。お前も座れ』と言いそうになる」
「なるほど」
「顔も長い」
「横に?」
「縦にだ。目が小さくて、口は大きい。鼻筋は妙に通っている。どんなときも無表情。冗談は一切通じない。学生時代は一貫してマッシュルーム・カットだった」と言いながら、折り込み広告の裏面に描いたBのイラストをシン太郎左衛門に見せた。
「大体こんな感じ」
「・・・伝わらぬ。父上は絵が下手クソでござる」
「そうか?かなり特徴を掴んでいるが・・・まあいい」
私は、封筒をバラバラに分解し始めた。
「父上、何をしてござる」
「本文を探している。本文もないのに、『続報を待て』は、おかしいだろ?どこかに、メッセージの本体が隠されているはずだ」
「なるほど。封筒に秘密がありまするか」
「分からん・・・見る限り、特に変なところはない。炙り出しかもしれん」
「炙り出し?」
「ミカンの汁とかで紙に字を書くと、乾けば見えなくなるが、火で炙ると、字が浮かび上がる」
「炙ってみましょうぞ」
「いや、いいや。面倒くさい。それに、炙り出しはBらしくない。おそらく方向違いだ」
「では、この手紙、どうされまするか」
「放置だ。続報が届くまで放っておく。れもんちゃんに会う大事な日の朝をこんなことに使いたくないからな」
「うむ」
「・・・ちょっと待て・・・そうか」
私はコーヒーを淹れようと沸かしていた湯をお碗に少し注ぎ、封筒の頭を浸した。そして、適度にふやけたところで、糊付けされているベロをゆっくりと剥がした。シン太郎左衛門は、ワクワクした様子で見守っている。
「ビンゴ・・・シン太郎左衛門、見ろ」
ベロが糊付けされた箇所に小さな数字が5行にも亘ってギッシリと書き込まれていた。
「これが手紙の本文だ。おそらくゲーデル数だ」
「それは何でござるか。100桁以上ある、飛んでもなく大きな数でござる。普通の女の子の可愛さを1としたときの、れもんちゃんの可愛さを表す数字でござるか」
「我々には、そんな風に見えるが、Bは、おそらく、れもんちゃんを知らん。まあいい。解読には相当の時間がいる。まず朝御飯を食べよう。それから考える。いずれにしても、今日は、れもんちゃんに会いに行く大事な日だ。これ以上、Bに関わってはいられない」
「うむ。しかし、こんな変人から脅迫状が届いたとあっては油断できませぬな」
「脅迫状?・・・別に脅迫状とは決まっていない」
「いや、脅迫状の方が楽しい。もし違っておったら、脅迫状に書き換えなされ。書き換えは、父上の得意技でござる」
「そういう言い方をされるのは心外だ」
「脅迫状に怯えきった父上を拙者と新兵衛が励ます場面を描いてくだされ。さらに、Bの襲撃を拙者と新兵衛が力を合わせて撃退いたす。やっと日々の鍛練が活かせて、拙者も嬉しい」
「いや・・・Bは変なヤツだが、暴力を振るうことはない」
「それは伏せておき、Bを血に飢えた鎖鎌の達人と致しましょう」
「そんな出鱈目は許されない。『シン太郎左衛門』は純粋なドキュメンタリーだからな。いずれにせよ、Bの話は、ここで一旦終わりにする」
「うむ。では・・・父上、これまで楽しかった」
「・・・なんだ、それ?」
「『俺も楽しかった』と言ってくだされ。最終回でござる」
「今回は最終回にはしない。いくらなんでも唐突すぎる」
こんな朝だった。
そして、れもんちゃんに会った。
れもんちゃんは、やっぱり桁違いに宇宙一だった。こんなに桁違いに可愛ければ、計算も桁違いに早いかもしれないと思い、「れもんちゃん、100桁の数字の素因数分解、手伝ってくれない?」と頼むと、「いやだ~」と、宇宙一可愛く断られてしまった。
頼み事への断り方まで宇宙一可愛いのだから、もはや誰も太刀打ちできるものではない。
れもんちゃんは、宇宙一に宇宙一なのである。
ちなみに、なかなか信じてもらえないだろうが、『シン太郎左衛門』は宇宙一純粋なドキュメンタリーなのである。
シン太郎左衛門と謎の手紙 様ありがとうございました。
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さて、今日は、月曜日、「昭和の日」の朝。時刻は10時。
拙者は古家のリビングにおった。もちろん、馬鹿オヤジも一緒でござる。
恥ずかしながら、拙者の馬鹿オヤジは、「『シン太郎左衛門』シリーズには、複数の作者がいる」という妄想に取り付かれ、「みんな仲良く順番に書くべきだ。俺は前回も前々回も書いたんだから、今回は何があっても書かない」と主張して譲らぬ。
「何を戯けたことを。それでは、昨日、宇宙一の幸せ者にしてくれた宇宙一のれもんちゃんに申し訳が立たぬ」と説得を試みたものの、頑として聞かぬ。
「そこまで言うなら、お前が書け」と、拙者にスマホを押し付けて、「くわぁ~」と大アクビをかましおった。
父上の書くクチコミは、どうにも色気がない。かくなる上は、拙者が熱気で逆上せるぐらい濃厚なクチコミの一大傑作を物してくれんと、クラブロイヤル公式サイトの「お客様の声(投稿)」のページに向かい合い、「お遊びになられた女の子の名前」として「れもんちゃん(ダイヤモンドかつ永遠の23歳)」を、岩をも砕く勢いで選択いたした。続けて、渾身の力を込めて、「そもそも、れもんちゃんのオッパイとは」と、本文に打ち込んだ刹那、父上が眠そうに眼を擦りながら、「言っとくけど、そのままズバリの描写とかすると、不掲載になるからね。折角の苦労が水の泡だよ~ん」と、猪口才にも、れもんちゃんの口調を真似て宣いおった。
くそ忌々しい馬鹿オヤジめ、と思わず愛刀の貞宗(割り箸)に手が伸びかけたが、不掲載は拙者も望まぬので、「うむ」とだけ言うて返した。
ふと、以前のクチコミに同種の展開があったことを思い出し、この先どう書いたらよいものやらと悩んでおると、笛吹きケトルが甲高い音を立て、父上は立ち上がって台所に向かい二三歩歩いたところで、「歩きにくいと思ったら、お前にスマホを渡してたんだった」とヘラヘラと笑いおった。やはりコイツ、馬鹿だった。
コーヒーを淹れると、馬鹿オヤジは、二階の書斎から平素使わぬノートパソコンを持ってきて食卓の上に置くと、「これから俺は動画サイトで久保田早紀の『異邦人』を聴く」と、無駄に厳粛かつ悲壮感漂う表情を浮かべて宣言しおった。
さらに、「『異邦人』はいい歌だ。宮本浩次のカバーも素晴らしいが、『昭和の日』の朝には、やっぱり久保田早紀のオリジナルが一番だ」と訊いてもないことをベラベラと喋り続けておる。こんな馬鹿に付き合っていたら、いつになってもクチコミが出来ぬので、無視致した。
イントロが流れ始めると、「中近東風だろ?シルクロードがテーマだからな。久保田早紀の顔は俺の好みだ。もちろん、若い頃の俺の、という意味だ。今の好みは絶対的に、れもんちゃん」と、懲りずに要らぬ解説をしてくる。
無視しておると、あろうことか馬鹿オヤジは、久保田早紀に合わせて歌い出した。
子供たちが空に向かい
両手を広げ~
振りまでつけて歌っておるが、馬鹿オヤジの音痴には、笑って許せる要素が微塵もない。それはそれは悪質な音痴でござる。拙者、危険な化学薬品を浴びせられたかのように噎せかえり、両目がヒリヒリと焼かれるような痛みに苛まれ申した。
「父上、止めてくだされ!機嫌よくネグラで休んでいた新兵衛も慌てて這い出し、苦しそうにプラスチックのケースを掻いて訴えておりまする」
「ああ、ごめん、ごめん。うっかりしていた。また近所から苦情が来るところだった」
「父上の歌は、笑い事では済まされませぬぞ。並外れた音痴の上に、妙に媚びた歌い方が度を過ごして不快でござる。実に気分が悪くなった」
「分かってるって」と、馬鹿オヤジは無責任にヘラヘラと笑っておった。実に不愉快千万、斬り殺したいという強い衝動に駆られたものの、我慢致した。理由は、ただ、そんなことをすれば、れもんちゃんに会えなくなる、それだけでござる。
宇宙一下らぬ馬鹿オヤジは放っておいて、宇宙一可愛いれもんちゃんのクチコミを早く完成させねば、とは思ったものの、毒ガスのような歌を聞かされたせいで、拙者は全身に強烈な虚脱感を覚え、スマホは拙者の手を離れてフローリングの床で乾いた音を立てたのでござる。
という訳で、今回クチコミは完成いたさなんだ。無念でござる。
最後に、父上からの告知がござる。読んでくだされ。
(次回予告)
さて、次回の『シン太郎左衛門』は、またもや最終回、「さらば新兵衛」だ。感動の名作になるように、誰かが書け。俺は書かん。